JP2017201937A - カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素i由来ポリペプチド、リン酸化剤、および製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】カルモジュリンおよびカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素キナーゼ非依存的にキナーゼ活性を有するカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドを提供する。【解決手段】カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iの一次構造を示すポリペプチドのC末端側が欠損してなるカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドであって、前記欠損が、少なくともカルモジュリン結合ドメインを含み、かつ前記ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されていることを特徴とする、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドである。当該ポリペプチドは、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的にリン酸化能を発揮し、リン酸化剤として使用することができる。【選択図】なし
Description
本発明は、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチド、当該ポリペプチドを含むリン酸化剤、および前記カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドの製造方法に関する。
生体内のタンパク質の約1/3はリン酸化による制御を受けており、リン酸化反応は生体機能の調節に重要である。試験管内で各種タンパク質をリン酸化できれば、リン酸化タンパク質の機能解析が容易になる。また、リン酸化タンパク質の調製が容易になれば、ホスファターゼの活性測定や基質特異性の解析も容易となる。このようなタンパク質をリン酸化する酵素として、生体内には、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素(Ca2+/CaM-dependent protein kinase)がある。高等動物の記憶や学習などの高次神経機能で重要な働きをするタンパク質リン酸化酵素であり、リン酸化により活性化され、その活性は、脱リン酸化酵素により負の制御を受ける。細胞内カルシウム濃度の上昇およびカルモジュリンの直接結合により活性化される、セリン/スレオニンタンパク質リン酸化酵素である。カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素として、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I(CaMKI:Ca2+/CaM-dependent protein kinase I)や、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II(CaMKII:Ca2+/CaM-dependent protein kinase II)等が存在し、前記CaMKIとCaMKIIは共に、α、β、γ、δと称される4つのアイソフォームを有することが知られている。
CaMKIは、N末端側から順に、触媒ドメイン(catalytic domain)、自己阻害ドメイン(autoinhibitory domain)、カルモジュリン結合ドメイン(Ca2+/CaM-binding domain)を含む。CaMKIのリン酸化活性は、カルモジュリン結合とカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素キナーゼ(Calcium/CaM-dependent protein kinase kinase、以降CaMKKと称する。)によるCaMKIのリン酸化に依存する。刺激に応答して神経細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇するとカルモジュリンがカルシウムとの複合体(以下、カルシウム・カルモジュリン複合体、Ca2+/CaMとも称する。)を形成し、CaMKKが活性化される。その後、カルシウム・カルモジュリン(Ca2+/CaM)がCaMKIのカルモジュリン結合ドメインに結合する。次いで活性化されたCaMKKによってCaMKIがリン酸化されリン酸化CaMKIとなり、リン酸化活性を発揮する(非特許文献1〜2)。図16にCaMKIδの一例として、ゼブラフィッシュのCaMKIδの一次構造を模式的に示す。N末端側の第26〜280番のアミノ酸が触媒ドメインであり、第52アミノ酸にATPが結合し、第182アミノ酸がCaMKKによるリン酸化を受け、基質タンパク質に対するリン酸化能を有する。なお、CaMKIαとCaMKIδとはN末端およびC末端構造の一次構造が相違し、CaMKIδのN末端構造はホスファターゼ抵抗性となっていることが知られている(非特許文献3)。CaMKIδは、ホスファターゼ抵抗性を獲得しているため、低Ca2+状態でも脱リン酸化されることなくリン酸化状態を維持することができる。なお、CaMKIδは、ゼブラフィッシュの初期発生時に重要な役割を果たすプロテインキナーゼであり、海馬に多く発現し、神経機能で重要な役割を果たすと考えられている(非特許文献4)。
一方、CaMKIIは、カルモジュリン結合ドメインのC末端側に、更に会合領域(association region)を含む点でCaMKIと相違する。また、リン酸化機構も相違し、CaMKKによるリン酸化を必要としない。すなわち、刺激に応答して細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇するとカルシウム・カルモジュリン複合体(Ca2+/CaM)が形成され、CaMKIIのカルモジュリン結合ドメインに結合する。次いで、CaMKIIが自己リン酸化してリン酸化CaMKIIとなり、リン酸化活性を有するようになる(非特許文献5)。
カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素は高次神経機能に深く関わる酵素であり、その活性型酵素の安定的供給は神経科学分野の研究において重要な意味を持つ。基質特異性の広い多機能性タンパク質リン酸化酵素のリン酸化剤としての用途開発が強く望まれ、これをリン酸化試薬として利用する技術が開発されている。例えば、前記した自己リン酸化したCaMKIIをキモトリプシンで部分分解して得た、分子量30kDaのCaMKIIフラグメントがある。このポリペプチドフラグメントは、カルモジュリン非依存的なリン酸化活性を導く。更に、大腸菌を介して大量生産に適するようにポリペプチドを改変したものもある(特許文献1)。CaMKIIフラグメントを大腸菌を用いて発現させると発現量が少なく、かつ不溶性画分に発現する。特許文献1では、CaMKIIフラグメントのN末端側にアフリカツメガエルCaMKIxのN末端側10〜40個のアミノ酸配列を結合したCX−30k−CaMKIIγを調製している。CX−30k−CaMKIIγは大腸菌での発現量が多く、不溶性画分の発現物をグアニジン塩酸塩等で可溶化すると、時間依存的に顕著に活性が回復するという。
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前記特許文献1記載のCX−30k−CaMKIIγのcDNAを大腸菌の発現ベクターpETに導入して、タンパク質を発現させることができる。しかしながら、発現物は不溶性画分に存在するため不溶性画分を回収した後に可溶化を行う必要があり、操作が煩雑である。また、特許文献1の実施例では、調製物のプロテインキナーゼ活性を0℃と16℃とでそれぞれ評価しているが、16℃では5時間をピークに活性が漸減するという。したがって、簡便に製造でき、より耐熱性に優れるポリペプチドが開発できれば、耐熱性タンパク質のリン酸化活性の解明等に便利である。
また、非特許文献1に記載されるCaMKIもリン酸化活性を有するが、CaMKIは、リン酸化の発現にカルモジュリンの結合と、CaMKKによるリン酸化を必要とする。タンパク質リン酸化機構の解明には、他の成分に依存せずにリン酸化活性を発揮できることが好ましい。したがって、カルモジュリンやCaMKKに依存することなくリン酸化能を発揮し得るポリペプチドの開発が望まれる。
更に、リン酸化試薬は、酵素発現機構の解明などの基礎実験に重要であり、大量に供給できることが望ましい。よって、簡便に大量生産できる製造方法の開発が望まれる。
上記現状に鑑み、本発明は、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的にキナーゼ活性を発揮できるCaMKI由来ポリペプチドを提供することを目的とする。
また、前記CaMKI由来ポリペプチドの製造方法を提供することを目的とする。
更に、前記CaMKI由来ポリペプチドを含む、リン酸化剤を提供することを目的とする。
本発明者等は、CaMKIのC末端側領域の一部を欠損してなるポリペプチドをコードするDNAを導入した形質転換体を培養したところ、発現物が可溶性画分に分泌されるため精製が容易であること、このように得られたポリペプチドは、カルモジュリンおよびCaMKKに非依存的にキナーゼ活性を示すことを見出し、本発明を完成させた。しかも、このCaMKI由来ポリペプチドは、凍結融解や熱に対する安定性が高いことも判明した。
すなわち本発明は、CaMKIの一次構造を示すポリペプチドのC末端側が欠損してなるCaMKI由来ポリペプチドであって、
前記欠損が、少なくともカルモジュリン結合ドメインを含み、かつ
前記ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されていることを特徴とする、CaMKI由来ポリペプチドを提供するものである。
前記欠損が、少なくともカルモジュリン結合ドメインを含み、かつ
前記ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されていることを特徴とする、CaMKI由来ポリペプチドを提供するものである。
また本発明は、前記CaMKIが、CaMKIδであることを特徴とする、前記CaMKI由来ポリペプチドを提供するものである。
また本発明は、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的にキナーゼ活性を示すことを特徴とする、前記CaMKI由来ポリペプチドを提供するものである。
また本発明は、前記リン酸化されているアミノ酸が、CaMKKによってリン酸化されるアミノ酸と異なるアミノ酸であることを特徴とする、前記CaMKI由来ポリペプチドを提供するものである。
また本発明は、前記CaMKI由来ポリペプチドを含む、リン酸化剤を提供するものである。
また本発明は、前記CaMKI由来ポリペプチドをコードするDNAを提供するものである。
また本発明は、前記DNAを発現可能に含む、発現ベクターを提供するものである。
また本発明は、前記発現ベクターを大腸菌に導入してなる形質転換体を提供するものである。
