JP2016176086A - ゲルマニウムナノ粒子蛍光体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】発光効率が高く、かつ発光スペクトルが狭いGeナノ粒子蛍光体を提供する。【解決手段】表面状態と粒径の両者が制御されたGeナノ粒子により、上記課題を達成する。具体的には、1−アルケンなどの末端に二重結合または三重結合を有する有機分子液体中またはこの液体の液面上で非酸化雰囲気中でレーザーアブレーションを行うなどの手法により、表面に酸化膜が存在しないあるいは極めてわずかな酸化膜しか存在しないという意味で表面状態が制御されたGeナノ粒子が得られる。これを粒径、極性などに基いて分級することで、図に示すような緑〜紫外領域の狭発光スペクトルを有する各種のGeナノ粒子蛍光体が得られる。【選択図】図6

Description

本発明は紫外−可視域で発光波長を可変できるゲルマニウム(以下、Geと称する)ナノ粒子蛍光体に関し、特に350〜550nmの発光波長域において、高効率かつ単色性の高いフォトルミネッセンス特性を示すGeナノ粒子蛍光体に関する。
II−VI族、III−V族あるいはIV族半導体をナノ粒子化することにより蛍光を発する場合があることは以前から知られている(例えば、特許文献1、2)。
Geはバルクの状態においては間接線型バンド構造をもつために光励起キャリアの放射性再結合の確率は極めて低く、結果として効率の良い発光は望めない。10−5%とも見積もられる非常に低い発光量子収率の発光が、室温で0.67eVのバンドギャップゆえに、近赤外域で観察される。
各種の材料をナノ粒子化することで、電子および正孔あるいは励起子を三次元的に狭い空間に個別に閉じ込めることができる。これにより発現する量子閉じ込め効果に基づきエネルギー準位は離散化し、光吸収および発光波長はブルーシフトするとともに、バルクに比べて1万倍を超える効率の良い発光を導くことができる。それゆえ、発光波長を粒子のサイズで制御できるといった半導体に特有の特性を見ることができる。Geについても、ナノ粒子化することで発光波長がブルーシフトすることが1991年に初めて報告された。間接遷移型半導体であるGeにおいてもナノ粒子化することで、直接遷移型半導体に見られる量子サイズ効果に非常によく似た発光波長のブルーシフト現象が起きることが注目を集めた。その後も、発光性を有するナノ粒子などのナノ構造を有するゲルマニウムに言及している報告が多数見られるが、ここでは特許文献3〜8、及び非特許文献1〜7を例として挙げておく。
このような特性は、直接遷移型バンドギャップ半導体である化合物半導体には顕著であるが、Geのようなバルク結晶の状態で、間接遷移型バンドギャップ構造をもつ半導体では、サイズ−発光色の相関が全く明らかにされていない。この点がGeナノ粒子を産業応用するに当たっての最大の問題である。これまでに多くの研究グループから報告された発光色はほとんどの場合1種類(2種類とも理解できる報告もある)であることも、Geナノ粒子における発光起源を量子サイズ効果に帰結させることが正しいのか疑念が抱かれる一つの要因となっている。当該発見から20年を経たが、上記疑念を晴らすには至っていない。また、Geナノ粒子は発光効率が低く、発光スペクトルの半価幅も広い(100〜200nm)という問題もあった。
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解消し、紫外〜可視領域において、単色性が高く、且つ高効率のフォトルミネッセンス特性を示すGe蛍光体を提供することにある。
本発明の一側面によれば表面が有機分子でキャッピングされるとともに、Geコア径が10nm以下、蛍光量子収率が4%以上、かつ発光スペクトルの半価幅が100nm以下である、Geナノ粒子蛍光体が与えられる。
ここにおいて、Geナノ粒子蛍光体は、末端に二重結合または三重結合を有する有機分子液体中で、または非酸化雰囲気中であって前記有機分子液体の上でGeナノ粒子を形成することにより得られてよい。
また、前記有機分子液体は1−アルケンであってよい。
また、前記ナノ粒子の形成はGeをレーザーアブレーションすることによって行ってよい。
また、粒径及び/または表面の酸化の程度に基いて更に分級することにより特定の波長域で発光するようにしてよい。
また、前記分級はクロマトグラフィーによって行ってよい。
また、前記クロマトグラフィーはシリカゲルクロマトグラフィーであってよい。
また、Geナノ粒子蛍光体は更に高速液体クロマトグラフィーにより分級を行うことにより得られるものであってよい。
本発明の別の側面によれば、310〜370nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が40nm以下であり、発光効率が8%以上である、紫外発光するゲルマニウムナノ粒子発光体が与えられる。
本発明の更に別の局面によれば、380〜430nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が20nm以下であり、発光効率が8%以上である、紫色発光するGeナノ粒子発光体が与えられる。
本発明の更に別の局面によれば、430〜460nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が40nm以下であり、発光効率が12%以上である、青色発光するGeナノ粒子蛍光体が与えられる。
本発明の更に別の局面によれば、420〜480nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が55nm以下であり、発光効率が36%以上である、シアン色発光するGeナノ粒子蛍光体が与えられる。
本発明の更に別の局面によれば、480〜540nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が100nm以下であり、発光効率が4%以上である、緑色発光するGeナノ粒子蛍光体が与えられる。
本発明の更に別の局面によれば、末端に二重結合または三重結合を有する有機分子液体中で、または非酸化雰囲気中であって前記有機分子液体の上でGeナノ粒子を形成する、Geナノ粒子蛍光体の製造方法が与えられる。
ここで、前記有機分子液体は1−アルケンであってよい。
また、前記ナノ粒子の形成はGeをレーザーアブレーションすることによって行ってよい。
本発明の更に別の局面によれば、表面が有機分子でキャッピングされているGeナノ粒子を粒径及び/または表面の酸化の程度に基いて分級する、特定の波長域で発光するGeナノ粒子の製造方法が与えられる。
ここで、前記分級はクロマトグラフィーによって行ってよい。
また、前記クロマトグラフィーはシリカゲルクロマトグラフィーであってよい。
また、更に高速液体クロマトグラフィーにより分級を行ってよい。
本発明によれば、従来のGeナノ粒子を用いたものに比べて高い発光効率と狭い発光スペクトルを有する点で有用であるとともに、希土類などの希少な資源が不要であり、かつ環境や生体に悪影響を与えることのないGe蛍光体を提供することができる。
本発明で使用可能な有機終端化Geナノ粒子の作製方法を示す概念図。 レーザー化学合成法により作製されたGeナノ粒子の構造像。 レーザー化学合成法により作製されたGeナノ粒子のプロトンNMRプロファイルを示すグラフ。 レーザー化学合成法により作製されたGeナノ粒子のFTIRスペクトルを示すグラフ。 本発明の実施例により、1−アルケン(1−ヘキセン)中でレーザーアブレ−ションした時に製造されたGeナノ粒子の粒度分布を示すグラフ。 同一励起光下における各サンプルのフォトルミネッセンス特性を示すグラフ。 比較例により、n―アルカン(n−ヘキサン)中でレーザーアブレ−ションした時に製造されたGe粒子の粒度分布を示すグラフ。
本発明は、粒子サイズと粒子表面の化学的性質の制御を通じて、蛍光量子収率が4%以上の効率の良い発光を、350〜550nmにおける各波長帯で得ることに成功した。本発明のGe蛍光体は発光の単色性も高く、同一励起光下において粒子の構造に依存して異なる発光色を示す。
