JP2011194196A - 粒子線秒速照射法 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来の粒子線治療法は正確な照射を行いたいことから患者を強く固定・束縛することによる患者の物理的な痛みを軽減するために痛み止めの薬を併用するケースが半数近くあった。また、患者の物理的な痛みを考慮しながら、位置決めをせざるを得ない事から位置決めとアラインメントに長い時間をかけざるを得なかった。本来ならば高いQOLの治療が本来の粒子線治療であるのに実際の治療場面ではこのような障害もさけられない場合が少なからずあった。また一人の患者の治療に必要とされる時間が長すぎて、年間の治療可能な人数も700人程度と十分とはいえなかった。さらに肺臓などの大きな動きによる腫瘍の動きを直接トラッキングすることが難しく間接的にモニターしていたため、照射の正確さに欠けるケースの可能性もないとはいえなかった。
【解決手段】本発明はシンクロトロンにブースターシンクロトロン方式等を採用することでメインシンクロトロンのビーム強度を大幅に増強させ、CBS(Cold Beam Synchrotron)でのペレット引き出し法などにより、1kHz以上の高速三次元スキャニングを実現する方法を考案した。その結果X線や陽子線では30回前後の回数を照射していたものをたった1回かつ数秒間にて治療に必要な線量を照射させることを可能とする。この方式にて上述の課題を解決する。
【解決手段】本発明はシンクロトロンにブースターシンクロトロン方式等を採用することでメインシンクロトロンのビーム強度を大幅に増強させ、CBS(Cold Beam Synchrotron)でのペレット引き出し法などにより、1kHz以上の高速三次元スキャニングを実現する方法を考案した。その結果X線や陽子線では30回前後の回数を照射していたものをたった1回かつ数秒間にて治療に必要な線量を照射させることを可能とする。この方式にて上述の課題を解決する。
Description
本発明は粒子線がん治療において全治療を終了するに必要な総線量の照射が数秒以内で終了する“粒子線秒速照射法”に関する。
がんの先端放射線治療にはX(光子)線照射法、中性子ビームの多方向からの多門照射法、ホウ素中性子捕獲治療法(BNCT)、陽子線照射治療法そして重粒子線(炭素線)照射治療法などがある。
このうち陽子線と重粒子線照射治療法はブラッグピークまたは拡大ブラッグピークという優れた線量集中性を利用しているため、他の治療法と比較して治癒効果が高く正常組織への線量が少ないので副作用も少なく治療成績も優れている。
重粒子線はさらに優れた生物細胞効果(RBE)、または酸素増感比(OER)や耐放射線効果のあるがん細胞への殺傷作用の強さが際立っていて、難治性がんに優れた治療効果を示す。その上、重粒子線は深部がんに対して、軽い陽子線が途中で散乱されてビーム径が広くなってぼけてしまうのに対して重粒子線は深部がんでの弾性散乱が少なく、より境界面がシャープなきれのよい照射が可能な特徴をあわせ持つ。
放射線治療ではその治療効果を高めるために照射マージンを可能なかぎり少なくとって腫瘍部に正確に照射をする事が肝要であるが照射中に肺や心臓の動きに同期して腫瘍も動いてしまうため、照射の正確さが損なわれる事も少なくない。
その対策として、体内の骨部等の所定の領域に金マーカーをつけて弱いX線を照射してマーカーをモニターすることで臓器の動きの代用をはかる提案もある。
(北海道大学 白土 博樹 http://rad.med.hokudai.ac.jp/research/curing/research_progress/rt.php)
(北海道大学 白土 博樹 http://rad.med.hokudai.ac.jp/research/curing/research_progress/rt.php)
別の方法としては放射線医学総合研究所での事例のように体表の表面にLEDなどの電子部品を貼付けてその動きをモニターし、呼吸の動きが一番少ないタイミングを狙って粒子線ビームを照射する野田耕司らによる”呼吸同期照射法”が採用されている。
しかしながら上記のいずれの方法も、腫瘍自体の代替の動きであるため、モニター信号と腫瘍の動きが患者の体調などによっては一致しない場合もないとはいえない。そのような場合には、正常組織へ与えるダメージが少ないとはいえず、治療のQOL(Quality Of Life)も劣ってくる。
