以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(本発明者らによる検討について)
本発明の実施形態に係る特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法(以下、単に、「濃度測定方法」ともいう。)について説明するに先立ち、本発明の実施形態に係る濃度測定方法を完成するまでに行った本発明者らによる検討の内容について、簡単に説明する。
先だって言及したように、蛍光光度法を含む光学的な計測法では、SSの影響を強く受ける。そのため、測定に先立って、被測定水の中に含まれるSSを除去することが好ましい。このようなSSを除去するための固液分離方法としては、一般的に、凝集剤と重力沈降との併用、膜分離、サイクロンによる方法等が知られている。
凝集剤添加による方法は、凝集剤によりフロックを形成した後に、一般的には重力沈降槽によって、固液分離を行う。しかしながら、重力沈降槽では、フロックの自然沈降に依存していることから数十分から数時間の滞留時間が必要となるため、サンプリングした水中の特定化学物質等の濃度測定結果に基づいて当該水の処理を行うまでの間に、大きなタイムラグが生じることになる。
更に、重力沈降槽による固液分離では、微細なSSが十分に除去されない。SS濃度としての、粒子径1μm程度以上のSS粒子が少ない場合であっても、粒子径1μm程度以下の微細なSSが濁度として残る場合がある。これは、一般的にストークスの式では沈降速度が粒子径の二乗に比例するとされており、SSが微細になるほど重力沈降槽の滞留時間で沈降しきれないためである。このような微細SSは、蛍光測定等の光学的分析において、励起光及び蛍光の妨害や、散乱光の発生など、その測定に影響を与える。
また、凝集剤に関して、無機凝集剤は吸光特性があるため、蛍光分析においては、特定化学物質又は特定排水の励起光及び/又は蛍光を吸収する可能性がある。
また、膜分離による方法では、微細なSSは膜の孔径により容易に固液分離されるが、膜閉塞の問題がある。膜閉塞は、薬品などを用いた逆洗浄により一時的に膜フラックスが回復されるが、徐々に膜閉塞しやすくなるため、最終的には交換せざるを得なくなる。また、膜は高価であるため、実用面から有用ではない。
一方、サイクロンによる方法では、水流で遠心力を発生させるため流量が大きく、サイクロン容器自体が小さいことから、重力沈降槽と比較して滞留時間が飛躍的に短い。このことから、蛍光を用いた連続測定ではタイムラグが大きく軽減できる。
しかしながら、サイクロンでは遠心力を用いて固液分離を行っているため、比重の小さいSSは除去されない。このようなSSは微細であることが多く、水中に浮遊しており、濁度として残る傾向があることから、蛍光を用いた特定化学物質又は特定排水の測定に影響を与えてしまう。
なお、上記の特許文献2では、被測定水を希釈することによりSS濃度の影響を軽減すること等を目的とした技術が開示されている。しかしながら、上記特許文献2に開示された方法によりSSの影響を軽減できるものの、SSが被測定水から十分に除去されるわけではないことから、蛍光強度が小さい特定化学物質又は特定排水では、SSの影響を大きく受ける可能性がある。
また、上記特許文献1では、処理水中の内分泌攪乱ならびに/または毒性および/もしくは遺伝毒性作用を有する化合物の存在を、除去するまたは極めて少なく減少させることを可能にする、水を処理する方法について記載されており、生存生物の少なくとも1種の特性値を連続的に評価する評価ステップにおいて蛍光を用いることが記載されている。しかしながら、エストロゲン濃度と、内分泌攪乱及び/又は毒性及び/又は遺伝毒性汚染物質と接触すると蛍光を発するように遺伝子組換えした水生生物蛍光強度、との関係性が示されているのみであって、水生生物が蛍光を発するのに要する時間が記載されておらず、更に、どのような機構で蛍光を検出するかについて具体的な記載がされていない。
更に、上記特許文献1には、吸着ステップ後に凝集剤として塩化(第二)鉄FeCl3を用いることが記載されている。しかしながら、非特許文献4にはFe3+が蛍光消光作用を持つことが明記されていることから、上記特許文献1に記載の方法では、処理すべき水の性状によってはFe3+が残存する可能性もあり、実際には蛍光測定ができない可能性が考えられる。加えて、上記特許文献1ではサイクロンに関する記載はあるものの、上記特許文献1においてサイクロンは、凝集剤を添加した水からSSを除去するのではなく、汚泥から微細砂などのバラスト材料を分離するために用いられている。
以上のことから、SSを多く含む水では、安定的かつ連続的に蛍光を測定することは困難であり、浮遊性固形物を多く含有する被測定水であっても、蛍光光度法を用いて安定的かつ連続的に特定化学物質又は特定排水の濃度を測定することが可能な特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法が希求されていた。
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、被測定水に対して、両性有機系凝集剤を添加して固液分離の前処理をしたうえで、蛍光光度法を用いて迅速かつ安定的に特定化学物質又は特定排水を濃度測定する方法を完成するに至った。以下に、上記知見に基づき完成された本発明に係る特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法について、詳細に説明する。
(蛍光スペクトル測定装置の構成について)
続いて、本実施形態に係る濃度測定方法で用いられる蛍光スペクトル測定装置の構成について、図1〜図4を参照しながら簡単に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る濃度測定方法で用いられる蛍光スペクトル測定装置の構成の一例を示した説明図である。図2は、本実施形態に係る蛍光スペクトル測定装置における蛍光測定ユニットの構成の一例を模式的に示した説明図である。図3は、本実施形態に係る蛍光スペクトル測定装置における演算処理ユニットの構成の一例を模式的に示したブロック図である。図4は、本実施形態に係る蛍光スペクトル測定装置における演算処理ユニットのハードウェア構成の一例を模式的に示したブロック図である。
本実施形態に係る蛍光スペクトルの測定装置1は、蛍光光度法を用いて、被測定水中に含まれる特定化学物質や特定排水の濃度を測定する装置である。ここで、「特定化学物質」とは、被測定水である排水に混入する化学物質のうち、化合物又は薬剤として特定可能であり、蛍光を発する化合物をいう。また、「特定排水」とは、排水の系列として特定可能であり、蛍光を発する排水をいう。
