JP2012081531A - ナノ物質配列構造体の製造方法および装置 - Google Patents

ナノ物質配列構造体の製造方法および装置 Download PDF

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Abstract

【課題】複数のナノ物質の配列を制御する技術を提供する。
【解決手段】ナノ物質配列構造体を製造する製造装置200は、光源201と、筐体202と、ナノ物質集団生成部203と、媒質供給部204と、基板固定部205と、制御部206とを備える。光源201は、ナノ物質集団10に対して軸対称偏光ベクトルビームを照射する。制御部206によって、光源201から発せられる軸対称偏光の条件が変更される。たとえばナノ物質集団10に照射される偏光ビームのスポット径が変更される。制御部206は、光源201から発せられる軸対称偏光の条件を制御する。この条件は、周波数(波長)、強度、偏光の種類、照射時間、照射周期、照射回数、等を含む。
【選択図】図31

Description

本発明は、ナノ物質の配列を制御するための分野に関する。
2つのナノ物質が光の波長以下のスケールまで近接した系に光が照射された場合、それらのナノ物質の各々に、その光による分極が生じる。光誘起分極した2つのナノ物質間の相互作用によって、当該物質間に引力あるいは斥力が生じる。具体的には、光の電場の振動方向、すなわち偏光の方向が2つの物質の配列方向に平行である場合、2つの物質間に引力が働く。一方、偏光の方向が2つの物質の配列方向と垂直である場合には、2つの物質間に斥力が働く。これが物質間光誘起力の基本的なメカニズムである。
このようなメカニズムを用いたナノ物質の操作方法が、たとえば特表2006−027863号公報(特許文献1)に開示される。特許文献1によれば、複数のナノ物質からなるナノ物質集団に、当該ナノ物質の電子的励起準位に共鳴する光が照射される。上記方法によれば、その光の偏光方向を変化させることによってナノ物質間に作用する引力または斥力が、ナノ物質の操作に利用される。
特表2006−027863号公報
原子間に生じる斥力および引力のバランスによって、結晶の構造は様々である。同様に、光誘起力によってナノ物質間に生じる引力および斥力を利用することによって、様々な構造を有するナノ物質の複合体を作り出すことができると期待される。これにより、新たな機能を有するナノ物質複合体を作製することも期待できる。
特許文献1には、ナノ物質を操作するための偏光として、上下(垂直)方向に偏光した光および水平方向に偏光した光が開示されている。すなわち特許文献1では、一方向に偏光した光を用いたナノ物質の操作方法が開示される。しかしながら、ナノ複合材料の構造の多様化を実現するためには、上記の偏光以外の光もナノ複合材料の生成に利用可能であることが好ましい。
本発明の目的は、複数のナノ物質の配列を制御する技術を提供することである。
本発明の一局面によれば、ナノ物質の配列制御方法は、複数のナノ物質を含むナノ物質集団を準備するステップと、光軸に対して対称に偏光した軸対称偏光をナノ物質集団に照射することによって複数のナノ物質に光誘起力を生じさせ、それにより、複数のナノ物質を配列するステップとを備える。
好ましくは、複数のナノ物質を配列するステップは、光誘起力を制御するために軸対称偏光のスポット径を制御するステップを含む。
好ましくは、ナノ物質の配列制御方法は、基板を準備するステップをさらに備える。複数のナノ物質を配列するステップは、基板上に複数のナノ物質を配列するステップを含む
本発明の他の局面によれば、ナノ物質の配列制御装置は、複数のナノ物質に光誘起力を生じさせるために、光軸に対して対称に偏光した軸対称偏光を、複数のナノ物質を含むナノ物質集団に照射する光源と、光誘起力によって複数のナノ物質が配列されるように、軸対称偏光を制御する制御部とを備える。
好ましくは、制御部は、光誘起力を制御するために軸対称偏光のスポット径を制御する。
好ましくは、制御部は、基板上に複数のナノ物質を配列する。
本発明のさらに他の局面によれば、ナノ物質配列構造体の製造方法は、複数のナノ物質を含むナノ物質集団を準備するステップと、光軸に対して対称に偏光した軸対称偏光をナノ物質集団に照射することによって複数のナノ物質に光誘起力を生じさせ、それにより、複数のナノ物質を配列するステップとを備える。
好ましくは、複数のナノ物質を配列するステップは、光誘起力を制御するために軸対称偏光のスポット径を制御するステップを含む。
好ましくは、製造方法は、軸対称偏光によって配列された複数のナノ物質を固定するステップをさらに備える。
本発明のさらに他の局面によれば、ナノ物質配列構造体の製造装置は、複数のナノ物質に光誘起力を生じさせるために、光軸に対して対称に偏光した軸対称偏光を、複数のナノ物質を含むナノ物質集団に照射する光源と、光誘起力によって複数のナノ物質が配列されるように、軸対称偏光を制御する制御部とを備える。
好ましくは、制御部は、光誘起力を制御するために軸対称偏光のスポット径を制御する。
好ましくは、制御部は、軸対称偏光によって配列された複数のナノ物質を固定する。
本発明のさらに他の局面によれば、ナノ物質の配列模擬方法は、複数のナノ物質の初期条件を設定するステップと、複数のナノ物質の配列を制御するための軸対称偏光の条件を設定するステップと、複数のナノ物質に照射される軸対称偏光によって複数のナノ物質に生じる光誘起力に基づいて、複数のナノ物質の配列を模擬するステップとを備える。
好ましくは、模擬するステップは、軸対称偏光のスポット径を変更するステップを含む。
本発明のさらに他の局面によれば、ナノ物質の配列模擬装置は、複数のナノ物質の初期条件を設定する第1の設定部と、複数のナノ物質の配列を制御するための軸対称偏光の条件を設定する第2の設定部と、複数のナノ物質に照射される軸対称偏光によって複数のナノ物質に生じる光誘起力に基づいて、複数のナノ物質の配列を模擬する配列模擬部とを備える。
好ましくは、模擬部は、軸対称偏光のスポット径を変更する。
好ましくは、軸対称偏光は、単一のナノ物質の共鳴エネルギーよりも低いエネルギーを有する光である。
好ましくは、軸対称偏光は、単一のナノ物質の共鳴エネルギーよりも高いエネルギーを
有する光である。
好ましくは、複数のナノ物質は、自由空間および流動性媒質のいずれかに存在する。
好ましくは、軸対称偏光は、ラジアル偏光である。
好ましくは、軸対称偏光は、アジミュサル偏光である。
好ましくは、ナノ粒子は、金属ナノ粒子である。
本発明によれば、ナノ物質の配列構造を多様化するための技術を提供することができる。
単一粒子モデルを説明するための図である。 単一粒子に作用する力のエネルギースペクトルを計算した結果を示した図である(真空中)。 2粒子モデルを説明するための第1の図である。 図3に示された2粒子モデルの光エネルギースペクトルの計算結果を示した図である(真空中)。 2粒子モデルを説明するための第2の図である。 図5に示された2粒子モデルの光エネルギースペクトルの計算結果を示した図である(真空中)。 ラジアル偏光の電場強度分布および電場ベクトルの向きを説明するための図である。 アジミュサル偏光の電場強度分布および電場ベクトルの向きを説明するための図である。 ラジアル偏光の発生原理を説明するための図である。 アジミュサル偏光の発生原理を説明するための図である。 軸対称偏光ベクトルレーザ光のビームウエスト面内における単一ナノ粒子の位置を説明した図である。 ビームスポット径が800nmに設定された場合における電場の強度分布を示した図である。 ビームスポット径が500nmに設定された場合における電場の強度分布を示した図である。 図12に示された粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。 図13に示された粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。 2つのナノ粒子へのラジアル偏光ビームの照射により生じるそれら2つの粒子間の相互作用を説明するための図である。 