以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係る交流電気量測定装置および交流電気量測定方法について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
(本発明の要旨)
本発明は、スマートグリッド(賢い電力網)の基本技術となる交流電気量測定装置に関する発明であり、最大の特徴は、交流電圧電流の構造を対称性の群でモデル化する点にある。従来理論では、周波数領域と時間領域で別々で解析を行っていたが、本発明では、複素平面上のベクトル対称群を用いて、周波数依存量(回転位相角、振幅、電圧電流間位相角、位相角差)と時間依存量(電圧電流瞬時値、同期フェーザ)の解析を同時に行う。なお、本願発明者は、既に瞬時値同期フェーザ測定法による同期フェーザ算出のアルゴリズムを提案し、日本、米国にて特許登録がなされている(上記特許文献3)。ただし、この特許文献3による手法(瞬時値同期フェーザ測定手法)では、自端絶対位相角に反転領域(位相角は0〜πの間、反時計回り、あるいは時計回りで変化)があり、その反転領域において、位相角差(時間同期フェーザ、空間同期フェーザ)を確定することができなくなり、前ステップにおいて計測した位相角差をラッチする必要が生ずる。
一方、本願発明者は、上記特許文献3の出願後に、交流電圧/電流の対称性を発見し、対称性理論の群論を交流システムに導入している(複数の未公開先願があり)。本発明は、このような対称性理論の群論を同期フェーザ測定に導入する。このことにより、本発明による同期フェーザ測定手法では、回転位相角は−π〜πの間、常に反時計回りで変化するので、反転領域において位相角差をラッチする必要はない。このため、正確な位相角差を確定することができ、保護制御処理の速度を高めるのに有効である。
本発明の手法は、周波数係数測定、回転位相角測定、周波数測定、振幅測定、直流オフセット測定、同期フェーザ測定、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザなど、種々の交流電気量の計算に適用可能であると考える。
(用語の意味)
本実施の形態に係る交流電気量測定装置および交流電気量測定方法を説明するにあたり、まず、本願明細書で使用する用語について説明する。
・複素数:実数a,bと虚数単位jを用いてa+jbの形で表される数である。電気工学ではiが電流符号であるため、虚数単位はj=√(−1)で表す。本願では複素数を用いて、回転ベクトルを表現する。
・複素平面:複素数を2次元平面上の点とし、実部(Re)を横軸に、虚部(Im)を縦軸にとった直角座標で複素数を表す平面である。
・回転ベクトル:電力系統の電気量(電圧あるいは電流)に関する複素平面上で反時計回りに回転するベクトルである。回転ベクトルの実数部は瞬時値である。
・差分回転ベクトル:サンプリング周波数1サイクル前後2点の回転ベクトルの差分ベクトルである。差分回転ベクトルの実数部はサンプリング周波数1サイクル前後2点の瞬時値の差分である。
・サンプリング周波数:標本化定理によれば、サンプリング周波数は実周波数の2倍以上であるという制限がある。なお、日本国の場合、電力系統の監視保護装置には、30度サンプリングが用いられることが多い。この場合、50Hzの系統では600Hz、60Hzの系統では720Hzのサンプリング周波数となる。なお、スマートグリッドに適用されるスマートメータでは、電力系統の保護制御装置に提案したサンプリング周波数および関連計測式を利用することにより、大きなメリットが得られる。
・対称群サンプリング周波数(実施の形態1−14ではサンプリング周波数):各種対称群を計算するときの抽出データ周期の逆数である。本願では、定格周波数の4倍値(50Hzの系統に200Hz、60Hzの系統に240Hz)を採用することが推奨される。その理由は、低い対称群サンプリング周波数を用いることにより、高調波ノイズの影響を低減することができるからである(電圧フリッカなどの急変は対称性破れ指標で対応可能である)。
・データ収集サンプリング周波数:系統電気量の計測周期の逆数である。データ周波数サンプリング周波数としては、高い方がよいと推奨される。高速の移動平均化処理により、高調波ノイズの影響を更に低減することができる。従って、本願では、低い対称群サンプリング周波数と高いデータ収集サンプリングを用いて、対称処理と移動平均処理という2つの処理により、安定かつ高精度な交流電気量を求めることが可能となる。
・系統周波数:基本的には、電力系統における定格周波数を意味し、50Hz、60Hzの2種類がある。
・実周波数:電力系統における現実の周波数である。この実周波数は、電力系統が安定であっても、定格周波数の近傍で微妙に変動している。本願はサンプリング周波数の1/2の全ての周波数に対応する。たとえば、電力系統の発電機が起動するとき、発電機の周波数は0Hzから定格周波数まで上昇し、本願の測定方法高速・高精度に発電機の周波数を追随することができる。
・回転位相角:電圧回転ベクトル(以下単に「電圧ベクトル」という)あるいは電流回転ベクトル(以下単に「電流ベクトル」という)がサンプリング周波数1サイクルの間に複素平面上で回転した位相角である。回転位相角は周波数依存量であり、従って、数個のサンプリングポイントの間には大きな変化がないと考える。もし、数個のサンプリングポイントの間に大きな変化がある場合、急変(対称性破れ)があると判定する。この判定には対称性指標が用いられる。
・対称性の破れ:入力波形が純粋な正弦波である場合、入力波形は対称性を有している。しかしながら、入力波形の振幅急変、位相急変、あるいは周波数急変により、入力波形の対称性が破れる。この対称性の破れを検出するため、本願はいくつかの対称性指標を提案する。なお、対称性指標に整定値を設けることにより、小さい測定誤差および相加性ガウス雑音に対しては、対称性の破れを判別しない。対称性が破れた場合、純粋な交流波形ではなくなっており、測定は不可能と考え、すでに計測した値をラッチする。対称性が存在しているとき、小さい測定誤差および相加性ガウス雑音影響を減少するため、計算に用いた対称群の数を増やし、計算結果を移動平均処理で計測精度を上げることが好ましい。
・ゲージ電圧群:時系列的に連続した3つの電圧ベクトルにより構成される対称群である。なお、電圧以外の電流、電力(有効電力、無効電力)についても同様な対称群の概念が定義可能である。
・ゲージ電圧:ゲージ電圧群により計算される電圧不変量である。
・ゲージ差分電圧群:時系列的に連続した3つの差分電圧ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ差分電圧:ゲージ差分電圧群により計算される差分電圧不変量である。
・周波数係数:本願にて初めて提案した周波数計測式である。ゲージ差分電圧群の3つのメンバーを利用して計算されたパラメータであり、その値は回転位相角の余弦関数値である。差分電圧を利用しているため、測定結果は入力波形の直流オフセットに影響されない。
・直流オフセット:入力波形の直流成分である。
・ゲージ双電圧群:端子1の連続した3つの電圧ベクトルと端子2の連続した2つの電圧ベクトルにより構成される対称群である。なお、電流についても同様な対称群の概念が定義可能である。
・ゲージ双有効電圧群:ゲージ双電圧群の端子1の前2つの電圧ベクトルと端子2の連続した2つの電圧ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ双無効電圧群:ゲージ双電圧群の端子1の後2つの電圧ベクトルと端子2の連続した2つの電圧ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ双有効電圧:ゲージ双有効電圧群により計算される不変量である。
・ゲージ双無効電圧:ゲージ双無効電圧群により計算される不変量である。
・ゲージ双差分電圧群:端子1の連続した3つの差分電圧ベクトルと端子2の連続した2つの差分電圧ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ双差分有効電圧群:ゲージ双差分電圧群の端子1の前2つの差分電圧ベクトルと端子2の連続した2つの差分電圧ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ双差分無効電圧群:ゲージ双差分電圧群の端子1の後2つの差分電圧ベクトルと端子2の連続した2つの差分電圧ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ双差分有効電圧:ゲージ双差分有効電圧群により計算される不変量である。
・ゲージ双差分無効電圧:ゲージ双差分無効電圧群により計算される不変量である。
・ゲージ電力群:連続した3つの電圧ベクトルと連続した2つの電流ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ有効電力群:ゲージ電力群の前2つの電圧ベクトルと連続した2つの電流ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ無効電力群:ゲージ電力群の後2つの電圧ベクトルと連続した2つの電流ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ有効電力:ゲージ有効電力群により計算される不変量である。
・ゲージ無効電力:ゲージ無効電力群により計算される不変量である。
ゲージ差分電力群:連続した3つの差分電圧ベクトルと連続した2つの差分電流ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ差分有効電力群:ゲージ差分電力群の前2つの差分電圧ベクトルと連続した2つの差分電流ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ差分無効電力群:ゲージ差分電力群の後2つの差分電圧ベクトルと連続した2つの差分電流ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ差分有効電力:ゲージ差分有効電力群により計算される不変量である。
・ゲージ差分無効電力:ゲージ差分無効電力群により計算される不変量である。
・同期フェーザ:実周波数に対応する回転速度で、−180度から+180度の範囲に、複素平面上を反時計周りに回転する電圧ベクトルあるいは電流ベクトルの絶対位相角を同期フェーザと定義する。フェーザといった場合、正弦信号(余弦信号)を複素数で表現する表示方法を指す場合が多いが、本明細書においては、回転している絶対位相角の意味で使用する。なお、同期フェーザには、2つの特徴がある。第1の特徴は同期フェーザの大きさが−180度から+180度の範囲にあることである。第2の特徴は、−180度から+180度の方向(反時計回り)へ一方向的に増大することである。同期フェーザには電圧同期フェーザと電流同期フェーザがある。同期フェーザは時間依存量であり、サンプリングポイントごとに同期フェーザが変化する。
・電圧絶対位相角:本願では、電圧同期フェーザを意味する。
・電流絶対位相角:本願では、電流同期フェーザを意味する。
・ゲージ同期フェーザ群:複素平面上の3つの電圧ベクトルと2つの固定単位ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ有効同期フェーザ:本願にて定義したゲージ同期フェーザ群のメンバーを利用した計算式の計算結果である。
・ゲージ無効同期フェーザ:本願にて定義したゲージ同期フェーザ群の別のメンバーを利用した計算式の計算結果である。
・ゲージ差分同期フェーザ群:3つの差分電圧ベクトルと2つの固定差分単位ベクトルにより構成される対称群である。
・ゲージ差分有効同期フェーザ:本願にて定義したゲージ差分同期フェーザ群のメンバーを利用した計算式の計算結果である。
・ゲージ差分無効同期フェーザ:本願にて定義したゲージ差分同期フェーザ群の別のメンバーを利用した計算式の計算結果である。
・時間同期フェーザ:現時点の同期フェーザと指定時刻(例えば電力系統定格周波数1サイクル前の時点)の同期フェーザの差分である。同期フェーザと同じように、変動範囲は−180度から+180の間である。時間同期フェーザは周波数依存量である。実周波数は変動しない場合、時間同期フェーザも一定値で変動しない。同期フェーザと同じように、時間同期フェーザは電圧時間同期フェーザと電流時間同期フェーザがある。
・空間同期フェーザ:同じ時点において、自端の同期フェーザと他端の同期フェーザの差分である。変動範囲は−180度から+180の間である。時間同期フェーザは周波数依存量である。両端の実周波数は同じであると同時に変動しない場合、空間同期フェーザも一定値で変動しない。同期フェーザと同じように、空間同期フェーザは電圧空間同期フェーザと電流空間同期フェーザがある。
・固定単位ベクトル群:同期フェーザを計算するため設定した複素平面上の複数の単位ベクトル(振幅は1)である。
・電圧電流間位相角:電圧ベクトルと電流ベクトル間の位相角である。周波数依存性がある。
・電圧THD指標:電圧の全高調波歪(Total Harmonic Distortion:THD)を用いた電力品質を表す指標である。
・電流THD指標:電流の全高調波歪(THD)を用いた電力品質を表す指標である。
・同期投入装置:一定条件のもとで(周波数差分、電圧振幅差分、位相差分を一定の値以下になる)、分離系統を連係するように操作する装置である。後述する実施の形態7では、新しい同期投入装置を提案する。
・単独運転検出装置:分散型電源が連系されている系統で、事故などにより遮断器が開放された場合、切り離された系統は、分散型電源だけで需要家に電力を供給する状態を単独運転と言う。単独運転を速やかに検出して、分散型電源を確実に解列する必要がある。後述する実施の形態8にて提示する。
・距離保護装置:送電線のインピーダンスを測定し、故障点までの距離を換算し、送電線の故障保護を実現する。
・脱調保護装置:電力系統の脱調を検出する装置である。
・瞬時値同期フェーザ測定法:上記特許文献3に提示される同期フェーザ計算手法である。最小2乗法により推定した現時点電圧瞬時値推定値を分子とし、最小二乗法により推定した現時点電圧振幅を分母とし計算された値の逆余弦関数の値を同期フェーザとする。反余弦関数の値が常にプラスになっているため、同期フェーザの変化範囲は0〜π間で変化し、変化方向も反時計回りあるいは時計回りで2種類がある。
・グループ同期フェーザ測定法:本願にて提示する同期フェーザの計算手法である。
つぎに、本実施の形態に係る交流電気量測定装置および交流電気量測定方法を説明する。この説明にあたり、まず、本実施の形態の要旨を成す交流電気量測定手法の概念(アルゴリズム)について説明し、その後、本実施の形態に係る交流電気量測定装置の構成および動作について説明する。なお、以下の説明において、アルファベットの小文字表記のうち、括弧付のもの(例えば“v(t)”)は、ベクトルを表し、括弧無しのもの(例えば“v2”)は、瞬時値を表すものとする。また、アルファベットの大文字表記(例えば“Vg”)は、実効値もしくは振幅値を表すものとする。
(ゲージ差分電圧群)
図1は、複素平面上のゲージ差分電圧群を示す図である。図1において、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転している3つの差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)を考察する。dは直流オフセットである。電圧瞬時値に直流オフセットが含まれているため、複素平面の虚数軸ImをO’からOに移動する。3つの差分電圧ベクトルは次式で表すことができる。
ここで、Vは瞬時電圧の交流成分の振幅である。また、ωは回転角速度であり、次式で表される。
ここで、fは実周波数である。更に、(1)式のTはサンプリング1周期時間であり、次式で表される。
ここで、fsはサンプリング周波数である。更に、(1)式のαはT時間において電圧ベクトルが複素平面上において回転した位相角である。
図1において、3つの差分電圧ベクトルは中間の差分電圧ベクトルに対して対称性があることが分かる。これらの3つの差分電圧ベクトルは、ゲージ差分電圧群を成す。なお、時間tは任意の値を取ることができるから、(1)式の対称性は常に保持されている。つぎに、これらのゲージ差分電圧群を用いて、周波数係数を求める式を開示する。
(周波数係数)
図1において、ゲージ差分電圧群の最初のメンバーv2(t),と最後のメンバーv2(t-2T)は、中間のメンバーv2(t-T)に対して、対称性がある。そこで、次の計算式を提案し、その計算結果を周波数係数と定義する。
ここで、v21,v22,v23は、それぞれゲージ差分電圧群の諸メンバーの実数部あるいは虚数部である。以下に上記の計算式を展開する。
ゲージ差分電圧群の各メンバーの実数部瞬時値は、以下の通りである。
ここで、Reは複素数の実数部を示す。(4)式の分子に差分電圧ベクトルの実数部を代入すると、次式のように計算される。
また、(4)式の分母に差分電圧ベクトルの実数部を代入すると、次式のように計算される。
上記(6),(7)式より、周波数係数は次式のように求められる。
つまり、周波数係数は、回転位相角の余弦関数値である。
周波数係数は、差分電圧ベクトルの虚数部からも求められる。ゲージ差分電圧群の各メンバーの虚数部瞬時値は、以下の通りである。
ここで、Imは複素数の虚数部を示す。(4)式の分子に差分電圧ベクトルの虚数部を代入すると、次式のように計算される。
また、(4)式の分母に差分電圧ベクトルの虚数部を代入すると、次式のように計算される。
上記(10),(11)式より、周波数係数は次式のように求められる。
実数部の計算結果と同じように、周波数係数は、回転位相角の余弦関数値である。上記の結果は、ゲージ差分電圧群が対称性を有し、周波数係数はゲージ差分電圧群の回転不変量であることに他ならない。上記の計算手法を、周波数係数法と称する。周波数係数は、非常に重要なパラメータであり、本発明において、以後の計算の基礎となる。
(回転位相角)
上記(8)式または(12)式より、回転位相角は次式のように計算できる。
なお、周波数係数fcは次式の条件を満足する。
上記条件式を満足しない場合、入力波形は交流波形ではないと判定する。
(回転位相角により周波数の計算)
まず、回転位相角αの定義は、次式の通りである。
ここで、fは実周波数、fsはサンプリング周波数である。上記(13),(15)式から、周波数は以下のように計算される。
ここまで、ゲージ差分電圧群のみで、周波数を算出する計算式を提示した。本願発明者は、本発明の出願時よりも前に、ゲージ電圧群およびゲージ差分電圧群の2つの対称群を利用して周波数を算出する計算式を開示した(本発明の出願時点では未公開)。ここで、ゲージ電圧群のメンバーであるゲージ電圧にはオフセット成分が含まれるが、ゲージ差分電圧群のメンバーであるゲージ差分電圧にはオフセット成分が含まれない。このため、本発明による手法は、入力波形の直流オフセットに関係なく、周波数の計算が可能になる。このように、周波数係数を計算することにより、周波数の測定を高速かつオンラインで行うことができる。このため、周波数追随型の保護制御装置に用いられて好適である。
この周波数係数測定法に係る精度および特性については、後述するケース1のシミュレーションの項にて明らかにする。なお、下記表1においては、実周波数、周波数係数および回転位相角の関係について、幾つか値を表示する。表中のfsは、サンプリング周波数である。
(回転位相角の正弦関数値ならびに、回転位相角半角の正弦関数値および余弦関数値)
以後の振幅計算のために、回転位相角の正弦関数値ならびに、回転位相角半角の正弦関数値および余弦関数値の計算式を提示する。
上式より、回転位相角の正弦関数値は次式を用いて求められる。
同様に、回転位相角半角の正弦関数値および余弦関数値は、次式および次々式を用いて求められる。
(ゲージ差分電圧の計算式)
つぎに、ゲージ差分電圧の計算式を提示する。ゲージ差分電圧Vgdは、次式を用いて求められる。
上記(5)式を上記(20)式の平方根中の式に代入すれば、次式が得られる。
(電圧振幅)
上記(17),(18)および(21)式を用いると、電圧振幅Vは、以下のように求められる。
上記(22)式は、直接的に時系列瞬時値データを用いて計算できるものであり、更に、ゲージ差分電圧が電圧瞬時値の差分値により計算されているため、電圧波形における直流オフセットに対する影響を受けず、高速、高精度な測定が可能となる。なお、サンプリング周波数を系統周波数(定格周波数)の4倍に設定し、且つ、実周波数が定格周波数の場合、周波数係数は零となり(上記表1参照)、以下の振幅計算式が成立する。
(複数のサンプリングデータによる周波数係数およびゲージ差分電圧の計算式)
複数のサンプリンデータを有する場合の周波数係数およびゲージ差分電圧の計算式は、次式および次々式の通りである。
ここで、v2kは、差分電圧瞬時値である。3点以上のサンプリングデータを利用することにより、入力波形に重畳したノイズデータの影響を低減する効果がある。
上記(20)〜(25)式は、電圧データを用いた場合の計算式であったが、電流データを用いた場合の計算式も電圧のときと同様に計算することが可能である。
(複数の電流サンプリングデータによる周波数係数およびゲージ差分電圧の計算式)
複数の電流サンプリングデータを用いた周波数係数およびゲージ差分電流の計算式は、次式および次々式の通りである。
ここで、i2kは、差分電流瞬時値である。
(電流振幅)
上記(17),(18)および(27)式を用いると、電流振幅Iは、以下のように求められる。
上記(28)式は、直接的に時系列瞬時値データを用いて計算できるものであり、更に、ゲージ差分電流が電流瞬時値の差分値により計算されているため、電流波形における直流オフセットに対する影響を受けず、高速、高精度な測定が可能となる。
(直流オフセット計算方式1)
