JP2015069127A - 炭化ケイ素導波路素子 - Google Patents

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【課題】炭化ケイ素基板上に、光導波路素子を形成することにより、伝搬光の光強度を変化させる素子、もしくは光伝搬の有無を検出可能な光受光素子を提供する。
【解決手段】光導波路素子であって、炭化ケイ素基板と、前記炭化ケイ素基板上の一部もしくは全面上に形成された、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜と、前記グラフェン膜上の一部もしくは全面上に形成された、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜と、前記電気絶縁膜上の一部もしくは全面上形成された、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率および導電性とを有する高屈折率材料とを備えた。前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記高屈折率材料と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、炭化ケイ素(SiC)を基材とする光導波路素子に関する。
炭化ケイ素(SiC)は、ダイヤモンド、炭化ホウ素に続く地球上で3番目に硬さである高硬度と、圧縮による変形を受けにくいという高強度の性質を有しており、機械的強度の優れた材料である。炭化ケイ素の熱特性としては耐熱性に優れ、熱分解温度は2,545℃であり、空気中でも1,600℃付近まで安定している。また、炭化ケイ素(SiC)は、熱伝導率が金属類に匹敵するほど高く(炭化ケイ素焼結体の熱伝導率:270W/mK)、かつ、線熱膨張率が、4.5×10-6(1/℃)と金属に比べ低くいため、熱伝導性と相まって熱衝撃に極めて高い耐性を有している。
炭化ケイ素は半導体であり、電気抵抗が発熱体として使用できる抵抗領域から絶縁体に近い領域まで10桁以上変化することが知られている(非特許文献1)。また、バンドギャップ幅が広い(Siに比べ2〜3倍)とともに、飽和速度(cm/sec)が高く、シリコン(Si)の10倍以上の高周波動作が可能である。
炭化ケイ素は絶縁破壊電界が高いため、SiよりON抵抗を下げても耐圧を維持でき、熱伝導度が大きいことも相俟って、半導体接合部分のジャンクション温度が250℃に達していても動作が可能である。このことから、500℃付近まで使用できる高温半導体などパワーデバイス用材料として利用されている。
純粋な炭化ケイ素は無色透明であり、可視光から光通信に利用される赤外光領域に至る幅広い波長帯において材料特有の光吸収特性を有していない。しかしながら、工業製品としての炭化ケイ素は、実際には、窒素、アルミニウムなどIII族、V族元素の原子が結晶格子に入り込んで作る不純物準位により、緑ないし黒の着色を有していることが多い。半導体材料として用いられる基板は、n型ドープ6H-SiCは青緑色(エメラルドグリーン)、n型ドープ4H-SiCは緑色、3C-SiCは黄色の着色を有している。このため、材料としては、理想的な状態では非常に幅広い光波長帯域での光素子の可能性を有しているが、実用化されていない現状にある。
加えて、炭化ケイ素は、良質なグラフェンを作製する基材としても利用できることが知られている。炭化ケイ素を1000℃以上の高温で熱処理することにより、炭化ケイ素表面が熱分解を起こし、炭化ケイ素中のシリコン(Si)が低酸素下で、SiOとして脱離する事により、炭化ケイ素表面に単層〜数原子層のグラフェンが形成されることが知られている。
一方、グラフェンは、炭素原子とそのsp2結合からできた蜂の巣のような平面六角形格子構造を有する2次元炭素原子のシート状物質であり、厚さ単原子〜数原子の原子層構造を有する(非特許文献2)。グラフェンは、厚さが約0.3nmの非常に薄い状態でも安定な物質であることから、単位面積当たりの質量が0.77mg/m2と非常に軽量なシート状材料としての特徴を有している。
グラフェンの弾性限界は、約20%である。また、破壊強度が130GPa以上であるため、非常に強靭な物質であり、ヤング率が鉄の約5倍の約1.1TPaであり、非常に機械的強度に優れた材料でもある。さらに、グラフェン面内方向に、約2300 W/mKのダイヤモンドを超える約5,000W/mKの熱伝導度を有し、欠陥が無ければ高圧のHe気体も遮蔽可能であるガスバリアー性をも有している。
グラフェンの電子的性質として、一般的な既存の3次元的材料とは異なり、半金属、あるいはバンドギャップがゼロの半導体としての性質を有している。グラフェンの二次元的な六角形のブリュアンゾーンにおける6個の頂点付近で、低エネルギーでのエネルギーの分散関係(E-k)が直線的となり、ディラックコーンと呼ばれる線形分散の特異なバンド構造となる。このため、スピン1/2の粒子に関するディラック方程式で記述される相対論的粒子のように振舞うことに起因して、キャリア電子の有効質量がゼロとなり、室温下で約200,000(cm2/Vs)以上の非常に高いキャリア移動度を有する。グラフェンのキャリア移動度は、GaAs の約30倍(GaAs:8500(cm2/Vs)、またはSiの100倍以上である。
また、グラフェンは、電流密度の許容量も大きく、電流密度の銅(106A/cm2)の1000倍以上の高い108 A/cm2以上の耐電流密度を有しているため、高速電子デバイスへの応用やパワーデバイスへの応用も期待されている。
グラフェンの光学的性質として、厚さ1原子層での垂直光透過率が約2.3%という非常に高い光吸収特性を有する。ディラックコーンと呼ばれる線形分散を有するバンド構造を有するため、光吸収帯域は非常に広帯域となることが知られている。従って、可視光〜ミリ波といった様々な波長域で光相互作用を示すため、これまであまり有効な光デバイスが得られなかった光波長帯域における光デバイス応用が期待されている。
また、グラフェンは、高強度の光入射によってカー効果などの光非線形性を示すため、より高強度のレーザー照射を行ったグラフェンでは、通常の可飽和吸収に加えて、非線形光学的カー効果による非線形的な位相シフトが生じることが知られている。
