JP2020017696A - 軟磁性シートおよび軟磁性シートの製造方法 - Google Patents

軟磁性シートおよび軟磁性シートの製造方法 Download PDF

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【課題】所定のμ’を有する軟磁性シート及びその製造方法を提供する。【解決手段】ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯の両面に着層を介して樹脂フィルムをラミネートした軟磁性シートであって、軟磁性シートを構成する軟磁性薄帯は複数のクラック部を有している。軟磁性シートを、厚さ方向の両方に、曲率半径5mmの円弧面に沿って湾曲させたとき、湾曲させる前後の周波数145kHzにおける透磁率の実部μ’の値が下記の式を満足することを特徴とする軟磁性シート。0.9≦μr(5)/μr(0)≦1.1(ここで、μr(0)は湾曲させる前の透磁率の実部μ’、μr(5)は湾曲させた後の透磁率の実部μ’)【選択図】図17

Description

本発明は、主に非接触充電等の電力伝送システムにおいてシールドシートとして使用される軟磁性シート、および軟磁性シートの製造方法に関する。
携帯電話等の携帯情報端末においては、使用される電池を充電する手段として非接触充電が使用されることがある。従来の接触充電の方法は、個々の携帯情報端末専用の充電器を用いたり、USB端末等に電力線の端子を直接接続する必要があったが、非接触充電は、電力線を携帯情報端末の電極に繋ぐ必要が無く、また、充電器に近接した状態であれば充電が可能である。さらに非接触充電は、1つの充電器で複数種の携帯情報端末も充電できる。これらの利便性から、非接触充電の普及が進んでいる。非接触充電の規格としては、例えばWireless Power Consortiumが提唱するQi規格がある。
Qi規格によると、充電器と携帯情報端末のそれぞれに電力送信用、電力受信用のコイルが搭載される。充電時には充電器と携帯情報端末を夫々の前記コイルが相対するように近接配置する。その後、充電器の電力送信用コイルに交流電流を流すことで交流磁界が発生する。この時、携帯情報端末の電力受信用コイルに電磁誘導による誘導電力が発生し、電池の充電を行うことができる。電力の伝送には110〜205kHzの正弦波が用いられ、最大で15Wの電力が携帯情報端末に供給される。また、電力の伝送と並行して、携帯情報端末は受信している電力を測定し、その測定結果は充電器の回路へパケット転送される。充電器の回路は、パケット転送されてきた電力測定結果と送信電力の差から伝送損失を算出し、この伝送損失が一定以上となると充電が中止される。こうすることにより、充電器と携帯情報端末の間に金属製の異物が存在した場合に渦電流損により金属製の異物が異常発熱する事故を防ぐことができる。
非接触充電装置の回路の例を図1に示す。電力送信側は送信回路にLC直列共振回路が、電力受信側は受信回路にLC直列共振回路が接続されている。特に電力受信側では共振周波数の近傍において負荷変動に対して電池への出力電圧が安定するため、共振周波数を電力伝送の周波数に合わせることが望まれる。そのため、電力受信側のLC直列共振回路に用いられる構成部品は、LC共振周波数が一定になるよう、特性が厳しく管理される。
非接触充電装置の概略構造を図2に示す。充電器の構成部品として電力送信用コイル14を備える。また、携帯情報端末の構成部品として、電力受信用コイル15、金属部品21、軟磁性シート1を備える。携帯情報端末は、外表面近くに電力受信用コイル15が配置されているため効率的な電力伝送が行われる。この時、電力受信用コイル15の充電器と反対側には、電池や回路基板などの金属部品21が位置することとなる。伝送された電力は先述したように110〜205kHzの交流であるため、このままでは電池や回路基板などの金属部品にて渦電流損失が発生し電力の伝送効率劣化の原因となる。また渦電流損失に起因する発熱により電池が破損する危険性がある。かかる渦電流損失の発生を低減するため、Qi規格では電力受信用コイル15と金属部品21の一つである電池との間に軟磁性シート1を配置することが規定されている。軟磁性シートを配置することで、電力受信用コイルを通る磁束は軟磁性シート1の内部を通過して電力送信側に還流することとなり、電池や回路基板に渦電流が発生することを防ぐことができる。
軟磁性シートとして、例えばNi−Zn系のフェライトシートなどが用いられている。ところがNi−Zn系のフェライトは透磁率の実部μ’が500以下、飽和磁束密度が0.5T以下であり、十分な磁束を還流するためには相応の厚みを有したシートが必要である。近年、携帯情報端末市場の薄型化要求を背景として軟磁性シートには一層の薄型化が必要となっており、フェライトよりも高μ’かつ高飽和磁束密度を有するFe系ナノ結晶合金の適用が有望視されている。
Fe系ナノ結晶合金の代表的な組成は、例えば特許文献1等に開示されている。ナノ結晶合金の製造方法の典型例は、所望の組成を有する原料合金の溶湯を急冷して非晶質合金薄帯を作製し、その後、熱処理によって非晶質合金薄帯中に平均結晶粒径100ナノメートル以下の微細な結晶相を形成するものである。このようにして作られたFe系ナノ結晶合金は100kHzにおけるμ’は10000以上、飽和磁束密度は1T以上であり、フェライトシートよりも大幅に高μ’かつ高飽和磁束密度を有する。
ところがナノ結晶合金はその電気抵抗率が1μΩm程度であり、フェライトの電気抵抗率10Ωmと比べると桁違いに低抵抗である。そのためナノ結晶合金をそのまま軟磁性シートとして使用すると軟磁性シートにて渦電流が発生することとなり電力伝送効率が低下する原因となる。また先述したようにQi規格に基づいた電力伝送システムではナノ結晶合金を用いた軟磁性シート自体が金属部品の異物と判定され、電力伝送が停止することとなる。
