JP2019082479A - スクリーニング方法 - Google Patents

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昌樹 稲垣
Masaki Inagaki
昌樹 稲垣
広介 笠原
Kosuke Kasahara
広介 笠原
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Abstract

【課題】 一次繊毛形成の誘導を評価指標として、細胞が異常な増殖を起こす状態から増殖を停止する状態に移行させる物質をスクリーニングする方法等を提供すること。【解決手段】 脱ユビキチン化酵素(DUB)の活性を阻害することにより、細胞の一次繊毛形成を促進させる物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法によって達成される。このとき、前記DUBが、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。【選択図】 図1

Description

本発明は、細胞の一次繊毛形成作用を評価することによる新規抗がん剤のスクリーニング方法及び細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キットに関する。
日本の最新がん統計まとめでは、がんの年間罹患数は86万人、また年間死亡数は37万人であり、日本人の二人に一人はがんに罹る時代となっている。様々な診断技術や治療法の開発により、がん患者全体の5年生存率は62%まで増加しているが、ステージの進展したがん患者の5年生存率は依然として低い。このような難治性のがんに対する治療法を開発するためには、がん細胞の増殖機構を従来とは異なる視点から解析し、がん治療の新しい標的分子を同定する必要がある。
近年、がん細胞と一次繊毛動態との関連が世界的に注目されているが、その多くの研究はG0期において形成されている一次繊毛が増殖刺激により消失し、G1期へと進入するメカニズムに集中している(非特許文献1)。
一方で、上皮成長因子(EGF)受容体拮抗薬や、プロテアソーム阻害薬に耐性を有するがん細胞に対する脱ユビキチン化酵素阻害薬の有用性が報告され、臨床へ応用される可能性も高まっており(非特許文献2及び3)、がん細胞と一次繊毛動態との関連において、G1期からG0期へ導入されるメカニズムの研究の進展が待たれる。
一次繊毛は細胞膜上に生じる小さな不動性の突起物であり、中心小体を核とした微小管骨格を軸糸とする構造をなす。一次繊毛が細胞周期の静止期に出現し、増殖期には一次繊毛の形成が抑制されることが古くから知られていたが、そのメカニズムや機能的意義に関しては長い間不明であった。発明者らは、増殖中の細胞において、ケラチン結合タンパク質として同定していたトリコプレインが中心小体に局在し、オーロラAキナーゼを活性化することにより一次繊毛の組立てを抑制することを見出した(非特許文献4、5及び6)。さらに、正常二倍体のヒト網膜色素上皮由来培養細胞(RPE1細胞)においてトリコプレインをノックダウンすると、血清が存在する細胞増殖条件下でも一次繊毛が出現して細胞が静止期に移行すること、また、この移行は繊毛除去により解除されることから、一次繊毛が細胞周期の静止期と増殖期の切替スイッチとなることを明らかにした(非特許文献4)。これらの研究成果は、がん細胞に一次繊毛を持続的に形成させることにより、細胞増殖を抑制できる可能性を示唆しているが、正常細胞とがん細胞における一次繊毛の動態を制御するメカニズムは明らかにされていない。
発明者らは、血清飢餓状態のRPE1細胞においてトリコプレインが消失し、一次繊毛が形成される現象に注目し、この現象がプロテアソーム阻害薬により抑制されることを見出した。そこで、トリコプレインがユビキチン・プロテアソーム系により分解される可能性を考えた。1172種類のE3ユビキチンリガーゼのスクリーニングを行った結果、1)Cul3-RING E3 リガーゼ(CRL3)がアダプター分子であるKCTD17を介してトリコプレインと結合し、トリコプレインをユビキチン化すること、2)KCTD17をノックダウンしたRPE1細胞では、血清飢餓状態でもトリコプレインが消失せず、オーロラAキナーゼを活性化して、一次繊毛の形成が抑制されることを発見した(非特許文献7)。この研究成果は、ユビキチン・プロテアソーム系が一次繊毛の形成を制御することを明確に示した世界初の発見である。
一方、RPE1細胞におけるCRL3KCTD17の活性は血清の有無に影響されず一定であることから、血清飢餓状態のトリコプレイン消失には、CRL3KCTD17以外の因子も影響することが示唆されているが、詳細は明らかにされていない。
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本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、一次繊毛形成を誘導することにより、細胞が異常な増殖を起こす状態から増殖を停止する状態に移行させるシグナル伝達経路とそれに関与する分子を、正常細胞及びがん細胞を用いて探索した結果、新規な抗がん剤標的分子を同定したことに基づいて、新規抗がん剤のスクリーニング方法及び細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キット、ならびに当該スクリーニング方法又は当該スクリーニング用キットを用いて見出されるがん細胞の一次繊毛形成を促進する物質、ならびに当該物質を有効成分として含む、がんの予防及び/又は治療薬等を提供することである。
本発明者らは、CRL3KCTD17のトリコプレインに対する働きに拮抗する脱ユビキチン化酵素(DUB)の存在を予想し、86種類のDUBのスクリーニングを行なった。その結果、1)一次繊毛を抑制する脱ユビキチン化酵素のスクリーニングの結果、USP8、UCHL3、USP38、USP43、USP52及びUSP54が一次繊毛の制御因子であること、2)USP8のみが、直接トリコプレインを脱ユビキチン化することによる一次繊毛の制御因子であること、3)USP8によるトリコプレインの脱ユビキチン化には、USP8の717番目と810番目のチロシン残基のリン酸化が必須であること、4)このリン酸化はEGF受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ活性によること、5)血清飢餓状態のRPE1細胞ではこのリン酸化が低下し、トリコプレインがUSP8により脱ユビキチン化されず、そのため、トリコプレインはユビキチン・プロテアソーム系により分解され、一次繊毛が形成されること、6)脊椎動物であるゼブラフィッシュにおいてもUSP8のノックアウトにより一次繊毛の形成が促進され、一次繊毛の機能異常に起因する病態(嚢胞腎、水頭症、小眼症など)を呈することを見出した。
EGF受容体は、従来から、がん治療における重要な標的分子として注目されてきたが、その下流のシグナルとしては、RAS・MAPキナーゼ経路や、PI3キナーゼ・AKT経路が主流であると考えられてきた。発明者らによる今回のEGF受容体・USP8・トリコプレイン経路の発見は、従来考えられてきたEGF受容体シグナル(キナーゼカスケード)とは異なる経路により、がん細胞の増殖制御が可能であることを強く示唆している。
さらに、本発明者らは、トリコプレインがオーロラAキナーゼの活性化因子であることを見出しているが(非特許文献4及び7)、オーロラAがいかにして一次繊毛を抑制しているかは不明であった。しかしながら、本発明者らは、トリコプレインのノックダウンによりCDKインヒビターであるp27KIP1の発現が誘導されること(非特許文献8)、また、p27KIP1のノックアウトにより一次繊毛の形成が完全に抑制されることを見出した。p27KIP1は細胞増殖停止因子(CDK阻害因子)としての役割の他、微小管制御因子(Stathmin結合因子)及びアクチン骨格制御因子(Rho A結合因子)としての機能をもつことが知られている。そこで、p27KIP1ノックアウト細胞に、野生型p27KIP1、CDK非結合型(R30A/L32A/F62A/F64A)、Stathmin 及びRho A非結合型(Δ171-197アミノ酸)を発現させた場合、一次繊毛の形成が認められた。つまり、既に知られているp27KIP1の細胞増殖停止因子(CDK阻害因子)、微小管制御因子(Stathmin結合因子)及びアクチン骨格制御因子(Rho A結合因子)としての役割の他に、p27KIP1の新しい機能として、一次繊毛の制御メカニズムが存在することを発明者らは明らかにした。これらの結果は、EGF受容体・USP8・トリコプレイン・オーロラAキナーゼ経路の下流にp27KIP1が存在する可能性を強く示唆する。p27KIP1の直接の分解阻害剤や、p27KIP1のユビキチン化分解分子である、Skp2、Pth2及びKPCに対する単独又は組合せの阻害剤も一次繊毛を制御する可能性があることが示された。
以上のように、本発明者らは、正常細胞及びがん細胞において、EGFR〜オーロラA経路間のシグナルに関与する脱ユビキチン化酵素(DUB)の活性の阻害及びEGFR〜オーロラA経路の下流シグナルに関与するp27KIP1が、細胞の一次繊毛形成に関与することを見出し、本発明を完成するに至った。
このようして、本発明の目的を達成するためのシグナル関連分子の同定と一次繊毛形成に関与する物質のスクリーニング方法は、EGFR〜オーロラA経路の下流シグナル分子の同定と当該過程に関与する脱ユビキチン化酵素(DUB)の活性を阻害すること及びp27KIP1を経由した細胞の一次繊毛形成を促進させる物質をスクリーニングすることを特徴とする。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング方法。
[2]
前記細胞が、がん細胞である、[1]に記載の方法。
[3]
前記細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
脱ユビキチン化酵素(DUB)に対する阻害活性を評価することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記DUBが、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つである、[4]に記載の方法。
[6]
前記DUBのUSP8とトリコプレインとの結合の阻害を評価することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記DUBのUCHL3, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つとトリコプレインとが結合しない条件下で行うことを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[8]
