JP2014166166A - チーズの熟成品質分析方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来不明確であったナチュラルチーズの熟成品質分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】チーズの熟成品質を分析する方法は、熟成品質既知のチーズを前処理して分析サンプルを得る前処理工程;該分析サンプルを機器分析に供して、機器分析データを得る機器分析工程;複数のチーズについての機器分析データを数値データに変換して多変量解析を行い、多変量解析を行った結果に基づいて熟成条件が成分プロファイルに及ぼす影響を解析し、解析した結果に基づいて該チーズの熟成条件を決定する熟成品質分析工程;を有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、チーズの熟成品質分析方法に関する。
チーズは、世界中で嗜好されている食品であり、牛乳など乳から製造される。チーズは、乳等省令によって製造方法に基づいて、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、およびチーズフードの3つの種類に分類される。このうちナチュラルチーズは、直接食するのみならず、プロセスチーズの原料としても重要である。ナチュラルチーズは、産地、乳酸菌スターター、製法、熟成期間などにより様々なバリエーションが存在し、風味も様々である。
現在、ナチュラルチーズの熟成品質は、熟練者によるチーズの外観、香り、色、および味に基づく官能検査により決定されている。これらの技能を獲得するには経験年数がかかる。また、場合により客観性や再現性が不透明であるという欠点がある。チーズ産業においては、チーズの複雑な成分とそのダイナミックな変化を包括的且つ科学的に捉えることが未だ困難であるため、品質や製造の管理に際しては長年の経験に基づく職人的な技能が現在も必要とされている。
そのため、製造工程管理や製品熟成品質管理のためには、簡便な機械化された熟成品質予測方法の必要性が強く望まれている。そのような状況下、これまでナチュラルチーズの熟成期間中における特定の成分の変化については数多く研究されてきており、熟成中に起こる生化学的な現象に関わる化合物として、蛋白質の分解に着目した研究(非特許文献1)や脂肪由来の揮発性香気成分に着目した研究(非特許文献2)などを例示することができる。
近年、機器分析法とコンピュータ駆動パターン認識技術とを組み合わせて、品質制御または特徴づけを行う方法が提案されている。
例えば、下記特許文献1には、緑茶の機器分析により得られる分析結果を、数値データに変換して多変量解析し、得られた解析結果から緑茶の品質(ランキング)を予測する方法が開示されている。
特開2009−14700号公報
International Dairy Journal、第10巻、 249−253ページ、2000年 International Dairy Journal、第15巻、733−740ページ、2005年
ナチュラルチーズの味は、原料乳に含まれる蛋白質、脂肪、糖などが酵素や乳酸菌により分解された代謝産物であるアミノ酸、ペプチド、脂肪酸、有機酸などに主に起因する。また、生成される揮発性化合物は、主としてチーズの香りの差に寄与する。
原料乳の産地、乳酸菌スターター、製法、熟成期間などにより、中間経路代謝物の見かけの定常状態の量および/若しくは最終代謝物の末端蓄積が変動し、ナチュラルチーズの味に影響を与える。したがって、チーズ中の代謝物や分解物を、空間的および時間的の両方でモニターすることは、熟成品質の評価に重要である。
しかしながら、従来のチーズの機器分析は、アミノ酸や脂肪酸など特定の群の化合物に焦点が当てられていた。しかし、チーズの特徴づけは、単一の代謝物に由来するのではなく組み合わせに由来し得るため、従来の方法では熟成に関する品質分析や熟成条件を決定することが難しい。
上述の課題を鑑み、従来不明確であったナチュラルチーズの熟成品質分析方法を提供することを目的とする。
上述の課題を解決するために、本発明は、チーズの熟成品質を分析する方法であって、熟成品質既知のチーズを前処理して分析サンプルを得る前処理工程;該分析サンプルを機器分析に供して、機器分析データを得る機器分析工程;複数の前記チーズについての機器分析データを数値データに変換して多変量解析を行い、前記多変量解析を行った結果に基づいて熟成条件が成分プロファイルに及ぼす影響を解析し、前記解析した結果に基づいて該チーズの熟成条件を決定する熟成条件決定工程;を有する、チーズの熟成品質分析方法を提供する。
上述の課題を解決するために、本発明は、チーズの熟成品質を分析する方法であって、熟成品質既知のチーズを前処理して分析サンプルを得る前処理工程;該分析サンプルを機器分析に供して、機器分析データを得る機器分析工程;複数の前記チーズについての機器分析データと該チーズのそれぞれの熟成品質を表す熟成品質データとをおのおの数値データに変換して多変量解析を行い、前記多変量解析を行った解析結果に基づいて、該チーズにおける熟成の指標となる熟成マーカー化合物を抽出し決定する熟成品質分析工程;を有する、チーズの熟成品質分析方法を提供する。
また、本発明の一態様に係るチーズの熟成品質を分析する方法であって、前記多変量解析が、潜在的構造に対する射影の直交部分最小自乗によるOPLS回帰分析であることが好ましい。
また、本発明の一態様に係るチーズの熟成品質を分析する方法であって、前記多変量解析が、潜在的構造に対する射影によるPLS回帰分析であることが好ましい。
また、本発明の一態様に係るチーズの熟成品質を分析する方法であって、前記機器分析が、ガスクロマトグラフィーと質量分析との組み合わせであることが好ましい。
また、本発明の一態様に係るチーズの熟成品質を分析する方法であって、前記前処理が、前記チーズから親水性化合物を抽出して抽出物を得る工程を含むことが好ましい。
また、本発明の一態様に係るチーズの熟成品質を分析する方法であって、前記機器分析が、ガスクロマトグラフィーと質量分析との組み合わせであり、そして前記前処理がさらに前記抽出物をメトキシ化およびシリル化する工程を含むことが好ましい。
また、本発明の一態様に係るチーズの熟成品質を分析する方法であって、前記前処理が、前記チーズを粉砕して粉末を得る工程および該粉末を溶媒でペースト状にする工程を含むことが好ましい。
また、本発明の一態様に係るチーズの熟成品質を分析する方法であって、前記チーズは、チェダーチーズであり、前記分析した結果の中で、前記チェダーチーズのマーカー化合物としてプロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンのデータに対する熟成への影響が解析されることが好ましい。
本発明のチーズの熟成品質分析方法によれば、従来不明確であったナチュラルチーズの熟成品質を、より精度良くかつ簡便な方法で分析することが可能である。
第1実施形態に係る熟成品質分析装置のブロック図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果であって、同じ乳酸菌スターターを用い食塩含量が異なるチーズAとチーズBの判別モデルのスコアプロットを示す図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果であって、同じ乳酸菌スターターを用い食塩含量が異なるチーズAとチーズBの判別モデルのS−プロットを示す図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果であって、同じ食塩含量であり乳酸菌スターターが異なるチーズAとチーズCの判別モデルのスコアプロットを示す図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果であって、同じ食塩含量であり乳酸菌スターターが異なるチーズAとチーズCの判別モデルのS−プロットを示す図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果から抽出された各化合物の熟成工程中のピーク強度の存在範囲を示す箱ひげ図を示す図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果から抽出された各化合物の熟成工程中のピーク強度の存在範囲を示す箱ひげ図を示す図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果から抽出された各化合物の熟成工程中のピーク強度の存在範囲を示す箱ひげ図を示す図である。 