次に、本発明に係る多方向スイッチ部材および電子機器の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態では、電子機器として携帯電話を例に説明するが、電子機器は、携帯電話に限定されず、携帯型音楽再生装置、カーナビゲーション装置の操作用のリモートコントローラーなどでも良い。
図1は、本発明の実施の形態に係る電子機器の一例である携帯電話の正面図である。
図1に示すように、この実施の形態に係る電子機器の一例である携帯電話1は、多方向に操作可能な多方向スイッチ部材2を備える。この実施の形態において、多方向スイッチ部材2は、正面から見て上下左右の4方向と各斜め方向とを含む合計8方向の接点の接触に基づいて多方向の検出を可能とする。多方向スイッチ部材2は、略円形のスイッチ部材であり、その中心から多方向の検出ができるのみならず、中央部分の押圧も検出可能である。ただし、多方向スイッチ部材2は、その中心の押圧を検出できず、中心から多方向にのみ検出可能であっても良い。また、多方向スイッチ部材2の接点を、上記の8方向に限定されず、上下左右の4方向のみ、あるいは当該4方向に1以上の斜め方向に備えていても良い。
<1.多方向スイッチ部材の構造>
図2は、図1に示す携帯電話から取り外した多方向スイッチ部材の正面図である。図3は、図2に示す多方向スイッチ部材のA−A線断面図である。
多方向スイッチ部材2は、図2および図3に示すように、薄型の円筒形状の皿状体10と、その皿状体10の内底面の直径より小径であって皿状体10の内底面上に配置される略円板状の印刷回路基板(PCB)20と、PCB20の表側の面の外周部に支持されてPCB20の表方向に配置される略円板状の揺動部材30と、揺動部材30の表側の面の略中心部分に配置される中央キー50と、揺動部材30の表側の面に、中央キー50を挿通して配置される略円環状の多方向操作板60と、多方向操作板60をその表方向から覆うように、中央キー50を挿通して配置される略円環状の回転操作板70と、多方向操作板60の表側の面と当該表側の面に対向する回転操作板70の内方天面との間に配置される略リング状の摩擦低減部材80と、皿状体10の内部にあってPCB20、揺動部材30、多方向操作板60および回転操作板70を、それらの側方から囲うように配置される略円環状の枠体90と、を備える。
皿状体10は、薄い硬質樹脂から構成されており、その高さ方向の長さが底面の直径に比べて小さい薄型の略円筒部材である。皿状体10の底面には、PCB20の表側の面に形成されている電極や配線と接続されるリード線を挿通させるための1個あるいは複数個のスルーホール(不図示)が設けられている。また、皿状体10の側面上端部は外側に曲げられており、後述する枠体90を皿状体10の開口部からその内部へと入れやすくしている。
PCB20は、好適には、ガラス繊維で編んだクロスにエポキシ樹脂を含浸させたガラスエポキシ製の回路基板である。ただし、PCB20として、ガラスコンポジット基板、アルミナ等から成るセラミックス基板を採用しても良い。PCB20の表側の面には、その略中心に1個のメタルドーム28が、そのメタルドーム28を囲むように複数の接点電極群(後述する)が、その接点電極群の径方向外側に複数のメタルドーム24,26等が、それぞれ配置されている。接点電極群の径方向外側に配置されるメタルドームは、図3では2個しか見えていないが、図6に基づいて後述するように、実際には4個存在する。ここでは、図3において見えているメタルドームのみを符号で示し、その他のメタルドームを含めるように、「等」を用いて表す。メタルドーム24,26,28等は、ほとんど同じ形状であって、その直径とほぼ等しいリング状の電極およびそのリング状の電極の内方に配置されるドット状の電極を覆うように配置される(不図示)。ただし、中央部のメタルドーム28と、その外周に配置されるメタルドーム24,26等とは、異なる形態のものであっても良い。
リング状の電極は、メタルドーム24,26,28等の外周部と常に電気的に接続されている一方で、ドット状の電極は、メタルドーム24,26,28等が押されていない状態ではメタルドーム24,26,28等およびリング状の電極の双方と電気的に接続されていない。メタルドーム24,26,28等は、PCB20側に向けて押されて、その力がある力以上になると、その頂部がへこみ、ドット状の電極と電気的に接続される。これによって、リング状の電極とドット状の電極とが導通し、スイッチがオンになる。
