JP2019215261A - ダイポールアレイアンテナによる平面状探査対象の方向推定システム及び方法 - Google Patents

ダイポールアレイアンテナによる平面状探査対象の方向推定システム及び方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 探査対象面が坑井の軸心に対向する方向を正確に推定可能な方向推定システムを提供する。【解決手段】ダイポールアレイアンテナ151を構成する円筒状容器152の軸心周りの円周上に配置されたアンテナ素子別に受信した入射電磁波の信号波形を解析し、入射電磁波のアンテナ素子毎の到達時刻を求め、該到達時刻に基づいて、該円周上の周方向の位置と当該位置で入射電磁波を受信したときの到達時刻の関係を正弦関数で近似したときの最も早い到達時刻または最も遅い到達時刻を示す周方向の位置を特定し、入射電磁波の到来方向と坑井Bの軸心Zとが成す入射仰角θが所定の第1入射仰角範囲内にある場合は、最も早い到達時刻を示す周方向の位置を入射方位角として導出し、同入射仰角θが所定の第2入射仰角範囲内にある場合は、最も遅い到達時刻を示す周方向の位置を入射方位角として導出する。【選択図】 図4

Description

本発明は、地中に存在するき裂、断層、境界面等の平面的な広がりを有する探査対象面が地中に掘削された円筒状の坑井の軸心に対して対向する方向を推定する方向推定システム及び方法に関する。
地中に掘削された円筒状の坑井内に電磁波を送受信するためのアンテナを配置し、地中内の亀裂、断層、地下水等の探査対象の位置及び形状を計測可能なボアホールレーダが1970年代以降、国際的に研究開発されている。送受信に使用する電磁波の周波数は10〜400MHz程度で、地中での波長は20cm〜数m程度である。水を含まない岩石、砂や土は電磁気学的には空気に近く、亀裂や断層中へ水が流入すると含水率が高くなり、電磁気学的なコントラストが生じる。即ち、ボアホールレーダでは地中の含水率の空間分布を推定することで、亀裂や断層の位置を推定できることになる。ボアホールレーダでは坑井の形状による制約から、通常、ダイポールアンテナを用いるが、この場合、坑井の周方向で無指向性となる。このため、一本の坑井に送信アンテナ及び受信アンテナを挿入した場合、物体が存在する深度や距離に対する推定に限定されていた。
そこで、複数のダイポールアンテナ素子を、各アンテナ素子の軸が互いに平行になるように、且つ、アンテナ素子の軸に直交する平面上において円環状に配列させたダイポールアレイアンテナが提案されている(下記の非特許文献1及び2参照)。具体的には、地中内に放射され探査対象で反射された電磁波を、ダイポールアレイアンテナで受信すると、電磁波は、ダイポールアレイアンテナの各アンテナ素子において、アンテナ素子の位置に依存した到達時間差をもって受信される。この到達時間差を利用することで、探査対象で反射した電磁波の到来方向の推定が可能になる。
ダイポールアレイアンテナの各アンテナ素子への給電方法としては、同軸給電線とアンテナ素子間の電磁界的な干渉を避けるため光変調器を用いて光給電する方法(下記の非特許文献1参照)と、同軸給電線を適切な長さの導体円柱で覆うことで干渉を避けて同軸給電する方法(下記の特許文献1参照)がある。
電磁波の到来方向の推定に用いる信号処理法としては、各アンテナ素子が均質媒質中にあると仮定して、アンテナ素子が存在する方位角に対し電磁波の到達時刻が周期360°で正弦的に変化することを利用する(下記の特許文献1及び非特許文献3参照)。
特許第5568237号公報
S.Ebihara,"Directional borehole radar with dipole antenna array using optical modulators",IEEE Trans.Geoscience and Remote Sensing,2004年1月,Vol.42,No.1,p.45−58. M.Sato,外1名,"a Novel Directional Borehole Radar System Using Optical Electric Field Sensors",IEEE Trans.Geoscience and Remote Sensing,2007年8月,Vol.45,No.8,p.2529−2535. S.Ebihara,Y.Kimura,T.Shimomura,R.Uchimura,and H.Choshi,"Coaxial‐fed Circular Dipole Array Antenna with Ferrite Loading for Thin Directional Borehole Radar Sonde,"IEEE Trans.Geoscience and Remote Sensing,2015年,vol.53, no.4,pp.1842−1854.
到来する電磁波の波数ベクトル(電磁波の伝搬方向を向くベクトル)が坑井の軸心に対し直交またはほぼ直交する場合、坑井内に挿入したダイポールアレイアンテナを用いて電磁波の到来方向を推定するための技術は確立していると考えてよい。
しかしながら、本願発明者の鋭意研究により、波数ベクトルと坑井の軸心の成す角度が90°またはその近傍の場合の推定に利用する信号処理法では、探査対象が地中に存在する平面的な広がりを有する探査対象面である場合において、波数ベクトルと坑井の軸心の成す角度が0°から180°までの全範囲に亘って、電磁波の到来方向を正確に推定できない場合があり得ることを見出した。
具体的には、上述のように、探査対象面からダイポールアレイアンテナの中心に向けて入射する入射電磁波は、ダイポールアレイアンテナの各アンテナ素子において、アンテナ素子の位置に依存した到達時間差をもって受信されるが、各アンテナ素子間の到達時間差が、電磁波の到来方向を正確に推定できる程度に大きく表れない場合が、入射電磁波の到来方向と坑井の軸心の成す角度として定義される入射仰角θが、特定の入射仰角(θまたは180°−θ:以下、「臨界入射仰角」と称する)に漸近すると生じる。尚、入射仰角θは、波数ベクトルと坑井の軸心の成す角度と同義である。
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、入射電磁波の入射仰角(波数ベクトルと坑井の軸心の成す角度)を考慮して、平面的な広がりを有する探査対象面が坑井の軸心に対して対向する方向を正確に推定可能な方向推定システム及び方法を提供することにある。
本発明では、上記課題を解決するために、地中に存在する平面的な広がりを有する探査対象面が前記地中に掘削された円筒状の坑井の軸心に対して対向する方向を推定する方向推定システムであって、
前記坑井内に挿入して使用するダイポールアレイアンテナと、前記探査対象面から前記坑井内に挿入された前記ダイポールアレイアンテナに入射する入射電磁波の前記軸心周りの入射方位角を、前記探査対象面が対向する方向として導出する入射方位角導出部とを備えてなり、前記ダイポールアレイアンテナが、互いに平行に延伸する3以上の受信用のダイポールアンテナ素子を管状の容器内に備え、前記ダイポールアンテナ素子が、前記容器と同軸の仮想円柱面上に、前記仮想円柱面の周方向に分散して配置され、
前記入射方位角導出部は、
前記坑井内に挿入された前記ダイポールアレイアンテナが、前記探査対象面に向けて放射された電磁波であって、前記探査対象面で反射されて入射した前記入射電磁波を受信すると、前記ダイポールアンテナ素子別に受信された前記入射電磁波の信号波形を解析し、前記入射電磁波の前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻を求め、
前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻に基づいて、前記仮想円柱面の周方向の位置と当該位置で前記入射電磁波を受信したときの到達時刻の関係を正弦関数で近似した場合における最も早い到達時刻または最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を特定し、
前記入射電磁波の到来方向と前記坑井の軸心とが成す入射仰角が、0°から90°の間に存在する第1臨界入射仰角と90°から180°の間に存在する第2臨界入射仰角の間の第1入射仰角範囲内にある場合は、前記最も早い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を、前記入射方位角として導出し、前記入射仰角が、0°から180°の範囲内の前記第1入射仰角範囲外の第2入射仰角範囲内にある場合は、前記最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を、前記入射方位角として導出し、
前記第1及び第2臨界入射仰角は、前記入射仰角を0°から180°の範囲内で変化させた場合に、前記入射電磁波の前記容器の軸心方向と平行な電界成分において前記周方向に変化する電界の大きさを前記周方向に変化しない電界の大きさで除した比で表される電界周方向依存性指数が、−20dB以下で極小値となる前記入射仰角として与えられ、前記第1及び第2臨界入射仰角の和が180°であることを第1の特徴とする方向推定システムを提供する。
更に、本発明では、上記課題を解決するために、地中に存在する平面的な広がりを有する探査対象面が前記地中に掘削された円筒状の坑井の軸心に対して対向する方向を推定する方向推定方法であって、
互いに平行に延伸する3以上の受信用のダイポールアンテナ素子を管状の容器内に備え、前記ダイポールアンテナ素子が、前記容器と同軸の仮想円柱面上に、前記仮想円柱面の周方向に分散して配置されてなるダイポールアレイアンテナを、前記坑井内に挿入する第1の工程と、
前記探査対象面に向けて放射された電磁波であって、前記探査対象面で反射され、前記坑井内に挿入された前記ダイポールアレイアンテナに入射する入射電磁波を受信する第2の工程と、
前記ダイポールアンテナ素子別に受信された前記入射電磁波の信号波形を解析し、前記入射電磁波の前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻を求める第3の工程と、
前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻に基づいて、前記仮想円柱面の周方向の位置と当該位置で前記入射電磁波を受信したときの到達時刻の関係を正弦関数で近似した場合における最も早い到達時刻または最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を特定し、前記探査対象面から前記ダイポールアレイアンテナに入射する前記入射電磁波の前記軸心周りの入射方位角とする第4の工程と、を備え、