p27KIP1の活性化又は分解阻害を評価することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[9]
SCFSKP2、KPC又はPirh2のユビキチン化酵素に対する阻害活性を評価することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[10]
下記の(1)〜(4)からなる群から選択される少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする、がん細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング方法。
(1)物質が、脱ユビキチン化酵素(DUB)の活性を阻害することを確認する工程、
(2)物質の、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54に対する選択性を確認する工程、
(3)培養細胞に物質を加え、細胞の一次繊毛が増加することを確認する工程、及び
(4)がん細胞の一次繊毛の動態を測定する工程。
[11]
前記がん細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、[10]に記載の方法。
[12]
細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング方法における、細胞の一次繊毛形成に関与する脱ユビキチン化酵素(DUB)、p27KIP1、SCFSKP2、KPC又はPirh2の使用。
[13]
細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キット。
[14]
前記細胞が、がん細胞である、[13]に記載のキット。
[15]
前記細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、[13]又は[14]に記載のキット。
[16]
脱ユビキチン化酵素(DUB)に対する阻害活性を評価することを特徴とする、[13]〜[15]のいずれかに記載のキット。
[17]
前記DUBが、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つである、[16]に記載のキット。
[18]
p27KIP1の活性化又は分解阻害を評価することを特徴とする、[13]〜[15]のいずれかに記載の物質のキット。
[19]
下記の(1)〜(4)からなる群から選択される少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする、がん細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キット。
(1)物質が、脱ユビキチン化酵素(DUB)の活性を阻害することを確認する工程、
(2)物質の、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54に対する選択性を確認する工程、
(3)培養細胞に物質を加え、細胞の一次繊毛が増加することを確認する工程、及び
(4)がん細胞の一次繊毛の動態を測定する工程。
[20]
前記がん細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、[19]に記載の方法。
[21]
細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キットの製造のための、細胞の一次繊毛形成に関与する脱ユビキチン化酵素(DUB)、p27KIP1、SCFSKP2、KPC又はPirh2の使用。
[22]
がん細胞の一次繊毛形成を促進する物質を用いることを特徴とする、がん細胞増殖を抑制する方法。
[23]
細胞の一次繊毛形成を促進する物質。
[24]
前記細胞が、がん細胞である、[23]に記載の物質。
[25]
前記細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、[23]又は[24]に記載の物質。
[26]
[23]〜[25]のいずれかに記載の物質を用いることを特徴とする、がんの予防及び/又は治療方法。
[27]
[23]〜[25]のいずれかに記載の物質を有効成分として含む、がんの予防及び/又は治療薬。
[28]
がんの予防及び/又は治療薬の製造のための、[23]〜[25]のいずれかに記載の物質の使用。
本発明によれば、一次繊毛形成を誘導することにより、細胞が異常な増殖を起こす状態から増殖を停止する状態に移行させる物質をスクリーニングすることができる。また、本発明によれば、正常細胞及びがん細胞を用いて、細胞の一次繊毛形成を抑制している、EGFR等の増殖因子受容体からDUBを含む下流のシグナル関連分子を明らかにすることにより、DUBの活性を阻害する新たな物質のスクリーニングが可能となる。そのような物質により、がん細胞等の異常増殖を抑制できるので、がん細胞を含む細胞異常増殖が関連する疾患を抑制する薬剤の開発技術を提供することができる。また、K-RAS遺伝子変異を有するがん細胞を用いた場合であっても、DUBの活性を阻害して、がん細胞の増殖を抑制する新たな物質のスクリーニングも可能である。
ユビキチン(Ub)は、酵母からヒトまでの真核生物に高度に保存された76個のアミノ酸からなるタンパク質である。Ubは、自身のC末端のカルボシル基を介して、細胞内の標的タンパク質のLys残基にイソペプチド結合により付加される(モノUb化)。Ub中の7個のLys残基(6,11,27,29,33,48及び63)に、さらに別のUbが付加されることにより、標的タンパク質上でUb鎖が伸長する(ポリUb化)。細胞内では、Ub中の7個のLys残基のいずれかを介して標的タンパク質のポリUb化が認められ、それぞれのポリUb化が異なる機能を持つと考えられている。DUBは、Ubと標的タンパク質の間、又はUb鎖中のUb間のイソペプチド結合を切断する加水分解酵素である。
p27KIP1は、細胞増殖停止因子(CDK阻害因子)としての役割の他、微小管制御因子(Stathmin結合因子)及びアクチン骨格制御因子(Rho A結合因子)としての機能をもつことが知られている。
一次繊毛(primary cilia)は、内部に9+0の微小管を持ち、細胞膜上に生じる小さな不動性の突起物である。一次繊毛は、細胞増殖を休止させる作用を持ち、細胞の増殖中には一次繊毛形成が抑制されている。異常な細胞増殖を示す細胞(例えば、腫瘍、がんなど)では、一次繊毛形成が抑制されている状態が続いている可能性が高いため、何らかの方法により、一次繊毛形成を誘導することにより、細胞の異常増殖を抑止できると考えられる。しかしながら、一次繊毛形成を誘導する方法については、ほとんど知られていなかった。
本発明によれば、正常細胞及びがん細胞を用いて、細胞の一次繊毛形成を抑制している、EGFR等の増殖因子受容体からDUBを含む下流のシグナル関連分子を明らかにすることにより、当該分子の活性を阻害する新たな物質のスクリーニングが可能となる。そのような物質により、がん細胞等の異常増殖を抑制することができるので、がんを含む細胞異常増殖が関連する疾患を抑制する薬剤の開発技術を提供できる。
上記発明において、DUBが、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。本発明者らによれば、多くのDUBのうち上記6個のものは、特に一次繊毛形成との関連が深いことが見出された。このため、一次繊毛形成を促進するためには、これらDUBの活性を阻害する物質を検出することが重要となる。
さらに、EGF受容体・USP8・トリコプレイン・オーロラAキナーゼ経路の下流に存在するp27KIP1分子も、一次繊毛形成との関連が深いことが見出され、一次繊毛形成とp27KIP1分子の関連を調整する分子の探索が重要である。
これらの作用は正常ヒト細胞だけでなく、K-RAS遺伝子変異陽性のがん細胞でも確認されており、新規抗がん剤開発のための対象分子と新規抗がん剤開発にも繋がる。
上記発明において、前記物質が、抗体及びsiRNAからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。抗体としては、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよい。なお、前記物質としては、分子量の小さい物質から選択することもできる。
ノックダウンにより、予期しない一次繊毛を形成する脱ユビキチン化酵素(DUB)の探索結果を示す図である。a:RPE1細胞に、脱ユビキチン化酵素(DUB)群に関するsiRNAプールをトランスフェクションし、10%FBSを添加した培養液を用いて48時間培養した。一次繊毛を形成した細胞のパーセンテージは、一次繊毛マーカーであるアセチル化チューブリンの染色により求めた。データの結果は、2回又は3回の独立した実験(n>200)の平均値を示した。トリコプレイン・ノックダウン(TCHP)を陽性対照とした。siRNAによるノックダウンによって有意に一次繊毛を形成した6個のDUBを、濃色で示した(UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52, USP54)。b:陰性対照又は上記の6個のDUBのsiRNA(各2連)で、RPE1細胞をトランスフェクションし、2日間又は3日間(48時間又は72時間)10%血清下で培養した。一次繊毛形成細胞の割合は、3回の独立した実験(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。 RPE1細胞を、血清飢餓状態で、FLAGタグ付きDUBを過剰発現させた場合の試験結果を示す図である。a:試験手順を示す図、b:イムノブロッティング解析したのゲル電気泳動写真図、c:棒グラフ、d:顕微鏡写真図である。a:試験手順を示す図である。RPE1細胞をGFP又はFLAGタグ付きDUBをトランスフェクションし、24時間培養後、血清飢餓状態でさらに24時間培養し、一次繊毛形成細胞の割合を測定する。b:抗FLAG抗体を用いたイムノブロッティング解析の結果を示す。図中「*」は、抗FLAG抗体で反応したFLAGタグ付きDUBを示す。c:一次繊毛形成した細胞の割合は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「*」は危険率が0.01よりも大きく0.05未満、「n.s.」は有意差なしを意味する。