第1実施形態に係るOPLS判別分析結果から抽出された各化合物の熟成工程中のピーク強度の存在範囲を示す箱ひげ図を示す図である。 第1実施形態に係るPCA解析結果であって、チェダーチーズサンプルの熟成工程サンプルに対してGC/MS分析を行いPCAを行った結果のスコアプロットを示す図である。 第2実施形態に係る熟成品質分析装置のブロック図である。 第2実施形態に係るPLS解析結果であって、機器分析による代謝物プロファイルから予測した官能属性「味の濃さ」のスコアと実際の官能評価パネルによる官能属性「味の濃さ」の実測スコアの関係を示す図である。 第2実施形態に係るPCA解析結果であって、チェダーチーズサンプルの熟成工程サンプルに対してGC/MS分析を行いPCAを行った結果のローディングプロットを示す図である。 第2実施形態に係るPLSおよびPCAの解析によって抽出されたマーカー候補化合物について、熟成期間におけるピーク強度の推移を示す図である。 第2実施形態に係るPLSおよびPCAの解析によって抽出されたマーカー候補化合物について、熟成期間におけるピーク強度の推移を示す図である。
<チーズ>
本発明における熟成品質分析、及び熟成条件決定の対象はチーズであり、好ましくはナチュラルチーズである。本発明におけるチーズは、製造工程中に熟成工程を含むチーズであり、好ましくは熟成工程を経て製造されるナチュラルチーズである。
一般的に熟成タイプのナチュラルチーズの製造方法は、原料である牛乳にスターター乳酸菌およびレンネット(凝乳酵素)を添加して凝乳させ、細切、加温、攪拌、圧搾、加塩などの離漿促進操作を経た後、成型し、加塩するチーズカード製造工程と、その後の熟成工程とからなる。また製造後の流通保管工程中にも熟成は進行し得る。
チーズの熟成は、乳の蛋白質、脂肪、炭水化物などが酵素、微生物などの作用すなわち発酵により腐敗することなく分解し、特殊な風味を帯びることを意味する。したがって、熟成が生じる条件や進行の度合いによってチーズの風味が変化する。本発明における、チーズの熟成品質とは、熟成に伴って変化する風味の状態を意味する。かかる風味の状態は、好ましくは官能評価の結果(官能評価スコア)によって評価される。
本明細書において、チーズの代謝物とはチーズの熟成に伴って生じる成分を意味する。
本発明は、熟成による風味の変化が進行しつつある状態のナチュラルチーズを熟成品質分析の対象とすることが好ましく、熟成工程途中のナチュラルチーズ(製造中間品)を熟成品質分析の対象とすることが好ましい。
本発明において、チーズは、以下で述べる機器分析工程に応じて適切に前処理され、前処理により得られた分析サンプルが種々の機器分析に供される。
[第1実施形態]
<機器分析工程>
本実施形態において、機器分析工程とは、分析機器を用いて分析・測定を行う工程をいう。分析の手法としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC))、質量分析(MS)、赤外分光分析(IR)(例えば、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR))、近赤外分光分析(NIR)(例えば、フーリエ変換近赤外分光分析(FT−NIR))、核磁気共鳴分析(NMR)(例えば、フーリエ変換核磁気共鳴分析(FT−NMR))などが挙げられる。
ガスクロマトグラフィー(GC)の検出器は特に限定されず公知のものを適宜使用できる。例えば、水素炎イオン化検出器(FID)を好適に用いることができる。
また、これらの機器分析の手法は組み合わせてもよく、例えば、GC/MS、LC/MS(特に、HPLC/MS、UPLC/MS)などの組み合わせが挙げられる。
機器分析工程に用いられる装置は、特に限定されず、チーズ中に含まれる代謝物(例えば、アミノ酸、有機酸、糖など)を測定することが可能であればよく、通常用いられている装置が用いられ得る。また、測定条件は、これらの物質の測定に適切なように適宜設定され得る。
特にGC/MS(ガスクロマトグラフィーと質量分析との組み合わせ)が好ましい。
例えばチーズを抽出して得られる、親水性低分子代謝物を含む抽出物について、あるいはチーズの熱分解物について、GC/MSにより定量分析を行う。
<前処理工程>
本実施形態において、チーズの前処理は、チーズ中の分析対象物質を機器分析に供するに適した形態にするために、用いる機器分析に応じて行われる。前処理としては、乾燥、切断、粉砕、抽出などの処理が挙げられる。例えば、粉砕については、ブレンダー、ボールミルなどの適切な器具を用いて行われ得る。また、抽出については、水、有機溶媒、またはこれらの溶媒の混合液を用いて行われ得る。抽出に使用され得る有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、クロロホルムなどが挙げられる。これらの単位操作を単独でまたは組み合わせて適切な前処理条件を設定する。
本実施形態では、前処理が、チーズから親水性化合物を抽出して抽出物を得る工程を含むことが好ましい。また、本実施形態では、前処理が、チーズを粉砕して粉末を得る工程および該粉末を溶媒でペースト状にする工程を含むことが好ましい。
また、機器分析としてGCを行う場合、好ましくは、前処理は、チーズからの抽出物をシリル化およびメトキシ化する工程を含む。シリル化およびメトキシ化は、当業者が通常用いるGC用のシリル化試薬およびメトキシ化試薬(誘導体化剤)を、それぞれ用いて行われ得る。
あるいは、前処理として、ナチュラルチーズを、例えば、粉砕した後、熱分解処理のみ施したものも、分析対象試料となり得る。この場合、熱分解物を、抽出することなく直接GCに導入することができる。熱分解は、市販の熱分解装置を用いて行うことができる。
<熟成品質分析工程;多変量解析>
本実施形態において、前処理が施されたチーズサンプル(分析サンプル)は、機器分析に供され、分析結果が得られる。得られた分析結果は、ピーク情報であり得る。このピーク情報をアライメントおよびベースライン補正などに付し、数値データに変換して多変量解析を行う。分析により得られる結果(変数)としては、保持時間、波長(若しくは波数)、ならびにシグナル強度(若しくはイオン強度)、吸光度などのスペクトルデータが挙げられる。さらに、変数としては、ナチュラルチーズサンプルの官能評価が挙げられる。
多変量解析としては、機器分析データに基づく二対のチーズサンプルの化合物レベルでの比較の解析に、特にケモメトリックス(chemometrics;計量化学)において通常用いられる解析ツールが採用される。
例えば、PLS(潜在的構造に対する射影;Projection to Latent Structure)回帰分析、OPLS(潜在的構造に対する射影の直交部分最小自乗;orthogonal partial least square projection to latent structure)回帰分析などの種々の多変量ツールが挙げられる。
本実施形態において好適に採用されるPLS回帰分析およびOPLS回帰分析は、変数(例えば、波数、波長)間に相関を有するスペクトルデータからの検量線作成に有効な手法である。通常、変数間に相関があると、用いる変数の組み合わせによっては回帰精度が著しく低下するが、これを避けるためにPLS回帰分析では、変数を互いに無相関な変数(潜在変数)に変換し、この潜在変数を用いて回帰を行う。すなわち、PLS回帰分析およびOPLS回帰分析とはデータの変数を直交変換し、その新たな変数を用いて(重)回帰分析を行う解析手法である。
<熟成品質分析工程;熟成条件決定>
本実施形態では、機器分析データに対してPCA(主成分分析;principal componentanalysis)に代表される情報集約手法で新たな情報軸(主成分軸)を作成し、成分プロファイルの相違をスコアプロット上の距離により視覚化する。PLS回帰分析若しくはOPLS回帰分析を用いて、異なる原料や熟成温度および/または熟成期間の2群間の関係;例えば、チーズの代謝物とその熟成品質との間の関係、が確認できる。必要に応じて、スペクトルフィルタリング法、例えば、妨害成分を取り除くための直交シグナル補正(orthogonal signal correction:OSC)と組み合わせて多変量解析を行うようにしてもよい。また、多変量解析は、得られた全データではなく、熟成品質予測に重要な一定の範囲のデータを選択して行ってもよい。なお、これらの解析ツールは、ソフトウエアとして多数市販されている任意のものを用いるようにしてもよい。
