JP2018190980A - 高周波用高出力トランス - Google Patents

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【課題】低圧大電流側コイルに生じる抵抗を抑えて、損失が低減された高周波用高出力トランスを提供する。【解決手段】芯の、異なる外周面に巻回された電線を有してなる1次側コイル2及び2次側コイル3を備えた高周波用高出力トランスであって、1次側コイル及び2次側コイルのうち低圧大電流側コイル4Bが有する電線10B(リッツ線)が、導体部とこの導体部の外周を覆う絶縁層とを有し、導体部の外径と電線の外径とについて、外径差/2([電線の外径−導体部の外径]/2)が70〜260μmの範囲にあり、外径比(導体部の外径/電線の外径)が0.48〜0.84の範囲にある。【選択図】図5

Description

本発明は、高周波用高出力トランスに関する。
電気・電子機器には、消費電力の低減等を図るため、通常、インバータとトランス(変圧器ともいう。)を内蔵している。高周波で使用されるトランスは、一般に、表皮効果に起因する抵抗の増大を抑えるために、周波数によって決まる表皮深さよりも小さな導体半径の電線が芯に巻回されたコイルを備えている。
このようなトランスにおいて、出力を高めるためには、芯に巻回される電線の導体断面積を増やす必要がある。この場合、上述のように表皮効果による抵抗増大を考慮すると大径の導体を有する電線の使用は避けることが重要であり、巻回する電線数を増やすことになる。電線数を増やす方法としては、一般的には、複数の電線を使って並列数を増やす方法、複数の素線をスパイラル状に撚り合わせたリッツ線を電線として使用する方法が挙げられる。
リッツ線を電線として巻回したコイルを備えたトランスとしては、例えば、高周波加熱装置に用いる昇圧トランスが特許文献1に記載されている。具体的には、この昇圧トランスは、絶縁された導体を複数束ねたリッツ線を更に絶縁物で被覆した電線を2次巻線(高圧小電流側コイル)として用いたものである。この昇圧トランスは、2次巻線を上述のように改良したものであり、素線の線径を細くして表皮効果の影響を抑えるとともに、リッツ線を絶縁物で被覆して絶縁性能を確保するものと記載されている。
特開平5−13247号公報
トランスは、通常、入力側(1次側)コイル及び出力側(2次側)コイルを備えており、各コイルに印加される電流の電圧及び電流値が設定される。トランスでは、通常、相対的に、1次側コイル及び2次側コイルのいずれか一方が低圧大電流側コイルとなり、他方が高圧小電流側コイルとなる。
本発明において、低圧大電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、低圧大電流値の電流が流れるコイルを意味し、高圧小電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、高圧小電流値の電流が流れるコイルを意味する。
高周波用トランスの低圧大電流側コイルには、従来、上記表皮効果の影響を考慮して設計された導体と、導体の外周を被覆する薄膜の絶縁層とを有する電線が用いられてきた。このように絶縁層が薄膜に形成されるのは、この電線には低圧の電流を流すためである。また、芯の外周面であって互いに異なる外周面に巻回された電線を有してなる1次側コイル及び2次側コイルを備えたトランス(分離巻きトランスともいう。)の場合、1次側コイルと2次側コイルとが芯の同じ外周面に配置されるトランスと異なり、1次側コイルと2次側コイルとが高い絶縁性を保持している。そのため、各コイルに用いる電線の絶縁層は必要最低限の絶縁性を示す程度の厚さに設定されていた。更には、大電流によるジュール損失を防ぐ目的で占積率を高く設定する必要があり、これには絶縁層を可能な限り薄膜に形成することが有効な手段となっていた。
このような高周波用トランスに1000W以上の高出力を要求する場合、特に、低圧大電流側コイルでは抵抗が大きくなり、それに伴ってトランスの損失も大きくなる。そのため、低圧大電流側コイルに用いられる電線数を更に増やす必要がある。これにより、直流抵抗を小さくして損失を低減することができる。しかし、電線数を増すほど、電線間に作用する近接効果による交流抵抗が増大する。このような近接効果による影響は、例えば周波数が30kHz程度以上になると無視できなくなる。そのため、高周波用高出力トランスにおいては、単純に電線数を増やしても、抵抗値を低減する効果には限界があり、損失を十分に低減できない。
このように、低圧大電流側コイルに用いる電線として、上記のような表皮効果と占積率とを考慮して絶縁層を薄く形成するという従来の電線では、トランスの損失を更に低減するには限界があり、改善が望まれていた。
本発明は、低圧大電流側コイルに生じる抵抗を抑えて、損失が低減された高周波用高出力トランスを提供することを課題とする。
本発明において、トランスについて高周波とは、特に限定されないが、例えば作動周波数が30〜150kHzであることをいう。また、トランスについて高出力とは、特に限定されないが、例えば1000W以上の出力をいい、その上限は例えば10kWである。
本発明者らは、低圧大電流側コイルに従来用いられる電線とは逆に、電線の絶縁層を厚く形成(電線と導体部との外径差/2を大きく設定)したうえで、導体部と絶縁層との外径比(導体部の外径/電線の外径)を特定の範囲に設定した電線が、低圧大電流側コイルに用いた際に、直流抵抗と交流抵抗とをバランスよく低減して従来の低圧大電流側コイルでは達しえない低抵抗を可能とし、ひいてはトランスの損失を低減できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>芯の、異なる外周面に巻回された電線を有してなる1次側コイル及び2次側コイルを備えた高周波用高出力トランスであって、
前記1次側コイル及び前記2次側コイルのうち低圧大電流側コイルが有する前記電線が、導体部と該導体部の外周を覆う絶縁層とを有し、前記導体部の外径と前記電線の外径とについて、外径差/2([電線の外径−導体部の外径]/2)が70〜260μmの範囲にあり、外径比(導体部の外径/電線の外径)が0.48〜0.84の範囲にある高周波用高出力トランス。
<2>前記導体部の外径が、0.35mm以上1.00mm未満である<1>に記載の高周波用高出力トランス。
<3>前記電線が、素線またはリッツ線であって、素線の場合、前記導体部の外周を覆う絶縁層が、導線からなる該導体部に接した絶縁層であって、かつ、熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層であり、リッツ線の場合、導線に接して熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層を有する撚り線を含む<1>または<2>に記載の高周波用高出力トランス。
<4>前記熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層の厚さが、8〜18μmである<3>に記載の高周波用高出力トランス。
<5>前記導体部の外周を覆う絶縁層が2層以上の層構成を有し、このうち最外層の絶縁層が熱可塑性樹脂を含む<1>〜<4>のいずれか1項に記載の高周波用高出力トランス。
<6>前記導体部の外周を覆う絶縁層が、3層以上の層構成を有する<1>〜<5>のいずれか1項に記載の高周波用高出力トランス。
<7>前記導体部の外周を覆う絶縁層が、押出被覆層である<1>〜<6>のいずれか1項記載の高周波用高出力トランス。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明により、低圧大電流側コイルに生じる抵抗を抑えて、損失が低減された高周波用高出力トランスの提供が可能となった。
