以下に本発明を実施するための形態を説明する。なお、本発明はこれら実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。実施形態1にて、主として請求項1から請求項7に係る発明を説明する。実施形態2にて、主として請求項8から請求項12に係る発明を説明する。
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要>
出願人はすでに特許の評価装置等として、特許5655305号「特許力算出装置及び特許力算出装置の動作方法」、特許5655275号「企業成長性予測指標算出装置及びその動作方法」、特許5581555号「特許力加重指数算出装置及び特許力加重指数算出装置の動作方法」、特許5273840号「特許力算出装置及び特許力算出装置の動作方法」の各発明(以下「特許経済指標算出発明」という。)について特許取得している。本発明はこれらの装置が時間的に静的な解析を行うものであったのに対し、動的に解析を行い、企業の経営者、金融機関の関係者、企業の知的財産部門の従事者に特許に基づいた経済指標に関する情報の将来変化を容易に取得できるように構成した。
企業の経営者や金融機関の関係者にとって企業の経済的将来予想をすることは重要な要素である。しかし一般に企業を評価する指標は財務指標であり、過去の企業活動を反映する情報でしかない。
しかしながら特許経済指標算出発明は、いまだに財務指標に反映されていない特許力を算出することができるものであり、企業の経済的将来を予測する指標としては極めて優れている。
一方、特許に基づく経済的指標は徐々に社会に普及してきたが、未だ十分に利用されているとは言えない。その理由は直感的に理解しずらいからであると思われる。直感的に理解しずらい理由は特許経済指標算出発明などで算出される指標であるYK値や、YK3値と、種々の経済指標とのダイナミックな動きを肌で感じられないからであると思われる。
つまり、特許などの経済的影響を与える原因と、結果としての種々の経済指標との関係を静的な断面表示とすると、違和感を覚えるとともにどう表現するべきか迷うためであると考えられる。
また経済的指標どうしの相関は従来から経験則に基づいて把握されており、原因と最終結果に至る途上での中間結果も予測でき、原因と結果の因果関係を説明するために大きな困難性は伴わないが、特許力(YK値、YK3値など)と最終結果としてレポートされる経済指標との関係では原因と最終結果に至る途上での中間結果も見えず、原因と結果との因果関係を説明するために大きな困難を感じがちである。
そこで本発明においては原因と結果(中間結果)との因果関係をスムーズに把握することができるように時間変数を入力することで、各時間の断面を順次出力可能な装置とした。
さらに、現時点のみでなく、将来にわたった経済指標、経営効率指標の予測を可能とした。
これによって企業の立場に立つ者、企業を評価する立場に立つ者の双方が企業の将来の経済的な姿を容易にかつ直感的に理解し、情報の活用が可能となった。
<実施形態1:構成>
特許力シミュレーション装置は、特許(出願中のものを含む場合がある。以下同じ)に対して第三者が特許の成立阻止等を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、閲覧請求手続、情報提供手続など)または/及び成立した特許の消滅等を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、特許無効審判請求手続、特許取消のための手続など)である攻撃アクションに個別に関連付けられているイニシャルコストをその攻撃アクションの実行された時期である攻撃時期に関連付けて特許ごとに取得するとともに、特許の属する技術分野ごとに準備されている出願からの時の経過に応じた特許力の陳腐化度合を示す陳腐化関数を用いて特許力の算定シミュレーション時期までにイニシャルコストを陳腐化した値である陳腐化後コストを、その特許に対して算定シミュレーション時期までになされた全ての攻撃アクションについて合算して特許力シミュレーション値を算出する特許力シミュレーション装置であって、算定シミュレーション時期を可変入力可能な算定シミュレーション時期可変入力部と、可変入力された算定シミュレーション時期に応じて特許力シミュレーション値を出力する特許力シミュレーション値出力部と、を有する特許力シミュレーション装置である。特許が消滅した時期が算定シミュレーション時期である場合にはその特許シミュレーション値はゼロになる。
<特許力シミュレーション装置 実施形態1 その1>
<特許力シミュレーション装置のプリアンブル部分>
特許力シミュレーション装置のプリアンブル部分、すなわち、「特許力シミュレーション装置は、特許(出願中のものを含む場合がある。以下同じ)に対して第三者が特許の成立阻止等を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、閲覧請求手続、情報提供手続など)または/及び成立した特許の消滅等を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、特許無効審判請求手続、特許取消のための手続など)である攻撃アクションに個別に関連付けられているイニシャルコストをその攻撃アクションの実行された時期である攻撃時期に関連付けて特許ごとに取得するとともに、特許の属する技術分野ごとに準備されている出願からの時の経過に応じた特許力の陳腐化度合を示す陳腐化関数を用いて特許力の算定シミュレーション時期までにイニシャルコストを陳腐化した値である陳腐化後コストを、その特許に対して算定シミュレーション時期までになされた全ての攻撃アクションについて合算して特許力シミュレーション値を算出する特許力シミュレーション装置」の部分はすでに特許取得した発明を基礎とし、以下のように説明できる。
例えば、整理標準化データを取得する整理標準化データ取得部と、取得した整理標準化データに記述されている特許(出願中のものも含む場合がある。以下同じ)に対して取られた法律的手続(攻撃に該当する手続)を示す標準項目名称の組合せを予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により検索し、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容をその手続日と関連付けて抽出する項目内容抽出部と、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を検索された標準項目名称の組合せに関連付けて保持する検索結果保持部と、特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せに関連付けて保持されている項目内容の組合せごとに予め準備されているコストを対応付けたコスト表を保持するコスト表保持部と、技術分野ごとにその技術の陳腐化の目安となる陳腐化関数を格納した陳腐化関数格納部と、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得するとともに、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日と、この特許が属する技術分野の陳腐化関数とを用いて算定基準日における陳腐化後コストを算出する陳腐化後コスト算出部と、算出された陳腐化後コストを特許について全て合算する合算部と、合算部にて得られた合算値を出力する出力部と、
を有する特許力算出装置。
あるいは、特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せに関連付けて保持されている項目内容の組合せごとに予め準備されているコストを対応付けたコスト表を保持するコスト表保持部と、技術分野ごとにその技術の陳腐化の目安となる陳腐化関数を格納した陳腐化関数格納部と、を備えた特許力算出装置の動作方法であって、整理標準化データを取得する整理標準化データ取得ステップと、取得した整理標準化データに記述されている特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せを予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により検索し、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容をその手続日と関連付けて抽出する項目内容抽出ステップと、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を検索された標準項目名称の組合せに関連付けて保持する検索結果保持ステップと、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得するとともに、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日と、この特許が属する技術分野の陳腐化関数とを用いて算定基準日における陳腐化後コストを算出する陳腐化後コスト算出ステップと、算出された陳腐化後コストを特許について全て合算する合算ステップと、合算部にて得られた合算値を出力する出力ステップと、を有する特許力算出装置の動作方法である。
具体的には 「整理標準化データ取得部」は、整理標準化データを取得する機能を有する。整理標準化データとは、特許庁が保有している審査経過情報等の各種情報を整理標準化して加工したものである。整理標準化データを参照することにより、出願日、出願人、発明者、権利者などの情報や、出願審査請求の有無や審査経過の状況などを知ることが可能である。
「項目内容抽出部」は、取得した整理標準化データに記述されている特許に対して取られた法律的手続(攻撃的手続)を示す標準項目名称の組合せを予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により検索し、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容をその手続日と関連付けて抽出する機能を有する。