以上のようにグラフェンは、様々な特異な性質を有し、光・電子デバイスをはじめ、様々なデバイス応用が期待されている。
「SiCパワーデバイス技術」(2009年3月25日「グリーンIT」が切り拓く未来社会創造シンポジウム ) 「グラフェンの高速トランジスタ応用への注目と課題」(科学技術動向 2010 年5 月号29-42 ページ)
グラフェンを炭化ケイ素表面で作製すると、良質でドメインサイズが比較的大きく、優れた電子特性を有するグラフェン膜が得られることが知られている。そのためグラフェン膜の電子デバイスのみならず光デバイス応用への期待も高まっている。
しかしながら、炭化ケイ素表面で作製されたグラフェン膜を、別の基板上に転写して加工するために、炭化ケイ素表面から剥離・転写する場合、グラフェン自体に破損等ダメージを与えずに炭化ケイ素基板をエッチング等で除去することが非常に困難であり、炭化ケイ素から作製されたドメインサイズの大きなグラフェンを別の基板や素子表面に実装することは困難であった。
そこで、グラフェンを製膜した炭化ケイ素基板自体を光デバイス基板として利用することが考えられるが、炭化ケイ素の高硬度のため、高精度な微細加工か困難であるとともに、高速イオンやプラズマなどをグラフェン膜上から行うと、グラフェン膜自体が破壊されるため、光デバイスに求められる0.1ミクロンオーダーの高精度加工が困難であった。
また、単に炭化ケイ素表面に光導波路を作製しようとする場合、光硬化性樹脂などを用いて、炭化ケイ素基板表面に埋め込み光導波路を作製する方法、または別に作製した光導波路を表面に張り付ける方法でも、実現可能である。しかし、それでは炭化ケイ素表面に作製したデバイスとの光結合等が取り難く、位置合わせなどのために、結局、炭化ケイ素基板の微細な形状加工が必要となってしまう。
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、これまであまり利用されていなかった炭化ケイ素自体を光デバイス用部材として応用出来る方法を見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、本発明は、耐久性の高い電子デバイスが作製可能な炭化ケイ素の表面に、簡便な方法によって光導波路を形成することにより、炭化ケイ素の光導波路素子を形成すると共に、簡便な製造方法によって、光可変減衰器、光変調器や光検出器などの光制御デバイスを実現するものである。
本発明の方法を用いれば、炭化ケイ素基板には、表面の平坦性のみを有すれば良く、表面のグラフェン膜を積層したまま、表面のグラフェン膜への光可変減衰器、光変調器や光検出器などの光制御デバイスの作製が実現可能となる。また、本発明の方法であれば、グラフェンへの電極接続が同一平面で行えるため、グラフェンを用いたトランジスタや電気配線などの電気デバイスとの複合化も容易であり、炭化ケイ素表面での光電気集積デバイスの実現も可能となる。
上記課題を解決するための本発明は、以下の通りである。
光導波路素子であって、炭化ケイ素基板と、前記炭化ケイ素基板上の一部もしくは全面上に形成された、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜と、前記グラフェン膜上の一部もしくは全面上に形成された、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜と、前記電気絶縁膜上の一部もしくは全面上形成された、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率および導電性とを有する高屈折率材料とを備え、前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記高屈折率材料と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする。
また、光導波路素子であって、炭化ケイ素基板と、前記炭化ケイ素基板上の一部もしくは全面上に形成された、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜と、前記グラフェン膜上の一部もしくは全面上に形成された、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜と、前記電気絶縁膜上の一部もしくは全面上に形成された、導電膜と、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率を有する高屈折率材料とからなる導電性高屈折率膜とを備え、前記導電膜と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させるこことを特徴とする。
さらに、前記グラフェン膜上の前記高屈折率材料を挟んで対向する位置に2つ以上の電極を備え、前記電極間の電流によって伝搬する光を検出することを特徴とする。
このとき、前記電気絶縁膜上の一部もしくは全面上に形成した導電性高屈折率膜において、前記導電膜と前記高屈折材料の配置は、基板膜厚方向において任意であり、前記導電膜が前記高屈折材料より上部、もしくは下部、どちらであっても良い。強電界を発生させるためには、導電膜が下層であることが望ましく、またワイヤーボンディング等の簡便な表面実装を行う目的では、導電膜が表面にあることが望ましい。
また、導電性高屈折率膜において、前記導電膜と前記高屈折材料が複数逐次積層されたサンドイッチ状の構造であっても構わない。基板面内方向の配置も任意であり、導電膜が高屈折率材料に埋め込まれた構造であっても構わない。
光導波路素子の作製方法であって、炭化ケイ素基板を低酸素環境中で1000℃以上に加熱し、炭化ケイ素基板の表面に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜を作製する工程と、前記グラフェン膜上に、光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層が形成された前記炭化ケイ素基板上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜を堆積する工程と、前記電気絶縁膜上に、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率および導電性を有する高屈折材料を堆積する工程と、前記フォトレジストを除去する工程を備え、前記高屈折率材料と、前記電気絶縁膜と、前記グラフェン膜との中を光伝搬する光導波路を作製し、高屈折率材料とグラフェン膜との間に電圧を印加することにより光導波路の伝搬光の透過率を可変させることを特徴とする。
