本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA〜Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。また、本発明は、以下の内容に限定されるものではない。
〔液晶表示装置の構成〕
図1は、本実施形態の液晶表示装置1の概略の構成を示す断面図である。液晶表示装置1は、IPSモードで駆動されるものであり、視認側に開口部6aを有する筐体6内に、視認側から順に、偏光板3(第1の偏光板)、液晶セル2、偏光板4(第2の偏光板)、バックライト5を配置して構成されている。したがって、偏光板3に対してバックライト5側は、筐体6で覆われてほぼ密閉された状態となっている。なお、偏光板3のさらに視認側に、カバーガラスなどの透明基板が設けられていてもよい。
バックライト5は、液晶セル2を照明するものであり、例えば冷陰極管や発光ダイオード(LED)からなる光源、導光板、拡散板などを備えている。図1では、バックライト5は、偏光板4との間に空隙Sを設けて配置されているが、空隙Sを設けずに配置されてもよい。液晶セル2は、液晶層を2枚の透明基板で挟んで構成されている。
偏光板3は、表面側(視認側、液晶セル2とは反対側)の保護フィルム11と、第1の偏光子としての偏光フィルム12と、裏面側(液晶セル側)の保護フィルム13と、粘着剤層14とをこの順で積層して構成されている。上記の粘着剤層14が液晶セル2と接着されることで、液晶セル2の表面側に偏光板3が位置する。なお、偏光板3は、保護フィルム11に対して偏光フィルム12とは反対側に、ハードコート層、防眩層、反射防止層などの機能層をさらに有していてもよい。
偏光板4は、粘着剤層21と、保護フィルム22と、第2の偏光子としての偏光フィルム23と、保護フィルム24とをこの順で積層して構成されている。粘着剤層21が液晶セル2と接着されることで、液晶セル2の裏面側(バックライト5側)に偏光板4が位置する。
偏光板4の粘着剤層21、保護フィルム22、偏光フィルム23、保護フィルム24は、偏光板3の粘着剤層14、保護フィルム13、偏光フィルム12、保護フィルム11と同様の構成である。ただし、偏光板3の保護フィルム13と偏光板4の保護フィルム22とは膜厚が異なるが、この点については後述する。
偏光フィルム12・23は、例えばPVAフィルムを二色性色素で染色し、高倍率延伸することで得られるものであり、その厚さは15μm以下となっている。
保護フィルム11・24は、セルロースエステルフィルムで構成されているが、その他、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、COP(脂環式オレフィンポリマー系樹脂)を用いたフィルムで構成されてもよい。近年、タブレットやスマートフォンなどの中小型液晶ディスプレイは薄型化が進行しており、それに伴って、偏光板保護フィルムも薄膜化している。フィルムを薄くするとフィルム自身の強度が弱まり、搬送や加工時に破断などのトラブルが起こる。このため、保護フィルム11・24を薄膜化する場合には、保護フィルム11・24として、アクリル樹脂やCOPなどの薄膜フィルムに比べて強靭なセルロースエステルフィルムを用いることが望ましい。
保護フィルム11の厚さは、偏光板3の反り防止の観点から、保護フィルム13と同じ厚さであることが望ましい。同様に、保護フィルム24の厚さは、偏光板4の反り防止の観点から、保護フィルム22と同じ厚さであることが望ましい。
保護フィルム13・22は、セルロースエステルと、リタデーション低下剤とを含むフィルムで構成されている。ここで、リタデーション低下剤とは、保護フィルムに添加された場合に、添加されていない場合と比較して、厚み方向のリタデーション値(Rt)を低下させる作用を有する化合物を意味する。リタデーション低下剤としては、A質量%添加された場合に、添加されていない場合と比較して、80μm換算で、厚み方向のリタデーション値(Rt)を0.01nm以上低下させる機能を有するものが好ましく用いられる。
ここで、以下での説明の便宜上、偏光板3において、第1の偏光子としての偏光フィルム12に対して液晶セル2側に位置する保護フィルム13を、保護フィルムAとも称する。また、偏光板4において、第2の偏光子としての偏光フィルム23に対して液晶セル2側に位置する保護フィルム22を、保護フィルムBとも称する。
上記のリタデーション低下剤は、フラノース構造もしくはピラノース構造を1個有する化合物(A)中の、またはフラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上12個以下結合した化合物(B)中のOH基の全てもしくは一部を脂肪族アシル基によりエステル化した糖エステルを含んでいてもよい。保護フィルムAおよびBがリタデーション低下剤を含む結果、保護フィルムAおよびBにおいて、下記式(i)で表されるRoが、0nm以上10nm以下であり、下記式(ii)で表されるRtが、−10nm以上+10nm以下となっている。
式(i) Ro=(nx−ny)×d
式(ii) Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、Roはフィルムの面内方向のリタデーション値、Rtはフィルムの厚み方向のリタデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は23℃、55%RHの環境下、波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。)
なお、式(i)(ii)を同時に満足する場合、生じる位相差はほとんどゼロであるため、この位相差のことをゼロ位相差とも称する。リタデーション低下剤を保護フィルムAおよびBに含ませることにより、保護フィルムAおよびBを、ゼロ位相差を実現するフィルム(ゼロ位相差フィルム)として機能させることができる。
リタデーション低下剤としての上記した糖エステルは、同じくリタデーション低下剤としてのエチレン性ポリマーやポリエステルポリオールとは異なり、フラノース構造またはピラノース構造を有していることから、セルロースエステルと化学構造が類似している。このため、上記の糖エステルは、セルロースエステルとの相互作用が強い。したがって、上記の糖エステルとセルロースエステルとを含む保護フィルムAおよびBを薄型化しても、保護フィルムAおよびBの機械的強度が低下するのを抑えることができる。
面内方向のリタデーションRoおよび厚さ方向のリタデーションRtを確実に小さく観点から、前記糖エステルは、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上12個以下結合した化合物(B)中のOH基の全てもしくは一部を脂肪族アシル基によりエステル化した化合物であることが望ましい。また、前記糖エステルは、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個結合した化合物(B)中のOH基の全てもしくは一部をアセチル基によりエステル化した化合物であることがより望ましい。このような糖エステルとしては、例えばアセチルスクロースを挙げることができる。
また、上記のリタデーション低下剤は、上述した糖エステルに加えて、または糖エステルの代わりに、ポリエステルまたはアクリルを含んでいてもよい。この場合でも、保護フィルムAおよびBのリタデーションを低下させて、ゼロ位相差フィルムを実現することができる。
〔使用環境の変化に対する保護フィルムの挙動〕
本実施形態では、液晶セル2に対して表側(視認側)の保護フィルムAの膜厚は、液晶セル2に対して裏側(バックライト5側)の保護フィルムBの膜厚よりも厚い。より具体的には、保護フィルムAの膜厚は、30μm以上であり、保護フィルムBの膜厚は、30μm未満である。このように保護フィルムAおよびBの膜厚を規定したのは、液晶表示装置1の使用環境(温度、湿度)の短時間での急激な変化に起因して、表示画像の色味が一時的に変化するのを抑えるためである。以下、この点について、より詳細に説明する。
表1は、液晶表示装置1の使用環境の急激な変化に対する保護フィルムAおよびBのリタデーションRtの変化と色味の判定結果とを、膜厚40μmの場合と膜厚20μmの場合のそれぞれについて示している。なお、ここでは、使用環境の短時間での急激な変化として、高温高湿(例えば40℃80%RH)から常温常湿(例えば23℃55%RH)への変化を想定している。
保護フィルムAは、筐体6内で保護フィルムBよりも開口部6a側に位置しており、保護フィルムBよりも、開口部6aを介して外気中に水分を放出しやすい(乾燥しやすい)位置にある。このため、保護フィルムAの膜厚が20μmと薄い場合は、使用環境の急激な変化に対して保護フィルムAが全体としてすぐに乾燥してしまい、リタデーションRtが一時的に大きく増加する。その結果、位相差がゼロから大きく変動して、表示画像の色味が一時的に変化する(色味判定×)。
これに対して、保護フィルムAの膜厚が40μmと厚い場合は、使用環境の急激な変化に対して保護フィルムAの全体の乾燥が、膜厚が薄い場合よりも抑えられ、使用環境の変化に保護フィルムAの乾燥速度が適切に追従する。このため、保護フィルムAのリタデーションRtが一時的に大きく変化することはなく、位相差がゼロ付近で変動する。その結果、表示画像の色味はほとんど変化しない(色味判定○)。
一方、保護フィルムBは、筐体6内で保護フィルムAよりも開口部6aとは反対側に位置しており、保護フィルムAよりも、開口部6aを介して外気中に水分を放出しにくい(乾燥しにくい)位置にある。また、保護フィルムBは開口部6aから離れて位置しているため、保護フィルムBから水分を放出したとしても、その水分が筐体6内でこもりやすい。このため、保護フィルムBの膜厚が40μmと厚い場合は、使用環境の急激な変化に対して保護フィルムBの全体の乾燥が大幅に遅れてしまい、リタデーションRtが一時的に大きく減少する。その結果、位相差がゼロから大きく変動して、表示画像の色味が一時的に変化する(色味判定×)。
