JP2016131541A - トランスジェニック非ヒト哺乳動物及びその用途 - Google Patents

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Abstract

【課題】筋肥大モデルとなる非ヒトトランスジェニック動物を提供することを課題とする。【解決手段】プロモーターと、当該該プロモーターの制御下にあるDNAであって、フォリスタチンN末端ドメインとフォリスタチンドメインIが連結し且つフォリスタチンドメインII以降を含まないフォリスタチン欠失体ポリペプチドをコードするDNAと、を含む遺伝子発現コンストラクトを導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物が提供される。【選択図】なし

Description

本発明はトランスジェニック非ヒト哺乳動物及びその用途に関する。より詳しくは、筋肥大の表現型を示すトランスジェニック非ヒト哺乳動物とその用途に関する。本発明は遺伝子治療等への適用が可能な遺伝子発現コンストラクトも提供する。
世界的に高齢化が問題になっている。日本では2014年現在で65歳以上の高齢者人口は総人口の25%を超える。75歳以上の高齢者も総人口の12%を超える。今後の更なる高齢化を見据え、高齢者の機能障害や要介護に至るのを予防することが極めて重要となる。
高齢者に特有ともいえる疾患としてサルコペニアやフレイル(Frailty)が注目されている。サルコペニアは1989年にRosenberg博士によって提唱された疾患概念であり、加齢に伴う筋肉の減少、筋力低下、身体機能の低下などを特徴とする。フレイルとは高齢期に生理的予備能が低下することで脆弱性が亢進し、生理機能障害や要介護に陥りやすい状態をいい、死に至ることもある。
一方、筋力の低下や筋萎縮を伴う難病として筋ジストロフィーが知られている。筋ジストロフィーには様々な型があるが、患者数最多のデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対しては、ジストロフィン遺伝子を標的とした遺伝子治療、細胞移植、薬物治療(ステロイドなど)など、様々な治療法の開発が進められている。また、新たなアプローチとして、骨格筋形成抑制因子であるマイオスタチンを標的とした治療法の開発も試みられている。マイオスタチンは、骨格筋の増殖・分化を抑制する因子であり、その阻害によって骨格筋量の増大を望める。そのため、デュシェンヌ型筋ジストロフィー以外の筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症などの萎縮性神経筋疾患に幅広く適応可能である。
国際公開第2009/058346号パンフレット 国際公開第03/072715号パンフレット 国際公開第03/027248号パンフレット 国際公開第01/53350号パンフレット 国際公開第2010/125003号パンフレット
高齢化が進む中、サルコペニアやフレイル等は患者数が増大することが見込まれる。しかしながら、有効な治療法がないのが現状である。また、筋ジストロフィーについても、世界的に精力的な研究開発が進められているにもかかわらず、決定的な治療法の確立の目処はたっていない。サルコペニア、フレイル、筋ジストロフィーなど、筋量の変化を伴う疾患に対する有効な治療手段を確立するためには、筋量の変化(筋量低下、筋肥大など)機構の研究に有用なモデル動物の提供が望まれる。本発明はこのようなニーズに応えることを主たる課題とする。
上記課題の下で研究を進める中で本発明者はマイオスタチンに着眼した。上記の通り、マイオスタチンは骨格筋量の増加に対してマイナスに働く増殖因子であり、その阻害によって骨格筋量の増大が期待できる。マイオスタチン機能阻害分子としてフォリスタチン、FLRG、マイオスタチン前駆体、抗マイオスタチン受容体抗体、抗マイオスタチン抗体等が知られている(例えば特許文献1〜5を参照)。本発明者はペプチドホルモンであるフォリスタチンに注目し、その欠失体・改変体を設計するとともに、当該欠失体を導入した動物(トランスジェニックマウス)の作出を試みた。得られたトランスジェニックマウスは期待以上の特性を示し、著明な筋肥大の表現型を認めた。当該トランスジェニックマウスは筋肥大モデルとして、筋肥大機構の研究をはじめ、様々な用途に利用・活用できる。一方、トランスジェニックマウスの作出に使用した遺伝子(独自のフォリスタチン欠失体・改変体をコードする遺伝子)を骨格筋に導入し、その効果を検討したところ、驚くべきことに筋肥大が観察された。この結果は、筋量の低下を伴う疾患の治療に当該遺伝子が有用であることを示唆するものであり、その意義は大きい。
なお、フォリスタチンには、C末端部位のスプライシングの違いにより、344個のアミノ酸からなるFS344(シグナルペプチドを除くとFS315)と317個のアミノ酸からなるF317(シグナルペプチドを除くとFS288)が存在し、両者は類似した性状を有する。本願におけるフォリスタチン欠失体はフォリスタチンドメインII以降を含まず、後述のように全長FSと性質が異なっている。
主として上記成果に基づき、以下の発明が提供される。
