(発明の詳細な説明)
本発明は、ポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定化剤としての使用に基づく、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法、組成物およびデバイス、したがって技術に関する。異なる分子量および様々な濃度のポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばポリエチレングリコールが安定化剤として有効であることが示されている。さらに、他の安定化剤との有利な組み合わせを記載する。本発明の方法および組成物で達成される安定化は、安定化された試料の室温で長期間の保管および/または取り扱いを可能にする。
本明細書に開示する安定化技術は、細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団が汚染されることになる、したがって、その試料に含有されている損傷細胞および/または死細胞に由来する細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAで希釈されることになるリスクを低減させる。試料を得た時点で細胞外核酸集団の組成が安定化され、したがって、実質的に保存されるので、試料採集と核酸単離の間の時間は、その細胞外核酸集団の組成に対する有意な負の影響なく、好適な安定化期間内で変更することができる。これは、異なる取り扱い手順に起因する細胞外核酸集団の変動性を低減させるので、重要な利点である。それぞれに安定化された試料から単離される細胞外核酸は、非安定化試料から単離される細胞外核酸と比較して、細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAでの有意に少ない汚染を含む。記載の安定化技術は、試料の取り扱い/保管の変動が、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の質に、それぞれに組成およびしたがってプロファイルにあまり影響を及ぼさないので、診断または予後予測の細胞外核酸分析の標準化を改善し、それによって、細胞外核酸画分に基づく診断または予後予測応用を、より信頼性の高いものにし、かつ用いる保管/取り扱い条件への依存がより低いものにする。達成される実質的な保存は、細胞外核酸を分析することを目的とする任意の後の試験の精度を向上させるため、重要な利点である。それによって、それぞれに単離された細胞外核酸の診断および予後予測応用可能性が改善される。本明細書に記載する特定の実施形態には、細胞外核酸の集団に含まれているある一定の細胞外核酸分子の比をより一定に保つことができ、したがって、前記比がその生体試料を採集した時点で存在した比により匹敵するという利点がある。したがって、有利なことに、細胞外核酸集団のプロファイルを保存することができる。それ故、それぞれの細胞含有生体試料の分析、それぞれに、それぞれに安定化された試料から得られる細胞外核酸の分析は、より同等になる。
さらに、本発明の教示は、保管/配送中に死滅または崩壊する細胞から別様に放出される細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAでの細胞外核酸の汚染を回避するため、それぞれに低減させるために、生体試料に含有されている細胞をその試料の無細胞部分から直接分離する必要を不要にする。この利点は、全血試料などの細胞含有生体試料の取り扱いを相当簡単にする。しかし、本発明の教示は、細胞枯渇生体試料、または例えば血漿もしくは血清などの「無細胞」と一般に呼ばれる試料を処理するときにも有利である。それぞれの細胞枯渇または「無細胞」生体試料は、ゲノムDNAを含む残留細胞、特に白血球を(用いられる分離プロセスにも依存して)まだ含むことがある。前記残留細胞は、それらの残存する(潜在的に)細胞が配送プロセスまたは保管プロセス中に損傷されるか死滅する場合、細胞外核酸集団が細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAでますます汚染されることになるというリスクをもたらす。このリスクは、本発明が教示する安定化方法を用いると相当低減される。それ故、本発明には、大量の細胞を含む生体試料、例えば血液試料などを安定化するときに多くの利点があり、しかし、例えば、血漿、血清、尿、唾液、滑液、羊水、涙液、リンパ液、髄液(liquor)、脳脊髄液などのような、より少ないもしくはほんの少量の細胞を含む、または細胞を含有すると疑われるだけかもしれない生体試料を安定化するときにも重要な利点がある。
さらに、細胞含有試料中の細胞外核酸集団を安定化するための、モノ−エチレングリコールの使用を記載し、ここで、必要に応じて、モノ−エチレングリコールを、ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび/または本明細書に記載するさらなる安定化剤のうちの1つ以上と併用する。
A.安定化方法
第一の態様に従って、細胞含有生体試料を、安定化剤としての少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと、または安定化剤としてのモノ−エチレングリコールと接触させるステップを含む、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の安定化に好適な方法を提供する。ポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化剤として使用する利点は上に記載した。
好ましくは、第一の態様による方法は、細胞含有生体試料を安定化剤としての少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと接触させるステップを含む。用語ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、詳細には、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを指す。それは、少なくとも2つのエチレンオキシド単位を含む。低分子量および高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが公知である。それらの分子量は、通常、そのモノマーの分子量である44の倍数(multitutes)であり、100000までに及ぶことができる。分子量は、Daで示される。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、線状であってもよいし、または分岐していてもよく、または他の幾何形状を有してもよい。線状ポリ(オキシエチレン)ポリマーが好ましい。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、非置換であってもよいし、置換されていてもよく、好ましくはポリエチレングリコールである。実施例で実証するように、ポリエチレングリコールは、様々な分子量で、および様々な濃度で、細胞に対する安定化効果を有し、したがって、ポリエチレングリコールを単独で、または他の安定剤と併用して、細胞含有試料中の細胞外核酸集団を、詳細には、細胞内核酸、例えば特にゲノムDNAによる細胞外核酸集団の希釈を低減することによって安定化することができる。しかし、ポリエチレングリコールについて示したような安定化効果を達成する他のポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用してもよい。述べたように、安定化効果を有する置換ポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば、アルキルポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばアルキルポリエチレングリコールを使用してもよいが、ポリ(オキシエチレン)エステル、ポリ(オキシエチレン)アミン、ポリ(オキシエチレン)チオール化合物、ポリ(オキシエチレン)グリセリドなども使用してよい。安定剤として使用されるポリ(オキシエチレン)ポリマーの好ましい実施形態は、ポリエチレングリコールである。それは、好ましくは分岐しておらず、および非置換であってもよくまたは置換されていてもよい。公知置換形態のポリエチレングリコールとしては、例えば一方または両方の末端がC1−C5アルキル基で置換されている、アルキルポリエチレングリコールが挙げられる。好ましくは、式HO−(CH2CH2O)n−Hの非置換ポリエチレングリコールを使用する。本出願においてポリ(オキシエチレン)ポリマーについて一般に記載するすべての開示は、たとえ明確に述べていなくても、好ましい実施形態ポリエチレングリコールに具体的に当てはまり、好ましい実施形態ポリエチレングリコールを特に指す。様々な分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用することができる。好ましくは、用語ポリエチレングリコールは、具体的には好ましい実施形態ポリエチレングリコールにも当てはまるポリ(オキシエチレン)ポリマーについて本明細書に好適および好ましいと明記する分子量からも明白であるように、オリゴまたはポリマーを指す。
ポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定化効果とその分子量との間に相関関係を見いだした。低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーより高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーのほうが、より有効な安定剤であることが判明した。低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーでの効率的安定化を達成するためには、一般に、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと比較して高い濃度が推奨される。しかし、血液試料などの一部の応用例については、安定化のために使用する添加剤の量を低く保つほうが好ましい。したがって、より高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーは、より低濃度の当該ポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用を可能にする上に、細胞外核酸集団に対して強い安定化効果を達成するので、複数の実施形態において安定剤として使用される。
したがって、1つの実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定剤として使用し、細胞含有試料と接触させる。前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1500から50000、1500から40000、2000から40000、3000から40000、2000から30000、2500から30000、2500から25000、3000から20000、4000から20000、3500から15000、3000から10000、4000から10000、4500から10000、4500から9000、4500から8000、5000から8000、5000から7000および5500から7000より選択される範囲に存する分子量を有してよい。実施例によって実証するように、多くの異なる高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを本発明と関連して使用することができる。好適な高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーも本発明の異なる態様および実施形態に関連して記載する。これらの分子量は、ポリエチレングリコール、特に、非置換ポリエチレングリコールの使用に特に好ましい。非置換ポリエチレングリコールを実施例でも使用した。特定の分子量を有するポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、当業者には周知であるように、製造条件に従ってある一定の範囲内で変動し得る。
高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、細胞含有試料に含有されている細胞外核酸集団の安定化を発揮するかまたは支援する濃度で使用する。当業者は、例えば、実施例に記載する試験アッセイで異なる濃度の特定の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを試験することによって、異なる試料タイプについての好適な濃度を決定することができる。実施例によって実証するように、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、様々な濃度で有効である。達成される安定化効果および好ましい濃度は、1つ以上のさらなる安定剤を使用するかどうかにも依存する。好ましい組み合わせを本明細書に記載する。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.05%から4%(w/v)、0.1%から3%(w/v)、0.2%から2.5%(w/v)、0.25%から2%(w/v)、0.3%から1.75%(w/v)、および0.35%から1.5%(w/v)から選択される濃度範囲で含む。1つの実施形態によると、前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、より低い濃度範囲、例えば、0.25%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)、0.35%から1%(w/v)、および0.4%から0.75%(w/v)で使用する。上記濃度範囲は、血液の安定化に特に好適である。1.5%(w/v)以下、1.25%(w/v)以下、1%(w/v)以下の濃度、および特に0.75%(w/v)以下の濃度での高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用は、ある一定の実施形態では有利である。安定剤と血液試料などの細胞含有試料とを含む得られる混合物中、ある一定のより高い濃度で高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用した複数の実施形態において、細胞外核酸の後の単離は、例えばシリカカラムの使用を含むある一定の標準的核酸単離手順を用いたとき、損なわれ得ることもあることが判明した。しかし、殆どの標準的核酸単離方法と適合性である安定化技術の使用、および広く使用されており確立されている細胞外核酸を単離するためのシリカカラムの使用は、有利である。試料を含有する安定化混合物中、1.5%(w/v)以下、1.25%(w/v)以下、1%(w/v)以下または0.75%以下の濃度での高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用は、かかる標準的方法を用いて、より大きな体積の安定化組成物を使用した場合でも、安定化された試料から細胞外核酸を良好な収率で効率的に単離することができることを支持する。これは、細胞外核酸集団に含まれている細胞外核酸および特に特定の標的核酸がほんの数コピーのみで存在することが多いので、有利である。本明細書に記載する安定化技術は、イオン交換に基づくものを含めた他の核酸単離方法とも適合性である。実施例で実証するように、観察される障害(impairment)は、高分子量(ポリオキシエチレン)ポリマーを含有する安定化組成物の使用体積にも依存する。より小さい体積の安定化組成物の安定化への使用は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをより高濃度で使用した場合でもその障害を補償することができ、したがって、後の核酸単離を損なわせない。それ故、試料を含有する混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの全体の濃度を低下させること、および/または高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含有する安定化(stabilsation)組成物の体積を低減させることは、障害を低減させるまたはさらには回避するための代替選択肢である。実施例において実証されるこの体積依存効果は、有意であり、および試料を含有する混合物中の全体の濃度は同じであるので非常に驚くべきことであった。
1つの実施形態によると、安定化のために使用するポリ(オキシエチレン)ポリマーは1500未満の分子量を有し、および1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであってもよい。細胞含有生体試料の細胞外核酸集団に対する安定化効果を発揮するかまたは支援することができる濃度でそれを使用する。当業者は、例えば、実施例に記載する試験アッセイにおいて異なる濃度を試験することにより、異なる試料タイプについての好適な濃度を決定することができる。それぞれのポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、細胞含有生体試料を前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物中に、0.5%から10%、1.5%から9%、2%から8%、2から7%、2.5%から7%、および3%から6%から選択される濃度範囲で存在することができる。前記百分率値は、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが固体である場合には(w/v)を指し、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体である場合には(v/v)を指す。示した濃度は、血液試料の場合の使用に特に好適である。少なくとも1%、好ましくは少なくとも1.5%というより高い濃度は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが細胞外核酸集団の安定化を達成(または支援)するのに有利である。実施例で実証するように、1500以下、例えば1000以下の分子量を有するポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばポリエチレングリコールも、特にゲノムDNAでの希釈を低減させることによって、細胞外核酸集団に対する安定化効果を示す。実施例は、1500以下、例えば1000以下の分子量を有するポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばポリエチレングリコールが、特に、本明細書に記載する1つ以上のさらなる安定化剤、例えばカスパーゼ阻害剤および少なくとも1つの第一級、第二級または第三級アミドと併用した場合に、有効な安定剤であることを実証する。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100から1000、150から800、150から700、好ましくは200から600およびさらに好ましくは200から500、例えば200から400より選択される範囲に存する分子量を有してよい。
1000以下、好ましくは800以下もしくは700以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、より大きな体積の安定化組成物を使用した場合でさえ、安定化された試料からの細胞外核酸の後の単離を実質的に妨げないので、実質的により高い濃度で使用できることが判明した。しかし、安定化効果を達成するために要する量が多すぎる場合、これは、試料の処理および取り扱いに不便であり得る。どちらかと言えば少ない量または体積の安定剤で試料を安定化することが一般に好ましい。これは、特に、例えば血液試料などのある一定の試料の場合、試料に添加することができる安定剤の量は、使用する標準採集チューブによって制限される。例えば、10ml血液を採集するために使用される標準的な採集デバイスについては、おおよそ2ml安定剤を上限として添加することができる。
1つの実施形態によると、分子量が異なる少なくとも2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを、安定化のために使用する。それらは、同じ種類のものであってもよく、好ましくは、両方がポリエチレングリコール、例えば非置換ポリエチレングリコールである。1つの実施形態によると、分子量の差は、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも900、または少なくとも1000である。1つの実施形態によると、分子量の差は、少なくとも2500、少なくとも3500、少なくとも5000または少なくとも7500である。この実施形態の特定の実施形態については後で詳細に記載するように、分子量が異なる2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用することは有利である。本明細書に記載するように、ポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定化効果は、それらの分子量に依存するように見える。試験した実施例において、分子量が高いほど、安定化効率が高いことが判明した。しかし、ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、それらの分子量に依存して後の核酸単離方法に対する効果が異なることがある。上に記載したように、より高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定剤としての使用を含むある一定の実施形態において、特に、試料を含有する安定化用混合物においてより大きな体積の安定化組成物およびより高濃度のポリマーを使用する場合、ある一定の核酸単離方法での核酸の単離があまり効率的でないことが判明した。実施例によって実証するように、ある一定のシナリオで起こるかかる問題点を、分子量が異なるポリ(オキシエチレン)ポリマーの混合物を使用した場合に、克服することができる。したがって、分子量が異なる少なくとも2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化のために使用するこの実施形態は、達成される安定化効果に関して望まれる特徴と例えばある一定の下流での使用に必要とされる特徴とを有するポリ(オキシエチレン)ポリマーのバランスのとれた組成物を提供することが可能であるので、有利である。
1つの実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する、上で定義の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用し、細胞含有試料を両方のタイプのポリ(オキシエチレン)ポリマーと接触させる。適切な実施形態は本明細書中に記載される。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの併用は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーによって試料の有効な安定化を達成するために要する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度を低下させることが可能になるので、有利である。したがって、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、試料との混合物において、シリカカラムを伴うものなどのある一定の標準的方法を用いる、後の核酸単離を、損なわせない濃度で使用することができる。この実施形態は、使用することができる安定化組成物の体積または量に関してより大きな自由を与えるので、有利である。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは安定化を支援するが、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとは対照的に、試験した実施例では、それらの実施例において、より高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが、ある一定の濃度および/または体積で障害効果を示した方法、例えば、シリカカラムを伴う方法を用いたとき、核酸の後の単離に対する有意な障害は認めらなかった。したがって、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの組み合わせを使用する細胞含有試料中の細胞外核酸集団の安定化は、重要な利点を有する特に好ましい実施形態である。前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、上に記載した高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと同じ種類のものであることができる。前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについても、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールを使用することが好ましい。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについての好適な分子量は上に記載した。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、例えば、1500から50000、2000から40000、2500から30000、2500から25000および3000から20000より選択される範囲に存する分子量を有してよい。前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100から1000、150から800、150から700、好ましくは200から600、およびさらに好ましくは200から500(200から400など)より選択される範囲に存する分子量を有してよい。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについての好適なおよび好ましい濃度および濃度範囲は上に記載しており、両方のタイプのポリマーを併用する実施形態においても使用することができる。
1つの実施形態によると、好ましくは血液である細胞含有生体試料を高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーならびに必要に応じて安定化に用いられるさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、0.2%から1.5%(w/v)、好ましくは0.3%から1.25%(w/v)の範囲、およびある実施形態では0.4(w/v)から0.75%(w/v)の範囲に存する濃度の、例えば、3000から40000、好ましくは4000から20000の範囲の分子量を有し得る高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと、1.5%から8%、好ましくは2%から7%、より好ましくは2.5%から6%より選択される範囲に存する濃度の、200から800、好ましくは200から600の範囲に存する分子量を好ましくは有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとを含む。前記高ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについての好適な実施形態はまた、上に記載しており、種々の局面および実施形態と併用される。細胞含有生体試料は、この実施形態では血液であってよく、その血液試料をさらに抗凝固物質と接触させる。抗凝固物質の好適な例は、下記に記載してある。
提供する実施例によって証明するように、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用は、単独では、複数の実施形態では既に、細胞含有試料の安定化には、および細胞外核酸集団のその組成の変化、特に、保管中に損傷した細胞または死細胞から放出される断片化ゲノムDNAでの汚染から生ずる変化を防ぐには有効である。安定化効果は、好ましくはポリエチレングリコールであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを、さらなる安定化剤および/または添加剤と併用した場合でも、有意に改善することができる。ポリ(オキシエチレン)ポリマーとさらなる安定化剤の併用は、達成される安定化効果を有意に改善することが判明した。実施例で実証するように、ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、他の安定化剤、例えばアミドおよびカスパーゼ阻害剤と併用すると、安定化効果を有意に支持および改善する。かかるバランスの取れた組成物は、同様に既存の先行技術よりも優れている達成される安定化効果を有意に改善する。追加の安定化剤および革新的な組み合わせの好適なおよび好ましい実施例を後で記載する。
1つの実施形態によると、細胞含有試料を、さらなる安定化剤としての1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドとさらに接触させる。第一級、第二級および第三級アミドは、細胞含有試料に対する有利な安定化効果を有し、したがって、1つの実施形態では、細胞外核酸集団の安定化を支持するために使用される。組み合わせまたは2つ以上の第一級、第二級または第三級アミドも使用することができる。アミドは、好ましくは、カルボン酸アミドである。
