JP2016113886A - 免震建物 - Google Patents

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Abstract

【課題】地盤上に敷設した基盤の上に転動部材を配して建物の基礎を支持すると共に、該建物の周辺に設けられる擁壁と該建物の基礎梁との間に複数のコイルばねを介在させた免震建物を具体的に設計する。【解決手段】前記建物の質量mと前記複数のコイルばね全体のばね定数Kcとの比、m/Kcが所定の範囲内にある免震建物。前記転動部材をローラ又は球体とすることができる。また、前記複数のコイルばねを同じ仕様のN本のコイルばねとし、上面視で互いに直交するX方向及びY方向に配置することができる。さらに、前記コイルばねの巻き数nを次式により算出することができる。n=G・d4/(64・Kc/N・R3)。前記転動部材がローラである場合、前記m/Kcを0.06以上0.27以下とすることができる。【選択図】図2

Description

本発明は、地震に対する揺れを緩和する免震建物に関する。
本発明者は、地震に対する建物の被害を見直し、基盤の上に互いに直交するX及びY方向に転動する上下二層のローラを介して建物の基礎を載せると共に、擁壁と基礎梁との間に複数のコイルばねを介在させた免震建物を下記特許文献1として提案している。この免震建物において、ローラは建物を大地の揺れから一旦切り離す役目を果たし、コイルばねは建物を地表の揺れに対して不動の状態にする役目を担う。
特開平11−343756号公報
しかし、上記特許文献1では、コイルばねのばね定数を始めとする各数値については具体的に触れていなかったため、免震建物を具体的に設計することができなかった。
そこで、本発明は、上記特許文献1で提案した構成を有する免震建物等において、コイルばねのばね定数等を特定し、免震建物を具体的に設計することを可能とすることを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は、地盤上に敷設した基盤の上に転動部材を配して建物の基礎を支持すると共に、該建物の周辺に設けられる擁壁と該建物の基礎梁との間に複数のコイルばねを介在させた免震建物において、前記建物の質量mと前記複数のコイルばね全体のばね定数Kcとの比、m/Kcが所定の範囲内にあることを特徴とする。
本発明によれば、転動部材によって地震による直接的な衝撃を回避し、コイルばねの伸縮により地表のみが激しく揺れても建物は不動に近く、建物が受ける応答を小さくすることができる免震建物を具体的に設計することができ、この免震建物によれば、コイルばねの作用を最大限に発揮させ、揺れによる家具の転倒がなく、従来の免震工法に不可欠である制御装置が不要となる。
上記免震建物において、前記転動部材をローラ又は球体とすることができる。
上記免震建物において、前記複数のコイルばねを同じ仕様のN本のコイルばねとし、上面視で互いに直交するX方向及びY方向に配置することができる。
前記コイルばねの巻き数nを次式により算出することができる。n=G・d4/(64・Kc/N・R3)(G:素線材料のせん断弾性係数(kg/cm2)、d:素線の直径(cm)、N:X又はY方向のコイルばね総数、R:コイルばねの平均半径(cm))
また、前記転動部材をローラとし、前記m/Kcを0.06以上0.27以下とすることができる。
以上のように、本発明によれば、地盤上に敷設した基盤の上に転動部材を配して建物の基礎を支持すると共に、該建物の周辺に設けられる擁壁と該建物の基礎梁との間に複数のコイルばねを介在させた免震建物を具体的に設計することができ、コイルばねの作用を最大限に発揮させ、揺れによる家具の転倒がなく、従来の免震工法に不可欠である制御装置が不要な免震建物を提供することができる。
免震モデルの説明図である。 実験装置の立面図と平面図である。 免震建物の立面図と平面図である。 記録地震波形分析による地震力γの算定要領を示す図である。 地震記録による地盤種係数dt:地震速度V0の関係を示すグラフである。 震度階K0と速度V0の関係を示すグラフである。 実験波形による加速度α0、及びαの算定要領を示す図である。 地盤種係数dt算定のTc:dtの関係を示すグラフである。 動的解析(動2)による地震力γ:地震加速度α0の関係を示すグラフである。 地震加速度α0式における指数n0の算定式を示すグラフである。 K=m/Kc/0.34を関数として表せる固有周期Tb’の算定式を示すグラフである。 K=m/Kc/0.34を関数として表せる基本減衰定数h0の算定式を示すグラフである。 実験によるγをパラメータとした固有周期Tbの算定式を示すグラフである。 実験及び動的解析による建物応答α1、α’の算定式を示すグラフである。 γ載荷(実1)、強制変位載荷(実2)による固有周期Tbを示す実験波形である。 復元力特性δ:Q’の関係を示すグラフである。 減衰定数hをパラメータとした共振曲線を表すグラフである 加速度応答スペクトルにおけるTbとの関係を示すグラフである。 動的解析(動2)による地盤種別応答変位図である。
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
1.はじめに(本発明の概要と課題)
巨大ビルを一瞬にして倒壊させる地震力Qは、地震による地動の加速度α0と建物の質量mによりQ=α0m式で算定される。本発明は、地震に強く1000年以上の実績を誇る五重塔に注目し、その要因を次のように考えモデルとした。その要因は地震力に見合った初層の剛性(Kb)と塔全重量(m)のバランスが良い事による。心柱を地盤から切り離して塔の全重量を支える側柱を上層の各柱よりも長くすると同時に、梁を支える接続部の構造も巻斗など匠の技で水平力に対し変形し易くする。このことは、地際部分の剛性Kbを小さくすることにより相対的に固有周期Tbを大きくすることになる。つまり、固い地盤周期Tcに対し建物の固有周期Tbが大きくなることでTcとの共振を避け、地表の揺れから解放されることにつながる。本発明は、この考えをローラとばねに置き換え、実質的には建物を大地から切り離すことで構造的に1質点状にするものである。構造的に多質点の高層建物の揺れを1質点状にすることで解析が明快となる。現在の免震工法が地動による振動特性を反映して制御機器が不可欠となるのに対し、建物の応答加速度αを小さくすることで相対的に重力gの引きつけ力が強くなるg制御に依存するものである。このことは、建物の規模や形状に関係なく地震動と建物振動の問題、即ち震動(ふるえ)と振動(揺れ)の問題となり、建物の質量mとバネの剛性Kcとの関係に帰結する。つまり、地盤の固有周期Tcは建物の固有周期Tbよりも小さいため、地震動が打ち消されて共振することもない。更に、ローラ摩擦係数μは、地動速度V0に逆比例するため建物の地震環境は大きく変貌する。従来の耐震設計が使用材料の許容応力度σを対象に安全確認をするのに対し、本発明では、建物の応答加速度α<100ガルにより家具転倒の危険がないことを目標とするものである。
この工法の実験モデルは、多様な建物が柔軟ばねにより1質点状になることから、図1 (a)の基礎加振の数学モデルは図1(b)により具体的に表現される。建物を大地から切り離した本発明の構造解析は、従来の静的問題としての扱いでは不十分で動的な究明が必要とされる。つまり、地震力と建物双方が多様な動的変化の組み合わせになることである。従ってその対策は、図2の実験装置により実験の分割単純化によるデータ分析が可能となり対処するものである。即ち、m/Kcの違いや地震力γの変化による建物応答分析等、微妙な変化による減衰メカニズムの実態解明も可能となる様考慮するものである。本発明のポイントは、ローラ等の転がりと復元用ばね力Kcにより、構造形態や規模に関係なく統括された構造特性となることである。このことは、時間的変化を伴う動的な問題となり、究明の範囲を地震力と建物応答の関係に絞ればよい。そこで、次項に示す6つの課題に単純化して究明することにした。つまり、本発明を具体化するための課題を分析すると、(1)多様な建物のm/Kcバランスの見極め、(2)本発明による地震力γの算定、(3)地震力γによる建物応答加速度αの算定、(4)減衰メカニズムと復元力特性の究明、(5)最適ばね定数Kcの決定、が想定される。更に、建物の振動特性と多様な地震力との組み合わせによる(6)記録地震波による動的シミュレーションでの実態確認が必要とされる。