本実施形態における多変量解析、及び熟成品質分析工程は、熟成品質分析装置1を用いて行われる。図1は、本実施形態に係る熟成品質分析装置1のブロック図である。図1に示すように、熟成品質分析装置1は、処理部11、記憶部12、解析部13、および熟成条件決定部14を備える。
処理部11は、分析装置が出力した機器分析データを、記憶部12に記憶させる。記憶部12には、分析装置により分析された機器分析データが記憶される。
解析部13は、記憶部12に記憶されている機器分析データを数値データに変換し、変換した数値データを用いて多変量解析を行う。解析部13は、PLS回帰分析若しくはOPLS回帰分析等を用いて判別分析を行う。また、解析部13は、PCA等により成分プロファイルの相違を解析する。
熟成条件決定部14は、解析部13により多変量解析された解析結果に基づいて、熟成条件決定工程を行う。なお、熟成条件決定部14は、不図示の入力部がユーザにより入力された設定を検出し、検出した設定に応じて熟成条件を決定するようにしてもよい。ユーザにより入力される設定は、例えば、食塩濃度を示す値、乳酸菌スターターの種類を示す情報等である。
以下に、複数の熟成品質が既知のナチュラルチーズサンプルから親水性低分子代謝物を抽出して、あるいはナチュラルチーズの熱分解物についてGC/MSにより定量解析を行う場合の各機能部が行う処理について説明する。
解析部13は、機器分析データであるGC/MSクロマトグラムから保持時間インデックスと質量分析シグナル強度を抽出し、抽出した保持時間インデックスと質量分析シグナル強度から、ピークごとの強度に関するマトリクスデータを作成する。なお、この際、質量分析によって、ピークの具体的な化合物名を同定することも可能である。
次に、解析部13は、作成したマトリクスデータに対して、回帰分析による判別分析法と情報集約法とによる2つの多変量解析を実施する。次に、解析部13は、チーズサンプルの種類を目的変数、GC/MSピーク強度データを説明変数として、PLS回帰分析もしくはOPLS回帰分析により判別モデルを構築する。次に、解析部13は、当該判別モデルを用い、判別モデル構築において判別に寄与する重要な代謝物をS−プロットを用いて抽出する。次に、解析部13は、S−プロットによって抽出された化合物によって、2種類のチーズ間における熟成工程中の変動の様子を、箱ひげ図により可視化する。なお、本実施形態では、PLS回帰分析による判別分析をPLS判別分析ともいい、OPLS回帰分析による判別分析をOPLS判別分析ともいう。
ここで、S−プロットについて説明する。S−プロットでは、横軸を(Cov(t,X))として絶対値の大きな化合物が判別に寄与が大きいこと、縦軸を(Corr(t,X))として絶対値の大きな化合物が信頼区間が狭く信頼性が大きいことをそれぞれ意味する。本実施形態では、Sプロットにおける縦軸(Corr(t,X))は、−1から1までに規格化する。そして、本実施形態では、縦軸(Corr(t,X))については、例えば暫定的にCorr(t,X)>|0.5|(19 Llorach et al.,2010)を閾値とし、また横軸(Cov(t,X))についてはCov(t,X)>|0.15|を閾値とする。本実施形態によれば、これらの閾値を満たす化合物をリストアップすることで、2種類のチーズ間の違い、すなわち条件を変更した場合に、変更条件が成分プロファイルに及ぼす影響を詳細に把握することができる。なお、これらの閾値は、チーズに応じて、決定するようにしてもよい。
次に、熟成条件決定部14は、PCAによってGC/MSピーク強度データを集約する。次に、熟成条件決定部14は、PCAのスコアプロットによって熟成経時サンプルのスコア位置から熟成の進行する方向を決定する。次に、熟成条件決定部14は、条件が異なる場合のサンプルの位置間の距離を調べることによって、近似した成分プロファイルを得るための熟成条件を決定する。ここで、熟成条件とは、例えば熟成温度、熟成期間、食塩濃度、乳酸菌スターターの種類等である。
<実施例>
以下に実施例を用いて本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
<例1:GC/MS用の分析サンプルの調製(前処理工程)>
3種類のチェダーチーズを常法により作成した。これら3種類のチーズサンプルを、以下、それぞれチーズA、B、Cという。チーズA、B、Cは、同様の原料乳を用いて同じ製造場所で製造した。これらのサンプルの相違点は、チーズAとBは、同一の乳酸菌スターターを使用しているが、チーズAは有塩タイプ、チーズBは無塩タイプである。また、チーズCは有塩タイプであるが、チーズA及びBとは異なる乳酸菌スターターを使用した。チーズA、B、Cそれぞれについて、熟成前のサンプル1検体と、熟成温度と熟成期間の異なる熟成サンプル12検体の計13検体を採取した。熟成条件は、熟成温度を5℃、10℃、15℃、熟成期間を1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月にそれぞれ設定した。サンプルの熟成条件を表1に示す。
Figure 2014166166
表1に示すように、例えばサンプル記号A−0は、サンプルがA、熟成期間が熟成前を表す。また、サンプル記号A−5℃−1Mは、サンプルがA、熟成温度が5℃、熟成期間が1ヶ月を表す。
表1に示したチーズ試料を液体窒素で凍結させながら粉砕した後、凍結乾燥した。当該凍結乾燥チーズ100mgを2mL容エッペンドルフチューブにとり、溶媒混合液(MeOH:HO:CHCl=2.5:1:1(v/v/v))1000μLを用いて抽出した。この混合液には、内部標準として0.2mg/mLのribitol 60μLを加え、5mmジルコニアビーズを入れてボルテクスミキサーにて混合し、続けてボールミル(20Hz、1分、室温)とソニケーション(1.5分×3回)により懸濁した。
次に遠心分離(3分、4℃、16000g)を行い、上清800μLを1.5mL容エッペンドルフチューブに移した。そこに、ミリQ水400μLを加え、ボルテクス、遠心分離(3分、4℃、16000g)を行い、上清500μLを別の1.5mL容エッペンドルフチューブに移した。それを約2時間遠心濃縮した後、1晩凍結乾燥した。
次いで、この抽出物に50μLの塩酸メトキシアミン(Sigma社製)のピリジン溶液(20mg/mL)を、第1の誘導体化剤として添加した。混合物を30℃にて90分間インキュベートした。
さらに、第2の誘導体化剤である100μLのN−メチル−N−(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(MSTFA:GL science社製)を添加して、30℃にて30分間インキュベートすることにより抽出物を誘導体化して、分析サンプルを得た。
<例2:GC/MSによるナチュラルチーズサンプルの分析(機器分析工程)>
上記例1で得られた1μLの分析サンプルを、スプリットモードでGC/MSに注
入した(25:1、v/v)。本例で使用したGC/MS装置は、GCMS-QP2010Ultra(島津製作所社製)でCP−SIL8CB低ブリードフィルム(膜厚:0.25μm)でコーティングしたフューズドシリカキャピラリーカラム(内径:30m×0.25mm)(Varian社)を装着し、オートサンプラーとしてAOC−20iシリーズインジェクター(島津製作所社製)を接続した。注入温度は230℃であった。
カラムを通るヘリウムガスの流速は、約1mL/分であった。カラム温度は、2分間80℃で等温に保ち、次いで15℃/分で330℃まで上昇させ、そして6分間等温に保った。搬送ラインおよびイオンソース温度は、それぞれ250℃および200℃であった。
イオンを、70eV電子衝撃(EI)によって生成し、そして1秒当たり10000スキャンを、m/z85〜500の質量範囲にわたって記録した。
<例3:GC/MSによるデータの解析およびナチュラルチーズの代謝物プロファイリング>
[データ前処理]
本例では、下記によって、機器分析データの前処理を行った後に、多変量解析を行った。