揺動部材30は、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、天然ゴム等の弾性材料から構成されるスイッチの入力動作を行うための部材である。揺動部材30の材料としては、好適には、シリコーンゴムを用いることができる。揺動部材30は、その裏方向にあるPCB20とほぼ同じ直径を有し、その径方向外側から中心に向かって順に、円環状部材31、屈曲性ドーム32、円板33の各部材から構成される一体成形部材である。ただし、揺動部材30は、必ずしも上記各部材の一体成形部材であることを要せず、複数部材を接合・接着して形成されていても良い。揺動部材30は、その面内の中心から複数方向の外周部においてその表方向に配置される回転操作板70からの押圧を受けると、表裏方向(図3における両矢印Z方向)に揺動可能である。
揺動部材30の最外側部分を形成する円環状部材31は、PCB20と側端面をほぼ揃える状態でPCB20の表側の面の外周部に載置される部分である。また、円環状部材31の内側に形成される屈曲性ドーム32は、揺動部材30に与えられる押圧およびその解除によって、屈曲性ドーム32の内側に形成される円板33がPCB20から浮かせた状態とPCB20に向かって沈み込む状態とを可逆的に行うために必要な屈曲自在な部材である。円板33は、その裏面の外周部分に、裏方向に向かって突出する複数の押圧子34,36等を備えるとともに、その裏面の中央部分に、同じく裏方向に向かって突出する1個の押圧子38を備える。円板33の裏面の外周部分に備えられる押圧子は、図3では2個しか見えていないが、図5に基づいて後述するように、実際には4個存在する。ここでは、図3において見えている押圧子のみを符号で示し、その他の押圧子を含めるように、「等」を用いて表す。円板33の押圧子34,36,38等は、それぞれ、メタルドーム24,26,28等と対向する位置に設けられる。また、円板33の表側の面の中央部には台座39が設けられる。台座39は、中央キー50を固定するための部分である。
円板33の裏面における押圧子38から円板33の径方向外側には、押圧子38を囲うように、複数の導電性弾性体41,42,43,44等が設けられる。図3では4個しか見えていないが、図5に示すように、実際には8個存在する。ここでは、図3において見えている導電性弾性体のみを符号で示し、その他の導電性弾性体を含めるように、「等」を用いて表す。導電性弾性体41,42,43,44等は、その先端部近傍において、後述する接点電極群に向かうに従って直径を小さくしていき、その先端が接点電極群と平行な面を有する弾性体である。導電性弾性体41,42,43,44等は、PCB20の表側の面に形成されている接点電極群に接触後に弾性変形できるように、柔軟性に富む材料で構成されている。また、導電性弾性体41,42,43,44等には、導電性を付与するために、導電性材料が分散されている。導電性材料としては、カーボンブラック、金属等を例示できるが、粒子径が小さいもの(ナノレベルの粒子)を容易に製造でき、かつその取り扱いが容易なカーボンブラックがより好ましい。導電性材料の混合量は、導電性を高めかつ導電性弾性体41,42,43,44等の弾性を維持する観点から、母材と当該導電性材料の総重量に対して5〜50重量%であるのが好ましく、さらには、15〜35重量%がより好ましい。
中央キー50は、好適には硬質樹脂から構成されている。中央キー50の底部には、その上部よりも大径のフランジ部51が形成されている。また、フランジ部51は、それを固定する台座39よりも大径である。ただし、中央キー50は、金属から構成されても良い。
多方向操作板60は、略円環状の部材であって、回転操作板70からの押圧を、揺動部材30に伝える部材である。多方向操作板60は、好適には、硬質樹脂から構成される。多方向操作板60の略中央にある穴は、中央キー50を配置すると共に後述の回転操作板70の一部が挿入可能なように、中央キー50の外径よりも十分に大きく形成されている。多方向操作板60の外側底部には、その外周に沿って径方向外側に向けて突出する外方突出部61を備える。外方突出部61は、多方向操作板60の底面と面一となるように形成されている。外方突出部61は、揺動部材30のドーム32よりも外側に突出する。また、多方向操作板60の略中央にある穴の内周面には、その内周面に沿うように、穴の中心に向けて突出する内方突出部62を備える。内方突出部62は、多方向操作板60の表側の面と面一となるように形成されている。なお、内方突出部62の突出長さは、外方突出部61の突出長さよりも短い。