[1]プロモーターと、該プロモーターの制御下にあるDNAであって、フォリスタチンN末端ドメインとフォリスタチンドメインIが連結し且つフォリスタチンドメインII以降を含まないフォリスタチン欠失体ポリペプチドをコードするDNAと、を含む遺伝子発現コンストラクトを導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[2]前記フォリスタチン欠失体ポリペプチドを構成するフォリスタチンドメインは、C末端側の170〜180アミノ酸残基が欠失した欠失型フォリスタチンドメインである、[1]に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[3]前記欠失型フォリスタチンドメインが、配列番号2のアミノ酸配列からなる、[2]に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[4]前記フォリスタチン欠失体ポリペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列からなる、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[5]前記DNAが、配列番号4の塩基配列からなる、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[6]前記プロモーターがCAGプロモーターである、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[7]前記遺伝子発現コンストラクトがレポーター遺伝子を含む、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[8]筋肥大の表現型を示す、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[9]非ヒト哺乳動物が齧歯類である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[10]非ヒト哺乳動物がマウスである、[1]〜[8]のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[11][1]〜[7]のいずれか一項において定義された、筋肥大用の遺伝子発現コンストラクト。
[12][11]に記載の遺伝子発現コンストラクトを保持する発現ベクター。
[13][12]に記載の発現ベクターを有効成分として含み、サルコペニア、フレイル、悪液質、及び筋萎縮を伴う疾患からなる群より選択される疾患の予防又は治療に用いられる医薬。
筋肥大マウスの作製に用いた導入遺伝子(CAGGS-ΔFS-GFP)の調製。 CAGGS-ΔFS-GFPの活性。HEK293細胞を用いてΔFS-GFPによる阻害効果を検討した。全長FSを比較に用いた。 筋肥大マウスの解析。野生型と体重を比較した(右)。左は筋肥大マウスの作製に用いた導入遺伝子の構造である。 筋肥大マウスの解析。各種骨格筋を摘出し形態を観察した。 筋肥大マウスの解析。各種骨格筋を摘出し重量を測定した。 筋肥大マウスの解析。前頸骨筋の筋標本を作製し、筋線維径を測定するために抗ラミニン抗体で染色した。 筋肥大マウスの解析。筋繊維面積を測定し、筋線維面積と筋線維数の関係をグラフに表した。 筋肥大マウスの解析。野生型との間で平均筋線維面積を比較した。 筋肥大マウスの解析。野生型との間で筋衛星細胞の数を比較した。筋衛星細胞のマーカーとしてPax7(上)とM-カドヘリン(下)を利用した。 筋肥大マウスの解析。グリップ試験で筋力を評価した。 筋肥大マウスの解析。以前に作製されたトランスジェニックマウス(FSI-I Tg)との間で筋力を比較した。 マイオスタチン欠失体の発現による筋肥大効果。ΔFSとVenus(GFP)を発現する遺伝子発現コンストラクトを、レンチウイルスを用いてマウスの前頸骨筋に投与し、筋肥大効果を調べた。ΔFSの導入によって(右)筋面積の大きい繊維が増加した。 マイオスタチン欠失体の発現による筋肥大効果。筋繊維面積を測定し、筋線維面積と筋線維数の関係をグラフに表した(左)。また、平均筋線維面積を比較した(右)。ΔFSの導入によって筋線維面積が増加するのがわかる。
1.筋肥大の表現型を示すトランスジェニック非ヒト動物
本発明の第1の局面は、筋肥大の表現型を示すトランスジェニック非ヒト動物(以下、本発明の「TG動物」とも呼ぶ)に関する。「トランスジェニック非ヒト哺乳動物(TG動物)」とは、発生初期に外来性DNAが導入されることによって、それを構成するすべての細胞が当該外来性DNAを保有することとなる、ヒト以外の哺乳動物又はその子孫(但し、当該外来性遺伝子を保有するもの)をいう。ここでの哺乳動物の種(属)は特に限定されず、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ、及びウマ等を含む。好ましくはマウスやラットなどの齧歯目動物であり、最も好ましくはマウスである。
本発明のTG動物は、外来性DNAである所定の遺伝子発現コンストラクトを保有する。本発明における遺伝子発現コンストラクトには、フォリスタチンN末端ドメインとフォリスタチンドメインIが連結し、且つフォリスタチンドメインII以降を含まない構造(換言すれば、フォリスタチンドメインIよりもC末端側の領域が欠失した)を有するポリペプチド(以下、「フォリスタチン欠失体ポリペプチド」と呼称する)をコードするDNAが組み込まれている。フォリスタチンはN末端ドメイン(FSN)、フォリスタチンドメインI(FSI)、フォリスタチンドメインII(FSII)、フォリスタチンドメインIII(FSIII)、短いC末端ドメインという5つのドメインが連なった構造を有する(Proc Natl Acad Sci U S A. 1988 Jun;85(12):4218-22.)。従って、本発明におけるフォリスタチン欠失体ポリペプチドは、FSII、FSIII及び短いC末端ドメインが欠失したフォリスタチンと見なすことができる。この特徴ゆえに、本発明におけるフォリスタチン欠失体ポリペプチドをフォリスタチン欠失体又はΔFSと呼ぶことがある。尚、本発明のTG動物は遺伝子発現コンストラクトに関してホモ接合体であってもヘテロ接合体であってもよい。
フォリスタチン欠失体はその特有の構造によって、分子内システイン結合による過剰なフォールディング(折りたたみ)を起こさないと考えられる。この構造の特性により後述のように、阻害特性に特徴が表出すると考察される。
