JP2011246446A - 脳機能障害修復剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】GIRKチャンネル活性化電流抑制作用により脳機能障害を修復することができる脳機能障害修復剤を提供すること。
【解決手段】クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、及びクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種のGIRKチャンネル活性化電流抑制化合物を有効成分として含有する脳機能障害修復剤である。
【選択図】なし

Description

この発明は、脳機能障害修復剤に関するものであり、更に詳細には、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用により脳機能障害を修復することができる脳機能障害修復剤に関するものである。
本発明者らは、過去20数年にわたる中枢性鎮咳薬に関する研究の結果、この鎮咳薬がGタンパク質共役型内向き整流性カリウムイオンチャネル(GIRKチャネル)を抑制することを見出し、既に報告している(非特許文献1)。
本発明者らは、長年に亘る研究成果を、このGIRKチャネル活性化電流を抑制する作用を有する化合物を活性成分として含有する、うつ病や治療抵抗性うつ病などの気分障害または感情障害の治療薬(特許文献1)、注意欠陥・多動性障害の治療薬(特許文献2)、治療薬のない脳硬塞に伴う排尿障害を改善する薬剤(特許文献3)、環境化学物質に起因する脳機能障害の機能改善薬(特許文献4)、および排尿障害治療薬(特許文献5)に関して特許出願をしている。
GIRKチャンネル(Gタンパク質共役型内向き整流性カリウムイオンチャンネル)は、心筋などに加えて脳内に広く分布し、様々な受容体と共役していて、この共役する受容体を介してGIRKチャンネルは、活性化され、細胞の興奮性を抑制する作用に関与している。このGIRKチャンネルの活性は細胞内の様々な要因により調節を受けていることも知られている。
GIRKチャネル活性化電流とは、GIRKチャネルの活性化により、カリウムイオンが細胞膜を横切って流れることに起因する膜電流である。このチャネルはセロトニン(5-HT)やノルアドレナリンなど様々な神経伝達物質受容体と共役しており、例えば5-HT1A受容体やアドレナリン受容体をそれぞれ刺激するセロトニンやノルアドレナリンにより活性化される。
そこで、本発明者らは、これまでの研究成果に鑑みて、GIRKチャネル活性化電流抑制作用を有する化合物が、これまでGIRKチャネル活性化電流抑制の関与が知られていないが、脳機能の異常に起因して発症すると考えられる、脳機能障害である強迫性障害とパーキンソン氏病について更に研究を試みることにした。
強迫性障害は、不要な考えが心の中に繰り返し起こる「強迫観念」と、それを打ち消す「強迫行為」の2つの症状に特徴づけられ(非特許文献2、3)、有病率が0.7%〜8.0%と非常に高くかつ有効な治療薬がない、不安障害の中でも特に治りにくい難病の1つである(非特許文献4)。また強迫性障害においては、脳脊髄液(CSF)中のグルタミン酸のレベルが増加しているとの証拠も示されている(例えば、非特許文献5参照)。これらの神経液性変化は、NMDAレセプターアンタゴニストおよびグルタミン酸放出阻害剤が強迫性障害、特に難治性患者に対して有効であるところから、病因学的に強迫性障害に関連していると思われる(例えば非特許文献6参照)。
1980年以降、ある種の抗うつ薬が強迫性障害に有効であるとの報告がなされてきた。わが国では、強迫性障害の治療薬として認可されている医薬品は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)の2剤(フルボキサミンおよびパロキセチン)のみである。しかし、その効果は、40%〜60%もの患者が満足には応答しないことから決して充分であるとはいえない(非特許文献7)。これらのSSRIは、セロトニンレベルを上昇させ、5HT1A受容体を活性化することにより、強迫性障害モデルであるマウスのガラス玉覆い隠し行動(非特許文献8)を抑制する作用を有している。
また、治療抵抗性強迫性障害に一部効果があるとされるアリピプラゾールは、セロトニン非依存的なドパミン部分アゴニスト作用により効果を示している。
一方、パーキンソン氏病は、安静時振戦、筋強剛(筋固縮)、無動・寡動、姿勢反射障害を4大症状とする神経変性疾患であり、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変性疾患であり、中高年齢者に好発する難病である。パーキンソン氏病の症状には、上記運動症状の他にも、非運動症状があり、非運動症状の中には、精神症状や自律神経症状などが含まれる。非運動症状のうち、精神症状としては、例えば、感情鈍麻、快感喪失、不安、うつ症状、幻視などが挙げられ、うつ症状と幻視は頻度の高い精神症候である。他方、自律神経症状としては、便秘や垂涎などの消化器症状、発汗過多、あぶら顔、排尿障害などが挙げられる。