具体的には、非酸化環境中で作製したGeナノ粒子はそのままではラジカルで被覆されているので、その表面を有機分子で被覆(修飾)する。これによって、Ge粒子表面に現れているラジカルを有機分子によりキャッピングして、Geナノ粒子表面が酸化することを防止する。以下、このようなGeナノ粒子を有機終端Geナノ粒子と称する。なお、表面のキャッピングが完全ではない一部の有機終端Geナノ粒子については、Geナノ粒子表面がわずかに酸化する。このような処理を行ったGeナノ粒子を、その粒子サイズ及び表面の酸化状態により分級することで、単色性と発光効率が良好であり、各種の発光波長域を有するGeナノ粒子が得られる。従来多くの論文などで報告されたGeナノ粒子においてはGeナノ粒子表面状態を上述のようにして制御するということを意識していなかったため、これらの論文同士を比較しても、これらで報告されているGeナノ粒子の粒径と発光波長との間に相関性を見出すことができなかった。本発明はGeナノ粒子表面状態、特にその酸化の程度が発光に大きく影響することを見出し、この知見に基いてGeナノ粒子の表面状態と粒径の両者を制御することにより、発光効率を向上させ、また発光色やスペクトル幅の制御を可能としたものである。
Geナノ粒子の作製及び有機分子による被覆は、作製されたナノ粒子の表面を被覆する分子を成分とする液相を使用して液相レーザーアブレーションを行うレーザー化学合成法によって行う。なお、本発明では液相として1−ヘキセンなどの一端に二重結合あるいは三重結合を有する分子(炭化水素など)を使用することができる。
図1を用いて、本発明で使用可能なレーザー化学合成法を簡単に説明する。図1において、その左側に示すように、周知の方法で作製された水素終端Ge基板を、キャッピングを行う分子(例えば、1−アルケン)を成分とする有機分子液中に浸漬する。この状態で当該基板にNd:YAGレーザーなどによってレーザーを照射する。レーザー照射により基板から放出されたGeのクラスターが表面修飾用の有機分子液中で急冷され、Geナノ粒子構造を構築すると同時に、その表面が有機分子と結合する。あるいは、有機分子液中に浸漬する代わりに、非酸化雰囲気中に有機分子液を収容するが、その液面のすぐ上に基板を設置することで、液体中に浸漬されていない基板にレーザーを照射してもよい。この場合には、基板から放出されたGeが有機分子液中に落下した後に、その表面に有機分子が結合する。
すなわち、クラスターの放出時点で非酸化雰囲気を維持することにより、図1の中央部に示すように、当該Geナノ粒子表面はラジカル(未結合手)で終端されており極めて活性が高い。レーザー化学合成法においては、図1の中央部から右側に示すように、これらのラジカルへ1−アルケン等の有機分子が容易に結合することとなり、Geナノ粒子表面に欠陥なく有機分子を結合させることができるものと考えられる。レーザー化学合成法自体はすでに特許文献9、非特許文献8などで詳細に説明しているので、これ以上の説明は省略する。
なお、図1では、表面修飾用の有機分子として1−アルケンが挙げられているが、このような有機分子としては末端に二重結合あるいは三重結合を有するものであればよい。従って、図1の中央部分にはGeコア(図1の右端に示した粒子で説明すれば、表面修飾している有機分子を除いた部分である、Geで構成されている中心部分)に有機分子のCが結合するように図示されているが、Geの結合相手としてはCに限定されるものではなく、O、Nなどであっても良い。
本発明によれば、紫外〜緑の波長域における各波長帯で高効率かつ線幅の狭いPL発光を実現することができる。このような特性を有するGeナノ粒子を実現できたのは、ナノ粒子のサイズ制御に加え、表面の制御を行ったことによるものである。本願では発光色(波長)と表面の状態を制御したGeナノ粒子のサイズとの間に明確な相関のあることを見出し、この知見に基いて表面を制御したGeナノ粒子の粒径の分布を狭い範囲に限定することによって、従来報告されていたものに比べてはるかに狭い半値幅の発光スペクトルを有するGeナノ粒子蛍光体を提供することができた。
更に本願ではGeナノ粒子の表面構造を制御すること、具体的にはGeナノ粒子表面に酸化膜が存在しない、あるいはごくわずかしか存在しないようにすることで、高い発光効率(蛍光量子収率)を実現した。なお、Geナノ粒子表面の酸化膜の影響は発光波長によって異なり、短波長側ほど酸化膜の存在が発光に対して悪影響を与える。具体的には、紫外〜紫では酸化膜が存在するとほとんど発光しないが、これよりも波長が長くなると酸化膜が存在しても発光するようになり、特にシアン〜緑では酸化膜がわずかに存在した方が良好な発光効率が得られる。また、粒径分布が同じでも酸化膜が存在した方が発光スペクトルが広がる。
本発明により得られる各種のGeナノ粒子蛍光体の発光特性を下表に示す。なお、下表で青とシアンで発光極大波長範囲が重複しているが、これは発光極大波長が同じでもスペクトルの広がりが大きいとシアン〜緑の波長成分が多くなるので、全体としてシアン寄りに見えることによるものである。
所望の発光色及び発光スペクトルの広がりを有するGeナノ粒子蛍光体を得るためには、上述のようにして製造したGeナノ粒子を分級することで、所要の粒径範囲及び/または表面状態(酸化の程度)を有するGeナノ粒子を選択する必要がある。この分級はたとえばクロマトグラフィーを使用することができる。
なお、表面が酸化しているGeナノ粒子は極性が大きくなるので、主にGeナノ粒子の表面状態に基いた分級を行う際には、例えばシリカゲルクロマトグラフィーなどの極性に対する分解能が大きなクロマトグラフィーを使用することができる。この場合には、使用するカラムと展開溶媒の極性などにより決まるR値に基づいて所望のGeナノ粒子を取り出すことができる。また、粒径に基いた分級を行う際には、高速液体クロマトグラフィー等の分子量について高い分解能を有するクロマトグラフィーを使用するのが好ましい。また、粒径範囲と表面状態の両方に基いて細かに分級する必要があるなどの場合には、例えばシリカゲルクロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィーの組合せなどの複数の分級手法を組み合わせて使用することもできる。
[実施例1]
公知の方法によって作製された水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−アルケンの一つである1−ヘキセン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションすることにより、Geナノ粒子を作製した。レーザーアブレーション後、濾過を行い、次に、シリカゲルクロマトグラフィー法、及び高速液体クロマトグラフィーを用いて精製・分級した。つまり、クロマトグラフ装置からの溶出時間により分級を行った。
具体的には、展開溶媒としてジクロロメタンを使用したシリカゲルクロマトグラフィーでは青系(発光が短波長側)と緑系(発光が長波長側)の2種類に分級できた。ここで、青系の方が緑系に比べて大きなR値の位置に現れた。緑系は実質的に全てのナノ粒子がわずかに酸化したものであったが、青系は酸化していないナノ粒子とわずかに酸化したナノ粒子とが混在していた。
なお、当然のことであるが、使用する展開溶媒やカラムなどの条件によって変動する。従って、実際の分級に当たっては、使用する機材、薬品その他の環境要因毎に分級条件を適宜設定する必要がある。以下に記載した他の分離、抽出処理においても同様である。
更に高速液体クロマトグラフィーにより上記青系をシアン発光サンプル、青発光サンプル、紫発光サンプル、及び紫外発光サンプルの4つのサンプルに分級できた。周知の通り高速液体クロマトグラフィーは分子量が大きいほど短時間で溶出が行われるものであるが、これらのサンプルの抽出においても、粒子サイズの大きな順であるシアン発光サンプル、青発光サンプル、紫発光サンプル、紫外発光サンプルの順にこれらのサンプルが抽出された。高速液体クロマトグラフィーの場合も各種の条件によって具体的な溶出時間は変化する。
[作成後の評価]