このような課題を克服するための手法が特許文献2、3に開示されている。いずれも軟磁性シート内のナノ結晶合金にクラックを形成し小片に分割することで透磁率の実部μ’や渦電流損失の低減を行い、非接触充電用の軟磁性シートとして用いることが開示されている。クラックを形成することでμ’は低減するものの、フェライトに比べると高いμ’を維持しており、薄型、高効率な軟磁性シートを実現することができる。
特公平4−4393号公報 特許第4836749号公報 国際公開第2014/157526号
非接触充電用の軟磁性シートは、その製造後において電力受信用コイルなどの周辺部品の貼り付け時や携帯情報端末へ実装される時など、様々な工程において曲げの応力にさらされることとなる。上述した軟磁性シートはナノ結晶合金にクラックを形成し、微細な個片に分割することで透磁率の実部μ’(以後、単にμ’ということがある)の低減、および渦電流損失の低減を行っている。
しかし、所定のμ’を有する軟磁性シートを得るための具体的な製造条件は、不明な部分が多い。
また、これら微細な個片は粘着材によって固定されているため外部からの応力により個片間のギャップ長が変化しやすく、またナノ結晶合金は機械的に非常に脆いため、軟磁性シートに曲げの応力が加わるとクラックの状態が変化し、μ’も容易に変化する。μ’の変動は電力受信側の受信回路のLC共振周波数の変動要因となるため望ましくないという問題もある。
したがって本発明の課題は、所定のμ’を有する軟磁性シート、及びその製造方法を提供することにある。
特に、本発明の課題は、曲げの応力に対してμ’が安定している、ナノ結晶合金を用いた軟磁性シート、及びその製造方法を提供することにある。
本開示による軟磁性シートは、ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯の両面に粘着層を介して樹脂フィルムをラミネートした軟磁性シートであって、前記軟磁性シートを構成する軟磁性薄帯は複数のクラック部を有しており、前記軟磁性シートを、厚さ方向の両方に、曲率半径5mmの円弧面に沿って湾曲させたとき、湾曲させる前後の周波数145kHzにおける透磁率の実部μ’の値が下記の式を満足することを特徴とする軟磁性シートである。
0.9 ≦ μr(5)/μr(0) ≦ 1.1
ここで、μr(0)は湾曲させる前の透磁率の実部μ’、μr(5)は湾曲させた後の透磁率の実部μ’
本開示による軟磁性シートの製造方法は、樹脂フィルム上に粘着層を介してナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯を保持した軟磁性シートの製造方法であって、前記ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯に前記樹脂フィルムを貼り付けてラミネート体とし、前記ラミネート体に外力を加えて前記軟磁性薄帯に複数のクラック部を形成し、その後、前記ラミネート体の両面を、それぞれ7.5mm未満の曲率半径になるように湾曲させるものである。
本開示のナノ結晶合金を用いた軟磁性シートおよび軟磁性シートの製造方法によれば、所定のμ’を有する軟磁性シートを得ることができる。また、曲げの応力に対してμ’が安定した軟磁性シートを得ることができる。
非接触給電装置の回路概略図である。 非接触充電装置の構造概略図である。 ラミネート工程を示す図である。 ラミネート体を示す図である。 クラック工程を示す図である。 突起状部材の先端形状を示す図である。 下地ゴムの厚さ(ゴム厚)とμ’の関係を示す図である。 突起状部材がラミネート体を押す応力とμ’の関係を示す図である。 クラック時に突起状部材で加圧する点の密度とμ’の関係を示す図である。 μ’とμ’’の関係を示す図である。 伝送効率測定の概略を示す図である。 μ’と伝送効率の関係を示す図である。 μ’と銅板の温度上昇の関係を示す図である。 ナノ結晶軟磁性層の総厚tと伝送効率の関係を示す図である。 曲げによるμ’の変化率を示す図である。 湾曲工程を示す図である。 湾曲工程後のシートに曲げを印加した時のμ’変化率を示す図である。 平坦化工程の圧力とシート厚さの関係を示す図である。 平坦化工程の圧力とμ’の関係を示す図である。 クラック工程の一例を示す図である。 軟磁性シートを湾曲させた状態を示す図である。 平坦化工程を示す図である。 湾曲工程前の軟磁性シートの断面のSEM観察写真を示す図である。 湾曲工程後の軟磁性シートの断面のSEM観察写真を示す図である。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されない。また、本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
ナノ結晶合金を用いた軟磁性シートにおいて、曲げの応力が加わる時におけるμ’の変動を低減するために、軟磁性シートの製造方法を詳細に検討したところ、外部からの曲げの応力に対してμ’の変動が小さい軟磁性シートを製造するためには、後述するようにその製造工程における機械的処理が有効であることが分かった。本願発明者は外部からの曲げの応力に対してμ’の変動が小さいことを特徴とする、ナノ結晶合金を用いた軟磁性シートの製造方法を想到した。
<ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯>
本実施形態における軟磁性シートは、Fe基ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯が用いられる。このFe基ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯は、基本的には、合金溶湯を急冷することによって、所定の組成を有する非晶質合金薄帯を得る工程と、この非晶質合金薄帯を加熱して微細な結晶粒を形成させる熱処理工程とを含む方法によって製造される。X線回折および透過電子顕微鏡による分析の結果、微細な結晶粒は、Siなどが固溶した、体心立方格子構造のFeであることがわかっている。Fe基ナノ結晶合金の少なくとも80体積%は、最大寸法で測定した粒径の平均が100nm以下の微細な結晶粒で占められる。また、Fe基ナノ結晶合金のうちで微細結晶粒以外の部分は主に非晶質である。微細結晶粒の割合は実質的に100体積%であってもよい。