図1は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(素線)の一例を示す概略断面図である。 図2は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(リッツ線)の一例を示す概略断面図である。 図3は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(リッツ線)の別の一例を示す概略断面図である。 図4は、本発明のトランスに用いる好ましい電線(リッツ線)のまた別の一例を示す概略断面図である。 図5は、本発明の好ましいトランスの一例を示す概略断面図である。 図6は、実施例1−1で製造したコイルを示す概略断面図である。 図7は、比較例1−1で製造したコイルを示す概略断面図である。 図8は、実施例1及び比較例1(周波数30kHz)における、外径比とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである。 図9は、実施例1及び比較例1(周波数50kHz)における、外径比とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである。 図10は、実施例1及び比較例1(周波数150kHz)における、外径比とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである。 図11は、実施例2−1で製造したコイルを示す概略断面図である。 図12は、比較例2−1で製造したコイルを示す概略断面図である。 図13は、実施例2及び比較例2(周波数30kHz)における、外径比とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである。 図14は、実施例2及び比較例2(周波数50kHz)における、外径比とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである。 図15は、実施例2及び比較例2(周波数150kHz)における、外径比とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである。 図16は、実施例4における、周波数とコイルの抵抗値との関係を示すグラフである。 図17は、本発明のトランスに用いる電線がリッツ線である場合の、導体の外径、及び、導体部の外径と電線の外径との外径差の0.5倍を説明するためのリッツ線の概略端面図である。
<<高周波用高出力トランス>>
本発明の高周波用高出力トランス(以下、単に本発明のトランスということがある。)は、芯の外周面であって互いに異なる外周面に巻回された電線を有してなる1次側コイル及び2次側コイルを備えた高周波用高出力トランスである。このトランスにおいて、1次側コイル及び2次側コイルのうち低圧大電流側コイルが有する電線が下記構成(1)〜(3)を有する。低圧大電流側コイルにこの電線を用いることにより、このコイルに生じる抵抗値を小さくすることができ、高周波用高出力トランスの損失を従来のトランスよりも更に低減できる。更には、近年の小型軽量化にも資すこともできる。
(1)導体部と、この導体部の外周を覆う絶縁層とを有する。
(2)導体部の外径と電線の外径との外径差/2([電線の外径−導体部の外径]/2)が70〜260μm
(3)導体部の外径と電線の外径との外径比(導体部の外径/電線の外径)が0.48〜0.84
<電線>
本発明のトランスについて、まず、低圧大電流側コイルに用いる電線について、説明するが、本発明はこれに限定されない。
低圧大電流側コイルに用いる電線は、導体部と、この導体部の外周を覆う絶縁層とを有していれば、それ例外の構成は特に限定されない。例えば、導体部と絶縁層とからなる素線(単線ともいう。)であってもよく、複数の素線を撚合わせてなる撚り線(リッツ線ともいう。)であってもよい。
電線が素線である場合、電線は、導体部としての導線と、この導線の外周を覆う絶縁層とを有する。
電線が撚り線である場合、例えば図2を参照して説明すると、電線10Bは複数の素線10aが撚り合わされてなる撚り線部13Aと、撚り線部13Aの外周を(複数の素線10aを一体的に)覆う外部絶縁層14Aとを有している。撚り線部13Aを形成する素線10aは、導線11と、この導線11の外周を覆う素線絶縁層(内部絶縁層ともいう。)12Aを有している。
撚り線において、導体部とは、撚り線の軸線に垂直な断面において、撚り線部の半径方向に対して最外列に配置された複数の素線(図17においては中央に配列された素線以外の6本の素線10a)中の各導線に外接する仮想外接円(図17において破線で示す円)で規定される部分をいう。換言すると、撚り線部の半径方向に対して最外列に配置された素線の、半径方向外側に存在する素線絶縁層を除外した部分それぞれに外接する仮想外接円で規定される部分をいう。また、絶縁層とは、撚り線の軸線に垂直な断面において、上記仮想外接円で規定される部分の外側に存在する層をいう。すなわち、この断面において、撚り線部の半径方向に対して最外列に配置された素線の、半径方向外側に存在する素線絶縁層と外部絶縁層とからなる層をいう。
ここで、上述の、撚り線部の半径方向に対して最外列に配置された素線とは、撚り線部の半径方向に互いに隣接して配置された素線のうち最外列に位置する素線をいう。
本発明のトランスに用いる電線(以下、本発明に用いる電線ということがある。)は、導体部の外径と電線の外径との外径差の0.5倍([電線の外径−導体部の外径]/2、以下、半径差ともいう。)が70〜260μmである。この半径差が小さすぎると導体部の外径が大きくなりすぎるため、交流抵抗の低減が十分ではなく、一方、半径差が大きすぎると導体部の外径が小さくなりすぎるため、交流抵抗の低減は可能であるが、直流抵抗の低減が十分ではなく、いずれにしても直流抵抗と交流抵抗をバランスよく低減できない。すなわち、上述のように、従来、薄い層厚に形成される電線の絶縁層を、上記範囲を満たす厚い層厚に形成することにより、後述する外径比の設定と相まって、直流抵抗と交流抵抗とをバランスよく低減できる。そのため、コイルの抵抗及びトランスの損失を低減できる。更には、コイル及びトランスの小型軽量化にも資すこともできる。
上記トランスの損失低減の点で、上記半径差は、電線が素線の場合、90〜260μmが好ましく、電線がリッツ線の場合、70〜240μmが好ましい。さらに上記半径差が大きいということは絶縁層が厚いということであり、導体に比べて弾性が大きい絶縁層が厚いと、電線同士の接触面が大きくなり、熱抵抗が小さくなる効果も見込まれる。
導体部と電線との半径差は、電線の外径と導体部の外径との差分の半分(図1及び図17に示すDd)であり、導体部よりも外側に形成された絶縁層の厚さ、すなわち、撚り線部の最外列に配置された素線の素線絶縁層と上記外部絶縁層との合計厚さということもできる。
電線の外径は、電線が素線の場合、素線の外径をいい、電線がリッツ線の場合、撚り線の軸線に垂直な断面において、外部絶縁層の外周面に外接する仮想外接円の直径とする。電線の半径は電線の外径の0.5倍とする。電線の外径は、素線の外径や外部絶縁層の厚さ等により調整でき、定法により測定又は算出することができる。
導体部の外径は、電線が素線の場合、後述する導線の外径Dc(図1参照)をいい、電線がリッツ線の場合、撚り線の軸線に垂直な断面において、導体部を規定する上記仮想外接円の直径Dc(図17参照)とする。導体部の半径は導体部の外径Dcの0.5倍とする。導体部の外径Dcは、導線の外径や素線絶縁層の厚さ等により調整でき、定法により測定又は算出することができる。
電線及び導体部の上記断面における仮想外接円が真円でない場合、外径は、それぞれ、仮想外接円と等面積の真円における直径とする。本発明において、仮想外接円の直径という場合、同じとする。
