JP2019017946A - 気分推定システム - Google Patents
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Abstract
【課題】 対象者の気分の変動量を推定することができる、気分推定システムを提供すること。【解決手段】 気分推定システム1が備える気分変動量推定部67は、X軸が安静状態であるときにおける生体情報でありY軸が非安静状態であるときにおける生体情報であるX−Y平面上において、X成分が安静状態であるときにおける対象者の生体情報の平均値でありY成分が対象者の生体情報の現在値(生体情報現在値)である座標点Aと、安静状態であるときにおける生体情報と非安静状態であるときにおける生体情報との相関関係を表す相関線との距離である乖離距離Lに基づいて、現在時点における対象者の気分の変動量を推定する。【選択図】 図8B
Description
本発明は、気分推定システムに関する。
対象者の気分、或いは、心理状態、を推定するシステムが開発されている。例えば、特許文献1は、対象者の顔に持続的に表れる主表情の種類の変化、及び、対象者の顔に瞬間的に表れる微表情の有無を検出し、検出された主表情の種類の変化及び微表情の有無に基づいて、対象者の心理状態を推定するシステムを開示する。また、特許文献2は、対象者の生体データを収集し、収集した生体データに対して設定された推定区間内における心理状態の変化を推定する方法を開示する。また、特許文献3は、時針及び分針を有する腕時計式の装置の時針及び分針により表される時間軸の周に沿って、対象者の生理学的パラメータから得られた指標を表示する装置を開示する。また、特許文献4は、生体情報に基づいて推定された心理状態と、体動情報又は位置情報に基づいて推定された活動状態とに基づいて、対象者の嗜好を判定し、嗜好の判定に基づいて、視聴が推奨される推奨コンテンツを決定するように構成された画像表示システムを開示する
(発明が解決しようとする課題)
上記特許文献記載の技術によれば、対象者の気分或いは心理状態を推定することができるものの、対象者の気分の変動量まで推定することができない。そこで、本発明は、対象者の気分の変動量を推定することができる、気分推定システムを提供することを目的とする。
上記特許文献記載の技術によれば、対象者の気分或いは心理状態を推定することができるものの、対象者の気分の変動量まで推定することができない。そこで、本発明は、対象者の気分の変動量を推定することができる、気分推定システムを提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明に係る気分推定システムは、心拍情報を含む対象者の現在時点における生体情報であって、気分の変動に影響する生体情報の現在値である生体情報現在値を取得する生体情報現在値取得部(61)と、生体情報現在値取得部が取得した対象者の生体情報現在値に基づいて、対象者の気分状態が安静状態であるか非安静状態であるかを判定する気分状態判定部と(62)、気分状態判定部により対象者の気分状態が非安静状態であると判定されたときに、現在時点における対象者の気分の変動量を推定する気分変動量推定部(67)と、を備える。そして、気分変動量推定部は、X軸が安静状態であるときにおける生体情報でありY軸が非安静状態であるときにおける生体情報であるX−Y平面上において、X成分が安静状態であるときにおける対象者の生体情報の平均値でありY成分が生体情報現在値である座標点と、安静状態であるときにおける生体情報と非安静状態であるときにおける生体情報との相関関係を表す相関線との距離である乖離距離に基づいて、現在時点における対象者の気分の変動量を推定する。
本発明に係る気分推定システムは、心拍情報を含む対象者の現在時点における生体情報であって、気分の変動に影響する生体情報の現在値である生体情報現在値を取得する生体情報現在値取得部(61)と、生体情報現在値取得部が取得した対象者の生体情報現在値に基づいて、対象者の気分状態が安静状態であるか非安静状態であるかを判定する気分状態判定部と(62)、気分状態判定部により対象者の気分状態が非安静状態であると判定されたときに、現在時点における対象者の気分の変動量を推定する気分変動量推定部(67)と、を備える。そして、気分変動量推定部は、X軸が安静状態であるときにおける生体情報でありY軸が非安静状態であるときにおける生体情報であるX−Y平面上において、X成分が安静状態であるときにおける対象者の生体情報の平均値でありY成分が生体情報現在値である座標点と、安静状態であるときにおける生体情報と非安静状態であるときにおける生体情報との相関関係を表す相関線との距離である乖離距離に基づいて、現在時点における対象者の気分の変動量を推定する。
本発明に係る気分推定システムによれば、安静時の生体情報と非安静時の生体情報との相関線に対して、対象者の現在の生体情報(生体情報現在値)がどの程度乖離しているかに基づいて、現在時点における対象者の気分の変動量が定量的に推定される。このように、本発明によれば、対象者の気分の変動量を推定することができる気分推定システムを提供することができる。
上記発明において、「気分」とは、「感情」或いは「情動」と言い換えることもでき、人が物事に対して抱く気持である。「気分」は、複数の種類に分類され得る。例えば、「好き嫌い」、「快適感」、「焦燥感」、「集中」、「眠気」、「喜怒哀楽」等は、気分の一種であり、それぞれが、気分を構成する。
また、上記発明において、「安静状態」とは、気分を表す状態が発現していない状態を言い、「非安静状態」とは、気分を表す状態が発現している状態を言う。また、上記発明における「相関関係」は、安静状態であるときにおける生体情報と非安静状態であるときにおける生体情報との関係であって複数の対象者に対して適用され得る一般的な相関関係である。この相関関係は、複数の対象者(被験者)から得られる安静状態であるときにおける生体情報と非安静状態であるときにおける生体情報に基づいて構築される。
また、上記発明において、「気分の変動量」とは、ある種類の気分に対して、その気分が発現したときにおけるその気分についての安静時からの気持の強さ(刺激の強さ)の変化量を意味する。例えば、「好き嫌い」という気分に対して「嫌悪感の度合い」、「焦燥感」という気分に対して「焦りの度合い」が、気分の変動量(刺激の強さ)である。
また、上記発明において、「生体情報現在値」とは、心拍数、心拍間隔(RRI)、皮膚温度、呼吸数、発汗量(皮膚電位)等の、生体現象によって体内から発せられる信号(生体信号)の現在値及び、生体信号の統計値(平均、分散)の現在値を表す。なお「生体信号の統計値の現在値」は、現在時点に至るまでの微小時間内に取得された生体信号データを統計処理することにより算出され得る。
気分変動量推定部は、現在時点における対象者の気分のうち変動している気分の変動量を推定するのがよい。これによれば、対象者の現在時点において変動している気分の変動量を推定することができる。ここで、「変動している気分」とは、非安静状態である気分を言う
気分変動量推定部は、上記乖離距離が大きいほど、現在時点における対象者の気分の変動量が大きいと推定するのがよい。上記相関線からの対象者の生体情報現在値を表す座標点の乖離距離が大きいほど、その生体情報に影響する気分がより大きく変動していると考えられる。従って、乖離距離が大きいほど気分の変動量が大きいと推定することにより、気分の変動量を精度良く推定することができる。
