同じ耕作地内における複数の給水先に対して同時に水を供給する場合、植物への給水量が畝ごとに異ならないように、基本的には、複数の給水先に対して等流量の給水を行う。特許文献1の技術では、横引き配管を各有孔管に対して分岐させる際に、各分岐管の途中にボールバルブ等のバルブを設け、各バルブの開度を個別に操作して流量調節することによって、各有孔管に対して等流量の給水を行うようにしていた。
しかしながら、ボールバルブ等のバルブは、僅かな開度の違いでも流量が大きく変化してしまうため、各バルブの開度を個別に操作して各流量を同一にするのは、面倒かつ困難であった。また、ニードル弁のような流量を微調整できるバルブもあるが、微調整が可能なバルブは、弁内にゴミが詰まり易いため、ゴミが混ざる農業用水への適用には不向きであった。
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、給水システムおよびこれを備える地下灌漑システムを提供することである。
この発明の他の目的は、複数の給水先に対して等流量の給水を行うことができる、給水システムおよびこれを備える地下灌漑システムを提供することである。
第1の発明は、給水タンクから複数の給水先に対して水を供給する給水システムであって、給水タンクの水を受けるように給水タンクに間接的または直接的に接続される複数の分水チューブ、複数の分水チューブのそれぞれの出口高さを同一の高さに揃えて保持する複数の保持部、および複数の分水チューブの各出口から大気開放状態で流出する水を個別に受けて給水先のそれぞれに導入する複数の導入部を備える、給水システムである。
第1の発明では、給水システムは、複数の分水チューブを備え、たとえば地下灌漑システムに適用されて、複数の給水先に対して給水タンク内の水を分配供給する。分水チューブのそれぞれは、直接的に、或いは横引き配管などを介して間接的に給水タンクに接続される。また、複数の分水チューブのそれぞれの出口高さは、保持部によって同一の高さに揃えて保持される。なお、ここで言う出口の「高さ」とは、地上高さ(地表面に対する高さ)ではなく、「標高」を意味する。すなわち、複数の保持部のそれぞれは、給水タンクの水位と各分水チューブの出口との高低差がそれぞれ同じとなるように分水チューブを保持する。そして、複数の分水チューブの各出口からは、大気開放状態で水が流出され、流出した水は、複数の導入部によって個別に受けられて給水先のそれぞれに搬送される。
第1の発明によれば、分水チューブの出口高さを同一の高さに揃えているので、給水タンク内の水位と分水チューブの出口との水頭差が複数の分水チューブにおいて同一となり、複数の給水先に対して等流量の給水を行うことができる。
また、各給水先への給水を等流量に調整するに際して径縮小を伴うバルブを用いないので、給水システム内におけるゴミ詰まりが生じ難く、ゴミが混ざる農業用水を用いる地下灌漑システムにも好適に利用できる。
第2の発明は、第1の発明に従属し、複数の分水チューブのそれぞれは、管路抵抗が同一の大きさとなるように構成される。
第2の発明では、複数の分水チューブのそれぞれは、管路抵抗が同一の大きさに揃えられる。各給水先への流量を小流量とする場合、分水チューブの管路抵抗(管路内摩擦)による損失水頭が無視できなくなる可能性があるが、各分水チューブの管路抵抗を揃えることによって、このような場合にも対応できる。
第2の発明によれば、各分水チューブの管路抵抗を同一の大きさに揃えているので、各給水先への流量を小流量とする場合であっても、正確に等流量の給水を行うことができる。
第3の発明は、第2の発明に従属し、複数の分水チューブのそれぞれは、同一の出口径を有する。
第3の発明では、複数の分水チューブのそれぞれの出口径が同じ大きさに揃えられる。
第4の発明は、第2または第3の発明に従属し、複数の分水チューブのそれぞれは、同一の長さおよび内径を有する。
第4の発明では、複数の分水チューブのそれぞれの長さおよび内径が同じ大きさに揃えられる。
第5の発明は、第2ないし第4のいずれかの発明に従属し、複数の分水チューブのそれぞれは、同一径の螺旋状に立ち上げて配管される。
第5の発明では、複数の分水チューブのそれぞれを同一径の螺旋状に配管する、つまり各分水チューブの曲率が同一に揃えられる。また、分水チューブを螺旋状に配管しておくので、たとえば分水チューブの上流端と下流端との高低差が各分水チューブで異なる場合であっても、各分水チューブの曲率を可及的同一に揃えることができる。