すなわち、上記例2においてGC/MSにより得られたデータの前処理についてGCMSsolution(島津製作所社製)を用いて自動ピーク検出及びマススペクトルのスムージング、ベースライン補正などを行った後、ANDIファイル(分析データ交換プロトコル、CDFデータファイル形式;*.cdf)に変換した。ANDIフォーマットを用いると、異なるマススペクトルデータシステム間のデータの変換および転送を行うことができる。続いて、内部標準物質であるリビトールを基準にしてMetAlignソフトウエア(Lommen, A.: MetAlign: interface-driven, versatile metabolomics tool for hyphenated full-scan mass spectrometry data preprocessing. Anal. Chem., 81, 3079-3086(2009).)を用いてピークの強度の標準化及び保持時間のアライメントを行った。
[成分の同定]
データ前処理した結果をCSV(comma−separated values)ファイル形式で出力し、AIoutput(Tsugawa, H., Bamba, T., Shinohara, M., Nishiumi, S., Yoshida, M., and Fukusaki, E.: Practical non-targeted gas chromatography/mass spectrometry-based metabolomics platform for metabolic phenotype analysis. J. Biosci. Bioeng., 112, 292-298(2011).)を用いてピーク同定を行った。化合物の同定は、標準化学物質を用いて作成したインハウスライブラリ及び NIST(National Institute of Standards and Technology)ライブラリのマススペクトルパターンと保持時間と照合することによって実施した。
[主成分分析(OPLS)]
次いで、市販のソフトウエアであるSIMCA−P(登録商標)(Umetrics社製)を用いて以下の分析を行った。直交部分最小二乗法による潜在的構造に対する射影(OPLS)回帰分析を用いて、代謝物ピークに基づいて2種類のチーズ間の判別モデルを構築した。すなわち、得られたGC/MSクロマトグラムから保持時間インデックスと、質量分析シグナル強度から構成されるマトリクスデータを作成して説明変数とし、2種類のチーズの種類を目的変数として、OPLS回帰分析により原料を変更した場合のチーズについての判別モデルを作成した。
次に、サンプルの代謝物プロファイル(マトリクスX)とそのチーズ種類(マトリクスY)との間の関係を以下のように確認した。
[乳酸菌スターターが同じチーズA(有塩タイプ)とB(無塩タイプ)との比較]
まず、チーズA(有塩タイプ)とB(無塩タイプ)とを比較することにより、食塩含量がメタボリックプロファイルに及ぼす影響を、OPLS回帰分析を用いた判別分析(OPLS−DA)によって確認した。なお、メタボリックプロファイルとは、代謝物パターン(プロファイル)である。このモデルは、1個の予測成分と1個の直交成分を生成し、R(X)=0.921、R(Y)=0.727、Q(Y)=0.711が得られた。ここで、R(X)およびR(Y)は、このOPLS−DAモデルの予測部分によってXおよびYがどのくらい良く説明されるかを示す指標である。ここでは、Xにおける全分散の92.1%がモデルによって説明され、当該X分散が、Yにおける全分散の72.7%を説明するために用いられていることを意味する。また、Q(Y)はクロスバリデーションによって見積もられた予測能力、すなわち新たなサンプルに対して、チーズAかチーズBかに判別する能力の指標である。R(Y)及びQ(Y)は、チーズAとチーズBの判別に関するモデル性能の指標となるが、R(Y)及びQ(Y)が共に0.7をやや超える程度であることから、比較的良好な指標である。
図2は、本実施形態に係るOPLS分析結果であって、同じ乳酸菌スターターを用い食塩含量が異なるチーズAとチーズBの判別モデルのスコアプロットを示す図である。図2において、横軸tpは、モデルにおける予測的なスコアであり、群間の変動(class variation)を意味し、縦軸toは、同等直交スコアであり群内の変動を意味する。なお、図2において、例えばA−10−9Mのように、表1に示したサンプル記号A−10℃−9Mのうち“℃”を省略して示している。
図2のスコアプロットより、サンプルのチーズAとBの両者はほぼ判別はされている。しかしながら、図2のスコアプロットでは、群内においても予測スコアに変動が見られる上、チーズAの一部のサンプル(A−15−3M)のスコアが、チーズBのスコア群の中に混在している。そして、R(Y)及びQ(Y)が、0.7程度という判別性能に示される通り、極めて良好な判別を与えるほどチーズAとチーズBの間でメタボリックプロファイルに大きな違いがあるわけではないことを、図2のスコアプロットは示している。
図3は、本実施形態に係るOPLS判別分析結果であって、同じ乳酸菌スターターを用い食塩含量が異なるチーズAとチーズBの判別モデルのS−プロットを示す図である。図3において、横軸Cov(tp,X)であり、縦軸はCorr(tp,X)であり、縦軸(Corr(t,X))は、−1から1までに規格化してある。チーズAとチーズBのクラス分類に寄与する化合物を、図3のS−プロットの点線で囲まれた領域201の属する化合物として抽出した結果、チーズAに多くチーズBに少ない化合物として乳糖(Lactose)及びガラクトース(Galactose)が得られた。また、図3のS−プロットの点線で囲まれた領域202の属する化合物として抽出した結果、チーズBに多くチーズAに少ない化合物として乳酸(Lactic acid)、4−アミノ酪酸(4−Aminobutyric acid)、リン酸塩(Phosphate)が得られた。
以上のように、本実施形態では、メタボリックプロファイルに食塩濃度が異なるチーズの判別モデルを、熟成品質分析工程の多変量解析によって可視化することができる。すなわち、本実施形態では、OPLS判別分析のスコアプロット(図2)の可視化によって食塩含量が異なるチーズを判別できる。さらに、本実施形態では、OPLS判別分析のS−プロット(図3)によって食塩含量が異なるチーズのクラス分類に寄与する化合物を可視化できる。
[有塩タイプで乳酸菌スターターが異なるチーズAとCとの比較]
次に、有塩タイプで乳酸菌スターターが異なるチーズAとチーズCを比較することにより乳酸菌スターターがメタボリックプロファイルに及ぼす影響を、OPLS判別分析を用いた判別分析によって確認した。このモデルは、1個の予測成分と3個の直交成分を生成し、R(X)=0.974、R(Y)=0.989、Q(Y)=0.977と極めて良好なモデル性能を示した。
図4は、本実施形態に係るOPLS判別分析結果であって、同じ食塩含量であり乳酸菌スターターが異なるチーズAとチーズCの判別モデルのスコアプロットを示す図である。図4における横軸tpと横軸toは、図2と同様である。図4のスコアプロットより、チーズAとチーズCのクラス分類が明確であることが示されている。また、図4のスコアプロットは、乳酸菌スターターの違いが、メタボリックプロファイルに明確な違いをもたらすことを示している。
図5は、本実施形態に係るOPLS判別分析結果であって、同じ食塩含量であり乳酸菌スターターが異なるチーズAとチーズCの判別モデルのS−プロットを示す図である。図5における横軸Cov(tp,X)と横軸Corr(tp,X)は、図3と同様である。チーズAとチーズCのクラス分類に寄与する化合物を図5のS−プロットの点線で囲まれた領域211の属する化合物として抽出した結果、チーズAに多くチーズCに少ない化合物としてLactic acid、Lactose、尿素(Urea)、4−Aminobutyric acid、Galactose及びPhosphateが得られた。また、チーズAとチーズCのクラス分類に寄与する化合物を図5のS−プロットの点線で囲まれた領域212の属する化合物として抽出した結果、チーズCに多くチーズAに少ない化合物としてプロリン(Proline)、グリシン(Glycine)、アラニン(Alanine)、リシン(Lysine)が閾値(点線)内に存在したほか、縦軸で|0.5|には満たないものの、横軸で|0.15|より大きい値を示したものとしてイソロイシン(Isoleucine)、ロイシン(Leucine)、バリン(Valine)及びピログルタミン酸(Pyroglutamic acid)などが得られた。