d:FLAGタグ付きUSP8、アセチル化チューブリン及びDAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindole)の共焦点顕微鏡写真を示した。左右上下の挿入図は、破線で囲んだ四角形1及び2の拡大図を示す。スケールバーは10μmである。 USP8 siRNAによるノックダウンにより、トリコプレイン分解及び予期しない一次繊毛を形成する試験データを示す図である。a:siRNAを用いたスクリーニング試験の手順を示すフローチャートである。b: USP8 siRNA(#1又は#2)及びIFT20 siRNAによりRPE1細胞をトランスフェクションし、48時間培養した。イムノブロッティングによるタンパク質発現(上段)、一次繊毛形成細胞の割合(中央)及びサイクリンA陽性細胞の割合(下段)を示す図である。c:FLAGタグ付きの3種類のUSP8(野生型、S718A及びC786S)を、Tet-On(登録商標)システムにより誘導発現するRPE1細胞株を、コントロールとUSP8 siRNAでトランスフェクションし、48時間、ドキシサイクリン(Dox:100 ng/mL)の存在下又は非存在下で培養した。抗アセチル化チューブリン抗体、抗FLAG抗体及びDAPIで染色した結果を示す共焦点顕微鏡写真図である(FLAGタグ付きUSP8野生型(左側)、S718A(中央)、C786S(右側))。左下の挿入図は、破線で囲んだ四角形1及び2の拡大図を示す。スケールバーは10μmである。d:一次繊毛形成細胞割合を示すグラフである。グラフは、独立した3個の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「n.s.」は有意差なしを意味する。e:標的タンパク質のイムノブロッティング解析のタンパク発現の結果を示す図である。 USP8 siRNAノックダウンが、トリコプレインタンパク質を特異的に減少させることを示す図である。10%血清存在下でRPE1細胞をCep164siRNAでトランスフェクションし、24時間培養した(左より3番目及び4番目のレーン)。その後、USP8 siRNAでさらにトランスフェクションし、48時間処理した(左より2番目及び3番目のレーン)。本図において、各抗体でのイムノブロッティングとトリコプレイン:GAPDHの強度比(Normarized level)が示される。一次繊毛を形成した細胞とサイクリンA陽性細胞の割合は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。 USP8 siRNAノックダウンによるトリコプレインタンパク質の減少を示す図である。コントロール又はIFT20 siRNAでRPE1細胞をトランスフェクションし、24時間培養した後、6種類のDUBsiRNAをトランスフェクションして、血清存在下でさらに48時間培養した。a:一次繊毛形成した細胞の割合を、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「n.s.」は有意差なしを意味する。b:サイクリンA陽性細胞の割合は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。サイクリンA発現細胞は、抗サイクリンA抗体を用いたイムノブロッティングによって解析した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「n.s.」は有意差なしを意味する。c:IFT20、GAPDH及びトリコプレインに対するイムノブロッティング解析の結果を示した。注目すべき点は、USP8かつIFT20 のsiRNAでトランスフェクションした細胞(lane10)では、顕著にトリコプレイン発現量が減少した点である。 ヒト線維芽細胞IMR90を、USP8 siRNAでノックダウンすることにより、予定しない一次繊毛を形成することを示す図a及び各タンパク発現を示す図bである。陰性対照(control)又はUSP8(#1又は#2)siRNAをトランスファクションしたIMR-90細胞を48時間又は72時間培養した。a:一次繊毛形成細胞の割合は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。b:USP8、トリコプレイン及びGAPDHタンパク発現を、イムノブロッティングにより分析した。 USP8が枯渇した細胞におけるトリコプレイン分解の経時的変化を、GAPDHに対するタンパク量の発現比として示す図である。陰性対照(control)又はUSP8(#1又は#2)siRNAでRPE1細胞をトランスフェクションし、200 nM シクロヘキシミドを添加した通常培地(10%FBSを含む)を用いて2時間、4時間及び8時間培養した。トリコプレイン強度を用いて標準化したデータ(下段図:3個のデータの平均値±標準誤差(mean ± s.e.m.))は、発現したトリコプレイン及びGAPDHのタンパク量(上段図)によって評価した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「*」は危険率0.05未満、「n.s.」は有意差なしを意味する。 血清飢餓状態のRPE1細胞において、Tet-Onシステム誘導FLAGタグ付きUSP8(野生型、S718A及びC786S)siRNAにより、予期しない一次繊毛形成及びトリコプレイン分解が生じることを示す図である。a:試験手順図である。RPE1細胞において、ドキシサイクリン(Dox:100 ng/mL)処理によって、3種類のFLAGタグ付きUSP8(野生型、S718A及びC786S)をTet-Onシステムにより誘導後、血清飢餓状態で24時間培養した。b:抗アセチル化チューブリン抗体、抗FLAG抗体及びDAPIで染色し、一次繊毛形成細胞を示した共焦点顕微鏡写真図である。左右上下の挿入図は、破線で囲んだ四角形1及び2の拡大図を示す。スケールバーは10μmである。c:Dox誘導の有無で、一次繊毛形成細胞の割合を比較したグラフである。データは、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。d:抗トリコプレイン抗体及び抗FLAG抗体により、FLAGタグ付きUSP8の発現を分析した結果を示すイムノブロッティング図である。トリコプレイン濃度の標準強度は、抗トリコプレイン抗体及び抗GAPDH抗体のイムノブロッティング反応解析結果により求めた。e:トリコプレイン及びFLAGタグ付きUSP8の発現を示すイムノブロッティング図及び経時変化図である。Tet-On システムにより、FLAGタグ付きUSP8(野生型又はC786S)又はGFP(コントロール)をDox(100 ng/mL)添加により発現させたRPE1細胞を、200 nMシクロヘキシミドで処理し、血清飢餓培地で培養した。トリコプレイン濃度の標準強度は、抗トリコプレイン抗体及び抗GAPDH抗体のイムノブロッティング反応解析結果により求めた。データは、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「*」は危険率0.05未満を意味する。スケールバーは10μmである。 USP8遺伝子をノックアウトしたゼブラフィッシュの遺伝子発現を示すゲル電気泳動写真図である。 USP8遺伝子をノックアウトしたゼブラフィッシュの特徴を調べた結果を示す図である。 (a)全身の写真図、(b)腎臓を比較したグラフ、(c)絨毛の生産を比較した写真図、(d)腎臓の尿細管を比較した写真図、(e)腎臓の尿細管を比較した図。 USP8が、トリコプレインの脱ユビキチン化により一次繊毛形成阻害作用を示す図である。a:抗FLAG抗体及びDAPIによる蛍光染色を共焦点顕微鏡で観察した写真図である。Tet-Onシステムにより、MBP及びFLAGタグ付加トリコプレインを発現するRPE1細胞をUSP8 siRNA(#1又は#2)でトランスフェクションし、Doxの存在下又は非存在下で48時間培養した。左右上下の挿入図は、破線で囲んだ四角形1及び2の拡大図を示す。スケールバーは10μmである。b:Dox添加によるFLAGタグ付加トリコプレインの発現上昇に伴い、一次繊毛形成が抑制された結果を示すグラフである。c:図bにおいて、抗FLAG抗体によりトリコプレイン発現を確認したイムノブロッティング図である。d:USP8とトリコプレインとの結合を、GSTプルダウン・アッセイで調べた図である。図中の「*」は、フラグメント化したGSTタグ付加USP8を示す。e:矢印で示した内在性のトリコプレインが、Doxで誘導されたUSP8と共沈したことを示す図である。f:GSTタグ付加 USP8とMBPタグ付加トリコプレインをインビトロで処理し、その後グルタチオンセファロースでアフィニティー精製した結果を示す図である。g:Mycタグ付加トリコプレインとHAタグ付加ユビキチンを3種類のFLAGタグ付加USP8(野生型、S718A及びC786S)の存在下又は非存在下で、HEK293細胞をコトランスフェクションした。10μMのMG132で6時間処理後、抗Myc抗体で免疫沈降し、抗HA抗体及び抗Myc抗体による免疫反応を行った。USP8によるトリコプレインのユビキチン化状態が示される。h:Mycタグ付加トリコプレイン及びHAタグ付加ユビキチンでトランフェクションしたHEK293から、dの記載に従ってポリユビキチン化したMycタグ付加トリコプレインを免疫沈降し、インビトロでGST-USP8と反応させた結果を示す図である。 KCTD17及びUSP8が、一次繊毛形成細胞の割合及び関連タンパク質の発現に対する影響を調べた図である。KCTD17 siRNAの存在下又は非存在下でRPE1細胞をトランスフェクションした後16時間培養し、その後USP8 siRNAでトランスフェクションし、さらに32時間培養した後に、一次繊毛形成細胞の割合調べた。結果を、平均値±標準誤差(mean±s.e.m.、独立した3回の実験データ(n>200))で示した(左図)。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満を意味する。右図は、トリコプレイン、USP8、KCTD17及びGAPDHタンパク質の発現を示す。 FLAGタグ付加USP8の過剰発現下では、トリコプレイン又はオーロラA欠損細胞の一次繊毛形成細胞の割合は変化しなかったことを示す図である。a:実験手順を示す流れ図である。Tet-Onシステムにより、FLAGタグ付加野生型USP8を発現するRPE1細胞をトリコプレインsiRNA(TCHP、#1又は#2)によりトランスフェクションし、6時間培養後、Dox;(100 ng/mL)を添加して、FLAG-USP8野生型を誘導し(コントロールはDox無添加である)、さらに42時間培養した。b:一次繊毛形成細胞の割合を示す図である。