本発明は、生体の皮膚に接触し、皮膚からの電気信号によって心拍数等の体の状態を検知することができる生体電極、及びその製造方法、並びに生体電極に好適に用いられる生体電極組成物に関する。
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
医療分野では、例えば電気信号によって心臓の動きを感知する心電図測定のように、微弱電流のセンシングによって体の臓器の状態をモニタリングするウェアラブルデバイスが検討されている。心電図の測定では、導電ペーストを塗った電極を体に装着して測定を行うが、これは1回だけの短時間の測定である。これに対し、上記のような医療用のウェアラブルデバイスの開発が目指すのは、数週間連続して常時健康状態をモニターするデバイスの開発である。従って、医療用ウェアラブルデバイスに使用される生体電極には、長時間使用した場合にも導電性の変化がないことや肌アレルギーがないことが求められる。また、これらに加えて、軽量であること、低コストで製造できることも求められている。
医療用ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けるタイプと、衣服に組み込むタイプがあり、体に貼り付けるタイプとしては、上記の導電ペーストの材料である水と電解質を含む水溶性ゲルを用いた生体電極が提案されている(特許文献1)。水溶性ゲルは、水を保持するための水溶性ポリマー中に、電解質としてナトリウム、カリウム、カルシウムを含んでおり、肌からのイオン濃度の変化を電気に変換する。一方、衣服に組み込むタイプとしては、PEDOT−PSS(Poly−3,4−ethylenedioxythiophene−Polystyrenesulfonate)のような導電性ポリマーや銀ペーストを繊維に組み込んだ布を電極に使う方法が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、上記の水と電解質を含む水溶性ゲルを使用した場合には、乾燥によって水がなくなると導電性がなくなってしまうという問題があった。一方、銅等のイオン化傾向の高い金属を使用した場合には、人によっては肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題があり、PEDOT−PSSのような導電性ポリマーを使用した場合にも、導電性ポリマーの酸性が強いために肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題、洗濯中に繊維から導電ポリマーが剥がれ落ちる問題があった。
また、優れた導電性を有することから、金属ナノワイヤー、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブ等を電極材料として使用することも検討されている(特許文献3、4、5)。金属ナノワイヤーはワイヤー同士の接触確率が高くなるため、少ない添加量で通電することができる。しかしながら、金属ナノワイヤーは先端が尖った細い材料であるため、肌アレルギー発生の原因となる。このように、そのもの自体がアレルギー反応を起こさなくても、材料の形状や刺激性によって生体適合性が悪化する場合があり、導電性と生体適合性を両立させることは困難であった。
金属膜は導電性が非常に高いために優れた生体電極として機能すると思われるが、必ずしもそうではない。心臓の鼓動によって肌から放出されるのは微弱電流ではなく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンである。このためイオンの濃度変化を電流に変える必要があるが、イオン化しづらい貴金属は肌からのイオンを電流に変える効率が悪い。よって貴金属を使った生体電極はインピーダンスが高く、肌との通電は高抵抗である。
一方で、イオン性液体を添加したバッテリーが検討されている(特許文献6)。イオン性液体は熱的、化学的安定性が高く、導電性に優れる特徴を有しており、バッテリー用途への応用が広がっている。しかしながら、特許文献6に示されるような分子量が小さなイオン性液体は水に溶解するため、これが添加された生体電極を用いると、イオン性液体が肌からの汗によって抽出されることから、導電性が低下するだけでなく、これが肌に浸透して肌荒れの原因にもなる。
また、ポリマー型スルホンイミドのリチウム塩を用いたバッテリーが検討されている(非特許文献1)。しかしながら、リチウムはイオン移動性が高いためにバッテリーへ応用されているが、これは生体適合性を有する材料ではない。更には、シリコーンにペンダントされたフルオロスルホン酸のリチウム塩も検討されている(非特許文献2)。
生体電極は肌から離れると体からの情報を得ることができなくなる。更に、接触面積が変化しただけでも通電する電気量に変動が生じ、心電図(電気信号)のベースラインが変動する。従って、身体から安定した電気信号を得るために、生体電極には、常に肌に接触しており、その接触面積も変化しないことが必要である。そのためには、生体電極が粘着性を有していることが好ましい。また、肌の伸縮や屈曲変化に追随できる伸縮性やフレキシブル性も必要である。
国際公開第WO2013−039151号パンフレット
特開2015−100673号公報
特開平5−095924号公報
特開2003−225217号公報
特開2015−019806号公報
特表2004−527902号公報
J. Mater. Chem. A,2016,4,p10038−10069
J. of the Electrochemical Society, 150(8) A1090−A1094 (2003)
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を達成するために、本発明では、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを含有する生体電極組成物であって、前記フルオロスルホン酸塩が下記一般式(1)で示されるものであることを特徴とする生体電極組成物を提供する。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
このような生体電極組成物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物となる。なお、本明細書において、R1がエーテル基を有しているとは、前記R1の末端に酸素原子を有する場合(例えば、−CH2−O−CRf1Rf2−CRf3Rf4−SO3 −,−C6H4−O−CRf1Rf2−CRf3Rf4−SO3 −,−CH2−O−C(O)−CRf3Rf4−SO3 −,−C6H4−O−C(O)−CRf3Rf4−SO3 −)を含むものとする。
また、前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンが下記一般式(2)で示される繰り返し単位aを有するものであることが好ましい。
(式中、R1、Rf1〜Rf4、M+は前述の通りであり、R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。)
このような繰り返し単位aを有するものであれば、より導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物となる。
また、本発明の生体電極組成物は、(A)成分としての前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンと、(B)成分としての粘着性樹脂を含有するものであることが好ましい。
このような(A)成分と(B)成分を有するものであれば、(B)成分が(A)成分と相溶して塩の溶出を防ぐとともに、より粘着性を発現させることができる。
この場合、前記(B)成分が、シリコーン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましい。
このような(B)成分を有するものであれば、生体電極組成物から(A)成分が溶出するのをより防ぎ、より粘着力を増大させることができる。
また、前記(B)成分として、RxSiO(4−x)/2単位(Rは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5〜3.5の範囲である。)及びSiO2単位を有するシリコーン樹脂と、アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有するものであることが好ましい。
このような(B)成分を有するものであれば、生体電極組成物から(A)成分が溶出するのを一層防ぎ、粘着力を一層増大させることができる。
また、本発明の生体電極組成物は、更に(C)成分として、カーボン粉及び/又は金属粉を含有することが好ましい。
このようなものであれば、生体電極組成物の硬化物が導電性に優れたものとなる。
この場合、(C)成分としての前記カーボン粉が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることが好ましい。
このようなものであれば、より導電性に優れたものとなる。
また、(C)成分としての前記金属粉が、金、銀、白金、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロム、インジウムから選ばれる金属粉であることが好ましく、前記金属粉が、銀粉、銅粉、錫粉、チタン粉であることがより好ましい。
このような(C)成分であれば、本発明の生体電極組成物の導電性をより高めることができる。特に銀粉であれば、導電性、価格、生体適合性の面で優れたものとなる。
前記生体電極組成物が、更に(D)成分として有機溶剤を含有するものであることが好ましい。
このようなものであれば、生体電極組成物の塗布性が更に良好なものとなる。
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が上記生体電極組成物の硬化物である生体電極を提供する。
本発明の生体電極であれば、上述のフルオロスルホン酸塩に結合するシリコーン(フルオロスルホン酸塩シリコーン)によって導電性及び生体適合性を両立でき、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
この場合、前記導電性基材が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素、及び導電性ポリマーから選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
本発明の生体電極では、このような導電性基材を特に好適に用いることができる。
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に上記生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成する生体電極の製造方法を提供する。
本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
この場合、前記導電性基材として、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素、及び導電性ポリマーから選ばれる1種以上を含むものを用いることが好ましい。
本発明の生体電極の製造方法では、このような導電性基材を特に好適に用いることができる。
また、本発明では、下記一般式(2)で示される部分構造を有するシリコーン化合物を提供する。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
このようなシリコーン化合物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物の成分として有用な化合物を形成できる。
また、本発明では、下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量1000〜1000000の範囲のシリコーンポリマーを提供する。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
このようなシリコーンポリマーであれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物の成分として特に有用なものとなる。
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物となる。また、導電性粉末(カーボン粉、金属粉)を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。
また、本発明の生体電極であれば、上述のフルオロスルホン酸塩シリコーンによって導電性及び生体適合性を両立でき、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
また、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
本発明の生体電極組成物の硬化物からなる生体接触層を有する生体電極の一例を示す概略断面図である。
本発明の生体電極を生体に装着した場合の一例を示す概略断面図である。
本発明の実施例で作製した生体電極を(a)生体接触層側から見た概略図及び(b)導電性基材側から見た概略図である。
本発明の実施例で作製した生体電極を用いて、肌表面でのインピーダンスを測定している写真である。
上述のように、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、及びその製造方法の開発が求められていた。
心臓の鼓動に連動して肌表面からナトリウム、カリウム、カルシウムイオンが放出されるところ、生体電極は、肌から放出されたこれらイオンの増減を電気信号に変換する必要がある。そのため、生体電極を構成するには、イオンの増減を伝達するためのイオン導電性に優れた材料が必要である。
本発明者らは、高イオン導電性の材料としてイオン性液体に着目した。イオン性液体は熱的、化学的安定性が高く、導電性に優れる特徴を有しており、バッテリー用途への応用が広がっている。また、イオン性液体としては、スルホニウム、ホスホニウム、アンモニウム、モルホリニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、イミダゾリウムの塩酸塩、臭酸塩、ヨウ素酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ノナフルオロブタンスルホン酸塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸塩、ヘキサフルオロホスファート塩、テトラフルオロボラート塩等が知られている。しかしながら、一般的にこれらの塩(特に分子量の小さいもの)は水和性が高いため、これらの塩を添加した生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極は、汗や洗濯によって塩が抽出され、導電性が低下する欠点があった。また、テトラフルオロボラート塩は毒性が高く、他の塩は水溶性が高いために肌の中に容易に浸透してしまい肌荒れが生じる(つまり、肌に対する刺激性が強い)という問題があった。
中和塩を形成する酸の酸性度が高いとイオンが強く分極し、イオン導電性が向上する。リチウムイオン電池として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸やトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸のリチウム塩が高いイオン導電性を示すのはこのためである。一方、酸強度が高くなればなるほど、この塩は生体刺激性が強いという問題がある。つまり、イオン導電性と生体刺激性はトレードオフの関係である。しかしながら、生体電極に適用する塩では、高イオン導電特性と低生体刺激性が両立されなければならない。
塩化合物の分子量が大きくなればなるほど、又疎水性が高くなるほど、肌への浸透性が低下して肌への刺激性が低下する。このことから、シリコーンに結合した塩化合物は、分子量が大きくかつ疎水性が高いため理想的である。そこで、本発明者らは、フルオロスルホン酸基の塩に結合したシリコーン化合物を合成することに想到した。
更に、本発明者らは、この塩を、例えばシリコーン系、アクリル系、ウレタン系の粘着剤(樹脂)に混合したものを用いることによって、常に肌に密着し、長時間安定的な電気信号を得ることができることに想到した。