異なる第一級、第二級もしくは第三級アミドおよび/または異なる試料タイプについての好適な濃度は、当業者が、例えば、実施例に記載する試験アッセイで異なる濃度を試験することにより決定することができる。一般に、細胞含有生体試料を少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させたときに得られる混合物は、前記アミド(またはアミドの組み合わせ)を、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%または少なくとも0.75%の濃度で含んでよい。好適な濃度範囲としては、0.1%から10%、0.25%から7.5%、0.3%から5%、0.4%から3%、0.5%から2%、0.6%から1.8%および0.75%から1.5%が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において用いる場合、百分率値で示す濃度または濃度範囲を、詳細には、固体アミドについては体積当たりの重量(w/v)百分率として与え、液体アミドについては体積当たりの体積(v/v)百分率で与える。
1つの実施形態によると、第一級、第二級または第三級アミドは、式1
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、さらに好ましいC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基、好ましくはアルキル残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である)
に従う化合物である。
安定化のために、ポリ(オキシエチレン)ポリマーに加えて、式1に従う1つ以上の化合物の組み合わせも使用することができる。
R1が、アルキル残基である複数の実施形態では、R1については1または2の鎖長が好ましい。
式1に従う化合物のR2および/またはR3は同一であり、または異なり、水素残基および炭化水素残基より選択され、好ましくは、アルキル残基である。1つの実施形態によると、R2およびR3は両方とも水素である。1つの実施形態によると、R2およびR3のうちの一方は水素であり、他方は炭化水素残基である。1つの実施形態によると、R2およびR3は、同一のまたは異なる炭化水素残基である。炭化水素残基R2および/またはR3は、互いに独立して、アルキル(短鎖アルキルおよび長鎖アルキルを含む)、アルケニル、アルコキシ、長鎖アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ハロアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アルキレン、アルケンジイル、アリーレン、カルボキシレートおよびカルボニルを含む群より選択することができる。R2および/またはR3の鎖長nは、特に、値1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および20を有することができる。1つの実施形態によると、R2およびR3は、1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましい1〜2の炭素鎖長を有する。1つの実施形態によると、R2および/またはR3は、アルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基である。
好ましくは、式1に従う化合物は、カルボン酸アミドであり、したがって、R4は酸素である。それは、第一級、第二級または第三級カルボン酸アミドであることができる。
一つの実施形態において、式1に従う化合物は、N,N−ジアルキル−カルボン酸アミドである。好ましいR1、R2、R3およびR4基は、上に記載してある。式1に従うそれぞれの化合物の使用には、さらに、細胞含有試料中の細胞内核酸、例えば、特にRNA、例えばmRNAおよび/またはmiRNA転写産物を安定化することができるという利点がある。細胞内核酸、特に、遺伝子転写産物レベルのこのさらなる安定化は、例えば、含有される細胞における標的転写産物または転写産物プロファイルの後の分析を可能にするので、有利である。1つの実施形態によると、式1に従う化合物は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジエチルホルムアミドから成る群より選択される。R4として酸素ではなく硫黄を含むそれぞれのチオ類似体も好適である。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAA)は、例えば良好な安定化結果を達成するが、毒性物質である。好ましくは、細胞含有生体試料を安定化するために、少なくとも1つの式1に従う化合物を、GHS分類に従って毒性物質ではないポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用する。
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を、安定化のために、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、およびN,N−ジアルキルプロパンアミド、例えばN,N−ジメチルプロパンアミドである式1に従う化合物と接触させる。実施例で実証するように、それぞれの組み合わせが、細胞含有試料、例えば血液試料中の細胞外核酸集団を安定化するために特に好適である。
1つの実施形態によると、細胞含有試料をポリ(オキシエチレン)ポリマー、および少なくとも1つの、第一級または第二級カルボン酸アミドである式1に従う化合物と接触させる。参照により本明細書に組み込まれる未公開US61/803,107およびEP13 160 896.0(公開されたWO2014/146781を参照されたい)の実施例から明らかなように、第一級および第二級カルボン酸アミドは、広範な濃度範囲にわたって細胞外核酸集団を安定化することができる。1つの実施形態によると、第一級カルボン酸アミドは、ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミドおよびブタンアミドから成る群より選択される。ブタンアミドは、本実施例で実証するように、細胞外核酸集団を安定化するのに特に有効であり、さらに、無毒性であるので、好ましくは、第一級カルボン酸はブタンアミドである。ブタンアミドの細胞含有試料の細胞外核酸集団に対する安定化効果は、参照により本明細書に組み込まれる、未公開出願EP13 159 834.4およびEP13 180 086.4(公開されたWO2014/146780およびWO2014/146782を参照されたい)にも詳細に記載されている。
好ましい実施形態に従って、細胞含有試料を、安定化のために、好ましくはポリエチレングリコールであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、およびブタンアミドおよび/またはN,N−ジアルキルプロパンアミドと接触させ、前記N,N−ジアルキルプロパンアミドは、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。上で一般に記載した第一級、第二級および第三級アミドについての好適なおよび好ましい濃度および濃度範囲は、一般に、この実施形態に具体的に当てはまる。実施例によって証明するように、ブタンアミドおよび/またはN,N−ジアルキルプロパンアミドをこれらの範囲に存する濃度で使用することは、細胞含有試料、例えば血液試料に対して有利な安定化効果をもたらす。
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を上記のポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤と接触させる。異なるカスパーゼ阻害剤の組み合わせを使用することも本発明の範囲内である。実施例によって証明するように、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば好ましくは高分子量ポリエチレングリコールとカスパーゼ阻害剤の併用は、達成される安定化効果を有意に改善する。さらに、特に、大量の細胞を含有する生体試料であって、さらにそれらの組成が異なる生体試料、例えば血液試料などに関して、達成される安定化効果がより強く、より均一であることが判明した。例えば、異なるドナーに由来する血液試料は、エクスビボでの取り扱い中に発生する細胞外核酸集団の変化が異なることがある。一部の試料は、細胞外核酸集団のプロファイルの強い変化(特に、ゲノムDNAの強い増加)を示すが、他の試料では、前記効果があまり顕著でない。かかる試料はまた、安定化に対して異なった反応をし得る。異なるドナーから得た血液試料を安定化するためにポリ(オキシエチレン)ポリマーをカスパーゼ阻害剤および好ましくはさらに上記の1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドと併用すると、より均一な安定化効果を達成することができる。得られる混合物中に存在するカスパーゼ阻害剤は、細胞外核酸集団の安定化を有意に支持する。さらに、試料中に存在する核酸、特にゲノムDNAの分解は、安定化剤の前記組み合わせによって低減される。したがって、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばポリエチレングリコールと少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤の併用は、安定化効果を有意に改善し、それによって、試料に含有されている細胞外核酸集団を、生体試料を得、それぞれに採集した時点でその集団が示した状態に、長期保管期間中でさえ、実質的に保存することを支持する。
好ましくは、カスパーゼ阻害剤は細胞透過性である。カスパーゼ遺伝子ファミリーのメンバーは、アポトーシスに重要な役割を果たす。個々のカスパーゼの基質選好または特異性は、カスパーゼと結合についてうまく競合するペプチドの開発に活用されている。カスパーゼ特異的ペプチドを例えばアルデヒド化合物、ニトリル化合物またはケトン化合物にカップリングさせることによりカスパーゼ活性化の可逆的または不可逆的阻害剤を生成することができる。例えば、Z−VAD−FMKなどのフルオロメチルケトン(FMK)誘導体化ペプチドは、追加の細胞毒性効果のない有効な不可逆的阻害剤として作用する。N末端およびOメチル側鎖にベンジルオキシカルボニル基(BOC)を有する、合成された阻害剤は、細胞透過性増強を呈示する。C末端にフェノキシ基を有する、さらなる好適なカスパーゼ阻害剤が合成される。例はQ−VD−OPhであり、これは、カスパーゼ阻害剤Z−VAD−FMKよりアポトーシスの防止およびしたがって安定化の支援にさらにいっそう有効である、細胞透過性の不可逆的広域カスパーゼ阻害剤である。
1つの実施形態によると、カスパーゼ阻害剤は、汎カスパーゼ阻害剤、したがって、広域カスパーゼ阻害剤である。1つの実施形態によると、前記カスパーゼ阻害剤は、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含む。好ましくは、前記カスパーゼ特異的ペプチドは、アルデヒド化合物、ニトリル化合物またはケトン化合物によって改変されている。1つの実施形態によると、前記カスパーゼ特異的ペプチドは、O−フェノキシ(OPh)基またはフルオロメチルケトン(FMK)基で好ましくはカルボキシル末端が修飾されている。1つの実施形態によると、前記カスパーゼ阻害剤は、Q−VD−OPhおよびZ−VAD(OMe)−FMKから成る群より選択される。好ましい実施形態では、カスパーゼの広域阻害剤であるQ−VD−OPhを安定化のために使用する。Q−VD−OPhは、細胞透過性であり、アポトーシスによる細胞死を阻害する。Q−VD−OPhは、極めて高濃度でも細胞に対して毒性でなく、アミノ酸バリンおよびアスパラギン酸にコンジュゲートされたカルボキシ末端フェノキシ基を含む。それは、カスパーゼ−9とカスパーゼ−3、カスパーゼ−8とカスパーゼ−10、およびカスパーゼ−12という3つの主要アポトーシス経路によって媒介されるアポトーシスの防止に等しく有効である(Casertaら、2003)。カスパーゼ阻害剤の例はまた、本明細書中に参考として援用されるWO2013/045457の表1に列挙されている。
生体試料を少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、カスパーゼ阻害剤(またはカスパーゼ阻害剤の組み合わせ)を少なくとも少なくとも0.05μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.5μM、少なくとも0.75μM、
少なくとも1μM、少なくとも1.25μM、少なくとも1.5μM、少なくとも1.75μM、少なくとも2μM、少なくとも2.25μM、2.5μM、少なくとも2.75μM、少なくとも3μM、少なくとも3.25μMまたは少なくとも3.5μMの濃度で含んでよい。細胞含有生体試料およびさらなる添加剤と混合するときのカスパーゼ阻害剤(単数または複数)の好適な濃度範囲としては、0.1μMから25μM、0.75μMから20μM、1μMから15μM、1.5μMから12.5μM、および2μMから10μMおよび3μMから7.5μMが挙げられるが、これらに限定されない。上に挙げた濃度は、単一のカスパーゼ阻害剤の使用、ならびにカスパーゼ阻害剤の組み合わせの使用に適用される。上述の濃度は、特に、汎カスパーゼ阻害剤、特に、改変カスパーゼ特異的ペプチド、例えば、Q−VD−OPhおよび/またはZ−VAD(OMe)−FMKを使用する場合に好適である。上述の濃度は、例えば、全血の安定化に好適である。個々のカスパーゼ阻害剤および/または他の細胞含有生体試料の好適な濃度範囲は、当業者が、例えば、実施例に記載する試験アッセイで異なる濃度のそれぞれのカスパーゼ阻害剤を試験することにより決定することができる。
安定剤の組み合わせを用いて観察される安定化効果は、単独で使用したときの個々の安定化剤のいずれについて観察される効果よりも強く、および/またはより低濃度の個々の安定剤の使用を可能にし、その結果、安定剤の組み合わせ使用を、魅力的な選択肢にする。本明細書に記載するポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばポリエチレングリコールを有する安定化剤の組み合わせには、個々の安定剤よりも良好な安定化効果があり、したがって、有利な実施形態である。さらに、例えば、血液試料を安定化する場合に特に有用である抗凝固物質およびキレート剤などの、さらなる添加剤を安定化のために使用することができる。
本発明の背景技術で論じたように、細胞外核酸は、通常、細胞含有試料の細胞外部分に「裸」で存在せず、例えば、複合体中に放出され、保護されることにより、または小胞などの中に含有されることによりある程度は安定化されている。これは、細胞外核酸が既にある程度、本来安定化されている結果であり、したがって通常は、全血、血漿または血清などの細胞含有試料中のヌクレアーゼによって急速に分解されない。したがって、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸を安定化するつもりの場合、その細胞含有生体試料を得たまたは採集した後の主な問題の1つは、採集された細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の、その細胞含有生体試料に含有されている損傷した細胞または死細胞に由来する細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAによる汚染および希釈である。本発明による安定化技術は、試料中に存在する細胞外核酸を実質的に保護し、例えば、含まれている細胞外核酸の分解を(非安定化試料と比較して、または例えば、血液の場合にはEDTAで安定化した試料と比較して、安定化期間にわたって、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%。少なくとも85%、少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%)阻害するばかりでなく、さらに、得られた細胞含有生体試料中に含有されている細胞からのゲノムDNAの放出を効率的に低減させもする、および/またはそれぞれのゲノムDNAの断片化を低減させもするので、この点において特に有利である。1つの実施形態によると、細胞含有試料中の細胞外核酸集団を安定化するためのポリ(オキシエチレン)ポリマーと、必要に応じて、しかし好ましくは上記のさらなる安定化剤のうちの1つ以上の併用には、安定化期間中、試料に含有されている細胞からのゲノムDNAの放出の結果として生ずるDNAの増加を、非安定化試料と比較して低減させるという効果がある。1つの実施形態によると、ゲノムDNAの前記放出は、非安定化試料と比較して、またはEDTAで安定化されている対応する試料(特に、血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清の場合)と比較して、安定化期間にわたって、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも10倍、少なくとも12倍、少なくとも15倍、少なくとも17倍、または少なくとも20倍低減される。1つの実施形態によると、ゲノムDNAの前記放出は、非安定化試料と比較して、またはEDTAで安定化されている対応する試料(特に、血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清の場合)と比較して、安定化期間にわたって、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%低減される。DNAの前記放出は、例えば、本明細書における実施例セクションに記載するようにリボソーム18S DNAを定量することによって決定することができる。実施例で証明するように、本発明の教示を用いて達成可能な安定化は、安定化期間にわたってDNAのこの放出を著しく低減させる。したがって、1つの実施形態によると、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばポリエチレングリコールを必要に応じて上記の追加の安定化剤のうちの1つ以上、例えば好ましくは1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドおよびカスパーゼ阻害剤と組み合わせて達成される安定化効果の結果、例えば、実施例に記載する18S DNAアッセイで決定可能であるように、安定化された試料に含有されている細胞からのDNAの放出が、安定化期間にわたって、少なくとも下方に最大8倍、少なくとも下方に最大7倍、少なくとも下方に最大5倍低減され、さらに好ましくは、例えば、少なくとも下方に最大4倍低減され、さらに好ましくは、少なくとも下方に最大3倍または好ましくは下方に最大2倍またはさらに少なく低減される。実施例によって証明するように、本発明の方法を用いて、少なくとも3日間の期間にわたる、および本明細書に記載する安定化剤の組み合わせを用いる場合にはさらには6日以上までの、細胞外核酸集団の有効な安定化が達成可能である。例えば、実施例に記載する18S DNAアッセイで決定可能であるように、安定化された試料のより短い保管ならびにより長い保管の間、DNA放出を、複数の実施形態において、少なくとも下方に最大2倍以下に低減させることができる。したがって、本明細書に記載する安定化技術の実施形態によると、本発明による安定化方法を用いると、DNA放出を、3日までまたはさらには6日までの保管およびより長く、下方に3倍以下またはさらには2倍以下低減させることができる。実施例によって実証するように、複数の実施形態では、1から1.5の間の値が達成される。これは、先行技術方法と比較して細胞外核酸集団の安定化の注目すべき改善である。しかし、もちろん、所望される場合には試料をもっと前にさらに処理してもよい。必ずしも達成可能な全安定化期間を使用する必要はない。さらに、安定化に起因する試料の架橋が起こらないような種々の標準的方法を用いてそれぞれに安定化された試料から核酸を効率的に単離することができる。これは、細胞外核酸の分析に依存する分子分析の標準化を大きく単純化および改善する。
安定化効果に寄与し得る好適な添加剤の選択は、安定化すべき細胞含有試料のタイプにも依存する。例えば、細胞含有生体試料として血液を処理する場合、血液凝固を防止するために抗凝固物質がさらに使用される。抗凝固物質は、安定化すべき血液量の凝固を防止することができる濃度で使用する。抗凝固物質は、例えば、ヘパリン、キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸、クエン酸塩またはシュウ酸塩などのカルボン酸の塩、およびこれらの任意の組み合わせから成る群より選択してよい。有利な実施形態では、抗凝固物質はキレート剤である。キレート剤は、有機化合物であって、その有機化合物の2つ以上の原子によって金属と配位結合を形成することが可能である有機化合物である。本発明によるキレート剤としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)およびN,N−ビス(カルボキシメチル)グリシン(NTA)およびさらに例えばシトレートまたはオキサレートが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態によると、EDTAを抗凝固物質として使用する。本明細書において用いる場合、用語「EDTA」は、とりわけ、例えばK2EDTA、K3EDTAまたはNa2EDTAなどのEDTA化合物のEDTA部分を示す。EDTAなどのキレート剤の使用には、DNaseおよびRNaseなどのヌクレアーゼを阻害し、それによって、例えば、ヌクレアーゼによる細胞外核酸の分解を防止するという有利な効果もある。したがって、EDTAなどのキレート剤の使用は、血液とは異なる細胞含有試料を使用する場合にも有利である。さらに、より高濃度で使用される/添加されるEDTAは安定化効果を支援することが判明した。しかし、EDTA単独では、本明細書に記載する目的のために十分な安定化効果を達成しない。しかし、本発明の教示と併用すると、詳細にはポリ(オキシエチレン)ポリマー(および本明細書に記載するさらなる安定化剤、例えば好ましくは第一級、第二級もしくは第三級アミドおよび/またはカスパーゼ阻害剤のうちの1つ以上)と併用すると、EDTAは、上で論じた理由で安定化効果をさらに改善することができる。
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を、ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じて1つ以上の追加の添加剤と接触させたときに得られる混合物中のキレート剤、好ましくはEDTAの濃度は、0.5から40mg/ml、1から30mg/ml、1.6から25mg/ml、5から20mg/mlおよび7.5から17.5mg/mlから成る群より選択される範囲に存する。それぞれの濃度は、血液、血漿および/または血清試料を安定化する場合に特に有効である。当業者が好適な濃度を決定することもできる。
細胞含有試料の安定化をさらに支持するために、それぞれに細胞外核酸集団の保存を支持するために、さらなる添加剤を使用することもできる。それぞれの添加剤の例としては、ヌクレアーゼ阻害剤、特に、RNaseおよびDNase阻害化合物が挙げられるが、これらに限定されない。安定化を支援するためのそれぞれのさらなる添加剤を選択する場合、安定化効果を弱めないおよび/または打ち消さないことに注意すべきである。したがって、例えばカオトロピック剤などの添加剤を、安定化する細胞含有生体試料に含有されている有核細胞の溶解および/もしくは分解をもたらすもしくは支援する、ならびに/または前記生体試料の無細胞画分に含有されている核酸の分解を支援する濃度で使用してはならない。それ故、好ましくは、本明細書中に記載の安定化方法は、(i)有核細胞の溶解を誘導するもしくは促進する添加剤、(ii)一般に細胞の溶解を誘導もしくは促進する添加剤、および/または(iii)細胞含有生体試料の無細胞画分に含有されている核酸の分解をもたらす添加剤の使用を含まない。本明細書に記載する安定化方法は、細胞溶解に基づかず、細胞を保存するので、安定化期間後に細胞含有試料から細胞を分離することができ、その結果、細胞外核酸集団を含む無細胞画分または細胞枯渇画分を得ることを可能にする。本明細書に記載するポリ(オキシエチレン)ポリマーベースの安定化のため、前記細胞外核酸集団は、試料採集および安定化の時点で存在する細胞外核酸集団に実質的に相当するまたは少なくとも近似している。さらに、分離した細胞から核酸を単離することができ、それを分析に利用することができる。上に記載したように、式1に従う化合物を含む組み合わせは、トランスクリプトーム安定化特性も有する。細胞外核酸集団に加えてトランスクリプトームを安定化することにより、それぞれに安定化された試料は、遺伝子発現プロファイリングにも好適である。さらに、それぞれに安定化された試料は、所望される場合には、その同じ安定化された試料からの細胞外核酸集団および細胞内核酸集団の別個の分析を可能にする。
有利な実施形態では、好ましくは血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清である細胞含有生体試料を、
a)少なくとも1500、好ましくは1500から50000、2000から40000、2500から30000、2500から25000、さらに好ましい3000から20000または4500から10000の範囲の分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
b)式1に従う1つ以上の化合物であって、好ましくは、細胞含有生体試料との混合物中の濃度が0.25%から5%、0.3%から4%、0.4%から3%、0.5%から2%または0.75%から1.5%の範囲に存する濃度の化合物;
c)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤であって、好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPh、好ましくは、細胞含有生体試料との混合物中のカスパーゼ阻害剤の濃度が0.1μMから20μM、さらに好ましい0.5μMから10μM、さらに好ましい1μMから10μM、さらに好ましい3μMから7.5μMまたは3μMから5μMの範囲に存する濃度のカスパーゼ阻害剤;
d)必要に応じて、使用される高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量より少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400低い分子量を有する少なくとも1つのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーであって、好ましくは、1000以下の分子量を有する、好ましくは200から800または200から600の範囲の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである、さらなるポリ(オキシエチレン)ポリマー;
e)必要に応じて、キレート剤、さらに好ましくはEDTA
と接触させる。
有利な実施形態では、好ましくは血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清である細胞含有生体試料を、
a)2000から40000、2500から30000、3000から25000、3500から20000または4000から15000の範囲の分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール;
b)式1に従う1つ以上の化合物、好ましくはブタンアミドおよび/またはN,N−ジアルキルプロパンアミド;
c)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPh;
d)100から1000、150から800または200から600の範囲の分子量を有する少なくとも1つの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール;
e)必要に応じて、キレート剤、さらに好ましくはEDTA
と接触させ、
細胞含有生体試料を、安定化のために使用される該添加剤および必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、
− 0.25%から1.25%(w/v)、0.3%から1%(w/v)または0.4%から0.75%(w/v)の範囲に存する濃度の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、
− 0.3%から4%、0.4から3%または0.5から2%の範囲に存する濃度の式1に従う1つ以上の化合物、
− 1μMから10μM、好ましくは3μMから7.5μMの範囲に存する濃度のカスパーゼ阻害剤、ならびに
− 1.5%から10%、2%から8%、2.5から7%および3%から6%の範囲に存する濃度の低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー
を含む。