また、本発明に係る気分推定システムは、対象者の現在の行動状態を推定する行動状態推定部(66)を備えるとよい。そして、気分変動量推定部は、X−Y平面上に表される相関式からの対象者の生体情報現在値を表す座標点の乖離方向及び、行動状態推定部が推定した対象者の現在の行動状態に基づいて、現在時点における対象者の気分のうち変動している気分を特定するのがよい。これによれば、変動している気分を精度良く特定することができる。
また、本発明に係る気分推定システムは、対象者のストレスの強弱及び心理的負担の大小を推定するストレス推定部(68)をさらに備えるとよい。これによれば、対象者の気分の変動量のみならず、気分の変動に伴って対象者が受けるストレスの強弱及び心理的負担の大きさをも推定することができる。
この場合、ストレス推定部は、安静状態であるときにおける対象者のRRIデータに基づいて求められるローレンツプロットである安静時ローレンツプロットのLP面積及び非安静状態であるときにおける対象者のRRIデータに基づいて求められるローレンツプロットである非安静時ローレンツプロットのLP面積に基づいて、対象者のストレスの強弱を推定し、安静時ローレンツプロットのM値及び非安静時ローレンツプロットのM値に基づいて、対象者の心理的負担の大小を推定するのがよい。
これによれば、安静時ローレンツプロットのLP面積及びM値と、非安静時ローレンツプロットのLP面積及びM値を比較することにより、精度良く、ストレスの強弱及び心理的負担の大小を推定することができる。
また、本発明に係る気分推定システムは、気分変動量推定部が推定した現在時点において変動している気分及びその変動量、ストレス推定部が推定した対象者のストレスの強弱及び心理的負担、体動状態推定部が推定した対象者の現在時点における行動状態に基づいて、対象者の行動状態、変動している気分及びその変動量、ストレスの強弱及び心理的負担の関連付けを行う統合判断部(69)を備えるのがよい。これによれば、対象者の行動状態、そのときに変動している気分及びその変動量、ストレスの強弱及び心理的負担の大きさが、どのように関連しているかを推定することができる。
また、気分変動量推定部が現在時点における対象者の気分の変動量を推定する場合に用いる生体情報が、RRI分散であるとよい。ここで、RRI分散とは、心拍間隔(R−R interval)の分散である。安静状態であるときにおけるRRI分散と非安静状態であるときにおけるRRI分散の相関式に対する対象者のRRI分散の現在値を表す座標点の乖離距離は、対象者の気分の変動量を精度良く表す。従って、RRI分散についての乖離距離に基づいて、気分の変動量をより精度良く推定することができる。なお、RRI分散の現在値は、現在時点に至るまでの微小時間の間に取得される対象者の複数のRRIデータに基づいて算出することができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る気分推定システムの概略構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る気分推定システム1は、生体信号検出センサ2と、体動検出センサ3と、情報端末4と、中継器(モデム)5と、サーバ6とを備える。
生体信号検出センサ2は、少なくとも心拍数或いはRRI等の心拍信号を含み、対象者の様々な気分に影響すると考えられる生体信号を検出する。生体信号検出センサ2は、対象者の複数の生体信号を個々に検出する複数のセンサにより構成されるセンサ群であってもよい。センサ群を構成する複数のセンサとして、対象者の心拍信号(心拍間隔RRI、心拍数等)を検出する心拍信号検出センサ、対象者の脈波信号を検出する脈波信号検出センサ、対象者の皮膚電位(ここで、皮膚電位の大きさは、発汗量に影響する)を検出する皮膚電位検出センサ、呼吸信号(呼吸数、呼吸間隔等)を検出する呼吸信号検出センサ、体温(皮膚温度)を検出する体温検出センサ、血圧検出センサ等を例示することができる。また、体動検出センサ3は、対象者の動きを加速度信号として検出するとともに、検出した加速度信号を出力する。生体信号検出センサ2及び体動検出センサ3は、ウェアラブルセンサとして対象者が身に着けているとよい。生体信号検出センサ2及び体動検出センサ3は、有線通信手段或いは無線通信手段により、中継器5と通信可能に構成されており、検出した信号を、中継器5に送信する。
情報端末4は、対象者が携帯しており、無線通信手段によりサーバ6と送受信可能に構成される。情報端末4は、サーバ6から送信された情報を表示する機能を有する。情報端末4として、例えばスマートフォンを例示することができる。
中継器5は、生体信号検出センサ2が出力した生体信号及び体動検出センサ3が出力した加速度信号を逐次的に受信する。また、中継器5は、サーバ6と無線通信により送受信可能に構成される。中継器5は、生体信号検出センサ2から受信した対象者の生体信号及び体動検出センサ3から受信した対象者の加速度信号を、無線通信によってサーバ6に送信する。また、中継器5は、複数の環境制御機器7と通信可能に構成される。環境制御機器7は、対象者の周辺環境(温度、明るさ等)を制御することができる機器である。環境制御機器7として、空調装置、照明、音響機器等を例示することができる。
サーバ6は、データの送受信、データの記憶・保管、データの解析・判定・統合処理、等を行うことができるハードウェアである。サーバ6は、例えばクラウドコンピューティング上に設置することができる。
また、本実施形態に係る気分推定システム1は、複数の対象者についての気分を推定することができるように構成される。従って、気分推定システム1は、図1に示すように、複数の対象者(図1においては対象者A、対象者B、対象者C)のそれぞれに対して割り当てられた、生体信号検出センサ2、体動検出センサ3、情報端末4、中継器5を有することになる。
図2は、サーバ6の機能構成を示すブロック図である。図2に示すように、サーバ6は、現在値取得部61と、気分状態判定部62と、情報記憶部63と、統計解析部64と、相関関係導出部65と、行動状態推定部66と、気分変動量推定部67と、ストレス推定部68と、統合処理部69と、環境制御部70と、を有する。
現在値取得部61は、生体信号検出センサ2及び体動検出センサ3が検出した複数の対象者の直近の生体信号及び加速度信号を、中継器5を介して入力する。そして、入力された信号に基づいて、対象者の現在時点における生体情報(生体情報現在値)及び体動情報(体動情報現在値)を取得する。現在値取得部61が、本発明の生体情報現在値取得部に相当する。
ここで、生体信号検出センサ2が検出する信号には、心拍信号が含まれる。また、生体信号検出センサ2が検出する信号は、気分の変動に影響する生体信号である。従って、現在値取得部61は、心拍情報を含む対象者の現在時点における生体情報であって、気分の変動に影響する生体情報現在値を取得することになる。また、現在値取得部61が取得する生体情報現在値には、生体信号の現在値に加え、生体信号の統計値(平均及び分散)の現在値が含まれる。例えば、対象者のRRIの平均値の現在値や分散(RRI分散)の現在値も、生体情報現在値に含まれる。この場合において、生体信号の平均値の現在値は、現在時点に至るまでの微小時間(例えば1分間)の間に入力した生体信号データを平均することにより取得することができ、生体信号の分散の現在値は、現在時点に至るまでの微小時間の間に入力した生体信号データの平均値及びその平均値と各生体信号データとの偏差に基づいて取得することができる
