JP2011019520A - Notch経路を用いた組織型または器官型の操作 - Google Patents

Notch経路を用いた組織型または器官型の操作 Download PDF

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Abstract

【課題】細胞のNotch経路機能を改変することにより細胞型、組織型または器官型の運命を改変する方法の提供。
【解決手段】Notch経路および1以上の細胞運命制御遺伝子経路の活性化状態を同時に変化させる。どんな分化状態の細胞にも利用することができる。得られた細胞を拡張して細胞置換療法に使用することにより、失われた細胞集団を再増殖させたり罹患および/または損傷した組織の再生を助長する。また、得られた細胞集団を組換え体にして、遺伝子療法に使用したり研究用の組織/器官モデルとして使用する。黄斑変性を治療する方法であって、網膜色素上皮細胞または網膜神経上皮細胞あるいは両方の組織細胞のNotch経路機能を改変する。改変された運命の細胞、組織または器官を形成するためのキット。Notch経路機能または細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングする。
【選択図】なし

Description

1. 発明の分野
本発明は、細胞のNotch経路機能を改変することにより細胞型、組織型または器官型の運命を改変する方法に関する。本発明はさらに、Notch経路および1以上の細胞運命制御遺伝子経路の活性化状態を同時に変化させることにより細胞型、組織型または器官型の運命を改変する方法に関する。本発明は、どんな分化状態の細胞にも利用することができる。得られた細胞を拡張して細胞置換療法に使用することにより、失われた細胞集団を再増殖させたり罹患および/または損傷した組織の再生を助長したりすることが可能である。また、得られた細胞集団を組換え体にして、遺伝子療法に使用したり研究用の組織/器官モデルとして使用したりすることもできる。本発明は、黄斑変性を治療する方法であって、網膜色素上皮および/または神経上皮の細胞のNotch経路機能を改変することを含んでなる方法に関する。本発明はまた、本発明の方法を利用して、改変された運命の細胞、組織または器官を形成するためのキットに関する。本発明はまた、Notch経路機能または細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングする方法を提供する。
2. 発明の背景
2.1. 発生過程
ヒトなどの多細胞生物の個体発生を支配する発生過程は、原全能性幹細胞から心臓細胞または神経細胞のような特殊化した機能を担う最終分化成熟細胞まで、細胞の発生能を段階的に狭めていくシグナリング経路間の相互作用に依存する。
受精卵は、すべての他の細胞系統の由来元である細胞、すなわち、本源的な幹細胞である。発生が進行するにつれて、初期胚細胞は、細胞が発生成熟期に達するまで、すなわち、最終的に分化するまで、細胞の発生能を段階的に狭めていく増殖シグナルおよび分化シグナルに応答する。これらの最終分化細胞は、特殊化した機能および特性を有し、特定細胞に至る前駆細胞分化の多段階過程における最終段階を呈する。
細胞分化における1つの段階から次の段階への移行は、成熟期に達するまで進行を段階的に制御する特定の生化学的機構によって支配される。明らかに、組織および細胞の分化は、最終分化状態に達するまで特定の段階をたどる漸進的過程である。
初期胚細胞塊の形態形成運動である原腸胚形成が起こると、結果として、3つの異なる胚細胞層、すなわち、外胚葉、中胚葉、および内胚葉が形成される。各胚細胞層の細胞が種々の発生シグナルに応答するにつれて、特定の分化細胞から構成された特定の器官が形成される。たとえば、表皮および神経系は外胚葉由来細胞から発生し、呼吸系および消化路(digestive tract)は内胚葉由来細胞から発生し、そして中胚葉由来細胞からは、結合組織、造血系、泌尿生殖系、筋肉、およびほとんどの内部器官の一部分が発生する。
外胚葉、内胚葉および中胚葉がいかに発生するか、さらにはこれら3つの胚葉から生体のさまざまな組織がいかに形成されるかについて以下で簡単に概説する。発生に関する一般的な総説については、Scott F. Gilbert, 1991, Developmental Biology, 3rd Edition, Sinauer Associates, Inc., Sunderland MAを参照されたい。
背部中胚葉と上被外胚葉との相互作用により器官形成が開始される。この相互作用において、脊索中胚葉はその上側にある外胚葉に指令を出して、最終的には脳および脊髄になる神経管を形成させる。神経管から中枢神経系のさまざまな領域への分化は肉眼解剖学的レベルで明らかにされており、これによると、形態形成変化によって特異的なくびれと膨らみが形づくられて脳室および脊髄室が形成される。細胞レベルでは、細胞移動事象によって種々の細胞群の再構成が起こる。神経上皮細胞は、増殖および分化のシグナルに応答して最終的に多くの型の神経細胞および支持(グリア)細胞へと分化する。神経管および脳はいずれも高度に部域化されて、それぞれの特定領域が異なる機能目的を果たすようになる(図1参照)。この組織の各細胞は、特定の形態学的および生化学的特性を有する。分化細胞は、発生指令に応答した前駆細胞が最終分化状態に達するまでより分化した状態へと移行する系列の最終段階である。たとえば、神経管内層の必須成分である上衣細胞は、受け取る発生指令に応じてニューロンまたはグリアに分化しうる前駆体を形成することができる(Rakic et al., 1982, Neurosci. Rev. 20: 429-611)。
神経冠は外胚葉に由来するものであり、末梢神経系、色素細胞、副腎髄質および頭部軟骨の特定領域を含めて厖大な数の分化細胞型を形成する細胞塊である。
神経冠細胞の運命は、発生過程においてそれらが移動および定着する場所に依存するであろう。なぜなら、それらの細胞は、最終的分化を支配するさまざまな分化および増殖のシグナルに遭遇することになるからである。神経冠細胞の多能性については、十分に立証されている(LeDouarin et al., 1975, Proc. Natl. Acad. Sci USA 72:728-732)。単一神経冠細胞は、いくつかの異なる細胞型に分化することができる。細胞集団または単一神経冠細胞の移植実験により、これらの細胞の著しく柔軟な分化能が指摘されている。種々の分化経路の細胞系列が造血系発生において立証されているほど明らかにされているわけではないが、造血系で見られるものと似たような多能性細胞前駆体の存在はかなり確認されている。
神経胚形成後、胚を覆う細胞は予定表皮を形成する。この表皮は、未分化の有糸分裂活性基底細胞から始まって最終的に分化した非分裂性ケラチノサイトで終わる分化系列を規定するいくつかの細胞層からなる。後者の細胞は、最終的には剥落して、下側に位置するより分化度の低い前駆体で定常的に補充される。皮膚の病原的状態である乾癬は、表皮細胞が異常に高レベルで剥脱した結果として生じる。
皮膚は、表皮の派生体でだけではない。中胚葉起源の組織である間葉真皮と表皮との特定部位での相互作用により、皮膚附属器、毛嚢、汗腺およびアポクリン腺が形成される。毛髪を生成する細胞集団は、最初の胎生期毳毛が出生前に剥落して新しい濾胞(軟毛)で置換されるという点でかなり動的である。短い絹のような毛髪である軟毛は、無毛であるとみなされる生体の多くの部分、たとえば、額や眼瞼に残存している。他の領域では、軟毛は「終」毛と置き換わることができる。終毛は、一般に男性禿頭症で見いだされる状態である無色素軟毛の生成状態に逆戻りする可能性もある。
内胚葉は、成体内の2種の管を裏打ちする組織の起源である。消化管(digestive tube)は、生体の長さ全体に広がっている。消化管からは、消化路だけでなく、たとえば、肝臓、胆嚢および膵臓も形成される。第2の管である呼吸管(respiratory tube)は、肺および咽頭の一部分を形成する。咽頭からは、扁桃腺、甲状腺、胸腺および副甲状腺が形成される。
間葉形成(mesengenic)過程とも呼ばれてきた中胚葉形成過程は、外胚葉壁と消化管および呼吸管との間のすべての器官を含めてきわめて多数の内部組織を生じさせる。他のすべての器官の場合と同様に、中胚葉形成過程は、種々の細胞間シグナリング事象と、最終的に特定の細胞同一性を指令することになるであろう非最終分化前駆細胞の応答との複雑な相互作用である。器官形成は、間葉細胞と隣接上皮との相互作用にかなり依存している。真皮と表皮との相互作用により毛髪などが形成されることについては先に述べた。肢、消化器官、肝臓または膵臓、腎臓、歯などの形成はすべて、特定の間葉成分と特定の上皮成分との相互作用に依存している。実際に、所与の上皮の分化は、隣接する間葉の性質に依存する。たとえば、肺芽上皮を単独で培養した場合、分化はまったく起こらない。しかしながら、肺芽上皮を胃間葉または腸間葉と一緒に培養した場合、肺芽上皮は、それぞれ胃腺または絨毛に分化する。さらに、肺芽上皮を肝臓間葉または気管支間葉と一緒に培養した場合、上皮は、それぞれ肝細胞索または分枝状気管支芽に分化する。これらの派生過程を媒介する因子の例については、以下の第2.3節で説明する。
胚発生により、完全に形成された生物が誕生する。各器官の細胞境界を規定する形態学的過程には、増殖や分化だけでなく、アポトーシス(プログラムされた細胞死)も含まれる。たとえば、神経系では、約50%のニューロンが、胚形成時、プログラムされた細胞死を受ける。
幼若体または成体では、組織の維持は、正常な生命活動時であっても損傷や疾患への応答時であっても、特定の発生シグナルに応答しうる前駆細胞からの器官の補充に依存している。
未成熟細胞の分化による成体細胞の再生に関して最もよく知られている例は、造血系である。この系では、発生学的に未成熟な前駆体(造血幹細胞および始原細胞)は、分子シグナルに応答して次第に別の血液細胞型およびリンパ系細胞型を形成する。
造血系は最もよく理解された自己再生成体細胞系であるが、ほとんどの、おそらくすべての成体器官は、適正環境下では成体組織の補充を引き起こすことのできる前駆細胞を保有していると考えられている。たとえば、神経冠細胞の多能性については先に説明した。成体の腸管は、分化組織を補充する未成熟前駆体を含んでいる。肝臓は、肝未成熟前駆体を含有しているので再生能力を有しており、皮膚は、自己再生を行う。その他の器官も同様である。間葉形成過程を介して、ほとんどの中胚葉派生体は、前駆体の分化によって連続的に補充される。そのような修復は、胚系列を反復し、多能性始原細胞の関与する分化経路を伴う。
間葉始原細胞は、特定のシグナルに応答して特定の系列をたどる多能性細胞である。たとえば、骨形態形成因子に応答して、間葉前駆細胞は、骨形成系列をたどる。たとえば、損傷に応答して、中胚葉始原細胞は、適切な部位に移動して増殖し、局部的分化因子に反応して最終的に独自の分化経路をたどる。成体において限定された組織の修復のみが観察されるのは、特定の分化系列をたどることのできる始原細胞が少なすぎるためであると推定されてきた。別の運命をたどるように組織を変化させることができるならば、より容易に入手しうる細胞または組織を利用して組織の修復をよりいっそう効率的に行えることは明らかである。さらに、所望の組織型または器官型の細胞をex vivoで増殖させる方法を用いれば、結果として所望の組織の増殖が迅速化されて損傷または外傷の治療の迅速化が可能になるうえに、器官または組織の移植片に用いられる細胞源が提供されるようになるであろう。特定の細胞運命の細胞のプールは、遺伝子療法や多数の治療方式に非常に有益であろう。またそれらの拡張細胞のプールは、さらに有益であろう。
このほか、アポトーシスを所定の細胞で誘導して他の細胞では抑制するように細胞運命を改変することができれば、それぞれ、無制御な増殖および細胞運命指令に対する適切な応答の欠如に起因した癌ならびに不適切な細胞死に起因した変性性疾患のような多くのヒト疾患を治療できる可能性がある。
2.2. 細胞運命の決定に関与する遺伝子
2.2.1. Notch経路
遺伝的および分子的研究によってNotchシグナリング経路の特有な因子を規定する一群の遺伝子が同定された。これらの種々の因子の同定は、当初の方針として、もっぱらショウジョウバエ(Drosophila)を対象に遺伝的手段を用いて行われてきたが、その後の分析の結果、ヒトなどの脊椎動物種の相同タンパク質が同定されるようになった。既知のNotch経路因子間の分子的関連性およびそれらの細胞内局在性が1995年にArtavanis-Tsakonasらにより報告された(Scicnce 268:225-232)。
Notchシグナリング経路のいくつかの因子のクローン化および配列決定がなされており、たとえば、次の例が挙げられる。Notch (Wharton et al., 1985,Cell 43:567-581; 1992年11月12日付けの国際公開第92/19734号; Ellison et al., 1991,Cell 66:523-534; Weinmaster et al., Development 116:931-941; Coffman et al., 1990, Science 249:1438-1441; Stifani et al., 1992, Nature Genet. 2:119-127; Lardelli and Lendahl, 1993, Exp. Cell. Res. 204:364-372; Lardelli et al., 1994, Mech. Dev. 96:123-136; Bierkamp et al., 1993,Mech. Dev. 43:87-100); Delta (Kopczybski et al., 1988, Genes and Dev.2:1723-1735; Henrique et al., 1995, Nature 375:787-790; Chitnis et al., 1995, Nature 375:761-766); Serrate (Fleming et al., 1990, Genes and Dev. 1:2188-2201; Lindsell et al., 1995, Cell.80:909; Thomas et al., 1991, Development 111:749-761); 細胞質タンパク質Deltex (Busseau et al., 1994, Genetics 136:585-596);ならびにMastermind, Hairless, Enhancer of Split ComplexおよびSuppressor of Hairlessによりコードされている核タンパク質(Smoller et al., 1990, Genes and Dev. 4:1688-1700; Bang and Posakony, 1992, Genes and Dev. 6:1752-1769; Maixr et al., 1992, Mech. Dev. 38:143-156; Delidakis et al., 1991,Genetics 129:803-823; Schrons et al., 1992, Genetics 132:481-503; Furukawa et al., 1991, J. Biol. Chem. 266:23334-23340; Furukawa et al., 1992, Cell 69:1191-1197; Schweisguth and Posakony, 1992, Cell 69:1199-1212; Fortini and Artavanis-Tsakonas, 1994, Cell 79:273-282)。
Notchの細胞外ドメインは、36個のEGF様リピートを保有し、このうちの2つは、NotchリガンドのSerrateおよびDeltaと相互作用することが示唆された。DeltaおよびSerrateは、EGF相同性細胞外ドメインを有する膜結合リガンドであり、隣接する細胞上のNotchと物理的に相互作用してシグナリングを引き起こす。
末端切断型のNotch受容体の発現を含む機能分析から、受容体の活性化が細胞内ドメインの6個のcdc10/アンキリンリピートに依存していることが示された。さらに、Notchの活性化には、cdc10/アンキリンリピートが、おそらくこのタンパク質の残りの部分からタンパク質分解開裂された後、核に達して、転写活性化に関与することが必要である(Struhl and Adachi, 1998, Cell 93:649-660)。過剰発現の結果として見かけ上経路を活性化するDeltexおよびSuppressor of Hairlessは、これらのリピートと会合する。最近得られた証拠によると、核に進入すべくcdc10/アンキリンリピートを放出するタンパク質分解開裂段階はPresenilin活性に依存していると考えられる(De Strooper et al., 1999, Nature 398:518-522; Struhl and Greenwald, ibid.:522-525; Ye et al., ibid.:525-529)。
Notch経路は、Notchのアンキリンリピートを核に放出する段階のほかにタンパク質プロセシング事象に依存している。原形質膜に存在するNotch受容体には、2種のNotchタンパク質分解開裂産物、すなわち、細胞外ドメインの一部分、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを構成するN末端断片を含む産物と、細胞外ドメインの大部分を含む他の産物とのヘテロ二量体が含まれている(Blaumueller et al., 1997, Cell 90:281-291)。受容体を活性化させるべくNotchをタンパク質分解開裂させる段階は、ゴルジ装置中で起こり、フリン様転換酵素により媒介される(Logeat et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:8108-8112)。活性化を行うには、さらに、NotchリガンドであるDeltaを開裂させる必要がある。Deltaは、ADAMジスインテグリンメタロプロテナーゼKuzbanianにより細胞表面で開裂され、この開裂事象によって可溶性かつ活性形態のDeltaが放出される(Qi et al., 1999, Science 283:91-94)。
Suppressor of Hairlessは、B細胞のEpstein-Barrウイルス誘導性不死化に関与する哺乳動物DNA結合タンパク質であるCBF1のDrosophila相同体である。少なくとも培養細胞において、Suppressor of Hairlessは、細胞質中でcdc10/アンキリンリピートと会合して、隣接細胞上でのNotch受容体とそのリガンドDeltaとの相互作用時に核内に移行することが実証されている(Fortini and Artavanis, 1994, Cell 79:273-282)。新規な核タンパク質であるHairlessとSuppressor of Hairlessとの会合については、酵母2ハイブリッド系を用いて報告されており、したがって、転写へのSuppressor of Hairlessの関与はHairlessによって調節されていると考えられる(Brou et al., 1994, Genes Dev. 8:2491; Knust et al. 1992, Genetics 129:803)。
Deltexは、環状ジンクフィンガーを含有する細胞質タンパク質である。Deltexは、Notchのアンキリンリピートと相互作用する(Matsuno et al., 1995, Development 121:2633-2644)。また、Deltexは、膜に局在化したNotchがSuppressor of Hairlessに結合することがないようにして、Suppressor of Hairlessが転写モジュレーターとして作用しうる場所である核に放出されるようにすることによって、Notch経路の活性化を促進することが示唆されている。しかしながら、脊椎動物のB細胞系においてE47機能を阻害する役割を担っているのはSuppressor of Hairless相同体であるCBF1ではなくDeltexであることも明らかにされている(Ordentlich et al., 1998, Mol. Cell. Biol. 18:2230-2239)。
最後に、Notchシグナリングの結果としてEnhancer of split complex内の少なくともいくつかのbHLH遺伝子が活性化されることが知られている(Delidakis et al., 1991, Genetics 129:803)。Mastermindは、新規な遍在性(ubiquitous)核タンパク質をコードしている。このタンパク質は、Notchシグナリングとの関係が不明瞭なままであるが、遺伝的分析によって示されるようにNotch経路に関与している(Smoller et al., 1990,Genes Dev. 4:1688)。
Notch経路の普遍性はさまざまなレベルで明らかになる。遺伝子レベルでは、ショウジョウバエ(Drosophila)において非常に広汎にわたる細胞型の発生に影響を及ぼす多くの突然変異が存在する。マウスにおけるノックアウト突然変異は、Notch機能の基本的な役割に矛盾しない胚の致死突然変異である(Swiatek et al., 1994, Genes Dev. 8:707)。ヒトの造血系のNotch経路における変異はリンパ芽球性白血病と関連性がある(Ellison et al., 1991,Cell.66:649-661)。最後に、発生中のXenopus胚において突然変異型のNotchが発現されると正常な発生は著しく妨害される(Coffman et al., 1993, Cell 73:659)。
ショウジョウバエ(Drosophila)胚におけるNotchの発現パターンは複雑で動的である。Notchタンパク質は初期胚中で広く発現され、続いて発生が進行するにつれて、非拘束性または増殖性の細胞群に限局されていく。成体では、発現は卵巣および精巣の再生組織中に残存する。(総説:Fortini et al., 1993, Cell 75:1245-1247;Jan et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8305-8307; Sternberg, 1993, Curr. Biol. 3:763-765; Greenwald, 1994, Curr. Opin. Genet. Dev. 4:556-562; Artavanis-Tsakonas et al., 1995, Science 268:225-232)。脊椎動物の3つの公知のNotch相同体の1つであるNotch1の発現がゼブラフィッシュおよびXenopusで研究され、全体的なパターンは一般に最終分化していない増殖性の細胞集団に関連したNotch発現と同様であることが示された。高発現レベルを有する組織としては、発生中の脳、眼および神経管が挙げられる(Coffman et al., 1990, Science 249:1438-1441; Bierkamp et al., 1993, Mech. Dev. 43:87-100)。哺乳動物での研究において対応するNotch相同体の発現が発生の後期に開始されることが示されたが、これらのタンパク質は細胞運命の決定または急速な増殖を行っている組織中で動的パターンで発現される(Weinmaster et al., 1991, Development 113:199-205; Reaume et al., 1992, Dev. Biol. 154:377-387; Stifani et al., 1992, Nature Genet. 2:119-127; Weinmaster et al., 1992, Development 116:931-941; Kopan et al., 1993, J. Cell. Biol. 121:631-641; Lardelli et al., 1993, Exp. Cell Res. 204:364-372; Lardelli et al., 1994, Mech. Dev. 46:123-136; Henrique et al., 1995, Nature 375:787-790; Horvitz et al., 1991, Nature 351:535-541; Franco del Amo et al., 1992, Development 115:737-744)。哺乳動物Notch相同体が最初に発現される組織としては、前原体節期の中胚葉および胚の発生中の神経上皮が挙げられる。前原体節期中胚葉では、移動したすべての中胚葉にNotch1の発現が見られ、前原体節期中胚葉の前端部では、特に濃密なバンドが見られる。この発現は体節が形成されると減少することが分かっている。このことから、Notchが体前駆細胞の分化に関与していることが示唆される(Reaume et al., 1992, Dev. Biol. 154:377-387; Horvitz et al., 1991, Nature 351:535-541)。マウスDeltaについても同様の発現パタ-ンが見られる(Simske et al., 1995, Nature 375:142-145)。
発生中の哺乳動物神経系内では、Notch相同体の発現パタ-ンは末梢神経系の構成部分のほかに脊髄の髄室帯(ventricular zone)の特定領域にも重複はあるが同一ではないパターンで顕著に現れることが示された。神経系におけるNotch発現は細胞増殖の領域に限定されているものと見られ、分化したばかりの細胞に近接する集団には見られない(Weinmster et al., 1991, Development 113:199-205; Reaume et al., 1992, Dev. Biol. 154:377-387; Weinmaster et al., 1992, Development 116:931-941; Kopan et al., 1993, J. Cell Biol. 121:631-641; Lardelli et al., 1993, Exp. Cell Res. 204:364-372; Lardelli et al., 1994, Mech. Dev. 46:123-136; Henrique et al., 1995, Nature 375:787-790; Horvitz et al., 1991, Nature 351:535-541)。ラットNotchリガンドもまた、発生中の脊髄内で、Notch遺伝子の発現ドメインと重複する髄室帯に特有なバンドとして発現される。このリガンドの時空的発現パタ-ンは、脊髄神経運命に拘束された細胞のパターンとよく相関しており、神経運命の細胞集団のマーカーとしてのNotchの有用性が実証される(Henrique et al., 1995, Nature 375:787-790)。このことはさらに、発現ドメインが同様にNotch1のものと重複している脊椎動物Delta相同体に対しても示唆された(Larsson et al., 1994, Genomics 24:253-258; Fortini et al., 1993, Nature 365:555-557; Simske et al., 1995, Nature 375:142-145)。Xenopus相同体およびニワトリ相同体の場合、側方特定化(lateral specification)モデルから予測されるように、Deltaは散在する細胞のNotch1発現ドメイン内でのみ実際に発現され、これらのパターンは神経分化のその後のパターンの「原型」となる(Larsson et al., 1994, Genomics 24:253-258; Fortini et al., 1993, Nature 365:555-557)。
特に興味深いこのほかの脊椎動物研究では、網膜、毛嚢および歯芽(tooth bud)を含む発生中の感覚構造体におけるNotch相同体の発現に焦点が当てられてきた。Xenopus網膜の場合、Notch1は中心縁帯域(central marginal zone)および中心網膜の未分化細胞中で発現される(Coffman et al., 1990, Science 249:1439-1441; Mango et al., 1991, Nature 352:811-815)。ラットにおける研究でも、Notch1と発生中の網膜の分化中の細胞との関連が実証され、この組織のその後の細胞運命を選択する役割をNotch1が担っていることを示唆するものであると解釈された(Lyman et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10395-10399)。
上皮/間葉間の誘導相互作用にNotchタンパク質が関与している可能性があるかを調べるために、毛嚢の再形成マトリックス細胞におけるマウスNotch1の発現に関して詳細な分析が行われた(Franco del Amo et al., 1992, Development 115:737-744)。当初、Notch1のそのような役割は、ラットのほほひげおよび歯芽におけるその発現に基づいて提示された(Weinmaster et al., 1991, Development 113:199-205)。これに反して、Notch1発現は、上皮/間葉相互作用を受けない非有糸分裂性の分化中の細胞集団の一部分に限定されることが判明した。これは、その他の場所でのNotch発現と一致する知見である。
ヒト組織および細胞系におけるNotchタンパク質の発現研究もまた報告されている。ヒトT細胞白血病における末端切断型Notch1 RNAの異常発現は、Notch1に切断点を有する転座に起因している(Ellisen et al., 1991, Cell 66:649-661)。造血時のヒトNotch1発現の研究から、T細胞前駆体の初期分化におけるNotch1の役割が示唆されている(Mango et al., 1994, Development 120:2305-2315)。さらに、正常および腫瘍性の頚部組織および結腸組織を含む成体組織切片を用いてヒトNotch1およびNotch2の発現の研究が行われた。Notch1およびNotch2は試験した正常組織の扁平上皮内の分化中の細胞集団において重複パターンで発現されると見られ、いくつかの前駆細胞を除いて正常円柱上皮では発現されないことは明らかである。腫瘍中では、比較的良性の扁平上皮化生の場合から円柱上皮が腫瘍によって置換されているような癌性の侵食性腺癌の場合まで、両方のタンパク質が発現される(Gray et al., 1999, Am.J.Pathol. 154:785-794; Zagouras et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 6414-6418)。
Notchシグナリングの発生的役割および全般的性質に関する見識は、いくつかの種における末端切断型の構成的に活性化された形態のNotchを用いた研究から得られている。細胞外リガンド結合ドメインを欠くこれらの組換え工学的Notch形態は、哺乳動物Notchタンパク質の天然に存在する発癌性変異体に似ており、表現型を基準にして構成的に活性化されている(Greenwald, 1994, Curr. Opin. Genet. Dev 4:556; Fortini et al., 1993,Nature 365:555-557; Coffman et al., 1993, Cell 73:659-671; Struhl et al., 1993, Cell 69:1073; Rebay et al., 1993, Genes Dev. 7:1949; Kopan et al., 1994, Development 120:2385; Roehl et al., 1993,Nature 364-632)。
・ショウジョウバエ(Drosophila)胚における活性化Notchの遍在的発現は、表皮分化を損なうことなく神経芽細胞分離を抑制する(Struhl et al., 1993, Cell 69:331; Rebay et al., 1993, Genes Dev.7:1949)。
・発生中の成虫上皮における活性化Notchの持続性発現は、同様に、神経構造体を犠牲にして表皮の過剰産生を引き起こす(Struhl et al., 1993, Cell 69:331)。
・神経芽細胞分離は、胚における活性化Notchの一過的発現によって遅延させられるが阻止されることはない一時的な現象として起こる(Struhl et al., 1993, Cell 69:331)。
・ショウジョウバエ(Drosophila)眼成虫盤の明瞭な細胞において一過的発現が起こると、細胞はその通常の派生指令を無視して別の細胞運命をたどるようになる(Fortini et al., 1993, Nature 365:555-557)。
・ショウジョウバエ(Drosophila)の胚または眼原基における活性化Notchの一過的発現を利用した研究を行うことにより、Notchシグナリング活性が低下した後で細胞は回復して適切に分化したりその後の発生指令に応答したりしうることが示唆されている(Fortini et al., 1993, Nature 365:555-557; Struhl et al., 1993, Cell 69:331)。
Notch経路およびNotchシグナリングに関する総論については、Artavanis-Tsakonas et al., 1995, Science 268:225-232およびArtavanis-Tsakonas et al., 1999, Science 284:770-776を参照されたい。
2.2.2. Pax遺伝子およびタンパク質