これに対して、保護フィルムBの膜厚が20μmと薄い場合は、使用環境の急激な変化に対して保護フィルムBが、膜厚が厚い場合に比べて乾燥しやすくなるため、使用環境の変化に保護フィルムBの乾燥速度が適切に追従する。このため、保護フィルムBのリタデーションRtが一時的に大きく変化することはなく、位相差がゼロ付近で変動する。その結果、表示画像の色味はほとんど変化しない(色味判定○)。
上記したリタデーションRtの変化について、図面を用いてさらに説明する。図2は、保護フィルムAおよびBの膜厚が40μmの場合のリタデーションRtの変化を示しており、図3は、保護フィルムAおよびBの膜厚が20μmの場合のリタデーションRtの変化を示している。
保護フィルムAおよびBの膜厚が40μmの場合、高温高湿(40℃80%RH)から常温常湿(23℃55%RH)に使用環境が変化すると、開口部6a側に位置する保護フィルムAについては、膜厚が厚いために、フィルム全体の急激な乾燥が抑えられて、使用環境の変化にリタデーションRtの変化が追従し、最終的にリタデーションRtが2.0nmに落ち着いている。一方、開口部6aから離れて位置する保護フィルムBについては、膜厚が厚いために、フィルム全体の乾燥が大幅に遅れてしまい、その結果、リタデーションRtが2.0nmから−4.2nmと一時的に大きく減少している。そして、所定時間(例えば3時間)経過後には、最終的にリタデーションRtが2.0nmに落ち着いている。
保護フィルムAおよびBの膜厚が20μmの場合、高温高湿から常温常湿に使用環境が変化すると、開口部6a側に位置する保護フィルムAについては、膜厚が薄いために、フィルム全体が急激に乾燥し、その結果、リタデーションRtが1.0nmから4nmと一時的に大きく増加している。そして、所定時間(例えば3時間)経過後には、最終的にリタデーションRtが2.0nmに落ち着いている。一方、開口部6aから離れて位置する保護フィルムBについては、膜厚が薄いために、膜厚が厚い場合に比べて乾燥しやすくなり、使用環境の変化にリタデーションRtの変化が追従する。そして、最終的にはリタデーションRtが2.0nmに落ち着いている。
以上のことから、以下の結論が導き出される。すなわち、保護フィルムAの膜厚を30μm以上(例えば40μm)とすることにより、使用環境が高温高湿から常温常湿に短時間で急激に変化する場合でも、保護フィルムAが開口部6a側に位置して乾燥しやすいにもかかわらず、保護フィルムAの全体としての急激な乾燥を抑えることができる。これにより、保護フィルムAのリタデーションRtが一時的に大きく増加するのを抑えて、位相差の大きな変動を抑えることができる。
また、保護フィルムBの膜厚を30μm未満(例えば20μm)とすることにより、使用環境が上記のように変化する場合でも、保護フィルムBが開口部6aから離れて位置して乾燥しにくいにもかかわらず、保護フィルムBの乾燥を促進させることができる。これにより、保護フィルムBのリタデーションRtが一時的に大きく減少するのを抑えて、位相差の大きな変動を抑えることができる。
このように、保護フィルムAおよびBの膜厚を適切に規定することにより、使用環境の短時間での急激な変化による位相差の大きな変動を抑えることができるので、表示画像の色味が一時的に変化するのを抑えることができる。
以上では、使用環境が高温高湿から常温常湿に急激に変化する場合について説明したが、常温常湿から高温高湿に急激に変化する場合でも、保護フィルムAおよびBのリタデーションRtの変化は図2および図3で示した方向と逆の経路を辿るだけである。それゆえ、保護フィルムAおよびBの膜厚を適切に規定することにより、上記と同様の効果を得ることができる。
つまり、保護フィルムAの膜厚を30μm以上とすることにより、保護フィルムAが開口部6aを介して外気中から吸収する水分が、保護フィルムA全体に行き渡るのを遅らせることができる。これにより、保護フィルムAのリタデーションRtが一時的に大きく増加するのを抑えて(リタデーションRtの変化を使用環境の変化に追随させて)、位相差の大きな変動を抑えることができる。また、保護フィルムBの膜厚を30μm未満とすることにより、開口部6aを介して外気中の水分を保護フィルムBが吸収する際の吸収速度を速めることができる。これにより、保護フィルムBのリタデーションRtが一時的に大きく減少するのを抑えて(リタデーションRtの変化を使用環境の変化に追随させて)、位相差の大きな変動を抑えることができる。したがって、使用環境が常温常湿から高温高湿に急激に変化する場合であっても、表示画像の色味が一時的に変化するのを抑えることができる。特に、保護フィルムAの膜厚が40μm以上であり、保護フィルムBの膜厚が20μm以下であれば、上述の効果を確実に得ることができる。
保護フィルムAの膜厚は、薄膜化の観点から、50μm以下であることが望ましい。また、保護フィルムBの膜厚は、フィルムに強靭性を持たせ、破断を回避する観点から、10μm以上であることが望ましい。
以下、本実施形態の詳細について説明する。なお、以下での説明において、偏光板3の偏光フィルム12に対して視認側の保護フィルム11を第1の保護フィルムとし、液晶セル2側の保護フィルム13を第2の保護フィルムとする。また、偏光板4の偏光フィルム23に対して液晶セル2側の保護フィルム22を第2の保護フィルムとし、バックライト5側の保護フィルム24を第1の保護フィルムとする。そして、第1の保護フィルムと第2の保護フィルムとを明確に区別する必要がない場合は、これらをまとめて単に保護フィルムと称する。
[第2の保護フィルム]
(フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物)
偏光板の第2の保護フィルムは、上述のように、セルロースエステルと、リタデーション低下剤とを含む。上記リタデーション低下剤は、フラノース構造もしくはピラノース構造を1個有する化合物(A)中の、あるいはフラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上、12個以下結合した化合物(B)中のOH基の全てもしくは一部を脂肪族アシル基によりエステル化した化合物(以下、これらの化合物を糖エステルまたは糖エステル化合物とも言う)を含んでいてもよい。
好ましい化合物(A)および化合物(B)の例としては、以下に示す化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
化合物(A)の例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、アラビノース等が挙げられる。なお、化合物(A)には、マルトースを高圧で水素添加して還元して得られるマルチトールも含まれる。
また、化合物(B)の例としては、ラクトース、スクロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース、ケストースなどが挙げられる。これらの化合物(A)および化合物(B)の中で、特にフラノース構造とピラノース構造とを両方有するものが好ましい。例としてはスクロースが挙げられる。
糖エステル化合物を合成する際に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
これら化合物の製造方法の詳細は、例えば特開平8−245678号公報に記載されている。
上記化合物(A)および化合物(B)のエステル化化合物に加えて、オリゴ糖のエステル化化合物を、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を3〜12個結合した化合物として適用できる。
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるものである。本実施形態に適用できるオリゴ糖としては、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。オリゴ糖も上記化合物(A)および化合物(B)と同様な方法でアセチル化できる。
次に、糖エステル化合物の製造例の一例を示す。グルコース(29.8g、166mmol)にピリジン(100ml)を加えた溶液に無水酢酸(200ml)を滴下し、24時間反応させた。その後、エバポレートで溶液を濃縮し氷水へ投入した。1時間放置した後、ガラスフィルターにてろ過し、固体と水を分離し、ガラスフィルター上の固体をクロロホルムに溶かし、これが中性になるまで冷水で分液した。有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムにより乾燥した。無水硫酸ナトリウムをろ過により除去した後、クロロホルムをエバポレートにより除き、更に減圧乾燥することによりグリコースペンタアセテート(58.8g、150mmol、90.9%)を得た。なお、上記無水酢酸の替わりに、上述のモノカルボン酸を使用することができる。
以下に、本実施形態の糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
偏光板の第2の保護フィルムは、偏光機能の劣化を抑え、表示品位を安定化するために、上記の糖エステル化合物を、フィルム中に1〜35質量%、特に5〜30質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、本発明の優れた効果を呈すると共に、原反保管中におけるブリードアウトなどもなく好ましい。また、OH基を全てエステル化した糖エステル化合物とOH基が1つ以上残存している糖エステル化合物とを併用してもよい。例えば、スクロースオクタアセテート、スクロースヘプタアセテート、スクロースヘキサアセテートの混合物等が挙げられる。混合の比率は特に限定はないが、例えば、30:30:30、40:30:30、40:50:10、50:30:20、60:30:10、80:10:10、90:7:3、95:5:0、などの組み合わせが挙げられる。これらは、糖のエステル化の際に反応時間あるいは糖と反応させるモノカルボン酸の添加量を調整することで制御してもよいし、それぞれを混合してもよい。
