JP2018040672A - リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列解析法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびリン酸化部位をタンデム質量分析法により容易に同定することができる方法を提供する。
【解決手段】
リン酸化タンパク質またはペプチドのリン酸基に対し高い配位能を有する二核金属錯体化合物であって、マンガン、亜鉛またはガリウムを金属中心とし、Di-(2-picolyl)amine誘導体を配位子とする化合物を用い、これを分析対象リン酸化タンパク質またはペプチドに結合させた後、電子捕獲解離法、電子移動解離法、水素ラジカル付着解離法などの、ラジカル生成を伴うアミノ酸配列主鎖の解離方法を用いたタンデム質量分析法によってマススペクトルを取得し、アミノ酸配列の解析を行う。
これにより、リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびリン酸化部位を容易に知ることができる。
【選択図】 図5
リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびリン酸化部位をタンデム質量分析法により容易に同定することができる方法を提供する。
【解決手段】
リン酸化タンパク質またはペプチドのリン酸基に対し高い配位能を有する二核金属錯体化合物であって、マンガン、亜鉛またはガリウムを金属中心とし、Di-(2-picolyl)amine誘導体を配位子とする化合物を用い、これを分析対象リン酸化タンパク質またはペプチドに結合させた後、電子捕獲解離法、電子移動解離法、水素ラジカル付着解離法などの、ラジカル生成を伴うアミノ酸配列主鎖の解離方法を用いたタンデム質量分析法によってマススペクトルを取得し、アミノ酸配列の解析を行う。
これにより、リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびリン酸化部位を容易に知ることができる。
【選択図】 図5
Description
本発明は、生体試料等に含まれるリン酸化されたタンパク質やペプチドのアミノ酸配列およびそのリン酸化部位を解析する方法、および当該方法に使用される質量分析測定用添加剤に関するものである。
生体で活性を有する多くのタンパク質は、活性中心などの特定部位にセリンやトレオニン、チロシン残基を有し、これらの残基における側鎖の水酸基が酵素によりリン酸化され、或いは脱リン酸化されることによって、タンパク質の活性が調節されている。また、リシン、アルギニン、ヒスチジン残基の側鎖の窒素がリン酸化または脱リン酸化されることにより、活性が調節されるタンパク質もある。近年、これらのリン酸化−脱リン酸化が、疾病に関係する代謝系において重要な役割を有していることが明らかとなってきている。
従って、生体試料中の特定のタンパク質について、リン酸化されているか、または脱リン酸化されているかを分析できれば、疾病の診断や治療にも有用な情報が得られると考えられる。
従って、生体試料中の特定のタンパク質について、リン酸化されているか、または脱リン酸化されているかを分析できれば、疾病の診断や治療にも有用な情報が得られると考えられる。
タンパク質がリン酸化されているかどうかを知る方法の一つとして、質量分析法を用いる方法がある。
すなわち、タンパク質がリン酸化されることにより、その分だけ質量が増えるので、リン酸化されていない標準物質のスペクトルと対比する等により、リン酸化を検知できる。この際、リン酸基に特異的に結合するラベル物質を用いれば、リン酸化されているものとリン酸化されていないものの質量差を更に大きくすることができ、リン酸化の検知が容易となる(特許文献1)。
ただし、この方法では、タンパク質がリン酸化されているかどうかを知ることはできるが、タンパク質の特定の部位がリン酸化されているかどうかを知ることは困難である。
タンパク質の生理活性はリン酸化・脱リン酸化の部位によって異なるため、疾病の診断や治療に有用な情報を得るためには、タンパク質のアミノ酸配列上のどの部位がリン酸化されているか、あるいはされていないかを分析する手法が必要である。
すなわち、タンパク質がリン酸化されることにより、その分だけ質量が増えるので、リン酸化されていない標準物質のスペクトルと対比する等により、リン酸化を検知できる。この際、リン酸基に特異的に結合するラベル物質を用いれば、リン酸化されているものとリン酸化されていないものの質量差を更に大きくすることができ、リン酸化の検知が容易となる(特許文献1)。
ただし、この方法では、タンパク質がリン酸化されているかどうかを知ることはできるが、タンパク質の特定の部位がリン酸化されているかどうかを知ることは困難である。
タンパク質の生理活性はリン酸化・脱リン酸化の部位によって異なるため、疾病の診断や治療に有用な情報を得るためには、タンパク質のアミノ酸配列上のどの部位がリン酸化されているか、あるいはされていないかを分析する手法が必要である。
一方、質量分析によりタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列を知る方法として、タンデム質量分析を用いる方法が知られている。
図1に、タンデム質量分析の概念図を示す。質量分析の対象とされる試料は、最初にイオン源(Ion Source)においてイオン化される。イオン化は、エレクトロスプレーイオン化、マトリックス支援レーザー脱離イオン化などの手法により行われる。次いで、イオン化された試料について、最初の質量分析が行われる(1ST MS)。1ST MSにより、イオン化工程により生じた各種の試料イオンがそのm/z値に応じて選り分けられる。更に解析したい任意の試料イオンのみを選択し、次の活性化工程(Activation)において、当該試料イオンをフラグメント化する。フラグメント化は、例えば後述する衝突誘起解離法などにより行われる。次いで、活性化によりフラグメント化された試料イオンについて、二回目の質量分析が行われる(2nd MS)。2nd MSにより、活性化工程により生じた各種の試料フラグメントイオンがそのm/z値に応じて選り分けられる。必要であれば、更に解析したい任意の試料フラグメントイオンのみを選択し、活性化および質量分析の工程を繰り返す。なお、図1においては、質量分析装置として、四重極−飛行時間型質量分析計を用いた例が示されている。
