一般的に、U相、V相、W相で互いに電気角で120°異なった3相の正弦波状の交流電流がコイルに印加されて、電機子が駆動する。このような電機子では、駆動電流が印加されていない状態で可動方向に移動させた場合に、磁極歯が永久磁石に吸引されるために応力脈動(ディテント力)が生じる。このディテント力は、回転型モータでのコギング力に相当する。
このディテント力は永久磁石の極性に関係なく発生するため、S極、N極に磁極歯が接近する際に磁極歯は永久磁石に吸引されることになり、界磁周期の間に2回のディテント力が生じる。つまり、界磁周期に対してディテント力は2次の高調波成分が基本となり、波形のひずみにより4次、6次、8次、・・・の高調波成分が発生する。
ところで、リニアモータの場合には有限長であるため、回転型モータとは異なり、両端部が存在する。このため、両端部の磁極歯では、中央部側の磁極歯に比べて、界磁部の永久磁石との間に発生する漏れ磁束が多くなる。よって、両端部の磁極歯に発生する吸引力が顕著になって、2次、4次のディテント力が大きくなる。このような両端部の磁極歯におけるディテント力の増加は、「端部効果」と呼ばれている。
ディテント力は、リニアモータの駆動時にも重畳されるので、加工対象物の静粛な移動の妨げとなり、高速移動の際に振動が生じたり、精密な位置決めの際に精度が悪化したりする要因となる。
「端部効果」によるディテント力を低減するために、両端部の磁極歯の外側に補助磁極歯を配置し、この補助磁極歯にて発生するディテント力の位相が本体の磁極歯にて発生するディテント力の位相から電気角で180°異なるようにして、ディテント力の相殺を図る対策が取られている。しかしながら、この対策では、駆動には関与しない補助磁極歯を設けるため、電機子が大型化するという問題点がある。
また、別の対策として、永久磁石をスキュー配置(移動方向に垂直な方向から角度をつけて永久磁石を配置)させて、そのスキュー角度を大きくすることがなされている。しかしながら、この対策では、スキュー角度の増大によって、駆動効率が低下するという問題点がある。
更に、別の対策として、ディテント力が原理的に発生しないコアレスリニアモータの利用が考えられる。しかしながら、コアレスリニアモータは磁石体積当たりの推力がコア付きリニアモータに比べて小さいため、所望の推力を得るためには、高価な希土類磁石を多量に使用する必要があり、装置の高コスト化が避けられないという問題点がある。
特許文献1のリニアモータでは、電機子の移動方向の両端部の磁極歯の幅を細くして、「端部効果」による両端部の磁極歯でのディテント力の増加を抑制するようにしている。しかしながら、2次、4次のディテント力を小さくする対策ではないため、確実にディテント力を低減できないという問題点がある。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、小型及び低コストの構成であっても、また、駆動効率を低下させることなく、ディテント力を低減することができるリニアモータを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、2次、4次のディテント力を確実に低減することができるリニアモータを提供することにある。
本発明の更に他の目的は、2次、4次のディテント力の低減を図るための調整が容易に行えるリニアモータを提供することにある。
本発明に係るリニアモータは、磁極が交互に形成されるように複数の永久磁石を直線状に配列してある界磁部と、該界磁部に先端部が対向するように直線状に配列してある複数の磁極歯、及び該磁極歯に巻回されたコイルを有する電機子とを備えており、前記コイルへの通電により前記電機子が前記磁極歯の配列方向に前記界磁部に対して相対的に直線移動するn極n−1スロット構成(n−1は3の倍数)またはn極n+1スロット構成(n+1は3の倍数)のリニアモータにおいて、前記電機子の移動方向中央部側の磁極歯の先端部の幅が、移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅より広く、前記移動方向中央部側の磁極歯は先端部の幅が基端部の幅より広いことを特徴とする。
本発明のリニアモータにあっては、移動方向中央部側(移動方向中央部及び中間部)の磁極歯の先端部の幅が移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅より広くなっている。「端部効果」で増加した両端部の磁極歯での磁束が、中央部側の磁極歯での磁束にて平衡されて、全体としてディテント力が低減する。