本開示の実施形態に用いられるFe基ナノ結晶合金の組成は、以下の一般式で表される組成であることが好ましい。
一般式:(Fe1−a100−x−y−z−α−β−γCuSiM’αM”βγ(原子%)
ここで、MはCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素であり、M’はNb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWから選ばれた少なくとも1種の元素、M”はAl,白金族元素,Sc,希土類元素,Zn,Sn,Reから選ばれた少なくとも1種の元素、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、Asから選ばれた少なくとも1種の元素である。
組成比率を規定するa、x、y、z、α、β、およびγは、それぞれ、以下の関係を満足する。
0≦a<0.5
0.1≦x≦3
10≦y≦20
5≦z≦10
0.1≦α≦5
0≦β≦10
0≦γ≦10
以下、好ましい組成について、具体的に説明する。
このFe基ナノ結晶合金では、0.1〜3原子%のCuを含有する。Cuが0.1原子%より少ないと、Cuの添加によるコア損失の低減および所定のμ’を得る効果がほとんど得られない。一方、Cuが3原子%より多いと、Cu未添加の合金よりもコア損失がかえって大きくなることがある。また、μ’が低下し、所定のμ’が得られない。本開示において、特に好ましいCuの含有量xは0.5〜2原子%である。この範囲において、コア損失が特に小さい。
Cuの添加により、結晶粒微細化の効果がある。この原因は明らかではないが、次のように考えられる。CuとFeの相互作用パラメータは正であり、固溶度が低く、分離する傾向がある。このため、非晶質状態の合金を加熱すると、Fe原子同士またはCu原子同士が寄り集まりクラスターを形成し、組成ゆらぎが生じる。このため、部分的に結晶化しやすい多数の領域が生じ、そこを核とした微細な結晶粒が生成される。この結晶は、Feを主成分とし、Cuの固溶はほとんどない。従って、結晶化により、Cuは微細結晶粒の周囲にはき出され、結晶粒周辺のCu濃度が高くなる。このため、結晶粒が成長しにくいと考えられる。
Cuの添加による結晶粒微細化の作用は、Nb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWから選ばれた少なくとも1種の元素の存在により特に著しくなると考えられる。これらの元素による微細化促進の効果は、特に、Nb、Mo、Ta、Zr、Hfにおいて大きい。これらの元素のうち、Nbを添加した場合に特に結晶粒が微細になりやすく、軟磁気特性も優れた合金が得られる。また、Nbを添加すると、Feを主成分とする微細結晶相が生ずる。そのため、Fe基非晶質合金に比べて磁歪が小さくなり、取り扱い時にFe基ナノ結晶合金に加えられる応力に起因する想定されない磁気異方性を低減することができる。これらの現象も、軟磁気特性が改善される理由のひとつと考えられる。これらの元素は、0.1〜5原子%の範囲で含有される。好ましくは2〜5原子%の範囲である。0.1原子%未満では結晶粒の微細化が不十分となる可能性がある。5原子%を超えると飽和磁束密度の低下が大きくなる。
SiおよびBは、Fe基ナノ結晶合金の結晶粒微細化に特に有用な元素である。Fe基ナノ結晶合金は、例えば、Si、Bの添加効果により非晶質合金を得た後、熱処理により、微細結晶粒を形成させることにより得られる。Siは10〜20原子%の範囲で含有される。Si含有量が10原子%未満では合金の非晶質形成能が低く、非晶質を安定して得にくくなる。また、合金の結晶磁気異方性の低下が不十分であるため、優れた軟磁性特性(例えば、低保磁力)が得られにくい。Si含有量が20原子%超では合金の飽和磁束密度の低下が大きく、また、得られた合金が脆化しやすくなる。好ましいSiの下限値は14原子%である。一方、好ましいSiの上限値は18原子%である。
なお、Bは5〜10原子%の範囲で含有される。Bは非晶質形成に必須の元素であり、B含有量が5原子%未満では非晶質形成能が低く、非晶質を安定して得にくくなる。B含有量が10原子%超では飽和磁束密度の低下が大きい。好ましいBの下限値は6原子%である。一方、好ましいBの上限値は8.5原子%である。
このFe基ナノ結晶合金は、C、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、Asから選ばれた少なくとも1種の元素を10原子%以下含んでもよいし、0原子%でも良い。これらの元素は、非晶質合金薄帯形成における非晶質化に有効な元素である。これらの元素を、Si、Bと共に添加することにより、合金の非晶質化を助けるとともに、磁歪およびキュリー温度の調整の効果が得られる。
また、Al、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、Reから選ばれた少なくとも1種の元素を10原子%以下含んでもよいし、0原子%でも良い。これらの元素は、耐食性改善、磁気特性改善、磁歪調整の効果を有する。含有量が10原子%を超えると、飽和磁束密度の著しい低下を招く。これらの元素の特に好ましい含有量は8原子%以下である。これらの元素の中で、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptからなる群から選択される少なくとも1種の元素を添加した場合、特に耐食性に優れたナノ結晶軟磁性合金が得られる。