課題に対する取り組みは、先ず多様な建物の構造形態を質量mに対する剛性Kbとのバランスm/Kb値で統一して評価するものである。即ち、様々な地盤種による記録地震波を適用した動的解析により11タイプに分類することで最適剛性が算定されることを確認した(表1参照)。以後この動的解析を(動1)と略称する。次に、地震力γを地盤種係数dtと地盤の加速度α0の要素により算定する式を、地震記録データの分析により解明した(図4参照)。このことにより、γに対する建物の応答と減衰の実態を確認する実験を図2の装置で行った。これは、γ載荷により地震加速度α0と建物の応答加速度α1を対比させ、減衰要素hやCの実態から最適ばね定数を究明するためのものである。このγ載荷による実験を以後(実1)と略称する。
γ:α/α0の実態を確認するためのγ載荷による実験に対し、図2の建物モデル10を支えるばねを強制的に、変位量をδ=5cm、10cm、及び15cmに伸縮変位させた状態で解放することによる応答α2及び固有振動Tbを計測する実験を行った。この目的は、(実1)がγそのものを対象とするのに対し、地動γにより変位した建物の自由振動による応答を確認するための実験で、以後(実2)と略称する。両者の結果は、表2と表3に示され、それぞれの応答と減衰の実態が確認された。しかし、以上の動的解析や実験では、実際の地震時の建物応答は把握できない。なぜなら、文献1の動的解析(動1)では、剛性Kbが実験で確認されたローラとばねの組み合わせによるKcが反映されておらず、(実l)、(実2)ではγや強制変位など単独の地震力を想定したもので、地盤特性の違いによる大きい地震力の応答が反映されていないからである。従って、実験で確認された等価剛性Kb’や減衰要素C、hなど、本発明の振動特性を反映させた記録地震波による動的シミュレーションを行うことで本発明の実態を確認し、これを以後(動2)と略称する。
図3(a)は本発明に係る免震建物の立面図、(b)は平面図であり、基盤1を掘り下げ、その上にX及びY方向に転動する上下二層の鋼管からなるローラ2、3を敷き、その上に基礎4及び建物5を載せるものである。鋼管は、中空又は充填材入りとすることができる。また、ローラ2、3に代えて鋼球を用いることもでき、建物5を大地の揺れから一旦切り離す役目を果たし得るすべての転動部材を用いることができる。そして、基礎梁4(以下「建物5」という。)と擁壁1’との間のX及びY方向に複数のコイルばね6を介在させるものである。この場合、コイルばね6の両端は建物5と擁壁1’に固定し、コイルばね6を水平方向には自由に変形が可能になる様にしておく。尚、図示の建物5は平面視四角形をしていないことから、擁壁1’の周囲もこれと相似形にしている。これは、コイルばね6の長さ等の仕様をさらに近くするためであるが、これに限定されるものではない。更に、コイルばね6の組み込みは同列が基準であるが、上下に重なるものであってもよい。
これは、X−Yローラにより建物が自由に移動することで建物を大地から切り離し、全方向の地震衝撃から解放するためである。地盤と建物を繋ぐコイルばねは、地震力が建物重心に対して等モーメントに負荷されるように総数Nを配置して免震が可能となる総ばね定数Kcを設定し、これからばねの軸径d、直径D、それに巻き数nを設計する。このように、建物を大地から切り離し、γに合わせて設計された免震装置が機能するためには、ばねの設計と建物の重心からの配置に十分留意して、大地震時に建物の動きが偏らないための細心の配慮が必要となる。以上、本発明は、今まで経験のない工法のため、実態解明には実験や動的解析に依存することになる。従って、多くのデータを統計的に分析して試行錯誤による傾向の把握が必要となる。即ち、関係する文献の各公式や公的記録と対比させながらグラフや算定式による妥当性を確認検証する手法である。
2.課題別の詳細説明
課題(1)、m/Kbバランスの見極め
本発明は、前述したように地震に強い五重塔の特性である初層の剛性Kbを、ローラ等とばねに置き換えて地震加速度α0を回避させ、安定した揺れでの復元を可能にするものである。このことは、質量mに対するばね力Kcの決定が加速度制御の鍵となることが分かる。即ち、本発明の特徴は、制御機器を使用しないで家具転倒がない揺れと完全な復元の両者を満足させることである。従って、本発明を実現するための第一要素がm/Kcバランスと考え、(表1)に示す様々な建物を対象に、記録地震波によりその実態を確認した。要領は、dtの異なる記録地震波を適用して多様な形状の建物それぞれが、最下層から最上階迄垂直を維持して1質点状の揺れとなるとき、つまり応答が最小となるときのmに対する剛性(実験ばねKcと区別してKbで表す)Kbを確認した前回出願の表1に示す11タイプ分類である(動1)。
動的解析(動1)は、軽量な住宅から大規模ビル、更に寺院などに見られる屋根の方が重くなるトップヘビー(TH)タイプの特殊建築などを対象に、時刻歴弾性応答解析プログラム[建築構造設計のためのBASIC、宮沢健二、井上書院、P120]により、表1に示す31ケースの質点系モデルにより解析した。具体的には、演算入力Kbを徐々に小さくして繰り返すことで揺れが最も小さくなるm/Kbを確認するものである。全モデルについて最大の応答となる地震波(十)によりテストした結果、m/Kb=0.053〜0.544の範囲となることが分かった。更に、個々の建物のKbを一々動的解析で求める煩わしさを避けるため、Kbの算定式を11タイプに分類して算定すればよいことも分かった。つまり、前回出願における(動1)結果を参考にし、ローラとばねによる本発明の今回の実験計画に活用する。
計画実施したγに対する応答αの実験結果では、(動1)の剛性Kbに比べて実験ばね定数Kcの衝撃吸収効率が高く、適用範囲もm/Kc=0.068〜0.272に収まることが分かった。その原因は、mに対する(動1)Kbを実験Kcに換えたm/Kc実験結果では、免震効率に優れて31ケースの建物の全てが家具転倒のない揺れに納まり、11タイプの分類も必要がないことが確認された。即ち、mに対するKcの関係が、地震加速度α0の回避や減衰メカニズムによる吸収の実態から相対的に変化することである。また、表1のSRC−10剛タイプm/Kb=0.275とS−33、U柔タイプm/Kb=0.544の両者を、(実2)により確認された等価剛性Kb’と減衰定数hを入力して(動1)、プログラムにより比較した両者の応答結果はほとんど同じとなることが確認された。従って、本発明の適用範囲は、安定的な復元力を考慮してm/Kc=0.068〜0.272とするものである。この様な結果となる要因は、以降に取り組む課題それぞれにより示される。
課題(2)本発明の地震力γ
大地に固定された建物の地震力Qは、建物の質量mと地盤の加速度α0によりQ=α0・mと算定される。これに対し、本発明において、地震力はローラにより建物が地盤の揺れから解放されてばねにより間接的に伝えられるため、支持地盤ごとの揺れ幅γを対象に次の式で表せる(図4参照)。
γ =dt2α0(cm)……本発明の地震力
この式に適用されるdtは、表4に示す動的解析に適用した地震記録波のうち宮城沖(以下「(宮)」と表記する。)、エルセントロ(以下「(E)」と表記する。)、十勝沖(以下「(十)」と表記する。)による応答がdtの違いで大きく異なることにより発見された。即ち、同じ建物で、同じ加速度を入力したにも拘わらず適用する地震波の違いで応答に大きな違いが出るたことによる。その原因を分析した結果、地震波を構成する地盤速度V0と加速度α0の割合dt=V0/α0の違いで発生することが分かった。ここで、地震による地表の揺れ幅を地震力とする本発明では、dtを地盤種係数と定義し、後述するdtを3分類するなどにより特定した(表5参照)。ここで、α0やV0等の添字がついた記号は地盤を対象にしたものであり、添字のないものは特に断らない限り建物及び建物モデルの応答を表すものである。
地盤種係数dtの値は、本来土質工学理論により詳細に追求する課題ではある。しかし、前述したように本発明による建物は、Tb>Tcによりローラの転がりとばね伸縮により地動の影響が打ち消されるため殆ど不動となる。それゆえ、γ算定におけるdtの算定誤差が応答に大きく影響するとは考えにくい。そこで、dtの算定が可能である場合の他は、従来の地盤の硬軟で分類する図14の方法が本発明の現実的な適用方法とも考えられる。このことは、スネルの法則”地震波の媒体(地盤種)が変わることで伝播速度と方向が変わる”[地震の揺れを科学する、山中浩明、東京大学出版会、P81]によっても理論的に特定することは困難と考えられる。このため、多様な地盤の性質を硬軟のみにより分類できることのほうが妥当と考えられる。