つぎに、複素平面上のゲージ電圧群を用いて、直流オフセット計算する第1の方式(直流オフセット計算方式1)について説明する。図2は、直流オフセットがある場合の複素平面上のゲージ電圧群を示す図である。
図2において、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)は、ゲージ電圧群を構成する。dは直流オフセットである。電圧瞬時値に直流オフセットが含まれているため、電圧瞬時値は次式で表される。
電圧瞬時値の交流部分の周波数係数fcは、ゲージ差分電圧により求められている(上記(4)式参照)。ここで、ゲージ電圧群のメンバーである3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)においても、中心ベクトルであるv1(t-T)を基準とする対称性があり、この性質はゲージ差分電圧群と同一である。よって、ゲージ差分電圧群との類推から上記(4)式に基づき、次式が成立する。
上記(30)式により、直流オフセットdは次式のように求められる。
また、複数のゲージ電圧群による直流オフセットの計算式は、次式のように拡張される。
なお、サンプリング周波数を電力系統定格周波数の4倍に設定する場合、実周波数を定格周波数と想定すれば、周波数係数は零となり、以下の直流オフセット計算式が成立する。
図3は、直流オフセットがない場合の複素平面上のゲージ電圧群を示す図である。上記で求めた直流オフセットを用いて、ゲージ電圧群の各メンバーの直流オフセット分をキャンセルした場合には、図3に示すようなゲージ電圧群を想定することができる。このとき、ゲージ電圧群のメンバーである3つの電圧ベクトルは次式で表すことができる。
また、直流オフセットがある場合、ゲージ電圧群の各メンバーの実数部瞬時値は、次式のように表すことができる。
ここで、v11,v12,v13は、それぞれ現時点、1ステップ前、2ステップ前の電圧瞬時値であり、dは直流オフセット値である。
(直流オフセットがある場合のゲージ電圧の計算式)
つぎに、直流オフセットがある場合のゲージ電圧の計算式を提示する。ゲージ電圧群の最初のメンバーと最後のメンバーは、中間のメンバーに対する対称性を有している。このため、直流オフセットをキャンセルした電圧成分は、上記(20)式と同様の関係が成立する。よって、直流オフセットがある場合のゲージ電圧Vgは、次式を用いて求められる。
上記(35)式を(36)式の平方根中の式に代入すれば、次式が得られる。
なお、このゲージ電圧Vgは、交流電圧の回転不変量であり、直流オフセットには関係しない交流電気量である。
(ゲージ電圧による電圧振幅)
上記(17),(37)式を用いると、電圧振幅Vは、以下のように求められる。
(複数のサンプリングデータによるゲージ電圧の計算式)
複数のサンプリングデータを用いたゲージ電圧の計算式は、ゲージ差分電圧のときと同様に、次式のように表すことができる。
ここで、V1kは、電圧瞬時値である。より多くのサンプリング点を利用すればゲージ電圧群の数を増加して平均処理を行うことができるので、入力波形のノイズの影響を軽減することができる。なお、サンプリング周波数を電力系統定格周波数の4倍に設定する場合、実周波数を定格周波数と想定すれば、周波数係数fcは零となり、上記(38)式から、以下の振幅計算式が導かれる。
(直流オフセット計算方式2)
つぎに、複素平面上のゲージ電圧群を用いて、直流オフセット計算する第2の方式(直流オフセット計算方式2)について説明する。
まず、上記(36)式のゲージ電圧計算式を、以下のように展開する。
また、上記(41)式を展開すると、直流オフセットdは、以下のように求められる。
また、上記(17)式と(22)式により、次式が成立する。
この(43)式を上記(42)式に代入すれば、直流オフセットの計算式は、以下のように表される。
また、(44)式を、複数のゲージ電圧群に拡張すれば、直流オフセットの計算式は、次式のように表すことができる。
なお、サンプリング周波数を電力系統定格周波数の4倍に設定する場合、実周波数を定格周波数と想定すれば、周波数係数fcは零となり、上記(45)式から、以下の直流オフセット計算式が導かれる。
(複数のサンプリングデータによるゲージ電流の計算式)
複数のサンプリングデータを用いたゲージ電流の計算式はゲージ差分電流のときと同様に、次式のように表すことができる。
ここで、i1kは、電流瞬時値である。より多くのサンプリング点を利用すればゲージ電流群の数を増加して平均処理を行うことができるので、入力波形のノイズの影響を軽減することができる。
(ゲージ電流による電流振幅)
ゲージ電流による電流振幅は、ゲージ電圧のときと同様に、次式にて求められる。
(回転位相角対称性指標1)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として回転位相角を用いる手法のうちの第1の指標(回転位相角対称性指標1)について説明する。回転位相角対称性指標1を次式のように定義する。
ここで、αcosは周波数係数法により計算され回転位相角であり、αsinはゲージ電圧群もしくはゲージ差分電圧群により計算された回転位相角である。これらは、次式のように表される。
ここで、上記(50)式の第2式は、上記(21)式と(37)式との関係より得られる。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(49)式に示される回転位相角対称性指標1は零である。
一方、回転位相角対称性指標1が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値αBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて、測定値である回転位相角などをラッチする。
(対称性破れ時間の計算)
まず、対称性破れ時間を次式のように定義する。
ここで、tBRK0は、前ステップまでの連続した対称性破れ時間の積算値であり、tBRK1は、現ステップにおける対称性破れ時間の値である。また、Tは刻み幅時間である。なお、対称性が破れていない場合、対称性破れ時間tBRK0を零とする。
対称性破れ時間が長いほど、電力の品質が悪いと言える。この対称性破れ時間を用いると、交流系統における電力品質の定量的な監視を行うことができ、交流系統の擾乱などの検出が可能となる。
(回転位相角対称性指標2)
回転位相角対称性指標1は、常に逆三角関数の計算が伴うため((49),(50)式参照)、所要の計算時間が必要となる。そこで、三角関数の計算を必要としない第2の評価指標(回転位相角対称性指標2)について説明する。回転位相角対称性指標2を次式のように定義する。
ここで、絶対値記号内の第1項である(sin(α/2)cos)は、周波数係数法により求めることができ、絶対値記号内の第2項である(sin(α/2)sin)は、ゲージ電圧群またゲージ差分電圧群により求めることができる。これらの算出式は、上記(18)式,(50)式に示されており、ここに再掲する。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(54)式に示される回転位相角対称性指標2は零である。
一方、回転位相角対称性指標2が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値sαBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて、測定値である回転位相角などをラッチする。
(対称性が破れた場合の処理)
入力波形の対称性が破れている場合、保護制御装置としての応用において、対称性が破れる前の値をラッチする必要性が生じる場合がある。このような場合には、例えば回転位相角、周波数および電圧振幅のそれぞれを以下のようにラッチする。
ここで、αt,ft,Vtは、それぞれ現時点の回転位相角、周波数および電圧振幅であり、αt-T,ft-T,Vt-Tは、それぞれ1ステップ前の回転位相角、周波数および電圧振幅である。
(電圧振幅対称性指標1)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として電圧振幅を用いる手法のうちの第1の指標(電圧振幅称性指標1)について説明する。電圧振幅対称性指標1を次式のように定義する。
ここで、VgAとVgdAは、以下のようにそれぞれゲージ電圧群とゲージ差分電圧群により計算された電圧振幅である。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(58)式に示される電圧振幅対称性指標1は零である。
一方、電圧振幅対称性指標1が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値VBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて、測定値である回転位相角、周波数、電圧振幅などをラッチする。
なお、電圧振幅対称性指標1の考えは、電流振幅に対しても同様に適用可能である。式の展開については省略する。
(ゲージ電力群)
図4は、複素平面上のゲージ電力群を示す図である。図4には、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する3つの電圧ベクトルv(t),v(t-T),v(t-2T)と、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する2つの電流ベクトルi(t-T),i(t-2T)とが示されている。これら3つの電圧ベクトルv(t),v(t-T),v(t-2T)と、2つの電流ベクトルi(t-T),i(t-2T)は、それぞれ次式および次々式のように表すことができる。
(ゲージ電力群、ゲージ有効電力群およびゲージ無効電力群)
ここで、3つの電圧ベクトルv(t),v(t-T),v(t-2T)と、2つの電流ベクトルi(t-T),i(t-2T)を「ゲージ電力群」と定義する。また、ゲージ電力群を成す回転ベクトルのうち、2つの電圧ベクトルv(t),v(t-T)と、2つの電流ベクトルi(t-T),i(t-2T)を「ゲージ有効電力群」と定義し、2つの電圧ベクトルv(t-T),v(t-2T)と、2つの電流ベクトルi(t-T),i(t-2T)を「ゲージ無効電力群」と定義する。
(ゲージ有効電力)
上記ゲージ有効電力群を用いてゲージ有効電力を次式のように定義する。
ここで、電圧瞬時値v1,v2は、それぞれ電圧ベクトルv(t),v(t-T)の実数部であり、次式のように計算される。
同様に、電流瞬時値i2,i3は、それぞれ電流ベクトルi(t-T),i(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
上記(64),(65)式を上記(63)式に代入すれば、ゲージ有効電力を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ有効電力の計算式は、次式のように表すことができる。
(ゲージ無効電力)
上記ゲージ無効電力群を用いてゲージ無効電力を次式のように定義する。
ここで、電圧瞬時値v2,v3は、それぞれ電圧ベクトルv(t-T),v(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
なお、電流瞬時値i2,i3は、(65)式のように定義されており、この(65)式と上記(69)式を上記(68)式に代入すれば、ゲージ無効電力を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ無効電力の計算式は、次式のように表すことができる。
上記(67)式と(71)式とから、電圧電流間位相角φの余弦関数値および正弦関数値は、次式を用いて計算することができる。
よって、一般的な電力の定義により、有効電力および無効電力は次式のように求められる。
同様に、一般的な電力の定義により、皮相電力は次式のように求められる。
同様に、力率は次式のように求められる。
(ゲージ電力対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標としてゲージ電力を用いる手法について説明する。ゲージ電力対称性指標を次式のように定義する。
ここで、(cosφ)VIと(cosφ)PFは、以下のように計算された電圧電流間位相角φの余弦関数値である。
上記(76)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、ゲージ電力対称性指標は零である。
一方、ゲージ電力対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値SBRK1に対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて計測値(計算値)をラッチする。
(距離保護計算式)
つぎに、距離保護のための計算式について提示する。まず、インピーダンスの定義により、次の計算式が得られる。
上式の実数部と虚数部とから、抵抗およびインダクタンスは、次式のように計算することができる。
なお、上式において、Igはゲージ電流であり、fは実測周波数である。
(脱調保護計算式)
つぎに、脱調保護のための計算式について提示する。なお、脱調保護のための計算式の詳細については、特許文献4に開示しているので、当該文献を参照されたい。この特許文献4によれば、電力系統の脱調判別は、次式を用いて行われる。
ここで、VCは保護装置が配置された変電所から監視送電線前方の脱調中心電圧、Vは自端電圧振幅、φviは送電線電圧電流間の位相角、ΔVSTEPは、整定値である(例えば0.3PU)。ここで、脱調保護装置が配置された近傍において電力系統事故がある場合、計算されたVCが急激に低下するのに対して、脱調の場合のVCの変化は、一定の速度で変化する。この性質を利用すれば、脱調保護装置の誤動作を防止することが可能となる。
なお、脱調中心電圧VCの計算式は、次式の通りである。
また、ノイズの影響を低減したい場合には、複数のサンプリングデータを用いればよい。複数のゲージ有効電力対称群におけるゲージ有効電力の計算式は、次式の通りである。
また、複数のゲージ無効電力対称群におけるゲージ無効電力の計算式は、次式の通りである。
なお、各電圧瞬時値および電流瞬時値の時系列データは、次式を用いて求められる。
ここで、電圧ベクトル、電流ベクトルの時系列データは、次式を用いて求められる。
本発明を特許文献4の脱調保護装置に適用した場合、脱調中心電圧を算出する際に周波数変動も自動的に補正されるため、高速且つ高精度な脱調保護装置が実現できる。なお、脱調保護装置の更に詳細な説明は、後述する実施の形態3において説明する。
(ゲージ差分電力群)
図5は、複素平面上のゲージ差分電力群を示す図である。図5には、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する3つの差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)と、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する2つの差分電流ベクトルi2(t-T),i2(t-2T)とが示されている。これら3つの電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)と、2つの電流ベクトルi2(t-T),i2(t-2T)は、それぞれ次式および次々式のように表すことができる。
(ゲージ差分電力群、ゲージ差分有効電力群およびゲージ差分無効電力群)
ここで、3つの差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)と、2つの差分電流ベクトルi2(t-T),i2(t-2T)を「ゲージ差分電力群」と定義する。また、ゲージ電力群を成す回転ベクトルのうち、2つの差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T)と、2つの差分電流ベクトルi2(t-T),i2(t-2T)を「ゲージ差分有効電力群」と定義し、2つの差分電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)と、2つの差分電流ベクトルi2(t-T),i2(t-2T)を「ゲージ差分無効電力群」と定義する。
(ケージ差分有効電力)
上記ゲージ差分有効電力群を用いてゲージ差分有効電力を次式のように定義する。
ここで、差分電圧瞬時値v21,v22は、それぞれ差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T)の実数部であり、次式のように計算される。
同様に、電流瞬時値i22,i23は、それぞれ差分電流ベクトルi2(t-T),i2(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
上記(90),(91)を上記(89)式に代入すれば、ゲージ差分有効電力を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ差分有効電力の計算式は、次式のように表すことができる。
(ゲージ差分無効電力)
上記ゲージ差分無効電力群を用いてゲージ差分無効電力を次式のように定義する。
ここで、差分電圧瞬時値v22,v23は、それぞれ差分電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
なお、電流瞬時値i2,i3は、(91)式のように定義されており、この(91)式と上記(95)式を上記(94)式に代入すれば、ゲージ差分無効電力を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ差分無効電力の計算式は、次式のように表すことができる。
上記(93)式と(97)式とから、電圧電流間位相角φの余弦関数値および正弦関数値は、次式を用いて計算することができる。
よって、一般的な電力の定義により、有効電力および無効電力は次式のように求められる。
同様に、一般的な電力の定義により、皮相電力は次式のように求められる。
同様に、力率は次式のように求められる。
(ゲージ差分電力対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標としてゲージ差分電力を用いる手法について説明する。ゲージ差分電力対称性指標を次式のように定義する。
ここで、(cosφ)VI2と(cosφ)PF2は、以下のように計算された電圧電流間位相角φの余弦関数値である。
上記(102)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、ゲージ差分電力対称性指標は零である。
一方、ゲージ差分電力対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値SBRK2に対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて計測値(計算値)をラッチする。
(距離保護計算式)
つぎに、距離保護のための計算式について提示する。まず、インピーダンスの定義により、次の計算式が得られる。
上式の実数部と虚数部とから、抵抗およびインダクタンスは、次式のように計算することができる。
上式において、Igdはゲージ差分電流であり、fは実測周波数である。なお、ゲージ差分電力群を用いる距離保護では、ゲージ電力群を用いる場合に比して、CT飽和による直流オフセットの影響を受けないので、より高精度な測定(計算)が可能となる。
また、係数距離kは、次式を用いて算出する。
ここで、L0は送電線全長のインダクタンスであり、Lは上記(106)式にて計算したインダクタンスである。例えば、k=50%であれば、送電線の中間点に故障が発生したことを意味する。
(距離保護対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として距離保護計算の結果を用いる手法について説明する。距離保護対称性指標を次式のように定義する。
ここで、LgとLgdは、以下のように計算されたインダクタンスである。
上記(109)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、距離保護対称性指標は零である。
一方、距離保護対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値SDZBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて測定値(抵抗およびインダクタンス)をラッチする。
(脱調保護計算式)
上記(82)式では、ゲージ電流とゲージ電力を用いた脱調中心電圧の計算式を示した。一方、ゲージ差分電流とゲージ差分電力を用いた脱調中心電圧の計算式は、次式の通りである。
ゲージ差分電力群を用いる距離保護では、ゲージ電力群を用いる場合に比して、CT飽和による直流オフセットの影響を受けないので、より高精度な測定(計算)が可能となる。
(脱調保護対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として脱調中心電圧の計算結果を用いる手法について説明する。脱調保護対称性指標を次式のように定義する。
ここで、VCgとVCgは、以下のように計算された脱調中心電圧である。
上記(113)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、脱調保護対称性指標は零である。
一方、脱調保護対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値SVCBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて測定値(脱調中心電圧)をラッチする。