前記第4の工程において、前記入射電磁波の到来方向と前記坑井の軸心とが成す入射仰角が、0°から180°の間に存在する第1及び第2臨界入射仰角の間の第1入射仰角範囲内にある場合は、前記最も早い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置に対応する前記入射方位角を、前記探査対象面が前記坑井の軸心に対して対向する方向として導出し、前記入射仰角が0°から180°の範囲内の前記第1入射仰角範囲外の第2入射仰角範囲内にある場合は、前記最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置に対応する前記入射方位角を、前記探査対象面が前記坑井の軸心に対して対向する方向として導出し、
前記第1及び第2臨界入射仰角は、前記入射仰角を0°から180°の範囲内で変化させた場合に、前記入射電磁波の前記容器の軸心方向と平行な電界成分において前記周方向に変化する電界の大きさを前記周方向に変化しない電界の大きさで除した比で表される電界周方向依存性指数が、−20dB以下で極小値となる前記入射仰角として与えられることを第1の特徴とする方向推定方法を提供する。
更に好ましくは、上記第1の特徴の方向推定システムは、前記坑井内に前記ダイポールアレイアンテナと共に挿入された状態で前記探査対象面に向けて電磁波を放射する送信用ダイポールアンテナ素子を備え、前記送信用ダイポールアンテナ素子が、前記ダイポールアレイアンテナから前記坑井の軸心方向に所定距離離間して配置されていることを第2の特徴とする。
更に好ましくは、上記第1の特徴の方向推定方法は、前記第1の工程において、送信用ダイポールアンテナ素子を、前記ダイポールアレイアンテナから前記坑井の軸心方向に所定距離離間させて前記坑井内に挿入し、前記送信用ダイポールアンテナ素子から前記探査対象面に向けて前記電磁波を放射することを第2の特徴とする。
更に好ましくは、上記第2の特徴の方向推定システムは、前記入射方位角導出部が、前記ダイポールアレイアンテナと前記送信用ダイポールアンテナ素子からなる送受信アンテナ部が前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した場合の各位置での前記最も早い到達時刻と前記最も遅い到達時刻の時間差を導出し、
前記坑井の軸心方向の位置の変化に対して前記時間差が所定値以下の極小値となる当該位置を特異位置として特定した場合、その特定した前記特異位置において前記入射仰角が前記第1及び第2臨界入射仰角の何れか一方に一致すると近似的に推定し、前記坑井の軸心方向の前記特異位置を基準として一方側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあり、前記特異位置を基準として他方側において、前記入射仰角が第2入射仰角範囲内にあると判定して、前記入射方位角を導出することを第3の特徴とする。
更に好ましくは、上記第2の特徴の方向推定方法は、前記第1の工程において、前記ダイポールアレイアンテナと前記送信用ダイポールアンテナ素子からなる送受信アンテナ部を、前記坑井内において前記坑井の軸心方向に順次移動させ、
前記第1の工程において、前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動する毎に、前記第2の工程乃至前記第4の工程を順次実行するか、或いは、
前記第1の工程において、前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動する毎に、前記第2の工程と前記第3の工程を順次実行し、前記第1の工程乃至前記第3の工程が終了した後に前記第4の工程を実行し、
前記第4の工程において、前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した各位置での前記最も早い到達時刻と前記最も遅い到達時刻の時間差を導出し、前記坑井の軸心方向の位置の変化に対して前記時間差が所定値以下の極小値となる当該位置を特異位置として特定した場合、その特定した前記特異位置において前記入射仰角が前記第1及び第2臨界入射仰角の何れか一方に一致すると近似的に推定し、前記坑井の軸心方向の前記特異位置を基準として一方側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあり、前記特異位置を基準として他方側において、前記入射仰角が第2入射仰角範囲内にあると判定して、前記入射方位角を導出することを第3の特徴とする。
更に、上記第3の特徴の方向推定システムは、前記入射方位角導出部が、前記送受信アンテナ部が前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した場合の各位置における、前記送信用ダイポールアンテナ素子から前記ダイポールアレイアンテナまでの前記電磁波の伝搬時間を計測し、前記坑井の軸心方向の位置と前記伝搬時間の関係に基づいて、前記探査対象面を含む平面の前記坑井の軸心と直交する平面に対する傾斜角を導出し、
前記傾斜角が前記第1臨界入射仰角より大きい場合において、
前記入射方位角導出部が、
前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定された場合、前記移動範囲内の前記特異位置を基準として、前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側において、前記入射仰角が前記第2入射仰角範囲内にあると判定し、前記交点側と反対側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定し、前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定されない場合、前記移動範囲内の全域において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定することを第4の特徴とする。
更に、上記第3の特徴の方向推定方法は、前記第3の工程において、前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した各位置において前記送信用ダイポールアンテナ素子から前記ダイポールアレイアンテナまでの前記電磁波の伝搬時間を計測し、前記第4の工程の前処理工程として、前記坑井の軸心方向の位置と前記伝搬時間の関係に基づいて、前記探査対象面を含む平面の前記坑井の軸心と直交する平面に対する傾斜角を導出し、
前記傾斜角が前記第1臨界入射仰角より大きい場合、
前記第4の工程において、
前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定された場合、前記移動範囲内の前記特異位置を基準として、前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側において、前記入射仰角が前記第2入射仰角範囲内にあると判定し、前記交点側と反対側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定し、前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定されない場合、前記移動範囲内の全域において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定することを第4の特徴とする。
更に、上記第4の特徴の方向推定システムは、前記ダイポールアレイアンテナが、前記坑井内において、前記送信用ダイポールアンテナ素子より前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側に位置していることを第5の特徴とする。
更に、上記第4の特徴の方向推定方法は、前記第1の工程において、前記ダイポールアレイアンテナを、前記坑井内において、前記送信用ダイポールアンテナ素子より前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側に配置することを第5の特徴とする。
本発明に係る方向推定システムまたは方法によれば、ダイポールアレイアンテナに入射する入射電磁波の到来方向と坑井の軸心とが成す入射仰角が、第1入射仰角範囲内にあるか、或いは、第2入射仰角範囲内にあるかを判定することで、入射仰角に応じた適切な入射方位角の導出が可能となり、入射仰角が0°から180°までの全範囲に亘って、第1及び第2臨界入射仰角の何れか一方と一致またはその近傍にある場合を除き、入射電磁波の坑井の軸心周りの入射方位角を、探査対象面が坑井の軸心に対して対向する方向として、正確に推定できる。
ここで、入射方位角の推定が困難となる第1及び第2臨界入射仰角が生じる原因について、図1及び図2を参照して詳細に説明する。
先ず、図1及び図2について説明する。図1は、4本のダイポールアンテナ素子D1〜D4を備えて構成されたダイポールアレイアンテナが坑井内に挿入されている状態、並びに、ダイポールアンテナ素子D1〜D4、ダイポールアンテナ素子D1〜D4を収容する管状の容器(ベッセル)V、円筒状の坑井B、及び、探査対象面(図示せず)で反射してダイポールアレイアンテナの中心Oに向かって入射する入射電磁波Winの間の位置関係を模式的に示す斜視図であり、図2は、同位置関係を示す、坑井Bの軸心Zに直交し、ダイポールアレイアンテナの中心Oを通過する断面(xy平面)における断面図である。
4本のダイポールアンテナ素子D1〜D4は、夫々の軸心が、坑井の軸心Zから所定距離bだけ離間して軸心Zと平行に、且つ、軸心Zの周方向に90°ずつ離間して配置され、夫々の給電点は、軸心Zに直交する同じxy平面上に位置する。容器Vは円筒状で内径及び外径が2a及び2aであり、坑井Bの内径は2aであり(a<a<a)、容器Vと坑井Bの各軸心は同軸でダイポールアレイアンテナの中心Oを通過している。従って、ダイポールアンテナ素子D1〜D4は、容器Vと同軸の半径bの仮想円柱面上に、該仮想円柱面の周方向に均等に分散して配置されている。
xyz直交座標系を用いて、ダイポールアレイアンテナを含む周囲の空間を表す。ダイポールアレイアンテナの中心Oとダイポールアンテナ素子D1,D3の各給電点を結ぶ直線がx軸(中心Oから素子D1側が+x方向)、ダイポールアレイアンテナの中心Oとダイポールアンテナ素子D2,D4の各給電点を結ぶ直線がy軸(中心Oから素子D2側が+y方向)、坑井Bの軸心Zがz軸となっており、xyz直交座標系の原点は、ダイポールアレイアンテナの中心Oとなっている。以下、xy平面上の原点Oを中心とする任意の半径の円周上の1点と原点Oを結ぶ線分とx軸(+x方向)の成す角度を「方位角φ」と規定する。よって、+x方向の方位角φは0°であり、+y方向の方位角φは90°である。また、「軸心Zの周方向」の位置及び「仮想円柱面の周方向」の位置は、何れも「方位角φ」で特定される。