また、光導波路素子の作製方法であって、炭化ケイ素基板を低酸素環境中で1000℃以上に加熱し、前記炭化ケイ素基板の表面に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜を作製する工程と、前記グラフェン膜上に、光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層が形成された炭化ケイ素基板上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜を堆積する工程と、前記電気絶縁膜上に、膜厚1μm以下の導電膜を堆積する工程と、前記導電膜上に、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率を有する高屈折材料を堆積する工程と、前記フォトレジストを除去する工程とを備え、前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記導電膜と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする。
また、光導波路素子の作製方法であって、炭化ケイ素基板を酸素濃度1%未満で1000℃以上に加熱し、前記炭化ケイ素基板の表面に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜を作製する工程と、前記グラフェン膜上に、光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層が形成された前記炭化ケイ素基板上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜を堆積する工程と、前記電気絶縁膜上に、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率を有する高屈折材料を堆積する工程と、前記高屈折材料上に、膜厚1μm以下の導電膜を堆積する工程と、前記フォトレジストを除去する工程とを備え、前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記導電膜と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする。
さらに、前記フォトレジストを除去する工程のあとに、前記グラフェン膜上であって、前記グラフェン膜の両端に対向する2つ以上の電極を作製するためのパターンの窓を開けたリフトオフ用の第2のフォトレジスト層を形成する工程と、前記第2のフォトレジストを形成した炭化ケイ素基板上に電極を形成する工程と、前記第2のフォトレジストを除去する工程とをさらに備えたことを特徴とする。
ここで、低酸素環境中とは、10Pa以下の減圧真空中、もしくは、大気圧(1atm)にてアルゴン(Ar)等の不活性ガスで置換した、酸素濃度1%未満の環境を示す。
以上説明したように、本発明によって、炭化ケイ素基板の表面に光導波路素子が簡便な手段によって実現され、炭化ケイ素の優れた材料特性や、パワートランジスタ等の高強度デバイス、またはグラフェンとの集積化が可能となり、光通信をはじめとする光素子応用分野で、また、炭化ケイ素を用いた電子デバイス分野で用いられる種々の光・電子集積デバイス等への応用が期待でき、その産業上の利用価値は極めて大である。
本発明の第1および第2の実施形態にかかる光導波路素子の断面模式図である。 図1の光導波路素子の高屈折率材料の中心における膜厚方向の屈折率分布と膜厚方向の0次モードの光電界強度分布を示す模式図である。 グラフェンのディラックコーンのバンド構造の模式図である。 グラフェンの電界効果型トランジスタ(FET)における光電流発生原理の模式図である。 本発明の第1および第2の実施形態にかかる光導波路素子の作製工程を示す図である。 本発明の第3および第4の実施形態にかかる光導波路素子の断面模式図である。 図6の光導波路素子の高屈折率材料の中心における膜厚方向の屈折率分布と膜厚方向の0次モードの光電界強度分布を示す模式図である。 本発明の第3および第4の実施形態にかかる光導波路素子の作製工程を示す図である。 本発明の実施例1にかかる光導波路解析モデルを示す図である。 本発明の実施例1にかかる光導波路モードの解析結果を示す図である。 本発明の実施例3にかかる光導波路解析モデルを示す図である。 本発明の実施例3にかかる光導波路モードの解析結果を示す図である。
(第1の実施形態)
図1に、第1および第2の実施形態の光導波路素子の断面を示す。第1の実施形態は、光導波路素子として、炭化ケイ素基板1の表面の一部もしくは全面上に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜2を形成し、その表面の一部もしくは全面上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜3と、その電気絶縁膜の一部もしくは全面上に、炭化ケイ素よりも高い屈折率、かつ導電性を有する高屈折率材料4が逐次形成された構造をなしている。高屈折率材料、電気絶縁膜およびグラフェン膜中を光が伝搬し、高屈折率材料とグラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることができる。
図2に、図1のA−A’における断面での膜厚方向の屈折率分布(図2実線)と膜厚方向の0次モードの光電界強度分布(図2点線)とを示す。図2に示すように、炭化ケイ素基板表面に垂直な方向では、高屈折率材料は、低屈折の空気(大気)(屈折率約1.0)と炭化ケイ素に挟まれたサンドイッチ構造となるため、光の閉じ込め構造が実現し、光導波路のコアとなる。このとき、絶縁膜の屈折率が、炭化ケイ素よりも低い場合には、大気(空気)、高屈折率材料、絶縁層の3層により、光閉じ込め構造が形成される。また、絶縁層の厚さ、すなわち炭化ケイ素基板に垂直方向の厚さが薄ければ、伝搬光の光電界が炭化ケイ素基板の表面に染みだし、伝搬光と炭化ケイ素基板の表面に形成されたグラフェンとの光相互作用が可能となる。一方、炭化ケイ素基板の表面に平行な方向では、高屈折率部分の両端の外側が空気となるため、光の閉じ込め構造が実現できる。
