JP2019178985A - アプタマーを利用する標的物質の定量方法 - Google Patents

アプタマーを利用する標的物質の定量方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2019178985A
JP2019178985A JP2018069360A JP2018069360A JP2019178985A JP 2019178985 A JP2019178985 A JP 2019178985A JP 2018069360 A JP2018069360 A JP 2018069360A JP 2018069360 A JP2018069360 A JP 2018069360A JP 2019178985 A JP2019178985 A JP 2019178985A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
aptamer
fine particles
target substance
frequency
electrode
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2018069360A
Other languages
English (en)
Other versions
JP7085190B2 (ja
Inventor
智之 安川
Tomoyuki Yasukawa
智之 安川
岡崎 仁
Hitoshi Okazaki
仁 岡崎
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
University of Hyogo
Original Assignee
University of Hyogo
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by University of Hyogo filed Critical University of Hyogo
Priority to JP2018069360A priority Critical patent/JP7085190B2/ja
Publication of JP2019178985A publication Critical patent/JP2019178985A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7085190B2 publication Critical patent/JP7085190B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Investigating Or Analyzing Materials By The Use Of Electric Means (AREA)

Abstract

【課題】アプタマーによって表面を修飾した微粒子と、誘電泳動法とを組み合わせ、試料溶液中の標的物質を簡便に定量する方法を提供すること。【解決手段】アプタマーを表面に固定した微粒子を試料溶液と混合し、微粒子の表面電荷密度の変化を誘電泳動法によって観測する。既知濃度の標的物質溶液を調製し、アプタマー修飾微粒子と混合する。その後、マイクロ流路型デバイスを利用して、微粒子の交差周波数を測定し、検量線を作成する。未知濃度の標的物質溶液についてもアプタマーを表面に固定した微粒子と混合して交差周波数を測定し、検量線から標的物質濃度を算出する。【選択図】図10