第6の発明は、第1ないし第5のいずれかの発明に従属し、複数の分水チューブが近傍位置にまとめて配管される。
第6の発明では、数本の分水チューブが横引き配管などから近傍位置にまとめて分岐され、たとえば保護管内にまとめて配管される。
第6の発明によれば、複数の分水チューブを近傍位置にまとめて配置するので、保護管の設置数を削減でき、分水チューブおよび導水部の点検作業なども行い易くなる。
第7の発明は、第1ないし第6のいずれかの発明に従属し、給水タンクは、内部に貯留する水の水位を任意に調整可能とする水位調整部を備える。
第7の発明では、給水タンクは、内部に貯留する水の水位を任意に調整可能とされる。たとえば、水位調整部として、給水タンクのオーバーフロー口に対して上下方向にスライド可能な堰が設けられる。そして、この堰を用いてオーバーフロー口の底部高さを調整することによって、給水タンク内の水位が任意に調整可能とされる。このように給水タンク内の水位を任意に調整可能としておけば、給水タンク内の水位を変更することによって、各分水チューブの出口との水頭差を任意に調整できるようになり、各給水先への給水量(流量)が調整可能となる。
第7の発明によれば、各給水先への給水量が調整可能となる。この際、各給水先への給水量を一斉に調整できるので、給水量の調整が容易である。
第8の発明は、土壌に対して地下から水を供給する地下灌漑システムであって、上側開口の溝状に形成され、耕作地の地中に傾斜させて埋設される複数の遮水部材、遮水部材内のそれぞれに挿通される複数の有孔管、給水タンク、給水タンクの水を受けるように給水タンクに間接的または直接的に接続される複数の分水チューブ、複数の分水チューブのそれぞれの出口高さを同一の高さに揃えて保持する複数の保持部、および複数の分水チューブの各出口から大気開放状態で流出する水を個別に受けて有孔管のそれぞれに導入する複数の導入部を備える、地下灌漑システムである。
第8の発明では、地下灌漑システムは、複数の遮水部材および有孔管、ならびに複数の分水チューブ等を備える給水システムを含み、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つ。遮水部材のそれぞれは、遮水性を有する材質によって上側開口の溝状に形成され、たとえば耕作地の傾斜に沿うように地中に埋設される。また、各遮水部材内には、その全長に亘って均等に水を供給するための有孔管が挿通される。分水チューブのそれぞれは、直接的に、或いは横引き配管などを介して間接的に給水タンクに接続される。また、複数の分水チューブのそれぞれの出口高さは、保持部によって同一の高さに揃えて保持される。なお、ここで言う出口の「高さ」とは、地上高さ(地表面に対する高さ)ではなく、「標高」を意味する。すなわち、複数の保持部のそれぞれは、給水タンクの水位と各分水チューブの出口との高低差がそれぞれ同じとなるように分水チューブを保持する。そして、複数の分水チューブの各出口からは、大気開放状態で水が流出され、流出した水は、複数の導入部によって個別に受けられて有孔管のそれぞれに搬送される。各有孔管に供給された水は、有孔管内を通って遮水部材内に供給され、毛管水状態または重力水状態の保水土壌部を遮水部材内に形成する。保水土壌部に保持された水は、毛細管現象によって上側の土壌に浸透され、これによって、植物の根圏が毛管水状態の適切な水分量に保たれる。
第8の発明によれば、分水チューブの出口高さを同一の高さに揃えているので、給水タンク内の水位と分水チューブの出口との水頭差が複数の分水チューブにおいて同一となり、各有孔管に対して等流量の給水を行うことができる。したがって、植物への給水量が遮水部材ごとに異なることなく、耕作地の全体に亘って均等に灌水できる。
なお、この発明における「同一」とは、厳密に同一という意味だけでなく、この発明の作用効果を奏しうる範囲内において、誤差程度の違いがある「ほぼ同一」という意味も含む概念として使用している。同じおよび均一などの語も同様である。
この発明によれば、分水チューブの出口高さを同一の高さに揃えているので、給水タンク内の水位と分水チューブの出口との水頭差が複数の分水チューブにおいて同一となり、複数の給水先に対して等流量の給水を行うことができる。
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