(アクリルポリマー)
第2の保護フィルムは、リタデーション低下剤として、重量平均分子量が500以上、30000以下であるアクリルポリマーを含有してもよい。このようなアクリルポリマーとしては、国際公開WO08/044463号公報の段落〔0059〕〜〔0093〕に記載のものが好ましく用いられる。
(ポリエステル)
(一般式(B1)または(B2)で表されるポリエステル)
第2の保護フィルムは、リタデーション低下剤として、下記一般式(B1)または(B2)で表されるポリエステルを含有してもよい。これは炭素数2〜12の2価のアルコールGと炭素数2〜12の2塩基酸、炭素数1〜12のモノカルボン酸B1、もしくは炭素数1〜12のモノアルコールであるB2から得られたポリエステルある。
一般式(B1)
B1−(G−A−)mG−B1
(式中、B1は炭素数1〜12のモノカルボン酸を表し、Gは炭素数2〜12の2価のアルコールを表し、Aは炭素数2〜12の2塩基酸を表す。B1、G、Aはいずれも芳香環を含まない。mは繰り返し数を表す。)
一般式(B2)
B2−(A−G−)nA−B2
(式中、B2は炭素数1〜12のモノアルコールを表し、Gは炭素数2〜12の2価のアルコールを表し、Aは炭素数2〜12の2塩基酸を表す。B2、G、Aはいずれも芳香環を含まない。nは繰り返し数を表す。)
B1で表されるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
B2で表されるモノアルコール成分としては、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。
Gで表される2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうちエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、更に、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールを好ましく用いられる。
Aで表される2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば、脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族ジカルボン酸としては炭素原子数4〜12もの、これらから選ばれる少なくとも一つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
m、nは繰り返し数を表し、1以上で170以下が好ましい。
ポリエステルの重量平均分子量は20000以下が好ましく、10000以下であることが更に好ましい。特に、重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こりにくく好ましい。
ポリエステルの重縮合は常法によって行われる。例えば、上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルはセルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に優れる偏光板保護フィルムを得ることができる。
分子量の調整方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸(モノカルボン酸)または1価のアルコール(モノアルコール)で分子末端を封鎖する方法では、これら1価の化合物の添加量をコントロールすることで、分子量を調整することができる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性の点からから好ましい。
例えば、1価の酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去し易いものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても、重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
本実施形態のポリエステルは、セルロースエステルに対し1〜40質量%含有することが好ましい。更に、2〜30質量%含有することが好ましい。特に3〜15質量%含有することが好ましい。
これらの化合物は、偏光板の第2の保護フィルム中に0.1〜20質量%含有させることができる。
前記アクリルポリマー、またはポリエステルが添加されたフィルムを用いることにより、高温高湿による劣化の少ない偏光板が得られる。また、この偏光板を用いることにより、コントラストや視野角安定性が長時間維持され、表面の平面性に優れるIPSモード型液晶表示装置が得られる。
(セルロースエステル)
偏光板の第2の保護フィルムに用いるセルロースエステルには特に限定はないが、セルロースエステルとしては、炭素数2〜22程度のカルボン酸エステルであり、芳香族カルボン酸のエステルでもよく、特にセルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。
セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味している。水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐してもよく、また環を形成してもよい。更に別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、前記炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましい。前記セルロースエステルとしての炭素数が2〜4であることが好ましく、炭素数が2〜3であることがより好ましい。
前記セルロースエステルは、混合酸由来のアシル基を用いることもでき、特に好ましくは炭素数が2と3、或いは炭素数が2と4のアシル基を用いることができる。本実施形態で用いられるセルロースエステルとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基またはブチレート基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、ブチレートを形成するブチリル基としては、直鎖状でも分岐していてもよい。本実施形態において好ましく用いられるセルロースエステルとしては、特にセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレートである。
また、リタデーション値は、セルロースエステルの前記アシル基の種類とセルロース樹脂骨格のピラノース環へのアシル基の置換度等によって、適宜制御することができる。
本実施形態で好ましいセルロースエステルとしては、下記式(1)および(2)を同時に満足するものが好ましい。
式(1): 2.0≦X+Y≦3.0
式(2): 0≦Y≦2.0
式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度である。上記2式を満足するものは、優れた光学特性を示す偏光板保護フィルムを製造するのに適している。
この中で特にトリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、1.0≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦1.5、2.0≦X+Y≦3.0であることが好ましい。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
前記アシル基の置換度が低過ぎると、セルロース樹脂の骨格を構成するピラノース環の水酸基に対して未反応部分が多くなり、該水酸基が多く残存することにより、リタデーションの湿度変化や偏光板保護フィルムとして偏光子を保護する能力が低下してしまうことがあり、好ましくない。
本実施形態で用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に70000〜200000のものが好ましく用いられる。
セルロースエステルの数平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより下記条件で測定することができる。
溶媒:アセトン
カラム:MPW×1(東ソー(株)製)
試料濃度:0.2(質量/容量)%
流量:1.0ml/分
試料注入量:300μl
標準試料:標準ポリスチレン
温度:23℃
セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
セルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応が行われる。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
セルロースエステルにおいて、グルコース単位の6位のアシル基の平均置換度が0.5〜0.9であることが好ましい。
セルロースエステルを構成するグルコース単位の6位には、2位および3位と異なり、反応性の高い一級ヒドロキシル基が存在する。この一級ヒドロキシル基は、硫酸を触媒とするセルロースエステルの製造過程で硫酸エステルを優先的に形成する。そのため、セルロースのエステル化反応において、触媒硫酸量を増加させることにより、通常のセルロースエステルに比べて、グルコース単位の6位よりも2位および3位の平均置換度を高めることができる。更に、必要に応じて、セルロースをトリチル化すると、グルコース単位の6位のヒドロキシル基を選択的に保護できるため、トリチル化により6位のヒドロキシル基を保護し、エステル化した後、トリチル基(保護基)を脱離することにより、グルコース単位の6位よりも2位および3位の平均置換度を高めることができる。具体的には、特開2005−281645号記載の方法で製造されたセルロースエステルも好ましく用いることができる。