ここで、特許に対して取られた法律的手続とは、閲覧請求、情報提供、無効審判請求、特許異議申立などの攻撃アクションのことである。
特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せとは、例えば、特許に対して無効審判という法律的手続が取られた場合には、審判種別、審判最終処分種別、審決の決定記事の結論、などの標準項目名称の組合せである。この組合せにより、整理標準化データをパターンマッチング処理することにより無効審判という法律的手続を検索する。整理標準化データ中においては、無効審判という法律的手続を検索しその結果を知るためのデータが散在しているため、パターンマッチング処理をして項目内容等を抽出する必要がある。
次に、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容を抽出する方法を説明する。例えば、標準項目名称「審判種別」に対する項目内容は、「112(全部無効(新無効))」であり、標準項目名称「審判最終処分種別」に対する項目内容は、「02(請求不成立)」であり、標準項目名称「審決の決定記事」の「結論」に対する項目内容は、「Y(無効としない)」である。 そして、これらの項目内容とともに手続が行なわれた日付も関連づけて抽出する。例えば、無効審判であれば「審判請求日」を抽出する。
「検索結果保持部」は、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を検索された標準項目名称の組合せに関連付けて保持する機能を有する。つまり、図2を例にすると、項目内容として112 (全部無効(新無効))、02 (請求不成立)、Y(無効としない)を標準項目名称の組合せに関連づけて、手続日として2004/04/01を同じく標準項目名称の組合せに関連づけて保持する。保持されている検索結果を参照すれば、特許に対して取られた法律的手続である無効審判の審判請求日、審判種別、審判最終処分種別、審決の決定記事の結論が分かる。
「コスト表保持部」は、標準項目名称の組合せに関連付けて保持されている項目内容の組合せごとに予め準備されているコストを対応付けたコスト表を保持する機能を有する。標準項目名称の組合せが示されている。例えば、無効審判に対する標準項目名称の組合せは、審判種別、審判最終処分種別、審決の決定記事、などである。そして一例としては、無効審判が起きて、最終処分が請求不成立であり、さらに、審決が無効としないというものであった場合である。この場合には、第三者が無効審判にかけたコスト、例えば、1,000,000(百万)円をコストとしてコスト表に保持する。また、無効審判が起きて、最終処分が請求成立であり、さらに、審決が無効とするというものであった場合である。この場合には、特許は無効となり、当該特許に価値はないものと考え、コストとしてゼロをコスト表に保持する。コスト表に記述されているコストは金銭単位であってもよいし、適当な値で割算した値や、その法律手続に対応する指数などであっても良い。コスト表は昔の特許事務標準額表(弁理士会作成)を利用することができる。
「陳腐化関数格納部」は、技術分野ごとにその技術の陳腐化の目安となる陳腐化関数を格納した機能を有する。 陳腐化関数は、次のようにして求める。ある技術分野において、出願から何年目に特許権が消滅したかという統計をとったグラフである。縦軸は消滅した特許権の割合で、横軸は出願からの年数である。この統計データは、出願のときを起点としていることがひとつの特徴である。当たり前のことかもしれないが、技術の陳腐化は権利が登録されたときから始まるのではなく、発明がなされたときをピークに始まるものであると考えたからである。ゆえに、発明の瞬間を起点とするのが最も正しいと思われるが、その統計をとることはできないので、出願のときを起点とする。詳しく見てみると、出願から4年目ぐらいまでに消滅する特許権はほぼ0(ゼロ)であり、その後、徐々に消滅する特許権が増えているのが分かる。そして、出願から20年目に登録特許のうち25%〜30%にあたる特許権が消滅する。これは、特許権の存続期間が原則として出願から20年であることによる。もし、存続期間が20年よりも長い場合にはもっと長い期間維持されたであろう特許権が20年目にすべて消滅しているのである。20年目に技術の陳腐化が一気に起こったわけではない。そこで、この20年目に消滅した特許権は20年目以降の数年間に渡って徐々に消滅していくものであったとの仮説に則って、所定の割合で年々消滅していくであろうとの予測をした。これが技術の陳腐化を表す大元となるグラフである。陳腐化関数は、陳腐化の各年の量を正規分布で近似し、「1−正規累積分布」を計算した関数である。この関数の曲線が陳腐化関数である。これは、技術価値陳腐化曲線ということもできる。ここで、消滅した特許権の割合を正規分布で近似する理由を簡単に説明する。登録されている特許同士は、それぞれについて進歩性の判断がなされて成立している。つまり、技術の進歩に伴ってある特許が陳腐化したことに起因して、他の特許が陳腐化することはない。よって、各特許は独立していると考えられ正規分布で近似することが可能である。
存続期間が20年という区切りがないとすれば、出願から25年程度でほとんどすべての特許が維持する価値を失う。このグラフの特徴は、最初の数年間ほとんど陳腐化しないが平均的な特許が消滅する年数に近づくにつれてその陳腐化のレートが加速し、平均消滅年数を通過するとまた、陳腐化レートが緩やかになることである。この関数を、技術分野ごとに算出し、陳腐化関数として格納している。
「陳腐化後コスト算出部」は、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得するとともに、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日とこの特許が属する技術分野の陳腐化関数とを用いて算定基準日における陳腐化後コストを算出する機能を有する。
まず、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得する方法を説明する。図3に示したように、コスト表保持部には、法律的手続きを示す標準項目名称の組合せに応じた項目内容の組合せごとにコストが保持されている。そこで、抽出した項目内容の組合せによりコスト表を検索し、合致する組合せのコストを取得する。
次に、陳腐化関数を利用して陳腐化後コストを算出する方法を図5を用いて説明する。まず、特許が属する技術分野を取得し、それに対応する陳腐化関数を取得する。そして、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日とを取得する。遡及出願の場合には出願日として原出願日を取得する設定であっても良い。その理由は、先述の通り、技術の陳腐化は権利が登録されたときから始まるのではなく、発明がなされたときをピークに始まるものであると考えるからである。
ある特許権について、出願からα年目に特許無効審判が請求されたが、維持審決がでたとする。そして、コスト表によるとその一連の手続が100ポイントであったとする。さらに、算定基準日が出願からβ年目であるとする。この場合において、α年の技術価値残存係数をT(α)、β年目の技術価値残存係数をT(β)とおくと、算定基準日における陳腐化後コストは、陳腐化後コスト=100×T(β)/T(α)として算出することができる。
算定基準日を現在として考えると、アクション日(α年)が出願から2年で現在(β年)が出願から3年であれば、ほとんど陳腐化はしないことになる。そして、アクション日(α年)が出願から2年で現在(β年)が出願から15年であれば、陳腐化は大きい。つまり、昔に起きた法律的手続きであるほど現在における陳腐化後コストに引き直すと小さい値となる。
「合算部」は、算出された陳腐化後コストを特許について全て合算する機能を有する。これにより、1つの特許についての特許力を算出することが可能である。
「出力部」は、合算部にて得られた合算値を出力する機能を有する。得られた合算値をさらに特許保有企業ごとに足し合わせ、企業間の特許力の関係をみることも可能である。このように、「出力部」が出力する合算値は、合算値をさらに意味のある集団単位で足し合わせたものであってもよい。
構成要素である各部の全部又は一部は、ハードウェア、ソフトウェア、ハードウェアとソフトウェアの両方のいずれかによって構成される。例えば、これらを実現する一例として、コンピュータを利用する場合には、CPU、バス、メモリ、インタフェース、周辺装置などで構成されるハードウェアと、それらハードウェア上で実行可能なソフトウェアがある。ソフトウェアとしては、メモリ上に展開されたプログラムを順次実行することで、メモリ上のデータや、インタフェースを介して入力されるデータの加工、保存、出力などにより各部の機能が実現される。
さらに具体的には、コンピュータがCPU、RAM、ROM、入出力インタフェース(I/O)、HDD、等から構成されており、それらがシステムバス等のデータ通信経路によって相互に接続され、情報の送受信や処理を行なう。
また、RAMは、各種処理を行なうプログラムをCPUに実行させるために読み出すと同時にそのプログラムのワーク領域を提供する。また、RAMやROMにはそれぞれ複数のメモリアドレスが割り当てられており、CPUで実行されるプログラムは、そのメモリアドレスを特定しアクセスすることで相互にデータのやり取りを行い、処理を行なうことが可能になっている。
まず、特許力算出装置の電源が起動されると、CPUは、ROM等の記憶装置に保持されている整理標準化データ取得プログラム、項目内容抽出プログラム、検索結果保持プログラム、陳腐化後コスト算出プログラム、合算プログラム、出力プログラム等の各種プログラムをRAMのワーク領域に展開する。
