JP2018136671A - 内部波パラメータ推定装置および内部波パラメータ推定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】内部波のパラメータを推定する際の演算処理を簡略化する内部波パラメータ推定装置および内部波パラメータ推定方法を提供すること。【解決手段】内部波パラメータ推定装置は、初期観測ベクトルおよび初期観測行列と、第1初期値および第2初期値ともとに観測ベクトルを生成する観測ベクトル生成部と、初期観測行列と、第1初期値および第2初期値とをもとに観測行列を生成する観測行列生成部と、を有している。また、内部波パラメータ推定装置は、観測ベクトルと観測行列とをもとに内部波パラメータの差分ベクトルを求める連立方程式求解部と、差分ベクトルと、第1初期値および第2初期値とをもとに、モード帯域および総エネルギー量を求める内部波パラメータ計算部と、を有している。【選択図】図2
Description
本発明は、海洋内部波による海中の等密度面の変位のシミュレーションにおいて、海洋内部波のパラメータを推定する内部波パラメータ推定装置および内部波パラメータ推定方法に関する。
海洋における海水は、海面から海底に向かって密度が徐々に大きくなるように成層している。ここで、海面上の風又は潮汐などの外力が働くと、海面が波立つのと同じように、海中の等密度面にも海洋内部波(以下、内部波ともいう。)と呼ばれる波が生じる。内部波は、海中の水温又は音速の分布に時間的および空間的な変動をもたらす。そして、海中の水温又は音速の分布の変動は、例えば、海中における音波伝搬のシミュレーション結果に影響を与えることが知られており、その影響の大きさを見積もるためには、内部波による等密度面の変位(以下、内部波変位ともいう。)を予測する必要がある。なお、海中の等密度面とは、海中において密度が等しい面のことである。
従来から、内部波変位を予測する際に使用される内部波のスペクトル特性は、内部波の周波数およびモード番号に基づいて求められる(例えば非特許文献1参照)。内部波のスペクトル特性は、海中での浮力周波数を用いて求めることができ、海中での浮力周波数は、現場において水温又は塩分濃度を測定することにより求められる(例えば非特許文献2参照)。また、非特許文献3には、モードスペクトルを推定する方法が開示されており、非特許文献4には、連立方程式を解く手法としてQR法が開示されている。
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しかしながら、非特許文献1〜4に記載された手法をもとにモードスペクトルを推定する場合、近似の誤差を小さくするためにモード数を大きくすると、モードスペクトルのベクトルを求めるための演算量が大きくなる。そして、モードスペクトルのベクトルからモード帯域および総エネルギー量といった内部波のパラメータを推定するためには、最小自乗法などによる演算処理が必要となる。こうした課題に鑑みて、従来から、内部波のパラメータを推定する際の演算処理を簡略化する手法が望まれている。
本発明に係る内部波パラメータ推定装置は、海洋内部波による等密度面の変位である内部波変位をもとに初期観測ベクトルを生成する初期観測ベクトル生成部と、内部波変位の測定に係る周波数とコリオリパラメータと浮力周波数とをもとに初期観測行列を生成する初期観測行列生成部と、初期観測ベクトル生成部において生成された初期観測ベクトルと、初期観測行列生成部において生成された初期観測行列と、モード帯域の初期値である第1初期値および総エネルギー量の初期値である第2初期値ともとに観測ベクトルを生成する観測ベクトル生成部と、初期観測行列生成部において生成された初期観測行列と、第1初期値および第2初期値とをもとに観測行列を生成する観測行列生成部と、観測ベクトル生成部において生成された観測ベクトルと、観測行列生成部において生成された観測行列とをもとに、内部波パラメータの差分ベクトルを求める連立方程式求解部と、連立方程式求解部において求められた差分ベクトルと、第1初期値および第2初期値とをもとに、内部波パラメータとしてモード帯域および総エネルギー量を求める内部波パラメータ計算部と、を有するものである。
また、本発明に係る内部波パラメータ推定方法は、海洋内部波による等密度面の変位である内部波変位をもとに初期観測ベクトルを生成する初期観測ベクトル生成工程と、内部波変位の測定に係る周波数とコリオリパラメータと浮力周波数とをもとに初期観測行列を生成する初期観測行列生成工程と、初期観測ベクトル生成工程で生成した初期観測ベクトルと、初期観測行列生成工程で生成した初期観測行列と、モード帯域の初期値である第1初期値および総エネルギー量の初期値である第2初期値ともとに観測ベクトルを生成する観測ベクトル生成工程と、初期観測行列生成工程で生成した初期観測行列と、第1初期値および第2初期値とをもとに観測行列を生成する観測行列生成工程と、観測ベクトル生成工程で生成した観測ベクトルと、観測行列生成工程で生成した観測行列とをもとに、内部波パラメータの差分ベクトルを求める連立方程式求解工程と、連立方程式求解工程で求めた差分ベクトルと、第1初期値および第2初期値とをもとに、内部波パラメータとしてモード帯域および総エネルギー量を求める内部波パラメータ計算工程と、を有するものである。