本発明に用いる電線は、導体部の外径と電線の外径との外径比(導体部の外径/電線の外径)が0.48〜0.84である。外径比が小さすぎると、導体径が小さくなりすぎ、直流抵抗が大きくなってしまうため、コイルの抵抗を低減できなくなる。一方、外径比が大きすぎると、コイルのサイズを保持したままでは抵抗の低減は見込めない。すなわち、上記外径比を上記範囲に設定することにより、上述の半径差の設定と相まって、必要によりコイル及びトランスの小型軽量化に応えつつも、直流抵抗と交流抵抗とをバランスよく低減できる。上記のように半径差を大きくすることに対して外径比を小さくすると、大型化を避けるとともに導体部の外径を小さくできる。これにより、直流抵抗の増大が見込まれるが、磁界の影響が低減され、加えて導体部同士の距離が増して近接効果の発生を抑えることができ、交流抵抗を効果的に低減できる。そのため、コイルの抵抗及びトランスの損失を低減できる。
上記トランスの損失低減の点で、上記外径比は、電線が素線の場合、0.48〜0.82が好ましく、電線がリッツ線の場合、0.51〜0.84が好ましい。
電線の外径及び導体部の外径は、上述した通りである。
上記外径比は、電線及び導体部の外径をそれぞれ求め、電線の外径に対する導体部の外径の比を算出することにより、求めることができる。上記外径比は、電線及び導体部の外径をそれぞれ調整することにより、設定できる。
本発明では、上記構成(2)および(3)において、導体部の外径は、0.35mm以上1.00mm未満が好ましい。
なかでも、導体部の外径は、電線が素線である場合、0.35〜0.9mmがより好ましく、0.4〜0.9mmがさらに好ましい。一方、電線がリッツ線の場合である場合、0.35〜0.85mmがより好ましく、0.4〜0.85mmがさらに好ましい。
上記構成(1)〜(3)を満たす電線を低圧大電流側コイルに用いることにより、コイルにおいて、電線間の距離を十分に確保して近接効果を低減でき、しかも直流抵抗値と交流抵抗とのバランスが取れることにより、抵抗値が低減できる。その結果、高周波用高出力トランスの損失を従来のトランスよりも更に低減できる。
低圧大電流側コイルに用いる従来の電線は、上述のように絶縁性能確保のために必要な薄層に形成されている。しかし、本発明では、用いる電線の絶縁層を厚くすることで導体間の距離を大きくし、近接効果を低減して、コイルの抵抗値を低減する。その一方で、単に絶縁層を厚くするだけでは、コイルないしはトランスのサイズが大きくなってしまうので、導体部の外径を細くする。導体部の外径を細くすると、直流抵抗は増加するが、細い分だけ磁界を受けにくくなる要因と、導体間距離が大きくなる要因により近接効果による交流抵抗は低減する。本発明では、上記半径差を満たしたうえで、更に導体部の外径と電線の外径との外径比を特定の範囲に設定することにより、直流抵抗と交流抵抗のバランスを取り、コイルの抵抗値を低減可能とする。上記半径差及び外径比を規定する本発明では、導線を形成する銅等よりも絶縁層を形成する樹脂の使用比率が高くなり、上記抵抗の低減効果及び小型化に加えて、コストダウンを図るという効果も奏する。
本発明に用いる電線の外径は、上記半径差及び外径比を満たす限り特に限定されない。その一例を挙げると、例えば0.5〜1.2mmが好ましい。
本発明に用いる電線において、導体部の外径は、上記半径差及び外径比を満たす限り特に限定されない。その一例を挙げると、例えば0.2〜1.0mmが好ましい。
本発明に用いる電線は、表皮効果を防ぐため、また大電流に必要な導体断面積を確保するため、更にはコイルの大型化を抑制するため、複数の素線を撚り合わせたリッツ線が好ましい。
本発明に用いる電線の断面形状は、特に限定されず、円形でも矩形(平角形状)でもよいが、円形(丸線)が好ましい。
本発明において、電線を形成する層は、いずれも、単層であっても2層以上の複数層であってもよい。本発明において、層の層数は、層を形成する樹脂及び添加剤の種類及び含有量の異同にかかわらず、層を断面観察することによって、決定される。具体的には、ある層の断面を倍率200倍で観察したときに、年輪状の境界を確認できない場合、ある層の総数は1とし、年輪状の境界を確認できる場合、ある層の層数は(境界数+1)とする。
− 素線 −
本発明に用いる電線が素線である場合、この素線は、導線と絶縁層とを有し、上記構成(2)及び(3)を満足するものであれば、それ以外の構成は特に限定されない。
(導線)
導線としては、従来、コイル用等の巻線で用いられているものを使用することができる。好ましくは、酸素含有量が30ppm以下(より好ましくは20ppm以下)の低酸素銅若しくは素銅からなる銅線が挙げられる。
導線の断面形状は、円形でも矩形(平角形状)でもよいが、円形が好ましい。
導線の外径φ(線径)は、上記構成(2)及び(3)を満足するものであれば特に限定されない。
本発明では、特に、リッツ線の場合、0.1〜0.3mmが好ましく、0.15〜0.25mmがより好ましい。
(絶縁層)
素線が有する絶縁層は、導線の外周に形成される。この絶縁層は、樹脂成分として好ましくは熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層(エナメル層ともいう。)を有していることが好ましく、更に、図1に示されるように、エナメル層12Aの外周に、樹脂成分として好ましくは熱可塑性樹脂を含有する外部絶縁層12Bを有していてもよい。
素線絶縁層を形成する熱硬化性樹脂としては、電線で通常用いられる熱硬化性樹脂であれば、特に制限されることなく、用いることができる。例えば、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステルイミド(PEsI)、ポリウレタン(PU)、ポリエステル(PEst)、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂又はエポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリウレタン又はポリエステルが好ましい。熱硬化性樹脂は、1種又は2種以上含有していてもよい。
この素線絶縁層は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
素線絶縁層の厚さは、特に限定されないが、電線間の絶縁性を確保し、更には導線の占積率を高める点で、例えば、8〜18μmが好ましい。
素線絶縁層は、公知の方法により、形成できる。例えば、導線等の外周に、熱硬化性樹脂等の樹脂成分のワニスを塗布して焼付けする方法が好ましい。このワニスは樹脂成分と、溶媒と、必要により、樹脂成分の硬化剤又は各種の添加剤とを含有する。溶媒は、有機溶媒が好ましく、樹脂成分を溶解又は分散できるものが適宜に選択される。
ワニスの塗布方法は、通常の方法を選択することができ、例えば、導線の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有するワニス塗布用ダイスを用いる方法等が挙げられる。ワニスの焼付けは、通常、焼付炉で行われる。このときの条件は、樹脂成分又は溶媒の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、炉内温度400〜650℃にて通過時間を10〜90秒の条件が挙げられる。
素線が有していてもよい外部絶縁層としては、電線が通常有する絶縁層であれば特に限定されない。素線が有していてもよい外部絶縁層は、1本の導線を被覆すること以外は、例えば後述するリッツ線が有する外部絶縁層と同義であり、好ましい態様も同じである。
特に限定されるものではないが、本発明に用いる好ましい素線の一例として図1に示す素線が挙げられる。