残部は不純物を除いて実質的にFeである。Feの一部は、CoやNiによって置換することもできる。上述の一般式におけるM(Coおよび/またはNi)の含有量aは0≦a<0.5である。aが0.3を超えると、コア損失が増加する場合があるため、好ましくは、0≦a≦0.3である。ここで、高いμ’を得るにはa=0が好ましい。
本開示の実施形態のナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯は、例えば、厚さが10μm〜25μmのものを用いることができる。この軟磁性薄帯は、通常、合金溶湯をロール冷却することで、連続的に製造される。このロール冷却で製造された状態では、非晶質合金薄帯の状態である。このロール冷却で製造される非晶質合金薄帯は、製造上長尺となる。このため、通常は巻回された状態で運搬される。その後、必要により、所定の幅にスリットされたり、所定の長さにカットされる。
<軟磁性シートの製造方法>
本発明の軟磁性シートの製造方法は、樹脂フィルム上に粘着層を介してナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯を保持した軟磁性シートの製造方法であって、
ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯に樹脂フィルムを貼り付けてラミネート体とし、ラミネート体に外力を加えて軟磁性薄帯に複数のクラック部を形成し、その後、ラミネート体の両面を、それぞれ7.5mm未満の曲率半径になるように湾曲させるものである。
より具体的には、まず、ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯を準備する。ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯は、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に熱処理を施して、その非晶質相の中にナノ結晶相を形成する熱処理工程を経て得ることができる。そして、本開示の実施形態の軟磁性シートの製造方法は、ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯を樹脂フィルム上に粘着層を介して保持してラミネート体を構成するラミネート工程と、ラミネート体を構成するナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯に複数のクラック部を形成し、そのクラック部を起点にしてナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯を小片に分割するクラック工程と、クラック工程後のラミネート体の両面を、それぞれ曲率半径が7.5mm未満の円弧面に沿って湾曲させる湾曲工程と、を備える。さらに、ラミネート体の表面の平坦化を行う平坦化工程を備えることが好ましい。
以下、それぞれの工程について、実施形態を具体的に説明する。
<熱処理工程>
ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯にナノ結晶化の熱処理を施して、ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯(以下、ナノ結晶軟磁性薄帯ということがある)とする。例えば、ナノ結晶化は、ロール状に巻かれた非晶質合金薄帯を熱処理炉内で加熱保持することで行うことができる。長尺の非晶質合金薄帯をロール状にした状態で熱処理することで、省スペース化に資するとともに、熱処理を終えたロール状のナノ結晶軟磁性薄帯を次のラミネート工程にそのまま用いることができる。この熱処理工程は、非反応性雰囲気ガス中で加熱して結晶化熱処理を行うことができる。窒素ガス中で熱処理した場合は十分なμ’が得られ、窒素ガスを実質的に非反応性雰囲気ガスとして扱える。非反応性雰囲気ガスとして、不活性ガスも使用することもできる。また、水素ガスのような還元性ガスを用いても良い。また、熱処理を真空中で行ってもよい。
ナノ結晶化の熱処理の温度は、510℃〜600℃の範囲に設定され得る。熱処理温度が510℃より低いか、あるいは600℃よりも高いと、磁歪が大きくなる。熱処理の温度は、好ましくは、550℃〜600℃である。上記の熱処理温度における保持時間(熱処理時間)は、5分〜24時間程度の範囲内に設定され得る。熱処理時間が5分未満になると、コアを構成する合金の全体を均一な温度にすることが困難であるので、磁気特性がばらつきやすくなる。一方、熱処理時間が24時間よりも長いと、生産性が悪くなるだけではなく、結晶粒の過剰な成長、または不均一な形態の結晶粒の生成により、磁気特性の低下が起こりやすい。
<ラミネート工程>
図3は、ラミネート工程の一例であり、ナノ結晶軟磁性薄帯3、粘着層を有する両面テープ4、PETフィルム5、保護層9を、各々が巻かれたロールから引き出し、所定の間隔を設けて配置された一対の加圧ロール6で挟んで積層し、ラミネート体7を作製する様子を示している。
まず、長尺で厚み25μmのPETフィルム5の一方側の面に、厚み5μmの両面テープ4を介して長尺のナノ結晶軟磁性薄帯3を貼り付ける。両面テープ4は、例えば、PET製基材の両面にアクリル系粘着材が形成されたものを用いることができる。図3では、引き出した両面テープ4に付着している剥離フィルムを剥がしながら、両面テープ4をPETフィルム5に貼り付け、両面テープ4の上にナノ結晶軟磁性薄帯3を貼り付ける状態が示されている。更にナノ結晶軟磁性薄帯3のもう一方の面に、PET製基材とアクリル系粘着材からなる保護層9を貼り付けることでラミネート体7が得られる。図3では、引き出した保護層9に付着している剥離フィルムを剥がしてアクリル系粘着材を露出させ、その後、保護層9をナノ結晶軟磁性薄帯3に貼り付ける状態が示されている。