図1を参照して、この発明の一実施例である給水システム10は、給水タンク12および複数の分水チューブ16等を備え、たとえば地下灌漑システム100に適用されて、複数の給水先(この実施例では、有孔管52)に対して給水タンク12内の水を分配供給する。
先ず、給水システム10の具体的な説明の前に、給水システム10が適用される地下灌漑システム100の一例について説明する。
図1−図3に示すように、この実施例における地下灌漑システム100は、傾斜を有する耕作地(傾斜地)102に適用されて、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つシステムである。地下灌漑システム100は、地中に埋設される複数の遮水部材50、各遮水部材50に挿通される有孔管52、および各有孔管52に対して等流量の給水を行うための給水システム10を含む。詳細は後述するが、地下灌漑システム100では、給水システム10によって各有孔管52に供給された水は、有孔管52内を通って遮水部材50内に供給され、毛管水状態または重力水状態の保水土壌部54を遮水部材50内に形成する。そして、保水土壌部50に保持した水を毛細管現象によって上側の土壌に浸透させることにより、植物の根圏(作土層)56を毛管水状態の適切な水分量に保つ。
遮水部材50は、土壌に供給する水を地中で保持しておくための部材であり、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の合成樹脂やステンレス等の金属などの遮水性を有する材質によって上側開口の溝状に形成される。この実施例では、遮水部材50は、ポリ塩化ビニル製の可撓性を有する長尺の遮水シートによって、矩形平板状の底板50aと、底板50aの両側端からやや外側に傾斜して立ち上がる側板50bとを有する細長い溝状に形成される。遮水部材50の大きさは、地下灌漑システム100の規模(耕作地の面積)や栽培する植物の種類などに応じて適宜設定されるが、その長さは、たとえば数m−数百mである。また、遮水部材50の幅は、たとえば、下端側(底板50a)で120mmであり、その上端側の開口で300mmである。また、遮水部材50の高さ(側板50bの高さ或いは溝の深さ)は、たとえば150mmである。なお、遮水部材50の下流側端部および上流側端部は、キャップ状の封止部材(図示せず)等によって適宜封止される。
このような遮水部材50は、耕作地102の傾斜に沿って畝立てされた畝104ごとに、その長手方向が植物の根圏56に沿うように地中に傾斜して埋設され、遮水部材50の内部には、周囲の土壌と同成分の土が充填される。なお、図1では、図示の簡略化のため、耕作地102に4つの遮水部材50を並べて配置する態様を示しているが、これは単なる例示であり、遮水部材50の配置個数や配置態様などは、耕作地102の広さ等に応じて適宜変更され得る。また、遮水部材50を畝104ごとに配置する必要もなく、2−3本の畝104に1つの割合で遮水部材50を配置してもよい。たとえば、隣り合う遮水部材50同士の間隔は、500−2000mmが好ましく、遮水部材50の上端から地表面までの距離(埋設深さ)は、100mm−800mmが好ましい。
また、各遮水部材50の内部には、遮水部材50の全長に亘って均等に水を供給するための有孔管52が挿通される。有孔管52は、ポリエチレン等の合成樹脂や合成ゴムなどによって形成され、その管壁全体に分散して形成される複数の貫通孔を有する。有孔管52は、遮水部材50の全長に亘って挿通されることによって、遮水部材50内に充填された土中を通る水路を形成し、その内部に流れる水を、貫通孔を介して遮水部材50内に供給する。有孔管52の内径は、たとえば5−30mmであり、有孔管52の管壁に形成される貫通孔の大きさは、たとえば直径1−5mmである。
なお、有孔管52の管壁に形成される貫通孔は、管壁を直線状に貫くものに限定されず、多孔質状や網目状のものでもよい。また、貫通孔の形状、大きさ、形成位置および数などは、適用する耕作地102の土壌成分などに応じて適宜設定されるものであり、これらを調整変更することによって、有孔管52から遮水部材50内へ供給する水の量を制御することが可能である。
また、図示は省略するが、有孔管52の外周面は、貫通孔への植物の根の入り込みを防止するために、透水性を有する防根シートによって覆っておくことが好ましい。防根シートは、植物の根よりは小さい(根が入り込むことはできない)が水は無加圧で通過する微細な孔を有するシートである。防根シートとしては、不織布や織布などの布製の市販品(たとえば、東洋紡スペシャルティズトレーディング株式会社製の防根透水シートBKS0812や、ユニチカ株式会社製の防根用透水性不織布−ラブシート20704FLDなど)を利用可能である。
