JP2012018366A - 非線形光学素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い光入力強度まで非線形光学応答特性が得られる半導体多重量子井戸構造の非線形光学素子を提供する。
【解決手段】半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子において、障壁層の厚さを井戸層より小さい原子層の厚さとし、ミニバンドを形成する。これにより、電子・正孔のミニバンドのエネルギー幅を所定エネルギー値以上とすることができ、励起子キャリアの存在空間体積が増大し、その結果、励起子キャリア密度が低下し、励起光エネルギーを増大できることになる。入射光を高い光入力強度まで非線形光学素子に入射させることが可能となり、高い光入力強度まで非線形光学応答が飽和することなく応答強度が増加できる。
【選択図】図3

Description

本発明は、光通信デバイスや光情報処理デバイスに使用される非線形光学素子の技術に関する。
高速度情報処理やマルチメディアの進展に伴って、大容量の情報を超高速で処理する要求が高まり、光処理技術が注目され、光信号処理で不可欠な光スイッチの開発が行われている。光スイッチは、光によって材料の屈折率や透過率などの光学特性を変化させることができる非線形光学効果を利用する。かかる観点から、非線形光学効果の大きい材料の探索が行われており、GaAsのような半導体単結晶や重金属ドープガラスなどの様々な材料が非線形光学素子として研究されている。
また、半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子に、バンドギャップエネルギーに近いエネルギーをもつ光を照射すると、価電子帯から伝導帯に励起された電子と、価電子帯に残された正孔がクーロン力でペア(励起子)を形成し、この励起子が所定条件下で大きな非線形光学効果を生じることが知られている。このような半導体量子井戸構造は、例えば、光スイッチや半導体レーザの活性層の構成技術として用いられている。半導体レーザの活性層に膜厚が10nm以下の井戸層と障壁層を交互に積層することにより作製する。これにより状態密度が変化して、光応答強度やレーザ出力の向上を図ることができる。
代表的な半導体多重量子井戸としては、GaAsを井戸層としAlAsを障壁層とするものや、GaNを井戸層としAlNを障壁層とするものや、InSbを井戸層としGaSbを障壁層とするものがある。
半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子では、井戸層の幅を制御することで光応答波長などの光特性を制御できる。
しかしながら、光応答強度を高めるために光の入射強度を増加させると光励起キャリアの密度が増加するため、非線形光学応答強度が飽和するといった問題がある。
特開平2−93523号公報
上述の如く、従来の半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子では、光応答強度を高めるために光の入射強度を増加させると光励起キャリアの密度が増加し、それに伴い非線形光学応答強度が飽和するといった問題がある。
上記状況に鑑みて、本発明は、高い光入力強度まで非線形光学応答特性が得られる半導体多重量子井戸構造の非線形光学素子を提供することを目的とする。
上記目的を達成すべく、本発明の非線形光学素子は、半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子において、障壁層の厚さを井戸層より小さい原子層の厚さとし、ミニバンドを形成して、励起子の存在空間を障壁層にまで及ぼすことで励起子の存在空間体積を増大させ、高い光入力強度まで非線形光学応答特性を備えた構成とされる。
かかる構成によれば、半導体多重量子井戸構造において、電子の空間的な広がりを利用して、高い光入力強度まで非線形光学応答を得ることが可能となる。
障壁層の厚さを井戸層に比べて薄くすることで、電子・正孔のミニバンドのエネルギー幅を所定エネルギー値以上とすることができ、励起子キャリアの存在空間体積が増大し、その結果、励起子キャリア密度が低下し、励起光エネルギーを増大できることになる。従って、入射光を高い光入力強度まで非線形光学素子に入射させることが可能となり、高い光入力強度まで非線形光学応答が飽和することなく応答強度が増加できるのである。
