JP2014120692A - デュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー - Google Patents
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Abstract
【課題】従来型のダイオードが抱える問題に鑑み、円偏光を簡便に切り替えるとともに、切り替えを高速化する。
【解決手段】磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極が、発光ダブルヘテロ構造を有するスピン発光ダイオードのバリヤー層の上面に形成されていることを特徴とするデュアル電極型スピン発光ダイオード。
【選択図】図1
【解決手段】磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極が、発光ダブルヘテロ構造を有するスピン発光ダイオードのバリヤー層の上面に形成されていることを特徴とするデュアル電極型スピン発光ダイオード。
【選択図】図1
Description
本発明は、二つの電極を備え、電流を流す電極を切り替えることで、円偏光の偏光方向を高速(GHz級以上)で切り替えることができるスピン発光ダイオード及びレーザーに関する。
現在、光の偏光や位相を扱う光学技術の発展が目覚しく、円偏光を直接発する光源として、磁性体と半導体とを組み合わせた円偏光半導体レーザーが提案されている(特許文献1〜4、参照)。
特許文献1には、「活性領域を有するpn接合又はpin接合構造の半導体素子の上部又は下部又はその両方に磁性体電極を設け、該磁性体電極により活性領域にスピン偏極した電子又は正孔を注入するようにした光半導体素子」が開示されている。
上記素子を用いる光学装置では、磁性体電極上に、導体コイル(外部光学機器)を重ね合わせ、該導体コイルに電流パルスを流して磁性体電極の磁化の方向を切り替え、右回り円偏光と左回り円偏光を切り替えている。
特許文献2及び3には、同様に、「ヘテロ接合を形成する半導体層に、磁性体層を通してスピン偏極電子を注入して、スピン偏極キャリアを再結合させて円偏光を発信する光半導体装置」が開示されている。この光半導体装置においては、外部磁場(外部機器)による磁性体の磁化反転によって円偏光を変調する。
特許文献4には、非磁性半導体層からなる発光ダブルヘテロ構造と、該構造の障壁層に近接、又は、隣接して、バンドギャップの小さい磁性半導体層を備え、外部印加電圧により、円偏光度(右回りと左回り)を高速で変調して、円偏光を出力できるp−i−n型円偏光変調発光半導体素子が開示されている。
しかし、上記いずれの円偏光発光半導体素子も、円偏光度の変調制御に外部磁場の変調を利用しているので、変調の高速化には限界がある。
円偏光を発する機能を備えた従来の発光ダイオードは、ダイオード上に1つの磁性体電極しか備えておらず(通称:スピン発光ダイオード)、磁化の向きに対応して右(プラス)又は左(マイナス)回りのどちらかの円偏光しか得られなかった。そして、従来型のダイオードを用いて円偏光の切り替えを行う場合、ダイオード素子に外部磁場を印加してダイオード上に設けた単一の磁性体電極方向を反転させる操作が必要となる。
このような操作を行うには、(1)外部磁場発生のための回路と電磁石が必要になり、それに付随して電力が必要となる、及び、(2)切替え速度が電磁石のインピーダンスで決まるので高速化が難しいという問題がある。それ故、これまで、多様な偏光状態を創出し、それに基づいて応用を開拓するという発想は生まれなかった。
本発明は、従来型のダイオードが抱える問題に鑑み、円偏光を簡便に切り替えるとともに、切り替えを高速化することを課題とし、該課題を解決するスピン発光ダイオード及びレーザーを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するスピン発光ダイオードの構造について鋭意検討した。その結果、磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極をスピン発光ダイオードに取り付け、一対の磁性金属電極に交互に電流を流せば、円偏光の偏光方向を高速(GHz級以上)で切り替えることができ、また、一対の磁性金属電極に同時に電流を流せば、右回り偏光と左回り偏光が重畳して、直線偏光又は楕円偏光が得られることを見いだした。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極が、発光ダブルヘテロ構造を有するスピン発光ダイオードのバリヤー層の上面に形成されていることを特徴とするデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
(2)前記一対の磁性金属電極が強磁性電極であることを特徴とする前記(1)に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
(3)前記強磁性電極が、Fe電極又はGd−Fe電極であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