そして、遮水部材50および有孔管52の上流側には、有孔管(給水先)52のそれぞれに対して給水タンク12の水を分配供給する給水システム10が設けられる。給水システム10については、後述する。
一方、各有孔管52の下流側端部は、配水管58を介して、有孔管52よりも傾斜下側に配置された貯水タンク60に接続される。配水管58は、有孔管52から送られてきた余剰水を貯水タンク60まで送る管路であり、複数の直管、可撓管および継手などを適宜連結して形成される。貯水タンク60は、たとえば地中に設置され、配水管58から送られてくる余剰水をその内部に貯留する。
図示は省略するが、貯水タンク60内に貯水した水は、適宜再利用することが可能である。たとえば、ソーラー型循環ポンプなどを設けて、貯水タンク60内の水を給水タンク12に戻すことによって、再利用するとよい。また、たとえば、耕作地102よりも傾斜下側の耕作地に適用した別の地下灌漑システムの給水タンクに対して貯水タンク60を接続し、貯水タンク60内の水を別システムの給水に再利用することもできる。このように貯水タンク60内の水を再利用することで、水の無駄使いを低減できる。
このような地下灌漑システム100では、灌漑時には、給水システム10によって給水タンク12内の水が各有孔管52に対して分配供給される。各有孔管52に供給される水の流量は、たとえば5−10cm3/秒である。有孔管52内に流れ込んだ水は、有孔管52の上流側部分から順に、有孔管52に形成される貫通孔を通って遮水部材50内に供給される。また、上流側部分で遮水部材50内に供給されなかった水は、有孔管52内を通って下流側に順次搬送されて、搬送先の有孔管52の貫通孔から遮水部材50内に順次供給される。さらに、遮水部材50内に供給されずに有孔管52の下流側端部まで到達した水は、余剰水として排水され、配水管58を介して貯水タンク60に貯留される。
一方、有孔管52から遮水部材50内に供給された水は、主として重力水となって遮水部材50内の土中を下方に移動していくが、遮水部材50によってその移動を阻止されて、重力水または毛管水として遮水部材50内に留まる。これにより、遮水部材50内に、重力水状態または毛管水状態の保水土壌部54が形成される。その後、保水土壌部54の水は、その上側の土壌に毛細管現象によって徐々に浸透していき、植物の根圏(作土層)56に毛管水状態の土壌部を形成する。
なお、有孔管52内を通る水は、遮水部材50内に上流側から順次供給されるが、有孔管52の内部空間は、遮水部材50内の土中の空隙よりも通水抵抗が小さいため、水の一部は有孔管52内を通って適切に下流側にも搬送される。また、保水土壌部54の水位が有孔管52内の水位に達すると、有孔管52内から遮水部材50内への水の移動は止まるので、定常状態においては、保水土壌部54の水位は、有孔管52内の水位とほぼ同じ一定の水位に保たれる。すなわち、給水タンク12から有孔管52に対して定量の給水が行われているときには、保水土壌部54の水位、つまり遮水部材50内で保持される水の量は、遮水部材50の全長に亘ってほぼ一定に保たれるので、その上側の土壌(土壌部56)の毛管水の量も一定に保たれる。
このように、地下灌漑システム100では、土壌に供給する水を遮水部材50内で保持しておき、そこから毛細管現象によって上側の土壌に供給するようにしている。そして、遮水部材50内で保持される水の量は、その全長に亘ってほぼ一定に保たれるので、上側の土壌に対する水の供給が傾斜方向(遮水部材の長手方向)の一部に偏ることなく、植物の根圏56に対して均等に灌水できる。
また、地下灌漑システム100では、降雨時には、地中に浸透した雨水が遮水部材50によって受け止められ、遮水部材50内に貯留される。そして、遮水部材50内の水位が有孔管52の底部を超えると、遮水部材50内の水は、有孔管52の貫通孔を通って有孔管52内に流入する。有孔管52内に流入した水は、有孔管52内を通って余剰水として排水され、配水管58を介して貯水タンク60に貯留される。つまり、有孔管52の内部空間は、土壌に供給する水を遮水部材50の全長に亘って搬送する給水路として用いられると共に、土壌または遮水部材50内に発生した余剰水を集めて排水する排水路として用いられる。したがって、地下灌漑システム100によれば、雨水を集水して再利用することもできるので、水資源を効率的に利用できる。