結果は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「n.s.」は有意差なしを意味する。c:関連タンパク質の発現を示す図である。d:図cの状態を対象とした共焦点顕微鏡写真図を示す。右上の挿入図は、矢印で指した部分1および2の拡大図を示す。スケールバーは10μmである。e:実験手順を示す流れ図である。Tet-Onシステムにより、FLAG タグ付加野生型USP8を発現するRPE1細胞をトリコプレインsiRNA(TCHP、#1又は#2)によりトランスフェクションし、6時間培養後、Dox;(100 ng/mL)を添加して、FLAGタグ付加USP8-S718Aを誘導し(コントロールはDox無添加である)、さらに42時間培養した。f:一次繊毛形成細胞の割合を示す図である。結果は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「n.s.」は有意差なしを意味する。g:関連タンパク質の発現を示す図である。h:実験手順を示す流れ図である。Tet-Onシステムにより、FLAGタグ付加野生型USP8を発現するRPE1細胞をオーロラA siRNA(AURKA , #1又は#2)でトランスフェクションし、6時間培養後、Dox;(100 ng/mL)を添加して、FLAGタグ付加USP8野生型を誘導し(コントロールはDox無添加である)、さらに42時間培養した。i:一次繊毛形成誘導細胞の割合を示す図である。結果は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「n.s.」は有意差なしを意味する。j:関連タンパク質の発現を示す図である。 トリコプレインとUSP8との相互作用を示す結果である。a:HEK293T細胞に、FLAG-USP8のN末端側の非活性化領域(1-713アミノ酸)又はC末端側の活性化領域(714-1118アミノ酸)をトランスフェクションした後、抗FLAG抗体による免疫沈降物を、抗トリコプレイン抗体と反応させた結果を示す図である。b:GFPと結合させた上記記載のトリコプレイン変異体でHEK293T細胞をトランスフェクション後、細菌から精製したGSTタグ付加USP8を用いて、GSTプルダウン・アッセイを行った結果を示す図である。c:USP8とトリコプレインとの関係概要図である。トリコプレインの50番目のリジン(K50)と57番目のリジン7(K57)は、CRL3KCTD17によりポリユビキチン化を受ける部位である。 血清飢餓状態ではUSP8の脱リン酸化と不活性化が誘導され、一方、血清存在状態ではEGFRが直接USP8をリン酸化し、DUB活性が上昇することを示す図である。a:血清添加培地(serum:+)又は血清飢餓培地(serum:−)により24時間培養したRPE1細胞抽出液を抗USP8抗体で免疫沈降し、USP8のリン酸化チロシン(pY)の存在を分析した結果を示す図である。b: FLAG タグ付加USP8変異体(WT、S718A及びC786S)をTet-Onシステムにより誘導したRPE1細胞を、血清添加培地(+)又は血清飢餓培地(−)で培養後、免疫沈降により回収したUSP8変異体を、ユビキチン・オリゴマー(Ub3-7)とインキュベーション(37℃、2時間)したものについて、抗ユビキチン抗体、抗リン酸化チロシン(pY)抗体及び抗FLAG抗体により免疫反応させたゲル電気泳動図である。c:血清添加培地で培養したRPE1細胞から精製したFLAGタグ付加USP8野生型(レーン2)を、EDTA存在下(左より4番目のレーン)又は非存在下(左より3番目のレーン)でλPPase処理した結果を示す図である。d:上記cで回収したFLAGタグ付加USP8野生型を、ユビキチン・オリゴマー(Ub3-7)(最上段図)又はポリユビキチン化したMycタグ付加トリコプレイン(最下段図)で37℃、2時間処理することにより脱ユビキチン化した結果を示す図である。中段図にMycタグ付加トリコプレイン量を示した。e:血清添加培地(+)又は血清飢餓培地(−)で培養したRPE1細胞から調製した抗EGFR抗体免疫沈降試料を、抗USP8抗体及び抗EGFR抗体で免疫反応させた結果を示す図である。f:インビトロで、GST-EGFR用量依存的に、GSTタグ付加USP8がリン酸化されることを示す図である。g:Tet-OnシステムによりFLAGタグ付加野生型及び変異体(Y717F/Y810F)USP8を発現可能なRPE1細胞を、血清培地(+)又は血清飢餓培地(−)を用い、Dox(100 ng/mL)を添加して24時間培養した後、抗FLAG抗体により免疫沈降した結果を示す図である。h:USP8変異体(WT、Y717F/Y810F、Y717F及びY810F)をGSTタグ付加EGFR(669-1210アミノ酸)の存在下又は非存在下で30℃、15分間処理した後、インビトロ系において、ユビキチン・オリゴマー(Ub3-7)と共に37℃、15分間処理した場合のユビキチン化の程度を示す図である。 USP siRNAによりトランスフェクションしたRPE1細胞を血清含有培地で48時間培養した後、24時間血清飢餓状態で培養し、10%のFBSにより10分間血清刺激した。本図により、全細胞抽出物の各タンパク質量と、ビオチンラベルした細胞表面EGFR量が示される。 インビトロで、EGFRによるUSP8のTyr717及びTyr810のリン酸化を、RPE1細胞で調べた結果を示す図である。a:インビトロでのリン酸化試験の概要図である。b:組換え体GSTタグ付加USP8変異体(1-350アミノ酸、351-713アミノ酸又は714-1118番アミノ酸)について、GST-EGFR(669-1210アミノ酸)を用いたインビトロでのリン酸化アッセイを行い、抗リン酸化チロシン(pY)抗体及び抗GST抗体によりイムノブロッティングを行った結果を示す図である。c:組換え体USP8(714-1118アミノ酸)を、インビトロでGST タグ付加EGFR(669-1210アミノ酸)とインキュベーションし、抗リン酸化チロシン抗体でイムノブロッティングを行った結果を示す図である。USP832Pで標識したUSP8のオートラジオグラフにより、取込みを評価した。 血清存在下でのトリコプレイン量が、USP8による制御を受ける結果を示す図である。a:血清培養後にサイクロヘキシミド処理した場合のトリコプレインのタンパク質量を調べた結果を示す図である。b:mRNA量を調べた結果を示す写真図である。 インビトロで、EGFRはタグ無しUSP8をリン酸化することができること示す図である。組換え体タグ無しUSP8又はGSTタグ付加USP8を、GSTタグ付加EGFR(669-1210アミノ酸)の存在下又は非存在下で30℃、15分間処理した後、インビトロでユビキチンオリゴマー(Ub3-7)と共に37℃、15分間処理した。本図は、得られたユビキチン、リン酸化チロシン(pY)、タグ無しUSP8又はGSTタグ付加USP8について、イムノブロッティングを行った結果を示す。図中、Ub1はユビキチンモノマーを、またUb2はユビキチンダイマーを示す。 EGFRが、USP8-トリコプレイン経路を介して、一次繊毛の形成を抑制し、細胞増殖を制御することを示す図である。a:Tet-Onシステムにより、FLAGタグ付加 USP8(野生型またY717F/Y810F(YF))を発現するRPE1細胞をUSP8 siRNA(#1)でトランスフェクションし、所定量(10 ng/mL又は100 ng/mL)のDox存在下で48時間培養した。培養後の顕微鏡写真図(上段)及び一次繊毛形成細胞の割合を示す図(下段)が示される。図において、結果は、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「*」は危険率0.05未満、「n.s.」は有意差なしを意味する。b:上記aのイムノブロッティング解析の結果を示す図である。c:IFT20 siRNAをトランスフェクションし、24時間培養したRPE1細胞にEGFR siRNA(#1及び#2)をトランスフェクションして、10%血清含有培地で48時間培養した。本図は、細胞を所定の抗体でイムノブロッティング解析した結果を示す。d及びe:cで得られた細胞について、一次繊毛形成細胞を評価するために、抗アセチル化チューブリン抗体(d)及び抗サイクリンA抗体(e)により免疫染色した図(左図)及び一次繊毛形成した細胞の割合を調べた結果を示す図(右図)である。グラフにおいて、データは、独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「*」は危険率0.05未満を意味する。f:今回の試験結果から得られたモデル図である。 EGFRは、USP8-トリコプレイン経路を介して一次繊毛を形成し、細胞周期の進展に寄与することを示す図である。左図は、EGFR及びCep164 siRNAの存在下又は非存在下により、EGFR、USP8、トリコプレイン及びCep164の発現に対する影響を調べた結果を示す図(GAPDHは陽性対照)、中央図は、一次繊毛形成が認められた細胞の割合を示す図、右図は、細胞周期を進めるサイクリンAの発現量を示す図である。 a:Tet-Onシステムにより、FLAGタグ付加USP8又はMBP及びFLAGタグ付加トリコプレインを発現するRPE1細胞に対してEGFR siRNAをトランスフェクションし、6時間培養後にDox(30 ng/mL)を添加し、さらに42時間培養した。b:FLAGタグ付加USP8の誘導後の、イムノブロッティング解析結果を示すゲル電気泳動図(上段)、一次繊毛形成細胞の割合に関する結果を示す図(中段)及びサイクリンA陽性細胞の割合に関する結果を示す図(下段)である。図において、結果は独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「n.s.」は有意差なしを意味する。c:MBP及びFLAGタグ付加トリコプレインを誘導後のイムノブロッティング解析結果を示すゲル電気泳動図(上段)、一次繊毛形成細胞の割合に関する結果を示す図(中段)及びサイクリンA陽性細胞の割合に関する結果を示す図(下段)である。図において、データは独立した3回の実験データ(n>200)の平均値±標準誤差(mean±s.e.m.)で示した。対応のない両側スチューデントt検定を行った結果、「**」は危険率0.01未満、「*」は危険率0.05未満を意味する。 DUB活性に関して、PDGFRs又はFGFR介在USP8リン酸化効果を示すデータである。a、b、c:精製タグ無しUSP8野生型又はUSP8変異体(Y717F/Y810F)を、GSTタグ付加PDGFRα(図a)、GSTタグ付加PDGFRβ(図b)又はGSTタグ付加FGFR1(図c)の存在下又は非存在下の状態で、インビトロで30℃、15分間処理し、イムノブロッティング解析した結果を示す図である。