本実施形態に係る濃度測定方法に用いられる蛍光スペクトル測定装置1は、図1に模式的に示したように、蛍光測定ユニット10と、演算処理ユニット20と、を備える。
蛍光測定ユニット10は、測定対象物に対して所定波長の励起光を照射して、測定対象物からの蛍光を測定するユニットである。蛍光測定ユニット10によって測定された蛍光の強度に関する情報は、演算処理ユニット20に対して出力される。
演算処理ユニット20は、蛍光測定ユニット10から出力された蛍光の強度に関する情報を利用して以下で詳述する演算処理を行い、測定対象物の濃度を算出するユニットである。
以下では、蛍光測定ユニット10及び演算処理ユニット20の詳細な構成について、順を追って説明する。
<蛍光測定ユニット10の構成例>
まず、図2を参照しながら、蛍光測定ユニット10の構成例について簡単に説明する。
キセノンランプやレーザ光源などといった光源101から射出された励起光103は、ビームスプリッタ105へと導光されて、2つの光路へと分岐される。一方の光路を進む励起光103は、モニタ側検知器107へと導光されて、比測光として用いられる。また、もう一方の光路を進む励起光103は、測定対象物である排水等の試料の入った試料セル109へと導光される。
試料セル109にある波長の励起光103が照射されると、試料に含まれる成分に応じた蛍光111が発生し、発生した蛍光111は、光電子倍増管などといった検知器113へと導光される。検知器113によって、試料に含まれる成分に起因して発生した蛍光111の強度(蛍光スペクトル強度)が検知される。
モニタ側検知器107で検知された比測光の強度に関する情報(例えば、検知器から出力される電気信号の大きさに関する情報)や、検知器113で検知された蛍光111の強度に関する情報(例えば、検知器から出力される電気信号の大きさに関する情報)は、演算処理ユニット20へと出力される。
この際、試料中に複数の成分が混在して、同一の励起波長で蛍光を発するとしても、発生する蛍光の波長が互いに相違していれば、最適な蛍光波長を選択することにより、複数の成分を分離して測定することが可能となる。
励起光103の波長は、一般的な汎用の蛍光分光光度計で計測可能な波長範囲、すなわち200nm〜800nm程度までの範囲で、連続的に変更可能である。蛍光111の波長も、一般的な汎用の蛍光分光光度計で計測可能な波長範囲、すなわち200nm〜800nm程度までの範囲で、連続的に測定可能である。測定対象の成分が特定されている場合は、励起光及び/又は蛍光の波長の範囲を、測定対象の成分に応じて狭くすることも可能である。
測定に用いられる励起光103の波長は、後述する演算処理ユニット20に格納されている、特定化学物質又は特定排水の励起波長、蛍光波長及び蛍光強度に関するデータベースに基づいて、演算処理ユニット20により制御される。
蛍光光度法を用いた分析は、ろ紙でろ過した後のろ液試料を試料セルに1〜2mL程度移したうえで、励起光を試料セルに対して照射し、検知された測光値を演算処理ユニット20へと出力されることで開始される。
<演算処理ユニット20の構成例>
次に、図3を参照しながら、演算処理ユニット20の構成例について簡単に説明する。
演算処理ユニット20は、蛍光測定ユニット10に実装された、各種プロセッサ等から構成される演算処理チップとして実現されていてもよいし、蛍光測定ユニット10に接続された各種コンピュータとして実現されていてもよい。
本実施形態に係る演算処理ユニット20は、図3に模式的に示したように、測定制御部201と、データ取得部203と、濃度算出処理部205と、濃度検知部207と、記憶部209と、を主に備える。また、演算処理ユニット20は、結果出力部211と、表示制御部213と、を更に備えることが好ましい。
測定制御部201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。測定制御部201は、後述する記憶部209等に格納されている、特定化学物質又は特定排水の励起波長、蛍光波長及び蛍光強度に関するデータベースに基づいて、蛍光測定ユニット10による蛍光測定処理の制御を行う。また、測定制御部201は、上記データベースに記載されている、着目する特定化学物質又は特定排水の蛍光特性(励起波長、蛍光波長、蛍光強度などの特性)等に関する情報を濃度算出処理部205に出力して、蛍光特性に関する情報を後段の濃度算出処理に利用させる。
データ取得部203は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。データ取得部203は、蛍光測定ユニット10から出力された、水中の特定化学物質又は特定排水からの蛍光111の強度に関する情報(すなわち、蛍光スペクトルに関する情報)を取得する。データ取得部203が取得した蛍光111の強度に関する情報は、後述する濃度算出処理部205に伝送される。
濃度算出処理部205は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。濃度算出処理部205は、試料の蛍光の測定結果に基づいて、特定化学物質又は特定排水の濃度(例えば、成分濃度や混入濃度)を算出する。かかる濃度算出処理には、後述する記憶部209等に格納されている、特定化学物質又は特定排水のピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度と、成分濃度、又は混入濃度と、の相関関係を表わす情報が利用される。
より詳細には、濃度算出処理部205は、測定制御部201から出力された蛍光特性に関する情報等を参照しながら、データ取得部203から出力された蛍光の強度に関する情報の中から着目すべき蛍光スペクトルの波長及びその強度を選定する。その後、濃度算出処理部205は、選定した蛍光波長とその強度を利用し、特定化学物質又は特定排水のピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度と、成分濃度、又は混入濃度と、の相関関係を表わす情報に基づいて、着目している特定化学物質又は特定排水の濃度を算出する。
なお、成分濃度とは、試料に含まれる特定化学物質の濃度をいい、混入濃度とは、試料に含まれる特定排水の濃度をいう。また、蛍光スペクトル強度と、成分濃度、又は混入濃度と、の相関関係を表わす情報の形式については特に限定されるものではなく、蛍光スペクトル強度と、成分濃度、又は混入濃度と、の相関関係を示した検量線を表わす数式のような形式であってもよいし、蛍光スペクトル強度と、成分濃度、又は混入濃度と、の対応関係を示したルックアップテーブルのようなデータベース形式であってもよい。