また、移動方向中央部側の磁極歯ではその先端部の幅が基端部の幅より広くなっている。中央部側の磁極歯の先端部の幅を、両端部の磁極歯の先端部の幅より適長だけ広く調整する場合に、中央部側の磁極歯の広くなっている先端部だけを研削していけば良く、基端部を含めて全体を研削する必要がないため、中央部側の磁極歯の先端部の幅の調整を容易に行える。
本発明に係るリニアモータは、前記移動方向両端部の磁極歯は、先端部から基端部に至るまで幅が同一であり、前記移動方向両端部の磁極歯の幅が、前記移動方向中央部側の磁極歯の基端部の幅に等しいことを特徴とする。
本発明のリニアモータにあっては、移動方向両端部の磁極歯の基端部の幅と移動方向中央部側の磁極歯の基端部の幅とが等しくなっている。よって、先端部の幅が異なっていても基端部の幅は均一であるので、全ての磁極歯についてコイルを巻くボビンを共通にすることができる。
本発明に係るリニアモータは、磁極が交互に形成されるように複数の永久磁石を直線状に配列してある界磁部と、該界磁部に先端部が対向するように直線状に配列してある複数の磁極歯、及び該磁極歯に巻回されたコイルを有する電機子とを備えており、前記コイルへの通電により前記電機子が前記磁極歯の配列方向に前記界磁部に対して相対的に直線移動するn極n−1スロット構成(n−1は3の倍数)またはn極n+1スロット構成(n+1は3の倍数)のリニアモータにおいて、前記電機子の移動方向中央部の磁極歯の先端部の幅が、移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅より広く、前記移動方向中央部と前記移動方向両端部との間の移動方向中間部の磁極歯の先端部の幅は、前記移動方向中央部の磁極歯の先端部の幅より狭くて前記移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅より広く、前記移動方向中央部の磁極歯及び前記移動方向中間部の磁極歯は先端部の幅が基端部の幅より広いことを特徴とする。
本発明のリニアモータにあっては、移動方向中央部の磁極歯の先端部の幅が最も広く、移動方向中間部の磁極歯の先端部の幅が次に広く、移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅が最も狭くなっている。n極(n−1)スロット構成またはn極(n+1)スロット構成のリニアモータでは、中央部の磁極歯は、両端部の磁極歯に比べて、電気角で90°程度ずれた位置にあるため、2次のディテント力では180°ずれることになる。このため、中央部の磁極歯により発生する2次のディテント力は、両端部の磁極歯により発生する2次のディテント力と逆位相になるので、中央部の磁極歯の先端部の幅を両端部の磁極歯の先端部の幅より広く調整することにより、「端部効果」により両端部の磁極歯で増加した2次のディテント力を相殺することができる。また、n極(n−1)スロット構成またはn極(n+1)スロット構成のリニアモータでは、中間部の磁極歯は、両端部の磁極歯に比べて、電気角で45°程度(30°〜60°)ずれた位置にあるため、4次のディテント力では180°ずれることになる。このため、中間部の磁極歯により発生する4次のディテント力は、両端部の磁極歯により発生する4次のディテント力と逆位相になるので、中間部の磁極歯の先端部の幅を両端部の磁極歯の先端部の幅より広く調整することにより、「端部効果」により両端部の磁極歯で増加した4次のディテント力を相殺することができる。以上のことから、本発明のリニアモータでは、2次、4次のディテント力の低減を図れる。
本発明に係るリニアモータは、前記移動方向両端部の磁極歯は、先端部から基端部に至るまで幅が同一であり、前記移動方向両端部の磁極歯の幅が、前記移動方向中央部の磁極歯の基端部の幅及び前記移動方向中間部の磁極歯の基端部の幅に等しいことを特徴とする。
本発明のリニアモータにあっては、移動方向両端部の磁極歯の基端部の幅と移動方向中央部の磁極歯の基端部の幅と移動方向中間部の磁極歯の基端部の幅とが等しくなっている。よって、先端部の幅が異なっていても基端部の幅は均一であるので、全ての磁極歯についてコイルを巻くボビンを共通にすることができる。