図16に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 図16に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 図16に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 図16に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 2粒子へのアジミュサル偏光ビームの照射により生じる2粒子間の相互作用を説明するための図である。 図21に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 図21に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 図21に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 図21に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である(常温水中)。 偏光による2つのナノ粒子の配列を模擬した結果を示した図である(常温水中)。 偏光による4つのナノ粒子の配列を模擬した結果を示した図である(常温水中)。 本発明の実施の形態に係る模擬方法を実行するコンピュータ100のハードウェア構成を説明した図である。 CPU120の機能的構成を示すブロック図である。 本発明の実施の形態に係る模擬方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。 本発明の実施の形態に係るナノ物質の配列制御装置を備えたナノ物質配列構造体の製造装置の構成を示した図である。 図31に示される光源201の構成例を示した図である。 図31に示した製造装置による、ナノ物質の配列制御方法およびナノ物質配列構造体の製造方法を説明するフローチャートである。 ナノ物質集団にラジアル偏光を照射することによって形成されたナノ物質配列構造体の構造例を示した図である。 ナノ物質集団にアジミュサル偏光を照射することによって形成されたナノ物質配列構造体の構造例を示した図である。 ラジアル偏光によって生成されたナノ配列構造体の吸収スペクトルを計算するためのモデルを示した図である。 図36に示されたナノ物質配列構造体の吸収スペクトルの計算結果を示した図である(常温水中)。 アジミュサル偏光によって生成されたナノ配列構造体の吸収スペクトルを計算するためのモデルを示した図である。 図38に示されたナノ物質配列構造体の吸収スペクトルの計算結果を示した図である(常温水中)。 本発明の実施の形態に係る製造装置の応用例を示した図である。 図40に示された製造装置220によって製造された構造体の第1の例の模式図である。 図40に示された製造装置220によって製造された構造体の第2の例の模式図である。 プラズモニック太陽電池の構成例を示した模式図である。
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
本発明およびその実施の形態において、「ナノ物質」は、ナノメートルのオーダーのサイズを有する粒子、構造体等を含む。「ナノメートルのオーダー」とは1から数百ナノメートルの範囲を含み、典型的には1〜100nmの範囲である。本発明の実施の形態によれば、1〜100nmのサイズを有するナノ物質において、光の共鳴現象が生じた場合にナノ物質に作用する力を、光の共鳴現象がない場合における力の10〜10倍に増強できる。
本発明およびその実施の形態において、「光応答性のナノ物質」とは、光の照射によって大きな光誘起分極が生じるナノ物質を意味する。光応答性のナノ物質は、有機高分子、半導体量子ドット、金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ等を含むがこれに限定されるものではない。光誘起分極とは、物質中の電子の運動が光によって励起されることにより生じる物質の電気分極である。以下では、光応答性のナノ物質の一つの例示的形態として金属ナノ構造体が説明される。
本発明およびその実施の形態において、「光誘起力」とは、散逸力、勾配力および物質間光誘起力の総称として用いられる。散逸力とは、光散乱あるいは光吸収といった散逸的過程において、光の運動量が物質に与えられることによって発生する力である。勾配力は、光誘起分極が生じた物質が不均一な電磁場の中に置かれた場合に、電磁気学的なポテンシャルの安定点に物質を移動させる力である。物質間光誘起力とは、光励起された複数の物質中の誘起分極から生じる縦電場による力と横電場(輻射場)による力との和である。光周波数および励起光の特性(偏光、位相など)によって、複数の物質間に生じる力を斥力と引力との間で切換えることができる。
本発明およびその実施の形態において、「共鳴光」とは、ナノ物質への入射によって、ナノ物質に光誘起分極を生じさせる光を意味する。典型的には、共鳴光は、ナノ物質の電子的励起準位に共鳴する光である。
本発明およびその実施の形態において、「偏光」との用語は、光電磁波の伝播方向に垂直な電場ベクトルを意味する。
本発明およびその実施の形態において、「軸対称偏光」とは、光軸に対して軸対称に偏光した光を意味する。なお、「光軸」を光の伝播方向と読み代えることもできる。
本発明およびその実施の形態において、「ナノ物質集団」との用語は、少なくとも2つのナノ物質を含む系を意味する。本発明では、「ナノ物質集団」は、共鳴光の照射によって相互作用を及ぼすように集合する複数のナノ物質の集団を含む。
本発明およびその実施の形態において、「ナノ物質配列構造体」との用語は、少なくとも2つのナノ物質が光波長以下の間隔で配置されることによって形成された構造体を意味する。
本発明およびその実施の形態において、「媒質」とはナノ物質の存在する環境を意味する。ナノ物質が自由に移動可能な環境であれば媒質の種類は特に限定されるものではない。また、媒質は物質に限定されるものではなく、本発明およびその実施の形態では、真空も「媒質」として含むことができる。したがって、本発明およびその実施の形態において、ナノ物質は自由空間に存在してもよいし、流動性媒質中に存在してもよい。流動性媒質は、たとえば液体である。以下の説明においては、ナノ物質集団は液体中に存在するものとする。
この明細書において、「エネルギー」と「周波数(または角周波数)」とは相互に読み替え可能である。量子力学によれば、エネルギーEと角周波数ωとの間には、E=h/2π×ω(hはプランク定数)との関係が成立する。さらに、角周波数ωと周波数fとはω=2πfの関係にある。したがってこの明細書において「エネルギー」と「周波数(または角周波数)」とは相互に読み替え可能である。
なお、以下においては周波数fと角周波数ωとを区別する必要がない限り、「周波数」との用語は、周波数fおよび角周波数ωの両方を包含するものとする。また、波長λは周
波数fの逆数であるので、この関係に従って「エネルギー」と「波長」とを相互に読み替えることもできる。
ナノ物質集団が存在する環境の温度は、たとえば常温(298K)である。ただし環境温度は、常温以下であってもよい。環境温度を低下させることにより、ナノ物質集団が存在する環境内における、ナノ物質への熱的影響、典型的には、熱運動する分子によるブラウン運動などを低減できる。
<金属ナノ構造体に印加される光誘起力>
金属ナノ構造体は球状セルであると仮定する。この場合、応答光電場は、Maxwell方程式の積分形として表現できる。電場Eは以下の式(1)に従って表わされる。
i,jは球状セルの粒子番号である。M,Lは自己相互作用に関連する量である。
個々の金属構造体の内部での感受率および電場分布は平坦であるとする。誘起分極Piは以下の式(2)に従って表わされる。
感受率χにはDrudeモデルが適用される。感受率χは以下の式(3)に従って表わされる。
χは背景の感受率を表わし、ωはプラズマエネルギーを表わし、γは非輻射緩和定数を示し、Vはフェルミ面上における電子速度を示す。非輻射緩和定数は光から光以外(たとえば熱)への緩和を示す値である。
一方、光誘起力は、以下の式(4)によって一般的に表わされる(T. Iida and H. Ishihara, Phys. Rev. B 77, 245319 (2008) )。