この素線10Aは、導線11と、導線11の外周面に配置された素線絶縁層12Aと、素線絶縁層12Aの外周面に配置された外部絶縁層12Bとからなる。この素線10Aにおいて、絶縁層12は素線絶縁層12Aと外部絶縁層12Bとからなる。
− リッツ線 −
リッツ線は、上述のように、複数の素線が撚り合わされてなる撚り線部と、撚り線部の外周を覆う外部絶縁層とを有し、上記構成(2)及び(3)を満足するものであれば、それ以外の構成は特に限定されない。
リッツ線を形成する素線は、上記素線と同義であるが、導線と素線絶縁層とからなるもの(外部絶縁層を有さないもの)が好ましい。
(撚り線部)
撚り線部を形成する素線の数としては、2本以上であれば特に限定されないが、素線の整列性を考えると1本の周囲に6本を配置した7本以上が好ましく、交流抵抗と実用的な加工性を考えると100本以下が好ましい。特に整列性を考えると、より好ましくは7〜37本である。
素線を撚り合わせる際の、素線の配置、撚り方向、撚りピッチ等は、用途等に応じて、適宜に設定できる。
(外部絶縁層)
外部絶縁層は、複数本の素線を被覆する層であればよく、樹脂成分として後述する熱可塑性樹脂を含有する層が好ましい。外部絶縁層の厚さは、上述の半径差及び外径比を満たす限り、特に限定されない。例えば、外部絶縁層の厚さは、52〜252μmが好ましい。
外部絶縁層は、複数本の素線を被覆することができれば、素線の被覆態様等は特に限定されない。この外部絶縁層は、押出成形(押出被覆)することにより形成された層(押出被覆層)が好ましい。
外部絶縁層は、上述のように2層以上の積層構造とすることができるが、好ましくは3層以上、より好ましくは3〜5層の積層構造とすることができる。3層以上の積層構造とすると、電線の十分な沿面距離を確保できるので、本発明のトランスにおいて、通常絶縁性を確保するために用いられる絶縁テープを省略することができる。これにより、トランスの小型化にも効果的である。
外部絶縁層が積層構造を有する場合、各層の厚さは、各層の合計厚さが上述の半径差及び外径比を満たすものであれば特に限定されない。例えば、内側層、中間層及び外側層を有する場合、各層の厚さは13〜130μmが好ましい。各層の厚さは同じでもよく、それぞれが異なっていてもよい。
外部絶縁層は、樹脂成分として、好ましくは熱可塑性樹脂を含有する。熱可塑性樹脂としては、電線又は巻線で通常用いられる熱可塑性樹脂であれば、特に限定されることなく、用いることができる。例えば、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE、変性ポリフェニレンエーテルを含む)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチックの他、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、変性PEEKを含む)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、熱可塑性ポリアミドイミド(TPAI)、液晶ポリエステル等のスーパーエンジニアリングプラスチック、更に、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートをベース樹脂とするポリマーアロイ、ABS/ポリカーボネート、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル/ナイロン6,6、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート等の上記エンジニアリングプラスチックを含むポリマーアロイが挙げられる。熱可塑性樹脂は、1種又は2種以上含有していてもよい。
外部絶縁層が積層構造を有する場合、各層に最大含有量で含まれる樹脂成分は、互いに、同じでも異なるものでもよい。
外部絶縁層は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
外部絶縁層は、撚り線部の外周に、樹脂組成物を押出成形することにより、形成することが好ましい。樹脂組成物は、上述の樹脂成分と、必要により各種の添加剤とを含有する。押出方法は、樹脂成分の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、撚り線部の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有する押出ダイスを用いて、樹脂成分の溶融温度以上の温度で押出す方法が挙げられる。
外部絶縁層は、押出成形に限定されず、上述の熱可塑性樹脂と溶媒等と必要により各種の添加剤とを含有するワニスを用いて、上記エナメル層と同様にして、形成することもできる。
本発明においては、上述のように、従来の電線とは逆に絶縁層の層厚を厚くするものであるから、生産性の点で、外部絶縁層は押出成形により形成することが好ましい。
従来よりも厚い絶縁層を形成する場合、テープ巻きだと旋回する回数が増加し、生産速度が低下する。これに対して、押出成形の場合の加工速度は被覆の厚みに依存しないため、生産速度が低下しない。
また、テープ巻きだと押出被覆層に比べ可撓性が損なわれ、径の小さなボビンに巻線することができなくなる恐れがある。
(リッツ線の構造)
本発明に用いるリッツ線の具体的な構造について、図面を参照して、具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、各図において、電線の輪郭形状を輪環状に図示したが、本発明に用いる電線においては、外側輪郭線の形状は輪環状に限らず適宜に決定できる。例えば、電線の輪郭形状として、円形以外にも、楕円形、平目ローレット状(歯車形状もしくは波形状)等が挙げられる。
本発明に用いる好ましいリッツ線の一例としてリッツ線10Bが挙げられる。
このリッツ線10Bは、図2に示されるように、素線10aを7本撚り合わせてなる撚り線部13Aと、撚り線部13Aの外周を被覆する外部絶縁層14Aとを有する。この撚り線部13Aは、1本の素線10aの周囲に6本の素線10aを配置したパターンで7本の素線10aを撚り合わせてなる。上記6本の素線10aは、いずれも、半径方向に対して最外列に配置された素線であって導体部を確定する素線である。各素線10aは、導線11と、導線11の外周面に配置された素線絶縁層12Aとを有している。
本発明における、電線の絶縁層を厚くして交流抵抗及び直流抵抗をバランスよく低減する方法は、上記構成(2)及び(3)を満たしていればよいので、絶縁層を積層構造とすることもできる。このようなリッツ線として、図3に示されるリッツ線10Cが挙げられる。このリッツ線10Cは、3層積層構造の外部絶縁層14Bを有していること以外は上記リッツ線10Bと同じである。この外部絶縁層14Bを構成する各構成層14b1、14b2及び14b3は、いずれも、同一の厚さに設定されている。なお、本発明においては、積層構造の外部絶縁層において、各構成層の厚さの関係は特に限定されない。
本発明に用いる別の好ましいリッツ線の一例としてリッツ線10Dが挙げられる。
図4に示すリッツ線10Dは、19本の素線10aで形成された撚り線部13Bと、外部絶縁層14Aとを有していること以外は上記リッツ線10Bと同じである。このリッツ線10Dの撚り線部13Bは、リッツ線10Bの撚り線部13Aの外部に、図4に示す断面において六角形となるように合計12本の素線10a(10a−1及び10a−2)を配置して撚り合わせた構造を有している。この配置においては、最外列に配列された12本の素線10aのうち、図4に示す断面において六角形の頂点に位置する6本の素線10a−1が、半径方向に対して最外列に配置された素線であって導体部を確定する素線である。一方、残りの6本の素線、すなわち、図4に示す断面において六角形の各辺中央に位置する6本の素線10a−2は、最外列に配置された素線であって導体部を確定しない素線である。このリッツ線10Dは、リッツ線10Aと同様に、1本の素線の周囲に6本の素線10aを配置したパターンを有するので、導体部の占積率はリッツ線10Bと同様であり、抵抗値を低減できる。ここで、導体部の占積率とは、電線の断面形状における、単位格子の面積に対する導体の断面積の面積率(導体の断面積/単位格子の面積)をいう。電線の単位格子は、電線の断面形状が円形である場合、電線の外形に外接する正六角形とし、電線の断面形状が矩形である場合、電線の外形に外接する四角形をする。