以上のように、本実施形態では、メタボリックプロファイルに乳酸菌スターターが異なる2つのチーズの判別モデルを、熟成品質分析工程の多変量解析によって可視化することができる。すなわち、本実施形態では、OPLS判別分析のスコアプロット(図4)の可視化によって乳酸菌スターターが異なるチーズを判別できる。さらに、本実施形態では、OPLS判別分析のS−プロット(図5)によって乳酸菌スターターが異なるチーズのクラス分類に寄与する化合物を可視化できる。
[メタボリックプロファイルの相違の度合いとその相違に関する特徴的な化合物]
次に、原料を変えた場合のサンプル間(AとB、あるいはAとC)のメタボリックプロファイルの相違の度合いとその相違に関する特徴的な化合物を、判別分析であるOPLS−DAを用いて抽出した。OPLS−DAのS−プロットによって、いくつかの特徴的な化合物が抽出されたが、更に、これらの化合物の存在分布についてどの程度実際にサンプル間で違いがあるかを、図6〜図9に示すように箱ひげ図で比較した。図6〜図9は、本実施形態に係るOPLS判別分析結果から抽出された各化合物の熟成工程中のピーク強度の存在範囲を示す箱ひげ図を示す図である。図6〜図9において、縦軸は、ピーク強度を示している。また、図6〜図9のサンプルAの各成分には、表1に示したサンプル記号A−0〜A−15℃−9Mの13個のデータがプロットされ、サンプルCの各成分には、表1に示したサンプル記号C−0〜C−15℃−9Mの13個のデータがプロットされている。また、図6〜図9において、長方形の下側の辺は第1四分位数、長方形の上側の辺は第3四分位数であり、長方形の中央の線は中央値である。また、長方形の下側の辺から伸びる点線の先端は、第1四分位数−1.5×四分範囲より大きいデータ点であり、長方形の上側の辺から伸びる点線の先端は、第3四分位数+1.5×四分範囲より小さいデータ点である。
図6(A)は、Lactic acidに対する箱ひげ図であり、図6(B)は、Lactoseに対する箱ひげ図であり、図6(C)は、Ureaに対する箱ひげ図であり、図6(D)は、4−Aminobutyric acidに対する箱ひげ図である。
図7(A)は、Galactoseに対する箱ひげ図であり、図7(B)は、Phosphateに対する箱ひげ図であり、図7(C)は、Prolineに対する箱ひげ図であり、図7(D)は、Glycineに対する箱ひげ図である。
図8(A)は、Alanineに対する箱ひげ図であり、図8(B)は、Lysineに対する箱ひげ図であり、図8(C)は、Isoleucineに対する箱ひげ図であり、図8(D)は、Leucineに対する箱ひげ図である。
図9(A)は、Valineに対する箱ひげ図であり、図9(B)は、Pyroglutamic acidに対する箱ひげ図である。
例えばチーズAとチーズCを比較した結果、チーズAに多くチーズCに少ない化合物として抽出されたLactic acid(図6(A))、Lactose(図6(B))、Urea(図6(C))、4−Aminobutyric acid(図6(D))、Galactose(図7(A))及びPhosphate(図7(B))については、チーズAとチーズCで熟成期間におけるピークの相対強度分布が全く重なっていないか、少なくとも四分位点の範囲が重なっておらず、両サンプル群の識別マーカーとなり得る特徴的な化合物であるといえる。
一方、チーズCに多くチーズAに少ない化合物として抽出されたProline(図7(C))、Glycine(図7(D))、Alanine(図8(A))、Lysine(図8(B))、Isoleucine(図8(C))、Leucine(図8(D))、Valine(図9(A))及びPyroglutamic acid(図9(B))などのアミノ酸群は、サンプル群間で熟成期間におけるピークの相対強度分布の四分位範囲が重なってはいるが中央値や最大値に明らかな相違が認められ、チーズAとチーズCの判別マーカーとして、特に熟成が進んだ場合において特徴的な化合物であるといえる。
以上のように、本実施形態では、メタボリックプロファイルが異なる2つのチーズの判別モデルを、熟成品質分析工程の多変量解析によって可視化することができる。すなわち、本実施形態では、原料を変えた場合のサンプル間のメタボリックプロファイルの相違の度合いとその相違に関する特徴的な化合物を、化合物毎に箱ひげ図(図6〜図9)のように可視化できる。
このように、利用者は、本実施形態における熟成品質分析工程の多変量解析によって可視化された結果を用いることで、食塩濃度や乳酸菌スターターの種類がチーズのメタボリックプロファイルに及ぼす影響を知ることができる。また、本実施形態によれば、利用者は、原料を変えた場合のサンプル間のメタボリックプロファイルの相違の度合いとその相違に関する特徴的な化合物を知ることができる。さらに、本実施形態によれば、利用者は、2つのチーズを判別できる判別マーカーとなる特徴的な化合物を知ることができる。
なお、本実施形態では、図6〜図9に示したように、箱ひげ図を用いて解析結果を化合物毎に可視化する例を説明したが、可視化に用いるツールは他のグラフ等を用いるようにしてもよい。
[熟成条件(温度と期間)の決定]
上述したように、化学的な成分プロファイル(メタボリックプロファイル)と多変量解析と組み合わせることによって、複数のナチュラルチーズの熟成度合いを総合的にかつ的確に表現し比較することができる。このような根拠により、本実施形態の熟成条件決定工程により、熟成条件(温度と期間)の決定することができる。
各熟成条件における経時サンプルのメタボリックプロファイルプロットを用いて、例えば熟成条件において温度を高くすることで、熟成期間を短縮化することを意図した場合、近似(すなわち近接した位置)の成分プロファイルを得るための熟成条件(温度と期間)の決定することができる。このようにメタボリックプロファイリングまたはメタボリックフィンガープリンティングの技術を用いることによって確固たる根拠をもった熟成条件の決定が可能である。
例えば、なるべく短期間で長期熟成品と同等の熟成度合いを得るために、同一のメタボロームが得られることを根拠として熟成条件の決定や熟成工程における終点の決定などを行う。
図10は、本実施形態に係るPCA解析結果であって、チェダーチーズサンプルの熟成工程サンプルに対してGC/MS分析を行いPCAを行った結果のスコアプロットを示す図である。また、図10は、サンプルのチーズCについてのPCA解析結果である。図10において、横軸は、第1主成分、縦軸は、第2主成分を表している。図10に示されるように、第1主成分には約93%、第2主成分には3%がそれぞれ寄与率として算出された。
チーズCの場合、例えば、主成分分析PCAのスコアプロットの結果を示した図10において、メタボリックプロファイルの情報量のうち約93%が集約されている第1主成分(横軸)のスコアを見ると、熟成温度が10℃かつ熟成期間が9ヶ月のサンプル(C−10−9M)のスコア221と、熟成温度が15℃かつ熟成期間が3ヶ月のサンプル(C−15−3M)のスコア222と位置が近似していることが分かる。
すなわち、図10は、チーズCにおいては、10℃で熟成させると9ヶ月を要する成分構成を、15℃で熟成させることによって3ヶ月で得ることができることを示している。
以上のように、本実施形態のチーズの熟成品質を分析する方法は、熟成品質既知のチーズを前処理して分析サンプルを得る前処理工程、該分析サンプルを機器分析に供して、機器分析データを得る機器分析工程、複数のチーズについての機器分析データを数値データに変換して多変量解析を行い、多変量解析を行った結果に基づいて熟成条件が成分プロファイルに及ぼす影響を解析し、解析した結果に基づいて該チーズの熟成条件を決定する熟成条件決定工程、を有する。
このように、本実施形態では、上記前処理工程と機器分析工程の後、熟成条件決定工程により、メタボリックプロファイルの近似度合いを指標にして、熟成温度を調整することで熟成期間をどの程度、短縮することができるのかを定量的に明示することが可能となる。これにより、本実施形態によれば、利用者は、熟成温度を調整することで熟成期間をどの程度、短縮することができるのかを知ることができるので、チーズの熟成期間を短縮することができる。