Pax遺伝子(総説:Dahlら, 1997, Bioessays 19:755-766; Noll, 1993, Curr. Opin. Gen. Dev. 4:427-438)は、pairedドメインと呼ばれるドメインを有することを特徴とする転写因子をコードしている。このpairedドメインは、同定されたPaxファミリーの最初の遺伝子であるDrosophila pairedにちなんで命名されたものである。pairedボックスは、機能的にPAIドメインとREDドメインの2つのサブドメインに分けられている(Czernyら, 1993, Genes Dev. 7:2048-2061)。pairedドメインのほかに、Paxタンパク質にはホメオドメインおよび/またはオクタペプチドモチーフが含まれている。それらがコードしている構造モチーフに従って、Pax遺伝子は、4つの異なるグループに分類された(Waltherら, 1991, Genomics 11:424-434; Dahlら, 1997, Bioessays 19:755-766)。Pax1のようなグループIタンパク質は、pairedドメインおよびオクタペプチドモチーフを有している。グループIIタンパク質(たとえば、Pax2)は、pairedドメイン、オクタペプチドおよびへリックス1つだけからなる部分ホメオドメインを有している。グループIIIタンパク質(たとえば、Pax3)は、pairedドメイン、オクタペプチドおよびホメオドメインを有している。そしてグループIVタンパク質(たとえば、Pax4)は、pairedドメインおよびホメオドメインを有している。pairedドメインおよびホメオドメインはいずれも、Paxタンパク質のDNA結合活性に寄与している(たとえば、Treismanら, 1991, Genes Dev. 5:594-604を参照されたい)。2つのpairedサブドメイン(PAIおよびRED)間(Pellizzariら, 1999, Biochem J. 337:253-262)またはpairedドメインとホメオドメインとの間(Junら, 1996, Development 122:2639-2650)では分子内に、あるいは異なるPaxタンパク質のホメオドメイン間(Wilsonら, 1993, Genes Dev. 7:2120-2134)では分子間に、DNA結合に関して協同的な相互作用が存在することもある。DNA結合機能のほかに、pairedドメインおよびホメオドメインは、Paxタンパク質と他の転写因子との相互作用に寄与している(たとえば、Eberhardら, 1999, Cancer Res. 59 (7 Suppl.):1716s-1725s; Wheatら, 1999, Mol. Cell Biol. 19:2231-2241を参照されたい)。
ショウジョウバエ、マウスおよびヒト以外では、ラット(Otsenら, 1995, Mamm. Genome 6:666-667)、ニワトリ(Nohnoら, 1993, Dev. Biol. 158:254-264)、ウズラ(Carriereら, 1993, Mol. Cell Biol. 13:7257-7266)、ゼブラフィッシュ(Kellyら, 1995, Dev. Genet. 17:129-140)、有尾目両生類(Del Rio-Tsonisら, 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:5092-5096)、イカ(Tomarevら, 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:2421-2426)、クラゲ(Sunら, 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:5156-5161)、ヒドラ(Sunら, 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:5156-5161)、線虫のカエノラブディティス・エレガンス(Zhangら, 1995, Nature 377:5559)、紐形動物のリネウス・サングイネウス(Lineus sanguineus)(Loosliら, 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:2658-2663)、ホヤのファルシア・マンミラータ(Phallusia mammillata)(Glardonら, 1997, Development 124:817-825)、およびナメクジウオ(Hollandら, 1995, Mol. Mar. Biol. Biotechnol. 4:206-214)を含めて多種多様な生物からPax遺伝子がクローン化されている。
発生におけるPax遺伝子の役割は、古典的および分子的遺伝学を利用して解明されてきた。ヒトでは、Pax遺伝子に突然変異が起こると、脊椎披裂(Pax1; Holら, 1996, J. Med. Genet.33:655-660)、腎欠損症候群(Pax2; Sanyanusinら, 1995, Nat. Genet. 9:358-363)、ワールデンブルグ症候群(Pax3; Tassabehjiら, 1992, Nature 355:635-636; Baldwinら, 同書中 637-638)、および無虹彩症/ピータース奇形(Pax6; MacdonaldおよびWilson, 1996, Curr. Opin. Neurobiol. 6:49-56)が生ずる。同様な表現型がマウスPax突然変異体で検出されており、たとえば、脊椎披裂(Paxl (または波状(undulated))); DietrichおよびGruss, 1995, Dev. Biol. 167:529-548; Helwigら, 1995, Nat. Genet. 11:60-63)およびスモール眼(Small eye) (Pax6; MacdonaldおよびWilson, 1996, Curr. Opin. Neurobiol. 6:49-56)が挙げられる。特筆すべきことに、Pax遺伝子機能の保存は、ショウジョウバエ(Drosophila)のような無脊椎動物にも及んでおり、この場合、機能喪失突然変異であるPax6相同体のeyeless(ey)は、個眼を欠損したハエを生ずるので、このことにちなんでこの遺伝子名が付けられた(Huntら, 1969, Genet Res. 13:251-65; Quiringら, 1994, Science 265:785-9)。他のショウジョウバエPax6遺伝子は、twin of eyelessである(略称toy;Czernyら, 1999, Mol. Cell 3:297-307)。これはeyの上流レギュレーターであり、その異所的発現により、ey発現誘導に媒介されて異所的眼形成が引き起こされる。
機能喪失Pax突然変異体の表現型は、組織分化および器官形成においてこれらの遺伝子が果たす重要な役割を示している。Pax遺伝子を発現するほとんどの哺乳動物器官、たとえば、胸腺、腎臓、甲状腺、歯、肺および毛髪(たとえば、Thesleffら, 1995, Dev. Biol.39: 35-50を参照されたい)は、間葉細胞と上皮細胞との間で生ずる誘導事象に続いて発生する。この過程では、これらの相互作用する組織の一方または両方でPax遺伝子が発現され得る。しかし、これまでに研究されたそれぞれの組織においては、特有の組み合わせでPax遺伝子が発現される。器官形成時にPax遺伝子機能が働いていない場合、間葉と上皮との間の誘導性相互作用は起こらない。このような相互作用が起こらない具体的な例は、尿管芽上皮と後腎間葉との間の相互作用により誘導される腎臓発生で観測される(SaxenおよびLehtonen, 1978, J. Embryol. Exp. Morph. 47:97-109)。腎臓分化の最終段階において、間葉の一部分は、腎細管上皮に変化するが、尿管芽は、分岐するように誘導されて成熟管系を形成される。Pax2は後腎間葉中で一過的に発現され(Torresら, 1995, Development 121:4057-4065; Dresserら, 1990, Development 109:787-795)、そしてアンチセンスオリゴヌクレオチドにより組織からのPax2発現が消失すると、間葉から上皮への変化が妨げられ、間葉細胞のアポトーシスが起こる(RothenplelerおよびDresser, 1993, Development 119:711-720)。Pax2はまた、腎臓発生における他の誘導事象にも関与しており(Torresら, 1995, Development 121: 4057-4065)、これと同じようなことが、類似の誘導過程における他の器官の他のPax遺伝子の場合にも観測されている(たとえば、胸腺分化に関してはWallinら, 1996, Development 122:23-30; 甲状腺発生に関してはMacchiaら, 1998, Nature Genet. 19:83-86; 骨格発生に関してはWilmら, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:8692-7; 歯分化に関してはPetersら, 1998, Genes Dev. 12:2735-47を参照されたい)。Paxタンパク質の役割は、分化シグナルや増殖シグナルなどの細胞指令間の仲立ち、およびこれらの指令に対する分化や増殖などの細胞応答において存在することが次第に明らかになってきた(数少ないそのような例が、Dahlら, 1997, Bioessays 19:755-763によって提供されている)。
2.2.3. ホメオティック/HOX/HOM-C遺伝子およびタンパク質
ホメオティック遺伝子は、ある区画の細胞が別の区画の対応する細胞に転換されてしまう突然変異表現型に基づいてドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)で最初に同定された。古典的なホメオティック突然変異体の1つは、ハエ触角が脚に転換されるAntennapediaNS (AntpNS)である(Gehring, 1967, Arch Julius Klaus Stift Vererbungsforsch Sozialanthropol Rassenhyg. 41:44-54)。この転換の原因は、触角原基においてAntennapediaタンパク質の異所的発現を引き起こすAntennapedia遺伝子の機能獲得突然変異が生じたことである(Frischerら, 1986, Cell 47:1017-23)。Antennapediaの機能喪失突然変異が起こると、逆の表現型を生じるかまたは脚組織から触角組織への転換が引き起こされる(Struhl, 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:7380-7384)。ホメオティック遺伝子の突然変異の結果として生じる組織の転換の他の例としては、ショウジョウバエ(Drosophila)発生の幼虫段階でUltrabithorax機能が働いていない場合、ハエの平衡器官である平均棍から羽への形質転換により4羽のハエを生じることが挙げられる(総説:Lewis, 1998, Int. J. Dev. Biol. 42:403-415)。
ハエのホメオティック遺伝子のクローン化が行われ、この遺伝子がホメオドメインと呼ばれる高度に保存されたDNA結合配列を有する転写因子をコードしていることが見いだされた(McGinnisら, 1984, Nature 308:428-433; ScottおよびWeiner, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:4115-4119)。ホメオティック遺伝子はゲノム中でクラスターを形成していることが分かっており、体軸に沿った重複ドメインにおける発現パターンはゲノム中で見いだされる順序を反映している(Gauntら, 1986, Nature 324:662-4; Gauntら, 1989, Development 107:131-141; Ponchinelliら, 1988, Human Rep. 3:880-886; Bachillerら, 1994, EMBO J. 13:1930-1941)。ショウジョウバエ(Drosophila)ホメオティック遺伝子の特性付けに続いて、相同性に基づき、ホメオティック遺伝子が動物界全体に存在していることが明らかにされた。哺乳動物およびハエのホメオティック遺伝子は、配列のレベルからゲノム中の構成まで(Grahamら, 1989, Cell 57:367-378)、さらにはそれらの機能まで(以下参照)、非常に高度に保存されている。哺乳動物では、A〜Dと命名された4種のホメオティック遺伝子クラスターが存在する。それぞれのホメオティック遺伝子は、それらの属するクラスターおよび系列中の位置に従って、たとえば、HOX A5またはHOX D9のように命名されているが、これらのクラスターには、13種のホメオティック遺伝子の完全補集合を含むものはない(次の表Iを参照されたい。総説:Krumlauf, 1992, Bioessays 14: 245-252; Scott, 1992, Cell 71:551- 553)。
Figure 2011019520
哺乳動物発生におけるホメオティック遺伝子の役割はショウジョウバエ(Drosophila)におけるそれらの役割ほど明瞭になってはいないが、マウスHOXノックアウト突然変異体に関する限られた研究から、組織または器官の運命を決定する上で類似した役割が示唆されている。これらの表現型は、HOX機能が改変されたときに脊椎の転換が起こる例えば骨格組織などの分節組織で最も明瞭に現れる。たとえば、HOX A11突然変異マウスは、胸椎または仙椎から腰椎への転換を呈する(SmallおよびPotter, 1993, Genes Dev. 7:2318-38)。また、ホメオティック遺伝子機能が高度に保存されていることが、遺伝子救済実験または機能獲得実験によって実証されている。この場合、特定のホメオティック遺伝子の鳥類または哺乳類相同体は、ハエで発現させたときに対応するショウジョウバエ(Drosophila)遺伝子とほとんど同じように機能している可能性がある(たとえば、Lutzら, 1996, Genes Dev. 10:176-84; Malickiら, 1990, Cell 63:961-967)。
分節化における明瞭な役割のほかに、HOX遺伝子は、器官形成において重要な役割を果たす。たとえば、HOX遺伝子は、神経冠分化(たとえば、Maconochieら, 1999, Development 126:1483-1494)、心臓血管発生(総説:Pattersonら, 1998, Curr. Top. Dev. Biol. 40:1-44)および造血(Shimamotoら, 1998, Int. J. Hematol. 67:339-250)に関与している。
HOX遺伝子は、赤血球系列、骨髄系列およびリンパ球系列の細胞で発現される。造血系列の分化におけるHOX遺伝子の機能を評価すべく、限られた数ではあるがいくつかの研究が行われてきた。アンチセンス法およびノックアウト法により得られたデータが図9にまとめられており、HOX遺伝子が造血系発生の多くの段階に関与していることを示唆している。今後の研究により造血におけるHOX遺伝子のさらなる役割が明らかになるであろうことはほぼ確実である。
2.2.4. 散在した(非HOX)ホメオボックス遺伝子およびホメオドメインタンパク質
DLX遺伝子は、ホメオドメインモチーフを有するDNA結合タンパク質をコードしている。これらの遺伝子のうちで最初に同定されたのは、ショウジョウバエ(Drosophila)Distal-less(Dll)遺伝子であり、これは腹部付属器、すなわち、肢および触角の発生に必要な遺伝子であった(Gorfinkielら, 1997)。Dll突然変異ハエは、付属器の末梢部分の欠失を含む、これらの付属器の奇形を呈する(Cohenら, 1989, Nature 338:432-4)。哺乳動物DLX遺伝子は、前脳発生および頭蓋顔面発生に必要である(たとえば、Elliesら, 1997, Mech. Dev. 61:23-36を参照されたい)。このほかに、たとえば、造血における役割が示唆されている(Shimamotoら, Proc. Natl. Acad Sci. USA 94:3245-3249)。
次に記載の2つのタンパク質ファミリー、すなわち、MEINOXおよびPBCファミリーは、TALEタンパク質と呼ばれるホメオドメインタンパク質のさらに大きなファミリーに属する(Burglin, 1997, Nucleic Acids Res. 25:4173-4180)。このTALEタンパク質は、ホメオドメインの第1へリックスと第2へリックスとの間にある3アミノ酸ループ伸長(従来のホメオドメインタンパク質と比較して)に対して命名されたものである。ホメオドメイン以外に、PBCタンパク質は、PBC-AおよびPBC-Bと呼ばれる高保存性ドメインを有している(Burglinら, 1992, Nat Genet. 1:319-20)。ショウジョウバエ(Drosophila)では、PBCタンパク質Extradenticle(EXD)は、HOX転写補助因子として機能し(MannおよびChan, 1996, Trends Genet. 12:258-262)、それ自体HOX活性の効果を決定するものであるが、それだけでなく、触角決定のような非HOX機能をも有している。哺乳動物のPBCタンパク質は造血の調節に関与しており、PBCタンパク質PBX-1とt(1;19)転座から生じるE2Aとの融合体は、プレB細胞急性リンパ芽球性白血病で観察される(LeBrunおよびCleary, 1994, Oncogene 9:1641-1647)。
MEISおよび関連タンパク質、たとえば、KNOXは、PBCタンパク質を有する共通の祖先から生じたものと考えられている(Burglin, 1998, Dev. Genes Evol. 208:113-116)。MEISタンパク質は、HM1およびHM2と呼ばれる2つのサブドメインを含むHMまたはMHドメインと呼ばれる保存ドメインを有している(Rieckhofら, 1997, Cell 91:171-183; Paiら, 1998, Genes Dev. 12:435-446)。MEISタンパク質に要求される発生および細胞運命の条件は、おそらくPBCタンパク質に要求されるものと非常に類似したものであり、前者は後者の核局在化に必要であると考えられている(Rieckhofら, 1997, Cell 91:171-183; Paiら, 1998, Genes Dev. 12:435-446)。これに反して、すくなくともショウジョウバエ(Drosophila)では、MEISタンパク質HTHを安定化させるためにEXDが必要である(Abu-ShaarおよびMann, 1998, Development 125:3821-3830)。従って、現在までのところ、PBCおよびMEISタンパク質の細胞運命の指定におけるそれぞれの役割を分離することはできない状態であるが、両方の一連の遺伝子が協同的に働いて発生および造血における細胞運命を決定していることは明らかである。
LIMドメインは、さまざまなグループのタンパク質に見いだされる二重ジンクフィンガーモチーフである。LIMドメインは、主にタンパク質-タンパク質相互作用モチーフとして作用する(Dawidら, 1998, Trends Genet. 14:156-162)。LIMドメインタンパク質のうちで特に重要なグループの1つは、LIMドメインのほかにホメオドメインを有するLIMホメオドメインタンパク質である。これらのタンパク質では、LIMドメインは、ホメオドメインによるDNA結合に対して負の調節エレメントとして機能する(Dawidら, 1998, Trends Genet. 14:156-162)。また、LIMドメイン自体はDNA結合に関与しているとみなされてきた(Sanchez-GarciaおよびRabbitts, 1994, Trends Genet. 10:315-320)。LIMホメオドメインタンパク質は、運動ニューロン特性を規定するだけでなく、C.エレガンス(C. elegans)(Hobertら, 1998, J. Neurosci 18:2084-2096)およびショウジョウバエ(Drosophila)(Lundgrenら, 1995, Development 121:1769-1773)においてもニューロン特性を規定する。LIMホメオドメインタンパク質の他の既知の役割としては、付属器形成(たとえば、ショウジョウバエ(Drosophila)の羽形成、StevensおよびBryant, 1995, Genetics 110:281-297)および造血(Porterら, 1997, Development 124:2935-2944; Pintoら, 1998, EMBO J. 17:5744-5756)が挙げられる。LIMホメオドメイン機能は、マウスオーソログを機能的にショウジョウバエ(Drosophila)遺伝子と置き換えることができる通り、種間にわたって保存されている(Rincon-Limasら, 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:2165-2170)。
ホメオドメインのほかに、POUタンパク質は、POUドメイン(PIT1, Octl/Oct2; Unc-86)と呼ばれるDNA結合ドメインを有している。Pit1は、下垂体および視床下部の発生に必要である(Ryanら, 1997, Genes Dev. 11:1207-1225)。
PTX1およびPTX2は、bicoidクラスのホメオドメインタンパク質であり、下垂体発生に必要である(Drouinら, 1998, Mol. Cell. Endocrinol. 140:31-36)。ヒトのPTX2に突然変異が起こると、リーガー症候群が引き起こされる。
MSX遺伝子は、ショウジョウバエ(Drosophila)msh(muscle specific homeobox)にコードされているタンパク質に関連したホメオドメインタンパク質をコードしている。MSXタンパク質は、さまざまな哺乳動物組織に存在する(Davidson, 1995, Trends Genet. 11:405-411)。MSX1およびMSX2は、皮膚付属器の形成に関連している(Novenら, 1995, J. Invest. Dermatol. 104:711-719)。
他の異なる一連のホメオドメインタンパク質は、NKX遺伝子によりコードされている。これらの遺伝子は、神経細胞および筋肉の分化に重要である。たとえば、NKX2-5およびtinmanは、それぞれ、哺乳動物およびショウジョウバエ(Drosophila)の心臓発生に必要である(Pattersonら, 1998, Curr. Top. Dev. Biol. 40:1-44)。
2.2.5 他の転写因子
ショウジョウバエ(Drosophila)vestigial(vg)遺伝子は可能性のあるタンパク−タンパク相互作用ドメインを有する核タンパク質をコードする(Williamsら, 1991, Genes Dev. 5:2481-95)。vg突然変異体表現型には、ハエの羽の痕跡までの退化および平均棍の退化もしくは不在が含まれる(例えば、Fristrom, 1968, J. Cell Biol. 39:488-491 を参照)。異所的に発現したとき、VGは羽および平均棍の形成を誘導し得る(Kimら, 1996, Nature 382,:133-138;Weatherbeeら, 1996, Genes Dev. 12:1474-1482)。
MADSボックス遺伝子は、MADSドメインと呼ばれるDNA結合ドメインを有する転写因子をコードする。これらの遺伝子は酵母、植物、ショウジョウバエおよび哺乳動物において保存されている(Shoreら, 1995, Eur. J. Biochem. 229:1-13)。これらの遺伝子のうちの2種類、SRFおよびMEF2は骨格筋の分化に必要である(DupreyおよびLesens, 1994, Int. J. Dev. Biol. 38:591-604)。
bHLHモチーフは特徴付けるべき最初のDNA結合ドメインのうちの1つである。bHLHタンパク質のMyoDファミリーは筋肉分化のプログラムを活性化する(Megeneyら, 1995, Biochem. Cell Biol. 73:723-32)。哺乳動物achaete-scuteホモログMASH-1は、神経冠細胞が末梢組織に移動するときに自律神経ニューロン連結の分化に必要である(Andersonら, 1997, Cold Spring Harbor Symp. Quan. Biol. 62:493-504);さらなる実験は、神経幹細胞集団からの神経上皮細胞の分化におけるMASH-1の役割を示唆する(Toriiら, 1999, Development 126:443-456)。
SOX遺伝子は哺乳動物SRY性決定遺伝子に関連するHMGドメインタンパク質をコードする。これらの遺伝子の発現パターンは器官および組織の発生および分化における役割を強く示唆する(Priorら, 1996, Mol. Med. 2:405-412)。利用可能な幾つかの機能研究はこれが真実であることを示す。例えば、Schilhamら(1996, Nature 380:711-4)は、SOX-4を欠損するマウスにおいて、B細胞系列の発生がプロB細胞段階で停止し、最終的なB細胞分化が生じないことを示している。
最後に、T-box遺伝子は、T-ドメインと呼ばれる約200アミノ酸のDNA結合ドメインを有する転写因子をコードする。T-box遺伝子ファミリーは、C.エレガンス(C. elegans)、ショウジョウバエ(Drosophila)、有尾目両生類、アフリカツメガエル(Xenopus)、マウスおよびヒトに由来するT-box遺伝子の解析によって示されるように、後生動物の進化において保存されている(Agulnikら, 1995, Genomics 25:214-219)。T-box遺伝子は、脊椎動物における肢特性の決定(例えば、Simon, 1999, Cell Tissue Res. 296:57-66;Loganら, 1998, development 125:2825-2835を参照)、アフリカツメガエルにおける中胚葉および脊索の指定(HorbおよびThomsen, 1997, Development 124:1689-1698)およびマウスにおける沿軸中胚葉(体節を含む)の形成(ChapmanおよびPapioannou, 1998, Nature 391:695-697には、Tbx6突然変異マウスにおいて体節が神経管に転換されることが示されている)を含む広範な発生事象に関連付けられている。
2.2.6. シグナリング分子
シグナリング分子は、後生動物の分化および発生の間に大部分の細胞運命変化を誘発する合図をもたらす。大部分のシグナリング経路は、最終的にそのシグナルを受け取る細胞の転写活性の変化を引き起こす。これらの変化には、しばしばそのシグナリング経路に特異的である転写因子によって媒介され、かつ特定の遺伝子を活性化/抑制する能力を獲得することによる、および/または他のものを活性化/抑制する能力を喪失することによるシグナリング活性の変化に応答する、上記細胞運命制御転写因子経路の多くの活性化が含まれる。成長および分化を媒介するシグナリング分子ファミリーには、TGF-β(トランスフォーミング成長因子β)およびBMP(骨形成因子)スーパーファミリー、WNTファミリー並びにHH(ヘッジホッグ)ファミリーが含まれる。これらのシグナリング分子ファミリーは以下の総説記事に広範に記載されている:
TGF-β/BMP:Massague, 1998, Annu. Rev. Biochem. 67 753-791;Zouら, 1997, Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 62:269-272;Heikinheimoら, 1998, Eur. J. Oral Sci. 106 Suppl. l:167-173;BasileおよびHammerman, 1998, Miner. Electrolyte Metab. 24:144-148;Perrellら, Miner. Electrolyte Metab. 24:136-143;MosesおよびSerra, 1996, Curr. Opin. Genet. Dev. 1996, 6:581-586;KolodziejczykおよびHall, 1996, Biochem. Cell Biol. 74:299-314;Unsickerら, 1996, Ciba Found, Symp, 196:70-84;Martinら, 1995, Ann. N Y Acad. Sci. 752:300-308;WallおよびHogan, 1994, Curr. Opin. Genet. Dev. 4:517-522;Hoganら, 1994, Dev. Suppl. 1994:53-60。
WNT:WodarzおよびNusse, 1998, Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 14:59-88;CadiganおよびNusse, 1997, Genes Dev. 11:3286-3305;SiegfriedおよびPerrimon, 1994, Bioessays 16:395-404;DickinsonおよびMcMahon. 1992, Curr. Opin. Genet. Dev. 2:562-566。
HH:GoodrichおよびScott, 1998, Neuron 21:1243-1257;Pepicelliら, 1998, Curr. Biol. 8:1083-1086;Mingら, 1998, Mol. Mod. Today 4:343-349;Weedら, 1997, Matrix Biol. 16:53-58;BurkeおよびBasler, 1997, Curr. Opin. Neurobiol. 7:55-61;Hammerschmidtら, 1997, Trends Genet. 13:14-21;Ingham, 1995, Curr. Opin. Genet. Dev. 5:492-498。
本明細書の第2節または他のあらゆる節におけるあらゆる参考文献の引用または特定は、そのような参考文献が本発明の先行技術として利用可能であることを容認するものと解釈されるべきではない。
3. 発明の要約
本発明は、細胞におけるNotch経路機能を改変することによって細胞、組織または器官型の運命を改変するための方法を提供する。本発明は、さらに、Notch経路および1つ以上の細胞運命制御遺伝子経路の活性化状態を同時に変化させることによって細胞、組織または器官型の運命を改変するための方法を提供する。これらの本発明の方法はあらゆる分化状態の細胞に適用することができる。その結果生じる細胞は、細胞置換治療において、喪失細胞集団の再集合並びに罹患および/または損傷組織の再生の支援に用いることができる。また、生じる細胞集団を組換え体として作製し、遺伝子治療に用いるか、または研究用の組織/器官モデルもしくは治療上有用なタンパク質の大規模生産のためのバイオリアクターとして用いることもできる。本発明は、黄斑変性の治療方法であって、網膜色素上皮細胞または神経上皮細胞におけるNotch経路機能を改変することを含む方法を提供する。また、本発明は、本発明によって提供される方法を用いることによって細胞運命を改変するためのキットも提供する。本発明は、Notchおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングするための方法も提供する。
本発明は、細胞のたどるはずであった細胞運命を改変するための方法であって、その細胞においてNotchおよび細胞運命制御遺伝子経路機能を同時に改変し、細胞運命を決定づける条件にその細胞を付すことによる方法を提供する。特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストと接触させることを含む。別の特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニストと接触させることを含む。さらに別の特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアンタゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストと接触させることを含む。代わりの特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアンタゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニストと接触させることを含む。
一態様において、本発明の方法は、細胞を細胞増殖条件に付すことによって細胞を増殖させ、細胞の集団を産生することをさらに含む。
また、本発明は、細胞移植片を供給することによって患者を治療する方法であって、本発明の方法に従って特定の細胞運命の細胞を産生し、かつそれらの細胞を患者に投与することを含む方法も提供する。特定の態様においては、細胞移植片は器官移植片である。
本発明は、さらに、黄斑変性の治療法であって、網膜色素上皮および/または網膜神経上皮においてNotch経路機能を作動させることを含む方法を提供する。
また、本発明は、成熟細胞型の細胞運命を変化させるための方法であって、その細胞においてNotch経路機能を拮抗させ;次に、その細胞をin vitroでNotch機能のアゴニストと接触させ、さらにその細胞において細胞運命制御遺伝子経路の機能を改変し;かつ細胞運命を決定づける条件にその細胞を付すことを含む方法も提供する。
また、本発明は、細胞のたどるはずの細胞運命を改変するための方法であって、その細胞におけるNotch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとその細胞をin vitroで接触させるか、またはそれをその細胞を含む生物に投与し、かつ細胞運命が改変された細胞が産生されるまでNotch経路機能に対する改変を行いながら細胞運命を決定づける条件にその細胞を付すことを含む方法によってその細胞におけるNotch経路機能を改変することを含む方法も提供する。