このように、タンデム質量分析では、比較的大きな分子を何らかの手段でフラグメントに分解して各フラグメントを質量分析し、更に必要に応じて、各フラグメント(または一部のフラグメント)を何らかの手段で分解して質量分析することを繰り返し、各段階で得られた質量分析の結果を総合することで、分子の詳細な構造を知ることができる。この方法により、タンパク質やペプチドのアミノ酸配列を知ることができる。
タンデム質量分析において、タンパク質やペプチド分子をフラグメント化し、場合によりフラグメントを更にフラグメント化する方法としては、分子同士を衝突させることで分子内の解離を誘起させる衝突誘起解離法(collision induced dissociation: CID)や、分子を電子や、負イオンラジカル、水素ラジカルなどのラジカルと反応させることで分子内の解離を誘起させる電子捕捉解離法(electron capture dissociation: ECD)、電子移動解離法(electron transfer dissociation: ETD、非特許文献1、2)、および水素ラジカル付着解離法(Hydrogen Attachment Dissociation:HAD、非特許文献3)、さらにはレーザー解離法などが知られている。
これらの方法を用いて、リン酸化タンパク質またはリン酸化ペプチドをタンデム質量分析すれば、各フラグメントのリン酸化の有無を知ることができ、これにより、特定のタンパク質またはペプチドの、特定の部位がリン酸化されているかどうかを知ることができるとも考えられる。
図1に、タンデム質量分析の概念図を示す。質量分析の対象とされる試料は、最初にイオン源(Ion Source)においてイオン化される。イオン化は、エレクトロスプレーイオン化、マトリックス支援レーザー脱離イオン化などの手法により行われる。次いで、イオン化された試料について、最初の質量分析が行われる(1ST MS)。1ST MSにより、イオン化工程により生じた各種の試料イオンがそのm/z値に応じて選り分けられる。更に解析したい任意の試料イオンのみを選択し、次の活性化工程(Activation)において、当該試料イオンをフラグメント化する。フラグメント化は、例えば後述する衝突誘起解離法などにより行われる。次いで、活性化によりフラグメント化された試料イオンについて、二回目の質量分析が行われる(2nd MS)。2nd MSにより、活性化工程により生じた各種の試料フラグメントイオンがそのm/z値に応じて選り分けられる。必要であれば、更に解析したい任意の試料フラグメントイオンのみを選択し、活性化および質量分析の工程を繰り返す。なお、図1においては、質量分析装置として、四重極−飛行時間型質量分析計を用いた例が示されている。
このように、タンデム質量分析では、比較的大きな分子を何らかの手段でフラグメントに分解して各フラグメントを質量分析し、更に必要に応じて、各フラグメント(または一部のフラグメント)を何らかの手段で分解して質量分析することを繰り返し、各段階で得られた質量分析の結果を総合することで、分子の詳細な構造を知ることができる。この方法により、タンパク質やペプチドのアミノ酸配列を知ることができる。
タンデム質量分析において、タンパク質やペプチド分子をフラグメント化し、場合によりフラグメントを更にフラグメント化する方法としては、分子同士を衝突させることで分子内の解離を誘起させる衝突誘起解離法(collision induced dissociation: CID)や、分子を電子や、負イオンラジカル、水素ラジカルなどのラジカルと反応させることで分子内の解離を誘起させる電子捕捉解離法(electron capture dissociation: ECD)、電子移動解離法(electron transfer dissociation: ETD、非特許文献1、2)、および水素ラジカル付着解離法(Hydrogen Attachment Dissociation:HAD、非特許文献3)、さらにはレーザー解離法などが知られている。
これらの方法を用いて、リン酸化タンパク質またはリン酸化ペプチドをタンデム質量分析すれば、各フラグメントのリン酸化の有無を知ることができ、これにより、特定のタンパク質またはペプチドの、特定の部位がリン酸化されているかどうかを知ることができるとも考えられる。
しかしながら、衝突誘起解離法は、フラグメント化に際し、分子同士の衝突の衝撃によりリン酸基がタンパク質やペプチド分子から脱離してしまうことが多く、リン酸化部位を知ることが難しい。
一方、電子捕捉解離法、電子移動解離法、水素ラジカル付着解離法などの電子またはラジカルを用いる解離法によるタンデム質量分析は、質量分析の初期工程においてエレクトロスプレーイオン化またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化によるプロトンの付加などによって生成させた分析対象のタンパク質またはペプチドのカチオンを、それぞれ、電子、負イオンラジカルまたは水素ラジカルと反応させることにより、タンパク質またはペプチドの主鎖を分解し、得られたタンパク質又はペプチドの断片を質量分析することによって、アミノ酸配列を求める手法である。これらの手法では、タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列の主鎖が選択的に分解されるので、当該分解に伴いアミノ酸残基の側鎖に結合するリン酸基が脱離することはない。
これらのうち、電子捕捉解離法および電子移動解離法は、市販の装置を利用できるため、最も広く用いられている。
これらのうち、電子捕捉解離法および電子移動解離法は、市販の装置を利用できるため、最も広く用いられている。