そしてCPUは、整理標準化データ取得プログラムを実行し、評価対象特許の整理標準化データを取得する。取得した整理標準化データはRAMの記憶データ領域に保持される。次に、CPUは、項目内容抽出プログラムを実行し、ROM等の記憶領域に保持されているパターンファイルをRAMの記憶データ領域に読み込む。パターンファイルには、特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せが予め準備されている。そして、パターンファイルを利用したパターンマッチング処理により、法律的手続きを示す標準項目名称の組合せを検索する。そして、標準項目名称の組合せに対応する項目内容および手続日を抽出する。次に、CPUは、検索結果保持プログラムを実行し、抽出した項目内容と手続日を標準項目名称の組合せと関連付けをして、RAMの記憶データ領域に保持する。次に、CPUは、陳腐化後コスト算出プログラムを実行する。
このとき、CPUは、ROM等の記憶領域に保持されているコスト表、陳腐化関数をRAMの記憶データ領域に読み込む。そして、コスト表を検索することにより、記憶データ領域に保持されている検索結果に対応するコストを取得する。さらに、特許が属する技術分野に対応する陳腐化関数を用いて陳腐化後コストを算出する。算出された陳腐化後コストはRAMの記憶データ領域に保持される。そして、CPUは、合算プログラムを実行し、RAMの記憶データ領域に保持されている陳腐化後コストを特許について全て合算する。算出された合算値は、RAMの記憶データ領域に保持される。さらに、CPUは、出力プログラムを実行し、算出された合算値をディスプレイなどの入出力インタフェースを介して出力する。
さらに、算出された合算値は出願番号等と関連づけて、HDD等の記憶装置に保存しても良い。
前提となる処理の流れを示す。最初に、整理標準化データを取得する。次に、予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により、法律的手続きを示す標準項目名称の組合せを検索する。次に、整理標準化データ(「整理標準化データを元に構成した整理標準化データの内容の全部または一部を示すデータ」を含む)から検索された標準項目名称の組合せに応じて項目内容をその手続日と関連づけて抽出する。次に、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を標準項目名称の組合せに関連付けて保持する。次に、コスト表を検索して対応するコストを取得する。次に、特許が属する技術分野に対応する陳腐化関数、算定基準日(算定シミュレーション時期)、手続日、出願日を取得する。次に、取得したコスト、陳腐化関数、算定基準日、手続日、出願日を利用して陳腐化後コストを算出する。算出された陳腐化後コストを特許について全て合算し、特許力シミュレーション値とする。次に、得られた特許力シミュレーション値を出力する。この特許力シミュレーション値はいわゆるYK値と呼ばれるものが該当する。
以上が特許力シミュレーション装置のプリアンブル部分である。
「シミュレーション時期可変入力部」は、特許力シミュレーション装置の算定基準日である算定シミュレーション時期を可変入力可能なように構成されている。可変入力の仕方は、テキストで入力ボックスに任意に値を入力するように構成してもよいし、算定シミュレーション時期を入力する入力スライドバー状のインターフェイスをディスプレイ上に表示して入力させるように構成してもよい。さらには、時間の進行、または逆行ボタンを準備して定められた速度で算定シミュレーション時期が自動入力されるように構成してもよい。
「シミュレーション値出力部」は、可変入力されたシミュレーション時期に応じてシミュレーション値を出力するように構成される。シミュレーション値の出力はデータとして計算機内部で出力され結果が保持されるように構成されるのはもちろんであるが、横軸にシミュレーション時間軸、縦軸にシミュレーション値をとったグラフで変化をディスプレイなどに表示するように構成してもよい。さらに、キーワードなどによって各特許を二次元面に配置し、そのシミュレーション値の大小を色によって識別可能とし、時間の流れに応じてその色彩分布が変化するように動くように見せるように工夫してもよい。
さらにこのグラフにI字カーソルや十字カーソルを設けて手動でカーソルを動かすと、そのカーソルが横切るグラフの値がディスプレイ内に表示されるように構成してもよい。
<特許力シミュレーション装置 実施形態1 その2>
実施形態その1を基礎として、さらに特許力シミュレーション装置は、特許の母集団を取得する特許母集団取得部と、特許力シミュレーション値出力部から出力される特許力シミュレーション値を取得された母集団のすべての特許について合算した値である母集団合算値を出力する母集団合算値出力部と、をさらに有するように構成してもよい。
「特許母集団取得部」は特許の母集団を構成するために特許を識別する識別子を取得する。特許を識別する識別子は、個別に一点一点手入力などで取得してもよいし、母集団を作成するための全集合的情報群があり、その全集合的情報群に含まれる特許識別子を特許識別子と関連付けられている属性情報から取得してもよい。特許識別子に関連付けられている属性情報とは、特許権者、特許出願人、発明者、特許発明の属する技術分野(例えば「IPC」「FI」「Fターム」)、特許請求の範囲に含まれるキーワード、要約に含まれるキーワード、公報全文に含まれるキーワード、出願日、出願公開日、特許査定日、特許登録日、出願人の属する国、及びこれらの組み合わせである。
<特許力シミュレーション装置 実施形態1 その3>
実施形態1、その1またはその2を基礎として、さらに特許シミュレーション装置は、特許母集団取得部が、特許の母集団として特定される特許権者等(特許権者、特許権者の組織内の事業部門、特許権者が実施を許諾する組織、特許権者が管理を委ねられている組織等を意味する。以下同じ。)の所有等(所有、管理、支配等を意味する。以下同じ。)する又は所有等していた特許を母集団として取得する特許権者毎取得手段を有し、特許権者毎取得手段にて取得された特許の母集団について母集団合算値出力部から出力された母集団合算値を特許権者等の規模を示す値(例えば時価総額、従業員数、売上高、営業利益、経常利益、総資産、株式売買出来高、研究開発費、現金預金、棚卸資産など)で除した値である規模規格化特許権者毎合算値を出力する規模規格化特許権者毎合算値出力部をさらに有するように構成されていてもよい。
「特許権者毎取得手段」は、特許母集団取得部に備えられ、特許の母集団として特定される特許権者等(特許権者、特許権者の組織内の事業部門、特許権者が実施を許諾する組織、特許権者が管理を委ねられている組織等を意味する。以下同じ。)の所有等(所有、管理、支配等を意味する。以下同じ。)する又は所有等していた特許を母集団として取得するように構成される。つまり、特許発明を利用した経済活動を行う単位毎に特許を取得するように構成したものである。特許力は経済的指標に置き換えられるが、経済的指標は、経済活動を行う単位取得することで意味を持つからである。
「規模規格化特許権者毎合算値出力部」は、特許権者毎取得手段にて取得された特許の母集団について母集団合算値出力部から出力された母集団合算値を特許権者等の規模を示す値(例えば時価総額、従業員数、売上高、営業利益、経常利益、総資産、株式売買出来高、研究開発費、現金預金、棚卸資産など)で除した値である規模規格化特許権者毎合算値を出力するように構成されていている。
規格化することによって、企業等の事業成長の度合い、例えば各種経済指標(例えば時価総額、従業員数、売上高、営業利益、経常利益、総資産、株式売買出来高、研究開発費、現金預金、棚卸資産など)の成長率、向上率、増大率などのシミュレーション情報として利用できるからである。
本件発明では算定シミュレーション時期が可変入力可能になっているので、将来時期または過去時期の規模規格化特許権者毎合算値を動的に把握可能となり、異なる企業規模の企業同士を比較可能とできる。
また、算定シミュレーション時期に応じて前記各種経済指標が変化しているようであれば、それらも変化させて各算定シミュレーション時期における規模規格化特許権者毎合算値を算出するように構成してもよい。
また将来にわたって前記各種経済指標自体も動的に変化させて規模規格化特許権者毎合算値をダイナミックに出力し、表示するように構成してもよい。例えば企業の事業中期計画に沿って従業員数、目標売上高、目標営業利益、目標経常利益、目標総資産、計画研究開発費などを利用し、さらにその先の値としての規模規格化特許権者毎合算値を算出し、出力し、表示するように構成してもよい。
<特許シミュレーション装置 実施形態1 その4>
さらに特許シミュレーション装置は、実施形態1のその3を基礎として、さらに、規模規格化特許権者毎合算値の複数の特許権者等の平均値を算出する平均値算出部と、算出された平均値と一の特許権者等の規模規格化特許権者毎合算値の差分を算出する差分算出部と、差分値に基づいて一の特許権者等の規模規格化特許権者毎算出値の値を平均値と等しくするために増減すべき特許権者等の規模を示す値である規模修正差分値、または/及び一の特許権者等の規模規格化特許権者毎算出値の値を平均値と等しくするために増減すべき一の特許権者等の特許権者毎取得手段にて取得されるべき母集団合算値である修正母集団合算値を算出する増減値取得部と、をさらに有するように構成されていてもよい。
「平均値算出部」は、規模規格化特許権者毎合算値の複数の特許権者等の平均値を算出するように構成される。ここで複数の特許権者等は、互いに経済的影響を与えられ、与えている関係にある特許権者等である。代表的な例としては技術にて相互に競争関係にあるような特許権者等の集まりである。一例をあげれば東京証券取引所の業種分類で同一業種とされる企業からなる複数の特許権者等であったり、YKS業種分類の大分類、中分類、小分類にてそれぞれ同じ分類に属している特許権者等である。またYKS業種分類のように一企業一業種に分類しない分類体系の場合には、特許母集団取得部にて特許権者等と紐づけられて取得される特許等は、当該分類に属する特許のみを取得するように構成することが好ましい。平均値算出部にて算出される平均値は、当該分類に属する企業の平均的な企業規模と、平均的な特許力シミュレーション値の合算値と、の割合(企業規模を示す経済指標値を一軸、合算値を他の一軸とした直行軸で表される二次元空間での関数の傾きに相当)を示すものである。