作製した試料を、紫外−可視分光光度計による光吸収測定、フォトルミネッセンス(Photoluminescence)特性(PL特性)、絶対PL量子収率測定、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)法、NMR(核磁気共鳴)法、TEM(透過型電子顕微鏡)法及び粒度分布測定法によって評価した。
図2は、実施例1により作製されたGeナノ粒子のTEM像を示す。図中、円で囲んだ部分がGeナノ粒子である。また、同図右下隅の差込み図はこれらのナノ粒子の一つの高解像度TEM像である。これにより、実施例1で作成されたGeナノ粒子はアモルファス状態ではなく、格子間隔が1.9Åの結晶構造をなしていることがわかる。なお、後掲する表1中の右端カラムに示すように、実施例1によって得られたGeナノ粒子サンプルは何れもこのような結晶構造を有していることが判った。
図3は実施例1により作製されたGeナノ粒子のH NMRプロファイルである。具体的には0.87ppmにはCHに、また1.25ppmにはCHに帰属されるケミカルシフトが観察でき、積分比からナノ粒子表面にヘキサン分子が結合していることを示している。なお、4〜6ppmにピークが存在していないことから二重結合が消滅していることがわかる。
図4は実施例1により作製されたGeナノ粒子の一つのサンプルのFTIRスペクトルを示す。このFTIRスペクトル中の850〜870cm−1付近には赤外吸収のピークが存在していないことから、このサンプル中のGeナノ粒子表面には酸化膜が存在しないことがわかる。以下で説明する一部のサンプル(サンプルD及びE)にはこの位置にピークが観測された(このFTIRスペクトルは図示せず)ことから、これらに含まれているGeナノ粒子表面に酸化膜が存在することが確認できた。
図5は、実施例1においてレーザー化学合成法で作製された直後の(つまり、クロマトグラフィー処理前の)Geナノ粒子の粒度分布を示す。理論上直径が30nm程度よりも大きなGe粒子は発光しないが、図5からわかるように、ここではほとんど全ての粒子の直径は10nmよりも小さい。これにより、レーザー化学合成法を用いることで、発光するGeナノ粒子を効率よく作製できることがわかる。
以上の実施例で作製したところの、溶出時間により以下に示すA〜Eの5種類に分級を行った後の各サンプルを測定したところ、これらのサンプルはいずれもアルキル基で保護されているために、油溶性のゲルマニウムナノ粒子であった。さらに、これらのサンプルは、同一波長の紫外光照射下において、各々のナノ粒子構造を反映するフォトルミネッセンス特性を示した。具体的には、同一励起光下において、これら5種類のサンプルA〜Eは、各々の離散化したエネルギーギャップ構造の違いに基づき、夫々紫外、紫、青、シアン、緑、といった異なる発光色を呈した。絶対量子収率測定により見積もった各サンプルの発光効率は、紫外〜緑に発光する全てのサンプルで4%以上と高い値を示した。また、各々の発光スペクトルの半価幅は、40nm(紫外発光するサンプルA)、20nm(紫色発光するサンプルB)、40nm(青色発光するサンプルC)、55nm(シアン発光するサンプルD)、100nm(緑色発光するサンプルE)と、他の学術論文等に記載のGeナノ粒子の発光スペクトル半価幅に比べて非常に狭く、その大半は、LEDの発光源に好適とされる半価幅である60nmを満たした。サンプルA〜Eの半値幅を判りやすく示すため、実際に測定したこれらのサンプルの発光スペクトルをそのピーク値でほぼ正規化したグラフを図6に示す。図6において、ピーク波長(発光極大波長)が短い順に夫々サンプルA〜Eに対応する。なお、紫外発光については320〜330nmに発光極大波長を持つサンプルCを示したが、他に360〜370nmにピーク波長を有するサンプル(図示せず)も得られる。
このように、発光帯域毎にGeナノ粒子サイズ及び表面構造を制御することで、良好な発光特性を得ることができた。発光色毎にGeナノ粒子のサイズ、表面状態、発光効率、PLスペクトル半値幅などを具体的に説明すれば、以下の通りである。
(1)紫外発光Geナノ粒子(サンプルAに相当):粒子のコアサイズ範囲を1.5nm未満(全粒子の70%以上がこの範囲の粒径を有することを意味する。(2)〜(5)についても同様)とし、粒子表面に酸化膜がない状態にすることで、8%以上の発光効率、40nm以下のPLスペクトル半価幅特性を示す。
(2)紫発光Geナノ粒子(サンプルBに相当):粒子コアサイズ範囲を1.5〜2nmとし、粒子表面に酸化膜がない状態にすることで、8%以上の発光効率、20nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。
(3)青色発光Geナノ粒子(サンプルCに相当):粒子コアサイズ範囲を2〜3.5nmとし、粒子表面に酸化膜がない状態にすることで、12%以上の発光効率、40nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。
(4)シアン発光Geナノ粒子(サンプルD):粒子コアサイズ範囲を2〜5nmとし、粒子表面に酸化膜が存在する状態にすることで、36%以上の発光効率、55nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。なお、ここで粒子表面に酸化膜が存在するとしたが、この酸化膜は任意の酸化膜ではなく、以下の特定の条件下でできる酸化膜である。すなわち、上で説明したレーザー化学合成法により表面に1−アルケンなどによるキャッピングを行った場合、その結果のGeナノ粒子には表面のキャッピングが完全ではないものが混在する。そのようなキャッピングが不完全なGeナノ粒子は、酸化性雰囲気に接触すると、その表面上でキャッピングされていないラジカルが急速に酸化されることにより表面に薄い酸化膜を有するGeナノ粒子となる。あるいは、レーザー化学合成法において基板を有機分子液の外に出してレーザー照射を行うなどした場合、雰囲気中にわずかに酸素が残留していると、キャッピングが行われる前にナノ粒子表面に薄い酸化膜ができることがある。Geナノ粒子表面の酸化膜の有無はクロマトグラフィーカラムへのGeナノ粒子の吸着力に影響を与えるため、これを利用して、上述した酸化膜を有するGeナノ粒子を選別して取り出すことができる。たとえば、精製・分級過程において、シリカゲルカラムを用いたクロマトグラフィー処理段階で展開溶媒にジクロロメタンを使用して処理することで、上述したように、青系(短波長側に発光する系)と緑系(長波長側に発光する系)の2つに分けることができる。これを更に分級することにより、青系からシアン発光するGeナノ粒子(サンプルD)を分離することができる。また、緑系も更に分級することで、その中に含まれている酸化膜を有する青発光Geナノ粒子(サンプルCとは異なる)やシアン発光Geナノ粒子を分離できる。また、同じ青発光するGeナノ粒子でも酸化膜を有するものは発光スペクトル幅が広いため、極大波長が同じであっても酸化膜を有していない青発光Geナノ粒子と比較すると緑成分が多く含まれていて、シアン寄りの発光であるように見える。
なお、シアンあるいは緑色発光するGeナノ粒子の場合は、サンプルDあるいはEと同等の粒子コアサイズ範囲を有するが上述のような酸化膜を持っていない別のサンプルの発光効率は1%未満と、著しく低いものであった。
(5)緑色発光Geナノ粒子(サンプルEに相当):粒子コアサイズ範囲を4〜8nmとし、粒子表面に酸化膜が存在する状態にすることで、4%以上の発光効率、100nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。
以上をまとめて表2に示す。
以上の発光は、波長域250〜290nmに励起ピークを有することから、この波長域におけるいずれかの波長帯で光励起すると、それぞれのイントリンシックなエネルギー準位構造に応じた光子エネルギーを放出(発光)する。また、紫から緑の発光サンプルについては、340〜380nmの範囲内に励起極大をもつことから、たとえば365nmの励起波長に相当する光子エネルギーで励起すると夫々のサンプルのイントリンシックなエネルギー準位構造に応じた光子エネルギーを放出(発光)する。つまり、一旦作製された広い粒径範囲を有するGeナノ粒子から選択する粒径範囲により、発光色を選択することができる。
[比較例]