Description

本発明は、標的物質と特異的に結合するアプタマーによって表面を修飾した微粒子と、誘電泳動法とを組み合わせた、試料溶液中の標的物質を簡便に定量する方法に関する。
アプタマーは、特定の分子を認識可能な1本鎖DNA又はRNAである。アプタマーは、核酸であるため不可逆的に失活することがなく、化学的に安定である。アプタマーの結合能は、抗体と比べて高くはないが、アプタマーの塩基配列の最適化又は機能性置換基の導入といった結合能の向上を目指す研究も行われている。
アプタマーは、その構造がDNA塩基対の配列によって決定されるため、標的物質の認識によりその構造が変化するように設計することが可能である。また、標的物質との結合により構造変化が引き起こされ、信号を発信するように設計することも可能である。このため、溶液中の標的物質がアプタマーに結合することにより、標的物質の捕捉→アプタマーの構造変化→信号発信が起こり、溶液中に未反応の標的物質が残っていても、それを分離することなく捕捉された標的物質を検出できる。その結果、溶液中の標的物質濃度を測定することが可能である。
最もよく知られているアプタマーは、トロンビンアプタマーである(非特許文献1、非特許文献2)。このアプタマーは、グアニンとチミンのみで構成された15塩基の1本鎖DNAである。トロンビンに対する解離定数は200nMである。
蛍光をシグナルとしたアプタマーセンサとして、アプタマービーコン法(非特許文献3)が知られている。この方法では、特定の塩基配列をもつ1本鎖DNAを検出するためのモレキュラービーコンを、標的タンパク質に特異的に結合できるアプタマーの配列を利用することにより、タンパク質検出用の素子として応用している。この方法では、標的物質がアプタマーと結合すると、アプタマービーコンの立体構造が変化し、蛍光分子と消光分子との距離が開き、アプタマービーコンが蛍光を発するようになる現象を利用する。
一方、非特許文献4は、DNA結合に伴う誘電体微粒子の誘電泳動特性の変化を測定することによって、DNAが結合した微粒子のみを選択的に検出する方法を開示している。非特許文献4では、ビオチンとストレプトアビジンとの特異的結合を利用しており、誘電体微粒子にDNA が結合することで、微粒子の誘電泳動特性が大きく変化することを利用している。
非特許文献5は、電気化学検出型のアプタマーセンサを開示している。非特許文献5では、アプタマーの片方の末端を電極に固定化し、もう片側の末端を電気化学活性種であるメチレンブルーで修飾する。標的物質がアプタマーに結合し捕捉されると、アプタマーの立体構造が変化し、メチレンブルーが電極から遠ざかり、電流が流れなくなることを検出原理としている。
Bock LC, Griffin LC, Latham JA, Vermaas EH, Toole JJ: Selection of single-stranded DNA molecules that bind and inhibit human thrombin, Nature, 355: 564-566, 1992. Padmanabhan, K.; Padmanabhan, K. P.; Ferrara, J. D.; Sadler, J. E.; Tulinsky, A. J. Biol. Chem. 1993, 268, 17651-17654 Hamaguchi, et al., Anal. Biochem., 2001, 294, 126-131. 中野道彦、笠原弘道、丁震昊、末廣純也;DNA結合に伴う誘電体微粒子の誘電泳動特性変化の測定、静電気学会誌、40, 1(2016)20-25. Xiao, Y.; Lubin, A. A.; Heeger, A. J.; Plaxco, K. W. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 5456-5459.
非特許文献3又は5に開示されている方法では、アプタマービーコン又はアプタマーセンサの分子設計(特に、標的物質との結合に関係しない相補鎖、電極表面からの距離を調整するための塩基配列の設計)が大変困難である。すなわち、標的物質によって最適な検出用ビーコン又はセンサ分子を、高い検出感度が得られるように設計及び製造する必要があり、標的物質と特異的に結合するアプタマーが公知であっても汎用性に乏しく、検出感度も十分とはいえない。
標的物質を検出するための方法としては、抗原抗体反応を利用する免疫学的方法も広く知られているが、未反応の抗原分子を反応系に残存させないよう高度な洗浄操作が必須である。このため、熟練した測定者でなければ正確に標的物質を定量することが困難である。
現在のバイオセンシング素子の主流である酵素標識抗体は、分子認識素子である抗体とシグナル変換素子である酵素を物理的に結合させただけであるため、相互に連動しておらず、分子認識した素子と認識していない素子を分離してシグナル変換能を計測する必要がある。このため、標的物質を定量するためには、(1) 標的物質が抗体に結合した後の未反応の標的物質の洗浄及び除去;(2) 酵素標識抗体による修飾;(3) 未反応の酵素標識抗体の洗浄及び除去;(4) 酵素基質の添加:という一連の工程が必要であり、操作が煩雑である。
本発明は、アプタマーによって表面を修飾した微粒子と、誘電泳動法とを組み合わせ、試料溶液中の標的物質を簡便に定量する方法の提供を目的とする。
本発明者等は、標的物質を認識できる塩基配列のみから構成されるアプタマーを認識素子として使用し、試料溶液と混合するだけで標的物質を定量し得るシステムについて鋭意検討を試みた。その結果、アプタマーを表面に固定した微粒子を試料溶液と混合し、微粒子の表面電荷密度の変化を誘電泳動法によって観測することにより、簡便な操作で標的物質を定量し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的に、本発明は、
アプタマーを利用する標的物質の定量方法であって、
前記定量方法は、
マイクロ流路型デバイスを利用し、標的物質を誘電泳動法によって定量する定量方法であり、
前記マイクロ流路型デバイスは、
基板と、
基板上に配置される交互くし型マイクロバンドアレイ電極と、
前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極のバンド電極が露出するように前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極上に配置される絶縁性薄膜と、
前記絶縁性薄膜上に配置されるスペーサーと、
前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極に対向するように前記スペーサー上に配置される絶縁性基板とを備え、
前記定量方法は、
標的物質と特異的に結合するアプタマーを表面に結合させた微粒子と、標的物質を含有する試料溶液とを混合する工程Aと、
微粒子と混合された試料溶液を前記マイクロ流路型デバイスのバンド電極上に導入する工程Bと、
前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極を観察しながら、前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極のバンド電極間に印加する交流電圧の周波数を経時的に変化させ、誘電泳動により微粒子が集積化されるまでの時間から、交差周波数を計測する工程Cと、
前記微粒子と既知濃度の標的物質を含有する標準溶液とを混合した結果得られた、標的物質濃度と交差周波数との関係をプロットしたグラフから、試料溶液中の標的物質濃度を算出する工程Dと、
を有する、定量方法に関する。
アプタマーを表面に固定された微粒子は、標的物質がアプタマーと結合すると、表面電荷密度が変化する。微粒子の誘電泳動挙動は、微粒子の表面電荷密度に依存するので、誘電泳動挙動を観察すれば、交差周波数を測定することが可能である。標的物質の標準溶液(複数濃度)に微粒子を添加し、交差周波数と標的物質濃度との関係をプロットしたグラフ(検量線)を作成しておけば、濃度未知の試料溶液に微粒子を添加し、交差周波数を測定すれば、当該グラフ(検量線)から試料溶液中の標的物質濃度を算出することが可能となる。