また、ノイズの影響を低減したい場合には、複数のサンプリングデータを用いればよい。複数のゲージ差分有効電力対称群におけるゲージ差分有効電力の計算式は、次式の通りである。
また、複数のゲージ差分無効電力対称群におけるゲージ差分無効電力の計算式は、次式の通りである。
なお、各電圧瞬時値および電流瞬時値の時系列データは、次式を用いて求められる。
ここで、電圧ベクトル、電流ベクトルの時系列データは、次式を用いて求められる。
(母線間位相差)
つぎに、ある母線(または送電線)上の一方の端子(以下「端子1」とする)と、同一母線上の他方の端子(以下「端子2」とする)とにおいて、端子1,2の双方の回転ベクトルが同一周波数である場合の端子1,2間における回転ベクトルの位相差(母線間位相差)について説明する。以下では、回転ベクトルが電圧ベクトルの場合を一例として説明するが、電圧ベクトル以外の回転ベクトルについても適用可能であることは言うまでもない。なお、端子1,2における回転ベクトルの周波数が異なる場合には、後述する空間同期フェーザを利用すればよい。
(母線間電圧位相差の計算)
図6は、複素平面上のケージ双電圧群を示す図である。図6には、端子1において、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する電圧瞬時値V1の3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)と、端子2において、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する電圧瞬時値V2の2つの電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)とが示されている。これら3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)と、2つの電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)は、それぞれ次式および次々式のように表すことができる。
(ゲージ双電圧群、ゲージ双有効電圧群およびゲージ双無効電圧群)
ここで、端子1における3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)と、端子2における2つの電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)を「ゲージ双電圧群」と定義する。また、ゲージ双電圧群を成す回転ベクトルのうち、2つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T)と、2つの電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)を「ゲージ双有効電圧群」と定義し、2つの電圧ベクトルv1(t-T),v1(t-2T)と、2つの電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)を「ゲージ双無効電圧群」と定義する。なお、「ゲージ双有効電圧群」および「ゲージ双無効電圧群」における「有効」、「無効」の語は、構造的に「ゲージ有効電力群」および「ゲージ無効電力群」に似ているためである。
(ゲージ双有効電圧)
上記ゲージ双有効電圧群を用いてゲージ双有効電圧を次式のように定義する。
ここで、端子1の電圧瞬時値v11,v12は、それぞれ電圧ベクトルv1(t),v1(t-T)の実数部であり、次式のように計算される。
同様に、端子2の電圧瞬時値v22,v23は、それぞれ電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
上記(122),(123)式を上記(121)式に代入すれば、ゲージ双有効電圧を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ双有効電圧の計算式は、次式のように表すことができる。
(ゲージ双無効電圧)
上記ゲージ双無効電圧群を用いてゲージ双無効電圧を次式のように定義する。
ここで、端子1の電圧瞬時値v12,v13は、それぞれ電圧ベクトルv1(t-T),v1(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
なお、端子2の電圧瞬時値v22,v23は、(123)式のように定義されており、この(123)式と上記(127)式を上記(126)式に代入すれば、ゲージ双無効電圧を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ双無効電圧の計算式は、次式のように表すことができる。
上記(125)式と(129)式とから、端子1,2間の電圧位相角差φ(以下単に「電圧位相角差φ」という)の余弦関数値および正弦関数値は、次式を用いて計算することができる。
よって、電圧位相角差φは、上式を用いて、次式のように求められる。
なお、端子1,2における各ゲージ電圧と各電圧振幅との間には、次式の関係がある。
なお、次式に示すように、Vpg,Vqg,fCを用いて電圧位相角差φの余弦関数を直接的に計算することも可能である。
(ゲージ双電圧対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標としてゲージ双電圧を用いる手法について説明する。ゲージ双電圧対称性指標を次式のように定義する。
ここで、(cosφ)V11と(cosφ)V12は、以下のように計算された電圧位相角差φの余弦関数値である。
上記(134)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、ゲージ双電圧対称性指標は零である。
一方、ゲージ双電圧対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値V2BRK1に対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて測定値(電圧位相角差)をラッチする。
また、ノイズの影響を低減したい場合には、複数のサンプリングデータを用いればよい。複数のゲージ双有効電圧群におけるゲージ双有効電圧の計算式は、次式の通りである。
また、複数のゲージ双無効電圧群におけるゲージ双無効電圧の計算式は、次式の通りである。
なお、各端子における電圧瞬時値の時系列データは、次式を用いて求められる。
ここで、各端子における電圧ベクトルの時系列データは、次式を用いて求められる。
(ゲージ双差分電圧群、ゲージ双差分有効電圧群およびゲージ双差分無効電圧群)
図7は、複素平面上のケージ双差分電圧群を示す図である。図7には、端子1において、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する電圧瞬時値V1の3つの差分電圧ベクトルv12(t),v12(t-T),v12(t-2T)と、端子2において、複素平面上に実周波数で反時計回りに回転する電圧瞬時値V2の2つの差分電圧ベクトルv22(t-T),v22(t-2T)とが示されている。これら3つの電圧ベクトルv12(t),v12(t-T),v12(t-2T)と、2つの電圧ベクトルv22(t-T),v22(t-2T)は、それぞれ次式および次々式のように表すことができる。
ここで、端子1における3つの差分電圧ベクトルv12(t),v12(t-T),v12(t-2T)と、端子2における2つの差分電圧ベクトルv22(t-T),v22(t-2T)を「ゲージ双差分電圧群」と定義する。また、ゲージ双差分電圧群を成す回転ベクトルのうち、2つの差分電圧ベクトルv12(t),v12(t-T)と、2つの差分電圧ベクトルv22(t-T),v22(t-2T)を「ゲージ双差分有効電圧群」と定義し、2つの差分電圧ベクトルv12(t-T),v12(t-2T)と、2つの差分電圧ベクトルv22(t-T),v22(t-2T)を「ゲージ双差分無効電圧群」と定義する。
(ケージ双差分有効電圧)
上記ゲージ双差分有効電圧群を用いてゲージ双差分有効電圧を次式のように定義する。
ここで、端子1の電圧瞬時値v121,v122は、それぞれ差分電圧ベクトルv12(t),v12(t-T)の実数部であり、次式のように計算される。
同様に、端子2の電圧瞬時値v222,v223は、それぞれ差分電圧ベクトルv22(t-T),v22(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
上記(144),(145)式を上記(143)式に代入すれば、ゲージ双差分有効電圧を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ双差分有効電圧の計算式は、次式のように表すことができる。
(ケージ双差分無効電圧)
上記ケージ双差分無効電圧群を用いてゲージ双差分無効電圧を次式のように定義する。
ここで、端子1の差分電圧瞬時値v122,v123は、それぞれ差分電圧ベクトルv12(t-T),v12(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
なお、端子2の差分電圧瞬時値v222,v223は、(145)式のように定義されており、この(145)式と上記(149)式を上記(148)式に代入すれば、ゲージ双差分無効電圧を表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ双差分無効電圧の計算式は、次式のように表すことができる。
上記(147)式と(151)式とから、端子1,2間の電圧位相角差φの余弦関数値および正弦関数値は、次式を用いて計算することができる。上記により、電圧位相角差の余弦関数値および正弦関数値は次式を用いて計算することができる。
よって、電圧位相角差φは、上式を用いて、次式のように求められる。
なお、端子1,2における各ゲージ差分電圧と各差分電圧振幅との間には、次式の関係がある。
なお、次式に示すように、Vpgd,Vqgd,fCを用いて電圧位相角差φを直接的に計算することも可能である。
(ゲージ双差分電圧対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標としてゲージ双差分電圧を用いる手法について説明する。ゲージ双差分電圧対称性指標を次式のように定義する。
ここで、(cosφ)V21と(cosφ)V22は、以下のように計算された電圧位相角差φの余弦関数値である。
上記(156)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、ゲージ双差分電圧対称性指標は零である。
一方、ゲージ双差分電圧対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値V2BRK2に対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて測定値(電圧位相角差)をラッチする。
また、ノイズの影響を低減したい場合には、複数のサンプリングデータを用いればよい。複数のゲージ双差分有効電圧群におけるゲージ双差分有効電圧の計算式は、次式の通りである。
また、複数のゲージ双差分無効電圧群におけるゲージ双差分無効電圧の計算式は、次式の通りである。
なお、各端子における電圧瞬時値の時系列データは、次式を用いて求められる。
ここで、各端子における電圧ベクトルの時系列データは、次式を用いて求められる。
以上の説明は、ケージ双電流群およびケージ双差分電流群に対しても適用可能である。式の展開については省略する。
なお、上記のように電圧位相角差を求めるとき、端子1,2における実周波数は同じであると想定したが、端子1,2の周波数が異なる場合には、下述する空間同期フェーザを用いることが好ましい。
(同期フェーザ)
図8は、複素平面上の同期フェーザ群を示す図である。図8の複素平面上には、実周波数で反時計回りに回転する3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)と、2つの固定単位ベクトルv10(0),v10(1)とが示されている。ここで、3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)は、次式で表すことができる。
上記した「用語の意味」において示したように、同期フェーザは、複素平面上を反時計周りに回転する電圧ベクトルあるいは電流ベクトルの絶対位相角である。絶対位相角で有るがゆえに、同期フェーザは時々刻々と変化する時間依存量である。よって、同期フェーザをそのまま表現したのでは、回転位相角に依存して変化する成分と、時間に依存して変化する成分とが含まれてしまう。そこで、上記(163)式では、時間を停止させたある時点における絶対位相角成分を示している。なお、電圧ベクトルに直流オフセットが含まれている場合、上記した計算手法を用いて直流オフセット成分を算出し、算出した直流オフセット成分を差し引いてキャンセルした後に、以下の処理を適用すればよい。
また、2つの固定単位ベクトルv10(0),v10(1)は、次式で表すことができる。
ここで、αはオンラインで決定される回転位相角である。
(ゲージ同期フェーザ群、ゲージ有効同期フェーザ群およびゲージ無効同期フェーザ群)
図8に示した3つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)と、2つの固定単位ベクトルv10(0),v10(1)を「ゲージ同期フェーザ群」と定義する。また、ゲージ同期フェーザ群を成すベクトルのうち、2つの電圧ベクトルv1(t-T),v1(t-2T)と、2つの固定単位ベクトルv10(0),v10(1)を「ゲージ有効同期フェーザ群」と定義し、2つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T)と、2つの固定単位ベクトルv10(0),v10(1)を「ゲージ無効同期フェーザ群」と定義する。
なお、「ゲージ有効同期フェーザ群」および「ゲージ無効同期フェーザ群」における「有効」、「無効」の語は、対称群である「ゲージ有効電力群」および「ゲージ無効電力群」の回転不変量の計算結果である「ゲージ有効電力」および「ゲージ無効電力」に似ているために付したものである。下述するゲージ差分同期フェーザ群、ゲージ差分有効同期フェーザ群およびゲージ差分無効同期フェーザ群についても同様である。ただし、ゲージ同期フェーザ群は、回転しているベクトルと(v1(t),v1(t-T),v1(t-2T))と、静止しているベクトル(v10(0),v10(1))とからなるのに対し、ゲージ電力群はすべてのベクトルが回転しているベクトル(v(t),v(t-T),v(t-2T),i(t-T),i(t-2T))からなるという点で構造的な差異がある。
(ゲージ有効同期フェーザおよびゲージ無効同期フェーザ)
上記ゲージ有効同期フェーザ群を用いてゲージ有効同期フェーザを次式のように定義する。
また、上記ゲージ無効同期フェーザ群を用いてゲージ無効同期フェーザを次式のように定義する。
上記(165),(166)式における電圧瞬時値v11,v12,v13は、それぞれ電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
同様に、2つの固定単位ベクトルの瞬時値v100,v101は、それぞれ固定単位ベクトルv10(0),v10(1)の実数部であり、次式のように計算される。
上記(167)式のv11,v12と、上記(168)式のv100,v101を上記(165)式に代入すれば、ゲージ有効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ有効同期フェーザの計算式は、次式のように表すことができる。
また、上記(167)式のv12,v13と、上記(168)式のv100,v101を上記(166)式に代入すれば、ゲージ無効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ無効同期フェーザの計算式は、次式のように表すことができる。
上記(170),(172)式では、周波数依存量V,αと、時間依存量φとが1つの計算式に表現されている。
(電圧ベクトルの虚数部での計算)
上記では、電圧ベクトルの実数部を用いて計算したが、電圧ベクトルの虚数部を用いてもよい。以下に、電圧ベクトルの虚数部を用いる計算式を提示する。
まず、電圧瞬時値v11,v12,v13を電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T)の虚数部瞬時値とすると、次式のように計算される。
同様に、固定単位ベクトルの瞬時値v100,v101も固定単位ベクトルv10(0),v10(1)の虚数部瞬時値とすると、次式のように計算される。
上記(173)式のv11,v12と、上記(174)式のv100,v101を上記(165)式に代入すれば、ゲージ有効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
また、上記(173)式のv12,v13と、上記(174)式のv100,v101を上記(166)式に代入すれば、ゲージ無効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
上記(169)式と(175)式とは一致する。また、上記(171)式と(176)式とは一致する。このように、電圧ベクトルの実数部を用いても、虚数部を用いても結果は一致している。このことは、交流正弦波の同期フェーザが対称性を有していることを意味している。
(同期フェーザ余弦関数法)
上記(170)式と(172)式とにより、次式の関係が得られる。
上式により、同期フェーザの余弦関数は、次式で表される。
よって、同期フェーザは、次式を用いて求められる。
このように、同期フェーザは−180度から+180度で変化し、時間依存量であることがわかる。
(同期フェーザ正接関数法)
上記(177)式を用いると、次式の関係が得られる。
上式により、同期フェーザの正接関数は、次式で表される。
よって、同期フェーザは、次式を用いて求められる。
この(182)式には、電圧振幅変数Vが存在しない。よって、入力波形が対称であれば、対称性の要求から(179)式と(182)式の結果は等しくなる筈である。よって、(179)式と(182)式の計算結果が異なる場合には、入力波形の対称性が破れ、入力波形は純粋な正弦波ではないとの判定が可能となる。なお、これらの式の性質を利用した同期フェーザ対称性指標については後述する。
(複数のサンプリングデータによるゲージ有効同期フェーザの計算式)
複数のサンプリンデータ(サンプリング点数n)を有する場合のゲージ有効同期フェーザの計算式は、次式で与えられる。
上式において、v1kは電圧瞬時値の時系列データである。また、v10kは次式および次々式で表される固定単位ベクトル群のメンバーである。
(複数のサンプリングデータによるゲージ無効同期フェーザの計算式)
複数のサンプリンデータ(サンプリング点数n)を有する場合のゲージ無効同期フェーザの計算式は、次式で与えられる。
(電圧ベクトルの複素数表現)
まず、電圧ベクトルの実数部と虚数部は、次式のように表せる。
ここで、vreとvimは、それぞれ電圧ベクトルの実数部と虚数部であり、(172),(178)式などを用いて、次式のように計算される。
この(188)式は非常に重要な式であり、電圧ベクトルの実数部が電圧基本波瞬時値であることを意味している。この(188)式を用いれば、時系列データから直接的に電圧ベクトルの実数部および虚数部を計算することができる。
上記(188)式を周波数係数fCを用いた式に変換すると、電圧ベクトルの実数部と虚数部は、次式で表される。
上記(189)式により、電圧振幅Vは、次式のように計算することができる。
また、次式に示すように、SAP,SAQ,fCを用いて同期フェーザφの余弦関数を直接的に計算することも可能である。
(同期フェーザ余弦関数対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として同期フェーザの余弦関数を用いる手法について説明する。同期フェーザ余弦関数対称性指標を次式のように定義する。
ここで、(cosφ)SP11と(cosφ)SP12は、以下のように計算された同期フェーザφの余弦関数値である。
上記(193)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、同期フェーザ余弦関数対称性指標は零である。
一方、同期フェーザ余弦関数対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値SPSsym1に対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて測定値をラッチする。
以上の説明は、電流ベクトルおよびその電流振幅に対しても適用可能である。式の展開については省略する。
同期フェーザに関するここまでの説明は、実周波数が未知、すなわち実周波数が必ずしも定格周波数ではないことを前提とした説明であった。一方、同期フェーザに関するこれ以降の説明は、実周波数が既知、すなわち実周波数が定格周波数であるか、もしくは定格周波数(50Hzまたは60Hz)の近辺で変動しているが定格周波数と見なせる状態にあるとした説明を行う。この仮定により、種々の監視制御装置での高速計測が可能となり、例えばスマートメータへの適用も可能となる。
(α=90°の場合)
回転位相角α=90°の場合とは、例えば50Hzの系統であればサンプリング周波数200Hzを意味し、60Hzの系統であればサンプリング周波数240Hzを意味する。このとき、固定単位ベクトル群を構成する各メンバーの実数値は、次式に示す通りである。
ここで、k=n−2,nはサンプリング点数である。
また、ゲージ有効同期フェーザは次式を用いて計算できる。
ここで、v1Kは電圧瞬時値の時系列データである。
また、ゲージ無効同期フェーザは次式を用いて計算できる。
ここで、v1(K-1)は電圧瞬時値の時系列データである。