また、成分濃度や混入濃度だけでなく、特定化学物質又は特定排水の蛍光強度と化学的酸素要求量(より詳細には、溶解性化学的酸素要求量)との相関関係を表わす情報を予め作成しておくことで、濃度算出処理部205は、試料の蛍光の測定結果から、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand:COD)濃度を算出することも可能である。
更に、溶解性COD濃度と全化学的酸素要求量との相関関係を表わす情報を予め作成し、記憶部209等に格納しておくことで、濃度算出処理部205は、算出した溶解性COD濃度から全化学的酸素要求量を算出することも可能である。
濃度算出処理部205は、以上のようにして算出した特定化学物質又は特定排水の濃度等に関する算出結果を、後述する濃度検知部207に伝送する。また、濃度算出処理部205は、得られた算出結果を、後述する結果出力部211に出力して、排水系の制御コンピュータや、排水系の管理者等に向けて出力させるようにしてもよい。更に、濃度算出処理部205は、算出した特定化学物質又は特定排水の濃度等に関する算出結果を、蛍光強度の測定された日時を示す時刻情報等と関連付けて、履歴情報として記憶部209等に記録してもよい。
濃度検知部207は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。濃度検知部207は、濃度算出処理部205によって算出された特定化学物質又は特定排水の濃度等に基づいて、特定化学物質又は特定排水に関する所定の検知レベルを超えたか否かを判断する。かかる判断に用いられる検知レベル(基準値)は、記憶部209等に予め格納しておけばよい。
特定化学物質又は特定排水の濃度等が所定の検知レベルを超えた場合、濃度検知部207は、基準値以上の特定化学物質又は特定排水が検知された旨を示す情報を、後述する結果出力部211に出力する。これにより、特定化学物質又は特定排水の検知結果が、排水系の制御コンピュータや、排水系の管理者等に向けて出力されることとなる。
かかる演算手順は、上記のように非常に簡便であり、試料セルを蛍光スペクトル測定装置1の蛍光測定ユニット10にセットしてから上記のような分析結果が出るまで、数秒〜数分しか要しない。従って、かかる蛍光スペクトル測定装置1を用いることで、水中の特定化学物質又は特定排水の濃度等を迅速かつ連続的に測定することが可能となる。
記憶部209は、例えば本実施形態に係る演算処理ユニット20が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。記憶部209には、本実施形態に係る演算処理ユニット20が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベースや相関関係やプログラム等が、適宜記録される。この記憶部209は、測定制御部201、データ取得部203、濃度算出処理部205、濃度検知部207、結果出力部211、表示制御部213等が、自由にデータのリード/ライト処理を行うことが可能である。
結果出力部211は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置、通信装置等により実現される。結果出力部211は、濃度算出処理部205から出力された濃度算出結果に関する情報や、濃度検知部207から出力された検知結果に関する情報を、後述する表示制御部213に出力する。これにより、上記濃度算出結果や検知結果等に関する情報が、表示部(図示せず。)に出力されることとなる。また、結果出力部211は、得られた検出結果を、排水系の制御を行っている制御コンピュータ等の外部の装置に出力してもよい。これにより、制御コンピュータ等の外部の装置においては、アラームを動作させて、制御コンピュータ等の管理者に対処操作を開始させることが可能となる。
また、結果出力部211は、得られた検出結果を利用して、製品に関する各種の帳票を作成してもよい。また、結果出力部211は、得られた各種情報を、当該情報を算出した日時等に関する時刻情報と関連づけて、記憶部209等に履歴情報として格納してもよい。
表示制御部213は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置、通信装置等により実現される。表示制御部213は、結果出力部211から伝送された、濃度算出結果や検知結果等に関する情報を、蛍光スペクトル測定装置1が備えるディスプレイ等の出力装置や蛍光スペクトル測定装置1の外部に設けられた出力装置等に表示する際の表示制御を行う。これにより、蛍光スペクトル測定装置1の利用者は、濃度算出結果や検知結果等といった各種結果を、その場で把握することが可能となる。
以上、本実施形態に係る演算処理ユニット20の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理ユニットの各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
[ハードウェア構成について]
次に、図4を参照しながら、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット20のハードウェア構成について、詳細に説明する。図4は、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット20のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
演算処理ユニット20は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理ユニット20は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、又は、リムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理ユニット20内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理ユニット20の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。更に、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。演算処理ユニット20のユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理ユニット20に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置及びランプなどの表示装置や、スピーカ及びヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理ユニット20が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理ユニット20が行った各種処理により得られた結果を、テキスト又はイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