また本発明は、前記形質転換体を培地中で培養する工程、
培養液の宿主を破砕処理し、可溶性画分を回収する工程、
を有するカルモジュリンおよびカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素キナーゼ非依存的にキナーゼ活性を有するCaMKI由来ポリペプチドの製造方法を提供するものである。
培養液の宿主を破砕処理し、可溶性画分を回収する工程、
を有するカルモジュリンおよびカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素キナーゼ非依存的にキナーゼ活性を有するCaMKI由来ポリペプチドの製造方法を提供するものである。
また本発明は、前記培養は、温度18〜37℃で6〜24時間で行うことを特徴とする、前記CaMKI由来ポリペプチドの製造方法を提供するものである。
本発明によれば、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的にキナーゼ活性を有するCaMKI由来ポリペプチドが提供される。また、当該CaMKI由来ポリペプチドの簡便な製造方法が提供される。
本発明の第一は、CaMKIの一次構造を示すポリペプチドのC末端側が欠損してなるCaMKI由来ポリペプチドであって、前記欠損が、少なくともカルモジュリン結合ドメインを含み、かつ前記ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されていることを特徴とする、CaMKI由来ポリペプチドである。本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、更に、自己阻害ドメインの一部が欠損するものであってもよい。以下、本発明をより詳細に説明する。
(1)CaMKI
本発明において、「CaMKI由来」とは、CaMKI由来ポリペプチド、CaMKIのアミノ酸配列の一部を含むことを意味する。CaMKIは、N末端から順に触媒ドメイン、自己阻害ドメイン、カルモジュリン結合ドメイン、および調節ドメインを含み、本発明では、種々の動物、植物、微生物由来のCaMKIを広く使用することができる。例えば、ヒト、ウシ、サル、イヌ、ウマ、ヒツジ、ラット、マウスなどの哺乳動物、ニワトリ、アヒルなどの鳥類、タイ、サバ、ゼブラフィッシュなどの魚類、カエル、サンショウウオなどの両生類、ヘビ、トカゲなどの爬虫類その他の動物、酵母、カビなどの微生物、および植物由来のCaMKIを対象とすることができる。また、例えば動物由来のCaMKIでは、発生時の何れの段階のものであってもよく、生体であれば何れの組織に含まれるものであってもよい。好ましくは、哺乳類や魚類由来のCaMKIである。また、CaMKIは、α、β、γ、δの4種のアイソフォームが知られているが、何れであってもよい。好ましくはCaMKIδであり、特に好ましくはホスファターゼ抵抗性を有するCaMKIδである。低Ca2+状態でも脱リン酸化されることなくリン酸化状態を維持できるからである。CaMKIδのC末端側の所定位置で切断したポリペプチド断片をコードするDNAを導入したベクターで形質転換した大腸菌を培養すると、得られるポリペプチドのリン酸化能に優れることが判明した。特に好ましくは、哺乳類や魚類由来のCaMKIδであり、ゼブラフィッシュ、ラット、マウス、ヒト由来のCaMKIδである。
本発明において、「CaMKI由来」とは、CaMKI由来ポリペプチド、CaMKIのアミノ酸配列の一部を含むことを意味する。CaMKIは、N末端から順に触媒ドメイン、自己阻害ドメイン、カルモジュリン結合ドメイン、および調節ドメインを含み、本発明では、種々の動物、植物、微生物由来のCaMKIを広く使用することができる。例えば、ヒト、ウシ、サル、イヌ、ウマ、ヒツジ、ラット、マウスなどの哺乳動物、ニワトリ、アヒルなどの鳥類、タイ、サバ、ゼブラフィッシュなどの魚類、カエル、サンショウウオなどの両生類、ヘビ、トカゲなどの爬虫類その他の動物、酵母、カビなどの微生物、および植物由来のCaMKIを対象とすることができる。また、例えば動物由来のCaMKIでは、発生時の何れの段階のものであってもよく、生体であれば何れの組織に含まれるものであってもよい。好ましくは、哺乳類や魚類由来のCaMKIである。また、CaMKIは、α、β、γ、δの4種のアイソフォームが知られているが、何れであってもよい。好ましくはCaMKIδであり、特に好ましくはホスファターゼ抵抗性を有するCaMKIδである。低Ca2+状態でも脱リン酸化されることなくリン酸化状態を維持できるからである。CaMKIδのC末端側の所定位置で切断したポリペプチド断片をコードするDNAを導入したベクターで形質転換した大腸菌を培養すると、得られるポリペプチドのリン酸化能に優れることが判明した。特に好ましくは、哺乳類や魚類由来のCaMKIδであり、ゼブラフィッシュ、ラット、マウス、ヒト由来のCaMKIδである。
(2)CaMKI由来ポリペプチド
本発明における「CaMKI由来ポリペプチド」は、CaMKIの一次構造を示すポリペプチドのC末端側から、少なくともカルモジュリン結合ドメインを示すポリペプチドを欠損したものであり、かつ前記ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されていることを特徴とする。以降便宜のため、ゼブラフィッシュ由来のCaMKIδ(以降、zCaMKIδとも称する。)のワイルドタイプ(以降、zCaMKIδ(WT)と称する。)で説明する。
本発明における「CaMKI由来ポリペプチド」は、CaMKIの一次構造を示すポリペプチドのC末端側から、少なくともカルモジュリン結合ドメインを示すポリペプチドを欠損したものであり、かつ前記ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されていることを特徴とする。以降便宜のため、ゼブラフィッシュ由来のCaMKIδ(以降、zCaMKIδとも称する。)のワイルドタイプ(以降、zCaMKIδ(WT)と称する。)で説明する。
図16に示すように、zCaMKIδ(WT)はアミノ酸433個からなり、触媒ドメインは、N末端から第26〜280アミノ酸で構成され、第281〜300が自己阻害ドメイン、第301〜320がカルモジュリン結合ドメイン、および第321〜433が調節ドメインとなっている。本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、例えばzCaMKIδ(WT)の自己阻害ドメインのいずれかで切断したN末端側ポリペプチドを使用することができる。配列番号1に、zCaMKIδ(WT)のアミノ酸配列を、配列番号2にzCaMKIδ(WT)のDNA配列を示す。
図1に、zCaMKIδ(WT)および、C末端側の第300以降のアミノ酸を欠損させた、N末端から第299アミノ酸までのポリペプチド(以降、zCaMKIδ(1−299)と称する。)の構造を示す。なお、本発明において、zCaMKIδ(1−299)の記載は、ポリペプチド配列を意味する場合のほか、いずれかのアミノ酸がリン酸化されたポリペプチドを意味する場合がある。zCaMKIδ(1−299)は、カルモジュリン結合ドメインおよび調節ドメインを欠損するためカルモジュリン結合能がなく、かつ自己阻害ドメインの機能も喪失している。本発明では、CaMKIの自己阻害ドメインのいずれかで切断されたN末端側ポリペプチドであることが好ましい。より好ましくは、自己阻害ドメインのN末端側からアミノ酸281〜301個、特に好ましくは281〜299個のいずれかで切断されたCaMKIのN末端側ポリペプチドである。CaMKIのリン酸化活性には、カルモジュリン結合とCaMKKによるリン酸化が必須であるが、本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、カルモジュリン結合ドメインが存在しない場合でも基質タンパク質に対するリン酸化能を発揮することができる。
本発明では、ポリペプチドを構成するアミノ酸配列としてzCaMKIδ(1−299)を好ましく使用できるが、これに限定されるものではない。例えば、マウスCaMKIδのワイルドタイプ(以下、mCaMKIδ(WT)と称する。)に由来するCaMKI由来ポリペプチドとして、C末端側の第298以降のアミノ酸を欠損させた、N末端から第297アミノ酸までのポリペプチド(以降、mCaMKIδ(1−297)と称する。なお、mCaMKIδ(1−297)の記載は、ポリペプチド配列を意味する場合のほか、いずれかのアミノ酸がリン酸化されたポリペプチドを意味する場合がある。)がある。同様にして、ラットCaMKIαのワイルドタイプ(以降、rCaMKIα(WT)と称する。)に由来するCaMKI由来ポリペプチドとして、rCaMKIα(WT)のC末端側の第295以降のアミノ酸を欠損させた、N末端から第294アミノ酸までのポリペプチド(以降、rCaMKIα(1−294)と称する。)がある。なお、rCaMKIα(1−294)の記載は、ポリペプチド配列を意味する場合のほか、いずれかのアミノ酸がリン酸化されたポリペプチドを意味する場合がある。図17にCaMKIαとCaMKIδの配列比較を、図18に、CaMKIδの動物間の配列比較を示す。
本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されている。図16に示すように、zCaMKIδは、第182アミノ酸であるスレオニン(Thr)がCaMKKによるリン酸化を受け、基質タンパク質に対するリン酸化能を獲得する。本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、CaMKKによるリン酸化と同様に第182アミノ酸がリン酸化されたものでもよいが、好ましくはCaMKKによってリン酸化されるアミノ酸とは異なるアミノ酸である。このようなアミノ酸として、セリン、スレオニンなどがある。前記したzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294に対応するアミノ酸配列を有し、かつポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されている本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的にリン酸活性を発揮する。
本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、基質タンパク質に対しリン酸化触媒活性を発揮できることを条件に、生物から抽出したCaMKIのアミノ酸配列の1又は複数のアミノ酸が置換・欠失・付加・挿入されたものであってもよく、いずれかのポリペプチドがリン酸化されたものであってもよい。
更に、本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、カルボキシ末端タグ、Hisタグ、多重荷電ペプチド、抗体のFc部分、免疫グロブリン結合ドメイン、プロテインA若しくはプロテインG若しくはこれらの一部、レシチン、核酸結合部位、ヘパリン結合部位、特異性リガンド、特異性受容体、インテグリン、サイトカイン又はそれらの受容体結合ドメインなどを触媒ドメインのC末端側にさらに結合したものであってもよい。
本発明のCaMKI由来ポリペプチドのリン酸化能は、由来の起源となるCaMKIのワイルドタイプとほぼ同等である。しかも、40℃で30分以上加熱してもリン酸活性が高く維持され、耐熱性に優れる。また、凍結融解に対する安定性も高く、少なくとも4回の凍結融解でもリン酸化活性が高く維持される。