(4)前記発光ダブルヘテロ構造が端面発光型構造であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
(5)前記磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極が、互いに櫛状に入れ込んだ構造の電極であることを特徴とする前記(4)に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
(6)前記発光ダブルヘテロ構造が面発光型構造であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
(7)前記一対の磁性金属電極に交互に電流を流し、円偏光の偏光方向を高速で切り替えることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載デュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
(8)前記一対の磁性金属電極に同時に電流を流し、直線偏光又は楕円偏光を発光させることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載デュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
本発明によれば、外部磁場又は外部光学素子を併用することなしに、円偏光の符号の切替えを高速(周波数:GHz級以上)で行うことができ、かつ、円偏光と直線偏光(楕円偏光)を切り替えることができる。
本発明のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー(以下「本発明ダイオード及びレーザー」ということがある。)は、磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極が、発光ダブルヘテロ構造を有するスピン発光ダイオードのバリヤー層の上面に形成されていることを特徴とする。
以下、本発明ダイオード及びレーザーについて図面に基づいて説明する。
図1に、一対の磁性金属電極を備える端面発光型のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザーの態様を示す。基板1上に、電子線エピタキシー法(MBE法)で、発光ダブルヘテロ構造を有するスピン発光ダイオード2が成膜され、その上にバリヤー層2aが成膜されている。バリヤー層2aの上面には、厚さが異なる一対の磁性金属電極3a、3bが形成されている。電極の厚さは、磁性金属電極3a>磁性金属電極3bである。
図2に、一対の磁性金属電極を備える端面発光型のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザーの具体例を示す。p−GaAs(001)の基板の上に、所要の層がMBE法で積層され、そして、AlOxのバリヤー層2aの上面に、磁性金属電極としてFe電極が形成されている。
磁性金属電極は、磁化される金属電極であればよいが、磁化が容易な強磁性電極が好ましい。特に、Fe電極、Gd−Fe電極が好ましい。
図1に示すように、磁性金属電極3aと磁性金属電極3bに電圧を負荷すると、磁化の方向5は互いに反平行となるが、電極の厚さが異なるので、磁化特性は異なる。
ここで、図3に、磁性金属電極が鉄電極で、厚さが100nmの場合(磁性金属電極3aに対応)の磁化特性、厚さが30nm(磁性金属電極3bに対応)の磁化特性(いずれも、上図、参照)、及び、一対の、厚さ100nmの磁性金属電極3a(鉄電極)と厚さ30nmの磁性金属電極3b(鉄電極)を同時に磁化した時の磁化特性(下図、参照)を示す。
磁性金属電極単独では、通常のヒステリシスを示すが、一対の磁性金属電極を同時に磁化すると、それぞれのヒステリシスが重畳し、段付ヒステリシスを示すことが解る。
磁性金属電極3aに電圧を負荷して磁化すると、磁性金属電極3aの下の発光ダブルヘテロ構造が機能してスピン発光ダイオードの端面から左回り偏光(σ-)4aが発光する。磁性金属電極3bに電圧を負荷して磁化すると、磁性金属電極3bの下の発光ダブルヘテロ構造が機能してスピン発光ダイオードの端面から右回り偏光(σ+)4bが発光する。
図4に、磁性金属電極が鉄電極で、厚さ100nmの電極(磁性金属電極3aに対応)、及び、厚さ30nmの電極(磁性金属電極3bに対応)に通電した場合におけるスピン発光ダイオードからの出力光の発光スペクトルを示す。図4(a)に、右回り偏光(σ+)の発光強度を示し、図4(b)に、左回り偏光(σ-)の発光強度を示す。右回り偏光(σ+)の発光強度と左回り偏光(σ-)の発光強度に差異があることが解る。
一対の磁性金属電極への通電を切り替えると、右回り偏光(σ+)と左回り偏光(σ-)を切り替えることができる。