(α=90°の場合の電圧ベクトルの複素数表現)
α=90°の場合、(188)式から、電圧ベクトルの実数部と虚数部であるvreとvimは、それぞれ次式のように簡略化できる。
したがって、電圧振幅Vは以下のように計算することができる。
上述した同期フェーザ余弦関数法による計算式である(179)式を用いれば、同期フェーザは、次式を用いて計算できる。
なお、日本国における一般的な保護制御装置では、30°サンプリング(α=30°)が広く利用されている。α=30°の場合も、上記と同じように、電圧振幅、同期フェーザ、ゲージ有効同期フェーザおよびゲージ無効同期フェーザなどの計算式を導くことができる。なお、具体的な式展開については上記と同様であるため、ここでの説明は省略する。
(電圧振幅対称性指標2)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として電圧振幅を用いる手法のうちの第2の指標(電圧振幅称性指標2)について説明する。電圧振幅対称性指標2を次式のように定義する。
ここで、VSAとVgdAは、以下のようにそれぞれゲージ同期フェーザ群とゲージ差分電圧群により計算された電圧振幅である。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(201)式に示される電圧振幅対称性指標2は零である。
一方、電圧振幅対称性指標2が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値VBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて、測定値である回転位相角、周波数、電圧振幅などをラッチする。
なお、電圧振幅対称性指標2の考えは、電流振幅に対しても同様に適用可能である。式の展開については省略する。
(同期フェーザ対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として同期フェーザを用いる手法について説明する。同期フェーザ対称性指標を次式のように定義する。
ここで、φcosAとφtanAは、以下のようにそれぞれ同期フェーザ余弦関数法と同期フェーザ正接関数法により計算された同期フェーザである。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(204)式に示される同期フェーザ対称性指標は零である。
一方、同期フェーザ対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値φBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。このとき、同期フェーザは次のように推定する。
ここで、φtとφt-Tは、それぞれ現時点の同期フェーザと、1ステップ前の同期フェーザである。また、fは実周波数、Tはサンプリング周波数1サイクルである。なお、ここで提示した同期フェーザの推定値には、様々な用途がある。後述する実施の形態13では、瞬時値推定手法を紹介する。
(差分同期フェーザ)
図9は、複素平面上の差分同期フェーザ群を示す図である。図9の複素平面上には、実周波数で反時計回りに回転する3つの差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)と、2つの固定差分単位ベクトルv20(0),v20(1)とが示されている。ここで、3つの差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)と、2つの固定差分単位ベクトルv20(0),v20(1)は次式および次々式で表すことができる。
(ゲージ差分同期フェーザ群、ゲージ差分有効同期フェーザ群およびゲージ差分無効同期フェーザ群)
図9に示した3つの差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)と、2つの固定差分単位ベクトルv20(0),v20(1)を「ゲージ差分同期フェーザ群」と定義する。また、ゲージ差分同期フェーザ群を成すベクトルのうち、2つの差分電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)と、2つの固定差分単位ベクトルv20(0),v20(1)を「ゲージ差分有効同期フェーザ群」と定義し、2つの電圧ベクトルv2(t-T),v2(t-2T)と、2つの固定単位ベクトルv20(0),v20(1)を「ゲージ差分無効同期フェーザ群」と定義する。
(ゲージ差分有効同期フェーザおよびゲージ差分無効同期フェーザ)
上記ゲージ差分有効同期フェーザ群を用いてゲージ差分有効同期フェーザを次式のように定義する。
また、上記ゲージ差分無効同期フェーザ群を用いてゲージ差分無効同期フェーザを次式のように定義する。
上記(209),(210)式における電圧瞬時値v11,v12,v13は、それぞれ差分電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)の実数部であり、次式のように計算される。
同様に、2つの固定単位ベクトルの瞬時値v200,v201は、それぞれ固定差分単位ベクトルv20(0),v20(1)の実数部であり、次式のように計算される。
上記(211)式のv21,v22と、上記(212)式のv200,v201を上記(209)式に代入すれば、ゲージ差分有効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ差分有効同期フェーザの計算式は、次式のように表すことができる。
また、上記(211)式のv20,v21と、上記(212)式のv200,v201を上記(210)式に代入すれば、ゲージ差分無効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
すなわち、ゲージ差分無効同期フェーザの計算式は、次式のように表すことができる。
(差分電圧ベクトルの虚数部での計算)
上記では、差分電圧ベクトルの実数部を用いて計算したが、差分電圧ベクトルの虚数部を用いてもよい。以下に、差分電圧ベクトルの虚数部を用いる計算式を提示する。
まず、電圧瞬時値v21,v22,v23を電圧ベクトルv2(t),v2(t-T),v2(t-2T)の虚数部瞬時値とすると、次式のように計算される。
同様に、固定単位ベクトルの瞬時値v200,v201も固定単位ベクトルv20(0),v20(1)の虚数部瞬時値とすると、次式のように計算される。
上記(217)式のv21,v22と、上記(218)式のv200,v201を上記(209)式に代入すれば、ゲージ差分有効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
また、上記(217)式のv20,v21と、上記(218)式のv200,v201を上記(209)式に代入すれば、ゲージ差分無効同期フェーザを表す計算式は次式のように変換される。
上記(214)式と(219)式とは一致する。また、上記(216)式と(220)式とは一致する。このように、差分電圧ベクトルの実数部を用いても、虚数部を用いても結果は一致している。このことは、交流正弦波の差分同期フェーザが対称性を有していることを意味している。
(差分同期フェーザ余弦関数法)
上記(214)式と(216)式とにより、次式の関係が得られる。
上式により、差分同期フェーザの余弦関数は、次式で表される。
よって、差分同期フェーザは、次式を用いて求められる。
上式によって求められる差分同期フェーザは、差分電圧ベクトルを利用して計算しているため、電圧波形における直流オフセットの影響が小さいという利点がある。
(差分同期フェーザ正接関数法)
上記(221)式を用いると、次式の関係が得られる。
上式により、差分同期フェーザの正接関数は、次式で表される。
よって、差分同期フェーザは、次式を用いて求められる。
上式によって求められる差分同期フェーザは、差分電圧ベクトルを利用して計算しているため、電圧波形における直流オフセットの影響が小さいという利点がある。
(複数のサンプリングデータによるゲージ差分有効同期フェーザの計算式)
複数のサンプリンデータ(サンプリング点数n)を有する場合のゲージ差分有効同期フェーザの計算式は、次式で与えられる。
上式において、v2kは差分電圧瞬時値の時系列データである。また、v20kは次式および次々式で表される固定差分単位ベクトル群のメンバーである。
(複数のサンプリングデータによるゲージ差分無効同期フェーザの計算式)
複数のサンプリンデータ(サンプリング点数n)を有する場合のゲージ差分無効同期フェーザの計算式は、次式で与えられる。
(電圧ベクトルの複素数表現)
まず、電圧ベクトルの実数部vreと、虚数部vimは、(216),(222)式などを用いて、次式のように表せる。
この(231)式は非常に重要な式であり、時系列データから直接的に電圧ベクトルの実数部および虚数部を計算することができる。
上記(231)式を周波数係数fCを用いた式に変換すると、電圧ベクトルの実数部と虚数部は、次式で表される。
上記(232)式により、電圧振幅Vは、次式のように計算することができる。
また、次式に示すように、SDP,SDQ,fCを用いて同期フェーザφの余弦関数を直接的に計算することも可能である。
(差分同期フェーザ余弦関数対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として差分同期フェーザの余弦関数を用いる手法について説明する。差分同期フェーザ余弦関数対称性指標を次式のように定義する。
ここで、(cosφ)SP21と(cosφ)SP22は、以下のように計算された同期フェーザφの余弦関数値である。
上記(236)式において、入力波形が純粋な正弦波であれば、同期フェーザ余弦関数対称性指標は零である。
一方、差分同期フェーザ余弦関数対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値SPSsym2に対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて測定値をラッチする。
以上の説明は、電流ベクトルおよびその電流振幅に対しても適用可能である。式の展開については省略する。
差分同期フェーザに関するここまでの説明は、実周波数が未知、すなわち実周波数が必ずしも定格周波数ではないことを前提とした説明であった。一方、差分同期フェーザに関するこれ以降の説明は、実周波数が既知、すなわち実周波数が定格周波数であるか、もしくは定格周波数(50Hzまたは60Hz)の近辺で変動しているが定格周波数と見なせる状態にあるとした説明を行う。この仮定により、種々の監視制御装置での高速計測が可能となり、例えばスマートメータへの適用も可能となる。
(α=90°の場合)
回転位相角α=90°の場合とは、例えば50Hzの系統であればサンプリング周波数200Hzを意味し、60Hzの系統であればサンプリング周波数240Hzを意味する。このとき、固定単位ベクトル群を構成する各メンバーの実数値は、次式に示す通りである。
ここで、k=n−2,nはサンプリング点数である。
ここで、上記(170),(172),(214),(216)式より、次式が成立する。
そこで、入力交流電圧の対称性破れを判定するための判定式として、以下に示す判定式を提案する。
ここで、εは整定値である。上式を満足する場合、入力交流波形の対称性が破れていると判定する。この場合、例えば下述する同期フェーザの計算結果を採用することなく、前ステップの値をラッチする処理を行うことが好ましい。
(α=90°の場合の電圧ベクトルの複素数表現)
α=90°の場合、(231)式から、電圧ベクトルの実数部と虚数部であるvreとvimは、それぞれ次式のように簡略化できる。
したがって、電圧振幅Vは以下のように計算することができる。
上述した同期フェーザ余弦関数法による計算式である(223)式を用いれば、同期フェーザは、次式を用いて計算できる。
なお、日本における一般的な保護制御装置では、30°サンプリング(α=30°)が広く利用されている。α=30°の場合も、上記と同じように、電圧振幅、同期フェーザ、ゲージ差分有効同期フェーザおよびゲージ差分無効同期フェーザなどの計算式を導くことができる。具体的な式展開については上記と同様であるため、ここでの説明は省略する。
また、上述したように、電圧振幅および同期フェーザは、ゲージ同期フェーザ群またはゲージ差分同期フェーザ群の何れかを用いて算出可能である。ただし、これらの両手法を用いることができる場合、入力波形の直流オフセットの影響を受けない差分同期フェーザ群を用いた算出手法を適用することが好ましい。
なお、以上の説明は、電流ベクトルによる同期フェーザーの計算処理に対する適用可能である。式の展開については省略する。
(電圧振幅対称性指標3)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として電圧振幅を用いる手法のうちの第3の指標(電圧振幅称性指標3)について説明する。電圧振幅対称性指標3を次式のように定義する。
ここで、VSDとVgdAは、以下のようにそれぞれゲージ差分同期フェーザ群とゲージ差分電圧群により計算された電圧振幅である。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(244)式に示される電圧振幅対称性指標3は零である。
一方、電圧振幅対称性指標3が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値VBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて、測定値である回転位相角、周波数、電圧振幅などをラッチする。
なお、電圧振幅対称性指標3の考えは、電流振幅に対しても同様に適用可能である。式の展開については省略する。
(電圧振幅対称性指標4)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として電圧振幅を用いる手法のうちの第4の指標(電圧振幅称性指標4)について説明する。電圧振幅対称性指標4を次式のように定義する。
ここで、VSAとVSDは、以下のようにそれぞれゲージ同期フェーザ群とゲージ差分同期フェーザ群により計算された電圧振幅である。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(247)式に示される電圧振幅対称性指標4は零である。
一方、電圧振幅対称性指標4が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値VBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。この場合、必要に応じて、測定値である回転位相角、周波数、電圧振幅などをラッチする。
なお、電圧振幅対称性指標4の考えは、電流振幅に対しても同様に適用可能である。式の展開については省略する。
(同期フェーザ対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として差分同期フェーザを用いる手法について説明する。差分同期フェーザ対称性指標を次式のように定義する。
ここで、φcosDとφtanDは、それぞれ差分同期フェーザ余弦関数法と差分同期フェーザ正接関数法により計算された同期フェーザである。
入力波形が純粋な正弦波であれば、(250)式に示される差分同期フェーザ対称性指標は零である。
一方、差分同期フェーザ対称性指標が所定の閾値より大きい場合、すなわち、閾値φBRKに対して次式の関係にある場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。このとき、同期フェーザは、上述した(206)式を用いて推定する。
(ゲージ有効無効同期フェーザ対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標としてゲージ有効無効同期フェーザを用いる手法について説明する。
まず、(239)式にも示しているが、上記(170),(172),(214),(216)式より、次式が成立する。
ここで、SAPとSDPは、それぞれゲージ有効同期フェーザおよびゲージ差分有効同期フェーザであり、SAQとSDQは、それぞれゲージ無効同期フェーザおよびゲージ差分無効同期フェーザである。
ここで、(252)式の第1項と第2項の差の絶対値をゲージ有効無効同期フェーザ対称性指標と定義するとき、この差分同期フェーザ対称性指標SADsymが次式に示すように所定の閾値φBRKよりも小さい場合、入力波形は正弦波であると判定する。
一方、差分同期フェーザ対称性指標SADsymが所定の閾値φBRKよりも大きい場合、入力波形は対称性が破れ、純粋な正弦波ではないと判定する。
(電圧基本波瞬時値の推定)
電圧基本波瞬時値は、電圧ベクトルの実数部であり、上記(189)式に示すように次式で表される。
ここで、Vは電圧振幅、φVは電圧の同期フェーザ、SAPはゲージ有効同期フェーザ、SAQとはゲージ無効同期フェーザ、fCは周波数係数である。
上記の計算手法を好適に組み合わせれば、算出した電圧振幅および同期フェーザ自身が、直流オフセット、非正弦波波形、相関性ガウス雑音などの影響を排除しているため、高精度な電圧基本波瞬時値が得られる。
同様に、電流基本波瞬時値は、電圧ベクトルの実数部であり、上記(189)式と同様な次式で表される。
ここで、Iは電圧振幅、φIは電流の同期フェーザ、SAPはゲージ有効同期フェーザ、SAQはゲージ無効同期フェーザ、fCは周波数係数である。
なお、(254)式におけるSAP,SAQと、(255)式におけるSAP,SAQとは、記号が同一であるが、記号の中身(値)は異なる。(254)式のSAP,SAQは、電圧データにより計算された値を有し、fCも電圧データを用いて計算されたものである。これらに対し、(255)式のSAP,SAQは、電流データにより計算された値を有し、fCも電流データを用いて計算されたものである。後述する実施の形態14では、アクティブフィルタへの適用例について説明する。
(THD指標)
電力品質(power quality)の監視のため、以下に示す2つのTHD指標を提案する。なお、THD指標の値が小さいとき程、電力品質が高いことを意味する。逆に、THD指標の値が大きい場合、電力品質が低下していることを意味し、具体的には、電圧波形/電流波形に高調波ノイズ、電圧フリッカなどが存在することを表している。
(電圧THD指標)
電力品質を評価するための指標の1つである電圧THD指標を次式のように定義する。
ここで、vLKは実電圧瞬時値、vrekは、上記で計算された電圧基本波瞬時値、dVは電圧直流オフセットである。また、Nは電力系統における定格周波数1サイクル間のサンプリング数であり、次式を用いて計算される。
ここで、fSはサンプリング周波数、f0は定格周波数である。「int」は整数部分を取り出す関数である。
同様に、電力品質を評価するための他の指標である電流THD指標を次式のように定義する。
ここで、iLKは実電流瞬時値、irekは、上記(255)式で計算された電流基本波瞬時値、dIは電流直流オフセットである。また、N,fS,f0は上記で説明した通りである。
上記で提示した各種計算式は、種々の交流電気量測定装置に適用可能である。以下に交流電気量測定装置の応用例として14個の実施の形態を提示する。なお、本発明が、これらの実施の形態に限定されるものでないことは言うまでもない。
(実施の形態1)
図10は、実施の形態1に係る電力測定装置の機能構成を示す図であり、図11は、この電力測定装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図10に示すように、実施の形態1に係る電力測定装置101は、交流電圧電流瞬時値データ入力部102、周波数係数算出部103、ゲージ有効電力算出部104、ゲージ無効電力算出部105、有効電力及び無効電力算出部106、皮相電力算出部107、力率算出部108、対称性破れ判別部109、インターフェース110および、記憶部111を備えて構成される。ここで、インターフェース110は、演算結果等を表示装置や外部装置に出力する処理を行い、記憶部111は、計測データや演算結果などを記憶する処理を行う。
上記の構成において、交流電圧電流瞬時値データ入力部102は、電力系統に設けられた計器用変圧器(PT)および変流器(CT)からの電圧瞬時値および電流瞬時値を読み出す処理を行う(ステップS101)。なお、読み出された電圧瞬時値および電流瞬時値の各データは、記憶部111に格納される。
周波数係数算出部103は、上述した計算処理に基づき、周波数係数を算出する(ステップS102)。この周波数係数の算出処理については、上述した計算処理の概念も含めて総括的に説明すると、つぎのように説明できる。すなわち、周波数係数算出部103は、標本化定理を満足させるため、測定対象となる交流電圧の周波数の2倍以上のサンプリング周波数でサンプリングされた連続する少なくとも4点の電圧瞬時値データにおける隣接する2点の電圧瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電圧瞬時値データのうち、中間時刻以外の差分電圧瞬時値の和の平均値を中間時刻における差分電圧瞬時値で正規化した値を周波数係数として算出する処理を行う。
ゲージ有効電力算出部104は、上述した計算処理に基づき、ゲージ有効電力を算出する(ステップS103)。このゲージ有効電力算出部104の処理についても、つぎのように総括的に説明することができる。すなわち、ゲージ有効電力算出部104は、上記サンプリング周波数でサンプリングされた連続する所定3点の電圧瞬時値データのうちの測定時刻の早い2点の電圧瞬時値データと、当該サンプリング周波数でサンプリングされ、当該所定3点の電圧瞬時値と同一時刻でサンプリングされた3点の電流瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の差分電流瞬時値データとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ有効電力として算出する処理を行う。