好ましい態様では、フォリスタチンのN末端(即ちFSN)に連結するフォリスタチンドメインとして、C末端側の170〜180アミノ酸残基が欠失した欠失型フォリスタチンドメインが用いられる。欠失型フォリスタチンドメインのアミノ酸配列の具体例を配列番号2に示す。当該欠失型フォリスタチンドメインでは、FSII、FSIII、C末端ドメインに加え、FSIドメインもC末端側1アミノ酸残基が欠失している。この例の他、欠失型フォリスタチンドメインとして、FSII、FSIII、C末端ドメインに加え、FSIドメインのC末端側1〜30(好ましくは20〜24アミノ酸残基)が欠失しているものを用いることもできる。尚、野生型フォリスタチンドメインのアミノ酸配列を配列番号1に示す。
後述の実施例に示す通り、フォリスタチン欠失体はマイオスタチンに対する阻害活性を示す一方で、アクチビンに対する阻害活性は殆どない。また、フォリスタチン欠失体はGDF11に対しても強い阻害活性を示す。フォリスタチン欠失体の具体例は配列番号3に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドであるが、これらの特性を示す限り、当該アミノ酸配列の一部が変異(1若しくは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加)したアミノ酸配列からなるポリペプチドを本発明におけるフォリスタチン欠失体としてもよい。このような変異は天然のものであっても、或いは人為的なものであってもよい。尚、フォリスタチン欠失体をコードするDNA(以下、「フォリスタチン欠失体遺伝子」と呼称する)の具体例を配列番号4に示す。
その発現のために、フォリスタチン欠失体遺伝子はプロモーターの制御下にある。「プロモーター」とは、その制御下にある遺伝子の転写の開始を調節する機能領域のことをいう。プロモーターとして、CAGプロモーター(サイトメガロウイルスのエンハンサーとニワトリβアクチンプロモーターを連結させた構造を有する)、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40ori、レトロウイルスLTP、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等を例示できる。アクチンプロモーター、ミオシン重鎖プロモーター等、組織特異的プロモーターを使用してもよい。
「制御下にある」とは、プロモーターが作用し、その転写が生ずるように、フォリスタチン欠失体遺伝子が直接又は他の配列を介してプロモーターに連結されている状態をいう。通常は、プロモーターの下流、かつ近接した位置にフォリスタチン欠失体遺伝子が配置される。
遺伝子発現コンストラクトは、通常、ポリアデニル化(ポリA)シグナルも含む。これらに限定されるものではないが、例えば、SV40初期遺伝子のポリアデニル化シグナル、ウサギβグロビン遺伝子のポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン遺伝子のポリアデニル化シグナル等を用いることができる。
遺伝子発現コンストラクトが、フォリスタチン欠失体遺伝子の転写を活性化するエンハンサーを含んでいてもよい。「エンハンサー」とは、プロモーターに直接的又は間接的に作用してその転写活性を高める配列をいう。エンハンサーは、一般に離れた位置からプロモーターに作用する。遺伝子発現コンストラクト内におけるエンハンサーの位置はプロモーターの上流側であっても下流側であってもよい。エンハンサーは、遺伝子発現コンストラクト内のプロモーターに作用してその転写活性を高めることができるものであれば特に限定されない。プロモーターの由来とエンハンサーの由来を同一にすることが好ましいが(例えば、ヒト由来のプロモーターを使用する場合にはヒト由来のエンハンサーを使用する)必ずしもその限りではない。このようなプロモーターとエンハンサーの組み合わせを採用することによって高い転写活性が得られるが、これをさらに異種の動物に使用する事も可能である。
一態様では、遺伝子発現コンストラクトがレポーター遺伝子も含む。レポーター遺伝子は、フォリスタチン欠失体遺伝子が導入されたことの指標として利用できる。レポーター遺伝子としては蛍光蛋白質遺伝子、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子、βガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子等を挙げることができる。中でも蛍光蛋白質遺伝子は、高感度の検出が可能であること、ライブイメージングが可能であること、多波長での同時標識が可能であること等の利点を有し、特に好ましい。様々な蛍光蛋白質遺伝子が利用可能であり、具体例を挙げれば、GFP、GFPの改変体ないし改良型(例えばEGFP、hrGFP(アジレント社))、mCherry(クロンテック社)、mKate2(Wako)である。レポーター遺伝子を、IRES(internal ribosome entry sites)、自己開裂ペプチドをコードする配列等を介して、フォリスタチン欠失体遺伝子に連結してもよい。自己開裂ペプチドの例はThosea asigna virus由来の2Aペプチドであるが、これに限定されるものではない。自己開裂ペプチドとして蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)等が知られている。
遺伝子発現コンストラクトは、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって調製することができる。遺伝子発現コンストラクトの主要成分であるフォリスタチン欠失体遺伝子は、オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーを適宜利用することによってヒトcDNAライブラリーより単離、増幅、精製することができる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーは市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。