また、井戸層の厚さを一定にして、障壁層を薄くしていくと、電子および正孔の包絡波動関数が隣り合う量子井戸で重なり合うようになるため、励起子キャリアが障壁層内にも存在できるようになる。理論的には、ブリルアンゾーンの折り返しモードが形成されるため、π点と呼ばれる新しい光学遷移点が形成され、ミニバンド状態が形成されることになる。このミニバンド中で電子および正孔が空間的に広がることができるようになるため、相対的に励起子キャリアの密度が低下し、飽和現状が抑制されることになるのである。
なお、ミニバンドがない試料では、励起子の存在空間が井戸層のみに限られるため、同じ入射光強度でも励起子密度が高まり、励起子分子の形成や励起子−励起子散乱が生じ、非線形光学応答の強度が低下する。
ここで、本発明の非線形光学素子において、上記のミニバンドは、正孔のミニバンド幅が0.01meV以上であることが好ましい。
正孔のミニバンド幅が0.01meV未満の場合、励起子の存在空間が井戸層のみに限られるため、同じ入射光強度でも励起子密度が高まり、励起子分子の形成や励起子−励起子散乱が生じ、非線形光学応答がすぐに飽和してしまうからである。
また、本発明の非線形光学素子において、上記のミニバンドは、電子のミニバンド幅が0.5meV以上、かつ、正孔のミニバンド幅が0.05meV以上であることが好ましい。
電子のミニバンド幅が0.5meV未満の場合、非線形光学応答がすぐに飽和してしまうからである。また、電子のみがミニバンドを形成し、正孔がミニバンドを形成していない条件では、電子のみが空間的に広がり、正孔は量子井戸に局在した状態になる。そのため、励起子の密度を低下させる方向には働かず、励起光エネルギーを増大できないことになる。
また、本発明の非線形光学素子において、井戸層がGaAsであり、障壁層がAlAs,AlGaAs,AlGaP,AlGaPAsから選択された化合物の場合、井戸層の厚さと障壁層の厚さの和が40原子層以下であり、かつ、障壁層の厚さが10原子層以下であることが好ましい態様である。
井戸層の厚さと障壁層の厚さの和が40原子層以下であり、かつ、障壁層の厚さが10原子層以下にすることにより、電子・正孔のミニバンドのエネルギー幅を所定エネルギー値以上の有意な幅とすることができ、励起子キャリアの存在空間体積が増大できる。その結果、励起子キャリア密度が低下し、励起光エネルギーを増大できることになり、入射光を高い光入力強度まで非線形光学素子に入射させることが可能となる。すなわち、高い光入力強度まで非線形光学応答が飽和することなく応答強度が増加できることになる。
また、本発明の非線形光学素子において、井戸層がGaAsであり、障壁層がAlAs,AlGaAs,AlGaP,AlGaPAsから選択された化合物の場合、井戸層の厚さが60原子層以下であり、かつ、障壁層の厚さが5原子層以下であることが好ましい態様である。
井戸層の厚さが60原子層以下であり、かつ、障壁層の厚さが5原子層以下にすることにより、電子・正孔のミニバンドのエネルギー幅を所定エネルギー値以上の有意な幅とすることができ、励起子キャリアの存在空間体積が増大できる。その結果、励起子キャリア密度が低下し、励起光エネルギーを増大できることになり、入射光を高い光入力強度まで非線形光学素子に入射させることが可能となる。すなわち、高い光入力強度まで非線形光学応答が飽和することなく応答強度が増加できることになる。
また、本発明の他の観点からは、半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子において、
井戸層の厚さd,正孔の有効質量m,および正孔のミニバンドの波数kと、
障壁層の厚さd,正孔の有効質量mおよび正孔のミニバンドの波数kと、
が下記式(1)の関係となるときのkDが、0.01以上となるように、
井戸層の原子層の厚さと障壁層の原子層の厚さが決定され、ミニバンド幅がkDのミニバンドを形成して、励起子の存在空間を前記障壁層にまで及ぼすことで励起子の存在空間体積を増大させ、高い光入力強度まで非線形光学応答特性を備えた構成とされる。
上記式(1)について物理的意味を説明する。上記式(1)はミニバンド構造の基本的なパラメータであるミニバンド幅を有効質量近似により計算するものである。上記式(1)は、半導体多重量子井戸構造におけるミニバンドのエネルギー分散関係を示したもので、包絡関数近似に基づいたクローニッヒ・ペニー(Kronig−Penney:KP)型方程式で表されている。
ここで、dとdはそれぞれ井戸層と障壁層の層厚、mとmはそれぞれ井戸層と障壁層の正孔あるいは電子の有効質量、kとkはそれぞれ井戸層と障壁層の正孔あるいは電子のミニバンドの波数を示すパラメータである。
上記式(1)の計算をして、ミニバンド幅を決定する。実際に有効となるのは、0<cos(kD)=<1の範囲であるので、kDの範囲は、0<kD<πとなる。図8のグラフは、GaAs35/AlAs5に対して、上記式(1)の右辺を電子に対して計算した結果を示したものである。図8において、円で示したところで値が1と0になる横軸の値を抽出してミニバンド幅を決定するのである。