dtの特定は、地盤種が分かりやすく特定できる旧建設省告示1793号のTcによる3分類する方法を準用することにした。即ち、岩盤(第一種地盤)、軟弱地盤(第三種地盤)、その他(第二種地盤)で固有周期Tcを表5のdtに置き換える要領で、表4の地震記録データを元にしてdtを特定するものである(表5参照)。尚、分類が困難な場合や精度を必要とする場合には、後述の図8Tc:dtによりdtを決定するものである。即ち、次項に示されるTc式により、ボーリング調査結果をもとにdtが算定される。
支持地盤ごとのN値を利用した図8のdt=0.2・TC式によるdtは、次の要領で算定される。地震時の地盤固有周期TGは、地盤の種類や硬さによって定まり、地表面付近の地震波の周期Tsと、Ts=1.25TGの関係があることから、このTGは次の式で算定される[土質工学、石井一郎他、技術書院、P213]。このTGを表5告示Tcに置き換える要領は、”硬質な地盤の卓越周期約0.2秒以下と軟弱層の厚い地盤周期約0.4秒以上[土質、基礎工学、南和夫他、鹿島出版会、P14]”が参考になる。卓越周期はTGとほぼ同値であり、表5の第一種地盤のTc=0.4、第三種地盤のTc=0.8それぞれの約1/2に当たる。従って、TcはTGの約2倍であり、これをN値の実態に合わせ、TGとTCとの関係式、あるいはN値の平均と長期許容地耐力度(基礎構造設計規準1950年版)の関係を基にしたTC=0.9−0.025N式等を参考に地盤の実態を見極めた式により算定する。
G=4ΣHi/Vsi
ここに TG:地盤の固有周期(s)
Hi:i番目の層厚(m)
Vsi:i番目の平均せん断弾性波速度(m/s)
砂質土:Vs=80N1/3 (m/s) (N≦50)
粘性土:Vs=100N1/3 (m/s) (2≦N≦50)
前述の表5によるdtの3分類、又は図8に示すdt=0.20Tc式によりdtが特定され、γ算定式に必要な残りのα0を特定すれば各地盤種毎のV0も算定されることになる。また逆に、V0が特定されるとα0は同様に算出される。従って、図6に示す気象庁の震度階により算出することも可能であるが、本発明の地震力が地盤種を対象に算定されるため、dtV0との関係を地震記録により確認することにした。このV0は、表4のα0が600ガル以上の大地震におけるdtとV0の関係を図5の様に単純にプロットすると、ほぼ直線式となりV0=829.6dt式で表せる。これは、表4で示されるように、V0は地盤構成を反映して算定され、スネルの法則”地震波の媒体(地盤構性)が変わることで伝播速度と方向が変わる”[地震の揺れを科学する、山中浩明、東京大学出版会、P81]を裏付けることが分かる。このことから、後述する(動2)の結果と地震記録データの分析により、図5のdt:V0をベースにした地震力γ=dt2α0式の各要素が関連式として確認された([0066]γ式の検証参照)。
(表6)における(宮)、(E)、(十)各波の応答結果は、それぞれα0max点のdt=0.07、0.11、0.17を反映したものとはならなかった。表6に示すSRC−10におけるdtに対し出力変位δを基に算出したγ=δ/0.87によるdt=(γ/α00.5の値は、それぞれ0.147、0.092、0.21となる。この違いの原因は、dt=V0/α0の乱れ、つまり(宮)波のように、α0max点が必ずαmaxになるとは限らないことである。これは、各波それぞれの地盤特性となる震源の位置、マグマの温度差、軟弱地盤等、地盤構成の違いが考えられる。このことは、(宮)波、(十)波共に震源が太平洋の遠距離にあること、また、両者とも実際の最大加速度が表4により258.9、224.0と想定され、α0=max800ガルに比べ1/3と小さいことも特徴である。これにより、dtの乱れを整理すると、阪神、中越地震の直下型大地震に比べ震源が遠距離の場合に発生することが分かる。従って、地震力要素dtの特定は、図9に示す直下型大地震を対象としたγに対するα0式と図5のdt:V0のV0=829.6dt式をベースにしてdtを特定する必要がある。家具転倒のない揺れα<100となる(図14)α’式の地震力γ=17.0を本発明の適用範囲とすると、γ式の3要素の分析結果からdt=0.143となる([0066]γの検証参照)。
課題(3)地震力γによる建物の応答加速度α
本発明では、建物質量mがローラにより一旦大地から切り離されるため、地震力γはばねを経由して間接的に建物に伝達されることになる。従って、今までの耐震設計で地震力を静的に置き換えて強度を確認する許容応力度法や、単純に振動台を揺らせて建物の安全を確認する方法では必要とするαの実態は把握できない。時間とともに変化するαの実態解明には、地震力γ=dt2α0式における各要素別の影響を確認することが必要となる。そこで、図2に示す実験装置により地盤モデル8を支える基盤7と建物モデル10の相対的に関係する部分3層により、γやW’及びm/Kcを変化させた実験データを分析することによりdt及びα0を算定する。また、γやm/Kcが変化することでαが変わりdtも変化する。従って、実験データはW、W’、γ別に記録され、波形分析に必要な時間tもそれぞれの算定式により正確に求める必要がある。実験データは目的別に次のように分けて分析することにした。(実1)γ載荷による建物の応答α1とα0の実態究明(表2)と、(実2)強制変位載荷による応答α2と減衰メカニズムの実態(表3)を明確にする。また、減衰の実態究明から、解明された等価剛性Kb’と減衰定数hを導入した(動2)による応答加速度αの究明は取扱上実験関係とは別に、課題6として取り上げて究明するものとする。また、本発明は、ローラの転がりにより建物が衝撃α0から回避され、重力による地軸への引きつけ力により揺れが小さく安定する。このときの建物の応答αは、建物の固有振動数ωと地盤の振動数ω0の関係がω<ω0となり柔構造となる[建築振動学、田治見宏、(株)コロナ社、P4、38、47]ことが分かる。即ち、図2の実験モデルで示すように建物がローラで切り離されることで応答加速度αと変位δは逆位相となり、ニュートンの運動方程式、mα−(CV+Kcδ)=0式で算定することになる(図1参照)。
図1は本発明に係る免震モデルの説明図であるが、ここでの文字、記号については後述する。図2(a)は実験装置の立面図、(b)は平面図である。地震力γの入力は、実験装置を支持する基盤の上にローラ7(2)を介して、γの距離で固定されたW’(釣り荷重)を開放することで模擬地盤8を加速させて載荷する。この加速に対し、模擬地盤8の上にローラ9(3)を介して重量Wの建物モデル10がばね力を介して建物モデルに伝達される。これらの加速方向はX又はYの一方向のみを想定するもので、加速度の計測は、模擬地盤8の上の転倒棒13の転倒の有無によりウェストの公式K=B/H[後述大崎著P68]で算出されるα0の値と、基盤上に設置されたプリンタによる波形分析によるα0値が算定され、両者の照合により近似することで妥当性が確認される。同様に、建物モデル10の上に立てられた転倒棒12により、加速度αが計測されて模擬地盤上に設置されたプリンタ14により応答の波形が記録され、同じ要領でαも算定される。従って、実験データの分析は、図7に示す記録された波形の接線dt(地盤種係数と区別して説明ではΔtで表す)Δtを後述する微分方程式により解き、転倒棒の結果と照合すると共に固有周期についても記録波形の実測Tb’とTb=2π/ω式結果と照合して実験の整合性を見極めるものである。このようにして、W’、W、γを種々変えて、γの変化つまりdt、α0の変化に対応する応答αが表2下のデータ統計分析式により算定され記載される。
図2の装置による実験結果の分析は、記録された波形図7の時間tを変数とする微分方程式γ=dy/dx=α・Xnをルンゲ・クッター法によるプログラムで解き、Δt(入力波)及びΔt’(応答波)を求めるものである。ここで、実験波形について図7に示される(40606)を例にして説明する。実験は、図2の装置により吊り荷重W’=4.0kgをγ=6cmの距離で切り離すことで載荷される。これによる波形は、基盤上に設置されたプリンタに、基軸である原点AからA’まで加速されて移動するものである。地盤モデルは、プリンタの向きによって図1と逆方向の右向きに描かれて加速の変化を表すものとなる。これに対し、応答波形は地盤モデル上に設置されたプリンタによって描かれるため、進行の逆方向つまり左向きにBからB’までδだけ変位する。即ち、建物モデルの変位は、地盤モデルと対象的に描かれる。γによる変位は実験結果を集約するとδ=0.87・γ式で求められる事が確認された。従って、建物モデルの絶対変位は、地軸の原点Aを基準にすると、A〜B’までのδ0=0.13・γ式で算定される小さいものであり、実際の地震動においても建物の揺れは加速度制御により不動に近いものであることが想定される。
