JP2018202074A - 医療用生体吸収性部材とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 被膜も基材も生体内で溶解・吸収されて完全に消失する新規な医療用生体吸収性部材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 生体内での溶解時期を調整する耐食性被膜にてマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が覆われてなる医療用生体吸収性部材であって、前記耐食性被膜がWH/Mg−TCPリン酸カルシウム被膜を主成分とする生体吸収性の被膜であることを特徴とする医療用生体吸収性部材。
【選択図】 図3
【解決手段】 生体内での溶解時期を調整する耐食性被膜にてマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が覆われてなる医療用生体吸収性部材であって、前記耐食性被膜がWH/Mg−TCPリン酸カルシウム被膜を主成分とする生体吸収性の被膜であることを特徴とする医療用生体吸収性部材。
【選択図】 図3
Description
本発明は、生体内での溶解時期を調整する耐食性被膜にてマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が覆われてなる医療用生体吸収性部材に関し、より詳しくは、各種ステント、ミニプレート、スキャホールドなどの医療用生体吸収性デバイスに関する。
マグネシウム材は、体液のような塩化物イオンを含む溶液中で腐食し、消失すること、およびマグネシウムの生体為害性が低いこと、およびポリ乳酸のような生分解性高分子よりも強度が高いことから、医療用生体吸収性金属材料としての応用が検討されている。生体吸収性材料は、患部が治癒するまでの期間は周囲組織に加わる荷重を支えるために強度を保持し、患部が治癒した後には溶解、吸収されて消失する材料である。したがって、生体吸収性部材においては、埋入後の任意の期間にわたって必要な強度を保持するために、必要な期間にわたって腐食が抑制されていることが求められる。
生体吸収性デバイスに要求される強度保持期間は、デバイスの種類や患部の状態に応じて、長短の非常に広い範囲にわたる。例えば骨折固定材の場合、骨折が治癒するまでの3ヶ月から1年の期間はデバイスが荷重を支持し、その後デバイス全体の分解が8ヶ月から5年の期間でほぼ終了することが望まれる。しかし、生体内で3ヶ月以上腐食が抑制されうるマグネシウム材は開発されていない。また、所望の腐食抑制期間と強度を兼ね備えたマグネシウム材の開発を、合金組成や合金組織制御により達成するのは非常に困難である。そこで、必要な機械的特性を有するマグネシウム材表面に耐食性被膜を形成することで、生体内で腐食が抑制されている期間を長くすることが求められている。また、長期間にわたって埋入する場合、耐食性被膜には高い生体適合性も求められる。
アパタイト結晶は生体内環境のような中性塩類溶液中での熱力学的安定性が比較的高いリン酸カルシウムであることから、表面被膜中に存在させることによって基材の耐食性を向上できると考えられる。また、アパタイト結晶は骨の成分であることから、基材の生体適合性を向上できると考えられる。
しかし、マグネシウムはアパタイトの結晶化を阻害する元素であるために、マグネシウム材表面に水溶液中で直接アパタイトを析出させるのは困難と考えられてきた。本発明者らは、このような従来の課題を解決して、マグネシウム材表面にアパタイト結晶を主成分とする被膜を直接に析出させた材料、およびアパタイト結晶を主成分とする被膜を作製する水溶液および作製方法を提案している(特許文献1参照)。
しかし、マグネシウムはアパタイトの結晶化を阻害する元素であるために、マグネシウム材表面に水溶液中で直接アパタイトを析出させるのは困難と考えられてきた。本発明者らは、このような従来の課題を解決して、マグネシウム材表面にアパタイト結晶を主成分とする被膜を直接に析出させた材料、およびアパタイト結晶を主成分とする被膜を作製する水溶液および作製方法を提案している(特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1に開示された被膜は水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2、HAp)を主成分とする被膜である。水酸アパタイトは骨の成分であり生体適合性は高いが、生体内環境でも化学的に安定なため、比較的長期間生体内に残ることが報告されている(非特許文献2参照)。