また、本発明は、1つ以上の細胞によって他の方法で産生されるものとは異なる型の器官を産生するための方法であって、その器官におけるNotch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとそれらの細胞をin vitroで接触させるか、またはそれをそれらの細胞を含む生物に投与し、かつ器官を形成する細胞の集団が産生されるまでNotch経路機能に対する改変を維持しながら器官の分化および細胞の増殖を生じる条件にそれらの細胞を付すことを含む方法によって1つ以上の細胞におけるNotch経路機能を改変することを含むことによる方法も提供する。
本発明の一形態においては、Notch経路機能、および任意には細胞運命制御遺伝子経路機能の改変をin vitroで行う。本発明の代わりの形態においては、Notch経路機能、および任意には細胞運命制御遺伝子経路機能の改変をin vivoで行う。
特定の態様においては、細胞においてNotch経路、および任意には細胞運命制御遺伝子経路によってもたらされる細胞運命はアポトーシスである。この態様の好ましい形態においては、この細胞は癌細胞である。別の態様においては、Notch経路、および任意には細胞運命制御遺伝子経路によって改変される細胞運命はアポトーシスであり、すなわち、細胞がたどるはずである細胞運命はアポトーシスである。
本発明は、Notch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストをスクリーニングするための方法であって、細胞における細胞運命制御遺伝子経路機能を改変し、細胞運命を決定づける条件にその細胞を付しながらその細胞を1種類以上のNotch経路機能の試験アゴニストもしくはアンタゴニストと接触させるか、またはその細胞内で組換え的に発現させ、かつ試験アゴニストもしくはアンタゴニストと接触させていないか、または発現させていない細胞と比較したときの細胞運命の変化についてその細胞を試験することを含む方法を提供する。
本発明は、細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストをスクリーニングするための方法であって、細胞におけるNotch経路機能を改変し、細胞運命を決定づける条件にその細胞を付しながらその細胞を1種類以上の細胞運命制御因子経路機能の試験アゴニストもしくはアンタゴニストと接触させるか、またはその細胞内で組換え的に発現させ、かつ試験アゴニストもしくはアンタゴニストと接触させていないか、または発現させていない細胞と比較したときの細胞運命の変化についてその細胞を試験することを含む方法を提供する。
また、本発明は、1つ以上の容器内にNotch機能を改変する第1分子;および細胞運命制御遺伝子経路機能を改変する第2分子を収容するキットも提供する。一態様においては、第1分子はNotch機能のアゴニストである。代わりの態様においては、第1分子はNotch機能のアンタゴニストである。さらなる態様においては、第2分子は細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストである。代わりのさらなる態様においては、第2分子は細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニストである。
特定の態様においては、細胞運命制御遺伝子はvestigial(vg)、Distal-less(Dll)、Antennapedia(Antp)、eyeless(ey)またはtwin of eyeless(toy)ではなく、さらに/または細胞運命の改変はショウジョウバエにおいて産生される付属器の型の変化を生じない。
4. 図面の説明
図1(A−F)。ey-GAL4によって駆動されるNotchシグナル伝達の阻害および活性化による眼の退化および異所的な眼の誘導。
(A)眼を欠損したUAS-Ndn ey-GAL4ハエ。
(B)UAS-Nact ey-GAL4ハエは眼の過形成および頭部の吻側膜上の異所性の眼を示す。
(C)第3齢眼−触角成虫原基のβ−ガラクトシダーゼ染色はey-GAL4によるUAS-lacZレポーター構築体の活性化を示す。バーは50μmを示す。
(D)UAS-Nact ey-GAL4ハエ頭部の異所性眼(矢頭の先)の走査型電子顕微鏡写真。この異所性眼は個眼間剛毛を有する個眼を含む。
(E)抗β−ガラクトシダーゼ抗体染色。lacZレポーターの活性化は恒常的に活性化されたNotchタンパク質の分布を反映する。矢頭は過形成部分を示す。
(F)ニューロンマーカーELAVに対する抗体を用いる(E)と同じ原基の免疫染色。過形成部分(矢頭)において、異所的に誘導された光受容器細胞を見ることができる。(C)、(E)−(F)において後部は左側であり、背部は上方である。
図2(A−B)。ey-GAL4によって駆動されるNotchシグナル伝達の活性化による眼−触角原基におけるeyelessの異所的誘導。
(A)UAS-Nact UAS-lacZ ey-GAL4幼虫に由来する眼−触角原基の抗β−ガラクトシダーゼ抗体染色。lacZレポーター構築体の活性化は恒常的に活性化されたNotchタンパク質の分布を反映する。矢頭は強いlacZ発現の領域を示す。バーは50μmを示す。
(B)EYに対する抗体を用いる(A)と同じ原基の免疫染色。強いlacZ発現の領域(矢頭)において異所的なeyの発現が誘導されている。
図3(A−B)。眼の発生の際のeyelessの発現に関するNotchシグナル伝達の必要性。有糸分裂クローン分析技術を用いて眼原基内にSu(H)突然変異体クローンを誘導した(Struhl, 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:7380-7384)。
(A)MYC染色の欠如によりSu(H)突然変異体クローンが検出される。矢頭はクローンを示す。バーは16μmを示す。
(B)眼原基において形態形成溝に先立って形成されるSu(H)突然変異体クローンはEYを発現することができない。全てのパネルにおいて後部は左側であり、背部は上方である。
図4(A−B)。ey-GAL4によって駆動されるNotchシグナル伝達の活性化による、ey突然変異体における異所性触角の誘導。
(A)多くのUAS-Nact ey-GAL4 ey2ハエは非常に退化した眼を示す。これらのハエの幾つかは退化した元の眼(矢印)を示し、かつ誘導された異所性眼(矢頭)をも示す。
(B)比較的高い頻度(約25%)で、ey-GAL4によって駆動されるNotchシグナル伝達の活性化はey突然変異体において異所性の触角を誘導する。元の眼の代わりにUAS-Nact ey-GAL4 ey2ハエの側頭部に形成された異所性触角(矢頭)の走査電子顕微鏡写真。矢頭は元の触角を示す。1;第1分節、2;第2分節、3;第3分節、a;触角毛(arista)。
図5(A−B)。Notchシグナル伝達の活性化およびAntennapediaの同時異所的発現による頭部での異所性羽および脚構造体の誘導。
(A)元の眼に代わってUAS-Nact UAS-Antp ey-GAL4ハエの側頭部に形成された異所性羽の走査電子顕微鏡写真。矢頭は二列および三列の羽縁の剛毛を示す。
(B)UAS-Nact UAS-Antp ey-GAL4ハエ頭部の異所的に誘導された触角(矢頭)の遠位部分が転換されることによって生じる異所性脚の走査電子顕微鏡写真。矢印は元の触角を示す。数字は異所性脚の5つの足根分節を指す。c;異所性脚の爪、w;異所性の羽の縁の剛毛、e;退化した元の眼。
図6(A−D)。ey-GAL4によって駆動されるNotchシグナル伝達の活性化によるeyeless2(Schneuwlyら, 1987, Nature 325:816-818)突然変異体眼−触角原基におけるDistal-lessの異所的誘導。
(A)UAS-Nact ey-GAL4 ey2幼虫の眼−触角原基の明視野顕微鏡写真。
(B)DLLに対する抗体を用いる(A)と同じ原基の免疫染色。眼原基において異所的DLL発現が誘導される(矢頭)。矢印は触角原基における元のDLLの発現を示す。バーは50μmを示す。
(C)UAS-Nact ey-GAL4幼虫の眼−触角原基の明視野顕微鏡写真。
(D)DLLに対する抗体を用いる(C)と同じ原基の免疫染色。触角原基の幾つかの細胞において異所的DLL発現が誘導されている(矢頭)。矢印は触角原基における元のDLLの発現を示す。バーは50μmを示す。全てのパネルにおいて後部は左側であり、背部は上方である。
図7(A−D)。ey-GAL4によって駆動されるNotchシグナル伝達の活性化およびAntennapediaの同時異所的発現による眼原基におけるvestigialの異所的誘導。
(A)UAS-Nact UAS-Antp ey-GAL4幼虫の眼−触角原基の明視野顕微鏡写真。
(B)VGに対する抗体を用いる(A)と同じ原基の免疫染色。眼原基において異所的VG発現が誘導される。
(C)UAS-Antp ey-GAL4幼虫の眼−触角原基の明視野顕微鏡写真。
(D)VGに対する抗体を用いる(C)と同じ原基の免疫染色。眼原基の小領域において異所的vg発現が誘導されている。全てのパネルにおいて後部は左側であり、背部は上方である。バーは50μmを示す。
図8(A−D)。dpp-GAL4によって駆動されるeyelessの異所的発現によるDistal-lessの発現の抑制。
(A)眼−触角原基におけるDLLの野生型発現。
(B)眼−触角原基におけるEYの野生型発現。
(C)DLLに対する抗体を用いるUAS-ey dpp-GAL4幼虫の眼−触角原基の免疫染色。矢頭は異所的ey発現の領域におけるDLLの抑制を示す。
(D)EYに対する抗体を用いる(D)と同じ原基の免疫染色。矢頭は触角原基におけるeyの異所的発現を示す。バーは50μmを示す。
図9。造血におけるHOX遺伝子の役割の模式図。図において用いられる略語:CFC、コロニー形成細胞;BFC、バースト形成細胞;CFC-E、赤血球コロニー形成細胞;BFC-E、赤血球バースト形成細胞;CFC-MEG、巨核球コロニー形成細胞;CFC-GM、顆粒球/マクロファージコロニー形成細胞;CFC-Bas、好塩基球コロニー形成細胞;CFC-Eosin、好酸球コロニー形成細胞;CFC-B、B細胞コロニー形成細胞;CFC-T、T細胞コロニー形成細胞。Albertsら, 1994, Molecular Biology of the Cell, 3rd ed., Garland Publishing, Inc., New York & Londonのp.1168から翻案した表である。
5. 発明の説明
本発明は、細胞におけるNotch経路機能を改変することによって細胞、組織または器官型の運命を改変するための方法を提供する。本発明は、さらに、Notch経路および細胞運命制御遺伝子経路の活性化状態を同時に変化させることによって細胞、組織または器官型の運命を改変するための方法を提供する。これらの本発明の方法はあらゆる分化状態の細胞に適用することができる。その結果生じる細胞は、細胞置換治療において、喪失細胞集団の再集合並びに罹患および/または損傷組織の再生の支援に用いることができる。また、生じる細胞集団を組換え体として作製し、遺伝子治療に用いるか、又研究用の組織/器官モデルもしくは治療上有用なタンパク質の大規模生産のためのバイオリアクターとして用いることもできる。本発明は、黄斑変性の治療方法であって、網膜色素上皮細胞および/または網膜神経上皮細胞におけるNotch経路機能を改変することを含む方法を提供する。また、本発明は、本発明によって提供される方法を用いることによって細胞運命を改変するためのキットも提供する。
本発明は、細胞がたどるはずの細胞運命を改変するための方法であって、まずその細胞においてNotchおよび細胞運命制御遺伝子経路機能を改変し、次に細胞運命を決定づける条件にその細胞を付すことによる方法を提供する。特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストと接触させることを含む。特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストと接触させることを含む。別の特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニストと接触させることを含む。さらに別の特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアンタゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストと接触させることを含む。代わりの特定の態様においては、この方法は、細胞をNotch機能のアンタゴニストおよび細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニストと接触させることを含む。
一態様において、本発明の方法は、細胞を細胞増殖条件に付すことによって細胞を増殖させ、細胞の集団を産生することをさらに含む。
また、本発明は、細胞移植片を供給することによって患者を治療する方法であって、本発明の方法に従って特定の細胞運命の細胞を産生し、かつそれらの細胞を患者に投与することを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、黄斑変性の治療方法であって、網膜色素上皮または網膜神経上皮においてNotch経路機能を作動させることを含む方法を提供する。
また、本発明は、成熟細胞型の細胞運命を変化させるための方法であって、その細胞においてNotch経路機能を拮抗させ;次に、同時にその細胞をin vitroでNotch機能のアゴニストと接触させ、さらにその細胞における細胞運命制御遺伝子経路の機能を改変し;かつ細胞運命を決定付ける条件にその細胞を付すことを含む方法も提供する。
本発明の一形態においては、Notch経路機能、および任意には細胞運命制御遺伝子経路機能の改変はin vitroで行う。本発明の代わりの形態においては、Notch経路機能、および任意には細胞運命制御遺伝子経路機能の改変はin vivoで行う。
また、本発明は、細胞がたどるはずの細胞運命を改変するための方法であって、その細胞におけるNotch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとその細胞をin vitroで接触させるか、またはそれをその細胞を含む生物に投与し、かつ細胞運命が改変された細胞が産生されるまでNotch経路機能に対する改変を行いながら細胞運命を決定づける条件にその細胞を付すことを含む方法によってその細胞におけるNotch経路機能を改変することを含む方法も提供する。
また、本発明は、1つ以上の細胞によって他の方法で産生されるものとは異なる型の器官を産生するための方法であって、その器官におけるNotch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとそれらの細胞をin vitroで接触させるか、またはそれをそれらの細胞を含む生物に投与し、かつ器官を形成する細胞の集団が産生されるまでNotch経路機能に対する改変を維持しながら器官の分化および細胞の増殖を生じる条件にそれらの細胞を付すことを含む方法によって1つ以上の細胞におけるNotch経路機能を改変することを含むことによる方法も提供する。この特定の実施形態の方法により産生され得る器官の例としては、肝臓、肺、膵臓、皮膚、軟骨、骨、腸、心臓、腎臓等が挙げられる。
特定の態様においては、細胞においてNotch経路、および任意には細胞運命制御遺伝子経路によってもたらされる細胞運命はアポトーシスである。この態様の好ましい形態においては、この細胞は不死化細胞、例えば、癌細胞である。別の態様においては、Notch経路、および任意には細胞運命制御遺伝子経路によって改変される細胞運命はアポトーシスであり、すなわち、細胞のたどるはずであった細胞運命はアポトーシスでありうる。
また、本発明は、1つ以上の容器内にNotch機能を改変する第1分子;および細胞運命制御遺伝子経路機能を改変する第2分子を収容するキットも提供する。一態様においては、第1分子はNotch機能のアゴニストである。代わりの態様においては、第1分子はNotch機能のアンタゴニストである。さらなる態様においては、第2分子は細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストである。代わりのさらなる態様においては、第2分子は細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニストである。
ここで用いられる場合、細胞運命制御遺伝子は少なくとも1種類の細胞型の運命の決定に必要であるか、またはそれに十分である遺伝子であり、その運命は分化(例えば、特定の系列、器官型の組織、または成熟細胞型への関与)、増殖、またはプログラムされた細胞死である。この基準を満たすあらゆる遺伝子が、本発明に包含される。好ましい実施形態においては、細胞運命制御遺伝子は転写因子、より好ましくはホメオボックス含有遺伝子、最も好ましくはHOXもしくはDLXもしくはPAX遺伝子である。別の好ましい態様においては、細胞運命制御遺伝子はシグナリング分子、好ましくはWNT、TGF-β/BMPまたはHH分子である。特定の態様においては、細胞運命制御遺伝子はvestigial(vg)、Distal-less(DH)、Antennapedia(Antp)、eyeless(ey)またはtwin of eyeless(toy)ではなく、さらに/または細胞運命の改変がショウジョウバエにおいて産生される付属器の型の変化を生じることはない。
細胞運命が改変され、Notch経路の活動の後に産生され、かつ細胞における細胞運命制御遺伝子経路が本発明に従って同時に改変されている細胞を、ここでは、「操作細胞(Manipulated cell)」と呼ぶ。
ここで用いられる場合、「前駆体細胞」はあらゆる分化状態のあらゆる細胞を意味する。前駆体細胞は単離の必要なしにin vivoで操作することができる。前駆体細胞は、その前駆体細胞型の操作の前後に、前駆体細胞含有集団から単離することができる。特定の態様においては、前駆体細胞は非分化末期細胞、例えば、幹細胞または祖先細胞である。
Notch経路の活性化は、好ましくは、その細胞を、例えば可溶性形態にあるか、もしくは細胞表面上に組換えにより発現しているか、もしくは固体表面上に固定されているNotchリガンドと接触させることにより、または優性活性Notch突然変異体を発現するかNotchリガンドを活性化する組換え核酸、もしくはNotch経路を活性化する他のあらゆる分子をその細胞に導入することによって、達成する。細胞運命制御遺伝子が転写因子である場合、細胞運命制御遺伝子経路機能の活性化は、好ましくは、細胞運命制御を発現する組換え核酸を細胞に導入することにより、または内部移行シグナルペプチドと機能し得る形で結合させて組換え的に発現された細胞運命制御タンパク質と細胞を接触させることによって、達成する。細胞運命制御遺伝子がシグナリング分子である場合、細胞運命制御遺伝子経路機能は、好ましくは、組換え的に発現されたシグナリング分子と細胞を接触させることにより、または経路構成要素の活性化形態、例えば、恒常的に活性化されたレポーターもしくはシグナリングDNA結合タンパク質を発現する組換え核酸と細胞を接触させることによって、達成する。本発明のアゴニストまたはアンタゴニストが細胞内に組換え的に発現されている場合、それらは恒常的に発現していても、誘導性プロモーターの制御下にあってもよい。
また、本発明は、前駆体細胞が所望の遺伝子を発現するように組換え遺伝子を発現する操作細胞にも向けられている。これらの組換え操作細胞は、所望の遺伝子を患者体内で発現させてその組換え遺伝子の発現の欠如によって生じる疾患状態が緩和するように、患者に移植することができる。操作細胞は、前駆体細胞の増殖の前後のいずれかに組換え体とすることができる。所望の遺伝子産生物をコードする核酸を、操作細胞またはその子孫がその遺伝子産物を安定に発現するようにトランスフェクトする方法は当業者に公知であり、以下で説明されている。
操作細胞を導入する被検体、または前駆体細胞を得る被検体としては、好ましくは、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌのような動物を含むがそれらに限定されるものではなく、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
一態様においては、操作細胞を、分化表現型が治療上有用である患者に投与することができる。その代わりに、操作細胞を、その細胞の集団を投与することにより患者における対応する細胞型の置換または補足に用いることができる。別の態様においては、操作細胞が人工移植体の被覆に用いられる。操作細胞がin vivoで患者の治療に用いられるときにはいつでも、前駆体細胞の供給源は患者自身である(すなわち、移植片が自己由来である)ことが好ましく、その自己由来移植片が免疫抑制剤の必要性を回避する。しかしながら、移植片が自己由来である必要はない。操作細胞の投与は当業者に公知の方法によって行う(下記第5.8節を参照)。別の態様においては、操作細胞を、医学研究を含む研究用の組織または器官モデルとして用いるために培養物として維持する。この態様の好ましい形態においては、これらの組織または器官モデルを感染性作用物質で処理した後、罹患組織または器官に加えて非罹患組織または器官に対する薬物の効果を測定するのに用いる。この態様の別の形態においては、これらの組織または器官モデルをホルモンまたは成長因子と接触させ、組織または器官に対するそれらのホルモンまたは成長因子の効果を測定する。さらに別の態様においては、操作細胞を、治療上有用なタンパク質を大規模生産するためのバイオリアクターとして用いる。また、本発明は、本発明によって提供される方法を用いることによって細胞運命を改変するためのキットにも向けられている。
開示を明瞭にするためであって限定を目的とするものではないが、発明の詳細な説明を以下の小節に分ける:
−i− Notchおよび細胞運命制御遺伝子経路構成要素の組換え発現;
−ii− Notchシグナリングおよび分化;
−iii− Notch経路機能のアゴニスト;
−iv− Notch経路機能のアンタゴニスト;
−v− 細胞運命制御遺伝子およびタンパク質;
−vi− 細胞運命制御遺伝子経路の活性化;;
−vii− 細胞運命制御遺伝子経路の阻害;
−viii− Notchおよび細胞運命制御遺伝子経路アゴニストおよびアンタゴニストのスクリーニング;
−ix− 前駆体細胞の入手および培養;
−x− 遺伝子治療;
−xi− 本発明の方法によって操作した細胞の使用;
−xii− 移植方法;および
−xiii− 医薬組成物。
5.1. Notch及び細胞運命制御遺伝子経路成分の組換え発現
特定の実施形態においては、Notchまたは細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニスト及びアンタゴニストを、組換えによって産生した後に使用のために単離するか、又はその細胞運命を本発明に従って改変する細胞内で組換えによって発現させる。
Notch、細胞運命制御タンパク質、Notchもしくは細胞運命遺伝子経路成分、又はそれらの機能的に活性な断片もしくは他の誘導体をコードするヌクレオチド配列(本節においては、これらを「対象の遺伝子(Gene of Interest)」と呼び、それがコードするタンパク質を「対象のタンパク質(Protein of Interest)」と呼ぶ)を適切な発現ベクター、すなわち、挿入されたタンパク質コーディング配列の転写及び翻訳に必要なエレメントを含むベクターに挿入することができる。必要な転写及び翻訳シグナルは天然遺伝子及び/又はその並列領域によって供給することもできる。様々な宿主ベクター系をこのタンパク質コーディング配列の発現に用いることができる。これらには、限定されるものではないが、ウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等)に感染させた哺乳動物細胞系;ウイルス(例えば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系;微生物、例えば、酵母ベクターを含む酵母、又はバクテリオファージ、DNA、プラスミドDNAもしくはコスミドDNAで形質転換したバクテリアが含まれる。ベクターの発現エレメントはそれらの強度及び特異性が異なる。用いられる宿主−ベクター系に依存して、幾つかの適切な転写及び翻訳エレメントのうちのいずれかを用いることができる。
ベクターにDNA断片を挿入するための従来公表された方法のいずれかを用いて、適切な転写/翻訳制御シグナル及びタンパク質コーディング配列からなるキメラ遺伝子を含む発現ベクターを構築できる。これらの方法には、in vitro組換えDNA及び合成技術及びin vivo組換え体(遺伝子組換え)が含まれ得る。それらの対象のタンパク質をコードする核酸配列の発現は、その対象のタンパク質がその組換えDNA分子で形質転換した宿主内で発現するように第2の核酸配列によって調節することができる。例えば、当該技術分野において公知のいずれかのプロモーター/エンハンサーエレメントによって対象のタンパク質の発現を制御することができる。細胞運命制御遺伝子又は細胞運命遺伝子経路成分の発現に用いることができるプロモーターには、限定されるものでないが、SV40初期プロモーター領域(BernoistおよびChambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウイルスの3’長末端反復配列に含まれるプロモーター(Yamamotoら、1980, Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら、1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節領域(Brinsterら、1982, Nature 296:39-42);熱ショックタンパク質70遺伝子の調節領域(BienzおよびPelham, 1986, Cell. 45:753-60)、原核生物発現ベクター、例えば、β−ラクタマーゼプロモーター(Villa-Kamaroffら、1978, Proc. Natl. Acad, Sci, U.S.A. 75:3727-3731)、もしくはtacプロモーター(DeBoerら、1983. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:21-25);Scientific American, 1980, 242:74-94の「組換え細菌由来の有用タンパク質」(Useful proteins from recombinant bacteria)も参照;ノパリンシンセターゼプロモーター領域(Herrera-Estrellaら、303:209-213)もしくはカリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーター(Gardnerら、1981, Nucl. Acids Res. 9:2871)を含む植物発現ベクター、及び光合成酵素リブロースビホスフェートカルボキシラーゼのプロモーター(Herrera-Estrellaら、1984, Nature 310:115-120);酵母もしくは他の真菌に由来するプロモーターエレメント、例えば、Gal 4プロモーター、ADH(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター、並びに組織特異性を示し、かつトランスジェニック動物において用いられている以下の動物転写制御領域;膵腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子制御領域(Swiftら、1984, Cell 38:639-646;Ornitzら、1986, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 50:399-409;MacDonald, 1987, Hepatology 7:425-515);膵臓β細胞において活性であるインシュリン遺伝子制御領域(Hanahan, 1985, Nature 315:115-122)、リンパ細胞において活性である免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedlら、1984, Cell 38:647-658;Adamesら、1985, Nature 318:533-538;Alexanderら、1987, Mol. Cell. Biol. 7:1436-1444)、精巣、乳房、リンパ及び肥満細胞において活性であるマウス乳腫瘍ウイルス制御領域(Lederら、1986, Cell 45:485-495)、肝臓において活性であるアルブミン遺伝子制御領域(Pinkertら、1987, Genes and Devel. 1:268-276)、肝臓において活性であるα−フェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlaufeら、1985, Mol. Cell. Biol. 5:1639-1648;Hammerら、1987, Science 235:53-58;肝臓において活性であるα1−抗トリプシン遺伝子制御領域(Kelseyら、1987, Genes and Devel. 1:161-171)、骨髄細胞において活性であるβ−グロビン遺伝子制御領域(Mogramら、1985, Nature 315:338-340;Kolliasら、1986, Cell 46:89-94;脳内の乏突起膠細胞において活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readheadら、 1987, Cell 48:703-712);骨格筋において活性であるミオシン軽鎖−2遺伝子制御領域(Sani, 1985, Nature 314:283-286)、及び視床下部において活性である性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域(Masonら、1986, Science 234:1372-1378)が含まれる。
好ましい態様においては、「Tetシステム」(Gossenら、1995, Science 268:1766-1769;GossenおよびBujard, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA)と呼ばれる大腸菌(E.coli)由来のテトラサイクリン調節遺伝子発現を用いる方法を遺伝子発現の指示に用いる。この場合、テトラサイクリン制御転写活性化因子(tTA)のコーディング領域がtTAの発現を指示するプロモーター/エンハンサーに構成的もしくは誘発的な方法で機能し得る形で融合されたトランスジェニック細胞系を産生させる。発現しないようにする対象の遺伝子のコーディング領域がtTA応答性調節エレメントを有するプロモーターに機能し得る形で融合されたトランスジェニック細胞系を産生させる。細胞培養フード(food)に十分量のテトラサイクリンが補足されている場合、生じる子孫における対象の遺伝子の発現は完全に遮断される。対象の遺伝子の発現は、単にフードからテトラサイクリンを除去することにより、随意に誘導することができる。また、フード中のテトラサイクリンのレベルを変化させることにより、対象の遺伝子の発現レベルを調整することもできる。したがって、発現させない二元制御機構としてのTetシステムの使用には、対象の遺伝子を発現させない度合とタイミングを制御する手段を提供するという利点がある。また、Tetシステムはショウジョウバエ及びマウスにおいて用いることもでき、rTAプロモーターに用いられるプロモーターに依存して、度合及びタイミングの制御の他に空間的制御を提供するという利点がある。この実施形態における好ましいプロモーターは、遺伝子発現の発生組織及び/又は段階特異的制御をもたらすものである。
対象の遺伝子を含む発現ベクターは以下の4つの一般的なアプローチによって同定することができる:(a)核酸ハイブリダイゼーション;(b)分子生物学、(c)挿入配列の発現;及び(d)「マーカー」遺伝子機能の有無。第1のアプローチにおいては、発現ベクターに挿入された対象の遺伝子の存在を、挿入された対象の遺伝子と相同である配列を含むプローブを用いる核酸ハイブリダイゼーションによって検出することができる。第2のアプローチにおいては、分子生物学及び「マーカー」遺伝子機能の組合せを、対象の遺伝子を含む組換え発現ベクターの同定に用いる。例えば、対象の遺伝子が両抗生物質耐性をコードする発現ベクターの特定の制限部位に挿入されている場合、そのベクターを取り込んだ細菌細胞はその抗生物質に対するそれらの耐性によって同定され、対象の遺伝子を含むそれらのベクターはその特定の制限酵素を用いる増幅ベクターDNAの制限消化によって同定することができる。第3のアプローチにおいては、組換え発現ベクターを、その組換え体によって発現される対象のタンパク質をアッセイすることによって同定することができる。このようなアッセイは、例えば、その対象のタンパク質の物理的又は機能的特性に基づくものであり得る。第4のアプローチにおいては、ベクター/宿主系を、ベクターへの対象の遺伝子の挿入によって生じる特定の「マーカー」遺伝子機能(例えば、チミジンキナーゼ活性、β−ガラクトシダーゼ、抗生物質に対する耐性、形質転換表現型、バキュロウイルスにおける閉塞体(occlusion body)形成等)の有無に基づいて同定することができる。例えば、対象の遺伝子がベクターのマーカー遺伝子配列内に挿入されている場合、そのマーカ遺伝子機能の不在によってその対象の遺伝子を含む組換え体を同定することができる。
