JP2018059908A - 生理活性ペプチドの検出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生理活性ペプチドの検出方法の提供。【解決手段】 ウエスタンブロッティングにより生理活性ペプチドを検出する方法であって、ゲル電気泳動後のタンパク質転写とブロッキングとの間に、少なくとも、プレブロッキング処理及びアルデヒドによる固定化処理を行うことを特徴とする前記方法。【選択図】なし

Description

本発明は、ウエスタンブロッティングの改良法を利用した生理活性ペプチドの検出方法に関する。
生理活性ペプチドの分子量は、一般的におよそ1,000Da-20,000Da程度とタンパク質としては比較的小さく、ホルモン作用、神経伝達作用、抗菌作用等様々な生理活性を有する。例えばホルモン作用を有するペプチドホルモンは、ある特定の生理刺激に応答した器官から血中へ分泌され、近傍あるいは遠隔の器官への情報伝達を担う。ペプチドホルモンが関与する代表的な疾患としては糖尿病があげられる。
糖尿病の病態はインスリンをはじめとした他の膵ペプチドホルモンと密接に関連しているため、これらホルモンの細胞内外の含有量を定量的に分析することは、糖尿病の診断・治療・研究という面において重要な手法であるといえる(非特許文献1)。
インスリン(51アミノ酸、分子量5807.6 Da)はA鎖(21アミノ酸、分子量2383.7 Da)とB鎖(30アミノ酸、分子量3429.9 Da)で構成され、直接的な血糖降下作用をもつ唯一のホルモンである。インスリンの成熟過程はこれまでによく特徴が明らかにされている(非特許文献1、2)。インスリン はINS遺伝子から、前駆体の単一ポリペプチドであるプレプロインスリンとして翻訳される。そしてN末端のシグナル配列の作用で小胞体に輸送される。プレプロインスリンはこの輸送の過程において、シグナル配列が切断されることにより、プロインスリンへと変換される。ついで、小胞体に移行したプロインスリン は、ジスルフィド結合の形成を通して適切に折りたたまれる。一つは2鎖間(A鎖とB鎖)でのシステイン残基によるジスルフィド架橋、もう一つはA鎖間でのシステイン残基によるジスルフィド架橋である。最終的にゴルジ体で、いくつかのプロホルモン変換酵素(PC1/3, PC2, CPE)によりCペプチドがプロインスリンから切り離され、インスリンへの成熟が完了となる。
インスリンの定量では、ELISA法を用いるのが一般的である。ELISA法は目的タンパクを定量するのに優れた手法であるが、数値データ以外の情報が得られないので、常に特異性について考慮しなければならない。特にターゲットがペプチドホルモンの場合、成熟体と前駆体の間の免疫学的な交差反応が大きな問題となる。糖尿病研究の分野においては、インスリンだけでなくグルカゴンもまたELISA法で定量が難しい分子の一つである(非特許文献3)。
ウエスタンブロット(WB)はタンパク質解析において汎用されている半定量的な手法であるにもかかわらず、インスリンをWBで検出している例が極めて少ない。このため、インスリンをWBに適応させることは困難であることが予想された。実際に、発明者らがインスリンのWBを行ってみると、インスリンシグナルバンドの歪みとプロインスリンと比較してインスリンの感受性の低さといった、定量解析において問題となる点が生じることが確認された。
Bataille, D. Pro-protein convertases in intermediary metabolism: islet hormones, brain/gut hormones and integrated physiology. J. Mol. Med. (Berl). 85, 673-684 (2007). Dodson, G. & Steiner, D. The role of assembly in insulin’s biosynthesis. Curr. Opin. Struct. Biol. 8, 189-194 (1998). Wewer, Albrechtsen, N.J., et al. Hyperglucagonaemia analysed by glucagon sandwich ELISA: nonspecific interference or truly elevated levels? Diabetologia 57, 1919-1926 (2014)
本発明は、ウエスタンブロッティングを利用した糖尿病関連ペプチドの検出方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ウエスタンブロッティングの工程のうち、転写工程とブロッキング工程との間にプレブロッキング処理及びアルデヒド固定処理を行うことにより、タンパク質の検出感度を高めることに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ウエスタンブロッティングにより生理活性ペプチドを検出する方法であって、ゲル電気泳動後のタンパク質転写とブロッキングとの間に、少なくとも、プレブロッキング処理及びアルデヒドによる固定化処理を行うことを特徴とする前記方法。
(2)ゲル電気泳動後のタンパク質転写とブロッキングとの間に、抗原の賦活化及びクエンチングから選ばれる少なくとも1つの処理をさらに含む、(1)に記載の方法。
(3)生理活性ペプチドが、糖尿病関連ペプチドである(1)又は(2)に記載の方法。
(4)糖尿病関連ペプチドがインスリンである(3)に記載の方法。