上記式(2)および式(3)に従ってそれぞれ表わされる誘起分極Pおよび応答電場Eが式(4)に代入される。これにより、光誘起力は以下の式(5)に従って表わされる。
GはGreen関数を表わす。
式(5)の右辺の第1項は入射光による光誘起力すなわち勾配力を表わし、第2項は物質間光誘起力を表わす。入射光による勾配力は光強度勾配に比例する。一方、物質間光誘起力は光強度に比例する。このため、入射光のスポット径を調整することによって光強度勾配と物質間光誘起力との間のバランスを調整することができる。
次に、単一粒子モデルを仮定する。この場合、共鳴光照射下での分極や光誘起力の本質を議論するために背景の感受率χ=0とすると、分極Pは、以下の式(6)に従って表わされる(後の実施形態では、背景の感受率χには、非ゼロである有限の値が用いられる)。
(−S(R)(ω,a))は局在表面プラズモン(LSP)の共鳴周波数を示す。ω (I)(ω,a)は輻射緩和率を示す。輻射緩和率は、局在表面プラズモンが光に戻るときの緩和力を示す定数である。ここでS=(M−L/K)であり、粒子のサイズが小さいときにはS(R)はほぼ−1/3となる。
図1は、単一粒子モデルを説明するための図である。図1を参照して、単一の粒子1に光5(平面波)が入射される。光5の伝播方向はx方向であり、光5の偏光方向(電場ベクトルの向き)はy方向である。粒子1に光5が入射されることによって、粒子1にはx方向に沿った力Fxが発生する。
図2は、単一粒子に作用する力のエネルギースペクトルを計算した結果を示した図であ
る。図2を参照して、グラフの縦軸は、粒子1に作用する力Fx(図1参照)の大きさを示し、横軸は光5のエネルギー(周波数)を示す。この計算では、電場強度を5(MW/cm)とし、プラズマ周波数を8.958(eV)とし、γ=72.3(meV)とし、背景の比誘電率ε=12とした(背景の感受率χと背景の比誘電率εとの間には、χ=ε−1の関係がある)。媒質は真空であるとした。10(nm)、20(nm)および30(nm)の間で粒径を変化させた。図2に示されるように、粒径が増大するにつれて、力Fxの強度がピークに達するときのエネルギーが低エネルギー側にシフトするとともに力Fxのピーク値が増大する。
図3は、2粒子モデルを説明するための第1の図である。図3を参照して、y方向に沿って粒子1,2が配列される。軸Axは、粒子1,2の中心を結ぶ軸を示す。
粒子1,2に光5が入射される。光5の偏光方向はy方向である。すなわち、光5の偏光の方向は、粒子1,2の中心を結ぶ軸Axと平行な方向である。この場合、粒子1,2の各々には、光5の偏光の方向に平行な方向に沿って分極が生じる。
図4は、図3に示された2粒子モデルの光エネルギースペクトルの計算結果を示した図である。図4を参照して、グラフの縦軸は、粒子1,2の各々に作用する力を示し、グラフの横軸は光5のエネルギー(周波数)を示す。この計算では、粒子1,2の半径をともに20(nm)とし、粒子1,2間の距離を50(nm)とした。粒子1,2の各々に作用する力のピーク値に対応するエネルギーの値は、単一粒子の共鳴エネルギーよりも約0.039(eV)低くなる。このエネルギーの差は、ポラリトン分子の結合エネルギーに対応する。
粒子1には負の力が作用する一方で、粒子2には正の力が作用する。このため、図3に示されるように、粒子1,2の間には引力が作用する。この場合の分極Pは、式(6)の導出と同様に背景の感受率χ=0とすると、以下の式(7)に従って表わされる。
図5は、2粒子モデルを説明するための第2の図である。図5を参照して、軸Axの方向と垂直な方向に偏光した光5が、粒子1,2に入射される。粒子1,2の各々には、光5の偏光の方向に平行な方向に沿って分極が生じる。すなわち分極の方向は、粒子1,2の軸Axの方向と垂直である。
図6は、図5に示された2粒子モデルの光エネルギースペクトルの計算結果を示した図である。図6を参照して、グラフの縦軸は、粒子1,2の各々に作用する力を示し、グラフの横軸は光5のエネルギー(周波数)を示す。この計算では、粒子1,2の半径をともに20(nm)とし、粒子1,2間の距離を50(nm)とした。図6に示されるように、粒子1,2の各々に作用する力のピーク値に対応するエネルギーの値は、単一粒子の共鳴エネルギーよりも約0.0095(eV)大きくなる。このエネルギーの差は、ポラリトン分子の反結合エネルギーに対応する。
粒子1および粒子2の分極の向きが互いに等しい。このため図5に示されるように、粒子1,2の間には斥力が生じる。この場合の分極Pは、以下の式(8)に従って表わされ
る。なお、導出にあたっては、式(6)および式(7)の場合と同じく、背景の感受率χ=0としている。
なお、図3のモデルでは光5の偏光方向がy方向であるため、式(7)において関数Gyyが用いられる。これに対して、図5のモデルでは光5の偏光方向がz方向であるため、式(8)において関数Gzzが用いられる。
<軸対称偏光による金属ナノ構造体の配列制御>
本発明の実施の形態では、各々が光応答性を有する複数のナノ物質に対して軸対称偏光(Axially-Symmetric Polarization)を照射することで、複数のナノ物質の配列を制御する。ナノ物質の光応答性が偏光依存性を有する場合に、軸対称偏光をナノ物質に照射することによって、直線偏光あるいは円偏光とは異なる力学的作用を当該ナノ物質に生じさせることが可能となる。
電場ベクトルの向きによって、軸対称偏光はラジアル偏光およびアジミュサル偏光に分類される。図7は、ラジアル偏光の電場強度分布および電場ベクトルの向きを説明するための図である。図8はアジミュサル偏光の電場強度分布および電場ベクトルの向きを説明するための図である。図7および図8を参照して、ラジアル偏光の場合には、電場の方向は動径方向である。これに対してアジミュサル偏光の場合には、電場の方向は方位角方向である。
軸対称偏光ベクトルビームの場合、そのビームの中心部で電場強度|E|がゼロになる。このため、ラジアル偏光およびアジミュサル偏光の両方の場合において、電場強度の分布はドーナツ状の強度分布となる。
なお、図7および図8には示されていないが、x軸およびy軸の交点(原点)を通り、紙面に垂直な軸をz軸とする。z軸は、軸対称偏光ベクトルビームの光軸に対応する。以下では、ベクトルビームのスポット径が最も小さくなるz軸上の位置をz=0と定義するとともに、この位置をビームウエストと呼ぶ。wは、ビームウエストの位置における、ビームのスポット径である。
図9は、ラジアル偏光の発生原理を説明するための図である。図10は、アジミュサル偏光の発生原理を説明するための図である。図9および図10を参照して、平行偏光または直交する偏光を持つ2つのTEM01ラゲールガウシアンビームの可干渉性の重ね合わせによって、軸対称偏光ベクトルレーザ光を発生させることができる。
ナノ物質の光誘起分極を増強するためには、軸対称偏光ベクトルレーザ光がその波長程度の大きさに絞り込まれてからナノ物質に導入されることが好ましい。光応答性を有するナノ物質を、ビームウエスト面上に配置することによって、当該ナノ物質に生じる光誘起分極を増強できる。以下では、ビームウエスト面上の金属ナノ粒子について説明する。
図11は、軸対称偏光ベクトルレーザ光のビームウエスト面内における単一ナノ粒子の位置を説明した図である。図11を参照して、粒子1a,1b,1cは、x軸上に配置さ
れる。粒子1a,1b,1cのx座標をそれぞれx1,x2,x3とする。x2は、電場の強度が略最大となる位置を示す。座標x1は、座標x2よりもビーム中心に近い位置を示す。一方、座標x3は、座標x2よりもビーム中心から離れた位置を示す。
図12は、ビームスポット径が800nmに設定された場合における電場の強度分布を示した図である。図13は、ビームスポット径が500nmに設定された場合における電場の強度分布を示した図である。図12および図13を参照して、ビームスポット径を小さくすることによって、座標x1,x3における電場の傾きが大きくなる。
図14は、図12に示された粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。図15は、図13に示された粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。なお、これらの計算では媒質は水と仮定したが、真空中の粒子についても図14、図15に示した結果と同じ結果を得ることができる。