(3)リン酸化剤
本発明のリン酸化剤は、前記CaMKI由来ポリペプチドを含む。使用方法は、市販のプロテインキナーゼA触媒サブユニットなどと同様に使用することができる。通常、緩衝性物質を含有するグリセロール溶液などの溶液状で提供することができる。例えば、40mM HEPES−NaOH(pH8.0)、2mM DTT(ジチオスレイトール)、5mMのMg(CH3COO)2、100μM ATPなどの組成からなる溶解液を利用できる。本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、耐熱性および凍結融解に優れ、保存安定性も高い。
本発明のリン酸化剤は、前記CaMKI由来ポリペプチドを含む。使用方法は、市販のプロテインキナーゼA触媒サブユニットなどと同様に使用することができる。通常、緩衝性物質を含有するグリセロール溶液などの溶液状で提供することができる。例えば、40mM HEPES−NaOH(pH8.0)、2mM DTT(ジチオスレイトール)、5mMのMg(CH3COO)2、100μM ATPなどの組成からなる溶解液を利用できる。本発明のCaMKI由来ポリペプチドは、耐熱性および凍結融解に優れ、保存安定性も高い。
(4)CaMKI由来ポリペプチドの製造方法
本発明のCaMKI由来ポリペプチドの製造方法に限定はない。従って、公知のCaMKIの自己阻害ドメインの一部を酵素切断し、得られたN末端側ポリペプチドをリン酸化して調製することができる。一方、当該ポリペプチドをコードするcDNAを含む発現ベクターを宿主に導入して形質転換体を形成し、培地中で培養して対象ポリペプチドを発現させると、培養工程でポリペプチドがリン酸化され、リン酸化されたポリペプチドを製造することができる。
本発明のCaMKI由来ポリペプチドの製造方法に限定はない。従って、公知のCaMKIの自己阻害ドメインの一部を酵素切断し、得られたN末端側ポリペプチドをリン酸化して調製することができる。一方、当該ポリペプチドをコードするcDNAを含む発現ベクターを宿主に導入して形質転換体を形成し、培地中で培養して対象ポリペプチドを発現させると、培養工程でポリペプチドがリン酸化され、リン酸化されたポリペプチドを製造することができる。
宿主としては、大腸菌、枯草菌などの微生物、酵母、ラン藻、放線菌などの従来公知の種々の宿主を使用することができる。培養工程で、発現したポリペプチドをリン酸化し、または発現したポリペプチドによる自己リン酸化を阻害せず、予めリン酸化されたポリペプチドを製造できる宿主である。特に好ましくは、細胞内にCaMKKを有しない宿主である。CaMKKと異なるアミノ酸をリン酸化でき、これによって基質タンパク質に対するリン酸化能に優れるCaMKI由来ポリペプチドを製造することができる。発明では、大腸菌を好適に使用することができる。
培養条件は、宿主の培養に好適な公知の方法でよい。例えば大腸菌を使用する場合、温度は18〜37℃、より好ましくは25℃である。また、培養時間は6〜24時間、より好ましくは12〜24時間である。この範囲で温度および培養時間を選択することで、発現したポリペプチドの大半がリン酸化されることが判明した。大腸菌以外の宿主を使用する場合は、予め発現したポリペプチドがリン酸化される温度や培養時間を測定し、好適な培養条件を選択すればよい。
培養後は、培養物をホモジナイズした後に、遠心分離その他によって、可溶性部分と不溶性部分とに分離する。大腸菌を使用する場合、本発明のポリペプチドは、可溶性画分に発現するため可溶性画分を回収し、キレートカラムなどで精製すればよい。なお、宿主によって可溶性画分、不溶性画分のいずれに発現するか不明である場合は、予め少量の培養を行い、何れに発現するかを評価し、回収、精製方法を適宜選択すればよい。本発明のCaMKI由来ポリペプチドの製造方法によれば、当該ポリペプチドをコードするDNAで形質転換された大腸菌を培養するだけで、ポリペプチドがリン酸化した状態で培養物中に含まれる。このため、製造したポリペプチドをその後にリン酸化するなどの複雑な工程を行う必要がない。しかも、可溶性画分に発現するため、大量生産が容易である。
従来から、CaMKIのリン酸化の発現には、カルモジュリン結合とCaMKKによるリン酸化が必須である。しかしながら、大腸菌を培養して製造したCaMKI由来ポリペプチドは、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的に基質タンパク質をリン酸化することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
以下により、発現ベクター(pET−zCaMKIδ(1−299))を構築した。
EST database中からゼブラフィッシュCaMKIδの全塩基配列(Acc.No.BC160632)を見出し、この配列をもとに以下の2本のプライマーを合成した。
UrCaMKIδ/Nhe 5'-CTCGAGCACCACCACCACCA-3'(配列番号3)
LrCaMKIδ/Xho 5'-CATCTGTCGACTGACGGACTCATG-3'(配列番号4)
以下により、発現ベクター(pET−zCaMKIδ(1−299))を構築した。
EST database中からゼブラフィッシュCaMKIδの全塩基配列(Acc.No.BC160632)を見出し、この配列をもとに以下の2本のプライマーを合成した。
UrCaMKIδ/Nhe 5'-CTCGAGCACCACCACCACCA-3'(配列番号3)
LrCaMKIδ/Xho 5'-CATCTGTCGACTGACGGACTCATG-3'(配列番号4)
予め調製したpETzCaMKIδの全長配列を鋳型にしてPCR(ABI社製 GeneAmp PCR System 2700を使用)を行った。PCRにはタカラバイオ社製のPrimeSTAR DNA polymeraseを用い、プログラムは96℃、2分(96℃10秒、60℃10秒、72℃5分)×30、72℃7分で増幅した。増幅産物を電気泳動後、ゲルから精製し(フナコシ社製Gene Clean III kitを使用)、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(ニッポンジーン)で5’末端をリン酸化し、T4リガーゼでセルフライゲーションさせてpET−zCaMKIδ(1−299)を構築した。
発現ベクターpET−zCaMKIδ(1−299)を大腸菌BL21(DE3)(Novagen社製)に電気穿孔法にて導入し(Harvard Apparatus社、BTX ECM-600を使用)、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地で37℃、16h培養した。発生したコロニーを3mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン)に植菌し、37℃で16h振とう培養した。次に、培養液の一部を新鮮な5mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン)に植菌し、37℃で培養後、対数増殖期に最終濃度0.1mMになるようIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加した後、25℃で24時間培養した。培養液を遠心分離(20,000×g、2℃、1分間)することで菌体を回収し、培養液の1/10量の菌体破砕バッファー[20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、0.05%Tween40]を加えて超音波破砕した。得られた菌体破砕液を遠心分離(20,000×g、4℃、10分間)することで可溶性画分と不溶性画分に分画した。可溶性画分と不溶性画分の各5μlをCBB染色で染色し、SDS−PAGEにて発現を確認した。結果を図2に示す。図2において、Sは可溶性画分を、Pは不溶性画分を意味し、Mockは、zCaMKIδ(1−299)を含まないベクターのみでトランスフェクションを行ったものを意味する。なお、zCaMKIδ(1−299)の分子量は45〜47kDaである。図2に示すように、zCaMKIδ(1−299)は可溶性画分に含まれていた。
zCaMKIδ(1−299)を大量生産するため、発現ベクターpET−zCaMKIδ(1−299)を導入した大腸菌BL21(DE3)を3mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン)に植菌し、37℃で16h振とう培養した。次に、培養液の一部を新鮮な100mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン)に植菌した。本培養は37℃で培養後、対数増殖期に最終濃度0.1mMになるようIPTGを添加した後、25℃で24時間培養した。培養液を遠心分離(6,000×g、4℃、10分間)することで菌体を回収し、培養液の1/10量の菌体破砕バッファー[20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、0.05%Tween40、1mM PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride)]を加えて超音波破砕した。得られた菌体破砕液を遠心分離(20,000×g、4℃、10分間)して可溶性画分を得た。菌体破砕バッファーで平衡化した HiTrap Chelating HPカラム(1ml)に可溶性画分(Input)をアプライし、各10mlの菌体破砕バッファー(Wash)、20mMイミダゾールを含む菌体破砕バッファー、50mMイミダゾールを含む菌体破砕バッファーを順番に流すことで非特異的に結合しているタンパク質を除去した後、200mMイミダゾールを含む菌体破砕バッファーを流して目的タンパク質を溶出した。各溶出画分をSDS−PAGEにより解析し、目的タンパク質の溶出が確認された画分に最終濃度20mMになるようにEDTA(ethylenediamine tetraacetic acid)を添加し、氷上で30分間静置した。その後、透析チューブに入れ、溶出画分の100倍容量の透析バッファー[20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05% Tween40、2mM 2−メルカプトエタノール]に対して透析(4℃、2時間×3回)を行い、zCaMKIδ(1−299)を得た。図3にCBB(Coomassie Brilliant Blue)染色によるカラムクロマトの結果を示す。図3において、Inputはアプライ前の可溶性画分、Passはカラムに結合しなかったタンパク質画分であり、Washは菌体破砕バッファーでカラム洗浄時の画分、20mM、50mM、200mMは溶出液に含まれるイミダゾール濃度であり、200mMの下部の数値1、2および3はフラクション番号を示す。zCaMKIδ(1−299)は、フラクション1〜3に含まれ、その合計収量は22.1mgであった。なお、図3には、同様に精製したzCaMKIδ(WT)の結果を示す。zCaMKIδ(WT)のフラクション2の収量は6.79mgであった。
(実施例2)