本発明のTG動物の作出方法としては、受精卵の前核に直接DNAの注入を行うマイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターを利用する方法、ES細胞を利用する方法などを用いることができる。以下では、本発明のTG動物の作出方法として、マウスを用いたマイクロインジェクション法を具体例として説明する。
マイクロインジェクション法では、まず交尾が確認された雌マウスの卵管より受精卵を採取し、そして培養した後にその前核に所望のDNAコンストラクト(遺伝子発現コンストラクト)の注入を行う。DNAコンストラクトの形態は特に限定されないが、導入効率の点から直鎖状又は環状であることが好ましい。特に好ましくは、直鎖状に調製したDNAコンストラクトを使用する。導入目的の遺伝子が効率的に染色体に組み込まれ、且つその良好な発現が確保できるようにDNAコンストラクトを調製する。
注入操作を終了した受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、移植後のマウスを所定期間飼育して仔マウス(F0)を得る。仔マウスの染色体に導入遺伝子が適切に組込まれていることを確認するために、仔マウスの尾などからDNAを抽出し、サザンハイブリダイゼ−ション分析、スロットブロット(ドットブロット)分析、PCR分析等を実施する。次に、同定されたトランスジェニック個体を他のマウスとの交配に供する。ここでの「他のマウス」として、以上の操作の結果得られた他のトランスジェニック個体を使用することもできる。
以上のようにして得られたオスのヘテロ型トランスジェニックマウス(遺伝子発現コンストラクトをヘテロ型に保有する)とメスのヘテロ型トランスジェニックマウス(遺伝子発現コンストラクトをヘテロ型に保有する)を交配すれば、ホモ型トランスジェニックマウス(遺伝子発現コンストラクトをホモ型に保有する)を得る。繁殖又は維持のためには、当該ホモ型トランスジェニックマウスのオスとメスを交配すればよい。
本発明のTG動物は、骨格筋量が増大している(筋肥大)という特徴的な表現型を示す。典型的には、TG動物の種がマウスであれば、遅くとも生後6週で当該表現型を示す。そして、週令を追うごとに当該表現型は顕著となる。本発明のTG動物はその特徴故に、筋肥大モデルとして、筋肥大機構の研究に有用な手段(モデル動物)となる。また、咬筋肥大による「エラ張り(えら張りによる顔面の肥大)」やふくらはぎ(腓腹筋)の筋肉太りのモデルとしての利用も想定される。更には、種々の疾患モデル動物との交配での治療効果の検討、老化に伴うサルコペニアや悪液質、フレイル(虚弱)の防止の検討、野生型との比較によって発ガン物質による悪液質の防止の検討、サルコペニアになりにくいモデルとしての使用、ギブス固定又は無重力・低重力下での筋萎縮とその予防の検討(野生型と比較)、血清中に分泌される筋萎縮抑制因子の同定など、様々な利用・活用を図ることができる。レポーター遺伝子として蛍光蛋白質遺伝子を採用した場合には、蛍光の検出によって筋肥大過程を可視化でき、筋肥大機構の研究において極めて有効なツールとなる。
2.筋肥大用の遺伝子発現コンストラクト(遺伝子発現用構築物)
本発明の第2の局面は、上記TG動物の作製に用いる遺伝子発現コンストラクトの更なる用途に関し、筋肥大用の遺伝子発現コンストラクト及びその用途が提供される。「筋肥大用」とは、標的組織における筋繊維を増大させることあるいは筋繊維数を増加させる目的に使用されることを意味する。理論に拘泥する訳ではないが、本発明の遺伝子発現コンストラクトを標的組織である筋組織に導入すると、典型的には、骨格筋幹細胞(筋衛星細胞)が増加ないし活性化し、筋繊維が増大する。
本発明の遺伝子発現コンストラクトは、筋肥大機構の研究といった用途(研究目的)はもとより、筋量の低下に起因する又は筋量の低下を伴う各種疾患の治療(治療目的)に利用され得る。本発明の遺伝子発現コンストラクトを適用可能な疾患を例示すると、サルコペニア、フレイル、悪液質、筋萎縮を伴う疾患(筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、廃用性筋萎縮など)である。
本発明の遺伝子発現コンストラクトを構成する成分(フォリスタチン欠失体遺伝子、プロモーター、エンハンサー、レポーター遺伝子など)は上記第1の局面で説明した通りであり、重複する記載を省略する。標的組織/標的細胞への導入のために、通常は、本発明の遺伝子発現コンストラクトを組み込んだ発現ベクターを構築する。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸(遺伝子発現コンストラクト)を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。本発明に係る発現ベクターでは、フォリスタチン欠失体遺伝子が発現可能に保持されることになる。フォリスタチン欠失体遺伝子を標的細胞に導入し、標的細胞内で発現させることが可能である限り、ベクターの種類は特に限定されない。ここでの「ベクター」にはウイルスベクター及び非ウイルスベクターが含まれる。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、ウイルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルスベクターとしてアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が開発されている。