(5)アルデヒドがグルタルアルデヒド又はパラホルムアルデヒドである(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)プレブロッキング処理が、スキムミルク、フィッシュゼラチン、ウシ血清アルブミン、及びポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いるものである、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)抗原の賦活化処理が、クエン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、エチレンジアミン4酢酸及びTween20からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いる処理である(2)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(8)クエンチング処理が、グリシンを含む溶液を用いる処理である(2)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(9)プレブロッキング試薬及びアルデヒドを含む、改良型ウエスタンブロッティング用キット。
(10)抗原の賦活化試薬及びクエンチング試薬から選ばれる少なくとも1つの試薬をさらに含む、(9)に記載のキット。
本発明により、ウエスタンブロッティングの改良法を利用した糖尿病関連ペプチドの高感度検出が可能となった。
インスリン標品(0.5及び2.5 μg)を用いて、Tris/Tricine/urea SDS-PAGEに使用するサンプルバッファー及び泳動バッファー中のSDS濃度の最適化を検討した結果を示す図である。 WB中のPVDFメンブレンからのインスリンの流出を示唆する図である。(a)WBはプロインスリン及びインスリンの両方を検出できる抗インスリン抗体(クローンC27C9)を用いて行った(a上図)。また、WB後のPVDFメンブレンをCBB R-250で染色した(a下図)。(b)電気泳動直後のゲル(b上図)及びブロッティング直後のPVDFメンブレン(b下図)をCBB R-250で染色した。 グルタルアルデヒド処理によりインスリンがPVDFメンブレンに効率よく固定されることを示す図である。(a、b)インスリン標品(1 μg)をTris/Tricine/urea SDS-PAGEに供した。転写後の1枚のPVDFメンブレンをコントロール実験用の1スリップとアルデヒド処理用(a: paraformaldehyde、b:glutaraldehyde)の5スリップに分離した。アルデヒドの濃度は図中に示した。(c)等molのプロインスリン及びインスリン標品をTris/Tricine/urea SDS-PAGEに供し、PVDFメンブレンへ転写後、賦活化処理の効果を確かめるために3スリップに切り分けて各種処理を行った。c上図はインスリンのWB、c下図はWB後のメンブレンのCBB染色の結果である。各処理条件の比較のために、各パネルにおけるWBのデータは、複数枚のメンブレンを一度に撮影した。 固定前のブロットに対するブロッキングバッファーの処理によりインスリンのWBシグナル改善が増強することを示す図である。(a) 低濃度希釈系列(10、3、1、0.3 ng)及び、(b)高濃度希釈系列(100、30、10、3 ng)のインスリンをTris/Tricine/urea SDS-PAGEに供した。濃度評価のために、1枚のブロットメンブレンから4スリップのメンブレンに分離し、各種処理を行った。(c)低濃度希釈系列(10、3、1、0.3 ng)のインスリンをTris/Tricine/urea SDS-PAGEに供した。処理時間の最適化のためには、1枚のブロットメンブレンから3スリップのメンブレンに分離し、各時間1xブロッキングバッファーで処理した。(d)本発明の方法のフローダイアグラムである。各処理条件の比較のために、各パネルにおけるWBのデータは、複数枚のメンブレンを一度に撮影した。 プロインスリン及びインスリン標品を用いた検量線の評価とマウスβ細胞株MIN6c4の細胞内インスリン含量の定量を示す図である。プロインスリンとインスリンの等モル希釈系列を一般法あるいは改法WBで解析した。一般法と改法のスリップは1枚のブロットメンブレンから分離した。(a)は、4つの独立した実験の中の代表的な1実験のデータを示す。(b-e)プロインスリン(b、c)及びインスリン(d、e)の定量データは各々4つのスリップから求めた。データは平均値±標準誤差で示してあり、統計解析にはstudentのt-testを用いた(*, p<0.05; **, p<0.01)。検量線は4パラメーターロジスティックフィッティング法を用いた(b、d)。各濃度(4点)におけるプロインスリン(c)もしくはインスリン(e)の改法によるシグナル増強効果を示した。(f)プロインスリン/インスリン比は、各濃度におけるプロインスリン/インスリン比の平均から求めた。データは平均値±標準誤差で示してあり、統計解析にはstudentのt-testを用いた(**, p<0.01)。(g)プロインスリンとインスリンの等モル希釈系列の検量線(51.7-0.8 pmol)を用いて、低グルコース条件及び高グルコース条件で培養したMIN6c4細胞内のプロインスリン及びインスリン量を算出した。(h)プロインスリン(215.2-3.4 fmol)とインスリン(2152.4-33.6 fmol)の希釈系列の検量線を用いて、低グルコース条件及び高グルコース条件で培養したMIN6c4細胞の培地中へのプロインスリン及びインスリン分泌量を算出した。 本発明の方法をインスリンアナログ及びその他の糖尿病関連ペプチドホルモンへに適用した結果を示す図である。