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、高感度な生体電極を構成するためには高いイオン導電性だけでは不十分で、高い電子導電性も必要な場合もある。電子導電性を高めるにはカーボンや金属の粒子(粉)を添加することが効果的である。これによって低インピーダンスで高感度な生体電極として機能することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを含有する生体電極組成物であって、前記フルオロスルホン酸塩が下記一般式(1)で示されるものであることを特徴とする生体電極組成物である。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<生体電極組成物>
本発明の生体電極組成物は、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを含有し、かつ、前記フルオロスルホン酸塩が上記一般式(1)で示されるものであることを必須の条件とする。前記生体電極組成物は、前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンと、粘着性樹脂とを含有するものであってもよい。前記生体電極組成物は、さらに導電性粉末(カーボン粉、金属粉)を含有することができ、またさらに有機溶剤等を含有することもできる。
以下、各成分について、更に詳細に説明する。なお、以下において、前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを「(A)成分」、粘着性樹脂を「(B)成分」、導電性粉末を「(C)成分」、有機溶剤等の添加剤を「(D)成分」ともいう。
[(A)成分]
本発明の生体電極組成物は、イオン性材料(塩)として(A)成分(フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーン)を含有する。前記生体電極組成物に導電性材料として配合されるイオン性材料(塩)は、下記一般式(1)で示されるフルオロスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、銀塩と結合したシリコーン化合物である。なお、以下において、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを「フルオロスルホン酸塩シリコーン」ともいう。
フルオロスルホン酸塩シリコーンは、フルオロスルホン酸塩からなる部分構造がシリコーン鎖に結合した化学構造を有するシリコーン化合物である。前記部分構造のフルオロスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、銀塩は、下記一般式(1)で示される。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
上記R1が炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基(以下、「芳香族基等」という)を有する場合は、前記アルキレン基はその末端を含めた任意の部分に、任意の数の芳香族基等を有することができる。また、上記R1が炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有する場合は、前記アリーレン基はその末端を含めた任意の部分に、任意の数のエーテル基、エステル基を有することができる。
フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンは、下記一般式(2)で示される繰り返し単位aを有することが好ましい。
(式中、R1、Rf1〜Rf4、M+は前述の通りであり、R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。)
上記一般式(2)で示される繰り返し単位aとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
ここでM+は前述の通りである。
(繰り返し単位b)
本発明の生体電極組成物の(A)成分は、上記の繰り返し単位aに加えて、導電性を向上させるために、グライム鎖を有するシロキサンからなる繰り返し単位bを有することができる。繰り返し単位bとしては、具体的には以下のものを例示することができる。
(式中、0≦m≦20、0≦n≦20、1≦m+n≦20である。)
(繰り返し単位c)
本発明の生体電極組成物の(A)成分は、上記の繰り返し単位a、bに加えて、(B)成分の粘着性樹脂との混合性を向上させるために、水素原子、アルキル基やアリール基を有するシロキサンからなる繰り返し単位cを有することができる。アルキル基やアリール基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、カルボキシル基、チオール基、(メタ)アクリル基、シアノ基、ニトロ基を有していても良い。繰り返し単位cとしては、具体的には以下のものを例示することができる。
(A)成分の繰り返し単位a(a単位)を有するシリコーン化合物(フルオロスルホン酸塩シリコーン)を合成する方法の1つとして、ヒドロシリル化反応による方法がある。前記シリコーン化合物は、二重結合を有するフルオロスルホン酸塩と、Si−H基を有するシリコーン化合物との白金触媒存在下におけるヒドロシリル化反応によって得ることができる。また、グライム鎖を有する繰り返し単位b(b単位)は、二重結合とエーテル基を有する化合物と、Si−H基を有するシリコーン化合物との白金触媒存在下におけるヒドロシリル化反応によって得ることができる。a単位とb単位はシリコーン1分子内に両方有していても良いし、それぞれa単位とb単位を有するシリコーン化合物をブレンドしても良い。前者としては、a単位とb単位の共重合体を挙げることができる。a単位とb単位が共重合している場合の共重合比率は、0<a<1.0、0<b≦a<1.0である。
二重結合を有するフルオロスルホン酸塩と、必要であれば二重結合を有するエーテル化合物と、SiH基を有するシリコーン化合物と白金触媒とを混合し、加熱することによってヒドロシリル化反応を進行させてフルオロスルホン酸塩に結合したシリコーン化合物を合成することが好ましい。
また、ヒドロシリル化前のSi−H基を有するシリコーン化合物は、鎖状形状、分岐形状、環状形状いずれであっても良いが、重量平均分子量1000以上1000000以下の高分子化合物であることが望ましい。このようなSi−H基を有するシリコーン化合物を用いることにより、重量平均分子量1000〜1000000のフルオロスルホン酸塩シリコーンのポリマーを合成することができる。
このように、フルオロスルホン酸塩が高分子シリコーンにペンダントされることによって塩化合物の分子量が大きくなり、疎水性が高くなる。一般に塩化合物の分子量が大きくなればなるほど、又疎水性が高くなるほど、肌への浸透性が低下して肌への刺激性は低下するため、このような高分子化合物であれば、肌を通過してアレルギーを引き起こすことをより防ぐことができる。
以上のようにして、上記一般式(2)で示される部分構造を有するシリコーン化合物(フルオロスルホン酸塩シリコーン)、又は、上記一般式(2)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量1000〜1000000のシリコーンポリマーを合成することができる。前記シリコーン化合物とシリコーンポリマーは、それぞれ本発明の生体電極組成物に導電性材料として配合されるイオン性材料(塩)として好適である。
本発明の生体電極組成物において、(A)成分の配合量は、(B)成分100質量部に対して0.1〜300質量部とすることが好ましく、1〜200質量部とすることがより好ましい。また、(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合で使用してもよい。
[(B)成分]
本発明の生体電極組成物は(A)成分に加えて粘着性樹脂を(B)成分として含有することができる。生体電極組成物に配合される(B)成分は、上記の(A)フルオロスルホン酸塩シリコーンと相溶して塩の溶出を防ぎ、カーボン粉や金属粉等の導電性向上剤を保持し、粘着性を発現させるための成分であり、粘着性樹脂からなる。なお、(B)成分は、上述の(A)成分以外の樹脂であればよく、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか、又はこれらの両方であることが好ましく、特には、シリコーン樹脂(シリコーン系樹脂)、(メタ)アクリレート樹脂(アクリル系樹脂)、及びウレタン樹脂(ウレタン系樹脂)から選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。
粘着性のシリコーン系樹脂としては、付加反応硬化型又はラジカル架橋反応硬化型のものが挙げられる。付加反応硬化型としては、例えば、特開2015−193803号公報に記載の、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金触媒、付加反応制御剤、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。また、ラジカル架橋反応硬化型としては、例えば、特開2015−193803号公報に記載の、アルケニル基を有していてもいなくてもよいジオルガノポリシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、有機過酸化物、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。ここでRは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価の炭化水素基である。
また、ポリマー末端や側鎖にシラノールを有するポリシロキサンと、MQレジンを縮合反応させて形成したポリシロキサン・レジン一体型化合物を用いることもできる。MQレジンはシラノールを多く含有するためにこれを添加することによって粘着力が向上するが、架橋性がないためにポリシロキサンと分子的に結合していない。上記のようにポリシロキサンとレジンを一体型とすることによって、粘着力を増大させることができる。
また、シリコーン系樹脂には、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することもできる。変性シロキサンを添加することによって、(A)成分のシリコーン樹脂中での分散性が向上する。変性シロキサンはシロキサンの片末端、両末端、側鎖のいずれが変性されたものでも構わない。
粘着性のアクリル系樹脂としては、例えば、特開2016−011338号公報に記載の、親水性(メタ)アクリル酸エステル、長鎖疎水性(メタ)アクリル酸エステルを繰り返し単位として有するものを用いることができる。場合によっては、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルやシロキサン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合してもよい。
粘着性のウレタン系樹脂としては、例えば、特開2016−065238号公報に記載の、ウレタン結合と、ポリエーテルやポリエステル結合、ポリカーボネート結合、シロキサン結合を有するものを用いることができる。
また、生体接触層から(A)成分が溶出することによる導電性の低下を防止するために、本発明の生体電極組成物において、(B)成分は上述の(A)成分との相溶性が高いものであることが好ましい。また、導電性基材からの生体接触層の剥離を防止するために、本発明の生体電極組成物において、(B)成分は導電性基材に対する接着性が高いものであることが好ましい。樹脂を、導電性基材や塩との相溶性が高いものとするためには、極性が高い樹脂を用いることが効果的である。このような樹脂としては、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びチオール基から選ばれる1つ以上を有する樹脂、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリチオウレタン樹脂等が挙げられる。また、一方で、生体接触層は生体に接触するため、生体からの汗の影響を受けやすい。従って、本発明の生体電極組成物において、(B)成分は撥水性が高く、加水分解しづらいものであることが好ましい。樹脂を、撥水性が高く、加水分解しづらいものとするためには、珪素を含有する樹脂を用いることが効果的である。
珪素原子を含有するポリアクリル樹脂としては、シリコーンを主鎖に有するポリマーと珪素原子を側鎖に有するポリマーとがあるが、どちらも好適に用いることができる。シリコーンを主鎖に有するポリマーとしては、(メタ)アクリルプロピル基を有するシロキサンあるいはシルセスキオキサン等を用いることができる。この場合は、光ラジカル発生剤を添加することで(メタ)アクリル部分を重合させて硬化させることができる。
珪素原子を含有するポリアミド樹脂としては、例えば、特開2011−079946号公報、米国特許5981680号公報に記載のポリアミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。このようなポリアミドシリコーン樹脂は、例えば、両末端にアミノ基を有するシリコーン又は両末端にアミノ基を有する非シリコーン化合物と、両末端にカルボキシル基を有する非シリコーン又は両末端にカルボキシル基を有するシリコーンを組み合わせて合成することができる。
また、カルボン酸無水物とアミンを反応させて得られる、環化する前のポリアミド酸を用いてもよい。ポリアミド酸のカルボキシル基の架橋には、エポキシ系やオキセタン系の架橋剤を用いてもよいし、カルボキシル基とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化反応を行って、(メタ)アクリレート部分の光ラジカル架橋を行ってもよい。
珪素原子を含有するポリイミド樹脂としては、例えば、特開2002−332305号公報に記載のポリイミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。ポリイミド樹脂は粘性が非常に高いが、(メタ)アクリル系モノマーを溶剤かつ架橋剤として配合することによって低粘性にすることができる。
珪素原子を含有するポリウレタン樹脂としては、ポリウレタンシリコーン樹脂を挙げることができ、このようなポリウレタンシリコーン樹脂では、両末端にイソシアネート基を有する化合物と末端にヒドロキシ基を有する化合物をブレンドして加熱することによってウレタン結合による架橋を行うことができる。なお、この場合、両末端にイソシアネート基を有する化合物か、末端にヒドロキシ基を有する化合物のいずれかあるいは両方に珪素原子(シロキサン結合)を含有する必要がある。あるいは、特開2005−320418号公報に記載されるように、ポリシロキサンにウレタン(メタ)アクリレートモノマーをブレンドして光架橋させることもできる。また、シロキサン結合とウレタン結合の両方を有し、末端に(メタ)アクリレート基を有するポリマーを光架橋させることもできる。
珪素原子を含有するポリチオウレタン樹脂は、チオール基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物の反応によって得ることができ、これらのうちいずれかが珪素原子を含有していればよい。また、末端に(メタ)アクリレート基を有していれば、光硬化させることも可能である。
シリコーン系の樹脂において、上述のアルケニル基を有するジオルガノシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンに加えて、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することによって上述の塩との相溶性が高まる。
なお、後述のように、生体接触層は生体電極組成物の硬化物である。硬化させることによって、肌と導電性基材の両方に対する生体接触層の接着性が良好なものとなる。なお、硬化手段としては、特に限定されず、一般的な手段を用いることができ、例えば、熱及び光のいずれか、又はその両方、あるいは酸又は塩基触媒による架橋反応等を用いることができる。架橋反応については、例えば、架橋反応ハンドブック 中山雍晴 丸善出版(2013年)第二章p51〜p371に記載の方法を適宜選択して行うことができる。
アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、白金触媒による付加反応によって架橋させることができる。
白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニル基含有シロキサン錯体等の白金系触媒、ロジウム錯体及びルテニウム錯体等の白金族金属系触媒などが挙げられる。また、これらの触媒をアルコール系、炭化水素系、シロキサン系溶剤に溶解・分散させたものを用いてもよい。
なお、白金触媒の添加量は、樹脂100質量部に対して5〜2,000ppm、特には10〜500ppmの範囲とすることが好ましい。