本発明の非線形光学素子によれば、入力信号の単位時間のエネルギーを増やすことが可能となる。すなわち、パルス光の入射の場合、単位時間のパルス数を増やすことがかのとなる。パルス数を増やせることで、従来出力信号が低下するといった問題を克服できることになる。
また、本発明の非線形光学素子によれば、入力信号のエネルギー選択幅を広げることができる。すなわち、入力信号の最適化操作が不要となる。従来、特定のエネルギーの入力信号でなければ、高いゲインの出力信号を取り出せなかったという問題を克服できることになる。
また、本発明の非線形光学素子によれば、入力信号のエネルギーを大きくしても出力信号強度が下がっていかないことから、熱エネルギー損失が少ないことにより、デバイスの耐久性を向上できるといった効果がある。
半導体多重量子井戸構造の概念図と原子層の説明図 半導体多重量子井戸構造のイメージ図とポテンシャル構造の模式図 非線形光学素子の信号応答強度のグラフ 障壁層の厚さが30原子層の試料での非線形光学応答信号特性を示すグラフ(縮退四光波混合信号:DFWM信号)のk2パルス強度依存性) 障壁層の厚さが10原子層の試料での非線形光学応答信号特性を示すグラフ(縮退四光波混合信号:DFWM信号)のk2パルス強度依存性) 位相緩和時間のグラフ 発光スペクトルの励起光強度依存性の測定グラフ ミニバンド幅の決定の仕方の説明図 井戸層や障壁層の原子層に関する説明図
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
図1は、半導体多重量子井戸構造の概念図を示している。
半導体多重量子井戸構造は、図1に示すように、異なる種類のナノスケールの半導体薄膜を周期的に積層したものである。主に波動関数に対する量子効果によって、バルク半導体では得られない多重量子井戸構造特有の物性と機能を備える。半導体多重量子井戸構造では、障壁層の層幅が薄く、隣り合う井戸間の波動関数の結合が無視できなくなり、量子井戸間の波動関数の結合に起因するミニバンド状態を形成する。
また、図2は、半導体多重量子井戸構造のイメージ図とポテンシャル構造の模式図を示している。半導体多重量子井戸構造のイメージは、図2(1)に示すように、例えば、GaAsを井戸層とし、AlAsを障壁層とするものが周期的に何層も積層されているものである。
また、半導体多重量子井戸構造のポテンシャル構造は、図2(2),(3)に示すように、伝導帯と価電子帯に分かれているが、障壁層の層幅が薄くしていくと、隣り合う井戸間の波動関数の結合が無視できなくなり、量子井戸間の波動関数の結合に起因するミニバンド状態を形成するようになる(図2(3)を参照)。
図9を用いて、GaAsを井戸層としAlAsを障壁層とする半導体多重量子井戸構造における層の厚さについて説明する。
図9は、GaAsの化合物におけるGa原子とAs原子の配置構造である。GaAsは閃亜鉛鉱構造の結晶構造なので、Ga原子とAs原子は、図9のように規則正しく並んでいる。このGa原子の層とAs原子の層が繰り返されている。図9の横線の間隔が1原子層の層厚となる。図9に示している層の厚さは、3原子層になり0.852nmとなる。
実施例1では、GaAsを井戸層としAlAsを障壁層とする半導体多重量子井戸構造の試料を用いて、非線形光学応答特性を調べた結果を説明する。
実施例1の試料は、分子線エピタキシー法により、GaAs基板上に作成した半導体多重量子井戸構造で、量子井戸層の繰り返し周期が30の試料(GaAs)30/(AlAs)を用いた。励起子の非線形光学応答は、励起子共鳴励起条件で縮退四光波混合(DFWM)法を用いて測定した。光源には、パルス幅が約100fs、繰り返し周波数80MHzのパルスレーザを用いている。測定温度は4.0Kであった。
図3は、井戸層の厚さを30原子層とし、障壁層の厚さを30原子層とする試料(GaAs)30/(AlAs)30と、井戸層の厚さを30原子層とし、障壁層の厚さを10原子層とする試料(GaAs)30/(AlAs)10とについて、非線形光学応答特性の信号応答強度を測定した結果を示している。図3の横軸はk光エネルギー強度で、縦軸はDFWM信号強度である。ここで、k光エネルギーは、非線形光学素子に対して入射する入射光強度に相当するものである。
図3から、障壁層の厚さを30原子層とした試料と、障壁層の厚さを10原子層とした試料とで、DFWM信号強度のk2光強度依存性が全く異なっていることが観測された。