パーキンソン氏病に対する治療は、一般的には、運動症状や精神症状などに対する対症療法であるが、神経変性の機序が明らかになるにつれ、症状の進行を遅らせるための薬物療法が実施されるようになってきた。薬物療法としては、例えば、ドパミンの前駆物質であるレボドパ(L-dopa)を投与するドパミン補充療法、麦角系もしくは非麦角系のドパミン受容体作動薬 、アマンタジン等のドパミン放出薬、セレギリン等のモノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬、エンタカポン等のカテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬、トリヘキシフェニジル等の抗コリン薬、ドロキシドパ等のノルアドレナリン作動薬などによる薬物療法が挙げられる(例えば、非特許文献9、10参照)。これらのパーキンソン氏病の薬物療法に使用されている薬剤はいずれもGIRKチャネル活性化電流抑制作用を有していることは知られていない。
特開2009−227631 WO2007/037258 WO2005/084709 WO2007/139153 特開2007−204366
Takahama, K., et al., Handb. Exp. Pharmacol. 2009:219-240 Rasmussen, S.A., et al., Psychiatr. Clin. North Am 1992; 15:743-758 Sasson, Y., et al., J. Clin. Psychiatry 1997; 58 Suppl 12:7-10 Fontenelle, L.F., et al., Prog. Neuropsychopharmacol. Biol. Psychiatry 2006; 30:327-337 Bolton, J., et al., J. Am. Acad. Child. Adolesc. Psychiatry 2001; 40:903-906 Coric, V., et al., Biol. Psychiatry 2005; 58:424-428 Pallanti, S., et al., Prog. Neuropsychopharmacol. Biol. Psychiatry 2006; 30:400-412 今西泰一郎他、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)126, 94-98 (2006) 難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp) 日本神経学会「パーキンソン病治療ガイドライン」(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/neuro/parkinson/parkinson_index.html)
そこで、本発明者らは、GIRKチャネル活性化電流抑制作用を有する鎮咳剤を用いて動物モデルに対する脳機能障害修復効果について研究を実施した結果、かかる鎮咳薬が脳機能障害修復効果を有することを見出して、この発明を完成した。
従って、この発明は、GIRKチャネル活性化電流抑制作用を有する化合物(以下、「GIRKチャネル抑制化合物」という場合もある)を、有効成分として含有し、かつ、脳機能障害修復ができる脳機能障害修復剤を提供することを目的としている。
この発明は、その好ましい態様として、脳機能障害修復の適用対象疾患が、強迫性障害およびパーキンソン氏病である脳機能障害修復剤を提供することを目的としている。
この発明は、別の好ましい態様として、GIRKチャネル抑制化合物が、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である脳機能障害修復剤を提供することを目的としている。
この発明は、その更に好ましい態様として、脳機能障害修復の適用対象疾患が強迫性障害である場合、GIRKチャネル抑制化合物が、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である脳機能障害修復剤を提供することを目的としている。
この発明は、その更に好ましい態様として、脳機能障害修復の適用対象疾患がパーキンソン氏病である場合、GIRKチャネル抑制化合物が、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である脳機能障害修復剤を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、この発明は、GIRKチャネル活性化電流抑制作用を有する化合物(以下、「GIRKチャネル抑制化合物」またはこれに関連する用語を用いる場合もある)を、有効成分として含有し、かつ、脳機能障害修復ができる脳機能障害修復剤を提供する。
この発明は、その好ましい態様として、脳機能障害修復の適用対象疾患が強迫性障害およびパーキンソン氏病である脳機能障害修復剤を提供する。
この発明は、別の好ましい態様として、GIRKチャネル抑制化合物が、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である脳機能障害修復剤を提供する。
この発明は、その更に好ましい態様として、脳機能障害修復の適用対象疾患が強迫性障害である場合、GIRKチャネル抑制化合物が、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である脳機能障害修復剤を提供する。