本発明は、初期観測ベクトルおよび初期観測行列を用いて生成した観測ベクトルおよび観測行列をもとにモード帯域および総エネルギー量を求めることから、モード数を大きくしても演算量が変化せず、かつ最小自乗法などによる演算処理が不要となるため、内部波のパラメータを推定する際の演算処理を簡略化することができる。
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態に係る内部波変位シミュレーションシステムの構成を示すブロック図である。内部波変位シミュレーションシステム200は、内部波変位を予測し、海中の音波伝搬のシミュレーションなどを行うものである。ここで、内部波変位シミュレーションシステム200の構成内容を説明する前に、内部波のパラメータを推定し、内部波変位を予測する原理について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る内部波変位シミュレーションシステムの構成を示すブロック図である。内部波変位シミュレーションシステム200は、内部波変位を予測し、海中の音波伝搬のシミュレーションなどを行うものである。ここで、内部波変位シミュレーションシステム200の構成内容を説明する前に、内部波のパラメータを推定し、内部波変位を予測する原理について説明する。
内部波変位の予測において使用される内部波のスペクトル特性F(ω,j)は、周波数ωとモード番号jに対して与えられた下記の式(1)によって求めることができる。式(1)のB(ω)は下記式(2)によって定まり、式(1)のH(j,j*)は下記式(3)によって定まる。式(3)のH0(j*)は下記式(4)によって定まる。モード番号jは、予め設定されたモード数Jを上限とする任意の自然数である(j=1、2、…、J)。
ここで、j*はモード帯域を表すパラメータであり、Enは内部波のエネルギーを表すパラメータである。fはコリオリパラメータ(慣性周波数)であり、f=2Ωsin(φ)によって計算される。Ωは地球の自転角速度であり、φは緯度である。bおよびN0は、浮力周波数N(z)が下記式(5)で表されるときの定数である。N0は海面での浮力周波数であり、bはN(z)の深度に対する低下度合いを決めるパラメータである。なお、深度とは海面からの深さのことである。
任意のN(z)については、式(5)の関係から、水深Zが十分大きいと仮定すると、下記式(6)の関係が得られるため、本実施の形態では、式(1)を下記式(7)のように変形して使用する。
式(7)の右辺の各要素のうち、N(z)は現場において水温及び塩分濃度を測定することにより求められる。また、周波数ω、コリオリパラメータf、およびモード番号jは既知の量である。
従って、スペクトル特性F(ω,j)を求めるためには、N(z)の深度に対する低下度合いを決めるパラメータbと内部波のエネルギーEnとを乗算したbEnと、モード帯域j*とを知る必要がある。以下では、bEnを総エネルギー量E0と称する(E0=bEn)と共に、内部波のパラメータであるモード帯域j*および総エネルギー量E0を内部波パラメータともいう。
ここで、式(7)の右辺の既知量の項をK(ω)とし、式(7)の未知量を含む項をX(j,j*,E0)として、式(7)を下記式(8)のように書き換える。以下では、X(j,j*,E0)をモードスペクトルという。式(8)のK(ω)は下記式(9)によって定まり、式(8)のX(j,j*,E0)は下記式(10)によって定まる。
ここで、モードスペクトルX(j,j*,E0)は、以下のように推定することができる。内部波変位の周波数ωの成分が、深度z1,z2,・・・,zLでそれぞれP個測定されたとし、各深度に対応するP個の成分を、それぞれ、ζp(z1),ζp(z2),・・・,ζp(zL)(p=1,2,…,P)とする。すると、異なる深度に対する内部波変位の積の期待値は、下記式(11)のように近似することができる。測定深度数Lは、内部波変位を測定する深度の数である。変位数Pは、各深度に対応する内部波変位の個数である。
ここで、Jは内部波変位に影響を与えているモード数であり、十分大きな数を与えることにより、式(11)による近似の誤差を小さくすることができる。また、Wj(z)は、下記式(12)および式(13)の微分方程式を満足する内部波モードであり、αjはj番目の内部波モードWj(z)に対応する固有波数である。