EST database中からマウスCaMKIδの全塩基配列(Acc.No.BC141413)、およびラットのrCaMKIαの全塩基配列(Acc.No.NP598687)を選択し、N末端からアミノ酸第297までのマウスCaMKIδ由来ポリペプチド(mCaMKIδ(1−297))と、N末端からアミノ酸第294までのrCaMKIα由来ポリペプチド(rCaMKIα(1−294))とを調製した。
EST database中からマウスCaMKIδの全塩基配列(Acc.No.BC141413)、およびラットのrCaMKIαの全塩基配列(Acc.No.NP598687)を選択し、N末端からアミノ酸第297までのマウスCaMKIδ由来ポリペプチド(mCaMKIδ(1−297))と、N末端からアミノ酸第294までのrCaMKIα由来ポリペプチド(rCaMKIα(1−294))とを調製した。
テンプレートとして予め調製したpETmCaMKIδ、pETrCaMKIαをそれぞれ用いた。実施例1と同様に操作して発現ベクターpET−mCaMKIδ(1−297)および、発現ベクターpET−rCaMKIα(1−294)を構築し、それぞれBL21(DE3)に遺伝子導入、および培養してmCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)を製造した。
なお、pETmCaMKIδ(1−297)の調製に使用したプライマーは、以下の通りである。
センスプライマー:5'−CTCGAGCACCACCACCACCA-3'(配列番号5) 、
アンチセンスプライマー:5'−GATCTGGGCACTGACAGATTCGTG-3'(配列番号6)
また、pETrCaMKIα(1−294)の調製に使用したプライマーは、以下の通りである。
センスプライマー:5'−CTCGAGCACCACCACCACCA-3'(配列番号7) 、
アンチセンスプライマー:5'−GATCTGCTCACTCACTGACTGGTGG-3'(配列番号8)
センスプライマー:5'−CTCGAGCACCACCACCACCA-3'(配列番号5) 、
アンチセンスプライマー:5'−GATCTGGGCACTGACAGATTCGTG-3'(配列番号6)
また、pETrCaMKIα(1−294)の調製に使用したプライマーは、以下の通りである。
センスプライマー:5'−CTCGAGCACCACCACCACCA-3'(配列番号7) 、
アンチセンスプライマー:5'−GATCTGCTCACTCACTGACTGGTGG-3'(配列番号8)
(実施例3)
実施例1および2で得たzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)、並びにゼブラフィッシュ、マウスおよびラットから抽出したzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)についてカルモジュリンオーバーレイアッセイを行った。
40mM HEPES−NaOH(pH8.0)、5mM Mg(CH3COO)2、2mMジチオスレイトール、0.1mM[γ−32P]ATP(200−500cpm/pmol)に、1mMのCaCl2または1mMのEGTA(ethylene glycol tetraacetic acid)を加え、10ngのzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)、rCaMKIα(1−294)、zCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)、またはrCaMKIα(WT)を添加し、カルモジュリン結合能を評価した。結果を図4に示す。なお、前記反応溶液の500ngをCBBで染色した結果も併せて記載する。図4に示すように、zCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)は、カルシウム存在下でカルモジュリン結合能を有するが、zCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)、rCaMKIα(1−294)はカルモジュリン結合能を有しなかった。なお、EGTA添加系ではバンドが存在せず、zCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)、並びにzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)のいずれもキレート剤の存在下ではカルモジュリンと結合できないことが示された。
実施例1および2で得たzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)、並びにゼブラフィッシュ、マウスおよびラットから抽出したzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)についてカルモジュリンオーバーレイアッセイを行った。
40mM HEPES−NaOH(pH8.0)、5mM Mg(CH3COO)2、2mMジチオスレイトール、0.1mM[γ−32P]ATP(200−500cpm/pmol)に、1mMのCaCl2または1mMのEGTA(ethylene glycol tetraacetic acid)を加え、10ngのzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)、rCaMKIα(1−294)、zCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)、またはrCaMKIα(WT)を添加し、カルモジュリン結合能を評価した。結果を図4に示す。なお、前記反応溶液の500ngをCBBで染色した結果も併せて記載する。図4に示すように、zCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)は、カルシウム存在下でカルモジュリン結合能を有するが、zCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)、rCaMKIα(1−294)はカルモジュリン結合能を有しなかった。なお、EGTA添加系ではバンドが存在せず、zCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)、並びにzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)のいずれもキレート剤の存在下ではカルモジュリンと結合できないことが示された。
(実施例4)
実施例1および2で得たzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)、並びにzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)について、Ca2+/CaM存在下、非存在下でのウシ由来のミエリン塩基性タンパク質(MBP:myelin basic protein)に対するリン酸化活性を評価した。
実施例1および2で得たzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)、並びにzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)について、Ca2+/CaM存在下、非存在下でのウシ由来のミエリン塩基性タンパク質(MBP:myelin basic protein)に対するリン酸化活性を評価した。
2.5μgのzCaMKIδ(WT)を0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液20μlに加え、温度30℃、30分反応させた。また、前記リン酸化反応液に、125ngのCaMKK、0.5mMのCaCl2および1μMのカルモジュリンを添加もしくは添加せず、上記と同様にして反応させた。
反応後のzCaMKIδ(WT)(20ng)を、100ngのMBP、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、温度30℃で30分反応させた。同様にして、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリンを添加もしくは添加せず、上記と同様にして反応させた。得られた各反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。これをzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)についても上記と同様に操作した。また、zCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)は、CaCl2、カルモジュリン、CaMKKが存在しない条件で同様に操作した。結果を図5に示す。
反応後のzCaMKIδ(WT)(20ng)を、100ngのMBP、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、温度30℃で30分反応させた。同様にして、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリンを添加もしくは添加せず、上記と同様にして反応させた。得られた各反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。これをzCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)についても上記と同様に操作した。また、zCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)およびrCaMKIα(1−294)は、CaCl2、カルモジュリン、CaMKKが存在しない条件で同様に操作した。結果を図5に示す。
zCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)、rCaMKIα(1−294)は、カルシウム・カルモジュリン(Ca2+/CaM)が存在しない条件でもリン酸化活性を発揮した。一方、zCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)およびrCaMKIα(WT)は、カルシウム・カルモジュリン(Ca2+/CaM)が存在しないとMBPは全くリン酸化されなかった。また、zCaMKIδ(WT)、mCaMKIδ(WT)は、カルシウム・カルモジュリン(Ca2+/CaM)存在下でも、C末端の一部を欠損するzCaMKIδ(1−299)、mCaMKIδ(1−297)より顕著に、リン酸化活性が弱かった。
(実施例5)
上記実施例で得たzCaMKIδ(WT)、zCaMKIδ(1−299)、rCaMKIα(WT)、およびrCaMKIα(1−294)について、カルモジュリンならびにCaMKKの影響を評価した。
2.5μgのzCaMKIδ(WT)を0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液20μlに加え、温度30℃、30分反応させた。また、前記リン酸化反応液に、125ngのCaMKK、0.5mMのCaCl2および1μMのカルモジュリンを添加もしくは添加せず、上記と同様にして反応させた。