1つの実施形態によると、本発明による方法は、血液試料中に含まれている細胞外核酸集団を安定化するためのものであり、血液試料を、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、および抗凝固物質と接触させるステップを含み、安定化期間中、血液試料に含有されている細胞から血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される。詳細には、本発明は、血液試料中に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法であって、血液試料を、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド(好適なおよび好ましい例および濃度は、上に記載している)、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および抗凝固物質と接触させるステップを含み、血液試料に含有されている有核細胞から血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される方法を提供する。詳細には、安定化の間、白血球の溶解が防止/低減される。さらに、試料中に存在する核酸の分解は、安定化に起因して低減される。
1つの実施形態では、細胞含有生体試料は、血液試料であり、それを、
a)2000から40000、2500から30000、2500から25000、3000から20000、3500から15000または3000から10000の範囲に存する分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
b)式1に従う1つ以上の化合物;
c)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPh;
d)1000以下、好ましくは100から800、200から600または200から500の範囲の分子量を有する少なくとも1つの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
e)好ましくはキレート剤、さらに好ましくはEDTAである抗凝固物質
と接触させ、
血液試料を、安定化のために使用される該添加剤および必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、
− 0.2%から1.5%(w/v)、0.25%から1.25%(w/v)、0.3%から1%(w/v)または0.4%から0.75%(w/v)の範囲に存する濃度の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、
− 0.3%から4%、好ましくは0.5から3%、さらに好ましい0.5%から2%または0.75%から1.5%の範囲に存する濃度の式1に従う1つ以上の化合物、
− 1μMから10μM、好ましくは3μMから7.5μMの範囲に存する濃度のカスパーゼ阻害剤、および
− 1.5%から10%、好ましくは2%から6%の範囲に存する濃度の低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー
を含む。
1つの実施形態によると、方法は、血液試料中に含まれている細胞外核酸集団を安定化するためのものであり、血液試料を、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、ブタンアミドおよび/またはN,N−ジアルキルプロパンアミド、例えばN,N−ジメチルプロパンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、ならびに抗凝固物質と接触させるステップを含み、血液試料に含有されている細胞から血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される。好ましくは、前記安定化効果は、少なくとも3日、さらに好ましい最大6日以上にわたって達成される。上に記載したように、安定化期間全体での、含有されている細胞からのDNAの放出は、好ましくは、最大2倍を超えず、好ましくは、さらにはおよそ1.5倍以下である。
複数の実施形態では、本発明による方法を用いて血液試料を安定化する場合のさらなる利点は、安定化期間中、溶血が有意に低減され得ることである。1つの実施形態では、安定化のために使用されるポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび1つ以上の追加の剤は、水を含有する安定化組成物中に含まれる。実施例は、この実施形態が、非安定化試料または標準的EDTA血液試料と比較して、およびさらには他の安定化された試料と比較して、赤血球の溶血を有意に低減させることを実証する。溶血は、赤血球の破裂であり、そしてそれらの細胞質の周囲の細胞外液への、例えば血漿への放出である。放出されるヘモグロビンが血清または血漿を赤色に見えるようにするので、溶血の程度を例えば目視検査によって分析することができる。インビトロ溶血の大半の原因は、検体採集に関係づけられる。しかし、インビトロ溶血は、通常、エクスビボ保管中の血液試料でも適正な安定化方法を用いないと発生する。目的の細胞外核酸によっては、溶血は相当な問題であり得る。目的の細胞外核酸がDNAである場合、赤血球が核を含有しない、したがって、ゲノムDNAを含有しないので、溶血はあまり問題にならない。それ故、溶血中に赤血球から細胞内DNAは放出されない。目的の細胞外核酸がDNAである場合、特に、白血球の溶解または崩壊は問題である。この場合は細胞内RNAに加えてゲノムDNAが放出されるからである。したがって、目的の細胞外核酸が細胞外DNAである場合、特に、白血球の溶解を回避しなければならない。白血球は、それらの安定特性が互いに異なり得る。したがって、一部のタイプの白血球は他のものより安定している。しかし、一般に、白血球は赤血球より有意に安定している。それ故、赤血球の溶解は、白血球が溶解されたことを必ずしも示すとは限らない。溶解に対する白血球および赤血球のこの異なる感受性をまた、当該技術分野において用いて、例えば、赤血球を特異的に溶解する一方で白血球を保存して例えば白血球の収集を可能にした。しかし、目的の細胞外核酸がRNAである場合、溶血およびしたがって赤血球の溶解は問題となる。成熟赤血球もRNAを含有しないが、それらの前駆体(網状赤血球)は含有する。網状赤血球は、赤血球のおおよそ0.5%から1%を構成し、大量のグロビンRNAを含有する。したがって、特に、目的の細胞外核酸がRNAである場合、細胞外核酸集団、特に細胞外RNA集団のグロビンmRNAでの希釈を低減させるために、保管中の赤血球およびしたがって網状赤血球の溶解を低減させるまたは防止することが有利である。さらに、上に記載したように、組成物およびしたがって細胞外核酸集団のプロファイルを維持することが有利である。実施例によって証明するように、複数の実施形態では、本発明による安定化方法を用いると溶血は効率的に低減される。これは、特に、水を含む安定化組成物を使用する場合にそうである。それによって、細胞外核酸集団は実質的に保存され、さらに、安定化された血液試料、特に、その安定化された血液試料から得られる血漿または血清は、溶血および一般に細胞溶解の防止に起因して、他の標準的実験室分析にも好適である。
ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、安定化組成物中に含まれていてよい。1つ以上のさらなる安定化剤および添加剤をさらに使用する場合、それらも安定化組成物に含まれていてよい、および好ましくは含まれる。好ましくは、細胞含有生体試料を安定化するために本発明の第三の態様による安定化組成物を使用する。
さらに、第一の態様の1つの代替に従って記載したように、安定化すべき細胞含有生体試料を、安定化剤としてのモノ−エチレングリコール(1,2−エタンジオール)と接触させる。モノ−エチレングリコールは、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについて上で記載した濃度で使用することができる。それについてはそのそれぞれの開示を参照し、そのそれぞれの開示はここにも適用される。詳細には、安定化すべき細胞含有生体試料を、モノ−エチレングリコールおよび本明細書に記載する他の安定化剤のいずれか1つ以上、好ましくは少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および/または、好ましくは上で定義した式1に従う化合物である少なくとも1つの第一級、第二級もしくは第三級アミドと接触させることができる。モノ−エチレングリコールは、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用することができる。それぞれの安定化剤の好適な実施形態および濃度範囲は上に記載しており、細胞含有試料およびその中に含まれている細胞外核酸集団を安定化するためまたは細胞含有試料およびその中に含まれている細胞外核酸集団の安定化を支持するためにモノ−エチレングリコールを使用する実施形態にも適用される。
安定化組成物の成分を、溶媒、例えば、水、緩衝液、例えば生物学的緩衝液、例えばMOPS、TRIS、PBSなどに含めることができ、それらにそれぞれ溶解することができる。さらに、前記成分を極性非プロトン溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解してもよく、または前記安定化組成物が極性非プロトン溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を含んでもよい。実施例によって実証するように、水を含有する安定化組成物を使用することは、血液試料を安定化する場合にはこの実施形態が溶血を有意に低減させるので、特に好ましい。
ポリ(オキシエチレン)ポリマーならびに必要に応じて使用されるさらなる安定化剤および/または添加剤は、細胞含有生体試料を採集するためのデバイス、好ましくは容器中に存在してよい。ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じて安定化のためにさらに使用される1つ以上の化合物は、それぞれのデバイスの中に存在する安定化組成物中に存在してもよく、別々の実体として存在してもよい。さらに、それらをそれぞれの採集デバイスに、細胞含有生体試料を採集する前に添加することもでき、採集デバイスに、細胞含有生体試料をそのデバイスの中に採集した後に添加することもできる。安定化剤および必要に応じて使用されるさらなる添加剤(単数または複数)を別々に細胞含有生体試料に添加することも本発明の範囲内である。しかし、取り扱いの容易さのために、ポリ(オキシエチレン)ポリマーならびに使用される任意のさらなる安定化剤および/または添加剤をそれぞれの採集デバイスに、例えば、単一の組成物の形態で提供することが好ましい。しかし、それらが、採集デバイスの中に別々の成分または組成物として存在してもよい。有利な実施形態では、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および必要に応じてさらなる添加剤(単数または複数)、例えば抗凝固物質、例えばEDTAなどが採集デバイスの中に、細胞含有生体試料を添加する前に存在する。これにより、本発明の教示に従って使用する安定化剤と接触すると直ぐに細胞含有生体試料が確実に安定化される。安定化剤は、採集され、それぞれに前記採集容器の中に含まれている細胞含有生体試料量を安定化するのに有効な量で容器の中に存在する。それぞれの採集デバイスについての好適なおよび好ましい実施形態も、第五の実施形態に関連して後で記載し、それについては前記開示を参照する。モノ−エチレングリコールを安定化剤として使用する場合にも同じことが当てはまる。
好ましくは、細胞含有生体試料を、細胞含有生体試料の採集直後および/または採集中に、ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させる。したがって、上に記載したように、好ましくは、安定化のために使用される剤を安定化組成物の形態で提供する。好ましくは、前記安定化組成物を液体の形態で提供する。それを、例えば、細胞含有生体試料が採集中に直ちに安定化されるように試料採集デバイスに予め充填することができる。1つの実施形態によると、安定化組成物を細胞含有試料と、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、1:10から1:5および1:7から1:5、特に約1:6より選択される体積比で接触させる。これらの比は、血液試料の安定化に特に有用である。血液試料の安定化に関しては、安定化組成物が水を含有することが好ましい。細胞含有試料、特に血液試料で得られる混合物中の添加剤の好適なおよび好ましい濃度は上に記載しており、それについてはそのそれぞれの開示を参照する。大きい試料体積の安定化を小さい体積の本発明による安定化組成物で達成できることが本発明の教示の特別な利点である。これによって、特に、上記の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをこのように使用した場合、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと比較して低濃度を使用することが可能になる。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:10から1:5、特に1:7から1:5、例えば約1.6の範囲に存する。
本明細書において用いる場合の用語「細胞含有生体試料」、「細胞含有試料」および類似の用語は、詳細には、少なくとも50、250、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも1500、少なくとも2000、または少なくとも5000細胞を含む試料を指す。1つの実施形態によると、細胞部分は、細胞含有生体試料の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%または少なくとも40%を構成する。細胞画分が40%超を占める、かなりより多くの細胞を含む細胞含有試料も本明細書に記載する教示を用いて安定化することができる。しかし、用語「細胞含有生体試料」は、それぞれの試料が残留細胞を含むことが多いので、細胞枯渇試料(例えば血漿などの一般に「無細胞」と呼ばれる細胞枯渇試料を含む)も指し、したがって前記細胞枯渇試料も包含する。少なくとも、血漿などのいわゆる「無細胞」試料であっても残留量の細胞を含み、したがって、前記「無細胞」試料が、前記残留細胞から放出される細胞内核酸で細胞外核酸集団が汚染されることになるというリスクをもたらすということを完全には排除できないことが多い。それ故、それぞれの細胞枯渇および「無細胞」試料も、1つの実施形態によると、用語「細胞含有生体試料」によって包含される。したがって、「細胞含有試料」は、例えば全血でのように、大量の細胞を含むことがあるが、しかしほんの少量の細胞しか含まないこともある。それ故、用語「細胞含有生体試料」は、細胞を含有するリスクが疑われるだけかもしれない試料または細胞を含有するリスクをもたらすかもしれない試料も包含する。上で論じたように、少量の、それぞれ残留量の細胞しか含まない生体試料、例えば血漿(血漿は、一般に無細胞である言われるが、−調製方法に依存して−通常は少ない残留量の細胞を含有する)に関しても、これらの残留細胞も、含まれている細胞外核酸の望ましくない汚染をもたらすことがあるので、本発明による方法には相当な利点がある。本発明による安定化方法の使用には、細胞含有生体試料の組成およびその試料に含有されている細胞の数に実質的に関係なく、前記試料に含有されている細胞外核酸集団を実質的に保存する、それぞれに安定化することができ、その結果、含有されている細胞外核酸の後の単離および/または分析を標準化することが可能になるという利点がある。
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料は、体液、および体液に由来する細胞含有試料、特に全血、血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清、バフィコート、尿、痰、涙液、リンパ液、汗、髄液、脳脊髄液、腹水、乳、糞便、気管支洗浄液、唾液、羊水、鼻分泌物、膣分泌物、精液/精漿、創傷分泌物、細胞培養物およびスワブ試料より成る群から選択される。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料は、体液、身体の分泌物または身体の排泄物、好ましくは、体液、最も好ましくは、尿、リンパ液、血液、バフィコート、血漿または血清である。特に、細胞含有生体試料は、循環体液、例えば、血液またはリンパ液であり得る。好ましくは、本明細書に記載する教示を用いて安定化される細胞含有生体試料は、ときには全血と呼ばれる、血液試料である。血液試料は、好ましくは、安定化の前に希釈または分画されていない。1つの実施形態によると、血液試料は末梢血である。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料をヒトから得た。細胞含有生体試料は、細胞外部分の中の細胞外核酸を含む。
本明細書において用いる場合の用語「細胞外核酸」(複数)または「細胞外核酸」(単数)は、特に、細胞に含有されない核酸を指す。それぞれの細胞外核酸は、多くの場合、無細胞核酸とも呼ばれる。これらの用語は、本明細書では同義語として用いている。したがって、細胞外核酸は、通常、試料中の1細胞の外部または複数の細胞の外部に存在する。用語「細胞外核酸」は、例えば、細胞外DNAならびに細胞外RNAも指す。例えば体液などの生体試料の無細胞画分(それぞれ部分)において見出される典型的な細胞外核酸の例としては、哺乳動物細胞外核酸、例えば、細胞外腫瘍関連または腫瘍由来DNAおよび/またはRNA、他の細胞外疾患関連DNAおよび/またはRNA、エピジェネティック修飾DNA、胎児DNAおよび/またはRNA、低分子干渉RNA(例えばmiRNAおよびsiRNAなど)など、ならびに非哺乳動物細胞外核酸、例えば、ウイルス核酸、細胞外核酸集団へと例えば原核生物(例えば細菌)、ウイルス、真核寄生虫または真菌から放出される病原体核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。細胞外核酸集団は、損傷細胞または死細胞から放出されたある一定の量の細胞内核酸を通常含む。例えば、血液中に存在する細胞外核酸集団は、損傷細胞または死細胞から放出された細胞内グロビンmRNAを通常含む。これは、インビボで発生する自然プロセスである。細胞外核酸集団中に存在するかかる細胞内核酸は、後の核酸検出方法における対照という目的に役立つこともできる。本明細書に記載する安定化方法は、特に、細胞外核酸集団に含まれている細胞内核酸、例えばゲノムDNAの量が、細胞含有試料を採集した後、その試料のエクスビボでの取り扱いに起因して有意に増加するリスクを低減させる。したがって、エクスビボでの取り扱いのための細胞外核酸集団の変更を低減させ、さらに防止することができる。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料は、例えば血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、脳脊髄液、痰、涙液、汗、羊水またはリンパ液などの体液であるか、またはそれらに由来する。本明細書において、本発明者らは、循環体液、例えば血液またはリンパ液から得られる細胞外核酸を循環細胞外核酸または循環無細胞核酸と呼ぶ。1つの実施形態によると、用語細胞外核酸は、特に、哺乳動物細胞外核酸を指す。例としては、疾患関連または疾患由来細胞外核酸、例えば、腫瘍関連または腫瘍由来細胞外核酸、炎症もしくは傷害、特に外傷に起因して放出される細胞外核酸、他の疾患に関係したおよび/もしくは他の疾患に起因して放出される細胞外核酸、または胎児に由来する細胞外核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載される場合の用語「細胞外核酸」(複数)または「細胞外核酸」(単数)は、他の細胞含有生体試料、特に、体液以外の生体試料から得られる細胞外核酸も指す。通常、試料は、1つより多くの種類またはタイプの細胞外核酸を含む。
本明細書において用いる場合の用語「細胞外核酸集団」は、特に、細胞含有試料に含まれている様々な細胞外核酸の集合体(collective)を指す。細胞含有試料は、通常、特徴的なおよびしたがってユニークな細胞外核酸集団を含む。したがって、特定試料の細胞外核酸集団に含まれる1つ以上の細胞外核酸のタイプ、種類、比および/または量は、重要な試料特性であり得る。上で論じたように、それ故、前記細胞外核酸集団を安定化することおよびしたがって試料を採集した状態で前記細胞外核酸集団を実質的に保存することは重要である。試料の細胞外核酸集団に含まれる1つ以上の細胞外核酸のその組成および/または量は、価値のある医学、予後予測または診断情報を提供することができるからである。したがって、細胞外核酸集団のプロファイルが、意図される安定化期間にわたって効率的に安定化されると有利である。本明細書に記載する安定化技術は、試料採集および安定化後、細胞内核酸による、特にゲノムDNAによる、細胞外核酸集団の汚染およびしたがって希釈を低減させる。かくして、細胞外核酸集団の実質的保存が達成される。実施例によって証明するように、細胞外核酸集団の、含まれている細胞外核酸の量、質および/または組成に関する変化、特に、放出されたゲノムDNAの増加に起因する変化は、安定化期間にわたって、非安定化試料に比べてまたは血液試料もしくは血液由来試料の場合は例えばEDTAによって安定化されている対応する試料に比べて、相当低減される。1つの実施形態によると、T0(安定化時点)から安定化期間の終わり(好ましくは、T0の48時間、72時間または96時間後)までのゲノムDNAの増加は、非安定化試料に比べて、または血液試料もしくは血液に由来する試料の場合は例えばEDTAによって安定化されている対応する試料(例えば、1.5mgEDTA/ml安定化血液試料)に比べて、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%低減される。実施例によって実証するように、特に、カスパーゼ阻害剤および少なくとも1つの第一級、第二級または第三級アミドを併用する実施形態では、80%以上を越える値が達成される。
上に記載したように、および実施例によって実証するように、本発明の方法の使用は、冷蔵および凍結せずに細胞含有試料の長期間の安定化を可能にする。したがって、前記試料を室温でまたはさらには上昇した温度(例えば30℃までもしくはさらには40℃まで)で保持することができる。1つの実施形態によると、安定化効果は、少なくとも3日間、好ましくは少なくとも4日間、より好ましくは少なくとも6日間、達成される。好ましくは、前記安定化期間中、本発明による安定化方法には、試料に含有されている細胞が安定化される、試料に含有されている細胞からその試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される、および/または試料中に存在する核酸の分解が安定化に起因して低減されるという効果がある。特に、記載した安定化期間中、その安定化が、安定化期間中、安定化された生体試料に含有されている細胞に由来するゲノムDNAでの、その試料に含まれている細胞外DNA集団の希釈を低減させる。本発明による方法を用いて達成することができる安定化効果は上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照する。好ましくは前記安定化期間中の安定化は、その安定化期間中、安定化された試料に含有されている細胞に由来する細胞内核酸、特にゲノムDNAでの、その生体試料に含まれている細胞外核酸集団の汚染を低減させる。実施例で証明するように、血液試料を3日までまたはそれより長く室温で安定化することができた。6日までのまたさらにいっそう長い室温でのより長期の保管中でさえ、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、好ましくはカスパーゼ阻害剤および1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドと併用したとき、細胞外核酸集団は(特に、非安定化試料と比較して、または例えば、EDTA処理などの標準的方法を用いて安定化された試料と比較して)実質的に安定化された。実施例によって実証するように、10日という非常に長い安定化期間にわたってさえ、安定化効果が維持された。一般に、これは、前記安定化効果が、たとえ経時的に減少することがあっても起こり得(これは、その細胞含有生体試料を得た源、例えばドナーにも依存し得る)、一般に、細胞外核酸の分析および/またはさらなる処理を可能にするために細胞外核酸集団の組成を保存するのになお十分なものである。したがって、本発明の方法に従って安定化された細胞含有生体試料、特に、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、1もしくはより多くの第一級、第二級もしくは第三級アミド、およびカスパーゼ阻害剤で安定化された試料は、室温での長期保管後でさえ、それらの中に含有されている細胞外核酸の単離および分析になお好適であった。したがって、さらにいっそう長い保管/配送時間が考えられる。しかし、通例の保管および例えば、核酸単離および必要に応じて分析を行う研究所への配送時間は、通常は6または7日を超えず、通常は2または3日後に完了されるので、通常はより長い期間は必要ない。実施例で証明するように、この期間中、安定化効率が特に良好である。しかし、本発明による方法を用いて達成可能である長い安定化時間および安定化効率により、重要な安全係数が得られる。
本発明による方法およびまた後で記載する安定化組成物は、安定化のために本発明の教示に従って使用される安定剤の少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー(これは好ましくはポリエチレングリコールである)および記載した組み合わせが、特に組み合わせで、高活性であるので、添加する小さい体積/量の安定剤での大きな体積の細胞含有生体試料の安定化を可能にする。これは、特に、試料に含有されている細胞外核酸を単離するために自動プロセスを用いることを意図するとき、試料のサイズ/体積がその後の核酸単離手順に対して相当な制限を課すので、重要な利点である。さらに、細胞外核酸は、通常、細胞含有生体試料中に少量でしか含まれないと考えなければならない。したがって、より大きな体積の細胞含有生体試料、例えば血液試料などの処理には、より多くの細胞外核酸をその試料から単離することができ、したがって後の分析に利用できるという利点がある。1つの実施形態によると、第一の態様の方法を用いて安定化される試料体積は、1から50ml、2から35ml、3から25ml、4から20mlおよび5から15mlより選択される。
本明細書に開示する安定化方法は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、ホルムアルデヒド放出剤などのような架橋試薬の使用に基づく細胞含有試料中の細胞外核酸集団の安定化に用いられる現行技術の安定化方法を超える有意な利点を提供する。架橋試薬は、核酸分子間のまたは核酸とタンパク質間の分子間共有結合または分子内共有結合を生じさせる。この架橋効果は、かかる安定化された試料からの核酸の後の単離を著しく損なう可能性があり、通常は、かかる試料からの単離を可能にする特異的に適合させた核酸単離手順が必要になる。例えば、全血試料中の循環核酸の濃度は既に比較的低いので、かかる核酸の収量をさらに低減させるいかなる手段も回避すべきである。これは、例えば悪性腫瘍に由来するまたは妊娠第一期の発育中の胎児に由来する非常に希少な核酸分子を検出および分析するときに特に重要であり得る。実施例によって証明するように、本発明の方法は、安定化のために架橋剤を必要としない。したがって、1つの実施形態によると、本発明による安定化方法は、タンパク質−核酸架橋および/またはタンパク質−タンパク質架橋を誘導する架橋剤の使用を含まない。詳細には、前記安定化は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤の使用を含まない。さらに、上に記載したように、1つの実施形態によると、本発明による安定化方法は、毒性物質と分類される添加剤の使用を含まない。
安定化期間後、前記方法は、以下の1つ以上を含む
a)安定化された試料を核酸分析および/または検出方法に供する;
b)安定化された試料から細胞外核酸を単離する;
c)安定化された試料から細胞外核酸を単離し、単離された核酸を分析および/または検出する;
d)安定化された試料に含まれている細胞を除去する;
e)安定化された試料に含まれている細胞を除去した後、核酸の単離、分析および/または検出ステップを行う;
f)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から細胞外核酸を単離する;
g)(i)安定化された試料、(ii)細胞が除去された安定化された試料および/または(iii)試料から除去された細胞を保管する;
h)安定化された試料から細胞を除去し、廃棄する;および/または
i)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料から除去された細胞から核酸を単離する;
j)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から、サイズ選択的核酸単離方法を用いて細胞外核酸を単離する。
したがって、本発明の方法を用いて安定化された細胞含有生体試料を、核酸分析方法および/もしくは核酸検出方法で分析することができ、ならびに/またはさらに処理してもよい。生体試料の安定化の直ぐ後に核酸の分析が続くこともあり、またはその安定化された試料から先ずは核酸を単離することもある。核酸単離および分析に関する詳細は、本発明の第二の態様に関連して下にも記載し、それについては前記開示を参照する。
B.核酸単離方法
第二の態様に従って、細胞含有生体試料から細胞外核酸を単離するための方法であって、
a)本発明の第一の態様において定義する方法に従って細胞含有生体試料を安定化するステップ;および
b)安定化された試料から細胞外核酸を単離するステップ
を含む方法を提供する。