図5に、10Kにおいて一対の磁性金属電極への通電を、10秒間隔で切替え(0.1Hz)を10周期行ない、その後、両方の磁性金属電極に40秒間通電した場合における円偏光度の変化を示す。円偏光度が、通電の切替えに伴い変化していることが解る。また、200〜240秒(40秒間通電)では、双方の円偏光発光が打ち消しあい直線偏光となっていることが解る。
図5に示す200〜240秒(40秒間通電)の間では、双方の円偏光発光が打ち消しあい直線偏光となっているが、双方へ通電する電流値を変える(電流比を変える)ことにより、双方の円偏光発光が打ち消しあう程度を変えて、楕円偏光を得ることができる。
表1に、電流値を変えた(電流比を変えた)場合の一例を示す。
このように、本発明ダイオード及びレーザーによれば、一対の磁性金属電極の双方に通電する電流値を変えることにより、例えば、円偏光(左回り又は右回り)―楕円偏光―直線偏光を連続的に発光することができる。それ故、本発明ダイオード及びレーザーは、新規光源としても機能し得るものである。さらに、本発明ダイオード及びレーザーは、レーザー用の新規光源としても機能し得るものである。
図5に示す通電切り替え実験は、10Kで行なった。さらに、本発明者らは、5〜100Kにおいて、円偏光度の切替え実験を行なった。その結果を図6に示す。図から、円偏光度の切替えは約70K程度までの範囲で観測されることが解る。
これまで、一対の矩形磁性金属電極を平行に設けた端面発光型スピン発光ダイオード及びレーザーについて説明したが、磁性金属電極の形状は矩形に限定されない。磁性金属電極は一対である限り、適宜の形状を採り得る。
一対の磁性金属電極は適宜の形状を採り得るが、電極の切替えで発光点の位置がずれない電極形状が好ましい。2つの電極の切り替えにより発光点の位置がずれることを避けるため、電流狭窄層の挿入及び/又は電極形状の工夫により発光点を安定化することが可能である。
半導体構造内の発光層上部に、例えば、AlOx層とn−AlAs層から成る電流狭窄層を設けることで、各電極から注入した電流がn−AlAs層を優先的に流れるので、各電極から流れる発光位置を制御することが可能である。
ここで、図7に、磁性金属電極の形状が櫛形の端面発光型スピン発光ダイオード及びレーザーの態様を示す。図7に示す櫛形の電極を用いることにより、接合部における電流密度の変動を低下させることが可能である。
発光点を安定化する電極構造は、櫛形以外にも、奥行き方向に同一ラインに並べる構造もある。このような電極構造を採用することにより、電極を切り替えても、発光点の位置が変動せず、安定したニアフィールドパターンを呈することができる。
また、スピン発光ダイオード及びレーザーは、端面発光型に限定されない。本発明ダイオード及びレーザーは、面発光型でも機能する。図8に、面発光型スピン発光ダイオード及びレーザーの態様を示す。図8(a)に、磁性金属電極の形状が櫛型の場合を示し、図8(b)に、磁性金属電極の形状が円弧状の場合を示す。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
A.発光ダイオード構造の成膜(図2、参照)
電子線エピタキシー法(MBE法)を用い、Znドープp型GaAs基板上に、下記の手段に従って発光ダイオード構造及び酸化アルミニウム層を成膜した。
A.発光ダイオード構造の成膜(図2、参照)
電子線エピタキシー法(MBE法)を用い、Znドープp型GaAs基板上に、下記の手段に従って発光ダイオード構造及び酸化アルミニウム層を成膜した。
1.基板温度510℃で、バッファ層として厚さ500nmのBeドープp−GaAs(1x1018/cm3)を成膜。
2.基板温度510℃で、厚さ500nmのBeドープp−Al0.20Ga0.80As(1x1018cm-3)を成膜。
3.基板温度510℃で、厚さ15nmのノンドープAl0.20Ga0.80Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
2.基板温度510℃で、厚さ500nmのBeドープp−Al0.20Ga0.80As(1x1018cm-3)を成膜。
3.基板温度510℃で、厚さ15nmのノンドープAl0.20Ga0.80Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
4.基板温度510℃で、厚さ500nmのノンドープIn0.03Ga0.97As層を成膜(発光層)。
5.基板温度510℃で、厚さ15nmのノンドープAl0.10Ga0.90Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
6.基板温度510℃で、厚さ30nmのn−AlAsを成膜(電流狭窄層)。
5.基板温度510℃で、厚さ15nmのノンドープAl0.10Ga0.90Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
6.基板温度510℃で、厚さ30nmのn−AlAsを成膜(電流狭窄層)。
7.基板温度510℃で、厚さ300nmのn−Al0.10Ga0.90As(1x1017cm-3)を成膜(クラッド層)。
8.基板温度40℃以下の室温で厚さ5.5ÅのAl層を成膜。
