JP2010525355A - 疾患マーカー - Google Patents

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Abstract

本発明は、自己免疫疾患のためのバイオマーカー、および特に対象由来の白血球によるTh2サイトカインの産生を測定する工程を含む、検査対象での自己免疫疾患の状態を決定するための方法、ならびに関連した使用およびキットに関する。本発明において対象となる自己免疫疾患の例には、関節リウマチ(RA)、重症筋無力症(MG)、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、グレーブス病、炎症性腸疾患、自己免疫性ぶどう膜網膜炎、多発性筋炎およびある種の糖尿病が含まれるが、これらに限定されない。

Description

本発明は、対象における自己免疫疾患を判断するための、特に多発性硬化症などの疾患を発症するリスクを検出または決定するための方法の分野に関する。
免疫系は、細菌およびウイルスなどの病原体に起因する疾患、ならびに体組織の異常な増殖(ガンなど)に起因する疾患に対する最初の防御機構である。免疫系は一般的に、正常な体細胞(「自己」と呼ぶ)と外来病原体または異常細胞(「非自己」)を区別することができる。寛容は、免疫系が自己抗原に対して反応するのを避けるようにする機構である。しかしながら自己免疫疾患では、免疫系は「自己」を正常と認識する能力を失い、それにより体組織または体細胞に対して免疫応答が誘導されることになる。自己免疫による病変は、しばしば重篤な臨床的帰結となり、現在対処が不十分である主要な健康問題である。
自己免疫障害の1つの例は、中枢神経系(CNS)の進行性疾患である多発性硬化症(MS)である。MS患者において、患者の免疫系は、脳および脊髄中の神経線維を包囲および防護する保護層であるミエリンを破壊する。ミエリン鞘の破壊は、神経伝達の混乱および神経線維の瘢痕損傷をもたらす。その結果、刺痛またはしびれ感、不明瞭な発語、および視覚障害を含めて、罹患患者において多数の症状が現れる。疾患を通じて、四肢の強さの低下があり、これは運動障害につながり、最重症例では肢の麻痺へとつながる。臨床診断に基づき、現在4種類のMS分類があり、脳または脊髄のどの部位が罹患しているか、重篤度および発作の頻度に基づく。
MSの初期発作は、一過性または軽度であることが多く、初期では医療介入が求められないということを意味し得る。報告された最も一般的な初期症状は、感覚の変化または部分的な視力喪失(視神経炎)である。多発性硬化症は、患者が疾患を患っているのを確認するのに少なくとも2つの別個のエピソードの特徴的な神経症状が必要なので、その初期では診断が困難であることが多い。脱髄の領域を特定するために磁気共鳴画像法(MRI)を診断で用いてもよく、脳脊髄液(CSF)の検査は、中枢神経系の慢性的な炎症の証拠を示すことが可能である。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)およびミエリン塩基性タンパク質(MBP)などのミエリンタンパク質に対する抗体の測定も、MSでの診断ツールとして役に立つと考えられている。しかしながら、これらの方法はすべて制限があり、見かけは健康そうな人または疾患初期の人を含む数多くの対象を解析するには実用的ではない可能性がある。
したがって、多発性硬化症などの自己免疫疾患を検出および診断する改良された方法が必要とされる。特に、疾患の早期検出が可能であり、または無症候性であり得る個体での疾患の易罹患性の指標を提供し得る方法が必要とされる。
したがって、本発明は、一実施形態において対象由来の白血球によるTh2サイトカインの産生を測定する工程を含む、検査対象での自己免疫疾患の状態を決定するための方法を提供する。
他の実施形態では、本発明は、検査対象での自己免疫疾患の状態を決定するためのバイオマーカーとしてのTh2サイトカインの使用を提供する。
他の実施形態では、本発明は、検査対象由来の白血球によるTh2サイトカインの産生を測定するのに適した1つまたは複数の試薬を含む、検査対象での自己免疫疾患の状態を決定するためのキットを提供する。
「自己免疫疾患の状態を決定する」とは、疾患が検査対象で存在するかどうか、疾患が将来検査対象で発症し得るかどうか、および/または現在もしくは将来の任意の疾患の重篤度もしくは型を判断することを含む任意の方法を含むものとする。このように方法は、任意の診断的または予後的方法を含み得、例えば疾患の検出方法、疾患の診断方法、疾患進行の監視方法、疾患予後の判断方法、疾患転帰の予測方法、疾患の発症リスクの決定方法または疾患への易罹患性の予測方法である。