ステップa)では、本発明の第一の態様に記載の方法に従って、細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化する。上で論じたように、本発明による安定化には、試料に含有されている細胞外核酸集団を、その生体試料を得、それぞれに採集した時点でその集団が示した状態に、安定化期間にわたって実質的に保存することができるという効果がある。詳細には、実施例で実証するように、保管/取り扱い中の、細胞内核酸、特にゲノムDNA、さらに具体的には断片化ゲノムDNAに起因する核酸の通常観察される大きな増加が、効率的に低減またはさらに防止される。.理論に拘束されないが、本明細書に記
載するポリ(オキシエチレン)ポリマーに基づく安定化は、安定化期間中、細胞を安定化し、および/または細胞の破壊を低減させ、その結果、細胞内核酸の放出を低減させると考えられる。前記方法により、所望の安定化期間の後、安定化された試料から細胞画分を分離することが可能になる。したがって、それぞれに安定化された試料から得られる細胞外核酸は、非安定化試料と比較して、分解細胞または死細胞に由来する細胞内核酸での有意に少ない汚染を含み、および特に、より少ない量の断片化ゲノムDNAを含む。さらに、本発明による安定化は、架橋剤の使用を必要としない、および好ましくは架橋剤の使用を含まない。これは、ホルムアルデヒド、ホルマリンまたはホルムアルデヒド放出剤などの架橋剤の使用を含む先行技術法を超える重要な利点である。なぜなら、これらの試薬は、標準的核酸単離技法を用いるとき、回収可能な細胞外核酸量を架橋のために低減させることが多いからである。さらに、上に記載したように、本明細書に記載する安定化により、試料に含有されている細胞を分離する前に、および/またはステップb)で試料に含まれている核酸を単離する前に−室温であっても−長期間、試料を保管すること、および/または取り扱うこと、例えば輸送することが可能になる。ステップa)で行う安定化の詳細に関しては、上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。非限定的な実施形態を再度以下に簡単に記載する。
1つの実施形態によると、例えば全血試料などの細胞含有生体試料を、ステップa)において、
− 上記のとおりの、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと、必要に応じて、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーなどの、高分子量ポリマーより少なくとも100低い分子量を有するさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーとの組み合わせ、
− 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、
− 1つ以上の第一級、第二級および第三級アミド、ならびに
− 必要に応じて、さらなる安定化剤および/または添加剤
を使用して安定化する。
ステップa)で行う本発明による安定化方法の好適なおよび好ましい実施形態ならびに安定化のために使用される化合物は上に記載しており、それについては上記の開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。安定化のための低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、およびブタンアミドおよび/またはN,N−ジアルキルプロパンアミド、例えば好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドの追加の使用が特に好ましい。全血試料を安定化する場合、抗凝固物質、好ましくはキレート剤、例えばEDTAとの組み合わせが好ましい。さらに、上に記載したように、第一の態様の1つの代替によると、安定化すべき細胞含有生体試料を安定化剤としてのモノ−エチレングリコール(1,2−エタンジオール)と接触させる。それについては上記の開示を参照する。
例えば全血での場合のように、細胞含有生体試料が大量の細胞を含む場合、細胞を残りの試料から分離して、安定化された試料の無細胞の、それぞれに細胞低減または細胞枯渇画分を得、次いで、ステップb)においてそれらから細胞外核酸を単離する。したがって、1つの実施形態によると、ステップa)およびステップb)の間に細胞含有試料から細胞を除去する。この中間ステップは、血漿もしくは血清などの少量の残留細胞しか含まない試料を処理する場合、および/または目的の細胞外核酸がDNAである場合、もう用いられないこともある。本発明の安定化のために、含有細胞からの安定化期間中のゲノムDNAの放出が低減されるか、またはさらには防止され、およびさらに、カスパーゼ阻害剤をさらに使用すると、ゲノムDNAの断片化が低減される。本明細書に記載するように、その相当大きいサイズのために、非断片化ゲノムDNAをより小さい細胞外DNAと区別することができる。これにより、サイズ選択的単離プロトコルを使用することによって非断片化ゲノムDNAの存在下でさえ細胞外DNAを選択的に単離することが可能になる。しかし、結果を改善するためには、ステップb)で細胞外核酸を単離する前にその安定化された試料から細胞(または潜在的に残存細胞)を除去して、そうしなければ核酸単離中に細胞から放出される細胞内核酸での細胞外核酸集団の汚染を低減させることが好ましい。含有細胞の除去もまた、目的の細胞外核酸がRNAである場合、細胞内RNAと細胞外RNAを区別することが困難であり得るため、およびさらに細胞外RNAの希釈をそれによって防止することができるので、特に有利である。目的の細胞外核酸がDNAである場合もステップb)の前の細胞枯渇ステップが一般に有利であり、したがって好ましい。なぜなら、これによりステップb)での標準的核酸単離手順の使用が可能になるからである。
細胞含有生体試料のタイプに依存して、細胞(残留細胞を含む)を、例えば、遠心分離、好ましくは高速遠心分離によって、または遠心分離ステップを避けるべき場合には遠心分離以外の手段、例えば濾過、沈降もしくは表面への結合、例えば(必要に応じて磁性)粒子上への結合によって、分離および除去することができる。それぞれの細胞分離方法は先行技術分野において周知であり、したがって、それらを詳細に記載する必要なはい。それぞれの細胞枯渇ステップを自動試料分離プロトコルに容易に含めることもできる。それぞれに除去された細胞を、所望される場合には、さらに処理してもよい。細胞を、例えば、保管することができ、分析することができ、および/または除去された細胞から生体分子、例えば核酸もしくはタンパク質などを単離することができる。さらに、特に、式1に従う化合物、例えばDMPAを細胞含有試料の安定化のためにさらに使用すると、細胞内RNAなどの細胞内核酸を安定化できることが判明した。トランスクリプトームのさらなる安定化は、例えば、インビトロ診断のための重要なバイオマーカーであり得る単離された細胞内核酸中の転写産物のプロファイルの分析を可能にするので、有利である。
さらに、安定化された試料を処理するためのさらなる中間ステップを含めることも本発明の範囲内である。
ステップb)で、好ましくは、安定化された試料の無細胞の、それぞれに細胞枯渇画分から、例えば、安定化された細胞含有試料が血液試料である場合には上清からまたは血漿および/または血清から、細胞外核酸を単離する。細胞外核酸を単離するために、安定化された試料、それぞれに得られた細胞枯渇試料から核酸を単離するのに好適である任意の公知核酸単離方法を使用することができる。それぞれの精製方法の例としては、抽出、固相抽出、シリカベースの精製方法、磁性粒子ベースの精製、フェノール−クロロホルム抽出、クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー(アニオン交換表面を使用)、電気泳動、濾過、沈殿およびこれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。例えば、配列特異的結合を可能にする固体支持体にカップリングされた適切なプローブを使用することによって、特異的標的細胞外核酸を特異的に単離することも本発明の範囲内である。当業者に公知の任意の他の核酸単離技術も使用することができる。
1つの実施形態によると、ステップb)でカオトロピック剤および/またはアルコールを使用して核酸を単離する。好ましくは、核酸を固相、好ましくは、シリカを含むまたはアニオン交換官能基を有する固相に結合させることによって、核酸を単離する。それぞれの方法は先行技術分野において周知であり、したがって、詳細な記載を一切必要としない。細胞外核酸を単離するために好適な方法およびキット、例えば、QIAamp(登録商標)Circulating Nucleic Acid Kit(QIAGEN)、Chemagic Circulating NA Kit(Chemagen)、NucleoSpin Plasma XS Kit(Macherey−Nagel)、Plasma/Serum Circulating DNA Purification Kit(Norgen Biotek)、Plasma/Serum Circulating RNA Purification Kit(Norgen Biotek)、High Pure Viral Nucleic Acid Large Volume Kit(Roche)、ならびに細胞外核酸の抽出および精製に好適な他の市販キット、も市販されている。上に記載したように、特に高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用する実施形態は、広範囲の核酸単離手順を使用して細胞外核酸を高収率で単離することが可能になるので、有利である。上に記載したように、例えば、その後のシリカカラムの使用を伴う核酸単離方法と組み合わせて、少なくとも2000、好ましくは少なくとも3000、さらに好ましい4500から10000の範囲の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと、1000以下、好ましくは150から700、さらに好ましい200から600の範囲の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを併用することが好ましい。上に記載したように、このポリマーの組み合わせは、効率的な安定化のために必要な高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの量を、例えば、安定化すべき細胞含有試料を含有する安定化された混合物中1.5%(w/v)以下、1.25%(w/v)以下、1%(w/v)以下または同様に0.75%(w/v)以下まで減少させることを可能にする。試験した実施例では、これらの低濃度の高分子量ポリマーと低分子量ポリマーの組み合わせは、その後の核酸単離に対して、それがシリカカラムを使用する場合であっても、障害を実質的に示さず、同時に、強力な安定化効果を達成した。さらに、ポリマーの組み合わせを使用したので、低分子量ポリマーの量も減少させることができ、したがって、安定化組成物の必要な体積は許容される範囲内に維持された。しかし、実施例において実証するように、さらなる安定化剤を使用する場合には、1.5%(w/v)以下、1.25%(w/v)以下、1%(w/v)以下または同様に0.75%(w/v)以下のそれぞれに低濃度の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの不在下で使用することもでき、かかる安定化剤の好ましい実施形態は、本明細書に記載する。
1つの実施形態によると、ステップb)において、アニオン交換基を含む固相に核酸を結合させることによってその核酸を単離する。好適なアニオン交換基は、例えば、アミン基によってもたらされる。結合は、好ましくは、7未満のpHで起こる。かかるアニオン交換に基づく核酸単離方法は当業者には公知である。1つの実施形態によると、核酸は細胞外核酸である。好適なアニオン交換に基づく方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2013/045432に記載されている。当該記載の方法は、本明細書に記載する安定化方法を使用して安定化された血液試料から得た血漿由来の細胞外DNAなどの細胞外核酸の単離に特に好適である。
1つの実施形態によると、ステップa)の後に得られる安定化された細胞含有試料から、または必要に応じて、安定化された細胞含有試料から中間ステップで細胞を除去した後に得られる試料から、全核酸を単離する。好ましくは、前記核酸を安定化された試料から、または安定化された試料の無細胞の、それぞれに細胞枯渇画分から単離する。例えば、全核酸を血漿または血清から単離することができ、細胞外核酸はこれらの抽出された核酸中の一部として含まれる。安定化された試料に含有されている細胞を核酸単離前に効率的に除去すると、単離された全核酸は、細胞外核酸を主として含むまたはさらには細胞外核酸から成る。
少なくとも主として特異的標的核酸を単離することも本発明の範囲内である。標的核酸は、例えば、ある一定のタイプの細胞外核酸、例えばDNAまたはRNA(mRNA、ミクロRNAを含む)、他の非コード核酸、エピジェネティック修飾核酸、および他の核酸であることができる。例えば、標的細胞外核酸はDNAであることができ、および非標的細胞外核酸はRNAであることができ、その逆も同じである。DNAまたはRNAの単離を特に目的にする標的特異的核酸単離方法は、先行技術分野において周知であり、したがって、本明細書での詳細な記載を一切必要としない。1つの実施形態によると、非標的核酸を特異的に破壊する適切な酵素、例えば、標的核酸がDNAである場合にはRNase、または標的核酸がRNAである場合にはDNaseを添加することにより、非標的核酸を破壊する。前記酵素を溶解混合物もしくは結合混合物に添加することができ、または細胞外核酸を固相に結合させた後に前記酵素を添加することができる。それぞれの非標的核酸消化ステップを行うための好適な実施形態は先行技術分野において公知であり、したがって、本明細書でのさらなる記載を一切必要としない。DNAおよびRNAを固体支持体に結合させる場合に実施可能な1つの実施形態によると、標的核酸に対して選択的な溶離条件を適用して、固体支持体から標的核酸を主としておよびしたがって選択的に回収することができる。1つの実施形態によると、非標的核酸、例えばRNAが結合しない条件下で標的核酸、例えばDNAを固相に選択的に結合させる単離方法を用いる。好適な結合条件は、先行技術分野において周知であり、例えば、国際公開第95/21849号に記載されている。1つの実施形態によると、非標的核酸の少なくとも一部分を適切な条件下で固相に結合させ、次いで、その固相に結合した非標的核酸を、標的細胞外核酸を含む残りの試料から分離することによって、非標的核酸を除去する。これは、例えば、主に非標的核酸、例えばDNAを固相に結合させるが、非標的核酸、例えばRNAは試料中に残存する条件下で好適な固相を添加し、その非標的核酸、例えばRNAを別のステップでそこから回収することによって達成することができる。標的核酸から非標的核酸を選択的に除去するための好適な方法は、例えば、欧州特許第0880537号明細書および国際公開第95/21849号に記載されており、それらは参照により本明細書に援用されている。所望される場合には、前記非標的核酸をさらに使用してもよく、例えば、固相から溶離するなど、例えば、さらに処理してもよい。しかし、それを廃棄してもよい。例えば、標的核酸の単離後にヌクレアーゼを使用して非標的核酸またはその残存物を消化することも、本発明の範囲内である。
用語標的核酸は、特定の種類の核酸、例えば、ある一定の疾患マーカーであることが公知である特定の細胞外核酸を指すこともある。上で論じたように、細胞外核酸の単離は、例えば、標的核酸の選択的単離を支持する適切な捕捉プローブを使用することによる、それぞれの標的核酸の特異的単離も含むことがある。
用語標的核酸は、ある一定の長さを有する核酸、例えば、5000nt以下、2000nt以下、1000nt以下、900nt以下、800nt以下、700nt以下、600nt以下、500nt以下、400nt以下または350nt以下の長さを有する核酸を指すこともある。ある一定の最大サイズの標的核酸の単離は、本発明に関して有利であり得る。細胞外核酸が、通常、1000ntもしくはそれ未満および通常の場合さらには500ntもしくはそれ未満のサイズを有することは公知である。本明細書に示すサイズ、それぞれにサイズ範囲は、鎖長を指す。すなわち、二本鎖核酸、例えば二本鎖DNAの場合、それはbpを指す。ステップb)におけるより小さい核酸の選択的単離は、単離された核酸中の得られる細胞外核酸部分を増加させることができる。本発明による安定化方法により、特に、ゲノムDNAの放出の阻害および/または放出されたゲノムDNAの断片化の阻害のため、より小さい細胞外核酸集団からのかかる高分子量ゲノムDNAのより効率的な分離が可能になる。本発明による安定化技術を用いるとゲノムDNAと細胞外核酸の間の実質的サイズ差が本質的に保存されるので、例えばサイズ選択的核酸単離プロトコルを用いて、ゲノムDNAをより効率的に除去することができる。この効率的安定化のため、本明細書に記載するように安定化された試料中のゲノムDNA(通常、>10,000bpより大きい)と細胞外核酸(通常、<1000nt/bp)の間のサイズ差が通常は比較的大きいので、ある一定の標的長の核酸を選択的に単離するための公知方法を用いることができる。したがって、1つの実施形態によると、ステップb)は、2000nt以下、1500nt以下、1000nt以下、900nt以下、800nt以下、700nt以下、600nt以下または500nt以下の長さを有する標的核酸を選択的に単離するステップを含む。核酸のそれぞれのサイズ選択的単離を達成するために好適な方法、例えば高分子量ゲノムDNAを枯渇させることによる方法は、先行技術分野において公知であり、したがって、本明細書での詳細な記載を必要としない。標的サイズのDNAの古典的単離方法は、ゲルでのDNAの分離、所望のゲルバンド(単数または複数)の切り出し、そしてその後のゲル断片(単数または複数)からの標的サイズのDNAの単離を含む。別の広く用いられている技術は、ポリエチレングリコールベースの緩衝液でのサイズ選択的沈殿(LisおよびSchleif Nucleic Acids Res.1975 3月;2(3):383−9)またはカルボキシル官能化ビーズ上への結合/沈殿(DeAngelisら、Nuc.Acid.Res.1995、第23巻(22)、4742−3;米国特許第5,898,071号明細書および米国特許第5,705,628号明細書、Beckman−Coulterによって商品化されているもの(AmPure XP;SPRIselect)ならびに米国特許第6,534,262号明細書)である。さらに、アニオン交換基を含む固体支持体および可変pH値の使用に基づくサイズ選択的単離方法が公知である。サイズ選択的単離は、単離された細胞外核酸中の細胞内核酸量を低減させるためのさらなる機会を与える。例えば、目的の標的細胞外核酸がDNAである場合、核酸単離ステップb)中のゲノムDNAの除去は、残留細胞を除去するための核酸抽出を開始する前の血漿試料の別の高g−力遠心分離(high g−force centrifugation)を補うまたはさらには置き換えることもできた。特にカスパーゼ阻害剤をさらに使用すると、前記残留細胞から放出されるゲノムDNAの大量分解が本発明による安定化のために防止され、および従って、ステップb)においてサイズ選択的核酸単離プロトコルを用いることにより前記非断片化または低断片化のゲノムDNAを枯渇させることができる。多くの臨床検査室は、かかる高g−力遠心分離を行うことが可能な遠心分離器または特に微量の残留細胞を除去するための他の手段を持っていないので、この選択肢は特に有利である。
次いで、ステップc)で好適なアッセイおよび/または分析方法を用いてそれらの単離された細胞外核酸を分析および/またはさらに処理することができる。例えば、それらを同定することができ、改変することができ、少なくとも1つの酵素と接触させることができ、増幅することができ、逆転写することができ、クローニングすることができ、配列決定することができ、プローブと接触させることができ、(それらの存在または不在を)検出することができ、および/または定量することができる。それぞれの方法が先行技術分野において周知であり、一般に、医療、診断および/または予後予測分野において細胞外核酸を分析するために応用されている(本発明の背景技術における詳細な記載も参照されたい)。したがって、細胞外核酸をステップb)において必要に応じて全核酸、全RNAおよび/または全DNAの一部として単離(上記参照)した後、それを分析して、例えば、多数の新生物疾患、特に、前悪性疾患および悪性疾患、例えば、様々な形態の腫瘍またはがんをはじめとする(しかしこれらに限定されない)疾患状態の存在、不在または重症度を同定することができる。例えば、単離された細胞外核酸を分析して、非侵襲性出生前遺伝子検査、それぞれにスクリーニング、疾患スクリーニング、病原体スクリーニング、腫瘍学、がんスクリーニング、早期がんスクリーニング、がん治療モニタリング、遺伝子検査(遺伝子型判定)、感染症検査、傷害診断、外傷診断、移植医療もしくは多くの他の疾患を含む(しかしこれらに限定されない)、多くの応用分野において診断および/または予後予測マーカー(例えば、胎児由来または腫瘍由来細胞外核酸)を検出することができ、したがって、単離された細胞外核酸は、診断および/または予後予測に適切なものである。1つの実施形態によると、単離された細胞外核酸を分析して、疾患または胎児の特性を同定および/または特性評価する。したがって、上で論じたように、本明細書に記載する単離方法は、核酸分析および/または処理のステップc)をさらに含むことがある。
したがって、1つの実施形態によると、単離された細胞外核酸をステップcで分析して、疾患および/または少なくとも1つの胎児特性を同定する、検出する、スクリーニングする、モニターするまたは排除する。単離された細胞外核酸の分析/さらなる処理は、増幅技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、等温増幅、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Q−PCR)、デジタルPCR、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量分析、蛍光検出、紫外線分光法、ハイブリダイゼーションアッセイ、DNAまたはRNAシーケンシング、次世代シーケンシング、制限分析、逆転写、核酸配列ベースの増幅(NASBA)、対立遺伝子特異的ポリメラーゼ連鎖反応、ポリメラーゼサイクリングアセンブリ(PCA)、非対称ポリメラーゼ連鎖反応、線形後指数関数的ポリメラーゼ連鎖反応(LATE−PCR)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、ホットスタートポリメラーゼ連鎖反応、配列間特異的ポリメラーゼ連鎖反応(ISSR)、逆ポリメラーゼ連鎖反応、ライゲーション媒介ポリメラーゼ連鎖反応、メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(MSP)、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応、固相ポリメラーゼ連鎖反応またはこれらの任意の組み合わせを含む(しかしそれらに限定されない)、任意の核酸分析/処理方法を用いて行うことができる。それぞれの技術は当業者に周知であり、したがって、ここでさらなる記載を必要としない。
1つの実施形態によると、本発明の教示に従って細胞含有生体試料を採集し、それぞれに安定化した後、少なくとも1日から3日まで、または2日から10日までに単離ステップb)および分析ステップc)のいずれかまたは両方を行う。本発明による方法を用いて細胞含有生体試料、特に血液試料、それぞれにそれらに含有されている細胞外核酸集団を安定化することができる好適な期間も安定化方法に関連して上に記載しており、そのそれぞれの開示はここにも適用される。1つの実施形態によると、本発明による方法に従って細胞含有生体試料を採集し安定化した少なくとも1日後、少なくとも2日後または少なくとも3日後に、核酸単離ステップb)を行う。
C.安定化組成物
第三の態様に従って、細胞含有生体試料を安定化するのに好適な組成物であって、
i)安定化剤としてポリ(オキシエチレン)ポリマー、または
ii)安定化剤としてモノ−エチレングリコール
ならびに、
− 1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド;
− カスパーゼ阻害剤;
− 抗凝固物質および/またはキレート剤
から成る群より選択される1つ以上、好ましくは2つ以上のさらなる添加剤
を含む組成物を提供する。
好ましくは、第三の態様による組成物は、好ましくは少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化剤として含み、
− 好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである第一のポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量より少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400低い分子量を有する少なくとも1つのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーであって、好ましくは、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである、さらなるポリ(オキシエチレン)ポリマー;
− 1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド;
− カスパーゼ阻害剤;
− 抗凝固物質および/またはキレート剤
から成る群より選択される1つ以上、好ましくは2つ以上のさらなる添加剤をさらに含む。
利点ならびに好適なおよび好ましい実施形態は第一の態様による安定化方法に関連して上で論じており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。上で論じたように、本発明によって提供される安定化組成物、特に、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、および少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤を、必要に応じて、しかし好ましくは1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドと組み合わせて含むものは、含まれている細胞および含まれている細胞外核酸を安定化し、それによって安定化の時点に細胞外核酸集団を実質的に保存する、それぞれに安定化することにより、細胞含有生体試料、特に血液、血漿および/または血清の安定化に特に有効である。それぞれの安定化組成物は、好ましくは血液である細胞含有生体試料の、室温での少なくとも2日間、好ましくは少なくとも3日間またはさらにはそれより長く、その血液試料、それぞれにその試料に含有されている細胞外核酸集団の質を実質的に損なわせることなく、保管および/または取り扱い、例えば配送を可能にする。特に、安定化期間にわたって、細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAでの細胞外核酸組成物の希釈、それぞれに汚染を低減させ、またはさらには防止する。好ましくは、細胞含有生体試料の採集直後または採集中にその細胞含有試料と安定化組成物を接触させる。さらに、上に記載したように、安定化剤としてポリ(オキシエチレン)ポリマーの代わりに、またはそれに加えて、モノ−エチレングリコールを使用することができる。他の安定化剤との好ましく使用される組み合わせは基本的に同じである。
安定化組成物は、1つの実施形態によると、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。詳細は第一の態様による安定化方法に関連して上に記載しており、それについてはそのそれぞれの開示を参照する。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくはポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。複数の実施形態では、分子量は、1500から40000、2000から30000、2500から25000、3000から20000、3500から15000、4000から10000、4500から9000および5000から8000より選択される範囲に存してよい。上に記載したように、40000を超えるより高い分子量も使用することができる。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、1500以下の分子量を有するポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、複数の実施形態では、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100から1000、150から800、150から700、好ましくは200から600およびさらに好ましくは200から500、例えば200から400より選択される範囲に存する分子量を有してよい。実施例によって実証するように、好ましくはポリエチレングリコールであるかかるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む安定化組成物は、好ましくはカスパーゼ阻害剤および本明細書に記載の1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドなどの1つ以上のさらなる安定化剤と併用すると有効な安定剤である。これらの安定化剤の安定化効果は、安定化組成物が、1500以下の分子量を有するそれぞれのポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む場合に改善される。
