上述の通り、上述の態様および例は、本明細書に開示の範囲または教示を限定するものとして扱われるものではない。当業者には、部分的には本明細書に識別される様々な発見に基づき、上述の態様および例を含むがそれらに限定されない多くの手法により、本発明を実施可能であることが認められる。
本発明は、本発明に沿った添付の各図に関連して以下に与えられる本発明にしたがって記載された様々な実施形態の例に関する詳細な説明を考慮して、より完全に理解される。
本発明は様々な修飾形態および代替形態に適用可能であるが、様々な実施形態を図面に例として示すとともに、詳細に説明する。しかしながら、記載の特定の実施形態へ本発明を限定する意図ではないことが理解される。むしろ、全ての修飾形態、均等物、および代替形態が本発明の精神および範囲の内にあることが意図される。
本発明は様々な異なる種類の装置および手法に適用可能であると考えられ、本発明は特に右心室中のリードから左右心室のペーシングを行う手法に適切であることが見出されている。一定の実施では、本発明は、(恐らくは、LBBBなどの伝導異常による)再同期のための機械的および/または電気的な同期収縮を行うために用いられ、左心室の急速に収縮する能力、および/または中隔壁およびそれぞれの自由壁の心筋の収縮を同期させる能力が回復する。本発明は必ずしもそうした用途へ限定されるものではないが、この文脈を用いて様々な実施例について説明することによって、本発明の様々な態様が認識される。
本発明に関連して理解される特定の実施形態および様々な発見では、心機能は、心臓の部位へパルスを送達することによりペーシングおよび/またはマッピングを行うことによって向上される。ここで、心機能は、例えば、QRS幅によって、断片化、遅いLV活性化タイミング、自由壁および中隔壁の機械的同時性、有効スループット/圧力、および/またはそれらの組み合わせによって、指示または測定される。本発明のそうした実施形態に沿った一定の方法および特定の態様は、心臓の部位へパルスを送達するようにカテーテル型装置の方向を決定することに関する。ここで、向上した心機能には次のものが含まれる。すなわち、捕捉閾値を越えて、ペーシング(電圧)閾値を決定し、心機能を向上させること;そうした心機能向上を達成するために反対の極性のパルスを送達すること;そうした向上した心機能のために、右心室中のリードから両心室ペーシングを行うこと;ヒス束近傍の部位で反対の極性の複数のパルスを送達すること;心筋を貫くことなく、電極ベースのヒスペーシングを行うこと;複数のペーシングプロファイルを生成および/または送達すること(例えば、反対の極性のパルスを送達するペーシングプロファイルおよび別のペーシングプロファイルを含む、異なるペーシングプロファイルを反復することによって);RV(右心室)ペーシング位置からLVの中隔壁および自由壁の同期収縮を生成するようにペーシングプロファイルを送達すること;および、ヒス束近傍の部位でのペーシングによって1つ以上の先端側LBBB(左脚ブロック)および/または広汎性のLBBBを治療すること、が含まれる。
本発明の様々な実施形態には、2つまたは3つの電極を用いる刺激カテーテル、システムおよび方法が含まれる。本発明の特定の実施形態では、最も先端側の2つの電極は、カテーテルのチップに配置される。随意の第3の電極は、第1の対から幾らか距離を置いたリード本体の上など、数々の場所に配置されてよく、またはその対の間に配置されてもよい。
予想外の結果の特定の一例として、ヒス束ペーシングおよび/または傍ヒス束ペーシングを用いて、以前にはヒス束ペーシングに適切でないと考えられていた様々な心臓の異常(例えば、先端側左束ブロックまたは広汎性左束ブロックによる大きなQRS群)を示す患者を治療することが可能であることが発見されている。また、移植の複雑性(例えば、持続時間および/または侵襲性)は、特定の装置、システムおよび配置方法の使用によって有益な影響を受けることがあることも発見されている。
本発明の一例の実施形態では、特殊な刺激プロファイルを用いて、左右心室の同期収縮を捕捉する。この刺激プロファイルは右心室中のリードへ提供される。このリード配置および刺激プロファイルは、ペーシング中の感知される心機能に応じて選択される。詳細には、リード配置および刺激プロファイルは、その配置/プロファイルにより捕捉が得られるか否か(例えば、QRS幅または遅い活性化部位タイミング)により基づき決定される。一定の例では、これによって、他の場合には望ましいと考えられないペーシング電圧/プロファイルが生じることがある(例えば、捕捉閾値以外の基準に由来した電圧、および/またはペーシングリードが周囲の(繊維)組織を貫くことのないヒス束ペーシング)。
本発明の様々な実施は、既存のペーシング、移植、ならびに関連する手順および装置の説明によって理解される。本発明の様々な実施形態とそうした既存のペーシングとの間には相当数の差が存在しているが、本発明は既存のペーシングの態様を含む実施を除外するものではない。むしろ、本発明の態様は、既存のペーシング方法および装置と共に実施するのに特に有用である。したがって、本発明の複数の実施形態では、既存の実施と組み合わせられるときに有用である柔軟性が提供される。それらのうちの一部について以下に説明する。
右心室および右心房の組み合わせペーシングは、右心房への上大静脈を通じて2つの電極リードを進行させることによって実行される。これらのうちの第1のものは、心房の心内膜へ取付けられた1つ以上の電極にて終端されている。第2のリード(やはり1つ以上の電極を有する)は右心室へと進行され、電極は右心室の心内膜へ取付けられる。
そうした両心腔ペーシングは、合併症がないわけではなかった。2つのリードを使用することによって、そうしたリードに占有される血管(例えば、上大静脈および頚静脈)の体積は2倍となった。さらに、心房壁へ電極を取付けることの信頼性は低かった。
両心腔ペーシングの問題によって、いわゆる「単一パス(single pass)」リードの開発が行われた。そうしたリードは、1つの共通のリード上に心房電極および心室電極を有する。
右心室および右心房の両方のペーシングを行うための単一パスリードの一例は、Hartungによる2001年5月8日発行の特許文献1により教示されている。特許文献1のリードは、リードと電極が心臓の壁へ取付けられていない、フローティング(浮遊)リードとして記載されている。特許文献1の一実施形態(図4A)では、右心房中の2つの電極が右心房のペーシングを行う。第2の実施形態(図4B)では、右心室のペーシングを追加するために、電極は右心室中に存在する。記載されるように、特許文献1には、反対に分極した電極が記載されている(皮下配置された移植型パルス発生器上に露出されている場合もある)。
特許文献1の設計では、大きな市場的成功が得られていないと考えられる。これは、少なくとも部分的には、より小さなプロファイルのリードや、より信頼性の高い心房取付技術の開発のためであると考えられる。特許文献1によって対処される両心腔ペーシングの問題は、これらの両方の開発によって対処される。
頻脈(速い心拍数)の治療時には、電気的なパルスを用いて心臓の収縮を中断させる。これは、心臓の機能不全組織によって生じる異常に速いパルスを中断させることによって心拍数を低下させるには、有効な場合がある。
鬱血性心不全(CHF)の患者は左心室の出力が低い。CHFは極めて重篤な進行性の疾病である。薬物治療は存在するが、疾病を遅らせることはできても、進行を止めることや反転させることはできない。
CHF患者は、劇的に生活様式を変更する衰弱症状の進行に直面し、心臓移植を欠く場合には最終的に死に至る。残念なことに、多くの患者はそうした移植の適格を有しておらず、また利用可能なドナー心臓の数は適格を有する人を治療するのに十分でない。
多くのCHF患者では、左右心室の自由壁(左右心室の外部の壁)と対向した中隔(左右心室を分割する壁)との筋肉の生成する収縮力間のミスマッチのため、左心室出力が低い。理想的には、大動脈弁を通じて血液を推進するために、心収縮中、自由壁および中隔は同時に収縮する。同時でない場合、中隔壁が収縮しているときに、自由壁は弛緩する。血流を推進する代りに、中隔の収縮エネルギーのうちの少なくとも一部が浪費される。
自由壁および中隔の収縮性のミスマッチは、心臓の電気伝導システムにおける疾患によると考えられる。この伝導システムには、AV結節(心房から心室へ収縮インパルスを伝達する、心房と心室との間の心臓組織)、ヒス束、およびプルキンエ線維が含まれる。
中隔の上端部時に位置する、洞結節は、心臓ペーシングのための同期した神経性の信号を生成する。これらの信号は、房室結節およびヒス束を含む特別な繊維(中隔の長さ方向に沿って延びている)によって伝達され、さらに、プルキンエ線維を通じて心臓の筋肉まで伝達される。プルキンエ線維は中隔から生じ、心臓の心尖を通じて、左右心室の自由壁の中および上を含め、心臓の外部の壁まで延びている。
健康な心臓では、AV結節から左右心室の自由壁への信号の流れは急速であり、自由壁および中隔が同時に収縮することを保証する。例えば、刺激信号は約70〜90ミリ秒で自由壁まで流れることができる。伝導異常のある患者では、このタイミングは有意に遅く(150ミリ秒以上)、非同期収縮が生じる。
幾人かの患者では、プルキンエ線維を通る伝導経路がブロックされる場合がある。ブロックの位置は極めて局所的な場合もあり(いわゆる「左脚ブロック」、すなわち、LBBBの場合のように)、拡大した機能障害組織(梗塞によることがある)の領域を含む場合もある。そのような場合、中隔の収縮中、または左心室および/または右心室の自由壁のうちの一部または全部が柔らかくなっている。非同期収縮に対する寄与に加え、自由壁の収縮力が弱められている。
非同期収縮に対処するために、CHF患者が左心室の心臓ペーシングによって治療されることがある。そのようなペーシングには、中隔の複数の筋肉へ同時に刺激を印加することが含まれ、刺激は左心室の自由壁の筋肉へ印加される。梗塞組織はそうした刺激に反応しないが、梗塞のない組織は収縮し、それによって収縮の再同期を行うことにより左心室の出力を高める。したがって、CHFの治療は心筋の再同期に関する場合が多いのに対し、頻脈および徐脈など、他の心室ペーシングの解決策では心拍数の問題が扱われる。
従来技術では、左心室を刺激するための様々な技術が開発されている。様々な理由のため、それらの技術は理想的でない場合がある。例えば、そうしたペーシングによって広いQRS群または塞栓形成が生じる場合がある。したがって、左心室における心臓内配置電極は忌避される。しかしながら、外科的な配置によって心臓の心外膜表面上に電極を配置することが可能である。心外膜の電極は左心室の自由壁上に配置され、右心室中の中隔近傍に配置された電極によって同時にペーシングが行われる。
心外膜の電極には外科的な配置が必要であるので、患者は2つの手順にさらされる。すなわち、右心室電極の経皮的配置(通常、カテーテル研究所において電気生理学者によって実行される)と、左心室上の心外膜電極の外科的配置(通常、手術室において心臓外科医によって配置される)とである。そうした二重の手順は、医療資源に対する負担である。
左心室の自由壁を刺激するための電極配置について、経皮的手順が開発されている。そうした手順では、電極リードは冠状洞を通じて進行される。静脈系の一部である冠状洞は右心房から延びており、心外膜の表面上またはその表面近傍にて、心臓の周囲を包囲するとともに、左心室の自由壁の上に部分的に重なっている。この経皮的な手順では、電極は左心室の自由壁の上に位置する冠状洞に配置されたままであり、リードは冠状洞を通過し、右心房を通じて移植型パルス発生器まで到る。