自己免疫疾患の例には、関節リウマチ(RA)、重症筋無力症(MG)、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、グレーブス病、炎症性腸疾患、自己免疫性ぶどう膜網膜炎、多発性筋炎およびある種の糖尿病が含まれるが、これらに限定されない。
好ましくは自己免疫疾患は、脱髄疾患であり、より好ましくはCNS脱髄疾患である。非CNS脱髄疾患の例は、急性脱髄性多発ニューロパチー(ギランバレー症候群)および慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーを含む。CNS脱髄疾患の例は、MS、進行性多巣性白質脳症(PML)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、デビック病およびバロ病を含む。疾患はまた、CNSエリテマトーデス、シェーグレン症候群、または孤立性脳血管炎などの続発性脱髄疾患であり得る。
最も好ましくは自己免疫疾患は、多発性硬化症である。方法は、再発寛解型(RR)、二次性進行型(SP)、一次性進行型(PP)および進行再発型(PR)多発性硬化症を含む、MSの任意の型または亜型を判断するのに用いることもできる。
検査対象は、好ましくは哺乳類であり、より好ましくはヒトである。検査対象は、例えば、自己免疫疾患を患っている疑いがあり(例えば疾患の別の症状が存在するため)、疾患の存在の確認または排除が望まれている個体であってもよい。あるいは、例えば方法が対象での疾患の進行を監視するために、または疾患の重篤度を決定するために実行される実施形態において、検査対象はすでに疾患を患っていると診断された個体であってもよい。例えば初期疾患を、または将来疾患を発症する易罹患性についてスクリーニングすることが望まれている他の実施形態では、対象は、見かけは健康そうな(無症候性)個体であってもよい。
本発明の方法は、Th2サイトカインの産生を測定する工程を含む。「Th2サイトカイン」とは、2型ヘルパーT細胞(Th2)応答と関連するサイトカインを意味する。一実施形態では、Th2サイトカインはヒト第5染色体(またはマウス第11染色体)上に位置する遺伝子、特にヒト染色体5q23〜31上のサイトカイン遺伝子群の一部である遺伝子によりコードされている。好ましくはTh2サイトカインは、IL−4(インターロイキン4)、IL−5(インターロイキン5)、またはIL−13(インターロイキン13)である。一実施形態では、Th2サイトカインの発現は、GATA−3転写因子により制御されている。本発明はまた、上述のこれらのサイトカインの任意の組合せ(例えば、IL−4およびIL−5、またはIL−4、IL−5およびIL−13)を含む、対象での2つ以上のTh2サイトカインの産生が測定される方法を包含する。
Th2サイトカインは、検査対象に対応する任意の種由来であり得る。方法は好ましくは、ヒトTh2サイトカイン、例えば、ヒトIL−4、ヒトIL−5またはヒトIL−13の産生を測定する工程を含む。
「Th2サイトカインの産生を測定する」とは、直接または間接的にTh2サイトカイン(例えば、IL−5)のレベルの決定が可能となる任意の方法を含むものとする。このように方法は、未変性の全長タンパク質またはmRNA配列と同様にTh2サイトカインの誘導体または断片を検出することを包含する。誘導体および断片は、1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチド残基の欠失、置換または挿入の結果として生じる、例えば自然に発生する遺伝子変異性の結果として生じる、変異体を含む。誘導体はまた、体内の遺伝子もしくは遺伝子産物のプロセシングの結果としておよび/または分解産物として生じ得る。タンパク質レベルでの修飾は、体内での酵素修飾または化学修飾によるものであり得る。例えば修飾は、グリコシル化、リン酸化またはファルネシル化であり得る。
対象でのTh2サイトカイン産生は、検査対象でのサイトカインmRNAおよび/またはタンパク質産生を決定する工程を含む、任意の適切な方法により測定され得る。例えば、IL−5タンパク質を検出するための方法は、IL−5に結合する抗体、捕捉分子、受容体、またはその断片の使用を含み得る。