この発明は、その更に好ましい態様として、脳機能障害修復の適用対象疾患がパーキンソン氏病である場合、GIRKチャネル抑制化合物が、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である脳機能障害修復剤を提供する。
この発明に係る脳機能障害修復剤は、強迫性障害やパーキンソン氏病等の脳機能障害に起因して発症する疾患に対して有効であり、克つ、副作用が極めて少ないという大きな効果を有している。
チペピジンのマウスガラス玉覆い隠し行動の実験結果を示す図(実施例1−1)であり、ガラス玉覆い隠し行動の結果を示す説明図である。図中、値はmean±SEM(n=5〜11)で表している。 チペピジンのマウスガラス玉覆い隠し行動の実験結果を示す図(実施例1−1)であり、自発運動活性に結果を示す説明図である。 ミルナシプランのマウスガラス玉覆い隠し行動の実験結果を示す図(実施例1−2)。 ブプロピオンのマウスガラス玉覆い隠し行動の実験結果を示す図(実施例1−3)。図中、値はmean±SEM(n=5〜11)で表している。 SCH23390とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験結果を示す図(実施例1−4)であり、ガラス玉覆い隠し行動の結果を示す説明図である。図中、値はmean±SEM(n=14〜17)で表している。 SCH23390とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験結果を示す図(実施例1−4)であり、自発運動活性の結果を示す説明図である。図中、値はmean±SEM(n=14〜17)で表している。 ラクロプリドとチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験結果を示す図(実施例1−5)であり、ガラス玉覆い隠し行動の結果を示す説明図である。図中、値はmean±SEM(n=14〜17)で表している。 ラクロプリドとチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験結果を示す図(実施例1−5)であり、自発運動活性の結果を示す説明図である。図中、値はmean±SEM(n=14〜17)で表している。 WAY100635とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験結果を示す図(実施例1−6)であり、ガラス玉覆い隠し行動の結果を示す説明図である。図中、値はmean±SEM(n=14〜17)で表している。 WAY100635とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験結果を示す図(実施例1−6)である。図中、値はmean±SEM(n=14〜17)で表している。 オキソトレモリン誘発性振戦に対する効果を示す図(実施例2−1)であり、チペピジン(TP)投与の際の説明図である。 オキソトレモリン誘発性振戦に対する効果を示す図(実施例2−1)であり、トリヘキシフェニジル(THP)投与の際の説明図である。 オキソトレモリン誘発性振戦に対する効果を示す図(実施例2−1)であり、L−DOPA投与の際の説明図である。 ハロペリドール誘発カタレプシーに対する効果を示す図(実施例2−2)であり、チペピジン(TP)投与の際の説明図である。 ハロペリドール誘発カタレプシーに対する効果を示す図(実施例2−2)であり、トリヘキシフェニジル(THP)投与の際の説明図である。 ハロペリドール誘発カタレプシーに対する効果を示す図(実施例2−2)であり、L−DOPA投与の際の説明図である。 AMPT誘発カタレプシーに対する効果を示す図(実施例2−3)であり、チペピジン(TP)投与の際の説明図である。 AMPT誘発カタレプシーに対する効果を示す図(実施例2−3)であり、トリヘキシフェニジル(THP)/L−DOPA投与の際の説明図である。
この発明に係る脳機能障害修復剤は、GIRKチャネル活性化電流抑制作用を有する化合物(以下、「GIRKチャネル抑制化合物」という場合もある)を、有効成分として含有し、かつ、脳機能障害修復ができる薬剤である。
この発明において使用可能なGIRKチャネル活性化電流抑制作用を有する化合物は、細胞内のGIRKチャネル活性化電流を抑制することができる化合物であって、例えば、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルから選択することができ、これらの化合物は有効成分として単独でもまたは2種以上を併合しても使用することができる。
この発明において、脳機能障害修復の対象疾患が強迫性障害である場合には、GIRKチャネル抑制化合物は、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルから選択するのがよく、これらの化合物は有効成分として単独でもまたは2種以上を併合しても使用することができる。
一方、この発明において、脳機能障害修復の対象疾患がパーキンソン氏病である場合には、GIRKチャネル抑制化合物は、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルから選択するのがよく、これらの化合物は有効成分として単独でもまたは2種以上を併合しても使用することができる。