残念なことに、多くの場合、冠状洞電極は最適でない。最も直接的に電極による影響を受ける自由壁の部分は、電極の位置にて冠状静脈の直下に位置する組織である。多くの患者の場合、これは刺激療法から最大の利益を得る自由壁の位置ではない。したがって、得られる療法は最適以下である。また、一部の患者の冠状洞の直径は極めて小さい場合があり、あるいは、冠状洞の形状が屈曲しており、冠状洞内の電極の経皮的配置が不可能であるか、または非常に困難である場合もある。右心房から冠状洞へリードを進行させることに非常に時間を要することも、稀ではない。成功した場合にも、そうした手順では、相当なヘルスケア資源(貴重なカテーテル研究所の時間を含む)が消費される。最後に、今日では、3つまでのリードが上大静脈の空間を通過し、占有している(すなわち、右心室、右心房および冠状洞の電極に対するリード)。2005年6月9日公開の特許文献2には、上大静脈を通過する3つのリード、すなわち、右心房中に存在する1つと、右心室中の1つと、冠状洞を通じて左心室へ到る1つとが示されている(図1)。
右心室におけるペーシング刺激によって左心室のペーシングを行う試みが示唆されている。Mathisらによる2003年11月4日付けの特許文献3には、その長さ方向に沿った複数の電極のアレイを備えたリードについて記載されている。リードは右心房中に配置され、右心室を通じ、中隔壁に沿って、肺動脈へと延びている。この概念には、LV中隔を刺激するのに適切な電界を生成するように、アレイの複数の電極が相当高い電圧で同時にパルス化されることが必要である。パルス発生器およびバッテリから出力される電流は、電極が多数あることと、ペーシング電圧が高いこととにより、非常に大きくなる。そうした大きな出力によって、製品寿命は臨床的に許容不能なものとなり、電極の腐食および/または融解の問題が生じる場合もある。そうした治療送達機構を実施するには多数の電極や支持電子機器が必要であるので、実際に実行可能であるか否かについてはまだ分かっていない。装置設計/製造および臨床実践の両方の点から非常に複雑になることは、述べるまでもない。今日知られている公開された報告には、右心室におけるこの多電極刺激手法の機能的および臨床的な利益を実証したものは存在しない。
一実施形態に関連して記載するように、本発明は、冠状洞または冠状静脈における心外膜ペーシング電極またはペーシング電極を必要としない、左心室ペーシングのシステムおよび方法に関する。記載されるように、本発明には、中隔壁近傍の右心室中の電極が含まれる。それらの電極は、中隔と左右心室の自由壁の少なくとも一部との両方を刺激する、パルス電界を形成する。本発明では、過度のエネルギー要求または電力消費を必要とすることなく、それらの目的を達成する。
一般に、本発明の態様は、右心室刺激を提供して左右心室の中隔および自由壁の筋肉組織の収縮を再同期させ、中隔と自由壁との調整された収縮を生じさせるための方法および装置に関する。右心室中の刺激電極の入念な配置は、左右心室の同期収縮を生成するために用いられる。特定の一例では、右心室は1つの刺激点からの左右心室の再同期と共に(または、左右心室の活性化および収縮の同時性が維持されているときに)捕捉される(患者がペーシングを必要とし、かつペーシングなしで非同期収縮がなかった場合)。本発明の様々な実施形態を用いると、心臓の非同期収縮(左右心室のいずれかまたは両方)のある患者を再同期させることが可能である。
別の例では、徐脈、頻脈または他のリズム管理を有する患者のためのペーシングは、心臓の正常な伝導システム(ヒス−プルキンエ系)を通じて伝播しない人為的に導入される電気インパルスのために発生する場合の多い非同期収縮に対する向上によって向上される。
本発明の複数の実施形態および用途では、電極は、電極を束自体の中へ、または束の側にねじ込むことによって、または、束が心内膜表面(ENとして上述した)に到る部位に電極を配置することによって、ヒス束部位に入念に配置される(「ヒスペーシング」)。従来のヒスペーシングにおける(レート支持用の従来のRVペーシングのため失われる場合のある同期収縮を維持するための)労力は、右心室においてこの極めて小さな領域を見出すことが非常に困難であったため、概して非常に厄介であった。また、その労力は一般に時間を消費するものであり、高価であるとともに、最新の用具およびイメージング技術を用いても極めて複雑である。さらに、そうした手順が複雑であるので、この位置にリードを配置することの長期間安定性に関する知識が欠如している。また、ヒス束の末節のペーシングも、束の基端側に病変のある患者では、左束ブロック(LBBB)を除去するように示されていた。ヒスペーシングは、しかしながら、現在、ヒス束の先端側に病変のある患者もしくは心室内伝導欠損(IVCD)のある患者、広汎性の周辺ブロック(先端側のヒスまたはプルキンエ繊維における広汎性)のある患者、進行性HF(NYHAクラスII〜IV)および伝導欠損を有する患者では禁忌されている。したがって、ヒスペーシングは、洞不全症候群、AVブロックまたは極めて小さな医師集団による他の徐脈性不整脈指示のいずれかのために心室ペーシングを必要とする患者のうちの、非常に小さな部分集合(<0.01%)にしか用いられていない。
また、中隔に沿って刺激電極を正しく配置することによって、比較的低い電圧を用いた左心室心筋の収縮の再同期が可能であることや、QRS幅の向上、断片化の低下、および/またはLVの遅い活性化部位のタイミングの向上が生じ得ることも発見されている。また、特定の方法が用いられるとき、この効果が生じる中隔における領域がより大きく、発見がより容易となることも発見されている。そうした一方法には、反対の極性の2つのパルスが印加される、本明細書においてXstim波形と呼ばれる波形の使用が含まれる。Xstim波形は、概して言えば、両方のパルスが心臓の同じ捕捉(拍動)に関連するように、反対の極性の2つのパルスを同時またはほぼ同時に印可することである。
多くの患者では、ペーシング領域は、ヒス束が右心室の心内膜表面の近くを通過する場所の近傍に位置する。しかし、より広汎性のブロックおよび心不全のある患者では、ペーシング領域は中隔において右心室の心尖に向かって下方に移動している場合がある。また、波形を入念に選択することによって、より低い電圧を用いる有効なペーシングを可能とすることで、ペースメーカーおよび送達電極における出力回路の設計が単純化されることも発見されている。さらに、所望のペーシング効果は充分な振幅(通常、Xstim波形に必要な振幅よりも充分に大きいため、横隔膜および/または横隔神経の刺激に充分により大きなリスクを生じる)の単一のパルスによっても達成可能であることも発見されている。さらに、この効果を得るのに必要な振幅は、そのパルスが負のパルス(身体を参照して)に対してアノード性であるとき、より小さい場合が多いことも発見されている。
一実施形態では、各電極は、同期収縮を刺激するために選択的かつ独立に用いられてもよい。各電極の電圧を変化させて、心室捕捉を生成するのに必要な電圧閾値が決定される。様々な実施では、より詳細に以下に説明するように、心室捕捉が生成されるか否かに代えて(または加えて)ある基準(例えば、向上した心機能)を用いて、電圧閾値を決定することが可能である。低い平均刺激電圧および電流は、最低の効果閾値を有する電極を選択することによって得られる(効果とは、再同期効果を、またはペーシング効果中の収縮の同時性を維持することを指す)。
様々な図および関連する説明と共に、引用によって以下の開示の全体を本明細書に援用する。刺激パルスの局在化した心臓ペースメーカーの詳細に関する、Hartungによる2001年5月8日発行の特許文献1、無線除細動システムの詳細に関する、Denkerらによる2004年6月14日付けの特許文献4、筋肉を収縮させるための1つ以上の解剖学的構造付近の微小刺激器の使用の詳細に関する、2004年8月5日公開の特許文献5、鬱血性心不全の治療の詳細に関する、Mathisらによる2003年11月4日付けの特許文献3。
上述のように、本発明の態様は、幾つかの測定可能な特性のうちの1つ以上によって指示されるような心機能を向上させることに関する。図21乃至50に関連して示す説明および例示では、本発明のこれらのおよび他の態様のうちの1つ以上に関する実施例および関連する結果を提供する。これらの態様を様々に組み合わせて実施することが可能である。これらの態様および関連する発見のうちの一部の完全な認識のために、図1〜20に関する以下の説明によって、関連する説明や、図21乃至50に関連して説明および例示されるものなど他の実施形態に随意で存在する様々な機構を提供する。
本発明は、現在市販されている電極リードを用いて実施できるが、特別に設計されたリードを用いて改良することもできる。図1には、1つのそうしたリードを有する実用における本発明を示す。相対的な方向を参照するために従来的に用いられるように、本明細書における用語「左」および「右」は患者の観点に関連して用いられる。用語「高」および「低」ならびに同様の用語「上」および「下」は、心臓の基部Bが高く、心臓Hの心尖Aが低い端にあるように参照される。
本発明の様々な実施形態に関連して、図1には、上述の態様と一致するように右心室中のリードから左右心室のペーシングを行うための手法を示す。そうした一例では、Xstimペーシングプロファイルが電極E1,E2上に送達され、心機能は、心臓の部位へそうしたパルスを送達することにペーシングおよび/またはマッピングを行うことによって向上される。また、そうしたペーシング/マッピングを用いて、捕捉閾値を越えて、ペーシング(電圧)閾値を決定し、心臓の機能を向上させることが可能である。また、そうした一手法を用いて、そうした向上した心機能のために、右心室中のリードから両心室ペーシングを行うことも可能である。
図1では、患者の心臓Hを断面により概略的に示す。心臓Hは、右心房RAおよび左心房LAの上側の心腔を含む。下側の心腔は右心室RVおよび左心室LVである。右心房RAへ開いている様々な静脈管のうち、上大静脈SVCのみを示している。また、様々な心臓弁のうち、僧帽弁MV(左心室LVから左心房LAを分離している)および三尖弁TV(右心室RVから右心房RAを分離している)のみを示す。中隔Sは左右心室RV、LVを隔てており、左心室LVの自由壁FWには別にラベルを付す。心腔に対向する心臓壁組織の表面は心内膜であり、ENとラベルを付す。心臓の外面は心外膜であり、EPとラベルを付す。心臓Hを取り囲む心臓の冠動脈管または心膜は図示していない。
特定の実施形態として、図1には、信号が二重(内側および外側)シースカテーテルを介して送達され、リード本体LB1および露出した電極E1,E2を有するように示す一実施形態の電極リードが含まれる。第1の電極E1は、リード本体LB1の先端チップ近傍に配置されている。第2の電極E2は、リード本体LB1上の、より基端側に配置されている。先端には、第1の電極E1を心臓Hの筋肉組織へ固定するための取付け機構AM(歯部を備えたパッシブ固定設計または金属性の螺旋部を備えたアクティブ固定設計など)を示す。電極E1,E2の間隔は、従来のペーシング電極より大きくても小さくてもよく、右心室RVの心尖に第1の電極E1を配置し、三尖弁TVの近傍の右心室RV中に第2の電極E2を配置することを可能とする。なお、従来の間隔を有する従来のリードが、中隔に取付けられた第1の(すなわち、先端側の)電極と共に用いられている(例えば、図7Aに示すような螺旋取付部HAによって)。