特定の組換えDNA分子がひとたび同定及び単離されると、その増幅に当該技術分野において公知の幾つかの方法を用いることができる。適切な宿主系及び成長条件がひとたび確立されると、組換え発現ベクターを多量に増幅及び調製することができる。従来説明されるように、用いることができる組換え発現ベクターには、限定されるものではないが、以下のベクター又はそれらの誘導体が含まれる:ほんの少数の名称を挙げると、ヒトもしくは動物ウイルス、例えば、ワクシニアウイルスもしくはアデノウイルス;昆虫ウイルス、例えば、バキュロウイルス;酵母ベクター;バクテリオファージベクター(例えば、ラムダ)、並びにプラスミド及びコスミドDNAベクター。
加えて、挿入された配列の発現をモジュレートし、遺伝子産物を所望の特定の様式で修飾、プロセシングする宿主細胞株を選択することができる。特定のプロモーターからの発現は特定の誘導因子の存在下で高めることができる;このように、遺伝子操作された対象のタンパク質の発現を制御することができる。さらに、異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳及び翻訳後のプロセシング及び修飾(例えば、グリコシル化、開裂(シグナル配列など))に対する特徴的及び特異的機構を有する。発現した外来タンパク質の望ましい修飾及びプロセシングが確実となるように適切な細胞株又は宿主系を選択することができる。例えば、細菌系における発現を多量の転写因子、例えば、HOXタンパク質の産生に用いることができるが、これはそれらの機能に翻訳後修飾がほとんど、もしくは全く必要ないためである。真核生物における発現はグリコシル化産生物を生成し、これは幾つかのタンパク質、例えば、細胞表面受容体に必要である。後生動物細胞における発現は、シグナリング分子のシグナル配列の「本来の」処理を確実なものとするのに用いることができる。
別の特定の態様においては、対象のタンパク質を、ペプチド結合を介して(異なるタンパク質の)異種タンパク質配列に結合する融合又はキメラタンパク質産生物(ペプチド、断片、類似体、又は誘導体を含む)として発現させることができる。このようなキメラ産生物は、所望のアミノ酸配列をコードする適切な核酸配列を当該技術分野において公知の方法によって適切なコーディング枠内で互いにライゲートし、当該技術分野において一般的に公知の方法によってそのキメラ産生物を発現させることにより作製することができる。あるいは、そのようなキメラ産生物をタンパク質合成技術によって、例えば、ペプチド合成機を用いることによって作製することもできる。
cDNA及びゲノム配列の両者をクローン化し、発現させることができる。
本節において説明される方法はNotch又は細胞運命制御遺伝子経路の成分ではない遺伝子及びタンパク質に適用することもでき、Notch又は細胞運命制御遺伝子経路の遺伝子又はタンパク質の機能を間接的に改変するのに用いることができる遺伝子及びタンパク質に適用できる。
5.2. Notchシグナリング及び分化
Notch経路は、Notch受容体タンパク質と遺伝的及び/又は分子的に相互作用するエレメントを含むシグナリング経路である。例えば、分子ベース及び遺伝子ベースの双方でNotchタンパク質と相互作用するエレメントは、例えば、限定を目的とするものではないが、Delta、Serrate及びDeltexである。Notchタンパク質と遺伝的に相互作用するエレメントは、例えば、限定を目的とするものではないが、Mastermind、Hairless、Hairless及びPresenilinのサプレッサーである。
米国特許第5,780,300号には、分化プロセスにおけるNotchタンパク質の役割が記載されている。簡単に述べると、Notchは多くの異なる細胞型の応答能を、各細胞型の発達履歴に依存して選択される特定の細胞運命及びその内部で作動する特定のシグナリング経路を用いて、分化/増殖/アポトーシスシグナルに応答するように調節する。本発明者らは、Notch活性が持続的に改変されるか、又は1つ以上の適切な細胞運命制御遺伝子又はタンパク質の活性の変化と同時に改変されるとき、細胞の応答を新たな細胞型に変化させることができることを近年発見している(下記第6節を参照)。したがって、組織修復の他に遺伝子治療において有用である細胞の源を提供するため、前駆体細胞をin vivo又はex vivo/in vitroで操作することができる。
本発明の特定の実施形態においては、望ましい細胞集団を、in vitroで、Notch経路機能及び細胞運命制御遺伝子経路のアゴニスト又はアンタゴニストで処理してそれらの運命を改変し、次いで、それらを移植して適切な領域に戻す前に培養物中でそれらが増殖する条件に処すか、又は必ずしもin vitroで増殖させることなしにそれらを直接移植する。一実施形態においては、Notch経路を活性化することによって操作された細胞を増殖させる。代わりの態様においては、細胞を、本発明の方法によってそれらを操作する前に、好ましくはNotch経路の活性化によって増殖させる。
米国特許第5,780,300号に記載されるように、多くの場合において、Notchの単純な活性化ではin vitroでの前駆体又は操作細胞の増殖に十分ではないことがあり得る。細胞を成長条件に処すこと、例えば、それらを特定の成長因子又は成長因子の組合せの存在下で培養することが必要となり得る。
5.3. Notch経路機能のアゴニスト
Notch経路機能のアゴニストは、Notch経路機能の活性化を促進、すなわち、それを引き起こすか、又は増加させる作用物質である。本明細書で用いられる場合、「Notch経路機能」はNotchシグナリング経路によって媒介される機能を意味し、限定されるものではないが、Hairlessサプレッサーもしくはその哺乳動物相同体CBF1の核転位;分割複合体のエンハンサーのbHLH遺伝子、例えば、Mastermindの活性化;ショウジョウバエ神経芽細胞の分離の阻害;及びDelta、Serrate、DeltexもしくはHairlessサプレッサー、又はそれらの相同体へのNotchの結合が含まれる。
Notch機能の活性化は、好ましくは、前駆細胞をNotch機能アゴニストと接触させることによって行う。Notch機能のアゴニストは、前駆体細胞と接触させる細胞単層上に細胞表面分子として組換えにより発現した可溶性分子、固相に固定された分子であり得る。別の実施形態においては、Notchアゴニストを前駆体細胞に導入された核酸から組換えによって発現させることができる。本発明のNotch機能アゴニストには、Notchタンパク質並びにそれらの類似体及び誘導体(断片を含む);Notch経路の他のエレメントであるタンパク質並びにそれらの類似体及び類似体(断片を含む);それらに対する抗体及びそれらの結合領域を含むそのような抗体の断片もしくは他の誘導体;タンパク質及び類似体もしくは誘導体をコードする核酸;それらに加えて、Notch機能が促進されるようにNotchタンパク質もしくはNotch経路における他のタンパク質に結合するか、又は他の方法でそれらと相互作用するトポリズミック(toporythmic)タンパク質並びにそれらの誘導体及び類似体が含まれる。このようなアゴニストには、限定されるものではないが、細胞内ドメインを含むNotchタンパク質及びそれらの誘導体、前述のものをコードするNotch核酸、並びにNotchと相互作用するトポリズミックタンパク質ドメイン(例えば、Delta、SerrateもしくはJaggedの細胞外ドメイン)を含むタンパク質が含まれる。他のアゴニストには、限定されるものではないが、Deltex及びHairlessサプレッサーが含まれる。これらのタンパク質、それらの断片及び誘導体は組換えにより発現させて単離するか、又は化学的に合成することができる。
別の特定の実施形態においては、Notch機能アゴニストは、Notch機能をアゴナイズするタンパク質又はそれらの断片もしくは誘導体を発現する細胞である。この細胞は、Notch機能アゴニストを、それを前駆体細胞に利用可能となるような様式で、例えば、分泌、細胞表面上での発現等で発現する。さらに別の特定の実施形態においては、Notch機能アゴニストは、Notch機能にアゴナイズするタンパク質又はそれらの断片もしくは誘導体をコードする核酸である;そのようなアゴニストは、例えば、下記第5.6節に説明される方法に従って用い、又は送達することができる。
さらに別の特定の実施形態においては、Notch機能のアゴニストは、Notchシグナリング経路のメンバーに結合するペプチド模倣体又はペプチド類似体又は有機分子である。そのようなアゴニストは、当該技術分野において公知のものから選択される結合アッセイによって同定することができる。
好ましい実施形態においては、アゴニストは、Notchタンパク質又はそれらの接着断片への結合を媒介するトポリズミック遺伝子によってコードされるタンパク質の少なくとも1つの断片からなるタンパク質である。本明細書で用いられる場合、トポリズミック遺伝子は遺伝子Notch、Delta、Serrate、Jagged、Hairlessサプレッサー及びDeltexに加えて、配列相同性又は遺伝子相互作用によって同定することができるDelta/Serrate/Jaggedファミリー又はDeltexファミリーの他のメンバー、より一般的には、分子相互作用(例えば、in vitroでの結合、又は(例えばショウジョウバエにおいて、表現型的に示される)遺伝子相互作用。上に引用されるトポリズミックタンパク質の接着断片は米国特許第5,648,464号;第5,849,869号;及び第8,856,441号に記載されている)によって同定することができる遺伝子の「Notchカスケード」又は「Notchグループ」のメンバーを意味する。
Notch経路エレメントの脊椎動物相同体はクローン化及び配列決定されている。例えば、これらにはSerrate(Lindsellら、1995, Cell 80:909-917);Delta(Chitnisら、1995, Nature 375:761;Henriqueら、1995, Nature 375:787-790;Bettenhausenら、1995, Development 121:2407);及びNotch(Coffmanら、1990. Science 249:1438-1441;Bierkampら、1993, Mech. Dev. 43:87-100;Stifaniら、1992, Nature Genet. 2:119-127;Lardelliら、1993, Exp. Cell Res. 204:364-372;Lardelliら、1994, Mech. Dev, 46:123-136;Larssonら、1994, Genomics 24:253-258;Ellisenら、1991, Cell 66:649-661;Weinmasterら、1991, Development 113:199-205;Reaumeら、1992, Dev. Biol. 154:377-387;Weinmsterら、1992, Development 116:931-941;Franco del Amoら、1993, Genomics 15:259-264;及びKopanら、1993, J. Cell. Biol. 121:631-641)が含まれる。
一実施形態においては、Notchアゴニストを組換え核酸から発現させる。例えば、細胞外リガンド結合ドメインを欠くNotch受容体の切り詰められた「活性化」形態のin vitro発現は機能突然変異表現型の獲得という結果となる。好ましくは、このNotchドミナントアクティブ突然変異体は前駆体細胞内部で、移植された細胞がそれらの環境の合図(cue)に応答することができるように、in vivoで欠失した誘導物質を用いて、増殖及び/又は分化に関して発現をin vitroで誘導できるように誘導性プロモーターから発現される。
あるいは、別の実施形態においては、Notch機能のアゴニストは組換えドミナントアクティブNotch突然変異体ではない。
あるいは、別の実施形態においては、Notchリガンドを組換え的に細胞表面上に発現する他の細胞と共にインキュベートすることにより、Notchアゴニストとの前駆体細胞の接触を行わない(他の態様においてもこの方法を用いることができる)。
別の実施形態においては、組換えにより発現したNotchアゴニストは、Notchの細胞内ドメイン及び他のリガンド結合性表面受容体の細胞外ドメインを含むキメラNotchタンパク質である。例えば、EGF受容体細胞外ドメイン及びNotch細胞内ドメインを含むキメラNotchタンパク質を前駆体細胞内で発現させる。しかしながら、EGF受容体リガンドEGFがこのキメラを発現する前駆体細胞と接触しない限りNotch経路は活性ではない。Notchの切り詰められた形態の発現を制御する誘導性プロモーターと同様に、キメラNotchタンパク質の活性は可逆性である;EGFが細胞から除去されたとき、Notchの活動は停止し、細胞が分化する。リガンドの添加でNotchの活動は再度始まる。好ましくは、操作細胞の移植に先立って停止される誘導性プロモーターの制御の下でキメラ受容体を発現させることで、Notch経路の活性化により移植された細胞がin vivoでEGFに応答しない。
Notchの細胞内ドメインの系統的欠失分析は、Notch受容体の下流シグナリングに必要かつ十分であるNotch配列が細胞内領域のアンキリン反復に限定されることを示す(Matsunoら、1995, Development 121:2633-2644及び未公表データ)。酵母2ハイブリッド系を用いて、アンキリン反復が同型的に相互作用することが発見された。
ショウジョウバエの眼を発生する定義された細胞環境における適切な欠失構築体の発現は、まさにアンキリン反復を含むポリペプチド断片の発現が活性化された表現型を生じたことを示す。驚くことではないが、これは様々な種のうちで最も高度に保存されているNotchタンパク質の部分である。
これらの知見は、Notchアンキリン反復に結合するあらゆる小分子、例えば、限定を目的とするものではないが、ポリペプチド又は抗体がその機能を遮断することができ、したがって、その経路のアンタゴニストして振る舞うことを示唆する。逆に、Notchアンキリン反復活性を模倣する分子はNotch経路のアゴニストとして振る舞うことができる。切り詰められた形態のNotchの発現が発達しているショウジョウバエの眼において突然変異体表現型をもたらすため、これらの表現型のモディファイヤーについての遺伝的スクリーニングをこの経路のアゴニスト又はアンタゴニストとして作用し得るさらなる遺伝子産生物の同定及び単離に用いることができる。
活性化された表現型のエンハンサーとして作用する遺伝子は潜在的なアゴニストであり、サプレッサーとして作用するものは潜在的なアンタゴニストである。
Deltex及びHairlessサプレッサーも使用可能なNotch機能のアゴニストである。Notch経路の活性化は、Notchの活性化形態の発現によって誘導されるものに類似する活性化された表現型の誘導によって判断されるように、Hairlessサプレッサー(SchweisguthおよびPosakony, 1994, Development 120:1477)の他にDeltex(Matsunoら、1995, Development 121:2633)(これらの両者はNotchのアンキリン反復と相互作用することができる)の発現を操作することによって達成することができる。
酵母「相互作用トラップ」アッセイ(Zervosら、1993, Cell 72:223-232)に加えて細胞培養共存研究を用いて、Deltex分子間の同型相互作用の他に、DeltexとNotchの細胞内ドメインとの異型相互作用の原因であるタンパク質領域を定義した。Deltex−Notch相互作用ドメインの機能をin vivo発現研究によって試験した。まとめると、Deilex断片の過剰発現からのデータ及びDeltex及びNotchの間の物理的相互作用の研究からのデータは、DeltexがNotchアンキリン反復との相互作用によってNotch経路をポジティブに調節することを示す。
細胞培養に関する実験により、Deltex−Notch相互作用が、通常はNotchアンキリン反復との会合によって原型質内に隔離され、かつNotchがそのリガンドであるDeltaに結合したときに核に転位するHairlessサプレッサーの原形質滞留を防止することが示される。これらの知見に基づくと、Deltexは、NotchとHairlessサプレッサーとの相互作用にアンタゴナイズすることによってNotch活性を調節するものと考えられる。Notchがリガンドに結合したときの通常は原型質性のHairlessタンパク質サプレッサーの核への移行(FortiniおよびArtavanis-Tsakonas, 1994, Cell 79:273-282)は、Notch機能に加えてNotch機能を活性化する本発明のNotchアゴニストの能力を監視する好都合なアッセイである。
HairlessサプレッサーはDNA結合性タンパク質であることが示されている。遺伝的及び分子データは、Hairlessサプレッサーの活性が核タンパク質Hairlessへのその結合に影響され得ることを示す。さらに、分割複合体のエンハンサーのbHLH遺伝のうちの少なくとも幾つかの転写は、Notchシグナリング及びこれらの遺伝子の上流の適切な結合部位を認識するHairlessサプレッサーの能力に直接依存するものと思われる。これらの様々な相互作用の操作(例えば、アンキリン反復に対する抗体を用いるNotchとHairlessサプレッサーとの相互作用の破壊)はNotch経路の活性のモジュレーションを生じる。
最後に、Notch経路は、Notch受容体の細胞外部分へのNotchリガンド(例えば、Delta、Serrate)の結合によって操作することができる。Notchシグナリングは、Notchの細胞外ドメインと隣接細胞上のその膜結合リガンドとの物理的相互作用によって誘発されるものと思われる。1つの細胞上での完全長リガンドの発現はNotch受容体を発現する隣接細胞においてその経路の活性化を誘発する。驚くことではないが、これらのリガンドはこの経路のアゴニストとして作用する。他方、隣接細胞において発現される、細胞内ドメインを欠く切り詰められたDelta又はSerrate分子の発現により、非自発的なドミナントネガティブ表現型を生じる。これは、この受容体のこれらの突然変異体形態がこの経路のアンタゴニストとして作用することを示す。
Notch経路エレメント間の様々な分子相互作用の定義は、Notch機能アゴニスト及びアンタゴニストのスクリーニングに用いることができるさらなる特異的薬理学的標的及びアッセイをもたらす。in vivoでの特定の分子操作の結果を評価することで、この情報を、Notch機能を妨害又は強化する生物製剤又は医薬の生化学的in vitroスクリーニングアッセイの設計に用いることができる。
Northアンキリン反復とHairlessサプレッサーとの解離、及びそれに続くHairlessサプレッサーの原形質から核への転位を誘発する分子のスクリーニングの結果、アゴニストが同定される。Notchを発現する細胞における、5’末端に幾つかのHairlessサプレッサー結合部位を担持するように加工されているレポーター遺伝子の転写の活性化により、同様にその経路のアゴニストが同定される。
これらのアッセイの基礎をなす論理を逆転することがアンタゴニストの同定につながる。例えば、前述のレポーターを発現する細胞系を化学物質及び生物製剤で処理し、レポーター遺伝子の発現を停止させる能力を有するものを同定することができる。
別の特定の実施形態においては、Notch経路機能アゴニストには、Notch又はNotchシグナリング経路の1メンバーの活性化に必要な成熟またはプロセシング過程を媒介する細胞プロセスを促進または活性化する試薬が含まれる。例えば、Notchのプロセシングに必要なフリン(furin)様コンバルターゼ、Kuzbanian、NotchリガンドDeltaの開裂及び活性化に必要なメタロプロテアーゼ、又は、より一般的には、GTP加水分解酵素のrabファミリーなどの細胞区画間の移動に必要な細胞交通(trafficking)及びプロセシングタンパク質である(Rab GTP加水分解酵素に関する総説としては、OlkkonenおよびStenmark, 1997, Int. Rev. Cytol. 176:1-85を参照)。このアゴニストは、上記プロセスのうちの1つの活性を増加させるあらゆる分子、例えば、フリン、Kuzabanianもしくはrabタンパク質をコードする核酸、又はそれらの断片もしくは誘導体もしくはドミナントアクティブ活性突然変異体、又は上記タンパク質に結合してその機能を活性化するペプチド模倣体もしくはペプチド類似体もしくは有機分子であり得る。このペプチド模倣体もしくはペプチド類似体もしくは有機分子は上記アッセイによって同定することができる。
5.4. Notch経路機能のアンタゴニスト
ある実施形態において、本発明は、細胞の運命の変化をもたらすような条件下で前駆細胞においてNotch経路機能に拮抗すること、または細胞運命制御遺伝子経路機能を変化させるのと同時にNotch機能に拮抗することを目的とする。別の実施形態において、アンタゴニストは、Notch経路を阻害して、Notch経路活性により1つの分化状態に維持されている細胞に、本発明の方法による細胞の運命を変えるきっかけ(cue)に応答して、その分化状態の変化、たとえば、脱分化および再度の有糸分裂、および増殖をおこすために用いられる。Notch機能のアンタゴニストは、Notch機能を減少させるまたは阻害する試薬である。Notch機能の阻害は、好ましくは最終分化細胞および/または分裂終了細胞および/またはNotchを発現する他の成熟細胞をNotchアンタゴニストに接触することにより実施される。
Notchの発現は一般的に非最終分化細胞と関連している。この一般ルールに対する1つの例外は、Notchが分化した頸(cervical)円柱上皮細胞に発現される場合である(Zagouras, 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:6414-6418)。もう1つの例外は、Notchがラットおよびヒト成体の網膜の分裂終了ニューロンに発現される場合である(Ahmadら、1995, Mech. Develop. 53:73-85)。免疫細胞化学的染色データは、抗体により認識されるNotchポリペプチドは核にあることを示している。核に局在化された遺伝子工学的Notch断片の発現が研究され(Artavanis-Tsakonasら、1995, Science 268:225-232に総論あり)、これらの断片は活性化された変異体表現型と関連することが示された。核にNotchの活性化型が存在することにより、これらの細胞の分化および/または増殖刺激に応答する能力が制限または完全に遮断されることにより、これらの細胞は分化の特定の状態に固定される。したがって、これらの分裂終了ニューロンは、Notchリガンドとは独立な活性化されたNotch-1型の働きでそれらの分化した状態を維持していると想像される。この状態は、このような細胞集団にある種の柔軟性を与え得る。たとえば、核Notch-1活性の偶発的な休止(cessation)は、これらの細胞を再び分裂状態に入らせ、および/または特定の分化シグナルに応答せしめ得る。これに関連して、キンギョおよびアフリカツメガエルのような下等な脊椎動物の網膜ニューロンが再生能力を有することは興味深い。6-OHドーパミンによるドーパミン作動性アマクリン細胞の退化のような、特定のニューロンの化学的切除は、それらの再生による置き換えをもたらす(RehおよびTully, 1986, Dev. Biol. 114(2):463-469)。しかしながら、再生の目的に対するこのような柔軟性は高等な脊椎動物においては観察されなかった。ラットの成熟網膜ニューロンに観察されたNotch-1活性は、下等な脊椎動物の網膜再生におけるNotch-1の機能的意義の反復を表している。このように、Notch機能に対する拮抗は、Notch(または抗-Notch抗体が免疫特異的に結合することができるNotchの断片または誘導体)を発現する成熟した哺乳動物細胞、たとえば、哺乳動物ニューロン(たとえば、中枢神経系の)に応答性を与えることにより、本発明の方法により提供された分化のきっかけに応答してそれらの再分化を促進するであろう。このような方法は、哺乳動物細胞をNotch機能のアンタゴニストに接触させること、および細胞を細胞増殖条件に曝した後に細胞をNotchおよび細胞運命制御遺伝子経路アゴニストに接触させることからなる。
Notch機能アンタゴニストには、Notchシグナリング経路におけるタンパク質の1つの転写または翻訳のいずれかを遮断することにより、Notchシグナリング経路におけるタンパク質の少なくとも1つの発現を妨げるようなアンチセンス核酸が含まれるが、これらに限定されない。Notchシグナリング経路のメンバーには、Notch、Delta、Serrate、Deltex、分割(Split)のエンハンサー、Presenilin、および、配列相同性または遺伝子相互作用の特徴によって同定されるDelta/Serrateファミリーの他のメンバー、および一般的に、分子相互作用(たとえば、in vitroでの結合)または遺伝子相互作用(たとえばショウジョウバエ(Drosophila)におけるように表現型により検出される)により同定されるNotchシグナリング経路のメンバーが含まれる。Notchシグナリング経路の一般的な総論としては、Artavanis-Tsakonasら、1995, Science 268:225-232およびAtravanis-Tsakonasら、1999, Science 284:770-776を参照されたい。
アンチセンス核酸は、少なくとも6個のヌクレオチドからなり、好ましくはオリゴヌクレオチド(6から約50オリゴヌクレオチドの範囲)である。特定の態様において、オリゴヌクレオチドは少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、または少なくとも200ヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドはDNAまたはRNAまたはキメラ混合物またはその誘導体または修飾物、一本鎖または二本鎖であってよい。オリゴヌクレオチドは塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格を修飾されていて良い。オリゴヌクレオチドは、他の付加基、たとえば、ペプチド、または細胞膜(たとえば、Letsingerら、1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:6553-6556; Lemaitreら、1987, Proc. Natl. Acad. Sci. 84:648-652; PCT国際公開WO88/09810、1988年12月15日公開を参照されたい)または血液-脳関門(たとえば、PCT国際公開WO89/10134、1988年4月25日公開を参照されたい)を通過する輸送を促進する試薬、ハイブリダイゼーション誘発開裂試薬(たとえば、Krolら、1988, BioTechniques 6:958-976)またはインターカレート試薬(たとえば、Zon, 1988, Pharm. Res. 5:539-549)を含んでいても良い。
本発明の好ましい態様において、Notchアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは一本鎖DNAとして供給される。最も好ましい態様において、このようなオリゴヌクレオチドは、Notch(最も好ましくはヒトNotch)のELR11およびELR12をコードする配列に対してアンチセンスである配列を含む。オリゴヌクレオチドは、当業者に公知の置換基によってその構造のいずれの位置を修飾されていても良い。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの修飾された塩基部分からなる。上記修飾された塩基部分は、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β-D-ガラクトシルケオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルケオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン(wybutoxosine)、プソイドウラシル(pseudouracil)、ケオシン(queosine)、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6-ジアミノプリンを含むが、これらに限定されない群より選択される。
アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、少なくとも1つの修飾された糖部分を含んでもよい。上記修飾された糖部分は、アラビノース、2-フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースを含むが、これらに限定されない群より選択される。
アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、少なくとも1つの修飾されたリン酸骨格を含んでもよい。上記修飾されたリン酸骨格は、ホスホロチオエート(phosphorothioate)、ホスホロジチオエート(phosphorodithioate)、ホスホロアミドチオエート(phosphoramidothioate)、ホスホロアミデート(phosphoramidate)、ホスホロジアミデート(phosphordiamidate)、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル、およびホルムアセタールまたはその類似体からなる群より選択される。
アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、α-アノマーオリゴヌクレオチドであってもよい。α-アノマーオリゴヌクレオチドは、相補的RNAと特異的二本鎖ハイブリッドを形成し、そこでは、通常のβ-ユニットとは反対に、鎖は互いに平行に並ぶ(Gautierら、1987, Nucl. Acids Res. 15:6625-6641)。
オリゴヌクレオチドは、別の分子、たとえば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋試薬、輸送試薬、ハイブリダイゼーション誘発開裂試薬等とコンジュゲートしていてよい。
このようなオリゴヌクレオチドは当技術分野で公知の標準的な方法、たとえば、自動DNA合成機(たとえば、Biosearch、Applied Biosystems等から市販されたもの)の使用により合成される。一例として、ホスホロチオエートオリゴはSteinらの方法(1988, Nucl. Acids Res. 16:3209)により合成され、メチルホスホネートオリゴは制御された細孔ガラスポリマー支持体の使用(Sarinら、1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448-7451)により調製することができる。
特定の実施形態において、Notchアンチセンスオリゴヌクレオチドは、触媒RNA、またはリボザイムを含む(たとえば、PCT国際公開WO90/11364、1990年10月4日公開;Sarverら、1990, Science 247:1222-1225を参照されたい) 。別の実施形態において。オリゴヌクレオチドは2'-O-メチルリボヌクレオチド(井上ら、1987, Nucl. Acids Res. 15:6131-6148)、またはキメラRNA-DNA類似体(井上ら、1987, FEBS Lett. 215:327-330)である。
特定の実施形態において、Notchアンチセンス核酸は、二本鎖RNA分子の少数のコピーの細胞への注入により内在性遺伝子の機能に干渉する、RNA干渉(またはRNA-i)と呼ばれる方法を利用した二本鎖RNAを含む。この技術はC.エレガンス(C.elegans;Fireら、1998, Nature 391:806-811)およびショウジョウバエ(KennerdellおよびCarthew, 1998, Cell 95:1017-1026; MisquittaおよびPaterson, 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:1451-1456)で用いられて成功しており、他の生物体または細胞型に適用できる可能性がある。
別の実施形態において、アンチセンス核酸は、外因性の配列からの転写によって細胞内で生産される。たとえば、ベクターを細胞に取り込まれるようにin vivoに導入して、その細胞内でベクターまたはその一部が転写され、本発明のアンチセンス核酸(RNA)が生産される。このようなベクターはアンチセンス核酸をコードする配列を含む。このようなベクターは、これが転写されて所望のアンチセンスRNAを生産する限り、エピソームに留まっても染色体に組み込まれてもよい。このようなベクターは当技術分野の標準的な組換えDNA技術により構築することができる。ベクターは、プラスミド、ウイルス、または哺乳動物細胞中で複製および発現に用いられる他の当技術分野で公知のものであってよい。アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、哺乳動物、好ましくはヒトの細胞で作用する当技術分野で公知のいかなるプロモーターによってもよい。このようなプロモーターは誘導性でも構成的でもよい。このようなプロモーターには、SV40初期プロモーター領域(BernoistおよびChambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウイルスの3'長末端反復に含まれるプロモーター(Yamamotoら、1980, Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら、1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinsterら、1982, Nture 296:39-42)、熱ショックタンパク質70遺伝子プロモーターのような基礎プロモーターのコンテクスト中の熱ショックエンハンサーエレメント(Bienzら、1986, Cell 45:753-60)等が含まれるが、これらに限定されない。