図12および図14を参照して、共鳴エネルギー(約2.2349(eV))よりも低いエネルギーの光が、座標x1(370nm)に位置する粒子に照射される。この場合、正の力がその粒子に作用する。これにより、その粒子は座標x1から、電場強度のより強い場所に引き寄せられる。一方、共鳴エネルギーよりも高いエネルギーの光が、座標x1に位置する粒子に照射された場合、負の力がその粒子に作用する。これによりその粒子は座標x1から電場強度のより小さい位置へと押し出される。したがって粒子はビームの中心に向けて移動する。
共鳴エネルギーよりも低いエネルギーの光が座標x3(900nm)に位置する粒子に照射された場合、負の力がその粒子に作用する。これにより、その粒子は電場強度の強い場所に引き寄せられる。一方、共鳴エネルギーよりも高いエネルギーの光が座標x3に位置する粒子に照射された場合、正の力がその粒子に作用する。これによりその粒子は座標x3から、電場強度のより小さい場所に押し出される。したがって粒子は、ビームの中心からより遠ざかる。
座標x2(570nm)に位置する粒子は、電場強度の最も大きい場所に位置する。共鳴エネルギーよりも低いエネルギーの光によって粒子に負の力が作用した場合、x2において勾配力がゼロに近付き、電磁気学ポテンシャルの安定領域となるため、x2近傍に粒子が補足されることになる。一方、共鳴エネルギーよりも高いエネルギーの光によって粒子に正の力が作用した場合、強度が弱いビームの中心付近またはビームの外側に粒子が押しやられることになる。
図15は、図14に示した結果と同様の結果を示す。座標x1(200nm)にある粒子は、共鳴エネルギーよりも低いエネルギーの光によって電場強度の大きい位置へ移動する一方で、共鳴エネルギーよりも高いエネルギーの光によって電場強度のより小さい位置へと押し出される。座標x3(600nm)にある粒子は、共鳴エネルギーよりも高いエネルギーの光によって電場強度の大きい位置へ移動する一方で、共鳴エネルギーよりも低いエネルギーの光によって電場強度のより小さい位置へと押し出される。座標x2(350nm)に位置する粒子の場合、共鳴エネルギーよりも低いエネルギーの光によって、その粒子に正の力が作用する。このため、その粒子は、座標x2からビームの外側に移動する。一方、共鳴エネルギーよりも高いエネルギーの光によって、その粒子には負の力が作用する。このため、その粒子は座標x2からビームの中央に移動する。
図12〜図15は以下のことを示している。粒子の共鳴エネルギーよりも低いエネルギーを有する軸対称偏光ベクトルビームを複数の粒子に照射することによって電場強度が大きな場所にそれらの複数の粒子を集めることができる。逆に、粒子の共鳴エネルギーより
も高いエネルギーを有する軸対称偏光ベクトルビームを複数の粒子に照射することによって電場強度が大きな場所からそれらの複数の粒子を遠ざけることができる。ビームのスポット径を小さくすることによって、エネルギーに対する力の勾配が大きくなる。したがって、粒子に作用する勾配力を大きくすることができる。一方の物質間光誘起力は、粒子が存在する位置における強度自体に比例するため、強度勾配の変化に対して勾配力とは異なる依存性を持つ。すなわち粒子に作用する力の大きさをビームのスポット径によって制御できる。これらの特徴を利用することによって、入射光による勾配力と物質間光誘起力との間のバランスを制御することができる。
図16は、2つのナノ粒子へのラジアル偏光ビームの照射により生じるそれら2つの粒子間の相互作用を説明するための図である。図16を参照して、パターンA、パターンBの各々は、粒子1,2の配置のパターンを示している。パターンAは光軸から粒子1までの距離および光軸から粒子2までの距離がともに等しくなるパターンである。パターンBは光軸から粒子1までの距離が光軸から粒子2までの距離より大きくなるパターンである。
パターンAの場合、粒子1の中心と粒子2の中心とを結ぶ軸は、偏光方向(電場の方向)と直交する。このため、粒子1,2の間には斥力が発生する。一方、パターンBの場合、粒子1の中心と粒子2の中心とを結ぶ軸は、偏光方向と平行である。このため粒子1,2の間には引力が発生する。
図17は、図16に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。図18は、図16に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。なお、図17に示す結果は、スポット径wを800(nm)とし、光軸から粒子1,2の各々までの距離ρを565.55(nm)とし、粒子1の中心と粒子2の中心との間の距離r=50(nm)とし、単一粒子の共鳴エネルギーを2.2349(eV)とすることによって得られた。図18に示す結果は、スポット径wを800(nm)とし、光軸から粒子1までの距離ρ1を600(nm)とし、光軸から粒子2までの距離ρ2を550(nm)とし、粒子1の中心と粒子2の中心との間の距離r=50(nm)とし、単一粒子の共鳴エネルギーを2.2349(eV)とすることによって得られた。これらの計算では媒質は水と仮定したが、真空中の粒子についても図17、図18に示した結果と同じ結果を得ることができる。図17および図18に示されるように、パターンAに従って配置された粒子1,2の間には斥力が生じるのに対してパターンBに従って配置された粒子1,2の間に引力が生じる。
図19は、図16に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。図20は、図16に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。図19に示す結果は、スポット径wを500(nm)とし、光軸から粒子1,2の各々までの距離ρを350.89(nm)とし、粒子1の中心と粒子2の中心との間の距離r=50(nm)とし、単一粒子の共鳴エネルギーを2.2349(eV)とすることによって得られた。図20に示す結果は、スポット径wを500(nm)とし、光軸から粒子1までの距離ρ1を400(nm)とし、光軸から粒子2までの距離ρ2を350(nm)とし、粒子1の中心と粒子2の中心との間の距離r=50(nm)とし、単一粒子の共鳴エネルギーを2.2349(eV)とすることによって得られた。なお、他の条件については、図17、図18に示される計算結果が得られた場合の条件と同じであるので詳細な説明は繰り返さない。図19および図20に示されるように、スポット径wを800(nm)から500(nm)に変更した場合にも、物質間光誘起力としては、パターンAに従って配置された粒子1,2の間には斥力が生じるとともに、パターンBに従って配置された粒子1,2
の間に引力が生じるが、図14および図15で示されるように、勾配力の大きさがスポット径によって変化するため、スポット径を制御することによって、異なる配列構造を作成できる。
図21は、2粒子へのアジミュサル偏光ビームの照射により生じる2粒子間の相互作用を説明するための図である。図21を参照して、パターンAの場合、粒子1の中心と粒子2の中心とを結ぶ軸は、偏光方向(電場の方向)と平行である。このため、粒子1,2の間には引力が発生する。一方、パターンBの場合、粒子1の中心と粒子2の中心とを結ぶ軸は、偏光方向に垂直である。このため粒子1,2の間には斥力が発生する。すなわちアジミュサル偏光ビームの場合には、ラジアル偏光ビームによる結果とは逆の結果が生じる。以下に説明する図22〜25の計算結果を得るための条件は、図17〜図20の計算結果を得るための条件とそれぞれ同じである。
図22は、図21に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。図23は、図21に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。なお、スポット径wを800(nm)とした。
図22および図23に示されるように、パターンAに従って配置された粒子1,2の間には引力が生じるのに対してパターンBに従って配置された粒子1,2の間に斥力が生じる。