本発明の様々な実施形態では、電極E1,E2の位置は、ペーシングの有効性の監視および解析を行うことによって決定される。一例では、心電図(ECG)を用いて心臓の波形が監視される。電極位置は漸増的に調整されてもよく、ECGからのフィードバックは各位置について比較することが可能である。特定の一例では、そうした比較にQRS幅が用いられる。考慮され得る別のパラメータには、ベクトル心電図の角度が含まれる。例えば、ベクトル心電図の解析結果は、ベクトル心電図の正規化の点から考察され得る。ベクトル心電図の測定および正規化についてのさらなる情報については、ソトバタ.I、オクムラ.M、イシカワ.H,ヤマウチ.Kによる、「健康な日本人男性のフランク(Frank)法ベクトル心電図測定結果の人口分布」、Jpn Circ J.、1975年8月、39(8):895−903、に参照される。この文献を引用によって本明細書に完全に援用する。別の例では、断層心エコー法を用いて収縮の同時性を監視することによって、収縮の効率を確認することが可能である。さらに別の例では、冠状洞電位図を監視して、左心室の活性化が冠状洞または左心室の他の(遅い活性化)構造において検出されるまでのペーシング刺激(または生じたQRS群)間において活性化波面が有する時間遅延を決定することによって、収縮の効率を確認することが可能である。これは、電気生理学式カテーテルまたはそのチップ近くに1つ以上の電極を備えた他のカテーテルを用いて、行うことができる。一例では、目標は時間遅延を最小化することである。
一実施形態では、リード本体LB1は可撓性であり、第1、第2の電極E1,E2へ個別に接続された第1、第2の導体C1,C2を包囲する、生体適合性の電気絶縁性コーティングを備える。様々な図では、移植型パルス発生器IPGへ延びている内部の導体C1,C2を明らかにするように、リード本体はSVCの線で分解されている。実際には、導体C1,C2は、それらの長さに沿ってリード本体LB1の材料内に含まれている。用語「移植型パルス発生器IPG」は、ペースメーカー、移植型除細動器(ICD)、および心臓再同期療法(CRT)を含むことが意図される(いずれも当技術分野において知られている)。
リード本体の基端は、通例の通り、ピンコネクタ(図示せず)にて終端する。ピンコネクタは、導体C1,C2の各々へユニークに接続されている露出した電気接点を有する。このピンコネクタは解放可能であるようにパルス発生器IPGへ接続されてもよく、パルス発生器IPGの回路のユニークな接点に電気的に接続される露出した接点を備えてもよい。
従来技術には、心臓の心腔に配置され、上述のように、リードの長さに沿って離間された2つ以上の電極と、パッシブまたはアクティブ固定部などの取付け機構と、導体と、記載したようなコネクタピンとを有する心臓リードの多数の例が含まれていることが認められる。本発明はペーシングリードのみに限定されるものではなく、むしろ、従来技術のICDリード(通例、RV中に2つ以上の電極を含む)と共に同等に配備可能である。そうしたリードは生体適合性の材料から選択されており、患者における長期の配置のために処置(滅菌など)される。
移植型パルス発生器IPGは、患者への移植および内部回路の保護のために封止された、小さな金属コンテナである。一般に、そうしたパルス発生器は、皮下に(例えば、患者の皮膚層と筋肉層との間の切開された空間に)配置される。心臓ペーシングでは、そうしたパルス発生器は、肩近傍の患者の左右前面側のいずれかの上において、上側の胸腔に配置される。しかしながら、配置がそのように限定される必要はなく、医師によって選択される任意の簡便な位置にそうしたパルス発生器を配置することができる。
パルス発生器には、リードがパルス発生器へ接続された後に電極へ印加される電気インパルスを形成するための内部回路が含まれる。また、そうした回路には、電極E1,E2を感知電極として用いて患者の電気生理学を感知し、それについてのIPG報告を得るために、感知および増幅回路が含まれてよい。
リードは小さな切開部を通じて血管へ導入され、血管を通じて右心房RAおよび右心室の中へ、図1に示す位置まで進行されてよい。そうした進行は、通常、リードの進行が蛍光透視法を通じて視覚化されることの可能な、電気生理学研究所において行われる。
パルス発生器には、電源としてバッテリが含まれる。皮下配置では、バッテリの交換が可能である。しかしながら、バッテリ設計の向上によって、バッテリ交換の頻度を低下させる利益を有する、より長寿命の永続的なバッテリが得られている。これに代えて、そうしたバッテリは系中で再充電可能であってもよい。
パルス発生器回路は、電極E1,E2へ接続された信号のパラメータを制御する。これらのパラメータには、例として、パルス振幅、タイミングおよびパルス持続時間が含まれる。内部回路には、さらに、パルス発生器の再プログラミングを可能として、特定の患者の必要に適切であるように医師がペーシングパラメータを変更することを可能とする、回路ロジックが含まれる。そうしたプログラミングには、外部のプログラマから無線伝送を介してパルス発生器へプログラム命令を入力することによって、影響を与えることが可能である。パルス発生器は、一般に、その発生器の筐体の外部上に、露出した接点を備える。また、そうしたパルス発生器は、部分的に絶縁体(シリコーンなど)で覆われており、いわゆる単極性ペーシングにおけるリターン電極として機能する金属性の筐体の一部を露出するようにその絶縁体に形成された窓を有してもよい。双極性ペーシングでは、この窓は不要である。最も一般的には、電極は筐体の回路によって電気的なグランドに接地されている。
一実施形態では移植型パルス発生器について記載しているが、パルス発生器が外部にあり、経皮的なリードまたは無線伝送によって電極へ接続されてもよい。例えば、横隔神経刺激については、移植された電極の制御が知られており、「ATROSTIM PHRENIC NERVE STIMULATOR」(2004年6月、AtroTech Oy、P.O. Box 28、FIN−33721、Tampere、Finland)の製品パンフレットにおいて、より完全に記載されている。Atrostim装置は、外部のコントローラから、移植されたアンテナへ信号を送る。
外部のペーシング装置は、通常、一時的なペーシング療法を提供するために用いられる。また、緊急に一時的なペーシングを必要とする危篤状態の患者には、さらに従来のRVペーシングに関連した非同期心臓収縮が生じる場合もあるので、本発明の態様はこの用途においても利点を有すると考えられる。所望の場合、外部ユニットを用いて、この処置に患者が適しているかを試験することが可能である。この療法から利益を得る患者は、次いで、より長期的な使用のための移植型パルス発生器を受け入れることが可能である。
図2には、右心室RV中のリード本体LB2を示す。電極E1,E2は中隔壁S上に直接配置されており、任意の適切な手段によって中隔壁に対して適所に保持されている。例えば、図2Aには、中隔壁に対する電極の取付についての一実施形態を示す。リード本体LB2は、電極(例えば、電極E2)近傍にポートPOを備えた内管LUを有するように示されている。任意の適切な取付け機構(ピッグテイルガイドワイヤまたは注入された生体接着剤など)を内管LUおよびポートPOに通し、電極E2を中隔壁Sに対して接合するように固定することが可能である。さらに、中隔の最適位置のマッピングを補助するように移植型リードを移動させる際、案内カテーテルを用いることもできる。
図3には、中隔壁Sに対する電極E1,E2(取付け機構は必要でない)を示す。代りに、リード本体LB3の中間領域(IR)は形状記憶材料(ニチノールなど)から形成されており、S字形の構成を仮定して中隔壁Sに対し電極E1,E2を付勢する。
図4では、リード本体LB4は、任意のエラストマー材料(形状記憶材料など)から形成されてよい中間部ISによって結合された、2つの構成要素LBa,LBbを有する。この中間部(IS)は、2つの構成要素LBa,LBbが同一直線上に整合するように付勢すべく、偏向されている。中間部ISが右心室(RV)の心尖に対して配置されている場合、中間部ISの偏向によって、電極E1,E2は中隔壁Sに対して付勢される。
図5には、中隔壁S上に個別に配置されており、リード本体上に保持されていない電極E1,E2を示す。そうした一実施形態では、電極E1,E2は、移植型パルス発生器(IPG)からの無線伝送信号T1,T2によるペーシング波形により、エネルギーを与えられてよい。コントローラから電極への無線伝送については、Denkerらによる2004年6月14日付けの特許文献4に示されている。これに代えて、電極E1,E2は、図6に示すように、中隔壁Sの組織中へ微小刺激器として直接埋込まれてもよい。人体組織への移植用の微小刺激器については、2004年8月5日公開の特許文献5に示されている。
上述と同様の文脈において、図1乃至20には、図1に関連して上述において説明したのと同様の本発明の態様を示しており、それらのうちの一定の図には共通の特徴が示されている。図1,7B,8には、リードの例および関連する電界を示す。両電極は右心室内に存在し、先端側の電極は右心室の心尖へ固定されている。図8には、心室RV,LV、およびリード本体LB1の一部を示す。そうした双極性のリードは本発明と共に使用可能であり、電極E1,E2間の間隔をより広くすると、場は増大するものの一部の感知性能が犠牲となることがある。このトレードオフは、右心室RV中に3つの電極リードを使用することによって軽減され得る。そうした1つのリードはチップ電極および2つのリング電極を有する。リング電極の1つはRV心尖のチップ近傍に位置し、また1つは三尖弁近傍の心房の高い部分に位置する。感知は、チップおよびより近くの電極との間で実行される。これによって、良好ないわゆる「近接場(near field)」感知が提供され、心房または骨格筋の活性のいわゆる「遠方場(far field)」感知が回避される。ペーシングは、心臓に対して先端側に配置されるリターン電極に対し、リング電極間で生じ得る(記載するように)。リターン電極に対する一方の電極としてチップおよび最も近いリングを結合させ、リターン電極に対する他方のリング電極は反対の極性にあってもよい。特定の一実施形態では、幅4mmのリングは、幅4mmのチップから、4mmの距離だけ分離される。
別の特徴は、図1乃至7bに共通しているパルス発生器IPGである。パルス発生器IPGは、第1、第2の電極E1,E2へそれぞれ適用される、第1、第2のパルス波形W1,W2を生成する。図18には、この示したIPGによって生成される信号を示す、そうした波形W1,W2を示す。例として、また限定することを意図するものではなく、パルス持続時間(PD)は約0.1〜2.0ミリ秒であり、振幅Aは0.1ボルト〜10または20ボルトであり、パルス間の時間遅延TDは目標とする心拍数(例えば、50〜200拍毎分)である。
図1〜18Bに示した構成は、中隔に沿ったまたは中隔近傍の様々な位置における電極配置(例えば、電極E1)の例を示している。図7Aでは、例えば、第1の電極E1は中隔の中部または上部へ取付けられている。
参照電極RE(本発明のそうした実施形態の全部ではなく一部において用いられる)は、IPGの筐体上にあり、右または左の肩の近傍に皮下的に配置されている。場の再配向は、図7Bに示すのと同様の構成において除細動閾値を低下させる際に有用な場合がある。図7Bには、心房RA近傍の上大静脈SVCにおいて、および右心室において、患者の除細動を行うショック電極として働く、大きく区分された(柔軟性のため)電極E2,E3を示す。