ストレージ装置913は、演算処理ユニット20の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は、光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、及び、外部から取得した各種のデータなどを格納する。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理ユニット20に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は、半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は、半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、又は、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を演算処理ユニット20に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理ユニット20は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又は、WUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、又は、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、社内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信又は衛星通信等であってもよい。
以上、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット20の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
以上、本実施形態に係る濃度測定方法で用いられる蛍光スペクトル測定装置1の構成について、簡単に説明した。
(濃度測定方法について)
続いて、本実施形態に係る濃度測定方法について、詳細に説明する。
本実施形態に係る濃度測定方法は、被測定水を連続的にサンプリングして得られた試料に、凝集剤を添加する凝集剤添加工程と、試料中に含まれる凝集されたSSを分離する固液分離工程を経た後、特定化学物質又は特定排水に特有の蛍光を用いて、水中に混入している前記特定化学物質又は特定排水の濃度測定する方法である。
ここで、着目する特定化学物質又は特定排水は、特定の励起光に応じて特有の蛍光を発生するものであれば特に限定するものではないが、特定化学物質又は特定排水として、以下のようなものを挙げることができる。
特定化学物質としては、例えば、フェノールスルホン酸(PSA)や、水グリコール系作動油のような各種の難燃性作動油又は水溶性切削油や、界面活性剤等を挙げることができる。また、特定排水としては、上記のような特定化学物質を含む排水として圧延排水、冷延排水、めっき排水などを挙げることができる。
本実施形態に係る濃度測定方法における、濃度測定を行う試料のサンプリング間隔は、例えば、秒毎であっても、日毎であっても構わない。更に、その時間間隔は必ずしも一定である必要は無い。本実施形態に係る濃度測定方法における試料のサンプリング間隔は、濃度の変動具合や監視の必要程度に応じて選定する。
本実施形態に係る濃度測定方法では、実際の測定操作に先立って、対象とする特定化学物質又は特定排水の蛍光スペクトルが予め測定されて、特定化学物質又は特定排水に特徴的な励起波長、蛍光波長及び蛍光スペクトル強度がデータベース化されているものとする。また、対象とする水を希釈して作成した、特定化学物質の成分濃度、特定排水の混入濃度、又は、溶解性COD濃度を変えた水溶液(濃度や溶解性COD濃度が既知の希釈済水)について、励起波長及び蛍光波長における蛍光スペクトル強度を測定し、特定化学物質の成分濃度、特定排水の混入濃度、又は、溶解性COD濃度と、励起波長及び蛍光波長における蛍光スペクトル強度と、の相関関係を表わす情報(例えば、検量線など)が予め作成されているものとする。これらデータベースや相関関係を表わす情報は、蛍光スペクトル測定装置1が有する演算処理ユニット20(例えば、記憶部209等)に、予め格納されているものとする。
<蛍光スペクトル測定に際して>
ここで、先だって説明したように、蛍光光度法における蛍光スペクトル強度は、蛍光性成分の周囲の性質(試料のpH、共存塩、SS等)により影響を受ける可能性がある。そのため、例えば検知に供する試料のpH等を一定範囲に調整するなどといった測定前処理を行うことが好ましい。
ここで、測定は光学的な原理に基づくため、試料の濁度やSSは、先だって説明したような理由から、測定に先立って低減させる。また、蛍光測定ユニット10の検知器113が接液型の検知器である場合には、試料中に含まれるSSが検知器に汚れとして付着し、測定自体が困難になる可能性が高くなる。このような理由からも、蛍光スペクトルの測定に先立って、試料のSS濃度を低減させる。
更に、蛍光光度法においては、試料中の成分の濃度が高まると蛍光が弱められるという、消光作用(quenching)が発生しうる。この消光作用は、水中に存在する分子同士の衝突や異種又は同種の励起−未励起分子間の非衝突エネルギー移動により生じると考えられている。蛍光光度法では測定対象物の低濃度の混入を高感度で検知することが可能であるが、測定対象物が高濃度で混入した場合には、この消光作用のため、低濃度の混入であると誤判断し、正しく検知できなくなる可能性がある。この場合、例えば上記特許文献2にあるような希釈測定を行うことで、この消光作用を軽減することができる。これを用いて、例えば、希釈無しで測定した時の蛍光強度値と、希釈有りで測定した時の蛍光強度値を比較し、その差が希釈倍率相当であれば、上記の消光作用が無いと判断することができる。
以下で説明する本実施形態に係る濃度測定方法では、以上説明したような注意点に留意しつつ、以下のような流れで処理が実施される。