d:非リン酸化USP8野生型及びリン酸化USP8野生型を上記a〜cと同様にして精製し、ユビキチンオリゴマー(Ub3-7)とインビトロで37℃15分処理して得られたユビキチン化状態を示す図である。図中、Ub1はユビキチンモノマーを、またUb2はユビキチンダイマーを示す。 ヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞に、コントロール又はトリコプレインのsiRNAを導入し、24時間後、血清飢餓培地でさらに48時間培養した結果を示す図である。(左図)細胞染色法により、一次繊毛(アセチル化チューブリン、ac-tubulin:緑)、中心小体(γ-tubulin:赤)及びDNA(DAPI:青)を染色した結果を示す。(右図)一次繊毛を形成した細胞の割合を、平均値±標準誤差(3回の独立した実験結果、n>200細胞)で示す。 p27KIP1ノックアウトRPE1細胞株(p27 KO RPE1)及び、その親株(parent RPE1)からRhoA又はStathminを除去後、血清除去培地で48時間培養した場合の一次繊毛の形成率を測定した結果を示す図である。 p27ノックアウトRPE1細胞(p27 KO cell)に、ベクターコントロール(+ vector)、野生型Myc-p27(WT)、Cyclin/CDK非結合型Myc-p27変異体(4 mutations: R30A/L32A/F62A/F64A)、Stathmin及びRho A非結合型Myc-p27変異体(Δ171-197アミノ酸)を遺伝子導入し、24時間後、血清飢餓培地に変えてさらに24時間培養した結果を示す図である。コントロールとして、親株RPE1細胞(parental cell)を血清飢餓培地で24時間培養した。本図では、一次繊毛形成が認められた細胞の割合が示される(n>200細胞)。 K-RAS遺伝子変異陽性肺がん細胞株H23において、抗EGFR抗体が一次繊毛を形成誘導する結果を示す図である。H23細胞(ATCC、CRL-5800)を、20μg/mLのヒト型抗EGFRモノクローナル抗体(パニツムマブ)を添加したDMEM培地で48時間培養後、免疫細胞染色により、一次繊毛(ac-tubulin:緑)、中心体(γ-tubbulin:赤)およびDNA(DAPI:青)を染色した。a:抗EGFRモノクローナル抗体を含まないコントロール培地で培養した細胞を染色した図を示す。b:抗EGFRモノクローナル抗体を含む培地で培養した細胞を染色した図を示す。
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<試験方法>
1.抗体
ウサギ・ポリクローナル抗体は、既報のものを次のように希釈して用いた。抗トリコプレイン抗体(非特許文献4)は、免疫ブロッティングには1/2000、また免疫染色には1/400で、抗KCTD17抗体(非特許文献7)は、免疫ブロッティングに1/500で、それぞれ使用した。
市販の抗体は、次のものを用いた。すなわち、免疫ブロッティングには、マウス抗サイクリンA抗体(1/1000、クローン25(BD Biosciences社))、抗DYKDDDDK HRPコンジュゲート抗体(1/4000、1E6(Wako社))、抗EGFR抗体(1/2000、6F1(MBL社))、抗FLAG抗体(1/10000M2(シグマ・アルドリッチ社))、抗GFP抗体(1/2000、クローン7.1及び13.1(ロッシュ社))、抗GST抗体(1/1000、B-14(Santa Cruze バイオテクノロジー社))、抗HAタグモノクローナル抗体HRP DirecT(1/4000(MBL社))、抗MBP抗体(1/1000、1G12(MBL社))、パーオキシダーゼ・コンジュゲート抗Myc抗体(1/2000、MC045(ナカライ・テスク社))、抗ユビキチン抗体(1/1000、P4D1(セル・シグナリング・テクノロジー社))、抗UBPY/USP8抗体(1/1000、A-11(Santa Cruzバイオテクノロジー社))、ウサギ抗USP8抗体(1/2000、D18F6(セル・シグナリング・テクノロジー社))、抗リン酸化チロシン抗体(pY; 1/2000、p-Tyr-1000(セル・シグナリング・テクノロジー社)、抗IFT20抗体(1/500(プロテインテック社))、抗リン酸化オーロラA Thr-288(1/500、C39D8抗体(セル・シグナリング・テクノロジー社))、抗GAPDH抗体(1/4000、14C10(セル・シグナリング・テクノロジー社))、抗トリコプレイン抗体(1/1000、G2(Santa Cruzバイオテクノロジー社))、及び抗Cep164抗体(1/500、N14(Santa Cruzバイオテクノロジー社))を用いた。
免疫沈降法には、マウス抗DYKDDDDK-タグ抗体ビーズ(1E6(Waok社製))、抗EGFR抗体(6F1(MBL社製))、アガロース・コンジュゲート抗Myc抗体(MC045(ナカライ・テスク社製))、ウサギ抗USP8抗体及び標準マウスIgGコントロール(Santa Cruzバイオテクノロジー社製)を用いた。
免疫蛍光法には、マウス抗アセチル化-α-チューブリン抗体(1/200、6-11B-1(シグマ・アルドリッチ社製))、抗サイクリンA抗体(1/200、クローン25(BD バイオサイエンス社製))、抗FLAG抗体(1/2000、M2)及びウサギ抗-γ-チューブリン抗体(1/500(Abcam社製))を用いた。
2.プラスミド
USP8 (FLJ76940)、UCHL3 (FLJ94247)、Usp38 (FLJ44996)、Usp43 (FLJ04332)、Usp52 (FLJ86030)及びUsp54 (FLJ04333)のヒトcDNAは、ヒト遺伝子及びタンパク質データベース(HGPD)から入手した。上記タンパク質を一過性に発現させるために、FLAGタグが付いたタンパク質をコードするpDEST12.2を、ゲートウエイ・テクノロジー(インビトロジェン社製)を用いた相同組換えにより構築した。トリコプレインのヒトcDNAは、既報によって作製した(非特許文献9)。pCGN-HA-ユビキチンは、大阪大学の菊池教授から入手した。トランスフェクションには、HEK293T細胞については、ロポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を、RPE1細胞については、フュージーンHD(プロメガ社製)をそれぞれ用いた。
3.低分子二本鎖RNAによるRNA干渉(siRNAs)
siRNAのトランスフェクションは、リポフェクタミン・RNAiMAX(インビトロジェン社製)を用い、その操作マニュアルに従って実施した。各siRNAは、最終濃度が40 nM(IFT20)又は10 nM(その他のsiRNA)で使用した。ヒト・オン・ターゲット・プラス・脱ユビキチン化酵素siRNAライブラリー・スマート・プール(カタログ番号:G-104705-025)及び2つの各siRNA及びスマート・プール試薬は、サーモ・サイエンティフィック社から購入した。トリコプレイン、オーロラA、EGFR、USP8、KCTD17及びIFT20を標的とするsiRNAは、キアゲン社から購入した。各siRNAの標的配列を表1に示した。
4.細胞
MBPトリコプレイン・3xFLAG又はFLAG-USP8(WT、S718A、C786S及びY717F/Y810F)を発現するTet-On RPE1細胞株は、既報と同じ手順で確立した(非特許文献9)。pTet-On アドバンスト(BDバイオサイエンス・クローンテック社製)からのrtTA-アドバンスト・セグメント及びpQC-tTS-IN(BDバイオサイエンス・クローンテック社製)からのtTS転写サイレンサー・セグメントを、LR反応(インビトロジェン社製)を用いて、それぞれレトロウイルスベクターpDEST-PQCXIP及びpDEST-PQCINに組換え、PQCSIN-Tet-On ADV及びPQCXIP-tTSを得た。CSII-EF-MCS(筑波大学理研バイオリソースセンターの三好博士より入手)の伸長因子1アルファ・プロモーター(EF)をpTRE-Tight(BDバイオサイエンス・クロンテック社製)のTet-応答性プロモーター(TRE-Tight)と入れ替えた後、改変RfA断片(インビトロジェン社製)を用いて、Tet応答性レンチウイルスベクターを作製した。
5.CSII-TRE-Tight-RfA
siRNA抵抗性トリコプレイン及びsiRNA抵抗性USP8の融合cDNAは、LR反応を用いてレンチウイルスベクターに組み込むことによって、CSII-TRE-Tight-MBP-trichoplein-3xFLAG 及びCSII-TRE-Tight-FLAG-USP8をそれぞれ作製した。
所定量のドキシサイクリン(Dox(シグマ・アルドリッチ社製))を添加し、MBP-trichoplein-3xFLAG (100 ng/mL)及びFLAG-USP8 (10 or 100 ng/mL)を誘導した。
RPE1細胞及びTet-On RPE1細胞は、10% FBSを添加したDMEM及びF12 nutrient mix (1:1)を用いて培養した。IMR90細胞及びHEK293T細胞は、10%FBSを添加したDMEMを用いて培養した。
6.タンパク質の精製
Tet-On RPE1細胞で発現させたFLAG-USP8タンパク質を、抗DYKDDDDKタグ抗体ビーズによって免疫沈降した。固定化したFLAG-USP8タンパク質を、ラムダ・タンパク質ホスファターゼ(λPPase)を使用又は使用せずに、プロトコール(ニューイングランド・バイオラブズ社製)に従って処理した後、0.1%Tween20を含有するPBSにFLAGペプチド(シグマ・アルドリッチ社製)を100μg/mLで溶解させた溶液で溶出した。
細菌から精製するために、USP8 cDNA構築物をpGEX-6P-3(GEヘルスケア社製)のBamHI/XhoIクローニング部位を用いて、GST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)に組み込んだ。GST-USP8タンパク質は、BL21(DE3)大腸菌株(ストラタジーン社製)を用い、1mM イソプロピルβ-D-1チオガラクトピラノシド(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside (IPTG))によって誘導し、30℃で一晩培養した。MBPトリコプレインは、BL21コドンプラスRP菌株(アジレント・テクノロジー社製)を用い、既報に従って発現させた(非特許文献7)。融合タンパク質は、グルタチオン・セファロース4B(GEヘルスケア社製)又はアミラーゼ・レジン(ニューイングランド・バイオラブズ社製)を用いて、アフィニティ・クロマトグラフィーで精製した。PreScissionプロテアーゼ(GEヘルスケア社製)を用いて、GST-USP8からGSTを取り除くことによって、タグ無しUSP8を精製した。GST-EGFR(669-1210アミノ酸)、GST-PDGFRα(550-1089アミノ酸),GST-PDGFRβ(557-1106アミノ酸)及びGST-FGFR1(398-822アミノ酸)は、カルナ・バイオサイエンスから入手した。