向上した心機能についての上述の態様に関係する別の特徴は、中隔壁を有効に刺激するための電極配置に関する。そうした配置を示す一例として、図9には、そうした刺激に有用であり、電極E1,E2を右心室RVの内部から中隔壁Sへ移動させること(図1および8)によって得られる場の線を示す。そうした移動によって、中隔壁Sおよび左心室LVの自由壁FWの両方へ向かう場の線を変位させる。
参照電極REを右心室中の電極E1,E2と組み合わせて用いる一定の実施形態では、左右心室LVの有効なペーシングが提供される。作用機序の物理学および生理学が完全に理解されている訳ではないが、参照電極REは、他の場合に右心室の電極E1,E2の間に形成される電磁場を歪めて、左心室LVの中隔壁Sのより深くへとある強度の電磁場を付勢することが考えられる。これは、空間および時間を同じくして電極E1と参照電極REとの間および電極E2と参照電極REとの間に電流が流れる点において、壁の2つの電極から離れて参照電極に向かう第3の高電流密度の1つ以上のスポットが生成されるためであることが考えられる。これを、例えば、図10に示す。そうした現象が発生すると仮定すると、ヒスの左脚および右脚ならびにプルキンエ線維における残存する伝導繊維の活性化が起こり、左右心室のより急速かつ一様な活性化が生じ、伝導欠陥のない患者に存在する正常な活性化と同様のパターンが続く。
参照電極は、移植型パルス発生器IPGの筐体へ物理的に取付けられて(それによって電荷が中性となって)もよい。そうした電極REを図1〜7Bに示す。参照電極REは導体によって移植型パルス発生器IPGへ接続可能であることが認識される。参照電極は、心房中の電極、またはSVC、RAもしくはRV中に配置される除細動コイル電極など、従来のペーシングまたはICDシステムに存在する別の一般的な電極であってもよい。
図10に示すように、参照電極REには、第1、第2の電極(E1,E2)間に生成される電磁場に対する変形の効果が存在し得る。これを図10に示す。図10では、中隔壁Sおよび左心室LVの自由壁FWの方へ向かう左の場の線LFLが歪められている。また、右の場の線(RFL)は軸FAの方へ向けて圧縮され、図8,図9の対称的な表現から図10の非対称な表現へと場が変化し、中隔壁Sおよび左心室LVの自由壁FWの方へ向かって場が偏向する。
また、利用可能な移植型パルス発生器に関連したエネルギーレベル内(一部の例では、〜10または20ボルト)において、ペーシングリードを適切に配置することによって、左右心室LVの有効な活性化が得られることも見出されている。
アノード電極を用いる長期のペーシングでは出口(アノード)ブロックが生じると考えられ、これは、心臓組織の捕捉閾値がパルス発生器の電圧範囲を越える可能性があることを意味する。これが起こると、刺激の有益な効果は失われる。捕捉が度々失われるので、患者の生命は、そうしたイベントによって危険な状態にある場合がある。
本発明の一実施形態では、電極E1,E2に見られる荷電パルスの極性が交代されてもよい。これは、アノード性ブロック(心筋の捕捉および再同期を行うのに必要な閾値電圧の緩やかな上昇)の回避に特に有用なことがある。そのような極性の交換は、適切な周期性を用いて実施されてよい。特定の一例では、電極の極性は動作の数時間後に切り替えられる。別の例では、この極性は拍毎に交代されるので、2拍を通じて組織へ送達される正味の電荷は0である。交代の頻度は非常に広い範囲で変化することができるが、依然として送達される電荷を均衡させるという目標を達成し、送達された正味の電荷を平均してほぼ0とする。これは、アノード性ブロックの問題を回避し、電極の融解および/または腐食のリスクを最小とするのに有用である。
一部の例では、中隔に沿ってリードを適切に配置することによって予想外に小さなQRS幅が生じることが発見されている。さらに、適切な配置によって、電圧閾値がより低くなる場合もある。最適なリード位置は、表面のECGパラメータ(例えば、QRS幅および/または活性化ベクトル)の支援により決定可能である。
参照電極は、上述の通り、移植型パルス発生器IPGの筐体上に直接配置されてもよく、内部的なパルス発生器から分離して配置されてもよい。一例では、参照電極REは左心室中(図11)(または図11に想像線で示すように自由壁FWの組織中)、心外膜表面EP上(図12)、または冠状洞CS中(図13)に配置される。
心臓に対する参照電極REの配置は、ペーシングの対象となる左心室の自由壁FWの領域における場の歪みに影響を与えることがある。特に、皮下に配置される参照電極(手順の侵襲性を最小化するのに好適である)では、右心室RVから参照電極への電気伝導経路は患者によって相当変化する。
また、場の歪みの方向によって、ペーシングの対象となる左心室LVの領域が変化する場合がある。例えば、図15には、心臓に対して参照電極RE1を高く配置した場合を示す。この場合、左心室の中隔および自由壁FWの上端部に向かって場の歪みが生じる。図16には、心臓に対して低く参照電極RE2を配置した場合を示す。この場合、左心室の中隔および自由壁FWの下端部に向かって場の強度が偏向する。
参照電極は単一の電極であることもあるが、図15および図16に示すように、皮下配置用に複数の電極を提供し、移植型パルス発生器のスイッチ回路SWによって各電極を接続することもできる。患者の反応は、グランドまたは移植型パルス発生器の筐体へ別個に接続された幾つかの参照電極RE1,RE2の各々によって記録される。患者は、次いで、特定の患者に対して最大の有効性を示す電極を用いて治療される。さらに、時間を通じて、患者の反応が変化する場合があるので、移植型パルス発生器の再プログラミングを行って、他の参照電極のうちの1つを切り替えられた電極として選択することも可能である。
加えて、右心室内のカテーテルLB5は、その長さに沿って複数の電極を有することが可能である(図7に示すように)。これらの電極の個々の対(E1〜E4)は時間を通じてオンまたはオフに切り替えることが可能であるので、右心室内の電極対のうち最適化された左心室ペーシングに適切な対が選択される。
図14には、中隔壁Sに対向する電極E1,E2の一側面上に配置された誘電体材料DMによっても場が歪められることを示す。誘電体材料DMによって、中隔壁Sおよび自由壁FWの方へ左の場の線LFLを偏向させる電場の歪みが生じる。当然のことながら、この構成は、利益を強化する参照電極によって、さらによく機能する。
電極E1,E2を参照電極REと組み合わせて右心室RVの容積内に配置することは有効であるが(図10)、電極E1,E2を中隔壁Sに対して直接的に移動させることによって、上述の理由により、本発明の治療の利益がさらに向上する場合がある。電極E1,E2を中隔壁Sに対して移動させるための様々な技術を開示する。
様々な実施形態では、参照電極は移植型パルス発生器の筐体へ接地される。図17には、参照電極が心臓外の2つの活性電極AE1,AE2を備える、代替の実施形態を示す。活性電極AE1,AE2では、電極E1,E2上の波形とは反対の極性のパルス波形でペーシングが行われる。これによって、上述の左の場の線LFLに加えて二重の単極性場が形成される。
図では、図18の波形(または記載の他の波形)の振幅を、図19の左側の4つの極に対し印加されて2つのペーシングキャパシタC1,C2に電荷を与えるバッテリ電圧として想像線により示す。ペーシングおよび感知用のチャージ回路ならびに制御回路の詳細については、図示を簡単にするために省略する。一例では、キャパシタC1のみがペーシング出力用の電荷を与えられ、C2には電荷が与えられない。キャパシタC3,C4は、ペーシング出力を患者まで接続するために随意で実装される。図示および説明を簡単にするために、図19の設計概略について、図18の出力波形は振幅が同じでタイミングが同時であると仮定する。スイッチS1は、単極性のペーシングおよびペーシングXstimもしくは同様のペーシング(スイッチ極A1との接触による)または両極性のペーシング(スイッチ極A2との接触による)の間の選択を可能とする。両極性ペーシングとXstimペーシングとの間の選択は、図18に示すようなタイミング情報を有するデジタル信号をT1に、またはT1およびT2に対し印加すること、すなわち、スイッチS5を、または同時にS2,S5をトグルすることによって、行われる。ANDゲートを用いて、XstimによるペーシングについてのみスイッチS2を閉とすることが可能である。スイッチS3,S4によって、患者−電極間インタフェースにおいて、ペーシング電荷を再中性化することが可能となる。
移植型パルス発生器には通例であるように、この装置は、外部のプログラマによって従来の双極性刺激および単極性刺激のいずれかを達成するように、またはXstim刺激を達成するようにプログラムされていてもよく、この装置によって自動的に制御されてもよい。この選択はユーザのプリファレンスに基づいてもよく、患者のQRS群の幅、心臓の遠く離れた領域に対する刺激間の伝導間隔など、生理学的な因子によって行われてもよい。加えて、Xstimペーシングと他のペーシングとの間の切替も、本発明のペーシングのより高い割合に対するプリファレンスのペーシングの割合によって決定されてもよい。さらに、第1の種類のペーシングからXstimペーシングへの切替は、出口ブロックが存在するか、ペーシング電極が梗塞した心筋に配置されているとき、第1の種類ペーシングが高い出力レベルで心筋(の脱分極の効果)を捕捉しないときに用いられてよい。自動的な決定は、次に限定されないが、心臓の電気的な感知を含む任意の自動捕捉検出技術の配備による影響を受けることが可能である。これに加えて、本発明では、治療最適化のための無線ネットワーク対応切替機能も実装可能である。そのような場合、一定の患者の生理学的データが移植型装置によって収集され、無線通信ネットワークを通じてリモートサーバ/モニタへ送信される。
他の実施形態に関連して、また図18に示す波形に関連して、刺激電圧は図23Aによって示すRC回路の放電と矛盾しない。これは、充電されたキャパシタのアノード(および/またはカソード)へ電極を接続することによって行うことができる。
本発明の別の実施形態では、図23Bに示すように、刺激電圧は、2組の連続した2つのキャパシタの放電と矛盾しない。これは、第1の充電されたキャパシタの、次いで第2の充電されたキャパシタのアノード(および/またはカソード)へ電極を接続することによって行うことができる。この実施形態は、パルスの電圧振動を減少させることによって、活性な刺激期間のエネルギーの送達を変化させ、場合によっては所望の効果を達成するのに必要な電圧を最小化することに有用な場合がある。特定の一例では、キャパシタの第1の組は電極E1へ接続され、第2の組は電極E2へ接続される。電極に対して提供される電圧は、標準的なXstim波形におけるように反対の極性であってもよく、上述のように、電極に対し送達される正味の電荷を0に等しくするように交代されてもよい。
他の実施形態では、図23Cに示すような2組の3つ以上のキャパシタの使用が可能であってもよい。さらに、図23Dに示すように、様々な電圧制御技術を用いて、一定な電圧(すなわち、方形の波形)を提供してもよい。これは、活性な刺激期間において、より一定な電圧を提供するのに有用な場合がある。一部の例では、そのような波形によって、所望の効果を達成するのに必要な電圧閾値を低下させることができる。本発明の一実施形態では、これらの3つ以上のキャパシタのグループのうちの1つが電極E1へ接続され、他方が電極E2へ接続されてよい。2つのグループは、標準的なXstim波形におけるように、反対の極性に充電されてよい。これに代えて、それらのグループは、電極によって刺激点へ送達される正味の電荷を0に等しくするように、電極E1,E2の間で交代されてもよい。