入射電磁波Winは、平面波であって、電界ベクトルEが、入射電磁波Winの波数ベクトルkと坑井Bの軸心Zを含む平面に含まれ、磁界ベクトルHが、当該平面に垂直な成分のみを有するTM波(Transverse Magnetic Wave)を想定する。図1において、入射電磁波Winの入射仰角θは、入射電磁波Winの到来方向(波数ベクトルkの方向)と坑井Bの軸心Zが成す角度として定義される。入射電磁波Winの坑井Bの軸心Z周りの入射方位角φは、図1及び図2において、入射電磁波Winの波数ベクトルkのxy平面と平行な成分とx軸の成す角度(方位角φ)として定義される。原点Oを通り探査対象面に向くρ軸をxy平面に設定すると、ρ軸とx軸の成す角度(方位角φ)が本発明の推定対象であり、入射方位角φと一致する。図2に、便宜的に探査対象面Fとxy平面の交線Lを破線で付記すると、ρ軸と交線Lは直交する。
次に、第1及び第2臨界入射仰角の定義に用いる電界周方向依存性指数c(θ)(以下、適宜、単に「指数c(θ)」と称す)について説明する。
容器Vの内側に設定したxy平面上の原点Oを中心とする半径ρの円周上における電界Eのz成分E1z(φ)は、以下の数1に示すように、フェーザ表示により級数展開される。数1右辺の電界E1z(φ)のnの成分は、上記円周上で周方向に電界の観測位置を変化させたときに、電界がn回振動する成分を示している。
Figure 2019215261
数1の右辺のn=0の項E1z (0)は、上記円周上で電界強度が入射方位角φに関係なく一定となる成分であり、数1の右辺のn≠0の項exp(−jn(φ−φ))E1z (n)は、上記円周上で電界強度が一定でなく入射方位角φに応じて変動する成分である。指数c(θ)は、下記の数2に示すように、電界E1z(φ)のn≠0の項exp(−jn(φ−φ))E1z (n)でφ=φとしたものの合計の絶対値(電界の大きさ)をn=0の項E1z (0)の絶対値(電界の大きさ)で除した比として定義される。
Figure 2019215261
TM入射する入射電磁波Winの坑井Bの内壁面である円柱境界面上の電磁界のうち、z方向成分の電界E、φ方向成分の電界Eφ、及び、φ方向成分の磁界Hφが坑井B内の電磁界に寄与する。入射電磁波Winは、該円柱境界面上の境界条件(電界E、電界Eφ、磁界Hφ)を介して坑井B内に入り込み、坑井内電界のz成分E1zが発生する。z成分E1zは、数3に示すように、電界E由来のE1z Ezと、電界Eφ由来のE1z Eφと、磁界Hφ由来のE1z Hφに分解できる。
Figure 2019215261
ここで、E1z EzとE1z Eφは相互に逆相である。また、E1z Ezは、θ=90°付近で最大となり、数2の右辺の分子(n≠0)及び分母(n=0)の両成分を有する。一方、E1z Eφは、θ=0°及び180°付近で最大となり、数2の右辺の分子(n≠0)の成分を有する。従って、入射仰角θが0°〜90°の間に、n≠0の成分のE1z EzとE1z Eφが相互に逆相であるため相殺され、E1z EzとE1z Eφの和が0またはほぼ0となる臨界入射仰角θが存在する。更に、θ=θにおいて、n≠0成分のE1z Hφは0またはほぼ0となる。一方、θ=θにおいて、n=0成分のE1z Ezは存在し、|E1z Ez|>0であり、n=0成分のE1z HφはE1z Ezと比較して無視できる程度に小さい。従って、θ=θにおいて、n≠0成分の電界がほぼ無くなり、上記円周上の電界Eのz成分E1z(φ)においてφ方向に変化する電界がほぼ無くなるため、E1z(φ)は上記円周上で殆ど変化せずほぼ一定値となる。
入射仰角θが90°〜180°の間においても、原点Oを通過するxy平面を挟んで上下対称の現象が生じるため、n≠0の成分のE1z EzとE1z Eφが相互に逆相であるため相殺され、E1z EzとE1z Eφの和が0またはほぼ0となる臨界入射仰角(180°−θ)が存在する。更に、θ=180°−θにおいて、n≠0成分のE1z Hφは0またはほぼ0となる。一方、θ=180°−θにおいて、n=0成分のE1z Ezは存在し、|E1z Ez|>0であり、n=0成分のE1z HφはE1z Ezと比較して無視できる程度に小さい。従って、θ=180°−θにおいて、n≠0成分の電界がほぼ無くなり、上記円周上の電界Eのz成分E1z(φ)においてφ方向に変化する電界がほぼ無くなるため、E1z(φ)は上記円周上で殆ど変化せずほぼ一定値となる。以下において、便宜的に、θを第1臨界入射仰角、(180°−θ)を第2臨界入射仰角と称して両者を区別する場合がある。
また、入射仰角θが臨界入射仰角θまたは180°−θに近づくに従い、n≠0の成分のE1z EzとE1z Eφの相殺度合いが大きくなり、n≠0成分の電界は漸近的に0に近づき、数2に示す指数c(θ)も漸近的に0に近づく。従って、臨界入射仰角θ及び180°−θは、指数c(θ)が−20dB以下で極小値となる入射仰角θとして定義することができる。ここで、「−20dB以下」は、n≠0成分の電界が0またはほぼ0ではない場合に、指数c(θ)が極小値となる場合を排除するためのものである。
電界E1z(φ)は、半径ρの円周上のある位置における電界をフェーザ表示したもので、複数周波数で観測された電界E1z(φ)を逆フーリエ変換することで、その位置における電界の時間領域波形が得られる。入射仰角θが臨界入射仰角θまたは180°−θの場合、E1z(φ)は上記円周上で観測位置を変えても振動せずほぼ一定値であるので、これらを逆フーリエ変換して得られる時間領域波形は、上記円周上のどの位置でも同じになる。このことは、半径ρの円周上に分散して配置されたダイポールアンテナ素子で受信される各電磁波の時間領域波形を重ね合わせたときに、時間軸方向にずれがなく、各アンテナ素子間の到達時間差が、電磁波の到来方向を正確に推定できる程度に大きく表れない状態となる。
一方、入射仰角θが臨界入射仰角θまたは180°−θから外れる場合、E1z(φ)は上記円周上で観測位置を変化させると振動するので、これらを逆フーリエ変換して得られる時間領域波形は、上記円周上の観測位置に応じて変化する。このことは、半径ρの円周上に分散して配置されたダイポールアンテナ素子で受信される各電磁波の時間領域波形を重ね合わせたときに、時間軸方向にずれが生じて、各アンテナ素子間の到達時間差を利用して、電磁波の到来方向を正確に推定できるようになる。
次に、図1及び図2に示すモデルを用いて、ダイポールアンテナ素子D1〜D4で受信される入射電磁波の時間領域波形のシミュレーション結果について説明する。ダイポールアレイアンテナの周囲に存在する円筒状境界面からの散乱電磁界を考慮したグリーン関数を用いたモーメント法によってアンテナ特性の解析を行い、入射電磁波を介してダイポールアンテナ素子D1〜D4に誘起される受信電圧を算出することができる。図3(A)に、シミュレーションに使用した入射電磁波の電界強度E(V/m)の時間領域波形を示し、図3(B)に、入射仰角θが20°、40°、60°、80°の4通りにおけるダイポールアンテナ素子D1〜D4に誘起される受信電圧の時間領域波形を重ね合わせて示す。図3(B)全体の縦軸は入射仰角θとなっているが、各入射仰角θでの各アンテナ素子D1〜D4の時間領域波形の縦軸は明示されていないが、正規化された受信電圧である。尚、シミュレーションでは、以下の条件を想定した。入射電磁波の入射方位角φが0°、ダイポールアンテナ素子D1〜D4が、全長2h=10cmで、xy平面上の半径b(=2cm)の円周上に、x軸を基準として周方向に0°、90°、180°、270°の位置に順番に配置され、容器Vの内径2a-=4.7cm、容器Vの外径2a=5.7cm、坑井Bの直径2a=6.7cmである。更に、容器V内部の誘電率ε、容器V壁部の誘電率ε、容器Vの外壁と坑井Bの内壁間の誘電率ε、地中の誘電率εは、夫々順番に、ε、5ε、81ε−j4.1×10−3/ω、29ε−j6.4×10−3/ωである。但し、εは真空誘電率であり、ω=2π×100MHzである。
入射電磁波Winは、平面波のTM波であり、入射方位角φが0°であるので、入射仰角θが90°の場合は、アンテナ素子D1が最初に受信し、次に、アンテナ素子D2及びD4が同時に受信し、最後にアンテナ素子D3が受信する。しかしながら、図3(B)に示すように、入射仰角θが60°と80°のときは、入射仰角θが90°の場合と同様に、アンテナ素子D1、D2とD4、D3の順に入射電磁波が到達しているが、入射仰角θが40°のときは、アンテナ素子D1〜D4に同時に入射電磁波が到達しており、入射仰角θが20°のときは、アンテナ素子D3、D2とD4、D1の順に入射電磁波が到達し、到達順が、入射仰角θが60°と80°のときと逆転している。
入射仰角θが40°のときは、アンテナ素子D1〜D4に同時に入射電磁波が到達していることから、本シミュレーション結果では、臨界入射仰角θが40°であることが分かる。また、入射仰角θを同じ条件で90°〜180°の間で変化させた場合には、臨界入射仰角180°−θが140°となる。ここで、入射仰角θが2つの臨界入射仰角θと180°−θの間の第1入射仰角範囲内(40°〜140°)では、入射電磁波が最初に到達したアンテナ素子D1の上記円周上の位置に対応する角度(0°)が入射方位角φ(0°)と一致する。しかし、入射仰角θが0°から180°までの全範囲における第1入射仰角範囲外の第2入射仰角範囲内(0〜40°、140°〜180°)では、入射電磁波が最初に到達したアンテナ素子D3の上記円周上の位置に対応する角度(180°)ではなく、入射電磁波が最後に到達したアンテナ素子D1の上記円周上の位置に対応する角度(0°)が入射方位角φ(0°)と一致する。
次に、入射仰角θが第2入射仰角範囲内にある場合に、アンテナ素子D1〜D4への入射電磁波の到達順が第1入射仰角範囲内にある場合とは逆転する理由について簡単に説明する。
上記数3で示したE1z EzとE1z Eφの両者のn≠0の成分の存在によって、上記円周上で観測位置を変えると、観測される電界の時間領域波形が変化する。より詳細には、上記円周上で観測位置を変えると、観測される電界の時間領域波形は、波の形がほぼそのままで、時間方向にシフトする。E1z Ezは順方向に到達するようにシフトさせ、E1z Eφは逆方向に到達するようにシフトさせる役割を果たす。ここで、順方向とは、入射電磁波が坑井B内において各アンテナ素子に順番に到達していく方向が、入射電磁波の坑井B外での伝搬方向と一致していることを意味し、逆方向とは、入射電磁波が坑井B内において各アンテナ素子に順番に到達していく方向が、入射電磁波の坑井B外での伝搬方向と逆であることを意味する。このように、E1z EzとE1z Eφが、上記円周上で観測される電界の時間領域波形を互いに逆方向へシフトさせる働きは、E1z EzとE1z Eφが相互に逆相であることに起因する。