図24は、図21に示したパターンAに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。図25は、図21に示したパターンBに従って配置された2つのナノ粒子に作用する力を計算した結果を示した図である。なお、スポット径wを500(nm)とした。図24および図25に示されるように、スポット径wを変更した場合にも、パターンAに従って配置された粒子1,2の間には引力が生じるのに対してパターンBに従って配置された粒子1,2の間には斥力が生じる。
このように、偏光方向を制御することによって、粒子1,2間に生じる力(引力および斥力)を制御することができる。これによって粒子1,2を整列することが可能となる。
図26は、偏光による2つのナノ粒子の配列を模擬した結果を示した図である。図26を参照して、y方向に偏光した直線偏光を2つのナノ粒子に照射することにより、それら2つの粒子がビームウエストの位置において、y方向と略平行な方向に整列する。図26は、熱揺らぎによるランダム力が存在していても、電気二重層斥力と光誘起力(引力および斥力)とのバランスによって、偏光方向と平行な方向に沿って2個の粒子を配列することができることを示している。
なお、図26に示す結果は、以下の条件によって得られたものである。ナノ粒子を金ナノ粒子とし、粒子の直径を40(nm)とした。さらに金ナノ粒子は常温の水に存在するものとした。光強度を600(mW)とし、励起波長を、非共鳴の波長である1064(nm)とした。また、スポットの直径を1000(nm)とし、レーザ光の照射時間を0.02(s)とし、ステップ数を1000000(ステップ)とした(描画の都合上、1000ステップに相当する20μsごとにナノ粒子の軌跡をプロットしている)。
図27は、偏光による4つのナノ粒子の配列を模擬した結果を示した図である。なお、図27の結果を得るための条件は、図26の結果を得るための条件と同じである。図27に示されるように、ナノ粒子の個数を2個から4個に増やした場合にも、偏光方向と平行な方向に沿って4個の粒子を配列することができる。
<ナノ物質の配列模擬方法および装置>
本発明の一実施形態では、光誘起力による複数のナノ物質の配列を模擬する。複数のナノ物質の配列を模擬することによって、ナノ物質配列構造体の構造を予測することができる。ナノ物質配列構造体の構造を予測することによって、当該ナノ物質配列構造体の性質を予測することができる。これにより、新たな機能を有するナノ複合体を作製できる可能性が高められる。
図28は、本発明の実施の形態に係る模擬方法を実行するコンピュータ100のハードウェア構成を説明した図である。図28を参照して、コンピュータ100は、コンピュータ本体101と、フレキシブルディスク(Flexible Disk、以下「FD」と呼ぶ)ドライブ103と、光ディスクドライブ104と、通信インターフェイス105と、モニタ106と、キーボード107と、マウス108とを備える。FDドライブ103、光ディスクドライブ104、通信インターフェイス105、キーボード107およびマウス108は、バス102を介してコンピュータ本体101に接続される。
FDドライブ103は、FD113から情報を読み出すとともにFD113に情報を記録する。光ディスクドライブ104は、CD−ROM(Compact Disc Read−Only Memory)114等の光ディスクに記録された情報を読み出す。通信インターフェイス105
は、コンピュータ100の外部の装置と通信回線(図示せず)を通じてデータを授受する。
コンピュータ本体101は、CPU(Central Processing Unit)120と、ROM
(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含むメモリ121と、ハードディスク122とを含む。CPU120、メモリ121、ハードディスク122は、バス102に接続される。
ハードディスク122は、複数のナノ物質の配列を模擬するためのパラメータ130と、シミュレーションプログラム131と、シミュレーション結果132とを格納する。ハードディスク122は、直接アクセスメモリ装置の一例であって、ハードディスク122のかわりに、他の種類の直接アクセスメモリ装置を用いてもよい。
パラメータ130は、ナノ物質の配列を模擬するための各種のパラメータを含む。一例として、パラメータ130は、ナノ物質の個数、ナノ物質のサイズ(半径、体積等)、複数のナノ物質間の距離、光の周波数、光の強度(パワー)、光の偏光方向、スポット径、照射時間、照射周期、および照射回数、環境温度、ナノ物質が存在する媒質の種類、等を含む。ただしパラメータの種類はこれらに限定されない。
ユーザは、キーボード107およびマウス108等の入力装置を介して、パラメータ130を変更することができる。パラメータ130は、通信インターフェイス105を介して外部のデータベースから供給されてもよい。
シミュレーションプログラム131は、上記のパラメータに基づいて複数のナノ物質の配列を模擬するためのプログラムである。シミュレーションプログラム131は、FD113およびCD−ROM114等の記憶媒体によって供給されてもよく、あるいは、他のコンピュータから通信回線を経由して供給されてもよい。シミュレーション結果132は、シミュレーションプログラム131の実行結果を含む。
上記のシミュレーションプログラム131は、CPU120により実行されるソフトウェアである。CPU120がシミュレーションプログラム131を実行することにより、
コンピュータ100は、模擬装置として機能する。
図29は、CPU120の機能的構成を示すブロック図である。図29を参照して、CPU120は、初期条件設定部150と、偏光条件設定部160と、配列シミュレーション部170とを備える。
初期条件設定部150は、パラメータ130に基づいて、複数のナノ物質の初期状態を設定する。たとえば、初期条件設定部150は、ナノ物質の個数、ナノ物質の初期位置(または複数のナノ物質の間隔)、ナノ物質のサイズ、媒質、環境温度を設定する。
偏光条件設定部160は、パラメータ130に基づいて、複数のナノ物質に照射される軸対称偏光に関する条件を設定する。たとえば、偏光条件設定部160は、周波数、強度(パワー)、偏光方向、光の伝播方向、スポット径、照射時間、照射周期、および照射回数等を設定する。偏光方向を設定するために、ラジアル偏光およびアジミュサル偏光のいずれか一方が選択されてもよい。あるいは、ラジアル偏光およびアジミュサル偏光だけでなく直線偏光も選択可能であってもよい。直線偏光が選択されることによって、シミュレーションモデルをより単純化することができる。ユーザがパラメータ130に含まれる軸対称偏光の条件を変更した場合、偏光条件設定部160は、パラメータ130に基づいて軸対称偏光に関する条件を変更する。
配列シミュレーション部170は、初期条件設定部150によって設定された複数のナノ物質の初期状態および、偏光条件設定部160によって設定された軸対称偏光の条件に基づいて、シミュレーションプログラム131に従って複数のナノ物質の配列を模擬する。配列シミュレーション部170は、2つのナノ物質の中心を結ぶ軸と偏光方向との間の関係から、式(7)あるいは式(8)を用いて、ナノ物質に生じる光誘起力(2つのナノ物質間に生じる引力または斥力、あるいはナノ物質に作用する勾配力)およびその大きさを算出する。配列シミュレーション部170は、その算出された光誘起力および熱揺らぎによってナノ物質に作用する力に基づき、複数のナノ物質の配列を模擬するとともに、その結果をシミュレーション結果132として出力する。
図30は、本発明の実施の形態に係る模擬方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、図28に示したコンピュータ100により実行される。なお、本発明の実施の形態に係る模擬方法は図30に示した順序に従って実行されるものと限定されない。たとえば処理の順序が適宜変更されてもよいし、複数の処理が並行して実行されてもよい。