各ペプチド100 ngの標品を一般法あるいは改法(0.2%グルタルアルデヒド又は0.4%パラホルムアルデヒド処理)WBで解析した。各パネルのレーンは(a)インスリン、インスリングルリジン、インスリンデテミル、インスリンデグルデク、(b)グルカゴン、(c)グルカゴン様ペプチド-1(1-36)アミド及びグルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミド、(d)ソマトスタチン-28及びソマトスタチン-14、(e)グレリン、デスアシルグレリン(f)膵ポリペプチドである。各処理条件の比較のために、各パネルにおけるWBのデータは、複数枚のメンブレンを一度に撮影した。 本発明の方法が様々な生体サンプルに適応可能であることを示す図である。(a-c)MIN6c4細胞あるいはαTC1-6細胞におけるインスリン(a)、グルカゴン(b)、グルカゴン様ペプチド-1(c)を本発明の方法(0.2%グルタルアルデヒド固定)で検出した。プロインスリン/インスリン標品は51.7-0.5 pmolのレンジの1/10希釈系列(3点)を用いた。グルカゴンの標品は287.1-2.9 pmolのレンジの1/10希釈系列(3点)を用いた。グルカゴン様ペプチド-1(1-36)アミド及びグルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミドの標品は30.3-0.3 pmolのレンジの1/10希釈系列(3点)を用いた。(d-g)膵臓あるいは膵島におけるインスリン(d)、グルカゴン(e)、グルカゴン様ペプチド-1(f)、ソマトスタチン(g)を標準の方法及び本発明の方法(0.2%グルタルアルデヒド固定)で検出した。プロインスリン/インスリンの標品は51.7-0.5 pmolのレンジの1/10希釈系列(3点)を用いた。グルカゴンの標品は287.1-2.9 pmolのレンジの1/10希釈系列(3点)を用いた。グルカゴン様ペプチド-1(1-36)アミド及びグルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミドの標品は91.0-0.9 pmolのレンジの1/10希釈系列(3点)を用いた。ソマトスタチンの検量線は611.0-6.11 fmolのレンジの1/10希釈系列(3点)を用いた。各処理条件の比較のために、各パネルにおけるWBのデータは、複数枚のメンブレンを一度に撮影した。 本発明の方法におけるクエンチング処理を賦活化の後にすることが効果的であることを示す図である。希釈系列(30、100、300 ng)のインスリンをTris/Tricine/urea SDS-PAGEに供した。PVDFメンブレンへ転写及びGA固定後に、1枚のブロットメンブレンから3スリップのメンブレンに分離し、賦活化とクエンチングの順序の効果を検証した。 プロインスリン及びインスリンの両方を認識する他クローン抗体(L6B10)を用いたときのシグナル増強効果を示す図である。プロインスリンとインスリンの等モル希釈系列を一般法あるいは改法WBで解析した。一般法と改法のスリップは1枚のブロットメンブレンから分離した。各処理条件の比較のために、各パネルにおけるWBのデータは、複数枚のメンブレンを一度に撮影した。 本発明の方法が添加回収実験での適合性を示す図である。(a)MIN6c4の細胞抽出液に対して200 ngもしくは50 ngのインスリンを添加し、無添加時を100%とした時のそれぞれの容量時の回収率を求めた。検量線は1000-31.25 ngのレンジの1/2希釈系列(計6点)を用いた。(b)MIN6c4の培養上清に対して25 ngもしくは6.25 ngのインスリンを添加し、無添加時を100%とした時のそれぞれの容量時の回収率を求めた。検量線は125-3.90625 ngのレンジの1/2希釈系列(計6点)を用いた。回収率は独立した4回の実験より求めた。
本発明は、ウエスタンブロッティングの改良法によりタンパク質、特に生理活性ペプチドを検出する方法である。本発明の方法は、通常のウエスタンブロッティングにおける工程のうち、ゲル電気泳動後のタンパク質転写と、これに続くブロッキングとの間に、少なくとも、プレブロッキング処理及びアルデヒドによる固定化処理を行うことを特徴とするものである。この処理工程を含むウエスタンブロッティングを改良型ウエスタンブロッティングという。また本発明の方法においては、前記タンパク質転写とブロッキングとの間に、抗原の賦活化及びクエンチングから選ばれる少なくとも1つの処理をさらに含むことを特徴とする。
本発明では、WBによるインスリン及びプロインスリンの検出が広く普及していなかった理由を明らかにし、それらの問題をWBのプロトコルを改良することで解決することに成功した。さらに、この改良したWBが他の糖尿病関連ペプチドホルモンにも有用であることを示した。
ウエスタンブロッティングの一般的手法
ウェスタンブロッティングは、電気泳動によるタンパク質分離及び抗原抗体反応を組み合せて、特定のタンパク質を検出する手法である。
まず、SDS-PAGE、等電点電気泳動、二次元電気泳動等によりタンパク質を分離した後、ゲル中のタンパク質をメンブレンに移動及び固定化する。メンブレンには、タンパク質が結合しやすい疎水性の高いニトロセルロース、さらに疎水性に優れたPVDF(Polyvinylidene Difluoride)が用いられる。メンブレンへのタンパク質の移動をブロッティングといい、固定化をブロッキングという。
タンパク質をメンブレンに固定することで、その後の抗原抗体反応等を利用して目的のタンパク質を特異的に検出することができる。