さらに、単一のキャパシタ要素(または並列配置された複数のキャパシタ)、独立にアドレス可能な2つのキャパシタの1つの組、または各々独立にアドレス可能な3つ以上のキャパシタの組を用いるそれほど高価でない装置では、1、2、3、または4以上のキャパシタの容量性放電を通じ、より大きな振幅電圧を有する電極のうちの1つへ送達されるアノード性パルスを用いることによって、同じ効果が得られることがある。このアノード性パルスは、1つの拍において刺激電極のうちの1つへと、次の拍では次の電極へと、交代に接続される。さらに別の装置では、交代の頻度が低下し得る。例えば、アノード性の容量性放電が、2〜10000拍毎に、電極E1へ、次いでE2へと交代に接続されてよい。交互の充電が等しく分散される場合、送達される正味の電荷は、0に極めて近く保持される。そのような装置の移植中、医師は、電極のいずれかがアノード電極であるとき(上述の方法のうちの1つを用いて、各電極を交代にアノードとして)効果を維持する好適な位置(ローカス)に、心室内ペーシングリードを配置することができる。
様々な実施形態のパルス幅は、所望の処置にしたがって、および/または特定の患者の反応にしたがって変化する。パルス幅の例は、0.05ミリ秒〜5.0ミリ秒の範囲である。
本発明の一定の例の実施形態では、パルス信号(波形)をスイートスポット(例えば、RV心内膜の中隔の部分のローカス)へ与えることによって、場合によっては、信号を調整すること(その極性を変えることなど)によって、再同期が達成される。パルス信号を与えるためにアノードおよびカソードの両方が用いられる、そうした実施形態では、信号を調整する1つの方式は、アノードおよびカソードに対して信号の極性を反転させることによる。パルス信号が電極および基準電圧によって与えられる場合(例えば、容器(can)、および/または治療下の身体における節)、パルスの追加および/または省略(skip)により同様に信号を調整することが可能である。
以下に説明するように、ペーシング装置の電力消費を考慮することが重要な場合がある。理論によって拘束されるものではないが、ペーシング出力の制御には異なる複数のペーシングプロファイルが特に有利であると考えられる。例えば、各電極に対し印可されるパルスが重なっている時間には、それらの電極間に見られる実効電圧はそれらの振幅の和に等しいと考えられる。
別の実施形態では、図に示すパルスは、図22により示すものなど、リング電極およびチップ電極へ印加される。電圧の極性は、互いに対しおよび/または参照電圧に対し、定期的に(例えば、拍毎またはNパルス毎に)交代されてよい。上述のように、そのよう交代は、アノード性ブロックを軽減するのに特に有用な場合がある。さらに、パルスの交代は電極の腐食も軽減する場合がある。
図18に戻って参照すると、そのようなパルスは、方形波形として示したが、実際には、任意の様々な形状であり得る。図18以前の図を参照すると、第1の電極E1は正に帯電したパルスのみを有する。第2の電極E2は、正の電極E1の正に帯電したパルスと一致するように時間の設定された、負に帯電したパルスを有する。直流(DC)パルスが好適であるが、電極E1,E2には、第1の電極E1に対する正のパルスが第2の電極E2に対する負のパルスと一致し、第1の電極E1に対する負のパルスが第2の電極E2に対する正のパルスと一致するように、電極E1,E2に対する異相の信号の交流パルスによってエネルギーを与えることも可能である。
電極E1,E2が反対のパルスによって電荷を与えられる場合、出願人らの現在の理解では、電極E1,E2の間には、電極E1,E2の間に線状に延びる場の軸FA(図8)を有する電場が形成される。歪みの影響(外部磁場、外部の電極、または血液、組織骨などの伝導率の変化による一様でない伝導率など)が存在しない場合、場は場の軸FAの回りに対称であり、軸FAの左側(患者の観点から左)の左の場の線LFLおよび右の場の線RFLとして図面に示すような場の線によって表現される。この場の線が電場の強度を表す。強度は、場の軸FAからの距離の関数として急速に減少する。
上述において電極E1,E2を含む様々な実施形態に関連して説明したように、電極E1,E2によって生じる場が中隔壁と左心室LVの自由壁FWとの両方に対し有意な影響を有するように、それらの電極間の電位は相当高いレベルに設定される。しかしながら、そのような高い電圧はペーシング電極においては実用的でなく、より標準的には除細動治療に関連している。また、そのような電圧は横隔神経および/または横隔膜の刺激を生じる場合や、バッテリを相当消耗させて実用的でない頻度でのバッテリ交換が必要となる場合がある。
図18には、電極E1,E2が反対の極性によって同時にパルス化されている、一例の波形を示す。図18Aには、図18の波形と同様の構造であるが位相が異なる、波形W1’,W2’を示す。波形W1’,W2’により示す第1の組のパルスは、部分的に重なった持続時間ODを与える(ODは正の値である)。第2の組のパルスは、1つのパルスの開始部分が別のパルスの終了部分と一致するように(OD=0)、さらに位相が異なっている。第3の組のパルスは、第1のパルスの組の終了部分の後に1つのパルスの立ち上がり区間が生じるように、位相の異なるパルスを含む(ODは負の値を有する)。図18Aでは、少なくとも一部の時間には、電極E1,E2のうちのそれぞれから参照電極REへの単極性ペーシングが含まれる。このペーシングによって、図18Bに示す異相の単極性場F1,F2が形成される。ODの値としては、全パルス長(例えば、約2ミリ秒)からマイナス数ミリ秒の値(例えば、約マイナス2ミリ秒)の範囲が可能である。図18Aには明示的に示していないが、正負のいずれかのパルスがそれぞれ他方のパルスを導くことが可能である。また、2つの波形の振幅が等しいように示しているが、それらは実際には等しい必要はなく、厳密な方形波として実施される必要もない。非方形波パルスまたは比較的立ち上がりまたは立ち下がりの遅いパルスでは、それにしたがってODを算出することができる。一例では、ODは、各パルスの立ち上がり/立ち下がりの開始部分または終了部分からそれぞれ算出される。別の例では、各パルスがそれぞれ一定の電圧レベルに達する時間から、またはパルスが一定の期間、一定の電圧レベルを維持した時間から、ODが算出される。
図19には、従来の波形または本明細書におけるXstim波形のいずれかに対するペーシング出力を提供することの可能な心臓刺激パルス発生器の一部の代表的な回路を概略的な形式で示す。図19の回路は、移植型ペースメーカーまたは診断もしくは治療用の任意の外部刺激システムについてのものである。
この刺激装置は、身体の3つの電極E1,E2,REへ接続される3つの出力端子を有する。電極E1,E2は、右心室RV中に配置されており、それらの電極のうちの1つ以上が中隔Sと直接接触していることが好適である。
参照電極REは、移植型パルス発生器IPGの筐体へ電子工学的に接続可能な不関電極である。参照電極REは、移植型パルス発生器上に直接ある電極であってもよく、上述のような心臓の内側または外側に配置するための任意の他の電極であってもよい。
また、本発明は、頻脈および細動(心房および心室の両方)を治療するための電極システムを通じて様々な波形の高エネルギーパルスが送達される除細動治療まで拡張されることも可能である。本発明は、電場の分布がより良好であるために除細動閾値を低下させることができ、図7Bに見られるような従来の除細動構成によるものと比較して、少なくとも心臓の一定の部分においてより高い電圧勾配を生じさせると考えられる。これに加えて、本発明を用いて、一定の不整頻拍を停止するために従来のペーシングパルスシーケンスが用いられるのよりも速い、抗頻拍ペーシングを実行することが可能である。本発明による態様では、より広い範囲を覆う電場と、心臓(心房および心室の両方)における特別な伝導系を捕捉する性能とが提供されると考えられる。
特定の一実施形態では、電極E1,E2は、図22に示すように互いに対し近接して配置される。これは、(上述の構成のうちの1つを用いる)電気刺激によって所望の同期または再同期効果の達成される領域を局所化するのに特に有用である。例えば、電極の幅は約4mmであり、互いから約5mmの距離D以内に配置される。別の例では、電極は約2mm以下の距離D以内に配置される。
この選択的な配置は、特定の機能不全および/または特定の患者について変更されてもよい。例えば、電極がヒス束近傍に配置されてもよい。ヒス束近傍に電極を配置することによって、有利には、左右心室の両方の捕捉が可能となる場合がある。さらに、LBBB(またはRBBB)の場合であっても、左(または右)心室の再同期が可能な場合がある。
図21には、選択的に電極を配置するための1つのシステムを示す。特定の一実施形態では、図22に関連して説明したリードが用いられてもよい。リードの位置は概念ブロック104を介して様々な方法によって調整される。所望の場合、リード位置が監視され、位置情報が心筋捕捉解析ブロック102へ提供されてもよい。心筋捕捉監視ブロック106は、左右心室の心筋の収縮の捕捉および再同期を行う際、現在のリード位置の有効性を監視する。この監視情報は心筋捕捉解析ブロック102へ提供され、心筋捕捉解析ブロック102は受信した情報を電極を配置する目的で処理する。
特定の一例では、監視ブロック106は、ECG測定値を用いて心筋捕捉および再同期を監視する。解析ブロック102は、次に限定されないが、QRS幅(例えば、ベクトル心電図から決定される)を含む遠方場測定の様々な因子を解析してよい。ECG測定値は、次に限定されないが、除細動コイル、移植型装置の容器、ペーシングもしくは感知リードの電極、または外部のECG(または同様の)装置を含む、複数の異なる入力から供給されてよい。
別の例では、監視ブロック106は、心筋の収縮から生じる血流量を測定してもよい。
図21のシステムは、他の再同期パラメータを調整するためにも用いることができる。例えば、監視ブロック106からのフィードバックおよび解析ブロック102からの解析結果にしたがって、電圧レベルおよび波形を調整することができる。詳細には、入念な配置によって低電圧が電極へ印加されることが可能となることが発見された。一実施形態では、リードおよび電極のペーシングインピーダンスは低く、ペーシング電圧の有効な送達が可能である。これは、装置の電力消費量を削減するのに、また刺激の送達に必要な電圧を低下させるのに有用な場合がある。このように進行すること(例えば、低インピーダンスを用い、低電圧を維持すること)によって、横隔神経刺激または横隔膜刺激(いずれも高ペーシングの極めて望ましくない副作用である)を回避できる。
特定の一実施形態では、リードは、左心室またはヒス束へ到達するために用いられるねじに比べてねじの短いねじを有する。これによって、包埋まのでリードの固定が可能となり、そのような取付に関連した機械的な問題の低減が補助される。一例では、このねじは非導電性の材料から製造され、それによって、取付点を電気的に絶縁することができる。別の例では、このねじは、導体材料からねじが製造される場合であっても、ペーシング電圧を送達するための電極から電気的に絶縁されてよい。
別の実施形態では、フックが取付け機構として用いられる。さらに別の実施形態では、取付け機構としてのT字形バーの使用が含まれる。