1つの実施形態によれば、安定化組成物は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、そして高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量より少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400低い分子量を有する少なくとも1つのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。1つのジ市携帯によれば、分子量の差は、少なくとも2500、少なくとも3500、少なくとも5000または少なくとも7500である。第一の態様による安定化方法に関連して上に記載したように、分子量の異なるポリ(オキシエチレン)ポリマーの併用は有利である。好ましくは、両方のポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。有利な実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む安定化組成物は、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。詳細は、第一の態様による安定化方法に関連して上に記載してあり、それについてはそのそれぞれの開示を参照し、そのそれぞれ開示はここにも適用される。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、100から1000、150から800より選択される範囲に存してよく、好ましくは、200から600の範囲に存する。
1つの実施形態によると、好ましくは少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む安定化組成物は、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドをさらに含む。かかるアミドの1つ以上をポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせてさらに使用することの利点ならびに好適なおよび好ましい実施形態は、第一の態様による安定化方法に関連して上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。1つの実施形態によると、安定化組成物に含まれている少なくとも1つの第一級、第二級または第三級アミドは、式1に従う化合物である
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、さらに好ましいC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基、好ましくはアルキル残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基である)。好ましくは、アミドは、カルボン酸アミドであり、したがって、R4は酸素である。好ましい実施形態は安定化方法に関連して上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、毒性物質に分類されない、式1に従う化合物を使用する。好ましくは、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、式1に従う化合物を含む前記安定化組成物は、カスパーゼ阻害剤をさらに含む。
式1に従う化合物は、第一級カルボン酸アミドおよび第二級カルボン酸アミドより選択されるカルボン酸アミドであってよい。1つの実施形態によると、組成物は、ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミドおよびブタンアミドから成る群より選択される第一級カルボン酸アミドを含む。好ましくは、上記カルボン酸は、ブタンアミドおよびホルムアミドより選択される。上記カルボン酸はブタンアミドであることがさらに好ましく、これは、この剤が細胞外核酸集団を安定化するのに特に有効であるからである。
1つの実施形態によると、少なくとも1つの式1に従う化合物は、N,N−ジアルキル−カルボン酸アミドである。1つの実施形態によると、式1に従う化合物は、N,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。N,N−ジメチルプロパンアミドは、毒性物質に分類されない。さらに、N,N−ジメチルプロパンアミドには、細胞内核酸を安定化することがさらに可能であり、特に、適切な濃度で使用すると転写物プロファイルを安定化し得るという有利な効果がある。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、ブタンアミドおよび/またはN,N−ジアルキルプロパンアミドを含み、前記N,N−ジアルキルプロパンアミドは、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。実施例によって実証するように、アミドは、単独および組み合わせのどちらでも、観察される安定化効果を有意に改善する。
1つの実施形態によると、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む安定化組成物は、カスパーゼ阻害剤をさらに含む。カスパーゼ阻害剤を組み合わせに使用することの利点ならびにカスパーゼ阻害剤の好適なおよび好ましい実施形態は、第一の態様による安定化方法に関連して上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、カスパーゼ阻害剤は、汎カスパーゼ阻害剤である。好ましくは、カスパーゼ阻害剤は、改変カスパーゼ特異的ペプチド、好ましくはC末端においてO−フェノキシ基で改変されており、例えばQ−VD−OPhである。有利な実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、ポリ(オキシエチレン)ポリマーとして使用する。好ましくは、ポリエチレングリコールを使用する。好ましくは、非置換ポリエチレングリコールを使用する。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、および少なくとも1つの抗凝固物質を含む。この実施形態は、血液試料または血液に由来する細胞含有試料の安定化に特に好適である。1つの実施形態によると、安定化組成物は、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、およびキレート剤を含む。抗凝固物質としても機能する好適なキレート剤ならびに安定化のために好適な濃度は本発明による方法に関連して上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、EDTAをキレート剤として使用する。
安定化組成物は、安定化方法に関連して上に記載したさらなる添加剤も含んでよい。
血液を安定化するために、安定化組成物は、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および抗凝固物質および必要に応じて、上記の少なくとも1つの第一級、第二級または第三級アミドを含むことが好ましい。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコールである。記載したように、前記アミドは、好ましくは式1に従う化合物である。ブタンアミドおよび/またはN,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドの使用が好ましい。1つの実施形態によると、前記組成物は、好ましくはポリエチレングリコールである高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、好ましくはポリエチレングリコールである低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。好ましい分子量は上に記載しており、それについてはそのそれぞれの開示を参照する。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、
a)少なくとも1500、好ましくは1500から50000、2000から40000、2500から30000、2500から25000、さらに好ましい3000から20000、3500から15000または4500から10000の範囲の分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
b)式1に従う1つ以上の化合物;
c)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPh;
d)使用される高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量より少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400低い分子量を有する少なくとも1つのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーであって、好ましくは、1000以下の分子量を有する、好ましくは200から800または200から600の範囲の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマー;
e)必要に応じて、抗凝固物質および/またはキレート剤、さらに好ましくはEDTAを含む。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、
a)2000から40000、2500から30000、2500から25000、3000から20000または3500から15000の範囲に存する分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
b)式1に従う1つ以上の化合物、好ましくはブタンアミドおよび/またはN,N−ジメチルプロパンアミド;
c)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤;
d)100から1000、150から800または200から600の範囲に存する分子量を有する少なくとも1つの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
e)抗凝固物質および/またはキレート剤、好ましくはEDTA
を含む。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、
a)4500から10000の範囲に存する分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
b)式1に従う1つ以上の化合物、好ましくはブタンアミドおよび/またはN,N−ジメチルプロパンアミド;
c)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤;
d)100から800、好ましくは200から600の範囲に存する分子量を有する少なくとも1つの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
e)抗凝固物質および/またはキレート剤、好ましくはEDTA
を含む。
高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、カスパーゼ阻害剤、式1に従う化合物および抗凝固物質ならびにキレート剤の好適なおよび好ましい実施形態は、安定化方法に関連して上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、抗凝固物質は、キレート剤、さらに好ましくはEDTAである。
安定化組成物と細胞含有生体試料とを含む安定化混合物における安定化のために使用することができる個々の剤の好適なおよび好ましい濃度は上に記載しており、ここにも適用される。当業者は、安定化組成物中の前記剤の適切な濃度を選択して、安定化組成物の所期の量を安定化する細胞含有試料の所期の量と混合するときに、細胞含有試料を含むその混合物中の前記濃度を達成することができる。安定化組成物に関しては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、液体である。続いて、血液試料の安定化に特に好ましい、安定化組成物中に存在する場合の個々の剤の濃度を示す。例えば、0.5mlから2.5ml、0.5mlから2ml、好ましくは1mlから2mlまたは1mlから1.5mlの液体の安定化組成物を使用することができる。下に示す濃度の安定化剤を含むかかる安定化組成物を、例えば10ml血液を安定化するために使用することができる。
1つの実施形態によると、前記液体の安定化組成物は、好ましくはポリエチレングリコールである高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを0.4%から35%(w/v)、0.8%から25%(w/v)、1.5%から20%(w/v)、2.5%から17.5%(w/v)、3%から15%(w/v)、4%から10%(w/v)および3%から5%(w/v)より選択される濃度で含む。好適な濃度は、当業者が決定することができ、とりわけ、高分子量ポリ(オキシエチレン)グリコールを、単独で使用するかさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用するか、およびある特定の量の細胞含有試料を安定化するために使用する安定化組成物の量、例えば、体積に依存し得る。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを単独で使用する場合に好適な濃度範囲の例としては、2.2%から33.0%(w/v)、4.4%から22.0(w/v)%、6.6%から16.5%(w/v)および8.8%から13.2%(w/v)より選択される濃度が挙げられるが、これらに限定されない。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用する場合に好適な濃度範囲の例としては、0.4%から30.7%、0.8%から15.3%、1%から10%、1.5%から7.7%、2.5%から6%、3.1%から5.4%および3%から4%より選択される濃度が挙げられるが、これらに限定されない。
特定の実施形態では、液体の安定化組成物は、5mgから500mg、特に10mgから250mg、25mgから150mg、または40mgから100mgの好ましくはポリエチレングリコールである高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。特に、液体の安定化組成物は、0.5μmolから50μmol、特に1μmolから25μmol、2μmolから20μmol、または3μmolから10μmolの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含んでよい。かかる液体の安定化組成物は、例えば、採集デバイスに充填することができ、また、例えば、試料単位を安定化するために好適なものである。
1つの実施形態によると、前記液体の安定化組成物は、好ましくはポリエチレングリコールである低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.8%から92.0%、3.8%から76.7%、11.5%から53.7%、19.2%から38.3%、20%から30%および20%から27.5%より選択される濃度で含む。上述の濃度は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体であるか否かに応じて(w/v)または(v/v)を指す。実施例で実証するように、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、特に、本明細書に記載する1つ以上のさらなる安定化剤と併用すると、細胞含有試料の安定化を効率的に支持することができる。
特定の実施形態では、液体の安定化組成物は、40μlから4000μl、特に100μlから2000μl、150μlから1500μl、200μlから1000μl、または250μlから750μlの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。特に、液体の安定化組成物は、0.2mmolから15mmol、特に0.5mmolから10mmol、0.75mmolから5mmol、1mmolから3mmol、または1.2mmolから2mmolの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含んでよい。かかる液体の安定化組成物は、例えば、採集デバイスに充填することができ、また、例えば、試料単位を安定化するために好適なものである。
1つの実施形態によると、前記液体の安定化組成物は、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドを、0.4%から38.3%、0.8%から23.0%、2.3%から11.5%、3.8%から9.2%、5%から15%および7.5%から12.5%より選択される濃度で含む。上述の濃度は、第一級、第二級または第三級アミドが液体であるか否かに応じて(w/v)または(v/v)を指す。上に記載したように、安定化組成物は、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドをさらに含むことが好ましく、好適なおよび好ましい例は上に記載した。
特定の実施形態では、液体の安定化組成物は、10μlから2000μl、特に、50μlから1000μl、100μlから750μl、または125μlから500μlまたは150μlから250μlの第一級、第二級または第三級アミドを含む。特に、液体の安定化組成物は、0.2mmolから15mmol、特に0.5mmolから10mmol、0.75mmolから5mmol、1mmolから3mmol、または1.2mmolから2mmolの第一級、第二級または第三級アミドを含んでよい。かかる液体の安定化組成物は、例えば、採集デバイスに充填することができ、また、例えば、試料単位を安定化するために好適なものである。
1つの実施形態によると、前記液体の安定化組成物は、カスパーゼ阻害剤を、0.1μMから220μM、0.8μMから115.0μM、7.7μMから76.7μMおよび23.0μMから50μMより選択される濃度で含む。特定の実施形態では、液体の安定化組成物は、1nmolから1000nmol、特に、5nmolから500nmol、10nmolから200nmolまたは25nmolから100nmolのカスパーゼ阻害剤を含む。かかる液体の安定化組成物は、例えば、採集デバイスに充填することができ、また、例えば、試料単位を安定化するために好適なものである。
1つの実施形態によると、前記液体の組成物は、キレート剤、好ましくはEDTA、例えばK2EDTAを、9.5mMから1100mM、20mMから750mM、50mMから600mM、75mMから550mM、100mMから500mM、125mMから450mM、130mMから300mMおよび140mMから250mMより選択される濃度で含む。特定の実施形態では、液体の安定化組成物は、10nmolから3000nmol、特に、50nmolから1500nmol、100nmolから1000nmolまたは150nmolから500nmolのキレート剤を含む。かかる液体の安定化組成物は、例えば、採集デバイスに充填することができ、また、例えば、試料単位を安定化するために好適なものである。
上に記載したように、前記液体の安定化組成物は、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、ならびに好ましくは1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド、カスパーゼ阻害剤およびキレート剤を含む。1つの実施形態によると、前記液体の組成物は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、低分子量ポリ(オキシエチレン)グリコールをさらに含む。
1つの代替によると、組成物は、安定化剤としてモノ−エチレングリコール(1,2−エタンジオール)を含む。モノ−エチレングリコールは、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについて上で記載した濃度で使用することができる。それについてはそのそれぞれの開示を参照し、そのそれぞれの開示はここにも適用される。特に、組成物は、モノ−エチレングリコールおよび組成物に関連して上に記載した他の安定化剤のいずれか1つ以上を含んでよい。1つの実施形態によると、組成物は、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および/または少なくとも1つの第一級、第二級または第三級アミド、特に、上に記載した式1に従う化合物をさらに含む。好ましくは、組成物は、その両方を含む。モノ−エチレングリコールを含む組成物は、抗凝固物質、好ましくはキレート剤、ならびに/またはポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば、上に記載したような高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび/もしくは低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーも含んでよい。それぞれの安定化剤の好適な実施形態および濃度範囲は、上に記載しており、組成物が安定化剤としてモノ−エチレングリコールを含む実施形態にも適用される。
本発明によって提供される安定化組成物は、細胞含有生体試料を安定化し、したがって、試料に含有されている有核細胞についての、および好ましくは無核細胞についても、溶解および/または破壊を誘導しない。したがって、前記安定化組成物は、添加剤を、該添加剤がそれぞれの細胞および好ましくは一般に細胞の細胞溶解を誘導または促進する濃度で含まない。例えば、実施例セクションに記載するアッセイ方法によって決定することができるように、前記安定化組成物は、試料に含まれている細胞の損傷を低減させる。詳細には、本明細書に記載する安定化組成物は、細胞含有生体試料に含有されている細胞からその試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出を低減させることが可能である。さらに、特に好ましいカスパーゼ阻害剤をさらに含むとき、前記安定化組成物は、安定化された試料中に存在する核酸、特にゲノムDNAの分解を低減させることが可能である。記載したように、前記安定化組成物は、安定化された生体試料に含有されている細胞に由来するゲノムDNAでの、その試料に含まれている細胞外DNA集団の汚染を低下または防止することが可能である。好ましくは、それは、安定化された試料に含有されている細胞に由来する細胞内核酸、特にDNAおよびRNAでの、その生体試料に含まれている細胞外核酸集団の汚染を低下または防止することが可能である。好ましくは、前記安定化組成物は、タンパク質−DNA架橋および/またはタンパク質−タンパク質架橋を誘導する架橋剤を含まない。詳細には、前記安定化組成物は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒドもしくはホルムアルデヒド放出剤、または同様の架橋剤を含まない。好ましくは、前記安定化組成物は、GHSに従って毒性物質に分類される剤を含まない。好ましくは、本発明の安定化組成物は、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を、冷蔵せずに、好ましくは室温で、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、および/または少なくとも6日より選択される期間、安定化することが可能である。特に、上記安定化効果の1つ以上、好ましくはすべてが、定義された安定化期間中に達成される。
1つの実施形態によると、安定化組成物は、血液を安定化するためのものであり、1つ以上のポリ(オキシエチレン)ポリマーと、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドと、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤と、好ましくはキレート剤、例えばEDTAである抗凝固物質と、必要に応じて溶媒および/または緩衝剤とから本質的に成る。記載したように、水は、保管期間中の溶血を低減させるので、好ましくは水を溶媒として使用する。モノ−エチレングリコールを安定化剤として使用する実施形態にも、必要な変更を加えて、同じことが適用される。
前記安定化組成物を固体形態で提供してもよいし、半液体形態で提供してもよし、または液体で提供してもよい。固体組成物は、例えば、安定化すべき細胞含有生体試料が固体を溶解するための液体(例えば、細胞含有体液、培地中の細胞、尿など)を含有する場合、または固体組成物を溶解するためにそれに液体、例えば水を添加する場合、好適な選択肢である。実施例によって実証するように、安定化組成物は、固体形態で使用することができる。固体の安定化組成物を使用する利点は、固体が、通常、化学的により安定していることである。しかし、液体の安定化組成物も使用してよい。液体組成物は、安定化すべき試料との混合を迅速に達成することができ、その結果、試料がその液体の安定化組成物と接触するやいなや即時安定化効果を基本的にもたらすことができるという利点を、有する。好ましくは、前記液体の安定化組成物中に存在する安定剤(単数または複数)は、溶解状態で安定したままであり、および使用者による前処理−例えば、限られた溶解度の沈殿物の溶解することなど−を、この種の前処理は安定化効率の変動のリスクをもたらすので、必要としない。実施例によって実証するように、血液試料を安定化する場合、水を含む安定化組成物は、保管期間中の溶血を低減させるので、特に有利である。
本発明は、細胞含有生体試料と混合された本発明の第三の態様による安定化組成物を含む混合物も提供する。細胞含有生体試料の好適なおよび好ましい例、ならびにその細胞含有生体試料と混合するときの安定剤(単数または複数)の好適な濃度は、とりわけ本発明による安定化方法に関連して上に記載してある。それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。記載したように、好ましくは、細胞含有試料は血液試料である。
1つの実施形態によると、本発明の安定化組成物は、試料を採集時または採集中に直ちに安定化するために試料採集デバイスに予め充填される。1つの実施形態によると、前記安定化組成物を細胞含有生体試料と、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、1:10から1:5、および1:7から1:5、特に約1:6より選択される体積比で接触させる。本発明の安定化組成物の特別な利点は、大きい試料体積の安定化を小さい体積の安定化組成物で達成することができることである。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:10から1:5、特に、1:7から1:5、例えば、約1:6などの範囲に存する。
本発明の第三の態様による安定化組成物を使用して、好ましくは血液試料などの細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化することができる。さらに、上に記載したように、安定化組成物は、含有されている細胞を安定化し、それによって、とりわけ、細胞含有生体試料に含まれている細胞からのゲノムDNAおよび他の細胞内核酸の放出を低減する。それによって、ゲノムDNAおよび他の細胞内核酸での細胞外核酸集団の汚染を低減させる。
本発明の安定化組成物を試料採集デバイス、特に、採血アセンブリ、例えば採血容器に組み込み、それにより、新たな有用なバージョンのかかるデバイスを提供することもできる。かかるデバイスは、典型的に、開口端と閉鎖端を有する容器を含む。前記容器は、好ましくは、採血チューブである。前記容器タイプは、採集すべき試料にも依存し、他の好適な形式は下に記載する。
D.使用
第四の態様に従って、本発明は、細胞含有生体試料および特に、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための、好ましくはポリエチレングリコールであるポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用、および/またはモノ−エチレングリコールの使用に関する。特に、例えば、本発明の第一の態様による方法において第三の態様による安定化組成物を前記目的のために使用することができる。前記方法の詳細は上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、上に記載したように、前記組成物は、細胞含有生体試料が血液である場合、抗凝固物質を含み、それは、好ましい実施形態である。
E.採集デバイス
第五の態様に従って、本発明は、細胞含有生体試料を採集するための採集デバイスであって、
i)安定化剤としてポリ(オキシエチレン)ポリマー、または
ii)安定化剤としてモノ−エチレングリコール
ならびに、
− 1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド;
− カスパーゼ阻害剤;
− 抗凝固物質および/またはキレート剤
から成る群より選択される1つ以上、好ましくは2つ以上のさらなる添加剤
を含む採集デバイスを提供する。