図30を参照して、ステップS1において、パラメータ130に基づいて複数のナノ物質の初期条件が設定される。ステップS2において、軸対称偏光ベクトルビームに関する条件が設定される。ステップS3において、シミュレーションプログラム131に従って、ナノ物質の配列がシミュレーションされる。ステップS4において、シミュレーション結果132が出力される。ステップS4の処理が終了すると全体の処理が終了する。図30に示された処理をコンピュータ100(模擬装置)が実行することにより、図26および図27に示されたシミュレーション結果を得ることができる。
<ナノ物質配列構造体の製造>
本発明の実施の形態に係るナノ物質の配列制御方法は、複数のナノ物質からなるナノ物質集団を準備するステップと、当該ナノ物質に軸対称偏光を照射するステップとを備える。軸対称偏光をナノ物質集団に照射することでナノ物質に光誘起力が発生する。その力を利用することによって、ナノ物質の配列が制御される。なお、ナノ物質が存在するための媒質の種類は特に限定されるものではない。
図31は、本発明の実施の形態に係るナノ物質の配列制御装置を備えたナノ物質配列構造体の製造装置の構成を示した図である。図31を参照して、本発明の実施の形態に係る製造装置200は、光源201と、筐体202と、ナノ物質集団生成部203と、媒質供給部204と、基板固定部205と、制御部206とを備える。
本実施の形態によれば、常温環境においてナノ物質の配列を制御することができる。したがって、筐体202はナノ物質の配列制御にとって必ずしも必要ではない。本実施の形態によれば、たとえばナノ物質(たとえば金ナノ粒子)が分散した溶液をサンプルセルに封入した環境においても、当該ナノ物質の配列制御が可能である。また、ナノ物質(たとえば金ナノ粒子)が分散した溶液を基板11上に滴下することによって、基板11およびナノ物質集団10が準備されてもよい。
光源201は、ナノ物質集団10に対して軸対称偏光ベクトルビームを照射する。制御部206によって、光源201から発せられる軸対称偏光の条件が変更される。たとえばナノ物質集団10に照射される偏光ビームのスポット径が変更される。
図32は、図31に示される光源201の構成例を示した図である。図32を参照して、光源201は、レーザ光源211と、ラジアル偏光コンバータ212と、集光光学系213とを備える。
レーザ光源211は直線偏光したレーザ光を発生させる。レーザ光源211の具体的な構成は特に限定されるものではなく、ナノ物質の操作に用いられる公知のレーザ光源を用いることができる。たとえば上記のように金ナノ粒子の配列を制御する場合には、波長1064(nm)のレーザ光を発生させるレーザ光源(たとえばNd:YAGレーザ)をレーザ光源211に用いることができる。この他、たとえば実施形態に開示された金属ナノ粒子の局在表面プラズモンの共鳴条件に近い条件で光誘起力を変化させるためには、500nm〜700nmの範囲に波長を有する半導体レーザをレーザ光源211に用いることもできる。レーザ光の波長(エネルギー、光周波数)を変化させることができるようにレーザ光源211は波長可変レーザであることが好ましい。これにより、単一ナノ粒子の共鳴エネルギーよりも高いエネルギーを有する光、およびその共鳴エネルギーよりも低いエネルギーを有する光を発生させることができる。
ラジアル偏光コンバータ212は、レーザ光源211からの直線偏光ビームを軸対称偏光ビームに変換する。たとえばラジアル偏光コンバータ212は、液晶層を含む偏光制御デバイスである。液晶層に含まれる液晶分子は、制御部206からの電気信号によってその配向方向を変化させる。配向方向が制御された液晶分子を含む液晶層に、直線偏光が入射される。これにより、直線偏光をラジアル偏光またはアジミュサル偏光に変換することができる。
ラジアル偏光コンバータ212は、ラジアル偏光の発生とアジミュサル偏光の発生とを切換え可能であることが好ましい。ただしラジアル偏光コンバータ212は、ラジアル偏光およびアジミュサル偏光のいずれか一方のみ発生可能であってもよい。
集光光学系213は、ラジアル偏光コンバータ212からの軸対称偏光ビームを集光してナノ物質集団に照射する。集光光学系213は、軸対称偏光ビームのスポット径を変更できるデバイスであれば特に限定されず、たとえば公知の構成を有するビームエキスパンダ、レンズ等を用いることができる。
図31に戻り、製造装置200は、軸対称偏光を発生させる光源201に加えて、直線
偏光あるいは円偏光を発生させる光源を備えていてもよい。異なる種類の偏光をナノ物質集団10に照射することによって、ナノ物質の多様な配列を実現できる。
ナノ物質集団10は、筐体202の内部に閉じ込められる。筐体202の大きさや形状等は特に限定されず、ナノ物質集団10にとって適切な環境を提供できるものであればよい。筐体202の内部は、真空であってもよいし、液体状の媒質で満たされてもよい。
ナノ物質集団生成部203は、複数のナノ物質からなるナノ物質集団10を生成する。ナノ物質集団生成部203は、たとえば、まずナノ物質を生成して、次にナノ物質集団10を形成する。
媒質供給部204は媒質を筐体202の内部に供給する。媒質の種類は特に限定されず、たとえば流動性媒質である。流動性媒質の種類は特に限定されない。筐体202の内部を冷却することが求められる場合、流動性媒質として、たとえば液体窒素、液体ヘリウム等を用いてもよい。また、筐体202の内部を真空に近い状態にする必要がある場合、媒質供給部204として真空ポンプを用いることもできる。
基板固定部205は基板11を固定する。この実施の形態では、基板11の表面に複数のナノ物質が配列されることによって、ナノ物質配列構造体が製造される。基板11の種類は特に限定されないが、たとえば半導体基板、ガラス基板等を用いることができる。
制御部206は、光源201、ナノ物質集団生成部203、媒質供給部204を制御する。具体的には、制御部206は、光源201から発せられる軸対称偏光の条件を制御する。この条件は、周波数(波長)、強度、偏光の種類、照射時間、照射周期、照射回数、等を含む。ただし軸対称偏光の条件は、上記の条件に限定されない。制御部206は、さらにナノ物質集団生成部203によるナノ物質集団10の生成(たとえばナノ物質集団10の生成タイミング、ナノ物質の濃度など)を制御する。さらに制御部206は、媒質供給部204による媒質の供給(たとえば供給量、供給タイミングなど)を制御する。さらに、制御部206は、基板11上に配列された複数のナノ粒子を基板11に固定するための処理を実行してもよい。
図31には示されていないが、製造装置200は、ナノ物質集団10の配列制御に関する各種情報を操作者に提示するための表示手段(各種ディスプレイ等)、ナノ物質配列構造体を検出するための手段、筐体202の内部の温度を一定に保つための手段をさらに備えていてもよい。このような手段も公知の構成を用いることができ、その動作も制御部206により制御可能である。
図33は、図31に示した製造装置による、ナノ物質の配列制御方法およびナノ物質配列構造体の製造方法を説明するフローチャートである。なお、本発明の実施の形態に係る配列制御方法および製造方法は図33に示した順序に従って実行されるものと限定されない。たとえば処理の順序が適宜変更されてもよいし、複数の処理が並行して実行されてもよい。
図33を参照して、ステップS11において、ナノ物質集団生成部203はナノ物質集団10を形成する。すなわちステップS11においてナノ物質集団10が準備される。なお、基板11はステップS11の処理に先立って予め準備される。
ステップS12において、光源201は、軸対称偏光ベクトルビームを発生させるとともに、その軸対称偏光ベクトルビームをナノ物質集団10に照射する。
ステップS13において、制御部206が光源201を制御する。これにより、光源201から発せられる軸対称偏光ベクトルビームが制御される。軸対称偏光ベクトルビームが制御されることにより、複数のナノ物質には光誘起力が生じる。その光誘起力によって、複数のナノ物質が基板11の表面に配列する。
ステップS14において、基板11の表面にナノ物質が固定される。ステップS14の処理は任意選択的に実行されてもよい。基板11の表面にナノ物質が固定するための方法としては公知の方法を利用することができるので、ここでは詳細な説明を繰り返さない。たとえば基板11とナノ物質との間の静電的相互作用(を利用して基板11の表面にナノ物質を固定してもよいし、複数のナノ物質が基板11の表面上で配列された後に、その表面が薄膜によりコーティングされてもよい。ステップS14の処理が終了すると全体の処理が終了する。