高屈折率材料としては、使用光波長域において出来るだけ透明である方が望ましく、金属、半導体、また、これらの酸化物などを用いることができる。特に光通信などに利用されている近赤外域の光を用いる場合には、高屈折率材料として光透過性が高いアモルファスシリコン、ポリシリコン、InPなどが適用可能である。
高屈折率材料の形状としては、光閉じ込め構造が得られれば良いのであるため、断面形状として、長方形だけでなく、台形や、円を一部欠かした形状など任意で良い。作製上の問題から、長方形や台形の断面が望ましく、また、実際には剥離が懸念されるため、膜厚は、20μm以下が望ましい。
炭化ケイ素基板の形状としては、表面に作製した光導波路素子において光伝搬をさえぎらない程度に平坦であればよく、炭化ケイ素基板の表面に平行な方向に任意の回路パターンが形成可能である特徴も有している。
炭化ケイ素基板の表面に作製され、または実装された光デバイスと、光導波路とを光結合させる場合、例えば波長1.55μm光では、屈折率が約2.6の炭化ケイ素よりも屈折率の高い高屈折率材料がコアとなるので、光の閉じ込めが非常に強い。そのため、高屈折率材料部分の膜厚を、使用する光波長の1/2以下と非常に薄くすると、コアとなる高屈折率材料部分から光が外部に浸み出す。
このとき、下部クラッドとなる炭化ケイ素の屈折率が上部クラッドとなる空気(大気)よりも十分大きいため、炭化ケイ素基板側に光が浸み出し、炭化ケイ素表面に作製したデバイスとの光相互作用を起こしやすくなるという特徴も有している。
ここで、グラフェン膜と導電膜との間に電圧を印加し、グラフェン膜へ電界を印加する。グラフェンにかかる電界強度を変化させることにより、グラフェンの光吸収強度や光吸収スペクトルを変化させ、これにより光可変減衰素子や光強度変調素子が実現可能となる。以下にグラフェンへの電界印加方法と、その効果についての詳細を述べる。
グラフェン膜に電界を印加するためには、グラフェンおよび導電性を有する高屈折率材料に電気的接続を取る必要がある。高屈折率材料に導電性を持たせる方法としては、例えば、ITOやIZOなどの透明導電膜で高屈折率なものを利用する方法、シリコン、ゲルマニウムなど半導体などの高屈折材料に、伝導性を付与するホウ素やリンなどのイオンをドーピングし、伝導性を持たせる方法が挙げられる。さらに、高屈折率材料とグラフェンの両方から電気接続を取るために、部分的に電極パッドの形成や電気配線構造を導入する必要がある。
以上によって、グラフェン膜と導電性を有する高屈折率材料との間に電位差を持たせること、すなわちグラフェン膜に電界を印加することが可能となる。グラフェン膜に電界を印加することにより、電子もしくは正孔(ホール)がグラフェンに誘起され、グラフェンのフェルミ面のエネルギー準位が変化する。つまり、電界強度によりグラフェンのエネルギーバンドにドーピングすることと同じ効果が得られる。
図3に、グラフェンの第1ブリュアンゾーンにおける6個の頂点近傍で形成される、ディラックコーンと呼ばれる線形分散のバンド構造を示す。通常、外部よりグラフェンに光が入射された場合、グラフェンの電子が光を吸収し、光を吸収した電子はディラックコーンの下円錐中のエネルギー準位から上円錐のエネルギー順位に遷移し、伝導電子とホール(正孔)が発生する。この場合、グラフェンで光吸収が発生するため、透過光は減衰する。
一方、グラフェン膜に電界をかけ、電子もしくは正孔(ホール)がグラフェンに誘起されることによって、グラフェンのフェルミ面のエネルギー準位が変化する。入射する光エネルギーを
とすると、
の範囲内に、グラフェンのフィルミ準位が存在するときは、上述した通り、光吸収が起こる。しかし、グラフェンのフェルミ準位が
未満である場合には、グラフェンに光を照射しても、電子遷移光吸収を起こすようなエネルギー準位(価電子帯)に電子が存在しないため、光吸収が生じなくなる。また、グラフェンのフェルミ準位が
より大きければ、光照射しても、電子遷移光吸収を起こすエネルギー準位(伝導帯)が電子で占有されているため、電子が励起出来ず、この場合も光吸収が生じなくなる。
光吸収スペクトルについて、入射する光エネルギーを
とすると、ディラック点(E(k)=0)とフェルミ面のエネルギーの差の2倍のエネルギーよりも大きなエネルギーの光は吸収され、小さなエネルギーの光は吸収されなくなる。したがって、グラフェンに光エネルギーの高い光のみを吸収させる波長可変の光フィルターとしても機能する。
以上の原理から、グラフェンへの電界印加により、光吸収強度や光吸収スペクトルを変化させることができ、グラフェンに印加する電界強度を変化させることにより、光吸収帯域を変化させ、光可変減衰素子や光強度変調素子が実現可能となる。
使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜としては、SiO2、GeO2、HfO2、ZrO2、Al2O3、Ta2O5などの半導体や金属の酸化物や、光学部品等に利用されるオレフィン系ポリマ、ポリメチルメタクリレート,ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ベンゾシクロブテン(BCB)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリシラン、フッ素樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂などのポリマ材料も利用できる。
図5に、本発明の第1の実施形態、および第2の実施形態の作製工程を示す。まず、低酸素環境中で1000℃以上に加熱することにより炭化ケイ素表面を熱分解させ、炭化ケイ素1の表面にグラフェン膜2を作製する(図5(a))。グラフェン膜2の表面に光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層7を形成する。例えば、酸化ケイ素のような絶縁層3と、シリコンなどの高屈折率材料4とを電子線蒸着法、真空加熱蒸着法、化学気相成長法などを用いて逐次積層する。そして、イオン注入装置によって、ホウ素、リンなどのドーパントを高屈折率材料4に打ち込み、高屈折率材料4に導電性を持たせる(図5(b))。