本発明に係るリニアモータは、前記移動方向中央部の磁極歯の先端部の幅は前記移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅より0.05τ〜0.2τ(但し、τ:前記界磁部の界磁周期)だけ広く、前記移動方向中間部の磁極歯の先端部の幅は前記移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅より0.03τ〜0.15τだけ広いことを特徴とする。
本発明のリニアモータにあっては、中央部の磁極歯の先端部の幅及び中間部の磁極歯の先端部の幅がそれぞれ、0.05τ〜0.2τ及び0.03τ〜0.15τ(τ:界磁周期)だけ両端部の磁極歯の先端部の幅より広い。よって、両端部の磁極歯で増加した2次、4次のディテント力を効率良く相殺することができ、全体としての2次、4次のディテント力がそれぞれ低減する。
本発明に係るリニアモータは、前記複数の永久磁石は直方体状をなし、移動方向と直交する方向に対して長辺を傾けて直線状に配列してあることを特徴とする。
本発明のリニアモータにあっては、界磁部の複数の永久磁石を、移動方向と直交する方向から傾けて配列している。このように、永久磁石をスキュー配置して、永久磁石にスキュー角度を付加することにより、6次以上のディテント力を低減する。なお、本発明では2次、4次のディテント力ではなく、6次以上のディテント力のみを低減するために永久磁石をスキューさせるので、そのスキュー角度は小さく(数°程度)、駆動効率が低下する問題は生じない。
特許文献1に開示されたリニアモータは、両端部の磁極歯の幅を細くして両端部の磁極歯での余分な磁束を減少させることを目的としている。これに対して、本発明のリニアモータでは、中央部側の磁極歯の先端部の幅を両端部の磁極歯の先端部の幅より広くすることにより、中央部側の磁極歯の先端部の幅を調整して、「端部効果」により増加した両端部の磁極歯でのディテント力を中央部側の磁極歯でのディテント力にて相殺し、全体としてディテント力の低減を図ることを目的としている。従って、特許文献1と本発明とでは、ディテント力低減を実現するための技術思想が全く異なっている。
また、特許文献1のリニアモータでは、両端部の磁極歯を全長にわたって他の磁極歯より細くしているに過ぎないため、2次、4次などの高調波成分を含むディテント力を精度良く低減することができない。また、磁極歯の幅の微妙な調整を簡単に行えない。本発明のリニアモータでは、中央部側の磁極歯(中央部の磁極歯、中間部の磁極歯)の先端部の幅を調整して、ディテント力の2次、4次の高調波成分を独立的に相殺して、全体としてバランスを取って、ディテント力を低減する。この幅の調整は、広くなっている先端部のみを削るだけで良いので、簡単な手法でしかも精度良く行える。
本発明のリニアモータでは、電機子の移動方向中央部側の磁極歯の先端部の幅を、電機子の移動方向両端部の磁極歯の先端部の幅より広くなるようにしたので、「端部効果」にて増加した両端部の磁極歯での磁束を、中央部側の磁極歯での磁束にて平衡できて、ディテント力を低減することができる。本発明では、補助磁極歯を設ける必要がないため、構成が大型化することはなく、推力体格比が減少することもない。また、本発明では、付与するスキュー角を大きくする必要がないため、駆動効率の低下のおそれがない。更に、本発明では、コアレス構成を採用する必要がないため、高コスト化を招かない。
また、中央部側の磁極歯ではその先端部の幅を基端部の幅より広くなるようにしたので、中央部側の磁極歯の先端部の幅を調整する際に、先端部だけを研削していけば良いため、その調整を容易に行うことができる。
本発明のリニアモータでは、両端部の磁極歯の基端部の幅と中央部側の磁極歯の基端部の幅とを等しくしているので、全ての磁極歯について共通のコイル構成を使用することができ、構成の簡略化を図れる。
本発明のリニアモータでは、中央部の磁極歯の先端部の幅が最も広く、両端部の磁極歯の先端部の幅が最も狭く、中間部の磁極歯の幅がそれらの間であるようにしたので、2次のディテント力の相殺、4次のディテント力の相殺を各別に行うことができ、全体としての2次のディテント力の低減と4次のディテント力の低減とをそれぞれ独立的に行えるため、発生する2次のディテント力、4次のディテント力をほぼゼロにすることが可能となる。