ゲージ無効電力算出部105は、上述した計算処理に基づき、ゲージ無効電力を算出する(ステップS104)。より詳細かつ総括的に説明すると、ゲージ無効電力算出部105は、上記サンプリング周波数でサンプリングされた連続する所定3点の電圧瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の電圧瞬時値データと、当該サンプリング周波数でサンプリングされ、当該所定3点の電圧瞬時値と同一時刻でサンプリングされた3点の電流瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の差分電流瞬時値データとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ無効電力として算出する処理を行う。
有効電力及び無効電力算出部106は、周波数係数算出部103にて算出された周波数係数、ゲージ有効電力算出部104にて算出されたゲージ有効電力および、ゲージ無効電力算出部105にて算出されたゲージ無効電力を用いて有効電力を算出する(ステップS105)。また、有効電力及び無効電力算出部106は、周波数係数算出部103にて算出された周波数係数および、ゲージ無効電力算出部105にて算出されたゲージ無効電力を用いて無効電力を算出する(ステップS105)。
皮相電力算出部107は、周波数係数算出部103にて算出された周波数係数、ゲージ有効電力算出部104にて算出されたゲージ有効電力および、ゲージ無効電力算出部105にて算出されたゲージ無効電力を用いて皮相電力を算出する(ステップS106)。
力率算出部108は、周波数係数算出部103にて算出された周波数係数、ゲージ有効電力算出部104にて算出されたゲージ有効電力および、ゲージ無効電力算出部105にて算出されたゲージ無効電力を用いて力率を算出する(ステップS107)。
対称性破れ判別部109は、例えばゲージ電力対称性指標を用いて対称性の破れを判定する(ステップS108)。対称性の破れを判定しない場合(ステップS108,No)、ステップS110に移行する。一方、対称性の破れを判定した場合(ステップS108,Yes)、測定値(計算値)をラッチし(ステップS109)、その後ステップS110に移行する。なお、対称性の破れを判定する判定指標として、ゲージ電力対称性指標以外のものを用いても構わない。
最後のステップS110では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS110,No)、ステップS101〜S109までの処理を繰り返す。
なお、上記では、周波数係数、有効電力、無効電力、皮相電力および力率を差分電圧瞬時値データおよび差分電流瞬時値データに基づいて算出することとしたが、上述の計算処理にも示すように電圧瞬時値データおよび電流瞬時値データに基づいて算出するようにしてもよい。
なお、電圧瞬時値データおよび電流瞬時値データに基づいて算出する場合における周波数係数算出部103、ゲージ有効電力算出部104および、ゲージ無効電力算出部105に関する総括的な処理の内容は、以下の通りである。
ゲージ有効電力算出部104は、上記サンプリング周波数でサンプリングされた連続する所定3点の電圧瞬時値データのうちの測定時刻の早い2点の電圧瞬時値データと、当該サンプリング周波数でサンプリングされ、当該所定3点の電圧瞬時値と同一時刻でサンプリングされた3点の電流瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の差分電流瞬時値データとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ有効電力として算出する処理を行う。
ゲージ無効電力算出部105は、上記サンプリング周波数でサンプリングされた連続する所定3点の電圧瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の電圧瞬時値データと、当該サンプリング周波数でサンプリングされ、当該所定3点の電圧瞬時値と同一時刻でサンプリングされた3点の電流瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の差分電流瞬時値データとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ差分無効電力として算出する処理を行う。
なお、同期フェーザの計測結果を利用した電力計算は、以下の流れとなる。まず、電圧電流間位相角は次式を用いて求められる。
ここで、φVとφiは、それぞれ電圧同期フェーザおよび電流同期フェーザである。また、複素電力Wは、有効電力Pおよび無効電力Qを用いて次式のように表され、
有効電力Pおよび無効電力Qは、それぞれ電圧振幅V、電流振幅Iおよび同期フェーザφViを用いて次式のように表されるので、
上記(261)の第1式から有効電力Pを算出することができ、第2式から無効電力Qを算出することができる。また、力率については、次式を用いて算出することができる。
(実施の形態2)
図12は、実施の形態2に係る距離保護装置の機能構成を示す図であり、図13は、この距離保護装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図12に示すように、実施の形態2に係る距離保護装置201は、交流電圧電流瞬時値データ入力部202、周波数係数算出部203、周波数算出部204、ゲージ電流算出部205、ゲージ有効電力算出部206、ゲージ無効電力算出部207、抵抗及びインダクタンス算出部208、ゲージ差分電流算出部209、ゲージ差分有効電力算出部210、ゲージ差分無効電力算出部211、抵抗及びインダクタンス算出部212、対称性破れ判別部213、距離算出部214、遮断器トリップ部215、インターフェース216および、記憶部217を備えて構成される。抵抗及びインダクタンス算出部208は、ゲージ電力群に基づく算出部であり、抵抗及びインダクタンス算出部212は、ゲージ差分電力群に基づく算出部である。インターフェース216は、演算結果等を表示装置や外部装置に出力する処理を行い、記憶部217は、計測データや演算結果などを記憶する処理を行う。なお、ゲージ電流算出部205に代えてゲージ電圧算出部を備える構成であってもよい。また、ゲージ差分電流算出部209に代えてゲージ差分電圧算出部を備える構成であってもよい。
上記の構成において、交流電圧電流瞬時値データ入力部202は、電力系統に設けられた計器用変圧器(PT)および変流器(CT)からの電圧瞬時値および電流瞬時値を読み出す処理を行う(ステップS201)。なお、読み出された電圧瞬時値および電流瞬時値の各データは、記憶部217に格納される。
周波数係数算出部203は、上述した計算処理に基づき、周波数係数を算出する(ステップS202)。この周波数係数の算出処理については、実施の形態1と同一もしくは同等である。周波数算出部204は、周波数係数およびサンプリング周波数に基づいて周波数(実周波数)を算出する(ステップS203)。
ゲージ電流算出部205は、上述した計算処理に基づき、ゲージ電流を算出する(ステップS204)。このゲージ電流の演算処理については、上述した計算処理の概念も含めて総括的に説明すると、つぎのように説明できる。すなわち、ゲージ電流算出部205は、標本化定理を満足させるため、測定対象となる交流電流の周波数の2倍以上のサンプリング周波数でサンプリングされた連続する少なくとも3点の電流瞬時値データの例えば二乗積分演算により求めた電流振幅を交流電流の振幅値で正規化してゲージ電流として算出する処理を行う。なお、上述した計算式では、二乗積分演算として、3点の電圧瞬時値データのうち、中間時刻における電圧瞬時値の2乗値と、中間時刻以外の電圧瞬時値積との差を平均する式を例示している。
ゲージ有効電力算出部206は、上述した計算処理に基づき、ゲージ有効電力を算出する(ステップS205)。また、ゲージ無効電力算出部207は、上述した計算処理に基づき、ゲージ無効電力を算出する(ステップS206)。なお、これらゲージ有効電力およびゲージ無効電力の算出処理については、実施の形態1と同一もしくは同等である。
抵抗及びインダクタンス算出部208は、周波数係数算出部203にて算出された周波数係数、ゲージ電流算出部205にて算出されたゲージ電流、ゲージ有効電力算出部206にて算出されたゲージ有効電力および、ゲージ無効電力算出部207にて算出されたゲージ無効電力を用いて抵抗を算出する(ステップS207)。また、抵抗及びインダクタンス算出部208は、周波数係数算出部203にて算出された周波数係数、ゲージ電流算出部205にて算出されたゲージ電流および、ゲージ無効電力算出部207にて算出されたゲージ無効電力を用いてインダクタンスを算出する(ステップS207)。
また、ゲージ差分電流算出部209は、上述した計算処理に基づき、ゲージ差分電流を算出する(ステップS208)。このゲージ差分電流算出部209についても、つぎのように総括的に説明することができる。すなわち、ゲージ差分電流算出部209は、上記サンプリング周波数でサンプリングされ、上記ゲージ電流を算出する際に用いた3点の電流瞬時値データを含む連続する少なくとも4点の電流瞬時値データにおける隣接する2点の電流瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電流瞬時値データの例えば二乗積分演算により求めた値を交流電流の振幅値で正規化してゲージ差分電流として算出する処理を行う。なお、上述した計算式では、二乗積分演算として、3点の差分電流瞬時値データのうち、中間時刻における差分電流瞬時値の2乗値と、中間時刻以外の差分電流瞬時値積との差を平均する式を例示している。
ゲージ差分有効電力算出部210は、上述した計算処理に基づき、ゲージ差分有効電力を算出する(ステップS209)。このゲージ差分有効電力算出部210の処理については、つぎのように総括的に説明することができる。すなわち、ゲージ差分有効電力算出部210は、上記サンプリング周波数でサンプリングされた連続する所定4点の電圧瞬時値データにおける隣接する2点の電圧瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電圧瞬時値データのうちの測定時刻の早い2点の差分電圧瞬時値データと、当該サンプリング周波数でサンプリングされ、当該所定4点の電圧瞬時値と同一時刻でサンプリングされた4点の電流瞬時値データにおける隣接する2点の電流瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電流瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の差分電流瞬時値データとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ差分有効電力として算出する処理を行う。
また、ゲージ差分無効電力算出部211は、上述した計算処理に基づき、ゲージ差分無効電力を算出する(ステップS210)。このゲージ差分無効電力算出部211の処理についても、つぎのように総括的に説明することができる。ゲゲージ差分無効電力算出部211は、上記サンプリング周波数でサンプリングされた連続する所定4点の電圧瞬時値データにおける隣接する2点の電圧瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電圧瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の差分電圧瞬時値データと、当該サンプリング周波数でサンプリングされ、当該所定4点の電圧瞬時値と同一時刻でサンプリングされた4点の電流瞬時値データにおける隣接する2点の電流瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電流瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の差分電流瞬時値データとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ差分無効電力として算出する処理を行う。
抵抗及びインダクタンス算出部212は、周波数係数算出部203にて算出された周波数係数、ゲージ差分電流算出部209にて算出されたゲージ差分電流、ゲージ差分有効電力算出部210にて算出されたゲージ差分有効電力および、ゲージ差分無効電力算出部211にて算出されたゲージ差分無効電力を用いて抵抗を算出する(ステップS211)。また、抵抗及びインダクタンス算出部212は、周波数係数算出部203にて算出された周波数係数、ゲージ差分電流算出部209にて算出されたゲージ差分電流および、ゲージ差分無効電力算出部211にて算出されたゲージ差分無効電力を用いてインダクタンスを算出する(ステップS211)。
対称性破れ判別部213は、例えばゲージ電力対称性指標を用いて対称性の破れを判定する(ステップS212)。対称性の破れを判定しない場合(ステップS212,No)、故障点までの距離(距離係数)を算出し(ステップS214)、さらに保護装置を起動するか否かを判定する(ステップS215)。ここで、保護装置を起動する(例えば距離が整定範囲内になる)と判定した場合(ステップS215,Yes)、遮断器をトリップして(ステップS216)、ステップS217に移行し、保護装置を起動しないと判定した場合(ステップS215,No)、遮断器をトリップせずにステップS217に移行する。また、対称性の破れを判定した場合(ステップS212,Yes)、測定値(計算値)をラッチし(ステップS213)、その後ステップS217に移行する。なお、対称性の破れを判定する判定指標として、ゲージ電力対称性指標以外のものを用いても構わない。
最後のステップS217では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS217,No)、ステップS201〜S216までの処理を繰り返す。
なお、上記ステップS203にて求めている周波数は、実周波数である。このため、実施の形態2の距離保護装置は、従来の距離保護装置と異なり、系統実周波数の自動補正が可能となる。したがって、事故によって系統周波数が変動している場合であっても、高精度な距離測定が可能となる。また、本実施の形態の距離保護装置は、具体的な距離測定値を提供しているため、事故点標定装置にも適用可能である。
なお、同期フェーザの計測結果を利用した距離保護演算は、以下の流れとなる。
まず、電圧電流間位相角をφviとし、電圧振幅および電流振幅をそれぞれV,Iとするとき、インピーダンスZは次式のように表され、
上記インピーダンスの実数部を成す抵抗と、虚数部を成すインダクタンスは、次式のように表されるので、
本装置を送電線の距離保護装置に適用した場合、距離保護装置が配置された場所から地絡点あるいは短絡点までの送電線の抵抗は上記(264)の第1式から算出することができ、地絡点あるいは短絡点までの送電線のインダクタンスは上記(264)の第2式から算出することができる。
(実施の形態3)
図14は、実施の形態3に係る脱調保護装置の機能構成を示す図であり、図15は、この脱調保護装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図14に示すように、実施の形態2に係る脱調保護装置301は、交流電圧電流瞬時値データ入力部302、周波数係数算出部303、ゲージ電流算出部304、ゲージ有効電力算出部305、ゲージ無効電力算出部306、脱調中心電圧算出部307、ゲージ差分電流算出部308、ゲージ差分有効電力算出部309、ゲージ差分無効電力算出部310、脱調中心電圧算出部311、対称性破れ判別部312、遮断器トリップ部313、インターフェース314および、記憶部315を備えて構成される。脱調中心電圧算出部307は、ゲージ電力群に基づく算出部であり、脱調中心電圧算出部311は、ゲージ差分電力群に基づく算出部である。インターフェース314は、演算結果等を表示装置や外部装置に出力する処理を行い、記憶部315は、計測データや演算結果などを記憶する処理を行う。
上記の構成において、交流電圧電流瞬時値データ入力部302は、電力系統に設けられた計器用変圧器(PT)および変流器(CT)からの電圧瞬時値および電流瞬時値を読み出す処理を行う(ステップS301)。なお、読み出された電圧瞬時値および電流瞬時値の各データは、記憶部315に格納される。
周波数係数算出部303は、上述した計算処理に基づき、周波数係数を算出する(ステップS302)。この周波数係数の算出処理については、実施の形態1,2と同一もしくは同等である。ゲージ電流算出部304は、上述した計算処理に基づき、ゲージ電流を算出する(ステップS303)。ゲージ有効電力算出部305は、上述した計算処理に基づき、ゲージ有効電力を算出する(ステップS304)。ゲージ無効電力算出部306は、上述した計算処理に基づき、ゲージ無効電力を算出する(ステップS305)。なお、これらゲージ電流、ゲージ有効電力およびゲージ無効電力の算出処理については、実施の形態2と同一もしくは同等である。
脱調中心電圧算出部307は、周波数係数算出部303にて算出された周波数係数、ゲージ電流算出部304にて算出されたゲージ電流、ゲージ有効電力算出部305にて算出されたゲージ有効電力および、ゲージ無効電力算出部306にて算出されたゲージ無効電力を用いて脱調中心電圧を算出する(ステップS306)。
ゲージ差分電流算出部308は、上述した計算処理に基づき、ゲージ差分電流を算出する(ステップS307)。ゲージ差分有効電力算出部309は、上述した計算処理に基づき、ゲージ差分有効電力を算出する(ステップS308)。ゲージ差分無効電力算出部310は、上述した計算処理に基づき、ゲージ差分無効電力を算出する(ステップS309)。なお、これらゲージ差分電流、ゲージ差分有効電力およびゲージ差分無効電力の算出処理については、実施の形態2と同一もしくは同等である。
脱調中心電圧算出部311は、周波数係数算出部303にて算出された周波数係数、ゲージ電流算出部304にて算出されたゲージ電流、ゲージ有効電力算出部305にて算出されたゲージ有効電力および、ゲージ無効電力算出部306にて算出されたゲージ無効電力を用いて脱調中心電圧を算出する(ステップS310)。
対称性破れ判別部312は、例えばゲージ電力対称性指標またはゲージ差分電力対称性指標を用いて対称性の破れを判定する(ステップS311)。ここで、対称性の破れを判定しない場合(ステップS311,No)、さらに脱調保護装置を起動するか否かを判定する(ステップS313)。ここで、脱調保護装置を起動する(例えば脱調中心電圧が整定値(例えば0.3PU)より小さい場合)と判定した場合(ステップS313,Yes)、遮断器をトリップして(ステップS314)、ステップS315に移行し、脱調保護装置を起動しないと判定した場合(ステップS313,No)、遮断器をトリップせずにステップS315に移行する。また、対称性の破れを判定した場合(ステップS311,Yes)、測定値(計算値)をラッチし(ステップS312)、その後ステップS315に移行する。なお、対称性の破れを判定する判定指標として、ゲージ電力対称性指標以外のもの、またはゲージ差分電力対称性指標以外のものを用いても構わない。
最後のステップS315では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS315,No)、ステップS301〜S314までの処理を繰り返す。
なお、実施の形態2では、フェーザの計測結果を距離保護装置に適用した実施形態を説明したが、実施の形態3においても、フェーザの計測結果を脱調保護装置に適用することが可能である。
(実施の形態4)
図16は、実施の形態4に係る時間同期フェーザ測定装置の機能構成を示す図であり、図17は、この時間同期フェーザ測定装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図16に示すように、実施の形態4に係る時間同期フェーザ測定装置401は、交流電圧瞬時値データ入力部402、周波数係数算出部403、ゲージ差分電圧算出部404、電圧振幅算出部405、回転位相角算出部406、周波数算出部407、直流オフセット算出部408、ゲージ有効同期フェーザ算出部409、ゲージ無効同期フェーザ算出部410、同期フェーザ算出部(余弦関数法)411、同期フェーザ算出部(正接関数法)412、対称性破れ判別部413、同期フェーザ推定部414、回転位相角ラッチ部415、周波数ラッチ部416、電圧振幅ラッチ部417、時間同期フェーザ算出部418、インターフェース419および、記憶部420を備えて構成される。インターフェース419は、演算結果等を表示装置や外部装置に出力する処理を行い、記憶部420は、計測データや演算結果などを記憶する処理を行う。なお、ゲージ有効同期フェーザ算出部409に代えてゲージ差分有効同期フェーザ算出部を備える構成であってもよい。また、ゲージ無効同期フェーザ算出部410に代えてゲージ差分無効同期フェーザ算出部を備える構成であってもよい。
上記の構成において、交流電圧瞬時値データ入力部402は、電力系統に設けられた計器用変圧器(PT)からの電圧瞬時値を読み出す処理を行う(ステップS401)。なお、読み出された電圧瞬時値データは、記憶部420に格納される。
周波数係数算出部403は、上述した計算処理に基づき、周波数係数を算出する(ステップS402)。この周波数係数の算出処理については、実施の形態1−3と同一もしくは同等である。