アセチルセルロースの場合、酢化率を上げようとすれば、酢化反応の時間を延長する必要がある。但し、反応時間を余り長くとると分解が同時に進行し、ポリマー鎖の切断やアセチル基の分解などが起こり、好ましくない結果をもたらす。従って、酢化度を上げ、分解をある程度抑えるためには反応時間はある範囲に設定することが必要である。反応時間で規定することは反応条件が様々であり、反応装置や設備その他の条件で大きく変わるので適切でない。ポリマーの分解は進むにつれ、分子量分布が広くなってゆくので、セルロースエステルの場合にも、分解の度合いは通常用いられる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値で規定できる。即ち、セルローストリアセテートの酢化の過程で、余り長過ぎて分解が進み過ぎることがなく、かつ酢化には十分な時間酢化反応を行せるための反応度合いの一つの指標である重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値を用いることができる。
セルロースエステルの製造法の一例を以下に示すと、セルロース原料として綿化リンター100質量部を解砕して、40質量部の酢酸を添加し、36℃で20分間前処理活性化をした。その後、硫酸8質量部、無水酢酸260質量部、酢酸350質量部を添加し、36℃で120分間エステル化を行った。24%酢酸マグネシウム水溶液11質量部で中和した後、63℃で35分間ケン化熟成し、アセチルセルロースを得た。これを10倍の酢酸水溶液(酢酸:水=1:1(質量比))を用いて、室温で160分間攪拌した後、濾過、乾燥させてアセチル置換度2.75の精製アセチルセルロースを得た。このアセチルセルロースはMnが92000、Mwが156000、Mw/Mnは1.7であった。同様にセルロースエステルのエステル化条件(温度、時間、攪拌)、加水分解条件を調整することによって置換度、Mw/Mn比の異なるセルロースエステルを合成することができる。セルロースエステルのMw/Mn比は1.4〜5.0が好ましく用いられる。
なお、合成されたセルロースエステルは、精製して低分子量成分を除去すること、未酢化または低酢化度の成分を濾過で取り除くことも好ましく行われる。
また、混酸セルロースエステルの場合には、特開平10−45804号公報に記載の方法で得ることができる。
また、セルロースエステルは、セルロースエステル中の微量金属成分によっても影響を受ける。これらは製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となり得るような成分は少ないほうが好ましく、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。鉄(Fe)成分については、1ppm以下であることが好ましい。カルシウム(Ca)成分については、カルボン酸や、スルホン酸等の酸性成分と、また多くの配位子と配位化合物即ち、錯体を形成しやすく、多くの不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する。
カルシウム(Ca)成分は60ppm以下、好ましくは0〜30ppmである。マグネシウム(Mg)成分については、やはり多過ぎると不溶分を生ずるため、0〜70ppmであることが好ましく、特に0〜20ppmであることが好ましい。鉄(Fe)分の含量、カルシウム(Ca)分含量、マグネシウム(Mg)分含量等の金属成分は、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置にて硫硝酸分解し、、アルカリ溶融で前処理を行った後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析することができる。
[第1の保護フィルム]
次に、偏光板の第1の保護フィルムについて説明する。偏光板の第1の保護フィルムとしては、第2の保護フィルムと同様のセルロースエステルフィルム(ただし、リタデーション低下剤なし)を用いることができる。また、第1の保護フィルムとして、以下の材料からなるフィルムを用いることもできる。
(ポリエステル樹脂)
偏光板の第1の保護フィルムとしては、ポリエステル樹脂からなるフィルム(ポリエステルフィルム)を用いることができる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)を用いることができるが、他の共重合成分を含んでいても構わない。これらの樹脂は透明性に優れるとともに、熱的、機械的特性にも優れており、延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。特に、PETは固有複屈折が大きく、フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られるので、最も好適な素材である。
ポリエステルフィルムは、3000〜30000nmのリタデーション(面内方向)を有していることが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、ポリエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いて液晶表示装置に適用した場合、斜め方向から観察したときに強い干渉色を呈し(色ムラが発生し)、良好な視認性を確保することができない。リタデーションの下限値の好ましい値は4500nmであり、より好ましい値は5000nmであり、より一層好ましい値は6000nmであり、さらに好ましい値は8000nmであり、さらに好ましい下限値は10000nmである。
一方、リタデーションの上限値は30000nmである。それ以上のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いたとしても、さらなる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。
なお、上記のリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みとを測定して求めることもできるし、KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。
ポリエステルフィルムの面内方向のリタデーションRoと厚さ方向リタデーションRtとの比(Ro/Rt)は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.500以上、さらに好ましくは0.600以上である。上記の比(Ro/Rt)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による色ムラの発生が生じ難くなる。そして、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは上記の比(Ro/Rt)は2.0となる。しかし、完全な1軸性(1軸対称)フィルムに近づくにつれて、配向方向と直交する方向の機械的強度が著しく低下する。
一方、ポリエステルフィルムの上記の比(Ro/Rt)は、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下である。観察角度による色ムラの発生を完全に抑制するためには、上記の比(Ro/Rt)が2.0である必要は無く、1.2以下で十分である。また、上記の比(Ro/Rt)が1.0以下であっても、液晶表示装置に求められる視野角特性(左右180度、上下120度程度)を満足することは十分可能である。
フィルムのリタデーションを上述した特定の範囲に制御するためには、フィルム製膜時の延伸倍率や延伸温度、フィルムの厚みを適切に設定すればよい。例えば、延伸倍率が高いほど、延伸温度が低いほど、フィルムの厚みが厚いほど、高いリタデーションを得やすくなる。逆に、延伸倍率が低いほど、延伸温度が高いほど、フィルムの厚みが薄いほど、低いリタデーションを得やすくなる。
(アクリル樹脂)
偏光板の第1の保護フィルムを構成する樹脂としては、アクリル樹脂を用いることもできる。
アクリル樹脂は、メタクリル酸アルキルを主体とする重合体であってもよいし、メタクリル酸アルキルの単独の重合体であってもよいし、メタクリル酸アルキル50重量%以上とメタクリル酸アルキル以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。メタクリル酸アルキルを主体とする重合体では、全単量体の合計100重量%を基準として、メタクリル酸アルキルが、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であり、かつメタクリル酸アルキルが99重量%以下である。メタクリル酸アルキルとしては、通常、そのアルキル基の炭素数が1〜4のものが用いられ、中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
また、メタクリル酸アルキル以外の単量体は、分子内に1個の重合性炭素−炭素二重結合を有する単官能単量体であってもよいし、分子内に2個以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する多官能単量体であってもよいが、ここでは単官能単量体が好ましく用いられる。その例としては、アクリル酸メチルやアクリル酸エチルのようなアクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリルが挙げられる。共重合成分としてアクリル酸アルキルを用いる場合、その炭素数は通常1〜8である。
(脂環式オレフィンポリマー系樹脂)