即ち、特許文献1に開示された製造方法で製造された水酸アパタイト被覆マグネシウム合金をマウス皮下に16週埋入したところ、アパタイト被膜はほとんど溶解することなく残存していた。他方で、残存被膜が砕けて粒子状になると、免疫系細胞を誘導して炎症を起こす可能性がある。そこで、医療用生体吸収性部材として安全・安心な生体適合性を確保するためには、被膜も溶解・消失することが必要とされている。
即ち、特許文献1に開示された製造方法で製造された水酸アパタイト被覆マグネシウム合金をマウス皮下に16週埋入したところ、アパタイト被膜はほとんど溶解することなく残存していた。他方で、残存被膜が砕けて粒子状になると、免疫系細胞を誘導して炎症を起こす可能性がある。そこで、医療用生体吸収性部材として安全・安心な生体適合性を確保するためには、被膜も溶解・消失することが必要とされている。
非特許文献1では、純Mg表面にβ−TCP被膜を作製し、生体適合性を評価した技術が開示されている。前処理として純Mgを過飽和Na2HPO4水溶液中、室温(25℃)で3h浸漬後、400℃で10h熱処理した。β−TCP被覆処理溶液組成は、Na2HPO4・12H2O(23.75g/L)−Ca(NO3)2(18.2g/L)。70℃で48h熱処理したものである。
しかし、非特許文献1は、Mgを含まない化学量論組成に近いβ−TCPを作製したものである。そこで、非特許文献1の方法は前処理が必要で製造工程が複雑になるという課題があった。
しかし、非特許文献1は、Mgを含まない化学量論組成に近いβ−TCPを作製したものである。そこで、非特許文献1の方法は前処理が必要で製造工程が複雑になるという課題があった。
The preparation, cytocompatibility, and in vitro biodegradation study of pure β−TCP on magnesium, J. Mater. Sci. Mater. Med., 20, 1149-1157 (2009).
『異なる気孔率を有する炭酸含有アパタイト多孔体の生体吸収性と骨形成評価』 東京医科歯科大学生体材料工学研究所 ライフイノベーションマテリアル創製共同研究プロジェクトhttp://www.tmd.ac.jp/i-mde/www/kyoudou/labo/
本発明は上述した課題を解決するもので、被膜も基材も生体内で溶解・吸収されて完全に消失する新規な医療用生体吸収性部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の医療用生体吸収性部材は、生体内での溶解時期を調整する耐食性被膜にてマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が覆われてなる医療用生体吸収性部材であって、前記耐食性被膜がMg含有リン酸カルシウム被膜を主成分とする生体吸収性の被膜であることを特徴とする。
本発明の医療用生体吸収性部材において、好ましくは、前記Mg含有リン酸カルシウム被膜は、リン酸カルシウムとして、ウィットロカイト(Ca9(MgFe)(PO4)6PO3OH)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)、リン酸水素カルシウム(CaHPO4)、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O)、リン酸八カルシウム(Ca8(PO4)4(HPO4)2(OH)2)からなる群から選ばれる少なくとも一種で表されるとよい。
ここで、ウィットロカイト(Ca9(MgFe)(PO4)6PO3OH)には、鉱物として採取されるウィットロカイトのようにMgとFeの両方が含まれるものと、本発明の実施例で作製したWH/Mg−TCPのようにMgのみを含み、Feを含まないものとがある。
本発明の医療用生体吸収性部材において、好ましくは、前記耐食性被膜と基材とが水酸化マグネシウム層を介して一体化されてなるとよい。
ここで、ウィットロカイト(Ca9(MgFe)(PO4)6PO3OH)には、鉱物として採取されるウィットロカイトのようにMgとFeの両方が含まれるものと、本発明の実施例で作製したWH/Mg−TCPのようにMgのみを含み、Feを含まないものとがある。
本発明の医療用生体吸収性部材において、好ましくは、前記耐食性被膜と基材とが水酸化マグネシウム層を介して一体化されてなるとよい。