好ましくは、第五の態様による採集デバイスは、好ましくは少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化剤として含み、
− 好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである第一のポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量より少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400低い分子量を有する少なくとも1つのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーであって、好ましくは、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである、さらなるポリ(オキシエチレン)ポリマー;
− 1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド;
− カスパーゼ阻害剤;
− 抗凝固物質および/またはキレート剤
から成る群より選択される1つ以上、好ましくは2つ以上のさらなる添加剤をさらに含む。
それぞれの採集デバイス、例えば試料採集チューブの提供には、試料を前記採集デバイスに採集したときに試料が迅速に安定化されるという利点がある。細胞含有生体試料、好ましくは血液試料を採集するための採集デバイスは、本発明の第三の態様による安定化組成物を含んでよい。安定化のためのポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じて1つ以上のさらなる添加剤ならびに安定化組成物の使用に関する詳細は、他の態様に関連して上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。同じことがモノ−エチレングリコールを安定化剤として使用する代替に関して適用され、その実施形態の詳細は既に上で記載した。モノ−エチレングリコールは、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用することもできる。続いて、採集デバイスは容器とも称される。
1つの実施形態によると、採集デバイスは、ポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド、好ましくは式1に従う1つ以上の化合物およびカスパーゼ阻害剤を含む。さらに、採集容器が血液を採集するためのものである場合、その採集容器は、好ましくはキレート剤である抗凝固物質も含むことが好ましい。
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を受け取るおよび採集するための採集デバイスであって、以下のものを含む採集デバイスを提供する:
a)少なくとも1500、少なくとも2000、好ましくは少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであって、分子量が、好ましくは、2000から40000、2500から30000、2500から25000、3000から20000、3500から15000、4000から10000、4500から8000および5000から7000より選択される範囲に存する、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
b)1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド;
c)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPh;
d)必要に応じて、1000以下の分子量を有する少なくとも1つの低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであって、分子量が、好ましくは、100から800、150から700、150から600、200から500および200から400より選択される範囲に存する、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー;
e)必要に応じて、抗凝固物質および/またはキレート剤、さらに好ましくはEDTA。
この実施形態では、好ましくはポリエチレングリコールである高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー(成分a))は、採集デバイスの中に、細胞含有生体試料を前記デバイスに採集したとき、得られる混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、0.05%から4%(w/v)、0.1%から3%(w/v)、0.2%から2.5%(w/v)、0.25%から2%(w/v)、0.3%から1.75%(w/v)および0.35%から1.5%(w/v)より選択される範囲に存するような濃度で含まれてよい。1つの実施形態によると、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、細胞含有生体試料を採集デバイスに採集したときに、得られる混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、0.25%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)、0.35%から1%(w/v)および0.4%から0.75%(w/v)のような範囲に存するような濃度で該採集デバイスの中に含まれる。これらの濃度範囲は、血液の安定化に特に適しており、利点は安定化方法に関連して上で論じた。
この実施形態では、1つ以上の第一級、第二級または第三級アミド(成分b))は、細胞含有生体試料を採集デバイスに採集したときに、得られる混合物中のアミド(またはアミドの組み合わせ)の濃度が、0.25%から5%、0.3%から4%、0.4%から3%、0.5%から2%または0.75%から1.5%の範囲に存するような濃度で該採集デバイスの中に含まれる。少なくとも1つのアミドは、好ましくは、式1
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、さらに好ましくいC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基、好ましくはアルキル残基より選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基である)
に従う化合物である。好ましくは、アミドは、カルボン酸アミドであり、したがって、R4は酸素である。式1に従う化合物の好ましい実施形態は安定化方法に関連して上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、採集デバイスは、式1に従う化合物としてブタンアミドおよび/または好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドであるN,N−ジアルキルプロパンアミドを含む。
この実施形態では、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤(成分c))は、細胞含有生体試料を採集デバイスに採集したときに、得られる混合物中のカスパーゼ阻害剤の濃度が、0.1μMから20μM、さらに好ましい0.5μMから10μM、さらに好ましい1μMから10μM、さらに好ましい3μMから7.5μMまたは3μMから5μMの範囲に存するような濃度で、有利に採集デバイスの中に含まれる。実施例によって証明するように、ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよびカスパーゼ阻害剤を含む安定化組成物は、細胞含有生体試料、特に、全血試料の安定化において非常に有効である。好ましくは、上記の1つ以上の第一級、第二級または第三級アミドをさらに使用する。
この実施形態において採集デバイスが1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを成分d)としてさらに含む場合、これは、採集デバイスの中に、細胞含有生体試料を前記デバイスに採集したときに、得られる混合物中の低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、0.5%から10%、1.5%から9%、2%から8%および2.5%から7%および3%から6%より選択される範囲に存するような濃度で有利に含まれる。百分率値は、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが固体である場合には(w/v)を指し、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体である場合には(v/v)を指す。好ましくは、ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、ポリエチレングリコールである。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用するこの実施形態に付随する利点は、上に詳細に記載した。有利な実施形態では、採集容器は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー(成分a))および低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー(成分d))を、細胞含有生体試料を前記デバイスに採集したときに、得られる混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、高分子量ポリ(オキシエチレン)グリコール(poly(oxyethylene glycol)については0.2%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)および0.4%から0.75%(w/v)より選択される範囲、および低分子量ポリ(オキシエチレン)グリコールについては1.5%から8%、2%から7%および2.5%から6%より選択される範囲に存するような濃度で含む。好ましくは、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーならびに低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、上記のポリエチレングリコールである。
1つの実施形態によると、前記採集デバイスは、抗凝固物質および/またはキレート剤、好ましくはEDTAをさらに含む。この実施形態は、前記容器が、血液、または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清を採集するためのものである場合、特に好適である。前記抗凝固物質は、血液の凝固を防止することが可能である濃度で含まれる。好適な抗凝固物質は、第一の態様による方法に関連して上に記載しており、それについては上の開示を参照し、その上の開示はここにも適用される。記載したように、抗凝固物質は、好ましくはキレート剤であり、好適な実施形態は、上に詳細に記載しており、それについてはそのそれぞれの開示を参照する。1つの実施形態によると、前記容器は、キレート剤、好ましくはEDTAを、細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中のキレート剤の濃度が、0.5から40mg/ml、1から30mg/ml、1.6から25mg/ml、5から20mg/ml、および7.5から17.5mg/mlより選択される濃度範囲に存するような濃度で含む。
1つの実施形態によると、採集デバイスは、安定化剤としてモノ−エチレングリコールを含む。モノ−エチレングリコールは、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについて上で記載した濃度で使用することができる。それについてはそのそれぞれの開示を参照し、そのそれぞれの開示はここにも適用される。特に、採集デバイスは、モノ−エチレングリコールおよび本明細書に記載する他の安定化剤のいずれか1つ以上、好ましくは少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および/または、好ましくは、上で定義した式1に従う化合物である少なくとも1つの第一級、第二級もしくは第三級アミドを含んでよい。採集デバイスは、モノ−エチレングリコールおよび少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーも含んでよい。それぞれの安定化剤の好適な実施形態および濃度範囲は、上に記載しており、細胞含有試料およびその中に含まれている細胞外核酸集団を安定化するためまたはそれの安定化を支持するためにモノ−エチレングリコールが採集容器の中に含まれる実施形態にも適用される。
採集容器に含まれている安定化のために使用される安定化組成物および/または個々の化合物を、液体;半液体、または乾燥形態で提供することができる。上で論じたように、安定化のために使用されるポリ(オキシエチレン)ポリマーおよびさらなる添加剤を安定化組成物の形態で提供することができる。安定化のために使用される化合物を前記容器に別々の実体として提供してもよく、および異なる形態で前記容器に提供してもよい。例えば、1つの成分を乾燥形態で提供してもよく、その一方で他の化合物を液体として提供してもよい。他の組み合わせも実施可能である。好適な処方および製造選択肢は当業者に公知である。
全血を安定化するために、抗凝固物質、例えばEDTAを前記容器に、例えば安定化組成物に包含することが好ましい。乾燥形態は、例えば、安定化すべき生体試料が固体を溶解するための液体(例えば、細胞含有体液、培地中の細胞、尿など)を含有する場合、または固体を溶解するためにそれに液体、例えば水または他の溶媒を添加する場合、好適な選択肢である。固体の安定化組成物を使用する利点は、固体が、通常、化学的に液体より安定していることである。1つの実施形態によると、前記容器の内壁を本発明による安定化組成物で、またはその個々の成分、例えば抗凝固物質などで処理/被覆する。例えば噴霧乾燥法を用いて、前記組成物または成分を前記内壁に塗布することができる。液体除去技術を安定化組成物に対して実施して、実質的に固体状態の保護組成物を得ることができる。液体除去条件は、施される液体の安定化組成物の元の量の少なくとも約50重量%、少なくとも約75重量%、または少なくとも約85重量%の除去をもたらすような条件であってもよい。液体除去条件は、得られる組成物が、皮膜、ゲルまたは他の実質的に固体もしくは高粘稠層の形態であるために十分な液体の除去をもたらすような条件であってもよい。例えば、それは、実質的に不動のコーティング(好ましくは、細胞含有試料(好ましくは血液製剤試料である)と接触させると再び溶解するか別様に分散させることができるコーティング)をもたらし得る。凍結乾燥または他の技術を利用して、保護剤の実質的に固体形態(例えば、1つ以上のペレット形態)を実現し得ることが可能である。したがって、液体除去条件は、考慮中の試料(例えば、全血試料)と接触させると、保護剤が試料中に分散し、その試料中の成分(例えば、細胞外核酸)を実質的に保護する材料をもたらすような条件であってもよい。液体除去条件は、実質的に結晶性のない残存組成物、その残存組成物が周囲温度で実質的に不動である十分に高い粘度を有する残存組成物、または両方をもたらすような条件であってもよい。
1つの実施形態によると、液体組成物を使用する。これのことは、特定の試料(例えば、血液試料など)に利点を有する。液体組成物には、安定化すべき細胞含有生体試料との混合を迅速に達成することができ、それによって基本的に、その試料を液体の安定化組成物と接触させるやいなや即時安定化効果をもたらすという利点が、多くの場合ある。さらに、液体組成物は、より大量の安定化組成物を使用する、したがって噴霧乾燥できないか噴霧乾燥が難しい場合、または前記組成物が乾燥組成物をもたらすことを妨げる場合に有利である。好ましくは、液体の安定化組成物中に存在する安定剤は、溶解状態で安定したままであり、および使用者による前処理−例えば、限られた溶解度の沈殿物の溶解など−を、この種の前処理は安定化効率の変動のリスクをもたらすので、必要としない。血液を安定化するために、1つの実施形態によると、すべての化合物が安定化組成物中に存在する。上で論じたように、血液の場合、安定化された試料の保管中の溶血を低減させるために、十分な量の水を含む安定化組成物を使用することが有利である。
安定化組成物は、容器に、前記容器に採集する試料量の安定化をもたらすのに有効な量で含まれる。1つの実施形態によると、液体の安定化組成物を生体試料と、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、1:10から1:5、および1:7から1:5より選択される体積比、特に1:6で接触させる。大きい試料体積の安定化を小さい体積の安定化組成物で達成できることが、本発明の安定化組成物の特別な利点である。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:10から1:5、特に1:7から1:5の範囲、例えば約1:6に存する。
1つの実施形態によると、前記採集デバイスを排気する。排気は、好ましくは、特定の体積の流体の細胞含有生体試料を内部に引き込むのに有効である。それにより、正確な量の試料を、前記容器に含まれている予め充填された量の安定化組成物と確実に接触させ、およびしたがって、安定化を確実に効率的にする。1つの実施形態によると、前記容器は、セプタムによって封止された開口端を有するチューブを含む。例えば、前記容器は、固体または液体いずれかの形態の定義された量の安定化組成物が予め充填され、定義された真空度を与えられ、セプタムで封止されている。前記セプタムは、標準的な試料採取用付属品(例えば、カニューレなど)に適合可能であるように構成される。例えばカニューレと接触したとき、前記真空度によって予め決められる試料量が前記容器内に採集される。それぞれの実施形態は、採血に特に有利である。適する容器は、例えば、米国特許第6,776,959号明細書に開示されている。
本発明による容器は、ガラス製、プラスチック製、または他の好適な材料製であることができる。プラスチック材料は、酸素不透過性材料であることができ、または酸素不透過層を含有することができる。あるいは、前記容器は、通気性プラスチック材料製であることができる。本発明による容器は、好ましくは、透明材料製である。適する透明熱可塑性材料の例としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレートが挙げられる。前記容器は、採集する生体試料の必要とされる体積に従って選択される好適な寸法を有し得る。上に記載したように、好ましくは、前記容器を大気圧より低い内部圧力に排気する。かかる実施形態は、全血などの体液の採集に特に好適である。前記圧力は、好ましくは、前記容器に所定体積の生体試料を引き込むように選択される。かかる真空チューブに加えて、非真空チューブ、機械式分離チューブ(mechanical separator tube)またはゲル―バリアチューブも、特に血液試料採集用の、試料容器として使用することができる。適する容器およびキャッピングデバイスは、米国特許第5,860,397号明細書および米国特許出願公開第2004/0043505号明細書に開示されている。細胞含有試料を採集するための容器として、さらなる採集デバイス、例えば注射器、尿採集デバイスまたは他の採集デバイスも使用することができる。容器のタイプは、採集すべき試料タイプにも依存することがあり、好適な容器も当業者に利用可能である。
1つの実施形態によると、前記容器は、開口上部と、底部と、チャンバーを規定するそれらとの間に広がる側壁とを有し、好ましくは高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび1つ以上の上述のさらなる安定化剤または第三の態様による安定化組成物がそのチャンバー内に含まれる。それは、そのチャンバー内に液体形態で含まれることもあり、または固体形態で含まれることもある。1つの実施形態によると、それは液体である。1つの実施形態によると、前記容器はチューブであり、その底部は、閉鎖底部であり、前記容器は、開口上部にクロージャーを備えており、前記チャンバーは、減圧下にある。前記チャンバーにおける減圧の利点は上に記載した。好ましくは、前記クロージャーは、針またはカニューレでの貫入が可能であり、指定体積の液体試料を前記チャンバーに引き込むように減圧を選択する。1つの実施形態によると、前記チャンバーは、指定体積の液体試料を前記チャンバーに引き込むように選択された減圧下にあり、前記安定化組成物は液体であり、該安定化組成物の前記指定体積の細胞含有試料に対する体積比が10:1から1:20、5:1から1:15、および1:1から1:10より選択され、好ましくは1:10から1:5であり、より好ましくは1:7から1:5であるように前記チャンバーの中に配置される。付随する利点は上に記載した。
好ましくは、前記容器は、患者からの採血用である。1つの実施形態によると、前記容器は、患者からの10ml血液の採血用である。1つの実施形態によると、安定化組成物は、液体であり、体積は2ml以下であり、0.5mlから2ml、0.75mlから1.75mlおよび1mlから1.5mlの範囲に存してよい。
F.細胞含有試料の採集方法
第六の態様に従って、本発明の第五の態様による容器のチャンバーに患者からの細胞含有生体試料を直接採集するステップを含む方法を提供する。容器および細胞含有生体試料に関する詳細は上に記載した。それについてはそのそれぞれの開示を参照する。1つの実施形態によると、血液試料を採集し、好ましくは、それを患者から抜き取って容器に入れる。
G.製造方法
第七の態様に従って、本発明の第三の態様による安定化組成物の製造方法であって、前記安定化組成物の成分を混合する製造方法を提供する。好ましくは、前記安定化組成物の成分を混合して、溶液をもたらす。記載したように、血液試料を安定化するためには、溶血を有効に低減させることができるので、水を含む安定化組成物が特に好ましい。
本発明は、本明細書に開示する例示的方法および材料により限定されず、本明細書に記載するものと同様または等価のあらゆる方法および材料を本発明の実施形態の実施および試験に使用することができる。数値範囲は、範囲を規定する数を含む。本明細書において提供する表題は、本明細書を全体として参照することにより読み取ることができる本発明の様々な態様または実施形態に対する限定ではない。
文脈により別段示されない限り、本明細書において示される百分率値は、例えば、安定化剤または前記剤を含有する安定化組成物と細胞含有試料を接触させることによって生ずる混合物などの、液体混合物または組成物に含有される固体化合物の場合には(w/v)を指し、液体混合物または組成物に含有される液体化合物の場合には(v/v)を指す。
主題の明細書において使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈により明確に別段の規定がなされない限り、複数の態様を包含する。したがって、例えば、「1つの(a)ポリ(オキシエチレン)ポリマー」への言及は、単一のタイプのポリ(オキシエチレン)ポリマー、ならびに2つ以上のポリ(オキシエチレン)ポリマーを包含する。同様に、1つの(a)「剤」、「添加剤」、「化合物」などへの言及は、単一の実体およびかかる実体の2つ以上の組み合わせを包含する。「本開示」および「本発明」などへの言及は、本明細書において教示される単一または複数の態様を包含する、などである。本明細書において教示される態様は、「発明」という用語に包含される。
本明細書において用いる場合の用語「溶液」は、特に、液体組成物、好ましくは水性組成物を指す。それは、1相だけの均質混合物であってもよいが、溶液が、例えば沈殿物、特に安定剤などの含有化学物質の沈殿物などの固体添加剤を含むことも、本発明の範囲内である。
ヌクレオチド(nt)に関して本明細書に示すサイズ、それぞれにサイズ範囲は鎖長を指し、一本鎖分子ならびに二本鎖分子の長さを記載するために用いている。二本鎖分子の場合、前記ヌクレオチドは対合している。
1つの実施形態によると、方法の場合に、ある一定のステップを含むとしてまたは組成物、溶液および/もしくは緩衝液の場合に、ある一定の成分を含むとして本明細書に記載する主題は、それぞれのステップまたは成分から成る主題を指す。本明細書に記載する好ましい実施形態を選択および組み合わせることは好ましく、好ましい実施形態のそれぞれの組み合わせから生ずる特定の主題も本開示に属する。
本出願は、どちらの出願の開示もこれにより参照により組み込まれるEP14 000
990.3およびUS61/955,200(2014年3月18日出願)の優先権を主張するものである。
以下の実施例は、単に例証を目的とするものであり、いかなる点においても本発明を限定するものと解釈すべきでないことを理解されたい。
使用する略語:
BA:ブタンアミド
ccfDNA:循環の無細胞DNA
DMPA:ジメチルプロピオンアミド
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
PEG:ポリエチレングリコール
単独での、または異なる安定化剤(カスパーゼ阻害剤および/または異なる第一級および/または第三級アミドが挙げられる)との組み合わせでの、ポリエチレングリコール(PEG)を、細胞含有生体試料、ここでは血液試料を安定化するその能力について試験した。リファレンス試料(EDTA血液)と比較して、PEGは、ゲノムDNAの細胞外核酸集団への放出を防止するという方法で、全血試料中の白血球を効率的に安定化できることが判明した。この安定化効果を、異なる分子量のPEGについて、および異なる濃度で使用して、実証した。PEGを無水粉末もしくは液体として、純粋な試薬として添加することができ、または水溶液に溶解することができることを実証した。単独でのPEGは、それ自体で強い安定化効果を有するが、そのうえ、カスパーゼ阻害剤および異なるアミドを含めた他の安定化剤と組み合わせると、安定化を、0日目(採血直後)と6日目(室温で6日間の保管)の間に白血球から血漿中に放出されるDNAの増加を再現可能に、2倍またはさらにはより多く低減させるレベルまで有意に改善する。この達成される長期効率的安定化は、血液試料などの細胞含有試料についての均一で確実な安定化方法を提供するので、重要な利点である。さらに、これらの実施例は、高分子量PEGと低分子量PEGの併用が、強い安定化効果を達成し、例えばシリカカラムベースの核酸単離方法を用いて、細胞外核酸を安定化された試料から効率的に単離することができるので、有利であることの証拠となる。
I.材料および方法
別段の指示がない限り、実施例では以下の手順に従った。
1.採血および血液安定化
全血1mlにつき1.8mg K2EDTAを有する10ml噴霧乾燥EDTAチューブ(BD)に血液を採取した。採取後30分以内に、安定化試薬を直接添加するか、または安定化試薬を収容している新たなチューブにその血液をデカントした。チューブを10回反転させることによって血液と試薬を混合した。安定化された血液試料を直立に立てて室温で保管した。
2.血漿の調製
全血試料を周囲温度で15分間、3,000rpm(1分あたりの分離(resolution per minute))で遠心分離した。清澄な血漿画分をピペッティングによって取り出し、新鮮な遠心分離チューブに移した。第二ラウンドでは、血漿試料を4℃で10分間、16,000×gで遠心分離した。上清を新たなチューブに写し、ccfDNAの精製に直接使用するか、または使用するまで−20℃で保管した。
3.ccfDNAの精製
「1ml、2mlまたは3ml血清または血漿からの循環核酸の精製」についてのプロトコルを用いて、QIAamp循環核酸キット(QIAGEN GmbH)で血漿からDNAを単離した。別段の明記がない限り、2mlの血漿をプロテイナーゼKおよび溶解緩衝液ACLと混合し、30分間、60℃でインキュベートし、緩衝液ACBと混合し、製造業者の推奨に従って、QIAvac 24 Plus真空マニホールドを使用してQIAamp Miniカラム(核酸を結合するためのシリカ固相を具備する)に結合させ、洗浄し、60μl溶離緩衝液AVEで溶離した。
4.単離された細胞外DNAを分析するための定量的リアルタイムPCRアッセイ
単離された細胞外DNAを、3μlの溶離液を使用して、Abi Prism HT7900(Life technologies)でのリアルタイムPCRアッセイで分析した。QuantiTect Multiplex PCR Kit試薬(QIAGEN
GmbH)を使用する20μlアッセイ体積で、ヒト18S rDNA遺伝子の2つの断片、66bp断片および500bp、をマルチプレックスPCRで増幅した。個々の試料のサイクル閾値(Ct値)を、gDNA標準曲線に従って溶離液中のgDNAの量に変換した:3000から0.3ゲノム当量に希釈したヒトゲノムDNA(1ゲノム当量は、約6.6pgのヒトゲノムDNAに等しい)を用いて作成した標準曲線との比較により完全定量を達成した。保管時点(一般に、採血後6日)のgDNA量を同じドナーからの時間ゼロのgDNAレベルと比較した。
66bp断片の定量を用いて、血漿中の18S rDNAコピーの総量を偏向させた(deflect)。500bpの定量を用いて、アポトーシスに由来するまたは全血から機械的に溶解された白血球に由来する18S rDNAコピーの量を決定した。無細胞DNAは、典型的に140〜170bpの長さを有する。それ故、500bp断片は、アポトーシス血球、溶解血球または別様に破壊された血球に由来すると考えられる。T0と6日保管の間の500bp断片からのコピー数の増加を安定性効率の測定値として使用した。したがって、放出500bp DNAの量が少ないほど、安定化方法の性能が良い。より多い放出500bp DNA量は、白血球の溶解が起こるたこと、およびしたがって、細胞外核酸集団が細胞内ゲノムDNAで汚染されたことを示す。