これらのおよび他の態様のために、当業者には、本明細書に説明するように、有効な再同期を提供するために随意に参照電極が使用されてよいことが認識される。1つのそのような例では、参照電極を用いて、特定の位置の生体内電圧に由来する参照電圧を提供する。この参照が、その特定の位置に対する刺激位置に提供される電圧を参照するために用いられてもよい。例えば、この参照位置は、容器の位置に、または刺激位置近傍に配置された参照電極に取られてもよい。別の例では、参照電極は用いられない。
電極を選択的に配置することによって数々の予想外の利点が提供され得ることが発見されている。より詳細には、中隔に沿って電極を選択的に配置すると、束の病変が基端側にあると考えられないLBBBの場合にも、左右心室の再同期が提供されると考えられる。さらに、多くの例では、LBBBのある患者において、またLBBB、RBBB、およびIVCDを含む、中等または進行性のHFおよび伝導欠陥のある患者においても、同時性のレベルに大きな向上が見られた。例えば、中隔上の最適位置近傍に電極を配置することによって、期待されるQRS幅未満の幅が生じることが示されている。さらに、左右心室の心筋を捕捉するためまたは予想されるQRS幅(すなわち、向上した心機能の指示)未満の幅を生成するのに必要な閾値電圧が、比較的小さい場合がある。
図24には、心臓の右心室166内で使用するためのシースの一例を示す。外側シース156は、僧帽弁158を通じて心室166へ挿入されるように設計されている。外側シース156は、図に示すようにJ字型の屈曲を含むことができる。様々な用途では、これによって、有利には、隔膜および/または三尖弁162の近傍における、電極160,164の配置が容易となる。一実施形態では、外側シースと内側シース154とのうちの1つ以上は、シース位置の方向制御を可能とするように構成されている(例えば、その湾曲の調整を可能とすることによって)。
特定の一実施形態では、内側シース154は外側シース156内に配置されている。内側シース154は、調整機構152を用いて、外側シース156に対し調整されてよい。一例では、調整機構152は、調整可能な軌道車輪または別の同様の機構を含む。これに加えて、内側シース154は、安定性を追加するために、ペーシングリードおよび/またはガイドワイヤを含んでもよい。内側シース154の調整は数々の様々な技術を通じて行われる。1つのそのような技術では、内側シースには、外側シースを通じて進行し、隔膜に沿って移動することが自由とされている。別の例の技術では、内側シースはリード配置を決定するように構成される(例えば、その湾曲の調整を可能とすることによって)。内側シースおよび/または外側シースは、そのチップ部分に、Xstim用のローカスをペーシングによりマッピングする(本明細書に記載の手順に従う)ために用いる電極を有してよい。このため、長期のペーシングリードの挿入が容易となる。内側および外側シースは剥離可能であるので、ペースメーカーのリードはシースが除去されても適所に保持される。
外部のペーシング装置150は、電極160,164へ電気パルスを提供する。電極160,164の配置が調整され、各々の位置の有効性が監視されてよい。適切な監視技術の様々な例について、より詳細に本明細書において説明する。一部の変形形態では、調整機構は再生可能な複数の固定設定を含む。これによって、各々の位置の有効性と相関付けられるように、容易に回復可能な電極160,164の配置が可能となる。例えば、内側シースが位置設定1〜10に沿って進行され、対応する監視入力を用いて、いずれの設定が好適であるかが決定されてもよい。内側シースは、次いで、試験済みの設定の各々に対応する結果の間での比較の後、好適な設定へと設定されてよい。
一実施形態では、各電極は、同期収縮を刺激するために選択的かつ独立に用いられてもよい。各電極の電圧を変化させて、心室捕捉を生成するのに必要な、または向上した心機能を生じるのに必要な電圧閾値が決定される。低い平均刺激電圧および電流は、最低の効果閾値を有する電極を選択することによって得られる(効果とは、再同期効果を、またはペーシング効果中の収縮の同時性を維持することを指す)。
一実施形態では、次いで、外側および内側シースが除去される。数々の技術を、そのような除去のために用いることができる。1つのそのような技術を用いて、ガイドワイヤはシースを通じて進行され、シースが除去されても、ペーシングリードを適所に保持するために用いられる。別の技術では、シースは、有意な力をそのペーシングリードへ印加することなくペーシングリードから除去されることを可能とするスリットによって構築される。
一実施形態では、内側シースは、外部のペーシング源へ接続された一時的なペーシング装置として機能する。外部のペーシング源は、有利には、適切な配置場所場所の特定を補助するための追加の処理および表示性能(バッテリ寿命および物理的な寸法の制約のために限定されている場合の多い移植型装置に比べて)を備えることができる。内側および外側シースは、ペーシングリードが取付けられると、除去される。また、ペーシングリードも移植型装置へ接続されてよい。
特定の一例では、外部の装置は、様々な異なる電圧波形および/または刺激タイミングを刺激場所に提供するように動作する。ECGまたは他の装置からのフィードバックは、好適な波形を識別するために用いられてよい。移植型装置は、次いで、刺激の提供に用いられる対応する情報とともにアップロードされてよい。1つのそのような例では、ペースメーカーは、外部のインタフェースがペーシング機能を監視および/または調整することを可能とする、無線ポートを含む。このようにすると、外部の装置が外部シースを通じて刺激を提供する必要はない。代わりに、移植型装置が無線インタフェースを用いて、同じ刺激の集合を送達してもよい。
別の例では、外側シースは、外部のペーシング装置および移植型ペーシング装置の両方との互換性を有する、除去可能なインタフェースによって設計される。これによって、外部のペーシング装置を電極の配置中に使用することと、移植型ペーシングと同じ外側シースを使用することとが可能となる。これは、シースの寸法、装置の費用を減少させるため、または外側シースを除去する工程を回避することによって手順を単純化するために、特に有用な場合がある。
様々な図および関連する説明と共に、引用によって以下の開示の全体を本明細書に援用する。刺激パルスの局在化した心臓ペースメーカーの詳細に関する、Hartungによる2001年5月8日発行の特許文献1、無線除細動システムの詳細に関する、Denkerらによる2004年6月14日付けの特許文献4、筋肉を収縮させるための1つ以上の解剖学的構造付近の微小刺激器の使用の詳細に関する、2004年8月5日公開の特許文献5、鬱血性心不全の治療の詳細に関する、Mathisらによる2003年11月4日付けの特許文献3。
本発明のこれらのおよび他の例の実施形態により、図24A〜Dに、電子回路によって提供され得る追加の波形パターンを示す。例えば、図24Aには、第1の電極へ印加された電圧(例えば、チップと容器との間の電圧差)を表す、パルスA1,A2,A5、第2の電極へ印加された電圧(例えば、リングと容器との間の電圧差)を表す、パルスA3,A4を示す。ペースメーカー装置における制御論理は、様々なパルスの電圧振幅を個別に調整することと、パルス幅または持続時間を調整することとを可能とする。特定のパラメータは、反復的に波形を変化させ、パルスの有効性を監視することによって実装される。例えば、理想的な波形の選択は、ECGによる測定において最小QRS幅を生成する波形を選択することによって行われる。図24Aには拍毎に交代するパルス極性を示しているが、本明細書における説明および図24B〜Cから、これが可能なパルス変調方式の一例に過ぎないことは明らかである。
特定の一実施形態では、チップ上のパルスA5に相当するリング電極上のパルスの欠如によって示すように、1つ以上のパルスが差し控えられる。この意味において、リング電極のパルスが有効に差し控えられる、すなわち、省略される。一定の実施形態では、一方または両方のパルスが差し控えられてよい。そのようにパルスを差し控えることが定期的に行われてもよい(例えば、内因性の心拍数が一定の許容可能なレート(50拍/分など)を越える場合、心臓がそれ自身の内因性収縮によって調整されることを可能とするように、Nパルス毎に1回、24時間毎に20分間)。別の例では、パルスを差し控えることは、感知電極またはECGの入力からのフィードバックに応答してもよい。
文献では、従来のRV心尖ペーシングは、心機能に有害であることが示されているが、その小さな割合では、RVペーシングに関連した散発性の心臓のストレスによって導かれる健全な交感神経・副交感神経の運動のために、全体的な患者の健康に対し利益が与えられることが報告されている。本明細書に開示の(Xstimペーシングを含む)ペーシングでは、LV心室を再同期させ、病気の心臓のストレスレベルを低下させることが示されているので、定期的または散発的に(Xstimの)ペーシング信号を差し控えることは、全体的な患者の健康を向上させるのに有用である。
本発明を実施するのに有用な方法の様々な態様に関連して本明細書に説明したように、ペーシング用のリードの配置を決定するための一例の手順には、ペーシングプロファイルを送達するのに適合した1つ以上のリードを用いて、ペーシング、感知、および再配置を1回以上反復することが含まれる。様々な図に示すデータの全部が本明細書に記載の実験的試験の部分として実施されたものではないが、示したデータは正確であると考えられる。この手順の特定の一実施例では、心臓のペーシングは、右心室中およびヒス束近傍に配置されたリードを用いて行われる。例えば、このリードは、反対に帯電したパルス送達するための2つ(一部の例では1つ)の電極を含むことが可能である。次いで、ペーシングに関連した心臓機能が監視される。監視には、次の例、すなわち、ECG読取(例えば、QRS幅または断片化)、左心室における遅い活性化部位の電気活動、心臓の機械的収縮、または血流の測定値(例えば、圧力の変化率)のうちの1つ以上が含まれてよい。リードが再配置され、ペーシングおよび監視が反復されることが可能である。
所望のリード配置が選択されると、様々な手法によりペーシングを実施することが可能である。例えば、DDD(両心腔)ペーシングを、低心房レート(例えば、約50拍毎分)や、ベースラインまたは内因性AV間隔の約半分のAV遅延を用いて、または用いずに、実施することが可能である。DDDペーシングは、様々な異なるXstimペーシングプロファイル、Xstim以外のペーシングプロファイル、およびそれらの組み合わせを用いるように変更可能である。
また、本発明の一実施形態では、改善した心機能を評価するための一手法には、左心室における遅い活性化部位を感知するためのリードの配置を決定することが含まれる。リードは、近くの心臓組織における電気活動を感知することが可能であり、リードから得られる監視結果が遅い活性化領域の活性化を表すまで、CS(冠状洞)を通じて進行される。リードは、もはやリード上の先端側電極の活性化がリード上の他の電極より先に生じなくなるまで、連続的に進行させることが可能である。そこで、その時点のリード位置が維持されるか、リードをわずかに後退させることが可能である。
理論によって拘束されるものではないが、実験データからは、本発明の態様によって提供される心機能に対する有益な効果が少なくとも部分的にはヒス束刺激のためであることが強く支持される。このデータからは、さらに、予想外にも、電気刺激に対する反応性に関してヒス束が筋細胞よりもむしろ神経のように反応することが支持される。これは、部分的にはヒス束が繊維に包まれているためである可能性がある。Xstimペーシングの成功は、部分的には、方向異方性の高い組織におけるアノード性の開放刺激の現象に起因している可能性がある。