回転操作板70は、揺動部材30の表側方向に、揺動部材30の外周部を押圧可能であって、それ自体の面内において自転可能な略円環状のキーである。例えば、図3に示す矢印Rの方向(矢印Rと逆方向でも良い)に回転操作板70を自転させることにより、その自転の際に任意の方位にて、その裏方向に配置される多方向操作板60と揺動部材30をPCB20の方向に押圧することができる。回転操作板70は、好適には硬質樹脂あるいはエラストマーから構成される。回転操作板70の略中央にある穴(後述する)は、中央キー50の外径よりもわずかに大きく、かつ多方向操作板60の略中央の穴よりも小さく形成されている。回転操作板70の裏面から内方には、その周方向に沿うように、内方へと窪む凹部71が形成されている。その凹部71は、多方向操作板60側に開口し、外側面を略垂直に、内底面を水平に、内側面を内方天面の途中まで略垂直にしつつ当該内方天面近傍を回転操作板70の径方向内側に向かって窪ませた形状を有する。このため、凹部71の開口面の内側には、回転操作板70の径方向外側に向かって突出するツメ部72が存在する。凹部71のツメ部72の内方に形成された窪みは、多方向操作板60の内方突出部62と嵌め込み可能な大きさに形成されている。
回転操作板70の表側の面は、その径方向外側から内側に向かって下方傾斜する傾斜面73となっている。ただし、傾斜面73を、水平面あるいは外側に向かって下方傾斜する面にしても良い。
摩擦低減部材80は、多方向操作板60の表側の面と、回転操作板70の凹部71の内方天面との間に配置される略円板状のシートである。摩擦低減部材80は、好適には、フッ素系樹脂、特に、ポリテトラフルオロエチレンから成る。また、摩擦低減部材80は、多方向操作板60の表側の面に接着等により固定されるようにするのが好ましい。この結果、多方向操作板60と相対的に回転する回転操作板70が、摩擦低減部材80上をすべるように回転することができる。ただし、摩擦低減部材80を凹部71の内方天面に接着等により固定しても良い。また、摩擦低減部材80は、多方向操作板60の表側の面のみならず、回転操作板70の凹部71と接する可能性のある他の面に配置することもできる。
枠体90は、好適には、金属あるいは硬質樹脂から構成される。枠体90は、その径方向内側にある表側の面93、当該表側の面93よりも径方向外側にあって、皿状体10の内底面側に一段下がった段差面94を有する。枠体90の中央には、表裏方向に貫通する穴95が形成されている。穴95は、PCB20、揺動部材30、多方向操作板60および回転操作板70を、それらの側面から囲うための領域である。穴95は、表裏方向に3段階に径を変えて形成されている。穴95の底部開口部近傍は、最も大径に形成されており、主に、PCB20および揺動部材30の円環状部材31が配置される領域である。穴95の中段領域は、上述の底部開口部近傍から一段内側へと小径に形成されており、主に、揺動部材30のドーム32、円板33、多方向操作板60の外方突出部61が配置される領域である。特に、中段領域は、外方突出部61が表裏方向および径方向外側にて穴95の内壁に接触しないように十分な大きさに形成されている。穴95の表方向の開口部近傍は、表側の面93から面一で径方向内側に延出する内方突出部92によって、中段領域よりも小径に形成されており、主に、回転操作板70が配置される領域である。また、枠体90の外側には、固定部位96が形成されており、皿状体10と枠体90を固定できるようになっている。この実施の形態では、固定部位96は、枠体90側に収納および枠体90の径方向外側に突出できる突起であり、皿状体10の側面に形成されるスリット(不図示)を貫通可能なものであるが、皿状体10と枠体90とを固定できる部材であれば、これに限定されない。
図1に示す携帯電話1では、多方向スイッチ部材2の枠体90よりも内側の部分しか見えていない。すなわち、枠体90より径方向外側の部分は、携帯電話1のケースの内側に収納されている。しかし、枠体90の段差面94から径方向外側を携帯電話1のケースの内側に収納しても良い。
図4は、多方向スイッチ部材の主要部を表裏方向に分解した分解図である。なお、図4では、皿状体10と枠体90を除外している。
多方向操作板60の略中央の穴の内周面には、回転操作板70の凹部71に嵌め込まれる内方突出部62が形成されている。この結果、その穴の内周面には段差が形成され、略中央の穴は、揺動部材30から回転操作板70に向かって、大径な穴63と、小径な穴64とが連続する形態となっている。また、回転操作板70の略中央の穴の内周面にも段差が形成されており、当該略中央の穴は、多方向操作板60から表方向に向かって、大径な穴76と、小径な穴77とが連続する形態となっている。