<濃度測定方法の流れについて>
以下では、図5を参照しながら、本実施形態に係る濃度測定方法の流れの一例を、詳細に説明する。図5は、本実施形態に係る濃度測定方法の流れの一例を模式的に示した説明図である。
特定化学物質又は特定排水を含む被測定水は、所定の排水経路を通って、所定の排水処理がなされつつ、排水口から排出されているものとする。本実施形態に係る濃度測定方法では、排水経路から分岐された流路を通して上記被測定水をサンプリングして、以下で詳述するような凝集剤添加工程(ステップS103)、固液分離工程(ステップS105)、測定工程(ステップS107)、濃度算出工程(ステップS109)、検知工程(ステップS111)及び対処工程(ステップS113)が施される。
凝集剤添加工程S103は、試料に凝集剤を添加することで、水中のSSを荷電中和作用及び/又は架橋作用により凝集させて、SSの沈降性を向上させる工程である。なお、本明細書において、単に「凝集剤」と言う場合には、無機系凝集剤、有機系凝集剤を包含するものとする。これら凝集剤について、具体的な例としては、下記の物質を挙げることができる。
上記のような無機系凝集剤としては、例えば、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、塩化アルミニウム、アンモニウムミョウバン、カリウムミョウバン、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、塩化コッパラス(塩化第二鉄と硫酸第二鉄の混合物)、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化第二鉄、消石灰、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。
上記の有機系凝集剤は、高分子凝集剤とも言われ、分子量が数百万〜千数百万程度の高分子(ポリマー)であり、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性などに大別される。かかる高分子凝集剤は、良好な凝集状態、かつ、添加量が低減できるとの観点から、1N−NaNO3水溶液中30℃で測定した固有粘度(dl/g)は、好ましくは5〜40であり、より好ましくは10〜30であり、特に好ましくは12〜25である。
ここで、上記のアニオン性高分子凝集剤とは、分子内にアニオン性基を有する高分子凝集剤(すなわち、水に溶解した際にアニオン性を示す高分子凝集剤)であり、カチオン性高分子凝集剤とは、分子内にカチオン性基を有する高分子凝集剤(すなわち、水に溶解した際にカチオン性を示す高分子凝集剤)である。また、両性高分子凝集剤とは、分子内にカチオン性基及びアニオン性基を有する高分子凝集剤(すなわち、水に溶解した際にカチオン性及びアニオン性の双方を示す高分子凝集剤)である。
上記アニオン性高分子凝集剤の具体例としては、ポリ(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸塩共重合体、(メタ)アクリルアミド/2−(メタ)アクリロイルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸塩共重合体、(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸塩/2−(メタ)アクリロイルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸塩共重合体、(メタ)アクリルアミド/2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸塩共重合体、(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸塩/2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸塩共重合体、(メタ)アクリルアミド/2−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸塩共重合体、(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸塩/2−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸塩共重合体、(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸塩/2−(メタ)アクリロイルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸塩/2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸塩/2−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸塩共重合体等が挙げられる。
また、上記カチオン性高分子凝集剤の具体例としては、アミノアルキル[炭素数(以下、「C」と略記する。)1〜4](メタ)アクリレート(共)重合体[例えば、ポリN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリルアミド共重合体]、アミノアルキル(C1〜4)(メタ)アクリルアミド(共)重合体[例えば、ポリN,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリルアミド共重合体]、ポリアミジン(例えば、特開平05−192513号公報などに記載の方法によって得られるもの)、キトサン、及びこれらの塩[例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、メチルクロライド塩、ジメチル硫酸塩及びベンジルクロライド塩等]が挙げられる。
また、上記両性高分子凝集剤の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸(塩)及びアミノアルキル(C1〜4)(メタ)アクリレート塩からなる共重合体[例えば、(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸(塩)/N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート・メチルクロライド4級化物共重合体、(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸(塩)/N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート・メチルクロライド4級化物/N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルクロライド4級化物共重合体]等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸塩及びアミノアルキル(C1〜4)(メタ)アクリレート塩としては、それぞれ上記アニオン性高分子凝集剤で例示したもの等が挙げられる。