更に、上記プロセスの各種の条件の影響を調べるため、これらの条件を変化させたプロセスを実行した。
[比較例1]
水素終端化ゲルマニウムウェハーを、n−アルカンの一種であるn−ヘキサン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法、およびゲル浸透クロマトグラフィー法を用いた。
すなわち、レーザーアブレーションを行う際の液相として実施例1では1−ヘキセンを使用していたところ、比較例1ではそれに代えてn−ヘキサンを使用することにより、所望のゲルマニウムナノ粒子が生成されるか否かを検証した。
[実施例2]
水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−ヘキセン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法を用いた。
すなわち、レーザーアブレーションに関しては実施例2では実施例1と同じ条件で行ったが、実施例1では精製・分級のためにシリカゲルクロマトグラフィー法、及び高速液体クロマトグラフィー法の二段階のクロマトグラフィー処理を行ったところ、実施例2ではシリカゲルクロマトグラフィー法だけを使用することにより、精製・分級に対するクロマトグラフィー処理の影響を検証した。
[実施例3]
水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−オクテン、1−ヘキサデセン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法を用いた。
実施例1と実施例3との相違は以下の二点である。先ず、レーザーアブレーションを行う際に基板を浸漬する液相として、実施例1では1−ヘキセンを使用したところ、実施例3においては同じ1−アルケンではあるが1−ヘキセンよりも炭素数の多い1−オクテンと1−ヘキサデセンの混合液を使用した。更に、実施例3では比較例2と同じく、精製・分級の際にシリカゲルクロマトグラフィー法だけを使用した。
[実施例4]
水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−ヘキセン中において、Nd:YAGレーザーの基本波(λ=1064nm)、および、3倍波(λ=355nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法を用いた。
実施例1と実施例4との相違は以下の二点である。先ず、レーザーアブレーションのために照射するレーザーとして実施例1ではNd:YAGレーザーの2倍波を使用したのに対して、実施例4では基本波及び3倍波を使用した。更に、実施例4では実施例2及び3と同じく、精製・分級の際にシリカゲルクロマトグラフィー法だけを使用した。
[比較例1及び実施例2〜4の評価]
比較例1で作製したサンプルは、n−アルカン中でのレーザーアブレ−ションにより作製されたものである。従って、比較例1では1−アルケンによるキャッピング効果が発現しないため、粒子成長が進む。結果として平均粒径がマイクロメートルサイズと、ゲルマニウムバルクの励起子ボーア半径よりも大きく、かつ粒度分布が極めて広かった。測定した粒度分布(クロマトグラフィー処理前のもの)を図7に示す。この図から判るように、励起光の照射により発光する、直径が30nm付近以下の粒子はほとんど生成されていないことがわかった。実際、励起極大波長で光励起しても発光効率は1%未満であった。
実施例2で作製したサンプルは、紫外、紫〜シアン、シアン〜緑の各波長帯においてフォトルミネッセン特性を示した。このように発光が見られたのは、作製プロセスの前半部分については実施例1と同じく1−アルケンによるキャッピングを伴うレーザーアブレーションを行うことにより、効率よく発光するGeナノ粒子が生成され、それがクロマトグラフィー処理後の各サンプルに含まれているからである。しかしながら、実施例2においては、実施例1とは異なり、レーザーアブレーション後のクロマトグラフィー処理としてシリカゲルクロマトグラフィー法のみを用いたために分級が不十分であり、各サンプル中の粒径の分散がかなり大きくなるとともに、酸化の度合いについての分散も大きくなった。これにより、これらのサンプルの発光スペクトルはいずれも従来報告されているものと同程度のブロードなものとなった。これは、たとえば青色発光するナノ粒子でも酸化膜を持っていないものと薄い酸化膜を持つものの両方があり、薄い酸化膜を持つナノ粒子の方が発光スペクトルがブロードになることによると考えられる。
実施例3で作製したサンプルは、紫外、紫〜シアン、シアン〜緑の各波長帯においてフォトルミネッセン特性を示した。本実施例では、レーザーアブレーションを1−アルケンに属するが実施例2の1−ヘキセンではなく、1−オクテンおよび1−ヘキサデセンで各々行った。これ以外の条件は実施例2と同一とした。このような条件で作製した各サンプルが実施例2と類似した発光を示したことから、1−ヘキセン以外の1−アルケンを使用してレーザーアブレーションを行っても、1−ヘキセンの場合と同様に効率よく発光するGeナノ粒子が得られることがわかる。ただし、実施例2と同じ方法で精製・分級を行ったため、ここでも粒径及び酸化の度合いについての不十分な分級によりブロードな発光スペクトルを有するサンプルが得られた。
実施例4で作製したサンプルは、いずれも紫外、紫〜シアン、シアン〜緑の各波長帯においてフォトルミネッセン特性を示した。本実施例では、レーザーアブレーションのためのレーザーとして、実施例2におけるNd:YAGレーザーの2倍波の代わりに基本波及び3倍波を使用し、それ以外の条件は実施例2と同一とした。これにより、レーザーアブレーションに使用するレーザーの波長を変化させても実施例1と同様な発光特性を有するGeナノ粒子を作製できることがわかった。ただし、実施例2及び3と全く同じように、レーザーアブレーションによるレーザー化学合成処理後の粒径及び酸化の度合いについての分級の不十分さにより、各サンプルの発光スペクトルはブロードなものとなった。
以上説明したように、本発明により発光スペクトル半値幅、発光効率とも既存の蛍光体を代替できるものが得られたため、希土類を使用せずまた低環境負荷、低毒性という特徴を有する本発明の蛍光体は、産業上の利用可能性が高いと期待される。
特許公表2004-508215 特許公開2005-325016 特許公開2006-295060 特許公開2006-316237 特許公開2007-012702 特許公表2008-504448 特許公開2009-256530 特許公開2010-013313 特許公開2010-188497 特許公開2009-096954 特許公表2009-504422
Applied Physics Letters 94, 183103 (2009) Nano Letters 10 (2010) 3330 J. Phys. Chem. B 107 (2003) 13319 Applied Physics Letters 71 (1997) 2809 Chemistry of Materials 22 (2010) 482 Chemistry of Materials 19 (2007) 5174 Nano Letters 4 (2004) 969 Chemical Communications(2009) 4684
本発明は紫外−可視域で発光波長を可変できるゲルマニウム(以下、Geと称する)ナノ粒子蛍光体に関し、特にシアン色または緑色発光し、高効率かつ単色性の高いフォトルミネッセンス特性を示すGeナノ粒子蛍光体に関する。
II−VI族、III−V族あるいはIV族半導体をナノ粒子化することにより蛍光を発する場合があることは以前から知られている(例えば、特許文献1、2)。
Geはバルクの状態においては間接線型バンド構造をもつために光励起キャリアの放射性再結合の確率は極めて低く、結果として効率の良い発光は望めない。10−5%とも見積もられる非常に低い発光量子収率の発光が、室温で0.67eVのバンドギャップゆえに、近赤外域で観察される。