また、付加硬化型のシリコーン樹脂を用いる場合には、付加反応制御剤を添加してもよい。この付加反応制御剤は、溶液中及び塗膜形成後の加熱硬化前の低温環境下で、白金触媒が作用しないようにするためのクエンチャーとして添加するものである。具体的には、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
付加反応制御剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0〜10質量部、特に0.05〜3質量部の範囲とすることが好ましい。
光硬化を行う方法としては、(メタ)アクリレート末端やオレフィン末端を有している樹脂を用いるか、末端が(メタ)アクリレート、オレフィンやチオール基になっている架橋剤を添加するとともに、光によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤を添加する方法や、オキシラン基、オキセタン基、ビニルエーテル基を有している樹脂や架橋剤を用い、光によって酸を発生させる光酸発生剤を添加する方法が挙げられる。
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’−ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2−ベンゾイル安息香酸、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4−ベンゾイル安息香酸、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2−ベンゾイル安息香酸メチル、2−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO)、1,4−ジベンゾイルベンゼン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン、2−イソニトロソプロピオフェノン、2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン、2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノンを挙げることができる。
熱分解型のラジカル発生剤を添加することによって硬化させることもできる。熱ラジカル発生剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(メチルプロピオンアミジン)塩酸、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、ジメチル−2,2’−アゾビス(イソブチレート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ジ−tert−アミルパーオキシド、ジ−n−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド等を挙げることができる。
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N−スルホニルオキシイミド、オキシム−O−スルホネート型酸発生剤等を挙げることができる。光酸発生剤の具体例としては、例えば、特開2008−111103号公報の段落[0122]〜[0142]、特開2009−080474号公報に記載されているものが挙げられる。
なお、ラジカル発生剤や光酸発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
これらの中でも、(B)成分の樹脂としては、RxSiO(4−x)/2単位(Rは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5〜3.5の範囲である。)及びSiO2単位を有するシリコーン樹脂と、アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有するものが特に好ましい。
[(C)成分]
本発明の生体電極組成物は、(C)成分としての導電性粉末をさらに含有することができる。導電性粉末としては、導電性を有する粉末であれば特に制限されないが、カーボン粉(カーボン材料)、金属粉が好ましい。本発明の生体電極組成物は、イオン性材料(塩)として(A)成分(フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーン)を含有するが、このような導電性粉末(カーボン粉、金属粉)をさらに添加することによって一層導電性を向上させることができる。なお、以下において、導電性粉末を「導電性向上剤」ともいう。
[カーボン粉]
導電性向上剤として、カーボン材料(カーボン粉)を添加することができる。カーボン材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維等を挙げることができる。カーボンナノチューブは単層、多層のいずれであってもよく、表面が有機基で修飾されていても構わない。カーボン材料の添加量は、樹脂100質量部に対して1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
[金属粉]
本発明の生体電極組成物には、電子導電性を高めるために、(C)成分として、金、銀、白金、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロム、インジウムから選ばれる金属粉を添加することが好ましい。金属粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
金属粉の種類として導電性の観点では金、銀、白金が好ましく、価格の観点では銀、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロムが好ましい。生体適合性の観点では貴金属が好ましく、これらの観点で総合的には銀、銅、錫、チタンが最も好ましい。
金属粉の形状としては、球状、円盤状、フレーク状、針状を挙げることができるが、フレーク状の粉末を添加したときの導電性が最も高くて好ましい。金属粉のサイズは100μm以下、タップ密度が5g/cm3以下、比表面積が0.5m2/g以上の、比較的低密度で比表面積が大きいフレークが好ましい。導電性向上剤として、金属粉とカーボン材料(カーボン粉)の両者を添加することもできる。
[(D)成分]
本発明の生体電極組成物は、必要に応じて(D)成分としての添加剤をさらに含有することができる。添加剤としては、上記(A)から(C)成分以外のものであれば特に限定されないが、粘着性付与剤などの前記生体電極組成物の硬化物の伸縮性や粘着性を向上させることができる成分や、ラジカル発生剤、白金触媒などの硬化反応を促進する成分、有機溶剤などの生体電極組成物の取扱いを容易にする成分などを挙げることができる。以下、(D)成分について詳細に説明する。
[粘着性付与剤]
本発明の生体電極組成物には、生体に対する粘着性を付与するために、粘着性付与剤を添加してもよい。このような粘着性付与剤としては、例えば、シリコーンレジンや非架橋性のシロキサン、非架橋性のポリ(メタ)アクリレート、非架橋性のポリエーテル等を挙げることができる。本発明の生体電極組成物は、必要に応じて(B)成分として粘着性樹脂を含有することができるが、このような粘着性付与剤を添加することによっても、生体に対する粘着性が更に好ましいものとなる。
[有機溶剤]
また、本発明の生体電極組成物には、有機溶剤を添加することができる。有機溶剤としては、具体的には、トルエン、キシレン、クメン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、スチレン、αメチルスチレン、ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、シメン、ジエチルベンゼン、2−エチル−p−キシレン、2−プロピルトルエン、3−プロピルトルエン、4−プロピルトルエン、1,2,3,5−テトラメチルトルエン、1,2,4,5−テトラメチルトルエン、テトラヒドロナフタレン、4−フェニル−1−ブテン、tert−アミルベンゼン、アミルベンゼン、2−tert−ブチルトルエン、3−tert−ブチルトルエン、4−tert−ブチルトルエン、5−イソプロピル−m−キシレン、3−メチルエチルベンゼン、tert−ブチル−3−エチルベンゼン、4−tert−ブチル−o−キシレン、5−tert−ブチル−m−キシレン、tert−ブチル−p−キシレン、1,2−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系溶剤、n−ヘプタン、イソヘプタン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、1,6−ヘプタジエン、5−メチル−1−ヘキシン、ノルボルナン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1−メチル−1,4−シクロヘキサジエン、1−ヘプチン、2−ヘプチン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1,3−ジメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1−メチル−1−シクロヘキセン、3−メチル−1−シクロヘキセン、メチレンシクロヘキサン、4−メチル−1−シクロヘキセン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、n−オクタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、3−エチル−2−メチルペンタン、3−エチル−3−メチルペンタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロオクタン、シクロオクテン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、イソプロピルシクロペンタン、2,2−ジメチル−3−ヘキセン、2,4−ジメチル−1−ヘキセン、2,5−ジメチル−1−ヘキセン、2,5−ジメチル−2−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、2−エチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン、1,7−オクタジエン、1−オクチン、2−オクチン、3−オクチン、4−オクチン、n−ノナン、2,3−ジメチルヘプタン、2,4−ジメチルヘプタン、2,5−ジメチルヘプタン、3,3−ジメチルヘプタン、3,4−ジメチルヘプタン、3,5−ジメチルヘプタン、4−エチルヘプタン、2−メチルオクタン、3−メチルオクタン、4−メチルオクタン、2,2,4,4−テトラメチルペンタン、2,2,4−トリメチルヘキサン、2,2,5−トリメチルヘキサン、2,2−ジメチル−3−ヘプテン、2,3−ジメチル−3−ヘプテン、2,4−ジメチル−1−ヘプテン、2,6−ジメチル−1−ヘプテン、2,6−ジメチル−3−ヘプテン、3,5−ジメチル−3−ヘプテン、2,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,5,5−トリメチル−1−ヘキセン、1−エチル−2−メチルシクロヘキサン、1−エチル−3−メチルシクロヘキサン、1−エチル−4−メチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,1,3−トリメチルシクロヘキサン、1,1,4−トリメチルシクロヘキサン、1,2,3−トリメチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、アリルシクロヘキサン、ヒドリンダン、1,8−ノナジエン、1−ノニン、2−ノニン、3−ノニン、4−ノニン、1−ノネン、2−ノネン、3−ノネン、4―ノネン、n−デカン、3,3−ジメチルオクタン、3,5−ジメチルオクタン、4,4−ジメチルオクタン、3−エチル−3−メチルヘプタン、2−メチルノナン、3−メチルノナン、4−メチルノナン、tert−ブチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサン、ペンチルシクロペンタン、1,1,3,5−テトラメチルシクロヘキサン、シクロドデカン、1−デセン、2−デセン、3−デセン、4−デセン、5−デセン、1,9−デカジエン、デカヒドロナフタレン、1−デシン、2−デシン、3−デシン、4−デシン、5−デシン、1,5,9−デカトリエン、2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエン、リモネン、ミルセン、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエン、α−フェランドレン、ピネン、テルピネン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、1,4−デカジイン、1,5−デカジイン、1,9−デカジイン、2,8−デカジイン、4,6−デカジイン、n−ウンデカン、アミルシクロヘキサン、1−ウンデセン、1,10−ウンデカジエン、1−ウンデシン、3−ウンデシン、5−ウンデシン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ−4−エン、n−ドデカン、2−メチルウンデカン、3−メチルウンデカン、4−メチルウンデカン、5−メチルウンデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、1,3−ジメチルアダマンタン、1−エチルアダマンタン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチルn−ペンチルケトン等のケトン系溶剤、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ−n−ペンチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−secブチルエーテル、ジ−sec−ペンチルエーテル、ジ−tert−アミルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、アニソール等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤などを挙げることができる。
なお、有機溶剤の添加量は、樹脂100質量部に対して10〜50,000質量部の範囲とすることが好ましい。本発明の生体電極組成物が、更に(D)成分として有機溶剤を含有するものであれば、生体電極組成物の塗布性が更に良好なものとなる。
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物となる。また、導電性粉末(カーボン粉、金属粉)を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。
<生体電極>
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物である生体電極を提供する。
以下、本発明の生体電極について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明の生体電極の一例を示す概略断面図である。図1の生体電極1は、導電性基材2と該導電性基材2上に形成された生体接触層3とを有するものである。生体接触層3は本発明の生体電極組成物の硬化物からなる。生体接触層3を構成するイオン性シリコーン材料4は、前記フルオロスルホン酸塩シリコーンの硬化物を含む。生体接触層3は、さらに前記イオン性シリコーン材料4以外の樹脂6、導電性粉末(金属粉5a、カーボン粉5b;以下、まとめて「導電性粉末5」ともいう。)を含むことができる。以下図1,2を参照して、生体接触層3が、イオン性シリコーン材料4と導電性粉末5が樹脂6中に分散された層である場合について説明するが、本発明の生体電極はこの態様に限定されない。なお、図中の5bはカーボンナノチューブである。
このような図1の生体電極1を使用する場合には、図2に示されるように、生体接触層3(即ち、イオン性シリコーン材料4と導電性粉末5が樹脂6中に分散された層)を生体7と接触させ、イオン性シリコーン材料4と導電性粉末5によって生体7から電気信号を取り出し、これを導電性基材2を介して、センサーデバイス等(不図示)まで伝導させる。このように、本発明の生体電極であれば、上述のイオン性シリコーン材料によって導電性及び生体適合性を両立でき、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