気分状態判定部62は、対象者の気分が安静状態であるか非安静状態であるかを判定する。ここで、「安静状態」とは、複数種類の気分の全てについて、安静な状態(その気分が発現されていない状態)を言う。例えば、複数種類の気分が、「焦燥感」、「集中」「好き嫌い」であるとすると、焦燥感及び集中度が低く、且つ、好きという感情も嫌いという感情もないような状態が、「安静状態」である。一方、「非安静状態」とは、上記した複数種類の気分の少なくとも一つの気分が安静でない状態(その気分が発現されている状態)を言う。
気分状態判定部62は、気分状態判定処理を実行することにより、対象者の現在の気分状態が安静状態であるか非安静状態であるかを判定する。図3は、気分状態判定部62が、気分状態を判定するために実行する気分状態判定処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。図3に示すルーチンが起動すると、気分状態判定部62は、まず、図3のS101にて、現在値取得部61が取得した対象者の生体情報現在値を読み出す。次いで、気分状態判定部62は、対象者の個々の気分が安静状態であるという事象の発生確率pを、全ての種類の気分について演算する。
ある種の気分が安静状態であるか非安静状態であるかは、少なくとも心拍情報を含む特定の生体情報の大きさに現れる。従って、心拍情報を含む特定の生体情報から、その気分が安静状態であるか非安静状態であるかを推定することができる。本実施形態においては、ロジスティック回帰式を用いて、気分が安静状態であるか非安静状態であるかが判定される。この場合、気分状態判定部62は、S102にて、気分が安静状態であるという事象の発生確率pの対数オッズ(ln(p/(1−p))を従属変数、少なくとも心拍情報を含む生体情報xkを独立変数とした以下の(1)式に示すようなロジスティック回帰式
を用いたロジスティック回帰分析により、発生確率pを演算する。ここで、kは次元数と呼ばれるデータの種類数を示し、iはデータ数を示す。また、生体情報xkについての最適な回帰係数αkは、以下の(2)式に示す目的関数Eを最大化する最尤法により求められる。
ここで、(2)式において、tは確率の正解値である。
最尤法により求められる回帰係数と心拍情報を含む生体情報とを(3)式に代入することにより、発生確率pを演算することができる。一般的には、得られた発生確率pに100を乗じて、百分率により発生確率pが表現される。
また、上述したように、気分には、複数の種別が存在する。従って、上記した発生確率pは、それぞれの気分に対応して求めることができる。例えば、「焦燥感」という気分に対しては、以下の(4)式に示すロジスティック回帰式が与えられる。
(4)式からわかるように、「焦燥感」は、生体情報としての皮膚電位、RRI(心拍間隔)、RRI分散(心拍間隔の分散)に影響する。よって、気分状態判定部62は、現在値取得部61から読み出した対象者の皮膚電位の現在値、RRIの現在値、及び、RRI分散の現在値に基づいて、「焦燥感」についての気分が安静状態であるという発生確率pを求めることができる。
図4は、焦燥感に関する発生確率pの推移を時系列的に示すグラフの一例である。図4の横軸が、焦燥感に関する発生確率pの演算開始からの経過時間(sec.)であり、縦軸が発生確率p(%)である。図4に示すように、経過時間が241秒以前の区間においては、発生確率pが原則的に50%以上であり、経過時間が241秒以降の区間においては、発生確率pが原則的に50%未満である。つまり、241秒の時点を境に、発生確率pが変化していることがわかる。
気分状態判定部62は、S102にて上記した手法に基づいて対象者の現在の各気分が安静状態であるという事象の発生確率pを演算した後に、S103にて、演算した発生確率pが、全ての気分について50%以上であるか否かを判断する。全ての気分についての発生確率pが50%以上である場合(S103:Yes)、気分状態判定部62は、S104に処理を進めて、対象者の現在の気分状態が安静状態であると判定し、次いで、S106に処理を進めて、S101にて読み出した生体情報現在値を安静時生体情報として情報記憶部63に出力する。その後、気分状態判定部62は、このルーチンを終了する。一方、全ての気分についての発生確率pが50%以上ではない場合(S103:No)、気分状態判定部62は、S105に処理を進める。なお、S103の判定結果がNoとなる場合は、全ての気分についての発生確率pが50%未満である場合のみならず、ある種類の気分が50%以上でありそれ以外の気分についての発生確率pが50%未満である場合を含む。
S105では、気分状態判定部62は、対象者の現在の気分状態が非安静状態であると判定し、次いで、S107に処理を進めて、S101にて読み出した生体情報現在値を非安静時生体情報として情報記憶部63に出力する。その後、気分状態判定部62は、このルーチンを終了する。
気分状態判定部62が上記した気分状態判定処理を微小時間間隔で繰り返し実行することにより、対象者の現在の気分の状態が安静状態であるか非安静状態であるかが逐次的に判定される。
情報記憶部63は、気分状態判定部62から安静時生体情報を入力した場合、入力した生体情報を、安静時における生体情報として、対象者ごとに記憶する。また、情報記憶部63は、気分状態判定部62から非安静時生体情報を入力した場合、入力した生体情報を、非安静時における生体情報として、対象者ごとに記憶する。情報記憶部63により、対象者ごとに、安静状態であるときにおける生体情報及び非安静状態であるときにおける生体情報が、累積的に記憶される。
統計解析部64は、情報記憶部63に記憶されているそれぞれの対象者の安静時生体情報の統計値である平均値及び分散、並びに、非安静時生体情報の統計値である平均値及び分散を、対象者ごとに、且つ、気分の種類ごとに、演算する。なお、統計解析部64が演算する各生体情報の平均値及び分散は、現在値取得部61が取得する生体情報現在値に含まれる生体信号の平均値の現在値或いは分散の現在値とは異なる。現在値取得部61が取得した生体信号の平均値の現在値のうち安静時に取得した生体信号の平均値の現在値(生体情報現在値)の平均値が、統計解析部64にて演算される安静時生体情報の平均値と言え、現在値取得部61が取得した生体信号の平均値の現在値のうち非安静時に取得した生体信号の平均値の現在値(生体情報現在値)の平均値が、統計解析部64にて演算される非安静時生体情報の平均値と言える。また、現在値取得部61が取得した生体信号の分散の現在値のうち安静時に取得した生体信号の分散の現在値(生体情報現在値)の平均値が、統計解析部64にて演算される安静時生体情報の分散と言え、現在値取得部61が取得した生体信号の分散の現在値のうち非安静時に取得した生体信号の分散の現在値(生体情報現在値)の平均値が、統計解析部64にて演算される非安静時生体情報の分散と言える。統計解析部64が演算した安静時生体情報の平均値及び分散、並びに非安静時生体情報の平均値及び分散は、相関関係導出部65に出力される。