本発明のリニアモータでは、中央部の磁極歯の先端部の幅及び中間部の磁極歯の先端部の幅をそれぞれ、0.05τ〜0.2τ及び0.03τ〜0.15τ(τ:界磁周期)だけ両端部の磁極歯の先端部の幅より広くしているので、2次、4次のディテント力の効率良い相殺を行うことができ、ほぼゼロの2次のディテント力及び4次のディテント力を達成できる。
本発明のリニアモータでは、界磁部の複数の永久磁石をスキュー配置するようにしたので、6次以上のディテント力を低減することができる。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明に係るリニアモータに使用する固定子としての界磁部1の構成を示す平面図である。界磁部1は、軟鋼板からなる薄板状のヨーク11と、ヨーク11の上面に電機子(可動子)の移動方向に一列に配設された複数の永久磁石12とを備えている。
各永久磁石12は、最大エネルギー積と保磁力が大きいネオジム磁石などの希土類磁石からなり、直方体状をなし、その厚さ方向に磁化されている。これらの複数の永久磁石12が、隣り合う磁極が互いに異極となるようにヨーク11上に接着して配列されている。つまり、N極の永久磁石12とS極の永久磁石12とが交互に等間隔に列状に配設されている。隣り合うN極の永久磁石12とS極の永久磁石12との中心間距離(磁極ピッチ)が磁極周期τである。また、各永久磁石12は、移動方向と直交する線Lに対して所定角度θ(スキュー角θ)だけ傾いている。
図2は、本発明に係るリニアモータに使用する可動子としての電機子2の構成を示す断面図である。電機子2は、珪素鋼などの磁性材料からなるコア21と、コア21に巻回されたコイル22とを備えている。コア21は、例えば所定の形状に切り出された複数枚の珪素鋼板を積層して構成される。
コア21は、矩形板状をなすヨーク23と、ヨーク23から直角な方向に突出する6個の磁極歯24a−24fとを有する。磁極歯24a−24fはヨーク23から同じ方向に等間隔に突出しており、隣り合う磁極歯間のピッチは全て等しい。
移動方向の両端部に位置する磁極歯24a、24fは、その基端部(ヨーク23側端部)から先端部に至って幅W1が均一である。残りの磁極歯24b、24c、24d、24eでは、その先端部の幅が、基端部も含めた他の部分の幅よりも広くなっている。両端部の磁極歯24a、24fに隣り合う磁極歯24b、24e(中間部の磁極歯)では、先端部の幅がW2aであって、他の部分の幅がW2bであり、W2a>W2bの関係を満たす。また、中央部の磁極歯24c、24dでは、先端部の幅がW3aであって、他の部分の幅がW3bであり、W3a>W3bの関係を満たす。
中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅W3aは、これらより端部側にある中間部の磁極歯24b、24eの先端部の幅W2aよりも広い。また、磁極歯24a、24fの均一な幅W1と、磁極歯24b、24eの先端部以外での幅W2bと、磁極歯24c、24dの先端部以外での幅W3bとは等しい。磁極歯における各種の幅の大小関係を示すと、下記(1)のようになる。
W3a>W2a>W1=W2b=W3b ・・・(1)
具体的には、界磁部1の界磁周期τを用いて、中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅W3aは両端部の磁極歯24a、24fの先端部の幅W1より0.05τ〜0.2τだけ広く、中間部の磁極歯24b、24eの先端部の幅W2aは両端部の磁極歯24a、24fの先端部の幅W1より0.03τ〜0.15τだけ広くなっている。
これらの磁極歯24a−24fそれぞれの先端部を除く部分には、コイル22が巻回されている。各磁極歯24a−24fに巻回されるコイル22は、線の太さ及び巻き数は全て等しい。ここで、コイル22が巻かれる部分での各磁極歯24a−24fの幅は等しくなっているので(W1=W2b=W3b)、全ての磁極歯24a−24fについてコイル22を巻くボビンを共通にすることができる。よって、簡略な構成となり、低コスト化も図れる。隣り合う2つの磁極歯24a、24b、2つの磁極歯24c、24d、2つの磁極歯24e、24fを、それぞれU相、V相、W相とする。
上記のような構成を有する界磁部1及び電機子2を組み合わせて、7極6スロット構成のリニアモータが構成される。図3は、本発明に係るリニアモータ3の構成を示す斜視図である。