以下、本発明の生体電極の各構成材料について、更に詳しく説明する。
[導電性基材]
本発明の生体電極は、導電性基材を有するものである。この導電性基材は、通常、センサーデバイス等と電気的に接続されており、生体から生体接触層を介して取り出した電気信号をセンサーデバイス等まで伝導させる。
導電性基材としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素及び導電ポリマーから選ばれる1種以上を含むものとすることが好ましい。
また、導電性基材は、特に限定されず、硬質な導電性基板等であってもよいし、フレキシブル性を有する導電性フィルムや導電性ペーストを表面にコーティングした布地や導電性ポリマーを練り込んだ布地であってもよい。導電性基材は平坦でも凹凸があっても金属線を織ったメッシュ状であってもよく、生体電極の用途等に応じて適宜選択すればよい。
[生体接触層]
本発明の生体電極は、導電性基材上に形成された生体接触層を有するものである。この生体接触層は、生体電極を使用する際に、実際に生体と接触する部分であり、導電性及び粘着性を有する。生体接触層は、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物であり、即ち、上述の(A)成分と、必要に応じて(B)成分、(C)成分、(D)成分を含有する組成物の硬化物からなる粘着性の樹脂層である。
なお、生体接触層の粘着力としては、0.5N/25mm以上20N/25mm以下の範囲が好ましい。粘着力の測定方法は、JIS Z 0237に示される方法が一般的であり、基材としてはSUS(ステンレス鋼)のような金属基板やPET(ポリエチレンテレフタラート)基板を用いることができるが、人の肌を用いて測定することもできる。人の肌の表面エネルギーは、金属や各種プラスチックより低く、テフロン(登録商標)に近い低エネルギーであり、粘着しにくい性質である。
生体電極の生体接触層の厚さは、1μm以上5mm以下が好ましく、2μm以上3mm以下がより好ましい。生体接触層が薄くなるほど粘着力は低下するが、フレキシブル性は向上し、軽くなって肌へのなじみが良くなる。粘着性や肌への風合いとの兼ね合いで生体接触層の厚さを選択することができる。
また、本発明の生体電極では、従来の生体電極(例えば、特開2004−033468号公報に記載の生体電極)と同様、使用時に生体から生体電極が剥がれるのを防止するために、生体接触層上に別途粘着膜を設けてもよい。別途粘着膜を設ける場合には、アクリル型、ウレタン型、シリコーン型等の粘着膜材料を用いて粘着膜を形成すればよく、特にシリコーン型は酸素透過性が高いためこれを貼り付けたままの皮膚呼吸が可能であり、撥水性も高いため汗による粘着性の低下が少なく、更に、肌への刺激性が低いことから好適である。なお、本発明の生体電極では、上記のように、生体電極組成物に粘着性付与剤を添加したり、生体への粘着性が良好な樹脂を用いたりすることで、生体からの剥がれを防止することができるため、上記の別途設ける粘着膜は必ずしも設ける必要はない。
本発明の生体電極をウェアラブルデバイスとして使用する際の、生体電極とセンサーデバイスの配線や、その他の部材については、特に限定されるものではなく、例えば、特開2004−033468号公報に記載のものを適用することができる。
以上のように、本発明の生体電極であれば、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物で生体接触層が形成されるため、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極となる。また、導線性粉を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。従って、このような本発明の生体電極であれば、医療用ウェアラブルデバイスに用いられる生体電極として、特に好適である。
<生体電極の製造方法>
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に、上述の本発明の生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成する生体電極の製造方法を提供する。
なお、本発明の生体電極の製造方法に使用される導電性基材等は、上述のものと同様でよい。
導電性基材上に生体電極組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、例えばディップコート、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、フローコート、ドクターコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の方法が好適である。
樹脂の硬化方法は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(A)、(B)成分によって適宜選択すればよいが、例えば、熱及び光のいずれか、又はこれらの両方で硬化させることが好ましい。また、上記の生体電極組成物に酸や塩基を発生させる触媒を添加しておいて、これによって架橋反応を発生させ、硬化させることもできる。
なお、加熱する場合の温度は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(A)、(B)成分によって適宜選択すればよいが、例えば50〜250℃程度が好ましい。
また、加熱と光照射を組み合わせる場合は、加熱と光照射を同時に行ってもよいし、光照射後に加熱を行ってもよいし、加熱後に光照射を行ってもよい。また、塗膜後の加熱の前に溶剤を蒸発させる目的で風乾を行ってもよい。
以上のように、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「Me」はメチル基、「Vi」はビニル基を示す。
トルエンとPGMEAの1:1の混合溶剤中、二重結合を有するフルオロスルホン酸塩と、必要であれば二重結合を有するエーテル化合物と、SiH基を有するシリコーン化合物と白金触媒とを混合し、60℃で2時間加熱することによってフルオロスルホン酸塩に結合したシリコーン化合物を合成した。溶剤を乾燥後組成を、1H−NMRにより確認した。ポリマーの場合の重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。このようにして合成したフルオロスルホン酸塩シリコーン1〜8を以下に示す。
フルオロスルホン酸塩シリコーン1
フルオロスルホン酸塩シリコーン2
Mw=12,600
Mw/Mn=3.51
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン3
Mw=11,800
Mw/Mn=2.93
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン4
Mw=14,600
Mw/Mn=3.35
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン5
Mw=14,600
Mw/Mn=3.36
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン6
Mw=12,800
Mw/Mn=3.66
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン7
Mw=12,700
Mw/Mn=3.93
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン塩シリコーン8
比較例の生体電極組成物溶液にイオン性材料として配合した比較塩1〜4を以下に示す。
生体電極組成物溶液にシリコーン系の樹脂として配合したシロキサン化合物1〜4を以下に示す。
(シロキサン化合物1)
30%トルエン溶液での粘度が27,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がSiMe2Vi基で封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサンをシロキサン化合物1とした。
(シロキサン化合物2)
Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液をシロキサン化合物2とした。
(シロキサン化合物3)
30%トルエン溶液での粘度が42,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がOHで封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサン40質量部、Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液100質量部、及びトルエン26.7質量部からなる溶液を乾留させながら4時間加熱後、冷却して、MQレジンにポリジメチルシロキサンを結合させたものをシロキサン化合物3とした。
(シロキサン化合物4)
メチルハイドロジェンシリコーンオイルとして、信越化学工業製 KF−99を用いた。
また、シリコーン系の樹脂として、ポリエーテル型シリコーンオイルである側鎖ポリエーテル変性の信越化学工業製 KF−353を用いた。
生体電極組成物溶液にアクリル系の樹脂として配合したアクリルポリマーを以下に示す。
アクリルポリマー1
Mw=108,000
Mw/Mn=2.32
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
生体電極組成物溶液にシリコーン系、アクリル系、あるいはウレタン系の樹脂として配合したシリコーンウレタンアクリレート1、2を以下に示す。
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
生体電極組成物溶液に配合した有機溶剤を以下に示す。
PGMEA:プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート
PGME:プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル
PGEE:プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル
生体電極組成物溶液に添加剤として配合した金属粉、ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤(カーボンブラック、カーボンナノチューブ)を以下に示す。
金属粉 銀粉:Sigma−Aldrich社製 銀フレーク 直径10μm
金粉:Sigma−Aldrich社製 金粉 直径10μm以下
錫粉:Sigma−Aldrich社製 錫粉 直径45μm以下
チタン粉:Sigma−Aldrich社製 チタン粉 直径45μm以下
銅粉:Sigma−Aldrich社製 銅粉 直径45μm以下
ラジカル発生剤:富士フイルム和光純薬社製 V−601
白金触媒:信越化学工業製 CAT−PL−50T
カーボンブラック:デンカ社製 デンカブラックHS−100
多層カーボンナノチューブ:Sigma−Aldrich社製 直径110〜170nm、長さ5〜9μm
[実施例1〜18、比較例1〜5]
表1及び表2に記載の組成で、イオン性材料(フルオロスルホン酸塩シリコーン、比較塩)、樹脂、有機溶剤、及びその他の添加剤(ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤)をブレンドし、生体電極組成物溶液(生体電極組成物溶液1〜18、比較生体電極組成物溶液1〜5)を調製した。
(導電性評価)
直径3cm、厚さ0.2mmのアルミニウム製の円板の上にアプリケーターを用いて生体電極組成物溶液を塗布し、室温で6時間風乾した後、オーブンを用いて窒素雰囲気下120℃で30分間ベークして硬化させて、1つの生体電極組成物溶液につき生体電極を4枚作製した。このようにして得られた生体電極は、図3(a)、(b)に示されるように、一方の面には生体接触層3を有し、他方の面には導電性基材としてアルミニウム製の円板8を有するものであった。次に、図3(b)に示されるように、生体接触層で覆われていない側のアルミニウム製の円板8の表面に銅配線9を粘着テープで貼り付けて引き出し電極とし、これをインピーダンス測定装置に接続した。図4に示されるように、人の腕の肌と生体接触層側が接触するように生体電極1’を2枚貼り付けて、その間隔を15cmとした。ソーラトロン社製の交流インピーダンス測定装置SI1260を用い、周波数を変えながら初期インピーダンスを測定した。次に、残りの2枚の生体電極を純水中に1時間浸漬し、水を乾燥させた後、上記と同様の方法で肌上のインピーダンスを測定した。周波数1,000Hzにおけるインピーダンスを表3に示す。
(粘着性評価)
生体電極組成物溶液を、アプリケーターを用いて厚さ100μmのPEN(ポリエチレンナフタレート)基板上に塗布し、室温で6時間風乾後、オーブンを用いて窒素雰囲気下120℃で30分間ベークして硬化させて、粘着フィルムを作製した。この粘着フィルムから25mm幅のテープを切り取り、これをステンレス版(SUS304)に圧着させ、室温で20時間放置した後、引っ張り試験機を用い角度180度、300mm/分の速度で粘着フィルムから作製したテープをステンレス版から引きはがすのに要する力(N/25mm)を測定した。結果を表3に示す。
(生体接触層の厚さ測定)
上記の導電性評価試験で作製した生体電極において、生体接触層の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。結果を表3に示す。
表3に示されるように、フルオロスルホン酸塩シリコーン化合物及び樹脂を配合した本発明の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した実施例1〜18では、初期インピーダンスが低く、水に浸漬し乾燥させた後も、大幅なインピーダンスの変化は起こらなかった。つまり、実施例1〜18では、初期の導電性が高く、水に濡れたり乾燥した場合にも導電性の大幅な低下が起こらない生体電極が得られた。また、このような実施例1〜18の生体電極は、従来の塩及び樹脂を配合した比較例1〜5の生体電極と同程度の良好な粘着力を有し、軽量であり、生体適合性に優れ、低コストで製造可能であった。
一方、従来の塩及び樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例1〜4では、初期インピーダンスは低いものの、水に浸漬し乾燥させた後は、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加が起こっていた。つまり、比較例1〜4では、初期の導電性は高いものの、水に濡れたり乾燥した場合には導電性が大幅に低下してしまう生体電極しか得られなかった。
また、塩を配合せず樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例5では、塩を含まないため、水に浸漬し乾燥させた後も、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加は起こらなかったが、初期インピーダンスが高かった。つまり、比較例5では、初期の導電性の低い生体電極しか得られなかった。
以上のことから、本発明の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した生体電極であれば、導電性、生体適合性、導電性基材に対する接着性に優れ、イオン性材料の保持力に優れるため水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、軽量であり、また低コストで製造できることが明らかとなった。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1、1’…生体電極、 2…導電性基材、 3…生体接触層、
4…イオン性シリコーン材料、 5a…金属粉、 5b…カーボン粉、
6…樹脂、 7…生体、 8…アルミニウム製の円板、 9…銅配線。
本発明は、生体の皮膚に接触し、皮膚からの電気信号によって心拍数等の体の状態を検知することができる生体電極、及びその製造方法、並びに生体電極に好適に用いられる生体電極組成物に関する。
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
医療分野では、例えば電気信号によって心臓の動きを感知する心電図測定のように、微弱電流のセンシングによって体の臓器の状態をモニタリングするウェアラブルデバイスが検討されている。心電図の測定では、導電ペーストを塗った電極を体に装着して測定を行うが、これは1回だけの短時間の測定である。これに対し、上記のような医療用のウェアラブルデバイスの開発が目指すのは、数週間連続して常時健康状態をモニターするデバイスの開発である。従って、医療用ウェアラブルデバイスに使用される生体電極には、長時間使用した場合にも導電性の変化がないことや肌アレルギーがないことが求められる。また、これらに加えて、軽量であること、低コストで製造できることも求められている。