電子捕捉解離法および電子移動解離法においては、電子ビームの形で系に供給される電子、または、例えばフルオランテンなどの縮合多環芳香族化合物などの負イオンラジカルから放出されることにより系に供給される電子が、タンパク質又はペプチドの主鎖に付加すると考えられている。具体的には、このようにして供給された電子は、図2に示すように、主鎖のカルボニル基の酸素原子に付加し、これにより、カルボニル基に隣り合う隣接アミノ酸残基のNH基と炭素原子の間の共有結合が解離し、新たな炭素ラジカルが生じることで、主鎖の分解が進行すると考えられている(非特許文献4)。
また、水素ラジカル付着解離法においても、同様に、タンパク質又はペプチドの主鎖の共有結合が解離し、主鎖の分解が進行するとともに、新たな炭素ラジカルが生じると報告されており(非特許文献3)、電子捕獲解離法および電子移動解離法と類似の分解反応が起こることが示唆されている。
また、水素ラジカル付着解離法においても、同様に、タンパク質又はペプチドの主鎖の共有結合が解離し、主鎖の分解が進行するとともに、新たな炭素ラジカルが生じると報告されており(非特許文献3)、電子捕獲解離法および電子移動解離法と類似の分解反応が起こることが示唆されている。
電子捕獲解離法、電子移動解離法、および水素付着解離法は、上述のとおり、アミノ酸配列の主鎖の分解を誘発し、側鎖には影響を与えないという長所を有するが、一方で、問題点として、タンパク質の主鎖の分解効率が低いことが知られている。
これらの方法と同時に衝突誘起解離法(非特許文献5)や、レーザー照射法(非特許文献3、6)による活性化を行うことで分解効率を改善させることができる。しかしながら、これらを併用する手法では、活性化条件の最適化が難しいことや、活性化に伴うリン酸基などの翻訳後修飾基の脱離が起こることが問題点とされている。
これらの方法と同時に衝突誘起解離法(非特許文献5)や、レーザー照射法(非特許文献3、6)による活性化を行うことで分解効率を改善させることができる。しかしながら、これらを併用する手法では、活性化条件の最適化が難しいことや、活性化に伴うリン酸基などの翻訳後修飾基の脱離が起こることが問題点とされている。
一方、電子移動解離法においては、分析対象のタンパク質またはペプチドイオンの価数が大きい、つまりプロトンの付加数が多いほど分解効率が高く、アミノ酸配列の解析に有用な結果を与えることが知られている(非特許文献1、非特許文献2など)すなわち、分析対象のタンパク質またはペプチドに、エレクトロスプレーイオン化などによるイオン化の際に、より多くの正電価を付加することで、電子移動解離法によるアミノ酸配列の解析をより効率よく行うことができる。
これは、電荷数が大きくなることによるタンパク質またはペプチド分子内のクーロン反発の効果により、分析対象のタンパク質やペプチドイオンのフラグメンテーションが促進されるためと考えられる。したがって、電子移動解離法に限らず、同様の分解メカニズムを経る電子捕獲解離法や水素付着解離法など、電子またはラジカルを用いる解離法一般において、分析対象のタンパク質またはペプチドイオンの電価数を大きくすることで、同様に分解効率が向上することが合理的に予測される。
しかしながら、イオン化に際しプロトンが付加するタンパク質またはペプチド上の部位はN末端のアミノ基およびリシン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸残基における側鎖のアミノ基に限られ、これによる電荷数の増加は、タンパク質またはペプチドのアミノ酸組成によって定まる一定の範囲に限られる。一般にタンパク質のアミノ酸配列解析にあたって、予め分析対象のタンパク質をトリプシン消化して、得られたペプチドのアミノ酸配列を解析することがよく行われるが、トリプシン消化ペプチドには、N末端のアミノ酸基とトリプシン消化によるC末端の塩基性アミノ酸残基の側鎖のアミノ基のみが残存し、これらに対しプロトンが2つしか付加しないことが多く、このような2価のペプチドイオンでは、電子またはラジカルを用いる解離法によるアミノ酸配列主鎖の解離効率が低く、多くの場合アミノ酸配列を求めるために十分な情報は得られない(後述の実施例2参照)。
これは、電荷数が大きくなることによるタンパク質またはペプチド分子内のクーロン反発の効果により、分析対象のタンパク質やペプチドイオンのフラグメンテーションが促進されるためと考えられる。したがって、電子移動解離法に限らず、同様の分解メカニズムを経る電子捕獲解離法や水素付着解離法など、電子またはラジカルを用いる解離法一般において、分析対象のタンパク質またはペプチドイオンの電価数を大きくすることで、同様に分解効率が向上することが合理的に予測される。
しかしながら、イオン化に際しプロトンが付加するタンパク質またはペプチド上の部位はN末端のアミノ基およびリシン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸残基における側鎖のアミノ基に限られ、これによる電荷数の増加は、タンパク質またはペプチドのアミノ酸組成によって定まる一定の範囲に限られる。一般にタンパク質のアミノ酸配列解析にあたって、予め分析対象のタンパク質をトリプシン消化して、得られたペプチドのアミノ酸配列を解析することがよく行われるが、トリプシン消化ペプチドには、N末端のアミノ酸基とトリプシン消化によるC末端の塩基性アミノ酸残基の側鎖のアミノ基のみが残存し、これらに対しプロトンが2つしか付加しないことが多く、このような2価のペプチドイオンでは、電子またはラジカルを用いる解離法によるアミノ酸配列主鎖の解離効率が低く、多くの場合アミノ酸配列を求めるために十分な情報は得られない(後述の実施例2参照)。
これに関し、エレクトロスプレーイオン化によりプロトンが十分に付加しないペプチドに対して、金属イオンを加えることで、ペプチドイオンの価数をより大きくし、電子捕獲解離法および電子移動解離法によるアミノ酸配列の解析をより効率的に行うことができると報告されている(非特許文献7および非特許文献8)