以下、この発明において、GIRKチャネル抑制化合物であるチペピジン等の鎮咳薬の脳機能障害の1つである強迫性障害に対する効果について説明する。
なお、チペピジン等の鎮咳薬は、GIRKチャネル活性化電流抑制作用を有することは前述したとおりである。またそのGIRKチャネルからのカリウム流出は、膜過分極を起こし、それによってニューロンの興奮性を抑制的に規制するのに重要な役割を果たしている。そこで、本研究は次のような仮説の下で行った。つまり、チペピジンは、強迫性障害に対する効果を有していて、縫線核、腹側被蓋野、青斑核などの神経伝達物質センター内のGIRKチャネル抑制を介して脳内の神経伝達物質レベルを調節している。実際、ラットを用いたインビボマイクロダイアリシスによる最新の初期実験データでは、チペピジンは、セロトニンばかりではなく、前頭前野におけるドパミンのレベルを増加することが示された。さらに、別の鎮咳薬であるクロペラスチンでは、5−HT1Aレセプターで脳梗塞を引き起こしたラットの膀胱の機能障害に対する改善効果を有することが見出されている。さらに、本研究では、マウスを用いてガラス玉覆い隠し行動について実験をした。
ガラス玉覆い隠し行動は、行動的類似性に基づいた強迫性障害の有力なモデルと考えられている。実際、ヒトの強迫性障害の症状を処置するために適用されているフルボキサミンやパロキセチン等のSSRIは、運動症状には悪影響を及ぼすことなく、ガラス玉覆い隠し行動を抑制する。他方、フルボキサミンによるガラス玉覆い隠し行動抑制は、非選択的5−HT1Aレセプターアンタゴニスト(NAN−190)または5−HT1Aレセプターアンタゴニスト(WAY100635)によって拮抗される。また、モノアミン系神経伝達を増加するグルタミン酸関連薬剤もまたガラス玉覆い隠し行動を抑制する。さらに、これらのモノアミンレセプターの関与を調べるために、チピペジンによるガラス玉覆い隠し行動抑制に対する5−HT1Aレセプターアンタゴニスト(WAY100635)、ドパミンD1レセプターアンタゴニスト(SCH23390)およびドパミンD2レセプターアンタゴニスト(ラクロプリド)の効果について調べた。さらにまた、大うつ病の不安症状に対するSSRIによる処置で相当の効果を有するドパミン関連うつ薬であるブプロピオンは、ガラス玉覆い隠し行動抑制作用を有するかどうかについても調べた。
他方、この発明に係る脳機能障害修復剤は、別の脳機能障害であるパーキンソン氏病に対しても複数のパーキンソン氏病実験モデル、つまりオキソトレモリン投与誘性振戦モデル、ハロペリドール誘発カタレプシーおよびAMPT誘発カタレプシーにおいて有効であることを見出した。
この発明に係る脳機能障害修復剤は、経口的(舌下投与を含む)または非経口的に投与される。このような薬剤の形態としては、錠剤 、カプセル剤 、細粒剤 、丸剤 、トローチ剤 、輸液剤 、注射剤 、坐剤 、軟膏剤 、貼付剤等を挙げることができる。
この発明の脳機能障害修復剤を輸液剤として生体内に投与する際には、生理食塩水に、必要に応じて他の水溶性の添加剤、薬液を配合したものを用いることができる。このような水に添加される添加剤としては、カリウム、マグネシウム等のアルカリ金属イオン、乳酸、各種アミノ酸、脂肪、グルコース、フラクトース、サッカロース等の糖質等の栄養剤、ビタミンA、B、C、D等のビタミン類、リン酸イオン、塩素イオン、ホルモン剤、アルブミン等の血漿蛋白、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ等の高分子多糖類等を挙げることができる。このような水溶液における化合物の濃度は、10-7Mから10-5Mの濃度の範囲とすることが好ましい。
この発明による脳機能障害修復剤はまた、固形剤として生体に投与することができる。固形剤としては、粉末、細粒、顆粒、マイクロカブセル、錠剤等を挙げることができる。このような固形剤の中では、好ましくは嚥下しやすい錠剤の形状をしていることが好ましい。
錠剤を形成するための充填剤、粘結剤としては公知のもの、例えばオリゴ糖等を使用することが出来る。錠剤の直径は2〜10mm、厚さは1〜5mmの範囲にあることが好ましい。また、他の治療薬と混合して使用してもよい。
固形剤には通常用いられる種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、甘味剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤、保存剤、無機充填剤等を挙げることができる。
界面活性剤としては、高級脂肪酸石鹸、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アシルN−メチルタウリン塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、N−アシルアミノ酸塩等のアニオン界面活性剤;塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシ−N−ヒドロキシイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレン型、多価アルコールエステル型、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック共重合体等の非イオン界面活性剤があるが、これらに限定されるものではない。