本発明のアンチセンス核酸は、Notchシグナリング経路遺伝子、好ましくはヒトNotchシグナリング経路遺伝子のRNA転写物の少なくとも配列特異的部分に相補的でハイブリダイズ可能な配列を含む。しかしながら、完全な相補性は、好ましいが必須要件ではない。本明細書において「少なくともRNAの一部と相補的である」という用語は、RNAにハイブリダイズして安定な二本鎖を形成するのに十分な相補性を有する配列を意味し、二本鎖アンチセンス核酸の場合には、二本鎖DNAのうちの一本鎖をこの方法で試験するか、三本鎖の形成をアッセイする。ハイブリダイズする能力は、相補性の程度とアンチセンス核酸の長さの両方に依存する。一般的に、ハイブリダイズする核酸が長いほど、特定のRNAとの塩基のミスマッチが多く含まれても安定な二本鎖(または場合によっては三本鎖)を形成することができる。当業者はハイブリダイズした複合体の融解温度を測定する標準的な方法によって、使用に耐えるミスマッチの程度を確かめることができる。
他のNotch機能アンタゴニストには、Notch経路タンパク質構成成分間の相互作用を阻害することにより、Notch機能を崩壊させる抗体、たとえば、それぞれDelta、NotchおよびNotchへの結合を仲介するNotch、Delta、またはSerrateの細胞外領域(たとえば、NotchのEGF-様反復11および12)に対する抗体が含まれるがこれらに限定されない。このような抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、単鎖、Fab断片またはFab発現ライブラリー由来のものであってよい。
Notchシグナリング経路タンパク質またはペプチドに対するポリクローナル抗体を生産するために、当技術分野で公知のさまざまな方法を用いることができる。ポリクローナル抗体の生産のために、さまざまな宿主動物、たとえば、これらに限定されないが、ウサギ、マウス、ラット等を、天然のタンパク質または合成物またはその断片を注射することにより免疫化することができる。免疫応答を増大させるために、宿主の種に応じてさまざまなアジュバントを用いることができる。これには、フロイントアジュバント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムのような金属ゲル、リソレシチン、プルーロニックポリオールのような界面活性物質、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルション、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、およびBCG(カルメット-ゲラン菌)およびコルネバクテリウム パルバム(corynebacterium parvum)のような有用と考えられるヒトアジュバントが含まれるが、これらに限定されない。
モノクローナル抗体の調製には、培養液中の連続的な細胞系による抗体分子の生産のために提供されるすべての技術を用いることができる。たとえば、KohlerおよびMilstein(1975, Nature 256:495-497)により最初に開発されたハイブリドーマ技術、およびトリオーマ技術、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、1983, Immunology Today 4, 72)、およびヒトモノクローナル抗体を生産するためのEBV-ハイブリドーマ技術(Coleら、1985,「モノクローナル抗体と癌治療」(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy), Alan R. Liss, Inc., pp77-96)が用いられる。
分子のイディオタイプ(結合ドメイン)を含む抗体断片は公知の方法により製造することができる。たとえば、このような断片には、抗体分子のペプシン消化により製造することができるF(ab')2断片、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することにより製造することができるFab'断片、および抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することにより製造することができるFab断片が含まれるが、これらに限定されない。
抗体の製造において、所望の抗体のスクリーニングは、当業者に公知の方法、たとえば、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)によりおこなうことができる。たとえば、Notchタンパク質の細胞内ドメインを認識する抗体を選択するために、生成したハイブリドーマをそのドメインを含むタンパク質断片に結合する産物についてアッセイしてもよい。
特定の実施形態において、アンタゴニストは、実質的に細胞外ドメインおよび場合によってはトランスメンブランドメインを含むが、それぞれNotch、DeltaまたはSerrateの細胞内ドメインの一部または全部を欠く、Notch、DeltaまたはSerrate断片である(ドミナントネガティブ断片)(たとえば、SunおよびArtavanis-Tsakonas, 1996, Development 122:2465-2474を参照されたい)。
別の特定の実施形態において、Notch経路機能のアンタゴニストはDeltex、最も好ましくは脊椎動物Deltex分子である。
別の特定の実施形態において、Notch経路機能のアンタゴニストはHairlessである。
別の特定の実施形態において、Notch機能のアンタゴニストはNotch機能に拮抗するフリンジ(IrvineおよびWieschaus, 1994, Cell 79:595-606)またはその機能的断片または誘導体である。
別の特定の実施形態において、Notch機能アンタゴニストは、Notch機能に拮抗するタンパク質またはその断片または誘導体を発現する細胞である。この細胞は、Notch機能アンタゴニストを成熟細胞に利用可能な方法で、たとえば、分泌、細胞表面への発現等の方法で発現する。さらに別の特定の実施形態において、Notch機能アンタゴニストは、Notch機能に拮抗するタンパク質またはその断片または誘導体をコードする核酸であって、このようなアンタゴニストは、たとえば、下記の第5.6節に記載する方法に従って使用または送達することができる。
別の特定の実施形態において、Notch経路機能のアンタゴニストは、Notchシグナリング経路のメンバーに結合するペプチド模倣体またはペプチド類似体または有機分子である。このようなアンタゴニストは当技術分野で公知のアッセイから選択された結合アッセイにより同定することができる。
別の特定の実施形態において、Notch経路機能アンタゴニストは、NotchもしくはNotchシグナリング経路のメンバーの活性化に必要な成熟またはプロセシングを仲介する細胞過程を阻害する試薬を含む。上記の細胞過程には、Notchのプロセシングに必要なフリン(furin)様コンバルターゼ、NotchリガンドのDeltaの開裂および活性化に必要なメタロプロテアーゼであるKuzbanian、またはより一般的には、細胞内隔室間の移動に必要なGTPアーゼのrabファミリーのような細胞内輸送およびプロセシングタンパク質が含まれる(Rab GTPアーゼの総論は、OlkkonenおよびStenmark, 1997, Int. Rev. Cytol. 176:1-85を参照されたい)。拮抗試薬には、上記のタンパク質の発現または機能を妨げる全ての分子、たとえば、ペプチド模倣体または有機阻害剤またはアンチセンス核酸またはそれらに対する抗体、またはそれらのドミナントネガティブ変異体をコードする核酸が含まれる。ペプチド模倣体または有機阻害剤は上記のアッセイにより同定することができる。
5.5. 細胞運命制御遺伝子およびタンパク質
細胞は、外部シグナルまたは環境の変化に対して、3つの可能な方法、すなわち、分化、増殖またはプログラムされた細胞の死(アポトーシス)のうちの1つの方法で応答する。細胞が選ぶ個々の運命は、受け取ったシグナルの性質および細胞の中に存在するシグナルに対する応答の仲介物によって決定される。細胞の運命を決定して、分化、増殖またはアポトーシスを起こすのに必要な、または十分な遺伝子をここでは細胞運命制御遺伝子と呼び、それらがコードするタンパク質を細胞運命制御タンパク質と呼ぶ。
本発明の方法を用いて利用される細胞運命制御遺伝子には、Pax遺伝子(ヒトまたはマウスPAX-1、PAX-2、PAX-3、PAX-4、PAX-5、PAX-6、PAX-7、PAX-8またはPAX-9;ショウジョウバエEyelessおよびTwin of eyelessを含むがこれらに限定されない)、HOX遺伝子(哺乳動物HOX A1-7、9-11または13;HOX B1-9;HOX C4-6または8-13;HOX D1、3-4または8-13;ショウジョウバエlab、pb、Dfd、Scr、Antp、Ubx、abd-AまたはAbd-Bを含むが、これらに限定されない)、DLX遺伝子(ヒトDLX-2、DLX-4、DLX-5;マウスDLX-1、DLX-2、DLX-3、DLX-5、DLX-6、DLX-7;ショウジョウバエDistallessを含むが、これらに限定されない)、Vestigial遺伝子(ショウジョウバエvestigialおよびその同族体)、PBC遺伝子(ヒトまたはマウスPbx1、Pbx2またはPbx3およびショウジョウバエextradenticleを含むが、これらに限定されない)、MEINOX遺伝子(MEIS遺伝子、たとえば、ヒトおよびマウスMeis1、Meis2、Meis3およびショウジョウバエhomothoraxおよびKNOX遺伝子、たとえば、マウスKNOX1およびPrep1を含むが、これらに限定されない)、bHLH遺伝子(哺乳動物MyoD、ミオゲニン、myf-5、MASH-1およびMASH-2およびショウジョウバエachaete-scute複合遺伝子を含む)、LIMホメオボックス遺伝子(ヒトISLET-1、LIM-1、LMX1B、LHX2;マウスIslet-1、Lim-1、Lhx4、Lhx5、Lhx6、Lhx7およびLhx8およびショウジョウバエapterousおよびlim3を含むが、これらに限定されない)、MSX遺伝子(ヒトMSX-1またはMSX-2、マウスMsx-3またはショウジョウバエmshを含むが、これらに限定されない)、POU遺伝子(ヒトOct-1、Oct-2、Oct-6およびPit-1;マウスOct-1、Oct-4、Oct-6およびPit-1;ショウジョウバエpdm-1およびpdm-2を含むが、これらに限定されない)、PTX遺伝子(ヒトPtx-1、Ptx-2を含むが、これらに限定されない)、NKX遺伝子(ヒトNKX2.5、NKX2.8、NKX3.1;マウスNkx-1.1、Nkx-2.2、Nkx-2.5、Nkx-3.1、Nkx3.2、Nkx-5.1を含むが、これらに限定されない)、MADSボックス遺伝子(ヒトSRFおよびmef2およびショウジョウバエd-mef2およびd-SRFを含むが、これらに限定されない)、SOX遺伝子(ヒトSOX-2、SOX-4、SOX-8、SOX-9、SOX-10、SOX-11、SOX-14およびSOX-17およびマウスSox-2、Sox-3、Sox-4、Sox-13、Sox-15およびSox-17を含むが、これらに限定されない)、T-ボックス遺伝子(ヒトTBX-5、TBX-6、TBX-10、TBX-18およびTBX-19;マウスBrachyury、Tbx-1、Tbx-2、Tbx-3、Tbx-4、Tbx-5、Tbx-6;ショウジョウバエoptomotor blind(omp)を含むが、これらに限定されない)、WNT遺伝子(ヒトWNT-1、WNT-2、WNT-3A、WNT-4、WNT-5A、WNT-7a、WNT-7B、WNT-8A、WNT-10B、WNT-13、WNT14;マウスint-1、int-2、Wnt-1、Wnt-2b、Wnt-3a、Wnt-4、Wnt-5a、Wnt-5b、Wnt-6、Wnt-7a、Wnt-7b、Wnt-11、Wnt-10a、Wnt-15;ショウジョウバエwingless、dwnt2、dwnt3、dwnt4、dwnt5を含むが、これらに限定されない)、BMP/TGF-βスーパーファミリー遺伝子(ヒトTGFβ-1、TGFβ-2、TGFβ-3、BMP-1、BMP-2、BMP-3B(GDF10)、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、アクチビン、GDF1、GDF5、GDF8、GDF9;マウスTGFβ-1、TGFβ-3、BMP-1、BMP-2、BMP-3B(GDF10)、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8A、BMP-8B、GDF1、GDF5、GDF6、GDF7、GDF9b、GDF11;ショウジョウバエdecapentaplegic(dpp)、60A、tolloid(tld)を含むが、これらに限定されない)およびhedgehog遺伝子(ヒトまたはマウスSonic、IndianまたはDesert hedgehog;ショウジョウバエhedgehogを含むが、これらに限定されない)が含まれるが、これらに限定されない。
本発明の全ての実施形態において、細胞運命制御遺伝子は、Notch、または既に確立して認められているNotchシグナル導入経路のメンバー、たとえば、Notch、Delta、Serrate、DeltexまたはHairlessのサプレッサーではない。
好ましい実施形態において、細胞運命制御遺伝子またはタンパク質は、Pax-5またはPax-6を含んでなる群より選択される。
好ましい実施形態において、細胞運命制御遺伝子またはタンパク質は、哺乳動物、最も好ましくはヒトのものである。
本発明の実施形態において、操作された(操作)細胞とは、操作された細胞を生産するように作動された細胞運命制御遺伝子経路を本質的に伴う細胞型である。
限定を目的としない例として、本発明の方法よれば、Pax6活性は眼細胞を作るように変えられ、HoxB8活性は単球を作るように変えられ、LIMホメオドメイン活性は運動ニューロンを作るように変えられ、PTX活性は下垂体組織を作るように変えられ、NKX2-5活性は心筋を作るように変えられ、MEF-2活性は骨格筋を作るように変えられ、Tbx-6活性は体節組織を作るように変えられる、等である。
5.5.1. 細胞運命制御遺伝子の同定のためのアッセイ
一般的に、細胞運命制御遺伝子は、単独で作動した場合、またはNotch経路機能の作動または拮抗と組み合わせて作動した場合のいずれかの場合に細胞の運命を変える能力によって同定することができる。発明の一態様において、細胞運命制御遺伝子は下記第6節に記載するようなショウジョウバエ(Drosophila)を用いたアッセイにより同定することができる。1つのアッセイにおいて、細胞運命制御遺伝子と推定される遺伝子は、ey-Gal4駆動体を用いた発達中の眼成虫盤においてUAS制御下で誤発現された場合に眼の発達を変更する能力により同定される。多くの(けれども、全てである必要はない)細胞運命制御遺伝子は、成虫に異常な眼、たとえば、組織型の変化(すなわち、再分化)、眼の拡大(すなわち、増殖)、または眼の退行(すなわち、プログラムされた細胞の死)をもたらす。あるいは、細胞運命制御遺伝子と推定される遺伝子は、機能の消失、好ましくはヌルを作り出すこと、遺伝子の突然変異、および突然変異が異常な細胞運命の決定をもたらすかどうかの決定により同定される。
5.6. 細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニスト
本明細書で用いる、細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストとは、細胞運命制御遺伝子経路機能の活性化を促進する、すなわち活性化を引き起こすもしくは増大させる薬物を意味する。本明細書で用いる「細胞運命制御遺伝子経路機能」とは、細胞運命制御遺伝子経路によって媒介される機能を意味している。
活性化された細胞運命制御遺伝子もしくは細胞運命制御遺伝子経路の成分の誘導体は、細胞運命制御タンパク質もしくは細胞運命制御遺伝子経路成分をコードする配列を、機能的に等価な分子を作るために置換、付加もしくは欠失によって改変して作製することができる。これらの誘導体および類似体は、当業界では公知の種々の方法で生成することができる。それらの生成をもたらす操作は遺伝子レベルもしくはタンパク質レベルで行うことができる。クローン化した細胞運命制御遺伝子もしくは細胞運命制御遺伝子経路成分の配列は、当業界では既知の多数の手法のいずれによっても改変することができる(Maniatis, T., 1990, 「分子クローニング:実験室マニュアル」"Molecular Cloning:A Laboratory Manual", 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York)。その配列を制限エンドヌクレアーゼを用いて適切な部位で開裂させ、その後さらに所望により酵素的修飾を行い、単離し、in vitroで連結することができる。細胞運命制御遺伝子もしくは細胞運命制御遺伝子経路成分の誘導体もしくは類似体をコードする遺伝子の作製には、改変した遺伝子がもとの遺伝子と同一の翻訳リーディングフレームを保持し、翻訳停止シグナルで遮られないように注意を払うべきである。
さらに、細胞運命制御遺伝子もしくは細胞運命制御遺伝子経路成分の核酸配列は、さらにin vitroで改変するために、in vitroもしくはin vivoで変異させて、翻訳、開始および/もしくは終止配列を作る、および/もしくは破壊する、あるいはコード領域に変異を作る、および/または新たな制限エンドヌクレアーゼ部位を形成するもしくは既に存在する制限エンドヌクレアーゼ部位を破壊することができる。突然変異誘発法のための当業界で既知のいかなる技法も用いることができ、そのような技法としては限定はされないが、in vitro部位特異的突然変異誘発法(Hutchinsonら, 1978, J. Biol. Chem. 253:6551)などが挙げられる。配列の変化を含んでいるPCRプライマーを、増幅断片中にそのような変化を導入するためにPCRで用いることができる。
細胞運命制御遺伝子が転写因子をコードする場合には、細胞運命制御遺伝子経路の活性化は、好ましくはその細胞中に細胞運命制御タンパク質を発現する組換え核酸を導入することによって、またはその細胞をインターナリゼーションシグナルペプチドに機能しうる形で結合させた、組換えによって発現させた細胞運命制御タンパク質と接触させることによって行われる。細胞運命制御遺伝子がシグナル伝達分子である場合には、その細胞運命制御遺伝子経路は、その細胞を組換えによって発現させたシグナル伝達分子と接触させるか、またはその細胞を、経路成分、例えば構成的に活性化されたレセプターもしくはシグナル伝達DNA結合タンパク質の活性化形態を発現する組換え核酸と接触させることによって活性化される。
細胞運命制御遺伝子が転写因子をコードする場合には、通常はその転写因子は、DNAに結合し遺伝子の転写を調節する構成的核タンパク質である。しかし転写因子の活性は、例えばそれらの核へアクセスする能力もしくはそれらのDNAと結合する能力を制限することによって調節されることが多い。細胞運命制御遺伝子が核に構成的に存在する場合には、細胞運命制御遺伝子経路の活性化は、好ましくは、適切なプロモーターの制御のもとにある細胞運命制御遺伝子を発現している組換え核酸を細胞中に導入することによって行われる。あるいはまた、細胞運命制御遺伝子産物は、組換えによって発現させることができ、それによってその産物が機能しうる形でインターナリゼーションシグナルペプチド(その産物の培地から細胞核への取り込みを可能とするもの)と結合される。この場合には、細胞運命制御遺伝子経路の活性化は、インターナリゼーション配列に結合させた、in vitroで発現させたタンパク質を培地中に置くことによって行いうる。特定の1実施形態においては、該インターナリゼーションシグナルは、Antennapedia(Prochiantz, 1996, Curr. Opin. Neurobiol. 6:629-634に総説されている)、Hox A5(Chatelinら, 1996, Mech. Dev. 55:111-117)、HIV TATタンパク質(Vivesら, 1997, J. Biol. Chem. 272:16010-16017)、もしくはVP22(Phelanら, 1998, Nat. Biotechnol. 16:440-443)のものである。
細胞運命制御遺伝子産物が通常はその産物が核にアクセスすることが妨げられるように調節されている場合には、細胞運命制御遺伝子経路は、好ましくは、前駆細胞中にそのタンパク質の活性型をコードする核酸を導入することによって活性化される。例えば、核への侵入に阻害性ドメインの除去を必要とする場合には、該タンパク質の末端切断型が好ましい。別の1実施形態においては、核へのアクセスに、リン酸化が必要とされるか、もしくは脱リン酸化したものがリン酸化されることを妨げるような点突然変異が核への局在化のために必要とされるならば、リン酸化を模倣する点突然変異(例えば、セリン/トレオニン/チロシンをグルタミン酸へ)を有するタンパク質が提供される。あるいはまた、細胞運命制御遺伝子経路は、その細胞中に野生型タンパク質をコードする核酸を導入し、次いでその細胞を細胞運命制御遺伝子経路の活性化をもたらすような試薬で処理することによって活性化される。細胞運命制御遺伝子経路の活性化はまた、インターナリゼーション配列に機能しうる形で結合させた、in vitroで発現させた該タンパク質の活性型を培地中に配置するか、もしくはインターナリゼーション配列に機能しうる形で結合させた、in vitroで発現させた該タンパク質の野生型を培地中に配置し、次いでその細胞を細胞運命制御遺伝子経路の活性化を誘導する試薬で処理することによって行うこともできる。
細胞運命制御遺伝子でコードされるタンパク質が、DNAの結合もしくは転写の活性化を妨げるように修飾される場合には、適切な活性型が提供される。リン酸化もしくは脱リン酸化によって修飾が媒介される場合には、細胞運命制御遺伝子の変異型が、あたかもそれが構成的にリン酸化もしくは脱リン酸化されているように機能するように提供される(例えば、活性を発揮するためにはリン酸化されることが必要な残基がアスパラギン酸などの酸性残基に変異されているように、もしくは活性を発揮するためには脱リン酸化されることが必要な残基がリン酸化しえない残基、例えばアラニンに変異されているようにコード領域を変化させることによって行う)。あるいはまた、野生型タンパク質を含有する構築物を前駆細胞中にトランスフェクトし、その前駆細胞を、野生型タンパク質を活性化しうる薬剤で処理する。
細胞運命制御遺伝子経路の活性化は直接的である必要はない。1実施形態においては、活性化は、該細胞運命制御遺伝子経路の阻害剤の機能を阻害するもしくは拮抗することによって行われる。典型的な1実施形態においては、該方法は、後方の支配(posterior dominance)の状況を利用している。「後方の支配」とは、HOX遺伝子における現象であって、そこでは、同一の細胞内で2つのHOX遺伝子の双方が発現されている場合に、1個のHOX遺伝子がより前方にある1個のHOX遺伝子の活性を妨げることである。そのような細胞中での前方のHOX遺伝子の活性化は、より後方の遺伝子の機能を単に阻害することで行うことができる。別の典型的な実施形態においては、シグナル伝達経路は間接的に活性化される。例えば、hedgehog(HH)経路は構成的に活性な経路であり、シグナルはsmoothened(SMO)細胞表面7回膜貫通型タンパク質起源で、プロテインキナーゼA(PKA)活性を抑制するために有効である。SMOと別の膜貫通タンパク質であるpatched(PTC)との相互作用によって構成的に活性化されたレセプターのシグナル伝達が妨げられ、その経路のリプレッサーであるPKAが抑制される。HHが存在する場合には、HHはPTCと結合し、SMOがそのシグナルを中継できるようにするが、それにはPKAの抑制も含まれる。このように、HH経路は2つの方向のうちの1つ、すなわちPTCもしくはPKA活性のいずれかの阻害によって、間接的に活性化することができる。上述の典型的な実施形態においては、後方のHOX遺伝子、PKA、もしくはPTCの阻害もしくは拮抗は、標準的な分子生物学手法、例えばアンチセンス核酸もしくはアンタゴニスト抗体の使用、またはドミナントネガティブ変異体の発現によって行うことができ、これらについては上記の第5.3.2節で述べている。当業者であれば、本節で述べた特定の実施形態が単に典型例を述べたに過ぎないものであることは明白であろう。阻害剤の拮抗という原理は、対象とする細胞運命制御経路のどのようなものに対しても応用しうるものである。
特定の1実施形態においては、より後方のHox遺伝子の発現が存在する状態での、ある1つのHox遺伝子経路の活性化は、該Hox遺伝子経路の過剰発現を含んでいる。
5.7. 細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニスト
細胞運命制御遺伝子経路機能のアンタゴニストは、細胞運命制御遺伝子経路機能を低減させるもしくは阻害する薬物である。上述の技法を用いて、細胞運命制御遺伝子経路機能と拮抗するために前駆細胞を操作することが可能である。
1実施形態においては、細胞運命制御遺伝子経路機能の拮抗は、細胞運命制御遺伝子の発現もしくは少なくとも細胞運命制御遺伝子経路の1成分の発現を妨げるようなアンチセンス核酸によって媒介される。アンチセンス法については上記の第5.4節に述べている。この実施形態の好ましい1態様においては、該アンチセンス核酸は、細胞運命制御タンパク質もしくは細胞運命制御遺伝子経路の1成分をコードするRNA転写物の配列特異的な部分に対して相補的でハイブリダイズしうるような15から50の塩基数の範囲のDNAオリゴヌクレオチドである。この実施形態の別の好ましい1態様においては、該アンチセンス核酸は、組換え法、例えば、転写されるとアンチセンスRNAを産生させるような配列を有するベクターから、作製される。この実施形態のまた別の1態様においては、該アンチセンス核酸は、50〜5,000の範囲の塩基対を有する二本鎖RNA分子である。
別の1実施形態においては、上記アンタゴニストは少なくとも1つの細胞運命制御遺伝子経路成分の機能を、例えば転写因子のDNAへの結合をブロックすること、もしくはシグナル伝達経路の2つの成分間の相互作用をブロックすることによって阻害しうる抗体である。
また別の1実施形態においては、細胞運命制御遺伝子経路アンタゴニストは、その経路のリプレッサーをコードする核酸、もしくはリプレッサータンパク質それ自体である。その核酸もしくはタンパク質は上記の第5.1節に記載の方法で調製することができる。転写因子であるような細胞運命制御タンパク質の場合には、該リプレッサータンパク質は阻害性の2量体化パートナー、その転写因子のドミナントネガティブ型(例えば、DNA結合ドメインを含んでいるが転写活性化ドメインを欠損している)、もしくはDNA結合の競合物とすることができる。シグナル伝達分子であるような細胞運命制御タンパク質の場合には、該リプレッサーは、その経路のドミナントネガティブ成分、例えば細胞外ドメインのみを含んでいる末端切断型レセプター、もしくはその経路のリプレッサーのドミナントアクティブ 変異型とすることができる。
細胞運命制御遺伝子経路の活性化と同様に、その経路の不活化も直接的である必要はない。第5.6節に記載の細胞運命制御遺伝子経路の間接的活性化のための典型的実施形態を参照すれば、細胞運命制御遺伝子がHOX遺伝子である場合には、HOX遺伝子経路の不活化は、より支配的でより後方のHOX遺伝子経路の活性をその細胞中にもたらすことによって行うことができる。HH経路の場合には、その経路の阻害は、PKAのドミナントアクティブ型、例えば調節ドメインのない触媒ドメインを提供することによって行うことができる。
5.8. Notchおよび細胞運命制御遺伝子経路のアゴニストおよびアンタゴニストのスクリーニング
本発明は、Notch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストをスクリーニングするための方法を提供し、該方法には、細胞中の細胞運命制御遺伝子経路機能を、細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとその細胞とを接触させ、同時にその細胞を被験のNotch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストで処理し、次いでその細胞を細胞運命制御が起こるような条件にかけ、その細胞での細胞運命の変化を調べることを含む方法によって変えることが含まれる。被験化合物をNotch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとして同定するためには、その被験化合物で誘発された細胞運命の変化が、細胞運命制御遺伝子経路機能を変化させていない方法によって誘発された細胞運命の変化とは異なったものでなければならない。
本発明はさらに、細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストをスクリーニングする方法を提供し、その方法には、細胞中のNotch経路機能を、Notch経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとその細胞とを接触させ、その細胞を細胞運命制御遺伝子経路機能の被験アゴニストもしくはアンタゴニストで処理し、一方その細胞を細胞運命制御が起こるような条件にかけ、その細胞の細胞運命の変化を調べることを含む方法によって変えることが含まれる。被験化合物を細胞運命制御遺伝子経路機能のアゴニストもしくはアンタゴニストとして同定するためには、その被験化合物で誘発された細胞運命の変化が、Notch経路機能を変化させていない方法によって誘発された細胞運命の変化とは異なったものでなければならない。
細胞運命の変化は、当業者には公知の方法、例えば、分化を検出するための細胞形態の変化を測定するか、またはDNAもしくは細胞性タンパク質中へのブロモデオキシウリジン(BrDU)もしくは35S-メチオニンの取り込みによって増殖率の変化を測定するか、あるいはアクリジンオレンジの取り込みによってアポトーシスを測定するための方法によって検出することができる。
5.9. 前駆細胞の採取および培養
本発明で細胞運命が変えられた細胞は、本明細書では「前駆細胞」と呼ぶ。前駆細胞は一次細胞もしくは細胞系統、またはどのような種から得たものでも良く、そのような種としては限定はされないが、ヒト、動物、植物、哺乳動物、脊椎動物、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、鳥類、昆虫、ショウジョウバエ(Drosophila)および線虫(C. elegans)が含まれる。
前駆細胞は、いかなる分化状態のいかなる細胞でもよい。必要があれば、最終段階まで分化した前駆細胞が新たな細胞運命の指示に対して応答するように、例えばNotchを発現している最終段階まで分化した細胞中のNotch経路の活性をまず阻害することによって処理される。前駆細胞が最終段階まで分化していない場合には、その前駆細胞集団はその運命を、例えばその細胞中のNotch経路を活性化することによって変える前に、増殖させることができる。あるいはまた、その前駆細胞集団を、例えば細胞運命制御経路の活性を停止させた後に細胞中のNotch経路の活性を維持させ、その細胞を増殖条件下で培養することによって、形質転換させた後に増殖させることができる。さらに、その前駆細胞は、所望により、Notchおよび細胞運命経路の活性化の前もしくは後に、細胞集団から単離することができる。Notch経路の活性化は、好ましくは、その細胞をNotchリガンド、例えば水溶性の形態のもの、または組換えによって細胞表面に発現させたもの、もしくは固体表面に固定化したものと接触させるか、あるいはその細胞内に、ドミナントアクティブ Notch変異体もしくは活性化するNotchリガンド、またはNotch経路を活性化するその他の分子を発現する組換え核酸を導入することによって行われる。
1実施形態においては、前駆細胞は、その細胞を、Notch経路および任意により細胞運命制御遺伝子経路の活性を変えることのできるタンパク質および核酸と、直接的に接触させることによってin vivoで操作することができる。別の1実施形態においては、その前駆細胞はin vitroで操作される。本発明の方法による細胞のin vitro操作のためには、当業界で既知のいかなる方法、例えば個体の組織からもしくは細胞系統から直接的によって得られ培養された前駆細胞を用いることができる。下記の典型的な実施形態は、前駆細胞および前駆細胞含有組織の単離のためのアプローチを述べたもので、それらは本発明のNotchおよび細胞運命制御遺伝子経路のアゴニストで処理される対象となるものである。既に説明しているとおり、単離された細胞型もしくは細胞集団の混合物もまた本発明の方法で処理することができる。単離された前駆細胞もしくは前駆細胞集団は、Notchおよび1つ以上の細胞運命制御遺伝子経路機能を変えることによって、それらの運命に変化を与える前もしくは後に、ex vivoでNotch機能アゴニストの影響下および細胞増殖条件下で細胞数を増やすために培養することができる。その操作された細胞集団を移植に用いる場合には、その細胞もしくはその子孫の細胞が所望の遺伝子産物を発現するように、移植前に組換え遺伝子をその細胞中に導入することができる。組換え遺伝子の導入は前駆細胞の操作の前もしくは後のいずれかで行うことができる。
