JP2018191632A - 固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法およびそのためのアレイ - Google Patents

固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法およびそのためのアレイ Download PDF

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聡史 藤田
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Abstract

【課題】 固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法およびそのためのアレイを提供する。【解決手段】 (1)タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体を調製するステップと、(2)前記複合体を固体支持体上に固定するステップと、(3)ステップ(2)で得られた前記固体支持体上に細胞を播種するステップとを含む、固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法。【選択図】 なし

Description

本発明は、固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法およびそのためのアレイに関する。
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いた細胞チップの開発が注目されている。特に、細胞チップの一種である細胞マイクロアレイチップは、1〜数百個の細胞を数十〜数百nm間隔で固体支持体上に配列することにより、ハイスループットかつハイコンテントな細胞アッセイを可能とする。そのため、創薬の分野において、細胞マイクロアレイチップの利用による研究開発の効率化およびコストダウンが期待されている。
固体支持体上に固定された細胞に対し、固体支持体と細胞との接着面を介して固相から直接核酸や低分子化合物を送達する方法が、すでに報告されている(特許文献1および2、非特許文献1〜4)。一方、タンパク質については、液相からの導入については報告があるものの(非特許文献5〜7)、固相から送達する方法は現時点で一例も報告されていない。この主な原因としては、(1)タンパク質は核酸と異なり均一な表面電荷を有しないため、細胞への画一的な導入条件を確立することが困難であること、(2)タンパク質は核酸と異なり不安定であり失活しやすいため、乾燥状態での保存が困難であることが挙げられる。
特開2007−082402公報 特開2007−267602公報
Ziauddin, J. and Sabatini, D. M., Nature, Vol. 411, pp. 107-110 (2001) Yoshikawa, T. et al., J. Control. Release, Vol. 96, pp. 227-232 (2004) Silva, J. M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 101, pp. 6548-6552 (2004) Bailey, S. N. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 101, pp. 16144-16149 (2004) Zuris, J. A. et al., Nat. Biotechnol., Vol. 33, pp. 73-80 (2015) Gaj, T. et al., Nat. Methods, Vol. 9, pp. 805-807 (2012) Fu, A. et al., Bioconjug. Chem., Vol. 25, pp. 1602-1608 (2014)
最近になって、標的遺伝子をノックアウトする技術として、リコンビナーゼ、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9などの酵素を用いたゲノム編集が大きな注目を集めている。ゲノム編集は、上記のような酵素をコードするDNAを細胞に導入し、細胞内で酵素を発現させることにより行うのが一般的である。しかし、細胞に核酸を導入した場合には、導入した核酸が偶発的にゲノムへのインテグレーションを起こすリスクがあり、これにより不必要かつ不本意な遺伝子破壊が起こるという問題がある。その点、タンパク質を直接細胞に導入できれば、上記の問題を回避できる。したがって、固体支持体と細胞との接着面を介して固相から直接タンパク質を細胞に送達できる方法の確立が望まれている。
本発明は、従来技術の諸問題を解消し、固体支持体と細胞との接着面を介して固相から直接タンパク質を細胞に送達する方法を提供することを目的としてなされたものである。
本発明者らは、鋭意研究の結果、タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体を固体支持体上に固定し、その上に細胞を播種することにより、固相から直接タンパク質を細胞に送達できることを見出した。
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、(1)タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体を調製するステップと、(2)前記複合体を固体支持体上に固定するステップと、(3)ステップ(2)で前記複合体を固定した前記固体支持体上に細胞を播種するステップとを含む、固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法を提供するものである。
前記方法において、前記カチオン性高分子はカチオン性脂質であることが好ましい。
前記方法において、前記タンパク質は酵素であることが好ましい。
前記方法において、前記酵素は、ヌクレアーゼまたはリコンビナーゼであることが好ましい。
また、本発明は、一実施形態によれば、タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体が固体支持体上に固定された、タンパク質を細胞に送達するためのアレイを提供するものである。
前記アレイにおいて、前記カチオン性高分子はカチオン性脂質であることが好ましい。
前記アレイにおいて、前記タンパク質は酵素であることが好ましい。
前記アレイにおいて、前記酵素は、ヌクレアーゼまたはリコンビナーゼであることが好ましい。
前記アレイにおいて、前記複合体は二糖をさらに含むことが好ましい。