本発明の医療用生体吸収性部材の製造方法であって、所定の形状に成型したマグネシウム又はマグネシウム合金基材を、リン酸イオンおよび非塩化系カルシウムイオンが過飽和状態で溶解している処理水溶液中に浸漬して、前記基材の表面にMg含有リン酸カルシウム被膜を主成分とする生体吸収性被膜を析出させるとよい。
本発明の医療用生体吸収性部材の製造方法において、好ましくは、前記処理水溶液のカルシウムイオンはカルシウムキレート化合物の溶解により得られたものであるとよい。
本発明の医療用生体吸収性部材の製造方法において、好ましくは、前記処理水溶液にMg2+イオンを添加するマグネシウム含有化合物を含ませるとよい。
本発明の医療用生体吸収性部材の製造方法において、好ましくは、前記処理水溶液にMg2+イオンを添加するマグネシウム含有化合物を含ませるとよい。
本発明の医療用生体吸収性部材の製造方法において、好ましくは、前記処理水溶液にはMg2+イオンを添加するために、Mg(OH)2、Mg(NO3)2、Mg3(PO4)2、MgCO3、Mg(CH3COO)2、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、グルコン酸Mg、Mg−EDTA、純Mg又はマグネシウム合金からなる群から選ばれる少なくとも一種で表されるマグネシウム含有化合物を有するとよい。
本発明の医療用生体吸収性部材の製造方法において、好ましくは、前記処理水溶液の温度は60℃以上、100℃以下であるとよい。
本発明によれば、本発明の被膜は、生体内で化学的に溶解/破骨細胞が吸収して骨と置き換わることが知られているウィットロカイト(WH)/Mg置換β−TCP(Mg−TCP)被膜、およびWH/Mg−TCPとDCPAの混合被膜である。これらを被覆したMg合金は、生体内で被膜と基材の両方が容易に溶解、消失することが期待できる。
本発明のWH/Mg−TCPおよびDCPAは、水酸アパタイトよりも化学的溶解性が高く、動物実験や臨床試験で水酸アパタイトよりも早期に生体骨と置換することが報告されている。したがって、WH/Mg−TCP被覆Mg合金は被膜も基材も生体内で溶解・吸収されて完全に消失する材料になる。
本発明のWH/Mg−TCPおよびDCPAは、水酸アパタイトよりも化学的溶解性が高く、動物実験や臨床試験で水酸アパタイトよりも早期に生体骨と置換することが報告されている。したがって、WH/Mg−TCP被覆Mg合金は被膜も基材も生体内で溶解・吸収されて完全に消失する材料になる。
用語の説明
ウィットロカイト(英語:Whitlockite、略称:WH)は鉱物であり、リン酸カルシウムの珍しい形である。組成式がCa9(MgFe)(PO4)6PO3OHで示される。これは比較的まれな鉱物であるが、花崗岩質ペグマタイト、リン鉱石の鉱床、グアノの洞窟とコンドライト隕石に含まれている。
リン酸三カルシウム(英語:Tricalcium phosphate、略称:TCP)は、化学式:Ca3(PO4)2で表されるリン酸とカルシウムの塩である。リン灰石として天然に産出し、また土壌中に広く分布して含まれ、植物の生長に必須の成分で、骨を燃焼させた際に得られる物質でもある。リン酸三カルシウムは三種の多形体を持ち、単斜晶のα−と六方晶系のα'−リン酸三カルシウム(α−TCP、α'−TCP)は、リン酸三カルシウムの高温多形体であり、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)は低温多形体である。β−リン酸三カルシウムの結晶学的密度は3.066gcm-3である。
ウィットロカイト(英語:Whitlockite、略称:WH)は鉱物であり、リン酸カルシウムの珍しい形である。組成式がCa9(MgFe)(PO4)6PO3OHで示される。これは比較的まれな鉱物であるが、花崗岩質ペグマタイト、リン鉱石の鉱床、グアノの洞窟とコンドライト隕石に含まれている。
リン酸三カルシウム(英語:Tricalcium phosphate、略称:TCP)は、化学式:Ca3(PO4)2で表されるリン酸とカルシウムの塩である。リン灰石として天然に産出し、また土壌中に広く分布して含まれ、植物の生長に必須の成分で、骨を燃焼させた際に得られる物質でもある。リン酸三カルシウムは三種の多形体を持ち、単斜晶のα−と六方晶系のα'−リン酸三カルシウム(α−TCP、α'−TCP)は、リン酸三カルシウムの高温多形体であり、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)は低温多形体である。β−リン酸三カルシウムの結晶学的密度は3.066gcm-3である。
リン酸水素カルシウムは、化学式(CaHPO4)で表されるもので、略称はDCPAである。