Xstimペーシングの成功は、部分的には、馴化(accomodation)と呼ばれることもある現象に起因している可能性がある。馴化とは、神経細胞の脱分極(神経が閾値電圧未満の0でない電圧に晒されると発生する)を生じるのに必要な電圧閾値の上昇である。
本発明の実施形態は、2つまたは3つの電極を用いて、本明細書に記載の様々な方法およびシステムに関連して用いることの可能な刺激カテーテル、システムおよび方法に関する。本発明の特定の実施形態では、最も先端側の2つの電極は、カテーテルのチップに配置される。随意の第3の電極は、第1の対から幾らか距離を置いたリード本体の上など、数々の場所に配置されてよく、またはその対の間に配置されてもよい。第3の電極および先端側の対からの距離は、数ミリメートル〜数センチメートルの範囲である。このカテーテルは螺旋状の固定構造を有することが可能であり、それはパッシブ(電気的でない)であっても、アクティブ(チップ電極のうちの1つとして機能する)であってもよい。このカテーテルは、経静脈的に心臓内に配置可能である。このカテーテルは、心臓組織へ取付けられると、2つのペーシング電極が一度に心臓組織に直接電気的に接触するように構成される。実験データからは、そのような特徴が標準的なペーシング中に低くかつ安定な閾値を提供するのに有用となることが示唆されている。また、壁に接触した2つのペーシング電極は、ヒス−プルキンエ系を通じて伝搬する正常な内因性の(洞結節から始まる)活性化によって生じる正常な活性化シーケンスに極めて類似したように心臓の脱分極を行う、右心室の刺激領域を見出す際に有用となることも観察されている。
2つの刺激電極が心臓組織に直接接触している様々な実施形態を実施することが可能である。実施形態の例を図25Aに関連して示す。これらの例は、同様の結果を生じる他の可能な実施を除外することを意図するものではない。例えば、微視的な表面積(物理的相互作用の反応レベルでの有効表面)を増加させるために、1つ以上の小さな導電性の有孔ドットがリング電極へ取付けられてもよく、やはり微視的な表面積を増加させるために、螺旋状電極が1つ以上の材料でコーティングされてもよい。様々な実施では、電極の有孔性の突起した部分は、任意の数の形状(例えば、線状、円形、正方形、または折れ線形)の形態を取る。1つの実施には、電極に刻み目を付けること(例えば、レーザまたはエッチングを用いて)が含まれる。他の実施には、電極の接触面上に配置されるナノ構造(例えば、ナノワイヤおよび/またはナノチューブ)が含まれることが可能である。そのようなナノ構造は、接触表面積を有意に増加させることが可能である。これに加えて、アクティブな固定ペーシングカテーテルに関連して一定の抗炎症剤(例えば、ステロイド)の投与が可能である。
図25Bに示す構成は、心臓組織と電極との間に充分な接触表面積を提供するための方法および装置に関連して実施可能である。電極と心臓組織との間の抵抗が、心臓組織(心臓の伝導系を含む)と電極との間で送られる信号(例えば、ペーシングまたは感知信号)に影響を与えることがある。一般的には、導体の抵抗は電流の向きに対する導体の断面積に反比例する(例えば、R=抵抗率×長さ/断面積)。心臓組織に接触する電極の表面積を増加させることは、内因性の心臓脱分極信号の検出に特に有用なことがある。
図25Bに示す回路図には簡単な例の実装を表すが、様々な他の実装が可能である。そのような回路の使用を含む1つの実施は、次の通りである。検出モードでは、電極1,2は、感知スイッチ(短絡を回避するため刺激中は開いており、感知が必要なときには閉じている)を通じて感知増幅器の一方の入力へ接続される。感知増幅器の他方の入力は、刺激器ケース(CASE)(例えば、単極性感知のとき)か、利用可能な場合には、随意の電極3(例えば、双極性感知のとき)へ接続することが可能である。
ペーシングモードでは、1つ以上の刺激波形が電極1,2へ印加される。一用途では、これらの波形は従来のカテーテルと共に用いられるものと同様である。他の用途では、CASEまたは電極3(利用可能な場合)に関して、次に限定されないが、Xstim波形および/または2つの同時の反対の極性の刺激パルスを含む、刺激波形が用いられる。
様々なカテーテル構成の様々な態様が、本明細書に記載の方法を実施して結果を得るのに有用であることがある。例えば、各電極を個別にアドレスする性能は、図26Aに関連して説明するようなペーシングマッピング(pace mapping)に有用であることがある。カテーテル構成の他の態様では、目標場所を決定するためのペーシングや、続く決定した場所での長期のペーシングが可能となる。
図26Aには、本発明の一実施形態によるペーシング用のリードの配置を決定するための一例の手順を示す。この手順を実施して、以下に提供する実験結果に関連するペーシングリードを配置した。
ステップ4526では、心臓のペーシングは、右心室中およびヒス束近傍に配置されたリードを用いて行われる。特定の一例では、リードは、Xstimペーシングの場合のように、反対に帯電したパルスを送達するために用いられる2つの電極を含む。ステップ4528では、ペーシングに関連した心臓機能が監視される。監視には、次の非限定的な例、すなわち、ECG読取(例えば、QRS幅または断片化)、左心室における遅い活性化部位の電気活動、心臓の機械的収縮、または血流の測定値(例えば、左心室圧力の最大変化率)のうちの1つ以上が含まれてよい。一実施形態では、向上した心機能は、ペーシングのない心機能の比較に基づく。上述のように、捕捉閾値よりも充分に高い電圧は、捕捉閾値に近い電圧に対して向上した心機能を導くことが発見されている。したがって、ペーシングの1つの実施では、リードの場所を決定するためにペーシングを行うとき、比較的高い電圧(例えば、±5V)が用いられる。これは、向上した心機能が見られることを保証するのに有用であることがある。リードがまだ適切に配置されていないとき、心機能の有意な向上を示すことなく、依然としてペーシング捕捉が得られることがある。したがって、この向上した心機能は、ベースラインおよび/またはペーシングの行われていない心機能に代えて(または加えて)ペーシングリードおよびペーシングプロファイルの使用から得られる心機能に対する向上であることがある。
ステップ4530では、リードが再配置され、所望の通りにペーシング、監視のステップ4526,4528が反復されることが可能である。監視ステップの結果は保存され、対応するリード位置へ関連付けられることが可能である。ステップ4532では、監視ステップ4528の結果を用いてリードに対する適切な配置が決定される。監視ステップの結果の幾つかの例を、4534(QRS狭化)、4536(断片化の向上)、4538(遅い活性化部位の早期化)、および4540(機械的機能の向上)によって示す。リードは、次いで、監視結果に応じて選択されるリード位置へ移動される(戻される)ことが可能である。
別の実施では、ステップ4530,4532が入れ替えられ、リードの再配置は監視ステップ4528の結果の評価後に行われる。このようにして、満足な結果が検出されるまで、リードの再配置を行うことが可能である。これは、以前にペーシングを行ったリード位置を記録し休養させる必要がない場合に特に有用となる。代わりに、満足な監視結果が見出されると、その時点のリード配置を用いることが可能である。
図26Bには、本発明の一実施形態によるペーシング用のリードの配置を決定するための一例の手順を示す。ステップ4502では、ベースライン心機能が記録される(例えば、Xstimペーシングなしで)。ステップ4504では、Xstimペーシングを送達可能なリードが、ヒス束近傍(すなわち、右心室中の三尖弁の中隔尖の付け根の近傍)に配置される。ステップ4506では、配置されたリードへXstimペーシングが送達される。特定の一実施形態では、Xstimペーシングは、図18に関連して図示および説明した波形に一致する。ステップ4508では、Xstimペーシングに関連した心機能が記録される。ステップ4510にて、Xstimペーシングが心機能を向上させる(例えば、QRSの狭化、QRSの断片化の減少、遅い活性化部位のタイミングの向上、機械的機能の向上、または圧力機能の向上)と判定される場合、ステップ4512にて、リードの配置を選択(および固定)することが可能である。他の場合には、ステップ4514にて、配置されたリードの位置を調整することが可能であり、必要に応じてステップ4506〜4510を反復することが可能である。
特定の一実施形態では、決定ステップ4510は、多リードECG読取値と、左心室の遅い活性化部位時に配置されたプローブとを用いて実施される(例えば、冠状洞を通じて挿入されたカテーテルを介して左心室の後部側面壁近傍にリードを配置する)。
所望のリード配置が選択されると、DDDペーシングはステップ4516に示すように実施されることが可能である。特定の一実施では、DDDペーシングは、(完全な捕捉および心房トラッキングならびに心室ペーシングを可能とするように)低心房レート(例えば、約50拍毎分)や、ベースラインまたは内因性AV間隔の約半分のAV遅延を用いて、実施することが可能である。許容可能な(または最適化)ペーシング手法を見出すため、ステップ4518に示すように、DDDペーシングは様々な異なるXstimペーシングプロファイルを用いるように変更される。ステップ4520に例示するように、これらのプロファイルのうちの1つ以上を次の非限定的な例、すなわち、チップへ正の電圧が印可され、リングへ負の電圧が印加される同相のパルス、チップへ負の電圧が印可され、リングへ正の電圧が印加される同相のパルス、チップおよびリング電極へそれぞれ反対の極性が印加される異相のパルス、から選択することが可能である(簡単のため、チップおよびリング電極を備えたリードに関して説明する)。
一部の例では、決定ステップ4522によって示すように、ペーシングプロファイルを調整することが有益な場合がある。そのように決定される場合、ステップ4524においてペーシングプロファイルが調整可能である。例えば、長期の刺激によるポケット刺激効果、ドライポケット効果、または他の効果によって、閾値電圧の上昇が生じることがある。パルスの重なり持続時間(OD)を変化させることによって、そのような問題の補償が補助されることが、発見されている。別の例では、ドライポケットまたは他の原因が存在しない場合であっても、ODを変化させ、ペーシング電圧を低下させることが可能である。
図26Cには、本発明の一実施形態による、左心室における遅い活性化部位の感知用のリードの配置を決定するための一例の手順を示す。本明細書に記載の通り、左心室の遅い活性化部位を監視することは、ペーシングリードの配置および/またはペーシングの有効性の評価に有用なことがある。この方法には、近くの心臓組織における電気活動を感知可能なリードの使用が含まれる。リードは、リードから得られる監視結果が遅い活性化する領域の活性化を表すまで、冠状洞を通じて進行される。一実施形態では、リードは冠状洞内の所望の空間位置まで進行可能である。リード配置は、リードの進行距離の蛍光透視法による測定または物理的測定など、複数の異なる機構を用いて決定可能である。各患者が、しかしながら、異なる組織形態および/または電気伝導/活性化を示す場合がある。伝導異常を有する患者は、伝導の正常な患者と異なる部位において、遅い活性化を示す場合がある。したがって、図26Cによって示した方法では、進行するリードから得られる電気的な測定値を用いて、所望の感知位置を決定する。