プロトンはタンパク質またはペプチドの塩基性アミノ酸残基に付加するが、金属イオンは酸性残基などに結合する場合が多い。このため、エレクトロスプレーイオン化の際に、分析対象のタンパク質またはペプチドの溶液に金属塩などを加えることにより、金属イオンを添加することで、生成するタンパク質またはペプチドイオンの電荷数をさらに増加させることができる場合がある。
このような手法によるアミノ酸配列の解析に有用な金属イオン添加剤としては、Na+, K+, Ca2+ (非特許文献7), Mn2+ (非特許文献9), Zn2+ (非特許文献4), Ga3+ (非特許文献10)などの金属イオンを含む化合物が知られている。しかしながら、上記金属イオンを加える方法は、一般に金属イオンのタンパク質またはペプチドへの付加効率が低いため、検出感度が低く、微量のタンパク質またはペプチドの分析には適用できないという短所を有する。
プロトンはタンパク質またはペプチドの塩基性アミノ酸残基に付加するが、金属イオンは酸性残基などに結合する場合が多い。このため、エレクトロスプレーイオン化の際に、分析対象のタンパク質またはペプチドの溶液に金属塩などを加えることにより、金属イオンを添加することで、生成するタンパク質またはペプチドイオンの電荷数をさらに増加させることができる場合がある。
このような手法によるアミノ酸配列の解析に有用な金属イオン添加剤としては、Na+, K+, Ca2+ (非特許文献7), Mn2+ (非特許文献9), Zn2+ (非特許文献4), Ga3+ (非特許文献10)などの金属イオンを含む化合物が知られている。しかしながら、上記金属イオンを加える方法は、一般に金属イオンのタンパク質またはペプチドへの付加効率が低いため、検出感度が低く、微量のタンパク質またはペプチドの分析には適用できないという短所を有する。
Mol. Cell Proteomics 2007, 6, 1942-1951
J. Proteome Res. 2011, 10, 2377-2388
Anal. Chem. 88, 3810-3816, 2016
浅川らJ. Phys. Chem. B, 120, 891-901, 2016
Anal. Chem. 79, 477-485, 2007
J. Am. Soc. Mass Spectrom. 24, 1623-1633, 2013
浅川ら、J. Am. Soc. Mass Spectrom. 25, 1029-1039, 2014
J. Phys. Chem. B, 118, 12318-12325, 2014
J. Am. Soc. Mass Spectrom.22, 2232-2245, 2011
Rapid Commun Mass Spectrom 30, 705-710, 2016
Anal. Chem. 87, 7060-7068, 2015
本発明は、リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびリン酸化部位をタンデム質量分析法により容易に同定することができる方法を提供することを課題とする。
本発明者は、電子移動解離法によるタンデム質量分析において、エレクトロスプレーイオン化に際し、リン酸基に特異的に結合する金属錯体化合物を分析対象のリン酸化ペプチド溶液に加えることにより、生成するリン酸化ペプチドイオンの価数を増加させることができ、これにより、電子移動解離法によるアミノ酸配列主鎖の分解効率を向上させることができ、生じる当該ペプチドの断片のパターンを増加させることができることによって、リン酸化ペプチドのアミノ酸配列およびリン酸化部位を容易に同定することができることを見出した。
リン酸基に特異的に配位する金属錯体としては、化学式(I)(特許文献1)や化学式(II)(非特許文献11)を基本骨格とする、マンガン、亜鉛またはガリウムを金属中心とし、Di-(2-picolyl)amine誘導体を配位子とする二核金属錯体化合物が、リン酸化タンパク質およびペプチドのリン酸基に対し、高い配位能を有することが知られている。
本発明者は、具体的には、亜鉛を金属中心として含有する化学式(I)の化合物(以下、化合物(I)という)を分析対象リン酸化ペプチド溶液に添加し、エレクトロスプレー法によりイオン化を行い、質量分析を行ったところ、上記化合物を添加しない通常の実験条件では2価イオンとして検出されていた(図3)リン酸化ペプチドを3価イオンとして検出することが可能であり(図4参照)、また、当該3価のリン酸化ペプチドイオンを電子移動解離法により断片化して、質量分析したところ、リン酸化されたアミノ酸残基に対応するマススペクトルを含め、分析対象リン酸化ペプチドの各アミノ酸残基に対応するマススペクトルをすべて得ることが可能であることを見出した(図5の下図参照)。
これに対し、上記化合物を添加しない2価のリン酸化ペプチドイオンを電子移動解離法により質量分析した場合は、当該ペプチドのN末端およびC末端の数個のアミノ酸残基に対応するマススペクトルしか得られず、全アミノ酸配列の解析およびリン酸化部位の特定はできなかった(図5の上図参照)。
本発明は、本発明者の得た上記知見に基づきなされたものである。
本発明者は、具体的には、亜鉛を金属中心として含有する化学式(I)の化合物(以下、化合物(I)という)を分析対象リン酸化ペプチド溶液に添加し、エレクトロスプレー法によりイオン化を行い、質量分析を行ったところ、上記化合物を添加しない通常の実験条件では2価イオンとして検出されていた(図3)リン酸化ペプチドを3価イオンとして検出することが可能であり(図4参照)、また、当該3価のリン酸化ペプチドイオンを電子移動解離法により断片化して、質量分析したところ、リン酸化されたアミノ酸残基に対応するマススペクトルを含め、分析対象リン酸化ペプチドの各アミノ酸残基に対応するマススペクトルをすべて得ることが可能であることを見出した(図5の下図参照)。