このとき、グラフェンが表面に露出した状態で、ECR堆積法などの高エネルギーのプラズマを用いた堆積方法を用いると、グラフェン膜中にプラズマによる欠陥が発生するため、蒸着のような低エネルギー堆積方法が望ましい。次に、フォトレジスト7を溶解させ、不要部分を除去することにより、第1の実施形態の光導波路素子が得られる。
本発明の第1の実施形態では、電極パターンを形成しなくても、例えば、金ワイヤーボンディングなどを用いて、導電性の高屈折率材料4とグラフェン膜に直接配線を形成することが可能である。しかし、第2の実施形態と同様に、ソース電極、ドレイン電極などの電極を形成しても構わない。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、光導波路素子として、炭化ケイ素表面に形成したグラフェン膜の両端に対向する2つ以上の電極を形成し、その対向する2つ以上の電極間の電流によって伝搬光を検出することを特徴としている。第2の実施形態の光導波路素子の断面模式図は、第1の実施形態と同様、図1に示される。本実施形態の光導波路素子は、導電性を有する高屈折率材料をゲート電極とし、グラフェン膜上の、絶縁膜および高屈折率材料を挟んで対向する2つ以上の電極をそれぞれソース電極とドレイン電極とした、電界効果型トランジスタ(FET)の構造となっている。
図1のAA’における断面の、膜厚方向の屈折率の断面プロファイル(図2実線)と膜厚方向の0次モードの光電界強度分布(図2点線)は、第1の実施形態と同様であり、図2に示される。第1の実施形態と同様に、図3に示すように、外部よりグラフェンに光が入射された場合、グラフェンの電子が光吸収を起こし、ディラックコーンの下円錐中のエネルギー準位から上円錐のエネルギー順位に遷移し、伝導電子とホール(正孔)が発生する。
図4を参照して、グラフェンFET素子の光電流の発生原理を説明する。グラフェン中で発生した電子と正孔は、図4中の金属とグラフェンの仕事関数差によるエネルギー勾配や、ソース電極、ドレイン電極間に掛かっている電位差(Vsd)によって、ソース電極と、ドレイン電極とのそれぞれに電子と正孔(ホール)とが引き寄せられ、電流となって光電流が発生する。つまり、吸収された光強度に応じて光電流が発生するため、光受光素子(フォトディテクタ)が実現可能となる。
図5に、第2の実施形態の作製工程を示す。まず、低酸素環境中で1000℃以上に加熱することにより炭化ケイ素表面を熱分解させ、炭化ケイ素1の表面にグラフェン膜2を作製する(図5(a))。グラフェン膜2の表面に光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層7を形成し、例えば酸化ケイ素のような絶縁層3と、シリコンなどの高屈折率材料4を電子線蒸着法、真空加熱蒸着法、化学気相成長法などを用いて逐次積層し、ホウ素、リンなどのドーパントをイオン注入装置によって高屈折率材料4に打ち込み、高屈折率材料4に導電性を持たせる(図5(b))。
このとき、グラフェンが表面に露出した状態で、ECR堆積法などの高エネルギーのプラズマを用いた堆積方法を用いると、グラフェン膜中にプラズマによる欠陥が発生するため、蒸着のような低エネルギー堆積方法が望ましい。次に、フォトレジスト7を溶解させ、不要部分を除去する。
電極パターン作製のためのフォトレジスト層8を形成し、電極形状に応じて窓開けをして、露光する(図5(c))。その上から、電子線蒸着法や真空加熱蒸着法を用いて電極金属材料を堆積する(図5(d))。このとき、グラフェンが表面に露出した状態で、ECRなどのプラズマによる堆積方法を用いると、グラフェン膜中にプラズマによる欠陥が発生するため、蒸着のような方法が望ましい。その後、フォトレジストを溶解させ不要部分を除去し、光導波路素子が得られる(図5(e))。最後に、必要に応じてグラフェンの不要部分の除去については、レジストで必要部分を保護した後、酸素プラズマによるエッチィングにより除去可能である。
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、光導波路素子として、炭化ケイ素基板1の表面の一部もしくは全面上に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜2を形成し、その表面の一部もしくは全面上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜3を形成し、その表面の一部もしくは全面上に膜厚1μm以下の導電膜9、および炭化ケイ素よりも高い屈折率を有する高屈折率材料10からなる導電性高屈折率膜が形成された構造をなしている。高屈折率材料、導電膜、電気絶縁膜およびグラフェン中を光が伝搬し、導電膜とグラフェン間で電圧を印加することにより光透過率を可変させることを特徴としている。
図6に、第3の実施形態の断面を示す。また、図7に、図6のB−B’断面における膜厚方向の屈折率分布(図7実線)と膜厚方向の0次モードの光電界強度分布(図7点線)を示す。導電性高屈折率膜において、高屈折率材料と導電膜とは、どちらが上側にあっても構わない。但し、グラフェンにより強い電界をかける場合は、高屈折率材料よりも導電膜がグラフェンに近い方が望ましく、グラフェンに光の浸み出しが多い方が良い場合には、導電膜よりも高屈折率材料がグラフェンに近い方が望ましい。透明な電気絶縁膜が炭化ケイ素よりも高い屈折率を有している場合には、電気絶縁膜と高屈折率材料を兼ね、一つの薄膜で形成することも可能である。
また、導電膜の膜厚については、グラフェンに対して電界をかけるための膜厚があれば良いが、導電膜は、光閉じ込め構造に影響を与えるため、膜厚1μm以下であることが望ましい。また、キャリアとなる電子の影響で、光を吸収する材料であることが多いため、出来るだけ薄い方が光導波路の性能としては良く、膜厚は100nm以下であることがさらに望ましい。