m=1,2,・・・,L、およびn=1,2,・・・,Lに対して式(11)を連立すると、初期観測ベクトルをy、初期観測行列をE、未知のモードスペクトルのベクトルをxとした下記式(14)の連立方程式が得られる。式(14)の初期観測ベクトルyは下記式(15)によって定まり、式(14)の初期観測行列Eは下記式(16)によって定まり、式(14)のモードスペクトルのベクトルxは下記式(17)によって定まる。
式(14)を一般的な線形逆問題の手法によって解くことにより、モードスペクトルのベクトルxの値を得ることができる。
また、式(10)で表されるモードスペクトルX(j,j*,E0)をモード帯域j*および総エネルギー量E0の関数とみて、モード帯域の初期値j* (0)および総エネルギー量の初期値E0 (0)の周りでテーラー展開し、1次の項までをとると、「j*=j* (0)+Δj*」および「E0=E0 (0)+ΔE0」におけるX(j,j*,E0)の値は、下記式(18)のように近似することができる。以降では、モード帯域j*の初期値j* (0)を単に「初期値j* (0)」ともいい、総エネルギー量E0の初期値E0 (0)を単に「初期値E0 (0)」ともいう。なお、初期値j* (0)は本発明の「第1初期値」に相当し、初期値E0 (0)は本発明の「第2初期値」に相当する。
ここで、j*による偏微分は下記式(19)のようになる。式(19)のH’0(j*)は下記式(20)で表され、式(20)の最後の無限級数は下記式(21)の公式を使って計算することができる。一方、E0による偏微分は、下記式(22)のようになる。
ここで、式(18)を式(17)に代入すると、式(14)の連立方程式は、下記式(23)のように変形することができる。式(23)のx0は下記式(24)によって定まる内部波パラメータの初期ベクトルであり、式(23)のDは下記式(25)によって定まる微分ベクトルである。
ここで、式(23)を整理すると、下記式(26)のように、観測ベクトルをΔy、観測行列をM、未知の内部波パラメータの差分ベクトルをΔxとする新たな連立方程式が得られる。観測ベクトルΔyは下記式(27)によって定まり、観測行列Mは下記式(28)によって定まり、差分ベクトルΔxは下記式(29)によって定まる。
式(26)を一般的な連立方程式の解法によって解き、内部波パラメータの差分ベクトルΔx=[Δj* ΔE0]T(Tは行列の転置を表す記号である)を得ることができたら、モード帯域j*は下記式(30)によって求めることができ、総エネルギー量E0は下記式(31)によって求めることができる。
なお、初期値j* (0)および初期値E0 (0)と、真のモード帯域および真の総エネルギー量との差が大きいほど、式(18)の線形近似による誤差が大きくなる。初期値j* (0)および初期値E0 (0)は、例えば、下記式(32)および式(33)に示す典型値に設定することができる。式(32)および式(33)に示す初期値は、真値と大差ないため、線形近似の誤差を小さくすることができる。
ところで、式(30)および式(31)により求めたモード帯域j*および総エネルギー量E0は、式(32)および式(33)に示す初期値よりも真値に近づいていると考えられる。そのため、式(30)により求めたモード帯域j*を新たな初期値j* (0)とし、式(31)により求めた総エネルギー量E0を新たな初期値E0 (0)として、式(26)の連立方程式を構成するようにしてもよい。このように再構築した式(26)の連立方程式を解くようにすれば、線形近似の誤差をさらに小さくすることができる。
続いて、図1を参照して、内部波変位シミュレーションシステム200の構成について説明する。図1に示すように、内部波変位シミュレーションシステム200は、内部波変位測定装置110と、内部波パラメータ推定装置100と、スペクトル特性演算装置120と、内部波変位予測処理装置130と、を有している。
内部波変位測定装置110は、複数の深度z1,z2,・・・,zLのそれぞれについて、P個の内部波変位であるζp(z1),ζp(z2),・・・,ζp(zL)(p=1,2,…,P)を測定するものである。本実施の形態において、測定深度数Lは2以上の任意の自然数であり、変位数Pは2以上の任意の自然数であるものとする。すなわち、内部波変位測定装置110は、深度の異なる複数の地点において、複数の内部波変位を求めるものである。内部波変位測定装置110が求める内部波変位は、内部波変位の周波数ωの成分であり、周波数ωは予め設定されている。内部波変位測定装置110は、内部波変位の測定深度である深度z1,z2,・・・,zLと、測定した内部波変位ζp(z1),ζp(z2),・・・,ζp(zL)と、内部波変位の測定に係る周波数ωとを、内部波パラメータ推定装置100へ出力するものである。