嚥下性等の改良等の目的のため配合される無機充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、二酸化チタン等を挙げることができる。
安定剤としては、例えば、アジピン酸、アスコルビン酸等を挙げることができる。可溶化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリルアルコール等の界面活性剤、アスパラギン、アルギニン等を挙げることができる。甘味剤として、アスパルテーム、アマチャ、カンソウ等、ウイキョウ等を挙げることができる。
懸濁化剤としては、カルボキシビニルポリマー等を、抗酸化剤としては、アスコルビン酸等を、着香剤としては、シュガーフレーバー等を、pH調整剤としてはクエン酸ナトリウム等を挙げることができる。
この発明による脳機能障害修復剤は、通常1回1〜40mg、好ましくは10mg〜20mg、1日3回までの範囲で体内に投与される。
以下の実施例によりこの発明を更に詳しく説明するが、この発明はこれらの実施例によって一切限定されるものではない。
各実験薬剤のガラス玉覆い隠し行動についての実験は、次のようにして実施した。
(実験動物)
実験には、4〜8週齢の雄ddYマウスを使用した(日本SLC社または九動社)。実験マウスは、ケージ当たり6匹または7匹のグループで飼育し、3〜5日間、室温23±1℃、12:12 hr 明暗サイクル(8:00 am 〜 8:00 pm)に維持した室内で、水道水と飼料(標準ペレット、クレア社製)を自由に摂取させた。本実験は、熊本大学動物実験委員会の承認を受け、日本薬理学会の実験動物の飼育および使用ガイドラインに従って実施した。
(実験薬剤)
クエン酸チペピジン(田辺三菱製薬から購入);R(+)−SCH23390塩酸塩、S(-)−ラクロプリド(+)−酒石酸塩、WAY100635マレイン酸塩、ブプロピオン塩酸塩、ミルナシプラン塩酸塩(シグマ社)。全ての薬剤は、生理食塩水(0.9% NaCl)に溶解し、行動試験前に皮下投与した。
(実験方法)
ガラス玉覆い隠し行動実験は次のようにして実施した。各マウスを、床に5 cm厚におかくずを敷き詰めたプラスチックケージ(17 x 28 x 12 cm)に入れた。このおかくずの上に20個の青色ガラス玉(25 mm)を、5個ずつ4列に等間隔に配置した。マウスをこのケージの中に飼料も水も与えずに30分間入れて、おかくずに覆い隠されていないガラス玉を数えた。ガラス玉が3分の2程おかくずに覆い隠されていたら、「覆い隠された」と判断した。覆い隠されたガラス玉の数は、強迫性障害の行動の指標であると考えられる。ガラス玉の数は、処理グループに対して盲検の観察者によって分析した。チペピジン、ブプロピオンおよびミルナシプランは実験開始30分前に、また他のアンタゴニストは実験開始60分前に皮下投与した。
(自発運動活性)
自発運動活性は、各マウスを最終皮下注射10分経過後5分間観察して決定した。各マウスを塩ビボックス(500 x 500 x 400 mm)に入れてビデオトラッキングソフトウエアを用いて評価した。
(実施例1−1:チペピジンのマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験)
チペピジンのマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験は上記の実験方法に従って行った。その結果は図1Aに示すとおりであり、チペピジンはマウスのガラス玉覆い隠し行動を抑制した。つまり、チペピジン5 mg/kg を皮下投与した場合、覆い隠されたガラス玉の数は有意的に減少した。チペピジン10 mg/kg および20 mg/kgを皮下投与した場合、マウスのガラス玉覆い隠し行動をほぼ完全に抑制するとともに、自発運動活性は減退するよりもむしろ増進した(図1B)。
(実施例1−2:ミルナシプランのマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験)
ミルナシプランのマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験は上記の実験方法に従って行った。その結果は図2に示すとおりである。日本にて強迫性障害の治療薬として認可されている5−HT/ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のミルナシプランは、20 mg/kgを皮下投与した場合、覆い隠されたガラス玉の数を減少した。
(実施例1−3:ブプロピオンのマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験)
ノルアドレナリン/ドパミン再取り込み阻害薬であるブプロピオンのマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験は上記の実験方法に従って行った。その結果は図3に示すように、覆い隠されたガラス玉の数は、生理食塩水を投与した対照群に比べて45.8%も減少した。