界磁部1には、所定の隙間を介して、各磁極歯の先端面が界磁部1(永久磁石12)に向かい合うようにして、電機子2が対向する。界磁部1の7個の永久磁石12の全長と、6個の磁極歯を有する電機子2の全長(一端の仮想スロット部も含む)とが等しくなっており、図3に示すリニアモータ3は7極6スロット構成である。
コイル22に三相交流を通電して電機子2に磁界を発生させると、この磁界にて界磁部1の永久磁石12に電機子2が順次磁気吸引反発されることにより、可動子としての電機子2が固定子としての界磁部1に対して直線運動を行う。
以下、本発明のリニアモータにおけるディテント力の低減の原理について説明する。
リニアモータにあっては、両端部の磁極歯のみが隣りの永久磁石の磁束を更に捕捉するため、両端部の磁極歯での磁束密度が他の中央部側の磁極歯での磁束密度より高くなるという、前述したような「端部効果」が生じる。図4は、この「端部効果」を説明するための説明図である。
6個の磁極歯44a−44fが設けられている場合、これらの磁極歯44a−44fの中で両端部に位置する磁極歯44a、44fでは、他の磁極歯44b−44eと比べて界磁部1の永久磁石12との間に発生する漏れ磁束が多くなる(図4の矢印参照)。この結果、両端部の磁極歯44a、44fで発生する吸引力が大きくなって、2次、4次のディテント力が大きくなる。この際、界磁部1の1周期中にN極の永久磁石12、S極の永久磁石12にて2回吸引されるため、2次の高調波成分が主となる。
本発明では、磁極歯の先端部の幅を調整することにより、上記のような「端部効果」に起因するディテント力を低減している。図5は、本発明によるディテント力の低減を説明するための説明図である。
移動方向中央部側の磁極歯24b−24eの先端部の幅(W2a、W3a)を、移動方向両端部の磁極歯24a、24fの先端部の幅(W1)より広くしている。具体的には、界磁部1の界磁周期τを用いて、中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅W3aを両端部の磁極歯24a、24fの先端部の幅W1より0.05τ〜0.2τだけ広く、中間部の磁極歯24b、24eの先端部の幅W2aを両端部の磁極歯24a、24fの先端部の幅W1より0.03τ〜0.15τだけ広くしている。このように中央部側の磁極歯の先端部を広く設計することにより、「端部効果」によって増加した両端部の磁極歯での磁束に中央部側の磁極歯での磁束を平衡させて、ディテント力の低減を図っている。
7極6スロット構成のリニアモータにあっては、中央部の磁極歯24c、24d付近が、両端部の磁極歯24a、24fと比較して電気角で90°程度ずれた位置にある。この電気角での90°のずれは、ディテント力の2次の高調波成分では180°分に相当する。よって、中央部の磁極歯24c、24dでは、両端部の磁極歯24a、24fと逆位相のディテント力が発生する。そこで、中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅を調整して、即ちその先端部の幅W3aを両端部の磁極歯24a、24fの先端部の幅W1より0.05τ〜0.2τだけ広くして、2次の高調波成分の相殺(打ち消し)を図っている。
また、両端部の磁極歯24a、24fに隣り合う磁極歯24b、24e付近では、界磁周期に対して電気角で約45°(30°〜60°)ずれるため、このずれはディテント力の4次の高調波成分では180°分に相当する。そこで、この磁極歯24b、24eの先端部の幅を調整することにより、即ちその先端部の幅W2aを両端部の磁極歯24a、24fの先端部の幅W1より0.03τ〜0.15τだけ広くすることにより、4次の高調波成分の相殺(打ち消し)を図っている。
なお、ディテント力の6次以上の高調波成分については、永久磁石12をスキュー配置(移動方向に垂直な方向から角度をつけて永久磁石12の長辺を配置)することにより低減する。この場合、2次、4次の高調波成分は、磁極歯の先端部の幅調整によって低減できているので、6次以上の高調波成分だけをスキュー配置により低減すれば良いので、そのスキュー角度θは0°〜4°と小さくて済む。よって、スキュー配置による駆動効率の低下はほとんど生じない。
以下、ディテント力の2次、4次の高調波成分を低減するために、磁極歯の先端部の幅を調整する処理について説明する。この調整処理では、中央部側の磁極歯の先端部の幅を予め余分めに広くしておき、その先端部を研削していきながら、最適な幅が得られるようにする。