7.インビトロ結合試験
MBPトリコプレイン(1 μg)及びGST-USP8(1 μg)を、細胞溶解緩衝液(20 mM Tris-HCl, pH 7.5, 150 mM NaCl, 2 mM β-glycerophosphate, 2 mM EGTA及び1% Triton X-100を含む)に添加し、4℃で2時間保持した。反応後の溶液は、グルタチオン・セファロース4Bビーズを用いて精製した。ビーズを細胞溶解緩衝液により3回洗浄した後、ビーズを免疫ブロッティング処理した。
8.GSTプルダウン・アッセイ
プロテアーゼ・インヒビター・カクテル(ナカライテスク社製)を含む細胞溶解緩衝液でRPE1細胞を溶解した後、GST-USP8(10 μg)又はGST-14-3-3(10 μg)と共に4℃で2時間保持した。反応後の溶液は、グルタチオン・セファロース4Bビーズを用いて精製処理した。ビーズを細胞溶解緩衝液にて3回洗浄した後、ビーズを免疫ブロッティング処理した。
9.インビトロ・リン酸化アッセイ
100 ngのGSTタグ付受容体チロシンキナーゼ(RTKs)と、1μgのGST-USP8(細菌から精製したもの)又は1μgのタグ無しUSP8とを、20μLの反応用緩衝液(25 mM Tris-HCl pH 7.5, 50 mM NaCl, 5 mM MgCl2, 1 mM MnCl2,10μM ATP, 2 mM DTTを含む)中で、0.1 mM [γ-32P] ATP添加又は無添加の条件下で、30℃で10分間インキュベートした。
10.インビボ・ユビキチン化アッセイ
細胞にcDNAをトランスフェクションして1日後に、細胞を、95℃のユビキチン緩衝液(25 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1.5% SDS, 0.15% デオキシコール酸ナトリウム, 0.15% NP-40, 1 mM EDTA, 1 μM オカダン酸及び5 mM N-エチルマレイミドを含む)を用いて変性条件下で溶解した。溶解液に対し9倍容の細胞溶解緩衝液を加え、抗Myc抗体(MC045(ナカライテスク社製))を結合したアガロースビーズを用いて免疫沈降処理した。免疫沈降物を0.1%SDSを含む細胞溶解緩衝液により3回洗浄した後、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE)により解析した。ポリユビキチン化トリコプレインがプロテアソームによって分解されるのを防ぐために、細胞溶解前に、4〜6時間、10μM MG132(メルク社製)でより細胞を処理した。
11.インビトロにおけるトリコプレインの脱ユビキチン化アッセイ
ポリユビキチン化トリコプレイン([HA-Ub]n-myc-trichoplein)を調製するために、myc-トリコプレインとHA-ユビキチンをトランスフェクションしたHEK293T細胞とを、10 μM MG132と共に6時間処理した後、上記の「インビトロ・ユビキチン化アッセイ」に記載の方法に従って、抗Myc抗体(MC045)アガロース・コンジュゲート(ナカライテスク社製)を用いて免疫沈降処理を行った。アガロースビーズは、脱ユビキチン化緩衝液(20 mM Tris-HCl pH 7.5, 5 mM MgCl2, 1 mM MnCl2及び2 mM DTTを含む)により洗浄し、1.0μgのGST-USP8又は100 ngのFLAG-USP8を含む20μLの脱ユビキチン化緩衝液中により、それぞれ37℃で1時間又は2時間処理した。
12.インビトロにおけるユビキチン・オリゴマーの脱ユビキチン化アッセイ
タグ無しUSP(1.0 μg)、GST-USP8(1.0 μg)又はFLAG-USP8(100 ng)を上記の通りに処理し、0.25μgのLys48結合ユビキチン・オリゴマー(エンゾ・ライフ・サイエンス社製)と共に、30μLの脱ユビキチン化緩衝液に より、37℃で0.5時間〜2時間インキュベーションした。
<試験結果>
CRL3KCTD17のトリコプレインに対する働きに拮抗する86種の脱ユビキチン化酵素(DUB)のスクリーニングを行なった結果、6個の遺伝子(UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54)の遺伝子産物の産生をsiRNAで抑制することにより、ヒト網膜色素上皮由来培養細胞であるRPE1細胞で一次繊毛の形成が誘導されることを見出した(図1)。一方で、一次繊毛の形成が誘導される血清飢餓状態で上記6個の遺伝子を発現させると、一次繊毛形成が阻害された(図2c)。その結果、上記6個のDUBは、一次繊毛の形成に対して抑制的に作用するとの結論が得られた(図3a)。siRNAでUSP8の発現を抑制すると、予期しない一次繊毛形成を誘導し、トリコプレイン濃度を顕著に減少させることから、USP8に着目した(図3b及び図5)。これらの表現型は、USP8枯渇IMR90ヒト線維芽細胞においても観察された(図6)。シクロヘキシミド処理によって、トリコプレインの減少は、分解が加速されたものであることが分かった(図7)。一方、図5cの右図の結果が示すように、IFT20の存在下において、USP8以外のUCHL3, USP38, USP43, USP52及びUSP54では、トリコプレインの減少が認められず、USP8とは異なる経路で一次繊毛抑制に関与していることが分かった。
サイクリンA濃度の減少によって(図3b及びc最下段)、増殖細胞におけるUSP8ノックダウンが増殖を停止させ、一次繊毛形成が細胞周期の停止により生じる可能性があるので、USP8をsiRNAで抑制したRPE1細胞について、一次繊毛形成の必須因子であるIFT20及びCep164を同時にsiRNAで抑制した。その結果、一次繊毛形成が抑制されることが分かった(図3b、c及び図4)。この処置において、サイクリンA濃度は、正常状態とほぼ同程度に維持されており(図3b、4の最下段)、USP8ノックダウンは、トリコプレインやオーロラAのノックダウン(非特許文献4)と同様に、細胞の増殖状態において、一次繊毛形成を誘導することにより細胞の増殖を抑制しているものと考えられた。
USP8ノックダウン表現型(すなわち、一次繊毛が形成され、トリコプレインが減少する)について、DUB活性が関与しているか否かを調べるため、Tet-OnシステムによりFLAGタグ付き3種類のUSP8(野生型、S718A、C786S)を発現するRPE1細胞株にUSP8siRNAトランスフェクションし、Dox添加の有無により当該USP8発現を調整し、効果を調べた。その結果、FLAGタグ付加USP8野生型(WT:wild-type)及びS718A(触媒活性型)のUSP8の発現を抑制した場合には(図3cの左及び中央図、3d及びeの中央図)、一次繊毛形成細胞の増加とトリコプレインタンパク質の減少が認められた。しかし、Dox添加によりその効果は抑制された。一方、C786S(触媒不活性型)ではその効果が認められなかった(図3c-e)。また、FLAGタグ付加USP8を大量発現すると、血清飢餓による一次繊毛誘導とDUB活性依存型トリコプレイン分解を抑制することが分かった(図8)。これらのことから、USP8活性は、一次繊毛形成とトリコプレイン分解に関して、抑制的に作用することが分かった。
さらに、USP8ノックダウン表現型(すなわち、一次繊毛が形成され、トリコプレインが減少する)におけるDUBの効果について、USP8遺伝子のノックアウトゼブラフィッシュを用いて検証した。USP8遺伝子ノックアウトは、受精卵に対してCRISPR/Cas9法を用いて実施した。図9に、CRISPR/Cas9法によりUSP8遺伝子がノックアウトされていることを示した。その結果、野生型と比較して、USP8遺伝子ゼブラフィッシュでは、嚢胞腎、水頭症及び小眼症が認められた(図10a及びb)。処理27時間後及び4日後に回収した組織試料を免疫染色等により解析した結果、USP8遺伝子ノックアウトゼブラフィッシュでは繊毛の産生が亢進していた(図10c及びd)。図10d及びeに示すように、腎臓の尿細管が顕著に肥大していた。その結果、インビボにおいても、USP8遺伝子ノックアウトにより一次繊毛形成が亢進することが確認され、表現型に異常が認められた。
USP8には、その反応に関与する物質が多数あり、様々な細胞反応に関与している(非特許文献10及び12)。そこで、USP8に制御された一次繊毛形成が、トリコプロテインの発現に依存しているかどうかを、RPE1細胞株を用いて調べた。Doxにより誘導されたFLAGタグ付加トリコプレインの発現上昇により、USP8欠損細胞で一次繊毛形成が阻害された。一方、Doxを除去するとトリコプレインの分解に呼応して、一次繊毛が形成された(図11a-d)。また、USP8除去により誘導された一次繊毛の形成は、siRNAによるKCTD17の除去により阻害された(図12)。逆に、FLAGタグ付加USP8が大量発現すると、トリコプレイン又はオーロラAのノックダウンによって引き起こされる一次繊毛形成の阻害が見られなくなった(図13)。これらの結果は、USP8が、トリコプレイン・オーロラA経路の上流に位置することにより一次繊毛形成を阻害することを示している。
次に、USP8とトリコプレインとが直接結合するか否かを調べた。バクテリアから精製されたGST-USP8を用いたプルダウンアッセイにより、GSTタグ付加USP8はRPE1細胞溶解物中の内因性トリコプレインに結合することが明らかになった(図11)。共免疫沈降アッセイにおいても、トリコプレインとFLAGタグ付加USP8との結合が示された(図11e)。インビトロ試験において、組換えMBPトリコプレインは、精製GSTタグ付加USP8に結合したことから、これら二つのタンパク質は直接的に結合していることが分かった(図11f)。さらに、両タンパク質の結合領域と特定を行った。その結果、USP8の触媒ドメインが、トリコプレインの1-38のアミノ酸配列に結合すること、そして、これらのアミノ酸は、トリコプレインがユビキチン化されるLys50及びLys57の近傍に位置することが分かった(非特許文献7及び図14)。