また、上記ノニオン性高分子凝集剤としては、水溶性ポリマーのうち、例えば、セルロース系化合物(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びこれらのケン化物)、ゼラチン、デンプン、デキストリン、アラビアゴム、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリカルボン酸塩[例えば、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体の水酸化ナトリウム(部分)中和物]、水溶性ポリウレタン(例えば、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンジオールなどとポリイソシアネートとの反応生成物)以外の物(例えばポリアクリルアミドなど)が挙げられる。
無機系凝集剤は、荷電中和によりSSを凝縮させ、有機系凝集剤は、架橋作用によりSSを凝集させると言われている。SSを高効率に除去するために荷電中和及び架橋作用を同時に活用するべく、一般的には、無機系凝集剤と有機系凝集剤とが併用されることが多い。
また、有機系凝集剤には、近年開発されている有機凝結剤も含まれる。この有機凝結剤は、分子量の比較的小さな高分子であり、アニオン性、カチオン性、両性などが知られている。かかる有機凝結剤は、1N−NaNO3水溶液中30℃で測定した固有粘度(dl/g)が0.1〜3のものであり、懸濁粒子の表面電荷を中和する作用の観点から好ましいのは、水中でイオン性(アニオン性及び/又はカチオン性)を示すものである。ここで、アニオン性有機凝結剤とは、分子内にアニオン性基を有する有機凝結剤(すなわち、水に溶解した際にアニオン性を示す有機凝結剤)であり、カチオン性有機凝結剤とは、分子内にカチオン性基を有する有機凝結剤(すなわち、水に溶解した際にカチオン性を示す有機凝結剤)である。また、両性有機凝結剤とは、分子内にカチオン性基及びアニオン性基を有する有機凝結剤(すなわち、水に溶解した際にカチオン性及びアニオン性の双方を示す有機凝結剤)である。
上記アニオン性有機凝結剤としては、ポリスルホン酸系有機凝結剤[例えば、ポリスチレンスルホン酸(塩)、ナフタレンスルホン酸(塩)・ホルマリン重縮合物、アルキル(C1〜6)ナフタレンスルホン酸(塩)・ホルマリン重縮合物]や、その他のポリアニオン系有機凝結剤[例えば、上記アニオン性高分子凝集剤で例示したものと同様な組成で、かつ、1N−NaNO3水溶液中30℃で測定した固有粘度(dl/g)が0.1〜3のもの]、などが挙げられる。
また、上記カチオン性有機凝結剤としては、ジシアン系有機凝結剤[例えば、ジシアンジアミド・ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミド・ジアルキレン(C1〜4)ポリアミン重縮合物]、アリルアミン系有機凝結剤[例えば、(ジ)アリルアミン(塩)重合物(ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド等)、ジアリルアミン(塩)・SO2共重合物、ジアルキル(C1〜4)アリルアミン(塩)重合物、ジアルキル(C1〜4)アリルアミン(塩)・SO2共重合物、アルキル(C1〜4)ジアリルアミン(塩)重合物、アルキル(C1〜4)ジアリルアミン(塩)・SO2共重合物]、ポリアルキレン(C1〜6)ポリアミン系有機凝結剤[例えば、ポリエチレンイミン(塩)、テトラエチレンペンタミン(塩)、エチレンジクロライド・アンモニア縮合物、プロピレンジクロライド・アンモニア縮合物、エチレンジクロライド・ジメチルアミン縮合物、プロピレンジクロライド・ジブチルアミン縮合物、エチレンジクロライド・アニリン縮合物、エピクロルヒドリン・アンモニア縮合物、エピクロルヒドリン・ジアルキル(C1〜4)アミン縮合物、エピクロルヒドリン・ジフェニルアミン縮合物、テトラヒドロフルフリルクロライド・ジアルキル(C1〜4)アミン縮合物、アリルアミン付加重合物]や、その他のポリカチオン系有機凝結剤[例えば、アニリン−ホルマリン重縮合物塩酸塩、ポリビニルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ポリビニルイミダゾリン(塩)、前述したカチオン性高分子凝集剤で例示したものと同様な組成で、かつ、1N−NaNO3水溶液中30℃で測定した固有粘度(dl/g)が0.1〜3のもの]など、及びこれらの塩[例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、メチルクロライド塩、ジメチル硫酸塩およびベンジルクロライド塩など]が挙げられる。
また、上記両性有機凝結剤としては、例えば、(メタ)アリルアミン又はジ(メタ)アリルアミン・マレイン酸共重合体、(メタ)アリルアミン又はジ(メタ)アリルアミン・シトラコン酸共重合体、(メタ)アリルアミン又はジ(メタ)アリルアミン・イタコン酸、(メタ)アリルアミン又はジ(メタ)アリルアミン・フマル酸共重合体、前述した両性高分子凝集剤で例示したものと同様な組成で、かつ、1N−NaNO3水溶液中30℃で測定した固有粘度(dl/g)が0.1〜3のものなどが挙げられる。
以下の実施例2において詳述するように、無機系凝集剤(ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄)を用いた場合には、特定化学物質又は特定排水の蛍光強度が低下してしまった。その一方で、両性の有機系凝集剤(KEC−994(商品名:日鉄環境エンジニアリング(株)製))を用いた場合には、特定化学物質又は特定排水の測定を良好に行うことができた。これらの結果から、本実施形態に係る凝集剤添加工程では、両性有機系凝集剤を用いる。特に、無機系凝集剤に含まれるFe3+は、非特許文献4などにおいて蛍光消光作用が言及されており、SSは一定量除去できたとしても、凝集剤自体が蛍光消光作用を示す可能性がある。一方、両性の有機系凝集剤の作用メカニズムについては、例えば非特許情報5において、懸濁粒子の中和効果(カチオン)と高分子鎖により絡まり合い(高分子量体)、更にその絡まり合いをアニオンとカチオンの電荷による静電引力(カチオンとアニオン)により補強できるという特長があると記載されている。すなわち、両性の有機系凝集剤では、カチオン性、アニオン性の有機系凝集剤をそれぞれ単独で使用する場合と比較して、静電引力が作用することにより、より良好な凝集効果を得ることができる。中でも、本発明に用いる両性有機系凝集剤としては、アクリルアミド・アクリル酸エステル共重合体であるものが好ましい。一般に、有機系凝集剤は粉末状のものが多く、実際に使用する際は水に溶解させる必要があり、溶解が不十分であると懸濁粒子の凝集が十分に進まない可能性がある。アクリルアミド・アクリル酸エステル共重合体は、液状で易溶解性であるため、水への溶解が進まないことで懸濁粒子の凝集性が不十分になる可能性が小さい。