従って、入射仰角θが第1入射仰角範囲内で90°に近付くほど、E1z EφよりもE1z Ezの方が大きくなり、E1z Ezが支配的となる。E1z Ezのn≠0の成分は、坑井B内において入射電磁波の時間領域波形が各アンテナ素子へ順方向に到達して到達時間差を生じさせる。一方、入射仰角θが第2入射仰角範囲内で0°または180°に近付くほど、E1z EzよりもE1z Eφの方が大きくなり、E1z Eφが支配的となる。E1z Eφのn≠0の成分は、坑井B内の各アンテナ素子に対して逆方向に到達時間差を生じさせるので、入射仰角θが第2入射仰角範囲内にあると、アンテナ素子D1〜D4への入射電磁波の到達順が第1入射仰角範囲内にある場合とは逆転する。
以上の説明より明らかなように、上記第1乃至第5の特徴の方向推定システムまたは方法によれば、入射仰角が第1入射仰角範囲内と第2入射仰角範囲内の何れ側にあるかに応じて、適切な入射方位角の導出が可能となり、探査対象面が坑井の軸心に対して対向する方向を正確に推定できる。
坑井、坑井内に挿入された4本のダイポールアンテナ素子からなるダイポールアレイアンテナ、入射電磁波等の位置関係を模式的に示す斜視図。 図1に示す位置関係を坑井の軸心に直交し、ダイポールアレイアンテナの中心を通過する断面における断面図。 図1及び図2に示すモデルを用いて、4本のダイポールアンテナ素子で受信される入射電磁波の時間領域波形のシミュレーションに使用した入射電磁波の電界強度の時間領域波形、及び、各アンテナ素子に誘起される受信電圧の時間領域波形を示す図。 本発明の一実施形態に係る方向推定システムの概略の構成例を模式的に示す構成図。 入射仰角とダイポールアレイアンテナの中心との関係を説明する説明図。 フィールド実験の構成に対応した条件で計算した電界周方向依存性指数c(θ)の計算結果の一例を示す図。 図6で想定したフィールド実験で測定した4本の受信アンテナ素子に誘起される受信電圧の時間領域波形を示す図。 入射仰角とダイポールアレイアンテナの給電点の坑井の軸心上の位置との関係の数値計算に使用したモデルを説明する説明図。 入射仰角とダイポールアレイアンテナの給電点の坑井の軸心上の位置との関係を数値計算により求めた結果を示す図。
以下、本発明の実施形態に係る方向推定システム(以下、適宜、「本システム」と称す。)及び方向推定方法(以下、適宜、「本方法」と称す。)について、図面を参照して説明する。
<本システムの概略構成>
図4は、本システム10の概略の構成図である。本システム10は、一例として、一周波数fで利得(振幅)と位相を測定し、この周波数fを掃引することで周波数領域のデータを直接取得するステップ周波数連続波(SFCW)レーダシステムを想定する。本システム10は、入射方位角導出部11、送信用インタフェース部12、受信用インタフェース部13、送信用アンテナ部14、及び、受信用アンテナ部15を備えて構成される。
ここで、本システム10及び本方法の推定対象である地中に存在する探査対象面は、実際は有限の広さであるが、探査用に地中に掘削された有限長の坑井内において探査用の送信アンテナ及び受信アンテナを走査させる限りにおいては、送信アンテナから放射された電磁波が探査対象面で反射され、受信アンテナに到達して受信され得る十分な平面的な広がりを有するものと想定する。また、実際の地中探査では、地中に存在する複数の断片的な断層面は一つの無限平板で近似することが多く、斯かるケースも本システム10及び本方法の推定対象となり得る。よって、本実施形態では、探査対象面は無限平板の表面(平面)の一部として扱う。
入射方位角導出部11は、地中の探査対象面が前記地中に掘削された円筒状の坑井の軸心に対して対向する方向を推定する処理、及び、当該処理に必要な電磁波の送受信に係る処理を行う装置で構成され、本実施形態では、一例として、ベクトルネットワークアナライザ111とパソコン(パーソナルコンピュータ)112を備えて構成される。入射方位角導出部11は、地上において使用され、オペレータの操作に供される。
ベクトルネットワークアナライザ111は、送信用アンテナ部14内に設けられたダイポールアンテナ素子141の給電点に、送信用インタフェース部12及び光ファイバケーブル16を介して、周波数fの正弦波電圧X(複素数)を給電し、受信用アンテナ部15内に設けられたダイポールアレイアンテナ151の各アンテナ素子の給電点における受信電圧Y(複素数)を、受信用インタフェース部13及び光ファイバケーブル16を介して測定し、伝達特性G=Y/X(複素数)を出力可能に構成されている。
送信用インタフェース部12は、ベクトルネットワークアナライザ111が出力した送信波信号を増幅するアンプ121と、アンプ121で増幅された送信波信号を光信号に変換するレーザダイオード等の電気/光変換素子122を備えて構成され、地上に設置される。
送信用アンテナ部14は、円筒状のFRP(繊維強化プラスチック)製ベッセル142内にダイポールアンテナ素子141を備えて構成され、地中に掘削された円筒状の坑井B内に挿入して使用される。送信用アンテナ部14は、送信用インタフェース部12から、光ファイバケーブル16を介して送信された送信波信号(光信号)をフォトダイオード等の光/電気変換素子(図示せず)で受信して電気信号に変換し、アンプ(図示せず)により増幅してダイポールアンテナ素子141の給電点に供給し、ダイポールアンテナ素子141から電磁波を、坑井B内から地中の探査対象面に向けて放射する。
受信用アンテナ部15は、円筒状のFRP製ベッセル152内にダイポールアレイアンテナ151と電気/光変換ユニット153とダイポールアレイアンテナ151の坑井B内の向きを知るための方位計154を備えて構成され、送信用アンテナ部14と共に同一の坑井B内に挿入して使用される。ダイポールアンテナ素子141から探査対象面に向けて放射された電磁波は、当該探査対象面で反射し、ダイポールアレイアンテナ151に向けて伝搬する入射電磁波が、ダイポールアレイアンテナ151を構成する3以上の各ダイポールアンテナ素子により各別に受信される。
本実施形態では、ダイポールアレイアンテナ151は、図1に示した構成と同様に、4本の同じ長さのダイポールアンテナ素子(受信アンテナ素子)で構成され、各受信アンテナ素子は、夫々の軸心が、ベッセル152の軸心から同じ距離だけ離間して該軸心と平行に、且つ、該軸心の周方向に90°ずつ離間して配置されている。各受信アンテナ素子の給電点は、ベッセル152の軸心方向の同位置にあって、夫々特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルの一端に接続され、該同軸ケーブルは、夫々、中心に集められ、円柱状に束ねられて給電線を構成し、当該給電線を介して受信波信号が電気/光変換ユニット153に伝送される。電気/光変換ユニット153は、該受信波信号をアンプにより増幅し、レーザダイオード等の電気/光変換素子により光信号に変換して、これによりS/N比が向上された受信波信号を、光ファイバケーブル16を介して、受信用インタフェース部13に送信する。
受信用アンテナ部15は、上述の電気/光変換ユニット153を設けて、各受信アンテナ素子の給電点と同軸ケーブルの給電線で接続する構成(同軸給電構成)において、当該同軸給電線からなる中心導体柱にフェライトを装荷することで、各受信アンテナ素子と当該中心導体柱との間の干渉の影響を大幅に低減することが可能である。更に、当該干渉の影響を完全に排除する方法として、各受信アンテナ素子の給電点に夫々光変調器を接続し、各光変調器で光信号に変換された受信波信号を、光ファイバケーブル16を介して、受信用インタフェース部13に送信する構成(光給電構成)を採用するのも好ましい実施態様である。
本実施形態では、送信用アンテナ部14のベッセル142と受信用アンテナ部15のベッセル152は、内径及び外径が同じで、夫々の軸心が一致して、当該軸心方向に直列して接続され使用される。送信用アンテナ部14と受信用アンテナ部15が坑井B内に挿入して使用される場合、各ベッセル142,152の軸心と坑井Bの軸心Zは一致し、各軸心は同軸上に整列する。よって、以下の説明では、各ベッセル142,152の軸心と坑井Bの軸心Zは互いに同義に使用する。尚、ダイポールアンテナを用いる一般的なボアホールレーダでは、一般的には、送信用アンテナ部14は受信用アンテナ部15の前方側(坑井B内に挿入する際の挿入方向側)に配置されるが、受信用アンテナ部15を送信用アンテナ部14より前方側に配置してもよい。以下、適宜、送信用アンテナ部14と受信用アンテナ部15を纏めて「送受信アンテナ部」と称す。
受信用インタフェース部13は、ダイポールアレイアンテナ151の各受信アンテナ素子から各別に出力された受信波信号(光信号)を電気信号に変換するフォトダイオード等の光/電気変換素子132と、光/電気変換素子132が出力する受信信号を増幅するアンプ131を備えて構成され、地上に設置される。
光ファイバケーブル16は、送信用アンテナ部14の光/電気変換素子と送信用インタフェース部12の電気/光変換素子122の間で送信波信号(光信号)を伝送する光ファイバと、受信用アンテナ部15の電気/光変換ユニット153内の電気/光変換素子と受信用インタフェース部13の光/電気変換素子132の間でアンテナ素子別の受信波信号(光信号)を各別に伝送する光ファイバとを束ねて構成される。上述のように、送信用アンテナ部14が受信用アンテナ部15の前方側に配置される場合は、送信波信号(光信号)用の光ファイバは、受信用アンテナ部15のベッセル152内を通過する(図示せず)。一方、受信用アンテナ部15が送信用アンテナ部14の前方側に配置される場合は、受信波信号(光信号)を各別に伝送する光ファイバが送信用アンテナ部14のベッセル142内を通過する。
本実施形態では、入射方位角導出部11において、ベクトルネットワークアナライザ111が、送信用インタフェース部12にステップ周波数連続波(SFCW)を出力し、受信用インタフェース部13からダイポールアレイアンテナ151のアンテナ素子別に受信した受信波信号の周波数領域の受信波データを生成し、GPIBインタフェースを介してパソコン112に出力する。
パソコン112は、当該周波数領域の受信波データを取り込み、ケーブル及び電子回路で生じる減衰や遅延時間の補正を行った後、必要に応じてフィルタ処理を行う。このとき、ダイポールアレイアンテナ151の各受信アンテナ素子と同軸給電線間の干渉、或いは、各アンテナ素子間の共振の影響により受信波(入射電磁波)の到来方向の推定が困難な周波数帯域が存在する場合には、当該周波数帯域を通過させず、受信波の到来方向の推定が可能な周波数帯域のみ通過させるフィルタ処理を行う。パソコン112は、更に、上記補正及びフィルタ処理後の周波数領域の受信波データを逆フーリエ変換することで時間領域の受信波形を得る。当該受信波形を受信アンテナ素子毎に解析し、受信アンテナ素子毎の受信波の到達時刻を求めることにより、ダイポールアレイアンテナ151に入射する入射電磁波の坑井Bの軸心Z周りの到来方向(入射方位角)の推定を、後述する要領で正確に行うことが可能になる。