相関関係導出部65は、気分状態が安静状態であるとき(安静時)における生体情報と、気分状態が非安静状態であるとき(非安静時)における生体情報との相関関係を表す相関式を導出する。本実施形態では、相関関係導出部65は、生体情報の平均値及び分散に関しての相関式を導出する。この場合、相関関係導出部65は、複数の対象者についての安静時生体情報の平均値及び非安静時生体情報の平均値を統計解析部64から入力するとともに、入力した複数の対象者についてのこれらの平均値に基づいて、安静時における生体情報の平均値と非安静時における生体情報の平均値との相関関係を表す相関式を導出する。また、相関関係導出部65は、複数の対象者についての安静時生体情報の分散及び非安静時生体情報の分散を統計解析部64から入力するとともに、入力した複数の対象者についてのこれらの分散に基づいて、安静時における生体情報の分散と非安静時における生体情報の分散との相関関係を表す相関式を導出する。相関関係は、例えば、最小二乗法を用いて導出することができる。
なお、相関式の導出に用いるデータ数が少ない場合、十分に精度の高い相関式を導出することができない。この点に関し、本実施形態においては、相関関係導出部65には、予め複数の対象者に対して実験により得られた、安静時における生体情報の統計値(平均値、分散)と非安静時における生体情報の統計値(平均値、分散)との相関関係を表す相関式が記憶されている。そして、相関関係導出部65は、統計解析部64から入力した安静時生体情報の平均値及び分散並びに非安静時生体情報の平均値及び分散を用いて、予め記憶されている相関式を補正することにより、相関式を導出する。これにより、相関式の精度が向上する。
図5は、相関関係導出部65が導出した、安静時における心拍数の平均値と非安静時における心拍数の平均値との相関関係を表すグラフの一例であり、図6は、相関関係導出部65が導出した、安静時における皮膚温度の平均値と非安静時における皮膚温度の平均値との相関関係を表すグラフの一例である。図5及び図6において、横軸が安静時における生体情報(心拍数、皮膚温度)の平均値であり、縦軸が非安静時(タスク時)における生体情報(心拍数、皮膚温度)の平均値である。また、図5及び図6のグラフ中にプロットされた点が、一人の対象者についての安静時における生体情報(心拍数、皮膚温度)の平均値と非安静時における生体情報(心拍数、皮膚温度)の平均値との関係を表す。図5及び図6からわかるように、安静時における生体情報の平均値と非安静時における生体情報の平均値は、強い相関を有する。
また、図5及び図6において、グラフ中にプロットされた点のうち、菱形で示される点は、「好き嫌い」という気分についての、安静時における生体情報(心拍数、皮膚温度)の平均値と非安静時における生体情報(心拍数、皮膚温度)の平均値との関係を示し、四角で示される点は、「焦燥感」という気分についての、安静時における生体情報の平均値と非安静時における生体情報の平均値との関係を示し、三角で示された点は、「集中」という気分についての、安静時における生体情報の平均値と非安静時における生体情報の平均値との関係を示す。図5及び図6からわかるように、いずれの種類の気分においても、特定の生体情報(例えば心拍数、或いは皮膚温度)に関して、安静時における生体情報の平均値と非安静時における生体情報の平均値との相関は、同じような傾向を示す。
行動状態推定部66は、対象者の行動状態を推定する。ここにおいて、行動状態とは、対象者の動作態様を表す。一例として、行動状態として、「眠っている」、「座っている」、「立っている」、「歩いている」、「走っている」といった、動作態様を例示することができる。
行動状態推定部66は、行動状態推定処理を実行することにより、対象者の現在時点における行動状態を推定する。図7は、行動状態推定部66が実行する行動状態推定処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。このルーチンが起動すると、行動状態推定部66は、まず、図7のS201にて、現在時点に至るまでの所定の微小時間の間に体動検出センサ3が検出した対象者の加速度信号の現在値を、現在値取得部61から読み出す。次いで、行動状態推定部66は、入力した加速度信号データに基づいて、加速度の平均値αを算出する(S202)。
続いて、行動状態推定部66は、加速度の平均値αが、第一閾値加速度α1未満であるか否かを判断する(S203)。第一閾値加速度α1は、加速度の平均値αがそれ未満であるかそれ以上であるかによって対象者が臥位状態(寝ている状態)であるか座位状態(座っている状態)であるかを区別することができる程度の加速度の閾値として、予め定められる。加速度の平均値αが第一閾値加速度α1未満である場合(S203:Yes)、行動状態推定部66は、S207に処理を進め、対象者の現在の行動状態を臥位状態に設定する。その後、行動状態推定部66は、このルーチンを終了する。
また、S203にて、加速度の平均値αが、第一閾値加速度α1以上であると判断した場合(S203:No)、行動状態推定部66は、S204に処理を進め、加速度の平均値αが、第一閾値加速度α1よりも大きい第二閾値加速度α2未満であるか否かを判断する。第二閾値加速度α2は、加速度の平均値αがそれ未満であるかそれ以上であるかによって対象者が座位状態であるか起立状態(立っている状態)であるかを区別することができる程度の加速度の閾値として、予め定められる。加速度の平均値αが第二閾値加速度α2未満である場合(S204:Yes)、行動状態推定部66は、S208に処理を進め、対象者の行動状態を座位状態に設定する。その後、行動状態推定部66は、このルーチンを終了する。
また、S204にて、加速度の平均値αが、第二閾値加速度α2以上であると判断した場合(S204:No)、行動状態推定部66は、S205に処理を進め、加速度の平均値αが、第二閾値加速度α2よりも大きい第三閾値加速度α3未満であるか否かを判断する。第三閾値加速度α3は、加速度の平均値αがそれ未満であるかそれ以上であるかによって対象者が起立状態であるか歩行状態(歩いている状態)であるかを区別することができる程度の加速度の閾値として、予め定められる。加速度の平均値αが第三閾値加速度α3未満である場合(S205:Yes)、行動状態推定部66は、S209に処理を進め、対象者の行動状態を起立状態に設定する。その後、行動状態推定部66は、このルーチンを終了する。
また、S205にて、加速度の平均値αが、第三閾値加速度α3以上であると判断した場合(S205:No)、行動状態推定部66は、S206に処理を進め、加速度の平均値αが、第三閾値加速度α3よりも大きい第四閾値加速度α4未満であるか否かを判断する。第四閾値加速度α4は、加速度の平均値αがそれ未満であるかそれ以上であるかによって対象者が歩行状態であるか走行状態(走っている状態)であるかを区別することができる程度の加速度の閾値として、予め定められる。加速度の平均値αが第四閾値加速度α4未満である場合(S206:Yes)、行動状態推定部66は、S210に処理を進め、対象者の行動状態を歩行状態に設定する。その後、行動状態推定部66は、このルーチンを終了する。
また、S206にて、加速度の平均値αが、第四閾値加速度α4以上であると判断した場合(S206:No)、行動状態推定部66は、S211に処理を進める。そして、S211にて、対象者の行動状態を、走行状態に設定する。その後、行動状態推定部66は、このルーチンを終了する。