本発明では、標的物質を含有する試料溶液と微粒子とを混合した後、微粒子と混合された試料溶液をマイクロ流路型デバイスのバンド電極上に導入する。交互くし型マイクロバンドアレイ電極を観察しながら、交互くし型マイクロバンドアレイ電極のバンド電極間に印加する交流電圧の周波数を経時的に変化させ、誘電泳動により微粒子が集積化されるまでの時間を観察することにより、交差周波数を計測することが可能である。
本発明においては、標的物質と特異的に結合するアプタマーを微粒子表面に固定することにより、定量用センサのような機能を発揮することが可能であり、従来のアプタマービーコン又はアプタマーセンサと異なり、検出用分子の設計が不要であり、汎用性が非常に高い。また、アプタマーと結合していない標的物質が反応系に存在していても、微粒子の誘電泳動挙動には影響しないので、標的物質の洗浄操作も不要である。
前記微粒子は、
表面にアミノ基を導入されたポリスチレン製である、平均粒子径が10nm以上3μm以下である微粒子であり、
アプタマーが架橋化剤を介してアミノ基と結合された微粒子であることが好ましい。
アプタマーを表面に固定する微粒子は、マイクロ流路型デバイスの観察容易の観点から、表面にアミノ基を導入されたポリスチレン製であることが好ましいが、アプタマーの固定化が可能であれば、ガラスビーズ又は金属ビーズであってもよい。また、平均粒子径は、10nm以上3μm以下であることが好ましい。10nm未満では誘電泳動で動かすことが難しく、3μm超では交差周波数が低周波数側にシフトして、交流電気浸透流の影響を大きく受けてしまう。アプタマーは、sulfo-SMCC(sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)
cyclohexane-1-carboxylate)のような架橋剤を介して、微粒子表面のアミノ基と結合されていることが好ましい。
前記アプタマーは、配列番号1に示される塩基配列を有するアプタマーであり、
前記標的物質は、トロンビンであることが好ましい。
本発明によれば、熟練した測定者でなくとも、試料溶液中の標的物質濃度を容易、かつ、正確に定量することが可能である。
純水にポリスチレン(PS)微粒子を懸濁した場合における、Re[K(ω)]の周波数依存性(誘電泳動スペクトル)を示すグラフである。 アプタマー修飾微粒子と標的物質との結合を表す概念図を示す。 マイクロ流路型デバイスの構造(絶縁性基板以外)を説明する上面図である。 図3のX−X断面図である。 交互くし型マイクロバンドアレイ電極の作製方法を説明する概念図である。 マイクロ流路型デバイスの電極付近の顕微鏡写真を示す。 PS微粒子の懸濁液を導入した交互くし型バンドアレイ電極に交流電圧を印加してから5s後のITO電極付近の顕微鏡写真を示す。 アミノ酸修飾PS微粒子の懸濁液を導入した交互くし型バンドアレイ電極に交流電圧を印加してから5s後のITO電極付近の顕微鏡写真を示す。 直径の異なるPS微粒子をリン酸緩衝液に懸濁させた場合における、Re[K(ω)]の周波数依存性(誘電泳動スペクトル)を示すグラフである。 溶液の導電率と交差周波数との関係をプロットしたグラフを示す。 直径0.5 μmの各PS微粒子を用いた場合における、溶液導電率と交差周波数との関係をプロットしたグラフを示す。 3種類のPS微粒子について、交差周波数の溶液導電率依存性を表すグラフである。 トロンビン濃度と交差周波数との関係をプロットしたグラフ(検量線)を示す。
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
誘電泳動の力は、数式1で表されることが知られている。ここで、rは微粒子の半径、εmは溶液の誘電率、Eは電場強度を示す。また、KはClausius-Mossotti Factor(CM因子)として知られており、数式2で表される。εpは微粒子の誘電率、σpは微粒子の表面導電率、σmは溶液の導電率である。jは虚数単位であり,ωは角周波数である。Kの実部であるRe[K(ω)]は数式3で表される、誘電泳動力の方向と大きさを決定する因子である。
図1は、純水にポリスチレン(PS)微粒子を懸濁させた場合における、Re[K(ω)]の周波数依存性(誘電泳動スペクトル)を示すグラフである。純水とPS微粒子の誘電率を、それぞれεp = 2.6ε0 F/m、εm = 78.5e0 F/mとした。また、真空の誘電率をε0 = 8.9×10-12F/m、純水の導電率をσm = 5.5×10-6 S/mとした。さらに、PS微粒子の表面導電率をσp = 1.0×10-3S/m、微粒子半径をr = 1.5μmとした。
数式3から、高周波数領域(MHz)においてRe[K(ω)]の値は誘電率に依存することがわかる。水の誘電率はPS微粒子の誘電率よりも大きいので、Re[K(ω)]<0となり、負の誘電泳動が作用する。同様に、数式3から、低周波数領域(kHz)では,Re[K(ω)]の値は導電率に依存することがわかる。PS微粒子の表面導電率は水の導電率よりも大きいため、Re[K(ω)]>0となり、正の誘電泳動が作用する。この両者の間の周波数にRe[K(ω)]の値がゼロとなる周波数が存在するが、この周波数を交差周波数と呼ぶ。交差周波数f0はRe[K(ω)]=0となる周波数であるため、数式3にRe[K(ω)]=0を代入すると、数式4が得られる。
PS微粒子及び溶液の誘電率はほぼ一定であるため、溶液の導電率が決まれば、交差周波数と微粒子の表面導電率との関係がわかる。すなわち、PS微粒子の表面導電率が増加すると交差周波数は増加することがわかる。微粒子の表面導電率は、KStern(粒子表面のStern層内のコンダクタンス)と粒子半径(r)の関数である数式5と表される。また、粒子表面のStern層内のコンダクタンスKSternは、数式6と表される。
ρqはStern層内の表面電荷密度、μはStern層内のイオン移動度である。よって、PS微粒子の表面電荷密度の減少により表面導電率が減少し、それに応じて交差周波数が減少する。
印加する周波数を4 MHzから1 MHzに150 kHz/sで減少させる場合、3 MHzの減少のために20秒を必要とする。例えば、交差周波数が3.25 MHzの場合、5秒後に3.25 MHzに達し、それまで負の誘電泳動で電極上に集まっていた微粒子に正の誘電泳動が作用しはじめて、電極の凸−凸間を架橋するように微粒子が集まる。よって、初期印加周波数を決めておき、一定の掃引速度で周波数を減少させて、微粒子が凸−凸間を架橋するように集まるまでに必要とした時間を計測すると、それは周波数に換算でき、その周波数が交差周波数となる。
一方、標的物質としてのトロンビンに対するアプタマーは、もっともよく知られているアプタマーの一つである。トロンビンアプタマーの塩基配列は、5’-GGT TGG TGT GGT TGG-3’(配列番号1)の15 merである.トロンビンアプタマーの解離定数は、200 nMと報告されている。また、トロンビンアプタマーは、グアニン四重鎖構造を構成しており、分子量37000、等電点は7.0〜7.6と報告されている。
表面導電率と誘電泳動挙動との関連を評価するために、下記3種類のPS微粒子(Polyscience社、Polybead Microspheres)を用いた。
PolybeadR Microspheres 3.0μm (非修飾PS微粒子) Catalog No. 17134-15
PolybeadR Amino Microspheres 3.0μm (アミノ基修飾PS微粒子) Catalog No. 17145-5
PolybeadR Carboxylate Microspheres 3.0μm (カルボキシ基修飾PS微粒子) Catalog No. 09850-5
また、PS微粒子表面にアプタマーを固定化し、トロンビンを捕捉して交差周波数を計測するために、下記2種類の直径0.5μmのPS微粒子を用いた。
PolybeadR Microspheres 0.50μm (非修飾PS微粒子) Catalog No. 07307-15
PolybeadR Amino Microspheres 0.50μm (アミノ基修飾PS微粒子) Catalog No. 07763-5