異なる安定化組成物でのその後の実験には、複数の異なる個々のドナーからの血液試料を使用した。採血後の時点0(第0日)に対する室温で異なる時点(日数)についての保管された安定化血液または非安定化血液中の18S rDNA遺伝子の66bp断片および500bp断片のコピー数の平均倍変化を、個々のドナー試料各々について単一計算した。対応する単一計算平均値(倍変化)の平均を、使用した異なる安定化組成物の安定化効率の尺度として用いた。血液試料は、それらの組成のおよびドナーに依存する含有細胞外核酸の量の自然な個々の変動のもとになるので、これは、標準偏差上昇をもたらし得る。
5.ヘモグロビンの測定
血漿の溶血変色と線形相関があることが判っている414nmでの吸光度をspectramax光度計で測定した。
II.実施例
1.実施例1
実施例1では、水不在下でBA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせた、異なる分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)の安定化効果を試験し、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)の組み合わせのアプローチと比較した。さらに、血漿試料中のかかる安定化混合物の溶血に対する効果を並行して測定した。EDTA血液試料は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たした。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、水を添加することなく異なる分子量のPEGを伴うまたは伴わないブタンアミド(BA)およびEDTAの混合物で安定化した。DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化されたすべての血液試料を条件および試験時点あたり三重反復で用意した。安定化溶液と血液とを混合した直後の時点0(リファレンス時点)で、血漿を生成し、循環細胞外DNAを抽出した。リファレンス対照として、EDTAで安定化した血液試料(さらなる添加剤なしでK2 EDTAチューブに採集したもの)も0または6日間保管し、三重反復で分析した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:100mg BA、132mg K2EDTA、10μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG(600、1000または3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:250mg PEG(600、1000または3000)、100mg BA、132mg K2EDTA、10μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)(水なし)
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG(600、1000または3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2.5%(w/v)PEG(600、1000または3000)、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
採血後時点0(第0日)に対する室温で6日間保管した8名のドナーからの安定化血液または非安定化血液中の18S rDNA遺伝子の66bp断片および500bp断片のコピー数の平均変化(x倍変化)を8名の血液ドナーの各々について単一計算した。図1は、条件あたり8名のドナーからのコピー数の対応する平均倍変化を示すものである。すべての安定化組成物は、室温で6日間の保管後、非安定化対照(EDTA血液)と比較して、平均倍変化が有意により少ない増加なので、有意に少ない放出されたゲノムDNA量を示す。したがって、安定化効果は、6日というこの長い安定化期間全体にわたってでさえ達成された。図1は、血液試料をさらにポリエチレングリコールと接触させることが、達成される安定化効果を有意に改善したことを実証する。それ故、異なる分子量のPEGは、安定化効果の改善に非常に有効であった。平均倍変化の増加が一貫して2倍より低く、複数の実施形態において1倍より低いことさえあったからである。すなわち、第6日でのDNAレベルは、基礎時点(第0日)のものに匹敵する。
要約すると、カスパーゼ阻害剤およびアミド、ここでは第一級カルボン酸アミドを含む安定化組成物の安定化効果は、ポリエチレングリコールと併用すると有意に増加させることができる。ポリエチレングリコールは、異なる分子量で有効であった。さらに、これらの結果は、PEGの分子量を増加させるとPEGの安定化特性が増加したことを示す。これは、使用したPEGの分子量と得られる試料の安定化効果との間に正の相関関係があることを示す。高い分子量のほうが、達成される安定化効果を改善した。
2.実施例2
実施例2では、水不在下でEDTAとBAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせの安定化効果を試験し、異なる量(0.2g、0.3gまたは0.4g)の、600の分子量を有するPEG(PEG600)をさらに含む対応する組成物と比較した。EDTA血液は、非安定化リファレンスとしての役割を果たした。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した6名のドナーからの10ml全血の試料を、水を添加することなく、異なる量の、600の分子量を有するPEG(PEG600)を伴うまたは伴わないブタンアミド(BA)およびEDTAの混合物で安定化した。さらに、DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を条件および試験時点ごとに三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。リファレンス対照として、EDTAで安定化した血液試料(さらなる添加剤なしでK2 EDTAチューブに採集したもの)も6日間、保管した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:100mg BA、182mg K2EDTA、10μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG600(0.2〜0.4g)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:200、300および400mg PEG600、100mg BA、188mg K2EDTA、10μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、20mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG600(0.2〜0.4g)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2、3および4%(w/v)PEG600、1%(w/v)BA、20mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
平均倍変化として図示した6名の個々のドナーの試料からの定量的リアルタイムPCR解析の結果を図2に示す。0.2g、0.3gまたは0.4g PEG600による時間ゼロに対するDNA(66bp断片および500bp断片)の増加(平均倍増加)を示す。すべての被験安定化組成物は、室温で6日間の保管後、リファレンスのEDTA血液と比較して有意に低い放出DNA量を示した。その安定化効果は、細胞含有試料をポリエチレングリコールとさらに接触させると有意に改善した。3つすべてのPEGベースの安定化アプローチにおける両方の18S rDNAアンプリコンコピー数の平均倍変化は、PEGを含まない組成物(BA、EDTA、Q−VD−OPh)と比較して明らかに少なかった。x倍変化は、全ての場合、2倍より低かった。この実施例は、細胞外核酸集団を安定化するための、異なる量のポリエチレングリコールのさらなる使用が、カスパーゼ阻害剤および第一級カルボン酸アミドであるブタンアミドで達成される安定化結果を有意に改善することを実証する。
3.実施例3
実施例3では、水の存在下で採血管中に直接凍結乾燥させた、高分子量PEG(PEG3000)、EDTA、BAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を含む試薬混合物の安定化効果を試験し、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を含む溶液で同時に処理した試料と比較した。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、PEG3000を伴うまたは伴わないブタンアミド(BA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。凍結乾燥のために、カスパーゼ阻害剤、EDTA、BAおよびPEGを含むすべての成分を水に溶解した。1mlの体積(最終濃度は下記参照)を5mlチューブの中でドライフリーザーEpsilon 2−25D(Christ GmbH)で凍結乾燥させた。K2EDTAチューブから、凍結乾燥させた安定化試薬を有する5mlチューブに血液を移し、チューブを10回反転させることによって安定化した。リファレンスとして、試薬を新たに調製し、DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。
血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− 新たに調製したBA、EDTA、Q−VD−OPh:100mg BA、132mg K2EDTA、10μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− 新たに調製したPEG3000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:250mg
PEG3000、100mg BA、132mg K2EDTA、10μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)(水なし)
5mlチューブへの凍結乾燥のための0.5ml中の安定化試薬混合物の組成:
− 凍結乾燥:125mg PEG3000、50mg BA、67.5mg K2EDTA、5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)を含有する0.5mlの安定化試薬
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG3000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)PEG 3000、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
結果を図3に示す。18S rDNA遺伝子の異なるアンプリコン長に基づく、時間ゼロに対する採血6日後のDNAの増加(平均倍変化)を示す。この場合もやはり、これらの結果は、ポリエチレングリコールを安定化のためにさらに使用すると安定化効果が有意に改善すること、およびそれがBA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)で達成される安定化効果を増強することを実証する。また、試験した長期安定化期間(6日)中のx倍変化は2倍より低かった。さらに、この実施例は、これらの安定化組成物が新たに調製したものであってもよく、または凍結乾燥形態であってもよいことを実証する。
4.実施例4
実施例4では、EDTAで安定化した血液試料に対する単独でのまたはカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせてのPEG6000(高分子量PEG)の安定化効果を水性安定化溶液中で試験し、EDTAで安定化した血液単独、またはBA、EDTAで安定化した血液と比較した。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、ブタンアミドまたはPEGのいずれかをEDTAおよび任意選択のカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせて含有する水溶液で安定化した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに3日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:360mg BA、68.4mg K2EDTA、2.4μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)を伴うまたは伴わない、水で全量2ml
− PEG6000、EDTA、Q−VD−OPh:137.5mg PEG6000、132mg K2EDTA、2.2μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)を伴うまたは伴わない、水で全量1ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、EDTA:3%(w/v)BA、7.2mg/ml K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:3%(w/v)BA、7.2mg/ml K2EDTA、1μM Q−VD−OPh
− PEG6000、EDTA:1.25%(w/v)PEG6000、7.2mg/ml K2EDTA
− PEG6000、EDTA、Q−VD−OPh:1.25%(w/v)PEG6000、7.2mg/ml K2EDTA、1μM Q−VD−OPh
結果
8名の異なるドナーからのqPCR分析の結果を図4に示す。採血後時点0(0日目)に対する、室温で3日間保管した8名のドナーからの安定化血液または非安定化血液中の異なる18S rDNA遺伝子アンプリコン(66bpまたは500bp)のDNAコピーのコピー数(倍変化(fold change))の平均変化を示す。高分子量ポリエチレングリコールを含む安定化組成物は、室温で3日間保管した後、非安定化EDTA血液と比較して有意に少ない放出DNA量を示す。高分子量PEGのみを安定剤として含む安定化組成物は、3日間の保管期間にわたる安定化効果を達成し、これは、安定化剤ブタンアミドを用いて達成された効果よりも優れていた。これは、より短い安定化期間にわたる安定化を達成しようとする場合、ポリエチレングリコール単独でも安定化剤として有効であることを実証する。ポリエチレングリコールをカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせて使用したところ、安定化効果が改善された。高分子量PEGとカスパーゼ阻害剤の組み合わせを用いて達成された安定化効果は、さらには、ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の組み合わせを使用した安定化手法よりも優れている。結果は、抗凝固物質(EDTA)のみと組み合わせて水溶液に溶解させたPEGが、ccfDNAおよび加えて白血球の両方を安定化する(それによって、血漿中への細胞DNAの放出を防止する)ことを実証する。さらに、この安定化効果はブタンアミドと比較してさらにいっそう著しいことが判明した。
5.実施例5
実施例5では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をさらに含む安定化水溶液中の異なる分子量を有するPEG(PEG300、PEG600、PEG1000)の安定化効果を試験し、BA、ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)で共処理した試料と比較した。非安定化EDTA血液は、リファレンス対照としての役割を果たした。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、異なる分子量のPEGを伴うまたは伴わない水溶液中のブタンアミドとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG(300、600または1000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:287.5mg PEG(300、600または1000)、115mg BA、154.5mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG(300、600または1000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2.5%(w/v)PEG、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
図5は、達成された安定化結果を示す。明らかなように、異なる分子量のPEGを含む水性安定化組成物は血液試料を安定化し、そしてブタンアミドおよびカスパーゼ阻害剤で達成される安定化効果をさらに増加させた。汚染するゲノムDNAの量の低減から分かるように、白血球の安定化が有意に改善された。これらの結果は、その安定化効果が使用するPEGの分子量の増加に伴って増加することも実証する。500bp断片の増加は、1000の分子量を有するポリエチレングリコールを使用すると2倍より下に低減された。
6.実施例6
ここでは、安定化水溶液中の漸減PEG濃度(2%、1.5%、1%または0.7%)の安定化効果をブタンアミド、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで試験した。非安定化EDTA血液は、リファレンス対照としての役割を果たした。BAとEDTAとQ−VD−OPhとを含む組成物を並行して試験した。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、異なる濃度のPEG6000を伴うまたは伴わない水溶液中のブタンアミドとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S
rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:110mg BA、147mg K2EDTA、11μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1ml
− PEG6000(2〜0.7%)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:220、165、110、77mg PEG6000、110mg BA、147mg K2EDTA、11μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000(2〜0.7%)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2、1.5、1、0.7%(w/v)PEG6000、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
実施例6では、漸減濃度(decreasing concentration)のより分子量の高いPEG6000を、ブタンアミド、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤との組み合わせで利用したときの白血球の安定化に対するそれらの影響について試験した。図6は、定量的リアルタイムPCRによって18S rDNAの増加を分析することにより決定して、細胞外核酸集団の得られた安定化結果を図示するものである。PEGを含む本発明によるすべての安定化組成物は、室温で6日間の保管後、ブタンアミド、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤を含む安定化アプローチと比較して有意に少ない放出DNA量を示す。さらに、明らかなように、高分子量ポリエチレングリコールを異なる濃度で使用して水溶液中の白血球を安定化することができ、それによってゲノムDNAでの細胞外核酸集団の汚染を低減させることができる。さらに、この場合もやはり、PEGはブタンアミドおよびカスパーゼ阻害剤の安定化効果を増加させ、それによって非常に有効な安定化アプローチを提供することが証明される。
7.実施例7
実施例7では、異なる体積を有する安定化水溶液中のPEGを、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)および種々のアミド(BAまたはDMPA)と組み合わせによる安定化効果を試験した。非安定化EDTA血液は、リファレンス対照としての役割を果たした。BAとDMPAとEDTAとQ−VD−OPhとを含む組成物を並行して試験した。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、異なる体積0.8mlおよび1.2mlを有する水溶液中のPEG6000とブタンアミドまたはDMPAとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:112mg PEG6000、56mg BA、150mg K2EDTA、2.23μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.2mlまたは0.8ml
− PEG6000、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:112mg PEG6000、112μl DMPA、150mg K2EDTA、2.23μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.2mlまたは0.8ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BAまたはDMPA、EDTA、Q−VD−OPh 全量1.2ml:1%(w/v)PEG6000、0.5%(w/v)BAまたは1%(v/v)DMPA、15mg/ml K2EDTA、1μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BAまたはDMPA、EDTA、Q−VD−OPh 全量0.8ml:1.04%(w/v)PEG6000、0.52%(w/v)BAまたは1.04%(v/v)DMPA、15.6mg/ml K2EDTA、1.03μM Q−VD−OPh
結果
図7は、これらの安定化アッセイの結果である。採血後時点0(第0日)に対する、室温で6日間保管した安定化血液または非安定化血液中の異なる18S rDNA遺伝子アンプリコン(66bpまたは500bp)のDNAコピーのコピー数の平均変化(倍変化)を示す。本結果は、ポリエチレングリコールを異なるアミドと組み合わせて異なる体積の水溶液中の白血球を安定化することができ、それによって、細胞外核酸集団が細胞内核酸での希釈の防止により保護される、安定化された血液試料が得られることを実証する。
8.実施例8
実施例8では、安定化水溶液中の安定化試薬の効果を溶血アッセイによって試験する。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、水を添加した、PEGを伴うまたは伴わないブタンアミドまたはDMPAとEDTAとの混合物で安定化した。DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに3、6および10日間、室温で保管した後、血漿を生成した。分光光度計を用いて414nmでの吸光度を測定することによってヘモグロビン含有量を決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:137.5mg PEG6000、55mg BA、165mg K2EDTA、11μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.0ml
− PEG6000、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:110mg PEG6000、110μl DMPA、147mg K2EDTA、11μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.0ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:1.25%(w/v)PEG6000、0.5%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.0%(w/v)PEG6000、1.0%(v/v)DMPA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
図8は、8名の異なるドナーからの血漿試料における0、3、6および10日の保管後の溶血に対する効果を示す。図8は、8名のドナーからの溶血の平均増加を血漿画分における414nmでの吸光度の増加として図示する。
図8から分かるように、EDTA対照実験では、溶血が保管時間の経過とともに上昇するのに対し、EDTAリファレンスと比較してEDTAおよびBAまたはDMPAのいずれかと併せてPEG6000を含有する本発明による安定化水溶液を用いると分析時点で溶血が低減された。注目すべきこととして、EDTA対照で見られる保管第6日から保管第10日への溶血増加は、本発明の安定化試薬組成物および水を含むすべての被験溶液中で本質的に低減される。PEG含有水溶液中での低減される溶血の程度は、BA、DMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)併用による試料の安定化に匹敵した。したがって、水性安定化組成物にPEGを溶解することは、溶血を効率的に低減させるので有利である。
9.実施例9
実施例9では、ccfDNAコピー数に対する異なる分子量のPEG(PEG300、PEG600、PEG1000、PEG3000)の使用の効果を、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで試験し、非安定化EDTA対照血液と比較する。BA、DMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)含有組成物を並行して試験した。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、漸増分子量(increasing molecular weight)のPEGを含む水溶液中のブタンアミドとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで安定化した。採血の1時間後、5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG(300、600、1000、もしくは3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:287.5ml PEG300または287.5mg PEG(600,1000もしくは3000)、115mg BA、154.5mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG(300、600、1000、もしくは3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2.5%(v/vまたはw/v)PEG、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
8名の異なるドナーからの絶対定量的リアルタイムPCR分析の結果を図9に平均として示す。詳細には、採血後第0日の、ドナーの安定化血液試料または非安定化血液試料中の異なる18S rDNA遺伝子アンプリコン(66bpまたは500bp)のDNAの絶対コピー数の平均を示す。その目的は、シリカカラムベースの核酸単離手順を用いるときの、後の核酸収量に対する使用された安定化アプローチの効果を試験することであった。図9は、EDTAリファレンス試料(非安定化アプローチ)と比較して、またはBAとDMPAとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)とを含有する安定化された血液溶液と比較して、より高分子量のPEGの添加が血漿中の検出可能アンプリコン遺伝子コピー数の低減をもたらしたことを示す。これらの結果は、安定化のための漸増分子量または漸増鎖長を有するPEGの使用が、より高濃度で使用すると、安定化された試料から細胞外核酸を単離するためにシリカカラムベースの核酸単離アプローチを用いる場合に血漿中の検出可能ccfDNA遺伝子コピー数の低減をもたらし得ることを示す。
10.実施例10
実施例10では、異なる濃度(1.0%。1.25%または1.5%)のPEG6000を、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで試験した。EDTAは安定化血液試料、リファレンス対照としての役割を果たした。BA、DMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)含有血液混合物を並行して分析した。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、体積1.5mlから10mlの血液において、PEG6000を伴う(漸増濃度のPEGを用いて)または伴わないアミド(DMPAおよび/またはBA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで安定化した。採血の1時間後、5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