「差分算出部」は、算出された平均値と一の特許権者等の規模規格化特許権者毎合算値の差分を算出するように構成される。差分を算出することで例えば競合関係にある複数の特許権者のグループ内で一の特許権者等の位置づけが判明する。例えば、企業規模を示す経済指標値が時価総額である場合には、一の企業の特許力シミュレーション値の合算値のわりに時価総額が低めであるとか、逆に時価総額のわりに特許力シミュレーション値の合算値が低めであるとかの評価に用いられる。
「増減値取得部」は、差分値に基づいて一の特許権者等の規模規格化特許権者毎算出値の値を平均値と等しくするために増減すべき特許権者等の規模を示す値である規模修正差分値、または/及び一の特許権者等の規模規格化特許権者毎算出値の値を平均値と等しくするために増減すべき一の特許権者等の特許権者毎取得手段にて取得されるべき母集団合算値である修正母集団合算値を算出するように構成される。
「規模修正差分値」は、仮に特許力シミュレーション値の企業等の合算値としての母集団合算値に大きな変化が将来所定の期間内に生じないと仮定した場合、または変化の最大幅を仮定した場合に、企業規模を示す経済指標がどのように修正されるかを示す値である。規格化する経済指標によって差分値の種類は決定される。また、企業規模の値に大きな変化が将来所定の期間内に生じないと仮定した場合、または変化の最大幅を仮定した場合に、特許力シミュレーション値の企業等の合算値としての母集団合算値がどのように修正されるかを示す値である。
<特許力シミュレーション装置 実施形態1 その5>
実施形態1その4を基本として、さらに、増減値取得部によって取得された規模修正差分値と、その差分値が略ゼロ(例えば、規模規格化特許権者毎算出値と、平均値との差分が平均値のプラスマイナス5%以内の状態。以下同じ。)に修正されるまでの単位規模修正差分値当たりの平均時間を算出する平均時間算出部と、前記複数の特許権者等の差分値が略ゼロに至る過程で改善される単位規模修正差分値あたりの企業経営効率指標(例えば自己資本利益率、売上高純利益率、売上高利益率、総資本回転率、総資産回転率)の平均値を算出する企業経営効率指標平均値算出部と、取得された一の特許権者等の規模修正差分値と取得した平均時間と、取得した企業経営効率指標平均値とを用いて算定シミュレーション時期における一の特許権者等の企業経営効率指標を算出する企業経営効率指標算出部と、をさらに有する特許力シミュレーション装置を提供する。
「平均時間算出部」は、増減値取得部によって取得された規模修正差分値と、その差分値が略ゼロ(例えば、規模規格化特許権者毎算出値と、平均値との差分が平均値のプラスマイナス5%以内の状態。以下同じ。)に修正されるまでの単位規模修正差分値当たりの平均時間を企業等のグループ内で算出するように構成される。この平均時間は企業等のグループにて異なった値をとると考えられるが、相互に特許力が経済的影響を及ぼしあう同一技術分野に属する企業間では同じ傾向があると考えられるので、そのグループの単位規模修正差分値当たりの平均時間を取得し、一の企業の差分値から経済指標が修正される場合のその大きさと途中経過とをダイナミックに表現するために利用される。
「企業経営効率指標算出部」は、前記複数の特許権者等の差分値が略ゼロに至る過程で改善される単位規模修正差分値あたりの企業経営効率指標(例えば自己資本利益率、売上高純利益率、売上高利益率、総資本回転率、総資産回転率)の平均値を企業等のグループ内で算出するように構成される。特許力(特許力シミュレーション値)は、企業のデフォルト率や売上高成長性の先行指標として利用できることや、自己資本利益率の先行指標として利用できることが判明している。これらに対する影響度合いも相互に特許力が経済的影響を及ぼしあう同一技術分野に属する企業間では同じ傾向があると考えられるので、そのようなグループを構成する複数の企業の単位規模修正差分値(企業規模指標や、特許力シミュレーション値の企業等単位の合算値の単位差分値)当たりの企業経営経営効率指標の変動値の平均値を算出する。
「企業経営効率指標算出部」は、取得された一の特許権者等の規模修正差分値と取得した平均時間と、取得した企業経営効率指標平均値とを用いて算定シミュレーション時期における一の特許権者等の企業経営効率指標を算出するように構成されている。また企業経営効率指標でなく企業経営効率指標の変動値を算出するように構成してもよい。企業経営効率指標の算出は、基準となる企業経営効率指標値が与えられている時から算定シミュレーション時までの時間差に企業経営効率指標の変動値の平均値と単位規模修正差分値と、の積と、基準となる時のその企業の企業経営効率指標値との和で求めることができる。
<実施形態2 その1>
実施形態2の発明は、特許(出願中のものを含む場合がある。以下同じ)に対して特許出願人又は特許権者が特許の成立を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、特許出願手続、出願審査請求手続、意見書提出手続、補正書提出手続、特許料納付手続など)または/及び成立した特許の維持を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、特許年金納付手続、特許無効審判における応答手続、特許異議申立に対する応答手続、訂正審判請求手続、など)である保護アクションに個別に関連付けられているイニシャルコストをその保護アクションの実行された時期である保護時期に関連付けて特許ごとに取得するとともに、特許の属する技術分野ごとに準備されている出願からの時の経過に応じた特許力の陳腐化度合を示す陳腐化関数を用いて特許力の算定シミュレーション時期までにイニシャルコストを陳腐化した値である陳腐化後コストを、その特許に対して算定シミュレーション時期までになされた全ての保護アクションについて合算して特許力シミュレーション値を算出する特許力シミュレーション装置であって、算定シミュレーション時期を可変入力可能な算定シミュレーション時期可変入力部と、可変入力された算定シミュレーション時期に応じて特許力シミュレーション値を出力する特許力シミュレーション値出力部と、を有する特許力シミュレーション装置である。特許が消滅した時期が算定シミュレーション時期である場合にはその特許シミュレーション値はゼロになる。
<実施形態2 特許力シミュレーション装置 その1>
<特許力シミュレーション装置のプリアンブル部分>
特許力シミュレーション装置のプリアンブル部分、すなわち、「特許力シミュレーション装置は、特許(出願中のものを含む場合がある。以下同じ)に対して特許出願人、特許権者が特許の成立保護等を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、特許出願、出願審査請求、意見書提出、補正書提出、特許料の納付、など)または/及び成立した特許の消滅等を目的として特許庁に対してとる手続(例えば、無効審判応答、異議申立応答、特許年金の納付、などのための手続など)である保護アクションに個別に関連付けられているイニシャルコストをその保護アクションの実行された時期である保護時期に関連付けて特許ごとに取得するとともに、特許の属する技術分野ごとに準備されている出願からの時の経過に応じた特許力の陳腐化度合を示す陳腐化関数を用いて特許力の算定シミュレーション時期までにイニシャルコストを陳腐化した値である陳腐化後コストを、その特許に対して算定シミュレーション時期までになされた全ての攻撃アクションについて合算して特許力シミュレーション値を算出する特許力シミュレーション装置」の部分はすでに特許取得した発明を基礎とし、以下のように説明できる。
例えば、整理標準化データを取得する整理標準化データ取得部と、取得した整理標準化データに記述されている特許(出願中のものも含む場合がある。以下同じ)に対して取られた法律的手続(保護に該当する手続)を示す標準項目名称の組合せを予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により検索し、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容をその手続日と関連付けて抽出する項目内容抽出部と、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を検索された標準項目名称の組合せに関連付けて保持する検索結果保持部と、特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せに関連付けて保持されている項目内容の組合せごとに予め準備されているコストを対応付けたコスト表を保持するコスト表保持部と、技術分野ごとにその技術の陳腐化の目安となる陳腐化関数を格納した陳腐化関数格納部と、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得するとともに、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日と、この特許が属する技術分野の陳腐化関数とを用いて算定基準日における陳腐化後コストを算出する陳腐化後コスト算出部と、算出された陳腐化後コストを特許について全て合算する合算部と、合算部にて得られた合算値を出力する出力部と、を有する特許力算出装置。