医療用ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けるタイプと、衣服に組み込むタイプがあり、体に貼り付けるタイプとしては、上記の導電ペーストの材料である水と電解質を含む水溶性ゲルを用いた生体電極が提案されている(特許文献1)。水溶性ゲルは、水を保持するための水溶性ポリマー中に、電解質としてナトリウム、カリウム、カルシウムを含んでおり、肌からのイオン濃度の変化を電気に変換する。一方、衣服に組み込むタイプとしては、PEDOT−PSS(Poly−3,4−ethylenedioxythiophene−Polystyrenesulfonate)のような導電性ポリマーや銀ペーストを繊維に組み込んだ布を電極に使う方法が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、上記の水と電解質を含む水溶性ゲルを使用した場合には、乾燥によって水がなくなると導電性がなくなってしまうという問題があった。一方、銅等のイオン化傾向の高い金属を使用した場合には、人によっては肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題があり、PEDOT−PSSのような導電性ポリマーを使用した場合にも、導電性ポリマーの酸性が強いために肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題、洗濯中に繊維から導電ポリマーが剥がれ落ちる問題があった。
また、優れた導電性を有することから、金属ナノワイヤー、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブ等を電極材料として使用することも検討されている(特許文献3、4、5)。金属ナノワイヤーはワイヤー同士の接触確率が高くなるため、少ない添加量で通電することができる。しかしながら、金属ナノワイヤーは先端が尖った細い材料であるため、肌アレルギー発生の原因となる。このように、そのもの自体がアレルギー反応を起こさなくても、材料の形状や刺激性によって生体適合性が悪化する場合があり、導電性と生体適合性を両立させることは困難であった。
金属膜は導電性が非常に高いために優れた生体電極として機能すると思われるが、必ずしもそうではない。心臓の鼓動によって肌から放出されるのは微弱電流ではなく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンである。このためイオンの濃度変化を電流に変える必要があるが、イオン化しづらい貴金属は肌からのイオンを電流に変える効率が悪い。よって貴金属を使った生体電極はインピーダンスが高く、肌との通電は高抵抗である。
一方で、イオン性液体を添加したバッテリーが検討されている(特許文献6)。イオン性液体は熱的、化学的安定性が高く、導電性に優れる特徴を有しており、バッテリー用途への応用が広がっている。しかしながら、特許文献6に示されるような分子量が小さなイオン性液体は水に溶解するため、これが添加された生体電極を用いると、イオン性液体が肌からの汗によって抽出されることから、導電性が低下するだけでなく、これが肌に浸透して肌荒れの原因にもなる。
また、ポリマー型スルホンイミドのリチウム塩を用いたバッテリーが検討されている(非特許文献1)。しかしながら、リチウムはイオン移動性が高いためにバッテリーへ応用されているが、これは生体適合性を有する材料ではない。更には、シリコーンにペンダントされたフルオロスルホン酸のリチウム塩も検討されている(非特許文献2)。
生体電極は肌から離れると体からの情報を得ることができなくなる。更に、接触面積が変化しただけでも通電する電気量に変動が生じ、心電図(電気信号)のベースラインが変動する。従って、身体から安定した電気信号を得るために、生体電極には、常に肌に接触しており、その接触面積も変化しないことが必要である。そのためには、生体電極が粘着性を有していることが好ましい。また、肌の伸縮や屈曲変化に追随できる伸縮性やフレキシブル性も必要である。
国際公開第WO2013−039151号パンフレット
特開2015−100673号公報
特開平5−095924号公報
特開2003−225217号公報
特開2015−019806号公報
特表2004−527902号公報
J. Mater. Chem. A,2016,4,p10038−10069
J. of the Electrochemical Society, 150(8) A1090−A1094 (2003)
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を達成するために、本発明では、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを含有する生体電極組成物であって、前記フルオロスルホン酸塩が下記一般式(1)で示されるものであることを特徴とする生体電極組成物を提供する。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基、テトラフルオロエチレン基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
このような生体電極組成物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物となる。なお、本明細書において、R1がエーテル基を有しているとは、前記R1の末端に酸素原子を有する場合(例えば、−CH2−O−CRf1Rf2−CRf3Rf4−SO3 −,−C6H4−O−CRf1Rf2−CRf3Rf4−SO3 −,−CH2−O−C(O)−CRf3Rf4−SO3 −,−C6H4−O−C(O)−CRf3Rf4−SO3 −)を含むものとする。
また、前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンが下記一般式(2)で示される繰り返し単位aを有するものであることが好ましい。
(式中、R1、Rf1〜Rf4、M+は前述の通りであり、R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。)
このような繰り返し単位aを有するものであれば、より導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物となる。
また、本発明の生体電極組成物は、(A)成分としての前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンと、(B)成分としての粘着性樹脂を含有するものであることが好ましい。
このような(A)成分と(B)成分を有するものであれば、(B)成分が(A)成分と相溶して塩の溶出を防ぐとともに、より粘着性を発現させることができる。
この場合、前記(B)成分が、シリコーン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましい。
このような(B)成分を有するものであれば、生体電極組成物から(A)成分が溶出するのをより防ぎ、より粘着力を増大させることができる。
また、前記(B)成分として、RxSiO(4−x)/2単位(Rは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5〜3.5の範囲である。)及びSiO2単位を有するシリコーン樹脂と、アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有するものであることが好ましい。
このような(B)成分を有するものであれば、生体電極組成物から(A)成分が溶出するのを一層防ぎ、粘着力を一層増大させることができる。
また、本発明の生体電極組成物は、更に(C)成分として、カーボン粉及び/又は金属粉を含有することが好ましい。
このようなものであれば、生体電極組成物の硬化物が導電性に優れたものとなる。
この場合、(C)成分としての前記カーボン粉が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることが好ましい。
このようなものであれば、より導電性に優れたものとなる。
また、(C)成分としての前記金属粉が、金、銀、白金、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロム、インジウムから選ばれる金属粉であることが好ましく、前記金属粉が、銀粉、銅粉、錫粉、チタン粉であることがより好ましい。
このような(C)成分であれば、本発明の生体電極組成物の導電性をより高めることができる。特に銀粉であれば、導電性、価格、生体適合性の面で優れたものとなる。
前記生体電極組成物が、更に(D)成分として有機溶剤を含有するものであることが好ましい。
このようなものであれば、生体電極組成物の塗布性が更に良好なものとなる。
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が上記生体電極組成物の硬化物である生体電極を提供する。
本発明の生体電極であれば、上述のフルオロスルホン酸塩に結合するシリコーン(フルオロスルホン酸塩シリコーン)によって導電性及び生体適合性を両立でき、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
この場合、前記導電性基材が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素、及び導電性ポリマーから選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
本発明の生体電極では、このような導電性基材を特に好適に用いることができる。
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に上記生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成する生体電極の製造方法を提供する。
本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
この場合、前記導電性基材として、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素、及び導電性ポリマーから選ばれる1種以上を含むものを用いることが好ましい。
本発明の生体電極の製造方法では、このような導電性基材を特に好適に用いることができる。
また、本発明では、下記一般式(2)で示される部分構造を有するシリコーン化合物を提供する。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基、テトラフルオロエチレン基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
このようなシリコーン化合物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物の成分として有用な化合物を形成できる。
また、本発明では、下記一般式(2)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量1000〜1000000の範囲のシリコーンポリマーを提供する。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基、テトラフルオロエチレン基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
このようなシリコーンポリマーであれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物の成分として特に有用なものとなる。
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物となる。また、導電性粉末(カーボン粉、金属粉)を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。
また、本発明の生体電極であれば、上述のフルオロスルホン酸塩シリコーンによって導電性及び生体適合性を両立でき、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
また、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
本発明の生体電極組成物の硬化物からなる生体接触層を有する生体電極の一例を示す概略断面図である。
本発明の生体電極を生体に装着した場合の一例を示す概略断面図である。
本発明の実施例で作製した生体電極を(a)生体接触層側から見た概略図及び(b)導電性基材側から見た概略図である。
本発明の実施例で作製した生体電極を用いて、肌表面でのインピーダンスを測定している写真である。
上述のように、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、及びその製造方法の開発が求められていた。
心臓の鼓動に連動して肌表面からナトリウム、カリウム、カルシウムイオンが放出されるところ、生体電極は、肌から放出されたこれらイオンの増減を電気信号に変換する必要がある。そのため、生体電極を構成するには、イオンの増減を伝達するためのイオン導電性に優れた材料が必要である。
本発明者らは、高イオン導電性の材料としてイオン性液体に着目した。イオン性液体は熱的、化学的安定性が高く、導電性に優れる特徴を有しており、バッテリー用途への応用が広がっている。また、イオン性液体としては、スルホニウム、ホスホニウム、アンモニウム、モルホリニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、イミダゾリウムの塩酸塩、臭化水素塩、ヨウ化水素塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ノナフルオロブタンスルホン酸塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸塩、ヘキサフルオロホスファート塩、テトラフルオロボラート塩等が知られている。しかしながら、一般的にこれらの塩(特に分子量の小さいもの)は水和性が高いため、これらの塩を添加した生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極は、汗や洗濯によって塩が抽出され、導電性が低下する欠点があった。また、テトラフルオロボラート塩は毒性が高く、他の塩は水溶性が高いために肌の中に容易に浸透してしまい肌荒れが生じる(つまり、肌に対する刺激性が強い)という問題があった。
中和塩を形成する酸の酸性度が高いとイオンが強く分極し、イオン導電性が向上する。リチウムイオン電池として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸やトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸のリチウム塩が高いイオン導電性を示すのはこのためである。一方、酸強度が高くなればなるほど、この塩は生体刺激性が強いという問題がある。つまり、イオン導電性と生体刺激性はトレードオフの関係である。しかしながら、生体電極に適用する塩では、高イオン導電特性と低生体刺激性が両立されなければならない。
塩化合物の分子量が大きくなればなるほど、又疎水性が高くなるほど、肌への浸透性が低下して肌への刺激性が低下する。このことから、シリコーンに結合した塩化合物は、分子量が大きくかつ疎水性が高いため理想的である。そこで、本発明者らは、フルオロスルホン酸基の塩に結合したシリコーン化合物を合成することに想到した。
更に、本発明者らは、この塩を、例えばシリコーン系、アクリル系、ウレタン系の粘着剤(樹脂)に混合したものを用いることによって、常に肌に密着し、長時間安定的な電気信号を得ることができることに想到した。
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、高感度な生体電極を構成するためには高いイオン導電性だけでは不十分で、高い電子導電性も必要な場合もある。電子導電性を高めるにはカーボンや金属の粒子(粉)を添加することが効果的である。これによって低インピーダンスで高感度な生体電極として機能することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを含有する生体電極組成物であって、前記フルオロスルホン酸塩が下記一般式(1)で示されるものであることを特徴とする生体電極組成物である。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基、若しくはテトラフルオロエチレン基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<生体電極組成物>