(実施例1−4:SCH23390とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験)
選択的ドパミンD1レセプターアンタゴニストSCH23390塩酸塩 (7.5 mg/kg) とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験を上記の実験方法に従って行った。その結果は図4に示すとおりであり、SCH23390塩酸塩は、この用量では、チペピジンによるマウスガラス玉覆い隠し行動に対しては何ら効果を賦与しないことが判明した。一方、SCH23390塩酸塩は、この用量では、マウスの自発運動活性をオープンフィールド試験中に、生理食塩水を投与した対照群に比べて有意に減退させた。
(実施例1−5:ラクロプリドとチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験)
選択的ドパミンD2レセプターアンタゴニストであるラクロプリド (0.4 mg/kg) とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験を上記の実験方法に従って行った。その結果は図5に示すとおりであり、ラクロプリドは、この用量では、チペピジン(10 mg/kg)のマウスガラス玉覆い隠し行動に対する効果を部分的に減衰させた。一方、ラクロプリドは、この用量では、マウスの自発運動活性をオープンフィールド試験中に、生理食塩水を投与した対照群に比べて有意に減退させた。
(実施例1−6:WAY100635とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験)
選択的5−HT1AレセプターアンタゴニストであるWAY100635(3.0 mg/kg) とチペピジンとの併用皮下投与によるマウスガラス玉覆い隠し行動に与える効果についての実験を上記の実験方法に従って行った。その結果は図6に示すとおりであり、WAY100635は、この用量では、チペピジン(10 mg/kg)のマウスガラス玉覆い隠し行動に対する効果を部分的に減衰させた。一方、WAY100635は、この用量では、マウスの自発運動活性に対しては影響を及ぼさなかった。
チペピジンのパーキンソン病様作用について、下記の3つのパーキンソン病実験モデルを使用して、既存のパーキンソン氏病薬であるトリヘキシフェニジルおよびL−DOPA(ドパミン前駆体)との比較実験をした。
(実施例2−1:オキソトレモリン誘発性振戦)
各薬剤を投与後30分間に亘って、オキソトレモリン投与によって誘発された振戦を観察し、5分毎にスコアで評価した。それぞれ生理食塩水投与群を対照群とした。スコア:0:振戦なし、1:部分的な振戦2:全身の振戦。結果は、図7A(チペピジン 10、20 mg/kg投与)、図7B(トリヘキシフェニジル1、3、5 mg/kg投与)および図7C(L−DOPA 400 mg/kg投与)に示すとおりである。これらの結果から、チペピジン(10、20 mg/kg投与)およびトリヘキシフェニジル(3、5 mg/kg投与)は、振戦を抑制したが、L−DOPA は振戦を有意に抑制しなかった。
(実施例2−2:ハロペリドール誘発カタレプシー)
ドパミンD2アンタゴニストである抗精神病薬ハロペリドールによって誘発させたカタレプシーを、マウスを棒に捕まらせた姿勢持続時間を測定して評価した(測定の最大値を30秒とした)。結果は、図8A(チペピジン 5、10、20 mg/kg投与)、図8B(トリヘキシフェニジル1、3 mg/kg投与)および図8C(L−DOPA 200 mg/kg投与)に示すとおりである。これらの結果から、チペピジン(10、20 mg/kg投与)およびトリヘキシフェニジル(3 mg/kg投与)は、ハロペリドール誘発カタレプシーに対して効果を示したが、L−DOPA は効果を示さなかった。
(実施例2−3:AMPT誘発カタレプシー)
ドパミン合成阻害薬AMPT(alpha-methyl-p-tyrosine)(250 mg/kg)投与により誘発させたカタレプシーに対する各薬剤の効果を、姿勢保持時間(秒)を測定して評価した。結果は、図9A(チペピジン 10、20 mg/kg投与およびトリヘキシフェニジル3 mg/kg投与)および図9B(L−DOPA 200 mg/kg投与)に示すとおりである。これらの結果から、チペピジン(10、20 mg/kg投与)は有意に抑制をしたが、トリヘキシフェニジル(3 mg/kg投与)は効果を示さなかった。またL−DOPA は抑制効果を示した。
上記に示した実施例1の結果から、チペピジンは、強迫性障害の動物モデルと考えられているガラス玉覆い隠し行動を用量依存的に抑制することが分かった。チペピジンは、5 mg/kgという少量でもマウスガラス玉覆い隠し行動を有意に抑制し、用量10 mg/kg でほぼ完全に抑制した。本発明者らの知る限りでは、チペピジンは、ガラス玉覆い隠し行動に対する抑制効果としては、既存のあらゆる強迫性障害治療薬よりも強力である。また、チペピジンのこの効果は、ドパミン系およびセロトニン系システムによっておそらく仲介されているとの証拠がある。