続いて、メンブレン上のブロットを目的タンパク質に対する抗体と反応させて検出する。検出には標識抗体が使用され、主として、目的のタンパク質を認識する一次抗体、及び一次抗体を作製させた動物種由来の抗体を認識する抗体に標識をつけた抗体(標識二次抗体)の二種類の抗体を用いて反応を行う。
本発明の改良型ウエスタンブロッティング方法
本発明においては、ブロッティングとブロッキングとの間に、プレブロッキング及びアルデヒド固定を行うことを特徴とする。
本発明において、生理活性ペプチドとはホルモン作用、神経伝達作用、抗菌作用等様々な生理活性を有し、その分子量がおよそ1,000Da-20,000Da程度のタンパク質を意味する。本発明において検出の対象となる生理活性ペプチドの一例としての糖尿病関連ペプチド群を以下に例示する。
・プロインスリン、インスリン、インスリンデテミル、インスリンデグルデク、インスリングルリジン
・グルカゴン
・グルカゴン様ペプチド-1
・ソマトスタチン
・グレリン
・膵ポリペプチド
プレブロッキングとは、従来行われているブロッキングに先んじて、ブロッキング剤を用いてブロッキングすることを意味する。プレブロッキングに使用される試薬としては、例えば、スキムミルク、フィッシュゼラチン、ウシ血清アルブミン、及びポリビニルピロリドン等の、いわゆる一般的なウエスタンブロッティングにおけるブロッキングに使用される試薬群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液が挙げられ、例えば1%スキムミルク/0.1%ウシ血清アルブミン混合液があげられる。プレブロッキングは、4℃〜30℃で1分〜60分処理することができるが、23℃〜27℃で5分〜15分処理することが好ましい。
アルデヒドによる固定処理は、メンブレンへのタンパク質吸着の強化のための処理を意味する。本発明に使用されるアルデヒドは、特に限定されるものではないがグルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド等の、いわゆる一般的な免疫染色法に使用されるアルデヒドが挙げられ、最適な固定結果を得るには、ターゲットタンパク質及び抗体によって使い分ける必要がある。アルデヒドの処理は、4℃〜30℃で1分〜60分処理することができるが、23℃〜27℃で10分〜20分処理することが好ましい。またグルタルアルデヒド濃度としては2%-0.02%、パラホルムアルデヒドは4%-0.04%を使用することが好ましい。
また本発明には、上記プレブロッキング及びアルデヒド固定のほかに、抗原の賦活化処理及びクエンチングのいずれか一方又は両方を採用することができる。
賦活化は、電子レンジ(600-800ワットで5-15分)あるいはオートクレーブ(一般的な滅菌作業条件)によって行うことができる。
クエンチング処理は、遊離あるいは未反応のアルデヒド基をブロックすることにより、抗体と当該アルデヒド基の非特異的結合の回避のための処理を意味する。クエンチングに使用される試薬は、グリシン又はその水溶液であり、好ましくはグリシン含有水溶液である。濃度は特に限定されるものではないが、例えば200 mM glycine in PBS/0.05% Tween20という組成のものを使用することができる。クエンチングは、4℃〜30℃で1分〜30分処理することができるが、23℃〜27℃で5分〜15分処理することが好ましい。
キット
本発明は、プレブロッキング試薬及びアルデヒドを含む、改良型ウエスタンブロッティング用キットを提供する。本発明のキットは、本発明の改良型ウエスタンブロッティングに使用される試薬、すなわち、少なくとも前記プレブロッキング試薬及びアルデヒドを含む。また、本発明のキットには、抗原の賦活化試薬及びクエンチング試薬から選ばれる少なくとも1つの試薬をさらに含めることができる。
さらに、本発明のキットには、改良型ウエスタンブロッティングの作業説明書、緩衝液、PVDF膜、一次抗体、二次抗体、標識用酵素などを含めることができる。
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
1.方法及び材料
ペプチドホルモン及びアナログ
本研究に用いたペプチドホルモン等の種は全てヒトである。
・インスリン及びそのアナログ
プロインスリン (AmideBio)、インスリン (Wako)
インスリンデテミル、インスリンデグルデク (以上Novo Nordisk)、インスリングルリジン (Sanofi),
・グルカゴン(Peptide Institute)
・グルカゴン様ペプチド-1
グルカゴン様ペプチド-1(1-36)アミド、グルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミド(以上KareBay Biochem)
・ソマトスタチン
ソマトスタチン-28、ソマトスタチン-14 (以上KareBay Biochem)
・グレリン
デスアシルグレリン、グレリン (以上Peptide Institute)
・膵ポリペプチド (KareBay Biochem).
抗体
抗-インスリン ウサギモノクローナル抗体(mAb)クローンc27c9, 抗-インスリン マウスmAb クローン L6B10(以上Cell Signaling Technology)、抗-グルカゴン ウサギ mAb クローン EP3070, 抗グルカゴン様ペプチド-1 マウス mAb クローン 4F3 (以上Abcam)、抗-グレリン マウス mAb クローン1ML-1D7 (Millipore, USA)、抗-ソマトスタチン14 ウサギ pAb (Bioss)、抗-膵ポリペプチド ヤギ ポリクローナル抗体(pAb) (R&D systems).