内部波パラメータ推定装置100は、内部波変位測定装置110から入力された内部波変位の測定深度、複数の内部波変位、および周波数ωなどをもとに、内部波のパラメータとして、モード帯域j*および総エネルギー量E0を求めるものである。また、内部波パラメータ推定装置100は、求めたモード帯域j*および総エネルギー量E0をスペクトル特性演算装置120へ出力するものである。
スペクトル特性演算装置120は、内部波パラメータ推定装置100から出力されたモード帯域j*および総エネルギー量E0を用いて、式(8)により、スペクトル特性F(ω,j)を求めるものである。また、スペクトル特性演算装置120は、求めたスペクトル特性F(ω,j)を内部波変位予測処理装置130へ出力するものである。
内部波変位予測処理装置130は、スペクトル特性演算装置120から出力されたスペクトル特性F(ω,j)をもとに、内部波変位をシミュレーションして予測するものである。また、内部波変位予測処理装置130は、内部波変位の予測の結果をもとに、海中の音波伝搬のシミュレーションなどを行うものである。
図2は、本発明の実施の形態に係る内部波パラメータ推定装置の機能的構成を示すブロック図である。図2に示すように、内部波パラメータ推定装置100は、初期観測ベクトル生成部10と、初期観測行列生成部20と、観測ベクトル生成部30と、観測行列生成部40と、連立方程式求解部50と、内部波パラメータ計算部60と、記憶部70と、を有している。
記憶部70には、浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfが予め記憶されている。また、記憶部70には、モード帯域の初期値j* (0)と総エネルギー量の初期値E0 (0)が予め格納されている。
初期観測ベクトル生成部10には、内部波変位測定装置110から、深度z1,z2,・・・,zLのそれぞれにおいて測定された内部波変位ζp(z1),ζp(z2),・・・,ζp(zL)(p=1,2,…,P)が入力される。
初期観測ベクトル生成部10は、内部波変位ζp(z1),ζp(z2),・・・,ζp(zL)を用いて、式(11)および式(15)により、初期観測ベクトルyを求めるものである。また、初期観測ベクトル生成部10は、求めた初期観測ベクトルyを観測ベクトル生成部30へ出力するものである。
初期観測行列生成部20には、内部波変位測定装置110から、内部波変位の測定深度である深度z1,z2,・・・,zLと、周波数ωとが入力される。また、初期観測行列生成部20は、コリオリパラメータf、および浮力周波数N(z)を記憶部70から取得するものである。初期観測行列生成部20は、入力された周波数ωと、記憶部70から取得したコリオリパラメータfおよび浮力周波数N(z)とを用いて、式(2)および式(9)により、式(7)の右辺の既知量の項K(ω)を計算するものである。
また、初期観測行列生成部20は、内部波変位の測定深度、周波数ω、コリオリパラメータf、および浮力周波数N(z)を用いて、式(12)および式(13)を満足する内部波モードWj(zm)(j=1,2,・・・,J、m=1,2,・・・,L)を求めるものである。初期観測行列生成部20は、一般的な微分方程式の解法により、内部波モードWj(zm)を求めるように構成されている。
さらに、初期観測行列生成部20は、既知量の項K(ω)と内部波モードWj(zm)(j=1,2,・・・,J、m=1,2,・・・,L)とを用いて、式(16)により、初期観測行列Eを求めるものである。そして、初期観測行列生成部20は、求めた初期観測行列Eを、観測ベクトル生成部30および観測行列生成部40に出力するものである。
観測ベクトル生成部30には、初期観測ベクトル生成部10から初期観測ベクトルyが入力され、初期観測行列生成部20から初期観測行列Eが入力される。また、観測ベクトル生成部30は、モード帯域の初期値j* (0)および総エネルギー量の初期値E0 (0)を記憶部70から取得するものである。
観測ベクトル生成部30は、記憶部70から取得したモード帯域の初期値j* (0)および総エネルギー量の初期値E0 (0)を用いて、式(3)、式(4)、式(10)、および式(24)により、内部波パラメータの初期ベクトルx0を求めるものである。また、観測ベクトル生成部30は、求めた初期ベクトルx0と、入力された初期観測ベクトルyおよび初期観測行列Eとを用いて、式(27)により、観測ベクトルΔyを求めるものである。そして、観測ベクトル生成部30は、求めた観測ベクトルΔyを連立方程式求解部50に出力するものである。