すなわち、障壁層の厚さを30原子層とした試料(GaAs)30/(AlAs)30では、k光エネルギーが、0〜1.5(mW)までは、ほぼ線形にDFWM信号強度が増大し、1.5〜2(mW)のところでピークとなり、その後はk光エネルギーが増大してもDFWM信号強度は減少している。
一方、障壁層の厚さを10原子層とした試料(GaAs)30/(AlAs)10では、k光エネルギーが、0〜2(mW)までは、ほぼ線形にDFWM信号強度が増大し、その後も4(mW)まで緩やかに増大し、5(mW)までDFWM信号強度を維持し、5(mW)以降に緩やかに減少している。
このことから、障壁層の厚さを10原子層とした試料(GaAs)30/(AlAs)10では、k光エネルギー、すわなち、非線形光学素子への光入力信号強度を高めることが可能であることがわかる。このことは、非線形光学素子の入力信号の単位時間のエネルギーを増やすことが可能となり、パルス光の入射の場合には、単位時間のパルス数を増やせることになる。また、非線形光学素子の入力信号のエネルギーレンジが広がることは、応用デバイスの操作性を向上することになる。また、入力信号のエネルギーを大きくしても出力信号強度が下がっていかないことは、すなわち、熱エネルギー損失が少ないこととなり、デバイスの耐久性が向上することになる。
次に、図4と図5に、それぞれ、障壁層の厚さが30原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)30と、障壁層の厚さが10原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)10について、DFWM信号のk光パルス強度依存性を示す。
障壁層の厚さが30原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)30の場合、図4に示されるように、k光パルス強度を0.1(mW)から6.0(mW)と大きくすると、1.6(mW)がピークとなり、それ以上の強度ではDFWM信号強度が減少していることが確認できる。
一方、障壁層の厚さが10原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)10の場合、図5に示されるように、k光パルス強度を0.1(mW)から6.0(mW)と大きくすると、4.0(mW)がピークとなり、6.0(mW)もピークと同様のDFWM信号強度となっていることが確認できる。
このことから、障壁層の厚さが10原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)10の場合の方が、障壁層の厚さが30原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)30の場合と比べて、k光エネルギー、すわなち、非線形光学素子への光入力信号強度を高めることが可能であることがわかる。
また、図6は、k光強度を0.20(mW)で一定として測定したDFWM信号の位相緩和時間Tのk光強度依存性を示すグラフである。
図6から、位相緩和時間Tのk光強度依存性は、障壁層の厚さが10原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)10と、障壁層の厚さが30原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)30とでは、差はほとんどなく、位相緩和時間は両試料でほぼ同じであることがわかる。位相緩和時間は両試料でほぼ同じであることは、励起条件が2つの試料で大体同じになっていることがわかる。
また、図7は、発光スペクトルの励起光強度依存性の測定結果を示すグラフである。
横軸は、励起子発光強度、縦軸は励起子分子発光強度を表している。一般に、励起子発光強度は励起光強度に対して線形で増加し、励起子分子発光強度が励起光強度に対して2乗で増加する。従って、励起子発光強度に対して、2乗で増加しているのは励起子分子が形成されていることになる。励起子分子が形成されるということは、励起子密度が高まっていることを示唆することになる。このことから、障壁層の厚さが10原子層の試料(GaAs)30/(AlAs)10の試料の方が、励起子分子が形成されるのが高い励起光強度からということになり、同じ励起光強度においても励起子密度が低いことの裏付けになる。
上述の実施例1では、井戸層の厚さを一定にし、障壁層の厚さを薄くした場合に、非線形光学素子への光入力信号強度を高めることが可能であることについて説明した。
実施例2では、井戸層の厚さと障壁層の厚さの和を一定にし、障壁層の厚さを井戸層の厚さよりも薄くした場合に、光入力信号強度を高めることができる条件について説明する。