各種の材料をナノ粒子化することで、電子および正孔あるいは励起子を三次元的に狭い空間に個別に閉じ込めることができる。これにより発現する量子閉じ込め効果に基づきエネルギー準位は離散化し、光吸収および発光波長はブルーシフトするとともに、バルクに比べて1万倍を超える効率の良い発光を導くことができる。それゆえ、発光波長を粒子のサイズで制御できるといった半導体に特有の特性を見ることができる。Geについても、ナノ粒子化することで発光波長がブルーシフトすることが1991年に初めて報告された。間接遷移型半導体であるGeにおいてもナノ粒子化することで、直接遷移型半導体に見られる量子サイズ効果に非常によく似た発光波長のブルーシフト現象が起きることが注目を集めた。その後も、発光性を有するナノ粒子などのナノ構造を有するゲルマニウムに言及している報告が多数見られるが、ここでは特許文献3〜8、及び非特許文献1〜7を例として挙げておく。
このような特性は、直接遷移型バンドギャップ半導体である化合物半導体には顕著であるが、Geのようなバルク結晶の状態で、間接遷移型バンドギャップ構造をもつ半導体では、サイズ−発光色の相関が全く明らかにされていない。この点がGeナノ粒子を産業応用するに当たっての最大の問題である。これまでに多くの研究グループから報告された発光色はほとんどの場合1種類(2種類とも理解できる報告もある)であることも、Geナノ粒子における発光起源を量子サイズ効果に帰結させることが正しいのか疑念が抱かれる一つの要因となっている。当該発見から20年を経たが、上記疑念を晴らすには至っていない。また、Geナノ粒子は発光効率が低く、発光スペクトルの半価幅も広い(100〜200nm)という問題もあった。
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解消し、シアン色または緑色発光し、単色性が高く、且つ高効率のフォトルミネッセンス特性を示すGe蛍光体を提供することにある。
本発明の一側面によれば、ゲルマニウムのコア表面にアルキル基が結合するゲルマニウ ムナノ粒子蛍光体であって、前記コア表面に酸化膜が存在し、コアサイズ範囲が2〜8n mであり、発光スペクトルの半価幅が100nm以下であり、シアン色または緑色発光す るゲルマニウムナノ粒子蛍光体が与えられる。
ここで、前記コアサイズ範囲が2〜5nmであり、420〜480nmの間に蛍光発光 極大を有し、シアン色発光してよい。
ここで、発光スペクトルの半価幅が55nm以下であり、発光効率が36%以上であっ てよい。
また、480〜540nmの間に蛍光発光極大を有し、緑色発光してよい。
ここで、発光効率が4%以上であってよい。
本発明の他の側面によれば、1−アルケン液体中で、または非酸化雰囲気中であって1 −アルケン液体の上でゲルマニウムナノ粒子を形成し、表面にアルキル基が結合した前記 ゲルマニウムナノ粒子を粒径及び表面の酸化の程度に基いて分級することにより、ゲルマ ニウムコア表面に酸化膜が存在しするとともに、コアサイズ範囲が2〜8nmの範囲内の 所望の範囲のゲルマニウムナノ粒子を分離して取り出す、上記のゲルマニウムナノ粒子蛍 光体の製造方法が与えられる。
ここで、前記分級はクロマトグラフィーによって行ってよい。
ここで、前記クロマトグラフィーはシリカゲルクロマトグラフィー及び高速液体クロマ トグラフィーであってよい。
また、前記ナノ粒子の形成はゲルマニウムをレーザーアブレーションすることによって 行ってよい。
本発明によれば、従来のGeナノ粒子を用いたものに比べて高い発光効率と狭い発光スペクトルを有する点で有用であるとともに、希土類などの希少な資源が不要であり、かつ環境や生体に悪影響を与えることのないGe蛍光体を提供することができる。
本発明で使用可能な有機終端化Geナノ粒子の作製方法を示す概念図。 レーザー化学合成法により作製されたGeナノ粒子の構造像。 レーザー化学合成法により作製されたGeナノ粒子のプロトンNMRプロファイルを示すグラフ。 レーザー化学合成法により作製されたGeナノ粒子のFTIRスペクトルを示すグラフ。 本発明の実施例により、1−アルケン(1−ヘキセン)中でレーザーアブレ−ションした時に製造されたGeナノ粒子の粒度分布を示すグラフ。 同一励起光下における各サンプルのフォトルミネッセンス特性を示すグラフ。 比較例により、n―アルカン(n−ヘキサン)中でレーザーアブレ−ションした時に製造されたGe粒子の粒度分布を示すグラフ。
本発明は、粒子サイズと粒子表面の化学的性質の制御を通じて、蛍光量子収率が4%以上の効率の良いシアン色及び緑色発光を得ることに成功した。本発明のGe蛍光体は発光の単色性も高く、同一励起光下において粒子の構造に依存して異なる発光色を示す。
具体的には、非酸化環境中で作製したGeナノ粒子はそのままではラジカルで被覆されているので、その表面を有機分子で被覆(修飾)する。これによって、Ge粒子表面に現れているラジカルを有機分子によりキャッピングして、Geナノ粒子表面が酸化することを防止する。以下、このようなGeナノ粒子を有機終端Geナノ粒子と称する。なお、表面のキャッピングが完全ではない一部の有機終端Geナノ粒子については、Geナノ粒子表面がわずかに酸化する。このような処理を行ったGeナノ粒子を、その粒子サイズ及び表面の酸化状態により分級することで、単色性と発光効率が良好であり、各種の発光波長域を有するGeナノ粒子が得られる。従来多くの論文などで報告されたGeナノ粒子においてはGeナノ粒子表面状態を上述のようにして制御するということを意識していなかったため、これらの論文同士を比較しても、これらで報告されているGeナノ粒子の粒径と発光波長との間に相関性を見出すことができなかった。本発明はGeナノ粒子表面状態、特にその酸化の程度が発光に大きく影響することを見出し、この知見に基いてGeナノ粒子の表面状態と粒径の両者を制御することにより、発光効率を向上させ、また発光色やスペクトル幅の制御を可能としたものである。
Geナノ粒子の作製及び有機分子による被覆は、作製されたナノ粒子の表面を被覆する分子を成分とする液相を使用して液相レーザーアブレーションを行うレーザー化学合成法によって行う。なお、本発明では液相として1−ヘキセンなどの一端に二重結合あるいは三重結合を有する分子(炭化水素など)を使用することができる。
図1を用いて、本発明で使用可能なレーザー化学合成法を簡単に説明する。図1において、その左側に示すように、周知の方法で作製された水素終端Ge基板を、キャッピングを行う分子(例えば、1−アルケン)を成分とする有機分子液中に浸漬する。この状態で当該基板にNd:YAGレーザーなどによってレーザーを照射する。レーザー照射により基板から放出されたGeのクラスターが表面修飾用の有機分子液中で急冷され、Geナノ粒子構造を構築すると同時に、その表面が有機分子と結合する。あるいは、有機分子液中に浸漬する代わりに、非酸化雰囲気中に有機分子液を収容するが、その液面のすぐ上に基板を設置することで、液体中に浸漬されていない基板にレーザーを照射してもよい。この場合には、基板から放出されたGeが有機分子液中に落下した後に、その表面に有機分子が結合する。
すなわち、クラスターの放出時点で非酸化雰囲気を維持することにより、図1の中央部に示すように、当該Geナノ粒子表面はラジカル(未結合手)で終端されており極めて活性が高い。レーザー化学合成法においては、図1の中央部から右側に示すように、これらのラジカルへ1−アルケン等の有機分子が容易に結合することとなり、Geナノ粒子表面に欠陥なく有機分子を結合させることができるものと考えられる。レーザー化学合成法自体はすでに特許文献9、非特許文献8などで詳細に説明しているので、これ以上の説明は省略する。
なお、図1では、表面修飾用の有機分子として1−アルケンが挙げられているが、このような有機分子としては末端に二重結合あるいは三重結合を有するものであればよい。従って、図1の中央部分にはGeコア(図1の右端に示した粒子で説明すれば、表面修飾している有機分子を除いた部分である、Geで構成されている中心部分)に有機分子のCが結合するように図示されているが、Geの結合相手としてはCに限定されるものではなく、O、Nなどであっても良い。