表2における項目は、左からW’、W、γによる実験コード番号、Δtはγの時間、dtは記録波形の微分解による接線、α0はα0=γ/Δt2式で求める地震加速度、同様にV0=γ/Δtは地震速度、Δt’は建物モデルの応答波形を微分解により求めた接線、αはα=δ/Δt’2式による応答速度、同様にV=δ/Δt’式による応答速度である。加速度については、図2に示す転倒棒結果と、記録波形の微分解による地震力γの加速度α0、及び建物の応答加速度αとを比較することにより実験値の妥当性が検証される。尚、このαは、後述する減衰係数Cの変化に大きく影響されて変化し、計測された変位δが、δ=0.87・γ(γ<17)式で算定しても応答αに大きく影響されることはないことが確認された。尚、W’=2.5のグループ9ケースが第3種地盤dt=0.16以上にほぼ該当し、W’=5.5の9ケースのグループが第一種地盤dt=0.08に近くなる。残りの9ケース、つまりW’=4.0のグループが第2種地盤に見立てられることで地盤種による応答変化の分析にも参考となる。以上、(実1)のポイントは、大地震時における本発明の応答がTc<Tbとなることにより、ローラの回転とばね収縮から地震加速度α0が打ち消され建物は不動に近い揺れとなることが確認された。その他の実験式もディメンションに合わせた関数を横軸にとり、縦軸にプロットすることで近似式を作成する。例えば、図11のK:Tb’式は、表7に示すKを関数として実験波形による計測Tb値をプロットして直線式で表す。その算定値は、図15(a)の計測値に近似することが分かる。
地震加速度α0及び建物の応答加速度α1は、前述の実験方法により、時間tに対するγとδの波形を記録して図7に示す要領で算定する。即ち、実験により記録された波形を元に微分解によりそれぞれの接線Δt、Δt’を求め、α0=γ/Δt2、α1=δ/Δt’2式により算定する。具体的には、表2に示されるように、図2の実験装置により釣り荷重W’、建物重量W、地震力γの組み合わせをコード番号として、W’=2.5、W=40、γ=3の場合(25403)と表示して区別する。ケース別に順序良く記録してデータを統計的に処理した式を適用することで、実験に伴う誤差が吸収される。記録された波形の微分解によるΔt、Δt’は、表2下(注)のα0及びα式の結果に置換されてdt、dt’と表示される。また、図11のK:Tb’式も、記録波形による計測Tbを表7に示すK毎にプロットすることで、直線式Tb’=(1.255+3.185K)(1−0.005γ)式で表せる。
以上のγに対するαは、建物を大地から切り離すことにより今まで想定しなかったQ’=αm式で扱うことの違いを明らかにしたものである。即ち、γ載荷による建物の応答加速度αの実態は、ローラの回転によりα0が完全に回避されて建物に直接影響することはないことが実証された。このことは、転倒棒結果と波形分析結果の値が近似することを前提にデータを統計的に分析した結果、α1式で表すことにした。即ち、表1の結果は、Wの違いでα0の値が変化するのに対しα値は変化しないことによりα0が回避されることを表している。つまり、α0及びα1の値は、表2下に示す転倒棒と波形分析データによる統計式α0及びα1式により算定されたものを表示するものである。
図15(b)に示す自由振動波形、つまり強制変位載荷(実2)による建物モデルの実態は、重量Wつまりm/Kcの大小により微妙に変化することが分かる。m/Kcが大きくなるに従って波形の波数が少なくなり、最初の固有周期Tbは大きくなるが次のTbは急激に小さくなることが分かる。このことは、m/Kcが大きいほどローラの転がり摩擦係数が大きくなり、相対的に速度Vは小さくなることにより減衰が大きくなることを示している。即ち、W=60(m/Kc=0.204)の波形において、載荷変位δに対する次の波の変位δ1は約半分と小さくなっている。加速度制御の実態は、この波形分析による減衰メカニズムの究明がポイントとなることを示唆しており、次の課題として説明する。
(実2)のデータ、表3は、m/Kc別の強制変位δ=5cm、10cm、15cm毎の応答α2と減衰要素の算定結果を示すものである。この算定式は、本発明の自由振動によるもので、これら実験により確認された要素を後述する(動2)に適用することにより、連続波における減衰と応答の実態が確認される。即ち、一種地盤の(宮)波のdtの小さい硬地盤から、dtの乱れが大きくなる三種地盤種の(十)波まで動的解析シミュレーションにより挙動の実態を確認したものである(表6、図19参照)。ローラとばねの仕組みによる自由振動において、等価剛性Kb’は、ω=2π/Tb式から次式のように展開してKb’=(2π/Tb)2m=ω2m式で算定される。
また、減衰定数hは、h=h0/n’式で算定されることが確認された。このことは、(表3)におけるTb〜αまでの数値と後述する減衰メカニズムによる算定式の結果とがほぼ近似することによる。(実2)における応答結果は、本発明のポイントとなる加速度制御を生成する減衰メカニズムを立証するもので、m/Kc=0.068に対しm/Kc=0.204の減衰係数Cは10倍も大きくなる実態が確認される(表3)。
Tb’=(1.255+3.185K)(1−0.005γ)(α0/800)0.05………γ載荷実験(実1)による固有周期。
α1=(10.726γ−0.16γ2)(0.41/dt’)0.1………γ載荷実験(実1)による応答加速度。
α2=(8.586γ−0.094γ2)(0.204/m/Kc)0.85………強制変位実験(実2)による応答加速度。
課題(4)本発明の減衰メカニズム
ローラの転がり摩擦係数は、実験によりμ=0.007で、載荷による転がり始めの摩擦係数は0.01であった。このことは、クーロンの法則である、“運動摩擦力μkは、最大摩擦力(動き始めようとするときの摩擦力μsよりも小さい(μs>μk))”[工業力学、青木弘、(株)養賢堂、P39]を裏付けるものであった。即ち、この経験法則は、固体に限らず転がり摩擦にも適用できることが前述のμ実験結果で確認された。このことは、地動により建物が動き始める時の摩擦よりも小さい摩擦で復元できることを表しており、本発明の加速度制御においては地震力γにより変位した建物がより復元しやすい環境となることを意味する。このように、復元にとって有利な法則による裏付けと摩擦係数が小さいことは、衝撃を吸収しやすく制御機器を使用しない本発明に有利な展開となり、目標とするα<100ガルの安定した揺れと加速度制御を可能にする必須条件であることが分かる。
本発明における主な減衰要素は、〔構造物の振動、志賀敏男、共立出版(株)、P41〕で示されるように、復元力特性は、建物の力と変形との関係、つまり剛性の変化を表すだけでなく、建物の減衰をも表すため、建物は地震力γに比例した変位δにより大きな減衰定数hとなる。ローラ摩擦によるμWとばね伸縮による応答αmの双方がγの変化に応じて自動的に調整されることで生成される。V=dtαが大の時摩擦係数μは小さくなり、逆にVが小の時μは大となる。従って、減衰メカニズムの実態は、γ載荷(実1)による表7及び表3データにより実態が究明されることになる。表3のTb以降の減衰要素は、図15の波形の固有周期Tbと算定Tbを照合できる表7の該当4ケースによりh0を算定したものである。γ載荷は特別な載荷による場合の減衰でありh0を特定するためのものでm/Kcを関数とした算定式となる。図12のK:h0は、実験においてW=100のときh0=lとなり、表7に示すそれぞれの横軸Kに対するh0を縦軸にプロットすることにより、h0=0.167K+0.833K2式で表せることを確認した。減衰を伴う円振動数ω’は、次式[建築振動学、多治見宏、コロナ社、P12]により算定する必要がある。
表7は、(実1)の表2データによるもので、減衰係数はC=(αm−Kcδ)/V式で算定する。
表3は自由振動における減衰メカニズムを確認したもので、減衰係数はC=hCc式で算定する。自由振動によるωはω=2π/Tb式で算定され、固有周期Tbはγを関数にしてm/Kcの違いにより補正される。このことは、(図15)実験記録波形(b)によるδが同じ場合のTbの変化がm/Kcが大きくなるほどδの次の第一波δ1が急激に小さくなることから次項により確認する。また、減衰関係式は(表3下)に示す次式により算定される。
