乳癌は、女性で最も普通のタイプの癌である。研究によれば、10名の女性につき約1名が人生のある時期に乳癌に罹患する。乳癌が症状に基づいて検出された場合、病気はしばしば回復のための予後が比較的悪い段階まで既に進行している。乳癌の症例の一部は、多くの国で、例えば、40歳を超えた女性のために用意されているスクリーニング計画で検出される。スクリーニングでは、癌がしばしば極めて早い段階で検出されるため、間に合うようにその治療を開始でき、回復する可能性がより高くなる。
マンモグラフィ撮影は、臨床試験法および追跡診断として、乳癌スクリーニングにおいて広く用いられている方法である。マンモグラフィ撮影は、この目的のために特別に設計された装置を用いてX線撮影を実施するX線診断法である。スクリーニング検査では、マンモグラフィは、90〜93%の感度および90〜97%の特異度(specificity)を有することが報告されている。これは、スクリーニング検査が有用で、スクリーニングによる乳癌の早期検出が人命を救えることを明らかに示している。マンモグラフィが、50歳を超えた女性で35%、40〜50歳の女性で25〜35%、乳癌死亡率を減少させることが立証されている。
マンモグラフィ撮影では、X線装置において2つのプレートの間で乳房の乳腺を圧迫し、平坦に圧迫された乳房にX線を当てて、少なくとも2つのX線画像を撮影する。一方は上方からであり、他方は斜め方向からのものである。必要に応じて、さらに、側方から第3の画像を正面(squarely)で撮影する。マンモグラフィ画像は、診断され、乳房内の種々の異常(anomaly)、例えば、石灰化、即ち、軟らかい乳房組織内のカルシウムの小さな沈着を検出する。石灰化は、一般に、乳房の感触によって検出できないが、マンモグラフィX線画像では見える。大きな石灰化は、一般に、癌と関連していないが、小さなカルシウム沈着のクラスタ、即ち、いわゆる微小石灰化は、特殊な乳腺細胞活動の兆候であり、乳癌と関連している可能性がある。マンモグラフィによって検出される他の特徴は、嚢胞(cyst)および線維腺腫(fibroadenomas)を含むが、これらは一般に乳癌と関連していない。
乳房は、マンモグラフィ画像の解釈において問題を引き起こしそうな幾つかの構造を含む。また、多くの沈着物が画像であまりよく見えず、軟らかく不明瞭な境界を有することがある。さらに、軟組織において、構造のコントラスト差がしばしば小さく、マンモグラフィ画像の解釈において更なる困難さをもたらす。他方では、乳房サイズの差に起因して、均一な品質の画像を作成することが困難である。
可能な限り信頼性の高い結果をマンモグラフィ撮影によって得るためには、画像品質は、分解能およびコントラストの両方に関して可能な限り良好である必要がある。マンモグラフィでは、乳房撮影用に特別に設計された、低エネルギー線を生成する放射線源が用いられる。その目的は、異なる乳房の厚さについて可能な限り小さい線量で、可能な限り高い品質の画像を得ることである。マンモグラフィ撮影での平均有効線量は、典型的には、撮影当たり約0.2mSvである。
マンモグラフィ装置において、25〜30kVの加速電圧および80mA超の電流が一般に用いられる。画像品質を改善するための1つの手法は、線量を増加させることであるが、これは放射線衛生学の理由により実用的でない。他の手法を採用して解決法を見つける必要がある
先行技術の特許明細書は、米国特許第5375158号を含む。これは、X線源で使用するアノード材料が特に銀であって、X線フィルタが、約30μmの厚さを有する銀フィルタである配置を使用することによって、画像品質を妥協することなく、患者が受ける線量を減少させることを目的としている。代替のアノード材料としてタングステンに言及している。これらの選択の目的は、20〜35keVのX線量子という大量のX線を生成することであると発表されている。
上記特許明細書に係る配置は、マンモグラフィ装置で用いられる他の配置と比べて、患者が受ける線量を減少させると考えられているようだが、我々の調査の観点からは、明細書に記載されているような規模の結果を生み出さないようである。