本発明によれば、紫外〜緑の波長域における各波長帯で高効率かつ線幅の狭いPL発光を実現することができる。このような特性を有するGeナノ粒子を実現できたのは、ナノ粒子のサイズ制御に加え、表面の制御を行ったことによるものである。本願では発光色(波長)と表面の状態を制御したGeナノ粒子のサイズとの間に明確な相関のあることを見出し、この知見に基いて表面を制御したGeナノ粒子の粒径の分布を狭い範囲に限定することによって、従来報告されていたものに比べてはるかに狭い半値幅の発光スペクトルを有するGeナノ粒子蛍光体を提供することができた。
更に本願ではGeナノ粒子の表面構造を制御すること、具体的にはGeナノ粒子表面に酸化膜が存在しない、あるいはごくわずかしか存在しないようにすることで、高い発光効率(蛍光量子収率)を実現した。なお、Geナノ粒子表面の酸化膜の影響は発光波長によって異なり、短波長側ほど酸化膜の存在が発光に対して悪影響を与える。具体的には、紫外〜紫では酸化膜が存在するとほとんど発光しないが、これよりも波長が長くなると酸化膜が存在しても発光するようになり、特にシアン〜緑では酸化膜がわずかに存在した方が良好な発光効率が得られる。また、粒径分布が同じでも酸化膜が存在した方が発光スペクトルが広がる。
本発明により得られる各種のGeナノ粒子蛍光体の発光特性を下表に示す。なお、下表で青とシアンで発光極大波長範囲が重複しているが、これは発光極大波長が同じでもスペクトルの広がりが大きいとシアン〜緑の波長成分が多くなるので、全体としてシアン寄りに見えることによるものである。
所望の発光色及び発光スペクトルの広がりを有するGeナノ粒子蛍光体を得るためには、上述のようにして製造したGeナノ粒子を分級することで、所要の粒径範囲及び/または表面状態(酸化の程度)を有するGeナノ粒子を選択する必要がある。この分級はたとえばクロマトグラフィーを使用することができる。
なお、表面が酸化しているGeナノ粒子は極性が大きくなるので、主にGeナノ粒子の表面状態に基いた分級を行う際には、例えばシリカゲルクロマトグラフィーなどの極性に対する分解能が大きなクロマトグラフィーを使用することができる。この場合には、使用するカラムと展開溶媒の極性などにより決まるR値に基づいて所望のGeナノ粒子を取り出すことができる。また、粒径に基いた分級を行う際には、高速液体クロマトグラフィー等の分子量について高い分解能を有するクロマトグラフィーを使用するのが好ましい。また、粒径範囲と表面状態の両方に基いて細かに分級する必要があるなどの場合には、例えばシリカゲルクロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィーの組合せなどの複数の分級手法を組み合わせて使用することもできる。
実施例
公知の方法によって作製された水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−アルケンの一つである1−ヘキセン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションすることにより、Geナノ粒子を作製した。レーザーアブレーション後、濾過を行い、次に、シリカゲルクロマトグラフィー法、及び高速液体クロマトグラフィーを用いて精製・分級した。つまり、クロマトグラフ装置からの溶出時間により分級を行った。
具体的には、展開溶媒としてジクロロメタンを使用したシリカゲルクロマトグラフィーでは青系(発光が短波長側)と緑系(発光が長波長側)の2種類に分級できた。ここで、青系の方が緑系に比べて大きなR値の位置に現れた。緑系は実質的に全てのナノ粒子がわずかに酸化したものであったが、青系は酸化していないナノ粒子とわずかに酸化したナノ粒子とが混在していた。
なお、当然のことであるが、使用する展開溶媒やカラムなどの条件によって変動する。従って、実際の分級に当たっては、使用する機材、薬品その他の環境要因毎に分級条件を適宜設定する必要がある。以下に記載した他の分離、抽出処理においても同様である。
更に高速液体クロマトグラフィーにより上記青系をシアン発光サンプル、青発光サンプル、紫発光サンプル、及び紫外発光サンプルの4つのサンプルに分級できた。周知の通り高速液体クロマトグラフィーは分子量が大きいほど短時間で溶出が行われるものであるが、これらのサンプルの抽出においても、粒子サイズの大きな順であるシアン発光サンプル、青発光サンプル、紫発光サンプル、紫外発光サンプルの順にこれらのサンプルが抽出された。高速液体クロマトグラフィーの場合も各種の条件によって具体的な溶出時間は変化する。
[作成後の評価]
作製した試料を、紫外−可視分光光度計による光吸収測定、フォトルミネッセンス(Photoluminescence)特性(PL特性)、絶対PL量子収率測定、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)法、NMR(核磁気共鳴)法、TEM(透過型電子顕微鏡)法及び粒度分布測定法によって評価した。
図2は、実施例により作製されたGeナノ粒子のTEM像を示す。図中、円で囲んだ部分がGeナノ粒子である。また、同図右下隅の差込み図はこれらのナノ粒子の一つの高解像度TEM像である。これにより、実施例で作成されたGeナノ粒子はアモルファス状態ではなく、格子間隔が1.9Åの結晶構造をなしていることがわかる。なお、後掲する表1中の右端カラムに示すように、実施例によって得られたGeナノ粒子サンプルは何れもこのような結晶構造を有していることが判った。
図3は実施例により作製されたGeナノ粒子のH NMRプロファイルである。具体的には0.87ppmにはCHに、また1.25ppmにはCHに帰属されるケミカルシフトが観察でき、積分比からナノ粒子表面にヘキサン分子が結合していることを示している。なお、4〜6ppmにピークが存在していないことから二重結合が消滅していることがわかる。
図4は実施例により作製されたGeナノ粒子の一つのサンプルのFTIRスペクトルを示す。このFTIRスペクトル中の850〜870cm−1付近には赤外吸収のピークが存在していないことから、このサンプル中のGeナノ粒子表面には酸化膜が存在しないことがわかる。以下で説明する一部のサンプル(サンプルD及びE)にはこの位置にピークが観測された(このFTIRスペクトルは図示せず)ことから、これらに含まれているGeナノ粒子表面に酸化膜が存在することが確認できた。
図5は、実施例においてレーザー化学合成法で作製された直後の(つまり、クロマトグラフィー処理前の)Geナノ粒子の粒度分布を示す。理論上直径が30nm程度よりも大きなGe粒子は発光しないが、図5からわかるように、ここではほとんど全ての粒子の直径は10nmよりも小さい。これにより、レーザー化学合成法を用いることで、発光するGeナノ粒子を効率よく作製できることがわかる。
以上の実施例で作製したところの、溶出時間により以下に示すA〜Eの5種類に分級を行った後の各サンプルを測定したところ、これらのサンプルはいずれもアルキル基で保護されているために、油溶性のゲルマニウムナノ粒子であった。さらに、これらのサンプルは、同一波長の紫外光照射下において、各々のナノ粒子構造を反映するフォトルミネッセンス特性を示した。具体的には、同一励起光下において、これら5種類のサンプルA〜Eは、各々の離散化したエネルギーギャップ構造の違いに基づき、夫々紫外、紫、青、シアン、緑、といった異なる発光色を呈した。絶対量子収率測定により見積もった各サンプルの発光効率は、紫外〜緑に発光する全てのサンプルで4%以上と高い値を示した。また、各々の発光スペクトルの半価幅は、40nm(紫外発光するサンプルA)、20nm(紫色発光するサンプルB)、40nm(青色発光するサンプルC)、55nm(シアン発光するサンプルD)、100nm(緑色発光するサンプルE)と、他の学術論文等に記載のGeナノ粒子の発光スペクトル半価幅に比べて非常に狭く、その大半は、LEDの発光源に好適とされる半価幅である60nmを満たした。サンプルA〜Eの半値幅を判りやすく示すため、実際に測定したこれらのサンプルの発光スペクトルをそのピーク値でほぼ正規化したグラフを図6に示す。図6において、ピーク波長(発光極大波長)が短い順に夫々サンプルA〜Eに対応する。なお、紫外発光については320〜330nmに発光極大波長を持つサンプルCを示したが、他に360〜370nmにピーク波長を有するサンプル(図示せず)も得られる。