10ml K2EDTA全血各々についての安定化試薬混合物の組成:
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG6000(1〜1.5%)、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量1.5ml:115、144および172mg PEG6000、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:1、1.25および1.5%(w/v)PEG6000、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
実施例10の結果を図10に示す。異なる濃度(1.0%、1.25%または1.5%)のPEG6000と、BAと、EDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)とを含む本発明による安定化組成物での、18S rDNA遺伝子の異なるアンプリコン長に基づく、8名のドナーから採血後第0日のccfDNAの絶対コピー数の平均減少を示す。図10は、PEGを含有する安定化された血漿中の18S rDNA遺伝子の66bp断片および500bp断片の絶対コピー数の低減が、PEG濃度依存的様式で起こることを示す。これは、安定化溶液中の、漸増濃度のより大きな分子量のPEG(PEG6000)が、シリカカラムベースの核酸単離アプローチを使用したときに血漿中の検出可能ccfDNA遺伝子コピー数の低減をもたらし得ることを実証する。
11.実施例11
実施例11では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで高分子量PEG(PEG6000)を含む異なる体積の水性安定化組成物の安定化効果を分析した。2つのアミド(DMPA、BA)と、EDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせを含む安定化溶液とともにインキュベートした血液を並行して分析した。EDTA血液は非安定化リファレンスとしての役割を果たした。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、異なる体積の水溶液中の、PEG6000を伴うまたは伴わないアミド(DMPAおよび/またはBA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで安定化した。採血の1時間後、5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
10ml K2EDTA全血各々についての安定化試薬混合物の組成:
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量1ml:110mg PEG6000、110mg BA、147mg K2EDTA、11μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1ml
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量1.5ml:115mg PEG6000、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量2ml:120mg PEG6000、120mg BA、162mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh 全量1、1.5または2ml:1%(w/v)PEG6000、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
実施例11では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせでPEG6000を含む本発明による異なる体積(1ml、1.5mlまたは2ml)の安定化溶液を試験した。図11に示す結果は、安定化された試料中の2つの被験18S rDNA遺伝子の断片の絶対コピー数の低減が安定化試薬の体積に依存することを実証する。したがって、高分子量PEGを含有する安定化組成物の体積の増加(およびしたがって安定化組成物の血液に対する比の増加)は、血漿中の検出可能ccfDNA遺伝子コピー数の低減をもたらす。1ml安定化溶液について示した結果から明らかであるように、より少ない体積を使用するとコピー数は有意に低減されなかった。この結果は、試料を含有する混合物中の全体の濃度が同じであるので、驚くべきことである。
12.実施例12
実施例12は、2つの異なる体積(1.5mlおよび2.0ml)を有する水溶液中、DMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)に加えて高分子量ポリエチレングリコール(PEG6000)と低分子量ポリエチレングリコール(PEG300)の組み合わせを含有する安定化組成物の安定化効果を示す。EDTA血液は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たす。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、異なる体積、1.5mlおよび2.0mlを有する水溶液中のPEG300およびPEG6000、DMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)の混合物で安定化した。血漿を5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− 0.5%PEG6000、2.5または5%PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh−2ml:60mg PEG6000、300または600μl PEG300、120μl DMPA、162mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− 0.5%PEG6000、2.5または5%PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh−1.5ml:57.5mg PEG6000、287.5μlまたは575μl PEG300、115μl DMPA、155mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− PEG6000、PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh−2ml:0.5%(w/v)PEG6000、2.5または5%(v/v)PEG300、1%(v/v)DMPA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
図12は、8名の異なるドナーからの定量的リアルタイムPCR分析の結果を、採決後時点0(0日目)に対する、室温で6日間保管した8名のドナーからの安定化血液または非安定化血液中の2つの試験した18S rDNA遺伝子アンプリコン(66bpまたは500bp)のコピー数の変化(平均倍変化)として示す。すべての安定化された試料は、18S rDNA遺伝子アンプリコンのコピー数倍変化の匹敵する少ない増加を示した。達成された安定化効果は、すべての場合において異常に高く、試料を6日間という長期安定化期間保管したにもかかわらず、500bp断片の増加は2倍をはるかに下回り、さらには1.5倍を下回った。
それぞれの安定化組成物を、検出可能ccfDNA遺伝子コピー数が低減するかどうかを分析するために、採血後0日目における18S rDNAアンプリコンの絶対コピー数の変化についても試験した。図13に結果を示す。分かるように、すべての試験した安定化組成物が、非安定化試料と比較して、匹敵するまたはさらにはよりよい絶対コピー数を示す。したがって、安定化された試料から核酸を単離するためにシリカカラムに基づく核酸単離手法を使用した場合にも核酸収量は低減しなかった。核酸収量の低減は、高分子量ポリエチレングリコールを高濃度で使用した場合には観察されたが、高分子量ポリエチレングリコールと低分子量ポリエチレングリコールの組み合わせを使用した場合には観察されなかった。それぞれの組み合わせの使用は、安定化効果を損なうことなく高分子量ポリエチレングリコールの濃度を低下させることを可能にし、これは、低分子量ポリエチレングリコールによって支持される。低分子量ポリエチレングリコールは、シリカカラムを伴うその後の核酸単離手順を損なうことなく、より高い濃度でも使用することができる。観察される標準偏差の上昇は、ccfDNAの量がドナー間で変動するという事実に起因する。
これは、高分子量ポリエチレングリコールと低分子量ポリエチレングリコールの組み合わせが、達成される安定化効果および安定化された試料から単離することができる核酸の収量に関して高度に有利であることを実証する。したがって、異なるポリエチレングリコールの混合物を併用して、絶対ccfDNAコピー数を低減させることなく、血液試料を効率的に安定化することができる。
13.実施例13
実施例13では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を有する安定化水溶液と併せた高分子量PEG(0.5%PEG6000)と低分子量PEG(2.5%または5%PEG300)との組み合わせの安定化効果を分析した。2つのアミド(DMPA、BA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物を含む安定化溶液とともにインキュベートした血液を共分析した。EDTA血液は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たした。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、1.5mlの体積を有する水溶液中のPEG300およびPEG6000、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− 0.5%PEG6000、2.5または5%PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh−1.5ml:57.5mg PEG6000、287.5μlまたは575μl PEG300、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
それによって、全血/安定化混合物中の異なる成分の次の最終濃度を得た:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh−1.5ml:0.5%(w/v)PEG6000、2.5または5%(v/v)PEG300、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
図14は、8名のドナーからの、採血後時点0(第0日)に対する室温で6日間保管した前記ドナーからの安定化血液または非安定化血液中の被験66bpまたは500bp長18S rDNA遺伝子アンプリコンのコピー数の平均変化(倍変化)としての、qPCR分析の結果を示す。非安定化EDTA血液対照はコピー数の平均倍変化の上昇を明らかにしたが、PEGを含有するすべての安定化組成物は、18S rDNA遺伝子アンプリコンコピー数の平均倍変化に関して少ない増加しか示さなかった。これらの結果は、被験PEG含有安定化組成物の類似した安定化能を示す。達成される安定化は、BAとDMPAとEDTAとカスパーゼ阻害剤とを含む安定化組成物と比較して優れており、それにより、この場合もやはり、本発明で達成される重要な利点を実証した。
加えて、高分子量PEGと低分子量PEGとの組み合わせを有する、使用される安定化溶液の記載した有利な安定化能は、ccfDNAコピー数の低減を伴わないことが確認された。これは、採血後0日に血漿中の18S rDNAの絶対コピー数の変化について同じ溶液を試験することによって分析した。図15は、得られた結果を示す。得られた絶対コピー数は、BAとDMPAとEDTAとカスパーゼ阻害剤とを含む安定化組成物と同様であった。それ故、絶対ccf DNAコピー数の有意な低減は、このアッセイで検出されなかった。したがって、異なる分子量のPEGの組み合わせ、特に、高分子量PEGと低分子量PEGとの組み合わせを、BAを含有する異なる体積の水溶液に組み合わせて、特に白血球を安定化することにより、血液試料中の細胞外核酸集団を、シリカ膜を含む標準的核酸単離手順を用いたときに絶対ccfDNAコピー数の有意な低減がなく、有効に安定化することができる。
14.実施例14
実施例14では、安定化水溶液の効果を溶血アッセイによって試験した。ここでは、BAまたはDMPAおよびEDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせた、高分子量PEG(0.5%PEG6000)と低分子量PEG(2.5%または5%PEG300)との組み合わせを分析した。2つのアミド(DMPA、BA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物を含む安定化溶液とともにインキュベートした血液を共分析した。EDTA血液は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たした。
採血および血液安定化
10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10ml全血の試料を、1.5mlの体積を有する水溶液中のPEG300およびPEG6000、BAまたはDMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。分光光度計を用いて414nmでの吸光度を測定することによってヘモグロビン含有量を決定した。
安定化試薬混合物の組成(10ml K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μl DMPA、68.4mg K2EDTA、12μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量2ml
− 0.5%PEG6000、2.5または5%PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:57.5mg PEG6000、287.5μlまたは575μl PEG300、115μl DMPA、155mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
− 0.5%PEG6000、2.5または5%PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh:57.5mg PEG6000、287.5μlまたは575μl PEG300、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
それによって、全血/安定化混合物中の異なる成分の次の最終濃度を得た:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:0.5%(w/v)PEG6000、2.5または5%(v/v)PEG300、1%(v/v)DMPA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh:0.5%(w/v)PEG6000、2.5または5%(v/v)PEG300、1%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
図16は、採取後0日および6日の血液保管後の8名の異なるドナーからの血漿試料における溶血に対する、異なる分子量のPEGとDMPAまたはBAのいずれかとを含む分析した水溶液の効果を示す。図16は、0日および6日の血液保管後の血漿画分における414nmでの吸光度の増加として溶血の増加を示す。
図16から分かるように、EDTA対照実験は、保管後0日の最初の時点と比較して6日の血液試料保管後の溶血増加(414nmでの吸光度増加)を示す。EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAまたはDMPAとの組み合わせの、0.5%濃度のPEG6000(より高分子量のPEG)と5%濃度のPEG300(より低分子量のPEG)の混合物を含む安定化組成物を用いると、溶血はEDTAリファレンス試料と同様であった。対照的に、0.5%PEG6000と組み合わせたより低い濃度のPEG300(ここでは2.5%)と、EDTAと、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)とBAまたはDMPAとを使用する本発明による安定化組成物は、6日間の血液保管後の溶血を低減させた。これは、水溶液に溶解したとき高分子量PEGと低分子量PEGとのバランスの取れた組成を含有する安定化組成物で溶血が防止され得ることを実証する。
15.実施例15
真空にした採血チューブ(Alphaチューブ)に予め充填されたPEG6000、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を含む安定化組成物を、安定剤としてのホルムアルデヒド放出剤の使用に基づく安定化組成物を含む市販のStreck Cell−Free DNA BCTチューブと比較した。
採血および血液安定化
8名のドナーからの10ml全血の試料を、10ml噴霧乾燥K2EDTAに、PEG6000、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAまたはDMPAを含む本発明の安定化組成物量が予め充填されたAlphaチューブに、ならびにStreck Cell−Free DNA BCTチューブに採集した。5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。残りの血液は、さらに3、6および10日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
異なるチューブの中の安定化試薬混合物の組成(すべて、10ml採血体積で):
− EDTA−10ml噴霧乾燥EDTA、
− Alpha1−チューブ(PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh):137.5mg PEG6000、55mg BA、165mg K2EDTA、11μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.0ml
− Alpha2−チューブ(PEG6000、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh):110mg PEG6000、110μl DMPA、147mg K2EDTA、11μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.0ml
− Streck Cell−Free DNA BCTチューブ:安定剤としてのホルムアルデヒド放出剤を含む
それによって、全血/安定化混合物中の異なる成分の次の最終濃度を得た:
− EDTAチューブ:1.8mg/ml K2EDTA
− Alpha1−チューブ(PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh):1.25%(w/v)PEG6000、0.5%(w/v)BA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− Alpha2−チューブ(PEG6000、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh):1.0%(w/v)PEG6000、1.0%(w/v)DMPA、15mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− Streck Cell−Free DNA BCTチューブ:該当する濃度なし
結果
結果を図17および18に示す。8名の血液ドナーから採血後の時点0(第0日)に対する室温で3、6または10日間保管した8名のドナーからの安定化血液または非安定化血液中の18S rDNA遺伝子の66bp断片(図17)および500bp断片(図18)のコピー数の変化(平均倍変化)を分析した。バーは、8名のドナーからのコピー数の平均倍変化の対応する標準偏差を条件ごとに示すものである。図17および18に示されるように、PEG6000、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAまたはDMPAを含む両方の被験安定化組成物は、血液中の細胞外核酸集団の安定化に関して高度に効率的である。18S rDNAの66bp断片のコピー数の平均倍変化は、試験したすべての時点について、時点ゼロの基礎レベル(約1.0での倍変化)に留まった。図18は、18S rDNA遺伝子の500bp断片レベルについて同等の結果を示す、すなわち、細胞破壊中に放出される細胞核酸についての試験断片は、試験した時点にわたって時間点ゼロの状態に実質的に留まった。この安定化効果は、Streck Cell−Free DNA BCTチューブを使用した結果に匹敵した。したがって、本発明による安定化組成物は、ホルムアルデヒド放出剤を含むStreck Cell−Free DNA BCTチューブに類似して白血球からの細胞内核酸、例えば特にゲノムDNAの放出を低減させることにより血液試料中の細胞外核酸集団を効率的に安定化する。しかし、上に記載したように、ホルムアルデヒド放出物質の使用には、それらが核酸分子間またはタンパク質と核酸間の架橋の誘導により細胞外核酸単離の効力を弱めるので、欠点がある。それ故、特異的核酸単離方法を用いなければならない。かかる架橋物質の使用を含まず、ポリ(オキシエチレン)ポリマーの脂溶に基づく、本発明による安定化組成物には、架橋ベースの安定化技術を超える重要な利点がある。
16.実施例16
水性安定化溶液中、BAまたはDMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせた、異なる高分子量PEG(0.5%PEG6000、PEG10000またはPEG20000)と低分子量PEG(3.5%PEG300)の組み合わせの安定化効果を分析した。安定化添加剤を、真空にした採血チューブ(Alphaチューブ)に予め充填した。EDTA血液は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たした。
採血および血液安定化
8名のドナーからの10ml全血の試料を、10ml噴霧乾燥K2EDTAチューブ、ならびにPEG6000、PEG10000またはPEG20000ならびにさらにPEG300、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAまたはDMPAを含む本発明の安定化組成物量が予め充填されたAlphaチューブに採集した。5mlの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を迅速に生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2ml血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
異なるチューブの中の安定化試薬混合物の組成(すべて、10ml採血体積で)。
− EDTA(非安定化)−18mg噴霧乾燥EDTA
− Alpha3−チューブ(0.5%PEG6000、3.5%PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh):57.5mg PEG6000、402.5μl
PEG300、115μl DMPA、152mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
− Alpha4−チューブ(0.5%PEG6000、3.5%PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh):57.5mg PEG6000、402.5μl PEG300、115μg BA、152mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
− Alpha5−チューブ(0.5%PEG10000、3.5%PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh):57.5mg PEG10000、402.5μl PEG300、115μl DMPA、152mg K2EDTA、11.5μl
Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
− Alpha6−チューブ(0.5%PEG10000、3.5%PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh):57.5mg PEG10000、402.5μl
PEG300、115μg BA、152mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
− Alpha7−チューブ(0.5%PEG20000、3.5%PEG300、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh):57.5mg PEG20000、402.5μl PEG300、115μl DMPA、152mg K2EDTA、11.5μl
Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
− Alpha8−チューブ(0.5%PEG20000、3.5%PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh):57.5mg PEG20000、402.5μl
PEG300、115μg BA、152mg K2EDTA、11.5μl Q−VD−OPh(1mgを388μl DMSOに溶解)、水で全量1.5ml
それによって、全血液/安定化混合物中の異なる成分の次の最終濃度を得た:
− 非安定化:1.8mg/ml K2EDTA
− PEG6000、PEG10000またはPEG20000、PEG300、DMPAまたはBA、EDTA、Q−VD−OPh−1.5ml:0.5%(w/v)PEG6000(またはPEG10000、またはPEG20000)、5.5%(v/v)PEG300、1%(v/v)DMPAまたは(w/v)BA、13.2mg/ml K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
結果
結果を図19および20に示す。図19は、時点0(0日目)に対する室温で6日間保管した8名のドナーからの安定化血液または非安定化血液中の18S rDNA遺伝子の66bp断片または500bp断片のコピー数の変化(平均倍変化)を実証する。図20は、0日目、採血直後の血漿中の絶対コピー数を示す。図19に示されるように、PEG300、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAまたはDMPAのいずれかをさらに含む組成物中の20,000までの分子量を有するPEGは、血液中の細胞外核酸集団の安定化において高度に効率的である。非安定化EDTA血液とは対照的に、Alphaチューブ3〜8からの安定化された血液では、18S rDNAの66bp断片および500bp断片の両方についてのコピー数の平均倍変化は、6日間保管した後に時点ゼロの基礎レベルに留まった(約1.0の倍変化)。さらに、高分子量PEGと低分子量PEGのバランスの取れた組成物は、採血直後の非安定化EDTAからの血漿と比較して、ccfDNAの絶対コピー数を低減させず(図20を参照されたい)、それによって、安定化された試料から細胞外核酸を有効に単離できることが実証される。安定化された試料では非安定化リファレンス試料と比較して絶対コピー数が少ないことは、得られる血漿が液体の安定化組成物で希釈されるという事実に起因する。この希釈に起因して、安定化された試料では最初の核酸の量が少ない。
17.実施例17
本発明の安定化技術は、アニオン交換に基づく核酸単離プロトコルにも適合性である。安定化された血液試料から得た血漿から細胞外核酸を単離した。水中にK2EDTA、Q−VD−OPH、DMPA、PEG10000、PEG300を含む安定化組成物を使用して安定化を実施した(上記を参照されたい)。QIAamp循環核酸キット(QIAGEN)をその製造業者の指示に従って使用して、安定化された血漿試料から細胞外核酸を単離した(2ml血漿体積、60μl溶出体積)。あるいは、アニオン交換基(第三級アミン基)を核酸結合のための固相として含む磁気粒子を使用して、安定化された血漿試料(2ml)から細胞外核酸を単離した。酸性pH(4.5)で試料を破壊し、結合を生じさせた。結合した核酸を3回洗浄し、75μlのアルカリ性溶出緩衝液(pH12.5)を使用して溶出した。自動化システム(QIAsymphony)を使用してプロトコルを実施した。
アニオン交換に基づく核酸プロトコルで得られた核酸収量(18s rDNA(66bp)および18s rDNA(500bp)を、QIAamp循環核酸キット(100%に設定)で得られた結果と、PCR分析によって比較した(ゲノムDNA希釈系列と比較してコピー数を決定する)。次の表に結果を示す:
分かるように、アニオン交換に基づく核酸単離プロトコルを使用して、安定化された試料から細胞外核酸を高収率で得ることができた。