ペプチドホルモン標品の準備
ペプチドホルモンについて、他で記載されていない限り、担体タンパクとして1μg/ml のウシ血清アルブミンを含んだSDSサンプルバッファー(75mM Tris-HCl(pH6.8), 1% SDS, 10% グリセロール, 2.5% シュクロース)と混合した。2-メルカプトエタノール(最終濃度5%)とCBB G250(最終濃度0.00125%)を加えた後、5分間加熱することで電気泳動サンプルとした。
細胞、膵臓、膵島抽出液の準備
MIN6c4及びαTC1-6細胞はDMEM培地(15%ウシ胎児血清、12.5 mMグルコース、1 mMピルビン酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、100 μM 2-メルカプトエタノール含有)で維持培養した。マウス膵島はc57BL/6マウス(3-12ヶ月齢、オス及びメス)よりコラゲナーゼ/ハンドピッキング法[Li DS et al. 2009]で採取した。細胞あるいは組織溶解液は、細胞あるいは組織ぺレットにSDSサンプルバッファーを加え5分加熱し、ソニケーションすることで抽出した。タンパク質濃度はプロトコルにしたがってBCAプロテインアッセイ(Thermo Fisher Scientific)により求め、SDSサンプルバッファーを添加して濃度を統一した。次いで2-メルカプトエタノール(最終濃度5%)とCBB G250(最終濃度0.00125%)を加えて混合、5分間加熱し、電気泳動サンプルとした。
細胞培養上清の準備
細胞培養上清は、グルコース誘導性インスリン分泌アッセイを行うことで準備した。まずMIN6c4細胞を12ウェルプレートに1ウェルあたり5.8x105細胞播種した。翌日、培養液は1 mLの5 mMグルコース含有Krebs-Ringer bicarbonate HEPES (KRBH)バッファー(1.19 mM リン酸二水素カリウム、25 mM 炭酸水素ナトリウム、119 mM 塩化ナトリウム、4.74 mM 塩化カリウム、1.19 mM 塩化マグネシウム、2.54 mM 塩化カルシウム、10 mM ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン(HEPES) pH7.4、0.1% ウシ血清アルブミン)に置換し、45分間CO2インキュベーター中で前培養した。前培養後、細胞は1 mLの5、12.5、あるいは30 mMグルコース含有KRBHバッファー中で2時間培養し、その培養上清を培養上清サンプルとした。また、ウェル中の細胞も回収し、培養上清のローディング補正(総タンパク質の2μg相当量の培養上清を使用)に用いた。
Tris/Tricine/urea SDS-PAGE
タンパク質の分離は、6.3Mの尿素を含んだ10-20%濃度勾配ポリアクリルアミドゲルを用いた、Tris/Tricine/urea SDS-PAGEにより行った。濃度勾配ゲルは、Gel factory mini MP system(DRC) によって作成した。電気泳動は、XV PANTERA MP SYSTEM(DRC) を用いて行った。泳動バッファー(Running buffer)(pH8.3, 50mM Tris-HCl, 50mM Tricine, 0.5% SDS) 以外は、参照論文[Schagger H et al. 2006]に記されたように準備した。
Western blotting
電気泳動後のゲルはウェット型ブロットシステム(Bio-Rad)を用いてPVDFメンブレンへのタンパク質転写を行った。標準法では、転写後にブロッキングを行う。改法では、以下の如く転写とブロッキングの間に追加の操作が加えられている。
転写後のPVDFメンブレンを、TTBS(0.1%Tween 20 を含むTBS(pH7.4, 50mM Tris, 150mM NaCl))で軽く洗浄した後、直ちにブロッキング溶液(この場合はプレブロッキング溶液として使用)(1%スキムミルク/0.1%BSA/TTBS)に5分間浸した。TPBS(PBS(pH7.4, 10mM Na2HPO4, 1.8mM KH2PO4, 137mM NaCl, 2.7mM KCl))での3分間の洗浄を挟んだ後、0.2%GA/TPBS もしくは0.4%PFA/TPBS で15分間固定処理した。
アルデヒド系試薬で処理したPVDFメンブレンは、TPBSで手短に3回洗浄した後、クエン酸溶液(10mM クエン酸 (pH6.0)、1mM EDTA, 0.05% Tween20)に浸した。抗原賦活化処理は電子レンジ(600W, 10分間)を使って行った。クエン酸溶液が室温に戻った後、メンブレンはクエンチング溶液(200mM glycine/TPBS)に10分間処理した。
その後メンブレンをブロッキング溶液で30分間処理し、4℃で適切な一次抗体で反応させ、一晩反応させた。TTBS で3回洗浄したのち、ヤギ由来の抗マウス・ウサギ・ヤギ IgGの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識F(ab)2抗体など、適切な二次抗体で1時間室温で反応させた。TTBS で洗浄後、ImmunoStar Zeta 試薬(WAKO)で発色反応を行い、特異的タンパク質はEZ-capture MG で可視化した。
定量
特異的バンドの発光輝度はCSアナライザーソフトウェア(Atto)を用いて数値化した。検量線は4パラメーターフィッティング法[Findlay JW et al. 2007]を用いて得た。定量計算式のパラメーターはExcel for Mac2011のSolverアドイン(Microsoft)を用いて算出した。
2.結果
Tris/Tricine/urea SDS-PAGEでのインスリン検出におけるSDS濃度の最適化
Tris/Tricine/urea SDS-PAGEは、ペプチドホルモンの分離泳動に適していることが知られていた[Schagger H et al. 2006]。しかしながら、この電気泳動法を用いたWBでのインスリン のシグナルバンドは歪みなどの異常な型を示すことに気づいた。オリジナルのプロトコルでもSDSの影響によるそのような現象が起こりうることを示唆していたことから[Schagger H 2006]、泳動バッファー又はサンプルバッファーのSDS濃度がインスリン のような分子量の小さいペプチドホルモンを検出するには高すぎるのではないかと考えた。よって、最適濃度の特定を試みた。