行動状態推定部66が上記した行動状態判定処理を実行して、対象者の体動(加速度)に基づいて対象者の行動状態を、臥位状態、座位状態、起立状態、歩行状態、走行状態、のいずれかに設定することにより、対象者の現在時点における行動状態が推定される。なお、閾値加速度を更に細分化することにより、より詳細に対象者の行動状態を推定することもできる。例えば、対象者が座位状態で筆記作業をしている状態、対象者が歩行状態で軽作業をしている状態等も、推定することができる。
気分変動量推定部67は、例えば外部の刺激により変動した気分の種類を特定し、特定した気分の変動量を推定する。気分変動量推定部67は、変動した気分の種類の特定及びその変動量を推定するにあたり、気分変動量推定処理を実行する。図8A、図8Bは、気分変動量推定部67が実行する気分変動量推定処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。
図8A,図8Bに示す気分変動量推定処理ルーチンが起動すると、気分変動量推定部67は、まず、図8AのS301にて、気分状態判定部62によって対象者の現在の気分状態が非安静状態であると判断されているか否かを判断する。対象者の現在の気分状態が安静状態であると判断されている場合(S301:No)、気分変動量推定部67はこのルーチンを終了する。
一方、対象者の気分状態が非安静状態であると判断されている場合(S301:Yes)、気分変動量推定部67は、S302に処理を進めて、現在値取得部61が取得した対象者の生体情報現在値βnowを読み出す。
次いで、気分変動量推定部67は、対象者の安静時における生体情報βの統計値βstを、統計解析部64から読み出す。ここで、統計値βstは、対象者の安静時における生体情報βの平均値又は分散である。
続いて、気分変動量推定部67は、X成分が、対象者が安静状態であるときにおける生体情報βの統計値βstであり、Y成分が生体情報現在値βnowである座標点A(βst、βnow)を、設定する(S304)。ここで、生体情報現在値βnowが対象者の生体信号(例えば心拍数)の現在値である場合、統計値βstは、対象者の安静時における生体信号(例えば心拍数)の平均値である。一方、生体情報現在値βnowが対象者の生体信号(例えばRRI)の分散(例えばRRI分散)の現在値である場合、統計値βstは、対象者の安静時における生体信号の分散である。ここで、上述したように、統計解析部64が演算する安静時生体情報の分散は、現在値取得部61が取得する安静時における生体信号の分散の現在値の平均値と言える。つまり、Y成分が分散の現在値である場合でも、座標点AのX成分は、対象者の安静時における生体情報の平均値(生体情報が分散である場合は分散の平均値)である。言い換えれば、座標点Aは、X成分が対象者の安静時における生体情報の平均値であり、Y成分が対象者の生体情報現在値である。
次に、気分変動量推定部67は、安静時における生体情報βの統計値と非安静時における生体情報βの統計値との相関式F(X)を、相関関係導出部65から読み出す(S305)。ここで、生体情報現在値βnowが対象者の生体信号の現在値である場合、読み出される相関式は、安静時における生体情報βの平均値と非安静時における生体情報βの平均値との相関関係を表す相関式である。一方、生体情報現在値βnowが対象者の生体信号の分散(例えばRRI分散)の現在値である場合、読み出される相関式は、安静時における生体情報βの分散と非安静時における生体情報βの分散との相関関係を表す相関式である。相関式F(X)は、以下の(5)式のように一次関数として表されるものとする。
ここで、Xは、安静時における生体情報の統計値(平均又は分散)であり、F(X)は非安静時における生体情報βの統計値(平均又は分散)である。
続いて、気分変動量推定部67は、生体情報現在値βnowが、F(βst)よりも大きいか否かを判断する(S306)。生体情報現在値βnowがF(βst)よりも大きい場合(S306:Yes)、気分変動量推定部67は、S308に処理を進めて、相関式F(X)により表される相関線から生体情報現在値βnowが乖離している方向(生体情報現在値βnowの乖離方向)をプラスに設定する。一方、生体情報現在値βnowがF(βst)以下である場合(S306:No)、気分変動量推定部67は、S307に処理を進めて、生体情報現在値βnowがF(βst)よりも小さいか否かを判断する。生体情報現在値βnowがF(βst)よりも小さい場合(S307:Yes)、気分変動量推定部67は、S309に処理を進めて、生体情報現在値βnowの乖離方向をマイナスに設定する。
図9は、X軸(横軸)が安静時における生体情報βでありY軸(縦軸)が非安静時における生体情報βであるX−Y平面上に、安静時における生体情報βの統計値と非安静時における生体情報βの統計値との関係を表す相関式F(X)により表される相関線と、座標点Aとが示されたグラフの一例である。図9に示すように、座標点Aが相関式F(X)を表す直線よりも上方に位置している場合、生体情報現在値βnowがF(βst)よりも大きい。従って、この場合、生体情報現在値βnowの乖離方向がプラスに設定される。一方、座標点Aが相関式F(X)を表す直線よりも下側に位置している場合、生体情報現在値βnowがF(βst)よりも小さい。従って、この場合、生体情報現在値βnowの乖離方向がマイナスに設定される。このように、座標点Aが相関式F(X)を表す相関線よりも上側に位置するか下側に位置するかによって、乖離方向がプラスであるかマイナスであるかが決定される。
なお、図8のS307の判定結果がNoである場合、生体情報現在値βnowがF(βst)に等しい。この場合、気分変動量推定部67は、このルーチンを終了する。
S308またはS309にて、生体情報現在値βnowの乖離方向をプラス或いはマイナスに設定した後に、気分変動量推定部67は、図8BのS310に処理を進める。S310では、気分変動量推定部67は、行動状態推定部66が推定(設定)した対象者の現在時点における行動状態を読み出す。次いで、気分変動量推定部67は、対象者の生体情報現在値βnow及び対象者の現在時点における行動状態に基づいて、対象者の気分のうち変動している気分を推定(特定)する(S311)。
気分の変動は、上記(4)式からわかるように、特定の生体情報に影響する。また、気分の種類によって、気分の変動時における生体情報の変化の方向が異なる。例えば、「焦燥感」という気分と、「集中」という気分について言えば、一般的には、「焦燥感」が大きい場合には心拍数が増加するが、「集中」が大きい(集中力が高い)場合には心拍数が低下する。従って、対象者の現在時点における心拍数(心拍数現在値)βnowが、対象者の非安静時における心拍数の平均値(F(βst))よりも大きい場合(つまり心拍数現在値βnowの乖離方向がプラスである場合)、「焦燥感」という気分が変動している確率が高い。一方、対象者の心拍数現在値βnowが、対象者の非安静時における心拍数の平均値(F(βst))未満である場合(つまり心拍数現在値βnowの乖離方向がマイナスである場合)、「集中」という気分が変動している(すなわち集中している)確率が高い。