反応後のzCaMKIδ(WT)(20ng)を、100ngのMBP、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、温度30℃で30分反応させた。同様にして、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリンを添加もしくは添加せず、上記と同様にして反応させた。得られた各反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。また、液体シンチレーションカウンターに反応液8μlを供し、MBPに取り込まれた[γ−32P]ATPのリン酸化を定量した。これをrCaMKIα(WT)についても同様に操作した。zCaMKIδ(1−299)およびrCaMKIα(1−294)は、CaMKK、CaCl2およびカルモジュリンを添加せず、上記と同様にして反応させた。
上記実施例で得たzCaMKIδ(WT)、zCaMKIδ(1−299)、rCaMKIα(WT)、およびrCaMKIα(1−294)について、カルモジュリンならびにCaMKKの影響を評価した。
2.5μgのzCaMKIδ(WT)を0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液20μlに加え、温度30℃、30分反応させた。また、前記リン酸化反応液に、125ngのCaMKK、0.5mMのCaCl2および1μMのカルモジュリンを添加もしくは添加せず、上記と同様にして反応させた。
反応後のzCaMKIδ(WT)(20ng)を、100ngのMBP、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、温度30℃で30分反応させた。同様にして、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリンを添加もしくは添加せず、上記と同様にして反応させた。得られた各反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。また、液体シンチレーションカウンターに反応液8μlを供し、MBPに取り込まれた[γ−32P]ATPのリン酸化を定量した。これをrCaMKIα(WT)についても同様に操作した。zCaMKIδ(1−299)およびrCaMKIα(1−294)は、CaMKK、CaCl2およびカルモジュリンを添加せず、上記と同様にして反応させた。
オートラジオグラフィーの結果を図6に示し、32P-取り込み量によるリン酸活性量を図7に示した。リン酸活性量の測定は3回行い、標準偏差をエラーバーで示した。図6に示すように、zCaMKIδ(WT)は、Ca2+/CaMおよびCaMKKが存在する場合のみMBPをリン酸化した。一方、zCaMKIδ(1−299)は、Ca2+/CaMおよびCaMKK非依存的にMBPをリン酸化した。また、図7に示すように、zCaMKIδ(1−299)のリン酸化能は、Ca2+/CaMおよびCaMKK存在下でのzCaMKIδ(WT)のリン酸化能とほぼ同等であった。
(実施例6)
実施例1で得たzCaMKIδ(1−299)およびzCaMKIδ(WT)について、CREB(cyclicAMP-responsive element-binding protein)、MLC(myosin light chain)、ヒストン(Histones)、およびMBPに対するリン酸化能を評価した。
zCaMKIδ(WT)(4μg)を0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、200ngのCaMKKを含むリン酸化反応液20μlに添加し、温度30℃、30分反応させてリン酸化した。100ngのリン酸化したzCaMKIδ(WT)を、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、更に500ngの上記CREB、MLC、ヒストン、またはMBPを添加して温度30℃で30分反応させ、各種タンパク質をリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。また、100ngのzCaMKIδ(1−299)を、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、更に500ngの上記CREB、MLC、ヒストン、またはMBPを添加して温度30℃で30分反応させ、各種タンパク質をリン酸化した。zCaMKIδ(1−299)は、CaMKK、CaCl2およびカルモジュリンを添加せず反応させた。オートラジオグラフィーの結果を図8に示す。zCaMKIδ(1−299)と、Ca2+/CaM、CaMKK存在下でのCaMKIδ(WT)とのパターンは同等であり、zCaMKIδ(1−299)とzCaMKIδ(WT)は、上記CREB、MLC、ヒストンおよびMBPのいずれもリン酸化した。なお、CREBの分子量は45〜47kDa、MLCは15〜20kDa、ヒストンは14〜15kDa、MBPは18kDaである。これにより、zCaMKIδ(1−299)は、CREB、MLC、ヒストン、MBPに対し、Ca2+/CaM、CaMKKによって活性化されたzCaMKIδ(WT)と同等のリン酸化活性を発揮することが判明した。なお、*は、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドである。ただし、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドに、zCaMKIδ(WT)の自己リン酸化バンドが含まれるかは不明である。
実施例1で得たzCaMKIδ(1−299)およびzCaMKIδ(WT)について、CREB(cyclicAMP-responsive element-binding protein)、MLC(myosin light chain)、ヒストン(Histones)、およびMBPに対するリン酸化能を評価した。
zCaMKIδ(WT)(4μg)を0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、200ngのCaMKKを含むリン酸化反応液20μlに添加し、温度30℃、30分反応させてリン酸化した。100ngのリン酸化したzCaMKIδ(WT)を、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、更に500ngの上記CREB、MLC、ヒストン、またはMBPを添加して温度30℃で30分反応させ、各種タンパク質をリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。また、100ngのzCaMKIδ(1−299)を、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに添加し、更に500ngの上記CREB、MLC、ヒストン、またはMBPを添加して温度30℃で30分反応させ、各種タンパク質をリン酸化した。zCaMKIδ(1−299)は、CaMKK、CaCl2およびカルモジュリンを添加せず反応させた。オートラジオグラフィーの結果を図8に示す。zCaMKIδ(1−299)と、Ca2+/CaM、CaMKK存在下でのCaMKIδ(WT)とのパターンは同等であり、zCaMKIδ(1−299)とzCaMKIδ(WT)は、上記CREB、MLC、ヒストンおよびMBPのいずれもリン酸化した。なお、CREBの分子量は45〜47kDa、MLCは15〜20kDa、ヒストンは14〜15kDa、MBPは18kDaである。これにより、zCaMKIδ(1−299)は、CREB、MLC、ヒストン、MBPに対し、Ca2+/CaM、CaMKKによって活性化されたzCaMKIδ(WT)と同等のリン酸化活性を発揮することが判明した。なお、*は、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドである。ただし、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドに、zCaMKIδ(WT)の自己リン酸化バンドが含まれるかは不明である。
(実施例7)
実施例1で得たzCaMKIδ(1−299)およびzCaMKIδ(WT)について、内在性基質に対する特異性を評価するため、MicroRotoforにより分画した。基質タンパク質としてゼブラフィッシュ胚抽出液(120hpf)を用い、このタンパク質抽出物(2.5mg)を2.5mlのIEFバッファー[5mMジチオスレイトール、4%(w/v)Chaps、5%(v/v)グリコール、2%(v/v)Pharmalyte、pH3−10]に溶解した。これを、MicroRotofor(Bio−Rad Laboratories)にアプライし、4℃、1W定電力で2.5時間電気泳動を行った。電気泳動後、各画分から200μlのタンパク質溶液を回収し(10画分)、1%sodium deoxycholateを5μl加えて37℃、10分間インキュベート後、等量の20%TCA(trichloroacetic acid)を加えた。20,000×g、10分間室温にて遠心分離後、沈殿に500μlのアセトンを加えて懸濁し、20,000×g、2℃、10分間遠心分離し、上清を慎重に除去して沈殿を得た。この沈殿を風乾して、50μlの溶解バッファー[20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、0.05% Tween40、2mM DTT]を加え、Bioruptor(Cosmo Bio)にて超音波処理を行ってタンパク質を溶解させ、ロトフォアサンプルを調製した。このロトフォアサンプルを基質に、in vitroキナーゼアッセイを行った。
2μgのzCaMKIδ(WT)を、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、0.1mM[γ−32P]ATP、および100ngのCaMKKを含むリン酸化反応液20μlで温度30℃で30分反応させてリン酸化した。次いで、前記ロトフォアサンプル(3μl)を、200ngのリン酸化したzCaMKIδ(WT)を用い、0.1mM[γ−32P]ATP、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリンを含むリン酸化反応液10μlで、温度30℃、30分反応させ、前記サンプルをリン酸化した。また、200ngのzCaMKIδ(1−299)を用い、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlで、温度30℃、30分反応させ、前記サンプルをリン酸化した。各反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図9に示す。図9Aは、オートラジオグラフィーの結果であり、図9BはCBB染色の結果である。CBBは前記ロトフォアサンプル3μl分をアプライした結果である。zCaMKIδ(WT)とzCaMKIδ(1−299)とは、共に塩基性のフラクション(フラクション8、9、10)の基質を好み、そのリン酸化バンドパターンに大きな違いは観察されなかった。なお、図9Aにおいて、*は、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドである。ただし、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドに、zCaMKIδ(WT)の自己リン酸化バンドが含まれるかは不明である。