前記アレイにおいて、前記複合体は細胞外マトリクスタンパク質をさらに含むことが好ましい。
本発明に係る方法は、固体支持体と細胞との接着面を介して固相から直接タンパク質を細胞に送達することができる。そのため、タンパク質の発現を待つ必要がなく、高効率での解析が可能となる。また、核酸を導入する際に起こり得る不必要かつ不本意な遺伝子破壊を回避することができる。
また、本発明に係るアレイは、固体支持体と細胞との接着面を介して固相から直接タンパク質を細胞に送達することができる状態での長期保存が可能である。
図1は、本発明の方法の一実施の形態を示す概要図である。 図2は、タンパク質の細胞内への送達機構を示す模式図である。 図3は、CreリコンビナーゼおよびloxPレポーター遺伝子の構成を示す図である。 図4は、Cre−LPEI複合体、Cre−MultiFectam複合体およびCre−LF2000複合体の遺伝子組換え効率を示す図である。 図5は、Cre−LPEI複合体、Cre−MultiFectam複合体およびCre−LF2000複合体を導入したloxPレポーター細胞の顕微鏡観察像(明視野像およびmEmeraldの蛍光像)である。 図6は、Cre−LF2000複合体のスポット上および周辺の細胞の顕微鏡観察像(明視野像および蛍光像の合成画像)である。 図7は、Cre−LF2000複合体アレイ上に播種されたloxPレポーター細胞の顕微鏡観察像(位相差(PH)およびmEmeraldの蛍光(FL))である。 図8は、Cre−MultiFectam複合体アレイ上に播種されたloxPレポーター細胞の顕微鏡観察像(位相差(PH)およびmEmeraldの蛍光(FL))である。 図9は、室温保存されたCre−LF2000複合体アレイ上に播種されたloxPレポーター細胞の顕微鏡観察像(E2−CrimsonおよびmEmeraldの蛍光像)である。 図10は、室温保存されたCre−LF2000複合体アレイ上に播種されたloxPレポーター細胞における遺伝子組換え効率を示すグラフである。 図11は、−20℃保存されたCre−LF2000複合体アレイ上に播種されたloxPレポーター細胞の顕微鏡観察像(E2−CrimsonおよびmEmeraldの蛍光像)である。 図12は、−20℃保存されたCre−LF2000複合体アレイ上に播種されたloxPレポーター細胞における遺伝子組換え効率を示すグラフである。 図13は、β−gal−LF2000複合体の細胞内活性(倍率)を示す図である。 図14は、β−gal−LF2000複合体を導入したHeLa細胞の顕微鏡観察像(X−gal染色像)である。 図15は、β−gal−LF2000複合体の(a)粒径および(b)ゼータ電位の測定結果を示すグラフである。 図16は、β−gal−LF2000複合体アレイ上に播種されたHeLa細胞の顕微鏡観察像(X−gal染色像)である。 図17は、β−gal−LF2000複合体アレイ上に播種されたHeLa細胞の顕微鏡観察像(X−gal染色像)の拡大画像である。 図18は、ZFN−LF2000複合体を導入したレポーター細胞の顕微鏡観察像(明視野像およびmEmeraldの蛍光像)である。 図19は、ZFN−LF2000複合体アレイ上に播種されたレポーター細胞の顕微鏡観察像(mEmeraldの蛍光像)である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
本発明は、第一の実施形態によれば、(1)タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体を調製するステップと、(2)前記複合体を固体支持体上に固定するステップと、(3)ステップ(2)で前記複合体を固定した前記固体支持体上に細胞を播種するステップとを含む、固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法である。
本実施形態の方法では、細胞に導入しようとするタンパク質と、カチオン性高分子とを含む複合体を調製して使用する。
本実施形態における「タンパク質」は、任意のものであってよく、例えば、動物由来、植物由来、微生物由来、ウイルス由来などのタンパク質であってよい。本実施形態において用いることができるタンパク質は、細胞への送達効率の観点から、アニオン性またはカチオン性であることが好ましく、また、分子量が300kDa以下であることが好ましい。本実施形態におけるタンパク質は、以下に限定されないが、例えば、ヌクレアーゼ、リコンビナーゼ、インテグラーゼ、デアミナーゼ、メチルトランスフェラーゼ、メチルシトシンヒドロゲナーゼ、リガーゼ、グリコシラーゼなどの酵素や、抗体、転写因子などのタンパク質であってよい。また、本実施形態におけるタンパク質は、糖やRNAなどと複合体化されたものであってもよい。本実施形態において用いることができるタンパク質は、好ましくはヌクレアーゼまたはリコンビナーゼである。本実施形態における好ましいヌクレアーゼは、例えば、Cas9、cpf1、TALEN、ZFNである。また、本実施形態における好ましいリコンビナーゼは、例えば、Creリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、セリンリコンビナーゼ、チロシンリコンビナーゼである。
本実施形態におけるタンパク質は、遺伝子工学的手法による生合成により調製することができる。具体的には、目的のタンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、目的のタンパク質を発現させ、精製すればよい。本実施形態におけるタンパク質を発現させる宿主細胞としては、例えば、菌、酵母、哺乳動物細胞などを使用することができる。発現ベクターとしては、大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えば、pT7(シグマアルドリッチ社製)やpET(メルクミリポア社製)などの大腸菌発現プラスミドを用いることができ、哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、pcDNA3.1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)などの動物細胞発現プラスミドや、レトロウイルスやアデノウイルスなどの動物ウイルスベクターなどを用いることができる。形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などの周知の方法により行うことができる。