ゲージ差分電圧算出部404は、上述した計算処理に基づき、ゲージ差分電圧を算出する(ステップS403)。より詳細かつ総括的に説明すると、ゲージ差分電圧算出部404は、上記サンプリング周波数でサンプリングされ、測定対象となる交流電圧の周波数の2倍以上のサンプリング周波数でサンプリングされた連続する少なくとも4点の電圧瞬時値データにおける隣接する2点の電圧瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電圧瞬時値データの例えば二乗積分演算により求めた値を交流電圧の振幅値で正規化してゲージ差分電圧として算出する処理を行う。なお、上述した計算式では、二乗積分演算として、3点の差分電圧瞬時値データのうち、中間時刻における差分電圧瞬時値の2乗値と、中間時刻以外の差分電圧瞬時値積との差を平均する式を例示している。
電圧振幅算出部405は、周波数係数算出部403にて算出された周波数係数およびゲージ差分電圧算出部404にて算出されたゲージ差分電圧を用いて電圧振幅を算出する(ステップS404)。回転位相角算出部406は、周波数係数算出部403にて算出された周波数係数を用いて回転位相角を算出する(ステップS405)。周波数算出部407は、周波数係数算出部403にて算出された周波数係数を用いて周波数を算出する(ステップS406)。
直流オフセット算出部408は、上記ゲージ差分電圧を算出する際に用いた3点の差分電圧瞬時値データもしくは3点の差分電圧瞬時値データの元となる4点の電圧瞬時値データのうちの3点の電圧瞬時値データ、および周波数係数算出部403にて算出された周波数係数を用いて直流オフセットを算出する(ステップS407)。
ゲージ有効同期フェーザ算出部409は、上述した計算処理に基づき、ゲージ有効同期フェーザを算出する(ステップS408)。より詳細かつ総括的に説明すると、ゲージ有効同期フェーザ算出部409は、上記サンプリング周波数でサンプリングされた連続する3点の電圧瞬時値データのうちの測定時刻の遅い2点の電圧瞬時値データと、測定対象の交流電圧(交流電流)と同一の複素平面上にある第1の固定単位ベクトルと、この第1の固定単位ベクトルに対し回転位相角算出部406にて算出された回転位相角だけ遅れた第2の固定単位ベクトルとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ有効同期フェーザとして算出する処理を行う。
ゲージ無効同期フェーザ算出部410は、上述した計算処理に基づき、ゲージ無効同期フェーザを算出する(ステップS409)。より詳細かつ総括的に説明すると、ゲージ無効同期フェーザ算出部410は、上記ゲージ有効同期フェーザを算出する際に用いた3点の電圧瞬時値データのうちの測定時刻の早い2点の電圧瞬時値データと、上記ゲージ有効同期フェーザを算出する際に用いた第1、第2の固定単位ベクトルとによる所定の積差演算により求めた値をゲージ無効同期フェーザとして算出する処理を行う。
同期フェーザ算出部(余弦関数法)411は、上述した余弦関数法による計算処理を適用し、ゲージ有効同期フェーザ算出部409にて算出されたゲージ有効同期フェーザ、ゲージ無効同期フェーザ算出部410にて算出されたゲージ無効同期フェーザ、回転位相角算出部406にて算出された回転位相角および、電圧振幅算出部405にて算出された電圧振幅を用いて同期フェーザを算出する(ステップS410)。
また、同期フェーザ算出部(正接関数法)412は、上述した正接関数法による計算処理を適用し、ゲージ有効同期フェーザ算出部409にて算出されたゲージ有効同期フェーザ、ゲージ無効同期フェーザ算出部410にて算出されたゲージ無効同期フェーザおよび、回転位相角算出部406にて算出された回転位相角を用いて同期フェーザを算出する(ステップS411)。
対称性破れ判別部413は、例えば同期フェーザ対称性指標を用いて対称性の破れを判定する(ステップS412)。ここで、対称性の破れを判定した場合(ステップS412,Yes)、同期フェーザ推定部414にて同期フェーザが推定され(ステップS413)、回転位相角ラッチ部415にて回転位相角がラッチされ(ステップS414)、周波数ラッチ部416にて周波数がラッチされ(ステップS415)、電圧振幅ラッチ部417にて電圧振幅がラッチされ(ステップS416)、その後ステップS418に移行する。一方、対称性の破れを判定しない場合(ステップS412,Yes)、時間同期フェーザ算出部418にて時間同期フェーザが算出され(ステップS417)、その後ステップS418に移行する。なお、時間同期フェーザは現時点の同期フェーザと、1または数サイクル前の同期フェーザとの差分値であり、次式のように計算される。
ここで、φtは現時点の同期フェーザ、φt-T0は指定時刻(現時点よりも前の時刻T0)における同期フェーザである。
最後のステップS418では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS418,No)、ステップS401〜S417までの処理を繰り返す。
(実施の形態5)
図18は、実施の形態5に係る空間同期フェーザ測定装置の機能構成を示す図であり、図19は、この空間同期フェーザ測定装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図18に示すように、実施の形態5に係る空間同期フェーザ測定装置502は、同期フェーザ/時間スタンプ受信部503、空間同期フェーザ算出部504、制御信号送信部505、インターフェース506および、記憶部507を備えて構成される。この空間同期フェーザ測定装置502は、電力制御所などに配置される。また、図18には、変電所などに配置される同期フェーザ測定装置(Phasor Measurement Unit:PMU)501が設けられており(PMU1,PMU2)、これらの同期フェーザ測定装置501からの情報が通信回線508を通じて入力されるように構成されている。インターフェース506は、演算結果等を表示装置や外部装置に出力する処理を行い、記憶部507は、計測データや演算結果などを記憶する処理を行う。
上記の構成において、同期フェーザ/時間スタンプ受信部503は、他所に配置された同期フェーザ測定装置501が測定した同期フェーザと、同期フェーザに付された時間スタンプを受信する(ステップS501)。空間同期フェーザ算出部504は、自端の同期フェーザと他端の同期フェーザの差分値である空間同期フェーザを算出する(ステップS502)。この空間同期フェーザφSPは、次式のように計算される。
ここで、φ1は指定時刻における端子1の同期フェーザである。また、φ2は同一時刻における端子2の同期フェーザであり、次式のように算出される。
ここで、t1は端子1の同期フェーザの時間タグ(tag)であり、t2は端子2の同期フェーザの時間タグ(tag)である。これらの時間タグの値はGPSなどを活用し、UTC(universal time coordinated)と称される協定世界時を利用することが好ましい。
制御信号送信部505は、空間同期フェーザ算出部504にて算出された空間同期フェーザを用いて系統の安定/不安定を判定し、脱調などにより系統が不安定なった場合には制御信号を送信する(ステップS503)。
最後のステップS504では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS504,No)、ステップS501〜S503までの処理を繰り返す。
(実施の形態6)
図20は、実施の形態6に係る送電線パラメータ測定システムの機能構成を示す図であり、図21は、この送電線パラメータ測定システムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図20に示すように、実施の形態6に係る送電線パラメータ測定システムは、2台の同期フェーザ測定装置601(PMU1)および同期フェーザ測定装置602(PMU2)を備えて構成されている。同期フェーザ測定装置601,602には、送電線に設けられた計器用変圧器(PT)からの電圧瞬時値、変流器(CT)からの電流瞬時値、GPS装置からのGPS時刻信号などが入力される。端子2側にある同期フェーザ測定装置602は、自端の電圧振幅および同期フェーザを計測し、通信回線603を通じて端子1側にある同期フェーザ測定装置601に通知する。同期フェーザ測定装置601は、自端の電圧振幅および同期フェーザを算出すると共に(ステップS601)、同期フェーザ測定装置602の計測結果を受信し(ステップS602)、両者の計測結果を用いて送電線パラメータを計算する(ステップS603)。本願発明の提案技術によれば、両端の電圧・電流振幅および同期フェーザを測定することができる。
最後のステップS604では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS604,No)、ステップS601〜S603までの処理を繰り返す。
なお、図20の下段部に示すように送電線をπ型等価回路と見立てたときの送電線パラメータの算出手順は、以下の流れとなる。
まず、計器用変圧器(PT)および変流器(CT)による測定結果は、次式のように表される。
ここで、V1,V2,φV1,φV2は、それぞれ各端における電圧振幅、電圧同期フェーザであり、I1,I2,φI1,φI2は、それぞれ各端における電流振幅、電流同期フェーザである。また、送電線の線路パラメータであるアドミタンスは次式のように表される。
ここで、R1,R2は抵抗、Lはインダクタンス、Cはキャパシタンスである。また、キルヒホッフの法則よれば、回路方程式は次式のようになる。
この(270)式より、次の解が得られる。
よって、(269),(271)式より、送電線パラメータは以下のように得られる。
なお、上式において、「Re」、「Im」はそれぞれ複素数の実数部、虚数部をとることを意味する。また、fは実周波数である。
(実施の形態7)
図22は、実施の形態7に係る同期投入装置の機能構成を示す図であり、図23は、この同期投入装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図22に示すように、実施の形態7に係る同期投入装置701は、電圧計測部702、周波数算出部703、電圧振幅算出部704、電圧同期フェーザ算出部705、周波数比較部706、電圧振幅比較部707、空間同期フェーザ算出部708、同期投入操作遅れ時間算出部709、同期投入操作実施部710、インターフェース711および、記憶部712を備えて構成される。インターフェース711は、演算結果等を表示装置や外部装置に出力する処理を行い、記憶部712は、計測データや演算結果などを記憶する処理を行う。
つぎに、同期投入装置701の処理の流れについて図22および図23を参照して説明する。なお、各部の個々の機能については、上述した計算式に基づくと共に、実施の形態1〜6の装置における説明と重複するため、処理の流れと新規な事項についてのみの説明に留め、詳細な説明は省略する。
電圧計測部702は、電力系統の一端および他端に設けられた計器用変圧器(PT)からの電圧瞬時値が入力され、それぞれの電圧(両端電圧)を計測する(ステップS701)。周波数算出部703は、端子1,2における各周波数(両端周波数)を算出する(ステップS702)。電圧振幅算出部704は、端子1,2における各電圧振幅(両端電圧振幅)を算出する(ステップS703)。なお、電力系統が分離系統である場合、各端にて計測される電圧を表す式は、次式の通りである。
ここで、V1,φ1は、それぞれ端子1における現時点の電圧振幅および電圧同期フェーザであり、V2,φ2は、それぞれはそれぞれ端子2における現時点の電圧振幅および電圧同期フェーザである。
電圧同期フェーザ算出部705は、端子1,2における各電圧同期フェーザ(両端電圧同期フェーザ)を算出し(ステップS704)、周波数比較部706は、両端周波数を比較する(ステップS705)。この比較処理では、次式の判定処理が行われる。
ここで、f1は算出した端子1の周波数(実周波数)、f2は算出した端子2の周波数(実周波数)である。また、ΔfSETは判定のための指定値である。
電圧振幅比較部707は、両端電圧振幅を比較する(ステップS706)。この比較処理では、次式の判定処理が行われる。
ここで、V1は算出した端子1の電圧振幅、V2は算出した端子2ので夏振幅である。また、ΔVSETは判定のための指定値である。
上記(274)式と(275)式の条件が満たされるとき、空間同期フェーザ算出部708は、電圧同期フェーザ算出部705が算出した端子1,2の電圧同期フェーザを用いて空間同期フェーザを算出する(ステップS707)。
同期投入操作遅れ時間算出部709は、同期投入操作遅れ時間(同期投入装置操作遅れ時間:TASY)を算出する(ステップS708)。なお、このステップS708の処理は、以下の手順(サブステップ)にて実行される。
まず、同期投入操作遅れ時間算出部709は、同期投入予測時間Testを次式を用いて算出する。
ここで、f1,φ1は、それぞれ端子1における現時点の実周波数および電圧同期フェーザであり、f2,φ2は、それぞれ端子2における現時点の実数波数および電圧同期フェーザである。よって、この(276)式に示される同期投入予測時間Testは、端子1,2間の空間同期フェーザに対応する時間差を意味している。
なお、同期投入装置に指令を送信する場合、装置の計算時間(ロジック計算時間)や、制御信号の伝送時間を考慮しなければならない。いま、ロジック計算時間をTCALとし、制御信号伝送時間をTCOMとすると、同期投入装置操作遅れ時間TASYおよび同期投入予測時間Testと、これらロジック計算時間TCALおよび制御信号伝送時間TCOMとの間には、次式に示す関係がある。
よって、同期投入装置操作遅れ時間TASYは、次式に基づき算出することができる。
本フローに戻り、同期投入操作実施部710は、この(279)式に示される同期投入装置操作遅れ時間TASYに基づいて同期投入操作を実施する(ステップS709)。
最後のステップS710では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS710,No)、ステップS701〜S709までの処理を繰り返し行う。
(実施の形態8)
実施の形態8では、周波数測定装置および周波数変化率測定装置について説明する。なお、以下の説明は、監視制御装置の1つである単独運転検出装置を起動するときの起動ロジックに上述した周波数測定手法を適用する場合を一例として説明する。
まず、単独運転検出装置における典型的な周波数変化率判定式を示す。この判定式は、次式の通りである。
ここで、ft,ft-T0,dfSET,は、それぞれ現時点、指定時間T0(例えば、定格周波数の3サイクル時間)、単独運転検出のための起動整定値である。
上述してきた本願発明の周波数係数測定法によれば、回転位相角対称性指標などを初めとする種々の対称性指標により電圧波形の対称性破れを判定することができる。また、すでに測定したデータをラッチすることにより、電圧フリッカなどの測定結果に対する影響を回避することができる。このため、高精度な周波数測定装置および周波数変化率測定装置の提供が可能となる。
本願発明の周波数係数測定法は、従来手法に比して位相跳躍の検出機能に優れるため、位相跳躍による誤起動を回避することが可能となる。また、従来装置では、位相跳躍の誤起動を回避するために、様々な対策を実施しているため、検出時間は長くなる。このため、本願手法を用いることにより、高速かつ誤起動を抑えた信頼性の高い単独運転検出装置の提供が可能となる。なお、位相跳躍の検出については、後述するケース4にて詳細なシミュレーション結果を提示する。
(実施の形態9)
実施の形態9では、過電圧保護装置および低電圧保護装置について説明する。なお、日本における保護制御装置の多くは、30°サンプリング(α=30°)を採用しているため、以下の説明は、30°サンプリングの場合を一例とした説明とする。まず、30°サンプリングの場合の周波数係数は、上記(12)式より、以下のように得られる。
周波数係数fCを(22)式に代入し、次式に示す過電圧保護の計算式を提案する。
ここで、Vは実電圧振幅、Vgdはゲージ差分電圧、Vhighは整定値である。
同様に、30°サンプリングの場合、次式に示す低電圧保護の計算式を提案する。
ここで、Vは実電圧振幅、Vgdはゲージ差分電圧、Vlowは整定値である。
上記の2つの計算式は、差分電圧のみを利用している。このため、これらの計算式を具備する過電圧保護装置および低電圧保護装置は、直流オフセットの影響が非常に小さくなる。したがって、CT飽和の影響を低減することができ、過電圧あるいは低電圧保護の高速動作に大きく貢献することができる。
(実施の形態10)
実施の形態9では、30°サンプリングの過電圧保護装置について説明したが、実施の形態10では、30°サンプリングの過電流保護装置について説明する。
まず、上記(280)式で求めた周波数係数を(28)式に代入し、次式に示す過電流保護の計算式を提案する。
ここで、Iは実電流振幅、Igdはゲージ差分電流、ISETは整定値である。
上記の計算式は、差分電流のみを利用している。このため、これらの計算式を具備する過電流保護装置は、直流オフセットの影響が非常に小さくなる。したがって、CT飽和の影響を低減することができ、過電流保護の高速動作に大きく貢献することができる。
(実施の形態11)
実施の形態11では、電流差動保護装置について説明する。なお、ここでは、電流位相差測定法および同期フェーザ測定法の2つを一例として説明する。
(電流位相差測定法)
まず、送電線の各端(端子1,2)あるいは送電線を挟んで位置する各端の電気設備(変圧器、発電機など)にて計測される電流は、次式のように表すことができる。
ここで、I1I2は、それぞれ端子1,2における電流振幅である。また、φ12は、端子1,2間の電流ベクトルの位相差である。なお、電流ベクトルとしては、CT飽和の影響の小さい差分電流を用いることが好ましい。
また、電流差動保護装置としての瞬時値比較計算式は、次式の通りである。
上式を満足する場合、区内故障と判定することが可能である。なお、通信時間を考慮する場合、電流ベクトルの位相差φ12を次式のように補正する。
ここで、fは実測周波数、Ttransferは通信時間である。この(286)式の結果を(285)式に代入して計算を行えばよい。
(同期フェーザ測定法)
この手法では、送電線の各端(端子1,2)あるいは送電線を挟んで位置する各端の電気設備(変圧器、発電機など)における電流振幅および電流同期フェーザを測定する。これらの電流振幅および電流同期フェーザを用いた場合の電流は次式で表すことができる。
ここで、I1,φI1は、それぞれ端子1における現時点での電流振幅および電流同期フェーザである。同様に、I2,φI2は、それぞれ端子2における現時点での電流振幅および電流同期フェーザである。なお、使用する電流ベクトルとしては、CT飽和の影響の小さい差分電流を用いることが好ましい。
また、電流差動保護装置としての瞬時値比較計算式は、次式の通りである。
上式を満足する場合、区内故障と判定することが可能である。
また、電流差動保護装置として次式に示す瞬時値比較計算式を用いてもよい。
上式を満足する場合、区内故障と判定することが可能である。
なお、これら電流差動保護装置において、端子1,2間の時間同期が必要となり、同じ時刻の瞬時値あるいは位相角で比較しなければならないことは言うまでもない。また、同期に際し、端子1,2間の情報伝送時間を考慮しなければならないことも言うまでもない。
(実施の形態12)
実施の形態12では、幾つかの対称分電圧測定装置、対称分電流測定装置、対称分電力測定装置および、対称分インピーダンス測定装置について説明する。
(対称分電圧測定装置1)
電力系統の三相電圧は、以下のように測定される。
ここで、VA,VB,VCは、それぞれA相、B相、C相の電圧振幅である。また、φVBA,φVCAは、それぞれB相電圧とA相電圧の位相差およびC相電圧とA相電圧の位相差である。なお、これらの電圧振幅および位相差は、本願の提案手法(両端周波数が同じである両母線間位相角差計算法)で測定される。
(対称分電圧測定装置2)
電力系統の三相電圧は、以下のように測定される。
ここで、VA,VB,VC,φVA,φVB,φVCは、それぞれA相、B相、C相の電圧振幅および同期フェーザである。なお、これらの電圧振幅および位相差は、本願の提案手法で測定される。
つぎに、対称座標法を利用して、次式のように零相、正相、逆相電圧を算出する。
ここで、対称変換行列の係数α,α2は次式で表される。
α=ej2π/3,α2=e-j2π/3
従来、零相、正相、逆相の各電圧を測定する装置では、対称座標法にて対称分の電圧を測定しているが、実周波数は定格周波数であることが前提である。一方、実周波数が定格周波数ではない場合、測定の誤差が生じる。これに対して、本願発明は、実周波数の計算(計測)結果を利用して、相間(B相とA相、C相とA相)の位相角差を計算し、あるいは直接同期フェーザを計算している。このため、例えばA相を基準にし、実周波数が定格周波数からずれた場合であっても、自動的な周波数補正が行われ、高精度な測定が可能となる。
(対称分電流測定装置1)
電力系統の三相電流は、以下のように測定される。
ここで、IA,IB,ICは、それぞれA相、B相、C相の電圧振幅である。また、φIBA,φICAは、それぞれB相電流とA相電流の位相差およびC相電流とA相電流の位相差である。なお、これらの電流振幅および位相差は、本願の提案手法にて測定される。
(対称分電流測定装置2)
電力系統の三相電流は、以下のように測定される。
ここで、IA,IB,IC,φIA,φIB,φICは、それぞれA相、B相、C相の電流振幅および同期フェーザである。なお、これらの電流振幅および位相差は、本願の提案手法で測定される。
つぎに、対称座標法を利用して、次式のように零相、正相、逆相電流を算出する。
なお、対称分電流測定装置も対称分電圧測定装置と同様な高精度特性を有している。
(対称分電力測定装置)
上記した対称分電圧測定手法および対称分電流測定手法により測定された対称分の電圧電流を用いれば、次式に示される対称分電力が求められる。