PS微粒子(PolybeadR Microspheres 3.0μm)は、表面に硫酸エステル(スルホン酸基)による負電荷を有する。カルボキシ基修飾PS微粒子(PolybeadR Carboxylate Microspheres )は、表面にスルホン酸基とカルボキシ基が導入されている。カルボキシ基は弱酸であるため一部が脱プロトン化しており、PS微粒子に比べて負電荷がわずかに減少していると考えられる。アミノ基修飾ポリスチレン微粒子は、スルホン酸基とアミノ基が導入されている。アミノ基は弱塩基であるため一部がプロトン化しており正電荷を持つ。そのため,スルホン酸基の負電荷を打ち消し、負電荷が減少すると考えられる。
<アプタマー修飾PS微粒子の調製>
アミノ基修飾PS微粒子(PolybeadR Amino Microspheres、直径0.5μm)に架橋剤であるsulfo-SMCCを介して配列番号1のアプタマーを固定化した。水に分散されたアミノ基修飾PS微粒子(濃度3.6´1011 particles/mL)の37.5 μLをエッペンドルフチューブに採取し、100 mMのリン酸緩衝液を添加し、全量を500μLとした。このとき、アミノ基修飾PS微粒子の最終濃度は、2.7×1010 particles/mLとなる。チューブを遠心分離機(卓上微量高速遠心機 himac CT15RE、 日立工機)を用いて遠心分離(10000 rpm、5 min、室温)し、上澄み溶液を除去した。この操作を4回繰り返した。
100 mMのリン酸緩衝液にN-[(4-Maleimidomethyl)cyclohexylcarbonyloxy]
sulfosuccinimide, sodium salt(sulfo-SMCC、 Thermo Fisher Scientific)を0.2 mM となるように添加した。PS微粒子の入ったエッペンドルフチューブに0.2 mM sulfo-SMCC溶液を500μL添加した。十分に混合してPS微粒子を懸濁させ、1200 rpm、3 h、室温でインキュベーター(シェイキングインキュベーター SI-300c、AS ONE)を用いてインキュベートした。PS微粒子表面のアミノ基に架橋剤であるsulfo-SMCCの片末端にあるスクシンイミド活性エステルが反応し、微粒子表面にsulfo-SMCCの逆末端にあるマレイミド基が導入された。このマレイミド基は、チオール基と反応し得る。
インキュベート後、10000 rpm、5 min、室温で遠心分離し、上澄み溶液を除去した。この操作を4回繰り返した。1 μMトロンビンアプタマー誘導体((HS-(CH2)6-5’-TTT GGT TGG TGT GGT TGG-3’、北海道システムサイエンス)を500 μL添加し、十分に撹拌して懸濁させた後、1200 rpm、12時間、室温でインキュベートした。アプタマー末端に修飾されているチオール基をPS微粒子表面に導入したマレイミド基に反応させ、PS微粒子表面に配列番号1のアプタマーを固定(修飾)した。その後、10000 rpm、5 min、室温で遠心分離し、上澄み溶液を除去した。
チューブに500μLのリン酸緩衝液を加え、十分に撹拌してPS微粒子を懸濁させた後、10000 rpm、5 min、室温で遠心分離を行い、上澄み溶液を除去した。未反応のアプタマーを除去するため、この操作を3回繰り返した。さらに、500 μLのリン酸緩衝液を添加し、十分に撹拌して懸濁させた。このPS微粒子懸濁液(500 μL)を、100 μLずつ別のエッペンドルフチューブに分注し、十分に撹拌して懸濁させた。これらの100 μLのPS微粒子懸濁液を、10000 rpm、5 min、室温で遠心分離し、上澄み溶液を除去した。
<アプタマー修飾微粒子と標的物質との結合>
図2は、アプタマー修飾微粒子と標的物質との結合を表す概念図を示す。アミノ修飾PS微粒子は、表面にスルホン酸基とアミノ基の両方を有するが、スルホン酸基の割合が多いために、全体としてはネガティブチャージであり、微粒子の表面にカチオンでStern層と拡散二重層が形成される。アミノ基を起点として、架橋剤を介してアプタマーが固定化されている。図2においては、配列番号1に示されるアプタマーは、アプタマー誘導体の修飾部(HS-(CH2)6-)及び架橋剤(sulfo-SMCC)を介してPS微粒子表面のアミノ基と結合されているが、アプタマー修飾部及び架橋化剤の化学構造は、図2に示される構造に限定されない。
ここに、標的物質を加えると、標的物質はアプタマーと結合する。タンパク質が標的物質であれば、その分子量は、通常、アプタマーの10倍以上である。標的物質がトロンビン(分子量37000)であり、アプタマーがトロンビンアプタマー(分子量4500)である場合、分子量の差は約8倍である。捕捉されたタンパク質は、微粒子表面のカチオンを排除し、その結果、表面電荷密度が減少すると考えられる。
<トロンビン標準溶液とアプタマー修飾PS微粒子の反応>
上述した<アプタマー修飾PS微粒子の調製>において、100 μLのPS微粒子懸濁液を、10000 rpm、5 min、室温で遠心分離し、上澄み溶液を除去する最後の操作を行った後、27 μLのリン酸緩衝液と3 μLの既知濃度のトロンビン溶液とをエッペンドルフチューブに添加し、十分に撹拌して微粒子を懸濁させた。トロンビン終濃度は、1 nM〜1000 nMのトロンビン溶液となるように調製された。トロンビンとして、Human a-Thrombin Protein, ASSAY PROを使用した。
<マイクロ流路型デバイスの構造>
図3は、本発明で使用されるマイクロ流路型デバイスの構造を説明する上面図を示す。図4は、図3のX−X断面図である。図3では、最上部に設置される絶縁性基板は省略されている。マイクロ流路型デバイス1は、ガラス基板2、電極a(符号3)及び電極b(符号4)から構成される交互くし型マイクロバンドアレイ電極をベースとしている。電極aは、バンド電極a1〜a4を有し、電極bは、バンド電極b1〜b4を有している。電極a及び電極bの有するバンド電極の数は、4つに限定されない。電極aの接続部3c及び電極bの接続部4cには、リード線7a及びリード線7bがそれぞれ接続されている。リード線7a及びリード線7bは、それぞれ、交流電源発生装置に独立して接続されている。電極a1〜a3と電極b1〜b2は、対向する部分に複数の凸部9が形成されている。
交互くし型マイクロバンドアレイ電極の上には、バンド電極a1〜a4及びバンド電極b1〜b4が交差している部分が開口するように、絶縁性薄膜5が設けられている。図3では、絶縁性薄膜5は枠状となっているが、電極aのリード部3d及び電極bのリード部4dを覆っていれば足りる。絶縁性薄膜5の上部には、スペーサー6a及びスペーサー6bが設けられている。そして、スペーサー6a及びスペーサー6bの上部には、図4に示されるように、ガラス基板8が設けられている。
<交互くし型マイクロバンドアレイ電極の作製例>
図5は、交互くし型マイクロバンドアレイ電極の作製方法を説明する概念図である。まず、ITO薄膜(厚さ200nm、規格抵抗値≦10Ω/sq)が形成されたガラス基板(ITO基板)を、ガラスカッターを用いて切り出した(寸法:35mm×25mm)。切り出された基板を、アセトン、次いでイソプロパノール中で、それぞれ15分間超音波洗浄し、窒素ブロアを用いて乾燥させた(図5(A))。
ITO基板のITO薄膜上に、ポジ型のフォトレジスト(Shipley社、S1818)をスピンコート(3000rpm、30秒)した(図5(B))。その後、ITO基板をホットプレート上で焼成(65℃で1分間、その後95℃で1分間)した後、室温で穏やかに除熱した。
電極パターンを有するフォトマスクを通して、Hgランプ(5.4mW/cm2以上、20秒間)を照射した(図5(C))。基板をディベロッパ(Shipley社、Microposit(登録商標)MF CD-26)に30秒程度浸漬するとともにピペッティングし、電極パターンの現像(ディベロップ)を行った(図5(D))。イオン交換水で基板をすすぎ、自然乾燥させた。その後、さらに焼成(120℃、1分)した。
フォトレジストで被覆されていない部分のITO薄膜を、ケミカルエッチングにより除去した。具体的には、透明導電薄膜用エッチング液(関東化学株式会社、混酸ITO-02)にITO基板を室温で20分間浸漬することによって、ケミカルエッチングを行った(図5(E))。基板をイオン交換水ですすぎ、窒素ブロアを用いて乾燥させた。その後、基板をアセトン中に30秒程度浸漬すると共にピペッティングし、レジストを基板上から除去した(図5(F))。その後、窒素ブロアを用いて基板を乾燥させた。