本実施形態におけるタンパク質は、精製のためのタグがN末端および/またはC末端に付加されていてもよい。精製のためのタグとしては、例えば、Hisタグ、GSTタグ、HAタグ、FLAGタグなどを使用することができる。また、本実施形態におけるタンパク質は、目的に応じて種々の改変がなされていてよいが、例えば多数の正電荷アミノ酸または負電荷アミノ酸を導入するなどの、タンパク質全体に対して過度に正電荷または負電荷を付与するような改変はなされていないことが好ましい。
本実施形態において「カチオン性高分子(cationic macromolecule)」とは、カチオン性の官能基を有し、生理学的pHにおいて正味の正電荷を有する高分子をいう。本実施形態において用いることができるカチオン性高分子は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、またはそれらの混合物であってよく、好ましくはカチオン性脂質である。
本実施形態において用いることができる「カチオン性ポリマー」は、核酸のトランスフェクションに用いられる、または用いることができると考えられる任意のものであってよい。ここで、「ポリマー」とは、同一であっても異なってもよい2以上のモノマーが重合された化合物を意味し、したがって、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。本実施形態におけるカチオン性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは1,000〜300,000MWである。本実施形態において用いることができるカチオン性ポリマーは、以下に限定されないが、例えば、直鎖状または分岐状のポリアミノ酸、ポリアルキレンイミン、PAMAMデンドリマー、キトサンなどのポリカチオン性多糖類などが挙げられ、これらの1種のみまたは2種以上を混合して用いることができる。本実施形態における好ましいカチオン性ポリマーは、ポリアミノ酸またはポリアルキレンイミンであり、特に好ましくは、直鎖状のポリアミノ酸またはポリアルキレンイミンである。
本実施形態において用いることができるポリアミノ酸は、同種類のアミノ酸残基が重合されたものであってもよいし、異なる種類のアミノ酸残基が重合されたものであってもよい。ポリアミノ酸を構成するアミノ酸残基は、L体であることが好ましい。ポリアミノ酸の例としては、ポリリジン、ポリオルニチンなどが挙げられる。本実施形態における好ましいポリアミノ酸は、ポリリジンである。
本実施形態において用いることができるポリアルキレンイミンの例としては、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミンなどが挙げられる。本実施形態における好ましいポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンである。
核酸のトランスフェクションに用いることができるカチオン性ポリマーは市販されており、本実施形態においては、こうした市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、jetPEI(polyplus transfection社製)などが挙げられる。
本実施形態において用いることができる「カチオン性脂質」は、核酸のトランスフェクションに用いられる、または用いることができると考えられる任意のものであってよい。本実施形態における好ましいカチオン性脂質は、以下に限定されないが、例えば、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、N,N−ジメチル−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピルアミン(DODMA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム硫酸メチル(DOTAP)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウム(DOSPA)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)、3β−[Ν−(Ν’,Ν’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、ジデシルメチルアンモニウムブロミド(DDAB)などが挙げられ、これらの1種のみまたは2種以上を混合して用いることができる。
核酸のトランスフェクションに用いることができるカチオン性脂質は市販されており、本実施形態においては、こうした市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、Lipofectamine(登録商標)2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、MultiFectam(プロメガ社製)、HilyMax(同仁化学研究所社製)、SuperFect(キアゲン社製)などが挙げられる。
本実施形態におけるタンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体(以下、「タンパク質−カチオン性高分子複合体」とも表記する)は、タンパク質とカチオン性高分子とを生理的pH条件下において、例えばHEPES緩衝生理食塩水(HBS)中で、混合することにより調製することができる。タンパク質とカチオン性高分子との混合比率は、N/P比(タンパク質のアニオン電荷に対するカチオン性高分子のカチオン電荷の比)に基づいて決定することができ、例えば、N/P比が1〜3、好ましくは1.5〜2.5になるように、タンパク質とカチオン性高分子とを混合することができる。
次いで、タンパク質−カチオン性高分子複合体を、固体支持体上に固定する。本実施形態における固体支持体としては、例えば、シリコンなどの半導体、ガラスなどの無機物、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレートなどの高分子物質を主成分とするフィルムなどを使用することができる。固体支持体の形状としては、例えば、スライドガラス、マイクロウェルプレート、細胞培養ディッシュなどが挙げられるが、それらに限定されない。
タンパク質−カチオン性高分子複合体の固体支持体上への固定は、タンパク質−カチオン性高分子複合体溶液を、マイクロスポッティング法、インクジェット法、バブルジェット(登録商標)法などの方法を用いて固体支持体上にスポットし、乾燥させることにより行うことができる。スポットするタンパク質−カチオン性高分子複合体溶液の液量は、好ましくは1〜2,000nLであり、特に好ましくは5〜30nLである。スポットされるタンパク質の濃度は、例えば1nM〜1μMであり、より好ましくは100nM〜1μMあってよい。固体支持体上に配置されるスポットの数は、特に制限はないが、例えば、10以上、100以上、1,000以上、10,000以上などであってよい。スポッターとしては、例えば、インクジェットプリンターやバブルジェット(登録商標)プリンターなどを使用することができる。なお、タンパク質−カチオン性高分子複合体の固体支持体への吸着を改善するために、タンパク質−カチオン性高分子複合体溶液をスポットする前に、固体支持体の表面を酵素プラズマ処理してもよい。