本発明においては、本発明に用いるリッツ線の構造として、上記リッツ線10B〜10Dの各構造を適宜に組み合わせた構造とすることもできる。また、上記リッツ線10B〜10Dにおいて、素線10aの全部又は一部に図1に示す素線を用いることもできる。
<高圧小電流側コイルに用いる電線>
本発明のトランスにおける高圧小電流側コイルに用いる電線は、特に限定されず、トランスの高圧小電流側コイルに用いられる通常の電線を用いることができる。このような電線として、例えば、特許文献1に記載の、2次巻線に用いるリッツ線が挙げられる。また、上述の本発明に用いる電線を用いることもできる。
<コイル>
本発明のトランスが有する低圧大電流側コイルは、上述の、本発明に用いる電線を芯の外周面に巻回したものである。よって、この低圧大電流側コイルは、上述の本発明に用いる電線を用いていること以外は、従来の低圧大電流側コイルと同じである。
低圧大電流側コイルとしては、特に限定されず、例えば、図6又は図11に示されるように、芯6の外周面(ボビン5に形成されたスロット7の内周面)に巻回された、上述の、本発明に用いる電線10A又は10Bを有するコイル4A及び4Bが好ましく挙げられる。図6又は図11において、電線10A及び10Bが有する素線絶縁層12Aは薄層であって導線11の輪郭線と明確に示せないため、図示していない。図5及び図12についても同じ。
また、本発明のトランスが有する高圧小電流側コイルは上述した公知の電線又は本発明に用いる上記電線を、低圧大電流側コイルに用いる電線が巻回された芯の外周面とは異なる外周面に巻回したものである。
本発明において、各電線が巻回される芯(コアともいう。)については、材質(鉄芯、磁性体芯又は空気芯等)やサイズは、用途等に応じて、適宜に選択される。また、電線の巻き方、巻数(2巻以上)及びピッチ等についても、用途等に応じて、適宜に選択される。
<本発明のトランス>
本発明のトランスは、低圧大電流側コイルに上述の本発明に用いる電線を用いていること以外は、従来のトランスと同じである。
トランスとは、交流電力の電圧の高さを、電磁誘導を利用して変換するための装置である。トランスは、一般に、2つのコイル、すなわち、入力側コイル(1次側コイル)及び出力側コイル(2次側コイル)を有している。トランスにおいては、1次側コイルに交流電流を流して交流磁場を発生させ、それを磁気的に結合された2次側コイルが受け取り、再び電流を発生させて、出力する。このときの1次側コイルと2次側コイルとに発生する電圧の比は、各コイルにおける電線の巻き数の比と同じになるので、目的とする電圧の比に応じて、各コイルにおける電線の巻数が決定される。
1次側コイルの電圧が2次側コイルに対して相対的に高く設定されるトランスを降圧トランスという。この降圧トランスでは、1次側コイルに高圧小電流の電流が流れ(高圧小電流側コイル)、2次側コイルに低圧大電流の電流が流れる(低圧大電流側コイル)。一方、1次側コイルの電圧が2次側コイルに対して相対的に低く設定されるトランスを昇圧トランスという。この昇圧トランスでは、1次側コイルに低圧大電流の電流が流れ(低圧大電流側コイル)、2次側コイルに高圧小電流の電流が流れる(高圧小電流側コイル)。
本発明のトランスは、降圧トランス及び昇圧トランスのいずれであっても、低圧大電流側コイルとして、本発明に用いる上記電線を巻回したコイルを用いる。
本発明のトランスは、低圧大電流側コイルとして本発明に用いる上記電線を巻回したコイルを有していれば、その構造又はサイズ等は特に限定されない。例えば、1次側コイル及び2次側コイルは、電流の電圧及び電流値が相対的に決定されるものであるから、低圧大電流側コイルに加えて高圧小電流側コイルとしても、本発明に用いる上記電線を巻回したコイルを用いることもできる。
本発明のトランスにおいて、各コイルに流れる電流は上述のように、用途や特性に応じて、適宜に決定される。特に限定されるものではないが、その一例を挙げると、例えば、低圧大電流側コイルに流れる電流は、電圧が100V以上500V未満であり、電流値が1A以上30A以下であることが好ましく、また、高圧小電流側コイルに流れる電流は、電圧が500V以上4000V以下であり、電流値が0.3A以上1A未満であることが好ましい。
本発明のトランスの構成としては、1次側コイルと2次側コイルとを有していれば原理的に成立するが、通常、電線を巻きつける芯(ボビン)を有することが好ましい。また、1次側コイルと2次側コイルの磁気的な結合を強めるため、ボビンは芯を有していることが好ましく、この芯は磁性体で形成されたもの(空気芯ではない。)が好ましい。
本発明のトランスは、1次側コイルと2次側コイルとを、芯の、異なる外周面に巻き付けて、空間によって絶縁を確保したトランス(分割巻トランスともいう。)である。具体的には、軸線方向に離間する2つのスロット(芯を形成)を有する1つのボビンを用いて、1次側コイルと2次側コイルとをそれぞれ別のスロットに巻きつけて絶縁性を確保した態様が挙げられる。また、1次側コイルと2側次コイルとをそれぞれ別のボビン(通常1つのスロットを有している。)に巻きつけ、これら2つのボビンの軸を揃えて軸方向に一列に配置して、絶縁性を確保した態様が挙げられる。上述の分割巻トランスにより、高周波用高出力であっても、各コイルに巻回した電線の絶縁破壊を避けることができる。分割巻トランスにおいては、芯は、上記各態様のように、一体型であってその異なる外周面に電線が巻回されるものであってもよく、別々の芯を用いたものであって各芯の外周面それぞれに電線が巻回されたものであってもよい。
本発明のトランスにおいて、芯及びボビンは、通常のトランスに用いられる形状、寸法ないしは材料を適宜に選択できる。
本発明のトランスは、上記構成を有していればよく、例えば、図6又は図11で示されるコイル4A及び/又は4Bを有するトランスが挙げられる。本発明のトランスは、低圧大電流側コイルと高圧小電流側コイルとがそれぞれ芯の、異なる外周面に巻回されている。低圧大電流側コイルと高圧小電流側コイルとは、互いの芯の軸線方向に芯(ボビン)が隣接するように配置され、トランスとなっている。低圧大電流側コイルには、芯の外周面に、本発明に用いる電線が巻回され、高圧小電流側コイルには、上述した公知の電線又は本発明に用いる上記電線等が巻き回されている。
本発明の好ましいトランスの一例として、図5に示すトランス1が挙げられる。このトランス1は、1次側コイル2として図11に示す低圧大電流側コイル4Bと、2次コイル3として従来の高圧小電流側コイルとを有し、1次側コイル2と2次側コイル3とは、互いに軸を揃えて軸方向に一列に配置されている。低圧大電流側コイル4Bは、後述するように、ボビン5Aの芯6Aの外周面にリッツ線10Bが巻き回されており、高圧小電流側コイル3は、ボビン5Bの芯6Bの外周面に従来の電線(リッツ線)101が巻き回されている。
本発明のトランスは、低圧大電流側コイルとして上記構成(1)〜(3)を有する電線が巻回されたコイルを有しているから、高周波用高出力トランスであっても、上述のように、損失を効果的に抑えることができる。また、本発明のトランスは、電線の巻回数や、リッツ線の素線数を増大させるのではなく、上記のように導体部及び電線の外径を設定した電線を用いる。よって、コイルやトランスを大型化することなく、近年の小型ないしは軽量化にも応えることができ、またコスト削減にも資することができる。