9.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
10.基板温度40℃以下の室温で厚さ2.3ÅのAl層を成膜。
11.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
8.基板温度40℃以下の室温で厚さ5.5ÅのAl層を成膜。
9.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
10.基板温度40℃以下の室温で厚さ2.3ÅのAl層を成膜。
11.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
12.試料をMBEチャンバー外に取り出した後、1mm角に劈開し、水蒸気アニールにより6.で作製したn−AlAs層を劈開面から0.2mm奥方向に酸化することでAlOx層に転換して電流狭窄層を設けた。
B.磁性金属電極の作製(図2、参照)
MBE法で作製した上記発光ダイオード構造上に下記の手段に従って多結晶鉄(Fe)層を別の電子線蒸着装置の真空チャンバー内で蒸着する。
MBE法で作製した上記発光ダイオード構造上に下記の手段に従って多結晶鉄(Fe)層を別の電子線蒸着装置の真空チャンバー内で蒸着する。
1.上記発光ダイオード上面の半分程度をアルミニウム製マスクで覆い、真空チャンバー内に導入する。
2.厚さ100nmのFeを成膜(強磁性電極A)。
3.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
4.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
5.蒸着後、真空チャンバーの外に取り出し、上記の手段で蒸着された部分をマスクで覆い、真空チャンバーに導入する。
6.厚さ30nmのFeを成膜(強磁性電極A)。
7.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
8.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
2.厚さ100nmのFeを成膜(強磁性電極A)。
3.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
4.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
5.蒸着後、真空チャンバーの外に取り出し、上記の手段で蒸着された部分をマスクで覆い、真空チャンバーに導入する。
6.厚さ30nmのFeを成膜(強磁性電極A)。
7.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
8.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
C.磁化特性と反平行着磁プロセス
厚さ100nmと30nmの鉄電極は形状が異なるため、磁化状態時に膜内の面内方向に誘起される反磁界の大きさが異なる。そのため、異なる保磁力(スイッチング磁場)を示す。図3(a)に、GaAs基板上に成膜した100nmと30nmの鉄電極の磁化の磁場依存性を示す。
厚さ100nmと30nmの鉄電極は形状が異なるため、磁化状態時に膜内の面内方向に誘起される反磁界の大きさが異なる。そのため、異なる保磁力(スイッチング磁場)を示す。図3(a)に、GaAs基板上に成膜した100nmと30nmの鉄電極の磁化の磁場依存性を示す。
両方の鉄電極を単一の発光ダイオード素子上に作製した試料では、各保磁力の間の磁場において一方のみが反転し、反平行に磁化が向いた状態が存在する。図3(b)に両方の鉄電極を単一の発光ダイオード素子上に作製した試料の磁化の磁場依存性を示す。
この電極を用いて下記の磁場の操作により反平行に磁化が向いた二つの強磁性電極が得られる。
1.試料の面内方向に+5kOeの磁場を印加し、双方の強磁性電極を一方向に磁化させる。
2.その後、−180Oeまで磁場を減少させ、一方の磁化のみを反転させる。
3.その後、磁場を取り去る。
この操作の後は、強磁性電極は反平行に磁化が向いた状態が保持される。
2.その後、−180Oeまで磁場を減少させ、一方の磁化のみを反転させる。
3.その後、磁場を取り去る。
この操作の後は、強磁性電極は反平行に磁化が向いた状態が保持される。
D.トンネル絶縁膜AlOxの評価
図9に、デバイス断面のAlOx層付近の透過型電子顕微鏡像を示す。非常に均一なAlOx層がFeとn型AlGaAs層の間に見られる。
図9に、デバイス断面のAlOx層付近の透過型電子顕微鏡像を示す。非常に均一なAlOx層がFeとn型AlGaAs層の間に見られる。
電子エネルギー損失分光法(Electron energy loss spectroscopy:EELS)によりAl原子の結合状態を調べた結果、AlOx層は十分酸化されているのに対し、Fe層には酸素が拡散していないことを確認した。