好ましい1実施形態においては、該前駆細胞集団は精製されるかもしくは少なくとも高度に濃縮される。しかし、本発明の方法によって前駆細胞の運命を操作するためには、前駆細胞が純粋な集団である必要はない。混合物を処理した後に所望の集団を選択して精製することができる。さらに、in vivoでの治療的な投与の前に精製することは必ずしも必要でなく、または望ましくもない。
1実施形態においては、細胞の運命を操作する前もしくはその後に前駆細胞の細胞数を増やすために、Notch経路機能が活性化された前駆細胞は、増殖を誘導する細胞増殖条件にかけられる。そのような細胞増殖条件(例えば、増殖がin vitroで行われる場合には、細胞培地、温度など)は、当業界で一般的に知られているいかなる条件とすることもできる。好ましい1実施形態においては、Notch活性化および細胞増殖条件への曝露はin vitroで行われる。
本発明で用いるための前駆細胞の単離は、当業者には一般的に知られている多数の方法のいずれによっても行うことができる。例えば、前駆細胞を単離するための一般的な方法の1つは被験体から細胞集団を採取し、示差的な抗体結合を用いるもので、その方法では1種以上のある分化段階の細胞が分化抗原に対する抗体と結合し、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を単離細胞の集団から選択した分化抗原を発現している所望の前駆細胞を分離するために用いる。以下の節では、種々のタイプの細胞の典型的な単離法を述べる。さらに、当業界で既知のいかなる方法も利用することができる。
好ましい1実施形態においては、該前駆細胞は幹細胞である。
5.9.1. 間葉細胞
5.9.1.1. 幹細胞
治療用途に最も重要なタイプの始原細胞の1つは間葉由来のものである。間葉性始原細胞は。非常に多数の別個の組織のもととなる(Caplan, 1991, J. Orth. Res. 641-650)。現在までに行われた研究の大多数は、軟骨細胞および骨芽細胞へと分化しうる細胞の単離と培養に関するものである。適切な始原細胞集団を単離するために開発されたシステムは、最初にニワトリ胚で用いられた(Caplan, 1970, Exp. Cell. Res. 62:341-355; Caplan, 1981, 39th Annual Symposium on the Society for Development Biology, pp.37-68; Caplanら, 1980, Dilatation of the Uterine Cervix 79-98; DeLucaら, 1977, J. Biol. Chem. 252:6600-6608; Osbodyら, 1979, Dev. Biol. 73:84-102; Syftestadら, 1985, Dev. Biol. 110:275-283)。条件は、そのもとでニワトリの間葉細胞が分化して軟骨細胞および骨となるような条件と定義された(同一の文献)。軟骨と骨に関しては、マウスもしくはヒトの間葉性辺縁(limb)の性質は同一ではないかもしれないが非常に類似していると考えられる(Caplan, 1991, J. Orth. Res. 641-650)。骨および軟骨に分化しうる間葉細胞は骨髄からも単離されている(Caplan, 1991, J. Orth. Res. 641-650)。
Caplanら, 1993, およびCaplanら, 1996(それぞれ米国特許第5,226,914号および第5,486,359号)は、骨髄から間葉性幹細胞を単離するための典型的な方法について述べている。これらの単離された骨髄性幹細胞を、Notch試薬と共に用いてその幹細胞集団の細胞数を増やすために用いられる。これらの、任意でNotchもしくはその他の試薬を用いて細胞数を増やした前駆細胞は、次いでさらに上述の本発明の方法によって分化させることができる。それらの細胞は、好ましくは骨細胞、軟骨、軟骨細胞、脂肪細胞などに分化する。
骨髄の単離プロトコールはいくつか報告されており、始原細胞もしくは前駆細胞を得るために用いることができる。ラットの骨髄から得た単一細胞の懸濁液をGoshimaら, 1991, Clin. Orth. and Rel. Res. 262:298-311の方法に従って調製することができる。骨髄からのヒト幹細胞培養物は、Babら, 1988, Bone Mineral 4:373-386によって報告されているとおり調製することができるがそれは下記のとおりである。5例の患者から完全な骨髄細胞を得る。骨髄サンプルを腸骨稜もしくは大腿骨中軸(midshaft)のいずれかから分離する。3mLの骨髄サンプルを、50U/mL ペニシリンおよび0.05mg/mL硫酸ストレプトマイシン含有の6mLの無血清最少基本培地(MEM)に移す。単一細胞を主とする懸濁液は、既に報告されているとおり(Babら, 1984, Calcif. Tissue Int. 36:77-82; Ashtonら, 1984, Calcif. Tissue Int. 36:83-86)、シリンジに調製物を吸い込み、それを19、21、23、および25ゲージの注射針を通して何回か押し出すことによって調製される。その細胞は、固定容量血球計で細胞数を計測し、濃度を懸濁液1mLあたりの合計骨髄細胞数で1〜5×10個に調整する。陽性および陰性対照の細胞懸濁液を既に報告されているとおり(Shteyerら, 1986, Calcif. Tissue Int. 39:49-54)、ウサギの完全な骨髄細胞および脾臓細胞を用いてそれぞれ調製する。
5.9.1.2 結合組織
結合組織には、線維芽細胞、軟骨、骨、脂肪、および平滑筋が含まれる。線維芽細胞は結合組織細胞のうちで最も分化の程度の低いもので、体全体の結合組織に分散している。線維芽細胞は、I型および/もしくはIII型コラーゲンの特徴的な分泌によって同定することができる。線維芽細胞は組織創傷部に移動し、創傷を治癒させ分離するコラーゲン様マトリクスを分泌する。さらに線維芽細胞は、その局所における指示の如何によって、結合組織ファミリーの他のメンバーに分化することができる。線維芽細胞の柔軟性、すなわち多くの細胞型に分化しうることのみならず、培養液中での細胞増殖の容易性および迅速な分裂も線維芽細胞の有用性である。従って線維芽細胞は当業者にはよく知られている基礎的な組織培養技法を用いて増殖させることができ、容易に入手可能な多数の文献、例えばFreshney, 1994, Culture of Animal Cells, 第3版、Wiley-Liss Inc. New Yorkに述べられている。これらの特徴があるので線維芽細胞は本発明の方法の実施のための前駆細胞として好ましい。
5.9.1.3 内皮細胞
内皮の膜の関連組織からの単離および分離はSchnitzerら, 米国特許第5,610,008号に記載されている。さらに、内皮培養技法はいくつかの化学文献に記載されている(例えば、Haudenschildら, 1976, Exp. Cell Res. 98:175-183; FolkmanおよびHaudenschild, 1980, Nature 288:551-556)。ヒトでは、内皮細胞はヒトの臍静脈から(Jaffeら, 1973)、ヒト脂肪細胞から(Kernら, 1983, J. Clin. Invest. 71:1822-1829)、および真皮毛細血管から(Davisonら, 1983, In Vitro 19:937-945)の単離が成功をおさめている。通常は、それらの細胞を周囲の組織からコラゲナーゼ処理によって放出させ、適切な基質上に増殖因子の存在下で増殖させる(Zetter, 1994, 「動物細胞の培養」"Culture of Animal Cells" 第3版, Wiley-Liss Inc., New York, p.334中の記載を参照せよ)。
5.9.2. 神経外胚葉細胞
5.9.2.1 神経幹細胞
中枢神経系の神経発生は出生前もしくはその直後に停止すると一般的には考えられている。近年、いくつかの研究で、成熟した脊椎動物の脳に少なくともある程度の新たなニューロンが追加され続けることを示す証拠が提出されている(Alvarez-BuyllaおよびLois, 1995, 「幹細胞」"Stem Cells"(Dayt) 13:263-272)。前駆細胞は通常は脳室の壁に位置している。これらの増殖性領域から、神経前駆体は、微小環境がそれらが分化するようにと誘導する標的位置まで動く。脳室下の領域から得た細胞がin vivoならびにin vitroでニューロンを作り出すことができるとの複数の研究が報告されており、これらはAlvarez-BuyllaおよびLois, 1995, 「幹細胞」"Stem Cells(Dayt)" 13:263-272中に総説されている。
成体脳から得た神経前駆細胞を神経移植のための細胞源として用いることができる(Alvarez-Buylla, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2074-2077)。神経堤細胞(crest cell)もまたそれらが存在する微小環境からの指示を受けて移動し、種々の神経細胞タイプに分化することのできる多能性神経細胞であると長く考えられてきた(LeDouarinおよびZiller, 1993, Curr. Opin. Cel Biol. 5:1036-1043)。
成熟したニューロンおよびグリアは当業者には既知の方法によって単離することができる。
5.9.2.2. 内分泌細胞
甲状腺、副甲状腺、および膵臓の内分泌細胞は、Coonらによって米国特許第5,888,816号および第5,646,035号に記載された方法で単離し培養することができる。
5.9.3. 胎児細胞
胎児の脳組織を成体の障害を受けた脳に移植すると明白な行動上の影響を及ぼすという事実は、神経変性性疾患を改善するために設定された移植プロトコールでのヒト胎児組織が細胞源となりうるものとして関心を呼んだ(Bjorklund, 1993, Nature 362:414-415; McKay, 1991, Trends Neurosci. 14:338-340)。それにも関わらず、倫理的、ならびに実際的な考慮すべき事項があるため、胎児組織は取り扱いの難しい供与源となっている。胎児性のものもしくはその他のもののいずれであっても、神経幹細胞をNotch機能アゴニストを用いて細胞数を増加させることによって、移植目的の前駆細胞を所望の量で得るための別の方法が提供される。前駆細胞を含有する胎児組織もしくは成体組織は、未分化の始原細胞集団の細胞数を増加させるために、前述のとおりNotch機能アゴニストで処理することができる。胎児細胞を、例えばSabateら, 1995, Nature Gen. 9:256-260によって開発されたプロトコールを用いて、Notch機能アゴニストで処理する前に一次培養中に置くことができる。限定するものではないが例示としては、その方法は次のとおりである:ヒト胎児脳細胞の一次培養は、法律に則って妊娠の5〜12週後の人工妊娠中絶から得たヒト胎児から単離することができる。エコー像で制御しつつシリンジを用いた緩徐な吸引によって娩出を行うことができる。滅菌冬眠(hibernation)培地中に集めた胎児を立体顕微鏡下で無菌フード内で解剖する。脳をまず摘出し、そのまま全部を、ペニシリンG 500U/mL、ストレプトマイシン 100μg/mL、およびフンギゾン 5μg/mL含有の冬眠培地中に入れる。6週〜8週齢の胎児の脳を、髄膜を注意深く除去した後、前部(終脳の小嚢および間脳)ならびに後部画分(中脳、橋、および小脳(enlage))および後部全体に分離した。より週齢の遅い胎児では、増殖性の前駆細胞を含有しているものと予測される海馬線条体、皮質、および小脳域を、立体顕微鏡下で可視化し別々に解剖する。細胞を、加熱して不活化した15%ウシ胎児血清(FBS)(Seromed)を含むOpti-MEM(Gibco BRL)、もしくはヒト組換えbFGF(10ng/mL, Boehringer)を含む所定の無血清培地(DS-FM)に移すが、その培地は、ブドウ糖6g/L、グルタミン 2mM(Gibco BRL)、インスリン25μg/mL(Sigma)、トランスフェリン 100μg/mL(Sigma)、セレン酸ナトリウム 30nM(Gibco BRL)、プロゲステロン 20nM (Sigma)、プトレシン 60nM(Sigma)、ペニシリンG(500U/mL)、ストレプトマイシン 100μg/mL、およびフンギゾン 5μg/mLでBottenstein-Sato培地39を少し改変したものである。1cmあたり約40,000個の細胞を37℃で10% CO2を含む雰囲気中でゼラチン(0.25%wt/vol)でコートした組織培養皿(Falcon もしくはNunc)中で増殖させ、次いでMatrigel(Gibco BRL、ラミニン中で濃縮し、1:20に希釈した増殖因子の痕跡量を含有する基底膜抽出物)中で増殖させる。移植のための所望の細胞塊となるまで、適切な細胞集団の細胞数を増大させるために、培養液中の細胞を、Notch機能アゴニストで処理することができる。
5.9.4. 造血細胞
本発明のこの実施形態においては、造血幹細胞(HSC)のin vitroでの単離、増殖、および維持を行うことのできるいかなる技法でも用いることができる。このようなことを行うことのできる技法としては、(a)将来宿主もしくはドナーとなるものから単離した骨髄細胞からのHSC培養物の単離と確立、または(b)既に確立された長期間維持されたHSC培養物であって、同種のものもしくは異種のものとすることができるが、その使用が含まれる。非自己のHSCは、好ましくは将来の宿主/患者の移植免疫反応を抑制する方法と共に用いられる。本発明の特別な1実施形態においては、ヒト骨髄細胞は針による吸引によって後腸骨稜から得ることができる(例えば、Kodoら, 1984, J. Clin. Invest. 73:1377-1384を参照せよ)。本発明の好ましい1実施形態においては、HSCは高度に濃縮したものもしくは実質的に純粋な形で作ることができる。この濃縮は、長期の培養の前、その最中、もしくは後に行うことができ、当業界で既知のいかなる技法によっても行うことができる。骨髄細胞の長期培養は、例えば、改変Dexter細胞培養技法(Dexterら, 1977, J. Cell Physiol. 91:335)、もしくはWhitlock-Witte培養技法(WitlockおよびWitte, 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:3608-3612)を用いて確立し、維持することができる。
HSC単離のための別の1技法についてはMilnerら, 1994, Blood 83:2057-2062に述べられている。骨髄サンプルを得て、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心によって分離し、洗浄し、2色間接免疫蛍光抗体結合を用いて染色し、次いで蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって分離する。その細胞は、CD34造血幹細胞(例えば個々の系統関連抗原、CD34lin、の発現を欠いている未成熟なサブセット)を骨髄から集めた細胞中から単離されるように、IgG抗体を用いて同時に標識する。
造血始原細胞が好ましい場合には、造血始原細胞および/もしくはそれらの子孫の細胞の存在を、一般的に知られているin vitroコロニー形成アッセイ(例えばCFU-GM, BFU-Eを検出するアッセイなど)によって検出することができる。別の1例として、造血幹細胞のアッセイ法も当業界では既知である(例えば、脾臓細胞増殖巣形成アッセイ、再プレーティング後の始原細胞の形成能を検出するアッセイ)。
5.9.5. 上皮細胞
5.9.5.1. 幹細胞およびケラチノサイト
上皮幹細胞(ESC)およびケラチノサイトは、皮膚および腸の内層などの組織からから既知の方法で得ることができる(Rheinwald, 1980, Meth. Cell Bio. 21A:229)。皮膚などの層化された上皮組織では胚性層(基底層に最も近接した層)内の前駆細胞の有糸分裂によって再生が起こる。腸の内層内の前駆細胞はこの組織の急速な再生速度をもたらす。患者もしくはドナーの皮膚もしくは腸の内層から得られたESCを組織培養液中で増殖させることができる(Rheinwald, 1980, Meth. Cell Bio. 21A:229; PittelkowとScott, 1986, Mayo Clinic Proc. 61:771)。
5.9.5.2. 唾液腺上皮細胞
形質転換されていない唾液腺上皮細胞の培養および増殖条件はChopraによって米国特許第5,462,870号に述べられている。
5.9.5.3. 肝幹細胞
肝幹細胞は1994年4月28日付のPCT公開WO 94/08598号に記載の方法によって単離することができる。
5.9.5.4. 成熟した肝細胞
コラゲナーゼ-肝臓-灌流法が、ラット(Seglenら, 1976, 「細胞生物学における方法」"Methods in Cell Biology", D.M. Prescott編, 第XIII巻, pp.29-83, Academic Press, New York)およびヒト(Butterworthら, 1989, Cancer Res.49:1075-84)の双方から肝細胞を単離するための方法として報告されている。脂質結合グルコサミノグルカン基質の使用を含む適切な培養条件についてはYadaらにより米国特許第5,624,839号に述べられている。
5.9.5.5. 乳腺細胞
特定の1実施形態においては、本発明の前駆細胞として望ましい上皮細胞集団は乳腺上皮細胞を含むものである。乳腺上皮細胞は米国特許第4,423,145号の方法に従って単離することができる。
5.9.5.6. 子宮頸管細胞
子宮頸管のケラチノサイトは、表皮ケラチノサイトを培養するための方法の変法を用いて培養することができ(StanleyとParkinson, 1979, Int. J. Cancer 24:407-414)、その方法には2つのステップ、すなわち一次培養および二次培養が含まれている。その一次培養には、解離させた上皮を組織培養フラスコもしくはプレート中へ接種することが含まれ、それは血清、増殖因子、および放射線処理もしくはマイトマイシン-Cを添加した Swiss 3T3 線維芽細胞の存在下で行われる。。二次培養は線維芽細胞支持細胞上で増殖させる。
5.9.5.7. 腎幹細胞
哺乳動物の腎臓は、究極的には成熟した尿収集系を形成するような一連の形態学的な動きを行う尿管芽(uteric bud)を誘導する後腎間葉から発生する(NigamとBrenner, 1992, Curr. Opin. Nephrol. Huper 1:187-191)。尿管芽、それはウォルフ管の上皮が増殖したものであるが、胚の生涯の早期において上皮の多様性の分化経路に沿う隣接した間葉の縮小と濃縮を誘導する。in vitroでこのプロセスを研究しようとの試みが報告されている。臓器培養中で、胚性脊髄をインデューサーとして用いて尿細管を形成させるために後腎を誘導することができる。in vivoでの尿管芽による、もしくはin vitroでの脊髄による後腎間葉の誘導をもたらすような特異的変換剤は知られていないが、細胞特異的マーカーによってその分化プログラムが始原細胞中で誘導されていることが示される(Karpら, 1994, Dev. Biol. 91:5286-5290)。
5.9.5.8. 成熟した腎細胞
成熟した腎臓には種々の細胞型が含まれている。それらの多くの単離もしくは分離は科学文献に述べられている(例えば、Taubら, 1989, In Vitro Cell Dev. Biol. 25:770-775; Wilsonら, 1985, Am.J. Physiol. 248:F436-F443; SmithとGarcia-Perezら, 1985, Am.J.Physiol. 248:F1-F7; Pizzoniaら, 1991, In Vitro Cell Dev. Biol. 27A:409-416)。さらに、成熟したヒト腎臓の一次培養物の培養法も報告されている(Detresacら, 1984, Kidney Int. 25:383-390; Statesら, 1984, Biochem. Med. Metab. Biol. 36:151-161; McAteerら, 1991, J. Tissue Cult. Methods 13:143-148)。説明のための1例においては、近位腎尿細管の特性を有する成体腎細胞の培養の主な特徴は次のとおりである:外層の皮質組織切片の進行性酵素的消化;培養用の単一細胞の採取;血清の存在下でのプラスチックのフィーダー層上での高密度の細胞の増殖(Kempsonら, 1989, J. Lab. Clin. Med. 113:285-296)。
5.9.5.9 肺の上皮細胞
均一な肺の上皮細胞系統を米国特許第5,364,785号の方法に従って単離し培養することができる。
気管支及び器官細胞の培養を成功させる因子は無血清培地であり、それは最終段階までの分化を妨げ、線維芽細胞の増殖に対して選択性を有する(LaVeckおよびLechner, 1994, 「動物細胞の培養」"Culture of Animal Cells", 第3版, Wiley-Liss Inc., New York, p.325)。
5.10. 遺伝子治療
Notchおよび細胞運命制御遺伝子経路の操作によって作製される細胞は、組換えによって作製され、遺伝子治療に用いることができる。広義には、遺伝子治療とは核酸を被験体に投与することによって行われる治療を意味する。その核酸は、直接的もしくは間接的にそれがコードするタンパク質を介して、その被験体に治療的効果を伝達する。本発明は、治療的価値のある(好ましくはヒトに対して)タンパク質をコードする核酸が、本発明の方法にしたがって操作された前駆細胞中に、操作の前もしくは後、および、該核酸が前駆細胞および/もしくはその操作された子孫の細胞によって発現可能となるように細胞数の増大が行われる場合にはその前か後に導入され、その後にその組換え細胞を被験体に投与することとなるような遺伝子治療の方法を提供する。
本発明の組換え前駆細胞は、当業界で利用可能な遺伝子治療のいかなる方法でも用いることができる。このようにその細胞中に導入された核酸は所望のタンパク質、例えばある疾患もしくは障害で欠失しているもしくは機能を失っているタンパク質をコードすることができる。下記の説明は、そのような方法の例示となることを意味している。個々に説明した方法が遺伝子治療で利用可能な全方法のうちの1つのサンプルに過ぎないことは当業者であれば容易に理解しうるであろう。
遺伝子治療の方法の一般的な総説としては、Lundstrom, 1999, J.Recept. Signal Transduct Res. 19:673-686; RobbinsおよびGhivizzani, 1998, Pharmacol. Ther. 80:35-47; Pelegrinら, 1998, Hum. Gene Ther. 9:2165-2175; HarveyおよびCaskay, 1998, Curr. Opi. Chem.Biol. 2:512-518; GuntakaおよびSwamynathan, 1998, Indian J. Exp. Biol. 36:539-535; DesnickおよびSchuchman, 1998, Acta Paediatr. Jpn. 40:191-203; Vos, 1998, Curr. Opin. Genet. Dev. 8:351-359; TarahovskyおよびIvanitsky, 1998, Biochemistry(Mosc) 63:607-618; Morishitaら, 1998, Circ. Res. 2:1023-1028; Vileら, 1998, Mol. Med. Today 4:84-92; BranchおよびKlotman, 1998, Exp.Nephrol.6:78-83; Ascenzioniら, 1997, Cancer Lett. 118:135-142; ChanおよびGlazer, 1997, J. Mol. Med. 75:267-282を参照せよ。組換えDNA技法として用いることのできる当業界で一般的に知られている方法に関してはAusubelら(編), 「分子生物学の今日のプロトコール」"Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley & Sons, NY; およびKriegaer, 1990, 「遺伝子移送と発現、実験室マニュアル」"Gene Transfer and Expression", Stockton Press, NYに述べられている。
遺伝子治療に組み換え前駆細胞が用いられる1実施形態においては、患者の体内での発現が望ましい遺伝子は、前駆細胞および/もしくはその操作された子孫の細胞によって発現可能となるように前駆細胞中に導入され、その組換え細胞は次いで治療効果を発現させるためにin vivoで投与される。
操作された組換え細胞は、当業者がこの開示内容を考慮して考えるような適切な遺伝子治療の方法のいかなるものにおいても用いることができる。患者に投与された組換え操作細胞がその結果としてもたらす作用は、例えば、患者の体内でのあらかじめ選択しておいた遺伝子の活性化もしくは阻害であり、このことがその患者に害を及ぼしている疾病状態の改善をもたらすこととなる。
所望の遺伝子は、組織培養中の前駆細胞もしくは操作された細胞へ、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウムによって媒介されるトランスフェクション、もしくはウイルス感染などの方法によって導入することができる。通常は、移送方法には選択マーカーのその細胞への導入が含まれる。次いでその細胞を選択にかけ、導入された遺伝子を取り込んで発現している細胞を単離する。次いでそれらの細胞を患者に送達する。
この実施形態においては、所望の遺伝子は、上記の結果得られた組換え細胞のin vivo投与の前に前駆細胞もしくは操作された細胞中に導入される。そのような導入は、当業界では既知のいかなる方法によっても行うことができるが、そのような方法としては限定はされないが、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、その遺伝子配列を含有しているウイルスもしくはバクテリオファージベクターでの感染、細胞融合、染色体が媒介する遺伝子導入、微小核体が媒介する遺伝子導入、スフェロプラスト融合などが挙げられる。外来遺伝子の細胞内への導入については非常に多数の方法が当業界では知られており(例えば、LoefflerおよびBehr, 1993, Meth. Enzymol. 217:599-618; Cohenら, 1993, Meth. Enzymol. 217:618-644; Cline, 1985, Pharmac. Ther. 29:69-92を参照せよ)、レシピエントとなる細胞に必要な発生上のおよび生理学的な機能が破壊されない限りは、本発明で用いることができる。その技法は遺伝子が導入された細胞によって発現可能で、好ましくはその細胞の子孫にも遺伝されて発現されるものとなるような、その遺伝子の安定な導入をその細胞にもたらすものでなければならない。
遺伝子治療の一般的な実施方法の1つは、レトロウイルスベクターを使用することによるものである(Millerら、1993,Meth.Enzymol.217:581-599参照)。レトロウイルスベクターは、あらかじめ選択した遺伝子を組み込むことによって、その遺伝子の発現に影響を与えることができるように改変されたレトロウイルスである。レトロウイルスの天然DNA配列の多くがレトロウイルスベクター中で必須ではないことがわかっている。レトロウイルスの天然DNA配列の小さなサブセットのみが必要である。一般的には、レトロウイルスベクターはそのウイルスゲノムのパッケージングおよび組み込みに必要なcis作用性配列を全部含んでいなければならない。これらのcis作用性配列とは以下のものである:
a) ベクターの各末端の長末端反復配列(LTR)、もしくはその一部分;
b) マイナスおよびプラス鎖DNA合成のためのプライマー結合部位;ならびに
c) ゲノムRNAのビリオン中への組み込みに必要なパッケージングシグナル。
遺伝子治療において使用する遺伝子をこのベクター中にクローン化し、そのベクターの前駆体細胞中への感染もしくは送達によって、その細胞中への遺伝子の送達を行う。
Boesenら、1994,Biotherapy 6:291-302中で、レトロウイルスベクターについてさらに詳細を知ることができるが、ここには造血幹細胞にmdrl遺伝子を送達してその幹細胞を化学療法に対してさらに耐性にするための、レトロウイルスベクターの使用が記載されている。遺伝子治療におけるレトロウイルスベクターの使用を説明するその他の参照文献として以下のものがある:Clowesら、1994,J.Clin.Invest.93:644-651;Kiemら、1994,Blood 83:1467-1473;SalmonsおよびGunzberg,1993,Human Gene Therapy 4:129-141;ならびにGrossmanおよびWilson,1993,Curr.Opin.in Genetics and Devel.3:110-114。
アデノウイルスも遺伝子治療で使用される。アデノウイルスは呼吸器前駆体細胞に遺伝子を送達するための特に魅力的なビヒクルである。アデノウイルスは、肝臓、中枢神経系、内皮および筋肉に由来する前駆体細胞に遺伝子を送達するために使用することもできる。アデノウイルスは非分裂細胞に感染することができるという利点がある。KozarskyおよびWilson,1993,Current Opinion in Genetics and Development 3:499-503、はアデノウイルスを基礎とする遺伝子治療の総説を提供している。遺伝子治療におけるアデノウイルスの使用のその他の例は、Rosenfeldら、1991,Science 252:431-434;Rosenfeldら、1992,Cell 68:143-155;およびMastrangeliら、1993,J.Clin.Invest.91:225-234、に見出すことができる。
遺伝子治療においてアデノ随伴ウイルス(AAV)を使用することが提案されている(Walshら、1993,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.204:289-300)。また、遺伝子治療においてアルファウイルスを使用することも提案されている(Lundstrom,1999,J.Recept.Signal Transduct.Res.19:673-686)。
遺伝子治療におけるその他の遺伝子送達方法として、哺乳動物人工染色体(Vos,1998,Curr.Op.Genet.Dev.8:351-359);リポソーム(TarahovskyおよびIvanitsky,1998,Biochemistry(Mosc)63:607-618);リボザイム(BranchおよびKlotman,1998,Exp.Nephrol.6:78-83);および三重鎖DNA(ChanおよびGlazer,1997,J.Mol.Med.75:267-282)が含まれる。
所望の遺伝子を細胞内に導入し、相同組換えによって、発現するように宿主前駆体細胞DNA内に組み込むことができる(KollerおよびSmithies,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:8932-8935;Zijlstraら、1989,Nature 342:435-438)。
特定の1実施形態において、遺伝子治療の目的で導入しようとする、前駆体もしくは操作した細胞中で組換え発現した所望の遺伝子に、コード領域に機能し得るように連結した誘導性プロモーターを含有させて、適切な転写のインデューサーの存在もしくは不在を制御することによって、その組換え遺伝子の発現を制御し得るようにする。
好ましい1実施形態において、前駆体もしくは操作した細胞中で組換え発現させた所望の遺伝子は、その機能が本発明の方法によって細胞の運命の変更を誘発するものか、または操作した細胞に治療価値を持たせるものかにかかわらず、Cre部位に隣接する。その遺伝子の機能がもはや必要でない場合は、例えば誘導性もしくは組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されたLoxをコードする配列を含む核酸を補充するか、または核インターナリゼーションシグナルに機能し得るように連結されたLoxタンパク質を補充することによって、組換え遺伝子を含む細胞にLoxタンパク質を含有させる。Loxリコンビナーゼは、Cre配列を組換えて(Hamiltonら、1984,J.Mol.Biol.178:481-486)、その過程において、この実施形態によって所望の遺伝子の核酸を含有している介在配列を切り取るように機能する。この方法は組換え遺伝子発現を操作するために使用されて成功している(Fukushigeら、1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7905-7909)。あるいは、FLP/FRT組換え系を使用して、部位特異的組換え法によって遺伝子の存在および発現を制御することができる(BrandおよびPerrimon,1993,Development 118:401-415)。
本発明の好ましい1態様において、黄斑変性の治療の目的で、NotchおよびPax6をコードする核酸を使用する遺伝子治療を行なう(下記第5.10.4節参照)。眼球遺伝子治療のための好適な手法がda Cruzら、1997,Aust.NZJ.Opthalmol.25:97-104、に記載されている。
5.11. 本発明の操作細胞の使用
5.11.1. ”バイオリアクター”細胞系