また、複数種類の気分について、それらの気分の変動時に、ある生体情報現在値βnowの乖離方向が同じである場合も存在する。この場合、対象者の生体情報現在値βnowの乖離方向がプラス方向(又はマイナス方向)であっても、それが、どの気分の変動を表しているのか区別できない可能性がある。このような場合に、対象者の現在の行動状態を用いて、どのような気分が変動しているのかが推定される。例えば、生体情報現在値βnowの乖離方向から、「焦燥感」又は「好き嫌い」という気分が変動していると判断される場合において、対象者の現在の行動状態が、「臥位状態」或いは「座位状態」であれば、例えば対象者が座った状態で不快な映像を視聴していることにより、視聴しているコンテンツに対して嫌悪感を抱いているというようなことが想定され得る。この場合、「好き嫌い」という気分が変動していると推定される。これに対し、対象者の現在の行動状態が、「歩行状態」或いは「走行状態」であれば、例えば対象者が焦っていてじっとしていられないということが想定され得る。この場合、「焦燥感」という気分が変動していると推定される。このように、気分変動量推定部67は、S311にて、対象者の生体情報現在値βnowの乖離方向及び対象者の現在の行動状態に基づいて、変動している気分を推定(特定)する。
次に、気分変動量推定部67は、S312に処理を進める。そして、S312以降の処理を実行することにより、変動している気分の変動量を推定する。この場合、気分変動量推定部67は、S312にて、図9に示すような、X軸が安静時における生体情報βでありY軸が非安静時における生体情報βであるX−Y平面上において、相関式F(X)により表される相関線と座標点Aとの距離を、乖離距離Lとして算出する。乖離距離Lは、相関式F(X)により表される相関線と座標点Aとの位置関係から算出することができる。
乖離距離Lは、相関式F(X)により表される相関線からの、対象者の生体情報現在値βnowの乖離量を表す。この乖離距離Lが大きいほど、対象者の生体情報現在値βnowは通常の気分の変動よりも大きく変動していると言え、それ故に、対象者の気分の変動量は大きいと言える。また、この乖離距離Lが小さい場合、対象者の生体情報現在値βnowは通常の気分の変動と同程度に変動していると言え、それ故に、対象者の気分の変動量は小さいと言える。つまり、乖離距離Lは、変動している気分の変動量を表す。従って、乖離距離Lに基づいて、気分の変動量を推定することができる。
なお、発明者の研究では、生体情報のうち、RRI分散についての乖離距離Lが、変動している気分の変動量をより精度良く表すことが実験により確かめられた。従って、乖離距離Lは、X軸が安静状態であるときにおけるRRI分散でありY軸が非安静状態であるときにおけるRRI分散であるX−Y平面上において、X成分が安静状態であるときにおける対象者のRRI分散でありY成分が現在時点における対象者のRRI分散である座標点Aと、安静状態であるときにおけるRRI分散と非安静状態であるときにおけるRRI分散との相関式により表される相関線との距離であるとよい。つまり、気分変動量推定部67が変動している気分の変動量を推定する場合に用いる生体情報は、RRI分散であるのがよい。
気分変動量推定部67は、S312にて乖離距離Lを算出した後に、S313に処理を進めて、乖離距離Lに基づいて気分変動量Eを算出する。この場合、乖離距離Lが大きいほど気分変動量Eが大きくなるように、気分変動量Eが算出される。気分変動量Eは、距離Lに比例する値として算出されていてもよい。或は、気分変動量Eは、最も気分の変動が大きいと考えられる場合に得られる距離Lmaxに対する、S312で算出された距離Lの比率の百分率として算出されていてもよい。この場合、距離Lmaxは、全ての対象者に対して得られる最大距離であってもよいし、或は、その対象者個人に対して得られる最大距離であってもよい。S313にて気分変動量Eを算出した後に、気分変動量推定部67はこのルーチンを終了する。
気分変動量推定部67が上記した気分推定処理を実行することにより、対象者についての変動している気分を特定し且つ特定した気分の変動量(気分変動量E)を推定することができる。なお、変動している気分は、気分状態判定部62がS103にて演算する各気分についての発生確率p及び、対象者の現在の行動状態に基づいても、推定することができる。
ストレス推定部68は、ストレス推定処理を実行することにより、対象者のストレスの強弱及び心理的負荷の大小を推定する。図10A及び図10Bは、ストレス推定部68が実行するストレス推定処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。このルーチンが起動すると、ストレス推定部68は、まず、図10AのS401にて、安静時における対象者のRRIの平均値及び分散を、統計解析部64から読み出す。次いで、ストレス推定部68は、S401にて読み出した平均値及び分散により表される正規分布関数に対して乱数列を用いた演算を実行して、安静時におけるRRIの正規分布ダミーデータを作成する(S402)。
続いて、ストレス推定部68は、安静時におけるRRIの平均値と非安静時におけるRRIの平均値との相関式を、相関関係導出部65から読み出し(S403)、読み出した相関式に安静時における対象者のRRIの平均値を代入することにより、非安静時における対象者のRRIの平均値を算出する(S404)。次に、ストレス推定部68は、安静時におけるRRIの分散と非安静時におけるRRIの分散との相関式を相関関係導出部65から読み出し(S405)、読み出した相関式に安静時における対象者のRRIの分散を代入することにより、非安静時における対象者のRRIの分散を算出する(S406)。続いて、ストレス推定部68は、S404にて算出した非安静時における対象者のRRIの平均値及びS406にて算出した非安静時における対象者のRRIの分散により表される正規分布関数に対して乱数列を用いた演算を実行して、非安静時におけるRRIの正規分布ダミーデータを作成する(S407)。以上の処理により、安静時におけるRRIのダミーデータ及び非安静時におけるRRIのダミーデータが作成される。
次に、ストレス推定部68は、安静時におけるRRIのダミーデータを用いて、安静時におけるRRIのローレンツプロット(安静時ローレンツプロット)を作成する(S408)。ローレンツプロットは、X成分が乱数列のn番目に求められたRRIデータ(RRI(n))でありY成分が乱数列の(n+1)番目に求められたRRIデータ(RRI(n+1))である座標点(RRI(n),RRI(n+1))を、X−Y平面上にプロットすることにより作成される。
図11に、ローレンツプロットの一例を示す。図11に示すように、ローレンツプロットを構成する点群により表される図形は、一般的に、Y=Xの直線を中心として広がりを持つ形状である。ローレンツプロットを構成する点群により表される形状の面積は、LP面積と呼ばれる。また、ローレンツプロットを構成する各点をY=X軸とY=−X軸に投影後、Y=X軸において、原点(0,0)からの距離の平均値は、M値と呼ばれる。LP面積は、外部の刺激に対する人の反応に応じて変化する。例えば、LP面積が大きい人は、変化や刺激に対して感受性が高く、それによる気分の変動を自分で抑制し難いタイプに分類される。また、LP面積が小さい人は、変化や刺激に対して自分で気分の変動を抑えることができるタイプに分類される。従って、LP面積に基づいて、人のタイプ分けを実施することができる。