非ウイルスベクターとしてリポソーム、正電荷型リポソーム(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、HVJ(Hemagglutinating virus of Japan)-リポソーム(Dzau, V.J., Mann, M., Morishita, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93:11421-11425, 1996、Kaneda, Y., Saeki, Y. & Morishita, R., Molecular Med. Today, 5:298-303, 1999)等が開発されている。本発明におけるベクターをこのような非ウイルス性ベクターとして構築してもよい。また、YACベクター、BACベクター等を利用することにしてもよい。
アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターではベクターに組み込んだ外来遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。レトロウイルスベクターの場合はウイルスゲノムの宿主染色体への組み込みには細胞の分裂が必要であることから非分裂細胞への遺伝子導入には適さない。一方、レンチウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクターは非分裂細胞においても感染後に外来遺伝子の宿主染色体への組み込みが生ずる。従って、これらのベクターは非分裂細胞において安定かつ長期的に外来遺伝子を発現させるために有効である。
各ウイルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製することができる。例えば、アデノウイルスベクターの作製はCOS-TPC法や完全長DNA導入法などで行うことができる。COS-TPC法は、目的のcDNA又は発現カセットを組み込んだ組換えコスミドと、親ウイルスDNA-末端タンパク質複合体(DNA-TPC)を293細胞に同時トランスフェクションし、293細胞内でおこる相同組換えを利用して組換えアデノウイルスを作製する方法である(Miyake,S., Makimura,M., Kanegae,Y., Harada,S., Takamori,K., Tokuda,C., and Saito,I. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 1320.)。一方、完全長DNA導入法は、目的の遺伝子を挿入した組換えコスミドを制限消化処理した後、293細胞にトランスフェクションすることによって組換えアデノウイルスを作製する方法である(寺島美保、近藤小貴、鐘ヶ江裕美、斎藤泉(2003)実験医学 21(7)931.)。COS-TPC法はAdenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)、Adenovirus genome DNA-TPC(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。また、完全長DNA導入法は、Adenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。
一方、レトロウイルスベクターは以下の手順で作製することができる。まず、ウイルスゲノムの両端に存在するLTR(Long Terminal Repeat)の間のパッケージングシグナル配列以外のウイルスゲノム(gag、pol、env遺伝子)を取り除き、そこへ目的の遺伝子を挿入する。このようにして構築したウイルスDNAを、gag、pol、env遺伝子を構成的に発現するパッケージング細胞に導入する。これによって、パッケージングシグナル配列をもつベクターRNAのみがウイルス粒子に組み込まれ、レトロウイルスベクターが産生される。
アデノウイルスベクターを応用ないし改良したベクターとして、ファイバータンパク質の改変により特異性を向上させたもの(特異的感染ベクター)や目的遺伝子の発現効率向上が期待できるguttedベクター(ヘルパー依存性型ベクター)などが開発されている。本発明の発現ベクターをこのようなウイルスベクターとして構築してもよい。
ベクターに挿入されるフォリスタチン欠失体遺伝子の配列の具体例は上記の通り配列番号4の塩基配列である。但し、当該塩基配列に等価な塩基配列かならなるDNA(以下、「等価DNA」と呼ぶ)をフォリスタチン欠失体遺伝子として用いることもできる。ここでの「等価な塩基配列」とは、基準の塩基配列と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするフォリスタチン欠失体の特性(マイオスタチンに対する阻害活性を示す一方で、アクチビンに対する阻害活性は殆どなく、GDF11に対しても強い阻害活性を示すという特性)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。等価DNAの具体例は、基準の塩基配列(配列番号4)に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
等価DNAの他の具体例として、基準の塩基配列(配列番号4)に対して1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、フォリスタチン欠失体の特性(マイオスタチンに対する阻害活性を示す一方で、アクチビンに対する阻害活性は殆どなく、GDF11に対しても強い阻害活性を示すという特性)を示すタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該DNAがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。以上のような等価DNAは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように基準の塩基配列を有するDNAを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価DNAを得ることができる。等価DNAの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるDNAを挙げることができる。