図34は、ナノ物質集団にラジアル偏光を照射することによって形成されたナノ物質配列構造体の構造例を示した図である。図35は、ナノ物質集団にアジミュサル偏光を照射することによって形成されたナノ物質配列構造体の構造例を示した図である。図34および図35を参照して、単一のナノ物質の共鳴エネルギーよりも低エネルギーの光をナノ物質集団10に照射することによって、電場強度の強い部分にナノ物質を引き寄せる力が働く。ラジアル偏光がナノ物質集団に照射された場合、動径方向に引力が働くとともに、方位角方向には斥力が働く。図34に示されるように、ナノ物質配列構造体21においては、粒子1,2の対の中心軸(図3および図5に示した軸Axに対応する軸)が動径方向に沿うように、粒子1,2の対が配置される。さらに、動径方向に密となるとともに方位角方向に疎となるように、複数のナノ物質が配置される。
一方、アジミュサル偏光がナノ物質集団に照射された場合、動径方向に斥力が働くとともに、方位角方向には引力が働く。図35に示されるように、ナノ物質配列構造体22においては、粒子1,2の対の中心軸が方位角方向に沿って配置される。さらに、動径方向に疎となるとともに方位角方向に密となるように、複数のナノ物質が配置される。
このように、本発明の実施の形態によれば、軸偏光の種類を異ならせることによって、ナノ物質の配列構造を変えることができる。さらに、軸対称偏光ベクトルビームのスポット径を変化させることによって、勾配力と、引力(あるいは斥力)との間のバランスを変化させることができる。このため粒子間隔の異なる配列構造体を作成することも可能である。
ナノ物質配列構造体の構造を変えることによって、その構造体の特性も変えることができる。以下では、ナノ物質配列構造体の構造に依存する特性の一例として吸収スペクトルを示す。
図36は、ラジアル偏光によって生成されたナノ配列構造体の吸収スペクトルを計算するためのモデルを示した図である。図36を参照して、同心円状に配置された粒子の個数をNとする。粒子の配置方向の数をlとすると、N個の粒子が配置される円の数は(N/l)となる。同一の円周上にならぶ複数の粒子に対して、x軸上の粒子から反時計回りに1,2,3,・・・,j,・・・と順番を付す。円の中心からj番目の粒子の中心へと伸びる直線がx軸となる角度をθとする。角度θは以下の式(9)に従って表わされる。
θ=8π(j−1)/N …(9)
内側からk番目の円周上に中心を有するj番目の粒子の座標(xkj,ykj)は、以下の式(10)および式(11)に従ってそれぞれ表わされる。
kj=ρcosθj …(10)
kj=ρsinθj …(11)
なお、図36は、N=48、l=12の場合のナノ物質配列構造体の構成を示す。
図37は、図36に示されたナノ物質配列構造体の吸収スペクトルの計算結果を示した図である。なお、粒子の直径を40nmに設定した。また、動径方向に隣接する2つの粒子の中心間距離(=ρk+1,j−ρk,j)を50nmに設定した。また、ρ1,j=275nmに設定した。θj−1−θj−1=π/6である。
図37には、ナノ物質配列構造体の吸収スペクトル(すなわち、RTEMで示す曲線)との比較のために、直線状に並べられた48個のナノ粒子の2つの吸収スペクトルもまた示される。それら2つの吸収スペクトルの一方(すなわち、Linear(parallel)で示す曲線)は、ナノ粒子の配列方向に対して平行な方向に偏光した直線偏光に対する直線状構造体の吸収スペクトルであり、他方(すなわち、Linear(perpendicular)で示す曲線)は、ナノ粒子の配列方向に対して垂直な方向に偏光した直線偏光に対する直線状構造体の吸収スペクトルである。
直線状構造体の吸収スペクトルは、吸収波長が偏光方向に大きく依存することを示している。一方、ラジアル偏光によって作成された構造体の吸収スペクトル(RTEMで示される曲線)は、動径方向にナノ物質を密に配置することによって、様々な向きに偏光した直線偏光を広い周波数帯域にわたり吸収できることを示す。
図38は、アジミュサル偏光によって生成されたナノ配列構造体の吸収スペクトルを計算するためのモデルを示した図である。図38を参照して、アジミュサル偏光の電場強度が最も強い位置にN個の粒子が配列される。したがって、N個の粒子が円環状に配列される。この円の半径をρとする。なお図38はN=48の場合のナノ配列構造体の例を示す。
図39は、図38に示されたナノ物質配列構造体の吸収スペクトルの計算結果を示した図である。なお、Nを48とし、粒子の直径を40nmとし、方位角方向に隣接する2つの粒子の中心間距離を49.7nmとし、ρ=380nmとした。また、θ=π/24に設定した。
図37と同じく、図39にも、直線状に並べられた48個のナノ粒子の2つの吸収スペクトル(すなわち、Linear(y−direction)で示す曲線およびLinear(z−direction)で示す曲線)が示される。アジミュサル偏光によって作成された構造体の吸収スペクトル(すなわち、ATEMで示す曲線)は、方位角方向にナノ物質を密に配置することによって、様々な向きに偏光した直線偏光を広い周波数帯域にわたり吸収できることを示す。
以上のように、本発明の実施の形態によれば、軸対称偏光ベクトルビームによって複数のナノ物質の配列を制御する。これによって様々な向きに偏光した光を効率よく吸収することができるナノ物質配列構造体を製造することができる。
図40は、本発明の実施の形態に係る製造装置の応用例を示した図である。図40を参照して、製造装置220は、光源201と、制御部206と、グレーティング222と、テレスコープ223と、ミラー224と、対物レンズ225と、照明器226と、接眼レンズ(アイピース)227と、ビデオカメラ228とを備える。
グレーティング222は、たとえばコンピュータによって生成されたホログラムである。光源201からの軸対称偏光ベクトルビームは、グレーティング222によって、任意の方向に進む複数のビームに分割される。複数のビームは、テレスコープ223を通り、ミラー224によって対物レンズ225に入射する。対物レンズ225は、ミラー224からのレーザビームを集光する。ナノ物質集団10は、基板11の表面上に存在する。対物レンズ225から出射されたレーザビームは、ナノ物質集団10に照射される。なお、制御部206によって光源201が制御される。これにより光源201から出射される軸対称偏光ベクトルビームが制御される。また、光源201の直後にラジアル偏光コンバータ212が備えられてもよい。
図40の構成によれば、グレーティング222のホログラムのパターンを制御することによって複数の軸対称偏光ベクトルレーザビームを発生させることができる。これにより、基板11の表面上に、図34、図35、図36、および図38で示された多数のナノ物質配列構造体を生成することができる。また、ラジアル偏光コンバータ212(図32を参照)を光源201の直後に備えてもよい。この場合、ラジアル偏光コンバータ212で生成した単一の軸対称ベクトルレーザビームをグレーティング222で反射させることで、偏光を保存しながら、単一の軸対称ベクトルレーザビームを、複数の軸対称ベクトルレーザビームへと分割する。このような構成によっても、図34、図35、図36、および図38で示された放射状および同心円状の配列構造体を多数作成することができる。
図41は、図40に示された製造装置220によって製造された構造体の第1の例の模式図である。図41を参照して、基板11の表面に、複数のナノ物質配列構造体21が配置される。ナノ物質配列構造体21の構成は、図34に示された構成に対応する。すなわち、各ナノ物質配列構造体は、放射状に配列された複数のナノ物質を含む。図42は、図40に示された製造装置220によって製造された構造体の第2の例の模式図である。図42を参照して、基板11の表面に、複数のナノ物質配列構造体22が配置される。ナノ物質配列構造体22の構成は、図34に示された構成に対応する。ナノ物質配列構造体22の構成は、図35に示された構成に対応する。すなわち、各ナノ物質配列構造体は、同心円状に配列された複数のナノ物質を含む。なお、1種類のナノ物質配列構造体のみ(すなわちナノ物質配列構造体21およびナノ物質配列構造体22のいずれか一方のみ)が基板11の表面に配列されるよう限定されるものではない。ナノ物質配列構造体21,22の両方が基板11の表面に配列されてもよい。