ここで、P1,P2,P3は、それぞれ零相、正相、逆相の各有効電力であり、Q1,Q2,Q3は、それぞれ零相、正相、逆相の各無効電力である。
(対称分インピーダンス測定装置)
上記した対称分電圧測定手法および対称分電流測定手法により測定された対称分の電圧電流を用いれば、次式に示される対称分インピーダンスが求められる。
ここで、Z0,Z1,Z2は、それぞれ零相、正相、逆相の各インピーダンスであり、R0,R1,R2は、それぞれ零相、正相、逆相の各抵抗成分であり、L0,L1,L2は、それぞれ零相、正相、逆相の各イン成分である。
なお、上記の計算式は電力系統の保護制御装置に関する対称成分のすべての計算に適用できる。
(実施の形態13)
実施の形態13では、差動型の保護制御装置に好適な高速瞬時値推定手法について説明する。
差動保護を実施するとき、相手端の時系列データを受信すると共に、ポイントごとに通信正常スタンプを付けている。また、差動保護演算を実施するとき、AIテーブル(AI:アナログ入力データ)に保存している数点の時系列データ(例えば、12点)を利用する。ところが、通信回線の瞬時故障等が起こると、現時点のデータを受信することができなくなるため、すでに受信したAIテーブルに保存された11点データも一緒に全て無効となり、次のAIテーブルのすべてのデータが正常であるときまでに、差動保護演算はロックされる。このような差動保護演算のロジックでは、保護装置としての高速性が損なわれる。この実施の形態の手法は、この点を改善するものである。
まず、ゲージ電圧群を用いた周波数係数測定法によれば、次式を用いて周波数係数を計算することができる。
ここで、vt,vt-T,vt-2Tは、それぞれ現時点、1ステップ前、2ステップ前の電圧瞬時値である。なお、周波数係数は急変しないと考え、すでに受信したデータにより算出された値を利用するものとする。したがって、現時点の瞬時値推定値は、次式に示すように1ステップ前、2ステップ前の電圧瞬時値を用いて推定することができる。
通信回線の瞬時故障が発生した場合、上記を利用して現時点の瞬時値データを推定し、AIテーブルに格納する。この手法により、保護装置の高速性が保証される。
(実施の形態14)
実施の形態14では、高調波電流補償装置について説明する。なお、以下の説明は、高調波電流補償装置を電力系統のアクティブフィルタとして適用する場合の一例として説明する。
まず、単相回路におけるアクティブフィルタ出力電流は、次式のように求められる。
ここで、iAFはアクティブフィルタ出力電流、iLは実交流電流瞬時値、ireは基本波瞬時値、Iは基本波電流振幅、φIは電流同期フェーザである。また、上式に、(255)式を代入すると、次式のように表される。
ここで、SAPはゲージ有効同期フェーザ、SAQはゲージ無効同期フェーザ、fCは周波数係数である。上式を用いれば、時系列入力データから直接的にアクティブフィルタ出力電流の計算が可能となる。
つぎに、ケース1〜6までの数値例を用いて、本発明の有用性および効果について説明する。まず、ケース1のパラメータは、下記表2に示す通りである。
まず、ケース1のパラメータを用いる際、入力波形は、次式のように余弦関数で表示する。
図24は、ケース1のパラメータにて計算される周波数係数を示す図である。図24および下式((8)式を再掲)からも分かるように、周波数係数は余弦関数である。
図24に示すように、周波数係数は周波数が高くなるにつれて小さくなり、1から−1の間で変動する。周波数係数が1の場合、周波数は零であり、いわゆる直流である。なお、周波数係数が−1の場合、周波数はfS/2であり、サンプリング周波数の半分の値をとる。
ここで、回転位相角を表す(13)式を以下に再掲する。
上記(304)式によれば、回転位相角は正負の値をとり得るが、現実には、図25に示すように回転位相角は常に正であり、0から180度の間にある。なお、実周波数がサンプリング周波数の半分以下の場合、回転位相角の大きさは実周波数の大きさと正比例関係になる。また、実周波数がサンプリング周波数の1/4である場合、回転位相角は90度であり、周波数係数は零である。
電力系統の保護制御装置に最適なサンプリング周波数は、定格周波数の4倍である。なお、ここで言う最適という意味は、計算負荷を小さくするという意味である。したがって、50Hzの系統には200Hzのサンプリング周波数が推奨され、60Hz系統には240Hzサンプリング周波数が推奨される。
図26は、ケース1のパラメータにて計算される周波数測定のゲイン図である。このゲインを計算する式を次式に示す。
ここで、f1は周波数測定値、f0は入力理論周波数である。このように、測定対象の周波数がサンプリング周波数600Hzの半分以下(300Hz以下)であれば、理論的誤差のない周波数測定が可能となる。なお、この結果は、標本化定理(sampling theorem)に一致していることが分かる。
つぎに、ケース2のパラメータを用いた測定結果(計算結果)について図27〜図32の図面を参照して説明する。なお、図27〜32は、それぞれがケース2のパラメータにて計算される測定結果であり、図27には周波数係数、図28には瞬時電圧、直流オフセット、ゲージ電圧および電圧振幅、図29には回転位相角および実測周波数、図30にはゲージ有効同期フェーザおよびゲージ無効同期フェーザ、図31には本願同期フェーザおよび従来の瞬時値同期フェーザ、図32には時間同期フェーザが示されている。また、ケース2のパラメータは、下記表3に示す通りである。
表3によれば、入力波形の実数瞬時値関数は、次式のように表される。
また、上記(306)式に示す入力波形を電圧瞬時値とするときの周波数係数は、以下のように得られる。
実周波数がサンプリング周波数の1/4より大きい場合、周波数係数の符号はマイナスになる。図27に示すように、測定結果と理論値とは一致し、正しく測定されていることが分かる。
また、上記(306)式に示す入力波形を電圧瞬時値とするときの直流オフセットは、以下のように得られる。
図28に示すように、直流オフセットの計算値は入力値と一致し、正しく測定されている。
また、ゲージ電圧は交流電圧の回転不変量であるため、電圧瞬時値から直流オフセットを差し引いた後のゲージ電圧を求めると、以下のように得られる。
上式の結果から、電圧振幅は、以下のように得られる。
上式の結果は、図28および上記表3の入力データと一致しており、正しく測定されていることが分かる。なお、分かりやすさのため、図28中の電圧振幅には、直流オフセット成分が加算されている。
また、(307)式の結果より、回転位相角は、以下のように得られる。
周波数係数がマイナスである場合、回転位相角は90度より大きくなる。図29に示すように、測定結果と理論値とは一致し、正しく測定されていることが分かる。
また、上記(311)式より、実周波数は、以下のように得られる。
図29に示すように、実測周波数は上記(312)式および表2の入力データと一致していることが分かる。
また、図30に示すように、ゲージ有効同期フェーザは、1ステップ前のゲージ無効同期フェーザと等しいことが分かる。
また、図31は、ケース2のパラメータにて計算される本願同期フェーザを従来の瞬時値同期フェーザと比較して示した図である。図31において、本願同期フェーザを黒三角印で示し、上記特許文献3に開示されている瞬時値同期フェーザを黒丸印でしている。
図31において、本願同期フェーザは時間依存量であり、−πから+πの範囲で変動している。ここで、本願同期フェーザがプラスになるとき、瞬時値同期フェーザと一致する。また、本願の同期フェーザがマイナスのとき、瞬時値同期フェーザはマイナスにならないが、絶対値が同じである(符号相反)。
なお、上記特許文献3(以下、この項において「従来発明」という)に示されている瞬時値同期フェーザの計算式は、以下の通りである。
このように、従来発明による瞬時値同期フェーザは、常にプラスになっている。したがって、従来発明では、自端絶対位相角の反転領域(位相角は0〜πの間、反時計回りあるいは時計回りで変化)があり、その反転領域において、絶対位相角は反時計回りで回転しているか、あるいは時計回りで回転しているかについて、正確に定めることができない。また、従来発明では、両絶対位相角の差分である時間同期フェーザあるいは空間同期フェーザを計算するとき、位相角の反転領域において、正確な値が得られない。このため、従来発明では、前ステップの値をラッチすることにしている。
これに対し、本願発明では、対称群を利用する手法であるため、グループ同期フェーザ測定法における絶対位相角は−π〜πの間、常に反時計回りの一方向で変化することとなり、位相角差をラッチすることを要しない。したがって、正確な時間同期フェーザあるいは空間同期フェーザを確定することができ、高速保護制御において非常に有効である。なお、本願発明と従来発明とでは、ノイズ処理の考え方も異なる。従来発明は、最小二乗法を利用するのに対し、本願発明では、対称群の数を増やすことでノイズを低減する。
また、現時点の同期フェーザと1サイクル前時点の同期フェーザとの差分値である時間同期フェーザは、定格周波数を60Hzとするとき、以下のように得られる。
図32に示すように、時間同期フェーザの測定結果は理論値と一致している。
つぎに、ケース3−5のパラメータについて説明する。ケース3−5は上記非特許文献1のpp47−51に掲載されたBenchmarkテストケースである。なお、簡単のため、ケース3−5の入力波形における直流オフセットを零としている。
つぎに、ケース3のパラメータを用いた測定結果について図33〜図38の図面を参照して説明する。なお、図33〜図38は、それぞれがケース3のパラメータにて計算される測定結果であり、図33には周波数係数、図34には瞬時電圧、ゲージ差分電圧および電圧振幅、図35には余弦関数法の同期フェーザ、正接関数法の同期フェーザおよび対称性破れ判別フラグ、図36には同期フェーザ、図37には、電圧振幅、図38には時間同期フェーザが示されている。なお、ケース3のパラメータは、下記表4に示す通りである。このパラメータは、上記Benchmarkテストに含まれる「G.2 Magnitude step test (10%)」として規定されている。
まず、ケース3において、入力波形の実数瞬時値関数は、次式のように表される。
ここで、φCは、状態急変前の交流電圧の位相角であり、オンラインで計算される。
また、上記(315)式に示す入力波形を電圧瞬時値とするときの周波数係数は、以下のように得られる。
図33に示すように、状態急変後の数点を除いて、安定した値が得られていることが分かる。
また、振幅変化前の定常状態におけるゲージ差分電圧は以下のように得られる。
よって、振幅変化前の定常状態における電圧振幅は以下のように得られる。
上式の結果は、図34の測定結果および上記表4の入力データと一致しており、正しく測定されていることが分かる。
また、振幅変化後の定常状態におけるゲージ差分電圧は以下のように得られる。
よって、振幅変化後の定常状態における電圧振幅は以下のように得られる。
上式の結果は、図34の測定結果および表4の入力データと一致していることが分かる。
図35を参照すると、定常状態において、交流電圧に対称性があり、余弦関数法の同期フェーザと正接関数法の同期フェーザとは完全に一致する。交流電圧が急変する場合、余弦関数法の同期フェーザと正接関数法の同期フェーザの結果が一致せず、対称性が破れることが示されている。
このように、余弦関数法あるいは正接関数法の同期フェーザ測定結果を利用することで、入力波形に対称性があるか否かの判定を行うことができる。また、対称性が破れた場合、(206)式を用いた同期フェーザ推定計算を行うことで、正常の変化を維持することができる。
対称性がある場合、ゲージ差分電圧と周波数係数により電圧振幅を求める。一方、対称性が破れた場合、すでに計算した電圧振幅をラッチする。このようにすることで、図37に示すように、振動的な過渡状態を生じさせないことができている。
なお、比較対象として、非特許文献1のP51のFigure G.4-Magnitude step test example (simulation, 1 cycle FFT based algorithm)を参照する。このシミュレーションでは、フーリエ変換を実施しているため、電圧振幅の急変発生前の電圧振幅を変化させている。さらに、非特許文献1では、電圧振幅の急変発生前後の実周波数は系統定格周波数となっている。一方、本願発明では、実周波数が62.14Hzであるにも関わらず、安定な測定結果が得られている。
また、現時点の同期フェーザと定格周波数60Hzの1サイクル前時点の差分である時間同期フェーザは、以下のように得られる。
図38に示すように、上式の結果(理論値)と図38の測定結果とは一致していることが分かる。なお、過渡状態がないことは同期フェーザ推定計算が正しいことを意味する。
つぎに、ケース4のパラメータを用いた測定結果について図39〜図43の図面を参照して説明する。なお、図39〜図43は、それぞれがケース4のパラメータにて計算される測定結果であり、図39には周波数係数、図40には瞬時電圧、ゲージ差分電圧および電圧振幅、図41には余弦関数法の同期フェーザ、正接関数法の同期フェーザおよび対称性破れ判別フラグ、図42には同期フェーザ、図43には時間同期フェーザが示されている。なお、ケース4のパラメータは、下記表5に示す通りである。このパラメータは、上記Benchmarkテストに含まれる「G.3 Phase step test (90°)」として規定されている。
まず、ケース4において、入力波形の実数瞬時値関数は、次式のように表される。
ここで、φCは、状態急変前の交流電圧の位相角であり、オンラインで計算される。
また、上記(322)式に示す入力波形を電圧瞬時値とするときの周波数係数は、以下のように得られる。
図39に示すように、状態急変後の数点を除いて、安定した値が得られていることが分かる。
また、振幅変化前の定常状態におけるゲージ差分電圧は以下のように得られる。
よって、振幅変化前の定常状態における電圧振幅は以下のように得られる。
上式の結果は、上記表5の入力データと一致していることが分かる。
図41を参照すると、定常状態において、交流電圧に対称性があり、余弦関数法の同期フェーザと正接関数法の同期フェーザとは完全に一致する。交流電圧が急変する場合、余弦関数法の同期フェーザと正接関数法の同期フェーザの結果が一致せず、対称性が破れることが示されている。
なお、図42から分かるように、対称性がある場合、余弦関数法あるいは正接関数法の同期フェーザ測定結果を利用すすればよい。対称性が破れた場合、(206)式により同期フェーザ推定計算を行うことで、正常の変化が維持されている。2つの定常状態間に90度の急変が存在するが、振動的な過渡状態はない。
また、現時点の同期フェーザと定格周波数60Hzの1サイクル前時点の差分である時間同期フェーザは、以下のように得られる。
ただし、位相90度急変の後、1サイクルの間に、時間同期フェーザは以下の通り変化している。
つぎに、ケース5のパラメータを用いた測定結果について図44〜図50の図面を参照して説明する。なお、図44〜図50は、それぞれがケース5のパラメータにて計算される測定結果であり、図44には周波数係数、図45には瞬時電圧、ゲージ差分電圧および電圧振幅、図46には余弦関数法の同期フェーザ、正接関数法の同期フェーザおよび対称性破れ判別フラグ、図47には同期フェーザ、図48には回転位相角、図49には実周波数、図50には時間同期フェーザが示されている。なお、ケース5のパラメータは、下記表6に示す通りである。このパラメータは、上記Benchmarkテストに含まれる「G.4 Frequency step test (+5 Hz)」として規定されている。
まず、ケース5において、入力波形の実数瞬時値関数は、次式のように表される。
ここで、φCは、状態急変前の交流電圧の位相角であり、オンラインで計算される。
また、上記(328)式に示す入力波形を電圧瞬時値とするときの周波数係数において、周波数変化前の定常状態における周波数係数は以下のように得られる。
一方、周波数変化後の定常状態における周波数係数は以下のように得られる。
図44に示すように、状態急変後の2点を除いて、安定した値が得られていることが分かる。
また、周波数変化前の定常状態におけるゲージ差分電圧は以下のように得られる。
一方、周波数変化後の定常状態におけるゲージ差分電圧は以下のように得られる。
よって、電圧振幅は以下のように得られる。
上式の結果は、上記表6の入力データと一致していることが分かる。
図46を参照すると、定常状態において、交流電圧に対称性があり、余弦関数法の同期フェーザと正接関数法の同期フェーザとは完全に一致する。交流電圧が急変する場合、余弦関数法の同期フェーザと正接関数法の同期フェーザの結果が一致せず、対称性が破れることが示されている。
なお、図47から分かるように、対称性がある場合、余弦関数法あるいは正接関数法の同期フェーザ測定結果を利用すすればよい。対称性が破れた場合、(206)式により同期フェーザ推定計算を行うことで、正常の変化が維持されている。
対称性がある場合、周波数係数法により正しい回転位相角が得られる。一方、対称性が破れた場合、すでに計算した回転位相角をラッチする。このようにすることで、図48に示すように、振動的な過渡状態を生じないことができている。
図49に示すように、周波数急変前後の測定結果は、表6の入力データと一致していることが分かる。なお、対称性がある場合、周波数係数法により正しく周波数は求められる。一方、対称性が破れた場合、すでに計算した周波数をラッチする。このようにすることで、図49に示すように、振動的な過渡状態を生じさせないことができている。
また、変化前の定常状態において、現時点の同期フェーザと1サイクル前時点の同期フェーザとの差分値である時間同期フェーザは、定格周波数を60Hzとするとき、以下のように得られる。
また、変化後の定常状態において、現時点の同期フェーザと1サイクル前時点の同期フェーザとの差分値である時間同期フェーザは、定格周波数を60Hzとするとき、以下のように得られる。
図50に示すように、変化前後における時間同期フェーザの測定結果は理論値と一致している。
つぎに、ケース6のパラメータを用いたシミュレーション結果について図51の図面を参照して説明する。なお、図51は、ケース6のパラメータを用いたシミュレーション実行時の同期投入装置動作図である。また、ケース6のパラメータは、下記表7に示す通りであり、同期投入装置の動作解析に必要な基本パラメータが示されている。
表7に示されるケース6のパラメータによれば、両端での電圧実数瞬時値関数は、次式のように表される。
また、表7により、両端子の周波数差は以下の通り計算できる。
Δf=50.1−47.5=2.6(Hz)
また、同期投入予測時間Testは、上記(276)式を用いてオンラインで計算することができる。
下記表8は、ケース6のパラメータを用いたシミュレーションの一部結果を示す表であり、図51は、当該結果を示す図である。なお、本シミュレーションにおいて、(278)式に示される「TCAL+TCOM」(ロジック計算時間+制御信号伝送通信時間)は、15msに設定している。
上記表8において、同期投入制御遅れ時間TASYは、シミュレーションステップ19では約16.5msであり、「TCAL+TCOM」の15msよりも長いため、(278)式から求められる同期投入予測時間Testが正の値となって、同期投入が可能となる。一方、シミュレーションステップ20では同期投入制御遅れ時間TASYの値が約14.9msであり、同期投入予測時間Testが負の値となってしまう。なお、この場合は、空間同期フェーザに2πを加算して同期投入予測時間Testを計算することになる。図51において、黒三角印で示される制御遅れ時間が0.03S(30ms)を少し超えた時点で大きく跳ね上がっているが、この箇所が表8におけるシミュレーションステップ19と20の間に対応している。
従来の同期投入装置は、両端の周波数差分は非常に小さい場合のみ(例えば0.5Hz以内)投入が可能であったが、本願発明では、2.6Hzのように大きな周波数差があった場合でも同期投入が可能となる。このように、本願発明に係る同期投入装置は、従来の同期投入装置に比べて高速投入が可能となる。
(実施の形態15)
上記実施の形態1−14では、標本化定理に従う実周波数の2倍以上の周波数をサンプリング周波数fSとして定義し、サンプリング周波数fSにより取得した所要数のデータを用いて各種対称群の計算を行ってきた。一方、本実施の形態では、系統電気量の計測周期の逆数を意味するサンプリング周波数(第1のサンプリング周波数)と、各種対称群を計算するときの抽出データ周期の逆数を意味するサンプリング周波数(第2のサンプリング周波数)と、を区別する手法について提案する。なお、以下、前者(第1のサンプリング周波数)をデータ収集サンプリング周波数と定義し、後者(第2のサンプリング周波数)を対称群サンプリング周波数と定義する。このように定義するとき、対称群サンプリング周波数(第2のサンプリング周波数)の逆数である対称群サンプリング周期は、上記実施の形態1−14で説明した“T”に対応する。また、データ収集サンプリング周波数(第1のサンプリング周波数)の逆数であるデータ収集サンプリング周期を“T1”で表すとすると、これらT,T1の間には、T>T1の関係が成立する。
図52は、複素平面上のゲージ電圧群およびゲージ差分電圧群を示す図である。図52において、上記で定義した対称群サンプリング周期Tの間隔で構成されるゲージ差分電圧群{v2(t),v2(t-T),v2(t-2T)}は、原点Oから円周上に向かう実線矢印で示す4つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T),v1(t-3T)によって構成される。ゲージ差分電圧群については、図1にも示しているが、ここでは、図1と区別するため、複素平面上の位相を90°ずらした形で示している。一方、原点Oから円周上に向かう破線矢印で示す4つの電圧ベクトルv1(t-T1),v1(t-T-T1),v1(t-2T-T1),v1(t-3T-T1)は、実線矢印で示す4つの電圧ベクトルv1(t),v1(t-T),v1(t-2T),v1(t-3T)よりもデータ収集サンプリング周期T1だけ遅れた成分の組を示している。