観測行列生成部40には、初期観測行列生成部20から初期観測行列Eが入力される。また、観測行列生成部40は、モード帯域の初期値j* (0)、および総エネルギー量の初期値E0 (0)を記憶部70から取得するものである。
観測行列生成部40は、記憶部70から取得したモード帯域の初期値j* (0)、および総エネルギー量の初期値E0 (0)を用いて、式(4)、式(19)、式(20)、式(21)、式(22)、および式(25)により、微分ベクトルDを求めるものである。また、観測行列生成部40は、求めた微分ベクトルDと、入力された初期観測行列Eとを用いて、式(28)により、観測行列Mを求めるものである。そして、観測行列生成部40は、求めた観測行列Mを連立方程式求解部50に出力するものである。
連立方程式求解部50には、観測ベクトル生成部30から観測ベクトルΔyが入力され、観測行列生成部40から観測行列Mが入力される。連立方程式求解部50は、入力された観測ベクトルΔyおよび観測行列Mを用いて、式(26)により、内部波パラメータの差分ベクトルΔxを求めるものである。連立方程式求解部50は、QR法などの一般的な連立方程式の解法によって式(26)を解き、内部波パラメータの差分ベクトルΔxを求めるように構成されている。また、連立方程式求解部50は、求めた内部波パラメータの差分ベクトルΔxを、内部波パラメータ計算部60に出力するものである。
内部波パラメータ計算部60には、連立方程式求解部50から内部波パラメータの差分ベクトルΔxが入力される。また、内部波パラメータ計算部60は、モード帯域の初期値j* (0)および総エネルギー量の初期値E0 (0)を記憶部70から取得するものである。内部波パラメータ計算部60は、入力された内部波パラメータの差分ベクトルΔxと、取得したモード帯域の初期値j* (0)および総エネルギー量の初期値E0 (0)とを用いて、式(30)および式(31)により、モード帯域j*および総エネルギー量E0を内部波パラメータとして求めるものである。そして、内部波パラメータ計算部60は、求めた内部波パラメータをスペクトル特性演算装置120に出力する。
ここで、内部波パラメータ計算部60は、求めた内部波パラメータによって、記憶部70内のモード帯域の初期値j* (0)および総エネルギー量の初期値E0 (0)を更新するようにしてもよい。すなわち、内部波パラメータ計算部60は、式(30)により推定したモード帯域j*を初期値j* (0)に設定すると共に、式(31)により推定した総エネルギー量E0を初期値E0 (0)に設定するようにしてもよい。このように、予め設定された初期値よりも真値に近いと考えられるモード帯域j*および総エネルギー量E0によって初期値j* (0)および初期値E0 (0)を更新すれば、線形近似の誤差をさらに小さくすることができる。
ところで、上述した原理の説明では、初期値j* (0)および初期値E0 (0)として、式(32)および(33)の値を与える場合を例示したが、これに限らず、他に真値に近いと考えられる値があれば、その値を初期値として用いてもよい。
ここで、初期観測ベクトル生成部10、初期観測行列生成部20、観測ベクトル生成部30、観測行列生成部40、連立方程式求解部50、および内部波パラメータ計算部60は、それぞれの各機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアで実現することもできるし、例えば、マイコン、DSP(Digital Signal Processor)、又はCPU(Central Processing Unit)等の演算装置上で実行されるソフトウェアとして実現することもできる。後者の場合、記憶部70には、初期観測ベクトル生成部10、初期観測行列生成部20、観測ベクトル生成部30、観測行列生成部40、連立方程式求解部50、および内部波パラメータ計算部60の動作プログラムが格納されていてもよい。また、記憶部70は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等のPROM(Programmable ROM)、又はHDD(Hard Disk Drive)等により構成することができる。
図3は、内部波パラメータ推定装置の動作を示すフローチャートである。図3に基づき、内部波パラメータ推定装置100による内部波パラメータ推定方法について説明する。
初期観測ベクトル生成部10は、海中における複数の深度それぞれの内部波変位をもとに初期観測ベクトルyを生成し、生成した初期観測ベクトルyを観測ベクトル生成部30へ出力する(ステップS101/初期観測ベクトル生成工程)。