本実施形態では、送信用アンテナ部14のダイポールアンテナ素子141から放射される電磁波は、坑井Bの軸心Z周りの全方位に放射され、その内のある放射方位角で放射された電磁波(放射電磁波)が、探査対象面で反射して、受信用アンテナ部15のダイポールアレイアンテナ151に当該放射方位角と同じ角度の入射方位角φで入射電磁波として入射する。放射電磁波の波数ベクトルと入射電磁波の波数ベクトルと坑井Bの軸心Zを含む平面は、図1及び図2を参照して説明したダイポールアレイアンテナ151の中心Oを通り探査対象面に向くρ軸と坑井Bの軸心Zを含むρz平面と一致する。
<入射方位角の推定処理(1)>
次に、入射方位角導出部11が行う入射方位角φの推定処理の内容について詳細に説明する。本システム10及び本方法は、当該入射方位角φの推定処理に特徴がある。当該推定処理は、大別して、以下の4つの工程を備える。
(1) 送受信アンテナ部を坑井B内に、例えば、軸心Z方向に一定距離ずつ順次移動させ挿入する工程(第1工程)。ここで、ダイポールアレイアンテナ151の中心Oの坑井B内の所定位置(例えば、入口)を基準とした移動位置(該所定位置からの移動距離)が、パソコン112により逐次記録される。以下、便宜的に、中心Oの各移動位置をPr(j=1〜N、但し、Nは移動回数)と称する。
(2) ダイポールアンテナ素子141から探査対象面に向けて電磁波を放射し、ダイポールアレイアンテナ151が、探査対象面で反射され受信用アンテナ部15に向かって伝搬する入射電磁波を受信する工程(第2工程)。ここで、電磁波の放射は、パソコン112の制御下において、ベクトルネットワークアナライザ111、送信用インタフェース部12、及び、送信用アンテナ部14により、上記要領で実行される。また、入射電磁波の受信は、パソコン112の制御下において、ダイポールアレイアンテナ151の各受信アンテナ素子別に、受信用アンテナ部15、受信用インタフェース部13、及び、ベクトルネットワークアナライザ111により、上記要領で実行される。
(3) パソコン112により、受信アンテナ素子別に受信された入射電磁波の信号波形を解析し、入射電磁波の受信アンテナ素子毎の到達時刻を求める工程(第3工程)。ここで、移動位置Prでの受信アンテナ素子毎の到達時刻Tij(i=1〜M:但し、Mは受信アンテナ素子の個数で、3以上(本実施形態ではM=4))は、送信電磁波の時間領域波形における所定の基準位相箇所(例えば、電界強度最大時)の時刻から、受信アンテナ素子別の各時間領域波形における基準位相箇所に対応する位相箇所(例えば、受信電圧最大時)の時刻までの遅延時間として求められる。到達時刻Tijは、移動位置Prとともに、パソコン112により、逐次記録される。
尚、第2及び第3工程は、第1工程において、送受信アンテナ部が順次移動する毎に順番に実行される。
(4) 第3工程で求めた受信アンテナ素子毎の到達時刻Tijと各受信アンテナ素子の軸心Z周りの位置(方位角φi、i=1〜M)に基づいて、移動位置Prでの任意の方位角φに位置する受信アンテナ素子で同じ入射電磁波を受信した場合の到達時刻T(φ)を、最小二乗誤差法により正弦関数で近似する。そして、移動位置Prでの入射仰角θが第1入射仰角範囲内にある場合は、関数T(φ)が最小値となる方位角φminを入射方位角φとして算出し、移動位置Prでの入射仰角θが第2入射仰角範囲内にある場合は、関数T(φ)が最大値となる方位角φmaxを入射方位角φとして算出する(第4工程)。以下、便宜的に、φ=φminとする推定を「順方向推定」と称し、φ=φmaxとする推定を「逆方向推定」と称し、両者を区別する。
尚、第4工程は、送受信アンテナ部が順次移動し終わった後に、つまり、全ての移動位置Prにおいて、第1乃至第3工程が終了した後に纏めて行うのが好ましい。しかし、後述するように、各移動位置Prで、入射仰角θが第1入射仰角範囲内と第2入射仰角範囲内の何れにあるかが予め分かる場合は、送受信アンテナ部が順次移動する都度行ってもよく、各移動位置Prに対する第4工程の実施タイミングは幾つも実施態様が存在する。
ここで、上述のように、第1入射仰角範囲は、2つの臨界入射仰角θと180°−θの間の入射仰角θの範囲であり、第2入射仰角範囲は、0°から180°までの全範囲における第1入射仰角範囲以外の入射仰角θの範囲(0°からθまでの間と180°−θから180°までの間)である。
上記第1乃至第4工程におけるパソコン112が実行する処理内容は、パソコン112内の所定の記憶領域に予め格納されている入射方位角φの推定処理用のコンピュータプログラムを、パソコン112内のCPU(中央演算処理装置)が逐次読み出して実行することで実施される。
次に、入射仰角θ(入射電磁波の到来方向と坑井Bの軸心Zが成す角度)と移動位置Pr(ダイポールアレイアンテナ151の中心O)の関係について、図5を参照して説明する。図5は、探査対象面Fと軸心Zの交点Oを通り入射方位角φに向くρ軸とz軸(坑井Bの軸心Z)を含むρz平面内におけるダイポールアンテナ素子141の中心Pt、ダイポールアレイアンテナ151の中心Pr、及び、探査対象面Fの位置関係を示す。図5に示すρ軸と、図1に示すダイポールアレイアンテナの中心O(Pr)を通り探査対象面Fに向くρ軸は互いに平行であり、両図のρz平面は同じである。探査対象面Fとρz平面は直交している。尚、z軸の原点は、坑井Bの軸心Z上の任意の点に設定できるが、図5では、一例として、探査対象面Fと軸心Zの交点Oをz=0として図示している。また、図5では、ダイポールアンテナ素子141がダイポールアレイアンテナ151の下側に配置され、PtとPrが距離dだけ離間している場合を想定する。
ダイポールアンテナ素子141から放射された放射電磁波(波数ベクトルkt)は、探査対象面F上の反射点Rにおいて反射(鏡面反射)して、入射電磁波(波数ベクトルkr)としてダイポールアレイアンテナ151の中心Prに到達する。z軸と線分Pr−Rの成す角度が、移動位置Prに対応する入射仰角θとなる。
受信アンテナ素子毎の到達時刻Tijの受信アンテナ素子間の平均値Ta(PtからRを経由してPrに至る伝搬時間)と電磁波の伝播速度vの積(Ta・v)からPtからRを経由してPrに至る全長Lが計算できる。ここで、送受信アンテナ部を1ステップだけ軸心Z方向に移動させると、移動位置PrはPrj+1に変化し、z座標値がΔzだけ変化し、同様に、全長LはLj+1(=L+ΔL)に変化する。移動位置Prに対応する反射点Rの軸心Zからの距離ρr(反射点Rから軸心Zに下した垂線の長さ)及び入射仰角θは、これらの値及びその変化から計算することができる。
更に、送受信アンテナ部をN回移動させて得られたN個の反射点Rの座標値(ρ,z)を線形近似して得られた直線(図5では、探査対象面Fに一致している)とρ軸のρz平面内で成す角度が、探査対象面Fの傾斜角δとして計算できる。
上記「発明の効果」の欄で説明したように、臨界入射仰角θまたは(180°−θ)は、電界周方向依存性指数c(θ)が−20dB以下で極小値となる入射仰角θとして定義することができる。上記数1に示す電界E1z(φ)は、実際に送受信アンテナ部を挿入する坑井Bの周囲及び内部の状態を、坑井Bの掘削時にボーリングコア(掘削屑)の採取や孔壁の写真撮影等によって取得し、坑井Bの内径、FRP製ベッセル152の内径及び外径等の既知の情報とともに、図1及び図2に示すモデルに対して計算に必要な条件(境界条件等)を設定することで、例えば、円柱関数を用いた解析解をパソコンで計算できる。よって、上記数2に示す指数c(θ)により定義される臨界入射仰角θまたは(180°−θ)は、理論的に計算可能であり、一般的なパソコンを用いて数秒程度で計算できる。従って、上記第1乃至第4工程を実施する前に臨界入射仰角θまたは(180°−θ)を予め計算しておくことができる。以下、便宜的に、理論計算により臨界入射仰角θまたは(180°−θ)の導出する手法を「理論計算法」と称する。
従って、例えば、上記第3工程において、到達時刻Tijの計算に加えて、1ステップ前の移動位置Prj−1における入射仰角θを上記要領で計算すれば、予め計算しておいた臨界入射仰角θまたは(180°−θ)に基づいて、上記第4工程において、1ステップ前の該入射仰角θが、第1入射仰角範囲と第2入射仰角範囲の内の何れの範囲内にあるかを特定でき、該入射仰角θに応じて選択される「順方向推定」と「逆方向推定」の何れか一方により、入射方位角φを適切に推定することができる。
<入射方位角の推定処理(2)>
次に、上述の入射方位角φの推定処理の変形例について説明する。
上記説明では、上記第4工程において、予め理論計算により得られた臨界入射仰角θまたは(180°−θ)を使用する場合を想定した。しかしながら、上記「発明の効果」の欄において、図3(B)を参照して説明したように、入射仰角θが臨界入射仰角θまたは(180°−θ)である場合は、各受信アンテナ素子の到達時刻Tijの間の時間差は0(またはほぼ0)になることから、臨界入射仰角θまたは(180°−θ)を、「理論計算法」により導出せずに、上記第4工程において、同工程において各移動位置Prに対して導出した関数T(φ)の最大値(最大到達時刻Tmax)と最小値(最小到達時刻Tmin)の差(最大到達時間差2τ、2τ=Tmax−Tmin)を計算し、送受信アンテナ部の全移動範囲内において、最大到達時間差2τが所定値(例えば、0.1〜0.5nsの範囲内で選択される値、一例として、0.2ns)以下で極小値となる移動位置Prが存在する場合は、当該Prを特異位置Pとし、当該特異位置Pに対応する入射仰角θを臨界入射仰角θまたは(180°−θ)として特定することもできる。以下、便宜的に、最大到達時間差2τに基づく臨界入射仰角θまたは(180°−θ)の導出手法を「時間差法」と称する。
ここで、「時間差法」において、最大到達時間差2τが所定値以下で極小値となる特異位置Pを探索するための計算上の処理として、移動位置Prを変化させる場合、当該変化の方向は、上記第1工程において送受信アンテナ部を坑井B内において軸心Z方向に順次移動させる方向、つまり、物理的な移動処理の方向と同方向または逆方向の何れであっても構わない。
ここで、「理論計算法」で導出した臨界入射仰角θまたは(180°−θ)と、フィールド実験において「時間差法」で導出した臨界入射仰角θまたは(180°−θ)が精度良く一致することを、図6及び図7を参照して説明する。
フィールド実験は、地中に2本の坑井Bを、各軸心を1m離間させて掘削し、一方に、送信用アンテナ部14を挿入して所定の深さに位置を固定し、他方に、受信用アンテナ部15を挿入し、ダイポールアンテナ素子141から放射された電磁波が、ダイポールアレイアンテナ151で直接受信される構成とし、ダイポールアレイアンテナ151の移動位置Prでの入射仰角θが正確に算出できるようにした。
図6は、当該フィールド実験の構成に対応した諸条件で計算した電界周方向依存性指数c(θ)の計算結果を、横軸が入射仰角θ、縦軸が指数c(θ)のグラフ上にプロットした図である。図6より、「理論計算法」で導出した臨界入射仰角θが29°と30°の間に存在することが分かる。