これに対し、上記化合物を添加しない2価のリン酸化ペプチドイオンを電子移動解離法により質量分析した場合は、当該ペプチドのN末端およびC末端の数個のアミノ酸残基に対応するマススペクトルしか得られず、全アミノ酸配列の解析およびリン酸化部位の特定はできなかった(図5の上図参照)。
本発明は、本発明者の得た上記知見に基づきなされたものである。
上記知見は、電子移動解離法を用いたタンデム質量分析により得られたものであるが、アミノ酸配列の解析およびリン酸化部位の特定に関する上記効果は、上記リン酸基に特異的に結合する金属錯体化合物が分析対象のリン酸化ペプチドのリン酸基に結合し、これによりリン酸化ペプチドイオンの価数が+1増加したことに基づくものと考えられる。
したがって、この効果は、電子移動解離法のみならず、電子捕捉解離法、さらには水素ラジカル付着解離法などの、同様のラジカル生成を伴うアミノ酸配列主鎖の解離方法を用いた場合にも、同様に得られるものである。
したがって、この効果は、電子移動解離法のみならず、電子捕捉解離法、さらには水素ラジカル付着解離法などの、同様のラジカル生成を伴うアミノ酸配列主鎖の解離方法を用いた場合にも、同様に得られるものである。
したがって、本発明に係る方法は、リン酸化タンパク質またはペプチドのリン酸基に対し高い配位能を有する二核金属錯体化合物であって、マンガン、亜鉛またはガリウムを金属中心とし、Di-(2-picolyl)amine誘導体を配位子とする化合物を用い、これを分析対象リン酸化タンパク質またはペプチドに結合させた後、電子捕獲解離法、電子移動解離法、水素ラジカル付着解離法などの、ラジカル生成を伴うアミノ酸配列主鎖の解離方法を用いたタンデム質量分析法によってマススペクトルを取得し、アミノ酸配列の解析を行うことを特徴とする。
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびそのリン酸化部位を質量分析により分析する方法であって、
(a)以下の化学式(I)または(II)で表される化合物を試料と混合し、試料を質量分析装置のイオン源に導入し、イオン化する工程、
(b)当該試料について、電子またはラジカルを利用した解離法によりタンデム質量分析測定を行う工程、および、
(c)得られたマススペクトルに基づき、リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびそのリン酸化部位を決定する工程からなる解析方法。
(上記化学式(I)および(II)において、Mはマンガン、亜鉛またはガリウムであり、R1〜R5は、水素原子、或いは互いに同一または異なって、直鎖状もしくは分枝鎖状のC1−6アルキル基、アミノ基、水酸基、カルバモイル基、直鎖状もしくは分枝鎖状のC1−6アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシル基、ホルミル基、アシル基、シアノ基、アミノメチル基またはヒドロキシメチル基を示す。nはMがマンガンまたは亜鉛では2であり、ガリウムでは3である)
〈2〉リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列を求めるために使用されるマススペクトル測定用添加剤であって、以下の化学式(I)または(II)で表わされる化合物を含む錯体化合物を含有する試薬を含むことを特徴とするマススペクトル測定用添加剤。
(上記化学式(I)および(II)において、Mはマンガン、亜鉛またはガリウムであり、R1〜R5は、水素原子、或いは互いに同一または異なって、直鎖状もしくは分枝鎖状のC1−6アルキル基、アミノ基、水酸基、カルバモイル基、直鎖状もしくは分枝鎖状のC1−6アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシル基、ホルミル基、アシル基、シアノ基、アミノメチル基またはヒドロキシメチル基を示す。nはMがマンガンまたは亜鉛では2であり、ガリウムでは3である)
〈1〉リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびそのリン酸化部位を質量分析により分析する方法であって、
(a)以下の化学式(I)または(II)で表される化合物を試料と混合し、試料を質量分析装置のイオン源に導入し、イオン化する工程、
(b)当該試料について、電子またはラジカルを利用した解離法によりタンデム質量分析測定を行う工程、および、
(c)得られたマススペクトルに基づき、リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびそのリン酸化部位を決定する工程からなる解析方法。
〈2〉リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列を求めるために使用されるマススペクトル測定用添加剤であって、以下の化学式(I)または(II)で表わされる化合物を含む錯体化合物を含有する試薬を含むことを特徴とするマススペクトル測定用添加剤。
本発明により、タンデム質量分析法によって、リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列、および、そのリン酸化部位を容易に解析することができる。
これにより、各種の生体タンパク質の特定の部位におけるリン酸化または脱リン酸化の状況を知ることができ、当該タンパク質に関連する疾病の診断や治療に有用な情報を得ることができる。
これにより、各種の生体タンパク質の特定の部位におけるリン酸化または脱リン酸化の状況を知ることができ、当該タンパク質に関連する疾病の診断や治療に有用な情報を得ることができる。
本発明において用いられる化学式(I)または(II)で表される化合物は、Mがマンガンまたは亜鉛である場合、+3価の錯イオンとなり、Mがガリウムである場合、+5価の錯イオンとなる。これらの錯イオンは、通常その対イオンを伴う。対イオンは、錯イオンの調製方法により異なるが、例えば、CH3COO-および、ClO4 -イオン、Cl-イオンなどが挙げられる。
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1.