ストレス推定部68は、上記のようにして安静時ローレンツプロットを作成した後に、安静時ローレンツプロットのLP面積(LP1)及びM値(M1)を算出する(S409)。なお、LP面積は、ローレンツプロットを表す画像から得ることもできるし、また、ローレンツプロットの形状が略楕円であるような場合には、楕円の面積の公式(長径×短径×円周率/4)から求めることもできる。M値は、ローレンツプロットの形状が略楕円であるような場合にはその楕円の中心座標の原点からの距離として求めることもできるし、或いは、ローレンツプロットを構成する各点をY=X軸とY=−X軸に投影後、Y=X軸において、原点(0,0)からの距離の平均値により求めることもできる。
次いで、ストレス推定部68は、非安静時におけるRRIの正規分布ダミーデータを用いて、非安静時におけるローレンツプロット(非安静時ローレンツプロット)を作成し(S410)、非安静時ローレンツプロットについてのLP面積(LP2)及びM値(M2)を算出する(S411)。
次に、ストレス推定部68は、安静時ローレンツプロットのM値(M1)が、非安静時ローレンツプロットのM値(M2)よりも小さいか否かを判断する(S412)。M1がM2未満である場合(S412:Yes)、ストレス推定部68は、気分変動時における対象者の心理的なストレスが小さいと判断する。この場合、ストレス推定部68は、ストレス量Sを、「小」に設定する(S413)。一方、M1がM2以上である場合(S412:No)、ストレス推定部68は、気分変動時における対象者の心理的なストレスが大きいと判断する。この場合、ストレス推定部68は、ストレス量Sを「大」に設定する(S414)。このように、安静時と非安静時におけるローレンツプロットのM値の大きさの比較によって、心理的なストレスの大小が判断される。
S413又はS414にてストレス量Sを設定した後に、ストレス推定部68は、S415に処理を進める。S415では、ストレス推定部68は、安静時ローレンツプロットのLP面積(LP1)が、非安静時ローレンツプロットのLP面積(LP2)未満であるか否かを判断する(S415)。LP1がLP2未満である場合(S415:Yes)、ストレス推定部68は、気分変動時における対象者のストレスの変動が大きく、心理的な負担が大きいと判断する。この場合、ストレス推定部68は、心理的負担Vを「大」に設定する(S416)。その後、ストレス推定部68はこのルーチンを終了する。一方、LP1がLP2以上である場合(S415:No)、ストレス推定部68は、気分変動時における対象者のストレスの変動が小さく、心理的な負担が小さいと判断する。この場合、ストレス推定部68は、心理的負担Vを「小」に設定する(S417)。その後、ストレス推定部68はこのルーチンを終了する。
このように、ストレス推定部68は、ストレス推定処理を実行して、安静時におけるRRIのローレンツプロットのLP面積及びM値と、非安静時におけるRRIのローレンツプロットのLP面積及びM値とを比較する。そして、その比較の結果に応じて、対象者の気分が変動した場合におけるストレスの強弱及び心理的負担の大小を推定する。
統合処理部69は、上記した各機能が各処理を実行した結果に基づいて、各結果の関連付けを行う。この場合、統合処理部69は、統合処理を実行する。
図12は、統合処理部69が実行する統合処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。このルーチンが起動すると、統合処理部69は、まず、図12のS501にて、行動状態推定部66が推定した対象者の現在時点における行動状態を取得する。次いで、統合処理部69は、気分変動量推定部67が特定した変動している気分、及び、変動している気分の変動量(気分変動量)Eを取得する(S502)。続いて、統合処理部69は、ストレス推定部68が推定したストレス量S及び心理的負担Vを取得する(S503)。
その後、統合処理部69は、S504にて、関連付け処理を実施する。この関連付け処理では、統合処理部69は、S501にて取得した行動状態、S502にて取得した気分及び気分変動量E、S503にて取得したストレス量S及び心理的負担V、に基づいて、対象者がどのような行動状態であり、且つ、そのときにおける対象者の気分、及び、対象者が感じているストレス、心理的負担についての関連付けを行う。
例えば、対象者が、座っている状態で不快な映像を視聴している場面を想定する。この場合、対象者の行動状態は座位状態である。また、このとき、「嫌悪感」という気分が変動し、その気分の変動量が大きく、さらに、ストレス量S及び心理的負担Vが「大」であると推定されたとする。この場合、対象者は、不快な映像の視聴により「嫌悪感」を強く感じ、且つ、それによりストレス及び心理的負担が大きいというように、対象者の気分の状態とストレスの強弱及び心理的負担の大小を、関連付けることができる。
また、対象者が、忘れ物をして自宅に走って戻っている状態を想定する。この場合、対象者の行動状態は走行状態である。また、このとき、「焦燥感」という気分が変動し、気分変動量Eが大きいが、ストレス量S及び心理的負担Vは「小」であると推定されたとする。この場合、対象者は、忘れ物をしたことにより「焦り」を強く感じているものの、ストレス及び心理的負担はさほど大きくないといった、対象者の気分の状態とストレス及び心理的負担の大小を、関連付けることができる。
統合処理部69は、S504にて、関連付け処理を実施した後に、その結果を出力する。出力された結果は、サーバ6から対象者の情報端末4に送信される。これにより、対象者の情報端末4に、その対象者の現在の行動状態、気分状態、ストレス、心理的負担が、関連付けて表示される。対象者は、こうして表示された情報に基づいて、自らの心理状態を把握することができる。なお、統合処理部69は、S504の処理によって対象者の心理的負担が大きいと判断する場合には、S505にて、注意を喚起するような情報(例えば、「心理的負担が増大しています」というような文字情報)、或いは、心理的負担を軽減するようなアドバイス情報(例えば、「気分転換したらどうですか」というような文字情報)を合わせて送信することができる。その後、統合処理部69は、このルーチンを終了する。
統合処理部69が上記した統合判断処理を実行することにより、対象者の現在時点における行動状態、変動している気分及びその気分についての気分変動量、ストレス及び心理的負担が、関連付けられる。そして、関連付けられたこれらの情報から、対象者がどのような行動状態であるときにどの程度の気分の変動が発生しているか、及び、その時点において対象者が心理的に負担を感じているか、といったことを、推定することができる。
環境制御部70は、環境制御処理を実行することにより、統合処理部69が関連付けた結果(行動状態、気分状態、ストレスの強弱、心理的負担の大小の関連付け)に基づいて、対象者の周辺の環境を制御する。図13は、環境制御部70が実行する環境制御処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。図13に示すルーチンが起動すると、環境制御部70は、まず図13のS601にて、対象者について統合処理部69がS504にて判断した結果(行動状態、気分状態及びその気分の変動量(気分変動量E)、ストレス量S、心理的負担Vの関連付け)を入力する。次いで、環境制御部70は、S602にて、対象者の気分の変動量(気分変動量E)が閾値変動量Ethよりも大きいか否かを判断する。閾値変動量Ethは、対象者の気分変動量Eがそれよりも大きい場合に生理的になんらかの影響を及ぼす可能性がある値として予め定められる。