次に、本発明者らは、USP8がトリコプレインを脱ユビキチン化するか否かを検討した。Mycタグ付加トリコプレインは、HEK293T細胞において、HAタグ付加ユビキチンと共存させると、ポリユビキチン化された(非特許文献7、図11g、lane1)。C786Sを除き、FLAG-USP8 野生型(WT)又はS718Aとの共発現で、ユビキチン化状態は明らかに減少した(図11g、lane2-3)。次いで、ポリユビキチン化Mycタグ付加トリコプレインを免疫精製し、インビトロ試験において、GSTタグ付加USP8と共にインキュベーションした(図11h)。GST-USP8野生型とインキュベーションすると、Myc分子を結合したトリコプレインは、大部分が脱ユビキチン化された。一方、C786Sでは、そのような効果は見られなかった。これらの結果から、USP8は、トリコプレインを脱ユビキチンする酵素(の一つ)であることが分かった。
しかしながら、依然として、血清飢餓が、どのようにしてUSP8誘導脱ユビキチン化とトリコプレインの安定化を停止させているのかは不明であった。RPE1細胞において、USP8発現量は血清飢餓状態でも変化しなかった(図15a)。ただし、WI38ヒト線維芽細胞においては、血清飢餓状態でUSP8発現量が検出できなくなるとの報告もある(非特許文献9)。そこで、RPE1細胞を用いて、血清の有無により、USP8活性が変化するか否かを調べた。RPE1細胞から等量のFLAGタグ付加USP8変異体を免疫沈降法で精製し、インビトロ試験で、Lys48結合ユビキチンオリゴマー(Ub3-7)とインキュベーションした。増殖細胞から免疫沈降したFLAGタグ付加USP8野生型と共にインキュベーションすると、Ub3-7は明らかに減少し、二量体(Ub2)及び単量体(Ub1)は明らかに増加した(図15b、レーン2及び4)。注目すべき点は、飢餓状態ではFLAGタグ付加USP8タンパク質量は変化しないが、リン酸化されたUSP8のタンパク質量がかなり減少していた。一方、血清飢餓状態の細胞から精製したFLAGタグ付加USP8野生型では、二量体(Ub2)及び単量体(Ub1)の増加は認められなかった(図15b、レーン3及び5)。FLAGタグ付加USP8 変異体(C786S:(触媒不活性型))は、血清の有無に関わらず、ユビキチンオリゴマーを切断しなかった(図15b、レーン6及び7)。これらの結果は、血清飢餓状態では、USP8タンパク量は変化しないが、Tyrのリン酸化が起こらないために触媒活性が低下することを示している。Ser718リン酸化による14-3-3結合によって、USP8活性が阻害されるとの報告がある(非特許文献10)。しかし今回の試験では、S718A変異体(触媒活性型)は、野生型と同様に、血清飢餓状態において不活性化されたので、この阻害機構は一次繊毛形成における機能とは無関係である可能性がある(図15b、レーン4及び5)。
一方、図18では、血清培養後にサイクロヘキシミド処理することにより、USP8が除去された細胞では、経時的なトリコプレインのタンパク質量は、USP8が存在する細胞に比べて大きく減少するが(図18a)が、mRNA量は変化しないことが示された(図18b)。つまり、血清存在下では、USP8がトリコプレインのmRNAを減少させているのではなく、トリコプレインのタンパク質量を規定していることが分かった。
上述したように、血清飢餓は、USP8のTyrリン酸化を減少させた(図15a,b)。そこで次に、Tyrリン酸化がUSP8の活性に影響を与えるか否かを調べた。Tyrリン酸化FLAGタグ付加USP8を血清添加RPE1細胞から免疫精製し、λPPaseと反応させて、脱リン酸化体を調製した(図15c)。リン酸化FLAGタグ付加USP8は、インビトロ試験において、トリコプレインとユビキチン・オリゴマーを効果的に脱ユビキチン化したが、脱リン酸化FLAGタグ付加USP8では、脱ユビキチン活性が減弱した(図15d)。これらのデータによれば、USP8リン酸化(おそらくチロシン残基の)は、脱ユビキチン活性を増強することが分かった。
さらに詳細な機構を探るために、UPP8のリン酸化と活性化に影響するTyrキナーゼを調べた。ここで、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)キナーゼがUSP8と関係しているので(非特許文献10)、この分子に着目した(図15e)。精製したGSTタグ付加EGFRは、インビトロ系において、直接にGSTタグ付加USP8をリン酸化した。このリン酸化反応は、EGFR特異的インヒビター(PD153035)によって阻害された(図15f)。インビトロ試験によって、GSTタグ付加EGFRが主としてTyr717及びTyr818をリン酸化することが分かった(図17)。この2ヶ所のTyrをPheに置換した変異体(Y717F/Y810F)では、RPE1細胞において、FLAGタグ付加USP8のリン酸化が大幅に減少した(図15g)。GSTタグ自体が脱ユビキチン活性を上昇させるので、微生物から精製したタグ無しUSP8を用いて、Y717F/Y810F変異体の脱ユビキチン活性に対する効果を調べた(図19)。野生型及びY717F/Y810F変異体は、非リン酸化状態において、ほぼ同等の(弱い)脱ユビキチン活性を示した(図15h、レーン2及び 4)。インビトロ試験において、GSTタグ付加EGFR処理によって、野生型では脱ユビキチン活性を強く上昇させたが、Y717F/Y810F変異体では、そのような効果が認められなかったことは重要な知見である(図15h、レーン3, 5)。Y717F及びY810Fの一方のみの変異体では、EGFR処理によって、中間的な効果が認められた(図15h、レーン6-9)。このようにして、EGFRは、インビトロ試験においては、Tyr717及びTyr818のリン酸化によって、USP8を活性化することが明らかとなった。
増殖期のRPE1細胞におけるEGFR・USP8シグナルの上流/下流関係を調べた。RPE1細胞を、USP8 siRNA存在下又は非存在下で処理し、10%血清存在下及び非存在下(血清飢餓48時間)での細胞表面に存在するEGPR量を調べたが、変化は認められなかった(図16、レーン1-4)ことから、一次繊毛形成において、USP8は、EGFRの上流でのシグナル伝達に関与していないことが分かった。一方、血清飢餓(24時間)したRPE1細胞に血清を添加した場合のEGFRの内在化は、USP8除去により抑制された(図16、レーン5及び6)。
上述した通り、USP8ノックダウンによって、血清存在下では、トリコプレインの分解と予定外の一次繊毛形成が誘導される。この現象は、FLAGタグ付加USP8野生型が発現されることによって抑制された(図20、a及びb、10 ng/mLのDox添加時)。これに対し、同程度のY717F/Y810F変異体USP8が発現しても、上記現象が見られなかったことから、USP8のTyr717及びTyr818のリン酸化が、トリコプレインの分解による一次繊毛形成に重要であることが分かった。Y717F/Y810F変異体は、基礎的な触媒活性は備えているので(図15g)、Y717F/Y810F変異体の大量発現によって、野生型と同様に、ノックアウト表現型では有効に働く可能性がある(図20、a及びb、100 ng/mLのDox添加時)。
図15での試験と同様に、EGFRノックダウンは、血清存在下において、USP8のTyrリン酸化を減少させた(図20c)。EGFRをノックダウンした細胞は、トリコプレイン・タンパク質の量とオーロラAキナーゼ活性を減少させた(図20c-e)。一方、これらの現象は、トリコプレイン又はUSP8を発現させると回復した(図22)。これらの結果より、EGFRをノックダウンすると、USP8・トリコプレイン・オーロラA経路を減速させることにより、一次繊毛形成を誘導すると考えられた。一次繊毛形成がIFT20及びCep164枯渇によって阻害された場合に、EGFRノックダウン依存性の細胞周期停止が有意に回復したことは注目に値する(図20c-e及び図21)。これらの知見は、EGFR関連細胞増殖は、Ras/MAPK又はPI3K/Akt経路のように、周知の増殖シグナルに加えて、一次繊毛形成の阻害によっても調整されていることを示している(非特許文献11及び14、図20f)。
一次繊毛形成は、血清飢餓によって誘導されるという現象が知られているものの、どのようなシグナル・カスケードが一次繊毛形成を促すのかについては、ほとんど知られていない。本研究で、EGFRの活性化は、USP8のTyr717及びTyr818のリン酸化を直接触媒することが見出された。USP8は上記リン酸化によって活性化され、脱ユビキチン化反応を介してトリコプレインの安定化に関与している。そのため、血清飢餓がEGFR-USP8シグナル伝達のダウンレギュレーションを開始させ、CRL3KCTD17によるトリコプレインのポリユビキチン化、そして分解を起こすことにより、一次繊毛形成の重要なステップであるオーロラAの不活性化に至ると考えられる(非特許文献4及び7)。少なくともRPE1細胞においては、EGFRをノックダウンすると、USP8・トリコプレイン・オーロラA経路を減弱化させることにより、一次繊毛形成を誘導できる(図20c-e、図22)。さらに、インビトロの試験で、USP8のTyr717及びTyr818は、PDGFR及びFGFR1経由の刺激によってもリン酸化され、活性化される(図23)ことから、これらレセプターもEGFRと同様の機能を有することが考えられる。さらに、USP8がMET(非特許文献12)及びERBB2(非特許文献13)に結合することが報告されていること、またRTKのサブセットがUSP8・トリコプレイン・オーロラA経路を介して一次繊毛形成を調節していることは、次の研究への興味深い領域である。
一方、ヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞のトリコプレインをsiRNAでノックアウトすると、図24で示すように一次繊毛を形成する細胞の割合が大きく増加した。この時、HeLa細胞は顕微鏡観察下では弱体化し、増殖能をほとんど失っているように観察された。すなわち、一次繊毛の形成による細胞の増殖の低下は、がん細胞でも起こる可能が高いと考えられ、他のがん細胞を用いて、一次繊毛と細胞増殖の関連性について試験が実施される。
今回の研究では、特定のがん細胞によく見られる特徴、すなわち過度のRTK活性(非特許文献11及び14)と一次繊毛形成の欠損(非特許文献15)との間の因果関係には重要な意義がある可能性が高く、一次繊毛と細胞増殖との間の相互関係の分子機構についての重要な知見を提供している(非特許文献16及び17)。
上述のように、トリコプレインはオーロラAキナーゼの活性化分子である。しかし、オーロラAがいかにして一次繊毛を抑制しているかについては、いまだに不明な点が多い。発明者らは、血清飢餓や、EGFR〜オーロラA経路阻害により一次繊毛を形成した細胞では、p27KIP1が発現上昇することを見出した。p27KIP1のトリコプレインのノックダウンにより、CDKインヒビターであるp27KIP1の発現が誘導されること及びCRISPR/Cas9システムにより作製したp27KIP1ノックアウト細胞では一次繊毛の形成が完全に抑制されることも見出した。