摩擦低減部材80は、多方向操作板60の表側の面に接着にて固定される。摩擦低減部材80を固定した多方向操作板60の表側の面には、回転操作板70が取り付けられる。この取り付けの際に、多方向操作板60の内方突出部62は、回転操作板70の凹部71の開口部にあるツメ部72に接触するが、その接触する部分の長さが短いため、内方突出部62あるいは/およびツメ部72が多少変形し、内方突出部62がツメ部72を通過し凹部71内に入る。
中央キー50は、接着等により揺動部材30の台座39に固定される。PCB20は、揺動部材30の円環状部材31と接着等により固定される。PCB20に揺動部材30を固定した状態では、押圧子34,36,38等がメタルドーム24,26,28等をへこませないようになっている。また、多方向操作板60の裏面と、揺動部材30を構成している円板33の表側の面とは、接着および/またはねじ止めにて固定される。中央キー50のフランジ部51は、回転操作板70の穴77には挿入できないようになっており、中央キー50は、その天面からの押圧およびその解除により、穴76より裏方向の領域で可動となっている。
図5は、多方向スイッチ部材の揺動部材を裏返した状態および揺動部材の裏面に配置される導電性弾性体を拡大して示す図である。
揺動部材30の裏面の略中央には、1個の押圧子38が設けられている。また、その中央から径方向外側であってドーム32の近傍には、円板33の周方向に沿って等間隔(中心角:略90度)で、押圧子34,35,36,37が設けられている。押圧子34,35,36,37,38は、円板33に対して別体で固定されているが、円板33と同じ材料で一体的に形成されていても良い。押圧子34,35,36,37より径方向内側の領域には、円板33の周方向に沿って等間隔(中心角:45度)で、導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48が設けられている。導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48は、円板33に対して別体で固定されている。導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48は、PCB20の表側の面に形成されている接点電極群に接する必要から、当該接点電極群よりも突出するメタルドーム24,26,28に接する押圧子34,36,38等に比べて、それらの先端がPCB20の表側の面に近くなるように設けられている。
導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48は、全て同じ形態であり、同一底面積を有する円柱と略半球体とを互いの底面同士で接合し、略半球体の先端部を水平に切り落とした形状を有する。すなわち、導電性弾性体44を例に挙げると、先端が水平面44aになっており、水平面44aから若干外側に弧を描く曲面44bが形成され、その曲面44bの周端からほぼ垂直に垂直側面44cが形成され、垂直側面44cの周端に水平面44dが形成されている。好適な導電性弾性体44等の形態の一例を挙げると、先端の水平面44aの直径D1は、1.0〜2.0mm、円板33と接合する水平面44dの直径D2は、2.5〜3.0mm、垂直側面44cの高さ(長さ)H1は、0.1〜0.5mm、水平面44a,44d間の高さ(長さ)H2は、0.5〜0.9mmである。揺動部材30をPCB20に向けて押圧すると、その押圧した位置近傍にある導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48の各先端の水平面41a,42a,43a,44a,45a,46a,47a,48aがそれらの直下にある接点電極群に接する。さらに押圧の強さが大きくなるに従って、導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48の各曲面41b,42b,43b,44b,45b,46b,47b,48bも接点電極群に接するようになる。
なお、上述の導電性弾性体44の各長さは、好適な長さの一例にすぎず、これらに限定されるものではない。先端が水平面となっていれば、導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48の形態は、いかなる形態とすることもできる。例えば、曲面41b,42b,43b,44b,45b,46b,47b,48bをテーパー状の平らな傾斜面とすることもできる。さらに、水平面41a,42a,43a,44a,45a,46a,47a,48aは、円形に限定されず、楕円形、あるいは四角形等の多角形としても良い。