図7は、送信用アンテナ部14を他方側の坑井B内において軸心Z方向に順次移動して、各移動位置Prでの4本の受信アンテナ素子(D1〜D4)に誘起される受信電圧の時間領域波形を測定した結果を示す。図7(A)は、16箇所の移動位置Prでの各受信アンテナ素子の受信電圧波形を重ね合わせて表示したもので、図7(B)は、その内の3箇所(z=0cm、−180cm、−280cm)の移動位置Prでの各受信アンテナ素子の受信電圧波形を重ね合わせて表示したものの要部を拡大した図である。尚、z=0cmは、ダイポールアンテナ素子141の給電点の深さに等しく、z=0cm、−180cm、−280cmに対応する入射仰角θは、90°、29°、20°である。従って、図7(B)より、z=−180cm(入射仰角θ=29°)において、4本の受信アンテナ素子の受信電圧波形が重なり合っており、「時間差法」での最大到達時間差2τがほぼ0nsとなっており、「理論計算法」で導出した臨界入射仰角θと精度良く一致していることが確認できる。図7(A)及び(B)の夫々の全体の縦軸は移動位置Prのz座標となっているが、各移動位置Prの各アンテナ素子D1〜D4の時間領域波形の縦軸は明示されていないが、正規化された受信電圧である。
上記「時間差法」では、送受信アンテナ部の全移動範囲内において、特異位置Pとなる移動位置Prが存在する場合は、送受信アンテナ部を坑井B内において軸心Z方向に順次移動させて、当該特異位置Pに至るまでが、入射仰角θが第1入射仰角範囲または第2入射仰角範囲の何れか一方側にあり、上記特異位置Pを超えてからが、入射仰角θが第1入射仰角範囲内または第2入射仰角範囲内の何れか他方側にあることになる。
一方、送受信アンテナ部の全移動範囲内において、特異位置Pとなる移動位置Prが存在しない場合は、送受信アンテナ部の全移動範囲内では、入射仰角θは、常時、第1入射仰角範囲内または第2入射仰角範囲内の何れか一方側にあることになる。
従って、送受信アンテナ部を坑井B内において軸心Z方向に順次移動させる開始地点において、入射仰角θが第1入射仰角範囲内と第2入射仰角範囲の何れの側にあるかが予め想定できれば、臨界入射仰角θまたは(180°−θ)を「理論計算法」により予め計算すること、及び、上記第3工程において移動位置Prでの入射仰角θを逐次計算することを省略して、任意の移動位置Prにおいて、上記「時間差法」により、特異位置Pに到達したか否かのみを判定することで、「順方向推定」と「逆方向推定」の何れに基づいて入射方位角φを推定すべきかを決定できる。
次に、図8に示すモデルにおいて、送信用アンテナ部14が受信用アンテナ部15の前方側(坑井B内に挿入する際の挿入方向側)に配置される第1配置構成と、その逆の第2配置構成の両方について、送受信アンテナ部が、地中内の坑井Bの軸心Zと探査対象面Fとの交点Oより上側(坑井Bの入口側)を移動するケースAと下側を移動するケースBの2つのケースに対し、入射仰角θとダイポールアレイアンテナの給電点の軸心Z上の位置との関係を数値計算により求めた結果を、図9に示す。
通常は、計測対象とする断層等の探査対象面Fに地中にて貫通するように坑井Bを掘削し、ボーリングコア(掘削屑)の採取や孔壁の写真撮影(ボアホールスキャナー)等により探査対象面に関する情報を取得し、その後、本システムのようなボアホールレーダを用いて坑井Bから離れたところの情報を取得する。このため、殆どの場合、探査対象面Fと坑井Bは地中で交差する。従って、通常は、送受信アンテナ部は坑井B内において交点Oより上側を移動させて測定を行う(ケースA)。しかし、図8に示すモデルでは、坑井Bを交点Oより下側に更に延伸させて、送受信アンテナ部が坑井B内において交点Oより下側を移動させて測定を行うケースBを追加して、入射仰角θの議論の一般化を図っている。尚、ケースBは、地表面が交点Oより下側にあるケースも含んでいる。
図8において、z軸は坑井Bの軸心Zであり、z軸の原点(z=0)は交点Oであり、ρ軸は交点Oを通り探査対象面Fに向く軸であり、探査対象面Fはρz平面に直交している。+z方向は、交点Oを基準に上向き方向(坑井Bの入口方向)である。P1(z=z1)は、ケースA及びBの何れの場合も、上側に配置されるアンテナ素子の給電点、つまり、第1配置構成におけるダイポールアレイアンテナ151の中心(給電点)、または、第2配置構成におけるダイポールアンテナ素子141の中心(給電点)を示し、P2(z=z2)は、ケースA及びBの何れの場合も、下側に配置されるアンテナ素子の給電点、つまり、第1配置構成におけるダイポールアンテナ素子141の中心(給電点)、または、第2配置構成におけるダイポールアレイアンテナ151の中心(給電点)を示し、z1>z2であり、z1−z2=dである。Rは、P1またはP2の一方から放射された電磁波が、探査対象面Fで鏡面反射してP1またはP2の他方に入射するときの探査対象面F上の反射点である。δは探査対象面Fの傾斜角であり、ρz平面上で探査対象面Fとρ軸の成す角度であり、0°<δ<90°である。
入射仰角θは、ケースA及びBの何れの場合も、第1配置構成では、z軸と線分P1‐Rの成す角度θ1となり、第2配置構成では、z軸と線分P2‐Rの成す角度θ2となる。
図9は、第1臨界入射仰角θと第2臨界入射仰角(180°−θ)が30°と150°で、探査対象面Fの傾斜角δが70°であり(δ>θ)、d=1.36mの場合について、上側に配置されるアンテナ素子の給電点の位置P1(z=z1)と入射仰角θ(θ1またはθ2)の間の関係を数値計算によって求めた結果をプロットしたグラフであり、縦軸は、入射仰角θ(θ1またはθ2)を示し、横軸は、位置P1のz座標(z1)を示している。
ケースAはz1≧dとなる範囲で、ケースBはz1≦0となる範囲であり、0<z1<dの範囲では、送受信アンテナ間に探査対象面Fが存在するため解を求めることができず、実際の計測においても情報の取得が困難な範囲である。また、図9中、第1配置構成での入射仰角θ(=θ1)を実線で示し、第2配置構成での入射仰角θ(=θ2)を破線で示している。
図9に示すように、ケースAでは、位置P1が+z方向に移動すると、第1及び第2配置構成の何れにおいても、入射仰角θ(θ1またはθ2)は(180°−δ)に漸近する(図9中の一点鎖線参照)。この際θ1は単調減少し、θ2は単調増加する。一方、ケースBでは、位置P1が−z方向に移動すると、第1及び第2配置構成の何れにおいても、入射仰角θ(θ1またはθ2)はδに漸近する(図9中の一点鎖線参照)。この際θ1は単調減少し、θ2は単調増加する。
また、ケースAにおいて位置P1がz1=dとなる位置(つまり、位置P2が交点O上)にある場合、第1配置構成では、入射仰角θ(=θ1)は上限値の180°となり、第2配置構成では、入射仰角θ(=θ2)は下限値の(180°−2δ)となる。一方、ケースBにおいて位置P1がz1=0となる位置(つまり、交点O上)にある場合、第1配置構成では、入射仰角θ(=θ1)は上限値の2δとなり、第2配置構成では、入射仰角θ(=θ2)は下限値の0°となる。尚、位置P1がz1=0またはdの場合は、その近傍にある場合も含めて、入射仰角θは計算上求まるが、実際の計測においては情報の取得が困難な範囲内である。
図9に示す一例(θ=30°、δ=70°)では、ケースAであって第1配置構成の場合、入射仰角θ(=θ1)が第2臨界入射仰角(180°−θ)と一致する位置P1(z1=z1)が、上記特異位置Pとして存在し、z1>z1では、入射仰角θ(=θ1)は第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択され、d≦z1<z1では、入射仰角θ(=θ1)は第2入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「逆方向推定」が選択される。
更に、ケースAであって第2配置構成の場合、入射仰角θ(=θ2)が第1臨界入射仰角θと一致する位置P1(z1=z1)が、上記特異位置Pとして存在せず、入射仰角θ(=θ2)は常時第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される。
更に、ケースBであって第1配置構成の場合、入射仰角θ(=θ1)が第2臨界入射仰角(180°−θ)と一致する位置P1(z1=z1)が、上記特異位置Pとして存在せず、入射仰角θ(=θ1)は常時第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される。
更に、ケースBであって第2配置構成の場合、入射仰角θ(=θ2)が第1臨界入射仰角θと一致する位置P1(z1=z1)が、上記特異位置Pとして存在し、z1<z1≦0では、入射仰角θ(=θ2)は第2入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「逆方向推定」が選択され、z1<z1では、入射仰角θ(=θ2)は第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される。
次に、図9に示す一例(θ=30°、δ=70°)を更に一般化させ、任意の第1臨界入射仰角θ(0<θ<90°)と任意の探査対象面Fの傾斜角δ(0°<δ<90°)の間の関係について検討する。但し、以下の理由から、δ>θの場合を想定する。つまり、本システムのようなボアホールレーダでは、傾斜角δが例えば20°以下のように、坑井Bの軸心Zに対して直交か、直交に近いような探査対象面Fは、現実には計測の対象とはならないからである。これは、坑井B内におけるダイポールアンテナの仰角方向の指向性により、坑井Bの軸心Zに平行に近い方向へ大きなパワーの電磁波を放射することが困難であり、更に、同方向からの電磁波を受信する感度が十分に高くないという理由による。
尚、傾斜角δは、上述の要領で上記第4工程の前処理として事前に計算して取得できる。また、傾斜角δの計算過程で、坑井Bの軸心Zと探査対象面Fとの交点Oが地中内にあることが確認できた場合は、送受信アンテナ部の坑井B内での移動範囲がケースAかケースBかは事前に決定される。また、交点Oが地上にある場合(但し、交点Oは、探査対象面Fを地上にまで延長させた場合の探査対象面Fを含む平面と、坑井Bの軸心Zを地上にまで延伸させた場合との交点である)は、送受信アンテナ部の坑井B内での移動範囲はケースBとなる。
ケースAであって第1配置構成の場合、δ>θであれば、入射仰角θ(=θ1)が下限値(180°−δ)と上限値180°の間を変化する際に、必ず第2臨界入射仰角(180°−θ)を通過する。つまり、(180°−θ)>(180°−δ)。よって、上述の図9に示す一例(θ=30°、δ=70°)と同様の扱いとなり、z1>z1では、入射仰角θ(=θ1)は第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択され、d≦z1<z1では、入射仰角θ(=θ1)は第2入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「逆方向推定」が選択される。