溶液と電極の不必要な接触は、予期せぬ対流現象や電気化学現象を生む可能性がある。このため、露出させる必要の無い導電部分を、ネガ型のフォトレジストによって被覆し、絶縁処理を行った。基板にネガ型のフォトレジスト(化薬マイクロケム株式会社、SU-8 3005)をスピンコート(3000rpm、50秒)した(図5(G))。その後、焼成(65℃で1分間、その後95℃で5分間)を行い、室温で穏やかに除熱した。
次に、フォトマスクを通してHgランプ(5.4mW/cm2以上、50秒間)を照射した(図5(H))。焼成(65℃で1分間、その後95℃で5分間)を行った後、室温で穏やかに除熱した。基板を現像液(化薬マイクロケム株式会社、SU-8 Developer)に5分間浸漬すると共にピペッティングし、現像を行った(図5(I))。基板をイソプロパノールですすぎ、窒素ブロアを用いて乾燥させた後、焼成(140℃、10分間)を行った。
電極部分の接続部(図3の3c及び4c)にカーボンペーストを介して銅線(図3の7a及び7b)を接続し、120℃で30分間焼成した。最後に、接続部をシリコンシーラントで被覆し、室温で除熱した。
透明導電性材料であるインジウムスズ酸化物(ITO)の薄膜(厚さ: 2000 Å)を有するガラス基板(ジオマテック)に、フォトリソグラフィーを用いて誘電泳動による微粒子操作のための電極を作製した。図6は、マイクロ流路型デバイスの電極付近の顕微鏡写真を示す。電極デザインは、バンド電極の両側に直方形型の凸部を配列した「のこぎり歯型」の交互くし型バンドアレイとした。バンド電極の幅を10 μmとし、のこぎり歯の幅、長さ及びギャップをすべて10 μmとした。のこぎり歯と隣のバンド電極ののこぎり歯を対向させ、のこぎり歯間の距離を10 μmとした。バンド電極は、交互にリードAおよびリードBに接続されている。この電極基板に、短冊状に切り取った両面テープ(厚さ30 μm)を2枚貼りつけ、さらにその上にガラス基板を張り付けた。リード部A及びBに銅リード線をカーボンペーストを用いて接続し、誘電泳動用デバイスとして完成させた。
<PS微粒子の誘電泳動挙動の評価>
異なる官能基を有する3種類のPS微粒子(PolybeadR Microspheres、PolybeadR Amino Microspheres、PolybeadR Carboxylate Microspheres;いずれも直径3.0μm)を用いて、交差周波数と表面導電率との関連を評価した。リン酸バッファー(濃度10 μM、溶液導電率 0.3 mS/m、pH 7.0)に各PS微粒子を懸濁させPS微粒子懸濁液を作製した(微粒子濃度は、いずれも5.0´108 particles/mL)。下面のITO電極基板と上面のガラス基板との間に形成された高さ30 μmのスペースに、PS微粒子の懸濁液を導入した。ファンクションジェネレーター(ウェーブフォームジェネレーター 7075, HIOKI)を用いて電極に交流電圧3 Vppを印加した。
図7は、PS微粒子の懸濁液を導入した交互くし型バンドアレイ電極に交流電圧を印加してから5 s後のITO電極付近の顕微鏡写真を示す。周波数が0.1〜0.4 MHzの場合、PS微粒子はITO電極の凸部と凸部の間に集まった(図7(B)及び図7(C))。これは、交流電圧を印可した際に、この周波数領域において微粒子に正の誘電泳動が作用し、最も電場の強い領域がITO電極の凸−凸間に形成されるためである。
さらに周波数を0.6 MHz以上にすると、PS微粒子はITO電極上に集まった(図7(E)及び図7(F))。PS微粒子の焦点がずれていることから、PS微粒子は、ITO電極面より上方に押し上げられていることがわかる。これは、この周波数領域において、微粒子に負の誘電泳動が作用し、最も電場の弱い領域がITO電極の真上に形成されるためである。
また、0.1 MHz以下の交流電圧を印可した場合、交流電気浸透流減少により溶液が対流し、PS微粒子はのこぎり歯の凸−凸間のギャップで回転運動を続けた(図7(A))。さらに、0.5 MHzの交流電圧を印可した場合、PS微粒子は電極の凸部と凸部との間に集まり回転運動した(図7(D))。これは、弱い正の誘電泳動が作用するとともに、熱対流現象による溶液の対流によってPS微粒子が凸−凸間で回転運動するためと考えられる。
以上の実験結果と、図1に示されるRe[K(ω)]の周波数依存性(誘電泳動スペクトル)を示すグラフから、直径3.0 μmのPS微粒子の交差周波数は、0.4〜0.6 MHzの中にあることがわかった。
<交差周波数の測定>
アミノ基修飾PS微粒子(PolybeadR Amino Microspheres、直径0.5μm)の懸濁液(濃度9.0´109 particles/mL)を調製し、交差周波数の測定を行った。図8は、アミノ酸修飾PS微粒子の懸濁液を導入した交互くし型バンドアレイ電極に交流電圧を印加してから5 s後のITO電極付近の顕微鏡写真を示す。
0.1 mM リン酸緩衝液(σm = 1.4 mS/m)中でITO電極に交流電圧15 Vppを印加した。周波数が5 MHzの場合、PS微粒子はデバイス中に分散しており,電極の上部にぼんやりと集まっていた(図8(A))。これは、負の誘電泳動が作用し、電場強度の相対的に弱いITO電極上部に集積されるためである。周波数が4 MHz(図8(B))及び1 MHz(図8(C))の場合、PS微粒子は電極の凸−凸間を架橋するように集積化された。これは、PS微粒子に正の誘電泳動が作用し、電場強度の強い電極の凸−凸間に集積されたためである。
このように、直径0.5 μmのPS微粒子の交差周波数は、直径3.0 μmのPS微粒子の交差周波数と比較して、高周波数側にシフトすることが確認された。
<PS微粒子の直径と誘電泳動スペクトルとの関係>
サイズの異なるPS微粒子の印加周波数に対するCM因子の実部を計算した。図9は、直径の異なるPS微粒子をリン酸緩衝液に懸濁させた場合における、Re[K(ω)]の周波数依存性(誘電泳動スペクトル)を示すグラフである。(A)〜(D)の曲線は、それぞれ微粒子直径が(A) 0.5μm、(B) 1.0 μm、(C) 2.0μm及び(D) 3.0μmの場合の誘電泳動スペクトルを示している。直径3 μmのPS微粒子の表面導電率を3.5 mS/m(表面コンダクタンスは2.6 nS)として計算した。すなわち、直径3μmのPS微粒子の表面導電率が3-4 mS/mと実験からわかるので、直径3μmのPS微粒子の表面導電率を3.5 mS/mとすると、数式5から微粒子の表面コンダクタンス(KStern)が2.6 nSと算出される。この表面コンダクタンスの値を用いて、各直径の微粒子の表面導電率を算出した。水の誘電率εm = 6.9´10-10 F/m、ポリスチレンの誘電率εp = 2.3´10-10 F/m、0.1 mM リン酸緩衝液の導電率σm = 1.4´10-3 S/mである。
高周波数側では、CM因子の実部は負の値であり、負の誘電泳動が作用する。一方、低周波数側では、CM因子の実部は正の値であり、正の誘電泳動が作用する。PS微粒子の直径が3 μmから0.5 μmに減少すると、CM因子の実部の値は徐々に増加し、交差周波数が0.6 MHzから3.5 MHzへシフトすることがわかった。よって、直径3 μmと直径0.5 μmのPS微粒子を用いた交差周波数の測定結果は、理論計算とほぼ一致することが確認された。
印加周波数が0.1 MHz以下では、PS微粒子に交流電気浸透流現象が作用し、PS微粒子が回転運動するため、誘電泳動現象を観測することが困難となる。よって、交差周波数を測定するためには、交差周波数が高周波数領域に存在する直径0.5 μmのPS微粒子が有利である。
<溶液の導電率と誘電泳動スペクトルとの関係>