図6は、多方向スイッチ部材のPCBを表向きにした状態を示す図である。
PCB20の表側の面には、複数の接点電極群を含むプリント配線100が形成されている。プリント配線100において、各導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48の直下にそれぞれ対応する位置には、接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108が形成されている。接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108は、揺動部材30に設けられる導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48の接触によって導通可能になる。接点電極群101,103,105,107は、ともに同じ形態の接点電極群であり、PCB20の中心から径方向外側の略半円形の1個の櫛歯電極と、径方向内側の略半円形の1個の櫛歯電極とを、互いの櫛歯同士を接触しないようにかみ合わせた状態で配置したものである。一方、接点電極群102,104,106,108は、ともに同じ形態の接点電極群であり、径方向外側の略扇形の2個の半櫛歯電極と、径方向内側の略半円形の1個の櫛歯電極とを、互いの櫛歯同士を接触しないようにかみ合わせた状態で配置したものである。接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108は、径方向外側の各櫛歯電極と各半櫛歯電極とを、配線110,111,112,113,114,115,116,117にて接続している。また、接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108は、接点電極群103と接点電極群104との間を除き、径方向内側の各櫛歯電極同士を、配線120,121,123,124,125,126,127にて接続している。ただし、接点電極群103と接点電極群104との間について、径方向内側の各櫛歯電極を配線にて接続しても良い。
また、ここでは、径方向外側に配置される1個の櫛歯電極と、その両隣りに1個ずつ配置される半櫛歯電極によって、1個の電極体が形成されている。すなわち、PCB20の表側の面には、4個の電極体が形成されている。このように、4個の電極体を形成することにより、各電極体における電圧の比に基づいて操作方向を決定することができる。一例を挙げると、上記4個の電極体を、PCB20の面内の上下左右4方向に割り振る。回転操作板70のある方向をPCB20の方向に押圧したときに、各電極体の電圧比が10:10:0:0になったと仮定すると、その電圧比に基づいて計算して各方向のベクトルを生成した結果、上方向および右方向に、同じ大きさのベクトルが生成される。次に、これらのベクトルを合成し、斜め右方向の合成ベクトルが生成された結果、操作方向を右斜め方向と決定することができる。
各導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48を各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108に接触させると、その接触時の押圧に応じて各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108と各導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48との接触面積が変化する。その結果、各櫛歯電極間(あるいは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電気抵抗値が小さくなる。すなわち、各導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48は、各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108を構成している各櫛歯電極間(あるいは各半櫛歯電極間)の電気抵抗値を変えることができる可変抵抗機能を発揮する。各櫛歯電極間(あるいは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電気抵抗値が小さくなり、その箇所における電圧値がある閾値を通過すると、スイッチがオンになるようにすることができる。前述のように、各導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48の先端は水平面41a,42a,43a,44a,45a,46a,47a,48aとなっている。