リン酸化ペプチドに対し、亜鉛を金属中心として含有する化合物(I)を添加し、エレクトロスプレー質量分析を行ったところ、化合物(I)を添加しない場合は+2価イオンとして検出されていたリン酸化ペプチドを+3価イオンとして検出することが可能であった。
本実施例で用いた亜鉛を金属中心として含有する化合物(I)は、化学式(I)においてMが亜鉛であり、nが2であり、R1〜R4が水素原子である化合物である。当該化合物(I)は+3価の錯イオンであり、本実施例で用いた化合物は対イオンとしてCH3COO-およびCl-イオンを含んでいる。
上記亜鉛を含む錯体化合物(I)および、被検試料のリン酸化ペプチド、VNQIG(pT)LSESIKを、それぞれ蒸留水に溶解し、それぞれ1mMの水溶液とした。リン酸化ペプチド水溶液1μLに、亜鉛を含む錯体化合物(I)水溶液0.5、2または44μLを加えたのちに、全量が50μLとなるように蒸留水を加えた。さらにこの水溶液にアセトニトリル50μLを加え、全体で100μLの試料溶液とした。
このようにして調製された各試料溶液は、リン酸化ペプチドを10μMの濃度で、また、亜鉛を含む錯体化合物(I)を5、20または40μMの濃度で、それぞれ含む。
各試料溶液について、Bruker社FTICR質量分析計、SoraliX FT 9.4 Tを用いてエレクトロスプレー質量分析を行った。その結果を図4に示す。また、上記錯体化合物(I)を加えないことを除いて、上記と同様に調製した試料について、同様にエレクトロスプレー質量分析を行った結果を図3に示す。図4において、[Zn2L1-(M-2H)+H]2+は、リン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態の−2価のリン酸化ペプチド(M-2H2-)に対し、亜鉛を含む錯体化合物(I)を加えることにより、+3価の亜鉛錯イオン(Zn2L1 +3)が当該リン酸基に結合することによって、リン酸基の部分が+1価となり、さらに、エレクトロスプレーにより、当該リン酸化ペプチドに含まれる二つのアミノ基のうちの一方にプロトン(H+1)が結合することにより生じた+2価のリン酸化ペプチドイオンに帰属するスペクトルを示し、また、[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+は、同様にリン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態のリン酸化ペプチド(M-2H2-)に対し、亜鉛を含む錯体化合物(I)を加えることにより、+3価の亜鉛錯イオン(Zn2L1 +3)が当該リン酸基に結合することによって、リン酸基の部分が+1価となり、さらに、エレクトロスプレーにより、当該リン酸化ペプチドに含まれる二つのアミノ基の双方にプロトン(2H+1)が結合することにより生じた+3価のリン酸化ペプチドイオンに帰属するスペクトルを示す。また、[M+2H]2+は、亜鉛を含む錯体化合物(I)に由来する+3価の亜鉛錯イオン(Zn2L1 +3)が結合せず、リン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態(M-2H2-)のままの−2価のリン酸化ペプチドに対し、エレクトロスプレーにより、当該リン酸基および2つのアミノ基に対して4つのプロトンが付加されたことにより生じた、+2価のリン酸化ペプチドイオンに帰属するスペクトルである。
この実験により、リン酸化ペプチドに亜鉛を含む錯体化合物(I)を添加することで、試料溶液中で2つの水素イオンが脱離し−2価となったリン酸化ペプチドのリン酸基に、+3価の亜鉛を含む錯体化合物イオンが配位し、リン酸化ペプチド錯体化合物(I)との+1価の複合体が形成されること、そして、これをさらにエレクトロスプレー法に賦すことで、+2価のイオン[Zn2L1-(M-2H)+H]2+、および+3価のイオン[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+が形成されることがわかった。
一方、亜鉛を含む錯体化合物(I)を添加しない場合では、リン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態(M-2H2-)の−2価のリン酸化ペプチドに対し、エレクトロスプレーにより、当該リン酸基および2つのアミノ基に対して4つのプロトンが付加されたことにより生じた、+2価のリン酸化ペプチドイオン、[M+2H]2+のみが生成し、[M+3H]3+などの、それ以上の電価数のリン酸化ペプチドイオンは生成しなかった(図3)。
リン酸化ペプチドに対し、亜鉛を金属中心として含有する化合物(I)を添加し、エレクトロスプレー質量分析を行ったところ、化合物(I)を添加しない場合は+2価イオンとして検出されていたリン酸化ペプチドを+3価イオンとして検出することが可能であった。
本実施例で用いた亜鉛を金属中心として含有する化合物(I)は、化学式(I)においてMが亜鉛であり、nが2であり、R1〜R4が水素原子である化合物である。当該化合物(I)は+3価の錯イオンであり、本実施例で用いた化合物は対イオンとしてCH3COO-およびCl-イオンを含んでいる。
上記亜鉛を含む錯体化合物(I)および、被検試料のリン酸化ペプチド、VNQIG(pT)LSESIKを、それぞれ蒸留水に溶解し、それぞれ1mMの水溶液とした。リン酸化ペプチド水溶液1μLに、亜鉛を含む錯体化合物(I)水溶液0.5、2または44μLを加えたのちに、全量が50μLとなるように蒸留水を加えた。さらにこの水溶液にアセトニトリル50μLを加え、全体で100μLの試料溶液とした。
このようにして調製された各試料溶液は、リン酸化ペプチドを10μMの濃度で、また、亜鉛を含む錯体化合物(I)を5、20または40μMの濃度で、それぞれ含む。