本発明の遺伝子発現コンストラクトを組み込んだ発現ベクターは、筋量の低下に起因する又は筋量の低下を伴う各種疾患に対する医薬の有効成分となる。換言すれば、発現ベクターを有効成分とした、筋量の低下に起因する又は筋量の低下を伴う各種疾患に対する医薬(本発明の医薬)を提供できる。「医薬」とは、標的の疾患ないし病態(説明の便宜上、これらをまとめて「標的疾患」と呼ぶ)対する治療的又は予防的効果を示すものをいう。治療的効果には、標的疾患に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であることから、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、標的疾患に特徴的な症状の再発を阻止ないし遅延することである。
本発明の医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。特に、薬学的に許容可能な媒体を組み合わせて製剤化するとよい。「薬学的に許容可能な媒体」とは、発現ベクターの薬効に実質的な影響を与えることなく発現ベクターの投与や保存等に関して利点ないし恩恵をもたらす物質をいう。「薬学的に許容可能な媒体」として、脱イオン水、超純水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、5%デキストロース水溶液等を例示できる。
発現ベクターがウイルスベクターの形態の場合、生体適合性のポリオル(例えばpoloxamer407など)を併用することが好ましい。ポリオルの使用によってウイルスベクターの形質導入率を10〜100倍に上昇させ得る(March et al., Human Gene Therapy 6:41-53, 1995)。従って、ポリオルを併用することにすればウイルスベクターの投与量を低く抑えることができる。尚、本発明の医薬の一成分としてポリオルを使用することにしても、本発明の医薬とは別にポリオル(又はそれを含む組成物)を調製することにしてもよい。後者の場合、本発明の医薬を投与するときにポリオル(又はそれを含む組成物)を併せて投与することになる。
製剤化する場合の剤形は特に限定されない。剤形の例は注射剤、カプセル剤、外用剤及び座剤である。
本発明の医薬には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、当業者であれば、予備実験等を通して最適な有効成分量を設定可能である。
目的の組織に送達される限りにおいて、本発明の医薬の投与経路は特に限定されない。例えば、局所投与により適用する。局所投与の例として、目的組織への注入又は塗布を挙げることができる。
本発明の医薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば1日1回〜数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
特に記載のない限り、本明細書における遺伝子工学的操作は例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)或いはCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参考にして行うことができる。
1.フォリスタチン欠失体遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(TGマウス)の作製
フォリスタチン欠失体遺伝子が導入されたTGマウスを以下の手順で作製した。
(1)導入遺伝子(遺伝子発現コンストラクト)の調製(図1を参照)
ヒトのフォリスタチンの遺伝子配列を基にして、ΔFS(フォリスタチンN末端ドメインとFSIが連結し、FSII以降を欠失させた構造を有する)をコードするDNAを以下のプライマーで増幅した。尚、ΔFSのアミノ酸配列を配列番号7(シグナルペプチドを含むアミノ酸配列であり、166アミノ酸残基からなる)と配列番号8(成熟体のアミノ酸配列であり、137アミノ酸残基からなる)に、FSNのアミノ酸配列を配列番号10に、欠失型フォリスタチンドメインのアミノ酸配列を配列番号2にそれぞれ示す。
センスプライマー(KpnI-FS-N):5’-AAGGGTACCATGGTCCGCGCGAGGCACCAG-3’(配列番号5。下線はKpnI)
アンチセンスプライマー:5’-CGCGGGATCCCCTAGCTTTTTACATCTGCC-3’(配列番号6。下線はBamHI、アミノ酸は変えずにHindIIIを消去する工夫を行っている(下線)。)
増幅産物をpGEM-Teasyベクターに挿入した(DNA1)。一方、EGFP領域は、GFPベクター(EGFP-1, clontech)から、BamHI-NotIの2つの制限酵素で消化し、pBuescriptに挿入した(DNA2)。DNA1をEcoRI-BamHIで消化して500bpの断片を得た。この断片を、DNA2をEcoRI-BamHIで消化した箇所に挿入した(DNA3)。DNA3をEcoRI-NotIで切断し、1.25kbの断片を得た。CAGベクター(Niwa, H., Yamamura, K., and Miyazaki, J. (1991) Efficient selection for high-expression transfectants with a novel eukaryotic vector Gene 108, 193-200)を基にしてマルチプルクローニングサイトを多数持つように改変したベクターのEcoRI-NotIに挿入した(DNA4:pCAGGS-ΔFS-EGFP)。pCAGGS-ΔFS-EGFPは、ΔFSのアミノ酸配列(配列番号7)とEGFPのアミノ酸配列(配列番号9)がリンカー(LGDPPVAT:配列番号11)を介して連結された構造体(ΔFS-EGFP)をコードするDNA配列(配列番号12)を保持する。