IL−5および他のTh2サイトカインに結合する抗体は公知であり(例えば、Abramsら、「Strategies of anti−cytokine monoclonal antibody development: immunoassay of IL−10 and IL−5 in clinical samples」Immunol Rev 127巻:5〜24頁;Schumacherら、「The characterization of four monoclonal antibodies specific for mouse IL−5 and development of mouse and human IL−5 enzyme−linked immunosorbent」J Immunol 141巻(5号):1576〜81頁参照)、または動物の免疫および血清(ポリクローナル抗体の産生のため)もしくは脾臓細胞(不死化細胞株との融合によるハイブリドーマを産生してモノクローナル抗体を得るため)の採集を含む、当技術分野で周知の方法により産生され得る。IL−5mRNAを検出するための方法は、相補核酸プローブ、例えば一本鎖DNAプローブ、またはリアルタイムPCRの使用を含み得る。抗体または核酸プローブなどの検出分子は、例えば、プラスチック表面もしくはビーズなどの固体担体またはアレイに場合によって結合し得る。IL−5タンパク質を検出するための適切な検査形式には、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロッティングおよび免疫沈降などのイムノアッセイが含まれるが、これらに限定されない。適切なmRNAの検出方法には、ノーザンブロッティングおよび逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)が含まれる。IL−4およびIL−13などの別のTh2サイトカインは、IL−5に関して上述したものと類似であるが、これらの別のサイトカインに特異的である方法および試薬を用いて検出することもできる。
あるいはTh2サイトカイン産生のレベルは、質量分析により決定され得る。質量分析は、その分子量によりサイトカインタンパク質の検出および定量を可能とする。当技術分野で周知の質量分析の分野での任意の適切なイオン化法を利用することができ、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、フィールドイオン化(FDI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、レーザー脱離イオン化(LDI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)および表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)を含むが、これらに限定されない。任意の適切な質量分析検出方法を利用することができ、例えば四重極型質量分析(QMS)、フーリエ変換質量分析(FT−MS)および飛行時間型質量分析(TOF−MS)である。
一実施形態では、Th2タンパク質分泌は、細胞数測定ビーズアレイ(cytometric bead array)(CBA)により決定される。CBA(または「マルチプレックスビーズアッセイ」)は、大きさが均一であるが発光色素の異なる蛍光強度によって区別可能である、異なる種類のビーズの混合物からなる。抗体などの捕捉分子は、特定の種類のビーズに共有結合的に結合し、抗体に結合した分析物(例えば、IL−5)が、蛍光ベースの発光およびフローサイトメトリー解析により検出される。この種類のアッセイにおいて、複数のTh2サイトカインが、各サイトカイン(例えば、IL−4、IL−5およびIL−13)に特異的な抗体の異なる種類のビーズへの結合により検出され得る。
本発明の方法は、対象由来の白血球によるTh2サイトカイン産生を測定する工程を含む。好ましくは方法は、インビトロで実行され、即ち、Th2サイトカイン産生は、検査対象由来または抽出された単離された試料(白血球を含む)で決定される。試料は、固形組織試料であっても、リンパ液、尿、血液、血清、血漿、糞便、脳脊髄液もしくは唾液などの体液に由来するものであってもよいが、これらに限定されない。好ましくは試料は、血液またはリンパ液由来である。より好ましくは試料は、白血球、特にリンパ球および/もしくは単球の純化した集団が豊富である、またはそれを含む。例えば、一実施形態では試料は、検査対象から抽出した末梢血単核球を含む。
好ましくは、単離された試料のTh2サイトカインのレベルは、対照レベルと比較される。Th2サイトカインの対照レベルは、例えば健常対象由来の対照試料で決定され得る。対照試料は、検査対象由来の試料と同じ組織型由来であり得る。検査対象から単離した試料でのTh2サイトカイン、例えば、IL−4、IL−5またはL−13のレベルの減少(対照試料でのレベルと比較して)は、一般的に検査対象での自己免疫疾患の指標であり、例えば、対象が疾患を有する、または将来疾患を発症する可能性があることを示す。いくつかの実施形態では、検査および対照対象でのTh2サイトカイン産生の相対的レベルの定量的な解析は、疾患予後の判断、例えば重篤度またはあり得る進行のスピードを可能にし得る。例えば、対照と比較したIL−5(またはIL−4またはIL−13)産生のより大きな減少は、より悪い予後の指標であり得る。