また、本実施形態に係る凝集剤添加工程(ステップS103)では、被測定水と上記のような凝集剤とを、撹拌などにより混合させる。凝集剤添加量や、撹拌強度や、撹拌時間などにより、SSの凝集状態が変化することが知られている。例えば凝集剤添加量は、SSの荷電中和に関係しており、添加量が少なすぎるとゼータ電位はマイナスになり、添加量が多すぎるとゼータ電位がプラスになって、ファンデルワールス力が発生し、凝集性が低下してしまう。そのため、ゼータ電位がゼロになる等電点が、最適凝集剤添加量となる。従って、例えば実験室においてジャーテスト等により最適凝集条件を予め決めてから、現場で凝集剤を使用することが好ましい。
また、凝集剤の荷電中和においては、表面電荷(ゼータ電位)がpHに依存することが知られており、多くは酸性でゼータ電位はプラスになり、アルカリ性でゼータ電位はマイナスになる。そのため、ゼータ電位がゼロになる等電点が、最もSS除去性が高くなる最適pHとなる。従って、本実施形態に係る凝集剤添加工程では、最適pHになるようpH調整を行うことが好ましい。
例えば、本実施形態に係る凝集剤添加工程には、サンプリングした水のpHを測定する工程と、測定pHに応じて、凝集に最適なpHとなるように酸、アルカリ等を添加する工程と、を含めることが好ましい。pH調整に用いられる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸等を挙げることができる。また、pH調整に用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムの溶液等を挙げることができる。
固液分離工程S105では、凝集剤添加工程S103で凝集剤が添加された被測定水を、固液分離する。被測定水に含まれていたSSは凝集剤の作用により凝集し、比重が大きくなる。固液分離方法は、上記のように重力沈降、膜分離、サイクロンなどが挙げられる。本実施形態では、いずれの固液分離方法を用いても良いが、より迅速かつ安定的に固液分離を行うためには、サイクロンを用いることが好ましい。重力沈降では、粒子の沈降速度に応じた滞留時間が必要となり、蛍光測定を連続的に行うには一定のタイムラグが発生する。膜分離では、迅速ではあるが膜閉塞の問題があるため、一定流量を連続的に固液分離するには高頻度のメンテナンスが必要となる。特に、サイクロンによる固液分離で課題であった微細SSの残存については、凝集剤を併用することにより微細SSが凝集し、粒子が粗大化するとともに比重等が大きくなることから、遠心力が大きく働くことになり、顕著なSS除去効果を得ることができる。
サイクロンとしては、例えばインダストリア社KS−15(流量範囲8〜15L/分、材質SUS304)等を用いることができる。サイクロンの選定にあたっては、所望のSS除去性を得るために必要な流量が得られるような機種を選定することが好ましい。また、サイクロンは複数としても良く、特に後段により小型のサイクロンを備えることで、同じ流量であっても半径が小さくなる分、遠心力が強くかかるため、より微細なSSを除去することができる。
固液分離工程S105を経てSSが除去された試料は、図1〜図4を参照しながら説明したような蛍光スペクトル測定装置1を用いて、一連の測定処理が行われる。蛍光スペクトル測定装置1を用いた処理は、図5に示したように、測定工程S107、濃度算出工程S109及び検知工程S111から構成される。
測定工程S107では、蛍光スペクトル測定装置1の記憶部209等に格納されたデータベースを参照し、データベースに記載されている蛍光特性に基づいて、着目している排水系において管理したい特定化学物質又は特定排水に特有の蛍光スペクトルを選定する。その上で、蛍光スペクトル測定装置1により選定した蛍光スペクトル強度を測定して、対象とする特定化学物質又は特定排水の蛍光スペクトルのピーク位置における蛍光スペクトル強度を得る。また、既に蛍光スペクトルの測定された試料は、所定の流路を経由して、もとの排水系へと連続的に再流入する。
また、濃度算出工程S109では、測定工程S107で得られた蛍光スペクトル強度と、蛍光スペクトル測定装置1の記憶部209等に格納された相関関係を表わす情報(例えば、検量線など)と、に基づいて、水中の特定化学物質又は特定排水における、成分濃度、混入濃度、又は、COD濃度などを算出する。また、相関関係を表わす情報として、溶解性化学的酸素要求量(溶解性COD濃度)と全化学的酸素要求量との相関関係が予め作成されている場合には、溶解性化学的酸素要求量から全化学的酸素要求量を算出することも可能である。
検知工程S111では、濃度算出工程S109で得られた、対象とする水の各種濃度を基に、所定の検知レベル(基準値)を超えたかが判定される。所定の検知レベルを超えたと判断された場合、蛍光スペクトル測定装置1は、排水系を管理するコンピュータ等にその旨を示す情報を出力する。その結果、排水系を管理するコンピュータ等は、特定化学物質又は特定排水の濃度が基準値を超えた旨を知らせるアラームなどを動作させる。
対処工程S113では、検知工程S111で動作したアラーム等の警告に応じて、流路の遮断等といった措置が、現場の管理者又は管理コンピュータ等によって実施される。
以上、図5を参照しながら、本実施形態に係る濃度測定方法の流れについて、詳細に説明した。
ここで、特定化学物質そのもの、又は、特定化学物質以外の成分が、高い蛍光スペクトル強度を発する場合も考えられる。かかる場合には、例えば測定工程S107の直前など、所定のタイミングにおいて、試料を所定の倍率で希釈する希釈工程を付加してもよい。これにより、特定化学物質そのもの、又は、特定化学物質以外の成分が発する蛍光スペクトル強度を低下させることができ、蛍光光度法に適した強度で蛍光スペクトルを測定することが可能となる。