本発明加速度制御のポイントでもある減衰メカニズムの実態は、実験波形図15(b)の自由振動による実験波形を分析することにより対応するものである。対数減衰率(δ)(建築の振動、西川孝夫、朝倉書店p30)を参考に、本発明の強制変位δの次の波形変位を次式のように表すことにした。
つまり、γ載荷による(α)の波形では、m/Kc=0.068(W=20)のTb=1.835sに対しm/Kc=0.204(W=60)のTb=3.071が大きくなり、対数減衰率カーブは変化することが分かる。これに対し、自由振動(b)のTbは小さいためωが大きくなることでカーブの傾向がさらに強くなることが分かる。強制変位δ載荷後に応答加速度αが最大となるときの変位δ1の時間(t)がt=0.253Tb式で算定されることから、運動方程式における速度V’は下記に示す式により算定される。尚、これら自由振動における減衰要素の妥当性については後述する。即ち、表3の強制変位載荷(実2)におけるm/Kc=0.204、変位δ=5cm、10cmの実験式α2と表6のSRC−10(宮)、(十)の動的解析による応答α’の4ケースと、表7(25206)のm/Kc=0.068の計5ケースの応答α’について、運動方程式α=(CV’+Kb’δ’)/mによる算定結果と照合して近似することにより次式の妥当性を確認するものである。
課題(5)最適ばね定数Kcの決定と復元力特性
本発明におけるばね定数の決定は、ローラ摩擦とバネ力との相関関係を反映させた最小の揺れで完全に復元できることが条件になる。具体的には、動的解析により様々な多質点建物の地震における応答が1質点状になることを前提としたm/Kcバランスと、実験で復元を確認した表3 m/Kc=0.068(W=20kg)〜0.272(W=80kg)の範囲から選択することが前提となる。表3において等価剛性Kb’は、m/Kcの違いで減衰定数hが大きく変わり、本発明の減衰メカニズムがm/Kcの変化に敏感なことが分かる。即ち、m/Kc=0.068に対しm/Kc=0.204では減衰係数Cが約10倍になり、応答加速度αは1/2に減少する。また、建物の絶対変位δ0=0.13γが小さく、固有周期Tbが大きく、安定してゆったりとした揺れとなることから、ばね定数としてm/Kc=0.204を選択し、Kc=5mとした。その他、表3の減衰定数h=0.435〜0.527は、図17の共振曲線グラフから、細長く柔軟なビルなどに発生し易い長周期地震動(Tb=2〜6s α0=0.8〜2.5ガル)に対しても、(本発明のα0回避により)共振に発展することなく安定が確保されることが分かる。また、表3の固有周期Tb=2.29〜2.543sは、図18の応答スペクトルで示されるように、岩盤など一種の硬地盤から、三種の軟弱地盤における応答加速度αは大地震に際しても安定した揺れが確保されることが分かる。
本発明の最適ばね定数 Kc=5mによる復元力特性は、表3のm/Kc=0.204データにより、横軸に建物の変位δ=5、10、15cmをとり、縦軸にQ=α’mをとることで図16に示される非線形弾性型となる。即ち、ローラ摩擦を伴うばねの伸縮から“復元力の増分が変形の増大に伴って大きくなるハードスプリング型”[構造物の振動、志賀敏男、共立出版(株)P38〜41]となる。本発明の変位δは、地表の揺れ幅に合わせて伸縮するばねの相対変位であり、建物の絶対変位(原点からの変位)δ0は揺れ幅γに比例してδ0=0.13γ式で算定される小さいものである。従って、大きなTbにより、ゆったりとした揺れで収束することになる。つまり、前述した減衰メカニズムにより安定した不動に近い揺れでの復元を可能にするものとなる。
課題(6)動的シミュレーションによる実効加速度の影響確認
本発明は建物を大地から切り離す特殊工法のため、地震と建物応答の関係は未知の分野となる。従って、(動l)によるm/Kcバランスの追求や、地震力γ単独波による(実1)や(実2)の応答実験だけでは分からない部分について安全性を確認する必要がある。特に、本発明の特徴である加速度制御の実態は、地盤特性の違う記録地震波を選んで前述した(動1)プログラムにより影響を確認する。具体的には、図19に示す記録地震波3種類を適用し、表6に示すm/Kcの違う6タイプにより実態を確認する。即ち、実験では確認できない連続波による当方式の応答の実態を前述の自由振動における等価剛性Kb’、減衰定数h’を適用して実態を確認する。ここで留意したいのは、(動2)における建物の出力変位は、実験で確認した相対変位δに相当するものであって絶対変位δ0=0.13γではないことである。即ち、図19の動的解析(動2)による変位図は、建物の最下層の地盤に対する相対変位を表すもので、この点でプログラムの適用条件は実態と微妙に異なるが、本発明の機能に大きく影響するものではない。つまり、応答は出力δ’をγ=δ’/0.87式により換算したγに対するα’値により評価することになる。従って、dt値も本来はdt=(γ/α’)0.5式により変化する。尚、表6におけるm/Kc=0.204以外のケースについても同じ条件でKb’、h’を算定入力した結果をそのまま掲載するものである。
(動2)による出力結果は表6に示され、図19により、地盤種別応答の傾向は次のように整理される。1種地盤(宮)の場合、入力加速度の時間軸における最大加速度α0max点より前、つまり発生後まもなくdtが不規則で大きめの加速度α0が偏って続く特徴がある。これにより、応答変位δはα0max点より大きくなることが分かる。このことは、実効加速度(後述大崎著P97参照)α0’の影響により応答αが入力α0max点より大きくなることを表している。これに対し、二種地盤(E)の場合は、地震発生後まもなく最大加速度点に達し、加速度の時間軸に対する偏りやdtの違いも小さいため、γの往復運動による打ち消し効果が大きくなる。即ち、応答は小さくなることが分かる。これらに対し、軟弱地盤想定の三種(十)の場合ではdtの乱れが大きいため、δもαも特別大きくなることが分かる。即ち、時間軸における、最大加速度α0点前後でα0群が大きく片側に偏るため、応答が特に大きくなるケースと言える。特に、本発明の特徴である加速度制御のためのばね力Kcが小さい建物では、図19の十勝沖波モデルの様に地盤加速度α0が時間軸に対し片方に偏る場合、応答が異常に大きくなる。このことは、1971年のバコイマ・ダムの加速度記録1150ガルを積分して速度として評価すると最大加速度よりも速度の最大値のほうがより実効的であり、実際の被害をよりよく説明できる。[地震と建築、大崎順彦、岩波新書、P99]が参考になり、地震加速度α0よりも速度V0に注目した実効加速度の影響による本発明の実態を表すものである。
以上のように、記録地震波(動2)における建物の応答は、地盤の持つ特性によりさまざまに変化することが分かる。即ち、現実の地震動では時間軸に対し常に等分に揺れるのではなく、地盤の状況次第でα0の偏りが生じて建物の応答に影響を与えることが分かる。この地盤種によって変化する応答を出力データにより整理すると(表6)の結果となる。これより、最適ばね定数のm/Kc=0.204に該当する(SRC−10剛)に注目し一種(宮)〜三種(十)地盤の出力変位δ’と応答加速度α’から図14に示すγに対する建物の応答加速度αのグラフ及び式を作成した。即ち、出力δ’から逆算したγ=δ’/0.87を算定して出力α’を対応させ、γを横軸にαを縦軸にプロットしたのがγを関数とした本発明の応答加速度α’式である。これに対し、(実2)データによる応答加速度α2式はやや上回ることが分かる。つまり、(動2)の結果は、地盤種係数dtの乱れの程度によりγが決まることが確認される。従って、地震力に対する建物応答αの算定は、家具の転倒しないα<100ガルを指標にγ=17以下を(硬)地盤種とし、それ以上を(軟)地盤種として分類する方法も考えられる。即ち、〔0034〕で説明したγの3要素からこのときのdtをdt=0.143≒0.15で特定するものである。
Tb=(2.144+0.0265γ−0.0002γ2)(m/Kc/0.204)0.5………自由振動による固有周期(実2)。
α’=(6.873γ−0.059γ2)(0.204/m/Kc)0.85……………動的解析による応答加速度(動2)。
3.検証
(1)本発明の構造特性と算定式
ローラとばねの単純な組み合わせは、様々な建物がm/Kcで統一されることにより規模、形状に関係なく次に示す構造特性と算定式により加速度制御が生成されることが確認される。
構造特性
A、本発明により大地と切り離された建物は、地盤周期Tcと柔らかいバネ力Kcに支えられて建物の周期TbがTc<Tbとなる結果、地震加速度α0から解放されて垂直に近い安定した揺れを維持する(表2、表7参照)。