異なる官能基を有するPS微粒子を用い、交差周波数の溶液導電率依存性を調べた。図10は、溶液の導電率と交差周波数との関係をプロットしたグラフを示す。図10において、(A)は非修飾PS微粒子(プロットは「●」で表される)、(B)はカルボキシ基修飾PS微粒子(プロットは「■」で表される)、(C)はアミノ基修飾PS微粒子(プロットは「◆」で表される)であり、直径はいずれも3.0μmである。カルボキシ基修飾微粒子の導電率(mS/m)は、(a) 0.5, (b) 1.0, (c) 1.5, (d) 2.0, (e) 2.5, (f) 3.0, (g) 3.5, (h) 4.0 である。溶液の導電率は、リン酸緩衝液濃度を調整することによって制御した。
図10の実線は、それぞれ数式4を用いて算出された各PS微粒子の、表面導電率における溶液導電率に対する交差周波数の理論曲線である。測定結果と理論曲線のカーブフィッティングにより、直径3 μmのPS微粒子の表面導電率は3〜4 mS/mであることが確認された。
カルボキシ基修飾PS微粒子については、溶液導電率を増加させると、溶液導電率が1 mS/mまでは、導電率が増加しても交差周波数は約300 kHzで一定であった。しかし、溶液導電率が1 mS/mを越えると交差周波数は減少しはじめ、2 mS/mでは測定に用いた周波数領域(100 kHz〜1 MHz)において、すべて負の誘電泳動現象が観測された。測定結果と理論曲線のカーブフィッティングにより、直径3 μmのカルボキシ基修飾PS微粒子の表面導電率は、1.5〜2.0 mS/mであることが確認された。
アミノ基修飾PS微粒子については、非修飾PS微粒子およびカルボキシ基修飾PS微粒子と同様、交差周波数は溶液導電率の増加に伴って減少した。測定に用いた周波数領域において、すべて負の誘電泳動挙動が観測された導電率は、0.5 mS/mであった。理論曲線と実験結果のカーブフィッティングにより、アミノ基修飾PS微粒子の表面導電率は、0.5〜1 mS/mであることが確認された。
このように、pHを制御して溶液の導電率を変化させ、交差周波数を測定することにより、PS微粒子の表面導電率を求めることが可能であり、表面電荷密度導電率を評価することが可能であった。PS微粒子表面の電荷密度の推測と実験結果は一致したため、誘電泳動用の電極を用いて、PS微粒子を理論通りに操作することが可能であることが確認された。
次に、直径0.5 μmの各PS微粒子を用いて、異なる導電率の溶液中における誘電泳動挙動を調査した。図11は、直径0.5 μmの各PS微粒子を用いた場合における、溶液導電率と交差周波数との関係をプロットしたグラフを示す。0.1 mM リン酸緩衝液中(σm = 1.4 mS/m)で、電極に交流電圧15 Vppを印加した。この溶液導電率の範囲においては、交差周波数は4 MHz以下でp-DEPが作用し、5 MHzでn-DEPが作用した。理論曲線とのカーブフィッティングより、直径0.5 μmのPS微粒子の表面導電率は、26〜30 mS/mであることが確認された。直径0.5 μmのPS微粒子の交差周波数(数百kHz)と比較して、交差周波数は高周波側にシフトした。これは、理論計算の結果(図9)と一致する。表面導電率は4〜5 MHzであり、理論計算値とほぼ一致した。よって、実験結果は理論計算とほぼ一致することが確認された。
次に、直径0.5μmのアミノ基修飾PS微粒子、sulfo-SMCCを結合させたアミノ基修飾PS微粒子、及びアプタマー修飾PS微粒子(上述した方法によって製造されたアプタマー修飾PS微粒子)を用い、導電率の異なる溶液中における交差周波数を調査した。図12は、3種類のPS微粒子について、交差周波数の溶液導電率依存性を表すグラフである。図12において、(A)はアミノ基修飾PS微粒子(プロットは「●」で表される)、(B)はsulfo-SMCC修飾PS微粒子(プロットは「■」で表される)、(C)はアプタマー修飾PS微粒子(プロットは「◆」で表される)を示している。図12の実線は、それぞれ数式4を用いて算出されたPS微粒子の表面導電率における、溶液導電率に対する交差周波数の理論曲線である。また、表面導電率(mS/m)は、(a) 18, (b) 20, (c) 22, (d) 24, (e) 32, (f) 34, (g) 36, (h) 38, (i) 40 である。
アミノ基修飾PS微粒子(図12(A))の場合、溶液導電率の増加に伴い交差周波数は減少し、溶液導電率24 mS/mにおいて、すべての周波数領域で負の誘電泳動現象が観測された。架橋剤であるsulfo-SMCCを表面のアミノ基に結合させたPS微粒子を用いた場合(図12(B))も同様に、溶液導電率の増加に伴い交差周波数は減少した。sulfo-SMCCを表面のアミノ基に結合させたPS微粒子の交差周波数は、アミノ基修飾PS微粒子と比較して高周波数側にシフトした。これは、sulfo-SMCCを微粒子表面にあるアミノ基と反応させたため、微粒子表面のアミノ基の数が減少したことに起因する。すなわち、未反応で残存しているアミノ基(-NH2および-NH3+)が平衡を保つために、-NH3+ → -NH2 + H+の解離反応が進み、全体として正電荷を減らしたことに起因する。スルホン酸基の数に変化はないので、正電荷が減少することにより、全体的にスルホン酸基に起因する負電荷が大きくなり、表面電荷が増加した。よって、PS微粒子の表面導電率が増加し、交差周波数が高周波側にシフトしたと考えられる。Sulfo-SMCC修飾PS微粒子の表面導電率は32~36 mS/m であることが確認された。
アプタマー修飾PS微粒子を用いた場合(図12(C))、交差周波数はさらに高周波数側にシフトした。これは、アプタマーを結合させることにより、拡散二重層内にDNAの一部が挿入され、そのリン酸基の負電荷が表面導電率の増加に寄与したためと考えられる。アプタマー修飾PS微粒子の表面導電率は40 mS/mであることが確認された。
<トロンビンと混合したアプタマー修飾PS微粒子の交差周波数測定>
上述した<トロンビン標準溶液とアプタマー修飾PS微粒子の反応>において既知濃度のトロンビン溶液と反応させたアプタマー修飾PS微粒子について、印加する交流電圧の周波数を変化させ、交差周波数を測定した。図13は、トロンビン濃度と交差周波数との関係をプロットしたグラフ(検量線)を示す。
トロンビン濃度の増加に伴って、交差周波数は低周波数側へシフトした。これは、トロンビンがアプタマーに結合することにより、アプタマー修飾PS微粒子表面のStern層及び拡散二重層中に存在していた正の荷電粒子(カチオン)が排除され、微粒子の表面電荷が減少して表面導電率が減少し、交差周波数が低周波側へシフトしたと考えられる。トロンビンと結合したトロンビンアプタマーの解離定数は200 nMと報告されているため、トロンビン濃度が200 nM付近で交差周波数が減少する。これは、解離定数付近の濃度で微粒子表面の全アプタマー数に対するトロンビンを結合したアプタマーの割合が大きく変化するためである。400 nM以上の トロンビンを添加した場合には、全ての領域で負の誘電泳動が作用した。
1 μMトロンビンを含有する溶液中でアプタマー及びSulfo-SMCCを修飾していないアミノ基修飾PS微粒子の交差周波数を測定したところ、トロンビンを含有する場合の交差周波数は、トロンビンを含有しない場合の交差周波数と同じであった。よって、トロンビンは、この微粒子にほとんど非特異吸着することはないと判断された。
トロンビン濃度と交差周波数の関係をプロットした図13からは、トロンビン濃度が400 nM以下の範囲では、交差周波数の測定結果からトロンビン濃度を算出し得ることが確認された。このように、アプタマー修飾PS微粒子とトロンビンを含有する溶液とを混合して反応させた後、マイクロ流路型デバイスを用いて交差周波数を測定することにより、トロンビンを標識化したり、未反応トロンビンを洗浄したりすることなく、試験溶液中のトロンビン濃度を簡便に定量できることが確認された。
トロンビン以外の標的物質を定量する場合には、当該標的物質と特異的に結合するアプタマーをPS微粒子に固定し、上記と同様にして検量線を作成することにより、試験溶液中の標的物質濃度を定量し得る。
本発明は、生化学、医学、薬学等の技術分野において有用である。
1:マイクロ流路型デバイス
2:ガラス基板(絶縁性基板)
3:電極a
a1〜a4:電極aのバンド電極
3c:電極aの接続部
3d:電極aのリード部
4:電極b
b1〜b4:電極bのバンド電極
4c:電極bの接続部
4d:電極bのリード部
5:枠状の絶縁性薄膜
6a,6b:スペーサー
7a,7b:リード線
8:ガラス基板
9:凸部