次いで、タンパク質−カチオン性高分子複合体を固定した固体支持体上に、細胞を播種する。本実施形態において使用できる細胞は特に限定されず、目的に応じて任意の細胞を選択することができる。本実施形態において使用できる細胞は、好ましくは動物細胞であり、特に好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類、ヒトなどの哺乳動物細胞であり、最も好ましくはヒト細胞である。細胞の種類も特に限定されないが、接着細胞を用いることが好ましい。接着細胞としては、例えば、神経細胞、上皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、結合組織細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞、腫瘍細胞などが挙げられる。また、本実施形態において使用する細胞は、生体組織から分離した細胞の初代培養細胞または継代培養細胞であってもよいし、株化された培養細胞であってもよい。
本実施形態において、播種される細胞濃度は、細胞の種類に応じて適宜決定することができ、例えば40,000個/cmの濃度で播種することができる。細胞は、公知の培養方法にしたがって固体支持体上の全体に播種されてもよいし、インクジェットプリンターなどを用いてタンパク質−カチオン性高分子複合体のスポット上にのみ播種されてもよい。細胞を播種した後、好ましくは12時間以上、特に好ましくは24時間以上培養することにより、タンパク質−カチオン性高分子複合体が細胞内に送達される。
本実施形態の方法の概略を図1に示す。細胞培養ディッシュなどの固体支持体を用意し(図1A)、その上にタンパク質−カチオン性高分子複合体を固定する(図1B)。これにより、タンパク質−カチオン性高分子複合体のアレイが調製される(図1C)。このアレイ上に細胞を播種すると、アレイと細胞との接触界面からタンパク質−カチオン性高分子複合体が細胞に導入される(図1D)。細胞を培養後、タンパク質の導入による細胞の表現型の変化(例えば生死や分化など)を解析する(図1E)。
また、本実施形態の方法におけるタンパク質の細胞内への送達機構を図2に示す。タンパク質−カチオン性ポリマー複合体は、エンドサイトーシスにより細胞内のエンドソームに取り込まれ、その後、プロトンスポンジ効果によってエンドソームが破裂することにより、エンドソームから脱出する(図2A)。タンパク質−カチオン性脂質複合体は、エンドサイトーシスにより細胞内のエンドソームに取り込まれ、その後、プロトンスポンジ効果によるエンドソームの破裂および/またはエンドソーム膜との融合により、エンドソームから脱出する(図2B、C)。
本発明は、第二の実施形態によれば、タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体が固体支持体上に固定された、タンパク質を細胞に送達するためのアレイである。
本実施形態における「タンパク質」、「カチオン性高分子」、「タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体」および「固体支持体」は、第一の実施形態において定義したものと同様である。本実施形態のアレイは、第一の実施形態と同様の手順により調製することができる。
本実施形態において、タンパク質−カチオン性高分子複合体は、二糖をさらに含むことが好ましい。これにより、タンパク質の活性を維持したまま、アレイを長期間、例えば30日以上安定的に保存することができる。本実施形態における二糖は、以下に限定されないが、例えば、トレハロース、ショ糖、麦芽糖、乳糖などが挙げられる。好ましくは、本実施形態における二糖は、トレハロースである。また、本実施形態におけるタンパク質−カチオン性高分子複合体は、1種類の二糖を含んでもよいし、2種類以上の二糖を含んでもよい。タンパク質−カチオン性高分子複合体に添加される二糖の濃度は、例えば5〜20%(w/v)の範囲で適宜選択することができる。
本実施形態において、タンパク質−カチオン性高分子複合体は、細胞外マトリクスタンパク質をさらに含むことが好ましい。細胞外マトリクスタンパク質は、固体支持体への細胞の付着を促進することができるため、固体支持体上に固定された複合体が培地中に拡散するよりも前に、細胞が固体支持体に接着する効率を高めることができる。その結果、タンパク質−カチオン性高分子複合体が細胞に導入される効率を改善することができる。本実施形態における細胞外マトリクスタンパク質は、以下に限定されないが、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンなどが挙げられる。また、本実施形態における細胞外マトリクスタンパク質として、公知の細胞接着性モチーフ配列(例えば、RGDモチーフなど)を含む人工ペプチドを作製して用いてもよい。本実施形態において、これらの細胞外マトリクスタンパク質の1種のみまたは2種以上を混合して用いることができる。本実施形態における細胞外マトリクスタンパク質は、好ましくはフィブロネクチンである。タンパク質−カチオン性高分子複合体に添加される細胞外マトリクスタンパク質の濃度は、例えば0.01〜0.4%(w/v)の範囲で適宜選択することができる。
第一の実施形態における方法および第二の実施形態におけるアレイは、細胞内にタンパク質を直接導入するため、タンパク質をコードする核酸を細胞に導入した場合のようにタンパク質の発現を待つ必要がなく、高効率での解析が可能となる。同時に、タンパク質をコードする核酸を細胞に導入した場合に起こりうる不必要かつ不本意な遺伝子破壊を避けることができ、有用である。
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
<1.CreリコンビナーゼおよびloxPレポーター細胞の調製>
(1−1)Creリコンビナーゼ(以下、単に「Cre」とも表記する)の調製