好ましい実施形態では、単離された試料は、一般的にTh2サイトカインの産生を刺激する薬剤に曝露される。薬剤は好ましくは、健常対象由来の対照試料でTh2サイトカインの産生を刺激する。例えば、単離された試料でのIL−5産生は、曝露への応答で決定され、同じ曝露に続く対照試料でのIL−5産生と比較され得る。一実施形態では、薬剤は、Mycobacterium tuberculosisの精製タンパク質誘導体である。
好ましくは薬剤は、T細胞活性化剤である。抗原依存的または抗原非依存的にT細胞を活性化する任意の薬剤が用いられ得る。薬剤は、T細胞受容体に結合することによりまたは任意の別の機構を介してT細胞を活性化し得る。適切なT細胞活性化剤は、フィトヘマグルチニン(PHA、すべてのヒトT細胞を刺激するレクチン);場合によってビーズに塗布された抗CD3または抗CD28抗体;ホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA、ホルボールエステル);およびイオノマイシン(カルシウムイオノフォア)を含む。上述の薬剤の組合せ、例えばPHAおよびPMAを用いることもできる。
他の実施形態では、T細胞活性化剤はサイトスティム(Cytostim)である。サイトスティムは、ヒトエフェクター/メモリーT細胞を迅速および効率的に再刺激するために開発された。サイトスティムは、抗体ベースの試薬であり、スーパー抗原と同じようであるがTCRの特定のVβドメインとは無関係に作用する。T細胞受容体(TCR)に結合し、抗原提示細胞(APC)のMHC分子に架橋することによりT細胞の活性化を引き起こす。サイトスティムの刺激を受けて、CD4+およびCD8+T細胞は、数時間以内にサイトカインを分泌しまたはそれらの細胞表面上に活性化マーカーを上方制御し始める。
他の実施形態では、単離された試料は、検出が望まれている自己免疫疾患において免疫応答が誘導されている自己抗原であり得る、自己抗原に曝露される。好ましくは薬剤は、ミエリン塩基性タンパク質(MSおよび別の脱髄疾患と関連する自己抗原)またはその断片(例えば自己免疫疾患がMSなどの脱髄疾患である実施形態において)を含む。
一実施形態では、Th2サイトカイン(例えば、IL−5、IL−4またはIL−13)産生のレベルが、対照レベルと比較して少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、または少なくとも90%減少した場合、疾患の存在または易罹患性が示される。サイトカインのレベルは、薬剤での曝露後の任意の適切な時点、好ましくは曝露から6時間〜28日後、より好ましくは12時間〜14日後、最も好ましくは1〜10日後であり、例えば、曝露から24時間、4日または8日後に比較する工程ができる。
他の実施形態では、本発明は本明細書で記載した方法を実行するためのキット、例えば検査対象由来の白血球によるTh2サイトカインの産生を測定するためのキット(例えば、検査対象由来の白血球を含む試料で)を提供する。キットはこのように、MSなどの自己免疫疾患のスクリーニング、診断、および/または予後の判断に適したものであり得る。キットは、Th2サイトカインタンパク質もしくはmRNAに特異的に結合する1つまたは複数の試薬(例えばTh2サイトカインに結合しかつサイトカインタンパク質の検出および定量を可能とする抗体)、および場合によって1つまたは複数の緩衝液、検出可能な標識、または特定のアッセイに有用であり得る別の試薬を含み得る。一実施形態では、キットはさらに、例えば健常対象由来の対照試料で、一般的にTh2サイトカインの産生を刺激する薬剤を含む。このように薬剤は、T細胞活性化剤または検査される自己免疫疾患と関連する自己抗原であり得る。キットはさらに、本明細書で記載した方法を実行するための説明書、例えば検査対象で自己免疫疾患の状態を決定するような試薬を用いるための、例えば、対象が疾患を有するかまたは疾患にかかりやすいかどうかを決定するための説明書を含み得る。
方法をこれから、ほんの一例として以下の具体的な実施形態を参照として記載する。
ミエリン塩基性タンパク質処理後様々な時間での、健常対象およびMS患者からの末梢血単核球によるIL−5分泌を示す図である。 Mycobacterium tuberculosisの精製タンパク質誘導体処理後様々な時間での、健常対象およびMS患者からの末梢血単核球によるIL−5分泌を示す図である。 ミエリン塩基性タンパク質処理後様々な時間での、健常対象およびMS患者からの末梢血単核球によるIFN−γ分泌を示す図である。 全時点からのデータを用いた、ミエリン塩基性タンパク質に応答しての健常対象およびMS患者からの末梢血単核球によるIL−5およびIL−4分泌を示す図である。