より一般的なレベルでは、デジタルマンモグラフィ撮影に関する技術において公表されている明細書も、例えば、タングステンアノードおよびいろいろなフィルタの使用に関する多くの研究を含むものであり、これらの調査では、その目的がパラメータ、例えば、画像品質、照射時間、X線管負荷、患者線量などの間でより良好な組合せ(妥協)を見つけることであった(例えば、文献(Flynn M. et al., Optimal radiographic techniques for digital mammograms obtained with an amorphous selenium detector, Med. Imaging 2003, Proceedings of SPIE Vol. 5030 (2003)))。Flynn M. et al.およびその他は、フィルタ材料厚さを50μm超に増加させることは意味がないという結論を出している。理由は、そうすることは、他のパラメータが関係する限り実質的な利点を達成することなく、過剰な負荷をX線管に与えるだけに過ぎないためである。
図1は、デジタルマンモグラフィ撮影用の配置の簡略化かつ一般化した図である。配置は、X線を生成する線源2と、上側圧迫プレート3と、下側圧迫プレート4とを含むマンモグラフィユニット1を備え、プレート間で、撮影する乳房が可能な限り平坦に圧迫される。乳房を通過したX線は、撮像センサ5に到達して、例えば、いわゆるダイレクトコンバージョン原理に従って、X線は電気信号に直接変換され、さらにデジタルデータに変換される。本発明の好ましい実施形態では、使用する検出器材料は、アモルファスセレン(aSe)である。
マンモグラフィユニット1は、マンモグラフィユニット1がこの配置と関連した他の構成、例えば、画像および関連データを保存するように設置された画像ワークステーション8および格納手段9と通信する通信手段6を含んでもよい。さらに、外部設備、例えば、内部および外部のデータネットワークおよび、これらを経由して異なるデータバンクまたは対応する用途との接続15を設けることが可能である。
図2は、本発明での使用に適用可能なX線源2を簡略化した図表形態で示す。線源2は、保護カバー内に収容されたカソード10と、回転アノード11とを備える。カソード10での電子は、カソードから放射されるように配置されており、アノード11に高速で衝突すると、電子の運動エネルギーの一部が、X線12(X線量子)を含む放射エネルギーに変換される。線源2には窓(図2では不図示)が設けられ、これを経由してアノード11から窓の方向に放射された量子は、放射線フィルタ13に向かう。
図3は、モリブデンアノード/モリブデンフィルタを含む先行技術の配置(Mo/Mo組合せ)によって生成可能なX線スペクトルを示す。図3において、横軸は量子エネルギーレベルを示し、縦軸は相対量子量(フォトン)を示す。図3に係るスペクトルは、Moフィルタ厚さ30μm、加速電圧34kV、電流80mAを用いて得られる。ここで、スペクトルの最大強度は、17.5keVのエネルギーレベルにあって、モリブデンに固有のものであり、第2ピークは、19.6keVのエネルギーレベルにある。平均エネルギーレベル、即ち、達成される量子の平均エネルギーレベルは18.1keVである。
Moフィルタは、いわゆるKエッジフィルタであり、低エネルギー線を効率的に吸収する。Moフィルタは、Kエッジより直ぐ上のスペクトルの高い側をきれいにカットする。このカット効果は、図3において19.6keVにある第2ピーク直後に量子数での大きな降下によって現れている。Mo/Mo組合せは、フィルムベースの撮影および薄い乳房の撮影にうまく適しており、組織層はこのエネルギーレベルの量子を著しく吸収しない。しかし、より厚い組織層の場合、この事情は相違する。
図4は、タングステンアノードおよび銀フィルタ(W/Ag組合せ)を用いた配置での、本発明の手法に係る1つの特定X線スペクトルを示す。この図において、いわゆるフィルタ無しX線の生スペクトルは破線で描かれ、フィルタ済みX線のスペクトルは実線で描かれている。この例では、Agフィルタは厚さ75μmであり、用いた加速電圧は40kVで、電流80mAである。図3に示したスペクトルと比較して、強度最大値は約25.8keVであり、平均エネルギーレベルは22keVである。組織を通過する量子数、即ち、高エネルギー量子数は増加し、組織に吸収される量子数は減少する。物体が受ける線量は減少するが、下記に説明するように、良好な撮影結果が達成可能になる。