Claims (3)

  1. アプタマーを利用する標的物質の定量方法であって、
    前記定量方法は、
    マイクロ流路型デバイスを利用し、標的物質を誘電泳動法によって定量する定量方法であり、
    前記マイクロ流路型デバイスは、
    基板と、
    基板上に配置される交互くし型マイクロバンドアレイ電極と、
    前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極のバンド電極が露出するように前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極上に配置される絶縁性薄膜と、
    前記絶縁性薄膜上に配置されるスペーサーと、
    前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極に対向するように前記スペーサー上に配置される絶縁性基板とを備え、
    前記定量方法は、
    標的物質と特異的に結合するアプタマーを表面に結合させた微粒子と、標的物質を含有する試料溶液とを混合する工程Aと、
    微粒子と混合された試料溶液を前記マイクロ流路型デバイスのバンド電極上に導入する工程Bと、
    前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極を観察しながら、前記交互くし型マイクロバンドアレイ電極のバンド電極間に印加する交流電圧の周波数を経時的に変化させ、誘電泳動により微粒子が集積化されるまでの時間から、交差周波数を計測する工程Cと、
    前記微粒子と既知濃度の標的物質を含有する標準溶液とを混合した結果得られた、標的物質濃度と交差周波数との関係をプロットしたグラフから、試料溶液中の標的物質濃度を算出する工程Dと、
    を有する、定量方法。
  2. 前記微粒子は、
    表面にアミノ基を導入されたポリスチレン製である、平均粒子径が10nm以上3μm以下である微粒子であり、
    アプタマーが架橋化剤を介してアミノ基と結合された微粒子である、
    請求項1に記載の定量方法。
  3. 前記アプタマーが配列番号1に示される塩基配列を有するアプタマーであり、
    前記標的物質がトロンビンである、
    請求項1又は2に記載の定量方法。
JP2018069360A 2018-03-30 2018-03-30 アプタマーを利用する標的物質の定量方法 Active JP7085190B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018069360A JP7085190B2 (ja) 2018-03-30 2018-03-30 アプタマーを利用する標的物質の定量方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018069360A JP7085190B2 (ja) 2018-03-30 2018-03-30 アプタマーを利用する標的物質の定量方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019178985A true JP2019178985A (ja) 2019-10-17
JP7085190B2 JP7085190B2 (ja) 2022-06-16