偏光板の第1の保護フィルムを構成する樹脂としては、脂環式オレフィンポリマー系樹脂(COP)を用いることもできる。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂としては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体およびその水素添加物等を挙げることができる。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂について、より具体的に説明する。脂環式オレフィンポリマー系樹脂は、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、およびフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。上記の繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、フィルムの透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、および、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体またはそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、および軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、および極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、およびハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、およびスルホン基などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、およびシクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類やその誘導体;並びにシクロヘキサジエン、およびシクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンやその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、および1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンやこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、およびシクロヘキセンなどのシクロオレフィンやこれらの誘導体;並びに1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、および5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ〔3.3.0〕オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れたフィルムを得ることができる。
〔添加剤〕
(可塑剤)
偏光板の保護フィルムは、必要に応じて可塑剤を含有することができる。可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤および多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。なお、これらの可塑剤がリタデーション低下剤として作用する場合もある。
多価アルコールエステル系可塑剤は、前述の一般式(3)で表される化合物である。
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
クエン酸エステル系可塑剤としては、例えば、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
脂肪酸エステル系可塑剤として、例えば、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
リン酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
多価カルボン酸は、下記一般式(21)で表される。
一般式(21)
R2(COOH)m(OH)n
(但し、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
好ましい多価カルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては、特に制限はなく、公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。例えば、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができる。
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基を、モノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は、特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さいほうが好ましい。
多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は、1種類でも良いし、2種以上の混合であっても良い。
多価カルボン酸エステル化合物の酸価は、1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リタデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
(酸価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を用いることができる。ポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(22)で表される芳香族末端エステル系可塑剤を用いることができる。
一般式(22)
B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
一般式(22)で表される化合物は、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
ポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
ポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
また、上記芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
ポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものである。
以下、本実施形態で用いることのできる芳香族末端エステル系可塑剤の合成例を示す。
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器にフタル酸410部、安息香酸610部、ジプロピレングリコール737部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で1.33×104Pa〜最終的に4×102Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステル系可塑剤を得た。
粘度(25℃、mPa・s);43400
酸価 ;0.2
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、エチレングリコール341部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
粘度(25℃、mPa・s);31000
酸価 ;0.1
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,2−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
粘度(25℃、mPa・s);38000
酸価 ;0.05
〈サンプルNo.4(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,3−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
粘度(25℃、mPa・s);37000
酸価 ;0.05
以下に、本実施形態で用いることのできる芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
(紫外線吸収剤)
偏光板の保護フィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
用いる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の市販品であり、好ましく使用できる。
より好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤である。
例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、下記一般式(b)で示される化合物を用いることができる。
式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は同一でも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシル基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、モノもしくはジアルキルアミノ基、アシルアミノ基または5〜6員の複素環基を表し、R
4とR
5は閉環して5〜6員の炭素環を形成してもよい。また、上記記載のこれらの基は、任意の置換基を有していてよい。
以下に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