Tヘルパー(Th)リンパ球の分化は、効果的な免疫応答の開始および病原体への免疫記憶の確立に重要な役割を果たしている。抗原および極性化シグナルにより刺激されたナイーブTh細胞は、異なるサイトカインプロフィールのエフェクター細胞になることができる。Th1細胞はIFN−γを発現し、それにより細胞性免疫応答を活性化し、Th2細胞は、IL−4、IL−5、およびIL−13の発現によりB細胞増殖および抗体産生を活性化する。Th1およびTh2分化を誘導する極性化シグナルは、それぞれIL−12およびIL−4である。
本発明の実施形態によれば、リンパ球によるTh2サイトカインの産生は、MSなどの自己免疫疾患を患っている対象での疾患の状態に関係している。逆に、IFN−γなどのTh1サイトカインの産生は、病状と関係がない。本発明の目的のいくつかのTh2サイトカインを、より詳細に後述する。
ヒトIL−5(UniProtKB/Swiss−Prot受託番号P05113)は、各鎖が115アミノ酸残基を含む2つのポリペプチド鎖のホモ二量体を含む糖タンパク質である(Tanabeら、「Molecular cloning and structure of the human interleukin−5 gene」、J. Biol. Chem. 262巻:16580〜16584頁(1987年);Milburnら、「A novel dimer configuration revealed by the crystal structure at 2.4 A resolution of human interleukin−5」、Nature、1993年;363巻(6425号):172〜176頁)。IL−5は、一般的にT細胞およびマスト細胞により産生され、B細胞増殖を刺激する、免疫グロブリン分泌を増加する、および好酸球活性化を誘導する、働きをし得る。
IL−4は、活性化したB細胞およびT細胞増殖の刺激、ならびにCD4+T細胞のTh2細胞への分化に関与するTh2サイトカインである。ヒトIL−4(UniProtKB/Swiss−Prot受託番号P05112)は、153アミノ酸前駆体が切断されてその成熟型の129アミノ酸の糖タンパク質を生成することによって産生される(Yokotaら、「Isolation and characterization of a human interleukin cDNA clone, homologous to mouse B−cell stimulatory factor 1, that expresses B−cell− and T−cell−stimulating activities」、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83巻:5894〜5898頁(1986年))。
IL−13はIL−4と密接に関係があり、これらのサイトカインの両方が、炎症性およびアレルギー性の状態で免疫細胞に同様の活性を有している。IL−13に対する受容体は、IL−4受容体のアルファ鎖(IL−4Rα)、および2つの既知のIL−13特異的結合鎖の少なくとも1つを含むマルチサブユニット受容体である。転写因子、シグナル伝達性転写因子6(STAT6)は、IL−4およびIL−13両方の発現の制御とつながっている。ヒトIL−13(UniProtKB/Swiss−Prot受託番号P35225)は、20残基のシグナル配列の除去により前駆体から形成された112アミノ酸の糖タンパク質である(Mintyら、「Interleukin−13 is a new human lymphokine regulating inflammatory and immune responses」、Nature 362巻:248〜250頁(1993年);McKenzieら、「Interleukin 13, a T−cell−derived cytokine that regulates human monocyte and B−cell function」、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90巻:3735〜3739頁(1993年);Dolganovら、「Coexpression of the interleukin−13 and interleukin−4 genes correlates with their physical linkage in the cytokine gene cluster on human chromosome 5q23−31」Blood 87巻:3316〜3326頁(1996年))。