このように、発光帯域毎にGeナノ粒子サイズ及び表面構造を制御することで、良好な発光特性を得ることができた。発光色毎にGeナノ粒子のサイズ、表面状態、発光効率、PLスペクトル半値幅などを具体的に説明すれば、以下の通りである。
(1)紫外発光Geナノ粒子(サンプルAに相当):粒子のコアサイズ範囲を1.5nm未満(全粒子の70%以上がこの範囲の粒径を有することを意味する。(2)〜(5)についても同様)とし、粒子表面に酸化膜がない状態にすることで、8%以上の発光効率、40nm以下のPLスペクトル半価幅特性を示す。
(2)紫発光Geナノ粒子(サンプルBに相当):粒子コアサイズ範囲を1.5〜2nmとし、粒子表面に酸化膜がない状態にすることで、8%以上の発光効率、20nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。
(3)青色発光Geナノ粒子(サンプルCに相当):粒子コアサイズ範囲を2〜3.5nmとし、粒子表面に酸化膜がない状態にすることで、12%以上の発光効率、40nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。
(4)シアン発光Geナノ粒子(サンプルD):粒子コアサイズ範囲を2〜5nmとし、粒子表面に酸化膜が存在する状態にすることで、36%以上の発光効率、55nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。なお、ここで粒子表面に酸化膜が存在するとしたが、この酸化膜は任意の酸化膜ではなく、以下の特定の条件下でできる酸化膜である。すなわち、上で説明したレーザー化学合成法により表面に1−アルケンなどによるキャッピングを行った場合、その結果のGeナノ粒子には表面のキャッピングが完全ではないものが混在する。そのようなキャッピングが不完全なGeナノ粒子は、酸化性雰囲気に接触すると、その表面上でキャッピングされていないラジカルが急速に酸化されることにより表面に薄い酸化膜を有するGeナノ粒子となる。あるいは、レーザー化学合成法において基板を有機分子液の外に出してレーザー照射を行うなどした場合、雰囲気中にわずかに酸素が残留していると、キャッピングが行われる前にナノ粒子表面に薄い酸化膜ができることがある。Geナノ粒子表面の酸化膜の有無はクロマトグラフィーカラムへのGeナノ粒子の吸着力に影響を与えるため、これを利用して、上述した酸化膜を有するGeナノ粒子を選別して取り出すことができる。たとえば、精製・分級過程において、シリカゲルカラムを用いたクロマトグラフィー処理段階で展開溶媒にジクロロメタンを使用して処理することで、上述したように、青系(短波長側に発光する系)と緑系(長波長側に発光する系)の2つに分けることができる。これを更に分級することにより、青系からシアン発光するGeナノ粒子(サンプルD)を分離することができる。また、緑系も更に分級することで、その中に含まれている酸化膜を有する青発光Geナノ粒子(サンプルCとは異なる)やシアン発光Geナノ粒子を分離できる。また、同じ青発光するGeナノ粒子でも酸化膜を有するものは発光スペクトル幅が広いため、極大波長が同じであっても酸化膜を有していない青発光Geナノ粒子と比較すると緑成分が多く含まれていて、シアン寄りの発光であるように見える。
なお、シアンあるいは緑色発光するGeナノ粒子の場合は、サンプルDあるいはEと同等の粒子コアサイズ範囲を有するが上述のような酸化膜を持っていない別のサンプルの発光効率は1%未満と、著しく低いものであった。
(5)緑色発光Geナノ粒子(サンプルEに相当):粒子コアサイズ範囲を4〜8nmとし、粒子表面に酸化膜が存在する状態にすることで、4%以上の発光効率、100nm以下のPLスペクトル半価幅、特性を示す。
以上をまとめて表2に示す。
以上の発光は、波長域250〜290nmに励起ピークを有することから、この波長域におけるいずれかの波長帯で光励起すると、それぞれのイントリンシックなエネルギー準位構造に応じた光子エネルギーを放出(発光)する。また、紫から緑の発光サンプルについては、340〜380nmの範囲内に励起極大をもつことから、たとえば365nmの励起波長に相当する光子エネルギーで励起すると夫々のサンプルのイントリンシックなエネルギー準位構造に応じた光子エネルギーを放出(発光)する。つまり、一旦作製された広い粒径範囲を有するGeナノ粒子から選択する粒径範囲により、発光色を選択することができる。
[比較例]
更に、上記プロセスの各種の条件の影響を調べるため、これらの条件を変化させたプロセスを実行した。
[比較例1]
水素終端化ゲルマニウムウェハーを、n−アルカンの一種であるn−ヘキサン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法、およびゲル浸透クロマトグラフィー法を用いた。
すなわち、レーザーアブレーションを行う際の液相として実施例では1−ヘキセンを使用していたところ、比較例1ではそれに代えてn−ヘキサンを使用することにより、所望のゲルマニウムナノ粒子が生成されるか否かを検証した。
参考例1
水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−ヘキセン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法を用いた。
すなわち、レーザーアブレーションに関しては参考例1では実施例と同じ条件で行ったが、実施例では精製・分級のためにシリカゲルクロマトグラフィー法、及び高速液体クロマトグラフィー法の二段階のクロマトグラフィー処理を行ったところ、参考例1ではシリカゲルクロマトグラフィー法だけを使用することにより、精製・分級に対するクロマトグラフィー処理の影響を検証した。
参考例2
水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−オクテン、1−ヘキサデセン中において、Nd:YAGレーザーの2倍波(λ=532nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法を用いた。
実施例と参考例2との相違は以下の二点である。先ず、レーザーアブレーションを行う際に基板を浸漬する液相として、実施例では1−ヘキセンを使用したところ、参考例2においては同じ1−アルケンではあるが1−ヘキセンよりも炭素数の多い1−オクテンと1−ヘキサデセンの混合液を使用した。更に、参考例2では比較例2と同じく、精製・分級の際にシリカゲルクロマトグラフィー法だけを使用した。
参考例3
水素終端化ゲルマニウムウェハーを1−ヘキセン中において、Nd:YAGレーザーの基本波(λ=1064nm)、および、3倍波(λ=355nm)を用いてアブレーションした。精製には、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法を用いた。
実施例と参考例3との相違は以下の二点である。先ず、レーザーアブレーションのために照射するレーザーとして実施例ではNd:YAGレーザーの2倍波を使用したのに対して、参考例3では基本波及び3倍波を使用した。更に、参考例3では参考例1及び2と同じく、精製・分級の際にシリカゲルクロマトグラフィー法だけを使用した。
[比較例1及び参考例1〜3の評価]
比較例1で作製したサンプルは、n−アルカン中でのレーザーアブレ−ションにより作製されたものである。従って、比較例1では1−アルケンによるキャッピング効果が発現しないため、粒子成長が進む。結果として平均粒径がマイクロメートルサイズと、ゲルマニウムバルクの励起子ボーア半径よりも大きく、かつ粒度分布が極めて広かった。測定した粒度分布(クロマトグラフィー処理前のもの)を図7に示す。この図から判るように、励起光の照射により発光する、直径が30nm付近以下の粒子はほとんど生成されていないことがわかった。実際、励起極大波長で光励起しても発光効率は1%未満であった。