なお、図10では、チーズCについて主成分分析PCAのスコアプロットした例を説明したが、チーズA及びBについても、同様に主成分分析PCAのスコアプロットすることで、熟成温度を調整することで熟成期間をどの程度、短縮することができるのかを定量的に明示することが可能となる。
また、本実施形態では、成分として食塩濃度、乳酸菌スターターが異なるチーズA、B、Cの例を説明したが、これに限られない。牛乳など乳が異なる場合、レンネットが異なる場合であっても、本実施形態で説明した熟成品質分析工程および熟成条件決定工程を適用することができる。また、乳を凝乳する前または後に乳酸菌スターターを添加する、乳を殺菌するまたは殺菌しない等のチーズ製造における条件を変えた場合についても、本実施形態で説明した熟成品質分析工程および熟成条件決定工程を適用することができる。
これにより、本実施形態によれば、各種の製造条件を変えた場合であっても、メタボリックプロファイルに及ぼす影響、原料を変えた場合のサンプル間のメタボリックプロファイルの相違の度合いとその相違に関する特徴的な化合物、および2つのチーズを判別できる判別マーカーとなる特徴的な化合物を可視化することができる。さらに本実施形態によれば、各種の製造条件を変えた場合であっても、メタボリックプロファイルの近似度合いを指標にして、熟成温度を調整することで熟成期間をどの程度、短縮することができるのかを定量的に明示することが可能となる。
[第2実施形態]
第1実施形態では、熟成品質分析工程の多変量解析によって、2つのチーズを判別できる判別マーカーとなる特徴的な化合物を知ることができることを説明した。
本実施形態では、熟成の程度を代表するような「熟成マーカー」となる化合物を、簡便にかつ正確に決定する方法について説明する。
なお、本実施形態において、機器分析工程、及び前処理工程は、第1実施形態と同様に行う。
<多変量解析・熟成マーカー決定工程>
前処理が施されたチーズサンプル(分析サンプル)は、機器分析に供され、分析結果が得られる。得られた分析結果は、ピーク情報である。熟成品質分析工程では、このピーク情報をアライメントおよびベースライン補正などに付し、数値データに変換して多変量解析を行う。分析により得られる結果(変数)としては、保持時間、波長(若しくは波数)、ならびにシグナル強度(若しくはイオン強度)、吸光度などのスペクトルデータが挙げられる。さらに、本実施形態の多変量解析では、変数としてさらに変数として熟成品質を用いる。具体的にはチーズの官能評価スコアが好適に用いられる。
多変量解析としては、機器分析データおよび官能評価スコアデータの関係づけに、特にケモメトリックスにおいて通常用いられる解析ツールが採用される。
例えば、PLS回帰分析、OPLS回帰分析などの種々の多変量ツールが挙げられる。
さらに機器分析データに対してPCAに代表される情報集約手法で新たな情報軸(主成分軸)を作成し、成分プロファイルの相違をスコアプロット上の距離により可視化する。なお、本実施形態では、PLS回帰分析による判別分析をPLS判別分析ともいい、OPLS回帰分析による判別分析をOPLS判別分析ともいう。PLS判別分析若しくはOPLS判別分析を用いて、関連の変量の2群間の関係;例えば、チーズの代謝物とその熟成品質との間の関係、が確認される。必要に応じて、スペクトルフィルタリング法、例えば、妨害成分を取り除くための直交シグナル補正(OSC)と組み合わせて多変量解析が行われてもよい。また、多変量解析は、得られた全データではなく、熟成品質予測に重要な一定の範囲のデータを選択して行ってもよい。
本実施形態における熟成品質分析工程多変量解析および熟成マーカー決定工程は、熟成品質分析装置1Aを用いて行われる。図11は、本実施形態に係る熟成品質分析装置1Aのブロック図である。図11Aに示すように、熟成品質分析装置1Aは、処理部11A、記憶部12A、解析部13A、および熟成マーカー決定部15を備える。なお、第1実施形態で説明した熟成品質分析装置1と同じ機能を有する機能部については、同じ符号を用いて説明を省略する。
処理部11Aは、分析装置が出力した機器分析データと熟成品質データ(好ましくは官能評価スコア)とを、記憶部12Aに記憶させる。記憶部12Aには、分析装置により分析された機器分析データが記憶される。
解析部13Aは、記憶部12Aに記憶されている機器分析データと官能評価スコアデータとを数つデータに変換し、変換した数値データを用いて多変量解析工程を行う。解析部13Aは、PLS回帰分析若しくはOPLS回帰分析等を用いて判別分析を行う。また、解析部13Aは、PCA等により成分プロファイルの相違を解析する。
熟成マーカー決定部15は、解析部13Aにより多変量解析された解析結果に基づいて、熟成マーカー化合物を抽出し決定する熟成マーカー決定部工程を行う。
以下に、複数の熟成品質既知のナチュラルチーズサンプルから親水性低分子代謝物を抽出して、あるいはナチュラルチーズの熱分解物についてGC/MSにより定量解析を行う場合の各機能部が行う処理について説明する。
解析部13Aは、得られたGC/MSクロマトグラムから保持時間インデックスと質量分析シグナル強度から、ピークごとの強度に関するマトリクスデータを作成する。この際、質量分析によって、ピークの具体的な化合物名を同定することも可能である。処理部11Aは、対象ナチュラルチーズについての熟成経時サンプルの官能評価スコアを取得する。
解析部13Aは、GC/MSのマトリクスデータと官能評価スコアデータに対して、判別分析法と情報集約法とによる2つの多変量解析を実施する。次に、解析部13Aは、熟成に伴ってスコアが単純増加若しくは単純減少する官能属性についてのスコアを目的変数、GC/MSピーク強度データを説明変数として、PLS判別分析により官能スコア予測モデルを構築する。次に、解析部13Aは、当該モデルを用い、官能予測モデル構築において重要な代謝物をVariable Importance for the Projection(VIP)を指標として抽出する。ここで、VIPは、PLSモデルにおけるそれぞれのX項(説明変数;ここでは各代謝物ピーク)がY変数(目的変数;ここでは官能属性)に及ぼす影響を算出した指標である。また、VIPは、X項相互に比較することが可能で、1を超えるVIPを有するX項はY変数を説明するのに最も相応しいと解釈することができる。
次に、熟成マーカー決定部15は、情報集約手法で頻用されるPCAによってGC/MSピーク強度データを集約する。次に、熟成マーカー決定部15は、PCAのスコアプロットによって熟成経時サンプルの位置から熟成の進行する方向を決定する。次に、熟成マーカー決定部15は、PCAのローディングプロットで当該方向に寄与する化合物を抽出する。このように、本実施形態では、PLS判別分析の官能予測モデルに基づく化合物抽出と、PCAに基づく化合物抽出の結果を合わせることによって、熟成工程のマーカーとなる化合物候補を絞り込む。その後、本実施形態では、熟成マーカー決定部15は、絞り込まれたマーカー化合物候補について個別に熟成期間中の増減をグラフ化して、実際にマーカーとする化合物を決定する。
例えばナチュラルチーズから抽出された、代謝物を含む抽出物(分析サンプル)をGC/MSで分析した場合、得られる分析結果は、種々の代謝物の保持時間、マススペクトル、イオン強度などがある。
この場合、以下に説明するように、特に、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンのデータは、チェダーチーズの熟成マーカーとして重要な役割を果たす。また、以下に説明するように、高い熟成度のチェダーチーズサンプル中には、代謝物として、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンの量が熟成の進行につれて単純増加するため、熟成マーカーとして用いることができる。
<実施例>
以下に実施例を用いて本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
<ナチュラルチーズサンプル>
チェダーチーズを常法により作成した。このチーズサンプルを、以下、チーズCという。Cについて、熟成前のサンプル1検体と、熟成温度と熟成期間の異なる熟成サンプル12検体の計13検体を採取した。熟成条件は、熟成温度を5℃、10℃、15℃、熟成期間を1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月にそれぞれ設定した。サンプルの熟成条件を表2に示す。