気分変動量Eが閾値変動量Eth以下である場合(S602:No)、環境制御部70はこのルーチンを終了する。一方、気分変動量Eが閾値変動量Ethよりも大きい場合(S602:Yes)、環境制御部70はS603に処理を進める。S603では、環境制御部70は、対象者の周囲環境を制御することができる環境制御機器7のうち、対象者の気分の変動量を小さくすることができるような環境制御機器を選択する。
例えば、対象者が「緊張」しているような気分状態である場合(「緊張」という気分の変動量が大きい場合)、心身を落ち着かせるような音楽や映像を視聴させることにより、緊張状態が緩和する。従って、この場合、環境制御部70は、S603にて、楽曲或は映像を再生することができる機器を選択する。
次に、環境制御部70は、対象者の心理的負担Vが「大」に設定されているか否かを判断する(S604)。心理的負担Vが「大」に設定されていない場合(S604:No)、環境制御部70は、このルーチンを終了する。一方、心理的負担Vが「大」に設定されている場合(S604:Yes)、環境制御部70はS605に処理を進めて、S603にて選択した環境制御機器を動作させるため指令信号を中継器5に送信する。中継器5は、環境制御部70(サーバ6)から指令信号を入力すると、環境制御部70がS603にて選択した環境制御機器が動作するように、環境制御機器に動作指令信号を出力する。これにより選択された環境制御機器が動作する。その後、環境制御部70はこのルーチンを終了する。
環境制御部70が上記した環境制御処理を実行した場合、対象者の気分が大きく変動していて、且つ、心理的負担が大きいときに、変動した気分の変動量を小さくして心理的負担を軽減するように環境制御機器が動作する。これにより、対象者の気分状態を安静状態にさせることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、統合処理部69が統合処理の結果を対象者の情報端末4に自動的に送信する例を示したが、対象者が情報端末4から送信要求をサーバ6に送信したときに、統合処理部69が統合処理の結果を情報端末4に送信するように構成してもよい。つまり、対象者の要求に応じて統合処理の結果が対象者に送信されるように構成されていてもよい。また、本発明に係る気分推定システムは、対象者の周囲の環境状況(温度、照度等)を検出する環境状況検出センサを備えていてもよい。この場合、環境制御部70は、環境制御処理にて、環境状況をも考慮して環境制御機器を選択することができる。また、本発明に係る気分推定システムは、ストレス推定部が作成する各対象者のローレンツプロットに基づいて、或いは各対象者のRRI分散に基づいて、安静時における生体情報と非安静時における生体情報との関連性に関する対象者のタイプ分けを実施してもよい。こうしてタイプ分けをして各対象者の安静時及び非安静時の生体情報の関連性の傾向を把握しておくことにより、より正確に、個々の対象者の気分の変動量を精度良く推定することができる。また、本発明に係る気分推定システムは、対象者の安静時における気分の変動状態と非安静時における気分の変動状態とを過去の履歴から学習する学習機能を備えていても良い。これによれば、学習機能を備えることにより、対象者の個々に対して精度よく、気分の変動量を推定することができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて変形可能である。
1…気分推定システム、2…生体信号検出センサ、3…体動検出センサ、4…情報端末、5…中継器、6…サーバ、61…現在値取得部(生体情報現在値取得部)、62…気分状態判定部、63…情報記憶部、64…統計解析部、65…相関関係導出部、66…行動状態推定部、67…気分変動量推定部、68…ストレス推定部、69…統合処理部、70…環境制御部、7…環境制御機器、E…気分変動量、L…乖離距離、S…ストレス量、V…心理的負担
Claims (8)
- 心拍情報を含む対象者の現在時点における生体情報であって、気分の変動に影響する生体情報の現在値である生体情報現在値を取得する生体情報現在値取得部と、
前記生体情報現在値取得部が取得した対象者の前記生体情報現在値に基づいて、対象者の気分状態が安静状態であるか非安静状態であるかを判定する気分状態判定部と、
前記気分状態判定部により対象者の気分状態が非安静状態であると判定されたときに、現在時点における対象者の気分の変動量を推定する気分変動量推定部と、
を備え、
前記気分変動量推定部は、X軸が安静状態であるときにおける生体情報でありY軸が非安静状態であるときにおける生体情報であるX−Y平面上において、X成分が安静状態であるときにおける対象者の生体情報の平均値でありY成分が前記生体情報現在値である座標点と、安静状態であるときにおける生体情報と非安静状態であるときにおける生体情報との相関関係を表す相関線との距離である乖離距離に基づいて、現在時点における対象者の気分の変動量を推定する、
を備える、気分推定システム。 - 請求項1に記載の気分推定システムにおいて、
前記気分変動量推定部は、現在時点における対象者の気分のうち変動している気分の変動量を推定する、気分推定システム。 - 請求項1又は2に記載の気分推定システムにおいて、
前記気分変動量推定部は、前記乖離距離が大きいほど、現在時点における対象者の気分の変動量が大きいと推定する。気分推定システム。 - 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の気分推定システムにおいて、
対象者の現在の行動状態を推定する行動状態推定部を備え、
前記気分変動量推定部は、前記X−Y平面上に表される前記相関線からの前記座標点の乖離方向及び、前記行動状態推定部が推定した対象者の現在の行動状態に基づいて、現在時点における対象者の気分のうち変動している気分を特定する、気分推定システム。 - 請求項4に記載の気分推定システムにおいて、
対象者のストレスの強弱及び心理的負担の大小を推定するストレス推定部をさらに備える、気分推定システム。 - 請求項5に記載の気分推定システムにおいて、
前記ストレス推定部は、安静状態であるときにおける対象者のRRIデータに基づいて求められるローレンツプロットである安静時ローレンツプロットのLP面積及び非安静状態であるときにおける対象者のRRIデータに基づいて求められるローレンツプロットである非安静時ローレンツプロットのLP面積に基づいて、対象者のストレスの強弱を推定し、前記安静時ローレンツプロットのM値及び前記非安静時ローレンツプロットのM値に基づいて、対象者の心理的負担の大小を推定する、気分推定システム。 - 請求項5又は6に記載の気分推定システムにおいて、
前記気分変動量推定部が推定した現在時点において変動している気分及びその変動量、前記ストレス推定部が推定した対象者のストレスの強弱及び心理的負担、前記体動状態推定部が推定した対象者の現在時点における行動状態に基づいて、対象者の行動状態、変動している気分及びその変動量、ストレスの強弱及び心理的負担の関連付けを行う統合判断部を備える、心理的刺激推定システム。 - 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の気分推定システムにおいて、
前記気分変動量推定部が現在時点における対象者の気分の変動量を推定する場合に用いる前記生体情報が、RRI分散である、気分推定システム。
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