B、地震による地盤速度V0が大きい時はローラの摩擦係数μが小さくなることで衝撃を回避し、逆にV0が小さい時はμが大きくなることで揺れを制御する。即ち、両者が相対的に変化することで衝撃が吸収されて安定した揺れが確保される(表2参照)。
C、A、Bの減衰メカニズムにより応答加速度αが小さくなることから、水平力αmに対する重力gmによる垂直力の割合が増すことになり、自動制御が可能となる(表3参照)。
D、以上のシステムにより、激しい地震力にも拘わらず硬地盤での建物は家具の転倒しない揺れで復元する(図14、表6、SRC−10、参照)。
算定式
(1)地震力(γ)とγによる応答変位(δ) γ=dt2・α0、 δ=0.87γ
(2)最適ばね定数(Kc)と応答加速度(α) Kc=5m、α’=(6.873γ−0.059γ2)(0.204/m/Kc)0.85
(3)自由振動による固有周期Tb’=(2.144+0.0265γ−0.0002γ2)(m/Kc/0.204)0.5
(4)減衰を伴う円振動数(ω)と等価剛性(Kb’) ω=2π/Tb’ Kb’=ω2
(5)減衰定数(h)と減衰係数(C) h=h0/n’ C=hCc ここにh0=0.167K+0.833K2 n’=1−0.014γ Cc=2mω
(6)減衰を伴う運動方程式〔数6〕
(2)本発明におけるm/Kcバランスの検証
(動1)により適用範囲m/Kb=0.053〜0.544 表1を実験m/Kcに換算して次のように安全性を確認して決定した。表1の31ケースは、様々な振動特性による建物が大地震時に1質点状の揺れで最低応答となるm/Kbを動的解析により11タイプに分類したものである。しかし、ローラとばねによる実験結果は予想を上回る免震効率でm/Kcを単位として全く新しい環境を実現することが分かった。その実態は、実験で確認された等価剛性Kb’及び減衰定数hを入力した(動2)により表6に示され建物質量mに対するばね力Kcの割合で応答αが制御されることである。具体的には、(SRC−10)(剛)のm/Kc=0.204における応答は、(十)波を除きほぼα=100ガル以内に納まる。これにより、適用範囲をγ<17に限定することで、特別仕様による以外m/Kcバランスの考慮は必要なく、最適ばね定数Kc=5mに特定して適用すればよいことが分かる。つまり、本発明のg制御は、ローラの転がり摩擦係数μとバネ力Kcとの組み合わせ次第で建物の揺れが微妙に変化することで成立することが分かる。Kcが小さいほど安定する傾向と復元力とのバランスを見極めることが重要である。本発明については、共振の有無、地震力γに対する建物の応答α式等の確認実験により安全性が確認された。
(3)地震力γ式の検証
地震力γ式は図4の伊東沖地震データにより算定されることから妥当性が分かる。この地震力γ=dt2α0式を適用する場合、dt、V0、α0の3要素それぞれが表4に示す記録地震波を参考に関連式としての妥当性が必要となる。従って、家具転倒のない揺れα<100となるγ=17において次のように検証する。先ず、表4より3要素それぞれの臨界値をdt’=0.21、V0’=175と想定し、これらにより加速度はα0=γ/ dt2 式で算定することができる。次に、dt=0.21(V0/175)式の結果をdt=0.143と想定し、V0を図5のdt:V0のV0=830dt式で求めるとV0’=118.69カインとなる。更に、加速度はα0=γ/dt2=17/0.1432=831.34となることからdt=V0/α0=118.69/831.34=0.143と算定され、想定値に一致することから式の妥当性が確認される。即ち、γ=17における地震力γの3要素式の整合性が検証される。これより、本発明のdt、V0、α0式の臨界値は、表4を参考にdt’=0.21s、V0’=175カインα0’=830ガルと推定する。尚、3要素dt、V0、α0式により、表4のα0=800ガル以上の直下型地震であるノースリッジ、兵庫南部地震を対象に算定すると次に示す結果となり、3要素関連式の妥当性が確認される。
ノースリッジ地震 (表4よりγ=33.37、α0= 825.5、V0=170.3、dt=0.206)
α0=(36.5γ−0.35γ2 )(0.21/dt)n=(36.5×33.37−0.35×33.372 )(0.21/0.206)1.007=844.34
0=830dt=830×0.206=170.98≒170.98
dt=0.21(V0/175)=0.21(170.98/175)=0.205≒0.206
兵庫南部地震 (表4よりγ=10.35、α0=818.0、V0=92.0、dt=0.113)
α0=(36.5×10.35−0.35×10.352 )(0.21/0.113)1.426=823.44≒818.0
0=830dt=93.79≒92.0
dt=0.21(V0/170)=0.113=0.113
続いて表4の地震記録による様々なγについてα0式の妥当性も確認する。
一種(宮城沖)γ=1.26、dt=0.07
α0=(36.5×1.26−0.35×1.262 )(0.21/0.07)1.581=258.03・・・・・表4 α0=258.0に近似する。
二種(兵庫南)γ=10.35、dt=0.113
α0=(36.5×10.35−0.35×10.352)(0.21/0.113)1.426=823.18・・・・・表4 α0=818.0に近似する。
三種(ノースリッジ)γ=35.0、dt=0.206
α0=(36.5×35−0.35×352)(0.21/0.206)1.007=865.3・・・・・表4 α0=825.5に近似する。
三種(十勝沖)γ=6.44、dt=0.17
α0=(36.5×6.44−0.35×6.442)(0.21/0.17)1.599=309.07・・・・・表4 α0=224.0に比べ大きい。
以上の結果から、硬地盤ほど誤差は小さく三種地盤で誤差が大きくなり、特に十勝沖波で大きくなることが分かる。このことは、(動2)の十勝沖波の結果を反映するものでdt値の乱れが大きいことを示している。即ち、〔0034〕におけるdtの乱れ要因である、最大加速度による応答加速度よりも大きくなる実効加速度α0’による応答加速度の影響が宮城沖波よりも十勝沖波の方が大きくなることを示している。
(4)地震力γに対する建物応答の検証
応答加速度αの算定は、前述したα2(実2)及びα’(動2)両者ともに対数減衰率を基にした式を適用した結果であるが、α’(動2)の方が約20%小さくなる。この違いは、前述大崎著の実効加速度α0’を考慮した場合の打ち消し効果によるものと解釈できる。つまり、α2、α’共、運動方程式による応答加速度αに近似することから、本発明の減衰メカニズムが統一された加速度制御のシステムであると理解できる。打ち消し効果はdt値の乱れ程度により決まり、1種(宮)波のdt=0.07の応答αが(E)波を大きく上回るのは、dtの乱れつまりα0’によるものであり、図14に示すγの大きさにより応答加速度が決定されることである。そこで、前述したように、dtが特定される場合を除き1〜3種地盤に関係なく、γ=17以下を硬地盤種として適用範囲とする。
(実1)、(実2)、(動2)における建物応答の実態を総合的に考察すると、それぞれの載荷条件の違いを反映することで当然応答加速度αも異なるが、下記に示すm/Kc=0.204,のγ=9についての算定結果は、条件の違いを考慮して殆ど同程度に納まることが分かる。前述した(動2)によるα式の結果は、入力α0=800に対して記録地震波ではα0=224(十)〜258(宮)と小さい。即ち、dtの乱れによる(動2)の応答加速度αは、入力α0=800に比べ1/3と小さいものであり、大幅に安全側となることが想定される。以上、当方式における応答加速度は、γを関数として算定される。従って、ばね力に影響されるが、ばね力はローラの摩擦係数によって決まる。即ち、摩擦係数が小さいことで応答加速度も小さくなる。ローラに代えて鋼球にすれば摩擦係数が約1/10に減少する。これにより、ばね定数が小となることでm/Kcが大となり、Tb、hも大となり、免震性能が良くなることにつながる。従って、病院などの揺れを小さくしたい建物のためには、地盤を選んでローラを鋼球として装置の精度を高めることで、殆ど不動となる装置が期待できる。尚、次項の減衰メカニズムの検証で、その減衰とともに応答加速度算定式の妥当性も確認される。
(実1)表2 (55609)より α0=528.8 α1=61.87 α/α0=0.117