ここで、このような地下灌漑システム100を用いて植物を栽培する場合、植物への給水量が畝104ごと(遮水部材50ごと)に異ならないようにするためには、複数の有孔管52のそれぞれに対して等流量の給水を行う必要がある。しかし、個別に設けたバルブの開度調整によって各有孔管52への給水量を個々に調節するのは困難である。そこで、この発明では、給水システム10を採用することにより、個別のバルブを用いることなく、複数の有孔管52に対する等流量の給水を行うことができるようにしている。
以下、図1および図3−図6を参照して、この発明の一実施例である給水システム10について具体的に説明する。図1に示すように、給水システム10は、給水タンク12、横引き配管14および分水チューブ16等を備え、遮水部材50および有孔管52の上流側に設けられて、各有孔管52に対して等流量の給水を行う。
図1および図3に示すように、給水タンク12は、耕作地102に供給する水を一時的に貯留するためのタンクであり、たとえば有孔管52の傾斜上側の地上に配置される。給水タンク12は、農業用水配管または井戸などの水源(図示せず)と接続されて、水源からの水の供給を受ける。また、上述のように、貯水タンク60内の水が給水タンク12に適宜戻される。また、給水タンク12には、オーバーフロー口18が設けられる。灌漑時には、給水タンク12から流出する水量(各有孔管52へ供給する水の総量)よりも少し多めの水が水源などから給水タンク12に供給され、一定水位以上の水はオーバーフロー口18から流出させることによって、給水タンク12内の水位20は一定に保たれる。なお、オーバーフロー口18から流出した水は、貯水タンク60に戻す等して再利用することが好ましい。
給水タンク12には、横引き配管14が接続される。横引き配管14は、給水タンク12の水を各有孔管52の近傍まで搬送する配管であり、複数の直管、可撓管および継手などを適宜連結して形成される。具体的には、横引き配管14は、その上流端が給水タンク12に接続され、鉛直下方向に一旦屈曲して地中まで延びた後、各遮水部材50(各有孔管52)の上流側端部の近傍を通るように横方向に配管される。また、横引き配管14の基端部には、給水タンク12からの給水を開始または停止するための給水元バルブ22が設けられる。なお、横引き配管14の内径は、各有孔管52に対して水を供給する際に、損失水頭による横引き配管14の下流端側での流量低下を無視できる大きさに設定され、たとえば20−80mmである。
そして、各遮水部材50の上流側端部の近傍位置のそれぞれには、横引き配管14と各有孔管52とを連結する分水チューブ16および導水管24が設けられる。また、分水チューブ16および導水管24のそれぞれは、1組ごとに保護管26によって保護される。
図4を参照してよく分かるように、分水チューブ16は、ポリウレタン等の合成ゴム等の柔軟性を有する素材によって形成され、その上流側端部は、分岐継手28などを介して横引き配管14に対して水密的に接続される。そして、分水チューブ16は、保護管26の内周面に沿って螺旋状に立ち上がり、その下流側端部は、導水管24の上流側端部24aに対して大気開放状態で接続される。
導水管24は、分水チューブ16の出口(下流端の開口)16aから大気開放状態で流出する水を受けて有孔管52まで導く導水部として機能する配管であり、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の合成樹脂などによって形成される。導水管24は、縦管状に形成され、その下流側端部は横方向に屈曲して有孔管52に接続される。導水管24の内径は、有孔管52と同程度に設定され、たとえば5−30mmである。
保護管26は、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の合成樹脂などによって形成され、分水チューブ16および導水管24を囲繞する縦管状に形成されて、分水チューブ16および導水管24を周囲の土壌から保護する。保護管26の上端部には、蓋30が着脱可能に設けられ、保護管26の上端開口が点検口として利用される。保護管26の内径は、たとえば150−300mmである。