(2)CAGGS-ΔFS-GFPの活性の検討
ヒト胎児腎細胞であるHEK293細胞を用いた。培養液はDMEM-10% FBSを用いた。24ウェルディッシュに8x104個になるよう細胞を播種した。ウェル当たり0.5 ngのCAGA-lux DNA、0.2 ngのβ-Gal DNA及び2μgの当該DNAを添加し、リン酸カルシウム法で遺伝子導入を行った。サンプルには、CAGGS-ΔFS-GFP、CAGプロモーターに全長フォリスタチン遺伝子を連結したもの(CAG-FS)、及びCAGGSベクター(コントロール)を用いた。翌日、DMEM-1% FBSに溶解したマイオスタチン(GDF8) 20 ng/ml、GDF11 20 ng/ml又はアクチビン10 ng/mlを添加して細胞を刺激した(コントロールはリガンドなし)。翌日、細胞抽出液中のルシフェラーゼアッセイとベータガラクトシダーゼ活性を測定した。尚、測定値をベータガラクトシダーゼ活性で補正し、相対的活性を算出した。
結果を図2に示す。FS全長はマイオスタチン、GDF11及びアクチビンのすべてに対して阻害活性を示した。一方、ΔFS-GFPには、マイオスタチンとGDF11に対する阻害は確認されたが、アクチビンに対しての阻害は極めて弱いことが示された。
(3)遺伝子導入及びトランスジェニック個体の同定
CAGベクターは、サイトメガルウイルスエンハンサー、チキンベータアクチンプロモーターとラビットベータグロビンポリA領域を持ち、骨格筋を始め、多くの臓器で強い発現が得られる。DNA4を2つの制限酵素(SalI、HindIII)で切断し、約3.6kbpの断片を得た。断片の抽出では、寒天ゲルを用いて電気泳動し、目的のバンドについて2回抽出処理を行い純度の高い核酸を得た。
得られた約3.6 kbpの断片を、遺伝子発現マウスの作製(Guo, Q., Kumar, T.R., Woodruff, T., Hadsell, L.A., DeMayo, F.J., and Matzuk. M.M. (1998) Overexpression of mouse follistatin causes reproductive defects in transgenic mice. Mol. Endocrinol. 12, 96-106)に用いた。140ng/mlのDNAをBDF1マウス種の受精卵に注入し、移植し分娩させた。離乳させた37匹(雄20匹、雌17匹)について、トランスジーンの発現を確認した。尾からゲノムDNAを抽出し、下記の2つのプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でトランスジーンを確認した。
センスプライマー:5’-AACGTGCTGGTTGTTGTGCTG-3’(配列番号13)
アンチセンスプライマー:5’-CACGCTGAACTTGTGGCCGTTTAC-3’(配列番号14)
PCR反応では、94℃で1分の変性の後、30サイクルの反応(94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で2分)を行い、最後の伸長は72℃で5分行った。寒天ゲルに泳動し、エチジウムブロマイド染色で可視化して陽性判定を行った。19匹で陽性となり、その中から、外観の表現型で筋量増加が顕著な系統について解析を行った。野生型C57BL/6マウスに6回以上交配し、遺伝背景をC57BL/6にし、その子孫を解析した。
2.ΔFS-EGFPマウス(筋肥大マウス)の解析
得られたΔFS-EGFPマウスと野生型マウス(いずれも9週齢)で体重測定を行った。野生型マウスは23.8 gであったが、作製したΔFS-EGFPマウスは、29.4 gであった(図3)。続いて、前頸骨筋、長趾伸筋、ヒラメ筋及び大腿四頭筋について、結合組織等をピンセットで慎重に除去し骨格筋のみを摘出し、重量と形態観察を行った。ΔFS-EGFPマウスでは、GFPの蛍光により肉眼でも分かる程度に緑色を呈していた(図4)。摘出した骨格筋の重量を測定したところ、ΔFS-EGFPマウスの骨格筋では有為に重量の増加が見られた(図5)。
次に、13週齢のマウスの前頸骨筋の筋標本を作製し、抗ラミニン抗体で筋線維の外側を縁取らせるように染色し、筋線維径を測定可能とした(図6)。筋線維面積とその筋面積を持つ筋線維数の関係をグラフ化した(図7)。ΔFS-EGFPマウスの筋標本の測定値は野生型のものから明らかに右側にシフトしており、面積が増加した筋線維が多くなっている事が示された。一方、平均の筋線維面積を計測したところ、ΔFS-EGFPマウスで有為に増加していた(図8)。
筋肉の幹細胞である筋衛星細胞の数が変化しているかについても検討した。筋衛星細胞のマーカーとなるPax7及びM-カドヘリンに関して染色を施し、切片上での数を測定した。その結果、ΔFS-EGFPマウスで筋衛星細胞数の増加が確認された(図9)。なお、ヒトを含めた霊長類および齧歯類において老化に伴い筋萎縮が生じるが、その原因の一つとして筋衛星細胞の機能異常が提唱されている。
一方、グリップ試験と呼ばれる握力の測定によって、作製したΔFS-EGFPマウスの筋力を評価した。グリップ試験には筋力測定装置(室町機械, MK-380S)を用いた。ワイヤで出来た網目(ワイヤメッシュ)を前肢及び後肢でつかまらせ、ワイヤメッシュを離すまで、水平に尾を少しずつ引き戻した。その際の最大の筋力を測定した。測定の結果、ΔFS-EGFPマウスに明らかな筋力の増加が確認された(図10)。骨格筋特異的にミオシン軽鎖プロモーターの制御下でFSI-I分子(FSNに全長FSIを二つ連結させたもの。Nakatani et al., Faseb J 22(2), 477-487, 2008)を発現させたマウスと握力を比較したところ、ΔFS-EGFPマウスの方が筋力が増加していることが判明した(図11)。