図8に、本発明の第3の実施形態、および第4の実施形態の作製工程を示す。まず、低酸素環境中で1000℃以上に加熱することにより炭化ケイ素1の表面を熱分解させ、炭化ケイ素表面にグラフェン膜2を作製する(図8(a))。その表面に光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層7を形成し、例えば酸化ケイ素のような絶縁層3、シリコンなどの高屈折率材料層10、例えば金属などの導電膜9を電子線蒸着法や真空加熱蒸着法を用いて逐次積層する(図8(b))。その後、フォトレジスト7を溶解させ、不要部分を除去することにより第3の実施形態の光導波路素子が得られる。本実施形態では、電極パターンを形成しなくても、例えば金ワイヤーボンディングなどを用いて、導電性の高屈折率材料とグラフェン膜に直接配線を形成することが可能である。しかし、第4の実施形態と同様に、電極パターンを形成しても構わない。
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、光導波路素子として、第3の実施形態の光導波路素子に、炭化ケイ素表面に形成したグラフェン膜上に、絶縁膜、導電膜および高屈折率材料を挟んで対向する2つ以上の電極がさらに形成された構造と成っており、光導波路に対して両側に対向した電極間の光電流によって伝搬光を検出することを特徴としている。第4の実施形態の光導波路素子の断面模式図は、第3の実施形態と同様、図6に示される。第2の実施形態と同様にFET構造の素子が形成され、グラフェンにかかる電界強度を変化させることにより、光吸収帯域を変化させ、光可変減衰素子や光強度変調素子が実現可能となる。
図8に、本発明の第4の実施形態の作製工程を示す。まず、低酸素環境中で1000℃以上に加熱することにより炭化ケイ素1の表面を熱分解させ、炭化ケイ素表面にグラフェン膜2を作製する(図8(a))。その表面に光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層7を形成し、例えば酸化ケイ素のような絶縁層3、シリコンなどの高屈折率材料層10、例えば金属などの導電膜9を電子線蒸着法や真空加熱蒸着法を用いて逐次積層する(図8(b))。その後、フォトレジスト7を溶解させ、不要部分を除去する。
電極パターン作製のためのフォトレジスト層8を形成し、電極形状に応じて窓開けして、露光する(図8(c))。その上から、電子線蒸着法を用いて電極金属材料を堆積する(図8(d))。このとき、グラフェンが表面に露出した状態で、ECRなどのプラズマによる堆積方法を用いると、グラフェン膜中にプラズマによる欠陥が発生するため、蒸着のような方法が望ましい。その後、フォトレジスト8を溶解させ不要部分を除去し、光導波路素子が得られる(図8(e))。最後に、必要に応じてグラフェンの不要部分の除去については、レジストで必要部分を保護した後、酸素プラズマによるエッチィングにより除去可能である。
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
本発明の光導波路構造が機能していることを確認するために、光閉じ込め構造の光モード解析を行った。計算解析には、LUMERICAL社の解析ソフト、MODE SOLUTIONを使用した。
図9に、計算解析に用いた解析モデルを示す。光波長(λ)は、光通信等に利用されている1550nmを用いた。PML(Perfectly Matched Layer)境界の領域中に、X―Y座標のX軸(Y=0)が炭化ケイ素基板の表面と一致するように炭化ケイ素基板を配置し、X―Y座標のX軸に平行に、Y座標が正の方向に、かつ、Y軸を中心とした線対称となるように、高屈折率材料を配置した。
炭化ケイ素基板表面に膜厚5nm、解析領域幅のグラフェン(屈折率:2.67)を配置した。続いて、グラフェンの表面(Y座標が正の方向)に絶縁膜として、酸化アルミニウム(Al2O3)(屈折率n=1.75)をアモルファスシリコンと同じ幅:2λ=3100nmとし、一定の厚さ:20nmとして配置した。さらに、絶縁膜表面(Y座標が正の方向)に、高屈折率材料として、屈折率n=3.5のアモルファスシリコンを用い、アモルファスシリコンの炭化ケイ素基板の表面と平行な方向に、幅は波長(λ)の2倍:2λ=3100nmとし、アモルファスシリコンの炭化ケイ素基板の表面と垂直な方向の膜厚は、光波長(λ)の1/10〜1倍の値で可変させて光の導波解析を行った。また、基本モードだけではなく、高次モードのモード解析も実施した。
図10に、モード計算解析により得られたTE偏波の0次モードの光導波モードの電界強度分布およびTM偏波の0次モードの電界強度分布を示す。その結果、TEモード偏波については、波長の2倍の幅(2λ)を有していることから、どの高屈折率材料の膜厚についても、基板面内方向に2つのモードピークを有する光伝搬モードで安定している。
また、第2の実施形態にて効果を示す炭化ケイ素基板の表面への光電界の浸み出し(Y=0での光電界強度)については、高屈折率材料のアモルファスシリコンの膜厚が薄くなるに従い、光電界強度の浸み出しが大きく、膜厚が波長の1/2(λ/2)以下の方が望ましいことがわかる。
TMモード偏波ではどの高屈折率材料の膜厚についても、高屈折率材料の膜厚が波長以下であるため、単一のモードピークでの光伝搬モードとなっている。また、第2の実施形態にて効果を示す炭化ケイ素基板表面への光電界の浸み出し(Y=0での光電界強度)については、高屈折率材料のアモルファスシリコンの膜厚が薄くなるに従い、光電界強度の浸み出しが大きく、膜厚が波長の1/2(λ/2)以下の方が望ましいことがわかる。
以上より、どの高屈折率材料の膜厚についても、光は十分に閉じ込められ光導波路として機能していることが示され、光導波路として機能していることが分かる。
SiC基板をアルゴン(Ar)で置換した低酸素環境で1800℃アニールすることによって、グラフェン膜を製膜した。グラフェン膜については、顕微ラマンを用いて、Gバンドと2Dバンドのラマンシフトの強度比が1以下であることより、単層グラフェン膜が得られていることを確認した。続いて、コア幅:3.0μmとなるように、レジストでリフトオフパターンを形成し、その表面から、EB蒸着装置を用いて、アルミニウムを5nm蒸着し、大気暴露することによって、酸化アルミニウム層を形成した。
次に、アモルファス状のシリコン膜を200nm堆積させた。その後、イオン注入装置を用いて、リンイオンを5×1019(個/cm3)の密度で注入し、レジストを溶解させることにより、光導波路を形成した。