また、初期観測行列生成部20は、内部波変位の測定に係る周波数ωと、コリオリパラメータfと、浮力周波数N(z)とを用いて、式(7)の右辺の既知量の項K(ω)を計算する。次いで、初期観測行列生成部20は、内部波変位の測定深度、周波数ω、コリオリパラメータf、および浮力周波数N(z)を用いて、内部波モードWj(zm)を求める。そして、初期観測行列生成部20は、既知量の項K(ω)と内部波モードWj(zm)とをもとに初期観測行列Eを生成し、生成した初期観測行列Eを観測ベクトル生成部30および観測行列生成部40に出力する(ステップS102/初期観測行列生成工程)。
次に、観測ベクトル生成部30は、初期値j* (0)および初期値E0 (0)を用いて内部波パラメータの初期ベクトルx0を求める。そして、観測ベクトル生成部30は、求めた初期ベクトルx0と、初期観測ベクトルyおよび初期観測行列Eとをもとに観測ベクトルΔyを求めて連立方程式求解部50に出力する(ステップS103/観測ベクトル生成工程)。
また、観測行列生成部40は、初期値j* (0)および初期値E0 (0)を用いて微分ベクトルDを求める。そして、観測行列生成部40は、求めた微分ベクトルDと、初期観測行列Eとをもとに観測行列Mを求めて連立方程式求解部50に出力する(ステップS104/観測行列生成工程)。
連立方程式求解部50は、観測ベクトルΔyおよび観測行列Mを用いて内部波パラメータの差分ベクトルΔxを求め、求めた差分ベクトルΔxを内部波パラメータ計算部60に出力する(ステップS105/連立方程式求解工程)。
続いて、内部波パラメータ計算部60は、内部波パラメータの差分ベクトルΔxと、初期値j* (0)および初期値E0 (0)とを用いてモード帯域j*および総エネルギー量E0を求めるものである。そして、内部波パラメータ計算部60は、求めたモード帯域j*および総エネルギー量E0を内部波パラメータとしてスペクトル特性演算装置120に出力する(ステップS106/内部波パラメータ計算工程)。
また、内部波パラメータ計算部60は、内部波パラメータ計算工程で求めたモード帯域j*および総エネルギー量E0によって、記憶部70内の初期値j* (0)および初期値E0 (0)を更新する(ステップS107/初期値更新工程)。そして、内部波パラメータ推定装置100は、上記ステップS103〜S107の一連の処理を繰り返し実行する。
ここで、上記の動作説明は、図3に付したステップ番号の順に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ステップS101の初期観測ベクトル生成工程とステップS102の初期観測行列生成工程とは並行して行うことができ、ステップS103の観測ベクトル生成工程とステップS104の観測行列生成工程とも並行して行うことができる。
以上のように、本実施の形態における内部波パラメータ推定装置100は、初期観測ベクトルyおよび初期観測行列Eを用いて生成した観測ベクトルΔyおよび観測行列Mをもとにモード帯域j*および総エネルギー量E0を求める。そのため、モード数Jを大きくしても演算量が変化せず、かつ最小自乗法などによる演算処理が不要となることから、内部波のパラメータを推定する際の演算処理を簡略化することができる。したがって、内部波変位シミュレーションシステム200によれば、少ない演算量で内部波変位を精度よくシミュレーションすることができる。
また、内部波パラメータ計算部60には、求めたモード帯域j*および総エネルギー量E0によって、初期値j* (0)および初期値E0 (0)を更新する機能をもたせることができる。このようにすれば、設定された初期値をさらに真値に近づけることができるため、線形近似の誤差をより小さくすることができる。
さらに、初期観測ベクトル生成部10は、海中における複数の深度それぞれの内部波変位をもとに初期観測ベクトルyを生成するものであり、初期観測行列生成部20は、複数の深度を用いて初期観測行列Eを生成するものである。すなわち、本実施の形態では、測定深度数Lが2以上の自然数に設定されている。したがって、より広域の内部波変位を用いることができることから、内部波パラメータの推定精度が向上するため、内部波変位のシミュレーションの精度向上を図ることができる。
ここで、図4および図5を参照して、内部波パラメータ推定装置100によって得られる効果を詳細に説明する。図4は、従来技術に係る内部波パラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。図5は、図2の内部波パラメータ推定装置による演算回数と、図4の内部波パラメータ推定装置による演算回数とを示すグラフである。図5では、横軸にモード数Jをとり、縦軸に浮動小数点演算回数をとっている。なお、図5には、内部波変位の測定深度数Lが30の場合を例示している。
図4に示すように、従来の構成である内部波パラメータ推定装置1000は、初期観測ベクトルyを生成する初期観測ベクトル生成部1100と、初期観測行列Eを生成する初期観測行列生成部1200と、初期観測ベクトルyと初期観測行列Eとからモードスペクトルのベクトルxを求める連立方程式求解部1500と、を有している。