このため、電圧値の閾値は、各水平面41a,42a,43a,44a,45a,46a,47a,48aが各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108に接触したときの電圧値より大きな値に設定しておくのが好ましい。各水平面41a,42a,43a,44a,45a,46a,47a,48aが各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108に接触した際に確実に閾値に至るようにするためである。このように、この実施の形態では、「スイッチがオン」の状態とは、単に非接触状態の電極同士が導通する状態のみならず、その導通によって生じる電圧値等の検出値(電気抵抗値、電流値とすることもできる)がある閾値を通過した状態をも包含するように広義に解釈されるものとする。
PCB20の表側の面における各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108よりも径方向外側であって、各押圧子34,35,36,37と対向する位置には、それぞれ、1個のメタルドーム24,25,26,27が配置されている。また、押圧子38と対向する位置には、1個のメタルドーム28が配置されている。回転操作板70の表面の外周部位あるいは中央キー50をPCB20に向けて押圧すると、その押圧した位置に相当するメタルドーム24,25,26,27,28をへこませることができる。その結果、メタルドーム24,25,26,27,28の各中央部分がその直下にあるドット状の電極に接触し、メタルドーム24,25,26,27,28と常時接続されているリング状の電極とドット状の電極とが電気的に接続され、スイッチがオンになる。メタルドーム24,25,26,27,28をへこませてスイッチをオンにするために必要な押圧の方が、導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48が接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108に接触して電圧値がある閾値を通過してスイッチがオンになるために必要な押圧に比べて大きくなるように、メタルドーム24,25,26,27,28の材質、形状等が決められている。
<2.各種形状の導電性弾性体の評価>
図7は、先端が球面形状の導電性弾性体を、その先端からの距離Xを変えて切断して、評価試験に供する導電性弾性体を作製する状況を説明する図である。
オリジナルの導電性弾性体には、図7に示すように、その先端が曲率半径R=3.0mmの球面形状であり、先端と反対側の底面の直径(底面径)が3.0mmで、底面から球面に移行する位置までの高さHが0.4mmと、その先端が曲率半径R=2.5mmの球面形状であり、先端と反対側の底面の直径(底面径)が2.5mmで、底面から球面に移行する位置までの高さHが0.3mmの2種類の導電性弾性体を用いた。2種類のオリジナルの導電性弾性体は、以下の方法で作製されたものである。シリコーンゴムコンパウンド(信越化学工業株式会社製、製品名: KE 951−U)60重量部に、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)40重量部を配合し、体積固有抵抗5オーム程度とした導電ゴムマスターバッチ(信越ポリマー株式会社製、製品名: 87C40P−1)を用意し、当該導電ゴムマスターバッチ50重量部と、絶縁性のシリコーンゴムコンパウンド(信越化学工業株式会社製、製品名: KE 961−U)50重量部とを混練、加硫および成形し、カーボンブラック20重量%のオリジナルの導電性弾性体を作製した。2種類のオリジナルの導電性弾性体から、先端から切断面までの距離Xを0.05〜0.30mmの範囲で変えて先端の水平面の面積が異なる合計6種類の導電性弾性体41を、それぞれ作製した。
底面径が3.0mmで、先端の曲率半径が3.0mmの導電性弾性体の場合、X=0.05mmのときの先端の水平面の面積(先端面面積)は、0.30πmm2である。同様に、X=0.10mmのときの先端面面積は、0.59πmm2である。X=0.15mmのときの先端面面積は、0.88πmm2である。X=0.20mmのときの先端面面積は、1.17πmm2である。X=0.25mmのときの先端面面積は、1.44πmm2である。X=0.30mmのときの先端面面積は、1.72πmm2である。