その後、数%の水素を含む、不活性ガス雰囲気で、温度400℃、1時間加熱することにより、アモルファスシリコンの活性化と終端処理を行った。シリコンに電気伝導を取るために、部分的に50μm以上の部分を形成し、電極パッドをした。
その後、グラフェンの電極を形成するために、リフトオフ用レジスト層を形成し、クロムを20nm厚、金を200nm厚逐次積層することにより、光導波路の両側面で50μm以上離れた位置に電極パッドを形成した。高屈折率材料部分をゲート電極とし、グラフェンの両側面の電極をそれぞれソース電極、ドレイン電極として安定化電源に接続した。
光導波路長は10mmとし、光学特性としては、先球ファイバを用いて光接続し、波長1550nmにて測定を行ったその結果、ソース電極をゲート電極間(Vsd)に10V電圧印加をON/OFFさせることにより、-50dB程度の透過光強度変化が見られた。
さらに、先球ファイバを用いて波長1550nm、1mWのレーザダイオード光を、光導波路に光結合させ、ソース電極をゲート電極間に(Vgs)を-80Vとして電圧を印加し、ソース−ドレイン電極間電圧(Vsd)を1.0Vに設定して、光入射をON/OFFさせた際に、ソース−ドレイン電極間に生じる電流(Isd)が約0.01μA程度の変動を示し、入射光に応答することを確認した。
第3および第4の実施形態の光導波路構造が機能していることを確認するために、光閉じ込め構造の光モード解析を行った。計算解析には、LUMERICAL社の解析ソフト、MODE SOLUTIONを使用した。
図11に、計算解析に用いた解析モデルを示す。光波長(λ)は、光通信等に利用されている1550nmを用いた。PML境界領域中に、X―Y座標のX軸(Y=0)が炭化ケイ素基板の表面と一致するように炭化ケイ素基板を配置し、X―Y座標のX軸に接し、Y座標が正の方向に、かつ、Y軸を中心とした線対称となるように、高屈折率材料、絶縁膜、導電膜をそれぞれ配置した。
炭化ケイ素基板表面に膜厚5nm、解析領域幅のグラフェン(屈折率:2.67)を配置した。続いて、グラフェンの表面(Y座標が正の方向)に絶縁膜として、酸化アルミニウム(Al)(屈折率n=1.75)をアモルファスシリコンと同じ幅:2λ=3100nmとし、一定の厚さ:20nmとして配置した。さらに、絶縁膜の表面に、屈折率n=0.18の金を50nm厚で配置し、続いて屈折率n=3.42のアモルファスシリコンの幅を基板面内方向に波長の2倍:2λ=3100nmとし、膜厚は、基板表面に垂直な方向に光波長(λ)の1/10〜1倍の値で可変させて解析を行った。また、基本モードだけではなく、高次モードのモード解析も実施した。
図12に、モード計算解析により得られたTE偏波の0次モードの導波モードの電界強度分布およびTM偏波の0次モードの電界強度分布を示す。その結果、TEモード偏波については、波長の2倍の幅(2λ)を有していることから、どの高屈折率材料の膜厚についても、基板面内方向に2つのモードピークを有する光伝搬モードで安定している。
また、第2の実施形態にて効果を示す炭化ケイ素基板表面への光電界の浸み出し(Y=0での光電界強度)については、高屈折率材料のアモルファスシリコンの膜厚が薄くなるに従い、光電界強度の浸み出しが大きいことがわかり、膜厚が波長の1/2(λ/2)以下の方が望ましいことがわかる。
TMモード偏波ではどの高屈折率材料の膜厚についても、高屈折率材料の膜厚が波長以下であるため、単一のモードピークでの光伝搬モードとなっている。また、第2の実施形態にて効果を示す炭化ケイ素基板表面への光電界の浸み出し(Y=0での光電界強度)については、高屈折率材料のアモルファスシリコンの膜厚が薄くなるに従い、光電界強度の浸み出しが大きいことがわかり、膜厚が波長の1/2(λ/2)以下の方が望ましいことがわかる。
以上より、どの高屈折率材料の膜厚についても、光は十分に閉じ込められ光導波路として機能していることが示され、光導波路として機能していることが分かる。
SiC基板をアルゴン(Ar)で置換した低酸素環境で1800℃アニールすることによって、グラフェン膜を製膜した。グラフェン膜については、顕微ラマンを用いて、Gバンドと2Dバンドのラマンシフトの強度比が1以下であることより、単層グラフェン膜が得られていることを確認した。続いて、コア幅:3.0μmとなるように、レジストでリフトオフパターンを形成し、その表面から、EB蒸着装置を用いて、Auを50nm厚さで堆積させた。このとき、Au層に電気伝導を取るために、部分的に幅50μm以上の部分を形成し、電極パッドを形成した。
続いて、レジスト除去後、再度、Auの電極パッドなしの光導波路形状のリフトオフパターンを形成し、その表面から、EB蒸着装置を用いて、アモルファス状のシリコン膜を150nm堆積させた。その後、レジストを溶解させることにより、光導波路を形成した。
数%の水素を含む、不活性ガス雰囲気で、温度400℃、1時間加熱することにより、アモルファスシリコンと終端処理を行った。その後、グラフェンの電極を形成するために、リフトオフ用レジスト層を形成し、クロムを20nm厚、金を200nm厚逐次積層することにより、光導波路の両側面で50μm以上離れた位置に電極パッドを形成した。Au層をゲート電極とし、グラフェンの両側面の電極をそれぞれソース電極、ドレイン電極として安定化電源に接続した。
光導波路長は10mmとし、光学特性としては、先球ファイバを用いて光接続し、波長1550nmにて測定を行った。その結果、ソース電極をゲート電極間(Vsd)に10V電圧印加をON/OFFさせることにより、-50dB程度の透過光強度変化が見られた。
さらに、先球ファイバを用いて波長1550nm、1mWのレーザダイオード光を、光導波路に光結合させ、ソース電極をゲート電極間に(Vgs)を-80Vの電圧印加、ソース−ドレイン電極間電圧(Vsd)を1.0Vに設定して、光をON/OFFさせた際に、ソース−ドレイン電極間に生じる電流(Isd)は、約0.01μA程度の変動を示し、入射光に応答することを確認した。
1 炭化ケイ素(基板)
2 グラフェン膜
3 電気絶縁膜
4 高屈折率材料(導電性)
5 電極(ソース)
6 電極(ドレイン)
7、8 フォトレジスト
9 導電膜
10 高屈折率材料

Claims (7)

  1. 炭化ケイ素基板と、