図4は、4層のナノ結晶軟磁性薄帯3をラミネートしたラミネート体7の模式図である。2層以上のナノ結晶軟磁性薄帯をラミネートする場合は、上述の保護層9の代わりに、ナノ結晶軟磁性薄帯3の上に再度両面テープを貼り付け、その後、2層目のナノ結晶軟磁性薄帯を貼り付ける。このように、ナノ結晶軟磁性薄帯が必要な層数となるまで両面テープとナノ結晶軟磁性薄帯との積層を繰り返した後、最上面にPET製基材(PETフィルム)9aとアクリル系粘着材9bからなる保護層9を貼り付ける。図4中のその他の図番の部材は、図3中の同じ図番の部材に相当し、説明を省略する。
<クラック工程>
図5はクラック工程の一例を示す図である。表面に突起状部材が形成されたクラッキングロール10と、表面が例えばゴムのような弾性体11で覆われたアンビルロール12との間に、ラミネート体7が通過される。これにより、ラミネート体を構成するナノ結晶軟磁性薄帯の上記突起状部材により押されて変形された部分にクラック部が形成され、かつ、そのクラック部同士の間のナノ結晶軟磁性薄帯が割れて小片に分割される。このクラック処理によりラミネート体のμ’は低下するが、この時のμ’はクラッキングロール上の表面の突起状部材の密度、突起状部材の先端形状、突起状部材がラミネート体を圧迫する応力、アンビルロールのゴムの厚み、アンビルロールのゴムの硬度に依存する。クラック部は、後述するように、それぞれ放射状に形成されたクラックパターンを有するものとすることができる。
<透磁率の実部μ’の測定>
μ’の測定はラミネート体を外径20mm、内径9mmのリング状に打ち抜いたものを測定サンプルとし、キーサイト製インピーダンスアナライザE4990Aおよびターミナルアダプタ42942Aを用いて測定電圧0.5V、測定周波数145kHzにおけるインダクタンス値を測定し、以下の式1より求めた。
μ’:透磁率(実部)、 L:インダクタンス、 t:ナノ結晶軟磁性薄帯の総厚、 a:サンプルの外径、 b:サンプルの内径
クラッキングロールの突起状部材について最適な先端形状を求めるため、様々な先端形状を有する突起状部材(ピン)22をラミネート体7に押し当て、クラックの状態を調査した。なお、実験で用いたラミネート体は、厚み18μmのナノ結晶軟磁性薄帯を4層ラミネートした物であり、図20に示すように、平坦な台23に下地の弾性体(ゴム)18を配置し、さらにその上にラミネート体7を乗せて上面からピン22で押した。下地ゴム18の硬さはショアA硬さ85であり、下地ゴム18の厚みは0.5mmであった。いずれの先端形状においてもピン1本につき10N以下の応力ではクラックはほとんど入らず、10〜20Nの間で一気にクラックが入るが、この時ほとんどの先端形状ではラミネート体7を構成するPETフィルムの一部に破れが発生することが分かった。PETフィルムに破れが発生するとクラックしたナノ結晶軟磁性薄帯の微細片がラミネート体から飛散する原因となるので望ましくない。図6に実験したピン先端形状とシート破れ有無の結果を示す。
図6の左側の列は、胴部が円柱状で、先端が錘状(円錐)のピンを用いた実験結果であり、θは先端の角度、φは円柱の直径を示す。中央の列は、胴部が円柱状で、先端が球状のピンを用いた実験結果であり、φは球と円柱の直径を示す。右側の上段の枠は、円柱状のピンを用いた実験結果であり、φは円柱の直径を示す。右側の下段の枠は、円柱状のピンの端部に先端の角度が90°の円錐状の凹部を形成したピンを用いた実験結果であり、φは円柱の直径を示す。
図6に示すとおり、胴部が円柱状で、先端が錘状(円錐)のピンのうち、先端の角度が90°と120°の場合はPETフィルムが破れなかった。軟磁性シートのPETフィルムが破れないためには、ピンは、図6の左側の列に示すように、先端が錐状であって、先端の最大の角度が60〜130°であるものが好ましい。ピンの先端の角度の好ましい下限は70°であり、より好ましい下限は90°である。また、好ましい上限は125°であり、より好ましい上限は120°である。以降の実施例では先端の角度が120°の円錐状のピンを用いている。
クラック時の下地ゴム18の厚さ・硬さ(ショアA)とμ’の関係を図7に示す。なお、実験で用いたラミネート体は、厚み18μmのナノ結晶軟磁性薄帯を4層ラミネートした物であり、図20に示すように、下地ゴム18の上に乗せて上面からピン22で押した。ピン22で押す応力は15N、クラック部の密度は1点/mmとした。ここでクラック部の密度は1mmあたりに存在する突起状部材の個数で表しており、例えば突起状部材が1mmの等間隔(突起状部材の頂点の間隔)で並んでいる場合、1mm四方の各頂点に1/4本ずつ突起状部材があると考えて、クラック部の密度Aは1本/mmとなる。このクラック部の密度は、クラックの中心点の密度と同様であり、クラックの中心点が1mmの等間隔で並んでいる場合、クラックの中心点の密度は1本/mmとなる。また、先端が錘状(円錐)のピンでクラック部を形成した場合、錘状の先端を中心として、放射状のクラックが形成される。この放射状のクラックのことを放射状に形成されたクラックパターンとも言う。この場合、上記したクラックの中心点の密度は、各クラックパターンの放射状の中心点の密度と同様である。
下地ゴム18は、ショアA硬さが30以上100以下のものとすることが好ましく、35以上90以下のものとすることがさらに好ましく、40以上70以下のものとすることがさらに好ましい。本実験では、ショアA硬さが50と85の下地ゴムを用いたが、どちらもμ’を調整することができた。また、ショアA硬さ85の方がショアA硬さ50の場合よりもμ’はわずかに高めであるが、ショアA硬さ50の場合の方がゴム厚に対してμ’が安定している。