また、図5および図6を参照してよく分かるように、分水チューブ16の出口16aの高さはそれぞれ、同一の高さに揃えて保持される。ここで、出口16aの「高さ」とは、地上高さ(地表面に対する高さ)ではなく、「標高」を意味する。たとえば、図5に示すように、耕作地102が横引き配管14の長手方向(遮水部材50の幅方向)に水平な場合には、標高と地上高さとは同じ意味になるので、各出口16aの地上高さは、同一となる。一方、図6に示すように、耕作地102が横引き配管14の長手方向にも傾斜している場合には、各出口16aの地上高さを変えて、標高が同一となるようにされる。
この実施例では、各導水管24の上流側端部24aの高さがそれぞれ同じ高さとなるように各導水管24を配管しておき、その上流側端部24aに各分水チューブ16の下流側端部を接続することによって、分水チューブ16のそれぞれの出口16aの高さを同じ高さに揃えて固定保持するようにしている。つまり、導水管24の上流側端部24aのそれぞれが、各分水チューブ16の出口16aの高さを同一の高さで保持するための保持部として機能する。このように、分水チューブ16の出口16aの高さを同一の高さに揃えておくことによって、給水タンク12の水位20と分水チューブ16の出口16aとの高低差(水頭差)が全ての分水チューブ16において同一となる。これにより、各分水チューブ16の出口16aから等流量の水が流出するようになり、各有孔管52に対して給水タンク12内の水が均一に分配供給される。
さらに、この実施例では、分水チューブ16のそれぞれは、管路抵抗(管路内摩擦)が同一の大きさとなるように構成される。これは、各有孔管52への流量を小流量(たとえば5cm3/秒)とする場合には、分水チューブ16の内径を小さく設定する必要があり、分水チューブ16の管路抵抗(管路内摩擦)による損失水頭が無視できなくなる可能性が生じるからである。各分水チューブ16の管路抵抗を同一の大きさとするためには、各分水チューブ16の出口径(出口16aの内径)がそれぞれ同一であることが好ましい。また、各分水チューブ16の長さおよび内径がそれぞれ同一であることが好ましく、各分水チューブ16の曲率もそれぞれ同一であることが好ましい。
そこで、この実施例では、各分水チューブ16の出口径、長さ、内径および曲率をそれぞれ同一の大きさに揃えている。各分水チューブ16の出口径および内径は、たとえば6−8mmであり、各分水チューブ16の長さは、たとえば2−5mである。また、各分水チューブ16を保護管26の内周面に沿わせて同一径の螺旋状に配管することによって、たとえば図6に示すように分水チューブ16の上流端と下流端との高低差が各分水チューブ16で異なる場合であっても、各分水チューブ16の曲率を可及的同一に揃えることができるようにしている。このように、各分水チューブ16の管路抵抗が同一の大きさとなるように構成することによって、より正確に等流量の給水を行うことができるようになる。
ただし、流量に対する分水チューブ16の管路抵抗の影響が小さい場合には、各分水チューブ16の管路抵抗をそれほど厳密に同一に揃える必要はなく、たとえば、各分水チューブ16の出口径を同一に揃えるだけでもよいし、各分水チューブの長さおよび内径を同一に揃えるだけでもよいし、各分水チューブ16の曲率を同一に揃えるだけでもよい。
このような給水システム10では、給水時(灌漑時)には、給水タンク12内に所定水位の水が貯留された状態において、給水元バルブ22が開かれると共に、流出する水量よりも少し多めの水が給水タンク12に供給される。給水タンク12から流出した水は、横引き配管14内を通って各分水チューブ16まで搬送され、各分水チューブ16内を通ってその出口16aから大気開放状態で流出する。この際、各分水チューブ16の出口16aの高さが同一の高さに揃えられていることによって、給水タンク12の水位20と分水チューブ16の出口16aとの高低差が全ての分水チューブ16において同一となるので、各分水チューブ16の出口16aからは、等流量の水が流出する。また、各分水チューブ16の管路抵抗が同一の大きさとなるように構成されているので、各分水チューブ16の出口16aからは、より正確に等流量の水が流出する。各分水チューブ16から流出した水は、各導水管24によって各有孔管52まで搬送される。各有孔管52に対して均一に分配供給された水は、上述のように、各遮水部材50を介して植物の根圏56に適切に供給される。これによって、植物への給水量が畝104ごと(遮水部材50ごと)に異なることなく、耕作地102の全体に亘って、植物の根圏56に均等に灌水できる。