底面径2.5mmで、先端の曲率半径が2.5mmの導電性弾性体の場合、X=0.05mmのときの先端面面積は、0.25πmm2である。同様に、X=0.10mmのときの先端面面積は、0.49πmm2である。X=0.15mmのときの先端面面積は、0.73πmm2である。X=0.20mmのときの先端面面積は、0.96πmm2である。X=0.25mmのときの先端面面積は、1.19πmm2である。X=0.30mmのときの先端面面積は、1.42πmm2である。
図8は、図7に示す方法で作製した各種導電性弾性体がPCB上の特定の接点電極群に接触する部分を抜き出して詳細に示す側断面図である。
PCB20上の接点電極群101等は、導電性弾性体41等とPCB20の組み立て時の多少の位置ずれが生じても導電性弾性体41等との電気的な接触が可能となるように、導電性弾性体41等の底面径よりも1.0mm大きく形成されている。好適な一例では、導電性弾性体41等の底面径を3.0mmとすると、接点電極群101等の外接円の直径を4.0mmとしている。
メタルドーム24,28等は、それらの上から1枚の大型の粘着シート130を被せることによりPCB20上に固定されている。粘着シート130は、絶縁性のシートである。この状態では、PCB20上の各接点電極群101等も粘着シート130に覆われ、各導電性弾性体41等との電気的な接触ができないので、粘着シート130の各接点電極群101等の上方に開口部140を形成している。この結果、各導電性弾性体41等をその上方から荷重Fをかけると、開口部140を通じて、各導電性弾性体41等が各接点電極群101等と電気的に接触できるようになっている。開口部140の大きさは、PCB20への貼付時におけるずれ公差を考慮して、接点電極群101等の外接円よりも0.5mm小さい径を有する円形状に形成されている。好適な一例では、接点電極群101等の外接円の直径を4.0mmとすると、開口部140の直径は3.0mmである。接点電極群101等を構成する2個の櫛歯電極は、幅0.15mmの電極を3若しくは4本有し、それらが互いに接触しないように電極間が0.15mmピッチで離れるように配置されている。また、櫛歯電極は、銅箔に金メッキを施した形態を有する。
図7に示す方法で作製した2種類の底面径であってそれぞれ先端面面積の異なる合計12種類の導電性弾性体41等および比較としての先端が球面の導電性弾性体を揺動部材30にそれぞれ固定して、図8に示す構造のPCB20の上方に揺動部材30を配置した状態にて、性能評価を行った。性能評価項目は、低荷重時に安定して正確な方向を示すかどうかをみる評価(低荷重時安定性)と、荷重と抵抗値の関係(信号カーブ)に急激な変化が少ないかどうかをみる評価(信号カーブ特性)の2種類とした。
低荷重時安定性の試験では、0.5N以下の荷重時に押圧の検知が操作方向と正確に一致する場合に「3」、同荷重時に多少不一致になるときがあるが通常の使用では全く問題にならない程度と認められる場合に「2」、同荷重時に押圧の検知が操作方向と不一致になることがあり、通常の使用において気になる場合に「1」とした。信号カーブ特性では、全荷重域で抵抗値の急降下が認められない場合に「3」、特に低荷重域にて抵抗値の急降下が認められる場合に「2」、特に低荷重域にて抵抗値の極めて大きな急降下が認められ、通常の使用において気になる場合に「1」とした。
表1に、底面径3.0mmの各種導電性弾性体を用いたときの性能評価試験の結果を示す。表2に、底面径2.5mmの各種導電性弾性体を用いたときの性能評価試験の結果を示す。また、表3に、荷重を0.1〜10Nまで変化したときの、底面径3.0mmの各種導電性弾性体の抵抗値の変化を示す。図9は、表3の結果をグラフ化したものである。図9中の「SR」と表示している点線は、先端が球面のオリジナルの導電性弾性体のデータを示す。
表1〜3および図9に示す性能評価から、まず、先端が球面の導電性弾性体を用いた場合には、底面径が2.5mmおよび3.0mmのいずれのものでも、低荷重時安定性に問題があった。特に、底面径が2.5mmのときには、より安定性に欠けていた。これに対して、先端を水平面にした導電性弾性体を用いた場合には、底面径が2.5mmで、X=0.05mmの位置で先端を切断して作製した導電性弾性体を用いた場合には、低荷重時安定性が「2」であるものの、先端を水平面にした他の導電性弾性体では、低荷重時安定性に全く問題はなかった。一方、信号カーブ特性の面では、底面径が2.5mmでX=0.20mm以上の位置で先端を切断して作製した導電性弾性体および底面径が3.0mmでX=0.25mm以上の位置で先端を切断して作製した導電性弾性体では、それ以外の導電性弾性体よりも性能が低かった。評価に供した導電性弾性体の中では、底面径が3mmでX=0.05〜0.20mmの導電性弾性体および底面径が2.5mmでX=0.10〜0.15mmの導電性弾性体が最も優れており、全ての評価項目が「3」であった。