また、上記に示した実施例1の結果から、チペピジンは、上記ガラス玉覆い隠し行動に対して抑制効果を示した用量では、オープンフィールド試験での自発運動活性は減退するよりもむしろ増進した。チペピジンは、rota-rod法において運動協調性に対してはほとんど効果を示さなかった。したがって、これらの効果は、非特異的鎮静効果または運動機能の欠如に起因するものではなかった。同様に、ヒト強迫性障害の症状治療に使用されているセロトン再取り込み阻害薬(SRI)や選択的セロトン再取り込み阻害薬(SSRI)もまた自発運動活性には影響を及ぼさずにマウスガラス玉覆い隠し行動を抑制するとの報告がなされている。これらの知見は、チペピジンが、5−HT1A/ノルアドレナリン再取り込み阻害薬やSSRIと同様、強迫性障害に対して抑制効果を示しうることを示唆している。
さらに、実施例1−6の結果から、5−HT1Aレセプターアンタゴニストのチペピジンによるガラス玉覆い隠し行動に対する効果について説明する。実施例1−6においては、5−HT1Aレセプターアンタゴニストとして、選択的5−HT1AレセプターアンタゴニストであるWAY100635を使用した。その結果、WAY100635は、チペピジンのガラス玉覆い隠し行動を部分的に抑制することが確認された。一方、フルボキサミンのガラス玉覆い隠し行動抑制は、非選択的5−HT1Aレセプターアンタゴニストおよび選択的5−HT1Aレセプターアンタゴニスト(WAY100635)によってアンタゴナイズされるとの報告がある。さらに、他の5−HT1Aレセプターアンタゴニスト(8−OH−DPAT)は、自発運動活性に影響を及ぼすことなく、ガラス玉覆い隠し行動を抑制し、この抑制はWAY100635によってアンタゴナイズされる、との別の報告もある。これらの知見は、5−HT1Aレセプターがガラス玉覆い隠し行動に関与していることを示唆している。他方、クロミプラミン抵抗性強迫性障害に対して強力な改善作用を有すると報告されているアリピプラゾールは、5−HT1Aレセプターに対してアゴニスト効果を持っているとの別の報告もある。アリピプラゾールを全身投与すると、5−HT1Aノックアウトマウスではなく、野生型マウスの内側前頭前野において5−HT1A放出が減少し、ドパミン放出が増加すると報告されている。興味深いことには、別の報告では、アリピプラゾールもまたガラス玉覆い隠し行動に対して抑制作用を有しているけれども、この抑制作用は、WAY100635によって抑制されなかった。要約すると、ガラス玉覆い隠し行動に対する抑制効果は、5−HT1A依存性または非依存性の全く別個の回路を有しているといえる。
次に、チペピジンのガラス玉覆い隠し行動抑制効果に対するドパミンの関与について説明する。実施例1−3に示すように、ノルアドレナリン/ドパミン再取り込み阻害薬であるブプロピオンもまたガラス玉覆い隠し行動抑制効果を有していることを見出した。一方、実施例1で示すように、チペピジンのガラス玉覆い隠し行動抑制効果は、選択的ドパミンD2レセプターアンタゴニストであるラクロプリドによっては部分的に抑制され、選択的ドパミンD1レセプターアンタゴニストであるSCH23390によっては抑制されなかった。SCH23390をチペピジンと併用した場合、SCH23390は、自発運動活性に対して抑制効果を有することから、チペピジンのガラス玉覆い隠し行動抑制効果を減少させる傾向があった。このことから、チペピジンの抑制効果SCH23390によって少なくとも部分的に抑制されているのかも知れない。一方、ブプロピオンは、オープラベルトライアルにおいて抑制効果の二峰性の分布を示した。このことは、ドパミンは、強迫性障害の病態生理学に関与しているかも知れないことを示唆している。事実、いくつかの報告では、薬剤未処置の強迫性障害患者におけるドパミンレセプターの機能障害は、強迫性障害の複雑な分子機能が関わっていることを示すとともに、これらの神経伝達システムに対する特異的な調節性の効果を持つ治療薬の効果についての更なる研究の基盤となることを示している。同様に、モノアミンオキシダーゼ阻害薬および部分ドパミンアゴニストはSSRI抵抗性強迫性障害患者に適用されている。他方、高ドパミン状態は、いくつかの抗ドパミン薬が強迫性障害患者、特に難治性の患者に対して有効であることが示唆されていることから、病因学的には強迫性障害に関連している。これらの知見からすると、ドパミンホメオスタシスの変調は強迫性障害の薬物治療法に関係しているのかも知れない。このことから、チペピジンはドパミンの作用を介して抗強迫性障害効果を示しているといえる。
さらに、チペピジンのガラス玉覆い隠し行動抑制効果に対するノルアドレナリンの関与について説明する。
一般に、中心ノルアドレナリンシステムがある形のヒトの不安にはその根底にあることが示唆されている。特に、ノルアドレナリンが不適切にまたは過剰に放出されると、不安行動に関係してくる。ある形の不安が部分的に脳のノルアドレナリンシステムの過敏性から発生すると、そのことからノルアドレナリン機能を減少する薬物は抗不安効果を有しているかも知れないことが提案されうる。例えばクロニジンは、2−ノルアドレナリン自己受容体を刺激することによって、ノルアドレナリン活性を抑制することを示していて、いくつかの形の不安を減衰すると報告されている。実際、クロニジンは、マウスのガラス玉覆い隠し行動を用量依存的に抑制する。他方、最近、SNRI薬であるベンラファキシンはSSRI抵抗性強迫性障害患者に対して有効であるとの報告がされている。上記報告と同様に、本発明者らは、ミルナシプランが、ガラス玉覆い隠し行動を減少するけれども、脳内の細胞外ノルアドレナリンレベルを増加させる効果があることを見出した。つまり、ノルアドレナリンシステムと不安との関係にはいくつかの矛盾があるけれども、SNRI薬の強迫性障害の治療に対する有用性を考慮すると、ノルアドレナリンシステムの関係を無視することはできないので、さらなる研究によりその関係を明らかにする必要がある。