図1に示すように、両バッファーのSDS濃度を低下させるとインスリンのバンドはよりシャープになった。泳動バッファーではSDS濃度は0.05%が良いと判断した。サンプルバッファーのSDS濃度の最適化に関しては、1.0 gのタンパク質のSDS化には1.4 gのSDSが必要なことを考慮して、濃度は1%を適用することにした。この濃度では約7μg/μlのタンパク質溶液のSDS化に対応し得る。
一般的なWB法では、プロインスリンと比較してインスリンはメンブレンから流出する
インスリンのバンド型以外にも、インスリンを定量するために解決しなければならない問題に直面した。その問題は、プロインスリンとインスリンの両方を認識できるモノクローナル抗体(抗インスリン抗体 クローンC27C9)を用いて等モルのインスリンとプロインスリンを解析したにも関わらず、インスリンのWBでのシグナルがプロインスリンのシグナルよりも弱かったということである(図2a、上図)。
WB後のメンブレンのCBB染色の結果は、プロインスリンはWB後もPVDFメンブレンに保持されていたがインスリンは保持されていないということを示している(図2a、下図)。本発明者は、この原因として二つの可能性を考えた。一つは、電気泳動後のWBの操作過程でインスリンがPVDFメンブレンから剥離した可能性である。もう一つは、インスリンをPVDFメンブレンに転写する際に問題があった可能性である。
図2bに示すように、電気泳動の直後のPVDFメンブレンにCBB染色を行った場合、インスリンがPVDFメンブレン上に存在することを確認できた。これらの結果は、インスリンのみが、通常のWB法の操作過程でPVDFメンブレンから流出したことを示している。
グルタルアルデヒドはインスリンをPVDFメンブレンに効率よく固定する
そこで、上記流出問題を解決するため、目的タンパク質をPVDFメンブレンに効果的に固定させる方法を考えた。例えば、加熱[Swerdlow PS 1986]やアルキル化試薬[Ploug M 1992]、アルデヒド系試薬[Karey KP et al. 1989, Suzuki Y et al. 2008, Lee BR et al. 2011, Sasaki A et al. 2015]の処理による固定化が報告されている。予備実験においてアルデヒド系試薬で改善することが分かったので、アルデヒド系試薬を用いて、PVDFメンブレンへのインスリンの保持に関する最適条件を検討することにした。WBにおける転写後のステップで、PVDFメンブレンを種々の濃度のパラホルムアルデヒド(PFA)(図3a)又はグルタルアルデヒド(GA)(図3b)で処理し、その後ブロッキングを行った。
その結果、GAのみがWB法におけるインスリンのシグナルを増加させた。GA処理によりWBのシグナル検出後のPVDFメンブレン上のインスリンのCBB染色シグナルが回復したことを考えると、GAはインスリンをPVDFメンブレンに固定させることで、WBにおけるインスリンのシグナル回復に寄与すると考えられる。GAの最適濃度は0.2%で、0.2%以上になるとシグナルを阻害する傾向にあった。この結果に関しては、免疫組織染色・細胞染色でよく見られるような、アルデヒド固定による過剰な架橋形成によりこのような現象が生じたと考えた。よって、抗原賦活化やクエンチングなど、免疫組織染色で行われている他の手順がインスリンのWB法で有用性を検証した(図3c)。その結果、クエン酸緩衝液による賦活化処理はインスリン とプロインスリン の両方のシグナルをわずかに向上させることが判明した。重要な注意点としては、グリシンによるクエンチングは不活化処理の前ではなく後に行われるべきである(図8)。
固定処理前のブロッキング溶液による処理は、WB法でのインスリンシグナルを改善に寄与する
GAによる固定方法の有用性を評価していたときに、GA処理によるインスリンのPVDFメンブレンへの保持力は低用量のインスリンの解析時に減少してしまう傾向にあることが分かった。我々はPVDFメンブレン上へのアルデヒド固定に際し、足場となるようなタンパク質を提供することで解決できると考えた。この目的のためには、様々なタンパク質を含有しているブロッキング溶液を用いるのが適切であると考えた。まず手始めに、GA固定前にブロッティングメンブレンをブロッキング溶液に30分間浸す“前ブロッキング(pre-blocking)”を試した(図4a、図4b)。
低用量のインスリン(10-0.3 ng)のWBでは、シグナルの強さがブロッキング溶液の濃度依存的に増加した(図4a)。それに対して、高用量(100-3 ng)のWBでは、どの濃度のブロッキング溶液を用いた場合でも、シグナル強度に大きく影響しなかった(図4b)。さらに、前ブロッキングのシグナル強度への効果は、より短時間(5分間)の処理が効果的であることも判明した(図4c)。図4dに、改良されたプロインスリン/インスリン検出のためのWB法の流れをまとめた。
マウス由来β細胞株MIN6-c4におけるインスリンの定量
引き続き、標準WBと、改変WBでのプロインスリン/インスリン の定量結果を比較した(図5a-図5f)。本実験においても、電気泳動における1レーン中のプロインスリンとインスリンのmol比は一致させることで、改変WBの効果を評価した(モノクローナル抗体を用いたWBの場合は理論上、両者のシグナルは等しくなる)。4-パラメーターロジスティック曲線より求められた4つ全ての検量線の相関係数は約1であった(図5b、図5d)。改法は標準法と比較してプロインスリンシグナルに関しては1.3-3.9倍(図5c)に、インスリンシグナルに関しては約9.8-31.2倍(図5e)亢進させた。
これらの結果から予想できるように、プロインスリン/インスリン比もまた、理論上の値に等しい1に改善した(図5f)。これらの結果より、各々の定量方法の信頼性には大きな差はないが、シグナル亢進効果はプロインスリンよりもインスリンの方が強いことが明らかとなった。加えて、このシグナル増強効果は、プロインスリンとインスリンの両方を認識する別の抗体を用いたときも見られることを確認した(図9)。