図25に示すように、p27KIP1ノックアウトRPE1細胞株及び、その親株からRhoA又はStathminを除去後、血清除去培地で48時間培養した場合の一次繊毛の形成率を測定した結果、p27KIP1ノックアウトRPE1細胞株では、いずれの条件でも一次繊毛の形成が認められなかった。
さらに図26に示すように、p27KIP1ノックアウトRPE1細胞株に、野生型Myc-p27(WT)、Cyclin/CDK非結合型Myc-p27変異体(4 mutations: R30A/L32A/F62A/F64A)、Stasimin及びRho A非結合型Myc-p27変異体(Δ171-197アミノ酸)遺伝子を導入し、当該タンパク質を発現させることにより、一次繊毛の形成が認められた。今後、がん細胞においても、同様の試験を実施する。
これらの結果から、p27KIP1は、細胞増殖停止因子(CDK阻害因子)、微小管制御因子(Stathmin結合因子)及びアクチン骨格制御因子(Rho A結合因子)とは異なる特性として、一次繊毛を形成させる機能をもつことが明らかになった。
一方、p27 KIP1分解には主に3つのユビキチン化酵素(SCFSKP2、KPC及びPirh2)が関与することが知られており、p27 KIP1分解を阻害する物質や、3つのユビキチン化酵素(SCFSKP2、KPC及びPirh2)の単独又は組合せを阻害することにより、一次繊毛が形成される可能性が高いことも予想された。
EGF受容体は、従来から、がん治療における重要な標的分子として注目されてきたが、その下流のシグナルとしては、RAS・MAPキナーゼ経路や、PI3キナーゼ・AKT経路が主流として考えられてきた。今回のEGF受容体・USP8・トリコプレイン・p27KIP1経路の発見は、従来考えられてきたEGF受容体シグナル(キナーゼカスケード)とは異なる経路から、がん細胞の増殖制御が可能であることを示唆する。
これまでは、正常二倍体のヒト網膜色素上皮由来培養細胞(RPE1細胞)を中心に試験を行ってきた。新たに発見した「キナーゼカスケード」が、がん細胞でも同様に働いているかどうかを調べることにより、新たな抗がん剤の開発に繋がる。
そこで、清野ら(非特許文献18)が作製した変異型K-RAS(G12V変異)導入した正常ヒト膵管上皮細胞株をがん化した細胞(又はすでに樹立されているPanc1などの変異K-RASを有した膵がん細胞株)を用いて、ユビキチン-プロテアソーム系による一次繊毛の動態制御(EGFR-USP8/KCTD17-トリコプレイン-オーロラA経路)が、RAS変異型のようにキナーゼカスケード系の亢進したがんの治療標的となりうるか検証した。具体的には、がん化ヒト膵管上皮細胞株において上記シグナル分子を阻害剤やRNA干渉法で機能抑制した際の、一次繊毛動態と細胞増殖への影響を検証した。
また、K-RAS遺伝子変異陽性肺がん細胞であるH23(ATCC、CRL-5800)を用いて、抗EGFR抗体が一次繊毛を形成誘導するかどうか検討した。H23細胞を、20μg/mLのヒト型抗EGFRモノクローナル抗体(パニツムマブ、製品名ベクティビックス(武田薬品工業))を添加したDMEM培地で48時間培養した後、免疫細胞染色すると、一次繊毛が形成されることが示された(図27B)。一方、抗EGFR抗体が存在しない場合、一次繊毛の形成は認められなかった(図27A)。抗EGFR抗体が存在する場合では、細胞増殖が阻害されることから、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞であっても、一次繊毛形成の促進を指標として、DUB活性を阻害する物質のスクリーニングが可能となる。
これらの結果は、EGF受容体・USP8・トリコプレイン・p27KIP1経路が、RAS・MAPキナーゼ経路や、PI3キナーゼ・AKT以外の経路で、一次繊毛動態とがん細胞増殖との関係を示したものであり、がん細胞の増殖制御における重要な標的シグナル及び新たな抗がん剤の開発に繋がる可能性が高い。
このように本実施形態によれば、一次繊毛形成の誘導を評価指標として、細胞が異常な増殖を起こす状態から増殖を停止する状態に移行させる物質をスクリーニングすることができる。

Claims (28)

  1. 細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング方法。
  2. 前記細胞が、がん細胞である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 脱ユビキチン化酵素(DUB)に対する阻害活性を評価することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記DUBが、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項4に記載の方法。
  6. 前記DUBのUSP8とトリコプレインとの結合の阻害を評価することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記DUBのUCHL3, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つとトリコプレインとが結合しない条件下で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  8. p27KIP1の活性化又は分解阻害を評価することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  9. SCFSKP2、KPC又はPirh2のユビキチン化酵素に対する阻害活性を評価することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  10. 下記の(1)〜(4)からなる群から選択される少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする、がん細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング方法。
    (1)物質が、脱ユビキチン化酵素(DUB)の活性を阻害することを確認する工程、
    (2)物質の、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54に対する選択性を確認する工程、
    (3)培養細胞に物質を加え、細胞の一次繊毛が増加することを確認する工程、及び
    (4)がん細胞の一次繊毛の動態を測定する工程。
  11. 前記がん細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、請求項10に記載の方法。
  12. 細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング方法における、細胞の一次繊毛形成に関与する脱ユビキチン化酵素(DUB)、p27KIP1、SCFSKP2、KPC又はPirh2の使用。
  13. 細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キット。
  14. 前記細胞が、がん細胞である、請求項13に記載のキット。
  15. 前記細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、請求項13又は14に記載のキット。
  16. 脱ユビキチン化酵素(DUB)に対する阻害活性を評価することを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載のキット。
  17. 前記DUBが、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項16に記載のキット。
  18. p27KIP1の活性化又は分解阻害を評価することを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載のキット。
  19. 下記の(1)〜(4)からなる群から選択される少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする、がん細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キット。
    (1)物質が、脱ユビキチン化酵素(DUB)の活性を阻害することを確認する工程、
    (2)物質の、UCHL3, USP8, USP38, USP43, USP52及びUSP54に対する選択性を確認する工程、
    (3)培養細胞に物質を加え、細胞の一次繊毛が増加することを確認する工程、及び
    (4)がん細胞の一次繊毛の動態を測定する工程。
  20. 前記がん細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、請求項19に記載の方法。
  21. 細胞の一次繊毛形成を促進する物質のスクリーニング用キットの製造のための、細胞の一次繊毛形成に関与する脱ユビキチン化酵素(DUB)、p27KIP1、SCFSKP2、KPC又はPirh2の使用。
  22. がん細胞の一次繊毛形成を促進する物質を用いることを特徴とする、がん細胞増殖を抑制する方法。
  23. 細胞の一次繊毛形成を促進する物質。
  24. 前記細胞が、がん細胞である、請求項23に記載の物質。
  25. 前記細胞が、K-RAS遺伝子変異陽性がん細胞である、請求項23又は24に記載の物質。
  26. 請求項23〜25のいずれか1項に記載の物質を用いることを特徴とする、がんの予防及び/又は治療方法。
  27. 請求項23〜25のいずれか1項に記載の物質を有効成分として含む、がんの予防及び/又は治療薬。
  28. がんの予防及び/又は治療薬の製造のための、請求項23〜25のいずれか1項に記載の物質の使用。











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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114196650A (zh) * 2021-12-19 2022-03-18 中国人民解放军军事科学院军事医学研究院 E3泛素连接酶hrd1在调控初级纤毛发生中的应用

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