この実施例によれば、分水チューブ16の出口16aの高さを同一の高さに揃えているので、給水タンク12内の水位20と分水チューブ16の出口16aとの高低差が全ての分水チューブ16において同一となり、各有孔管(各給水先)52に対して等流量の給水を行うことができる。
また、各分水チューブ16の管路抵抗を同一の大きさに揃えているので、各有孔管52への流量を小流量とする場合であっても、正確に等流量の給水を行うことができる。
さらに、各有孔管52への給水を等流量に調整するに際して径縮小を伴うバルブを用いないので、給水システム10内におけるゴミ詰まりが生じ難く、ゴミが混ざる農業用水を用いる地下灌漑システム100にも好適に利用できる。
なお、上述の実施例では、各有孔管52の上流側端部の近傍位置のそれぞれにおいて分水チューブ16を設け、分水チューブ16および導水管24のそれぞれを1組ごとに保護管26内に配置するようにしたが、これに限定されない。たとえば、図7および図8に示す実施例のように、数本の分水チューブ16を近傍位置にまとめて横引き配管14から分岐させ、分水チューブ16および導水管24を数組ごとに保護管26内に配置することもできる。近傍位置において横引き配管14から分岐した複数の分水チューブ16は、まとまって螺旋状に立ち上がり、それぞれ別の導入管24に接続される。各導入管24は、保護管26内を縦方向に延びた後、横方向に屈曲してそれぞれ別の有孔管52に接続される。なお、図7および図8では、3本の分水チューブ16を近傍位置にまとめて配置する態様を例示しているが、この数は適宜変更可能である。ただし、分水チューブ16から流出する水を有孔管52まで導く導入管24の長さを考慮すると、まとめて配置する分水チューブの数は、2−5本程度とすることが好ましい。
図7および図8に示す実施例によれば、複数の分水チューブ16を近傍位置にまとめて配置するので、保護管26の設置数を削減でき、分水チューブ16および導水管24の点検作業なども行い易くなる。
また、上述の各実施例では、分水チューブ16の下流側端部を導入管24の上流側端部に直接接続しているが、これに限定されない。たとえば、図9に示すように、各保護管26の内側面に分水チューブ16の下流側端部を係止する係止部(保持部)30を設けておき、この係止部30を用いて分水チューブ16のそれぞれの出口16aの高さを同じ高さに揃えて固定保持させる。そして、各有孔管52の上流側端部には、保護管26内(分水チューブ16の出口16a下方)で受け皿状に開口する受け管(導入部)32を接続しておき、この受け管32を用いて分水チューブ16の出口16aから大気開放状態で流出する水を有孔管52に導入するようにしてもよい。
さらに、上述の各実施例では、給水タンク12にオーバーフロー口18を設けると共に、給水時には少し余剰の水を給水タンク12に供給することによって、給水タンク12内の水位20を一定に保つようにしたが、給水タンク12内の水位20を一定に保つ機構としては、公知技術を適宜利用できる。たとえば、給水タンク12にフロート弁を設けることによって、給水タンク12内の水位20を一定に保つこともできる。
また、給水タンク12内の水位20は、給水時に必ずしも一定に保たれる必要はない。たとえば、朝方や夕方などの給水したいタイミングで、給水タンク12内に所定量の水を供給し、給水タンク12内の水位20が所定水位以下になると自然に給水が停止されるようにしてもよい。この場合、水位20の低下に応じて、各有孔管52への給水量は徐々に減少するが、複数の有孔管52に対して均一に給水できることに変わりはない。
さらに、給水タンク12の水位20を任意に調整可能とすることもできる。たとえば、水位20を任意に調整可能とするための水位調整部として、給水タンク12のオーバーフロー口18に対して上下方向にスライド可能な堰(図示せず)を設けておき、この堰を用いてオーバーフロー口18の底部高さを調整することによって、給水タンク12内の水位20を任意に変更設定できるようにしてもよい。このように、給水タンク12内の水位20を任意に調整可能としておけば、給水タンク12内の水位20を変更することによって、各分水チューブ16の出口16aとの水頭差を任意に調整できるようになり、各有孔管52への給水量(流量)を調整できるようになる。すなわち、給水タンク12内の水位20を調整するだけで、各有孔管52への給水量を一斉に調整できるので、給水量の調整が容易である。