リン酸水素カルシウム二水和物は、化学式(CaHPO4・2H2O)で表されるもので、略称はDCPDである。
リン酸八カルシウムは、化学式(Ca8(PO4)4(HPO4)2(OH)2)で表されるもので、略称はOCPである。
リン酸水素カルシウム二水和物は、化学式(CaHPO4・2H2O)で表されるもので、略称はDCPDである。
リン酸八カルシウムは、化学式(Ca8(PO4)4(HPO4)2(OH)2)で表されるもので、略称はOCPである。
化学量論組成のβ−TCPは高温で安定な結晶相であり、通常は焼成で作製される。本発明での被覆条件のような100℃以下の水溶液処理では、化学量論組成のβ−TCPは生成しない。ここで、結晶構造中にMgなどのカチオンが取り込まれると、100℃以下でもβ−TCP構造が安定化し、Mg−TCPもしくはWHとなる。WHとβ−TCPは結晶構造および組成が非常に類似しているため、容易に区別できない。
他方で、化学量論組成のβ−TCP(Mgを含まない)はすでに生体吸収性の人工骨の成分として上市されているため、WH/Mg−TCP被膜は医療機器としての認可に有利な成分である。WHとMg−TCPは結晶構造と組成が類似しているため、XRD測定や成分分析で分離するのは非常に困難であるが、両者の化学的性質は類似しているため、生体材料として明確に分類する必要はない。
他方で、化学量論組成のβ−TCP(Mgを含まない)はすでに生体吸収性の人工骨の成分として上市されているため、WH/Mg−TCP被膜は医療機器としての認可に有利な成分である。WHとMg−TCPは結晶構造と組成が類似しているため、XRD測定や成分分析で分離するのは非常に困難であるが、両者の化学的性質は類似しているため、生体材料として明確に分類する必要はない。
WH/β−TCP構造は比較的酸性側で安定であるため、処理溶液のpHは2.7〜4.0とした。基材マグネシウム合金は酸性水溶液中で容易に腐食溶解すること、Mg(OH)2添加なしでもWH/β−TCP構造が得られたこと、断面観察で基材マグネシウム合金の腐食溶解が起こったことを示すMg(OH)2を主成分とする境界層が観察されたこと、本実施例での処理温度では熱力学的に化学量論組成のβ−TCPはできないことから、本発明の被膜構造中に基材から溶出したMgが取り込まれているといえる。本発明は、マグネシウム合金へのWH/Mg−TCP被覆で、Mg源を処理溶液中に添加しなくても良い点が利点として考えられる。
実施例1:処理溶液へのMg(OH)2添加がウィットロカイト(WH)およびMg置換β−リン酸三カルシウム(Mg−TCP)被膜形成に及ぼす影響
表1に示すCa−EDTA−H3PO4(−Mg(OH)2)水溶液を90℃に加温後、#1200研磨紙で表面を仕上げたMg−4Y−3RE(WE43)合金ディスク(径16.8mm×厚2mm)を浸漬し、1時間の処理を行った。
図1および図2にMg(OH)2添加有りと無しの処理溶液で処理したサンプルの表面SEM像を示す。いずれの表面も多孔質の析出物で覆われており、被膜を形成していることがわかった。
図3にMg(OH)2添加有りと無しの処理溶液で処理したサンプルのXRDパターンを示す。Mg(OH)2の添加に関わらず、ウィットロカイト(WH)および/若しくはMg置換β−リン酸三カルシウム(Mg−TCP)構造が得られた。
SEM観察およびXRDの結果より、本処理溶液でWH/Mg−TCP被膜を形成できることがわかった。
表1に示すCa−EDTA−H3PO4(−Mg(OH)2)水溶液を90℃に加温後、#1200研磨紙で表面を仕上げたMg−4Y−3RE(WE43)合金ディスク(径16.8mm×厚2mm)を浸漬し、1時間の処理を行った。
図1および図2にMg(OH)2添加有りと無しの処理溶液で処理したサンプルの表面SEM像を示す。いずれの表面も多孔質の析出物で覆われており、被膜を形成していることがわかった。
図3にMg(OH)2添加有りと無しの処理溶液で処理したサンプルのXRDパターンを示す。Mg(OH)2の添加に関わらず、ウィットロカイト(WH)および/若しくはMg置換β−リン酸三カルシウム(Mg−TCP)構造が得られた。
SEM観察およびXRDの結果より、本処理溶液でWH/Mg−TCP被膜を形成できることがわかった。