金属/AlOx/n−GaAs構造の電流―電圧特性を調べた結果、電気伝導はAlOx層のトンネル伝導が支配的であることが分かった。またAlOx層のバリアーの高さは1.42eVであった。
E.発光スペクトルと円偏光度
図1に、上記の手法により作製された二つの電極を持つスピン発光ダイオード及びレーザー、及び、磁化と発光の様子を模式的に示す。
図1に、上記の手法により作製された二つの電極を持つスピン発光ダイオード及びレーザー、及び、磁化と発光の様子を模式的に示す。
磁化の熱的な揺らぎや熱による発光表面での化学反応を抑えるために上記素子を5Kまで冷却した。その後、超電導マグネットを用いて上記B.の磁場操作を施すことにより反平行に電極の磁化を向かせた。
次に、発光ダイオードの円偏光度の測定を行った。図10に、デュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザーからの出力光の円偏光度を検出するために構成した機器配列を示す。
出力光を、光学遅延軸を水平面に対し0°になるように調整した光弾性変調器に通した後、水平面に対し偏向角45°に設定した直線偏光子を通して直線偏光とし、光学チョッパーで周期的に分断して分光器に通し、光電子増倍管で検出した。
光電子増倍管から生じた光電流は、電流/電圧増幅器(増幅率4x106V/A)により電圧信号に変換・増幅した後、二つのロックインアンプリファーに入力した。
光弾性変調器は、印加電圧を調整して、偏光角45°の直線偏光が入射した時に、右回り・左回りの円偏光が50kHzの周波数で交互に生じるように調整した。
一方のロックインアンプリファーAでは光学チョッパーの周期200Hzを参照信号として同期することによって、エレクトロルミネッセンス(EL)強度IELが得られる。EL強度は、右回り円偏光強度(I+)と左回り円偏光強度(I-)の和である。
IEL=I++I-
IEL=I++I-
もう一方のロックインアンプリファーBでは光弾性変調器の周期50kHzを参照信号として同期することによって、右回り円偏光と左回り円偏光の強度差ΔIが得られる。
ΔI=I+−I-
ΔI=I+−I-
図4に、100nm及び30nmの鉄電極に通電した場合の発光ダイオードからの出力光の発光スペクトルをそれぞれ示す。右回り円偏光と左回り円偏光で、強度に差異が生じている。
円偏光度Pは、得られたEL強度IEL円偏光強度差ΔIを用いて、下記の式によって定義される。
P=(I+−I-)/(I++I-)
P=(I+−I-)/(I++I-)
100nmの鉄電極に通電して発光した円偏光の偏光度は14.4%、30nmの鉄電極に通電して発光した円偏光の偏光度は6.8%であった。
F.切り替え実験の概要と結果
単一の発光ダブルヘテロ構造上に反平行に磁化が向いた強磁性電極をもつスピン発光ダイオードにおいて、各電極への通電を電気的に切り替えることによって、円偏光の極性を切り替える実験を行った。スピン発光ダイオードへの印加電圧は2.4Vである。
単一の発光ダブルヘテロ構造上に反平行に磁化が向いた強磁性電極をもつスピン発光ダイオードにおいて、各電極への通電を電気的に切り替えることによって、円偏光の極性を切り替える実験を行った。スピン発光ダイオードへの印加電圧は2.4Vである。
切り替え実験は、10秒間隔での切り替え(0.1Hz)を10周期行った後に、両方の電極に40秒間通電することで行った。図5に切り替え実験における円偏光度の時間的変化を示す。
通電する電極の切り替えに応じて、0秒から200秒までに、10周期で円偏光の極性が反転した。また、200秒から240秒までは、双方の円偏光発光が偏極度を打ち消しあい、直線偏光となっているため、円偏光度がほぼゼロを示した。また、別途、1秒間隔での切り替え(1Hz)も試行した。その結果、同様の急峻な極性の反転が見られた。
温度を変化させて、同様の切り替え実験を行ったところ、円偏光度の切り替えは、およそ、70K程度まで観測された。図6に、円偏光切り替え実験の温度依存性を示す。
(実施例2)
デュアル電極を有する面発光型スピン発光ダイオード及びレーザーを作製する。
A.発光ダイオード構造の成膜
電子線エピタキシー法(MBE法)を用い、Znドープp型GaAs基板上に、下記の手段に従ってダブルヘテロ構造を有する発光ダイオード構造及び酸化アルミニウム層を成膜した。
デュアル電極を有する面発光型スピン発光ダイオード及びレーザーを作製する。
A.発光ダイオード構造の成膜
電子線エピタキシー法(MBE法)を用い、Znドープp型GaAs基板上に、下記の手段に従ってダブルヘテロ構造を有する発光ダイオード構造及び酸化アルミニウム層を成膜した。
1.基板温度510℃で、バッファ層として厚さ500nmのBeドープp−GaAs(1x1018/cm3)を成膜。
2.基板温度510℃で、厚さ200nmのBeドープp−Al0.20Ga0.80As(1x1018cm-3)を成膜。
3.基板温度510℃で、厚さ20nmのノンドープAl0.20Ga0.80Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
4.基板温度510℃で、厚さ30nmのノンドープIn0.04Ga0.96As層を成膜(発光層)。