ここで、画像がセンサでどのように形成されるについて状況を検討する。最初に、図5中の一点鎖線は、圧迫プレートに到達する放射線が1〜40keVのエネルギー範囲で均一な量子量を含むと仮定して、アモルファスセレンを含む撮像センサ(マンモグラフィ装置において下側圧迫プレートの下方に配置)によって生成される信号レベルがどのように変化するかを量子エネルギーの関数として示している。図5中の点線は、乳房に到達する放射線が1〜40keVのエネルギー範囲で均一な量子量を含むと仮定して、40mmの厚さおよび平均的な放射線吸収特性を有する乳房を通過した放射線のスペクトルを示す。乳房組織は、低エネルギー量子を吸収し、組織がより厚く/より高密度になるほど、より多くの量子/より高エネルギー量子を吸収する。他方、センサの検出器素子と乳房との間にあるマンモグラフィ装置のこれらの構成は、特に低エネルギー量子を吸収する。検出器に到達する量子のうち、最も低いエネルギーレベルを有するものは検出できず、そして、阻止されずに検出器を通過する際、最も高いエネルギーレベルを有するものも検出できない。図5中の実線は、物体が40mm厚の平均的な乳房で、乳房に到達する放射線が1〜40keVのエネルギー範囲で均一な量子量を含むと仮定して、上述の構成においてaSeセンサから得られる信号を示す。この見地から、最適な結果が、約31keVの強度最大値を有する放射線を撮像用に使用することによって達成されるであろうことが判る。
しかしながら、画像形成に関して考慮すべき追加の事情は、基本的には、撮影に用いるエネルギーレベルが低いほど、画像コントラストは良くなる点である。図6において、この事情は、最良のコントラストを与える量子エネルギーを乳房厚さの関数として示すことによって、異なる乳房厚さでシミュレーションを行った。最上および最下のカーブは、最大値と比べて、−10%レベルを表す。図からは、圧迫した乳房厚さが20〜80mmの範囲にある場合、この検討において最適な撮影スペクトル範囲は20〜27keVの範囲であることが読み取れる。
さらに、X線に固有であるノイズに関して信号レベルを最適化し、最終的にはこれを、この配置で達成可能な線量に対して比例配分することによって、さらに、実際のマンモグラフィ装置で用いられる線源は過熱問題を生じさせるほど負荷がかけられないことも考慮して、さらに進展させてもよい。こうして、より詳細に上述した好ましい実施形態によれば、即ち、タングステンアノード、銀フィルタおよび、アモルファスセレンをベースとした撮像センサを用いることによって、ここで詳細に示していない比較に基づいて、約32〜35kVの加速電圧および75μmのAgフィルタ処理を用いて1つの最適化が達成できる。この配置では、上述したMo/Mo組合せを用いた場合と同じ画像品質(コントラスト−ノイズ比(CNR))が達成されるが、それで得られる線量の60%になる。図7において、破線は、32kVの加速電圧を用いてタングステンアノードによって生成される生の放射線スペクトルを示し、実線は、75μmのAgフィルタ処理によって得られる放射線スペクトルを示す。図7から、撮影に用いられる量子の平均エネルギーは21keVであり、その分布は約14〜26keVの範囲にあることが判る。
上記説明は、より厚い乳房組織、例えば、20mm厚または40mm厚を超える組織について特に有効であり、この場合、全体としての線量は、小さい乳房の場合より大きな問題である。その場合、加速電圧は、好ましくは32〜35kVの範囲である。フィルタ層厚に関して、60μmおよびそれ以上のオーダーのフィルタ層を用いて、本発明に係る有利な結果が達成される。
図8は、画像品質(コントラストおよびノイズ、またはコントラスト−ノイズ比CNR)が一定に維持されるとき、タングステンアノード/銀フィルタ(75μm、点線)の場合および、モリブデンアノード/ロジウムフィルタ(60μm、破線)の場合の組織線量をモリブデンアノード/モリブデンフィルタ(30μm)と関連して、組織厚さの関数として示している。本発明の利点を強調するために、60mm超の組織厚さで、先行技術において、より厚い組織の場合に線量を最小化するために典型的に使用されているMo/Rh(25μm)テクニックと比較した。図からは、20mm未満の組織厚さでタングステンアノードを用いた場合、60μmRhフィルタは、75μm銀フィルタより幾分良好な結果をもたらし、これらの両方とも基準として用いた先行技術の手法よりも明らかに小さい線量をもたらすことが判る。
図9は、同じコントラスト−ノイズ比(CNR)を達成するのに要するX線管の所要電力を示すものであり、一方では、本発明に係るテクニック(タングステンアノード/ロジウムフィルタ(60μm、実線)、タングステンアノード/銀フィルタ(75μm、点線))を用い、他方では、Mo/Mo(30μm、60mm未満の組織厚さ)およびMo/Rh(25μm、60mm超の組織厚さ)テクニックを用いている。図9のカーブは、20mm未満の組織厚さでは加速電圧29kV、および20mm超の組織厚さでは加速電圧35kVを用いて得られた。