各試料溶液について、Bruker社FTICR質量分析計、SoraliX FT 9.4 Tを用いてエレクトロスプレー質量分析を行った。その結果を図4に示す。また、上記錯体化合物(I)を加えないことを除いて、上記と同様に調製した試料について、同様にエレクトロスプレー質量分析を行った結果を図3に示す。図4において、[Zn2L1-(M-2H)+H]2+は、リン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態の−2価のリン酸化ペプチド(M-2H2-)に対し、亜鉛を含む錯体化合物(I)を加えることにより、+3価の亜鉛錯イオン(Zn2L1 +3)が当該リン酸基に結合することによって、リン酸基の部分が+1価となり、さらに、エレクトロスプレーにより、当該リン酸化ペプチドに含まれる二つのアミノ基のうちの一方にプロトン(H+1)が結合することにより生じた+2価のリン酸化ペプチドイオンに帰属するスペクトルを示し、また、[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+は、同様にリン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態のリン酸化ペプチド(M-2H2-)に対し、亜鉛を含む錯体化合物(I)を加えることにより、+3価の亜鉛錯イオン(Zn2L1 +3)が当該リン酸基に結合することによって、リン酸基の部分が+1価となり、さらに、エレクトロスプレーにより、当該リン酸化ペプチドに含まれる二つのアミノ基の双方にプロトン(2H+1)が結合することにより生じた+3価のリン酸化ペプチドイオンに帰属するスペクトルを示す。また、[M+2H]2+は、亜鉛を含む錯体化合物(I)に由来する+3価の亜鉛錯イオン(Zn2L1 +3)が結合せず、リン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態(M-2H2-)のままの−2価のリン酸化ペプチドに対し、エレクトロスプレーにより、当該リン酸基および2つのアミノ基に対して4つのプロトンが付加されたことにより生じた、+2価のリン酸化ペプチドイオンに帰属するスペクトルである。
この実験により、リン酸化ペプチドに亜鉛を含む錯体化合物(I)を添加することで、試料溶液中で2つの水素イオンが脱離し−2価となったリン酸化ペプチドのリン酸基に、+3価の亜鉛を含む錯体化合物イオンが配位し、リン酸化ペプチド錯体化合物(I)との+1価の複合体が形成されること、そして、これをさらにエレクトロスプレー法に賦すことで、+2価のイオン[Zn2L1-(M-2H)+H]2+、および+3価のイオン[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+が形成されることがわかった。
一方、亜鉛を含む錯体化合物(I)を添加しない場合では、リン酸基から二つの水素イオンが遊離した状態(M-2H2-)の−2価のリン酸化ペプチドに対し、エレクトロスプレーにより、当該リン酸基および2つのアミノ基に対して4つのプロトンが付加されたことにより生じた、+2価のリン酸化ペプチドイオン、[M+2H]2+のみが生成し、[M+3H]3+などの、それ以上の電価数のリン酸化ペプチドイオンは生成しなかった(図3)。
実施例2.
実施例1においてリン酸化ペプチドに対し亜鉛を含む錯体化合物を添加することにより得られた+3価のリン酸化ペプチドイオン[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+を電子移動解離法で分解させ、質量分析したところ、多様なペプチドフラグメントイオンに基づく多様なスペクトルが得られ、アミノ酸配列の解析に有用な結果が得られた。亜鉛を含む錯体化合物を添加しない場合に得られる+2価のリン酸化ペプチドイオン[M+2H]2+について、同様の電子移動解離法による質量分析を行った場合は、得られるペプチドフラグメントの種類が限定され、アミノ酸配列の解析に十分な結果が得られなかった。
前駆体イオンとして、亜鉛を含む錯体化合物(I)とリン酸化ペプチドの+3価の複合体イオン、[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+、および比較として+2価のプロトン化リン酸化ペプチドイオン、[M+2H]2+を用い、真空下、トラップされたこれらのイオンにそれぞれ負イオンラジカルとしてフルオランテンの負イオンラジカルを添加して、0.05秒、反応させることで、電子移動解離法によるリン酸化ペプチドの断片化を行い、得られたフラグメントイオンについて、SoraliX FT 9.4 Tを用いて、質量分析を行った。結果を図5に示す。
プロトン化リン酸化ペプチドイオン、[M+2H]2+の電子移動解離では、N末端およびC末端のそれぞれについて1または2アミノ酸残基が脱離したフラグメントしか得られず、これによりN末端の2残基(Val-Asn)およびC末端の2残基(Ile-Lys)の情報のみが得られた(図5上図)。
一方で[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+では、N末端およびC末端のそれぞれから中央のリン酸化されたトレオニンに至る各アミノ酸残基が脱離したフラグメントが得られ、これによりリン酸化ペプチドの全てのアミノ酸配列情報を含むマススペクトルが得られた(図5下図)。
この結果から、リン酸化ペプチドのリン酸基に特異的に結合する亜鉛を金属中心とする金属錯体化合物(I)の添加により、電子移動解離法によるアミノ酸配列の解離が促進され、より多様なペプチドフラグメントが得られることによって、質量分析を用いて、より詳細なアミノ酸配列情報を得ることができ、そのリン酸化部位も知ることができることが確認された。
また、この結果から、亜鉛を金属中心とする金属錯体化合物(I)と同様にペプチド側鎖のリン酸基に特異的に結合し、ペプチドイオンの価数を上げることのできる、亜鉛を金属中心とする金属錯体化合物(II)、さらには、これらと同様にペプチド側鎖のリン酸基に特異的に結合し、ペプチドイオンの価数を上げることのできるマンガンまたはガリウムを金属中心とする金属錯体化合物(I)および(II)を用いた場合、および、ペプチドの解離法として、電子移動解離法と同様にラジカルの生成を伴ってアミノ酸配列主鎖を解離させる、電子捕獲解離法、水素ラジカル解離法などの解離法を用いた場合も、上記実施例と同様の優れたアミノ酸配列解析結果が得られることが合理的に推測される。