N末端に精製用のHisタグ(His)および核移行シグナル(NLS)を付加したCreリコンビナーゼ(Cre)(図3(a))を、以下の手順により調製した。His−NLS−Creをコードする遺伝子配列をT7プロモーターの下流に組み込んだpETベクターにより、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。カナマイシン含有LB培地中で前培養した後、0.1mMのIPTGを添加し、さらに25℃において6時間の培養を行った。菌体を回収し、TNG緩衝液(20mMのTris、500mMのNaCl、10%グリセロール、pH8.0)に懸濁し、超音波処理により破砕後、Ni−NTA担体(キアゲン社製)に供した。Ni−NTA担体に吸着したHis−NLS−Creを500mMイミダゾール/TNG緩衝液により溶出した。得られた溶出液をHBSG緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、10%グリセロール、pH7.4)に対して透析した。その後、既知濃度のBSAとともにSDS−PAGEに供し、CBB染色することにより、His−NLS−Creの濃度を決定した。
(1−2)loxPレポーター細胞の調製
Creリコンビナーゼの活性評価のためのloxPレポーター細胞(293.R×G細胞)を、以下の手順により調製した。5’→3’方向に順に、loxP配列、E2−Crimsonタンパク質コード配列(タカラバイオ社より入手)、ポリA配列、loxP配列、mEmeraldタンパク質コード配列(Verkhusha教授より入手)およびポリA配列を配置したレポーター遺伝子を、pcDNA5/FRTベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)のCMVプロモーター配列の下流に挿入した。得られたベクターを、pOG44ベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)とともにFlp−In−293細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にトランスフェクションした。その後、細胞をハイグロマイシン存在下で選択培養することにより、293.R×G細胞を得た。
293.R×G細胞は、E2−Crimsonタンパク質を発現するため、赤色蛍光を発する。293.R×G細胞では、E2−Crimson配列の終止コドンよりも下流に位置するmEmeraldタンパク質は発現しない(図3(b)上段)。一方、293.R×G細胞にCreリコンビナーゼが導入されると、Creリコンビナーゼが核内に移行し、Creリコンビナーゼによる組換え反応により、2つのloxP配列に挟まれたE2−Crimson−ポリAがレポーター遺伝子から除去される。その結果、293.R×G細胞はE2−Crimsonに代わってmEmeraldを発現するようになり、緑色蛍光を発する293.G細胞へと形質転換する(図3(b)下段)。
<2.Cre−カチオン性高分子複合体の調製>
上記(1−1)で調製したCreリコンビナーゼを用いて、以下の手順によりCre−カチオン性高分子複合体を調製した。カチオン性高分子には、カチオン性ポリマーである直鎖ポリエチレンイミン(以下、「LPEI」と記載する)(Polysciences 社製、分子量:40,000)、カチオン性デンドロン脂質であるMultiFectam(プロメガ社製、分子量:2,055)、およびカチオン性脂質であるLipofectamine(登録商標)2000(以下、「LF2000」と記載する)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いた。
(2−1)Cre−LPEI複合体の調製
2.3μgのCreリコンビナーゼと、0.29μg、0.58μg、1.15μg、1.73μg、2.3μg、3.45μg、4.6μg、5.75μg、6.9μg、または11.5μgのLPEIとを、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)(5mMのD−グルコース、20mMのHEPES、5mMのKCl、135mMのNaCl、0.75mMのNaHPO・2HO)に添加し、全液量が24.5μlになるようにHBSにより調製し、よく混合した。混合液を室温にて15分間インキュベートした。これにより、LPEI/Cre混合比(w/w)が0.125、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、2.5、3、または5のCre−LPEI複合体を得た。
(2−2)Cre−MultiFectam複合体の調製
LPEIに代えてMultiFectamを用いた以外は、上記(2−1)と同様の手順により、MultiFectam/Cre混合比(w/w)が0.125、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、または2.5のCre−MultiFectam複合体を得た。
(2−3)Cre−LF2000複合体の調製
LPEIに代えて、0.26μl、0.53μl、1.05μl、1.58μl、2.1μl、3.15μl、4.2μl、5.25μl、6.3μl、または10.5μlのLF2000を用いた以外は、上記(2−1)と同様の手順により、LF2000/Cre混合比(μl/μg)が0.125、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、2.5、3、または5のCre−LF2000複合体を得た。
<3.Cre−カチオン性高分子複合体を用いたCreの細胞への導入>
上記2で調製した各Cre−カチオン性高分子複合体に、Opti−MEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を3.5μl添加し、混合後、5分間インキュベートした。その後、フィブロネクチン溶液(4mg/ml、有限会社ライフ研究所)を7μl添加し、混合した。得られた各溶液を、10μl/ウェルずつ96ウェルプレート(Nunc)の3ウェルに分注した。各ウェルに、2×10個の293.R×G細胞/10%FBS含有DMEMを添加し、よく混合した後、37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した。なお、Cre−カチオン性高分子複合体に代えてCreを用いた以外は同様の操作を行ったものを陰性対照とした。遺伝子組換え効率は、mEmeraldの蛍光強度に基づいて評価し、上記陰性対照における遺伝子組換え効率を1として、各複合体による遺伝子組換え効率(倍率)を算出した。