本発明の生体電極組成物は、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを含有し、かつ、前記フルオロスルホン酸塩が上記一般式(1)で示されるものであることを必須の条件とする。前記生体電極組成物は、前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンと、粘着性樹脂とを含有するものであってもよい。前記生体電極組成物は、さらに導電性粉末(カーボン粉、金属粉)を含有することができ、またさらに有機溶剤等を含有することもできる。
以下、各成分について、更に詳細に説明する。なお、以下において、前記フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを「(A)成分」、粘着性樹脂を「(B)成分」、導電性粉末を「(C)成分」、有機溶剤等の添加剤を「(D)成分」ともいう。
[(A)成分]
本発明の生体電極組成物は、イオン性材料(塩)として(A)成分(フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーン)を含有する。前記生体電極組成物に導電性材料として配合されるイオン性材料(塩)は、下記一般式(1)で示されるフルオロスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、銀塩と結合したシリコーン化合物である。なお、以下において、フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンを「フルオロスルホン酸塩シリコーン」ともいう。
フルオロスルホン酸塩シリコーンは、フルオロスルホン酸塩からなる部分構造がシリコーン鎖に結合した化学構造を有するシリコーン化合物である。前記部分構造のフルオロスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、銀塩は、下記一般式(1)で示される。
(式中、R1は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基、若しくはテトラフルオロエチレン基を有していても良く、又は、炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有していても良い。Rf1、Rf2は水素原子、フッ素原子、酸素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1が酸素原子のときRf2も酸素原子であり、結合する炭素原子とともにカルボニル基を形成し、Rf3、Rf4は水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、かつ、Rf1〜Rf4中に1つ以上のフッ素原子を有する。M+はナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオンから選択されるイオンである。)
上記R1が炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、芳香族基、エーテル基、エステル基、テトラフルオロエチレン基(以下、「芳香族基等」という)を有する場合は、前記アルキレン基はその末端を含めた任意の部分に、任意の数の芳香族基等を有することができる。また、上記R1が炭素数6〜10のアリーレン基であり、エーテル基、エステル基を有する場合は、前記アリーレン基はその末端を含めた任意の部分に、任意の数のエーテル基、エステル基を有することができる。
フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーンは、下記一般式(2)で示される繰り返し単位aを有することが好ましい。
(式中、R1、Rf1〜Rf4、M+は前述の通りであり、R2は炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基であり、ハロゲン原子で置換されていても良く、又は炭素数6〜10のアリール基である。)
上記一般式(2)で示される繰り返し単位aとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
ここでM+は前述の通りである。
(繰り返し単位b)
本発明の生体電極組成物の(A)成分は、上記の繰り返し単位aに加えて、導電性を向上させるために、グライム鎖を有するシロキサンからなる繰り返し単位bを有することができる。繰り返し単位bとしては、具体的には以下のものを例示することができる。
(式中、0≦m≦20、0≦n≦20、1≦m+n≦20である。)
(繰り返し単位c)
本発明の生体電極組成物の(A)成分は、上記の繰り返し単位a、bに加えて、(B)成分の粘着性樹脂との混合性を向上させるために、水素原子、アルキル基やアリール基を有するシロキサンからなる繰り返し単位cを有することができる。アルキル基やアリール基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、カルボキシル基、チオール基、(メタ)アクリル基、シアノ基、ニトロ基を有していても良い。繰り返し単位cとしては、具体的には以下のものを例示することができる。
(A)成分の繰り返し単位a(a単位)を有するシリコーン化合物(フルオロスルホン酸塩シリコーン)を合成する方法の1つとして、ヒドロシリル化反応による方法がある。前記シリコーン化合物は、二重結合を有するフルオロスルホン酸塩と、Si−H基を有するシリコーン化合物との白金触媒存在下におけるヒドロシリル化反応によって得ることができる。また、グライム鎖を有する繰り返し単位b(b単位)は、二重結合とエーテル基を有する化合物と、Si−H基を有するシリコーン化合物との白金触媒存在下におけるヒドロシリル化反応によって得ることができる。a単位とb単位はシリコーン1分子内に両方有していても良いし、それぞれa単位とb単位を有するシリコーン化合物をブレンドしても良い。前者としては、a単位とb単位の共重合体を挙げることができる。a単位とb単位が共重合している場合の共重合比率は、0<a<1.0、0<b≦a<1.0である。
二重結合を有するフルオロスルホン酸塩と、必要であれば二重結合を有するエーテル化合物と、SiH基を有するシリコーン化合物と白金触媒とを混合し、加熱することによってヒドロシリル化反応を進行させてフルオロスルホン酸塩に結合したシリコーン化合物を合成することが好ましい。
また、ヒドロシリル化前のSi−H基を有するシリコーン化合物は、鎖状形状、分岐形状、環状形状いずれであっても良いが、重量平均分子量1000以上1000000以下の高分子化合物であることが望ましい。このようなSi−H基を有するシリコーン化合物を用いることにより、重量平均分子量1000〜1000000のフルオロスルホン酸塩シリコーンのポリマーを合成することができる。
このように、フルオロスルホン酸塩が高分子シリコーンにペンダントされることによって塩化合物の分子量が大きくなり、疎水性が高くなる。一般に塩化合物の分子量が大きくなればなるほど、又疎水性が高くなるほど、肌への浸透性が低下して肌への刺激性は低下するため、このような高分子化合物であれば、肌を通過してアレルギーを引き起こすことをより防ぐことができる。
以上のようにして、上記一般式(2)で示される部分構造を有するシリコーン化合物(フルオロスルホン酸塩シリコーン)、又は、上記一般式(2)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量1000〜1000000のシリコーンポリマーを合成することができる。前記シリコーン化合物とシリコーンポリマーは、それぞれ本発明の生体電極組成物に導電性材料として配合されるイオン性材料(塩)として好適である。
本発明の生体電極組成物において、(A)成分の配合量は、(B)成分100質量部に対して0.1〜300質量部とすることが好ましく、1〜200質量部とすることがより好ましい。また、(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合で使用してもよい。
[(B)成分]
本発明の生体電極組成物は(A)成分に加えて粘着性樹脂を(B)成分として含有することができる。生体電極組成物に配合される(B)成分は、上記の(A)フルオロスルホン酸塩シリコーンと相溶して塩の溶出を防ぎ、カーボン粉や金属粉等の導電性向上剤を保持し、粘着性を発現させるための成分であり、粘着性樹脂からなる。なお、(B)成分は、上述の(A)成分以外の樹脂であればよく、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか、又はこれらの両方であることが好ましく、特には、シリコーン樹脂(シリコーン系樹脂)、(メタ)アクリレート樹脂(アクリル系樹脂)、及びウレタン樹脂(ウレタン系樹脂)から選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。
粘着性のシリコーン系樹脂としては、付加反応硬化型又はラジカル架橋反応硬化型のものが挙げられる。付加反応硬化型としては、例えば、特開2015−193803号公報に記載の、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金触媒、付加反応制御剤、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。また、ラジカル架橋反応硬化型としては、例えば、特開2015−193803号公報に記載の、アルケニル基を有していてもいなくてもよいジオルガノポリシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、有機過酸化物、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。ここでRは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価の炭化水素基である。
また、ポリマー末端や側鎖にシラノールを有するポリシロキサンと、MQレジンを縮合反応させて形成したポリシロキサン・レジン一体型化合物を用いることもできる。MQレジンはシラノールを多く含有するためにこれを添加することによって粘着力が向上するが、架橋性がないためにポリシロキサンと分子的に結合していない。上記のようにポリシロキサンとレジンを一体型とすることによって、粘着力を増大させることができる。
また、シリコーン系樹脂には、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することもできる。変性シロキサンを添加することによって、(A)成分のシリコーン樹脂中での分散性が向上する。変性シロキサンはシロキサンの片末端、両末端、側鎖のいずれが変性されたものでも構わない。
粘着性のアクリル系樹脂としては、例えば、特開2016−011338号公報に記載の、親水性(メタ)アクリル酸エステル、長鎖疎水性(メタ)アクリル酸エステルを繰り返し単位として有するものを用いることができる。場合によっては、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルやシロキサン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合してもよい。
粘着性のウレタン系樹脂としては、例えば、特開2016−065238号公報に記載の、ウレタン結合と、ポリエーテルやポリエステル結合、ポリカーボネート結合、シロキサン結合を有するものを用いることができる。
また、生体接触層から(A)成分が溶出することによる導電性の低下を防止するために、本発明の生体電極組成物において、(B)成分は上述の(A)成分との相溶性が高いものであることが好ましい。また、導電性基材からの生体接触層の剥離を防止するために、本発明の生体電極組成物において、(B)成分は導電性基材に対する接着性が高いものであることが好ましい。樹脂を、導電性基材や塩との相溶性が高いものとするためには、極性が高い樹脂を用いることが効果的である。このような樹脂としては、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びチオール基から選ばれる1つ以上を有する樹脂、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリチオウレタン樹脂等が挙げられる。また、一方で、生体接触層は生体に接触するため、生体からの汗の影響を受けやすい。従って、本発明の生体電極組成物において、(B)成分は撥水性が高く、加水分解しづらいものであることが好ましい。樹脂を、撥水性が高く、加水分解しづらいものとするためには、珪素を含有する樹脂を用いることが効果的である。
珪素原子を含有するポリアクリル樹脂としては、シリコーンを主鎖に有するポリマーと珪素原子を側鎖に有するポリマーとがあるが、どちらも好適に用いることができる。シリコーンを主鎖に有するポリマーとしては、(メタ)アクリルプロピル基を有するシロキサンあるいはシルセスキオキサン等を用いることができる。この場合は、光ラジカル発生剤を添加することで(メタ)アクリル部分を重合させて硬化させることができる。
珪素原子を含有するポリアミド樹脂としては、例えば、特開2011−079946号公報、米国特許5981680号公報に記載のポリアミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。このようなポリアミドシリコーン樹脂は、例えば、両末端にアミノ基を有するシリコーン又は両末端にアミノ基を有する非シリコーン化合物と、両末端にカルボキシル基を有する非シリコーン又は両末端にカルボキシル基を有するシリコーンを組み合わせて合成することができる。
また、カルボン酸無水物とアミンを反応させて得られる、環化する前のポリアミド酸を用いてもよい。ポリアミド酸のカルボキシル基の架橋には、エポキシ系やオキセタン系の架橋剤を用いてもよいし、カルボキシル基とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化反応を行って、(メタ)アクリレート部分の光ラジカル架橋を行ってもよい。
珪素原子を含有するポリイミド樹脂としては、例えば、特開2002−332305号公報に記載のポリイミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。ポリイミド樹脂は粘性が非常に高いが、(メタ)アクリル系モノマーを溶剤かつ架橋剤として配合することによって低粘性にすることができる。
珪素原子を含有するポリウレタン樹脂としては、ポリウレタンシリコーン樹脂を挙げることができ、このようなポリウレタンシリコーン樹脂では、両末端にイソシアネート基を有する化合物と末端にヒドロキシ基を有する化合物をブレンドして加熱することによってウレタン結合による架橋を行うことができる。なお、この場合、両末端にイソシアネート基を有する化合物か、末端にヒドロキシ基を有する化合物のいずれかあるいは両方に珪素原子(シロキサン結合)を含有する必要がある。あるいは、特開2005−320418号公報に記載されるように、ポリシロキサンにウレタン(メタ)アクリレートモノマーをブレンドして光架橋させることもできる。また、シロキサン結合とウレタン結合の両方を有し、末端に(メタ)アクリレート基を有するポリマーを光架橋させることもできる。
珪素原子を含有するポリチオウレタン樹脂は、チオール基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物の反応によって得ることができ、これらのうちいずれかが珪素原子を含有していればよい。また、末端に(メタ)アクリレート基を有していれば、光硬化させることも可能である。
シリコーン系の樹脂において、上述のアルケニル基を有するジオルガノシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンに加えて、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することによって上述の塩との相溶性が高まる。
なお、後述のように、生体接触層は生体電極組成物の硬化物である。硬化させることによって、肌と導電性基材の両方に対する生体接触層の接着性が良好なものとなる。なお、硬化手段としては、特に限定されず、一般的な手段を用いることができ、例えば、熱及び光のいずれか、又はその両方、あるいは酸又は塩基触媒による架橋反応等を用いることができる。架橋反応については、例えば、架橋反応ハンドブック 中山雍晴 丸善出版(2013年)第二章p51〜p371に記載の方法を適宜選択して行うことができる。
アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、白金触媒による付加反応によって架橋させることができる。
白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニル基含有シロキサン錯体等の白金系触媒、ロジウム錯体及びルテニウム錯体等の白金族金属系触媒などが挙げられる。また、これらの触媒をアルコール系、炭化水素系、シロキサン系溶剤に溶解・分散させたものを用いてもよい。
なお、白金触媒の添加量は、樹脂100質量部に対して5〜2,000ppm、特には10〜500ppmの範囲とすることが好ましい。
また、付加硬化型のシリコーン樹脂を用いる場合には、付加反応制御剤を添加してもよい。この付加反応制御剤は、溶液中及び塗膜形成後の加熱硬化前の低温環境下で、白金触媒が作用しないようにするためのクエンチャーとして添加するものである。具体的には、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
付加反応制御剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0〜10質量部、特に0.05〜3質量部の範囲とすることが好ましい。
光硬化を行う方法としては、(メタ)アクリレート末端やオレフィン末端を有している樹脂を用いるか、末端が(メタ)アクリレート、オレフィンやチオール基になっている架橋剤を添加するとともに、光によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤を添加する方法や、オキシラン基、オキセタン基、ビニルエーテル基を有している樹脂や架橋剤を用い、光によって酸を発生させる光酸発生剤を添加する方法が挙げられる。
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’−ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2−ベンゾイル安息香酸、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4−ベンゾイル安息香酸、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2−ベンゾイル安息香酸メチル、2−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO)、1,4−ジベンゾイルベンゼン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン、2−イソニトロソプロピオフェノン、2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノンを挙げることができる。
熱分解型のラジカル発生剤を添加することによって硬化させることもできる。熱ラジカル発生剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(メチルプロピオンアミジン)塩酸、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、ジメチル−2,2’−アゾビス(イソブチレート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ジ−tert−アミルパーオキシド、ジ−n−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド等を挙げることができる。
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N−スルホニルオキシイミド、オキシム−O−スルホネート型酸発生剤等を挙げることができる。光酸発生剤の具体例としては、例えば、特開2008−111103号公報の段落[0122]〜[0142]、特開2009−080474号公報に記載されているものが挙げられる。
なお、ラジカル発生剤や光酸発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
これらの中でも、(B)成分の樹脂としては、RxSiO(4−x)/2単位(Rは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5〜3.5の範囲である。)及びSiO2単位を有するシリコーン樹脂と、アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有するものが特に好ましい。
[(C)成分]
本発明の生体電極組成物は、(C)成分としての導電性粉末をさらに含有することができる。導電性粉末としては、導電性を有する粉末であれば特に制限されないが、カーボン粉(カーボン材料)、金属粉が好ましい。本発明の生体電極組成物は、イオン性材料(塩)として(A)成分(フルオロスルホン酸塩に結合するシリコーン)を含有するが、このような導電性粉末(カーボン粉、金属粉)をさらに添加することによって一層導電性を向上させることができる。なお、以下において、導電性粉末を「導電性向上剤」ともいう。
[カーボン粉]
導電性向上剤として、カーボン材料(カーボン粉)を添加することができる。カーボン材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維等を挙げることができる。カーボンナノチューブは単層、多層のいずれであってもよく、表面が有機基で修飾されていても構わない。カーボン材料の添加量は、樹脂100質量部に対して1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
[金属粉]
本発明の生体電極組成物には、電子導電性を高めるために、(C)成分として、金、銀、白金、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロム、インジウムから選ばれる金属粉を添加することが好ましい。金属粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
金属粉の種類として導電性の観点では金、銀、白金が好ましく、価格の観点では銀、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロムが好ましい。生体適合性の観点では貴金属が好ましく、これらの観点で総合的には銀、銅、錫、チタンが最も好ましい。
金属粉の形状としては、球状、円盤状、フレーク状、針状を挙げることができるが、フレーク状の粉末を添加したときの導電性が最も高くて好ましい。金属粉のサイズは100μm以下、タップ密度が5g/cm3以下、比表面積が0.5m2/g以上の、比較的低密度で比表面積が大きいフレークが好ましい。導電性向上剤として、金属粉とカーボン材料(カーボン粉)の両者を添加することもできる。
[(D)成分]
本発明の生体電極組成物は、必要に応じて(D)成分としての添加剤をさらに含有することができる。添加剤としては、上記(A)から(C)成分以外のものであれば特に限定されないが、粘着性付与剤などの前記生体電極組成物の硬化物の伸縮性や粘着性を向上させることができる成分や、ラジカル発生剤、白金触媒などの硬化反応を促進する成分、有機溶剤などの生体電極組成物の取扱いを容易にする成分などを挙げることができる。以下、(D)成分について詳細に説明する。
[粘着性付与剤]
本発明の生体電極組成物には、生体に対する粘着性を付与するために、粘着性付与剤を添加してもよい。このような粘着性付与剤としては、例えば、シリコーンレジンや非架橋性のシロキサン、非架橋性のポリ(メタ)アクリレート、非架橋性のポリエーテル等を挙げることができる。本発明の生体電極組成物は、必要に応じて(B)成分として粘着性樹脂を含有することができるが、このような粘着性付与剤を添加することによっても、生体に対する粘着性が更に好ましいものとなる。
[有機溶剤]
また、本発明の生体電極組成物には、有機溶剤を添加することができる。有機溶剤としては、具体的には、トルエン、キシレン、クメン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、スチレン、αメチルスチレン、ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、シメン、ジエチルベンゼン、2−エチル−p−キシレン、2−プロピルトルエン、3−プロピルトルエン、4−プロピルトルエン、1,2,3,5−テトラメチルトルエン、1,2,4,5−テトラメチルトルエン、テトラヒドロナフタレン、4−フェニル−1−ブテン、tert−アミルベンゼン、アミルベンゼン、2−tert−ブチルトルエン、3−tert−ブチルトルエン、4−tert−ブチルトルエン、5−イソプロピル−m−キシレン、3−メチルエチルベンゼン、tert−ブチル−3−エチルベンゼン、4−tert−ブチル−o−キシレン、5−tert−ブチル−m−キシレン、tert−ブチル−p−キシレン、1,2−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系溶剤、n−ヘプタン、イソヘプタン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、1,6−ヘプタジエン、5−メチル−1−ヘキシン、ノルボルナン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1−メチル−1,4−シクロヘキサジエン、1−ヘプチン、2−ヘプチン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1,3−ジメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1−メチル−1−シクロヘキセン、3−メチル−1−シクロヘキセン、メチレンシクロヘキサン、4−メチル−1−シクロヘキセン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、n−オクタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、3−エチル−2−メチルペンタン、3−エチル−3−メチルペンタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロオクタン、シクロオクテン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、イソプロピルシクロペンタン、2,2−ジメチル−3−ヘキセン、2,4−ジメチル−1−ヘキセン、2,5−ジメチル−1−ヘキセン、2,5−ジメチル−2−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、2−エチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン、1,7−オクタジエン、1−オクチン、2−オクチン、3−オクチン、4−オクチン、n−ノナン、2,3−ジメチルヘプタン、2,4−ジメチルヘプタン、2,5−ジメチルヘプタン、3,3−ジメチルヘプタン、3,4−ジメチルヘプタン、3,5−ジメチルヘプタン、4−エチルヘプタン、2−メチルオクタン、3−メチルオクタン、4−メチルオクタン、2,2,4,4−テトラメチルペンタン、2,2,4−トリメチルヘキサン、2,2,5−トリメチルヘキサン、2,2−ジメチル−3−ヘプテン、2,3−ジメチル−3−ヘプテン、2,4−ジメチル−1−ヘプテン、2,6−ジメチル−1−ヘプテン、2,6−ジメチル−3−ヘプテン、3,5−ジメチル−3−ヘプテン、2,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,5,5−トリメチル−1−ヘキセン、1−エチル−2−メチルシクロヘキサン、1−エチル−3−メチルシクロヘキサン、1−エチル−4−メチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,1,3−トリメチルシクロヘキサン、1,1,4−トリメチルシクロヘキサン、1,2,3−トリメチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、アリルシクロヘキサン、ヒドリンダン、1,8−ノナジエン、1−ノニン、2−ノニン、3−ノニン、4−ノニン、1−ノネン、2−ノネン、3−ノネン、4―ノネン、n−デカン、3,3−ジメチルオクタン、3,5−ジメチルオクタン、4,4−ジメチルオクタン、3−エチル−3−メチルヘプタン、2−メチルノナン、3−メチルノナン、4−メチルノナン、tert−ブチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサン、ペンチルシクロペンタン、1,1,3,5−テトラメチルシクロヘキサン、シクロドデカン、1−デセン、2−デセン、3−デセン、4−デセン、5−デセン、1,9−デカジエン、デカヒドロナフタレン、1−デシン、2−デシン、3−デシン、4−デシン、5−デシン、1,5,9−デカトリエン、2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエン、リモネン、ミルセン、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエン、α−フェランドレン、ピネン、テルピネン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエン、1,4−デカジイン、1,5−デカジイン、1,9−デカジイン、2,8−デカジイン、4,6−デカジイン、n−ウンデカン、アミルシクロヘキサン、1−ウンデセン、1,10−ウンデカジエン、1−ウンデシン、3−ウンデシン、5−ウンデシン、トリシクロ[6.2.1.0 2,7 ]ウンデカ−4−エン、n−ドデカン、2−メチルウンデカン、3−メチルウンデカン、4−メチルウンデカン、5−メチルウンデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、1,3−ジメチルアダマンタン、1−エチルアダマンタン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチルn−ペンチルケトン等のケトン系溶剤、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ−n−ペンチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−secブチルエーテル、ジ−sec−ペンチルエーテル、ジ−tert−アミルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、アニソール等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤などを挙げることができる。
なお、有機溶剤の添加量は、樹脂100質量部に対して10〜50,000質量部の範囲とすることが好ましい。本発明の生体電極組成物が、更に(D)成分として有機溶剤を含有するものであれば、生体電極組成物の塗布性が更に良好なものとなる。
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物となる。また、導電性粉末(カーボン粉、金属粉)を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。
<生体電極>
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物である生体電極を提供する。
以下、本発明の生体電極について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明の生体電極の一例を示す概略断面図である。図1の生体電極1は、導電性基材2と該導電性基材2上に形成された生体接触層3とを有するものである。生体接触層3は本発明の生体電極組成物の硬化物からなる。生体接触層3を構成するイオン性シリコーン材料4は、前記フルオロスルホン酸塩シリコーンの硬化物を含む。生体接触層3は、さらに前記イオン性シリコーン材料4以外の樹脂6、導電性粉末(金属粉5a、カーボン粉5b;以下、まとめて「導電性粉末5」ともいう。)を含むことができる。以下図1,2を参照して、生体接触層3が、イオン性シリコーン材料4と導電性粉末5が樹脂6中に分散された層である場合について説明するが、本発明の生体電極はこの態様に限定されない。なお、図中の5bはカーボンナノチューブである。