<用途>
本発明のトランスは、高周波用高出力が求められる用途、更には大電流値の電流が流れる用途に好適に用いられる。例えば、交流の商用電源を変圧して整流し、電気・電子機器に適した電圧の直流に変換する、交流(AC)/直流(DC)コンバータ用としてより好ましく用いられ、具体的には電子レンジ用の電源基板において、マグネトロンに供給するための高電圧を生み出すための各トランスとして好適に用いられる。
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<実施例1>
本例では、本発明に用いる電線として素線を用いた、図6に示すコイル4Aを製造して、評価した。
− 実施例1−1 −
まず、低圧大電流側コイル4Aに用いる、図1に示す電線(素線)10Aを作製した。
外径0.85mmの導線(断面円形の銅線)11の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布して焼き付ける工程にて、厚さ16μmの素線絶縁層(エナメル層)12Aを形成した。その後、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を厚さ77μmになるように押出成形して、外部絶縁層12Bを形成した。これにより、導線11と、合計の厚さ93μmの絶縁層12とを有する電線(素線)10Aを作製した。
作製した電線10Aは、導線(導体部)11の外径が0.85mmであり、絶縁層12の厚さが0.093mmであり、電線10Aの外径(仕上がり径)が1.036mmであった。この電線10Aにおける半径差は93μmであり、外径比は0.82である。また、用いた芯6及びボビン5は電線10Aを巻回す外周面(スロット7の内周面)の直径が30.2mm、軸線長さが6mmであった(図6(概略断面図)に示す芯6及びボビン5の寸法は実施例1−1に記載の上記寸法と正確に一致していない。)。この芯6の外周面に、図6に示すように、上記電線10Aを、5ターンからなる一列を2列(並列数2)、合計10ターン(巻き数)巻回して、低圧大電流側コイル4Aを作製した。
実施例1−2〜1−4
電線の半径差及び外径比を下記のように変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして、実施例1−2〜1−4の低圧大電流側コイル4Aを製造した。
実施例1−2のコイルに用いた電線は、導線(導体部)11の外径が0.8mmであり、絶縁層12の厚さが118μm(エナメル層12Aの厚さは不変とし、外部絶縁層12Bの厚さを変更した。)であり、電線10Aの外径(仕上がり径)が1.036mmであった。この電線10Aにおける半径差は118μmであり、外径比は0.77である。
実施例1−3のコイルに用いた電線は、導線(導体部)11の外径が0.6mmであり、絶縁層12の厚さが218μm(エナメル層12Aの厚さは不変とし、外部絶縁層12Bの厚さを変更した。)であり、電線10Aの外径(仕上がり径)が1.036mmであった。この電線10Aにおける半径差は218μmであり、外径比は0.58である。
実施例1−4のコイルに用いた電線は、導線(導体部)11の外径が0.5mmであり、絶縁層12の厚さが268μm(エナメル層12Aの厚さは不変とし、外部絶縁層12Bの厚さを変更した。)であり、電線10Aの外径(仕上がり径)が1.036mmであった。この電線10Aにおける半径差は268μmであり、外径比は0.48である。
<比較例1>
− 比較例1−1 −
比較例1−1は、半径差が本発明で規定する範囲よりも小さく、かつ外径比が本発明で規定する範囲よりも大きな電線110Aを用いた例である。
電線110Aについて導線の外径を1.0mmとし、かつ素線絶縁層の厚さを18μm(外部絶縁層を設けていない。)に設定したこと以外は、実施例1−1と同様にして、図7に示す比較例1−1の低圧大電流側コイル104Aを作製した。この低圧大電流側コイル104Aにおける電線110Aは、外径(仕上がり径)が1.036mmであり、半径差が18μmであり、外径比が0.97であった。
− 比較例1−2 −
比較例1−2は、半径差が本発明で規定する範囲よりも大きく、かつ外径比が本発明で規定する範囲よりも小さな電線を用いた例である。
電線について導線の外径を0.2mmとし、かつ絶縁層の厚さを418μm(エナメル層12Aの厚さは不変とし、外部絶縁層12Bの厚さを変更した。)に設定したこと以外は、実施例1−1と同様にして、比較例1−2の低圧大電流側コイルを作製した。この低圧大電流側コイルにおける電線は、外径(仕上がり径)が1.036mmであり、半径差が418μmであり、外径比が0.19であった。
<抵抗の測定>
実施例1−1〜1−4並びに比較例1−1及び1−2で製造したコイルを用いて、周波数を変更してコイルに生じる抵抗値を、プレジションLCRメータ(商品名:E4980A、KEY SIGHT TECHNOLOGIES社(旧Agilent社)製)を用いて、測定した。
具体的には、各低圧大電流側コイルの両端部から40mmほどの範囲は、外部絶縁層及び素線絶縁層を剥がしてむき出しになった導線をハンダで覆った。そのハンダ部分をプレジションLCRメータの測定治具に挟みこんで、押さえつけることによって、接触抵抗を十分に小さくし、抵抗値を測定した。得られた抵抗値を、ハンダ部分を除いたコイル長さで割って、1mあたりの抵抗値(Ω/m)を算出した。
30Hz、50Hz及び150Hzの周波数における抵抗値について、外径比との関係を図8〜図10に示した。なお、図8〜図10においては、比較例1−2の低圧大電流側コイルに発生した抵抗値は表1に示すように大きすぎるため、図示していない。
実施例1及び比較例1において、抵抗値と半径差との関係については、各図において、横軸を半径差とすることにより、理解できる。
また、各周波数において、実施例1−1〜1−4の最小となる抵抗値を表1に示した。具体的には、周波数が30kHzの場合、実施例1−1で作製した低圧大電流側コイル4Bの抵抗値を、周波数が50kHzの場合、実施例1−3で作製した低圧大電流側コイル4Bの抵抗値を、周波数が150kHzの場合、実施例1−4で作製した低圧大電流側コイル4Bの抵抗値を示した。
更に、上記の最小となる各抵抗値について、比較例1−1及び1−2のコイルの各抵抗値に対する抵抗比(実施例コイルの最小となる抵抗値/比較例のコイルの抵抗値)を表1に示す。
なお、抵抗比は下記の対応する抵抗値から求め、小数点以下5桁を四捨五入した値である。
Figure 2018190980
図8〜図10及び表1から以下のことが分かる。
30kHz以上の高周波数では、近接効果が無視できなくなるものの、低圧大電流側コイルに用いる電線の半径差及び外径比が本発明で規定する特定の範囲内にあると、直流抵抗と交流抵抗のバランスがよくなり、比較例1−1及び1−2に対して、抵抗値を小さく抑えることができている。また、周波数が高くなるほど近接効果が大きくなってコイルに生じる抵抗値も増大するが、実施例1の低圧大電流側コイルは、比較例1−1のコイルに対する抵抗比について周波数が高くなるほど小さくなっており、抵抗値の低減効果に優れることが分かる。インバータ式電子レンジに使われる昇圧トランスの場合、30〜150kHzの作動周波数が一般的である。したがって、インバータ式電子レンジに実施例1の上記低圧大電流側コイルを有する昇圧トランスを用いると、低圧大電流側コイルの抵抗を効果的に低減でき、昇圧トランスの損失を低減できることが分かる。
<実施例2>
本例では、本発明に用いる電線として図3に示すリッツ線10Cを用いた、図11に示すコイル4Bを製造して、評価した。
− 実施例2−1 −
次のようにして作製した素線を用いて撚り線部13Aを作製した。