結果を図4および図5に示す。図4は、陰性対照を基準とした各複合体による遺伝子組換え効率(倍率)を示す。Cre−LPEI複合体では、混合比(w/w)=1〜1.5において高い遺伝子組換え効率が示された(約5倍)。Cre−MultiFectam複合体では、混合比(w/w)=1.5以上において高い遺伝子組換え効率が示された(約90倍)。Cre−LF2000複合体では、混合比(μl/μg)=0.5において高い遺伝子組換え効率が示された(約540倍)。図5は、細胞の顕微鏡観察像(明視野および蛍光)を示す。mEmeraldの蛍光は、Creを添加していない293.R×G細胞においては観察されず(図5(a))、Creのみを添加した陰性対照においてもほとんど観察されない(図5(b))。これに対し、Cre−LPEI複合体(混合比(w/w)=1.5)、Cre−MultiFectam複合体(混合比(w/w)=1.5)、またはCre−LF2000複合体(混合比(μl/μg)=0.5)を添加した場合には、mEmeraldの蛍光が観察され、また、細胞毒性も低いことが確認された(図5(c)〜(e))。これらの結果から、Cre−カチオン性高分子複合体を用いることにより、活性を維持したCreリコンビナーゼを細胞に送達できることが示された。また、カチオン性高分子としてカチオン性脂質を用いることにより、より高い効率でCreリコンビナーゼを細胞に送達できることが示された。
<4.Cre−LF2000複合体アレイからのCreの細胞への導入>
上記(2−3)で調製したCre−LF2000複合体(混合比(μl/μg)=0.5)に、Opti−MEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を3.5μl添加し、混合後、5分間インキュベートした。その後、フィブロネクチン溶液(4mg/ml、有限会社ライフ研究所)を7μl添加、混合した。得られた溶液をインクジェットプリンター(KCS−mini、クボタコンプス社製)を用いて、35mm細胞培養ディッシュの中央に5×5のスポットをアレイ状に配置した(15nl/スポット)。その後、デシケーター内で30分間、ディッシュを真空乾燥させた。このディッシュに、8×10個の293.R×G細胞/10%FBS含有DMEMを添加し(2ml)、37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した。その後、mEmeraldの蛍光を検出することにより、Creによる遺伝子組換え効率を評価した。
結果を図6に示す。図6(a)は、Cre−LF2000複合体のスポット上および周辺の細胞の顕微鏡観察像(明視野像および蛍光像の合成画像)を示し、図6(b)は、Cre−LF2000複合体のスポット(5×5)上の細胞の顕微鏡観察像(E2−CrimsonおよびmEmeraldの蛍光像)を示す。ディッシュに播種された293.R×G細胞のうち、Cre−LF2000複合体のスポット上に播種された細胞からのみmEmeraldの蛍光が観察された。この結果から、Cre−LF2000複合体は培地中に拡散せず、固相から直接細胞に送達されていることが示された。
さらに、細胞播種後0〜24時間の顕微鏡観察像(mEmeraldの蛍光像)をタイムラプス撮影した結果を図7に示す。この結果から、細胞播種後6時間あたりからCreによる遺伝子組換えが確認され、18時間の時点でアレイのドットパターンが認識できる程度の十分な遺伝子組換えが起きていることが確認された。
<5.Cre−MultiFectam複合体アレイからのCreの細胞への導入>
Cre−LF2000複合体(混合比(μl/μg)=0.5)に代えて、Cre−MultiFectam複合体(混合比(w/w)=2)を用いた以外は、上記4と同様の手順によりディッシュの調製および細胞の培養を行い、細胞播種後0〜24時間の顕微鏡観察像(mEmeraldの蛍光像)をタイムラプス撮影した。
結果を図8に示す。この結果から、Cre−MultiFectam複合体を用いた場合にも、Cre−LF2000複合体と同様の時間経過で、Cre−LF2000複合体と比較しても遜色ない効率で遺伝子組換えが起きていることが確認された。
<6.Cre−カチオン性高分子複合体アレイの長期保存性>
Cre−LF2000複合体(混合比(μl/μg)=0.5)に、0%、10%、15%または20%トレハロース(w/v)を添加し、トレハロース含有Cre−LF2000複合体を調製した。各トレハロース含有Cre−LF2000複合体を、上記4と同様の手順によりディッシュにスポットし、アレイを調製した。得られたアレイを真空・遮光した状態で、室温または−20℃において長期保存した。保存後のアレイに、上記4と同様の手順により細胞を播種し、培養を行い、遺伝子組換え効率を評価した。遺伝子組換え効率の評価は、トレハロースを添加していないCre−LF2000複合体の0日保存時の遺伝子組換え効率を100%として行った。
結果を図9〜12に示す。室温保存の場合、トレハロースを添加していないCre−LF2000複合体では、1日の保存によって活性が大幅に低下したのに対し、15%以上のトレハロースを添加したCre−LF2000複合体では50%程度の活性が維持された(図9および10)。また、−20℃保存の場合には、15%のトレハロースを添加したCre−LF2000複合体においては、30日の保存後でもほとんど活性が低下しないことが確認された(図11および12)。これらの結果から、トレハロースの添加がCre−カチオン性高分子複合体アレイの保存性を改善できることが示された。
<7.β−ガラクトシダーゼの細胞への導入>
(7−1)β−ガラクトシダーゼ−LF2000複合体を用いたβ−ガラクトシダーゼの細胞への導入条件の検討
β−ガラクトシダーゼ(以下、単に「β−gal」とも表記する)を用いて、カチオン性高分子複合体を調製した。カチオン性高分子には、Creを用いた上記実施例において良好な結果を示したLF2000を用いた。3.5μlのHBSに溶解した18.6μgのβ−gal(β−D−galactosidase、620units/mg、和光純薬)と、LF2000とを、11種類の混合比(LF2000/β−gal(μl/μg)=0、0.015、0.028、0.057、0.09、0.113、0.17、0.226、0.283、0.339および0.565)で混合し、全液量が24.5μl(続くステップでフィブロネクチンを添加しない場合には31.5μl)になるようにHBSにより調製し、よく混合した。混合液を室温にて15分間インキュベートした。その後、Opti−MEMを3.5μl添加し、混合後、5分間インキュベートした。その後、フィブロネクチン溶液(4mg/ml)を7μl添加し、混合した。得られた溶液を10μl/ウェルで、2×10個のHeLa細胞(理研セルバンク)/10%FBS含有DMEM(100μl/ウェル)が播種された96ウェルプレートに添加した。37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した後、β−Galactosidase Staining Kit(Clontech)を用いてX−gal染色を行った。マイクロプレートリーダー(Synergy HT、BioTek)を用いた吸収スペクトル測定によりβ−galの細胞内活性を評価し、β−galのみを添加した場合の活性を1として、各複合体を添加した場合の活性(倍率)を算出した。また、染色された細胞を位相差顕微鏡(IX81、オリンパス)により観察した。