Family

ID=68278252

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018069360A Active JP7085190B2 (ja) 2018-03-30 2018-03-30 アプタマーを利用する標的物質の定量方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7085190B2 (ja)

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN112226360A (zh) * 2020-08-14 2021-01-15 南京原码科技合伙企业(有限合伙) 呼气中病原体自动检测系统及方法
WO2022033395A1 (zh) * 2020-08-14 2022-02-17 南京原码科技合伙企业(有限合伙) 一种病原微生物的快速浓缩装置及方法
WO2022196264A1 (ja) * 2021-03-18 2022-09-22 パナソニックIpマネジメント株式会社 検出方法及び検出装置
WO2022224846A1 (ja) * 2021-04-23 2022-10-27 パナソニックIpマネジメント株式会社 検出方法及び検出システム

Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2013238463A (ja) * 2012-05-15 2013-11-28 Hyogo Prefecture 誘電泳動を利用する細胞識別方法
US20160209299A1 (en) * 2013-08-29 2016-07-21 Apocell, Inc. Method and apparatus for isolation, capture and molecular analysis of target particles

Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2013238463A (ja) * 2012-05-15 2013-11-28 Hyogo Prefecture 誘電泳動を利用する細胞識別方法
US20160209299A1 (en) * 2013-08-29 2016-07-21 Apocell, Inc. Method and apparatus for isolation, capture and molecular analysis of target particles

Non-Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
山川烈, 今里浩子: "2.誘電泳動現象を用いた生体細胞の分離", ELECTROCHEMISTRY, vol. 82, no. 11, JPN6022019509, 5 November 2014 (2014-11-05), pages 1000 - 1006, ISSN: 0004778468 *
岡崎仁, 安川智之: "DNA修飾ポリスチレン微粒子の交差周波数の計測", 日本分析化学年会講演要旨集, vol. 66, JPN6022019510, 26 August 2017 (2017-08-26), pages 343, ISSN: 0004778469 *

Cited By (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN112226360A (zh) * 2020-08-14 2021-01-15 南京原码科技合伙企业(有限合伙) 呼气中病原体自动检测系统及方法
WO2022033395A1 (zh) * 2020-08-14 2022-02-17 南京原码科技合伙企业(有限合伙) 一种病原微生物的快速浓缩装置及方法
CN112226360B (zh) * 2020-08-14 2024-05-24 南京原码科技合伙企业(有限合伙) 呼气中病原体自动检测系统及方法
WO2022196264A1 (ja) * 2021-03-18 2022-09-22 パナソニックIpマネジメント株式会社 検出方法及び検出装置
WO2022224846A1 (ja) * 2021-04-23 2022-10-27 パナソニックIpマネジメント株式会社 検出方法及び検出システム

Also Published As

Publication number Publication date
JP7085190B2 (ja) 2022-06-16

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP7085190B2 (ja) アプタマーを利用する標的物質の定量方法
Guo et al. Ultrasensitive multiplexed immunoassay for tumor biomarkers based on DNA hybridization chain reaction amplifying signal
Filik et al. Electrochemical immunosensors for the detection of cytokine tumor necrosis factor alpha: a review
US5869244A (en) Procedure for the analysis of biological substances in a conductive liquid medium
US6562577B2 (en) Procedure for the analysis of biological substances in a conductive liquid medium
Gong et al. Bipolar silica nanochannel array confined electrochemiluminescence for ultrasensitive detection of SARS-CoV-2 antibody
KR100564724B1 (ko) 유전영동력을 이용한 물질의 분리방법
Darain et al. Development of an immunosensor for the detection of vitellogenin using impedance spectroscopy
Qi et al. Ultrasensitive electrogenerated chemiluminescence peptide-based method for the determination of cardiac troponin I incorporating amplification of signal reagent-encapsulated liposomes
Zhao et al. All-solid-state SARS-CoV-2 protein biosensor employing colloidal quantum dots-modified electrode
Parmin et al. Voltammetric determination of human papillomavirus 16 DNA by using interdigitated electrodes modified with titanium dioxide nanoparticles
Li et al. Impedance labelless detection-based polypyrrole protein biosensor
JP2002523746A5 (ja)
JP2010526311A (ja) インピーダンスセンサー及びその利用
Han et al. Electrochemical signal amplification for immunosensor based on 3D interdigitated array electrodes
Li et al. A novel DNA biosensor integrated with Polypyrrole/streptavidin and Au-PAMAM-CP bionanocomposite probes to detect the rs4839469 locus of the vangl1 gene for dysontogenesis prediction
US20190234902A1 (en) Method for detecting analytes using dielectrophoresis related applications
Goulart et al. Biomarkers for serum diagnosis of infectious diseases and their potential application in novel sensor platforms
Velmanickam et al. Dielectrophoretic label-free immunoassay for rare-analyte quantification in biological samples
Chen et al. Label-free electrochemical aptasensor based on reduced graphene oxide–hemin–chitosan nanocomposite for the determination of glypican-3
Majumder et al. Impedimetric detection of Banana bunchy top virus using CdSe quantum dots for signal amplification
KR101191232B1 (ko) 바이오 센서 및 이를 이용한 바이오 분자 검출 방법
CN112534251A (zh) 利用介电电泳的微电极生物传感器,以及利用其的生物材料检测方法
JP2021533337A (ja) 電気化学デバイス用の改良型電極
Scherf et al. Electrochemical immunosensors for the diagnosis of celiac disease

Legal Events

Date Code Title Description
A80 Written request to apply exceptions to lack of novelty of invention

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A80

Effective date: 20180418

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20210315

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20220524

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20220530

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7085190

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150