    前記炭化ケイ素基板上の一部もしくは全面上に形成された、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜と、
    前記グラフェン膜上の一部もしくは全面上に形成された、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜と、
    前記電気絶縁膜上の一部もしくは全面上に形成された、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率および導電性を有する高屈折率材料とを備え、
    前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記高屈折率材料と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする光導波路素子。
  2. 炭化ケイ素基板と、
    前記炭化ケイ素基板上の一部もしくは全面上に形成された、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜と、
    前記グラフェン膜上の一部もしくは全面上に形成された、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜し、
    前記電気絶縁膜上の一部もしくは全面上に形成された、導電膜と、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率を有する高屈折率材料とからなる導電性高屈折率膜とを備え、
    前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記導電膜と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする光導波路素子。
  3. 前記グラフェン膜上の前記高屈折率材料を挟んで対向する位置に2つ以上の電極を備え、前記電極間の電流によって伝搬する光を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の光導波路素子。
  4. 炭化ケイ素基板を酸素濃度1%未満で1000℃以上に加熱し、前記炭化ケイ素基板の表面に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜を作製する工程と、
    前記グラフェン膜上に、光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層を形成する工程と、
    前記フォトレジスト層が形成された前記炭化ケイ素基板上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜を堆積する工程と、
    前記電気絶縁膜上に、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率および導電性を有する高屈折材料を堆積する工程と、
    前記フォトレジストを除去する工程とを備え、
    前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記高屈折率材料と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする光導波路素子の作製方法。
  5. 炭化ケイ素基板を酸素濃度1%未満で1000℃以上に加熱し、前記炭化ケイ素基板の表面に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜を作製する工程と、
    前記グラフェン膜上に、光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層を形成する工程と、
    前記フォトレジスト層が形成された前記炭化ケイ素基板上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜を堆積する工程と、
    前記電気絶縁膜上に、膜厚1μm以下の導電膜を堆積する工程と、
    前記導電膜上に、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率を有する高屈折材料を堆積する工程と、
    前記フォトレジストを除去する工程とを備え、
    前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記導電膜と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする光導波路素子の作製方法。
  6. 炭化ケイ素基板を酸素濃度1%未満で1000℃以上に加熱し、前記炭化ケイ素基板の表面に、単層もしくは10原子層以下のグラフェン膜を作製する工程と、
    前記グラフェン膜上に、光導波路パターンの窓を開けたリフトオフ用のフォトレジスト層を形成する工程と、
    前記フォトレジスト層が形成された前記炭化ケイ素基板上に、使用する光波長帯において透明な電気絶縁膜を堆積する工程と、
    前記電気絶縁膜上に、使用する光波長帯において炭化ケイ素よりも高い屈折率を有する高屈折材料を堆積する工程と、
    前記高屈折材料上に、膜厚1μm以下の導電膜を堆積する工程と、
    前記フォトレジストを除去する工程とを備え、
    前記高屈折率材料、前記電気絶縁膜、および前記グラフェン膜中を光が伝搬し、前記導電膜と前記グラフェン膜との間に電圧を印加することにより光の透過率を可変させることを特徴とする光導波路素子の作製方法。
  7. 前記フォトレジストを除去する工程のあとに、
    前記グラフェン膜上であって、前記グラフェン膜の両端に対向する2つ以上の電極を作製するためのパターンの窓を開けたリフトオフ用の第2のフォトレジスト層を形成する工程と、
    前記第2のフォトレジストを形成した前記炭化ケイ素基板上に電極を形成する工程と、
    前記第2のフォトレジストを除去する工程と
    をさらに備えたことを特徴とする請求項4、5または6に記載の光導波路素子の作製方法。
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