結果を図13および14に示す。β−galのみを添加した場合には、β−gal活性を示す細胞がほとんど見られなかったのに対し、β−gal−LF2000複合体を添加した場合には、フィブロネクチンの有無によらず、β−gal活性を示す細胞が有意に増加した。LF2000/β−gal(μl/μg)=0.283においてβ−galの細胞内活性は最大となった(フィブロネクチン(+):約70倍、フィブロネクチン(−):約80倍)。なお、LF2000/β−gal(μl/μg)=0.565では細胞毒性が見られたことにより、相対的にβ−galの細胞内活性が低下した。
また、フィブロネクチンの添加は、β−galの細胞内活性をほとんど低下させない一方で、細胞の接着性を改善した(データは省略)。この結果から、フィブロネクチンの添加は、固体支持体上に固定された複合体を細胞へと直接導入するために極めて有効であることが示唆された。
(7−2)β−gal−LF2000複合体のサイズおよびゼータ電位の測定
一般的に、細胞膜表面は負電荷を有していることから、正電荷を表面に有する粒子が膜表面に結合しやすい。また、フィブロネクチンなどの細胞外マトリクスタンパク質が粒子のエンドサイトーシスを促進することが知られている。さらに、エンドサイトーシスの効率には粒子のサイズが関連することも知られている。そこで、β−gal−LF2000複合体の粒径およびゼータ電位に対するLF2000/β−galの混合比の影響について解析した。上記(7−1)と同様の手順により、混合比の異なる4種類のβ−gal−LF2000複合体(LF2000/β−gal(μl/μg)=0.057、0.113、0.17および0.339)を調製した。得られた各β−gal−LF2000複合体混合液(35μl)に蒸留水を965μl加えて1mlとし、全量を測定用キュベットにロードし、粒径およびゼータ電位を動的光散乱法および電気泳動光散乱法により測定した(ゼータサイザーナノZS、マルバーン)。
結果を図15に示す。左のバー(白)はフィブロネクチン(−)、右のバー(網掛け)はフィブロネクチン(+)のβ−gal−LF2000複合体を示す。フィブロネクチンの添加の有無によらず、LF2000/β−gal混合比が大きくなるにしたがって、粒径が増大した(図15(a))。また、フィブロネクチンの添加の有無によらず、LF2000/β−gal混合比が大きくなるにしたがって、ゼータ電位も増大する傾向が見られたが、いずれも負の値を示した。なお、図13において細胞毒性が見られたLF2000/β−gal(μl/μg)=0.56は、信頼性の高い測定は不可能だったが、測定限界を超えた大きな粒径(1μm以上)を有していることが示された(データは省略)。
(7−3)β−gal−LF2000複合体アレイからのβ−galの細胞への導入
次いで、β−gal−LF2000複合体アレイを作製し、固相から細胞へのβ−gal−LF2000複合体の導入について試験した。上記(7−1)と同様の手順により調製したβ−gal−LF2000複合体(LF2000/β−gal(μl/μg)=0.28)を、上記4と同様の手順により35mmディッシュにスポットした。このディッシュに、2×10個のHeLa細胞/10%FBS含有DMEM(2ml)を添加し、37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した。その後、上記(7−1)と同様の手順により、β−galの細胞内活性を評価した。
結果を図16(a)に示す。フィブロネクチンの添加の有無によらず、β−gal−LF2000複合体のスポット上に播種された細胞のみにβ−galが導入され、X−gal染色像はアレイのドットパターンを示した。この結果から、β−gal−LF2000複合体は培地中に拡散せず、固相から直接細胞に送達されていることが示された。また、上記と同様に調製したアレイを真空条件下で1日保存した場合も、細胞にβ−galが導入され、活性を示すことが確認された(データは省略)。
次いで、アレイの作製に最適なLF2000/β−galの混合比を検討した。上記(7−1)と同様の手順により、混合比の異なる3種類のβ−gal−LF2000複合体(LF2000/β−gal(μl/μg)=0.17、0.28、および0.56;いずれもフィブロネクチン(+))を調製し、上記と同様の手順によりアレイを作製し、β−galの細胞への導入および細胞内活性を評価した。
結果を図16(b)に示す。3種類のβ−gal−LF2000複合体のいずれを用いたアレイも、ドットパターンが認識できる程度の十分なβ−galの細胞への導入が可能であることが確認された。また、驚くべきことに、上記(7−1)では細胞毒性が見られたLF2000/β−gal(μl/μg)=0.56の複合体を用いたアレイも、ほとんど細胞毒性を示さず、良好な結果が得られた。この結果から、固相から直接細胞に複合体を導入することにより、細胞毒性を抑えることができることが示された。
また、LF2000/β−gal(μl/μg)=0.56の複合体のアレイのスポットの拡大画像を図17に示す。スポット上の細胞が染色されている一方(図17(b)、(d))、スポット外の細胞は染色されていないことが確認された(図17(b)、(c))。また、染色された細胞では、厚みがある中心部が強く染色されており(図17(d))、このことから、β−galは細胞膜表面に存在するのではなく、細胞内に送達されており、かつ、細胞内で機能していることが強く示唆された。
<8.ジンクフィンガーヌクレアーゼの細胞への導入>
(8−1)ジンクフィンガーヌクレアーゼの調製
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(以下、単に「ZFN」とも表記する)を、以下の手順により調製した(詳細は、非特許文献6を参照)。N末端側から順に、Hisタグ、核移行シグナル、ヒトC−Cケモカイン受容体5(CCR5)を認識するジンクフィンガードメイン、およびFokI制限酵素を含むZFNをコードする遺伝子配列をT7プロモーターの下流に組み込んだpETベクターにより、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。カナマイシン含有LB培地中で前培養した後、0.1mMのIPTGを添加し、さらに25℃において6時間の培養を行った。菌体を回収し、TNG緩衝液(20mMのTris、500mMのNaCl、10%グリセロール、pH8.0)に懸濁し、超音波処理により破砕後、Ni−NTA担体(キアゲン社製)に供した。Ni−NTA担体に吸着したZFNを500mMイミダゾール/TNG緩衝液により溶出した。得られた溶出液をHBSG緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、10%グリセロール、pH7.4)に対して透析した。その後、既知濃度のBSAとともにSDS−PAGEに供し、CBB染色することにより、ZFNの濃度を決定した。