(応用例)
本発明の実施の形態によれば、任意の種類のナノ物質の配列制御に利用できる。たとえば金属ナノ粒子中の局在表面プラズモン(LSP)を光で共鳴励起すると、その金属ナノ粒子の表面近傍において強い光電場が発生し、それにより、常温でも強い光散乱および光吸収が示される。また、ナノ粒子集団の配列状態によって光学的スペクトルが敏感に変化するので、金属ナノ粒子の配列をデザインすることによって、ナノ物質配列構造体の様々な応用が期待される。
したがって、本発明の実施の形態によれば、光の利用形態の異なる様々な材料を作製することが期待できる。また、本発明の実施の形態によれば、軸対称偏光ビームを用いてナノ物質の配列を制御することによって、光エネルギーを高効率で別の物理量に変換して利用できる材料を作製することが期待できる。
本発明の実施の形態によるナノ物質配列構造体の応用例について以下に示す。
(1)新規の高効率の光電変換材料およびデバイスへの利用
上記材料またはデバイスとして、たとえば以下のものが挙げられる。
(a)配列および光応答特性が制御された金属ナノ粒子を有するプラズモニック太陽電池
(b)局所的に光電変換特性が制御された有機−無機ハイブリッド型人工捕集系
(c)光電流検知型局在表面プラズモンバイオセンサー
図43は、プラズモニック太陽電池の構成例を示した模式図である。図43を参照して、プラズモニック太陽電池300は、金属層302と、金属層302の上に配置されたn型半導体層304と、n型半導体層304の上に配置されたp型半導体層306と、p型半導体層306の表面に配置された複数のナノ物質配列構造体21とを備える。ナノ物質配列構造体21は、放射状に配置された複数のナノ物質を含む。p型半導体層306の表面には、複数のナノ物質配列構造体21に代えて複数のナノ物質配列構造体22(各ナノ物質配列構造体22は、同心円状に配置された複数のナノ物質を含む)が配置されてもよい。さらに、ナノ物質配列構造体21およびナノ物質配列構造体22の両方がp型半導体層306の表面に配置されてもよい。
たとえば上記の項目(a),(b)に記載した例では、局在表面プラズモンの電磁気学的結合状態による広い光吸収帯が利用可能であるとともに、光誘起分極を生じさせる部位に高効率に光エネルギーを集中できるような、ナノ物質の配列構造体を作製できる可能性がある。また、項目(c)に記載した例では、光応答性の生体分子とプラズモンとの結合によって、その生体分子を高効率に検出可能なセンサーを作製できる可能性がある。
(2)高効率の光−熱変換材料
たとえば高効率で光エネルギーを熱エネルギーに変換する光温熱治療用材料を作成できる可能性がある。たとえば所望の場所を局所的に加熱できる材料の開発、およびその材料の生体への応用などが期待できる。
(3)光エネルギーを光のまま伝送するナノ光デバイス
上記の光デバイスとして、たとえば以下のものが挙げられる。
(d)可視光用メタマテリアル
(e)近接場ナノ光デバイス
(f)ナノ光電子回路
(d)の場合、ナノ物質の配列を適切に設計することにより、特定の性質を有する光を選択的に透過、集光あるいは吸収する光フィルタを作製できる可能性がある。
(e)の場合、たとえば光機能性分子の会合体が構成されるようにナノ物質の配列を適切に設計することにより、光電変換デバイスを補助する光インターコネクションを作製できる可能性がある。
(g)の場合、所望の量子特性を有するカーボンナノ材料あるいは量子ドットの配列を適切に設計することにより、光電変換デバイスを補助する光インターコネクションを作製できる可能性がある。
このように本発明の実施の形態によれば、複数のナノ物質の配列を軸対称偏光を用いて制御することによって、ナノ複合材料の構造の多様化を実現することができる。
なお、上記の実施の形態においては、複数のナノ物質が基板に配列される。すなわち、2次元の配列構造体が作製される。しかしながら、本発明によれば、3次元の配列構造体を作製することも可能である。たとえば流動性のある光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂中において、軸対称偏光ビームによりナノ粒子の配列を制御してナノ粒子をトラップし、軸対称偏光ビームとは異なる波長を有する他の光を光硬化性樹脂に照射したり、あるいは熱
硬化性樹脂を加熱したりすることで樹脂を硬化させる。これにより3次元の配列構造体作製成することが可能となる。
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。
本発明は、新規な性質を有する構造体の製造など、ナノテクノロジーに関わる分野に広く利用できる。
1,2,1a,1b,1c 粒子、5 光、11 基板、21,22 ナノ物質配列構造体、100 コンピュータ、101 コンピュータ本体、102 バス、103 FDドライブ、104 光ディスクドライブ、105 通信インターフェイス、106 モニタ、107 キーボード、108 マウス、114 ROM、120 CPU、121 メモリ、122 ハードディスク、130 パラメータ、131 シミュレーションプログラム、132 シミュレーション結果、150 初期条件設定部、160 偏光条件設定部、170 配列シミュレーション部、200,220 製造装置、201 光源、202 筐体、203 ナノ物質集団生成部、204 媒質供給部、205 基板固定部、206 制御部、211 レーザ光源、212 ラジアル偏光コンバータ、213 集光光学系、222 グレーティング、223 テレスコープ、224 ミラー、225 対物レンズ、226 照明器、228 ビデオカメラ、300 プラズモニック太陽電池、302 金属層、304 n型半導体層、306 p型半導体層、A,B パターン、Ax 軸。

Claims (12)

  1. ナノ物質配列構造体の製造方法であって、
    複数のナノ物質を含むナノ物質集団を準備するステップと、
    光軸に対して対称に偏光した軸対称偏光を前記ナノ物質集団に照射することによって前記複数のナノ物質に光誘起力を生じさせ、それにより、複数のナノ物質を配列するステップとを備える、ナノ物質配列構造体の製造方法。
  2. 前記複数のナノ物質を配列するステップは、
    前記光誘起力を制御するために前記軸対称偏光のスポット径を制御するステップを含む、請求項1に記載のナノ物質配列構造体の製造方法。
  3. 前記軸対称偏光によって配列された前記複数のナノ物質を固定するステップをさらに備える、請求項1に記載のナノ物質配列構造体の製造方法。
  4. 前記軸対称偏光は、ラジアル偏光である、請求項1に記載のナノ物質配列構造体の製造方法。
  5. 前記軸対称偏光は、アジミュサル偏光である、請求項1に記載のナノ物質配列構造体の製造方法。
  6. 前記ナノ粒子は、金属ナノ粒子である、請求項1に記載のナノ物質配列構造体の製造方法。
  7. ナノ物質配列構造体の製造装置であって、
    複数のナノ物質に光誘起力を生じさせるために、光軸に対して対称に偏光した軸対称偏光を、前記複数のナノ物質を含むナノ物質集団に照射する光源と、
    前記光誘起力によって前記複数のナノ物質が配列されるように、前記軸対称偏光を制御する制御部とを備える、ナノ物質配列構造体の製造装置。
  8. 前記制御部は、前記光誘起力を制御するために前記軸対称偏光のスポット径を制御する、請求項7に記載のナノ物質配列構造体の製造装置。
  9. 前記制御部は、前記軸対称偏光によって配列された前記複数のナノ物質を固定する、請求項7に記載のナノ物質配列構造体の製造装置。
  10. 前記軸対称偏光は、ラジアル偏光である、請求項7に記載のナノ物質配列構造体の製造装置。
  11. 前記軸対称偏光は、アジミュサル偏光である、請求項7に記載のナノ物質配列構造体の製造装置。
  12. 前記ナノ粒子は、金属ナノ粒子である、請求項7に記載のナノ物質配列構造体の製造装置。
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