さらにまた、GIRKチャンネルについて説明を追加する。GIRKチャンネルは、5−HT1A、ノルアドレナリンα2、ドパミンD2レセプターなどのGタンパク質結合レセプター(GPCR)に結合している。GIRKチャンネルのGPCR媒介活性化は、カリウムイオンによって運搬される外向き電流によって引き起こされる過分極によるニューロンの興奮を安定化する。GIRKチャンネルは、背側性縫線核、腹側被蓋野および神経伝達中心とされる青斑核のような脳領域に広く分布している。本発明者らのマイクロダイアリシスによる研究では、GIRKチャンネル活性を抑制するチペピジンのような薬剤は、内側前頭前野内のドパミン、5−HTおよびノルアドレナリンを増加し、また側座核内のドパミンを著しく増加させることを見出した。これまでの知見をまとめると、チペピジンのガラス玉覆い隠し行動に対する強力な抑制効果は、GIRKチャンネル抑制に起因すると言えるようである。
上記実験結果を要約すると、本発明者らは、チペピジンが、強迫性障害治療の可能性を評価するためのモデルである、マウスによるガラス玉覆い隠し行動を、自発運動活性には影響を及ぼさずに有意に抑制することを始めて見出した。このチペピジンは、いわゆる中枢興奮薬ではなく、むしろ発汗などの中枢神経系機能に対する抑制効果を有している。本発明者らは、上記実験で、チペピジンが、強迫性障害治療に使用されている薬剤のうちで、日本では臨床、特に小児科において安全に適用されているけれども、ガラス玉覆い隠し行動に対する最も強力な作用を有する薬剤であることを見出した。その上、チペピジンのガラス玉覆い隠し行動に対する抑制効果は、試験したいずれのアンタゴニストによっても完全には阻害されず、その作用機序は、SSRI、ペロスピロン、アリピプラゾールなどを含む他の薬剤の作用機序とは明らかに異なっている。これらの知見は、チペピジンが臨床的に強迫性障害治療に有用であることを示唆している。
上記に示した実施例2の結果から、チペピジンは、いずれのモデルに対しても有意に改善作用を示した。これに対して、トリヘキシフェニジルは、オキソトレモリン誘発性振戦モデルおよびハロペリドール誘発カタレプシーモデルに対しては改善作用を示したが、ドパミン合成阻害薬AMPT投与によるドパミン枯渇状態のカタレプシーに対しては効果を示さなかった。一方、ドパミン前駆体のL−DOPAは、オキソトレモリン誘発性振戦モデルおよびハロペリドール誘発カタレプシーモデルに対しては有意な抑制を示さなかったが、ドパミン合成阻害薬AMPT誘発カタレプシーモデルに対しては効果を示した。以上のように、チペピジンは、いずれのパーキンソン病実験モデルにおいて症状の改善作用を示したことから、既存の抗パーキンソン氏病薬とは異なる作用効果を示していると言える。
この発明に係る脳機能障害修復剤は、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用により脳機能障害を修復することができることから、強迫性障害やパーキンソン氏病等の脳機能障害の治療に有用である。

Claims (5)

  1. GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有し、かつ、脳機能を修復することができるGIRKチャンネル活性化電流抑制化合物を有効成分として含有することを特徴とする脳機能障害修復剤。
  2. 請求項1に記載の脳機能障害修復剤であって、脳機能障害修復の適用対象疾患が、強迫性障害およびパーキンソン氏病であることを特徴とする脳機能障害修復剤。
  3. 請求項1または2に記載の脳機能障害修復剤であって、前記GIRKチャンネル活性化電流抑制化合物が、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、及びクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする脳機能障害修復剤。
  4. 請求項1、2または3に記載の脳機能障害修復剤であって、脳機能障害修復の適用対象疾患が強迫性障害である場合、前記GIRKチャンネル活性化電流抑制化合物が、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、及びクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする脳機能障害修復剤。
  5. 請求項1、2または3に記載の脳機能障害修復剤であって、脳機能障害修復の適用対象疾患がパーキンソン氏病である場合、前記GIRKチャネル抑制化合物が、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする脳機能障害修復剤。
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