まず、外径0.25mmの導線(断面円形の銅線)11の表面にポリウレタン樹脂ワニスを塗布して焼き付ける工程にて、厚さ11μmの素線絶縁層(エナメル層)12Aを有する素線10aを作製した。作製した素線10aは、導線11の外径が0.25mmであり、素線絶縁層12Aの厚さが11μmであり、素線10aの外径(仕上がり径)が0.272mmであった。
このようにして作製した1本の素線10aを中心として、その周囲に6本の素線10aを配置した状態で、これら素線10aを撚りピッチ18mmで撚り合わせて、撚り線部13Aを作製した。
次いで、この撚り線部13Aの外周にPET樹脂を厚さ26μmとなるように押出成形した。この押出成形を3回繰り返して、撚り線部13Aと、厚さ78μmの外部絶縁層14Bからなる3層構造の押出被覆層とを有する電線(リッツ線)10Cを製造した。このリッツ線10Cにおける導体部の外径は0.794mmであり、リッツ線10Cの外径(仕上がり径)は0.972mmであった。よって、半径差は89μmであり、外径比は0.82であった。
用いた芯6及びボビン5は、リッツ線10Cを巻回す外周面の直径が30.2mm、軸線長さが6mmであった(図11(概略断面図)に示す芯6及びボビン5の寸法は実施例2−1に記載の上記寸法と正確に一致していない。)。この芯6の外周面に、図11に示すように、上記リッツ線10Cを一列が5ターンからなる二列を2並列(並列数2)、合計20ターン(巻き数)で巻回して、低圧大電流側コイル4Bを作製した。
実施例2−2及び2−3
リッツ線の半径差及び外径比を下記のように変更したこと以外は、実施例2−1と同様にして、実施例2−2〜2−4の低圧大電流側コイル4Bを製造した。
実施例2−2のコイルに用いた電線は、導線11の外径が0.2mmであり、素線絶縁層12Aの厚さが10μmであり、素線10aの外径が0.22mmであった。また、リッツ線10Cにおける導体部の外径は0.64mmであり、リッツ線10Cの外径(仕上がり径)は、外部絶縁層14Bの厚さを調整して0.972mmとした。よって、半径差は166μmであり、外径比は0.66であった。
実施例2−3のコイルに用いた電線は、導線11の外径が0.15mmであり、素線絶縁層12Aの厚さが8μmであり、素線10aの外径が0.166mmであった。また、リッツ線10Cにおける導体部の外径は0.482mmであり、リッツ線10Cの外径(仕上がり径)は、外部絶縁層14Bの厚さを調整して0.972mmとした。よって、半径差は245μmであり、外径比は0.50であった。
<比較例2>
− 比較例2−1 −
比較例2−1は、半径差が本発明で規定する範囲よりも小さく、かつ外径差が本発明で規定する範囲よりも大きな電線110Bを用いた例である。
素線について、導線の外径を0.3mm、素線絶縁層の厚さを9μmとし、導体部の外径を0.936mm、リッツ線110Bの外径を外部絶縁層の厚さを調整して0.972mmに設定したこと以外は、実施例2−1と同様にして、図12に示す比較例2−1の低圧大電流側コイル104Bを作製した。この低圧大電流側コイル104Bにおける電線110Bは、半径差が18μmであり、外径比が0.96であった。
− 比較例2−2 −
比較例2−2は、半径差が本発明で規定する範囲よりも大きく、かつ外径差が本発明で規定する範囲よりも小さな電線を用いた例である。
素線について、導線の外径を0.1mm、素線絶縁層の厚さを7μmとし、導体部の外径を0.328mm、リッツ線の外径を外部絶縁層の厚さを調整して0.972mmに設定したこと以外は、実施例2−1と同様にして、比較例2−2の低圧大電流側コイルを作製した。この低圧大電流側コイルにおける電線は、半径差が322μmであり、外径比が0.34であった。
<抵抗の測定>
実施例2−1〜2−3並びに比較例2−1及び2−2で製造したコイルを用いて、実施例1と同様にして、周波数を変更してコイルに生じる抵抗を測定した。
30Hz、50Hz及び150Hzの周波数における抵抗値について、外径比との関係を図13〜図15に示した。なお、図13及び図14においては、比較例2−2の低圧大電流側コイルに発生した抵抗値は表2に示すように大きすぎるため、図示していない。
実施例2及び比較例2において、抵抗値と半径差との関係については、各図において、横軸を半径差とすることにより、理解できる。
また、各周波数において、実施例2−1〜2−3の最小となる抵抗値を表2に示した。具体的には、周波数が30kHzの場合、実施例2−1で作製した低圧大電流側コイル4Bの抵抗値を、周波数が50kHzの場合、実施例2−2で作製した低圧大電流側コイル4Bの抵抗値を、周波数が150kHzの場合、実施例2−3で作製した低圧大電流側コイル4Bの抵抗値を示した。
更に、上記の最小となる各抵抗値について、比較例2−1及び2−2のコイルの各抵抗値に対する抵抗比(実施例のコイルの最小となる抵抗値/比較例のコイルの抵抗値)を表2に示す。
Figure 2018190980
実施例2のコイルは、実施例1のコイルよりも素線の使用数(巻回数)が多くなっているので、電線間の近接効果が強まって大きな交流抵抗が発生する。しかし、図13〜図15及び表2に示されるように、本発明で規定する電線を巻き回した低圧大電流側コイルは、実施例1と同様に、30kHz以上の高周波数において、抵抗値の増大を抑えることができている。また、周波数が高くなるほど比較例2−1のコイルに対する抵抗比が小さくなり、抵抗値の低減効果に優れている。したがって、インバータ式電子レンジに実施例2の上記低圧大電流側コイルを有する昇圧トランスを用いると、低圧大電流側コイルの抵抗を効果的に低減でき、昇圧トランスの損失を低減できることが分かる。
<実施例3>
実施例2で製造したコイルと、特許文献1に記載のトランスに用いたコイル(特許文献1のコイルという。)との比較を行った。
実施例2で製造したコイルは、上述の通りである。実施例3においては、周波数を30kHzに設定した場合、実施例2−1で作製した低圧大電流側コイル4Bを使用した。同様に、周波数を50kHzに設定した場合、実施例2−2で作製した低圧大電流側コイル4Bを使用し、周波数を150kHzに設定した場合、実施例2−3で作製した低圧大電流側コイル4Bを使用した。
特許文献1のコイルは、特許文献1の段落[0010]に記載の電線を用いたこと以外は、実施例2−1と同様にして、製造した。特許文献1の段落[0010]に記載の電線は、半径差が33μmで外径比が0.83である。
上記コイルについて、実施例1と同様にして、周波数を変更してコイルに生じる抵抗を測定した。
30Hz、50Hz及び150Hzの周波数における抵抗値と、特許文献1のコイルの抵抗値に対する、実施例2で製造したコイルの抵抗値の比(実施例2で製造したコイルの抵抗値/特許文献1のコイルの抵抗値)を、表3に示す。
Figure 2018190980
表3から明らかなように、特許文献1に記載の電線を低圧大電流側コイルに用いても、抵抗値の増大を十分に抑制できない。これに対して、本発明で規定する電線を低圧大電流側コイルに用いると、いずれの周波数であっても、抵抗値の増大を効果的に抑制でき、特許文献1に記載の電線を用いたコイルに対して抵抗値の低減効果が高く(抵抗比が大きく)、トランスの損失を効果的に抑制できることが分かる。
<実施例4>
実施例2と同様にして下記方法により製造した電線(リッツ線)10Cを巻き回したコイルを作製し、抵抗値を測定した。また、比較用のコイルとして、スチームレンジER−ND7(商品名、作動周波数30Hz、出力1430W、東芝製)に内蔵されたトランスの低圧大電流側コイルについても、抵抗値を測定した。