つぎに、図52に示すゲージ差分電圧群を用いて、周波数を算出する計算式を導出する。なお、以下の説明は、図1を用いて説明した数式((1)〜(16)式)と重複するが、ゲージ差分電圧群が複素平面上の任意の位置にある場合でも成り立つという意味で説明の意義があると考える。
まず、図52に示す3つの差分電圧ベクトルは、次式で表すことができる。
ここで、Vは瞬時電圧の交流成分の振幅である。また、ωは回転角速度であり、次式で表される。
ここで、fは実周波数である。また、(337)式のTは、上記で定義した対称群サンプリング周期Tであり、対称群サンプリング周波数fsとの間で次式の関係が成立する。
(周波数係数)
図1を用いて説明したときと同様に、周波数係数fcは次式を用いて表すことができる。
上式におけるv21,v22,v23は、それぞれゲージ差分電圧群の諸メンバーの実数部あるいは虚数部である。例えば、実数部であるとすれば、以下のように表すことができる。
ここで、上記(340)式の分子に差分電圧ベクトルの実数部を代入すると、次式のように計算される。
また、上記(340)式の分母に差分電圧ベクトルの実数部を代入すると、次式のように計算される。
上記(342),(343)式より、周波数係数fcは、回転位相角の余弦関数値として、次式のように求められる。
この周波数係数fcは、下記(345)〜(348)式に示すように、差分電圧ベクトルの虚数部からも求めることができる。
実数部の計算結果と同じように、周波数係数は、回転位相角の余弦関数値である。上記の結果は、ゲージ差分電圧群が対称性を有し、周波数係数はゲージ差分電圧群の回転不変量であることに他ならない。
(回転位相角)
上記(344)式または(348)式より、回転位相角αは、周波数係数fcにより、次式のように計算できる。
なお、周波数係数fcは次式の条件を満足する。
また、上記条件式を満足しない場合、入力波形は交流波形ではないと判定することができる。
(回転位相角による実周波数の計算)
回転位相角αは、実周波数fおよびサンプリング周波数fsを用いて、次式のように表すことができる。
よって、上記(349)、(351)式より、実周波数fは、サンプリング周波数fsおよび周波数係数fcを用いて、次式のように計算することができる。
これら(349)〜(352)式に示す結果は、図1を用いて導出した上記(13)〜(16)式の結果と同一である。よって、ゲージ差分電圧群が複素平面上の任意の位置にある場合でも、上記(13)〜(16)式に示す結果が成立することが証明された。
ところで、実施の形態1−14の概念は、計測の精度を高める場合には、サンプリング周期をより小さく(サンプリング周波数を高く)してデータ数を増やし、増加させた連続するデータを用いて、周波数係数を初めとする交流電気量を算出するというのが基本的な考えであった。しかしながら、データ数を単純に増加させる手法では、データ数の増加に伴って回転位相角αも小さくなってしまい、高調波ノイズが大きい場合には、計算結果が高調波ノイズの影響を受けてばらつき、計算精度が高められないことも予想される。そこで、計算に必要なデータを増加させた場合でも、回転位相角αの値が小さくならないように、好ましい回転位相角αの値を維持しつつ、高調波ノイズの影響を低減することができるように、対称群サンプリング周期T(対称群サンプリング周波数fs)とデータ収集サンプリング周期T1(データ収集サンプリング周波数f1)という概念を導入したのが、本実施の形態である。
図53は、対称群サンプリング周期Tとデータ収集サンプリング周期T1との関係をより詳細に説明する図である。図53において、データ収集サンプリング周波数f1(データ収集サンプリング周期T1)と、対称群サンプリング周波数fs(対称群サンプリング周期T)との間には、次式に示す関係がある。
図53に示すように、時刻tにおける差分電圧対称群を成すゲージ差分電圧群1は、時刻tにおけるゲージ差分電圧v21、時刻t−Tにおけるゲージ差分電圧v22および、時刻t−2Tにおけるゲージ差分電圧v23によって構成され、時刻t−T1における差分電圧対称群を成すゲージ差分電圧群2は、時刻t−T1におけるゲージ差分電圧v21 ’、時刻t−T−T1におけるゲージ差分電圧v22 ’および、時刻t−2T−T1におけるゲージ差分電圧v23 ’によって構成される。図53から理解できるように、各ゲージ差分電圧群の間隔は対称群サンプリング周期Tであるのに対し、各ゲージ差分電圧群を構成するメンバーの間隔はデータ収集サンプリング周期T1になっている。即ち、対称群サンプリング周期T(対称群サンプリング周波数fs)とデータ収集サンプリング周期T1(データ収集サンプリング周波数f1)という概念を導入することにより、好適な回転位相角αを維持しつつ、計算に必要なデータを増加させて高調波ノイズの影響を抑制することが可能となる。
(周波数係数対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として周波数係数を用いる手法について説明する。まず、周波数係数対称性指標を用いた判定式を次式のように定義する。
上式において、左辺に示す|fc(t)−fc0|が周波数係数対称性指標である。また、周波数係数対称性指標におけるfc(t)は、周波数係数に係る現時点の計測値であり、fc0は周波数係数に係る1ステップ(データ収集サンプリング周期に係る1ステップ)前の処理値である。また、右辺にあるfCBRKは、対称性破れを判定するための閾値である。なお、周波数係数に係る1ステップ前の処理値fc0は、とり得る値として、次の2種類のパターンがある。
まず、上記(354)式を用いた1ステップ前の判定処理において、対称性有りと判定されている場合、そのときの計測値が処理値fc0になる。一方、1ステップ前の判定処理において、対称性無しと判定された場合(例えば、系統に大きな擾乱がある場合、電圧の脱落により電圧フリッカが生ずる場合など)、処理値fc0としては、直前にラッチしている前回の計測値を用いる。即ち、上記(354)式が成立する場合、対称性の破れを判定し、次式のように、1ステップ前の計測値をラッチする。
上式において、ftは現時点の計測値であり、ft0は1ステップ前の計測値である。
一方、上記(354)式が成立しない場合、対称性有りと判定し、そのときの計測値を保持する。
(回転位相角対称性指標)
つぎに、入力波形の対称性を評価するための指標として回転位相角を用いる手法について説明する。まず、回転位相角対称性指標を用いた判定式を次式のように定義する。
上式において、左辺に示す|αt−α0|が回転位相角対称性指標である。また、回転位相角対称性指標におけるαtは、回転位相角に係る現時点の計測値であり、α0は回転位相角に係る1ステップ(データ収集サンプリング周期に係る1ステップ)前の処理値である。また、右辺にあるαBRKは、対称性破れを判定するための閾値である。なお、回転位相角に係る1ステップ前の処理値α0は、周波数係数に係る1ステップ前の処理値fc0と同様に、次の2種類のパターンがある。
まず、上記(355)式を用いた1ステップ前の判定処理において、対称性有りと判定されている場合、そのときの計測値が処理値α0になる。一方、1ステップ前の判定処理において、対称性無しと判定された場合、処理値α0としては、直前にラッチしている前回の計測値となる。即ち、上記(354)式が成立する場合、対称性の破れを判定し、1ステップ前の計測値をラッチする。一方、上記(354)式が成立しない場合、対称性有りと判定し、そのときの計測値を保持する。
なお、上記2つの対称性指標を、時間的対称性指標(同じ回転不変量で、異なる時間断面で比較する指標)と呼称する。これに対して、実施の形態1−14で説明した対称性指標は、空間的対称性指標(同じ時間断面で、異なる回転不変量計算式で比較する指標)と呼称する。なお、実施の形態1−14で説明した空間的対称性指標である各種対称性指標については、時間的対称性指標である本実施の形態の周波数係数対称性指標または回転位相角対称性指標に倣って、時間的対称性指標として構築することが可能である。
(複数個対称群による移動平均化処理)
上述したように、高調波ノイズの影響を抑制(低減)するためには、複数個対称群による移動平均化処理が推奨される。複数個対称群による移動平均化処理は、次式を用いて行うことができる。
上式において、v21,v22,v23は、それぞれゲージ差分電圧群の諸メンバーにおける差分電圧の瞬時値(実数部あるいは虚数部)であり、Mは移動平均化処理の指定数である。また、時間刻み幅kの増分はデータ収集サンプリング周期T1に対応する。つまり、時間刻み幅kが1増える毎にデータ収集サンプリング周期T1だけシフトしたメンバーによる周波数係数の計算処理が行われる。
なお、回転位相角αおよび実周波数fの移動平均化処理についても同様に行うことができ、それぞれ次式および次々式に示す計算式を用いて行うことができる。
(周波数変化率)
周波数変化率はを、次式を用いて計算することができる。
上式において、T0は、所定の時間間隔(例えば、100ms)であり、ftは実周波数に関する現時点の計測値(計算値)であり、ft-T0は実周波数に関する時間T0前時点の計測値(計算値)である。なお、上記(359)式による計算処理は、2つの計測値が共に対称性を有している場合のみ計算する。一方、2つの計測値のうちの少なくとも1つが対称性を有していない場合には、1ステップ前の計算値をラッチして保持(記憶)する。
図54は、実施の形態15に係る周波数測定装置の機能構成を示す図であり、図55は、図54に示す周波数測定装置における処理の流れを示すフローチャートである。なお、この周波数測定装置は、周波数に加え、併せて周波数変化率も測定する。
図54に示すように、実施の形態15に係る周波数測定装置801は、交流電圧瞬時値データ入力部802、周波数係数算出部803、対称性破れ判別部804、周波数ラッチ部805、周波数算出部806、周波数変化率算出部807、インターフェース808および、記憶部809を備えて構成される。ここで、インターフェース808は、演算結果等を表示装置や外部装置に出力する処理を行い、記憶部809は、計測データや演算結果などを記憶する処理を行う。
上記の構成において、交流電圧電流瞬時値データ入力部802は、電力系統に設けられた計器用変圧器(PT)からの電圧瞬時値を読み出す処理を行う(ステップS801)。なお、読み出された電圧瞬時値および電流瞬時値の各データは、記憶部809に格納される。
周波数係数算出部803は、上述した計算処理に基づき、周波数係数を算出する(ステップS802)。この周波数係数の算出処理については、上述した計算処理の概念も含めて総括的に説明すると、つぎのように説明できる。すなわち、周波数係数算出部803は、測定対象となる交流電圧を所定のデータ収集サンプリング周波数でサンプリングした電圧瞬時値データの中から、データ収集サンプリング周波数よりも小さく、且つ、標本化定理を満足する当該交流電圧の周波数の2倍以上となる対称群サンプリング周波数で抽出した連続する少なくとも4点の電圧瞬時値データにおける隣接する2点の電圧瞬時値データ間の先端間距離を表す3点の差分電圧瞬時値データのうち、中間時刻以外の差分電圧瞬時値の和の平均値を中間時刻における差分電圧瞬時値で正規化した値を周波数係数として算出する処理を行う。
対称性破れ判別部804は、上述した周波数係数対称性指標または回転位相角対称性指標の判定式を用いて対称性の破れを判定する(ステップS803)。対称性の破れを判定した場合(ステップS803,Yes)、周波数ラッチ部805は、測定値(計算値)をラッチし(ステップS804)、ステップS806に移行する。一方、対称性の破れを判定しない場合(ステップS803,No)、周波数算出部806は、周波数を計算する(ステップS805)。
ステップS804またはステップS805の処理後、周波数変化率算出部807は、周波数変化率を算出する(ステップS806)。
最後のステップS807では、上述した全体のフローを終了するか否かの判定処理を行い、終了でなければ(ステップS807,No)、ステップS801〜S806までの処理を繰り返す。
なお、上記では、周波数係数対称性指標または回転位相角対称性指標の判定式を用いて対称性の破れを判定することとしたが、時間的対称性指標である周波数係数対称性指標または回転位相角対称性指標に倣って生成した時間的対称性指標としての電圧振幅対称性指標1〜4を用いて、対称性の破れを判定するようにしてもよい。また、電力系統の電圧瞬時値だけでなく、電流瞬時値を測定する場合には、生成した時間的対称性指標として生成した他の対称性指標(例えば、ゲージ電力対称性指標、ゲージ差分電力対称性指標)を用いて、対称性の破れを判定してもよい。
つぎに、ケース7〜9までの数値例を用いて、本発明の有用性および効果について説明する。なお、ケース7〜9の各ケースともに、50Hz電力系統を想定し、データ収集サンプリング周波数は1000Hz(1msステップ)、対称群サンプリング周波数は200Hz(5msステップ)に設定する。
まず、ケース7のパラメータは、下記表9に示す通りである。
表9に基づき、電圧瞬時値波形は、次式のように表される。また、このときの電圧瞬時値波形は、図56に示すような波形となる。
図57は、ケース7のパラメータにて計算される周波数係数を示す図である。この周波数係数は、次式のように計算することができる。なお、図57の計算結果では、電圧フリッカを模擬するために、電圧瞬時値波形における0.05秒の時点において、電圧位相を強制的に80度プラスとする波形操作を行っている。
図57に示すように、0.05秒以後の数点において、位相急変の影響を受けて周波数係数が大きくずれていることが分かる。
図58は、ケース7のパラメータにて計算される回転位相角を示す図である。この回転位相角は、次式のように計算することができる。
図58に示すように、0.05秒以後の数点において、位相急変の影響を受けて回転位相角が大きくずれていることが分かる。
図59は、ケース7のパラメータにて計算される対称性破れの判定結果を示す図である。この判定結果は、次式に示す判定式を用いて、1ステップ毎計算される。
なお、図59に示す判定結果では、対称性がある場合を“1”、対称性がない場合を“2”として示している。図59に示すように、0.05〜0.07秒の期間において、位相急変の影響を受けて、対称性が崩れていることが分かる。
図60は、ケース7のパラメータにて計算される周波数(実周波数)を示す図である。この周波数(実周波数)は、次式のように計算することができる。
図60に示すように、電圧フリッカが存在していても、安定的な周波数測定結果が得られていることが分かる。
図61は、ケース7のパラメータにて計算される周波数変化率を示す図である。図60からも分かるように、周波数の値が殆ど変動していないため、周波数変化率も、図61に示すように、ほぼ零であることが分かる。
ケース7は、電圧フリッカがあるときのシミュレーション結果について説明したが、ケース8では、電圧フリッカはなく、周波数変動があるときのシミュレーション結果について説明する。
まず、ケース8のパラメータは、下記表10に示す通りである。
表10に基づき、電圧瞬時値波形は、次式のように表される。また、このときの電圧瞬時値波形は、図62に示すような波形となる。
上式において、φ0は電圧初期位相角であり、φCは0.05秒の時点の電圧位相角である。また、Δfはシミュレーションステップごとの周波数変化分であり、次式のように計算される。
図63は、ケース8のパラメータにて計算される周波数係数を示す図である。図63に示すように、周波数が増加し始めた0.05秒以降において、周波数係数の値が減少して行くことが分かる。また、0.05秒以降の特定の時点(例えば、0.22秒、0.34秒)において、周波数変動の影響を受け、周波数係数の値が大きく変動して行くことが分かる。
また、図64は、ケース8のパラメータにて計算される回転位相角を示す図である。図64に示すように、回転位相角の変動も周波数係数と同様な傾向となる。即ち、周波数が増加し始めた0.05秒以降において、回転位相角の値が増加して行く。また、0.05秒以降の特定の時点(0.22秒、0.34秒)において、周波数変動の影響を受け、回転位相角の値が大きく変動して行く。
図65は、ケース8のパラメータにて計算される対称性破れの判定結果を示す図である。この判定結果は、上記(364)式に示す判定式を用いて、1ステップ毎計算したものである。また、図59と同様に、対称性がある場合を“1”、対称性がない場合を“2”として示している。
ケース8の場合、図65に示すように、0.05秒以後の期間において、周波数変動の影響を受けて、対称状態と非対称状態を交替に繰り返す状態になっていることが分かる。
図66は、ケース8のパラメータにて計算される周波数(実周波数)を示す図である。この周波数(実周波数)は、上記(365)式の左辺に示す式を用いて計算することができる。
図66に示すように、測定周波数は理論周波数に追随していることが分かる。即ち、周波数変動が生じていても、変動後の周波数を確実に捉えていることが分かる。
図67は、ケース8のパラメータにて計算される周波数変化率を示す図である。この周波数変化率は、上記(360)式を用いて計算することができる。なお、(360)式における指定時間間隔T0は50msとする。
ケース8において、周波数変化率は、表10に示すように1.5Hz/Sに設定されている。このため、図67に示されるように0.1Hz/S程度の誤差は存在するものの、約0.12秒以降の各時点において、この周波数変化率の値を捕捉できていることが分かる。
つぎに、ケース9について説明する。ケース9では、電圧フリッカがあり、且つ、周波数変動もあるときのシミュレーション結果について説明する。
まず、ケース9のパラメータは、下記表11に示す通りである。
表11に基づき、電圧瞬時値波形は、次式のように表される。また、このときの電圧瞬時値波形は、図68に示すような波形となる。
上記(368)式は、ケース8において示した(366)式と同一式であるが、このケース9においては、電圧フリッカを模擬するためケース1と同様に電圧瞬時値波形における0.2秒の時点において、電圧位相を強制的に80度プラスとする波形操作を行っている。
図69は、ケース9のパラメータにて計算される周波数係数を示す図である。図69では、0.2秒の時点における電圧フリッカによる変動を図示するため、図63に比して縦軸1目盛りの値を大きくして表示している。このため、周波数を増加させた0.05秒以降において、周波数係数が減少して行く状態を表示できていないが、縦軸1目盛りの値を小さくして表示すれば、図63と同様な波形になる。また、電圧フリッカによる影響は、ケース7について示した図57と同様な波形となる。
また、図70は、ケース9のパラメータにて計算される回転位相角を示す図であり、図69に示す周波数係数と同様である。即ち、図70では、0.2秒の時点における電圧フリッカによる変動を図示するため、図64に比して縦軸1目盛りの値を大きくして表示している。このため、周波数を増加させた0.05秒以降において、回転位相角が増加して行く状態を表示できていないが、縦軸1目盛りの値を小さくして表示すれば、図64と同様な波形になる。また、電圧フリッカによる影響は、ケース7について示した図58と同様な波形となる。
図71は、ケース9のパラメータにて計算される対称性破れの判定結果を示す図である。この判定結果は、上記(364)式に示す判定式を用いて、1ステップ毎計算したものである。また、図59およびず65と同様に、対称性がある場合を“1”、対称性がない場合を“2”として示している。
ケース9の場合、図71に示すように、0.05秒以後の期間において、周波数変動の影響を受けて、対称状態と非対称状態を交替に繰り返す状態になっていることが分かる。また、ケース9の場合、0.2秒以後の十数ミリ秒の期間において、対称性の崩れが持続していることが分かる。
図72は、ケース9のパラメータにて計算される周波数(実周波数)を示す図である。この周波数(実周波数)は、上記(365)式の左辺に示す式を用いて計算することができる。
図72に示すように、測定周波数は理論周波数に追随していることが分かる。即ち、周波数変動が生じていても、変動後の周波数を確実に捉えていることが分かる。
図73は、ケース9のパラメータにて計算される周波数変化率を示す図である。この周波数変化率は、上記(360)式を用いて計算することができる。なお、(360)式における指定時間間隔T0は50msとする。
ケース9において、周波数変化率は、表11に示すように1.5Hz/Sに設定されている。このため、図67に示されるように最大0.6Hz/S程度の誤差は存在するものの、約0.12秒以降の各時点において、この周波数変化率の値を捕捉できていることが分かる。
以上説明したように、実施の形態15に係る周波数測定装置および周波数変化率測定装置によれば、各種対称群を構成するデータの元となる計測データのサンプリング周波数であるデータ収集サンプリング周波数と、計測データから各種対称群を構成するデータを抽出するときのサンプリング周波数である対称群サンプリング周波数という概念を導入したので、各種対称群を構成するメンバーのサンプリング間隔を好ましい間隔に設定しつつ、計算に必要な計測データを増加させることができ、計測精度を高めて高調波ノイズの影響を抑制(低減)することが可能となる。
以上説明したように、実施の形態15に係る周波数測定装置および周波数変化率測定装置によれば、計測データのサンプリング周期を変更することなくデータ収集サンプリング周期にて移動平均処理を行うことができるので、高調波ノイズの影響を効率的または効果的に抑制(低減)することが可能となる。