本発明の1実施形態において、治療用途があるタンパク質、すなわち操作細胞から想定される細胞の運命とその発現が関係しているタンパク質を大量に製造するために使用するバイオリアクター細胞系として、その操作細胞を使用する。好ましい1実施形態において、操作細胞を、その治療用タンパク質を産生するように特異化する。例えば、ホルモンもしくは成長因子などの分泌産物の製造のためのバイオリアクター細胞系を作製するために、内分泌腺もしくは乳腺細胞などの分泌用に細胞を特異化する。治療用の価値があるタンパク質は操作細胞によって内在性発現させてもよい。あるいは、上記の第5.4節に記載した方法、例えば基礎プロモーターに機能し得るように連結させた、また好ましくは誘導性プロモーターに機能し得るように連結させた治療用タンパク質をコードする組換えDNA分子を含むベクターで細胞をトランスフェクトすることによって、操作細胞を遺伝子操作して、治療用タンパク質を発現させることができる。1実施形態において、バイオリアクター細胞は、培養中に容易には成長しないため、前駆体細胞系として増殖させ、また培養して、治療用タンパク質の発現の誘導の直前に、Notchおよび細胞運命制御遺伝子経路によって操作される操作細胞である。1実施形態において、治療用タンパク質をコードするベクターでトランスフェクトする細胞は前駆体細胞、すなわち本発明の方法による細胞の操作の前のものである。別の実施形態において、治療物質をコードするベクターでトランスフェクトする細胞は操作細胞、すなわち本発明の方法によって前駆体細胞の運命を変更した後のものである。
好ましい1実施形態において、操作されたバイオリアクター細胞は成長因子(例えば繊維芽細胞成長因子(FGF))、血小板由来増殖因子(PDGF)および表皮成長因子(EGF)を発現する。
5.11.2. 組織および器官モデル
本出願の方法は、医学および薬学研究などの研究のため、組織および/または器官モデルとして使用するための特定の組織タイプの操作細胞を提供するために、使用することができる。操作細胞を皮膚、肝臓、腎臓、心臓、骨その他のためのモデルとして使用することができる。操作細胞を使用して、組織および細胞の正常なホメオスタシスに関与する因子を同定し;病的状態、外傷もしくは感染中の組織中で特発する変化を研究し;治療用剤、例えば薬剤、ホルモン、成長因子および遺伝子治療用ベヒクルを試験し;各種の化合物、例えば薬剤もしくは食品添加剤もしくは美容剤の毒性または発癌性をアッセイする;などが可能である。特定の1実施形態において、本発明の方法によって製造した操作細胞を、美容剤、日焼け用剤、日焼け防止剤その他を試験するための皮膚モデルとして使用することができる。別の特定の実施形態において、本発明の方法によって製造した操作細胞を、肝炎ウイルス単独もしくは合併した感染のため、および肝炎感染の治療用薬剤をスクリーニングするための肝臓モデルとして使用することができる。
5.11.3. 癌の治療
本発明の特定の1実施形態において、本発明の方法は、望ましくない永久増殖細胞、例えば癌細胞などの細胞タイプ中でのプログラムされた細胞死を促進または誘導することを目的とする。これは好ましくは本発明の方法にしたがって細胞死を誘導するポリペプチドおよび/または核酸とその細胞をin vivoで接触させることによる。
本発明の方法によって治療することができる癌として、限定するわけではないが、以下のものが含まれる:ヒト肉腫および癌腫、例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、軟骨腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑腺腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮細胞癌、基底層細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、セミノーム、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、グリオーム、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、脳室上皮腫、松果体腫、血管芽腫、聴覚神経腫、希突起グリオーム、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、網膜芽腫;白血病、例えば急性リンパ性白血病および急性骨髄性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性および赤白血病);慢性白血病(慢性骨髄球(顆粒球)性白血病および慢性リンパ性白血病);ならびに血球増加vera、リンパ腫(ホジキン病および非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、およびH鎖病。
5.11.4. 神経系障害および損傷の治療
補給および復元を必要とし、またin vitroで分化することができ、かつ移植によって補充することができる細胞タイプが関与する神経系障害を、本発明の方法によって治療することができる。これらとして限定するわけではないが、神経系の損傷、ならびに軸索の離断、ニューロンの縮小もしくは退行、または脱髄の結果を招く疾病もしくは障害が含まれる。本発明にしたがって(ヒトおよび非ヒト哺乳動物病体を含む)患者を治療することができる神経系病変として、限定するわけではないが、(脊髄、脳を含む)中枢もしくは末梢神経系のいずれかの以下の病変が含まれる:
(i) 肉体の損傷に起因するかまたは外科処置にともなう病変を含む外傷性 病変、例えば神経系の一部を断裂する病変、または圧迫損傷;
(ii) 脳梗塞もしくは虚血、または脊髄梗塞もしくは虚血を含む、神経系の 一部の酸素の欠乏の結果として神経損傷もしくは死に至る、虚血性病変;
(iii) 神経系に関係する悪性または非神経系組織に由来する悪性のいずれか である悪性組織によって神経系の一部が破壊されるか損傷している、悪性病変;
(iv) 例えば膿瘍による感染の結果として、あるいはヒト免疫不全ウイルス 、帯状ヘルペス、もしくは単純ヘルペスウイルスによる感染またはLyme病、結核、梅毒に関係して、神経系の一部が破壊されるか損傷している、感染性病変;
(v) 限定するわけではないがパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病もしくは筋萎縮性側索硬化症に関連する退行を含む退行過程の結果として、神経系の一部が破壊されるか損傷している、退行性病変;
(vi) 限定するわけではないが、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症、ウェルニッケ病、タバコ-アルコール性弱視、マルキアファバ-ビグナミ病(脳梁の原発退行)、アルコール性小脳退行を含む、栄養障害もしくは代謝障害によって、神経系の一部が破壊されるか損傷している、栄養疾患もしくは障害に関係する病変;
(vii) 限定するわけではないが、糖尿病(糖尿病性ニューロパシー、ベル麻痺)、全身性エリテマトーデス、癌、もしくはサルコイドーシスを含む、全身性疾患に関係する神経学的病変;
(viii) アルコール、鉛もしくは特定の神経毒素を含む、毒性物質に起因する病変;ならびに
(ix) 限定するわけではないが、多発性硬化症、ヒト免疫不全ウイルスに関連するミエロパシー、横断ミエロパシーもしくは各種の発症因子、進行性多源性白質脳症、および橋中心髄鞘崩壊症を含む脱髄疾患によって、神経系の一部が破壊されるか損傷している、脱髄性病変。
特定の1実施形態において、本発明にしたがって治療することができる運動ニューロン障害として、限定するわけではないが、運動ニューロンと同時に神経系のその他の構成要素に影響する梗塞、感染、毒素への曝露、外傷、外科処置による損傷、退行性疾患もしくは悪性疾患などの障害、ならびに筋萎縮性側索硬化症などのニューロンに選択的に影響を与える障害が含まれ、さらには限定するわけではないが、進行性脊髄筋萎縮症、進行性延髄不全麻痺、原発性側索硬化症、小児性および若年性筋萎縮症、小児期進行性延髄麻痺(Fazio-Londe症候群)、ポリオおよびポリオ後症候群、ならびに遺伝性運動知覚ニューロパシー(Charcot-Marie-Tooth病)が含まれる。
5.11.5. 組織もしくは器官の復元または移植
本発明の1実施形態において、再生および修復過程中に組織を補充もしくは復元するために、本発明の治療薬を使用することができる。別の実施形態において、本発明の治療薬を使用して、内耳の感覚上皮の退行性もしくは外傷性障害を治療することができる。
本発明のさらに別の実施形態において、本発明の方法によって産生された器官、組織もしくは細胞を移植して、疾病によって弱体化した組織、例えば肝組織、肺組織、膵臓組織、皮膚、軟骨、骨、造血細胞、腸、心臓、腎臓その他に取り代わるかこれらを復元するために、本発明の治療薬を使用することができる。肝炎などの疾病、硬変もしくは毒性投薬によって肝臓が弱体化するか破壊された患者に肝組織を移植することができる。肺腫瘍の除去後にそれ自身の肺が十分な機能を提供することができない患者の肺機能を補充するために、肺組織を使用することができる。同様に、腸組織を使用して、癌手術後に、除去された腸の部分を復元することができる。軟骨移植は小児の耳および鼻の欠損の修復に好適である。皮膚移植片は火傷の患者のために使用される。膵臓細胞の移植は膵臓除去後(例えば癌手術後)、または重症糖尿病の治療のために好適である。後者の場合、インスリンを発現するように遺伝子操作された膵臓細胞を使用するのが好ましい。骨組織は欠損した骨の復元もしくは補充のために移植することができる。骨移植片は身体中で新しい骨組織の形成のための骨格として使用されることが多い。例えばHashimoto甲状腺腫によって甲状腺の機能性細胞が破壊されている患者に、甲状腺組織を移植することができる。例えば糖尿病もしくは感染によって角膜の機能を喪失した患者のために、角膜移植が好適である。例えば、後天性免疫不全症候群、または癌治療のための放射線曝露もしくは化学療法の結果として、易感染性もしくは免疫抑制性であるか、または免疫不全である患者に、造血もしくは免疫細胞を投与して、その投与した細胞が必要な免疫もしくは造血機能を果たすようにすることができる。
最も好ましい実施形態において、本発明の方法は黄斑変性の治療において使用するための網膜色素上皮を提供する。黄斑変性は主として加齡に関係する疾病であって、黄斑、すなわち詳細の識別および読取りを可能にする眼の部分、の光受容体および網膜の変性をもたらす。黄斑変性は盲目の主要な原因で、50才を超える集団の約10%、また75才を超える集団の約30%の、種々の割合で発生する。現在は、黄斑変性の進行を防止または遅延させるために利用し得る効果的な治療法はない。この実施形態の1様式において、上記のように、本発明の方法を利用して同一の細胞タイプを製造することによって、網膜色素上皮をin vitroで作製することができる。好ましい様式の1実施形態において、網膜色素上皮および/または神経上皮を含む黄斑部分にNotchおよびPax6経路の両方を活性化する作用がある1治療薬を接触させることによって、網膜色素上皮をin vivoで作製することができる。1態様において、その治療薬は、(第5.9節に記載したように)遺伝子治療用ベクターに担持させたNotchもしくは(第5.3節に記載したような)Notch経路の1メンバーの活性形態をコードする核酸を含む。きわめて好ましい1態様において、治療薬は、好ましくは医薬として許容される担体とともに、核内部挿入シグナルに機能し得るように連結した、(第5.3節記載の)活性Notchタンパク質もしくはリガンドおよびPax6タンパク質である。
当業者は上記の実施形態が単なる例であることを理解するであろう。本発明の治療薬は細胞もしくは組織の補充を必要とするどんな疾病にも適用することができる。
5.11.6. 美容への適用
美容外科の多くの態様には、人体への外来の物体の導入が関与する。限定するわけではない1例において、豊胸術はシリコーンもしくは生理食塩水を入れたサックの挿入を含む。これらのサックは破裂もしくは漏出の危険があって、不利な副作用の原因となり、また女性が幼児に授乳するのに妨げとなる。したがって、形成外科患者からの細胞を本発明の方法によって操作して、乳房組織に入れ、また1実施形態においては、操作した組織を生理食塩水もしくはシリコーンサックの代わりに移植することができる。別の実施形態において、操作細胞の乳房移植物を乳房切除術後に使用する。
5.11.7. 被覆移植物
移植物の生体適合性を改善するかまたは移植物に生物活性を与える目的で、合成移植物または人工臓器を被覆するために、本発明の操作細胞を使用することができる。人工臓器は、例えば形成もしくは関節復元手術における外科適用で使用されることが多い。人工移植物に好ましい材料は金属であり、通常はチタンである。ただし、その他の材料、例えばセラミックスも使用することができる。人工臓器は移植部位に合成セメントで固定することが多い。最近は、移植物を薄い多孔質の材料で被覆して、移植物を包んでいる多孔質層内に周囲の組織が増殖できるようにしている。しかし、こうした人工移植物を移植の部位に見られる細胞タイプで包みこむことの方が望ましい。この方が固定および組み込みがよりうまく促進されると考えられるからである。人工臓器の被覆に使用するために、人工移植物の部位に見られる組織のタイプの細胞を作製する方法が強く要請されている。したがって、本発明の1態様において、操作細胞を、ヒトへの移植のための人工臓器を被覆するために使用する。操作細胞によって被覆する人工臓器として、限定するわけではないが、(例えば膝、肩および股)関節用材、心臓弁復元物、椎間板移植物、耳小骨復元物および骨(例えば大腿骨、脛骨)再形成のための平板/杆状物が含まれる。好ましい1実施形態において、人工移植物を被覆するために使用する操作細胞はその個体について自己由来である。
5.12. 移植の方法
所望の遺伝子を組換え発現するかどうかに関わらず、本発明の操作細胞集団を、移植する幹細胞のタイプおよび移植部位にとって適切な当分野で既知の任意の方法によって、疾患もしくは傷害の治療または遺伝子治療のために、患者に移植することができる。造血細胞は静脈内に移植することができ、肝臓に局在させる肝細胞も同様とする。神経細胞は脳内の傷害もしくは疾患の部位に直接移植することができる。皮膚細胞は移植片、火傷の治療、その他のために使用することができる。(上記のように)移植前の人工臓器の被覆のために、間葉細胞を使用することができる。
導入方法として限定するわけではないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内および硬膜外経路が含まれる。治療薬は任意の好都合な経路、例えば、注入もしくはボーラス注射、上皮もしくは皮膚粘膜(例えば、口粘膜、肛門および腸粘膜その他)への貼りつけによる吸収、によって投与することができ、またその他の生物活性薬剤とともに投与することもできる。投与は全身性または局所性とすることができる。その上、本発明の医薬組成物を脳室内およびクモ膜下注入を含む、任意の好適な経路によって、中枢神経系に導入することも望ましい。脳室内注入は、例えばリザーバ(reservoir)、Ommayaリザーバなど、に取り付けた脳室内カテーテルによって促進することができる。
特定の1実施形態において、本発明の治療薬を治療が必要な部位に局所的に投与するのが望ましい。これは、限定するわけではないが、例えば手術中の局所注入、局所適用、例えば手術後に傷包帯と組合せたもの、注射、カテーテルの使用、または移植物によって達成することができる。この移植物とは、sialastic膜などの膜もしくはファイバーを含む、多孔質、非多孔質またはゼラチン材料である。
以下に、操作細胞の移植のために改変することができる代表的な方法を記載する:ヒトにおける胎児組織の単離および移植のためのプロトコルが報告されており、またこれらの研究に関与する臨床試験が実施された。例えば、Lindvallら、1990,Science 247:574-577、には移植片および脳中への移植後の胎児ドーパミンニューロンの生存についての結果が記載されている。必要ならば、Lindvallら、1989,Arch.Neurol.46:615、に記載された方法の改変によって、前駆体細胞の洗浄および部分的解離を実施することもできる。
例示として、脳中への細胞の移植を以下のように実施することができる。移植は、定位脳法によって左側被殻の3部位に実施する(Lindvallら、1989,Arch.Neurol.46:615)。各部位について、解離させた細胞 20μlを器具(外径 1.0 mm)中に入れる。細胞をそれぞれ10、12および14 mm線状索に沿って注入し、2.5μlずつそれぞれについて15〜20秒かける。各注入の間は、2分間の間隔を置き、次にカニューレを1.5〜1.7 mm引き戻す。最後の注入後、カニューレをin situで8分そのままにし、その後脳から徐々に引き抜く。処置後、Brundinら、1985(Brain.Res.331:251)の操作法にしたがって、細胞の生存を評価する。
別の例はCaplanら、1993,米国特許第5,226,914号に概説されている。簡単に述べると、骨髄プラグおよび髄間葉から髄細胞を収穫した後、幹細胞を遠心分離によって分離する。組織培養皿のプラスチックもしくはガラス表面への選択的付着によって、幹細胞をさらに単離する。幹細胞を分化させずに増殖させる。わずかに真空にして、細胞に60%ヒドロキシアパタイトおよび40%βリン酸トリカルシウムで構成される多孔質セラミックキューブを添加する。付着した細胞を含むキューブをヌードマウスの背中に沿った切開口中に移植する。間葉幹細胞は骨内で分化する。
好ましい1実施形態において、細胞移植物は自己由来である。別の実施形態において、その移植物は非自己由来である。特定の実施形態において、移植する細胞を本発明の方法にしたがって製造した器官もしくは組織タイプとすることができる。
特定の障害もしくは症状の治療に効果的な移植幹細胞の力価または本発明の治療薬の量はその障害もしくは症状の性質如何によって決まるもので、標準的臨床技術によって決定することができる。その上、最適の用量範囲を確定する助けとするために、場合によってはin vitroアッセイを利用することができる。その製剤中で使用すべき正確な用量も、投与の経路、および疾患もしくは障害の重篤度によって決まり、実務医の判断および患者の状況にしたがって決定すべきものである。
5.13. 医薬組成物
本発明は、治療上有効な量の組換えもしくは非組換え操作細胞を含む医薬(治療用)組成物の被験体への投与による、治療方法を提供する。治療用の使用を目的とするこうした操作細胞もしくは組換え操作幹細胞は以後本明細書において「治療薬」もしくは「本発明の治療薬」と称する。好ましい1態様において、治療薬は実質的に純化される。被験体は限定するわけではないが好ましくはカラス、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌその他の動物を含む動物であり、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
本発明は医薬組成物を提供する。こうした組成物は治療上有効な量の治療薬、および医薬として許容される担体もしくは賦形剤を含む。こうした担体として、限定するわけではないが、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組合せが含まれる。担体および組成物は無菌とすることができる。製剤は投与様式に適合しなければならない。
組成物に、所望ならば少量の湿潤化剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤をも含ませることができる。組成物は液状溶液、懸濁液もしくは乳化物とすることができる。
好ましい1実施形態において、人間への静脈投与用に適合させた医薬組成物として、組成物を常套的な操作にしたがって製剤することができる。典型的には、静脈投与用の組成物は無菌等張水性バッファー中の溶液である。必要ならば、組成物に可溶化剤および注射の部位の痛みを緩和するためのリグノカインなどの局所麻酔剤を含ませてもよい。
5.13.1. 医薬キット
本発明は、本発明の医薬組成物の1種以上の成分および/またはその医薬組成物を調製するための試薬を入れた1以上の容器を含む、医薬パックもしくはキットをも提供する。場合によって、こうした容器(群)に、医薬もしくは生物学的産物の生産、使用または販売を規制する国家機関によって規定された形式での注意書を添付することができる。この注意書はその機関によるヒト投与のための製造、使用もしくは販売の承認を反映するものである。
6. 実施例:Notchシグナリングおよび付属器官の個性の決定
どのようにして器官の個性(identity)が決定されるかは、発生生物学における基本的な疑問の1つである。ショウジョウバエにおいては、成虫原基、すなわち成体ハエの体幹および付属器官の原基が器官の個性の決定を研究するための独特のシステムを提供する。ホメオティック遺伝子の働きが器官の個性を決定する上で重要な役割を持つことは知られている。しかし、それら自体によっては、器官の個性を決定するための完全な指令のセットは提供されない。例えば、Antpは腹側(第2肢)および背側の両方の中胸構造(胸背板および翅)を誘導することができ、このことはホメオティック遺伝子はその状況に応じて器官ではなく体節を特定することを意味している。したがって、器官の個性の特定化についての問題は未解決のままである。以下に示す実施例において、器官発生の過程での(上記第2.3節に記載の)他の細胞運命制御遺伝子および(上記第2.2節に記載の)Notchの役割の分析について、記載する。Notchシグナリングはショウジョウバエの付属器官の個性を決定するための調節経路に関与するものと結論される。
6.1. 物質および方法
組織化学:免疫組織化学のために、期を確定した(staged)幼虫を冷リン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)中で細分し、氷上で25分、PEM(100 mM Pipes pH6.9、2 mM MgSO4、1 mM EGTA、4%ホルムアルデヒド)中で固定した。PBT(0.3%Triton X-100を含有するPBS)で洗浄後、4℃で2時間、PBTB(0.3%Triton X-100および5%ウシ血清アルブミンを含有するPBS)中でブロッキングを実施した。一次抗体として以下のものを使用して、4℃で一晩、抗体染色を実施した:マウス抗βガラクトシダーゼ(Promega)、1:1,000;ラット抗ELAV48、1:20;ラット抗EY(Halderら、1998,Development 125:2181-2191)、1:300;マウス抗MYC(Calbiochem)、1:100、マウス抗DLL(Diaz-Benjumeaら、1994,Nature 372:175-179)、1:10;およびウサギ抗VG(Williamsら、1991,Genes Dev.5:2481-2495)、1:200。DTAFおよびCy3とコンジュゲートしたロバ抗IgG群(Jackson Immunoresearch)を使用して、免疫蛍光検出を実施した。PBTBで洗浄後、原基をPBS中で切断して、Vectashield(Vector)中にマウントした。エピ蛍光(epifluorescence)を装備しているZeiss Axiophot顕微鏡で、調製品を分析した。
記載されているように(Ashburner,1989,Drosophila,A Laboratory Manual,Protocol 77,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY)、βガラクトシダーゼ染色を実施した。クチクラ調製品については、成虫をPBS中で細分し、Faureマウント用媒体中にマウントした。走査電子顕微鏡試験のために、孵化直後のハエを70%アセトン中に浸漬した。臨界点乾燥後、それらをマウントし、金で被覆した。Hitachi S-88電界放出電子顕微鏡で6-12 kVで、標本を観察した。in situハイブリダイゼーションのために、プローブをdig-dUTPで標識し、ジゴキシゲニン抗体(Boehringer)によって検出した。
クローン解析:遺伝子型 w HSFlp;Su(H)SF8FRT40A/N-mycFRT40Aの幼虫中で、FLP/FRT技術を使用して、Su(H)突然変異クローンを誘導した。産卵の30-60時間後、39℃で2時間の熱ショックによって、クローンを誘導した。25℃で育成後、幼虫に38℃で2時間の熱ショックを与えて、MYC発現を誘導した。25℃で90分の回復後、眼の成虫原基を固定して、ラット抗EYおよびマウス抗MYC抗体で染色した。
6.2. 眼形態形成に対するNotchシグナリングの阻害および活性化の反対の効果
末端切断したNotch受容体の細胞内ドメインは構成的に活性化された状態(活性化Notch、Nact)に相当し、末端切断受容体の細胞外ドメインは機能喪失表現 型を模倣して、ドミナントネガティブ形態(ドミナントネガティブNotch、Ndn;Fortiniら、1993,Nature 365:555-557;Rebayら、1993,Cell 74:319-329)に相当する。眼の初期発生におけるNotchシグナリングの役割を調べるため、これらの末端切断形態を初期の眼の成虫原基中で発現させた。ey遺伝子の眼特異的エンハンサー(Hauckら、1999,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:564-9)を含むGAL4システム(Brand及びPerrimon,1993,Development 118:401-415)を使用して、眼発生の初期段階の眼原基をターゲットとしてNdn発現させた。この眼特異的エンハンサーは胚の眼原基中にNdn発現を誘導して、眼の形態形成期間中に発現を維持する。野生型眼-触角原基中のey発現とは対照的に、エンハンサーで駆動されるリポーター遺伝子発現は形態形成性溝の後方の分化している細胞ではダウンレギュレートされないが、眼原基全体、そして吻膜が形成されつつある触角原基の部分まで広がる(図1C)。しかし、触角原基内での活性化は原基によって相当変化し得る。eyエンハンサー-GAL4(ey-GAL4)ハエとGAL4のための上流活性化配列の制御下にあるNdnを保有するストック(stock)(UAS-Ndn)との交配の結果、全てのトランスヘテロ接合ハエにおいて、ey2突然変異体の場合と同様に、眼表現型の強い縮小となり(図1A)、眼発生におけるNotchシグナリングの重大な役割が示唆される。誤発現のHairless(H)ならびにドミナントネガティブ形態のDelta(Dl)およびSerrate(Ser)によるNotchシグナリングの阻害も眼の縮小もしくは完全な不在をもたらす(Goら、1998,Development 125:2031-2040;Sun及びArtavanis-Tsakonas,1997,Development 124:3439-3448)。
ey-GAL4ハエとUAS-Nact系との交配によるNotchシグナリングの活性化は有意なサナギの致死率をもたらすが、致死を免れたトランスヘテロ接合体のすべてが個眼の数の有意な増加をともなう眼の過形成を示した(図1B、D)。ey-GAL4 UAS-Nact幼虫の すべての眼原基中で原基の過成長が見られ、眼成虫原基の成長制御におけるNotchシグナリングの役割と一致する。さらに、致死を免れたものの約16%(19/119)が頭部の吻膜上に異所性眼を形成した(図1B、D)。異所性眼の誘導の頻度はこの異所性眼が形成される触角原基の部分でのey-GAL4の可変性発現に対応しているらしい。
分化している光受容体細胞を同定するためのELAV抗体および間接的にNactタンパク質の所在を決定するβガラクトシダーゼ抗体をそれぞれ使用し、遺伝子構成がey-GAL4 UAS-lacZ UAS-Nactの二重トランスヘテロ接合体幼虫の眼-触角原基の免疫染色によって、異所性眼の形成部位とNactを発現する細胞との間の関係をさらに調べた。眼原基の強い過形成はlacZの発現(図1E)及びELAVの発現と関係があり、光受容体細胞のクラスターが触角原基内の異所性眼形成部位で観察されることが明らかとなった(図1F)。これらの結果はNotchシグナリングの活性化が異所性眼の誘導と相関していることを意味する。しかし、末端切断受容体の発現の時間帯(time window)は重要である。NdnもしくはNactのいずれかが溝後方の全ての細胞のみでの発現を駆動するガラス(glass)プロモーター GMR-GAL4(Ellisら、Development 119:855-865)によって駆動されるトランスヘテロ接合体は表現型への弱い効果しか示さなかった。既報(Fortiniら、1993,Nature 365:555-557;Rebayら、1993,Cell 74:319-329)のように、Ndnは眼をざらざらにし、一方Nactは滑らかな眼表現型をもたらす。これらの知見は、眼形態形成に対するNotchシグナリングの強い効果は眼の発生の初期段階に限定されることを意味している。
6.3. Notchシグナリングはeyeless発現を調節する
Ndnの発現による縮小した眼表現型およびNactの発現による異所性眼の誘導は、ey の欠失および獲得突然変異体と類似するだけではなく、ey発生経路の下流で作用する2つの別の突然変異、眼不在(eya;Boniniら、1998,Development 124:4819-4826)およびdachshund(dac;Shen及びMardon,1997,Development 124:45-52)にも類似している。eyaおよびdacの発現のためにはeyの機能が必要であるが、その逆はない(Boniniら、1998,Development 124:4819-4826;Shen及びMardon,1997,Development 124:45-52;Halderら、1998,Development 125:2181-2191)。ショウジョウバエの第2のPax-6遺伝子、twin of eyeless(toy)が、ey発現を誘導することによって異所性眼を誘導することができる、eyの上流レギュレーターであることがわかった(Czernyら、1999,Mol.Cell 3:297-307)。
Notchシグナリングがeyおよびtoyの上流、あるいはeyaおよびdacのように下流のいずれで作用するかを判定するために、eyおよびtoyによる異所性眼の誘導に対するNdnの影響を研究した。UAS-NdnおよびUAS-eyの両方を保有するハエ、あるいはUAS-NdnおよびUAS-toyを保有するものと、dppエンハンサーGAL4系30(dpp-GAL4)を交配した。両交配からのトランスヘテロ接合体はすべてのハエで肢および翅上に異所性眼を表出した。異所性眼のサイズはトランスヘテロ接合体対照、dpp-GAL4 UAS-eyおよびdpp-GAL4 UAS-toyのそれぞれに類似していた。これらの結果は、Notchシグナリングはtoyおよびeyの下流には必要でなく、Notchが上流で作用することを示唆するという意味を持つ。したがって、eyおよびtoy発現に対するNotchシグナリングの活性化の影響を判定した。この目的のため、eyタンパク質を明示するための抗ey抗体およびNactを間接的に示すための抗βガラクトシダーゼ抗体を使用することによって、トランスヘテロ接合体 ey-GAL4 UAS-Nact,UAS-lacZからの眼-触角原基の二重免疫染色を実施した。Notchシグナリングの活性化によって、すべての眼原基において強化されたeyの発現が誘導された。さらに、eyの強い異所発現が観察された(図2B)。eyの異所発現のパターンはlacZの発現に対応し、Nactタンパク質の発現を反映する(図2A)。in situハイブリダイゼーションによるey発現の分析は、eyが転写レベルで誘導されることを示している。同様に、ey-GAL4 UAS-Nact幼虫の触角原基中でtoyの異所性発現も誘導された。これは、Notchシグナリングの活性化が触角原基でのtoyおよびey発現を誘導することができることを証明している。
正常の場合に発現される場所である眼原基中でeyの発現のためのNotchシグナリングの必要条件を調べるため、FLPリコンビナーゼ技術(Xu及びRubin,1993,Development 117:1223-1237)によって、Suppressor of Hairless(Su(H))突然変異についてホモ接合体の細胞のクローン-したがってこれはNotchシグナルを媒介することができない(Fortini及びArtavanis-Tsakonas,1994,Cell 79:273-282)-を眼原基中で産生させた。このクローン中およびその周囲でのey発現について、眼原基を調べた。眼原基中の形態形成性溝吻前方に作製されたSu(H)突然変異細胞はeyを発現することができなかったが(図3)、このey発現の不全はそのクローンに限局されており、Su(H)の要件は細胞自律性であることを示している(図3)。Su(H)突然変異クローンでは、成体眼構造は形成されなかったので、Notchシグナリングが眼の形態形成に必要であることを示している。これらの結果は、Notchシグナリングが眼の形態形成中のey発現を調節することを証明している。両リガンド、DlおよびSerともにNotch受容体を活性化することができ、そしてSu(H)はNotchの活性化を仲介してtoyおよびeyの発現を誘導する。
6.4. Eyeless突然変異体のバックグラウンドにおけるNotchシグナリングの活性化は異所性触角を誘導する
ey2低次形態(hypomorphic)突然変異においても、眼形態形成に対するNotchシグナリングの活性化の影響を試験した。生存したey-GAL4 UAS-Nactey2ハエの約72%(63/88)が縮小した眼を持つことがわかった。これらのハエのおよそ15%(13/88)が縮小した本来のものと縮小した異所性の眼の両方を持っており(図4A)、この状況下でNactが機能していることを意味している。別の低次形態突然変異のeyRでも、同様の結果が得られた。これらの結果からeyがNotchシグナリングの下流で作用することが確認される。