更に、下記のようにして製造した実施例4の低圧大電流側コイルを、上記スチームレンジに搭載してあるトランスの低圧大電流側コイルとして装着(本発明のトランスを作製)して、スチームレンジの損失を測定した。なお、高圧小電流側のコイルは、上記スチームレンジに搭載されたトランスのものをそのまま用いた。スチームレンジの損失は、スチームレンジを最大出力の設定にて1分間作動させたときの入力から出力を引くことで、算出した。入力のワット数は電力計:パワーハイテスタ3334(商品名、日置電機社製)を用いて測定し、出力のワット数は1分間に加熱された水の温度上昇から算出した。
− 実施例4の電線及びコイルの製造 −
実施例4に用いる電線として図3に示すリッツ線10Cを製造した。
外径0.18mmの導線(断面円形の銅線)11の表面に、ポリウレタン樹脂ワニスを塗布して焼き付ける工程により、厚さ0.010mmの素線絶縁層12Aを有する素線10aを作製した。作製した素線10aは、導線11の外径が0.18mmであり、素線絶縁層12Aの厚さが0.010mmであり、素線10aの外径(仕上がり径)が0.20mmであった。
このようにして作製した1本の素線10aを中心として、その周囲に6本の素線10aを配置した状態で、これら素線10aを撚りピッチ18mmで撚り合わせて、撚り線部13Aを作製した。
次いで、この撚り線部13Aの外周にPET樹脂を押出成形した。この押出成形を3回繰り返して、撚り線部13Aと、厚さ0.10mmの外部絶縁層(3層構造の押出被覆層、各構成層の厚さは同じ。)14Bを有する電線(リッツ線)10Cを製造した。このリッツ線10Cにおける導体部の外径は0.58mmであり、リッツ線10Cの外径(仕上がり径)は0.8mmであった。よって、半径差は110μmであり、外径比は0.73である。
用いた芯は、リッツ線10Cを巻回す外周面の直径が22mm、軸線長さが15mmであった。上記電線10Cを10本束ねて撚りピッチ10mmで撚り合わせたものを、この芯の外周面に5ターン巻き付け、折り返して更に4ターン、折り返して5ターン、折り返して4ターンの合計4層18ターンを巻きつけ、低圧大電流側コイルを作成した。
比較用の低圧大電流側のコイルとして、上記電子レンジにもともと搭載してあるコイルを比較対象とした。このコイルに巻き回されている電線は外径0.20mmの導線(断面円形の銅線)の表面に厚さ0.017mmの素線絶縁層を有する素線16本を撚りピッチ10mmで撚り合わせたものであった。この電線における外径(仕上がり径)は1.17mmであり、半径差は17μmであり、外径比は0.97である。
実施例4で用いた芯と同じ芯の外周面に、上記比較用のリッツ線5本を束ねて撚りピッチ10mmで撚り合わせたものを、この芯の外周面に5ターン巻き付け、折り返して更に4ターン、折り返して5ターン、折り返して4ターンの合計4層18ターンを巻きつけ、低圧大電流側コイルを製造した。
実施例4の低圧大電流側コイル及び比較用の低圧大電流側コイルについて、実施例1と同様にして、低圧大電流側コイルに生じる抵抗値を測定した。その結果を図16に示す。
図16から、実施例4の低圧大電流側コイルは、比較用の低圧大電流側コイルに対して、周波数が50Hz以上において抵抗値が小さくなることが分かる。ここで、電子レンジの作動周波数は30kHzであるが、矩形波であるため、90kHzや150kHzの高調波が載っている。そのため、実際の周波数は、平均すると50kHz程度となる。よって、実施例4の低圧大電流側コイルは、高周波トランスに用いられると、その損失を低減できることが分かる。
しかも、実施例4で作製した電線10Cは、比較用の低圧大電流側コイルに用いた電線よりも、導線量(銅使用量)が質量比で30%も少ない。そのため、実施例4で製造した低圧大電流側コイル及びトランスは、比較用のコイル及びトランスに対して、小型軽量で廉価なものとなる。
実施例4及び比較用のコイルを低圧大電流側コイルとしてトランスに組み込んで、電子レンジを最大出力で1分間作動させたときの電子レンジの損失を測定した。その結果、比較用のコイルを用いた場合も、実施例4のコイルを用いた場合も、損失は621Wとなり、効率は46%であった。このように、実施例4の低圧大電流側コイルは、比較用の低圧大電流側コイルに対して、小型軽量であっても同等の性能を示し、更には廉価に製造できることも分かる。言い換えると、実施例4の低圧大電流側コイルを、比較用の低圧大電流側コイルと同じ銅使用量となるように巻線数(並列数)を増やして用いる場合、上記導線量からすると10/7だけ増やせることになるので、抵抗値はその逆数の7/10になる。つまり、実施例4のコイルに発生する抵抗値を、比較用の低圧大電流側コイルに対して、30%も小さくできることが分かる。
実施例1〜4により、本発明で規定する電線を用いたコイルは、低圧大電流側コイルとしてトランスに用いられると、小さな抵抗を示し、トランスの損失を効果的に低減できることが分かる。
実施例1〜4は、いずれも、昇圧トランスを製造し、その優れた特性を評価した。この昇圧トランスについて上述の優れた特性が得られていれば降圧トランスについても同様に優れた特性を発揮することが分かる。
1 トランス
2 一次側コイル
3 二次側コイル(高圧小電流側コイル)
4A、4B、104A、104B (低圧大電流側)コイル
5、5A、5B ボビン
6、6A、6B 芯
7 スロット
10A、110A 電線(素線)
10B、10C、10D、101、110B 電線(リッツ線)
11 導線
12 絶縁層
12A 素線絶縁層(エナメル層)
12B 外部絶縁層
13A、13B 撚り線部
10a 素線
10a−1 半径方向に対して最外列に配置された素線であって導体部を確定する素線
10a−2 半径方向に対して最外列に配置された素線であって導体部を確定しない素線
14A、14B 外部絶縁層
14b1、14b2、14b3 構成層
Dc 導体部の外径
Dd 外径差/2(半径差)

Claims (7)

  1. 芯の、異なる外周面に巻回された電線を有してなる1次側コイル及び2次側コイルを備えた高周波用高出力トランスであって、
    前記1次側コイル及び前記2次側コイルのうち低圧大電流側コイルが有する前記電線が、導体部と該導体部の外周を覆う絶縁層とを有し、前記導体部の外径と前記電線の外径とについて、外径差/2([電線の外径−導体部の外径]/2)が70〜260μmの範囲にあり、外径比(導体部の外径/電線の外径)が0.48〜0.84の範囲にある高周波用高出力トランス。
  2. 前記導体部の外径が、0.35mm以上1.00mm未満である請求項1に記載の高周波用高出力トランス。
  3. 前記電線が、素線またはリッツ線であって、素線の場合、前記導体部の外周を覆う絶縁層が、導線からなる該導体部に接した絶縁層であって、かつ、熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層であり、リッツ線の場合、導線に接して熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層を有する撚り線を含む請求項1または2に記載の高周波用高出力トランス。
  4. 前記熱硬化性樹脂を含む素線絶縁層の厚さが、8〜18μmである請求項3に記載の高周波用高出力トランス。
  5. 前記導体部の外周を覆う絶縁層が2層以上の層構成を有し、このうち最外層の絶縁層が熱可塑性樹脂を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の高周波用高出力トランス。
  6. 前記導体部の外周を覆う絶縁層が、3層以上の層構成を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の高周波用高出力トランス。
  7. 前記導体部の外周を覆う絶縁層が、押出被覆層である請求項1〜6のいずれか1項記載の高周波用高出力トランス。
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