3.レンチウイルスを用いたマイオスタチン欠失体の発現と筋肥大効果
ゲートウェイシステム(ライフテクノロジー社)を用いて、ΔFSをエントリーベクターにクローニングした。IRES-Venusを含んだデェスティネーションベクター (SIN(self inactivating)ベクター)を用いた。このベクターはバイシストロニックに目的分子と蛍光分子Venusを個別に発現させることが可能である。両者を混合して組換え反応を起こさせ、CMVプロモーターの下流にΔFS-IRES-Venusが配置された発現ベクター(CMV-ΔFS-IRES-Venusベクター)を構築した。293T細胞上清にレンチウイルスベクターを発現させるために、パッケージングベクター、エンベロープ/Revベクターと共に上記CMV-ΔFS-IRES-Venusベクターをリン酸カルシウム法で導入した。ウイルス含有培養上清を回収し、0.45μmのフィルターで浮遊細胞を除去し、2回の超遠心で濃縮した。9歳齢C57BL6マウスを用い、約3.5×108 IU/mlのタイター(力価)で25μLをマウスの前頸骨筋に投与した。コントロールではVenusのみを発現するベクターを投与した。
4週間後に筋標本を作製し、Venus(緑色蛍光)由来の蛍光と筋線維面積の測定を行った。ΔFS-IRES-Venusを導入した前頸骨筋のVenus陽性筋線維では、コントロールと比較して、筋面積の大きい線維の増加、すなわち筋肥大が観察された(図12)。平均筋線繊維面積でも有為に肥大が観察された(図13)。
4.まとめ
独自の構造からなるフォリスタチン変異体(ΔFS)を利用することによって、筋肥大という特徴的な表現型を示すTGマウスを作製することに成功した。一方、標的組織(筋組織)で筋繊維を増加させるための材料ないし手段としてのΔFS遺伝子の有効性が動物レベルの実験で実証された。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物(筋肥大モデル)は筋肥大機構の研究用ツールとして有用である。また、筋量の低下、筋萎縮などを伴う疾患の治療法の開発への利用も想定される。一方、筋肥大モデルの作製に使用したフォリスタチン欠失体遺伝子には、標的細胞/組織における筋肥大が治療効果に繋がる各種疾患の治療(遺伝子治療)への適用が図られる。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
配列番号4:人工配列の説明:ΔFS
配列番号5:人工配列の説明:プライマー
配列番号6:人工配列の説明:プライマー
配列番号9:人工配列の説明:EGFP
配列番号11:人工配列の説明:リンカー
配列番号12:人工配列の説明:ΔFSーEGFP
配列番号13:人工配列の説明:プライマー
配列番号14:人工配列の説明:プライマー

Claims (13)

  1. プロモーターと、該プロモーターの制御下にあるDNAであって、フォリスタチンN末端ドメインとフォリスタチンドメインIが連結し且つフォリスタチンドメインII以降を含まないフォリスタチン欠失体ポリペプチドをコードするDNAと、を含む遺伝子発現コンストラクトを導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  2. 前記フォリスタチン欠失体ポリペプチドを構成するフォリスタチンドメインは、C末端側の170〜180アミノ酸残基が欠失した欠失型フォリスタチンドメインである、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  3. 前記欠失型フォリスタチンドメインが、配列番号2のアミノ酸配列からなる、請求項2に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  4. 前記フォリスタチン欠失体ポリペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  5. 前記DNAが、配列番号4の塩基配列からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  6. 前記プロモーターがCAGプロモーターである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  7. 前記遺伝子発現コンストラクトがレポーター遺伝子を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  8. 筋肥大の表現型を示す、請求項1〜7のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  9. 非ヒト哺乳動物が齧歯類である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  10. 非ヒト哺乳動物がマウスである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
  11. 請求項1〜7のいずれか一項において定義された、筋肥大用の遺伝子発現コンストラクト。
  12. 請求項11に記載の遺伝子発現コンストラクトを保持する発現ベクター。
  13. 請求項12に記載の発現ベクターを有効成分として含み、サルコペニア、フレイル、悪液質、及び筋萎縮を伴う疾患からなる群より選択される疾患の予防又は治療に用いられる医薬。
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