実施例1において、100℃以下でβ−TCP構造安定性を向上させるMg2+イオンを処理溶液に添加するためにMg(OH)2を用いたが、今回の添加量ではWH/Mg−TCP構造の形成に影響はみられなかった。Mg(OH)2の水への溶解度は1.2mg/100cm3と非常に低いため、さらに高濃度のMg(OH)2を処理溶液に溶解するのは困難である。他にMgCO3、MgSO4、MgSO3、MgClO4、Mg(NO3)2、Mg3(PO4)2、MgCl2、MgF2などが処理溶液に添加するMg源として考えられるが、MgCO3は水への溶解度が0.0012mol/L(25℃)と低く、MgF2は水にほとんど溶けない。MgSO4やMgCl2とともに添加されるSO4イオンおよびClイオンは基材マグネシウム合金を腐食させるため、マグネシウム合金の表面処理溶液に使用するには不向きである。Mg(CH3COO)2、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの有機塩もMg源として考えられる。また、グルコン酸Mg、Mg−EDTAなどの錯塩や、純Mgやマグネシウム合金もMg源として挙げられる。
実施例2:処理溶液濃度がウィットロカイト(WH)およびMg置換β−リン酸三カルシウム(Mg−TCP)被膜に及ぼす影響
表2に示す様々な濃度のCa−EDTA−H3PO4(−Mg(OH)2)水溶液を90℃に加温後、#1200研磨紙で表面を仕上げたMg−4Y−3RE(WE43)合金ディスク(径16.8mm×厚2mm)を浸漬し、1時間の処理を行った。表2の処理溶液は、濃度をWH02サンプルの処理溶液を基準に2倍に濃化もしくは、1/2、1/3、1/5および1/10倍に希釈したものである。
表2に示す様々な濃度のCa−EDTA−H3PO4(−Mg(OH)2)水溶液を90℃に加温後、#1200研磨紙で表面を仕上げたMg−4Y−3RE(WE43)合金ディスク(径16.8mm×厚2mm)を浸漬し、1時間の処理を行った。表2の処理溶液は、濃度をWH02サンプルの処理溶液を基準に2倍に濃化もしくは、1/2、1/3、1/5および1/10倍に希釈したものである。
図4および図5に、異なる濃度の処理溶液で処理したサンプルの表面SEM像を示す。1/2希釈溶液では多孔質の被膜が明瞭に観察された。1/10希釈溶液も被膜の形成が確認され、孔の密度が減少した。
図6および図7に、高濃度および低濃度の処理溶液で処理したサンプルのXRDパターンを示す。2倍濃度の処理溶液では、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)構造となった。1/2〜1/10希釈溶液で処理したサンプルでは、WH/Mg−TCP構造に由来するXRDピークが得られた。濃度の低下に伴いXRDピーク強度が減少した。
これの結果より、処理溶液の濃度でWH/Mg−TCP被膜の生成量を変化できることがわかった。
図6および図7に、高濃度および低濃度の処理溶液で処理したサンプルのXRDパターンを示す。2倍濃度の処理溶液では、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)構造となった。1/2〜1/10希釈溶液で処理したサンプルでは、WH/Mg−TCP構造に由来するXRDピークが得られた。濃度の低下に伴いXRDピーク強度が減少した。
これの結果より、処理溶液の濃度でWH/Mg−TCP被膜の生成量を変化できることがわかった。
実施例2において、処理溶液濃度を高くすると、WH/Mg−TCPの代わりにDCPAが形成された。処理溶液濃度を高くすると、処理溶液中のEDTAで基材マグネシウム合金が腐食されるため、合金表面でのMg2+イオン濃度が高くなりすぎてWH/β−TCP構造を保つことができず、DCPAになったと考えられる。これより、処理溶液濃度には適正な範囲があることが示唆された。
一方、処理溶液濃度を低くしてもWH/β−TCP構造の被膜が得られることがわかった。濃度の減少に伴いXRDピーク強度が減少することから、処理溶液濃度の制御で被膜の厚さを変えられることがわかった。被膜の厚さは耐食性や基材との密着性に影響を及ぼすことから、処理溶液濃度で厚さを変化させられる点は利点と考えられる。
一方、処理溶液濃度を低くしてもWH/β−TCP構造の被膜が得られることがわかった。濃度の減少に伴いXRDピーク強度が減少することから、処理溶液濃度の制御で被膜の厚さを変えられることがわかった。被膜の厚さは耐食性や基材との密着性に影響を及ぼすことから、処理溶液濃度で厚さを変化させられる点は利点と考えられる。
実施例3:処理時間がウィットロカイト(WH)およびMg置換β−リン酸三カルシウム(Mg−TCP)被膜に及ぼす影響
表3に示すように、WH02と同じ処理溶液を用い、処理時間を10分から40分の間で変化させ、WE43合金ディスクの表面処理を行った。図8および図9に示すように、処理時間10分でも表面全体が多孔質の析出物に覆われており被膜が形成されていた。処理時間40分で60分の場合よりも緻密な被膜を得ることができた。