あるいは、 特許に対して取られた法律的手続(保護を目的とする手続)きを示す標準項目名称の組合せに関連付けて保持されている項目内容の組合せごとに予め準備されているコストを対応付けたコスト表を保持するコスト表保持部と、技術分野ごとにその技術の陳腐化の目安となる陳腐化関数を格納した陳腐化関数格納部と、を備えた特許力算出装置の動作方法であって、整理標準化データを取得する整理標準化データ取得ステップと、取得した整理標準化データに記述されている特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せを予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により検索し、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容をその手続日と関連付けて抽出する項目内容抽出ステップと、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を検索された標準項目名称の組合せに関連付けて保持する検索結果保持ステップと、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得するとともに、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日と、この特許が属する技術分野の陳腐化関数とを用いて算定基準日における陳腐化後コストを算出する陳腐化後コスト算出ステップと、算出された陳腐化後コストを特許について全て合算する合算ステップと、 合算部にて得られた合算値を出力する出力ステップと、を有する特許力算出装置の動作方法である。
具体的には 「整理標準化データ取得部」は、整理標準化データを取得する機能を有する。整理標準化データとは、特許庁が保有している審査経過情報等の各種情報を整理標準化して加工したものである。整理標準化データを参照することにより、出願日、出願人、発明者、権利者などの情報や、出願審査請求の有無や審査経過の状況などを知ることが可能である。
「項目内容抽出部」は、取得した整理標準化データに記述されている特許に対して取られた法律的手続(攻撃的手続)を示す標準項目名称の組合せを予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により検索し、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容をその手続日と関連付けて抽出する機能を有する。
ここで、特許に対して取られた法律的手続とは、特許出願、出願審査請求手続き、意見書提出、補正書提出、特許無効審判応答、異議申立王応答、特許料納付、特許年金納付などの保護アクションのことである。
特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せとは、例えば、特許に対して無効審判応答という法律的手続が取られた場合には、審判種別、審判最終処分種別、審決の決定記事の結論、などの標準項目名称の組合せである。この組合せにより、整理標準化データをパターンマッチング処理することにより無効審判という法律的手続を検索する。整理標準化データ中においては、無効審判という法律的手続を検索しその結果を知るためのデータが散在しているため、パターンマッチング処理をして項目内容等を抽出する必要がある。
次に、検索された標準項目名称の組合せに応じて整理標準化データに記述されている項目内容を抽出する方法を説明する。例えば、標準項目名称「審判種別」に対する項目内容は、「112(全部無効(新無効))」であり、標準項目名称「審判最終処分種別」に対する項目内容は、「02(請求不成立)」であり、標準項目名称「審決の決定記事」の「結論」に対する項目内容は、「Y(無効としない)」である。 そして、これらの項目内容とともに手続が行なわれた日付も関連づけて抽出する。例えば、無効審判であれば「審判請求日」を抽出する。
「検索結果保持部」は、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を検索された標準項目名称の組合せに関連付けて保持する機能を有する。つまり、図2を例にすると、項目内容として112 (全部無効(新無効))、02 (請求不成立)、Y(無効としない)を標準項目名称の組合せに関連づけて、手続日として2004/04/01を同じく標準項目名称の組合せに関連づけて保持する。保持されている検索結果を参照すれば、特許に対して取られた法律的手続である無効審判の審判請求日、審判種別、審判最終処分種別、審決の決定記事の結論が分かる。
「コスト表保持部」は、標準項目名称の組合せに関連付けて保持されている項目内容の組合せごとに予め準備されているコストを対応付けたコスト表を保持する機能を有する。標準項目名称の組合せが示されている。例えば、無効審判に対する標準項目名称の組合せは、審判種別、審判最終処分種別、審決の決定記事、などである。そして一例としては、無効審判が起きて、最終処分が請求不成立であり、さらに、審決が無効としないというものであった場合である。この場合には、第三者が無効審判にかけたコスト、例えば、1,000,000(百万)円をコストとしてコスト表に保持する。また、無効審判が起きて、最終処分が請求成立であり、さらに、審決が無効とするというものであった場合である。この場合には、特許は無効となり、当該特許に価値はないものと考え、コストとしてゼロをコスト表に保持する。コスト表に記述されているコストは金銭単位であってもよいし、適当な値で割算した値や、その法律手続に対応する指数などであっても良い。コスト表は昔の特許事務標準額表(弁理士会作成)を利用することができる。
「陳腐化関数格納部」は、技術分野ごとにその技術の陳腐化の目安となる陳腐化関数を格納した機能を有する。 陳腐化関数は、次のようにして求める。ある技術分野において、出願から何年目に特許権が消滅したかという統計をとったグラフである。縦軸は消滅した特許権の割合で、横軸は出願からの年数である。この統計データは、出願のときを起点としていることがひとつの特徴である。当たり前のことかもしれないが、技術の陳腐化は権利が登録されたときから始まるのではなく、発明がなされたときをピークに始まるものであると考えたからである。ゆえに、発明の瞬間を起点とするのが最も正しいと思われるが、その統計をとることはできないので、出願のときを起点とする。詳しく見てみると、出願から4年目ぐらいまでに消滅する特許権はほぼ0(ゼロ)であり、その後、徐々に消滅する特許権が増えているのが分かる。そして、出願から20年目に登録特許のうち25%〜30%にあたる特許権が消滅する。これは、特許権の存続期間が原則として出願から20年であることによる。もし、存続期間が20年よりも長い場合にはもっと長い期間維持されたであろう特許権が20年目にすべて消滅しているのである。20年目に技術の陳腐化が一気に起こったわけではない。そこで、この20年目に消滅した特許権は20年目以降の数年間に渡って徐々に消滅していくものであったとの仮説に則って、所定の割合で年々消滅していくであろうとの予測をした。これが技術の陳腐化を表す大元となるグラフである。陳腐化関数は、陳腐化の各年の量を正規分布で近似し、「1−正規累積分布」を計算した関数である。この関数の曲線が陳腐化関数である。これは、技術価値陳腐化曲線ということもできる。ここで、消滅した特許権の割合を正規分布で近似する理由を簡単に説明する。登録されている特許同士は、それぞれについて進歩性の判断がなされて成立している。つまり、技術の進歩に伴ってある特許が陳腐化したことに起因して、他の特許が陳腐化することはない。よって、各特許は独立していると考えられ正規分布で近似することが可能である。
存続期間が20年という区切りがないとすれば、出願から25年程度でほとんどすべての特許が維持する価値を失う。このグラフの特徴は、最初の数年間ほとんど陳腐化しないが平均的な特許が消滅する年数に近づくにつれてその陳腐化のレートが加速し、平均消滅年数を通過するとまた、陳腐化レートが緩やかになることである。この関数を、技術分野ごとに算出し、陳腐化関数として格納している。
「陳腐化後コスト算出部」は、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得するとともに、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日とこの特許が属する技術分野の陳腐化関数とを用いて算定基準日における陳腐化後コストを算出する機能を有する。
まず、各特許の標準項目名称の組合せに応じて抽出された項目内容の組合せごとにコスト表保持部に保持されているコスト表を用いてコストを取得する方法を説明する。図3に示したように、コスト表保持部には、法律的手続きを示す標準項目名称の組合せに応じた項目内容の組合せごとにコストが保持されている。そこで、抽出した項目内容の組合せによりコスト表を検索し、合致する組合せのコストを取得する。
次に、陳腐化関数を利用して陳腐化後コストを算出する方法を図5を用いて説明する。まず、特許が属する技術分野を取得し、それに対応する陳腐化関数を取得する。そして、算定基準日と、その項目内容の組合せごとに関連付けられている手続日と、その特許の出願日とを取得する。遡及出願の場合には出願日として原出願日を取得する設定であっても良い。その理由は、先述の通り、技術の陳腐化は権利が登録されたときから始まるのではなく、発明がなされたときをピークに始まるものであると考えるからである。
ある特許権について、出願からα年目に特許無効審判が請求されたが、維持審決がでたとする。そして、コスト表によるとその一連の手続が100ポイントであったとする。さらに、算定基準日が出願からβ年目であるとする。この場合において、α年の技術価値残存係数をT(α)、β年目の技術価値残存係数をT(β)とおくと、算定基準日における陳腐化後コストは、陳腐化後コスト=100×T(β)/T(α)として算出することができる。
算定基準日を現在として考えると、アクション日(α年)が出願から2年で現在(β年)が出願から3年であれば、ほとんど陳腐化はしないことになる。そして、アクション日(α年)が出願から2年で現在(β年)が出願から15年であれば、陳腐化は大きい。つまり、昔に起きた法律的手続きであるほど現在における陳腐化後コストに引き直すと小さい値となる。