実施例1においてリン酸化ペプチドに対し亜鉛を含む錯体化合物を添加することにより得られた+3価のリン酸化ペプチドイオン[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+を電子移動解離法で分解させ、質量分析したところ、多様なペプチドフラグメントイオンに基づく多様なスペクトルが得られ、アミノ酸配列の解析に有用な結果が得られた。亜鉛を含む錯体化合物を添加しない場合に得られる+2価のリン酸化ペプチドイオン[M+2H]2+について、同様の電子移動解離法による質量分析を行った場合は、得られるペプチドフラグメントの種類が限定され、アミノ酸配列の解析に十分な結果が得られなかった。
前駆体イオンとして、亜鉛を含む錯体化合物(I)とリン酸化ペプチドの+3価の複合体イオン、[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+、および比較として+2価のプロトン化リン酸化ペプチドイオン、[M+2H]2+を用い、真空下、トラップされたこれらのイオンにそれぞれ負イオンラジカルとしてフルオランテンの負イオンラジカルを添加して、0.05秒、反応させることで、電子移動解離法によるリン酸化ペプチドの断片化を行い、得られたフラグメントイオンについて、SoraliX FT 9.4 Tを用いて、質量分析を行った。結果を図5に示す。
プロトン化リン酸化ペプチドイオン、[M+2H]2+の電子移動解離では、N末端およびC末端のそれぞれについて1または2アミノ酸残基が脱離したフラグメントしか得られず、これによりN末端の2残基(Val-Asn)およびC末端の2残基(Ile-Lys)の情報のみが得られた(図5上図)。
一方で[Zn2L1-(M-2H)+2H]3+では、N末端およびC末端のそれぞれから中央のリン酸化されたトレオニンに至る各アミノ酸残基が脱離したフラグメントが得られ、これによりリン酸化ペプチドの全てのアミノ酸配列情報を含むマススペクトルが得られた(図5下図)。
この結果から、リン酸化ペプチドのリン酸基に特異的に結合する亜鉛を金属中心とする金属錯体化合物(I)の添加により、電子移動解離法によるアミノ酸配列の解離が促進され、より多様なペプチドフラグメントが得られることによって、質量分析を用いて、より詳細なアミノ酸配列情報を得ることができ、そのリン酸化部位も知ることができることが確認された。
また、この結果から、亜鉛を金属中心とする金属錯体化合物(I)と同様にペプチド側鎖のリン酸基に特異的に結合し、ペプチドイオンの価数を上げることのできる、亜鉛を金属中心とする金属錯体化合物(II)、さらには、これらと同様にペプチド側鎖のリン酸基に特異的に結合し、ペプチドイオンの価数を上げることのできるマンガンまたはガリウムを金属中心とする金属錯体化合物(I)および(II)を用いた場合、および、ペプチドの解離法として、電子移動解離法と同様にラジカルの生成を伴ってアミノ酸配列主鎖を解離させる、電子捕獲解離法、水素ラジカル解離法などの解離法を用いた場合も、上記実施例と同様の優れたアミノ酸配列解析結果が得られることが合理的に推測される。
本発明により、各種の生体タンパク質の特定の部位におけるリン酸化または脱リン酸化の状況を知ることによって、当該タンパク質に関連する疾病の診断や治療に有用な情報を得ることができる。
Claims (2)
- リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびそのリン酸化部位を質量分析により分析する方法であって、
(a)以下の化学式(I)または(II)で表される化合物を試料と混合し、試料を質量分析装置のイオン源に導入し、イオン化する工程、
(b)当該試料について、電子またはラジカルを利用した解離法によりタンデム質量分析測定を行う工程、および、
(c)得られたマススペクトルに基づき、リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列およびそのリン酸化部位を決定する工程からなる解析方法。
- リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列を求めるために使用されるマススペクトル測定用添加剤であって、以下の化学式(I)または(II)で表わされる錯体化合物を含有する試薬を含むことを特徴とする、マススペクトル測定用添加剤。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2016174673A JP2018040672A (ja) | 2016-09-07 | 2016-09-07 | リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列解析法 |
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JP2016174673A JP2018040672A (ja) | 2016-09-07 | 2016-09-07 | リン酸化タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列解析法 |
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JP (1) | JP2018040672A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2020241454A1 (ja) * | 2019-05-31 | 2020-12-03 | 株式会社新日本科学 | クロマトグラフ質量分析装置を用いた質量分析方法 |
-
2016
- 2016-09-07 JP JP2016174673A patent/JP2018040672A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2020241454A1 (ja) * | 2019-05-31 | 2020-12-03 | 株式会社新日本科学 | クロマトグラフ質量分析装置を用いた質量分析方法 |
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