上記のように、プロインスリン, インスリンの標準試料における改良WB法の有効性が示されたので、この手法が培養細胞からの未精製タンパクでも適用できるかを検証した。試料としては、低グルコース(12.5 mM)および高グルコース(50 mM)条件下で定常培養したマウスβ細胞由来のMIN6c4を準備し、細胞内のプロインスリン, インスリン 含有量をWBで定量した(図5g)。結果は、低グルコース条件下プロインスリン:5.1 μg/mg 総タンパク質、低グルコース条件下インスリン:13.5 μg/mg 総タンパク質:高グルコース条件下プロインスリン:4.5 μg/mg 総タンパク質、高グルコース条件下インスリン:5.8 μg/mg 総タンパク質であった。25 mMグルコースで培養されたMIN6c4のインスリン含有量は、ELISA法で定量して約6-8 μg/mg 総タンパクであるという、本細胞株樹立者の報告[Kobayashi M et al. 2016]をかんがみると、得られた結果は適切だと結論付けた。
次に、本法が培養上清にも適用できるかを検証するために、グルコース誘導性インスリン分泌アッセイサンプルを準備し、同様に定量を行った(図5h)。結果は、5 mMグルコース刺激下プロインスリン:176.6 ng/2h/mg 総タンパク質、インスリン:1116.3 ng/2h/mg 総タンパク質:12.5 mMグルコース刺激下プロインスリン:248.1 ng/2 h/mg 総タンパク質、インスリン:8000.9 ng/2 h/mg 総タンパク質:30 mMグルコース刺激下プロインスリン:831.8ng/2h/mg 総タンパク質、インスリン:15586.8 ng/2 h/mg 総タンパク質:であった。本細胞株樹立者らは3あるいは25mMグルコースで刺激されたMIN6c4のインスリン分泌量は、それぞれ200-500あるいは1500-4000 ng/h/mg 総タンパク質であると報告していることから[Kobayashi M et al. 2016]、得られた結果は適切だと判断した。
さらに、添加回収試験を2つのサンプル形態(培養細胞抽出液及び培養上清)において行い、105-126%と良好な値であることも確認した(図10)。以上の結果より、本法はプロインスリン及びインスリンの定量に十分適応可能であると結論付けた。
糖尿病分野の関連ペプチドホルモンやアナログへの応用
我々の研究グループの目的は糖尿病の病態解明であることから、最後にこの改良WBが糖尿病分野の関連ペプチドホルモンあるいはアナログ[Bataille D. 2007, Tibaldi JM et al. 2014, Phillips LK et al. 2011, Granata R et al. 2010, Khandekar N et al. 2015]にも適用できるかを評価した(図6a:インスリンアナログ、図6b:グルカゴン、図6c:グルカゴン様ペプチド-1、図6d:ソマトスタチン、図6e:グレリン、図6f:膵ポリペプチド)。
本実験においては、本法が当該標的ペプチドホルモン群に対して効果的であるかを調査することが目的であったので、一般的なWBのタンパク質量としては多い1レーンあたり100 ngの標品を用いた。本発明者(図3a及び3b)や他の研究者の結果[Karey KP et al. 1989, Suzuki Y et al. 2008, Lee BR et al. 2011, Sasaki A et al. 2015]により、固定処理に用いるアルデヒド系試薬はタンパク質ごとに選択性があることが分かったので、固定条件を0.2%GAもしくは0.4%PFAにして適用できるかを検証した。
図6に示すように、デスアシルグレリンを除いた11のペプチドホルモン及びインスリンアナログでGAもしくはPFA処理のいずれかもしくは両方でシグナルの増強が認められた。表1にまとめたように、固定に適している試薬はペプチドホルモンごとに選択性があるということが明確に示された。
細胞株、膵臓、膵島における糖尿病分野の関連ペプチドホルモンの検出
本節では、本法がMIN6c4以外のin vitroあるいはin vivoサンプルに適応可能かを評価した。糖尿病研究においては、β細胞由来のMIN6系統[Miyazaki J et al. 1990]やα細胞由来のαTC1系統[Powers AC et al. 1990]が膵島から樹立された細胞株として汎用されてきた。本実験においては、当該親株からクローン化されたMIN6c4及びαTC1-6を用いて、インスリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1のタンパク質レベルを解析した(図7a-c)。インスリンの発現はMIN6c4のみで認められた(図7a)。グルカゴンに関しては(図7b)、αTC1-6で明らかな発現が認められた一方で、MIN6c4でもαTC1-6の1/100程度であるがわずかながら発現が確認された。これに加えてαTC1-6においてはグルカゴンよりも分子量の大きな幾つかのシグナルを認めた(unidentified signals(U.I.S.)として表記)。グルカゴン様ペプチド-1に関しては(図7c)、αTC1-6において主要なシグナルはグルカゴン様ペプチド-1(1-36)アミド及び(7-36)アミドの分子量よりも明らかに大きい分子の存在を認めたが、少なくともグルカゴン様ペプチド-1(1-36)アミドに相当するシグナルははっきりと認められ、グルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミドに関してもわずかに発現が認められた。またMIN6c4においてはグルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミドに関してのみわずかに発現が認められた。