「合算部」は、算出された陳腐化後コストを特許について全て合算する機能を有する。これにより、1つの特許についての特許力を算出することが可能である。
「出力部」は、合算部にて得られた合算値を出力する機能を有する。得られた合算値をさらに特許保有企業ごとに足し合わせ、企業間の特許力の関係をみることも可能である。このように、「出力部」が出力する合算値は、合算値をさらに意味のある集団単位で足し合わせたものであってもよい。
構成要素である各部の全部又は一部は、ハードウェア、ソフトウェア、ハードウェアとソフトウェアの両方のいずれかによって構成される。例えば、これらを実現する一例として、コンピュータを利用する場合には、CPU、バス、メモリ、インタフェース、周辺装置などで構成されるハードウェアと、それらハードウェア上で実行可能なソフトウェアがある。ソフトウェアとしては、メモリ上に展開されたプログラムを順次実行することで、メモリ上のデータや、インタフェースを介して入力されるデータの加工、保存、出力などにより各部の機能が実現される。
さらに具体的には、コンピュータがCPU、RAM、ROM、入出力インタフェース(I/O)、HDD、等から構成されており、それらがシステムバス等のデータ通信経路によって相互に接続され、情報の送受信や処理を行なう。
また、RAMは、各種処理を行なうプログラムをCPUに実行させるために読み出すと同時にそのプログラムのワーク領域を提供する。また、RAMやROMにはそれぞれ複数のメモリアドレスが割り当てられており、CPUで実行されるプログラムは、そのメモリアドレスを特定しアクセスすることで相互にデータのやり取りを行い、処理を行なうことが可能になっている。
まず、特許力算出装置の電源が起動されると、CPUは、ROM等の記憶装置に保持されている整理標準化データ取得プログラム、項目内容抽出プログラム、検索結果保持プログラム、陳腐化後コスト算出プログラム、合算プログラム、出力プログラム等の各種プログラムをRAMのワーク領域に展開する。
そしてCPUは、整理標準化データ取得プログラムを実行し、評価対象特許の整理標準化データを取得する。取得した整理標準化データはRAMの記憶データ領域に保持される。次に、CPUは、項目内容抽出プログラムを実行し、ROM等の記憶領域に保持されているパターンファイルをRAMの記憶データ領域に読み込む。パターンファイルには、特許に対して取られた法律的手続きを示す標準項目名称の組合せが予め準備されている。そして、パターンファイルを利用したパターンマッチング処理により、法律的手続きを示す標準項目名称の組合せを検索する。そして、標準項目名称の組合せに対応する項目内容および手続日を抽出する。次に、CPUは、検索結果保持プログラムを実行し、抽出した項目内容と手続日を標準項目名称の組合せと関連付けをして、RAMの記憶データ領域に保持する。次に、CPUは、陳腐化後コスト算出プログラムを実行する。
このとき、CPUは、ROM等の記憶領域に保持されているコスト表、陳腐化関数をRAMの記憶データ領域に読み込む。そして、コスト表を検索することにより、記憶データ領域に保持されている検索結果に対応するコストを取得する。さらに、特許が属する技術分野に対応する陳腐化関数を用いて陳腐化後コストを算出する。算出された陳腐化後コストはRAMの記憶データ領域に保持される。そして、CPUは、合算プログラムを実行し、RAMの記憶データ領域に保持されている陳腐化後コストを特許について全て合算する。算出された合算値は、RAMの記憶データ領域に保持される。さらに、CPUは、出力プログラムを実行し、算出された合算値をディスプレイなどの入出力インタフェースを介して出力する。
さらに、算出された合算値は出願番号等と関連づけて、HDD等の記憶装置に保存しても良い。
前提となる処理の流れを示す。最初に、整理標準化データを取得する。次に、予め準備したパターンを利用したパターンマッチング処理により、法律的手続きを示す標準項目名称の組合せを検索する。次に、整理標準化データ(「整理標準化データを元に構成した整理標準化データの内容の全部または一部を示すデータ」を含む)から検索された標準項目名称の組合せに応じて項目内容をその手続日と関連づけて抽出する。次に、抽出された項目内容およびそれに関連付けられている手続日を標準項目名称の組合せに関連付けて保持する。次に、コスト表を検索して対応するコストを取得する。次に、特許が属する技術分野に対応する陳腐化関数、算定基準日(算定シミュレーション時期)、手続日、出願日を取得する。次に、取得したコスト、陳腐化関数、算定基準日、手続日、出願日を利用して陳腐化後コストを算出する。算出された陳腐化後コストを特許について全て合算し、特許力シミュレーション値とする。次に、得られた特許力シミュレーション値を出力する。この実施形態2の特許力シミュレーション値はいわゆるYK3値とよばれるものが該当する。
以上が実施形態2の特許力シミュレーション装置のプリアンブル部分である。
「算定シミュレーション時期可変入力部」は。算定シミュレーション時期を可変入力可能なように構成される。基本的な考え方や入力手法は実施形態1のものと同等である。
「シミュレーション値出力部」は、可変入力された算定シミュレーション時期に応じて特許力シミュレーション値を出力するように構成される。基本的な考え方や出力方法は実施形態1のものと同等である。
以上の実施形態1と実施形態2とを含めて出願人らはYKS手法と称する。YKS手法に関して簡単に以下にまとめる。
<YKS手法>
YKS手法は特許の相対的価値(特許力)を表す指標です。主に企業や事業の将来の成長力を推定するために用いられます。YKS手法では、特許に対する他社からの攻撃の質と量とを用いて点数化したYK値と、特許に対する自社の投資度合いを用いて点数化したYK3値と、を算出します。
「YK値」は、技術競争力指標である。YK値は特許に対する競合他社からの攻撃の質と量とを用いて特許1件単位で点数を付与するものです。YK値やYK値の派生値は、企業ごとに集計したり、事業ごとに集計し、競合他社のそれと比較することでその企業や事業の将来の成長力を推定するために用いられます。従いまして、特許の金銭的価値を表す指標ではありません。別の言い方をしますと、YK値やYK値の派生値は、技術競争力を表す指標ともいえます。一方でYK値やその派生値は競合他社からの特許に対する攻撃の質と量を用いて技術競争力を表しますので、競合しない他社と比較して意味を引き出すことは困難です。つまり違う業界に属している企業のYK値やその派生値を比較しても大きな意味を見いだせない、ということです。例えば一般には製薬産業の業界と自動車産業の業界とはお互いに競合しませんから、例えば武田薬品のYK値やその派生値と、トヨタ自動車のYK値やその派生値を比較しても大きな意味を見いだせない、ということです。特許の使われ方は業界によっても異なり、その観点からもYK値やその派生値は同一業界内での評価をもとに評価指標を利用することが重要です。
ここで「技術競争力」と「技術力」とは別の意味で使っています。「技術力」は技術の高度さを表す絶対的な指標であるのに対し、「技術競争力」は他社に技術で打ち勝てる能力の高さを表す相対的な指標です。技術力が高い企業でも競争に打ち勝てずに消え去ってゆく場合がありますが、これは結果として技術力は高くても競争力はなかった結果だといえます。特許要件としてとらえられている「進歩性」はまさに平均的技術者が容易に思いつかない程度の技術の高度性を求めますが、進歩性が認められて特許にされたからといって、市場で競争力のある製品となるとは必ずしも言えません。市場で競争力ある製品となるか、ならないかは技術の高度性でなく、技術の競争力で決まる、と言えます。技術の競争力とは、結局、市場で競争力のある製品となり、技術の付加価値でコスト競争に陥らずに企業に収益をもたらしてくれるか、を示します。
<YK値は、経済的指標または経済学的指標である>
YK値やYK値の派生値は、以上のように技術競争力を示す指標ですので前述しました通り、企業や事業の将来の成長性を示す指標といえます。ここで「成長性」という言葉は経済的な意味での成長性を意味しています。すなわちYK値やYK値の派生値は企業や事業の将来キャッシュフロー、売上高、利益などの予測指標であり、逆に言えば、企業や事業の将来の倒産リスクの予測指標でもあります。YK値やYK値の派生値の特徴は、金銭的な評価でないにもかかわらず、企業や事業の将来成長性の推定を示す経済的指標または、経済学的指標である点にあります。ここでなぜあえて経済学的指標と表現したかといいますと、YK値やYK値の派生値が高いから必ずその企業は成長し、YK値やYK値の派生値が低いからその企業は必ず衰退する、と短絡的に言えないためです。その点で原因と結果の因果関係が明確で原因と結果が常にぶれない自然科学の世界とは異なる視点が必要です。そのようなわけで「経済学的な指標」と表現したのです。つまりYK値やYK値の派生値のみならず、YKS手法で導かれる値は社会科学の領域に属するデータであると認識できます。社会科学の領域に属するデータとは、例えばマーケティングデータなど人の購買動向の分析データ、通勤・通学・レクリエーションなど人の動態分析データ、選挙でどの候補が当選しそうかなどの人の投票行動の分析データ、大災害が起こった場合に人がどのような行動をとるのかといった人の避難行動の分析データなどをあげることができます。YK値やその派生値は、人の集合体としての企業が競合企業の特許に対してとる攻撃という行動を統計的に処理して得られた値であり、まさに社会科学の分野に属するデータであるといえます。したがって、会計手法を用いて金銭的に特許を評価する手法とも若干異なる視点で認識する必要があります。
以上のような性質を有するYK値やその派生値は、従いまして上場企業の株価の将来の予測指標としても用いることができます。
<YK値の算出>
ステップ1 攻撃のピックアップと攻撃費用による重みづけ