表3に示すように、WH02と同じ処理溶液を用い、処理時間を10分から40分の間で変化させ、WE43合金ディスクの表面処理を行った。図8および図9に示すように、処理時間10分でも表面全体が多孔質の析出物に覆われており被膜が形成されていた。処理時間40分で60分の場合よりも緻密な被膜を得ることができた。
図10に示すXRDパターンより、10分と短い処理時間でもWH/Mg−TCP構造の被膜が得られることがわかった。処理時間の増加に伴いWH/Mg−TCPのピーク強度が増加した。
以上の結果より、処理時間により被膜の厚さを変化させられることがわかった。
以上の結果より、処理時間により被膜の厚さを変化させられることがわかった。
実施例3において、処理時間を変化させることで被膜の緻密さが変化した。被膜の緻密さは耐食性に影響を及ぼす一方、多孔質の被膜であることには次の利点が挙げられる。被膜を薬物の担体として考えた場合に、多孔質である方が薬物の担持がしやすく、孔の密度や大きさを制御することで薬物の放出速度を変化できる。また、ポリマーなどと複合化する場合、被膜の孔にポリマーが入ることでポリマー層とWH/Mg−TCP層の機械的咬合を強くする。
実施例4:温度がウィットロカイト(WH)およびMg置換β−リン酸三カルシウム(Mg−TCP)被膜に及ぼす影響
実施例1〜3にて、90℃で作製したWH/Mg−TCP被膜よりも緻密な被膜を作製するため、処理温度を80℃にして表面処理を行った。処理溶液の組成を表4に示す。
実施例1〜3にて、90℃で作製したWH/Mg−TCP被膜よりも緻密な被膜を作製するため、処理温度を80℃にして表面処理を行った。処理溶液の組成を表4に示す。
図11〜図13に80℃で処理時間2h、4hおよび6hで処理したサンプルの表面SEM像を示す。図14にXRDパターンを示す。
図11の80℃で2h処理したサンプルの表面形態は、図2に示す90℃で1h処理したサンプルの表面形態と同様であった。図14に示す2h処理サンプルのXRDパターンにおけるWH/Mg−TCPに帰属されるピークの強度は図3に示す90℃で1h処理サンプルにおけるWH/Mg−TCPピーク強度と同程度であった。これらの結果より、処理温度を下げることでWH/Mg−TCP被膜形成の反応速度を低減できることがわかった。
図11の80℃で2h処理したサンプルの表面形態は、図2に示す90℃で1h処理したサンプルの表面形態と同様であった。図14に示す2h処理サンプルのXRDパターンにおけるWH/Mg−TCPに帰属されるピークの強度は図3に示す90℃で1h処理サンプルにおけるWH/Mg−TCPピーク強度と同程度であった。これらの結果より、処理温度を下げることでWH/Mg−TCP被膜形成の反応速度を低減できることがわかった。
80℃での処理時間2hと4h以上では表面形態が変化しており、4h以上では2h処理まではほとんどみられなかった顆粒状の堆積物が増加していた。処理時間4hではWH/Mg−TCPのXRDピークに加えてDCPAピークが現れ、処理時間の増加に伴いDCPA由来のピーク強度が増加した。これより顆粒状の堆積物はDCPAと考えられる。これより、処理時間を長くすることで、WH/Mg−TCPとDCPAが混ざった被膜を形成できることがわかった。ここで、DCPAは生体活性骨ペーストとして使用されている。WH/Mg−TCPとDCPAの混合比で被膜の生体内での溶解速度を変化できることが期待される。
図15および図16に、それぞれ90℃―1h処理および80℃―6h処理で被覆したサンプルの断面SEM像を示す。90℃で作製したサンプルではWH/Mg−TCP被膜と基材Mg合金の境界に10umの厚い水酸化マグネシウム層が形成されており、WH/Mg−TCP被膜と水酸化マグネシウム層のいずれにもき裂がみられた。WH/Mg−TCP被膜のき裂は表面から中間層に貫通しているものもみられた。一方、80℃で作製したサンプルでは処理時間が6hと非常に長かったにもかかわらず水酸化マグネシウム層の厚さは90℃―1h処理の場合と同程度で、WH/Mg−TCP被膜の表面から基材側に貫通しているものはみられなかった。これらの結果より、処理温度を下げることでWH/Mg−TCP被膜の緻密さを改善できることが示唆された。
実施例4において、処理温度を変えることでも被膜の緻密さが変化できることがわかった。これまでの研究でCa−EDTAを用いたリン酸カルシウム系被膜の作製では、処理溶液を60℃以上にすることで被膜の形成が起こることがわかった。したがって、処理温度を60℃以上の温度範囲で制御することでも、被膜の緻密さを制御できる。