5.基板温度510℃で、厚さ20nmのノンドープAl0.10Ga0.90Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
6.基板温度510℃で、厚さ30nmのn−AlAsを成膜(電流狭窄層)。
2.基板温度510℃で、厚さ200nmのBeドープp−Al0.20Ga0.80As(1x1018cm-3)を成膜。
3.基板温度510℃で、厚さ20nmのノンドープAl0.20Ga0.80Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
4.基板温度510℃で、厚さ30nmのノンドープIn0.04Ga0.96As層を成膜(発光層)。
5.基板温度510℃で、厚さ20nmのノンドープAl0.10Ga0.90Asを成膜(ドーパントの拡散防止層)。
6.基板温度510℃で、厚さ30nmのn−AlAsを成膜(電流狭窄層)。
7.基板温度510℃で、厚さ300nmのn−Al0.10Ga0.90As(1x1017cm-3)を成膜(クラッド層)。
8.基板温度40℃以下の室温で厚さ5.5ÅのAl層を成膜。
9.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
10.基板温度40℃以下の室温で厚さ2.3ÅのAl層を成膜。
11.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
8.基板温度40℃以下の室温で厚さ5.5ÅのAl層を成膜。
9.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
10.基板温度40℃以下の室温で厚さ2.3ÅのAl層を成膜。
11.基板温度40℃以下の室温で10時間以上大気暴露し酸化。
12.試料をMBEチャンバー外に取り出した後、1mm角に劈開し、水蒸気アニールにより、6.で作製したn−AlAs層を劈開面から0.2mm奥方向に酸化することでAlOx層に転換して、電流狭窄層を設けた。
B.磁性体電極の作製
MBE法で作製した上記発光ダイオード素子構造上に下記の手段に従って多結晶ガドリウム鉄(GdFe)層を別のスパッタ蒸着装置の真空チャンバー内で蒸着した。
MBE法で作製した上記発光ダイオード素子構造上に下記の手段に従って多結晶ガドリウム鉄(GdFe)層を別のスパッタ蒸着装置の真空チャンバー内で蒸着した。
1.発光を取り出すために金属が成膜されない領域を備えたアルミニウム製マスクで素子表面を覆い、真空チャンバー内に導入する。
2.厚さ20nmのGd24.4Fe75.6を成膜(強磁性電極A)。
3.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
4.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
2.厚さ20nmのGd24.4Fe75.6を成膜(強磁性電極A)。
3.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
4.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
5.蒸着後、真空チャンバーの外に取り出し、上記の手段で蒸着された部分をマスクで覆い、真空チャンバーに導入する。
6.厚さ5nmのGd24.4Fe75.6を成膜(強磁性電極B)。
7.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
8.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
6.厚さ5nmのGd24.4Fe75.6を成膜(強磁性電極B)。
7.厚さ20nmのTiを成膜(Feの酸化保護膜)。
8.厚さ50nmのAuを成膜(電極材料)。
電極の形状は発光が取り出しやすい形状が望ましいため、櫛型構造や円環構造が考えられる。図8に、強磁性電極形状の例を示す。
C.磁化特性と反平行着磁プロセス
ガドリウム鉄電極は面直方向に磁化容易軸を持つ材料である。この材料の保磁力は膜厚に依存して増加することが知られ、厚さ20nmと5nmで異なる保磁力(スイッチング磁場)を示す。
ガドリウム鉄電極は面直方向に磁化容易軸を持つ材料である。この材料の保磁力は膜厚に依存して増加することが知られ、厚さ20nmと5nmで異なる保磁力(スイッチング磁場)を示す。
両方のガドリウム−鉄電極を単一の発光ダイオード素子上に作製した試料では、各保磁力の間の磁場において一方のみが反転し、反平行に磁化が向いた状態が存在する。この電極を用いて下記の磁場の操作により反平行に磁化が向いた二つの強磁性電極が得られる。
1.試料の面内方向に磁化が飽和するのに十分な大きさの磁場を印加し、双方の強磁性電極を一方向に磁化させる。
2.その後、両電極の保磁力の間の相当するまで磁場を減少させ、一方の磁化のみを反転させる。
3.その後、磁場を取り去る。
この操作の後は、強磁性電極は反平行に磁化が向いた状態が保持される。