Figure 2014166166
表2に示すように、例えば、サンプル記号C−0は、熟成期間が熟成前を表し、サンプル記号サンプル記号C−5℃−1Mは、熟成温度が5℃、熟成期間が1ヶ月を表す。
<官能評価方法>
熟成品質に関する官能評価は、定量的記述分析法による官能試験のスコア(官能評価スコア)によって決定され、官能評価用語としては「味の濃さ」であり、専門の官能評価パネルによって決定された。
官能評価の方法は、両端から13mmの位置に指示用語(左側が弱い、右側が強い)が記載された15cmの線尺度を用いて行った。官能評価スコアの値が大きいほど、所定の風味または味が強いことを示す。
評価は、30歳から40歳(女性4名、男性6名)の10名からなる訓練されたパネルを用いて行った。パネルは、基本5味(塩味、甘味、酸味、苦味、旨味)を検出でき、3点比較法を用いたチーズ間の違いを認識することができる能力に基づいて選抜した。
定量的記述分析法の方法論を用い、チーズサンプルの評価用語はパネル自身により定義した。定量的記述分析は、6つの風味、外観、テクスチャー、および後味の合計9つの官能属性について実施した。定量的記述分析は、外観、テクスチャー、後味なども含めて実施したが、本実施形態で機器分析と対応させる官能属性としては、「味の濃さ」と「酸味」を選んだ。評価用紙の作成とパネリストの訓練は、各90分間の6回の作業セッションで確立した。ここで、「酸味」と「味の濃さ」は、以下のように定義した。
味の濃さ:濃くてコクがあり、旨味や醤油のような風味。
酸味:基本味の1つ。代表的には乳酸やクエン酸の味。
定量的記述分析は、13種類のチーズサンプルのそれぞれについて、1.5cm×1.5cm×1.0cmのチーズ片6個をプラスチックカップ(70mL容)に入れ、蓋をして温度約5℃で供与した。順序効果を回避するよう計画に従ってサンプルとパネリストを配置した。すべてのサンプルについて3回の評価を実施した。サンプルをパネルに配布する際には3桁のランダムな数を付した。すべての評価は、空調が完備し、外部からの臭気、騒音、邪魔などが入らない専用の官能評価室において行った。
官能評価スコアの値は、10名のパネリストの3回の評価の平均値とした。
<例1:GC/MS用の分析サンプルの調製(前処理工程)>
GC/MS用の分析サンプルの調製(前処理工程)は、第1実施形態と同様に行う。
<例2:GC/MSによる分析(機器分析工程)>
GC/MSによる分析(機器分析工程)は、第1実施形態と同様に行う。
<例3:GC/MSで得られたデータの解析(1)>
[データ前処理]
データ前処理は、第1実施形態と同様に行う。
[成分の同定]
成分の同定は、第1実施形態と同様に行う。
[官能評価と代謝物ピークの間をモデル化]
次いで、市販のソフトウエアであるSIMCA−P(登録商標)(Umetrics社製)を用いて以下の分析を行った。PLS回帰分析によって、官能評価と代謝物ピークの間をモデル化した。すなわち、得られたGC/MSクロマトグラムから保持時間インデックスと、質量分析シグナル強度から構成されるマトリクスデータを作成して説明変数とし、各サンプルの官能評価スコアを目的変数として、PLS法により官能評価スコア予測モデルを作成した。以下、PLS回帰分析によりモデル化されたモデルを、PLSモデルともいう。
次に、サンプルの代謝物プロファイル(マトリクスX)とそのチーズ種類(マトリクスY)との間の関係を以下のように確認した。
熟成中の各官能属性の推移を確認し、熟成感と関係の強い官能属性である「味の濃さ」の官能評価スコアを用いた。モデルの完全性、すなわち、PLSモデルにおける潜在的ファクターの最適なPLS component数は、(モデルに対する)適合度Rと交差検証予測能Qとの間のバランスで決定した。さらに、PLSモデルのサンプルデータへの適合性は、適合値の誤差の標準偏差(RMSEE)を計算した。このモデルは、PLS component数=2、R=0.959、Q=0.929、RMSEE=0.374と良好な当てはまりを示した。図12は、本実施形態に係るPLS解析結果であって、機器分析による代謝物プロファイルから予測した官能属性「味の濃さ」のスコアと実際の官能評価パネルによる官能属性「味の濃さ」の実測スコアの関係を示す図である。図12において、横軸は、「味の濃さ」の予測スコア、縦軸は、「味の濃さ」の実測スコアである。「味の濃さ」の予測スコアとは、機器分析による代謝物プロファイルから予測した官能属性「味の濃さ」のスコアである。
[熟成品質分析工程;PLS判別分析による官能属性に基づく熟成マーカー候補の抽出]
次に、当該官能予測モデル構築において重要な代謝物の抽出は、VIPを指標として行った。熟成の進行とともに官能スコアが増加する官能属性「味の濃さ」について、モデル構築に重要な寄与をする化合物、すなわち、このモデルについてVIPが1を超える化合物を表3に示す。
Figure 2014166166
表3に示すように、多くのアミノ酸類及び乳酸が、モデル構築に寄与する化合物としてリストアップされた。それらは上から順に、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、乳酸、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンであった。このように、本実施形態では、VIPを指標とすることで、熟成に関連の深い官能属性に即した熟成マーカー候補をリストアップすることができる。
[熟成品質分析工程;PCAに基づく機器分析に基づく熟成マーカー候補の抽出]
次に、機器分析データのみからの熟成マーカー候補リストアップを行うために主成分分析(PCA)を行った。市販のソフトウエアであるSIMCA−P(登録商標)(Umetrics社製)をこの目的に適用した。チェダーチーズサンプルの熟成工程サンプルに対してGC/MS分析を行い、PCAを行った結果(スコアプロット)は、図10である。図10に示すように、第1主成分には92.9%、第2主成分には3.0%がそれぞれ寄与率として算出された。この2つの主成分で約96%の情報が集約されたが、特に第1主成分のみでほとんどの分散を表現することができた。図10のスコアプロットから、このサンプルにおいては、熟成期間に依存して、第1主成分軸に対して負から正の方向にかけてサンプルが存在していることが明らかとなった。すなわち、熟成温度にかかわらず、第1主成分軸に対して負から正の方向にかけて、熟成期間順に1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月のサンプルが存在する。
図13は、本実施形態に係るPCA解析結果であって、チェダーチーズサンプルの熟成工程サンプルに対してGC/MS分析を行いPCAを行った結果のローディングプロットを示す図である。図13において、横軸は、第1主成分、縦軸は、第2主成分を表している。
図13に示すように、第1主成分軸の正の方向に寄与する化合物には、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンなど、アミノ酸が列挙された。一方、第1主成分の負の方向に寄与する化合物として乳酸が挙げられた。第1主成分の寄与率が約93%を示すことから、スコアプロット(図10)とローディングプロット(図13)とを対応させたとき、ローディングプロットで抽出されたプロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンなどのアミノ酸が、熟成工程で多量に生成されていることが示唆された。
[熟成品質分析工程;熟成マーカー化合物の決定]
PLS判別分析による官能属性に基づく熟成マーカー候補とPCAに基づく機器分析に基づく熟成マーカー候補を合わせると、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、乳酸、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンが抽出された。これらのマーカー候補化合物について、熟成期間におけるピーク強度の推移を図14及び図15に示した。