下記表1は、GaAsを井戸層としAlAsを障壁層とする半導体多重量子井戸構造において、井戸層の厚さと障壁層の厚さの和を40原子層の厚さに固定し、障壁層の厚さを井戸層の厚さよりも薄い条件で、電子・正孔のミニバンド幅を計算したものを整理したものである。
上記表1から、井戸層の厚さと障壁層の厚さの和を40原子層の厚さの場合、障壁層の厚さが小さくなればなるほど、電子・正孔のミニバンド幅が大きくなっていることがわかる。電子・正孔のミニバンド幅が大きくなることで、励起子キャリアの存在空間体積が増大し、励起子キャリア密度が低下し、励起光エネルギーを増大できることになる。
正孔のミニバンド幅と電子のミニバンド幅から、井戸層がGaAsであり、障壁層がAlAsの場合、井戸層の厚さと障壁層の厚さの和が40原子層であり、かつ、障壁層の厚さが10原子層以下なら、高い光入力強度まで非線形光学応答が飽和することなく応答強度が増加できることになる。
実施例3では、障壁層の厚さを薄く一定にし、井戸層の厚さを太くした場合に、光入力信号強度を高めることができる条件について説明する。
下記表2は、GaAsを井戸層としAlAsを障壁層とする半導体多重量子井戸構造において、障壁層の厚さを5原子層の厚さに固定し、井戸層の厚さを太くする条件で、電子・正孔のミニバンド幅を計算したものを整理したものである。
上記表2から、障壁層の厚さを5原子層の厚さに一定とした場合、井戸層の厚さをある程度まで大きくしても、電子・正孔のミニバンド幅が有意に存在することがわかる。電子・正孔のミニバンド幅が有意に存在することで、励起子キャリアの存在空間体積が増大し、励起子キャリア密度が低下し、励起光エネルギーを増大できることになる。
正孔のミニバンド幅と電子のミニバンド幅から、井戸層がGaAsであり、障壁層がAlAsの場合、障壁層の厚さが5原子層ならば、井戸層の厚さは60原子層程度まで、高い光入力強度まで非線形光学応答が飽和することなく応答強度が増加できることになる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明は、光通信や光情報処理分野における非線形光学素子に適用することができる。

Claims (6)

  1. 半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子において、障壁層の厚さを井戸層より小さい原子層の厚さとし、ミニバンドを形成して、励起子の存在空間を前記障壁層にまで及ぼすことで励起子の存在空間体積を増大させ、高い光入力強度まで非線形光学応答特性を備えたことを特徴とする非線形光学素子。
  2. 前記ミニバンドは、正孔のミニバンド幅が0.01meV以上であることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学素子。
  3. 前記ミニバンドは、電子のミニバンド幅が0.5meV、かつ、正孔のミニバンド幅が0.05meV以上であることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学素子。
  4. 前記井戸層がGaAsであり、前記障壁層がAlAs,AlGaAs,AlGaP,AlGaPAsから選択された化合物の場合、前記井戸層の厚さと前記障壁層の厚さの和が40原子層以下であり、かつ、前記障壁層の厚さが10原子層以下であることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学素子。
  5. 前記井戸層がGaAsであり、前記障壁層がAlAs,AlGaAs,AlGaP,AlGaPAsから選択された化合物の場合、前記井戸層の厚さが60原子層以下であり、かつ、前記障壁層の厚さが5原子層以下であることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学素子。
  6. 半導体多重量子井戸構造を有する非線形光学素子において、
    井戸層の厚さd,正孔の有効質量m,および正孔のミニバンドの波数kと、
    障壁層の厚さd,正孔の有効質量mおよび正孔のミニバンドの波数kと、
    が下記数式の関係となるときのkDが、0.01以上となるように、
    井戸層の原子層の厚さと障壁層の原子層の厚さが決定され、ミニバンド幅がkDのミニバンドを形成して、励起子の存在空間を前記障壁層にまで及ぼすことで励起子の存在空間体積を増大させ、高い光入力強度まで非線形光学応答特性を備えたことを特徴とする非線形光学素子。
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