UV−1:2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−2:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−3:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−4:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−5:2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−6:2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)
UV−7:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−8:2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール(TINUVIN171)
UV−9:オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物(TINUVIN109)
更に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、下記一般式(c)で表される化合物が好ましく用いられる。
式中、Yは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、またはフェニル基を表し、これらのアルキル基、アルケニル基及びフェニル基は置換基を有していてもよい。Aは水素原子、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、シクロアルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基または−CO(NH)n−1−D基を表し、Dはアルキル基、アルケニル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表す。m及びnは1または2を表す。
上記において、アルキル基としては、例えば、炭素数24までの直鎖または分岐の脂肪族基を表し、アルコキシル基としては例えば、炭素数18までのアルコキシル基を表し、アルケニル基としては例えば、炭素数16までのアルケニル基でアリル基、2−ブテニル基等を表す。また、アルキル基、アルケニル基、フェニル基への置換基としてはハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、フェニル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等を置換していてもよい)等が挙げられる。
以下に一般式(c)で表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
UV−10:2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン
UV−11:2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン
UV−12:2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン
UV−13:ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
本実施形態の偏光板保護フィルムは、紫外線吸収剤を2種以上を含有することが好ましい。
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号公報に記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、偏光板保護フィルムの乾燥膜厚が10〜200μmの場合は、偏光板保護フィルムに対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
(微粒子)
偏光板の保護フィルムは、微粒子を含有することが好ましい。微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの二次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。偏光板保護フィルムにおけるこれらの微粒子の含有量は、0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成の偏光板保護フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上、東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でも、アエロジル200V、アエロジルR972Vが偏光板保護フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本実施形態の偏光板保護フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
各種添加剤は製膜前のセルロースエステル含有溶液であるドープにバッチ添加してもよいし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加してもよい。特に微粒子は濾過材への負荷を減らすために、一部または全量をインライン添加することが好ましい。
添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性をよくするため、少量のセルロースエステルを溶解するのが好ましい。好ましいセルロースエステルの量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは、3〜5質量部である。
本実施形態においてインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
〔保護フィルムの製造方法〕
次に、偏光板の保護フィルムの製造方法について説明する。
保護フィルムは、溶液流延法で製造されたフィルムであってもよいし、溶融流延法で製造されたフィルムであってもよく、どちらも好ましく用いることができる。
保護フィルムの製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度)によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いるときには、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
また、用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。回収溶剤中に、セルロースエステルに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分などが微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
上記記載のドープを調製するときの、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると、常圧における沸点以上に加熱できる。溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さいほうが好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾過材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾過材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾過材が更に好ましい。
濾過材の材質は特に制限はなく、通常の濾過材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾過材や、ステンレススティール等の金属製の濾過材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に偏光板保護フィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察したときに反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm2以下であり、更に好ましくは50個/cm2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm2以下である。また、径が0.01mm以下の輝点も少ないほうが好ましい。
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
濾圧は小さいほうが好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
ここで、ドープの流延について説明する。流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることができる。
流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高いほうがウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃が更に好ましい。或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
保護フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは10〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、10〜30質量%または70〜120質量%である。ここで、残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、Nは質量Mのものを115℃で1時間加熱した後の質量である。
また、保護フィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