(実2) α0=697 α2=(8.586×9−0.094×92)(0.204/m/Kc)0.85=69.66 α/α0≒0.1
(動2) α0=800 α’=(6.873×9−0.059×92)(0.204/m/Kc)0.85=57.08 α/α0=0.071
(5)減衰メカニズムの検証
減衰の実態は、本発明が、建物を大地から切り離すことで加速度制御が生成される構想のため重要なポイントとなる。従って、数4によりX(t)=δ1を求め、運動方程式に導入することで妥当性を確認する。
即ち、αをα=(CV’+Kb’δ1)/mで算定し、α’(実験式)結果と近似することにより減衰および応答加速度αの妥当性が確認検証される。検証の対象は、表3 m/Kc=0.204のδ=5cm、10cm及び表6のSRC−10(宮) δ=15.09cmと(十)波δ=30.64cm、それに表7の(25206)、即ちm/Kc=0.068についても確認しておくことにする。
(表3)m/Kc=0.204 δ=5cmの場合
γ=5.747 n=1−0.014γ=0.92 Tb=2.29 t=0.253Tb=0.579 ω=2π/Tb=2.729
Kb’=0.456 Cc=0.334 h’=0.435 C=0.145 α2=46.24 h=0.435より
δ1=X(t)=5/(1−0.43520.5-0.435×2.729×0.579=2.794
V’=δ1/dt’=2.794/0.246=11.358 ここにdt’=(δ1/α)0.5=(2.794/46.24)0.5=0.246
C=hCc=0.145
α=(CV’+Kb’δ1)/m=(0.145×11.358+0.456×2.794)/0.0612=47.73は
α2=46.24に近似する。
(表3)m/Kc=0.204 δ=10cmの場合
γ=11.494 n=1−0.014γ=0.839 Tb=2.422 t=0.253Tb=0.613 ω=2π/Tb=2.579 Kb’=0.407 Cc=0.316 h’=0.477 C=0.151 α2=86.27 h=0.477より
δ1=X(t)=10/(1−0.47720.5-0.477×2.579×0.613=5.347
V’=5.347/0.249=21.474 ここにdt’=(5.347/86.27)0.5=0.249
C=hCc=0.151
α=(0.151×21.474+0.407×5.347)/0.0612=88.54……α2=86.27に近似する。
(表6)SRC−10(宮)波の場合
動的解析の結果による出力 δ=15.09、γ=17.35、α’=101.5
その他表6よりTb=2.543 t=0.643 ω=2.456 Kb’=30.884 Cc=25.145 h=0.528
δ1=X(t)=15.09/(l−0.52820.5-0.528×2.456×0.643=7.714 ここにt=0.253×2.543=0.643
V’=6.699/0.276=27.949 ここにdt=(7.714/101.5)0.5=0.276
C=hCc=13.277
α=(13.277×27.949+30.884×7.714)/5.118=119.05……α’=101.5に近似する。
(表6)SRC−10(十)波の場合(動2)出力δ=30.64 γ=35.22 α’=169.11
その他表6よりTb=2.829 t=0.716 ω=2.208 Kb’=24.96 Cc=22.605 h=0.789
δ・=X(t)=30.65/(l―0.78920.5-0.789×2.208×0.716=14.331 ここにt=0.253×2.829=0.716
V’=14.331/0.291=49.247 ここにdt=(14.331/169.11)0.5=0.291
C=hCc=0.789×22.605=17.835
α=(17.835×49.247+24.96×14.331)/5.118=241.50・・・・・α’=169.11を大幅に上回る。
本発明の適用範囲はγ<17であり、範囲外(十)の場合、t=0.253Tb式の係数0.253を次に示すn”式で算定し適用すれば近似する。t=n”Tb、ここにn”=0.249+0.006C
(表7)(25206)m/Kc=0.06086 δ=6×0.87=5.22cmの場合
γ=6.0 Tb=1.835 t=0.253Tb=0.464 ω=2π/Tb=3.404 Kb’=0.236
Cc=0.139 h=0.086 C=0.012 α1=89.82(転倒棒α=65)より
δ・=X(t)=5.22/(1−0.0862)0.5-0.086×3.404×0.464=4.575
V’=4.575/0.265=17.264 ここにdt’=(4.575/65.0)0.5=0.265
α=(0.012×17.264+0.236×4.575)/0.0204=63.08・・・・・α2=65.00に近似する。
以上により、m/Kc=0.204のδ=5cm、10cm、15.09cm、30.64cmと、m/Kc=0.068のδ=5.22mを含む5ケースの減衰要素による運動方程式と実験式による応答加速度の算定結果に近似することが確認される。
以上、本発明の主要算定式の結果を検証してきたが、本発明のポイントである加速度制御の実態は、(表3)のαm/gmにより証明される。即ち、揺れの評価は応答加速度αの大きさで決まり、αm/gmが小さいほど安定感が増すことである。具体的には、(表3)のm/Kc=0.204の場合、αm/gmがm/Kc=0.068の40%以下に低下することが分かる。これにより、岩盤のような固い地盤では殆ど不動に近い揺れに納まることが想定される。最後に、表4のノースリッジ地震記録は、α0=825.5の直下型でdt=0.206の軟弱地盤が介在するケースと想定される。この様な最悪地盤をγ=35と仮定した場合、本発明の建物の応答加速度はα’=(6.873γ−0.059γ2)(0.204/m/Kc)0.85=168.28と算出される。これにより、支持地盤の詳細が不明の場合であっても液状化などの不安がない時、γ=35としてばねを設計をすればよいことが分かる。即ち、どのような大地震であっても、この応答加速度であれば建物の損傷には至らないことが確認される。
(6)本発明における安全性の検証
(A)共振等による安全確認
地震による地動と建物の関係は、地盤種と建物振動特性との組み合わせによって複雑である。しかし、本発明の最適ばねでは、地盤種の硬軟により固有周期Tbが算定され、Kc=5mでは約Tb=2〜3sの周期となる。即ち、図18の応答スペクトルにおけるこの周期での応答は、1〜3種の地盤種に対してαが急激に小さくなる範囲にあることが分かる。このことは、1981年に施行された[新耐震設計法]における振動特性Rtによっても安全が確認される。また、長周期地震動による共振の恐れについても、建物周期と地盤周期が同じとなるTb=Tc載荷による実験で共振に発展しないことを確認した。また、動的解析シミュレーションの結果、図19においてトップの質点変位が最下の質点変位とほとんど一致することが分かる。つまり、地動の影響が建物の上部に影響されないことを示すもので、建物の安定した揺れが確認される。また、実験データや動2でもKc=5mにおける減衰定数は約h=0.4以上となることが確認された(表7参照)。つまり、このhによれば、図17の共振曲線から判断して共振に発展することはないものと推測される。
(B)転倒に対する安全確認
本発明が建物を大地から切り離すことによる転倒の危険性については、地際部分の自由化によりα0が回避されることでほとんど心配はない。しかし、参考までに、表1の超高層ビル(S−33)により次の要領で転倒の確認をする。即ち、応答加速度αに対する重力gの関係κ’=α/gは、本発明のα<100ガルを前提にκ’=α/g=0.1として次のように検討できる。[行政からみた建築構造設計その1、上野嘉久、建築知識叢書P241]
(S−33)適用データ建物重量W=64395.8t 建物最小幅 L=43m 建物高さ H=126.72m
転倒モーメント M=κ’WH/2=0.1×64395.8×126.72/2=40811.79tm
転倒モーメントによる偏心量はe=M/W=40811.79/64395.8=6.336m<0.5L=0.5×43=21.5となり建物は転倒しない。尚、この結果は、建物高さ方向の重心位置をH/2とした略算的なものではあるが、目安として参考になる。
(C)実効加速度α0’(動2)による安全確認