ドイツの重イオン研究所(GSI)などでは、モニター専用のPET(陽電子放射断層撮像法、Positron Emission Tomography)を患者の直近に置き、腫瘍の動きをモニターしつつ、その前方にオンラインで形状を調整可能な装置等を設置して対応しようという研究も進行しているがまだ十分な治療への利用はなされていない。放射線医学総合研究所では山谷泰賀らによりOPEN PETと称してPETを体軸方向に分割してその隙間から重粒子線を照射しようという提案があるが、まだ開発途上であることと、この場合は標的とモニターをしている箇所が同じではないという問題がある。
本発明が解決しようとする課題の第一は粒子線を照射中の肺臓などの臓器の動きに起因する腫瘍の形状変化と動きを最小限に抑制して、より正確な照射にて治療効果とQOLをあげることである。
一般的には正確な照射を実行する為に照射中の患者の動きを抑制する為に患者を治療台にてわずかな身動きも許さない拘束と固定が避けられない。
この体動抑制のための固定具は患者に強い物理的苦痛を強いらざるを得ないという問題が頻繁に生じる。また患者の苦痛を和らげる為に除痛の薬剤を服用する例が半数以上に達していて、薬の投与による弊害も無視出来ない場合も少なくない。これは治療のせっかくの粒子線治療のQOLを下げる方向にはたらく。
患者の苦痛に十全の注意を払う必要性から治療患者の位置固定やアライメント(alignment)には30分前後の時間を必要とされている。これに対して粒子線の実質照射時間は2分前後でありバランスが悪い。粒子線施設では治療室は平均3室であるから本来治療に利用可能な装置の時間の24分に相当する80%は無駄になっている。その対策として時間を短縮するために外国の複数の粒子線治療施設ではロボットアームなどが導入され始めているが位置固定自体の拘束からの苦痛の本質的問題は解消されていない。
本発明の第二の課題は患者の苦痛を大幅に軽減しつつも治療効果の改良を目指し、かつ高価な装置の利用効率を大幅にあげる方法を提供することである。このことは重粒子線の普及に決定的に重要な要素であるがまだ実現されていない。
上述の課題は患者への重粒子線の照射時間を今までの100秒前後から数秒間に大幅に短縮する事によって解決できる。数秒間の照射時間の間に患者はたとえば胸部レントゲン写真をとる時と同じ様に、“息を吸って、はーい、止めてー”というように、数秒の間息を止める。その間、肺の動きはほとんどない。これを本発明では“秒速照射”と呼ぶ。もともとX線の胸部撮影でも臓器の位置や形状の変動をさける為にX線の画像撮影では秒速照射撮影が行われていたが、CT/PET,MRIそしてX線、粒子線治療などでは不可能であったし検討もされなかった。
重粒子線治療の“秒速照射”は息を止めている時間は極めて短いため、患者の動きの自動トラッキングが極めて容易となる。現在数社で市販されている複数のレーザー光等での装置でも実現可能である。
重粒子線治療の“秒速照射“治療を可能にするにはまず重粒子線の実効的強度を増やすことである。従来の粒子線治療用加速器は物理実験用の粒子加速器と比べて少ないビーム強度で運転していた。それは位置決めなどの時間が長く照射時間が短いのでビーム強度をあげる必要性がなかったからである。重粒子線治療の“秒速照射“治療を目指すことで、重粒子線のビーム強度に対する要求が初めて必要になる。熟考すればそのような新たな要求に応じた装置の目標を設定すれば医療用粒子加速器のビーム強度を必要なまでに増やすことは可能であるという本発明の結論に導かれる。以下にその具体的方法を説明する。
世界の重粒子線がん治療の大勢を考慮して本発明を適用する加速器の種類はシンクロトロンを用いると仮定する。粒子加速器で加速される粒子数を増やす第一の方法は入射エネルギーを可能な限り高くすることである。加速できる粒子数は空間電荷効果(space charge effect)で決められ、入射エネルギーの二乗で決まる。簡単にいえば100倍のビーム強度にするには10倍の入射エネルギーにすればよい。詳細にいえば、加速器装置の運転パラメターであるベータートロンチューン(betatron tune)の最適化やストップバンド(stop band)という粒子ビームの不安定共鳴幅を複数の補正電磁石で調整することで、空間電荷効果の限界を一定程度上げる事も有効であるが専門的すぎるので本発明ではその説明を省略する。
がん治療用の重粒子線シンクロトロンは日本、ドイツ、イタリア、オーストリアのいずれも入射器として重粒子線ライナックを採用している。空間電荷効果の観点から入射エネルギーを上げるには入射器である重粒子線ライナックの加速エネルギーを上げればよい。しかし高いエネルギーのライナックの採用はコスト高となるという欠点がある。従来はシンクロトロンのビーム強度は弱くてもよかったので、数MeV/核子のエネルギーでも充分であった。極端な例では重粒子線ライナックのみで必要なエネルギーまで加速する方法が重イオンの粒子数は最も高いが、コストも最も高くなるのでそのような選択はほとんどとられない。