我々が得た結果は、本発明と関連して、以前に使用/推奨されたものと比べて明らかにより大きな厚さのフィルタ、特に、Agフィルタ、および比較的高い加速電圧を使用することによって、先の品質レベルに対応した画像品質がより小さい患者線量で得られ、あるいは、対応する線量でより良好な画像品質が得られるという驚異の事実を明確に示している。
さらに、本発明に係る手法は、線源電力要件に関する新しい問題を生じさせない。より高いkVの使用の結果、照射時間を相応に短縮化でき、X線管での負荷を減少させるからである。図9による比較では、先行技術の手法のものより高い電力レベルが、組織厚さ20mm未満で必要になるだけであり、この範囲で動作する際、電力要件は制限要因にはならない。
マンモグラフィで撮影する物体は、厚さおよび放射線吸収特性の点で大きく変化するため、所定タイプの乳房にとって最適なパラメータ組合せは、必ずしも他の場合にはそうならないことが自然である。
しかしながら、本発明の配置は、ここで基準として用いたMo/Mo組合せと比べて、少なくとも次の範囲のパラメータ値、即ち、30kV超のタングステンアノード加速電圧(実際の最大値は、マンモグラフィ装置で現在使用される線源では40kVオーダーであるが、本発明に係る最適値は約35kV)、および60〜100μm、好ましくは75μmオーダーのAgフィルタ層厚において、意図したように機能する。本発明の好ましい実施形態において、約20mmの乳房圧迫厚さが限界値であり、これより小さい乳房の場合、(少なくとも)約60μm厚さのRhフィルタを使用することが好ましい。本発明のこれらの好ましい実施形態は、具体的にはアモルファスセレン技術をベースとした検出器に主に関連するが、これらは必ずしもそれにだけに限定されない。また、他の重いフィルタ材料、例えば、パラジウム、錫、インジウムを用いて実用化することも本発明にとって想定できる。本質的なポイントは、この場合、充分に大きいフィルタ層厚を用いて、低エネルギー量子が、撮影すべき物体に到達するのを防止することである。フィルタ層厚は、好ましくは、少なくとも約60μmであり、少なくとも10keV未満、例えば、12keV未満のエネルギーレベルを有する量子の大部分が少なくともフィルタで捕捉される、本発明の好ましい実施形態に係る状況に到達することを可能にする。
我々は、本発明に導いた多数のシミュレーション、実験、測定結果の全てを本文に記載することを試みるべきでない。我々は、上述した結果は本発明で得られる結果と先行技術の教示との間の劇的な競合について網羅的に充分に述べており、これによれば、極めて大きいフィルタ厚を用いることを検討することは意味がなく、そうした場合、顕著な利点を達成することなく、線源の無用な負荷(過負荷)をもたらすだけであると考える。本発明は、デジタルマンモグラフィ撮影でのある配置に到達したものであり、その配置は、X線源と、放射線フィルタと、乳房を圧迫して撮影領域でほぼ静止させるための手段と、電気撮像センサとを少なくとも備え、線源は、タングステンアノードを含み、少なくとも30kVの加速電圧を生成するように配置されており、特に、乳房圧迫厚さが約20mm超である場合、使用のために選択したフィルタは、少なくとも約60μm、例えば、約75μmの厚さを有する銀フィルタである。
同様にして、本発明は、マンモグラフィ撮影方法として具体化されるものとして着想でき、撮影される物体は、撮影動作のためにほぼ静止して圧迫され、X線は、タングステンアノードを含むX線源で生成され、X線は、放射線フィルタを用いてフィルタ処理され、撮影される物体を通過し、画像情報を含むX線は、電気撮像センサを用いて検出され、撮影される物体の圧迫厚さが約20mm超である場合、X線は、30kV超の加速電圧を用いて生成され、アノードから放射されるX線は、少なくとも約60μm、例えば、約75μmの厚さを有するAgフィルタを用いてフィルタ処理される。圧迫厚さが約20mm未満である場合、アノードから放射されるX線は、少なくとも約60μmの厚さを有するロジウムフィルタを用いてフィルタ処理するのが好都合である。
本発明は、上述した実施形態に限定されないが、下記の請求項の範囲内で変化し得るこは、当業者にとって自明である。こうして、例えば、マンモグラフィ装置の構成は、一般的な形態について上述したものから相違してもよい。同様に、例えば、使用する線源のアノードは、回転構造とは別のものとして機械的に実施してもよい。