IL−3、IL−4、IL−5、IL−9、IL−13および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の遺伝子は、ヒト第5染色体およびマウス第11染色体上の密接に連鎖したクラスターの中に含まれている(Leeら、「The IL−4 and IL−5 genes are closely linked and are part of a cytokine gene cluster on mouse chromosome 11」Somat Cell Mol Genet、1989年;15巻(2号):143〜152頁;van Leeuwenら、「Molecular organization of the cytokine gene cluster, involving the human IL−3, IL−4, IL−5, and GM−CSF genes, on human chromosome 5」、Blood、1989年;73巻(5号):1142〜1148頁)。これらの遺伝子は、しばしばTh2型応答でのヘルパーT細胞で共発現している。
様々な転写因子が、Th2サイトカインの発現の制御に関与している。GATA3(GATA結合タンパク質3)は、IL−4、IL−5およびIL−13を含む様々なサイトカインの産生を調節している(Stevensら、Eur. J. Immunol. 36巻、3305頁、2006年)。ヒストン脱アセチル化酵素4およびp300(ヒストンアセチル化酵素として知られる)は、IL−5プロモーターの活性を調節している。C/EBPベータ、GATA3、NFATおよびYY1は、IL−5プロモーターに結合する転写因子でありかつヒストン脱アセチル化酵素4の動因に必須である(HanらBiochemical Journal 400巻、439頁、2006年)。
AP−1およびGATA−3は、IL−5プロモーターに結合することが知られている。突然変異は、Ets/NFAT部位は、IL−5の制御においてAP−1およびGATA−3と一緒に非常に重要であるということを示している(Wangら、International Immunology 18巻、313頁、2006年)。Bcl−3は、IL−4、IL−5およびIL−13を分泌する細胞の分化を制御する。Bcl−3欠損細胞は、すべての3つのサイトカインの産生の障害を示し、これらの細胞はGATA−3の減少を示す(Cornら、Journal of Immunology 175巻、2102頁、2005年)。
T細胞でのGATA−3の強制発現は、Th2サイトカインIL−4およびIL−5の誘導をもたらす(Sundrudら、Journal of Immunology 171巻、3542頁、2003年)。Bcl−6は、転写後の段階でGATA−3発現を抑制する(Kusamら、Journal of Immunology 170巻、2435頁、2003年)。
GATA−3は、Th2サイトカイン発現を誘導しかつIFN−γを抑制することによりTh2サイトカインメモリーの要となるということが見出されている。ナイーブTh細胞では、GATA−3は低濃度で生じる。その発現の緩徐および持続性の上方制御は、Th2極性化状態、同時のIL−4輸送および抗原によるT細胞受容体(TCR)刺激により誘導される。GATA−3転写は、それ自体がIL−4シグナルの調節を受けているStat6により活性化される。このようにGATA−3の発現は、Th2サイトカイン産生の調節において重要である。タンパク質のN末端フィンガーはIL−5に影響し、一方C末端フィンガーはIL−4およびIL−13を調節しているという点において、GATA−3の役割には相違がある。
このように、理論にとらわれずに、MSなどの自己免疫疾患を患っている対象からのリンパ球によるTh2サイトカイン(IL−4、IL−5およびIL−13など)の減少した産生は、GATA−3などの転写因子による遺伝子制御の違いにつながり得る。
略語
PBMC、末梢血単核球;PPD、Mycobacterium tuberculosisの精製タンパク質誘導体;MBP、ミエリン塩基性タンパク質;CBA、細胞数測定ビーズアレイ;qRT−PCR、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応 。
PBMCの採集および液体窒素中での保存
クエン酸末梢血液試料を、書面によるインフォームドコンセントが得られた健常人、およびMS患者から採取した。前述のようにヒストパク−1077(Sigma、Poole、UK)で密度遠心法により単離したPBMCを、即座に培養する(新鮮なPBMC)または後日培養するために液体窒素中で凍結保存する(凍結PBMC)かのいずれかにした。