実施例1で得たzCaMKIδ(1−299)およびzCaMKIδ(WT)について、内在性基質に対する特異性を評価するため、MicroRotoforにより分画した。基質タンパク質としてゼブラフィッシュ胚抽出液(120hpf)を用い、このタンパク質抽出物(2.5mg)を2.5mlのIEFバッファー[5mMジチオスレイトール、4%(w/v)Chaps、5%(v/v)グリコール、2%(v/v)Pharmalyte、pH3−10]に溶解した。これを、MicroRotofor(Bio−Rad Laboratories)にアプライし、4℃、1W定電力で2.5時間電気泳動を行った。電気泳動後、各画分から200μlのタンパク質溶液を回収し(10画分)、1%sodium deoxycholateを5μl加えて37℃、10分間インキュベート後、等量の20%TCA(trichloroacetic acid)を加えた。20,000×g、10分間室温にて遠心分離後、沈殿に500μlのアセトンを加えて懸濁し、20,000×g、2℃、10分間遠心分離し、上清を慎重に除去して沈殿を得た。この沈殿を風乾して、50μlの溶解バッファー[20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、0.05% Tween40、2mM DTT]を加え、Bioruptor(Cosmo Bio)にて超音波処理を行ってタンパク質を溶解させ、ロトフォアサンプルを調製した。このロトフォアサンプルを基質に、in vitroキナーゼアッセイを行った。
2μgのzCaMKIδ(WT)を、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、0.1mM[γ−32P]ATP、および100ngのCaMKKを含むリン酸化反応液20μlで温度30℃で30分反応させてリン酸化した。次いで、前記ロトフォアサンプル(3μl)を、200ngのリン酸化したzCaMKIδ(WT)を用い、0.1mM[γ−32P]ATP、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリンを含むリン酸化反応液10μlで、温度30℃、30分反応させ、前記サンプルをリン酸化した。また、200ngのzCaMKIδ(1−299)を用い、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlで、温度30℃、30分反応させ、前記サンプルをリン酸化した。各反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図9に示す。図9Aは、オートラジオグラフィーの結果であり、図9BはCBB染色の結果である。CBBは前記ロトフォアサンプル3μl分をアプライした結果である。zCaMKIδ(WT)とzCaMKIδ(1−299)とは、共に塩基性のフラクション(フラクション8、9、10)の基質を好み、そのリン酸化バンドパターンに大きな違いは観察されなかった。なお、図9Aにおいて、*は、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドである。ただし、リン酸化されたCaMKIδ(WT)のバンドに、zCaMKIδ(WT)の自己リン酸化バンドが含まれるかは不明である。
(実施例8)
凍結融解が活性に及ぼす影響を評価した。
zCaMKIδ(1−299)、PKA触媒サブユニット(サイクリックAMP依存性プロテインキナーゼ 触媒サブユニット、catalytic subunit of cAMP−dependent protein kinase、以降PKAcと称する。)を−80℃で30分凍らせ、氷上で融解を4回繰り返した。
0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに250ngのMBPおよび25ngのzCaMKIδ(1−299)または下記により予め調製したPKAcを添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図10に示す。凍結融解に対する安定性を評価したところ、凍結融解を4回繰り返し行ってもミエリン塩基性タンパク質(MBP)に対する基質リン酸化活性はほとんど変わらなかった。
凍結融解が活性に及ぼす影響を評価した。
zCaMKIδ(1−299)、PKA触媒サブユニット(サイクリックAMP依存性プロテインキナーゼ 触媒サブユニット、catalytic subunit of cAMP−dependent protein kinase、以降PKAcと称する。)を−80℃で30分凍らせ、氷上で融解を4回繰り返した。
0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに250ngのMBPおよび25ngのzCaMKIδ(1−299)または下記により予め調製したPKAcを添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図10に示す。凍結融解に対する安定性を評価したところ、凍結融解を4回繰り返し行ってもミエリン塩基性タンパク質(MBP)に対する基質リン酸化活性はほとんど変わらなかった。
PKAcは、ラット由来のPKAc(以下、rPKAcと称する)を用いて以下により調製した。
発現ベクターpET−rPKAcを導入した大腸菌BL21(DE3)pLysEを3mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン、34μg/mlクロラムフェニコール)に植菌し、37℃で16h振とう培養した。次に、培養液の一部を新鮮な100mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン、34μg/mlクロラムフェニコール)に植菌した。本培養は37℃で6時間培養した。培養液をzCaMKIδと同様に精製し、PKAcとした。
発現ベクターpET−rPKAcを導入した大腸菌BL21(DE3)pLysEを3mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン、34μg/mlクロラムフェニコール)に植菌し、37℃で16h振とう培養した。次に、培養液の一部を新鮮な100mlのLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、100μg/mlアンピシリン、34μg/mlクロラムフェニコール)に植菌した。本培養は37℃で6時間培養した。培養液をzCaMKIδと同様に精製し、PKAcとした。
(実施例9)
熱に対する安定性を評価するため30℃または40℃で0〜120分インキュベートしたzCaMKIδ(1−299)および実施例8で得たPKAcを用いてMBPに対するリン酸化活性を比較した。
zCaMKIδ(1−299)、PKAcを30℃、40℃で0〜2時間静置した。0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに250ngのMBPおよび25ngのzCaMKIδ−299またはPKAcとを添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図11に示す。
zCaMKIδ(1−299)の活性は30℃、40℃でプレインキュベートしてもキナーゼ活性に大きな変化は見られなかった。一方、PKAcは40℃でプレインキュベートすることにより活性が著しく低下した。
熱に対する安定性を評価するため30℃または40℃で0〜120分インキュベートしたzCaMKIδ(1−299)および実施例8で得たPKAcを用いてMBPに対するリン酸化活性を比較した。
zCaMKIδ(1−299)、PKAcを30℃、40℃で0〜2時間静置した。0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに250ngのMBPおよび25ngのzCaMKIδ−299またはPKAcとを添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図11に示す。
zCaMKIδ(1−299)の活性は30℃、40℃でプレインキュベートしてもキナーゼ活性に大きな変化は見られなかった。一方、PKAcは40℃でプレインキュベートすることにより活性が著しく低下した。
(実施例10)
zCaMKIδ(1−299)および実施例8で調製したPKAcについて、内在性基質に対する特異性をより詳細に評価するため、実施例7と同様にしてMicroRotoforにより分画したゼブラフィッシュ脳抽出液を基質にin vitroキナーゼアッセイを行った。
実施例7で調製したロトフォアサンプル3μlに、200ngのzCaMKIδ(1−299)もしくはPKAc、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlを加え、温度30℃、30分反応させた。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図12に示す。zCaMKIδ(1−299)は、塩基性のフラクション(フラクション8、9、10)の基質を好むのに対し、PKAcは中性のフラクション(フラクション2、3、4、5、6)の基質を好む傾向があった。
zCaMKIδ(1−299)および実施例8で調製したPKAcについて、内在性基質に対する特異性をより詳細に評価するため、実施例7と同様にしてMicroRotoforにより分画したゼブラフィッシュ脳抽出液を基質にin vitroキナーゼアッセイを行った。
実施例7で調製したロトフォアサンプル3μlに、200ngのzCaMKIδ(1−299)もしくはPKAc、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlを加え、温度30℃、30分反応させた。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。結果を図12に示す。zCaMKIδ(1−299)は、塩基性のフラクション(フラクション8、9、10)の基質を好むのに対し、PKAcは中性のフラクション(フラクション2、3、4、5、6)の基質を好む傾向があった。
(実施例11)
実施例1で製造したzCaMKIδ(1−299)について、実施例11−1から実施例11−4において、培養条件、リン酸化、脱リン酸化等を検討した。
実施例1で製造したzCaMKIδ(1−299)について、実施例11−1から実施例11−4において、培養条件、リン酸化、脱リン酸化等を検討した。
(実施例11−1)
実施例1において、zCaMKIδ(1−299)を製造するための本培養条件を、25℃で24時間に加えて、18℃6時間、25℃12時間で行った。各培養液10μlをSDS−PAGEに供した後CBB染色した。図13(A)に結果を示す。18℃6時間の培養物では1本のバンドが観察され、25℃12時間の培養物では更に上方に1本のバンドが出現し2本のバンドが観察され、25℃24時間の培養物では前記上方のバンドを主成分とする2本のバンドが観察された。培養温度および培養時間依存的にバンドがシフトしていることが観察された。なお、18℃6時間の培養物で出現したバンドの分子量は、約47kDaである。