なお、上記の実施の形態においては、対象物としてWH/Mg−TCP被覆Mg合金を用いている医療用生体吸収性部材を行っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、Mg含有リン酸カルシウム被膜は、リン酸カルシウムとして、ウィットロカイト(Ca9(MgFe)(PO4)6PO3OH)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)、リン酸水素カルシウム(CaHPO4)、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O)、リン酸八カルシウム(Ca8(PO4)4(HPO4)2(OH)2)からなる群から選ばれる少なくとも一種で表されればよい。
本発明の医療用生体吸収性部材によれば、WH/Mg−TCP被覆Mg合金を用いているので、完全に生体内で溶解・吸収される骨固定材、人工骨が得られる。
Claims (8)
- 生体内での溶解時期を調整する耐食性被膜にてマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が覆われてなる医療用生体吸収性部材であって、前記耐食性被膜がMg含有リン酸カルシウム被膜を主成分とする生体吸収性の被膜であることを特徴とする医療用生体吸収性部材。
- 請求項1に記載の医療用生体吸収性部材において、前記Mg含有リン酸カルシウム被膜は、リン酸カルシウムとして、ウィットロカイト(Ca9(MgFe)(PO4)6PO3OH)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)、リン酸水素カルシウム(CaHPO4)、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O)、リン酸八カルシウム(Ca8(PO4)4(HPO4)2(OH)2)からなる群から選ばれる少なくとも一種で表されることを特徴とする医療用生体吸収性部材。
- 請求項1又は2に記載の医療用生体吸収性部材において、前記耐食性被膜と基材とが水酸化マグネシウム層を介して一体化されてなることを特徴とする医療用生体吸収性部材。
- 請求項1乃至3の何れか1項に記載の医療用生体吸収性部材の製造方法であって、所定の形状に成型したマグネシウム又はマグネシウム合金基材を、リン酸イオンおよび非塩化系カルシウムイオンが過飽和状態で溶解している処理水溶液中に浸漬して、前記基材の表面にMg含有リン酸カルシウム被膜を主成分とする生体吸収性被膜を析出させることを特徴とする医療用生体吸収性部材の製造方法。
- 請求項4に記載の医療用生体吸収性部材の製造方法において、前記処理水溶液のカルシウムイオンはカルシウムキレート化合物の溶解により得られたものであることを特徴とする医療用生体吸収性部材の製造方法。
- 請求項4に記載の医療用生体吸収性部材の製造方法において、前記処理水溶液にMg2+イオンを添加してマグネシウム含有化合物を含ませることを特徴とする医療用生体吸収性部材の製造方法。
- 請求項6に記載の医療用生体吸収性部材の製造方法において、前記処理水溶液にはMg2+イオンを添加するために、Mg(OH)2、Mg(NO3)2、Mg3(PO4)2、MgCO3、Mg(CH3COO)2、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、グルコン酸Mg、Mg−EDTA、純Mg又はマグネシウム合金からなる群から選ばれる少なくとも一種で表されるマグネシウム含有化合物を有することを特徴とする医療用生体吸収性部材。
- 請求項4乃至7の何れか1項に記載の医療用生体吸収性部材の製造方法において、前記処理水溶液の温度は60℃以上、100℃以下であることを特徴とする医療用生体吸収性部材。
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JP2017114201A JP2018202074A (ja) | 2017-06-09 | 2017-06-09 | 医療用生体吸収性部材とその製造方法 |
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- 2017-06-09 JP JP2017114201A patent/JP2018202074A/ja active Pending
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