ケースAであって第2配置構成の場合、入射仰角θ(=θ2)の下限値(180°−2δ)と第1臨界入射仰角θの大小関係が問題となる。(180°−2δ)>θの場合は、入射仰角θ(=θ2)が下限値(180°−2δ)と上限値(180°−δ)の間を変化する際に、第1臨界入射仰角θを通過しないため、図9に示す一例(θ=30°、δ=70°)と同様、入射仰角θ(=θ2)は常時第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される。
一方、(180°−2δ)<θの場合は、入射仰角θ(=θ2)が下限値(180°−2δ)と上限値(180°−δ)の間を変化する際に、第1臨界入射仰角θを通過する。よって、入射仰角θ(=θ2)が第1臨界入射仰角θと一致する位置P1(z1=z1)が、上記特異位置Pとして存在し、z1>z1では、入射仰角θ(=θ2)は第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択され、d≦z1<z1では、入射仰角θ(=θ2)は第2入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「逆方向推定」が選択される。よって、上述のケースAであって第1配置構成の場合と同様の扱いとなる。
ケースBであって第1配置構成の場合、入射仰角θ(=θ1)の上限値2δと第2臨界入射仰角(180°−θ)の大小関係が問題となる。2δ<(180°−θ)の場合は、入射仰角θ(=θ1)が下限値δと上限値2δの間を変化する際に、第2臨界入射仰角(180°−θ)を通過しないため、図9に示す一例(θ=30°、δ=70°)と同様、入射仰角θ(=θ1)は常時第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される。
一方、2δ>(180°−θ)の場合は、入射仰角θ(=θ1)が下限値δと上限値2δの間を変化する際に、第2臨界入射仰角(180°−θ)を通過する。よって、入射仰角θ(=θ1)が第2臨界入射仰角(180°−θ)と一致する位置P1(z1=z1)が、上記特異位置Pとして存在し、z1>z1では、入射仰角θ(=θ2)は第2入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「逆方向推定」が選択され、z1<z1では、入射仰角θ(=θ1)は第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される。よって、後述のケースBであって第2配置構成の場合と同様の扱いとなる。
ケースBであって第2配置構成の場合、δ>θであれば、入射仰角θ(=θ2)が下限値0°と上限値δの間を変化する際に、必ず第1臨界入射仰角θを通過する。よって、上述の図9に示す一例(θ=30°、δ=70°)と同様の扱いとなり、z1<z1≦0では、入射仰角θ(=θ2)は第2入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「逆方向推定」が選択され、z1<z1では、入射仰角θ(=θ2)は第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される。
ここで注目すべき点として、ケースAであって第2配置構成の場合で、(180°−2δ)>θの場合に、入射仰角θ(=θ2)が常時第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される点である。この場合、無条件に上記第4工程で「順方向推定」を利用できるため、入射方位角φの推定処理のアルゴリズムの簡易化が図れる点で好ましく、更に、入射仰角θ(=θ2)が90°を挟んで変化するため、坑井B内におけるダイポールアンテナの仰角方向の指向性に関し、ダイポールアレイアンテナ151の受信感度の高い入射仰角θの範囲を利用できる点で好ましい。
同様に注目すべき点として、ケースBであって第1配置構成の場合で、2δ<(180°−θ)の場合に、入射仰角θ(=θ1)が常時第1入射仰角範囲内にあり、上記第4工程で「順方向推定」が選択される点である。この場合、無条件に上記第4工程で「順方向推定」を利用できるため、入射方位角φの推定処理のアルゴリズムの簡易化が図れる点で好ましく、更に、入射仰角θ(=θ1)が90°を挟んで変化するため、坑井B内におけるダイポールアンテナの仰角方向の指向性に関し、ダイポールアレイアンテナ151の受信感度の高い入射仰角θの範囲を利用できる点で好ましい。
以上、注目すべき2つのケース、つまり、ケースAであって第2配置構成の場合とケースBであって第1配置構成の場合は、何れも、受信用アンテナ部15が送信用アンテナ部14より交点Oに近い側に配置されている点で共通している。
以上、δ>θの場合を想定して、第1臨界入射仰角θと傾斜角δの間の関係について検討したが、δ<θの場合は、ケースAであって第1配置構成の場合は、入射仰角θ(=θ1)の下限値(180°−δ)が第2臨界入射仰角(180°−θ)より大きくなり、ケースAであって第2配置構成の場合は、入射仰角θ(=θ2)の上限値(180°−δ)が第2臨界入射仰角(180°−θ)より大きくなり、ケースBであって第1配置構成の場合は、入射仰角θ(=θ1)の下限値δが第1臨界入射仰角θより小さくなり、ケースBであって第2配置構成の場合は、入射仰角θ(=θ2)の上限値δが第1臨界入射仰角θより小さくなる点で、δ>θの場合と相違するので、当該相違点を考慮して、入射仰角θ(θ1またはθ2)が第1入射仰角範囲内または第2入射仰角範囲内の何れに属するかを判断すればよい。
[別実施形態]
次に、上記実施形態の変形例(別実施形態)について説明する。
〈1〉上記実施形態では、本システム10は、ベクトルネットワークアナライザ111が発生したステップ周波数連続波をダイポールアレイアンテナ151が受信し、ベクトルネットワークアナライザ111により得られる周波数領域の受信波データをパソコン112が解析して、ダイポールアレイアンテナ151に入射する入射電磁波の坑井Bの軸心Z周りの到来方向(入射方位角)の推定する構成を想定したが、所定の周波数特性を持つ送信パルスをダイポールアンテナ素子141から放射し、探査対象面で反射された入射電磁波をダイポールアレイアンテナ151が受信し、パソコン112が受信した時間領域波形を解析することにより入射電磁波の到来方向の推定を行うシステム構成としても良い。この場合、入射方位角導出部11は、必ずしもベクトルネットワークアナライザ111を備えている必要はなく、ベクトルネットワークアナライザ111に代えて、上記送信パルスを発生するパルス発生器と、入射電磁波のダイポールアレイアンテナ151の各受信アンテナ素子での受信電圧の時間領域波形を測定可能なオシロスコープ等の測定器を備えて構成することができる。
〈2〉上記実施形態では、送信用アンテナ部14と受信用アンテナ部15を、ダイポールアンテナ素子141の給電点とダイポールアレイアンテナ151の給電点の間の距離を一定に維持して、1つの坑井B内に挿入して使用する場合を想定したが、送信用アンテナ部14と受信用アンテナ部15の一方の坑井B内での深さを固定し、他方を坑井B内で軸心方向に移動させる実施態様としてもよい。この場合、例えば、長短2本の坑井Bを掘削して、短い側の坑井Bに送信用アンテナ部14を所定の深さで挿入し、長い側の坑井Bに受信用アンテナ部15を挿入して、長い側の坑井Bの軸心Z方向に移動させて入射電磁波を都度受信する構成としてもよい。
〈3〉上記実施形態では、入射方位角導出部11が汎用のパソコン112を備え、内蔵された入射方位角φの推定処理用のコンピュータプログラムを実行することで、上記第1乃至第4工程におけるパソコン112が実行する処理内容が実施される態様を説明したが、同じ処理内容を汎用のパソコン112に代えて専用のハードウェアで実施するようにしてもよい。
本発明の方向推定システム及び方法は、地中に存在するき裂、断層、境界面等の平面的な広がりを有する探査対象面が地中に掘削された円筒状の坑井の軸心に対して対向する方向を推定する処理に利用できる。
10 : 方向推定システム
11 : 入射方位角導出部
111 : ベクトルネットワークアナライザ
112 : パソコン
12 : 送信用インタフェース部
121 : アンプ
122 : 電気/光変換素子
13 : 受信用インタフェース部
131 : アンプ
132 : 光/電気変換素子
14 : 送信用アンテナ部
141 : ダイポールアンテナ素子
142 : ベッセル
15 : 受信用アンテナ部
151 : ダイポールアレイアンテナ
152 : ベッセル
153 : 電気/光変換ユニット
154 : 方位計
16 : 光ファイバケーブル
B : 坑井
D1〜D4 : ダイポールアンテナ素子
F : 探査対象面
R : 反射点
V : 容器(ベッセル)
Win : 入射電磁波
Z : 坑井の軸心

Claims (10)

  1. 地中に存在する平面的な広がりを有する探査対象面が前記地中に掘削された円筒状の坑井の軸心に対して対向する方向を推定する方向推定システムであって、
    前記坑井内に挿入して使用するダイポールアレイアンテナと、
    前記探査対象面から前記坑井内に挿入された前記ダイポールアレイアンテナに入射する入射電磁波の前記軸心周りの入射方位角を、前記探査対象面が対向する方向として導出する入射方位角導出部とを備えてなり、
    前記ダイポールアレイアンテナが、互いに平行に延伸する3以上の受信用のダイポールアンテナ素子を管状の容器内に備え、
    前記ダイポールアンテナ素子が、前記容器と同軸の仮想円柱面上に、前記仮想円柱面の周方向に分散して配置され、
    前記入射方位角導出部は、
    前記坑井内に挿入された前記ダイポールアレイアンテナが、前記探査対象面に向けて放射された電磁波であって、前記探査対象面で反射されて入射した前記入射電磁波を受信すると、前記ダイポールアンテナ素子別に受信された前記入射電磁波の信号波形を解析し、前記入射電磁波の前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻を求め、
    前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻に基づいて、前記仮想円柱面の周方向の位置と当該位置で前記入射電磁波を受信したときの到達時刻の関係を正弦関数で近似した場合における最も早い到達時刻または最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を特定し、