実施例1において、zCaMKIδ(1−299)を製造するための本培養条件を、25℃で24時間に加えて、18℃6時間、25℃12時間で行った。各培養液10μlをSDS−PAGEに供した後CBB染色した。図13(A)に結果を示す。18℃6時間の培養物では1本のバンドが観察され、25℃12時間の培養物では更に上方に1本のバンドが出現し2本のバンドが観察され、25℃24時間の培養物では前記上方のバンドを主成分とする2本のバンドが観察された。培養温度および培養時間依存的にバンドがシフトしていることが観察された。なお、18℃6時間の培養物で出現したバンドの分子量は、約47kDaである。
(実施例11−2)
実施例11−1で得た上記各培養物350μgに、50μgのλホスファターゼ(λPPase)を添加し、温度30℃30分反応させ、各培養液10μlをSDS−PAGEに供した。また、λホスファターゼ処理しない培養物についても同様に操作した。CBB染色した結果を図13(B)に示す。各培養物について、λホスファターゼの有無で比較すると、25℃24時間の培養物はλホスファターゼによってバンドが下方にシフトし、このシフトは培養温度および培養時間に対応して低減した。図13(A)の結果と加味すると、大腸菌による培養によって経時的にzCaMKIδ(1−299)がリン酸化されることが推定された。
実施例11−1で得た上記各培養物350μgに、50μgのλホスファターゼ(λPPase)を添加し、温度30℃30分反応させ、各培養液10μlをSDS−PAGEに供した。また、λホスファターゼ処理しない培養物についても同様に操作した。CBB染色した結果を図13(B)に示す。各培養物について、λホスファターゼの有無で比較すると、25℃24時間の培養物はλホスファターゼによってバンドが下方にシフトし、このシフトは培養温度および培養時間に対応して低減した。図13(A)の結果と加味すると、大腸菌による培養によって経時的にzCaMKIδ(1−299)がリン酸化されることが推定された。
(実施例11−3)
下記により、基質タンパク質にリン酸基を付加できず、自己リン酸化能もないCaMKIδ(KD)を用いて、N末端からアミノ酸第299のポリペプチドCaMKIδ(1−299、KD)を調製した。
実施例1と同様に操作して形質転換体を調製し、培養温度25℃で24時間培養した。この培養液には、N末端からアミノ酸第299のポリペプチドCaMKIδ(1−299、KD)が含まれている。この培養液および実施例1のzCaMKIδ(1−299)の培養液の各10μlを、それぞれSDS−PAGEに供した。また、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに250ngのマウス由来MBPおよび25ngのCaMKIδ(1−299、KD)またはzCaMKIδ(1−299)を添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。CBB染色とオートラジオグラフィーの結果を図13(C)に示す。zCaMKIδ(1−299)には、2本のバンド(i)と(ii)とが観察され、上方のバンド(i)が主成分であった。一方、CaMKIδ(1−299、KD)では1本のバンド(ii)のみが観察され、zCaMKIδ(1−299)に観察されるバンドの下方にシフトしたバンドとほぼ同じ分子量と推定される。また、オートラジオグラフィーの結果より、zCaMKIδ(1−299)はMBPをリン酸化できるが、CaMKIδ(1−299、KD)はMBPのリン酸化能を有しないものであった。
下記により、基質タンパク質にリン酸基を付加できず、自己リン酸化能もないCaMKIδ(KD)を用いて、N末端からアミノ酸第299のポリペプチドCaMKIδ(1−299、KD)を調製した。
実施例1と同様に操作して形質転換体を調製し、培養温度25℃で24時間培養した。この培養液には、N末端からアミノ酸第299のポリペプチドCaMKIδ(1−299、KD)が含まれている。この培養液および実施例1のzCaMKIδ(1−299)の培養液の各10μlを、それぞれSDS−PAGEに供した。また、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに250ngのマウス由来MBPおよび25ngのCaMKIδ(1−299、KD)またはzCaMKIδ(1−299)を添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。CBB染色とオートラジオグラフィーの結果を図13(C)に示す。zCaMKIδ(1−299)には、2本のバンド(i)と(ii)とが観察され、上方のバンド(i)が主成分であった。一方、CaMKIδ(1−299、KD)では1本のバンド(ii)のみが観察され、zCaMKIδ(1−299)に観察されるバンドの下方にシフトしたバンドとほぼ同じ分子量と推定される。また、オートラジオグラフィーの結果より、zCaMKIδ(1−299)はMBPをリン酸化できるが、CaMKIδ(1−299、KD)はMBPのリン酸化能を有しないものであった。
なお、CaMKIδ(1−299、KD)の調製は、以下によった。
EST database中からCaMKIδ−WTの全塩基配列(Acc.No.BC160632)を選択し、N末端からアミノ酸第299までのCaMKIδ(KD)由来CaMKIδ(1−299、KD)を調製した。
EST database中からCaMKIδ−WTの全塩基配列(Acc.No.BC160632)を選択し、N末端からアミノ酸第299までのCaMKIδ(KD)由来CaMKIδ(1−299、KD)を調製した。
テンプレートとして予め調製したpETCaMKIδを用いた。実施例1と同様に操作して発現ベクターpET−CaMKIδ(1−299、KD)を構築し、それぞれBL21(DE3)に遺伝子導入、および培養してCaMKIδ(1−299、KD)を製造した。
なお、pETCaMKIδ(1−299、KD)の調製に使用したプライマーは、以下の通りである。なお、下線部が変異個所であり、54番目のリジンがアラニンに置換されている。
センスプライマー:5'−GCATGCATCCCTAAAAAAGCTCTGAAG−3'(配列番号9) 、
アンチセンスプライマー:5'−CACAGCGTACATCTTTCCCGTGG−3(配列番号10) '
センスプライマー:5'−GCATGCATCCCTAAAAAAGCTCTGAAG−3'(配列番号9) 、
アンチセンスプライマー:5'−CACAGCGTACATCTTTCCCGTGG−3(配列番号10) '
(実施例11−4)
実施例1により、大腸菌培養により製造したzCaMKIδ(1−299)350μgに、50μgのλホスファターゼ(λPPase)を添加し、温度30℃で30分反応させた。次いで、λPPase処理したサンプルをBuffer(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05% Tween40)で平衡化しておいたStrep−Tactin Sepharose(iBA)100μlに加え、4℃で2時間反応させ、N末端にストレプタクチンタグが、C末端にHisタグを付加した。7,500×gで10秒遠心し、上清を除去したのち、Sepharoseを上記のbuffer 1mlで5回洗浄した。次に溶出buffer(100mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、1mM EDTA、2.5mM desthiobiotin)を200μl加え10分間静置し、タンパクを溶出した。7,500×gで10秒遠心し、上清を回収したのち、Buffer(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05% Tween40、1mM 2−メルカプトエタノール)で透析を行った。さらに、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに100ngのウシ由来MBPおよび20ngのzCaMKIδ(1−299)を添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。また、ホスファターゼ処理しないzCaMKIδ(1−299)を用いて同様に処理した。更に、ウエスタンブロッティングを行い、N末端にストレプタクチンタグを、C末端にHisタグを付加したzCaMKIδ(1−299)を検出した。結果を図13(D)に示す。なお、299−Str/Hisは、N末端にストレプタクチンタグを、C末端にHisタグを付加したzCaMKIδ(1−299)を意味する。図13(D)に示すように、zCaMKIδ(1−299)はホスファターゼ処理によってMBPリン酸化能が消失した。これにより、zCaMKIδ(1−299)は、大腸菌培養のいずれかの工程で、リン酸化され、これにより基質タンパク質へのリン酸化能を獲得したことが示唆された。
実施例1により、大腸菌培養により製造したzCaMKIδ(1−299)350μgに、50μgのλホスファターゼ(λPPase)を添加し、温度30℃で30分反応させた。次いで、λPPase処理したサンプルをBuffer(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05% Tween40)で平衡化しておいたStrep−Tactin Sepharose(iBA)100μlに加え、4℃で2時間反応させ、N末端にストレプタクチンタグが、C末端にHisタグを付加した。7,500×gで10秒遠心し、上清を除去したのち、Sepharoseを上記のbuffer 1mlで5回洗浄した。次に溶出buffer(100mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、1mM EDTA、2.5mM desthiobiotin)を200μl加え10分間静置し、タンパクを溶出した。7,500×gで10秒遠心し、上清を回収したのち、Buffer(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05% Tween40、1mM 2−メルカプトエタノール)で透析を行った。さらに、0.1mM[γ−32P]ATPを含むリン酸化反応液10μlに100ngのウシ由来MBPおよび20ngのzCaMKIδ(1−299)を添加し、温度30℃で30分反応させてMBPをリン酸化した。反応液10μlをSDS−PAGEに供し、オートラジオグラフィーにより検出した。また、ホスファターゼ処理しないzCaMKIδ(1−299)を用いて同様に処理した。更に、ウエスタンブロッティングを行い、N末端にストレプタクチンタグを、C末端にHisタグを付加したzCaMKIδ(1−299)を検出した。結果を図13(D)に示す。なお、299−Str/Hisは、N末端にストレプタクチンタグを、C末端にHisタグを付加したzCaMKIδ(1−299)を意味する。図13(D)に示すように、zCaMKIδ(1−299)はホスファターゼ処理によってMBPリン酸化能が消失した。これにより、zCaMKIδ(1−299)は、大腸菌培養のいずれかの工程で、リン酸化され、これにより基質タンパク質へのリン酸化能を獲得したことが示唆された。
(実施例12)
実施例1および実施例2で得た2.5μgのzCaMKIδ(1-299)とrCaMKIα(1−294)とを、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、125ngのCaMKKおよび0.1mMのATPを含むリン酸化反応液中(最終液量10μl)で温度30℃で30分反応させて、zCaMKIδ(1-299)とrCaMKIα(1−294)をリン酸化した。次いで、各リン酸化物をCaMKKによる活性化ループ内のThrのリン酸化を検出できる抗リン酸化CaMKI抗体(Santa Cruz製、商品名「p-CaMKI Antibody (Thr 177))にウエスタンブロッティングおよびCBBで検出した。結果を図14に示す。