図6は、この磁極歯の幅を調整する処理手順を示すフローチャートである。まず、図7に示すような電機子2のコア21を構成する珪素鋼板の積層体を準備する(ステップS1)。図7は、磁極歯の幅を調整する際の最初の幅の関係を示すコア21の平面図である。図7に示すように、両端部の磁極歯24a、24fの幅は全体にわたってwmmであり、残りの磁極歯24b、24c、24d、24eでは、先端部2.0mmの部分の幅がw+0.3τmm(τ:界磁周期)であって、残りの部分の幅はwmmである。
準備したコア21を、界磁部1(固定子)に所定の隙間をあけて対向させ、直線状に摺動させて、ディテント力の2次、4次の高調波成分を測定する(ステップS2)。磁極歯24b、24c、24d、24eの先端部を0.01τmmだけ研削して、その幅を狭くする(ステップS3)。そして、再び、コア21を界磁部1(固定子)に所定の隙間をあけて対向させ、直線状に摺動させて、ディテント力の2次、4次の高調波成分を測定する(ステップS4)。
ディテント力の2次の高調波成分が減少したか否かを判断する(ステップS5)。減少した場合には(S5:YES)、ステップS3に戻って、ステップS3〜S5の処理を繰り返す。
ディテント力の2次の高調波成分が減少していない場合には(S5:NO)、2次の高調波成分に対する調整は完了したので、中間部の磁極歯24b、24eの先端部のみを0.01τmmだけ研削して、その幅を狭くする(ステップS6)。そして、コア21を界磁部1(固定子)に所定の隙間をあけて対向させ、直線状に摺動させて、ディテント力の4次の高調波成分を測定する(ステップS7)。
ディテント力の4次の高調波成分が減少したか否かを判断する(ステップS8)。減少した場合には(S8:YES)、ステップS6に戻って、ステップS6〜S8の処理を繰り返す。
ディテント力の4次の高調波成分が減少していない場合には(S8:NO)、4次の高調波成分に対する調整も完了して、磁極歯24b、24c、24d、24eの先端部の幅が最適な値になったので、調整処理を終了する。
本発明では、上記ステップS3−S5にてディテント力の2次の高調波成分を低減するための最適な幅に設定でき、上記ステップS6−S8にてディテント力の4次の高調波成分を低減するための最適な幅に設定できる。2次の高調波成分への対策を施した後に、4次の高調波成分への対策を施すので、2次、4次の高調波成分を何れも確実に低減することができる。また、磁極歯の先端部のみを研削するだけで良いので、調整処理を簡単に行うことができる。
なお、上述した例では、実際に作製したコアを用いて調整を行ったが、これとは異なり、磁界解析を用いた高調波成分の計算結果に基づいて磁極歯の幅の調整を行うようにしても良い。
以下、本発明者が作製したリニアモータの具体的な構成と、作製したリニアモータの特性とについて説明する。
(第1実施例)
図8及び図9は、本発明のリニアモータの第1実施例の上面図及び断面図である。複数の永久磁石12を磁極を交互に変えながらヨーク11上に一列状に配置してなる界磁部1と、ヨーク23から6個の磁極歯24a−24fを突出させて各磁極歯24a−24fにコイル22が巻回されている電機子2とを、所定の距離だけて離隔させて対向させている。このリニアモータは、7極6スロット構成である。
長さ159mm、幅80mm、厚さ8.0mmの平板形状に軟鉄鋼板をワイアーカットで切り出して、界磁部1のヨーク11とした。このヨーク11の表面に、寸法が長さ72mm、幅10mm、厚さ5.0mmで厚さ方向に磁化された複数の永久磁石12を、表面が互いに異極となるように、スキュー角3°を付与して、ピッチ(界磁周期τ)10.8mmにてエポキシ樹脂系接着剤で接着した。
厚さ0.5mmの珪素鋼板から、図10に示すような外形69mm×33mmの所定形状をなす多数のコア素材をワイアーカットで切り出した。切り出した144枚のコア素材を、熱硬化性樹脂を含浸させながら積層して、電機子2のコア21を作製した。本例では、両端部の磁極歯24a、24fの幅は全長にわたって均一なW1=6.0mmであり、これらより中央部側の中間部の磁極歯24b、24eの幅は先端部でW2a=7.0mmであって先端部以外でW2b=6.0mmであり、中央部の磁極歯24c、24dの幅は先端部でW3a=7.5mmであって先端部以外でW3b=6.0mmである。これらの6個の磁極歯24a−24fは等間隔であり、隣り合う磁極歯間のピッチは12.6mmである。電機子2のコア21の体格は、高さ69mm×幅72mm×長さ33mmである。