すなわち、内部波パラメータ推定装置1000の連立方程式求解部1500には、初期観測ベクトルyおよび初期観測行列Eが入力されるようになっている。そして、連立方程式求解部1500は、初期観測ベクトルyおよび初期観測行列Eをもとに、QR法などの一般的な連立方程式の解法によって式(14)を解き、モードスペクトルのベクトルxを出力するようになっている。そのため、モード帯域j*および総エネルギー量E0を推定するためには、モードスペクトルのベクトルxが得られた後に、最小自乗法などの演算処理を行う必要がある。
ここで、例えば、下記式(34)のように誤差関数を定義する。xjは、求めたモードスペクトルのベクトルxのj番目の要素である。
つまり、従来の構成では、式(34)の誤差関数が最小となるように、モード帯域j*および総エネルギー量E0を推定する必要がある。
また、式(14)および式(16)の初期観測行列Eは、行数がL(L+1)/2であり、列数がJである。したがって、式(11)における近似の誤差を小さくするためにモード数Jを大きくすると、モードスペクトルのベクトルxを求めるための演算量が大きくなる。
ここで、例えば、連立方程式を解く手法として広く使われているQR法を用いる場合を考える。QR法は、初期観測行列Eが「E=QR」のように対角行列Qと上三角行列Rとの積で表せることを利用するものであり、浮動小数点演算が約2J2[L(L+1)/2−J/3]回必要であることが知られている。
図5のように、測定深度数Lが30の場合、従来の構成では、浮動小数点演算が約2J2[465−J/3]回必要となる。すなわち、従来の構成では、図5の破線グラフGyのように、モード数Jを大きくするにつれて演算量が増加していくことがわかる。
一方、本実施の形態では、式(26)の連立方程式において、観測行列Mの列数は常に2である。よって、式(26)の連立方程式をQR法で解く場合には、浮動小数点演算の回数は約8×[L(L+1)/2−2/3]回となる。
ここで、線形近似の誤差は、浮動小数点演算を繰り返し行う毎に小さくなり、数回の繰り返しによって十分に小さくなる。したがって、本実施の形態では、浮動小数点演算を繰り返す回数である繰り返し回数Sが2以上に設定されている。この場合、浮動小数点演算の回数は約8×S×[L(L+1)/2−2/3]回となる。図5では、繰り返し回数Sが10に設定されている場合を例示しており、この場合、浮動小数点演算の回数は約80×[L(L+1)/2−2/3]回となる。
すなわち、従来の構成では、図5の破線グラフGyのように、モード数Jを大きくするほど、浮動小数点演算の回数が増加していたが、内部波パラメータ推定装置100では、図5の実線グラフGxのように、浮動小数点演算の回数がモード数Jに依存しない。つまり、内部波パラメータ推定装置100においては、モード数Jを大きくしても、浮動小数点演算の回数が多くならない。
したがって、式(11)における近似の誤差を小さくするために、モード数Jを大きくすることを考えるとき、例えば、繰り返し回数Sを10に設定した場合は、モード数を7以上にすれば、従来の構成よりも少ない演算回数で内部波パラメータを推定することができる。なお、非特許文献3では、モード数Jを15としており、かかる設定の場合、図5に演算回数差ΔCとして示すように、内部波パラメータ推定装置100と従来の構成との間に、演算回数の大きな違いが生じる。つまり、内部波パラメータ推定装置100によれば、モード数Jを大きくすればするほど、連立方程式を解くための演算回数が従来よりも削減され、優位性が向上する。
また、内部波パラメータ推定装置100は、式(26)の連立方程式「Δy=MΔx」を解くことにより、内部波パラメータを得ることができるため、従来の構成のように、最小自乗法などによる内部波パラメータの推定処理を行う必要がない。すなわち、内部波パラメータ推定装置100によれば、内部波のパラメータを推定する際の演算処理を簡略化することができる。
なお、上述した実施の形態は、内部波パラメータ推定装置および内部波パラメータ推定方法における好適な具体例であり、本発明の技術的範囲は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、測定深度数Lが2以上の自然数である場合を例示したが、これに限らず、測定深度数Lは1であってもよい。ただし、測定深度数Lは、大きな値に設定した方が、より広域の内部波変位を用いることができるため、内部波パラメータの推定精度が向上することから、内部波変位のシミュレーションの精度向上を図ることができる。また、上記実施の形態では、変位数Pが2以上の自然数である場合を例示したが、これに限らず、変位数Pは1であってもよい。ただし、変位数Pについても、大きな値に設定した方が、より広域の内部波変位を用いることができるため、内部波パラメータの推定精度が向上することから、内部波変位のシミュレーションの精度向上を図ることができる。