図14及び図15は、本実施形態に係るPLSおよびPCAの解析によって抽出されたマーカー候補化合物について、熟成期間におけるピーク強度の推移を示す図である。図14及び図14において、横軸は、サンプル記号、縦軸は、ピーク強度である。また、横軸のサンプル番号は、左から右に表2に示した順に並べてある。また、図14(A)〜図14(H)は、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシンについて、熟成期間におけるピーク強度の推移を示す図である。図15(A)〜図15(H)は、リジン、乳酸、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンについて、熟成期間におけるピーク強度の推移を示す図である。
図14(A)の示すプロリン(Proline)をはじめとするアミノ酸群は、熟成期間が長くなるにつれて縦軸で示されるピーク強度が増加しており、相互にグラフ形状の傾向が類似している。なお、アミノ酸群とは、プロリン(図14(A))、ロイシン(図14(B))、バリン(図14(C))、イソロイシン(図14(D))、ピログルタミン酸(図14(E))、アラニン(図14(F))、グルタミン酸(図14(G))、グリシン(図14(H))、リジン(図15(A))、チロシン(図15(B))、セリン(図15(C))、フェニルアラニン(図15(D))、メチオニン(図15(E))、アスパラギン酸(図15(F))、及びオルニチン(図15(G))である。また、熟成温度が高いほど、同じ熟成期間でもピーク強度が大きい。
これに対して乳酸(図15(H))は、相対ピーク強度は大きいが、熟成期間や熟成温度による変化はあまり顕著ではない。
これらの結果から、実施例で使用したチーズCに対しては、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンを、熟成工程モニタリングのマーカーとして決定した。
このことから、本実施形態によれば、例3で得られたケモメトリクスと組み合わせたGC/MSを用いるメタボロミクス解析が、ナチュラルチーズの熟成工程管理において有用な情報を提供することができる。
以上のように、本実施形態のチーズの熟成品質を分析する方法は、熟成品質既知のチーズを前処理して分析サンプルを得る前処理工程、該分析サンプルを機器分析に供して、機器分析データを得る機器分析工程、複数のチーズについての機器分析データと該チーズのそれぞれの熟成品質を表す熟成品質データとをおのおの数値データに変換して多変量解析を行い、多変量解析を行った解析結果に基づいて、該チーズにおける熟成の指標となる熟成マーカー化合物を抽出し決定する熟成品質分析工程、を有する。
このように、本実施形態では、上記前処理工程と機器分析工程の後、熟成品質分析工程により、熟成の指標となる熟成マーカー化合物を抽出して決定することができる。
これにより、本実施形態によれば、従来不明確であった製品ナチュラルチーズの総合熟成品質マーカー化合物の探索において、的確な方法で抽出し決定することが可能である。すなわち、ナチュラルチーズを、クロマトグラフィーなどの種々の機器分析により熟成経過を調査することによって、的確かつ有益に熟成マーカーを決定し得る。
なお、本実施形態では、官能予測モデル構築において重要な代謝物をVIPを指標として抽出する例を説明したが、他の指標を用いて抽出するようにしてもよい。
なお、熟成品質分析装置1(含む1A)の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
第1実施形態によれば、従来不明確であった製品ナチュラルチーズの総合熟成品質を考慮した熟成条件決定において、成分プロファイルに基づき的確な方法で条件変更の影響を定量化し、条件決定に活用することが可能である。すなわち、ナチュラルチーズを、クロマトグラフィーなどの種々の機器分析により熟成経過を調査することによって、的確かつ有益に熟成条件を決定できる。
従来のナチュラルチーズの製造工程における熟成度の評価は経験に基づく熟練者の官能評価に大きく依存していた。しかし、熟練者を育成するには時間とコストがかかり、熟練者が何かの事情でいなくなってしまうリスクなどもある。また熟練者といえども体調などによって評価基準が安定しない可能性も否定できない。したがって、誰もが同様に操作して同様のデータを得ることができる機器分析による第1実施形態の方法を用いれば、上述の産業的リスクを軽減した的確な熟成度計測が可能であり、ナチュラルチーズ製造工程における熟成条件決定のさらなる改善ができる。
また、誰もが同様に操作して同様のデータを得ることができる機器分析による第2実施形態の方法を用いれば、上述の産業的リスクを軽減した的確な熟成度計測が可能であり、ナチュラルチーズ製造工程あるいはナチュラルチーズ最終製品における熟成度管理のさらなる改善が期待できる。
1、1A…熟成品質分析装置、11、11A…処理部、12、12A…記憶部、13、13A…解析部、14…熟成条件決定部、熟成マーカー決定部15

Claims (9)

  1. チーズの熟成品質を分析する方法であって、
    熟成品質既知のチーズを前処理して分析サンプルを得る前処理工程;
    該分析サンプルを機器分析に供して、機器分析データを得る機器分析工程;
    複数の前記チーズについての機器分析データを数値データに変換して多変量解析を行い、前記多変量解析を行った結果に基づいて熟成条件が成分プロファイルに及ぼす影響を解析し、前記解析した結果に基づいて該チーズの熟成条件を決定する熟成条件決定工程;
    を有する、チーズの熟成品質分析方法。
  2. チーズの熟成品質を分析する方法であって、
    熟成品質既知のチーズを前処理して分析サンプルを得る前処理工程;
    該分析サンプルを機器分析に供して、機器分析データを得る機器分析工程;
    複数の前記チーズについての機器分析データと該チーズのそれぞれの熟成品質を表す熟成品質データとをおのおの数値データに変換して多変量解析を行い、前記多変量解析を行った解析結果に基づいて、該チーズにおける熟成の指標となる熟成マーカー化合物を抽出し決定する熟成品質分析工程;
    を有する、チーズの熟成品質分析方法。
  3. 前記多変量解析が、潜在的構造に対する射影の直交部分最小自乗によるOPLS回帰分析である、
    請求項1または請求項2に記載のチーズの熟成品質分析方法。
  4. 前記多変量解析が、潜在的構造に対する射影によるPLS回帰分析である、
    請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のチーズの熟成品質分析方法。
  5. 前記機器分析が、ガスクロマトグラフィーと質量分析との組み合わせである、
    請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のチーズの熟成品質分析方法。
  6. 前記前処理が、前記チーズから親水性化合物を抽出して抽出物を得る工程を含む、
    請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のチーズの熟成品質分析方法。
  7. 前記機器分析が、ガスクロマトグラフィーと質量分析との組み合わせであり、そして前記前処理がさらに前記抽出物をメトキシ化およびシリル化する工程を含む、
    請求項6に記載のチーズの熟成品質分析方法。
  8. 前記前処理が、前記チーズを粉砕して粉末を得る工程および該粉末を溶媒でペースト状にする工程を含む、
    請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のチーズの熟成品質分析方法。
  9. 前記チーズは、チェダーチーズであり、
    前記分析した結果の中で、前記チェダーチーズのマーカー化合物としてプロリン、ロイシン、バリン、イソロイシン、ピログルタミン酸、アラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、チロシン、セリン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、オルニチンのデータに対する熟成への影響が解析される、
    請求項7に記載のチーズの熟成品質分析方法。
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