直径0.6mmのポリウレタン被覆銅線を磁極歯24a−24fの幅6.0mmの部分それぞれに100回巻きつけて電機子2のコイル22とした。コイル形状は、幅12.6mm×高さ23mm×長さ78.6mmである。これらの6個の磁極歯24a−24fに関して、隣り合う2個の磁極歯同士がペアとなるよう互いの磁化が逆向きとなるように直列に接続した。2個ずつの磁極歯のペアを、順にU相(磁極歯24a、24b)、V相(磁極歯24c、24d)、W相(磁極歯24e、24f)とした。V相のみ通電方向が他と逆向きになるようにスター結線し、V相はU相−120°、W相はU相+120°となるようにモータドライバに接続した。
そして、界磁部1(固定子)と電機子2(可動子)とを、隙間0.5mmを維持して対向させ、電機子2がヨーク11の長手方向に移動できるテストベンチに固定して、特性(ディテント力及び推力)を測定した。
(第2実施例)
中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅を7.25mm(W3a=7.25mm)とした以外は、上記第1実施例と同様の構成をなすリニアモータを作製した。
(第3実施例)
中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅を7.75mm(W3a=7.75mm)とした以外は、上記第1実施例と同様の構成をなすリニアモータを作製した。
(従来例)
各磁極歯44a−44fにあって幅が全域にわたって一定であって、6個全ての磁極歯44a−44fの幅が同一の6.0mmである電機子を用いて、リニアモータを作製した。なお、この従来例では、上述の第1実施例と比べて磁極歯の先端部の幅が異なっているだけであり、界磁部、コイルなどの他の構成については第1実施例と同様である。
そして、上記のような3種(第2実施例、第3実施例、従来例)のリニアモータについても、第1実施例と同様にテストベンチに固定して、特性(ディテント力及び推力)を測定した。
図11は、上記第1実施例における磁極歯の先端部の幅及びディテント力特性の測定結果を示しており、図11Aは6個の各磁極歯24a−24fの先端部の幅を示し、図11Bは電気角に対する可動方向応力の変化を示し、図11Cは各高調波次数におけるディテント力振幅を示している。ここで可動方向応力は、U相、V相、W相の合成された出力であり、以下同様である。
また、図12は、上記第2実施例における磁極歯の先端部の幅及びディテント力特性の測定結果を示しており、図12Aは6個の各磁極歯24a−24fの先端部の幅を示し、図12Bは電気角に対する可動方向応力の変化を示し、図12Cは各高調波次数におけるディテント力振幅を示している。
また、図13は、上記第3実施例における磁極歯の先端部の幅及びディテント力特性の測定結果を示しており、図13Aは6個の各磁極歯24a−24fの先端部の幅を示し、図13Bは電気角に対する可動方向応力の変化を示し、図13Cは各高調波次数におけるディテント力振幅を示している。
また、図14は、上記従来例における磁極歯の先端部の幅及びディテント力特性の測定結果を示しており、図14Aは6個の各磁極歯44a−44fの先端部の幅を示し、図14Bは電気角に対する可動方向応力の変化を示し、図14Cは各高調波次数におけるディテント力振幅を示している。
全ての磁極歯の先端部の幅を均一にした従来例では、30N程度のディテント力が発生している(図14B参照)。これに対して、磁極歯の先端部の幅を異ならせた第1実施例、第2実施例、第3実施例では、ディテント力が10N以下に低減されている(図11B、図12B、図13B参照)。特に、第1実施例にあっては、1N程度までディテント力を低減できており(図11B参照)、従来例と比べてディテント力が1/30以下である滑らかな動きを実現できている。
図11B、C、図12B、C、図13B、Cの結果を比較することにより、図11Aに示すように各磁極歯の先端部の幅を最適化した第1実施例に対して、中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅を狭くした第2実施例及びその幅を広くした第3実施例では、ディテント力が大きくなり、特に、2次の高調波成分が増加していることが分かる。また、幅を狭くした第2実施例と幅を広くした第3実施例では、ディテント力波形の位相が逆転していることが分かる。中央部の磁極歯24c、24dの先端部の幅を最適に調整することにより、2次の高調波成分をほぼ零まで低減することが可能である。