10 初期観測ベクトル生成部、20 初期観測行列生成部、30 観測ベクトル生成部、40 観測行列生成部、50 連立方程式求解部、60 内部波パラメータ計算部、70 記憶部、100 内部波パラメータ推定装置、110 内部波変位測定装置、120 スペクトル特性演算装置、130 内部波変位予測処理装置、200 内部波変位シミュレーションシステム。
Claims (4)
- 海洋内部波による等密度面の変位である内部波変位をもとに初期観測ベクトルを生成する初期観測ベクトル生成部と、
前記内部波変位の測定に係る周波数とコリオリパラメータと浮力周波数とをもとに初期観測行列を生成する初期観測行列生成部と、
前記初期観測ベクトル生成部において生成された前記初期観測ベクトルと、前記初期観測行列生成部において生成された前記初期観測行列と、モード帯域の初期値である第1初期値および総エネルギー量の初期値である第2初期値ともとに観測ベクトルを生成する観測ベクトル生成部と、
前記初期観測行列生成部において生成された前記初期観測行列と、前記第1初期値および前記第2初期値とをもとに観測行列を生成する観測行列生成部と、
前記観測ベクトル生成部において生成された前記観測ベクトルと、前記観測行列生成部において生成された前記観測行列とをもとに、内部波パラメータの差分ベクトルを求める連立方程式求解部と、
前記連立方程式求解部において求められた前記差分ベクトルと、前記第1初期値および前記第2初期値とをもとに、前記内部波パラメータとして前記モード帯域および前記総エネルギー量を求める内部波パラメータ計算部と、を有する内部波パラメータ推定装置。 - 前記内部波パラメータ計算部は、
求めた前記モード帯域および前記総エネルギー量によって、前記第1初期値および前記第2初期値を更新するものである請求項1に記載の内部波パラメータ推定装置。 - 前記初期観測ベクトル生成部は、
海中における複数の深度それぞれの前記内部波変位をもとに前記初期観測ベクトルを生成するものであり、
前記初期観測行列生成部は、
前記複数の深度を用いて前記初期観測行列を生成するものである請求項1又は2に記載の内部波パラメータ推定装置。 - 海洋内部波による等密度面の変位である内部波変位をもとに初期観測ベクトルを生成する初期観測ベクトル生成工程と、
前記内部波変位の測定に係る周波数とコリオリパラメータと浮力周波数とをもとに初期観測行列を生成する初期観測行列生成工程と、
前記初期観測ベクトル生成工程で生成した前記初期観測ベクトルと、前記初期観測行列生成工程で生成した前記初期観測行列と、モード帯域の初期値である第1初期値および総エネルギー量の初期値である第2初期値ともとに観測ベクトルを生成する観測ベクトル生成工程と、
前記初期観測行列生成工程で生成した前記初期観測行列と、前記第1初期値および前記第2初期値とをもとに観測行列を生成する観測行列生成工程と、
前記観測ベクトル生成工程で生成した前記観測ベクトルと、前記観測行列生成工程で生成した前記観測行列とをもとに、内部波パラメータの差分ベクトルを求める連立方程式求解工程と、
前記連立方程式求解工程で求めた前記差分ベクトルと、前記第1初期値および前記第2初期値とをもとに、前記内部波パラメータとして前記モード帯域および前記総エネルギー量を求める内部波パラメータ計算工程と、を有する内部波パラメータ推定方法。
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CN109632258A (zh) * | 2019-01-30 | 2019-04-16 | 杭州电子科技大学 | 一种基于矢量传感器的收发分离的海洋内波声学检测方法 |
CN109781382A (zh) * | 2019-01-30 | 2019-05-21 | 杭州电子科技大学 | 一种基于矢量传感器的有缆潜标海洋内波监测系统 |
CN114282574A (zh) * | 2021-12-16 | 2022-04-05 | 中国人民解放军海军潜艇学院 | 一种用于海洋内波特征参数的反演方法及系统 |
CN114282574B (zh) * | 2021-12-16 | 2024-05-28 | 中国人民解放军海军潜艇学院 | 一种用于海洋内波特征参数的反演方法及系统 |
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2017
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