YK値の算出は情報源として特許庁(独立行政法人工業所有権情報・研修館)が公開している整理標準化データを利用します。この整理標準化データで公開される各特許に対する攻撃を点数化する処理をまず行います。ここで「攻撃」と称したのは、閲覧請求、情報提供、特許異議申立、特許無効審判請求などの各特許に対する第三者からの手続きを指し、点数化は、それぞれの手続きに費やされる費用で行います。例えば情報提供があった場合には13万円ですので、情報提供という攻撃に対して13ポイントが与えられます。ここで「費用」は実際にかかった費用ではなく、昔、利用されていた弁理士会の弁理士会の特許事務標準額表を用います。技術競争力を定量化するためにこのように費用という概念を使うのは、これら攻撃自体が企業の事業活動の一環であり、企業は投入した費用に応じた収益を期待して行動すると考えられるからです。企業は事業活動によって収益を上げることを目指しますが、事業活動は費用をかけることによって行われます。逆に言いますと、費用をかけて攻撃したにもかかわらずその行動が実らない場合、つまり特許権が存続し続ける場合には期待していた収益を失ったことになります。別の面から見ますとこの期待していた収益は特許権によって特許権者に潜在的に与えられたものだ、と考えることができます。つまり攻撃を受けたにもかかわらず特許権が存続し続けている場合には、技術競争力、収益力を特許権者が有している、とみることができます。この攻撃に第三者が多くの費用をかければかけるほど、その攻撃は、大きな収益を期待した行動であったととらえることができ、逆に見ると、その攻撃が失敗し、存続し続けている特許には第三者が攻撃に多くの費用をかければかけるほど大きな技術競争力、大きな収益力を特許権者が潜在的に有しているととらえられます。
このように企業が収益を上げるために特許攻撃に費やす費用をその特許権の評価に用いることによってYK値に経済的な意味を持たせることが可能となります。
ステップ2 減衰
「減衰」は、技術が陳腐化することを考慮してする処理です。IPC(国際特許分類)で約600分野を選定し、各分野ごとに陳腐化曲線を算出してYK値の発生時点からYK値算出時点までの時間に応じて陳腐化曲線を利用して攻撃に費やした費用から算出した値の減衰処理をおこないます。陳腐化曲線は約600の各分野で特許権が消滅する件数を出願時からの経過年数でグラフ化したものを基礎情報として利用します。特許権は維持するために年金の支払いが必要ですが、特許権者はもはや不要となった特許権にまで年金を支出する無駄を回避するために不要となった特許権に対しては年金の支払いを行わないという選択をします。
消滅する特許権の大部分はこの年金の不払いによるものです。一方、特許権が不要となることは、その特許発明が利用されなくなったか、または利用される可能性がなくなったことを意味します。つまり出願時点では利益を生むであろうと期待された技術が時間の経過とともに利益を生まなくなった、または利益を生む可能性が極めて少なくなったわけで、別の言い方をすれば、その技術は陳腐化した、ということになります。特許権の消滅が突出して多いのは出願時からの経過年数が20年目です。これは特許権の存続期間の満了によるものです。そこで20年目の突出を21年目以降に展開します。つまり、この強制的な消滅がなければ特許権の消滅はどのようなグラフになるかを特許出願の日から21年目以降も全体が正規分布となるように描きなおします。このようにして得られた曲線がその技術分野の技術の陳腐化の曲線です。なお、正規分布となるように描くのは特許権は審査過程において従来技術に基づいて新規性、進歩性があるとの判断がなされているために他の技術とは独立に陳腐化がされると考えるからです。
実際にYK値を減衰させるために利用する曲線は、出願時の陳腐化率が0、で時間の経過とともに徐々に陳腐化してゆく曲線です。つまり、技術の価値が出願時点で100%、時間の経過とともに0%に近づいてゆく、というものですので、計算に利用する陳腐化曲線は、むしろ技術価値残存曲線の意味を持つ曲線で、算出した正規分布を用いて「1−正規累積分布」を求め、この曲線を利用します。
ステップ3 集計
このように算出した特許ごとのYK値を企業単位等で集計することで企業等の将来成長性等の指標として活用することができます。本発明においては一特許権者等の算出基準時の特許力シミュレーション値がこれに該当します。
YK値の計算の一例について具体的に示します。今ある特許に対して出願後しばらくして、情報提供A1が競合企業からなされ、さらにしばらくして情報提供A2がさらになされた。それからしばらくして特許権の登録がされ、登録後しばらくして閲覧請求がされ、さらにその後、競合企業から無効審判請求がされた。無効審判請求がされてしばらくたった現在、この特許のYK値をどのように計算するかを示す。
すでに述べたようにYK値は競争相手がしたいわゆる攻撃のコストを現在に減衰させて合算したものである。最初の情報提供A1にかかった費用は13万円であり、この13万円を現在の値に減衰局線を用いて減衰させる。出願してしばらくしてから行われた情報提供A1のコスト13万円は、現在の値に減衰すると5万円となる。さらにしばらくして行われた2回目の情報提供A2についても、現在の値に減衰させる。その結果2回目の情報提供A2のコスト13万円は現在の値に直すと8万円(1回目は5万円)となり、情報提供A1と情報提供A2のコストの現在の値を合算すると5万円+8万円で13万円となる。さらに登録後の閲覧請求があるので、このコスト1万円も現在の値に減衰させる。登録後になされた閲覧請求1万円は現在の値に直すと7千円なので、すでに合算されている情報提供A1の現在値と情報提供A2の現在値である13万円にさらに7千円を合算して、13万7千円となる。
最後に行われた無効審判請求についても同じような処理をする。無効審判請求のコストは18.5万円である。最終的には無効審判請求のコスト18.5万円は現在の値に直すと16万円になる。したがって情報提供A1の現在値、情報提供A2の現在値、閲覧請求の現在値の合算値13万7千円に16万円を加算して全体の攻撃にかかったコストの現在値は、29万7千円となる。図のように、YK値は単位を無次元の単位にしているので、この29万7千円をもって、この特許のYK値は29.7ポイントである、というように表現します。
<YK値を用いた各種の分析>
<技術競争力分析>
YK値は特許ごとに算出されますので、各特許権の所有者名義で集計しますと、その所有者のYK値を得ることができます。所有者が企業であれば前述のように将来成長性を推定する値として利用することができます。さらに各特許権を技術分野別に分類することもできますので、ある特定の技術分野における各企業の技術競争力比較をすることもできます。これによって企業の強み、弱みを競合企業と比較しながら分析することもできます。さらにYK値を発明者人数、所有特許権数、無効審判請求件数、無効審判被請求件数、特許異議申立請求件数、特許異議申立被請求件数、特許査定率、出願審査請求率などと合わせて分析することでその技術分野での全体傾向を把握したり、その技術分野内での特定企業の特徴などを分析することも可能です。
<YK値と株価の関係分析>
<YK値の派生値の利用>
YK値の伸び率や、YK値を時価総額で除した値などのYK値派生値は上場企業の株価の将来予測指標として利用できます。これらの値はYK値が潜在的に持っている企業規模のファクターを除外した値だからです。企業の株価と時価総額は密接に関連しています(概略では、企業の株価×発行済株式数=企業の時価総額)。そして、時価総額は一般的に企業の事業規模と比例関係にあるといえます。つまり時価総額が大きい企業は事業規模が大きい、ということです。ここで事業規模は売上規模、生産規模、設備規模などと同じ観点でとらえられます。そして一般に製造業では事業規模が大きくなるとその事業に活用される技術が多種多様となり、したがって、技術を保護すべき特許の数も大きくなります。特許の数が多くなるとYK値も大きくなる傾向が一般的には出ます。したがって、事業規模が大きい大企業のYK値と事業規模が小さい中小企業のYK値とを比較してどちらの株価がより上昇するか、という議論をする際にYK値を直接的に比較できない、ということになります。なぜなら株価の上昇は現在株価と将来株価の比でとらえられる値だからです。例えば、1株5000円の株が上昇して6000円になるA企業と、1株500円の株が上昇して650円になるB企業とを比較しますと、A企業は1株の上昇が1000円でB企業は1株の上昇が150円でA企業の方が儲けが多いように見えます。しかし、投資額が100万円だとすると、その100万円をA企業に投資した場合には、購入株式数は200株で一株当たりの株価上昇は1000円ですから値上がり額は20万円となります。一方、B企業に100万円を投資した場合には購入株式数は2000株で一株当たりの株価上昇は150円ですから、値上がり額は、30万円となります。つまり、株式投資の場合には重要となるのは何円値上がりするのか、ではなく、何パーセント値上がりするのか、であるといえます。つまりは、規模のファクターを除外して先読みしなければならないのです。これが株価の先読み指標としてはYK値の伸び率や、YK値を時価総額で除した値を利用する理由です。
<株価の先読み効果>
株式投資にYK値を利用するためには他の市場参加者より先んじて株価の将来の上昇を認識しなければなりません。株式投資は株価が上がりきったところでその株を購入していては遅いからです。株価の将来を読み解くための情報はたくさんあります。一般に上場企業に課せられている投資家に対する情報の開示は有価証券報告書で行われます。有価証券報告書には、主要な経営指標等の推移、事業の内容、生産、受注及び販売の状況、対処すべき課題、事業等のリスク、経営上の重要な契約等、研究開発活動、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析、設備の状況、株価の推移、経理の状況、連結財務諸表等が記載されます。しかしながらこれらの情報は基本的に過去の事業活動の結果を示しているにすぎません。一般の投資家は有価証券報告書や決算報告書を見て企業がもうかったのならばその企業の株は買い、逆なら売り、というように動きます。