ステップ4542には、リードが複数の感知電極を含むことを示す。これらの感知電極は、リードの長さに沿って空間的に異なっている。このように、最も先端側の電極は、最も遠くに進行した電極を表す。残りの電極が続く。一例のリードの簡易版を、リード4500によって示す(図26D)。先端側の感知電極4550に、感知電極4552、4554、4556が続く。
ステップ4542にて感知読取値が得られると、ステップ4544では、感知電極において感知された活性化時間の間の関係について決定が行われる。詳細には、先端側の電極4550の活性化が他の電極の活性化の後に生じる場合、ステップ4546によって示すように、リードがさらに進行されることが可能である。リードは、もはや先端側の電極4550の活性化が他の電極の全てより前に生じなくなるまで、連続的に進行されることが可能である。そこでステップ4548に示すように、その時点のリード位置が維持されるか、リードをわずかに後退させることが可能である。
多数の異なるセンサを用いるものなど、他の実施が可能である。リードが冠状洞の中へ有意な距離だけ進行されてもよく、特定のセンサが選択されてもよい(例えば、他のセンサに対して遅い活性化を示すセンサを選択することによって)。
本発明の特定の一実施形態では、電極のうちの一方に対し与えられる電圧の振幅の絶対値は、他方の電極に対し与えられる電圧の振幅の絶対値未満であることが可能である。この「平衡でない」ペーシングプロファイルによって、ペーシング出力の制御を補助しつつ、適切なペーシングを提供することができる。
ペーシング装置の電力消費を考慮することが重要な場合がある。理論によって拘束されるものではないが、ペーシング出力の制御には異なる複数のペーシングプロファイルが特に有利であると考えられる。例えば、各電極に対し印可されるパルスが重なっている時間には、それらの電極間に見られる実効電圧はそれらの振幅の和に等しいと考えられる。パルスが重ならない時間では、実効電圧は活性電極の振幅にほぼ等しいと考えられる。反対の極性のパルスの電圧の絶対値(A)は等しいと仮定すると、重なったパルスの瞬間消費電力は、4A2に比例する。重なっていないパルスの瞬間消費電力は、A2に比例する。完全に重なったパルスでは、各々が持続時間Tを有する(したがって、総持続時間はT)とき、消費電力は4TA2に比例する。全く重なっていないパルスでは、各々が持続時間Tを有する(したがって、総持続時間は2T)とき、消費電力は2TA2に比例する。重なっていないペーシングプロファイルは、重なったペーシングプロファイルのものより約0.5ボルト高いペーシング閾値を示す場合があることが観察されているが、依然として、重なったパルスの代わりに重なっていないパルスを用いる省電力化が可能であると考えられる。
図27には、心臓ならびにヒスおよび傍ヒス領域の断面図を示す。詳細には、図27は心臓の右側の図であり、ヒスおよび傍ヒスのペーシング領域を点線によって示している。これらの領域は、実験データを収集したペーシング部位の一般的な領域を表す。
図28には、本発明の一例の実施形態による、ペーシング部位の印の付けられた心臓の断面図を示す。様々なペーシング領域における代表的な波形を、図の側方に沿って示す。上部左の波形は1人の患者についてのペーシング部位を表しており、有意な心房(A)、ヒスおよび心室(V)信号を示している。中央左の波形は13人の患者についてのペーシング部位を表しており、微弱な心房信号と、比較的強いヒスおよび心室信号を示している。下部左の波形は1人の患者を表しており、比較的強い心房および心室信号と、小さなヒス信号とを示している。右の2つの波形はそれぞれ、主として心室信号のみを各々示す、1人の患者および2人の患者を表している。
図29には、AV結節、傍ヒス領域およびヒス領域の連合部の三次元描写上にペーシング部位の位置を示す。
図30には、心臓の幾つかの断面上にペーシング部位の位置を示す。上側の図は、AV節、ヒス束および右脚を含む伝導系の一部分を含む断面図である。下側の2つの図では、上側の図の伝導系のそれぞれの部分で得られるそれぞれの垂直図を示す。
図31には、本発明の一例の実施形態による、様々な刺激プロファイルを提供するための回路の一例を示す。スイッチ5002,5008によって、ペーシングイベントを生じることが可能である。スイッチ5004,5006,5010,5012,5014は、様々なペーシングプロファイルを提供するように設定されている。スイッチ5004,5006,5014は、両−心室ペーシングと単−心室ペーシング(例えば、Xstim)との間で切替を行う性能を提供する。スイッチ5010,5012は、様々な電極へ印加されるパルスの極性を変更する性能を提供する。
第1の構成では、スイッチ5004,5006,5014は、Xstimペーシングを行うように設定される。スイッチ5004,5014はグランド(例えば、容器または参照電極)へ接続される。スイッチ5006はスイッチ5012へ接続される。このようにして、スイッチ5010,5012によって決定されるように、リング電極およびチップ電極へ正負の電圧が送達される。用語「リング」および「チップ」は図31の回路に関連して用いられているが、電極がそのように限定される必要はない。例えば、チップ電極はリードの先端に近いが、先端チップ上にチップ電極を配置する必要はない。さらに、リング電極はリング以外の何であってもよく、様々な他の電極構成が可能である。
第2の構成では、スイッチ5104,5106,5114は、両心室ペーシングを行うように設定される。スイッチ5104はスイッチ5112へ接続される。スイッチ5106はグランドへ接続される。スイッチ5114は左心室リードへ接続される。このようにして、両心室に配置されたリードへペーシングが送達されることが可能である。
別の構成は、図に示していないが、LVのペーシングが従来の負のパルスで行われ、RVのペーシングがXstimで行われる、BiVペーシングプロファイルを行うための3つの出力チャネル構成である。
スイッチ5110,5112は、右心室ペーシングリードのリング電極とチップ電極との間に見られる電圧の極性を変更する性能を提供する。
本明細書における様々な説明から明らかであるように、ペーシングプロファイルには、例えば、電圧レベル、パルス持続時間、およびパルス間の位相差における変化が含まれる。
ペーシングプロファイルの変化によって、数々の異なる用途に対する実施が可能となる。そのような一用途では、ペーシングの結果(例えば、QRS幅、圧力測定値、収縮の同時性など)が異なるプロファイルの間で比較される。それらの結果は、次いで、患者に対し用いられるペーシングプロファイル(例えば、Xstimまたは両心室)を選択するために用いられることが可能である。
別の用途では、装置は、左心室の機能を検出する感知機能を含む。感知した機能を用いて、現在のペーシングプロファイルが適切であるか否か、および/または左心室の収縮を捕捉しているか否かを判定することが可能である。特定の一例では、左心室における心機能を感知しつつ、Xstimペーシングが用いられる。感知した機能が潜在的な問題(例えば、捕捉なし、広いQRS、または他の問題)を示すとき、それにしたがってペーシングプロファイルが調整されることが可能である。ペーシングプロファイルの調整には、電圧の調整が含まれる。例えば、捕捉の部分的または完全な欠如が検出されるとき、ペーシング電圧を上昇させることが可能である。他の変化の例には、リング電極およびチップ電極の極性の変化、または印加電圧の位相の調整が含まれる。特定の一例では、不十分な左心室機能が検出されるとき、装置は両心室ペーシングプロファイルへと変更することが可能である。一部の例では、装置は、Xstimペーシングプロファイルを実施することを定期的に試みることが可能である。試行中、適切な左心室機能が検出される場合、Xstimペーシングが再開されることが可能である。他の場合には、両心室ペーシングの実施を続行することが可能である。
さらに別の用途では、装置は心房機能を感知する。この感知した機能を用いて、例えば、心室ペーシングプロファイルに対するタイミングを決定することが可能である。心房機能は、心房中の電極を用いて、またはヒス束近傍の感知(例えば、Xstimペーシングリード)を用いて感知されることが可能である。ヒス束近傍の感知のとき、感知した機能は、リングリード、チップリードおよび/または専用の感知電極を用いて検出可能である。特定の一例では、リードは、リング電極およびチップ電極よりもリードの先端に近い感知電極を含む。一般的には、そのような配置によって、感知した心房信号がより強くなると期待されるように(例えば、心房により近い配置のために)、感知電極の位置が決定されることが可能となる。
心臓の用途は、本発明の特定の一実施形態を表す。しかしながら、本発明は、電極から離れた電流密度の高い1つ以上のスポットが、次に限定されないが、神経、筋肉、胃腸系、および皮質を含む目標を刺激するために有益である、他の治療へも適用可能である。例えば、Wernickeらによる1994年4月5日発行の特許文献6(引用によって本明細書に援用する)は、Cyberonics,Inc.に譲り渡された数々の特許のうちの1つであり、種々様々な障害を治療するために迷走神経のペーシングを行うことについて記載されている。ペーシング電極は、例えば、頚部の迷走神経に直接的に適用される。迷走神経に電極を直接適用すると、神経に対する機械的な損傷(例えば、圧力壊死)のリスクを生じる。図20には、そのような用途における本発明の使用を示す。電極E1,E2は、頚部の迷走神経(VN)近傍(しかしながら迷走神経上ではない)に、皮下的に配置(経皮的または経静脈的に接続)される。参照電極REは、神経VNの反対側に対し、皮下的に配置(経皮的または経静脈的に接続)される。電極E1,E2およびREは、パルス発生器IPGへ接続される。上述のような信号により、生じる場Fによって迷走神経が捕捉される。この信号は、振幅、周波数その他、特許文献6により完全に記載されているパラメータを有するように選択されてよい。本発明の教示の利益によって、当業者には、本発明を用いた器官または神経のペーシングに関する他の代替例が生じることが認識される。
当業者には、本発明に関連して説明した様々な態様が様々な組み合わせおよび手法により実施可能であることが認識される。さらに、本明細書の始めに示した参照文献を含め、本明細書に開示して援用した様々な参照文献に関連して説明した態様は、本発明の態様と組み合わせて用いることが可能である。詳細には、本明細書の始めに示した参照文献が数々の類似の図および関連する説明を含んでいることから、当業者には、文献間で共通していない図についても、その開示の態様における相互性が認識される。それらの文献によって、本発明の実施形態と組み合わせて用いることの可能である態様を教示する有意な開示が提供されるので、それらの文献の全体を引用によって援用する。例えば、米国特許仮出願第61/020,511号には、様々なペーシング電極および関連する回路を示す図を含む付録が含まれており、そのような実施形態は本発明の態様と組み合わせて用いられることが可能である。
上述の様々な実施形態は単に例示として提供されるものであり、本発明を限定するように解釈されるものではない。上述の説明および例示に基づき、当業者には、本明細書に図示および説明した例示的な実施形態および用途に厳密は従わずとも、様々な修正および変更が行われ得ることが容易に認識される。そのような修正および変更は本発明の精神および範囲から逸脱するものではない。