実施例1および実施例2で得た2.5μgのzCaMKIδ(1-299)とrCaMKIα(1−294)とを、0.5mMのCaCl2、1μMのカルモジュリン、125ngのCaMKKおよび0.1mMのATPを含むリン酸化反応液中(最終液量10μl)で温度30℃で30分反応させて、zCaMKIδ(1-299)とrCaMKIα(1−294)をリン酸化した。次いで、各リン酸化物をCaMKKによる活性化ループ内のThrのリン酸化を検出できる抗リン酸化CaMKI抗体(Santa Cruz製、商品名「p-CaMKI Antibody (Thr 177))にウエスタンブロッティングおよびCBBで検出した。結果を図14に示す。
図14に示すように、zCaMKIδ(1−299)とrCaMKIα(1−294)は、活性化ループ内のThrがCaMKKによってリン酸化されていた。また、CaMKKによるリン酸化は、CBB染色の結果においてバンドのシフトアップとして検出された。このことは、大腸菌の培養によって調製されたzCaMKIδ(1−299)やrCaMKIα(1−294)の活性化ループ内のThrは培養工程においてリン酸化を受けていないことを意味する。図13(D)の結果に示すように、ホスファターゼ処理によってzCaMKIδ(1−299)のMBPに対するリン酸化能が消失していることを勘案すると、zCaMKIδ(1−299)は大腸菌の培養工程において、CaMKKによるリン酸化以外のアミノ酸がリン酸化されていることが示唆された。
(比較例1)
実施例1においてzCaMKIδ(1−299)を調製したのに準じ、以下に記載する方法でzCaMKIδ(WT)のN末端からアミノ酸第327までのポリペプチド(以下、zCaMKIδ(1−327)と称する。)を調製した。実施例5と同様に操作して、Ca2+/CaMおよびCaMKKの有無によるMBPに対するリン酸化能を評価した。また、zCaMKIδ(WT)およびzCaMKIδ(1−299)についても同様に操作した。結果を図15に示す。zCaMKIδ(1−327)は、自己阻害領域およびカルモジュリン結合ドメインを有する。zCaMKIδ(1−299)は、Ca2+/CaM、CaMKK非存在下でも基質(MBP)をリン酸化したが、zCaMKIδ(1−327)はCaMKK非存在下では基質(MBP)に対するリン酸化活性がなかった。少なくとも、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iの一次構造を示すポリペプチドのC末端側のカルモジュリン結合ドメインを欠損することが、基質に対するリン酸化能の発現に必須であることが判明した。
実施例1においてzCaMKIδ(1−299)を調製したのに準じ、以下に記載する方法でzCaMKIδ(WT)のN末端からアミノ酸第327までのポリペプチド(以下、zCaMKIδ(1−327)と称する。)を調製した。実施例5と同様に操作して、Ca2+/CaMおよびCaMKKの有無によるMBPに対するリン酸化能を評価した。また、zCaMKIδ(WT)およびzCaMKIδ(1−299)についても同様に操作した。結果を図15に示す。zCaMKIδ(1−327)は、自己阻害領域およびカルモジュリン結合ドメインを有する。zCaMKIδ(1−299)は、Ca2+/CaM、CaMKK非存在下でも基質(MBP)をリン酸化したが、zCaMKIδ(1−327)はCaMKK非存在下では基質(MBP)に対するリン酸化活性がなかった。少なくとも、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iの一次構造を示すポリペプチドのC末端側のカルモジュリン結合ドメインを欠損することが、基質に対するリン酸化能の発現に必須であることが判明した。
zCaMKIδ(1−327)の調製は以下によった。
pETzCaMKIδ(WT)を鋳型にしてPCRを行った。PCRにはタカラバイオ社製のPrimeSTAR DNA polymeraseを用い、プログラムは96℃、2分(96℃10秒、60℃10秒、72℃90秒)×30、72℃7分で増幅した。増幅産物を電気泳動後、ゲルから精製し(フナコシ社製Gene Clean III kitを使用)、NheIおよびXhoIで消化した。引き続き、pET23a(Novagen社製)のNheI/XhoI siteに組み込んで発現ベクターpETzCaMKIδ(1−327)を構築した。なお、pETzCaMKIδ(1−327)の調製に使用したプライマーは、以下の通りである。センスプライマーの下線部はNheIサイトを示し、アンチセンスプライマーの下線部はXhoIサイトを示す。
センスプライマー:5'-AAAGCTAGCATGGCTCGGGAGAACGGAGA−3'(配列番号11) 、
アンチセンスプライマー:5'−TTTCTCGAGGCCCAACTGCAGTCTCCTCATG−3'(配列番号12)
pETzCaMKIδ(WT)を鋳型にしてPCRを行った。PCRにはタカラバイオ社製のPrimeSTAR DNA polymeraseを用い、プログラムは96℃、2分(96℃10秒、60℃10秒、72℃90秒)×30、72℃7分で増幅した。増幅産物を電気泳動後、ゲルから精製し(フナコシ社製Gene Clean III kitを使用)、NheIおよびXhoIで消化した。引き続き、pET23a(Novagen社製)のNheI/XhoI siteに組み込んで発現ベクターpETzCaMKIδ(1−327)を構築した。なお、pETzCaMKIδ(1−327)の調製に使用したプライマーは、以下の通りである。センスプライマーの下線部はNheIサイトを示し、アンチセンスプライマーの下線部はXhoIサイトを示す。
センスプライマー:5'-AAAGCTAGCATGGCTCGGGAGAACGGAGA−3'(配列番号11) 、
アンチセンスプライマー:5'−TTTCTCGAGGCCCAACTGCAGTCTCCTCATG−3'(配列番号12)
(結果)
実施例から、本発明のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドは、リン酸化酵素Iと同様の基質特異性を発揮し、CREB(cyclic AMP-responsive element-binding protein)やMLC(myosin light chain)、ヒストン、ゼブラフィッシュ胚抽出液などをリン酸化することができた。一方、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iと相違して、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的にリン酸化能を発揮できた。カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドは、大腸菌発現系で製造でき、しかも可溶性画分に多量に発現するため、精製が容易である。リン酸化活性が高く、かつ耐熱性にも優れ、in vitro実験系における良好なリン酸化試薬としての利用が期待できる。
実施例から、本発明のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドは、リン酸化酵素Iと同様の基質特異性を発揮し、CREB(cyclic AMP-responsive element-binding protein)やMLC(myosin light chain)、ヒストン、ゼブラフィッシュ胚抽出液などをリン酸化することができた。一方、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iと相違して、カルモジュリンおよびCaMKK非依存的にリン酸化能を発揮できた。カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドは、大腸菌発現系で製造でき、しかも可溶性画分に多量に発現するため、精製が容易である。リン酸化活性が高く、かつ耐熱性にも優れ、in vitro実験系における良好なリン酸化試薬としての利用が期待できる。
Claims (10)
- カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iの一次構造を示すポリペプチドのC末端側が欠損してなるカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドであって、
前記欠損が、少なくともカルモジュリン結合ドメインを含み、かつ
前記ポリペプチドを構成するアミノ酸の1以上がリン酸化されていることを特徴とする、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチド。 - 前記カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iが、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素Iδであることを特徴とする、請求項1記載のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチド。
- 前記リン酸化されているアミノ酸が、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素キナーゼによってリン酸化されるアミノ酸と異なるアミノ酸であることを特徴とする、請求項1または2記載のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチド。
- カルモジュリンおよびカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素キナーゼ非依存的にキナーゼ活性を示すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチド。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドを含む、リン酸化剤。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドをコードするDNA。
- 請求項6記載のDNAを発現可能に含む、発現ベクター。
- 請求項7に記載の発現ベクターを大腸菌に導入してなる形質転換体。
- 請求項8に記載の形質転換体を培地中で培養する工程、
培養液の宿主を破砕処理し、可溶性画分を回収する工程、
を有するカルモジュリンおよびカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素キナーゼ非依存的にキナーゼ活性を有するカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドの製造方法。 - 前記培養は、温度18〜37℃で6〜24時間で行うことを特徴とする、請求項9記載のカルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素I由来ポリペプチドの製造方法。
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