さらにまた、給水タンク12から水のみを供給するようにしているが、たとえば給水タンク12内の水に肥料を溶かして、水とともに肥料を供給するようにしてもよい。
また、給水タンク12の配置位置は、有孔管52の傾斜上側の地上に限定されず、有孔管52の傾斜中央や傾斜下側の地上に配置してもよいし、地中に配置してもよい。ただし、水頭差による給水が可能となるように、給水タンク12を背高に形成し、給水タンク12の水位20が分水チューブ16の出口16aよりも高い位置となるようにする必要がある。
また、上述の各実施例では、各分水チューブ16を横引き配管14から螺旋状に立ち上げるように配管しているが、必ずしも螺旋状に立ち上げる必要はなく、各分水チューブ16の配管形状は適宜変更可能である。
さらに、上述の各実施例では、各分水チューブ16は、横引き配管14を介して、つまり間接的に給水タンク12に接続されるようにしたが、これに限定されず、各分水チューブ16を給水タンク12に対して直接接続することもできる。ただし、この場合にも、各分水チューブ16のそれぞれの出口16aの高さは、同一の高さに揃えられる。また、横引き配管14を用いる場合と比較して、分水チューブ16における管路抵抗の影響が大きくなるので、各分水チューブ16の管路抵抗を同一の大きさとなるように揃える必要がある。
さらにまた、上述の各実施例では、全ての分水チューブ16の出口16aの高さを同一の高さに揃え、耕作地102に設置した全ての有孔管52に対して均一に給水するようにした。しかし、必ずしも全ての有孔管52に対して等流量の給水を行う必要はなく、地下灌漑システム100が備える一部の有孔管52に対して等流量の給水を行うようにしてもよい。すなわち、等流量の給水を行いたい少なくとも2つの有孔管52に対応する分水チューブ16の出口16aの高さを同一の高さに揃えておき、その少なくとも2つの有孔管52に対して等流量の給水を行うこともできる。
また、上述の各実施例では、分水チューブ16の出口16aの高さを所定高さに固定して設置するようにしているが、分水チューブ16の出口16aの高さを可変とすることもできる。たとえば、図4に示すような態様の場合には、導入管24の縦管部分を2重管構造の伸縮管とし、この縦管部分を伸縮させたり、導入管24の縦管部分を取り換え可能とし、この縦管部分を長さの異なるものに取り換えたりすることによって、分水チューブ16の出口16aの高さを任意に調整可能としてもよい。また、たとえば、図9に示すような態様の場合には、保護管26の内周面に配置高さを変えた複数の係止部30を保護管26に設けておき、分水チューブ16の上流側端部を固定する係止部30を変更することによって、分水チューブ16の出口16aの高さを任意に調整可能としてもよい。
このように、分水チューブ16の出口16aの高さを任意に調整可能とすることによって、給水タンク12内の水位20を変更する場合と同様に、給水タンク12内の水位20と各分水チューブ16の出口16aとの水頭差を任意に調整できるようになり、有孔管52への給水量(流量)を調整できるようになる。また、有孔管52への給水量を個別に微調整することも可能となり、仮に何らかの不具合で流量の異なる分水チューブ16が発生した場合でも、個別に流量を調整して各分水チューブ16の流量を均一にすることができる。さらに、或る分水チューブ16だけ流量を少なくしたり多くしたりするという使い方もできる。
また、上述の各実施例では、傾斜地に適用される地下灌漑システム100に対して給水システム10を適用するようにしたが、これに限定されない。たとえば、平坦な耕作地(水平地)に適用される地下灌漑システムに対して給水システム10を適用することもできる。また、地下灌漑システムの具体的構成についても上述のものに限定されず、具体的構成を適宜変更した地下灌漑システムに対して給水システム10を適用することもできる。
さらに、給水システム10は、地下灌漑システムへの適用に限定されず、複数の給水先に対して等流量の給水を行う必要のあるシステムに対して適用可能である。
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値は、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
また、この発明において「同一」とは、厳密に同一という意味だけでなく、この発明の作用効果を奏しうる範囲内において、誤差程度の違いがある「ほぼ同一」という意味も含む概念として使用している。同じおよび均一などの語も同様である。