2.その後、両電極の保磁力の間の相当するまで磁場を減少させ、一方の磁化のみを反転させる。
3.その後、磁場を取り去る。
この操作の後は、強磁性電極は反平行に磁化が向いた状態が保持される。
D.切り替え実験の概要と結果
単一の発光ダブルヘテロ構造上に反平行に磁化が向いた強磁性電極をもつスピン発光ダイオードにおいて、各電極への通電を電気的に切り替えることによって発光する円偏光の極性が切り替えることができる。
単一の発光ダブルヘテロ構造上に反平行に磁化が向いた強磁性電極をもつスピン発光ダイオードにおいて、各電極への通電を電気的に切り替えることによって発光する円偏光の極性が切り替えることができる。
前述したように、本発明によれば、外部磁場又は外部光学素子を併用することなしに、円偏光の符号の切替えを高速(周波数:GHz級以上)で行うことができ、かつ、円偏光と直線偏光(楕円偏光)を切り替えることができる。
したがって、本発明によれば、円偏光切替え機能を備えた微小光源(10ミクロン角程度)を実現でき、かつ、円偏光切替え機能を備えたストライプ構造型半導体レーザー又は垂直共振器面発光レーザーを実現できる。よって、本発明は、光学機器産業において利用可能性が高いものである。
1 基板
2 スピン発光ダイオード及びレーザー
2a バリヤー層
3a 磁性金属電極
3b 磁性金属電極
4a 左回り偏光(σ-)
4b 右回り偏光(σ+)
5 磁化の方向
2 スピン発光ダイオード及びレーザー
2a バリヤー層
3a 磁性金属電極
3b 磁性金属電極
4a 左回り偏光(σ-)
4b 右回り偏光(σ+)
5 磁化の方向
Claims (8)
- 磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極が、発光ダブルヘテロ構造を有するスピン発光ダイオードのバリヤー層の上面に形成されていることを特徴とするデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
- 前記一対の磁性金属電極が強磁性電極であることを特徴とする請求項1に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
- 前記強磁性電極が、Fe電極又はGd−Fe電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
- 前記発光ダブルヘテロ構造が端面発光型構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
- 前記磁化の向きが互いに反平行な一対の磁性金属電極が、互いに櫛状に入れ込んだ構造の電極であることを特徴とする請求項4に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
- 前記発光ダブルヘテロ構造が面発光型構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のデュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
- 前記一対の磁性金属電極に交互に電流を流し、円偏光の偏光方向を高速で切り替えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載デュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
- 前記一対の磁性金属電極に同時に電流を流し、直線偏光又は楕円偏光を発光させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載デュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー。
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Cited By (2)
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---|---|---|---|---|
JP2020130816A (ja) * | 2019-02-22 | 2020-08-31 | 国立大学法人東京工業大学 | 内視鏡先端装置 |
JP2020136576A (ja) * | 2019-02-22 | 2020-08-31 | 国立大学法人東京工業大学 | 円偏光発光ダイオード |
Citations (2)
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WO2009107627A1 (ja) * | 2008-02-27 | 2009-09-03 | アルプス電気株式会社 | 円偏光発光素子 |
-
2012
- 2012-12-18 JP JP2012276273A patent/JP2014120692A/ja active Pending
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