なお、測定工程S107に先立って希釈工程が実施され、試料が所定の倍率で希釈された場合には、濃度算出工程S109において、希釈倍率を考慮した濃度算出処理が行われることとなる。
以上、図5を参照しながら、本実施形態に係る濃度測定方法について詳細に説明した。
このように、本実施形態に係る濃度測定方法によれば、サイクロンによる固液分離であっても除去しきれないSSについて、固液分離処理の前段において凝集剤を添加することで、微細なSSをフロック化し、サイクロンによる固液分離で除去可能となる。これにより、特定化学物質又は特定排水を蛍光分析法で測定する際に微細なSSの影響を受けることなく、安定的かつ連続的に測定が可能となる。
ここで、上記凝集剤として、蛍光特性が比較的少なく、かつ、凝集作用が高くフロックの粒径・比重を高めてサイクロンでの固液分離性を高める両性有機凝集剤を用いることで、より安定的に蛍光分析法による測定が可能となる。
また、両性有機凝集剤とサイクロンとを併用することによる蛍光分析を行うことにより、従来のCOD自動分析装置等や、蛍光分析の前処理として凝集剤と重力沈降を併用する場合と比較して、大幅に滞留時間を短くすることが可能となり、蛍光分析法による連続測定に与えるタイムラグを最小限にすることが可能となる。
次に、各種の実験例を示しながら、本発明の実施形態に係る濃度測定方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実験例は、本発明に係る濃度測定方法のあくまでも一具体例であって、本発明に係る濃度測定方法が下記に示す実験例に限定されるものではない。
(実施例1:サイクロン単独と両性有機系凝集剤とサイクロン併用によるSS除去試験)
SS濃度168mg/L、濁度115度、pH中性の工場排水を、サイクロンの単独使用でのSS除去率と、凝集剤及びサイクロンを併用した際のSS除去率と、の比較を行った。凝集剤としては、両性有機系凝集剤(アクリルアミド・アクリル酸エステル共重合体であるKEC−994(商品名:日鉄環境エンジニアリング(株)製)を用いた。また、凝集剤の最適pH、添加量、撹拌時間は、予めジャーテストにより検討を行い、最適pHがpH7〜8であり、最適添加量が15mg/Lであることを確認するとともに、撹拌条件は、120rpmで30秒間の攪拌に続き50rpmで30秒間の攪拌とした。また、サイクロンは、インダストリア社KS−15を用い、流量は10L/分とした。
得られた結果を、図6に示した。
サイクロンを単独で使用した場合では、SS除去率は57.5%であり、濁度除去率は40.9%であった。一方、凝集剤とサイクロンとを併用した場合では、SS除去率は92.9%であり、濁度除去率は92.1%であった。
また、サイクロンのみによる更なる微細なSS除去を狙って、KS−15よりも小型のサイクロンを後段に追加して2段にしたものと、凝集剤とサイクロン2段とを併用した場合と、を更に比較した。その結果、サイクロンを2段にした場合では、SS除去率は87.1%であり、濁度除去率は62.0%である一方で、凝集剤とサイクロン2段とを併用した場合には、SS除去率は99.4%であり、濁度除去率は98.5%であった。
この結果から、サイクロンのみでのSS及び濁度の除去には限界があり、2段階のサイクロンで処理を行ったとしても十分にSSおよび濁度が除去できないが、凝集剤と併用することで大幅にSS及び濁度の除去率が向上することが明らかとなった。特に、凝集剤とサイクロンとの併用は、濁度を低減するのに有効であった。
(実施例2:水グリコール添加時の各種凝集剤とサイクロン併用による蛍光測定)
SS濃度168mg/L、濁度115度、pH中性の工場排水に、水グリコールを0.01v/v%添加し、凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリ硫酸第二鉄、カチオン性有機系凝集剤、両性有機系凝集剤をそれぞれ100mg/L、50mg/L、2mg/L、15mg/L添加し、サイクロンによるろ過を実施したものと実施しないものについて、励起波長/蛍光波長=280nm/360nmにおいて蛍光測定を実施した。カチオン性有機系凝集剤としては、KEC−985(商品名:日鉄環境エンジニアリング(株)製)を使用し、両性有機系凝集剤としては、アクリルアミド・アクリル酸エステル共重合体であるKEC−994(商品名:日鉄環境エンジニアリング(株)製)を使用した。また、凝集剤の最適pHは、予めジャーテストにより検討を行い、pH7〜8とした。なお、撹拌速度及び時間については、凝集剤同士の比較のため、120rpmで30秒間の攪拌に続き50rpmで30秒間の攪拌とした。また、1.0μmでろ過した工場排水に水グリコールのみを添加したものを、対照区とした。ただし、蛍光強度は、水グリコールのみを添加した対照区の値の相対値を示した。
得られた結果を、図7に示した。
未ろ過の試料では、いずれの試料も蛍光強度が減少しており、被測定水中のSS及び凝集剤による蛍光消光が起きていたためと考えられた。一方、ろ過した試料では、両性有機系凝集剤で対照区と同等の蛍光強度を示し、水グリコール濃度は0.0098v/v%程度と測定された。このことから、被測定水中の水グリコールを、凝集剤とサイクロンとを併用することで、迅速かつ安定的に測定可能であることが見出された。
(実施例3:工場排水に水グリコールを添加した水に、両性有機系凝集剤を添加し、サイクロンで固液分離した時の蛍光測定)
連続的に発生するSS濃度100〜200mg/L、濁度70〜140度、pH中性の工場排水に、水グリコール0.01v/v%添加し、10L/分で通水した後、凝集剤添加工程として10Lの撹拌槽を設置し、凝集剤として両性有機系凝集剤を15mg/Lとなるよう添加し、実施例1と同様に2段のサイクロンによるろ過を実施して、蛍光モニタリングを行った。なお、両性有機系凝集剤としては、KEC−994(商品名:日鉄環境エンジニアリング(株)製)を使用した。
得られた結果を、図8に示した。
通水開始時(0分後)から配管、撹拌槽、測定槽の滞留時間である2分を経過した後、蛍光強度出力値が増加した。よって、サンプリングから数分間程度の比較的短い時間で蛍光測定ができるようになり、更に、SSによる測定値のばらつきが無く、水グリコールが精度良く測定できた。
一方、従来の連続COD自動分析装置やTOC自動分析装置では、測定に15分〜1時間かかることから、上記の結果から明らかなように、大幅な時間短縮ができた。
なお、特定化学物質として水グリコール以外の物質に着目した場合であっても、上記と同様の挙動が観測された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。