また、下地ゴム18は、厚さが0.5mm以上のものとすることが好ましく、1.0mm以上のものとすることがさらに好ましく、1.5mm以上のものとすることがさらに好ましい。また、下地ゴム18の厚さは、特に上限を設ける必要は無いが、アンビルロールへの貼り付けを考慮すると、10mm以下としても良く、さらには5mm以下としても良い。本実験では、ショアA硬さ85と50ともに下地ゴムの厚さが0.5mmより薄くなると急激にμ’が上昇する傾向である。
なお、突起状部材を押し当てる応力は、10N超とすることが好ましい。クラック時に突起状部材がラミネート体を押す応力とμ’の関係を図8に示す。なお、実験で用いたラミネート体は、厚み18μmのナノ結晶軟磁性薄帯を4層ラミネートした物であり、図20に示すように、下地ゴム18の上に乗せて上面からピン22で押した。ピン22で押すクラック部の密度は1点/mm、下地ゴムのショアA硬さは85、厚みは0.5mmと1.0mmであった。本実験では、応力10Nで急激にμ’が上昇していることが分かる。つまり、応力10Nでは、ナノ結晶軟磁性薄帯に十分なクラック部を形成することができず、μ’が所定の値まで低減できていない。したがって、所定のμ’を得るためには、突起状部材を押し当てる応力は10N超とすることが好ましい。なお、製造時のプロセス安定性より応力は15N以上が望ましく、20N以上がより望ましい。また応力が強すぎるとラミネート体を構成するPETフィルムに破れが生じやすくなるため、応力は30N以下が望ましい。
クラック時に突起状部材で加圧する点(錘状の先端)の密度Aとμ’の関係を図9に示す。なお、実験で用いたラミネート体は、厚み18μmのナノ結晶軟磁性薄帯を4層ラミネートした物であり、図20に示すように、下地ゴム18の上に乗せて上面からピン22で押した。下地ゴム18の硬さはショアA硬さ85であり、下地ゴム18の厚みは1.5mm、ピンで押す応力は20Nとした。密度A(加圧点密度)が大きいほどμ’が小さくなることが分かる。密度Aが大きいほどナノ結晶軟磁性薄帯に細かくクラックが形成されており、ギャップが多く形成されていることに起因すると考えられる。μ‘と透磁率の虚部μ’’の関係を図10に示す。μ’’は渦電流損に関連しており、μ’’が小さいほど渦電流損が小さい。このことよりμ’が小さいほど渦電流損失が小さくなることが分かる。
ラミネート体のμ’が非接触充電の伝送効率に与える影響を調べるため、非接触充電の試験装置にラミネート体をセットして評価を行った。評価に用いた試験装置はローム製Wireless Power Solutionであり、充電器を想定した電力送信機はBD57020MWV−EVK−002、携帯情報端末を想定した電力受信機はBD57015GWL−EVK−002であった。図11に評価系の概要を示す。電力送信用コイル14の上に電力受信用コイル15を配置し、その上に軟磁性シート16を配置し、電力の伝送を行う。電力送信機の消費する電力Pin(W)と電力受信機が出力する電力Pout(W)から以下の式2で伝送効率eff(%)を求める。
この時、厚さ0.1mmの銅板17を軟磁性シートの上方に設置する場合と、配置しない場合とで、それぞれ別に効率を測定した。この銅板は実機における電池や回路基板の存在を想定している。ラミネート体が理想的に磁束を収束していれば銅板の有無に関わらず伝送効率は変わらないはずであるが、ラミネート体の磁束の収束が不十分の場合は漏洩磁束が発生し、銅板に渦電流が流れるため伝送効率の低下が起こる。
図12に軟磁性シートのμ’と伝送効率の関係を銅板有無別に示している。測定時の電力受信機の出力電力は15Wである。μ’が195〜2117の広い範囲において伝送効率はほぼ同等の値を示しており明確な差異は見られない。またいずれのμ’においても銅板がある場合は伝送効率が1〜2%低下していることが分かる。
銅板を載せた状態で電力の伝送を行い、銅板表面温度の時間変化を測定した。結果を図13に示す。評価には日本アビオニクス製赤外線サーモグラフィTH9100を用いた。測定時の電力受信機の出力電力は12Wであった。μ’が804〜2117の場合では銅板の温度変化は同等であるが、μ’が195の場合では銅板の温度が他のμ’の場合に比べて5℃程度高めであることが分かる。これはラミネート体で収束しきれなかった磁束が銅板へと漏洩し、銅板にて渦電流を生じていることが原因と考えられる。渦電流による温度上昇があると伝送効率が低下するのみならず、電池の破損の原因にもなりうる。このことよりラミネート体のμ’は800以上が望ましい。またμ’が2117の条件では15W出力時にFOD(Foreign Object Detection)エラーが発生することがあった。これは金属異物が検知されたことを示すエラーであり、ラミネート体そのものの渦電流損が大きいことに起因していると考えられる。このことよりラミネート体のμ’は2000以下が望ましい。
図9は、クラック部の密度Aとμ’の関係を示す図である。密度Aを、表1に示す数値となるように、クラック部を形成した。なお、図9中の直線は、各測定点の値から求めた累乗近似式である。
この累乗近似式から算出すると、上記のμ’(μr(0))の範囲(μ’=800〜2000)にするには、クラック時に突起状部材で加圧する点の密度Aを0.24点/mm以上0.66点/mm以下とするとよいことがわかる。
2層以上のナノ結晶軟磁性薄帯から構成される軟磁性シートの場合、それぞれのナノ結晶軟磁性薄帯の厚さの総和(総厚)tは50μm以上が望ましい。総厚tが80μm以上であると、さらに伝送効率の低下を抑制することができ、好ましい。伝送効率の面では、総厚tは厚い方が望ましいが、一方で、軟磁性シートは薄型化も望まれており、その両者の関係で厚さを特定すれば良い。例えば、総厚tは180μm以下とすることが好ましい。さらには、90μm以下とすることが好ましい。