本発明ではビーム強度を上げた高強度シンクロトロンでは総合的に利にかなったコストの最小化の観点から、シンクロトロン(通常 main synchrotron メインシンクロトロンと呼ぶ)と入射ライナックの間にブースターシンクロトロン(booster synchrotron)を導入する。このような構成をとることで、ブースターシンクロトロンの加速エネルギーを大きく上げる事が可能になり、その結果メインシンクロトロンのビーム強度の大幅な増強が可能となる。ブースターシンクロトロンの加速エネルギーはライナックの場合と比べて楽に10倍は簡単にあげられるので、メインシンクロトロンの加速可能粒子数は容易に100倍まで上げられる。しかし、がん治療用シンクロトロンではこのようなアプローチがとられる事はいままではなかった。
ブースターシンクロトロンを持つ事はもうひとつの利点をもたらす。陽子線のイオン源を追加することで入射器ライナックを含めた加速粒子のタイムシエアリングを行う事で、メインシンクロトロンに重粒子ビームを入射していない隙間を塗って、陽子線を取り出し、これを治療に利用することも可能になる。
メインシンクロトロンで加速された重イオンはその外に“ゆっくりと”(これを遅い取り出しと呼ぶ)取り出されて標的の腫瘍に均一に照射される。従来の方法では患者の直前にビーム散乱体等が設置され、照射ビームを腫瘍の大きさと同程度に広げた。このとき広がったビームはガウス分布に近い分布をしていて、その中から一様分布の部分のみを切り出して治療に使う事になり、一様分布以外のイオンは使い道がないので捨ててしまっている。ここでのイオンビーム効率はおよそ10%であった。
ドイツのGSIややスイスのPSI(ポールシエラー研究所,Paul Scherrer Institute)では照射時のビーム整形の無駄を省いてより正確な照射を行う為にビームスキャニング法が世界に先駆けて開発された。日本の放射線医学総合研究所などもその後、同様の照射法を取り入れて研究開発をしながらその実用化を図っている。ビームスキャニング法を使うと従来のビーム利用効率が10倍よくなるので本発明でもビームスキャニング法を取り入れる。このとき可変エネルギーでビームを取り出す。
本発明ではビームスキャニングはビームの進行方向とこれに直角面の双方を一回きりでかつ数秒以内で行う。このスキャニングをエネルギースキャンが加わっているので3次元(3D)スキャニングと呼ぶ。この3Dスキャニングを1kHz以上の高速で行う。これが本発明の“秒速照射”治療である。
熊田らはがん治療用加速器として数々の独特の特徴をもつCBS(Cold Beam Synchrotron)を発明しているが、その中で、冷たいビームの特徴を最大限に生かした、ペレットエクストラクションPellet extraction(ペレットのように小さなビーム断面をメインシンクロトロンから取り出す斬新で新しい遅い取り出しの引き出し法)を発明しているが、この取り出し法ではビームのサイズが極めて小さいので取り出しデバイスのギャップもこれに応じて小さくでき、1kHzを越える高速取り出しが容易に可能となる。
Claims (5)
- シンクロトロンのビーム強度を増やして高速三次元スキャニングによって数秒以内で数十グレイの線量にて治療を終了する“秒速照射”粒子線がん治療法。
- 請求項1に記載の“秒速照射”粒子線がん治療法においてビーム強度を増強するために中エネルギーのブースターシンクロトロンをイオン源とメインシンクロトロン間に挿入する方法。
- 請求項1に記載の“秒速照射”粒子線がん治療法において陽子線イオン源と重粒子イオン源を高速で切り替える事でブースターシンクロトロンから陽子線も取り出しこれを治療に併用する方法。
- 請求項1に記載の“秒速”粒子線がん治療法において“秒速照射“を行う為に1kHz以上のCBSでの遅い取り出し方の高速ペレット引き出し法等を用いる方法。
- 上記請求項1から請求項3までの方法において“秒速照射”にて、がんの治療患者の肺臓などの臓器の動きに起因する腫瘍標的の動きを、患者を強く固定・束縛する事無く、患者の位置のリアルタイムトラッキングを併用することで患者が数秒の間、息を止めている間に必要な全線量照射を終了できる治療法。
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