これらのハエの25%(22/88)において、Nactは異所性眼の他に、眼原基に由 来する頭部の側面に異所性触角をも誘導した。誘導された異所性触角の多くが3つの触角節の全部と端刺(arista)を持ち、完全であった(図4B)。もう1つの低次形態対立遺伝子であるeyRについても同様の結果が得られた。ey-GAL4 UAS-Nactey+ハエにおいては異所性触角は見られなかった(図1B、D)ので、これらの知見は、ey機能喪失突然変異バックグラウンドにおいて、Notchシグナリングが眼形態形成ばかりでなく、触角形成をも誘導することを意味している。
6.5. Antennapediaの異所性発現と組合せたNotchシグナリングの活性化は頭部に異所性翅および肢を誘導する
Nactが異所性眼と、特定の遺伝子バックグラウンドでは触角、の両方を誘導することができるという知見から、別の遺伝子状況下でNotchシグナリングがその他の付属器官の形成をも誘導するかもしれないという可能性が導かれた。この仮説を試験するために、Notchシグナリングの活性化とAntennapedia(Antp)の異所性発現を組合せた。後者は第2胸節(T2)の個性を決定することが知られており(Schneuwlyら、1987,Nature 325:816-818;Czernyら、1999,Mol.Cell 3:297-307)、これは背側に一対の翅と腹側に一対の第2肢を発生させる。この目的のため、ey-GAL4 UAS Nact UAS-Antpの構成のトランスジェニックハエを作製した。サナギの致死を免れたハエの約26%(17/65)が頭部に異所性翅を持つことがわかった(図5A)。ほぼ全部の異所性翅の構造が翅縁部の剛毛(2もしくは3列)で隔てられた背側および腹側の翅身(wing blades)で構成されるが、翅脈は欠失している。対照的に、vgの異所性発現によって誘導される翅構造では、翅縁部は形成されず(Kimら、1996,Nature 382:133-138)、NotchシグナリングおよびAntpはvgの上流で作用していることを示唆している。さらに、これらのハエの約17%(11/65)がその異所性触角組織の肢構造へ(例えば端刺の附節(tarsus)へ)の2次変換によって誘導された異所性肢構造を示した(図5B)。ey-GAL4 UAS-Antp対照ハエは何ら異所性翅構造を示さなかったが、明確に縮小した眼を示し、Antpの異所性発現がこれらの動物の眼原基でのeyを部分的に抑制することを示唆している。これらのハエのさらに10%(7/71)は本来の触角の肢構造への変換を示した。ey-GAL4 UAS-Nactハエの頭部には翅も肢構造も見られなかった(図1B、D)。したがって、ey-GAL4によって駆動されるAntpの異所性発現と組合せた場合のNotchシグナリングの活性化は頭部に翅および肢構造を誘導することができる。
6.6. Notchシグナリングは各種付属器官の個性を特定するマスター制御遺伝子を調節する
Notchシグナリングと形態形成を制御するその他の遺伝子の活性との共同作用の発生上の結果をさらに探究した。Notchシグナリングの活性化がその他の制御遺伝子を調節するかどうかを判定するため、Notchシグナリングを活性化させておいた眼原基をDllもしくはvgの誘導について調べた。Dllは腹側付属器官、すなわち肢および触角を特定し(Gorfinkielら、Genes Dev.11:2259-2271)、一方vgは翅および平均棍の個性を決定する(Kimら、1996,Nature 382:133-138;Weatherbec,S.D.ら、1996,Genes Dev.12:1474-1482)。これらの遺伝子、Dllおよびvgは、それぞれの付属器官のマスター制御遺伝子として、eyと完全に等価であるものとみなされるべきものではない。Notchシグナリングによって異所性構造を誘導したとき、試験した眼原基のすべてにおいてvgおよびDllの異所性発現が観察され、変換がすべての眼原基で遺伝子発現レベルで誘導されることを示唆している。
野生型幼虫では、DLLタンパク質は触角で発現されるが眼原基では発現されない(図8A)。眼原基から異所性触角を形成するey-GAL4 UAS-Nactey2動物で試験 した原基のすべて(30/30)において、有意なDLL発現が異所で検出された(図6B)。対照してみると、ey2対照幼虫の眼原基では、DLLの異所性発現が検出されなかった。ey-GAL4 UAS-Nactey+幼虫 30の内14において、触角原基の2,3の細胞中 でDLLの別の異所性発現が観察された(図6D)。このことは、Notchシグナリングが眼-触角原基中でのDllの異所性発現を誘導し、上記の触角の異所性発現を導くことを意味している。
vg遺伝子は野生型幼虫の翅で発現するが、眼原基では発現しない(Williamsら、1991,Genes Dev.5:2481-2495)。対照してみると、眼原基で異所性翅構造が誘導されるey-GAL4 UAS-Nact UAS-Antp動物において、試験したすべての眼原基(25/25)がVGタンパク質の有意な異所性発現を示した(図7B)が、ey-GAL4 UAS-Nact対照幼虫では、VGの異所性発現は検出されなかった。しかし、ey-GAL4 UAS-Antp幼虫は、試験した原基11のうち7において、眼原基の小領域でVG発現を示し(図7D)、vg発現に対する内在性Notch活性と異所性Antp発現の相乗効果と一致している。このように、Antp発現の状況下でのNotchシグナリングの活性化は眼原基においてvg発現を誘導する。その上、NotchシグナリングとAntp発現間には相乗効果がある。Notchシグナリング経路を使用して、D/V翅形成に必要なvg遺伝子の境界エンハンサーを特異的に活性化することが示された(Kimら、1996,Nature 382:133-138)。このエンハンサーは翅の異所性形成のためにも使用される可能性がある。
ey-GAL4 UAS-Nact UAS-Antpハエにおいて、試験した眼原基21のうち21につい て、DLL発現とともに、異所性肢も頭部に誘導された(図5B)。対照的に、ey-GAL4 UAS-Antp幼虫の眼原基では、DLL発現が検出されなかった。これはこれらの動物の成体表現型と一致している(図5)。
Notchシグナリングの翅形態形成についての重要な役割は確定している(Kimら、1996,Nature 382:133-138;Artavanis-Tsakonasら、1995,Science 268:225-232 ;Neumann及びCohen,1996,Development 122:3477-3485)が、正常な触角および肢の発生におけるその機能についてはわずかしか知られていない。これらの付属器官でのNotchの役割を研究するため、Dll-GAL4ハエをUAS-Ndn系からのハエと交配し、子孫の触角および肢の表現型を調べた。Dll-GAL4は肢および触角原基の両方の中心部分での発現を駆動し(Gorfinkielら、Genes Dev.11:2259-2271)、これはこれらの付属器官の末端節に相当する(Diaz-Benjumeaら、1994,Nature 372:175-179)。25℃では、トランスヘテロ接合体 Dll-GAL4 UAS-Ndnハエはサナギ期に死ぬが、18℃では、第3触角節が減退し、末端肢節の解体(disorganization)を示す生存体をいくらか見ることができる。生成した肢の表現型は温度感受性Dl突然変異体で観察されるものに類似しており(Parody及びMuskavitch,1993,Genetics 135:527-539)、Notchシグナリングが眼および翅形態形成だけでなく、触角および肢の発生においても重大な役割があるという結論を支持している。
各種の付属器官に対するNotchシグナリングの影響は、制御遺伝子によって提供される状況に応じて決まる。眼原基においては、Notchシグナリングはey発現を誘導し、これが眼の形態形成を導く下流遺伝子のカスケードを誘導する。Antpと連合して、Notchシグナリングは翅形成を導くvgを誘導する。低レベルのey発現では、Notchシグナリングは触角形態形成を導くDllを誘導する。肢の場合もNotchはDll発現を誘導し、これはAntpと連合して肢の形成を導く(Gorfinkielら、Genes Dev.11:2259-2271)。
6.7. 組合せ遺伝子相互作用が各種付属器官の個性を特定する
節の個性は各節に特定の組合せで活性であるホメオティック遺伝子によって特定される。所定の節内で、付属器官は別種の組合せの補助制御遺伝子によって特定される;眼はeyによって特定され、翅および平均棍はvgによって特定され;肢はDll、および触角はDllに、外小歯(extradenticle)(exd)および同胸(homothorax)(hth)と組合されて特定される(Casares and Mann,1998,Nature 392:723-726;Gonzalez-Crespoら、1998,Nature 394:196-200)。それらはすべてNotchシグナリングによって調節され、同一の細胞シグナリング経路を共有しており、このことは付属器官の特異性はNotchならびにホメオティックおよび補助制御遺伝子間の組合せ相互作用によって提供されることを意味している。これは、Notchが眼原基においてey発現を誘導するという証明によって説明される。しかし、第2胸節を特定するANTPの存在下では、Notchシグナルは眼原基に異所性vg発現を誘導し、その結果異所性翅構造が形成される。Carrollら(Carrollら、1995,Nature 375:58-61)は、マーカータンパク質 snailの発現によって判定した翅原基がAntpw20同型接合体突然変異胚中で適正に形成されることを発見し、Antpは翅の形成に必要でないかもしれないことを示唆した。しかし、これらの結果は、Antpが異所性翅の誘導に関与することを明確に示すものである。したがって、Antp機能も正常な翅の発生に必要であるとも考えられるので、この点はさらに究明しなければならない。
1制御遺伝子の別の遺伝子の発現による抑制は、発生経路が互いに排除し合うことによって中間の細胞タイプの形成を妨害することを確保するための、普遍的な機構であると見られる。Antpによるeyの抑制と同様に、eyはDllを直接または間接的に抑制する。低次形態ey突然変異体において、Notchシグナリングの活性化は眼原基でのDllの異所性発現を導き、野生型眼原基中ではeyがDllを抑制するらしいことを示唆している。dpp-GAL4 UAS-eyトランスヘテロ接合体ハエにおいて、dppエンハンサーの制御下で、eyが触角原基の後半部の腹側で発現される(図8D)が、一方その部位でDllは検出できない(図8C)。これらのハエの肢原基において、同様の相互に排他的な発現が見られ、eyはDll発現を抑制することが示唆される。
これらの知見に基づいて、共通のシグナル伝達機構から出発する眼と触角の経路間の差異を説明するためのモデルを提起する。NotchシグナリングはeyおよびDllの両方の発現を誘導する。しかし、眼原基において、eyはDllを抑制して眼形態形成を誘導する。対照的に、触角原基において、eyはリプレッサーによって抑制され、その結果Dllが発現して触角(腹部付属器官)特異性を与える。そのリプレッサーの可能な2つの候補はホメオボックス(homeobox)遺伝子のexdおよびhthである。なぜならば、触角の吻膜領域でのexdおよびhth突然変異クローンが異所性眼を発生させることができ、これはeyの脱抑制によるものと推定されるからである(Gonzalez-Crespo and Morata,1995,Development 121:2117-2125;Paiら、1998,Genes Dev.12:435-446)。exdおよびhthの両方ともがDllと連合して機能し、コリプレッサーとして作用するものと見られる。
6.8. 発生および進化におけるNotchシグナリングの基本的な役割
Notchシグナリングは眼形態形成の初期段階でey発現を調節する。したがって、Notch機能がホヤ(Honら、1997,Dev.Genes Evol.207:371-380)から哺乳動物(Bao and Cepko,1997,J.Neurosci.17:1425-1434)まで驚くほど保存されていることから、Drosophilaの範例から類推すると、Pax-6の発現がNotchシグナリングによって調節されると見られる。NotchシグナリングはDrosophilaの翅(Kimら、1996,Nature 382:133-138;Neumann and Cohen,1996,Development 122:3477-3485)および眼(Papayannopoulosら、1998,Science,281:2031-2034)の背側-腹側の型決定ならびに脊椎動物の手足(Rodriguez-Estebanら、1997,Nature 386:360-366;Sidowら、1997,Nature 389:722-725)に関与する。このように、Notchは脊椎動物および非脊椎動物の両方の付属器官形成の制御に関与する。Notchの発生における役割の記載(Flemingら、1997,Trends Cell Biol.7:437-441)において、分化、増殖もしくはアポトーシスの合図のいずれかの発生中のシグナルに応答するために、Notchシグナリングが個々の前駆体細胞の能力をモジュレートすることが提案された。本研究は、付属器官形成および器官発生を導く全発生プログラムの実行がNotch活性によって制御されることを示して、Notchの基本的な役割を拡張する。
本発明は本明細書に記載する特定の実施形態の範囲に限定されるべきものではない。実際、前記および添付する図面から、本明細書に記載したものの他に、本発明の各種の改変が当業者に明らかになるであろう。こうした改変は特許請求の範囲内のものであることを意図する。
本明細書に特許出願、特許および刊行物を含む各種の参照を引用したが、その開示の全部を参照として本明細書中に組み入れる。

Claims (69)

  1. 細胞のたどるはずであった細胞運命を改変する方法であって、
    (a)該細胞のNotch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストにin vitroで該細胞を接触させることあるいは該細胞を含む生物に該細胞のNotch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストを投与することを含む方法により、該細胞のNotch経路機能を改変すること、
    (b) ステップ(a)と同時に、該細胞の細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストにin vitroで該細胞を接触させること、あるいは該細胞を有する生物に該細胞の細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストを投与することを含む方法により、該細胞の細胞運命制御遺伝子経路の機能を改変すること、ここで、該細胞運命制御遺伝子経路は該Notch経路ではない、ならびに
    (c) 細胞運命を決定づける条件に該細胞を付すこと、
    を含んでなる、方法。
  2. Notch経路機能に対するアゴニストにin vitroで細胞を接触させることを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  3. 細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストにin vitroで細胞を接触させることをさらに含んでなる、請求項2に記載の方法。
  4. 細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストにin vitroで細胞を接触させることをさらに含んでなる、請求項2に記載の方法。
  5. 細胞を含む生物にNotch経路機能に対するアゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストとを投与することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  6. 細胞を含む生物にNotch経路機能に対するアゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストとを投与することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  7. Notch経路機能に対するアゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストとをコードしている1以上の核酸を、これらのアゴニストが細胞によって発現されるように、細胞に導入することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  8. Notch経路機能に対するアゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストとをコードしている1以上の核酸を、該アゴニストおよび該アンタゴニストが前記細胞によって発現されるように、細胞に導入することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  9. Notch経路機能に対するアゴニストがドミナントアクティブNotch突然変異体である、請求項1に記載の方法。
  10. アゴニストが精製されている、請求項1に記載の方法。
  11. Notch経路機能に対するアゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストとを組換え的に発現する1以上の細胞を生物に投与することを含んでなる、請求項5に記載の方法。
  12. Notch経路機能に対するアゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストとを組換え的に発現する1以上の細胞を生物に投与することを含んでなる、請求項6に記載の方法。
  13. Notch経路機能に対するアンタゴニストにin vitroで細胞を接触させることを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  14. 細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストにin vitroで細胞を接触させることをさらに含んでなる、請求項13に記載の方法。
  15. 細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストにin vitroで細胞を接触させることをさらに含んでなる、請求項13に記載の方法。
  16. 細胞を有する生物にNotch経路機能に対するアンタゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストとを投与することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  17. 細胞を有する生物にNotch経路機能に対するアンタゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストとを投与することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  18. Notch経路機能に対するアンタゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストとをコードしている1以上の核酸を、該アンタゴニストおよび該アゴニストが細胞によって発現されるように、前記細胞に導入することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  19. Notch経路機能に対するアンタゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストとをコードしている1以上の核酸を、これらのアンタゴニストが細胞によって発現されるように、前記細胞に導入することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
  20. Notch経路機能に対するアンタゴニストがドミナントネガティブNotch突然変異体である、請求項1に記載の方法。
  21. アンタゴニストが精製されている、請求項1に記載の方法。
  22. Notch経路機能に対するアンタゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストとを組換え的に発現する1以上の細胞を生物に投与することを含んでなる、請求項16に記載の方法。
  23. Notch経路機能に対するアンタゴニストと細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアンタゴニストとを組換え的に発現する1以上の細胞を生物に投与することを含んでなる、請求項17に記載の方法。
  24. 細胞運命制御遺伝子が転写因子をコードしている、請求項1に記載の方法。
  25. 転写因子がホメオドメインタンパク質である、請求項23に記載の方法。
  26. ホメオドメインタンパク質がPaxタンパク質である、請求項25に記載の方法。
  27. Paxタンパク質が、ヒトまたはマウスのPax-1、Pax-2、Pax-3、Pax-4、Pax-5、Pax-6、Pax-7またはPax-8、ならびにショウジョウバエ(Drosophila)のEyelessおよびTwin of Eyelessからなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
  28. ホメオドメインタンパク質がHoxタンパク質である、請求項25に記載の方法。
  29. Hoxタンパク質が、哺乳動物のHox A1-7、Hox A9-11またはHox A13;Hox B1-9;Hox C4-6またはHox C8-13;Hox D1、Hox D3-4またはHox D8-13;ならびにショウジョウバエ(Drosophila)のLab、Pb、Dfd、Scr、Antp、Ubx、Abd-AおよびAbd-Bからなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
  30. ホメオドメインタンパク質が、DLXタンパク質、LIMホメオドメインタンパク質、PBCタンパク質、MEINOXタンパク質、POUタンパク質、PTXタンパク質およびNKXタンパク質からなる群より選択される、請求項25に記載の方法。
  31. 転写因子が、Vestigialタンパク質、MADSドメインタンパク質、bHLHタンパク質、SOXタンパク質およびT-boxタンパク質からなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
  32. 細胞運命制御遺伝子がシグナリング分子をコードしている、請求項1に記載の方法。
  33. シグナリング分子が、Hedgehogタンパク質、WNTタンパク質、およびTGF β/BMPタンパク質からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
  34. 細胞を細胞増殖条件に付すことにより前記細胞を拡張して細胞集団を産生することをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
  35. 細胞移植片を提供することにより患者を治療する方法であって、請求項34に記載の方法に従って特定の細胞運命の細胞を産生することおよび該細胞を該患者に投与することを含んでなる、方法。
  36. 患者の黄斑変性を治療する方法であって、該患者の網膜色素上皮または網膜神経上皮のNotch経路機能を作動させることを含んでなる、方法。
  37. Pax6経路機能を作動させることをさらに含んでなる、請求項36に記載の方法。
  38. Notch経路機能を作動させることが、Notch経路機能に対するタンパク質アゴニストに網膜色素上皮または網膜神経上皮を接触させることを含む、請求項36または37に記載の方法。
  39. Notch経路機能に対するタンパク質アゴニストが、DeltaおよびSerrateからなる群より選択される、請求項38に記載の方法。
  40. Notch経路機能を作動させることが、Notch経路機能に対するアゴニストをコードしている核酸に網膜色素上皮または網膜神経上皮を接触させることを含む、請求項36または37に記載の方法。
  41. 核酸が、Notch、DeltaまたはSerrateのドミナントアクティブ突然変異体をコードしている、請求項40に記載の方法。
  42. 患者がヒトである、請求項37に記載の方法。
  43. Pax6経路機能を作動させることが、ヒトPax6をコードしている核酸に網膜色素上皮または網膜神経上皮を接触させることを含む、請求項42に記載の方法。
  44. Pax6経路機能を作動させることが、核インターナリゼーションシグナルに機能的に結合された組換えヒトPax6タンパク質に網膜色素上皮または網膜神経上皮を接触させることを含む、請求項42に記載の方法。
  45. 成熟細胞型の細胞運命を変化させる方法であって、
    (a) 該細胞のNotch経路機能に対するアンタゴニストにin vitroで該細胞を接触させること、あるいは該細胞を含む生物に該細胞のNotch経路機能に対するアンタゴニストを投与することを含む方法により、該細胞のNotch経路機能を拮抗させること、
    (b) ステップ(a)の後で、該細胞のNotch経路機能に対するアゴニストにin vitroで該細胞を接触させること、あるいは該細胞を有する生物に該細胞のNotch経路機能に対するアゴニストを投与することを含む方法により、該細胞のNotch経路機能を作動させること、
    (c) ステップ(b)と同時に、該細胞の細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストにin vitroで該細胞を接触させること、あるいは該細胞を含む生物に該細胞の細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストを投与することを含む方法により、該細胞の細胞運命制御遺伝子経路の機能を改変すること、ならびに
    (c) 細胞運命を決定づける条件に該細胞を付すこと、
    を含んでなる、方法。
  46. (a)Notch経路機能を改変する分子と(b)細胞運命制御遺伝子機能を改変する分子とを1以上の容器中に含んでなるキット。
  47. (a)の分子がアゴニストである、請求項46に記載のキット。
  48. (a)の分子および前記(b)の分子が精製されている、請求項46に記載のキット。
  49. (a)の分子が、ドミナントアクティブNotch突然変異体であるか、またはそのような突然変異体をコードしている配列を機能しうる形でプロモーターに連結して含む核酸である、請求項47に記載のキット。
  50. 細胞運命の改変が、組織型または器官型の変化である、請求項1、5、6、16または17に記載の方法。
  51. 細胞が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の方法。
  52. 細胞がヒト細胞である、請求項51に記載の方法。
  53. 細胞のたどるはずであった細胞運命を改変する方法であって、
    (a)該細胞のNotch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストにin vitroで該細胞を接触させること、あるいは該細胞を含む生物に該細胞のNotch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストを投与することを含む方法により、該細胞のNotch経路機能を改変すること、ならびに
    (b) 改変された細胞運命の細胞が産生されるまで、Notch経路機能に対する該改変を保持しながら、細胞運命を決定づける条件に該細胞を付すこと、
    を含んでなる、方法。
  54. 1以上の細胞により形成されるはずであったものとは異なる型の器官を形成する方法であって、
    (a)該器官のNotch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストにin vitroで該細胞を接触させること、あるいは該細胞を有する生物に該器官のNotch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストを投与することを含む方法により、1以上の細胞のNotch経路機能を改変すること、ならびに
    (b) 器官を形成する細胞集団が産生されるまで、Notch経路機能に対する該改変を保持しながら、器官分化および細胞増殖を引き起こす条件に該細胞を付すこと、
    を含んでなる、方法。
  55. Notch経路機能に対するアゴニストにin vitroで細胞を接触させることを含んでなる、請求項53または54に記載の方法。
  56. Notch経路機能に対するアンタゴニストにin vitroで細胞を接触させることを含んでなる、請求項53または54に記載の方法。
  57. 細胞を細胞増殖条件に付すことにより前記細胞を拡張して細胞集団を産生することをさらに含んでなる、請求項53または54に記載の方法。
  58. 細胞移植片を提供することにより患者を治療する方法であって、請求項53に記載の方法に従って特定の細胞運命の細胞を産生することおよび該細胞を該患者に投与することを含んでなる、方法。
  59. 器官移植片を提供することにより患者を治療する方法であって、請求項54に記載の方法に従って特定の型の器官を形成することおよび該器官を該患者に投与することを含んでなる、方法。
  60. 細胞が哺乳動物細胞である、請求項53または54に記載の方法。
  61. 細胞がヒト細胞である、請求項60に記載の方法。
  62. ステップ(a)と同時に、細胞の細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストにin vitroで細胞を接触させることあるいは細胞を有する生物に細胞の細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストを投与することを含む方法により、細胞の細胞運命制御遺伝子経路の機能を改変すること、ここで、該細胞運命制御遺伝子経路はNotch経路ではない、をさらに含んでなる、請求項54に記載の方法。
  63. Notch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストおよび前記細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストが精製されている、請求項1に記載の方法。
  64. 前記方法により生じる細胞運命がアポトーシスである、請求項1または53に記載の方法。
  65. 細胞がヒト細胞である、請求項63に記載の方法。
  66. 細胞が癌細胞である、請求項64に記載の方法。
  67. Notch経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングする方法であって、
    (a) 細胞の細胞運命制御遺伝子経路機能を改変すること、
    (b) 細胞運命を決定づける条件に該細胞を付しながら、Notch経路機能に対する1以上の試験アゴニストまたは試験アンタゴニストに該細胞を接触させるかあるいは該試験アゴニストまたは該試験アンタゴニストを該細胞中で組換え的に発現させること、ならびに
    (c) 該細胞の細胞運命が改変されたかを、該試験アゴニストまたは該試験アンタゴニストに接触させてもいないし該試験アゴニストまたは該試験アンタゴニストを発現してもいない細胞と比較して調べること、
    を含んでなる、方法。
  68. 細胞運命制御遺伝子経路機能に対するアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングする方法であって、
    (a) 細胞のNotch経路機能を改変すること、
    (b) 細胞運命を決定づける条件に該細胞を付しながら、細胞運命制御遺伝子経路機能に対する1以上の試験アゴニストまたは試験アンタゴニストに該細胞を接触させるかあるいは該試験アゴニストまたは該試験アンタゴニストを該細胞中で組換え的に発現させること、ならびに
    (c) 該細胞の細胞運命が改変されたかを、該試験アゴニストまたは該試験アンタゴニストに接触させてもいないし該試験アゴニストまたは該試験アンタゴニストを発現してもいない細胞と比較して調べること、
    を含んでなる、方法。
  69. 細胞のたどるはずであった細胞運命がアポトーシスである、請求項1または53に記載の方法。
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Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114196612A (zh) * 2019-05-16 2022-03-18 苏州吉美瑞生医学科技有限公司 支气管基底层细胞在制备治疗copd药物中的应用
CN114196612B (zh) * 2019-05-16 2024-03-12 苏州吉美瑞生医学科技有限公司 支气管基底层细胞在制备治疗copd药物中的应用

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