図15は、上記第1実施例における推力特性の測定結果を示しており、図15Aは駆動起磁力(=駆動電流×コイルの巻き数)に対する推力及び推力起磁力比を示し、図15Bは電気角に対する推力の変化を示している。
また、図16は、上記従来例における推力特性の測定結果を示しており、図16Aは駆動起磁力に対する推力及び推力起磁力比を示し、図16Bは電気角に対する推力の変化を示している。
推力特性に関して、第1実施例では、駆動起磁力に対する推力の直線性、推力起磁力比、最大推力の何れの点においても、従来例と同等の特性が得られている。よって、本発明のように磁極歯の先端部の幅を調整しても、推力特性に影響を及ぼさないことが分かる。
上記第1実施例では、ディテント力の2次の高調波成分をほぼ零まで低減できているが、4次の高調波成分は少なからず残存している(図11C参照)。そこで、第1実施例から更に磁極歯24b、24eの先端部の幅を最適化して、4次の高調波成分の低減を図った第4実施例及び第5実施例について説明する。
(第4実施例)
中間部の磁極歯24b、24eの先端部の幅を6.8mm(W2a=6.8mm)とした以外は、上記第1実施例と同様の構成をなすリニアモータを作製した。
(第5実施例)
中間部の磁極歯24b、24eの先端部の幅を6.6mm(W2a=6.6mm)とした以外は、上記第1実施例と同様の構成をなすリニアモータを作製した。
そして、上記のような第4実施例及び第5実施例のリニアモータについても、第1実施例と同様にテストベンチに固定して、特性(ディテント力及び推力)を測定した。
図17は、上記第4実施例における磁極歯の先端部の幅及びディテント力特性の測定結果を示しており、図17Aは6個の各磁極歯24a−24fの先端部の幅を示し、図17Bは電気角に対する可動方向応力の変化を示し、図17Cは各高調波次数におけるディテント力振幅を示している。
また、図18は、上記第5実施例における磁極歯の先端部の幅及びディテント力特性の測定結果を示しており、図18Aは6個の各磁極歯24a−24fの先端部の幅を示し、図18Bは電気角に対する可動方向応力の変化を示し、図18Cは各高調波次数におけるディテント力振幅を示している。
磁極歯24b、24eの先端部の幅を最適化させた第4実施例及び第5実施例では、第1実施例に比べて、ディテント力の4次の高調波成分を大幅に低減できている。また、2次の高調波成分については、第1実施例と同様に、ほぼ零を維持している。このことは、4次の高調波成分の低減が2次の高調波成分の低減に影響を及ぼさないことを示している。
よって、第1実施例、第4実施例及び第5実施例におけるディテント力の測定結果から、まず、2次の高調波成分を低減すべく中央部の磁極歯24c、24d及び中間部の磁極歯24b、24eの先端部の幅を調整し(図6のS3−S5)、次に、4次の高調波成分を低減すべく中間部の磁極歯24b、24eの先端部の幅を調整する(図6のS6−S8)ことにより、ディテント力の2次及び4次の高調波成分を確実に低減することが可能となる。即ち、図6のフローチャートに示した調整処理の手順は、2次及び4次の高調波成分の低減に極めて有効である。
図19は、上記第4実施例における推力特性の測定結果を示しており、図19Aは駆動起磁力に対する推力及び推力起磁力比を示し、図19Bは電気角に対する推力の変化を示している。
第4実施例においても、推力特性に関して、駆動起磁力に対する推力の直線性、推力起磁力比、最大推力の何れの点においても、従来例と同等の特性が得られている。よって、本発明のように磁極歯の先端部の幅を調整しても、推力特性に影響を及ぼさないことが分かる。
以上のことから、本発明では上記第1−第5実施例のように、推力特性を損なうことなくディテント力を低減することができ、高精度の位置制御用に適したリニアモータを提供することが可能である。
なお、7極6スロット構成のリニアモータを例として説明したが、5極6スロット構成、8極9スロット構成、10極9スロット構成など、n極n−1スロット構成(n−1は3の倍数)またはn極n+1スロット構成(n+1は3の倍数)のリニアモータに本発明を適用することができる。
なお、上述したリニアモータでは、界磁部を固定子側に、電機子を可動子側に配置する構成としたが、界磁部を可動子側に、電機子を固定子側に配置するように構成しても良い。