図14にラミネート体を構成するナノ結晶軟磁性薄帯の総厚t(μm)と伝送効率の関係を示す。総厚tとは、使用したナノ結晶軟磁性薄帯の厚さの総和である。このときの出力電力は8Wである。ナノ結晶軟磁性薄帯の1層辺りの厚さは14μm、18μm、層数は2〜5層である。総厚tが42μm以下の軟磁性シートは、銅板がある時に伝送効率の低下が大きいことが分かる。総厚tが薄いと充分な磁束を収束しきれていないために銅板に漏洩磁束が流れていると考えられる。総厚tが90μmの軟磁性シートは、伝送効率の低下が特に小さく、その値は1%以下である。
<湾曲工程>
クラック工程後の軟磁性シート13を、図21に示すように、厚さ方向の両方に曲率半径Rで1回ずつ湾曲させた。図21(a)に示すように、先ず、ラミネート体の一方の面13bを円柱に沿って湾曲させ、その後、図21(b)に示すように、他方の面13aを同じ円柱に沿って湾曲させた。ラミネート体と円柱との接触範囲は、中心角で90度とした。
円柱は、曲率半径Rが、3mm、5mm、7.5mm、10mm、12mmのものを用いた。湾曲させた前後での周波数145kHzにおける透磁率の実部μ’の変化率を図15に示す。曲率半径が7.5mm未満の時にμ’が急激に減少することが分かる。このようなμ’の不安定さは、非接触充電用のシートが実機に搭載されるまでの間でハンドリング時に様々な曲げの応力がかかるので、好ましくない。かかる不安定さを改善すべく検討を重ねた結果、発明者は予め軟磁性シートを湾曲させることで、その後の曲げの応力に対してμ’が安定することを見出した。予め湾曲させる方法として、例えば、図16に示すように、軟磁性シート1の両面を曲率半径Rが7.5mm未満の円弧面に沿って湾曲させる方法を採用することができる。軟磁性シートは、例えば図3で示したように、長尺の形態で製造され得る。そのため、その長尺の状態で、円弧面に沿って移動させて湾曲させることが容易にできる。この円弧面に沿って移動させて湾曲させる工程は、2つの円柱を図16に示すように段違いに配置し、その2つの円柱の間を通すようにして、軟磁性シート(ラミネート体)を移動(搬送)させることにより、軟磁性シートの両面を湾曲させることができる。このとき、円柱の曲率半径Rが7.5mm未満となるように形成し、2つの円柱の位置関係を調整して、軟磁性シートの湾曲具合を調整することができる。また、軟磁性シートと円柱との接触範囲は、この例では中心角で90度となる。尚、軟磁性シートを湾曲させる円柱の曲率半径Rが小さすぎるとラミネート体を構成するPETフィルムやナノ結晶軟磁性箔帯に皺が入りラミネート体の破損の原因となるため望ましくないため、曲率半径Rは2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。また、この円柱は回転しないように固定していても良いし、軟磁性シートの搬送速度に合わせ、自転できる状態としても良い。また、円柱の材料としては、SUS304のようなステンレスやナイロン66のようなポリアミド樹脂などを使用することができる。また、円柱の周面は、軟磁性シートの表面を損傷させないように、算術平均表面粗さ3mm以下としておくことが好ましい。
図17(a)は、クラック工程後の軟磁性シートの両面を、図16に示す工程によって、曲率半径Rが3mm〜12mmの円弧面に沿って摺動させたサンプルを作成して、周波数145kHzにおける透磁率の実部μr(0)を測定し、その後、さらにそのサンプルの軟磁性シートを、図21に示すように、厚さ方向の両方に、曲率半径R5(mm)の円弧面に沿って湾曲させて周波数145kHzにおける透磁率の実部μr(5)を測定した結果である。また、図17(b)は、μ’の変化率(μr(5)/μr(0))を示す図である。湾曲工程の曲率半径が7.5mm以上のサンプルは、曲率半径5mmにて曲げの応力を印加すると、μ’の変化率が10%を超える。一方、湾曲工程の曲率半径が3mmと5mmのサンプルは、曲率半径5mmにて曲げの応力を印加しても、μ’がほとんど変化していない。したがって、湾曲工程の曲率半径Rを7.5mm未満として軟磁性シートを湾曲させたることにより、曲率半径5mmの曲げの応力を印加したときのμ’の変化率を10%以下とすることができる。また、図16に例を示した湾曲工程の曲率半径Rは、6mm以下とすることがより好ましく、5mm以下とすることがより好ましい。また、この湾曲工程の曲率半径Rは2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。
図23は、図16で説明したラミネート体を湾曲させる工程(湾曲工程)を行う前の、軟磁性シートの断面をSEM観察した写真である。図24は、曲率半径5mmにて湾曲工程を行った後の軟磁性シートの断面を、SEM観察した写真である。湾曲工程前の軟磁性シートは、破線内に示すように、ナノ結晶軟磁性薄帯の微細片の間隙に両面テープの粘着材が十分に充填されておらず、一部隙間がある。一方、湾曲工程後の軟磁性シートは、湾曲工程前よりも間隙に粘着材が充填されている。つまり、湾曲工程を行うことで、ナノ結晶軟磁性薄帯の微細片の間隙に十分に粘着材が充填され、これにより、その後の曲げの応力に対する透磁率の変化を抑制できるようになったものと考えられる。
<平坦化工程>
クラック工程にてラミネート体表面には凹凸が形成され、軟磁性シートの厚みが増大することがある。そのため本実施形態では、軟磁性シート(ラミネート体)の平坦化を行った。図22に平坦化の工程を示す。予備加熱ゾーン19で加熱した軟磁性シート1を加熱加圧ロール20に通すことで平坦化を行った。平坦化時に加えた圧力・温度とシート厚の関係を図18に示す。温度・圧力が高いほど軟磁性シート(ラミネート体)は薄くなる傾向である。μ’の測定結果を図19に示す。μ’については温度が高いほうが若干低下する傾向があるものの、ほぼ同等である。アクリル系粘着材は100℃を超える温度では変質することがあるため平坦化時の加熱温度は80℃以上100℃以下が望ましい。また圧力は0.5MPa以上0.8MPa以下が望ましい。