このような図1の生体電極1を使用する場合には、図2に示されるように、生体接触層3(即ち、イオン性シリコーン材料4と導電性粉末5が樹脂6中に分散された層)を生体7と接触させ、イオン性シリコーン材料4と導電性粉末5によって生体7から電気信号を取り出し、これを導電性基材2を介して、センサーデバイス等(不図示)まで伝導させる。このように、本発明の生体電極であれば、上述のイオン性シリコーン材料によって導電性及び生体適合性を両立でき、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
以下、本発明の生体電極の各構成材料について、更に詳しく説明する。
[導電性基材]
本発明の生体電極は、導電性基材を有するものである。この導電性基材は、通常、センサーデバイス等と電気的に接続されており、生体から生体接触層を介して取り出した電気信号をセンサーデバイス等まで伝導させる。
導電性基材としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素及び導電ポリマーから選ばれる1種以上を含むものとすることが好ましい。
また、導電性基材は、特に限定されず、硬質な導電性基板等であってもよいし、フレキシブル性を有する導電性フィルムや導電性ペーストを表面にコーティングした布地や導電性ポリマーを練り込んだ布地であってもよい。導電性基材は平坦でも凹凸があっても金属線を織ったメッシュ状であってもよく、生体電極の用途等に応じて適宜選択すればよい。
[生体接触層]
本発明の生体電極は、導電性基材上に形成された生体接触層を有するものである。この生体接触層は、生体電極を使用する際に、実際に生体と接触する部分であり、導電性及び粘着性を有する。生体接触層は、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物であり、即ち、上述の(A)成分と、必要に応じて(B)成分、(C)成分、(D)成分を含有する組成物の硬化物からなる粘着性の樹脂層である。
なお、生体接触層の粘着力としては、0.5N/25mm以上20N/25mm以下の範囲が好ましい。粘着力の測定方法は、JIS Z 0237に示される方法が一般的であり、基材としてはSUS(ステンレス鋼)のような金属基板やPET(ポリエチレンテレフタラート)基板を用いることができるが、人の肌を用いて測定することもできる。人の肌の表面エネルギーは、金属や各種プラスチックより低く、テフロン(登録商標)に近い低エネルギーであり、粘着しにくい性質である。
生体電極の生体接触層の厚さは、1μm以上5mm以下が好ましく、2μm以上3mm以下がより好ましい。生体接触層が薄くなるほど粘着力は低下するが、フレキシブル性は向上し、軽くなって肌へのなじみが良くなる。粘着性や肌への風合いとの兼ね合いで生体接触層の厚さを選択することができる。
また、本発明の生体電極では、従来の生体電極(例えば、特開2004−033468号公報に記載の生体電極)と同様、使用時に生体から生体電極が剥がれるのを防止するために、生体接触層上に別途粘着膜を設けてもよい。別途粘着膜を設ける場合には、アクリル型、ウレタン型、シリコーン型等の粘着膜材料を用いて粘着膜を形成すればよく、特にシリコーン型は酸素透過性が高いためこれを貼り付けたままの皮膚呼吸が可能であり、撥水性も高いため汗による粘着性の低下が少なく、更に、肌への刺激性が低いことから好適である。なお、本発明の生体電極では、上記のように、生体電極組成物に粘着性付与剤を添加したり、生体への粘着性が良好な樹脂を用いたりすることで、生体からの剥がれを防止することができるため、上記の別途設ける粘着膜は必ずしも設ける必要はない。
本発明の生体電極をウェアラブルデバイスとして使用する際の、生体電極とセンサーデバイスの配線や、その他の部材については、特に限定されるものではなく、例えば、特開2004−033468号公報に記載のものを適用することができる。
以上のように、本発明の生体電極であれば、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物で生体接触層が形成されるため、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極となる。また、導線性粉を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。従って、このような本発明の生体電極であれば、医療用ウェアラブルデバイスに用いられる生体電極として、特に好適である。
<生体電極の製造方法>
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に、上述の本発明の生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成する生体電極の製造方法を提供する。
なお、本発明の生体電極の製造方法に使用される導電性基材等は、上述のものと同様でよい。
導電性基材上に生体電極組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、例えばディップコート、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、フローコート、ドクターコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の方法が好適である。
樹脂の硬化方法は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(A)、(B)成分によって適宜選択すればよいが、例えば、熱及び光のいずれか、又はこれらの両方で硬化させることが好ましい。また、上記の生体電極組成物に酸や塩基を発生させる触媒を添加しておいて、これによって架橋反応を発生させ、硬化させることもできる。
なお、加熱する場合の温度は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(A)、(B)成分によって適宜選択すればよいが、例えば50〜250℃程度が好ましい。
また、加熱と光照射を組み合わせる場合は、加熱と光照射を同時に行ってもよいし、光照射後に加熱を行ってもよいし、加熱後に光照射を行ってもよい。また、塗膜後の加熱の前に溶剤を蒸発させる目的で風乾を行ってもよい。
以上のように、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「Me」はメチル基、「Vi」はビニル基を示す。
トルエンとPGMEAの1:1の混合溶剤中、二重結合を有するフルオロスルホン酸塩と、必要であれば二重結合を有するエーテル化合物と、SiH基を有するシリコーン化合物と白金触媒とを混合し、60℃で2時間加熱することによってフルオロスルホン酸塩に結合したシリコーン化合物を合成した。溶剤を乾燥後組成を、1H−NMRにより確認した。ポリマーの場合の重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。このようにして合成したフルオロスルホン酸塩シリコーン1〜8を以下に示す。
フルオロスルホン酸塩シリコーン1
フルオロスルホン酸塩シリコーン2
Mw=12,600
Mw/Mn=3.51
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン3
Mw=11,800
Mw/Mn=2.93
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン4
Mw=14,600
Mw/Mn=3.35
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン5
Mw=14,600
Mw/Mn=3.36
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン6
Mw=12,800
Mw/Mn=3.66
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン酸塩シリコーン7
Mw=12,700
Mw/Mn=3.93
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
フルオロスルホン塩シリコーン8
比較例の生体電極組成物溶液にイオン性材料として配合した比較塩1〜4を以下に示す。
生体電極組成物溶液にシリコーン系の樹脂として配合したシロキサン化合物1〜4を以下に示す。
(シロキサン化合物1)
30%トルエン溶液での粘度が27,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がSiMe2Vi基で封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサンをシロキサン化合物1とした。
(シロキサン化合物2)
Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液をシロキサン化合物2とした。
(シロキサン化合物3)
30%トルエン溶液での粘度が42,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がOHで封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサン40質量部、Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液100質量部、及びトルエン26.7質量部からなる溶液を還流させながら4時間加熱後、冷却して、MQレジンにポリジメチルシロキサンを結合させたものをシロキサン化合物3とした。
(シロキサン化合物4)
メチルハイドロジェンシリコーンオイルとして、信越化学工業製 KF−99を用いた。
また、シリコーン系の樹脂として、ポリエーテル型シリコーンオイルである側鎖ポリエーテル変性の信越化学工業製 KF−353を用いた。
生体電極組成物溶液にアクリル系の樹脂として配合したアクリルポリマーを以下に示す。
アクリルポリマー1
Mw=108,000
Mw/Mn=2.32
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
生体電極組成物溶液にシリコーン系、アクリル系、あるいはウレタン系の樹脂として配合したシリコーンウレタンアクリレート1、2を以下に示す。
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
生体電極組成物溶液に配合した有機溶剤を以下に示す。
PGMEA:プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート
PGME:プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル
PGEE:プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル
生体電極組成物溶液に添加剤として配合した金属粉、ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤(カーボンブラック、カーボンナノチューブ)を以下に示す。
金属粉 銀粉:Sigma−Aldrich社製 銀フレーク 直径10μm
金粉:Sigma−Aldrich社製 金粉 直径10μm以下
錫粉:Sigma−Aldrich社製 錫粉 直径45μm以下
チタン粉:Sigma−Aldrich社製 チタン粉 直径45μm以下
銅粉:Sigma−Aldrich社製 銅粉 直径45μm以下
ラジカル発生剤:富士フイルム和光純薬社製 V−601
白金触媒:信越化学工業製 CAT−PL−50T
カーボンブラック:デンカ社製 デンカブラックHS−100
多層カーボンナノチューブ:Sigma−Aldrich社製 直径110〜170nm、長さ5〜9μm
[実施例1〜18、比較例1〜5]
表1及び表2に記載の組成で、イオン性材料(フルオロスルホン酸塩シリコーン、比較塩)、樹脂(粘着性樹脂)、有機溶剤、及びその他の添加剤(ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤)をブレンドし、生体電極組成物溶液(生体電極組成物溶液1〜18、比較生体電極組成物溶液1〜5)を調製した。
(導電性評価)
直径3cm、厚さ0.2mmのアルミニウム製の円板の上にアプリケーターを用いて生体電極組成物溶液を塗布し、室温で6時間風乾した後、オーブンを用いて窒素雰囲気下120℃で30分間ベークして硬化させて、1つの生体電極組成物溶液につき生体電極を4枚作製した。このようにして得られた生体電極は、図3(a)、(b)に示されるように、一方の面には生体接触層3を有し、他方の面には導電性基材としてアルミニウム製の円板8を有するものであった。次に、図3(b)に示されるように、生体接触層で覆われていない側のアルミニウム製の円板8の表面に銅配線9を粘着テープで貼り付けて引き出し電極とし、これをインピーダンス測定装置に接続した。図4に示されるように、人の腕の肌と生体接触層側が接触するように生体電極1’を2枚貼り付けて、その間隔を15cmとした。ソーラトロン社製の交流インピーダンス測定装置SI1260を用い、周波数を変えながら初期インピーダンスを測定した。次に、残りの2枚の生体電極を純水中に1時間浸漬し、水を乾燥させた後、上記と同様の方法で肌上のインピーダンスを測定した。周波数1,000Hzにおけるインピーダンスを表3に示す。
(粘着性評価)
生体電極組成物溶液(粘着剤溶液)を、アプリケーターを用いて厚さ100μmのPEN(ポリエチレンナフタレート)基板上に塗布し、室温で6時間風乾後、オーブンを用いて窒素雰囲気下120℃で30分間ベークして硬化させて、粘着フィルムを作製した。この粘着フィルムから25mm幅のテープを切り取り、これをステンレス板(SUS304)に圧着させ、室温で20時間放置した後、引っ張り試験機を用い角度180度、300mm/分の速度で粘着フィルムから作製したテープをステンレス板から引きはがすのに要する力(N/25mm)を測定した。結果を表3に示す。
(生体接触層の厚さ測定)
上記の導電性評価試験で作製した生体電極において、生体接触層の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。結果を表3に示す。
表3に示されるように、フルオロスルホン酸塩シリコーン化合物及び樹脂を配合した本発明の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した実施例1〜18では、初期インピーダンスが低く、水に浸漬し乾燥させた後も、大幅なインピーダンスの変化は起こらなかった。つまり、実施例1〜18では、初期の導電性が高く、水に濡れたり乾燥した場合にも導電性の大幅な低下が起こらない生体電極が得られた。また、このような実施例1〜18の生体電極は、従来の塩及び樹脂を配合した比較例1〜5の生体電極と同程度の良好な粘着力を有し、軽量であり、生体適合性に優れ、低コストで製造可能であった。
一方、従来の塩及び樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例1〜4では、初期インピーダンスは低いものの、水に浸漬し乾燥させた後は、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加が起こっていた。つまり、比較例1〜4では、初期の導電性は高いものの、水に濡れたり乾燥した場合には導電性が大幅に低下してしまう生体電極しか得られなかった。
また、塩を配合せず樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例5では、塩を含まないため、水に浸漬し乾燥させた後も、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加は起こらなかったが、初期インピーダンスが高かった。つまり、比較例5では、初期の導電性の低い生体電極しか得られなかった。
以上のことから、本発明の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した生体電極であれば、導電性、生体適合性、導電性基材に対する接着性に優れ、イオン性材料の保持力に優れるため水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、軽量であり、また低コストで製造できることが明らかとなった。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1、1’…生体電極、 2…導電性基材、 3…生体接触層、
4…イオン性シリコーン材料、 5a…金属粉、 5b…カーボン粉、
6…樹脂、 7…生体、 8…アルミニウム製の円板、 9…銅配線。