保護フィルムを作製するためには、金属支持体より剥離した直後で、ウェブの残留溶剤量の多いところで搬送方向(縦方向)に延伸し、更にウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸を行うことが特に好ましい。
剥離直後に縦方向に延伸するために、剥離張力を210N/m以上で剥離することが好ましく、特に好ましくは220〜300N/mである。
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で、熱風で行うことが好ましい。
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましく、50〜140℃の範囲で行うことが寸法安定性を良くするため更に好ましい。
保護フィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが用いられる。特に膜厚は10〜100μmであることが特に好ましい。更に好ましくは10〜40μmである。
保護フィルムは、幅1〜4mのものが用いられる。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.6〜3mである。4mを超えると搬送が困難となる。
〔延伸操作、屈折率制御〕
偏光板の保護フィルムは、下記式で表されるリタデーション値Roが0〜10nm、Rtが−10〜+10nmであることが好ましい。
式(i):Ro=(nx−ny)×d
式(ii):Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、Roはフィルム面内リタデーション値、Rtはフィルム厚み方向リタデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。)
上記屈折率は、例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、測定波長590nmで求めることができる。
更に、リタデーション値Roは0〜5nmの範囲であり、かつRtが−10〜10nmの範囲にあることが、本発明の効果を高める上でより好ましい。
上記リタデーション値Ro、Rtを得るには、偏光板保護フィルムが本発明の構成をとり、更に延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。
例えば、フィルムの長手方向(製膜方向)及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次または同時に延伸することができる。
互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅方向に1.01〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅方向に1.05〜2.0倍に範囲で行うことが好ましい。
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、或いは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれらの方法は、組み合わせて用いてもよい。また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
製膜工程のこれらの幅保持或いは横方向の延伸は、テンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
保護フィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましい。このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
〔物性〕
保護フィルムは、破断伸度が10〜80%であることが好ましく20〜50%であることが更に好ましい。
保護フィルムの可視光透過率は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることが更に好ましい。
保護フィルムのヘイズは、1%未満であることが好ましく、0〜0.1%であることが特に好ましい。
〔偏光板〕
本実施形態の偏光板は、第1の保護フィルムと、偏光子としての偏光フィルムと、第2の保護フィルムと、粘着剤層とをこの順で積層してなる。後述する液晶表示装置は、粘着層側が液晶セル側となるように、偏光板を液晶セルの少なくとも一方の面に貼り合わせることで構成される。
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。第2の保護フィルムの偏光子側をアルカリ鹸化処理し、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。偏光子のもう一方の面には、第2の保護フィルムとは異なる別の偏光板保護フィルムが貼り合わせされる。別の偏光板保護フィルムとしては、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC4FR−1、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、以上コニカミノルタ(株)製)も好ましく用いられる。
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜して、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
例えば特開2003−240958号公報では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含む水溶液で染色する工程、二色性色素で染色された該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及び該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程を経て、該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向された偏光フィルムを製造する方法において、二色性色素を含む水溶液で処理する前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、90〜180℃の範囲の温度で熱処理を施して、膜厚が10μmを越え20μm未満となるような偏光フィルムを製造しているが、このような手法で薄型の偏光フィルムを製造することも好ましい方法である。
また、例えば特許第4751481号公報では、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂層を製膜した積層体を、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸することで、厚さ15μm以下の上記樹脂層からなる偏光フィルム(いわゆる塗布型偏光子)を製造するようにしているが、このような手法で薄型の偏光フィルムを製造することも好ましい方法である。
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。中でも熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。又、フィルムのTD方向に5cm離れた二点間の熱水切断温度の差が1℃以下であることが、色斑を低減させるうえで更に好ましく、更にフィルムのTD方向に1cm離れた二点間の熱水切断温度の差が0.5℃以下であることが、色斑を低減させるうえで更に好ましい。
このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能および耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
以上のようにして得られた偏光子は、通常、その両面または片面に保護フィルムが貼合されて偏光板として使用される。偏光子と保護フィルムとを貼合する際に用いられる接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系の接着剤が好ましく用いられる。
また、偏光板を液晶セルに貼り合わせる際に用いられる粘着剤層を形成する粘着剤としては、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、ブチルゴム系、シリコーン系などのベースポリマーを用いたものが使用できる。特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エステルをベースとするポリマーや、これらの(メタ)アクリル酸エステルを2種類以上用いた共重合体をベースとするポリマーが好適に用いられる。粘着剤は通常、これらのベースポリマー中に極性モノマーが共重合されており、この極性モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートのような、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基などを有するモノマーを挙げることができる。粘着剤は、通常、ベースポリマーのほか、1種または2種以上の架橋剤を含む。架橋剤としては、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成する2価または多価金属塩、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリイソシアネート化合物などが挙げられる。
粘着剤層の厚みは、3〜50μm程度とすることができる。粘着剤層を偏光板に形成する場合、偏光板の保護フィルム表面にコロナ処理などの表面処理を施してもよい。また、粘着剤層を形成する場合には、粘着剤層の表面を剥離フィルムなどで覆っておくのが通常である。
〔液晶表示装置〕
本実施形態の液晶表示装置は、上述した偏光板と、液晶セルとを積層して構成される。このとき、偏光板と液晶セルとは、偏光板の粘着剤層によって接着される。液晶セルは、液晶層を透明基板で挟持してなり、IPSモードで駆動される。