(8−2)レポーター細胞の調製
ZFNの活性評価のためのレポーター細胞として、293.E2mEme(ZFRR)rald細胞を調製した。293.E2mEme(ZFRR)rald細胞は、Flp−In−293細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)のゲノムに、ZFNの標的となるCCR5をコードする配列と、mEmerald緑色蛍光タンパク質をコードする配列とを挿入することにより作製した。具体的には、mEmeraldタンパク質コード配列中にZFN標的配列(5’−AAGTCCTTTTGCAGTTTATCATAAACTGCAAAAGAACGGC−3’、下線部はZFN結合配列を示す)を導入した配列と、その上流にE2−Crimsonタンパク質コード配列を配置したレポーター遺伝子を用いた以外は、上記(1−2)と同様の手順により、293.E2mEme(ZFRR)rald細胞を得た。
ZFN標的配列の導入によるmEmeraldタンパク質コード配列のフレームシフト変異のために、293.E2mEme(ZFRR)rald細胞ではmEmeraldタンパク質は発現せず、緑色蛍光を発しない。しかし、ZFNが細胞内に導入されてゲノム編集が起こると、フレームシフトが解消され、mEmeraldタンパク質が発現されるようになり、緑色蛍光が観察されるようになる。
(8−3)ZFN−LF2000複合体を用いたZFNの細胞への導入条件の検討
1.3μlのHBSに溶解した10.8μgのZFNと、LF2000とを、5種類の混合比(LF2000/ZFN(μl/μg)=0、0.056、0.111、0.222および0.333)で混合し、全液量が14μlになるようにHBSにより調製し、よく混合した。混合液を室温にて15分間インキュベートした。その後、Opti−MEMを2μl添加し、混合後、5分間インキュベートした。その後、フィブロネクチン溶液(4mg/ml)を4μl添加し、混合した。得られた溶液を10μl/ウェルで、3×10個の293.E2mEme(ZFRR)rald細胞/10%FBS含有DMEM(100μl/ウェル)が播種された96ウェルプレートに添加した。37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した後、mEmeraldの蛍光に基づき、ZFNによるゲノム編集を検出した。
結果を図18に示す。ZFNのみを添加した場合には、mEmeraldの蛍光は検出されなかったのに対し、ZFN−LF2000複合体を添加した場合には、mEmeraldの蛍光が観察された。また、LF2000の比率が高い複合体(LF2000/ZFN(μl/μg)=0.222および0.333)を添加した場合には、細胞毒性が見られた。
(8−4)ZFN−LF2000複合体アレイからのZFNの細胞への導入
次いで、ZFN−LF2000複合体アレイを作製し、固相から細胞へのZFN−LF2000複合体の導入について試験した。上記(8−3)と同様の手順により調製したZFN−LF2000複合体を、上記4と同様の手順により35mmディッシュにスポットした。このディッシュに、4×10個の293.E2mEme(ZFRR)rald細胞/10%FBS含有DMEM(2ml)を添加し、37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した。その後、mEmeraldの蛍光に基づき、ZFNによるゲノム編集を検出した。
結果を図19に示す。LF2000/ZFN(μl/μg)=0.333の複合体を用いたアレイにおいて、mEmeraldを発現する細胞が最も多く確認された。この結果から、ZFN−LF2000複合体が細胞に導入されており、かつ、導入されたZFNが細胞内で機能していることが示された。また、上記と同様に調製したアレイを真空条件下で1日保存した場合も、細胞にZFNが導入され、活性を示すことが確認された(データは省略)。さらに、LF2000/ZFN(μl/μg)=0.333の複合体は、上記(8−3)では細胞毒性を示したが、LF2000/ZFN(μl/μg)=0.333の複合体を用いたアレイでは細胞毒性が見られなかった。これらの結果は、LF2000/β−gal複合体を用いた上記7で得られた結果と同様であり、固相から直接細胞に複合体を導入することにより、細胞毒性を抑えることができることが示された。

Claims (10)

  1. (1)タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体を調製するステップと、
    (2)前記複合体を固体支持体上に固定するステップと、
    (3)ステップ(2)で前記複合体を固定した前記固体支持体上に細胞を播種するステップと
    を含む、固体支持体からタンパク質を細胞に送達する方法。
  2. 前記カチオン性高分子がカチオン性脂質である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記タンパク質が酵素である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記酵素が、ヌクレアーゼまたはリコンビナーゼである、請求項3に記載の方法。
  5. タンパク質とカチオン性高分子とを含む複合体が固体支持体上に固定された、タンパク質を細胞に送達するためのアレイ。
  6. 前記カチオン性高分子がカチオン性脂質である、請求項5に記載のアレイ。
  7. 前記タンパク質が酵素である、請求項5または6に記載のアレイ。
  8. 前記酵素が、ヌクレアーゼまたはリコンビナーゼである、請求項7に記載のアレイ。
  9. 前記複合体が二糖をさらに含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載のアレイ。
  10. 前記複合体が細胞外マトリクスタンパク質をさらに含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載のアレイ。
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