    前記入射電磁波の到来方向と前記坑井の軸心とが成す入射仰角が、0°から90°の間に存在する第1臨界入射仰角と90°から180°の間に存在する第2臨界入射仰角の間の第1入射仰角範囲内にある場合は、前記最も早い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を、前記入射方位角として導出し、
    前記入射仰角が、0°から180°の範囲内の前記第1入射仰角範囲外の第2入射仰角範囲内にある場合は、前記最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を、前記入射方位角として導出し、
    前記第1及び第2臨界入射仰角は、前記入射仰角を0°から180°の範囲内で変化させた場合に、前記入射電磁波の前記容器の軸心方向と平行な電界成分において前記周方向に変化する電界の大きさを前記周方向に変化しない電界の大きさで除した比で表される電界周方向依存性指数が、−20dB以下で極小値となる前記入射仰角として与えられ、前記第1及び第2臨界入射仰角の和が180°であることを特徴とする方向推定システム。
  2. 前記坑井内に前記ダイポールアレイアンテナと共に挿入された状態で前記探査対象面に向けて電磁波を放射する送信用ダイポールアンテナ素子を備え、
    前記送信用ダイポールアンテナ素子は、前記ダイポールアレイアンテナから前記坑井の軸心方向に所定距離離間して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方向推定システム。
  3. 前記入射方位角導出部は、前記ダイポールアレイアンテナと前記送信用ダイポールアンテナ素子からなる送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した場合の各位置での前記最も早い到達時刻と前記最も遅い到達時刻の時間差を導出し、
    前記坑井の軸心方向の位置の変化に対して前記時間差が所定値以下の極小値となる当該位置を特異位置として特定した場合、その特定した前記特異位置において前記入射仰角が前記第1及び第2臨界入射仰角の何れか一方に一致すると近似的に推定し、前記坑井の軸心方向の前記特異位置を基準として一方側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあり、前記特異位置を基準として他方側において、前記入射仰角が第2入射仰角範囲内にあると判定して、前記入射方位角を導出することを特徴とする請求項2に記載の方向推定システム。
  4. 前記入射方位角導出部は、
    前記送受信アンテナ部が前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した場合の各位置における、前記送信用ダイポールアンテナ素子から前記ダイポールアレイアンテナまでの前記電磁波の伝搬時間を計測し、前記坑井の軸心方向の位置と前記伝搬時間の関係に基づいて、前記探査対象面を含む平面の前記坑井の軸心と直交する平面に対する傾斜角を導出し、
    前記傾斜角が前記第1臨界入射仰角より大きい場合において、
    前記入射方位角導出部は、
    前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定された場合、前記移動範囲内の前記特異位置を基準として、前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側において、前記入射仰角が前記第2入射仰角範囲内にあると判定し、前記交点側と反対側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定し、
    前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定されない場合、前記移動範囲内の全域において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定することを特徴とする請求項3に記載の方向推定システム。
  5. 前記ダイポールアレイアンテナが、前記坑井内において、前記送信用ダイポールアンテナ素子より前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側に位置していることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の方向推定システム。
  6. 地中に存在する平面的な広がりを有する探査対象面が前記地中に掘削された円筒状の坑井の軸心に対して対向する方向を推定する方向推定方法であって、
    互いに平行に延伸する3以上の受信用のダイポールアンテナ素子を管状の容器内に備え、前記ダイポールアンテナ素子が、前記容器と同軸の仮想円柱面上に、前記仮想円柱面の周方向に分散して配置されてなるダイポールアレイアンテナを、前記坑井内に挿入する第1の工程と、
    前記探査対象面に向けて放射された電磁波であって、前記探査対象面で反射され、前記坑井内に挿入された前記ダイポールアレイアンテナに入射する入射電磁波を受信する第2の工程と、
    前記ダイポールアンテナ素子別に受信された前記入射電磁波の信号波形を解析し、前記入射電磁波の前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻を求める第3の工程と、
    前記ダイポールアンテナ素子毎の到達時刻に基づいて、前記仮想円柱面の周方向の位置と当該位置で前記入射電磁波を受信したときの到達時刻の関係を正弦関数で近似した場合における最も早い到達時刻または最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置を特定し、前記探査対象面から前記ダイポールアレイアンテナに入射する前記入射電磁波の前記軸心周りの入射方位角とする第4の工程と、を備え、
    前記第4の工程において、
    前記入射電磁波の到来方向と前記坑井の軸心とが成す入射仰角が、0°から90°の間に存在する第1臨界入射仰角と90°から180°の間に存在する第2臨界入射仰角の間の第1入射仰角範囲内にある場合は、前記最も早い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置に対応する前記入射方位角を、前記探査対象面が前記坑井の軸心に対して対向する方向として導出し、
    前記入射仰角が、0°から180°の範囲内の前記第1入射仰角範囲外の第2入射仰角範囲内にある場合は、前記最も遅い到達時刻を示す前記仮想円柱面の周方向の位置に対応する前記入射方位角を、前記探査対象面が前記坑井の軸心に対して対向する方向として導出し、
    前記第1及び第2臨界入射仰角は、前記入射仰角を0°から180°の範囲内で変化させた場合に、前記入射電磁波の前記容器の軸心方向と平行な電界成分において前記周方向に変化する電界の大きさを前記周方向に変化しない電界の大きさで除した比で表される電界周方向依存性指数が、−20dB以下で極小値となる前記入射仰角として与えられ、前記第1及び第2臨界入射仰角の和が180°であることを特徴とする方向推定方法。
  7. 前記第1の工程において、送信用ダイポールアンテナ素子を、前記ダイポールアレイアンテナから前記坑井の軸心方向に所定距離離間させて前記坑井内に挿入し、前記送信用ダイポールアンテナ素子から前記探査対象面に向けて前記電磁波を放射することを特徴とする請求項6に記載の方向推定方法。
  8. 前記第1の工程において、前記ダイポールアレイアンテナと前記送信用ダイポールアンテナ素子からなる送受信アンテナ部を、前記坑井内において前記坑井の軸心方向に順次移動させ、
    前記第1の工程において、前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動する毎に、前記第2の工程乃至前記第4の工程を順次実行するか、或いは、
    前記第1の工程において、前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動する毎に、前記第2の工程と前記第3の工程を順次実行し、前記第1の工程乃至前記第3の工程が終了した後に前記第4の工程を実行し、
    前記第4の工程において、
    前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した各位置での前記最も早い到達時刻と前記最も遅い到達時刻の時間差を導出し、
    前記坑井の軸心方向の位置の変化に対して前記時間差が所定値以下の極小値となる当該位置を特異位置として特定した場合、その特定した前記特異位置において前記入射仰角が前記第1及び第2臨界入射仰角の何れか一方に一致すると近似的に推定し、前記坑井の軸心方向の前記特異位置を基準として一方側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあり、前記特異位置を基準として他方側において、前記入射仰角が第2入射仰角範囲内にあると判定して、前記入射方位角を導出することを特徴とする請求項7に記載の方向推定方法。
  9. 前記第3の工程において、前記送受信アンテナ部が、前記坑井内を前記坑井の軸心方向に順次移動した各位置において前記送信用ダイポールアンテナ素子から前記ダイポールアレイアンテナまでの前記電磁波の伝搬時間を計測し、
    前記第4の工程の前処理工程として、前記坑井の軸心方向の位置と前記伝搬時間の関係に基づいて、前記探査対象面を含む平面の前記坑井の軸心と直交する平面に対する傾斜角を導出し、
    前記傾斜角が前記第1臨界入射仰角より大きい場合、
    前記第4の工程において、
    前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定された場合、前記移動範囲内の前記特異位置を基準として、前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側において、前記入射仰角が前記第2入射仰角範囲内にあると判定し、前記交点側と反対側において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定し、
    前記送受信アンテナ部の前記坑井の軸心方向の移動範囲内において前記特異位置が特定されない場合、前記移動範囲内の全域において、前記入射仰角が前記第1入射仰角範囲内にあると判定することを特徴とする請求項8に記載の方向推定方法。
  10. 前記第1の工程において、前記ダイポールアレイアンテナを、前記坑井内において、前記送信用ダイポールアンテナ素子より前記探査対象面を含む平面が前記坑井の軸心と交差する交点側に配置することを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の方向推定方法。
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