表3に示すように、底面径が3.0mmの導電性弾性体の場合には、荷重が0.1Nのときに2000オーム以下の電気抵抗値であり、荷重が0.5Nのときに荷重が0.1Nのときの電気抵抗値の50%以上を保ち、急激な電気抵抗の変化のない導電性弾性体(X=0.05mm、0.10mmおよび0.15mmの導電性弾性体)が優れていることがわかった。その中でも、X=0.05mmの導電性弾性体は、抵抗値の変位が緩やかであり、最も好ましいことがわかった。
多方向スイッチ部材2を回転操作する場合、操作する軌道上の押圧が弱くなっても、その弱い押圧によって導電性弾性体41等の先端にある水平面がその直下の接点電極群101等に接触するように設計しておくと、回転操作時の押圧の変動による各接点電極群101等における電圧値の大きな変動は生じない。当該押圧力が変動しても、先端の水平面がその直下の接点電極群101等に接触している接触面積の大きさが大きく変動しないからである。これに対して、先端が球面の導電性弾性体41等の場合には、回転操作する軌道上において押圧の変動があると、導電性弾性体41等とその直下の接点電極群101等との接触面積が大きく変動しやすい。この大きな変動によって、回転操作が行われていることを検知する動作に誤作動が生じやすくなる。したがって、多方向スイッチ部材2の回転操作によって表示部3に表示される表示情報をよりスムーズにスクロールする場合には、回転操作時に各接点電極群101等における電圧値の変動がほとんど生じない、先端が水平面の導電性弾性体41の方が優れている。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明してきたが、本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
図10は、図6に示すPCBの変形例を示す図である。
図10に示すPCB20のように、各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108が独立して配置されるようにしても良い。この場合、各接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108において、個別に電圧値の計測と当該電圧値が閾値を通過したかどうかが判断される。図10に示すようなPCB20を用いる場合、各導電性弾性体41,42,43,44,45,46,47,48を使用せずに、先端が球面のものであっても、ある程度正確に、押圧の方向を検出することができる。先端が球面の導電性弾性体41等の場合には、低荷重領域で接点電極群101等との接触が不安定になる傾向があるものの、8個の接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108を独立して配置すると、それらを4個の電極体に統合するように配置する場合と比較して、1個の接点電極群101等の受け持つ領域が狭くなり、方向の誤検知が生じにくくなるからである。さらに、上述のようなベクトルの合成から方向を特定する方法に加えて、最も抵抗値が小さくなった接点電極群101等を特定する方法を併せて採用することにより、より方向の誤検知の確率を低減することもできる。ただし、図6に示すPCB20のように8個の接点電極群を4個の電極体に統合する形態に比べると、CPUとして機能する半導体チップのポートを多く使用することになるので、メモリ容量の低減および回路設計上の簡易化を優先する場合には、図6に示すPCB20のように、8個の接点電極群を4個の電極体に統合する形態の方が好ましい。
また、回転操作板70を揺動部材30の上方に配置せずに、回転ではなく、揺動部材30の外周を揺動させるのみの操作が可能な多方向スイッチ部材であっても良い。また、中央キー50は必ずしも設けなくて良い。また、回転操作板70を設ける場合においても、多方向操作板60を設けず、揺動部材30に、直接、回転操作板70を配置しても良い。その場合、摩擦低減部材80は、揺動部材30の円板33の表側の面、あるいは凹部71の内方天面に固定するのが好ましい。
接点電極群101,102,103,104,105,106,107,108は、櫛歯状の電極から構成しなくても良い。例えば、複数の半円形状、あるいは当該半円形状を半分にした複数の扇形状の電極を非接触状態にして、接点電極群を構成しても良い。