以上の工程を経ることで本発明の一実施形態による軟磁性シートを得ることができる。
また、上記実施形態ではラミネート、クラック、湾曲、平坦化の順に工程を進めているが本発明はその順序に限定されるものではなく、たとえばナノ結晶軟磁性薄帯1層からなるラミネート体についてクラック、湾曲、平坦化を行った後、複数のラミネート体をラミネート処理しても良い。また保護層9は平坦化工程の後で貼り付けることでラミネート体の凹凸がカバーされるので外観上望ましい。また、例えば図4において、保護層9の代わりに両面テープを貼り付けたラミネート体を作製し、その後、クラック、湾曲、平坦化を行った後、この両面テープに保護層9またはPET製基材を貼り付けることで、クラック以降の工程でナノ結晶軟磁性薄帯の微細片の飛散を防ぐことができる。この両面テープは、ナノ結晶軟磁性薄帯とは反対側に剥離フィルムが貼り付けられた状態で使用できる。剥離フィルムがある状態で上記工程を行うことで、両面テープの接着層が露出しないので、ラミネート体の取り扱いが容易になる。
本開示の軟磁性シートは非接触充電などの電力伝送装置にてシールドシートとして好適に用いられる。
1、13、16 軟磁性シート,
3 ナノ結晶軟磁性薄帯,
4 両面テープ,
5 PETフィルム,
9 保護層(PETフィルム),
6 加圧ロール,
7 ラミネート体,
10 クラッキングロール,
11、18 下地ゴム,
12 アンビルロール,
14 電力送信用コイル,
15 電力受信用コイル,
17 銅板,
19 予備加熱ゾーン,
20 平坦化用ロール,
21 金属部品,
22 ピン,
23 台

Claims (10)

  1. ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯の両面に粘着層を介して樹脂フィルムをラミネートした軟磁性シートであって、
    前記軟磁性シートを構成する軟磁性薄帯は複数のクラック部を有しており、前記軟磁性シートを、厚さ方向の両方に、曲率半径5mmの円弧面に沿って湾曲させたとき、湾曲させる前後の周波数145kHzにおける透磁率の実部μ’の値が下記の式を満足することを特徴とする軟磁性シート。
    0.9 ≦ μr(5)/μr(0) ≦ 1.1
    ここで、μr(0)は湾曲させる前の透磁率の実部μ’、μr(5)は湾曲させた後の透磁率の実部μ’
  2. 前記クラック部の中心点の密度が0.24点/mm以上0.66点/mm以下となるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の軟磁性シート。
  3. 前記μr(0)が800以上2000以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の軟磁性シート。
  4. 前記軟磁性シートは2層以上のナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯から構成されており、それぞれの軟磁性薄帯の厚さの総和は50μm以上であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の軟磁性シート。
  5. 前記ナノ結晶合金は、一般式:(Fe1-aa100-x-y-z-α-β-γCuxSiyzM’αM”βγ(原子%)(ただし、MはCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素であり、M’はNb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWから選ばれた少なくとも1種の元素、M”はAl,白金族元素,Sc,希土類元素,Zn,Sn,Reから選ばれた少なくとも1種の元素、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、Asから選ばれた少なくとも1種の元素、a,x,y,z,α,β及びγはそれぞれ0≦a<0.5,0.1≦x≦3,10≦y≦20,5≦z≦10,0.1≦α≦5,0≦β≦10及び0≦γ≦10を満たす。)により表される組成を有する請求項1乃至4のいずれかに記載の軟磁性シート。
  6. 樹脂フィルム上に粘着層を介してナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯を保持した軟磁性シートの製造方法であって、
    前記ナノ結晶合金からなる軟磁性薄帯に前記樹脂フィルムを貼り付けてラミネート体とし、前記ラミネート体に外力を加えて前記軟磁性薄帯に複数のクラック部を形成し、その後、前記ラミネート体の両面を、それぞれ7.5mm未満の曲率半径になるように湾曲させることを特徴とする、軟磁性シートの製造方法。
  7. 前記ラミネート体を円弧面に沿って湾曲させることにより、前記ラミネート体の両面を湾曲させることを特徴とする、請求項6に記載の軟磁性シートの製造方法。
  8. 前記ラミネート体の表面に突起状部材を押し当てることで、放射状に形成されたクラックパターンとなる前記クラック部を形成し、かつ、前記突起状部材は、先端が錐状で、先端の最大の角度が60〜130°であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の軟磁性シートの製造方法。
  9. 前記クラック部を形成する際、前記突起状部材を押し当てる面とは反対側のラミネート体に、ショアA硬さが30以上100以下で、厚さが0.5mm以上の弾性体を配置することを特徴とする、請求項8に記載の軟磁性シートの製造方法。
  10. 前記突起状部材を押し当てる応力は、10N超であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の軟磁性シートの製造方法。

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