このように、本実施形態の偏光板をIPSモード型の液晶表示装置に組み込むことにより、視認性に優れ、視野角が拡大された液晶表示装置を実現することができる。また、本実施形態の偏光板をフリンジ−フィールドスイッチング(FFS:Fringe-Field Switching)モード型の液晶表示装置に組み込むことも可能であり、この場合でも、視認性に優れ、視野角が拡大された液晶表示装置を実現することができる。
〔実施例〕
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
[光学フィルムに用いる材料]
(セルロースアシレート)
セルロースアシレート:アセチル基置換度2.80である数平均分子量70000のセルローストリアセテート(TAC)
(リタデーション低下剤)
〈糖エステル〉
下記表2に記載の糖を用いて、脂肪族アルキル基(AL)および芳香族アルキル基(AR)の置換基の種類と置換基数とを変化させて、それぞれ糖エステルを合成した。
表中、「(ALの置換基数+ARの置換基数)/全OH基数」とは、糖エステルの置換基である全OH基の数に対する、脂肪族アルキル基(AL)および芳香族アルキル基(AR)の置換基の合計数を表す。例えば「5/8」とは、8個の置換基中で5個がALおよび/またはARの置換基であることを示す。また、例えば上記の比が5/8の糖エステルと6/8の糖エステルとが、50:50の比率で混合している場合は、「5.5/8」のように表す。
〈エステル化合物〉
《エステル化合物E1》
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、エステル化合物E1を得た。酸価0.10、数平均分子量450であった。
《エステル化合物E2》
アジピン酸/エチレングリコールのポリエステルポリオール(平均重合度は2000)を使用した。
〈アクリル系添加剤A1〉
特開2000−128911号公報に記載の重合方法により塊状重合を行った。すなわち、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、投入口及び還流冷却管を備えたフラスコにモノマーとして下記メチルアクリレート(MMA)を投入し、窒素ガスを導入してフラスコ内を窒素ガスで置換し、アクリル系化合物を得た。
そして、チオグリセロール添加後、4時間重合を行い、内容物を室温に戻し、それにベンゾキノン5質量%テトラヒドロフラン溶液20質量部添加し、重合を停止させた。内容物をエバポレーターに移し、80℃で減圧下、テトラヒドロフラン、残存モノマー及び残存チオグリセロールを除去し、GPCを用いて測定した重量平均分子量が1000であるアクリル系添加剤A1を得た。
[光学フィルム1の作製]
(主ドープ1の調製)
下記組成の主ドープを調製した。すなわち、まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。そして、溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステル等を撹拌しながら投入し、これを加熱し、撹拌しながら完全に溶解した。
セルロースアシレート 100質量部
糖エステルT1 12質量部
エステル化合物E1 4質量部
マット剤:R812の12%エタノール分散液(日本アエロジル(株)製)
1.4質量部
メチレンクロライド 430質量部
エタノール 40質量部
更に上記添加剤成分を密閉容器に投入し、撹拌しながら溶解して、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ1を調製した。
(光学フィルム1の製膜)
上記調製した主ドープ1を、ベルト流延装置を用い、温度22℃、1.8m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が20%になるまで溶媒を蒸発させ、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上からドープ膜(ウェブ)を剥離した。
次いで、剥離したウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1.6m幅にスリットし、その後、テンター延伸機を用いて、160℃の温度で幅手方向(TD方向)に元幅に対して1.1倍延伸をした。このとき、テンターによる延伸を開始したときの残留溶媒量は、4質量%であった。
その後、120℃、140℃の乾燥ゾーンを多数のローラーで搬送させながら乾燥を終了させ、1.3m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ2.5μmのナーリング加工を施した後、コアに巻取り、光学フィルム1を作製した。光学フィルム1の膜厚は40μm、巻きの長さは5000mであった。
[光学フィルム2〜11、21〜31の作製]
主ドープに含まれる添加剤の種類および比率を表3のように変更した以外は、光学フィルム1と同様にして、光学フィルム2〜11を作製した。また、膜厚を40μmから20μmに変更した以外は、光学フィルム1〜11と同様にして、光学フィルム21〜31を作製した。
[光学フィルム41、42の作製]
主ドープからリタデーション低下剤(糖エステルT1、エステル化合物E1)を除いてフィルムを作製した以外は、光学フィルム1・21と同様にして、膜厚40μmの光学フィルム41と、膜厚20μmの光学フィルム42とを作製した。
[偏光板の作製]
上記作製した光学フィルム1〜11、21〜31、41〜42を用い、以下のようにして2種類の偏光板(第1の偏光板、第2の偏光板)を作製した。
(偏光子の作製)
平均重合度2400、ケン化度99.9モル%の厚さ30μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の温水中に60秒間浸漬し膨潤させた。次いで、得られたフィルムを、ヨウ素/ヨウ化カリウム(質量比=0.5/8)の濃度0.3%の水溶液に浸漬し、3.5倍まで延伸させながら染色した。その後、得られたフィルムを、65℃のホウ酸エステル水溶液中で、トータルの延伸倍率が6倍となるように延伸した。その後、得られたフィルムを、40℃のオーブンにて3分間乾燥して、厚さ10μmの偏光子を得た。
(偏光板の作製)
上述した光学フィルム1〜11、21〜31、41〜42の表面に対してアルカリケン化処理を行い、表4に示す組み合わせとなるように、偏光子の一方の面および他方の面に、ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として各光学フィルムを貼り合わせた。その後、光学フィルムの液晶セル側となる面に粘着層を積層し、第1の偏光板および第2の偏光板を作製した。
[液晶表示装置の作製]
表4の組み合わせとなるように、液晶セルに対して視認側に第1の偏光板を貼り合わせ、バックライト側に第2の偏光板を貼り合わせた。そして、第2の偏光板の下方(液晶セルとは反対側)にバックライトを配置し、これらを筐体で覆って液晶表示装置1〜14を完成させた。このとき、上記筐体の視認側(第1の偏光板側)には開口部が設けられており、開口部を介して表示画像を視認することができる。なお、以下での説明の便宜上、第1の偏光板において液晶セル側の光学フィルムを保護フィルムAとも称し、第2の偏光板において液晶セル側の光学フィルムを保護フィルムBとも称する。
[色味の評価]
上記した液晶表示装置1〜14を、40℃80%RHの環境下に48時間放置した後、画像を表示させてその色味を観察した。そして、その後、23℃55%RHの環境下で2時間放置した後に表示画像の色味を再度観察し、下記の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎・・・ 環境変化の前後で色味の変化が確認されなかった。
○・・・ 環境変化の前後で色味の変化がわずかに観察されたが、問題のないレベルである。
×・・・ 環境変化の前後で色味の変化が明確に確認された。
表4に色味の評価結果を併せて示す。なお、作製した液晶表示装置1〜14と、実施例または比較例との対応関係は、表4に示す通りである。
表4より、液晶表示装置1〜11では、色味の評価が良好(◎または○)となっている。これは、第1の偏光板の保護フィルムAの膜厚が40μmと30μm以上であるため、リタデーションRtの変化が図2の白抜き矢印のように使用環境の変化に追随するようになり、これによって位相差の大きな変動を抑えることができているためと考えられる。また、第2の偏光板の保護フィルムBの膜厚が20μmと30μm未満であるため、リタデーションRtの変化が図3の黒塗り矢印のように使用環境の変化に追随するようになり、これによって位相差の大きな変動を抑えることができているためと考えられる。
特に、液晶表示装置1〜9では、色味の評価が液晶表示装置10〜11よりも良好となっている。液晶表示装置1〜9の保護フィルムAおよびBは、リタデーション低下剤として糖エステルを含んでおり、液晶表示装置10〜11の保護フィルムAおよびBは、リタデーション低下剤として糖エステルを含んでいない(表3参照)。このことから、リタデーション低下剤としての糖エステルは、使用環境の急激な変化に対するリタデーションRtの一時的な変動を抑えて位相差の変動を抑える効果が、他のリタデーション低下剤(ポリエステル、アクリル)に比べて高いと言える。
一方、液晶表示装置12〜14では、色味の評価が不良(×)となっている。これは、第1の偏光板の保護フィルムAの膜厚が20μmと30μm未満であるため、使用環境の変化に伴って、リタデーションRtが図3の白抜き矢印のように一時的に大きく増加し、これによって位相差がゼロから大きく変動しているためと考えられる。また、第2の偏光板の保護フィルムBの膜厚が40μmと30μm以上であるため、使用環境の変化に伴って、リタデーションRtが図2の黒塗り矢印のように一時的に大きく減少し、これによって位相差がゼロから大きく変動しているためと考えられる。