参考例1で作製したサンプルは、紫外、紫〜シアン、シアン〜緑の各波長帯においてフォトルミネッセン特性を示した。このように発光が見られたのは、作製プロセスの前半部分については実施例と同じく1−アルケンによるキャッピングを伴うレーザーアブレーションを行うことにより、効率よく発光するGeナノ粒子が生成され、それがクロマトグラフィー処理後の各サンプルに含まれているからである。しかしながら、参考例1においては、実施例とは異なり、レーザーアブレーション後のクロマトグラフィー処理としてシリカゲルクロマトグラフィー法のみを用いたために分級が不十分であり、各サンプル中の粒径の分散がかなり大きくなるとともに、酸化の度合いについての分散も大きくなった。これにより、これらのサンプルの発光スペクトルはいずれも従来報告されているものと同程度のブロードなものとなった。これは、たとえば青色発光するナノ粒子でも酸化膜を持っていないものと薄い酸化膜を持つものの両方があり、薄い酸化膜を持つナノ粒子の方が発光スペクトルがブロードになることによると考えられる。
参考例2で作製したサンプルは、紫外、紫〜シアン、シアン〜緑の各波長帯においてフォトルミネッセン特性を示した。本実施例では、レーザーアブレーションを1−アルケンに属するが参考例1の1−ヘキセンではなく、1−オクテンおよび1−ヘキサデセンで各々行った。これ以外の条件は参考例1と同一とした。このような条件で作製した各サンプルが参考例1と類似した発光を示したことから、1−ヘキセン以外の1−アルケンを使用してレーザーアブレーションを行っても、1−ヘキセンの場合と同様に効率よく発光するGeナノ粒子が得られることがわかる。ただし、参考例1と同じ方法で精製・分級を行ったため、ここでも粒径及び酸化の度合いについての不十分な分級によりブロードな発光スペクトルを有するサンプルが得られた。
参考例3で作製したサンプルは、いずれも紫外、紫〜シアン、シアン〜緑の各波長帯においてフォトルミネッセン特性を示した。本実施例では、レーザーアブレーションのためのレーザーとして、参考例1におけるNd:YAGレーザーの2倍波の代わりに基本波及び3倍波を使用し、それ以外の条件は参考例1と同一とした。これにより、レーザーアブレーションに使用するレーザーの波長を変化させても実施例1と同様な発光特性を有するGeナノ粒子を作製できることがわかった。ただし、参考例1及び2と全く同じように、レーザーアブレーションによるレーザー化学合成処理後の粒径及び酸化の度合いについての分級の不十分さにより、各サンプルの発光スペクトルはブロードなものとなった。
以上説明したように、本発明により発光スペクトル半値幅、発光効率とも既存の蛍光体を代替できるものが得られたため、希土類を使用せずまた低環境負荷、低毒性という特徴を有する本発明の蛍光体は、産業上の利用可能性が高いと期待される。
特許公表2004-508215 特許公開2005-325016 特許公開2006-295060 特許公開2006-316237 特許公開2007-012702 特許公表2008-504448 特許公開2009-256530 特許公開2010-013313 特許公開2010-188497 特許公開2009-096954 特許公表2009-504422
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Claims (20)

  1. 表面が有機分子でキャッピングされるとともに、ゲルマニウムコア径が10nm以下、蛍光量子収率が4%以上、かつ発光スペクトルの半価幅が100nm以下である、ゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  2. 末端に二重結合または三重結合を有する有機分子液体中で、または非酸化雰囲気中であって前記有機分子液体の上でゲルマニウムナノ粒子を形成することにより得られる、請求項1に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  3. 前記有機分子液体は1−アルケンである、請求項2に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  4. 前記ナノ粒子の形成はゲルマニウムをレーザーアブレーションすることによって行う、請求項2又は3に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  5. 粒径及び/または表面の酸化の程度に基いて更に分級することにより特定の波長域で発光する、請求項1から4の何れかに記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  6. 前記分級はクロマトグラフィーによって行う、請求項5に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  7. 前記クロマトグラフィーはシリカゲルクロマトグラフィーである、請求項6に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  8. 更に高速液体クロマトグラフィーにより分級を行うことにより得られる、請求項7に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  9. 310〜370nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が40nm以下であり、発光効率が8%以上である、紫外発光するゲルマニウムナノ粒子発光体。
  10. 380〜430nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が20nm以下であり、発光効率が8%以上である、紫色発光するゲルマニウムナノ粒子発光体。
  11. 430〜460nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が40nm以下であり、発光効率が12%以上である、青色発光するゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  12. 420〜480nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が55nm以下であり、発光効率が36%以上である、シアン色発光するゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  13. 480〜540nmの間に蛍光発光極大を有し、発光スペクトルの半価幅が100nm以下であり、発光効率が4%以上である、緑色発光するゲルマニウムナノ粒子蛍光体。
  14. 末端に二重結合または三重結合を有する有機分子液体中で、または非酸化雰囲気中であって前記有機分子液体の上でゲルマニウムナノ粒子を形成する、ゲルマニウムナノ粒子蛍光体の製造方法。
  15. 前記有機分子液体は1−アルケンである、請求項14に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体の製造方法。
  16. 前記ナノ粒子の形成はゲルマニウムをレーザーアブレーションすることによって行う、請求項14または15に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体の製造方法。
  17. 表面が有機分子でキャッピングされているGeナノ粒子を粒径及び/または表面の酸化の程度に基いて分級する、特定の波長域で発光するGeナノ粒子の製造方法。
  18. 前記分級はクロマトグラフィーによって行う、請求項17に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体の製造方法。
  19. 前記クロマトグラフィーはシリカゲルクロマトグラフィーである、請求項18に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体の製造方法。
  20. 更に高速液体クロマトグラフィーにより分級を行う、請求項19に記載のゲルマニウムナノ粒子蛍光体の製造方法。
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