(動2)における結果は、本発明の当初の構想である、[大地震に際し地盤種(γ)に合った、僅かな自由(δ)を与えることで、建物の揺れは安定し安全を確保できる]を裏付けるものと考える。即ち、支持地盤における様々なdtの乱れ要因を加速度制御による応答で均等化し、応答加速度αを家具転倒のない揺れα<100を可能にした(図14参照)。このことは、(実2)によるγ:α2式の約20%を下回り、これがγの打ち消し効果の実態と想定される。しかし、それだけでは大地震時の建物応答の実態把握が十分とは言えない。地震による想定外の地盤破壊や、東日本大地震で発生した基礎杭の破壊など様々な事態を考え対処する必要がある。本発明の実施に際して最低限留意すべきは次の3点である。
1.地震力γ算定式のdtの特定(関係資料による地盤状況の把握)。
2.基礎水平度の確立(地盤調査に応じた設計、施工、精度保持の対策)。
3.建物重心位置Gの算定と、これに調和する最下層支持柱群の配置(偏心率による影響考慮)。
4.本発明による適用例
適用要領
本発明コイルばね設計の具体化は、次の要領で実施される。
[設計条件]
地盤種係数dtの特定:本来は、地盤調査(N値)により硬軟に分類すべきであるが、事例では、ばね設計の変化に注目して一種dt=0.08、二種dt=0.11、三種dt=0.17として算定する。
地震力:各地域の震度により決定するが事例では、最大級の震度7を想定しα0=800(cm/s2)で算定とする。
ばね定数:最適ばね定数Kc=5m(ton/cm)とする。
ここにm=W/g(t・sec2/cm)ここにW:建物全重量、g:重力の加速度。
地震力による建物の応答加速度αの算定は、α’=6.873γ−0.059γ2(cm/s2)式による。
※αが100ガルを超えているかどうかで家具の転倒対策を判断することにする。
コイルばねの巻き数n:n=Gd4/(64Kc/NR3
ここに G:素線材料のせん断弾性係数(kg/cm2)、d:素線の直径(cm)
NはX又はY方向におけるばね総数、Rはコイルばね平均半径(cm)
コイルばねの長さH:H=2(e+1.2dn)(cm)ただし条件式1.2dn>γにより検討する。
ここにeはばね取付け部の寸法(cm)。
n式は、δ=64nWR3/Gd4式[材料力学演習(下)、斉藤渥、平井憲雄共著、共立出版 P355]より本発明におけるKc=5mを挿入変換したものであり、これを適用する。
ばね長さがばね伸縮機能に支障なく順応するように配慮し、n、d、及びN決定する。即ち、建物の規模や敷地条件を勘案したばねの配置から、総数Nを決定する。
適用事例
その1鉄骨鉄筋8階建て(SRC−8)、総重量W=1006.5t
(1)一種地盤dt=0.08
建物の質量 m=W/g=1006.5/980=1.03ts2/cm
ばね定数 Kc=5m=5×1.03=5.14t/cm
地震力(地表の揺れ幅)γ=dt2α0=0.082×800=5.12cm
建物の相対変位 δ=0.87γ=0.87×5.12=4.45cm、
応答加速度 α’=6.873×5.12−0.059×5.122=33.64(cm/s2
ばねの設計については、総数×N=60本、素線の直径 d=3cm 平均直径(以後外径と呼ぶ)D=30cmとする。
n=G・d4/(64・Kc/N・R3=800000×34/(64×5140/60×153)=3.5巻き
これをみてみると、建物の応答加速度αは33.64ガルとなり、100ガル以下となる。
(2)二種地盤dt=0.11で、その他の条件(1)と同じ。
同様な計算により、
建物の質量 m=W/g=1006.5/980=1.03ts2/cm
ばね定数 Kc=5m=5×1.03=5.14t/cm
地震力 γ=dt2α0=0.112×800=9.68cm
建物の変位 δ=0.87γ=0.87×9.68=8.42cm、
応答加速度 α’=6.873×9.68−0.059×9.682=61.00(cm/s2
ばねの設計については、総数×N=60本、素線の直径 d=3.2cm 平均直径(外径)D=30cmとする。
n=G・d4/(64・Kc/N・R3=800000×3.24/(64×5140/60×153)=4.53巻き
これをみてみると、建物の応答加速度αは61.00ガルとなり、100ガル以下となる。
(3)三種地盤dt=0.17で、その他の条件は(1)と同じ。
建物の質量 m=W/g=1006.5/980=1.03ts2/cm
ばね定数 Kc=5m=5×1.03=5.14t/cm
地震力 γ=dt2α0=0.172×800=23.12cm
建物の変位 δ=0.87γ=0.87×23.12=20.11cm、
応答加速度 α’=6.873×23.12−0.059×23.122=127.37(cm/s2
ばねの設計については、総数×N=60本、素線の直径 d=3.4cm、平均直径(以後外径と呼ぶ)D=30cmとする。
n=Gd4/(64Kc/N・R3=800000×3.44/(64×5140/60×153)=5.78巻き
これをみてみると、建物の応答加速度αは127.37ガルとなり、100ガル以上となる。
従って、倒れやすい家具には転倒防止を考える。
その2 木造2階建て(W−2)、総重量W=46.16t(算定要領はその1と同じ)
(1)一種地盤dt=0.08
この場合、ばね定数Kc=0.235となり、地震力と応答は上記その1と同様の各値となる。
Kc=5m=0.235
γ=5.12cm、δ=4.45cm、
α’=(6.873×5.12−0.059×5.122)=33.64<100ガル
ばね総数N=8本、線径d=1.2cm、、外径D=10.02cm、n=7.03巻き
これを見てみると、建物の応答加速度αは震度7のとき33.64ガルとなり、100ガル以下となる。
(2)二種地盤 dt=0.11
同様な計算により、
Kc=0.235
α0=800.0ガル
γ=9.68cm、δ=8.42cm
α’=(6.873×9.68−0.059×9.682)=61.00<100ガル
ばね総数N=8本、線径d=1.4cm、、外径D=11.0cm、n=9.78巻き、
これを見てみると、建物の応答加速度αは61.00ガルとなり、100ガル以下となる。
(3)三種地盤 dt=0.17
同様な計算により、
Kc=0.235
α0=800.0ガル
γ=23.12cm、δ=20.11cm
α=(6.873×23.12−0.059×23.122)=127.37>100ガル
ばね総数N=8本、線径d=1.6cm、、外径D=12.0cm、n=12.86巻き、
これを見てみると、建物の応答加速度αは127.37ガルとなり、100ガル以上となる。従って倒れやすい家具には転倒防止を考える。
尚、本発明の効果は、転動部材の摩擦係数μの大小によって大きく変わる。即ち、ローラに代えて鋼球等の球体を適用した場合、摩擦係数は約1/10になる。この場合は、復元力が小さくてすむためバネ力KCも小さくなる。つまり、m/Kcが大きくなり建物の応答加速度α及び揺れが小さくなる。従って、球体を用いる場合は上記事項を考慮して各値を算出する必要がある。明細書における計算例は、発明の概要を確認するためのもので、あくまで参考のためのものである。
1 水平基盤(1’擁壁)
2 ローラ
3 ローラ
4 基礎
5 建物
6 コイルスプリング
7 ローラ
8 模擬地盤
9 ローラ
10 建物モデル
11 コイルばね
12 建物転倒棒
13 地盤転倒棒
14 プリンタ

Claims (5)

  1. 地盤上に敷設した基盤の上に転動部材を配して建物の基礎を支持すると共に、該建物の周辺に設けられる擁壁と該建物の基礎梁との間に複数のコイルばねを介在させた免震建物において、前記建物の質量mと前記複数のコイルばね全体のばね定数Kcとの比、m/Kcが所定の範囲内にあることを特徴とする免震建物。
  2. 前記転動部材は、ローラ又は球体であることを特徴とする請求項1に記載の免震建物。
  3. 前記複数のコイルばねは同じ仕様のN本のコイルばねであって、上面視で互いに直交するX方向及びY方向に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震建物。
  4. 前記コイルばねの巻き数nを次式により算出すること特徴とする請求項3に記載の免震建物。
    n=G・d4/(64・Kc/N・R3)(G:素線材料のせん断弾性係数(kg/cm2)、d:素線の直径(cm)、N:X又はY方向のコイルばね総数、R:コイルばねの平均半径(cm))
  5. 前記転動部材はローラであって、前記m/Kcが0.06以上0.27以下であることを特徴とする請求項1に記載の免震建物。
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