YK値やその派生値は、競合企業の技術者どうしが敵の邪魔になる特許をつぶす行動を監視してこれを統計処理します。つまり、情報の質としては専門的であるといえ、金融機関の株運用の専門家でさえ解読困難な情報を情報源としています。 YK値は最終的な株価の上昇局面を迎える1年から5年程度先に技術競争力の上昇をキャッチしますのでその分先読みした株式投資に利用できます。
各同一技術分野に属する企業を横軸に時価総額、縦軸にYK値でプロットします。一般的には時価総額が大きくなると、YK値も大きくなる。ないしは、YK値が大きいと時価総額が大きくなります。そして、この全体の傾向を直線で表しましす。そうしますと、例えば企業A社はほぼ赤色の線近辺に位置していますから技術競争力に見合った時価総額を有していると把握できます。つまり、技術競争力(YK値)が株式市場で正当に評価されていることになります。企業B社は時価総額は大きめであるのに対して技術競争力(YK値)はそれほど大きくありません。つまり全体の傾向を示す赤色の線よりも下側に位置しています。これは市場が技術力を過大評価しているか、技術力以外の点で企業を評価しているためと思われます。企業C社は逆に時価総額は比較的低めであるのに対して技術競争力(YK値)は高めです。この状態は技術競争力をいまだに市場が評価できていない状態といえます。しかしながらC社の技術競争力は徐々に市場で評価されるようになり、図に示すようにC社のポジションは徐々に赤色の線に向かって動いてゆきます。この赤色の線に向かって図中右側に移動することは徐々にC社の時価総額が大きくなっていくことを示します。株式投資ではこのような企業を発見することで投資効率を上げることができます。
<技術競争力情報の伝播>
技術競争力情報の社会での伝播の様子を説明します。
一般的には各企業がどのような技術開発を行っているかという情報は極めて秘匿性が高い企業秘密情報であるといえます。しかし特許制度はそのような最新の技術を公開し、一般に利用可能とする代償としてその技術開発者に一定期間その発明の実施の独占を認めるという仕組みで作られています。そして実施の独占をしたい企業は我先にと技術開発を加速し、もって社会の技術革新を加速させるように仕組んでいます。技術の実施の独占を図りたい企業は積極的に開発した技術を特許出願しますが、特許制度では出願された発明が出願の日から1年6か月で公開されるように設計されています。つまり、本来は公開したくない技術も出願から1年6か月で強制的に公開されることになります。企業の技術者たちは自身の競争相手がどのような開発をしたかを常時監視していますので、競合企業が自分たちの事業にとって都合の悪い技術開発をしたと考えた場合にはその技術の特許化を阻止したり、特許として成立した場合にはその特許の無効化を図ろうとします。この時点でYK値は点灯します。つまりYK値は技術専門家が詳細に技術を分析した判断結果を利用して統計処理するという仕組みで算出されます。
この解読困難な情報が徐々に利用・応用情報、具体的な商品情報、競争力情報、利益情報と一般人に理解されやすい情報に変換され徐々に専門性が相対的に低い人たちに情報が伝播されます。このように情報が伝播されより多くの人がその技術競争力を理解することで徐々にその情報が株価に織り込まれてゆきます。そして最終的に有価証券報告書などで利益情報として開示され、一般人に理解されたところで最終的な株価の上昇局面を迎えます。
2009年4月号の週刊ダイヤモンドにYK値/時価総額で株価が割安であると考えられる銘柄を掲載したランキング公表しました。ランキング上位100社の値動と、東京証券取引所上場TOPIX(東京証券取引所第一部上場銘柄の国内企業の平均値)の値動きを比較しました。ランキングされた企業の株価の平均値の動きはTOPIXに対して約3年間で40%強アウトパフォームしました。
さらに期間を延ばして約5年間の値動きをみました。最終的にYK値で選択した割安銘柄100社は、TOPIXに対して90%程度アウトパフォームしました。
<倒産分析>
概要
YK値は企業のデフォルトリスクを推計するするために用いることもできる。日本銀行が、「無形資産を考慮した企業のデフォルト率の推計」というタイトルで発行したレポートでは、中小企業、製造業を中心に選別した3509社について推計期間を2003年度から2011年度とし、デフォルト率を推計するために財務情報、非財務情報がどの程度説明変数として利用可能かを分析し報告している。この場合、企業のデフォルトは3年後までのデフォルトの有無で判断している。
説明変数
財務情報の説明変数としては経常利益/総資産、総負債/総資産、現預金/総資産、営業利益等/支払利息、棚卸資産/売上高、であった。
経常利益/総資産は収益性を見る指標でありこの数値が高いほど収益性は高くなる。総負債/総資産は安全性を見る指標でありこの数値が低いほど安全性は高まる。現預金/総資産は流動性(経済分野では「流動性」とは一般に貨幣を指します。)を見る指標であり、この値が高いほど流動性は高まる。営業利益等/支払利息は、支払い能力を見る指標であり、この値が高いほど支払い能力は高まる。棚卸資産/売上高は効率性をみる指標として採用され、この値が低いほど効率性は高まる。
非財務情報の説明変数としては帝国データバンクの「経営者の資質に関する指標」と、企業の技術力指標としての「YK値」が採用された。
推計モデル
このような説明変数を利用して財務情報のみでデフォルトを推計するモデル1と、財務情報に非財務情報を加えてデフォルトを推計するモデル2と、の二つのモデルを使って推計が行われた。
推計モデルの推計精度
モデル1の結果は、すべての説明変数が統計的に有意となった。モデル2の結果は、非財務情報を含むすべての説明変数が統計的に有意となり、予想通り企業の技術力(YK値)が大きくなるほど企業のデフォルト率が低下するとの結果が得られた。
さらに二つのモデルの推計精度に差があるか検討した結果、モデル1よりもモデル2の方が推計精度が高いとの結果が得られた。
説明変数の感応度:YK値に大きな感応度
次に、企業の技術力や経営者の資質といった無形資産の変化が財務情報のそれと比較して企業のデフォルトに与える影響がどの程度大きいかが検証された。これは前述のモデル2を用いて各説明変数が変化することで、どの程度推計デフォルト率が変化するか、すなわち感応度が検証された。その結果、予想どおり、流動性(資金)に関する財務指標が企業の推計デフォルト率に大きな影響を及ぼすことが確認された。この次にデフォルト率に大きな影響を及ぼした変数が企業の技術力指標(YK値)であると試算された。これは、一般に利用される財務情報である経常利益、総負債、営業利益、棚卸資産をも抑えての感応度なので技術競争力指標(YK値)がいかに企業活動に重要な指標であるかが判断できる。
売上高成長率(日本銀行 金融システムレポート)
企業の売上高成長率に関して同様の検証がされた。売上高成長率として、3年後までの売上高の累積成長率を被説明変数とした。また、現時点での技術力指標(YK値)、経営者の資質、総資産、有形固定資産(従業員一人当たり)を説明変数としてパネル推計(固定効果モデル)が行われた。推計期間は2003年度から2010年度、対象企業は3691社であった。その結果技術力指標で上位10%の企業の売上高成長率は、平均的な企業、経営者の資質が高い企業よりも売上高成長率が高いことが判明した。
自己資本利益率(特許情報の株価への浸透過程の分析 証券アナリストジャーナル)
特許情報の株価への浸透過程の分析が行われた。この研究によると、市場参加者は特許情報の内容を直接的には解釈できず、技術競争力の獲得は概ね3年後に自己資本利益率を上昇させ、それを市場参加者が認識したのちに株価が追随する、との結果が得られた。自己資本利益率の遅延は、当初2年間程度は売上高利益率の上昇と、総資本回転率の低下が相殺しあうためであると、判断された。なお、自己資本利益率と関連指標との関係は以下のとおりである。
自己資本利益率 = 売上高純利益率 × 総資本(資産)回転率 × 財務レバレッジ
<発明者分析>
YK値は特許発明ごとに算出され、発明は発明者によってなされますので、発明者ごとのYK値を集計することができます。発明者ごとにYK値を算出することによって技術競争力を高める能力のある優秀な発明者を見つけることもできます。また発明者ごとのYK値を含む特許に関する履歴を分析することで企業の開発動向や、将来の技術競争力の行方を推定することも可能です。
<YK3値>
特許に対する自社の投資度合いを用いて点数化した値がYK3値です。YK値が特許に対する競合他社からの攻撃の質と量とを用いて特許1件単位で点数を付与するものであるのに対し、YK3値は、各特許に対する特許所有者による投資度合を点数化します。従いまして、特許の所有者からみて重要であると考えている特許に高得点がつきます。これによって競合企業がどのような技術に力を入れているのかなどを把握することができます。YK3値は特許の所有者による投資度合を数値化したものなので、特許出願、審査請求、中間処理、年金、海外出願など特許権を取得し、維持するために費やされた費用を合算します。その際に、やはりYK値で用いたのと同じ減衰曲線を利用して合算します。なおYK値は存続している特許に対して与えられる値であるのに対してYK3値は存続している特許と、特許庁に係属している特許出願に対して与えられる値である。
YK3値の利用
YK3値も経済的意義が確認されています。また、詳細な計算ルールは国によって異なるもののYK3値は日本のみならず、米国、中国などの特許経過情報の入手が難しい国でも計算が可能です。米国のYK3値の派生値、中国のYK3値の派生値はそれぞれ米国、中国での株価の先読み指標として利用できることを確認しています。
YKエフェクト
YK値をYK3値で除した値をYKエフェクトと称してます。この値は各企業の特許に対する投資と、その投資によって得られた技術競争力の大きさの比を示します。株式の世界でいえばROEに似た概念ととらえることも可能です。したがって、少しの投資で大きな成果を得られたのか、逆なのかを競合企業の値と比較して判断することができ、企業の知的財産活動や知的財産部門の効率性などの指標としてとらえることも可能です。