つづいて、膵臓及び膵島サンプルにおける適応性について確認した(図7d-g)。結果としては、膵島とMIN6c4におけるインスリンのWB(図7d)、膵島とαTC1-6におけるグルカゴンのWB(図7e)、膵島とαTC1-6におけるグルカゴン様ペプチド-1のWB(図7f)の「unidentified signals」を含めたシグナルプロファイルはほぼ一致した。このことは、これらの「unidentified signals」は当該ペプチドホルモンの前駆体あるいは中間体であることを示唆するものであると考えられる。さらにソマトスタチンに関しては、非常に弱いながらも膵島においてソマトスタチン-14相当のシグナルが認められた(図7g)。また現状の条件では、グレリンや膵ポリペプチドに関しては検出ができなかった。以上の結果は、本法が幅広い生体試料に適用できることを示している。
3.考察
我々は、WBにおけるインスリン をはじめとした他の糖尿病関連ペプチドホルモン及びアナログの感受性は、標準の手順にいくつかの操作を加えることによって改良しうることを示した。
改法でのサンプルの準備は、一般的なSDS-PAGEで用いられているlaemli法と基本的には同一である。ELISA法でプロインスリン/インスリンを定量する場合、インスリンに結合したタンパクが抗原抗体反応を阻害することや、他のタンパクによる非特異的な抗原抗体反応を防ぐための部分精製を目的として、酸エタノール抽出したサンプルを使用することが推奨されている。特にインスリンはある種の条件下で線維化や凝集形成が生じることが報告されている[Brange J et al. 1997]。さらに、サンプルの前処理は、しばしば定量性を乱す原因となりがちである。改法において、サンプルの準備で追加処理を必要としないという事実は、サンプル準備の簡便さという点だけではなく、準備したサンプルで他のタンパク質もWBで解析できるという点でもELISA法に対して優位性を示している。
加えて、電気泳動において前駆体および成熟体の泳動距離の違いがWBでのシグナル分離に十分な場合(例えば図5aのプロインスリン/インスリンや図6cのグルカゴン様ペプチド-1(1-36)アミド/グルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミド)、図6dのソマトスタチン-28/ソマトスタチン-14、図6eのグレリン/デスアシルグレリン)、前駆体と成熟体の両方を認識する抗体を使えば、1つのレーンでこれらを区別して解析できる。
重要なのは、アルデヒド系試薬によるシグナル増強効果は、多様性を示すということである(表1)。インスリンやそのアナログのWBではGAおよびPFA固定の改善効果は同程度であった。すなわち、インスリンのWBでは固定試薬の選択性が少ないといえる。面白いことに、“pre-blocking”の過程がない場合、PFA固定ではインスリンのWBで効果的な改善が見られない(図3a、3b)。これはpre-blocking による“固定のための裏打ち”がアルデヒド系試薬の選択性の軽減に寄与している可能性を示唆している。グレリン とデスアシルグレリン は、3位のセリン残基のアシル化を除いて同じアミノ酸配列を持つにも関わらず、グレリン だけが0.2%GA固定でシグナルが強くなった(図6e)。グレリン のシグナル強度がデスアシルグレリン のシグナル強度に近づいたことから、デスアシルグレリン は固定処理なしでブロッティングメンブレンに十分に保持されると考えられる。この結果は、タンパク質のアシル化は、PVDFメンブレンへの保持を妨げる効果があることを意味するのかもしれない。
本法は、培養細胞抽出液(図5g、図7a-c)、培養上清(図5h)、全膵及び膵島(図7d-g)のような様々な生体試料に適用可能であり、電気泳動に基づいた解析情報を提供することで、定量的あるいは定性解析に寄与できる。ELISAによる解析データは数値データしか得ることができず、それが最大の弱点である。すなわちペプチドホルモンの定量は、ELISAだでけでなく本法のような他の免疫学的手法によってもされるべきである。本法は、糖尿病研究の分野における免疫学的手法で得られたこれまでの実験結果に対して、正確な解釈を与えることに寄与することだろう。
参照論文
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Claims (10)

  1. ウエスタンブロッティングにより生理活性ペプチドを検出する方法であって、ゲル電気泳動後のタンパク質転写とブロッキングとの間に、少なくとも、プレブロッキング処理及びアルデヒドによる固定化処理を行うことを特徴とする前記方法。
  2. ゲル電気泳動後のタンパク質転写とブロッキングとの間に、抗原の賦活化及びクエンチングから選ばれる少なくとも1つの処理をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 生理活性ペプチドが、糖尿病関連ペプチドである請求項1又は2に記載の方法。
  4. 糖尿病関連ペプチドがインスリンである請求項3に記載の方法。
  5. アルデヒドがグルタルアルデヒド又はパラホルムアルデヒドである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. プレブロッキング処理が、スキムミルク、フィッシュゼラチン、ウシ血清アルブミン、及びポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 抗原の賦活化処理が、クエン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、エチレンジアミン4酢酸及びTween20からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶液を用いる処理である請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
  8. クエンチング処理が、グリシンを含む溶液を用いる処理である請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
  9. プレブロッキング試薬及びアルデヒドを含む、改良型ウエスタンブロッティング用キット。
  10. 抗原の賦活化試薬及びクエンチング試薬から選ばれる少なくとも1つの試薬をさらに含む、請求項9に記載のキット。

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