PBMCを凍結するために、40%αMEM(Gibco Invitrogen Ltd;Paisley、UK)中の20×10細胞ml−1の一定分量に、すべて25℃で、20Mm HEPES、100Uml−1ペニシリン、100μgml−1硫酸ストレプトマイシン、4mMグルタミン(すべてSigma、Poole、UKより)、50%熱失活した自己血漿および10%ジメチルスルホキシドを補充した。細胞の一定分量を次に、ナルゲンクライオ1℃凍結容器(Nalge Europe Ltd;Hereford、UK)に移し、次の日液体窒素に移す前に−70℃で一晩保存した。培養に必要な時には、細胞の一定分量を、迅速に解凍し、5%の熱失活した自己血漿を含む組織培養培地中で2回洗浄し、培養に適切な濃度で再懸濁した。トリパンブルー色素排除法により推量した全細胞標本の生存率は、95%を超えていた。
細胞培養
新鮮なまたは凍結保存したPBMCを、48ウェル組織培養プレート(Nunc International、Costar、Corning Inc.、New York USA)でα−MEM中の1.5×10細胞を含む1ml培養物にした。両方とも50μgml−1でのPPD(M.A.A.F:Central Vet.Laboratory、Addlestone、Surrey、UK)およびヒトMBPへの応答を、10日間にわたって監視した。対照ウェルには、抗原は含まれていなかった。培養の20時間または2、4、6、8および10日後、[H]チミジンの取り込みにより抗原に応答しての増殖を測定するために、細胞懸濁液の二重の100μl一定分量を各1ml培養物から除いた。抗原を含んでいない培養物中で観察されたバックグラウンドの[H]チミジン取り込みを、対応するPPDまたはMBP応答から差し引きし、結果をδccpmとして表した。
残りの細胞懸濁液を遠心分離し、RNAを細胞ペレットから抽出した。上清を採取し、等分して−20℃で保存した。RNAおよび上清試料を、それぞれPBMCでのサイトカイン(IL−4、IL−5およびIFN−γ)遺伝子誘導および分泌を培養期間の間で周期的に測定するのに用いた。
分泌されたサイトカインの測定:細胞数測定ビーズアレイアッセイ
培養上清のサイトカインレベルを、製造元の使用説明書に従い細胞数測定ビーズアッセイ(BD(商標)CBAヒトTh1/Th2サイトカインキット、Becton Dickenson Biosciences、Cowley、Oxford、UK)を用いて決定した。FACSキャリバー(BD Biosciences)を用いての試料データの獲得に次いで、結果をBD CBAソフトウェアを用いてグラフおよび表形式にした。サイトカインの最小の定量可能なレベルは:IL−5 2.4pgml−1、IL−4 2.6pgml−1およびIFN−γ 7.1pgml−1であった。
MBPまたはPPDでの曝露に応答してのサイトカイン分泌
図1および2に示したように、MBPまたはPPDでの健常対象由来のPBMC処理は、処理後4〜10日の間のIL−5分泌をもたらす。MBPまたはPPDに応答してのIL−5分泌は、MS患者由来のPBMC標本で有意に減少している。しかしながら、MBPに応答してのIFN−γ分泌は、図3に示すように、健常対象およびMS患者からのPBMCの間で有意に異ならない。全時点研究からのデータの解析は、IL−4およびIL−5両方の産生は、MS患者からのPBMCで減少している(図4参照)ということを示している。
追加例
追加例で、PBMCを、見かけは健康そうな対象、初期MSの指標であり得る1つまたは複数の臨床症状を示す対象、またはMSの確定診断をもつ対象を含む個体から得る。各個体からのPBMCによるIL−4、IL−5およびIL−13分泌を、上述の方法を用いてPPDおよび/またはMBP曝露への応答で決定する。各個体に対し、Th2サイトカイン分泌を、複数の健常対象からの分泌の平均値に基づく対照レベルと比較する。見かけは健常そうな個体での、対照と比較して減少したレベルのIL−4、IL−5および/またはIL−13分泌は、MS、または初期の疾患を発症する素因を示し得、診断を確認するためにさらなる研究がなされるということおよび/または予防的治療が示され得るということを示唆している。すでに特徴的な臨床症状を示している対象で、減少したレベルのTh2サイトカイン分泌は、MSの診断を確認しかつ例えばインターフェロン−ベータに基づく治療の開始を示し得る。MSの確定診断をもつ対象で、対照と比較したTh2サイトカイン分泌の相対的減少は、疾患の進行を監視するのに用いられ得る。

Claims (31)

  1. 検査対象での自己免疫疾患の状態を決定するための方法であって、該対象由来の白血球によるTh2サイトカインの産生を測定する工程を含む方法。
  2. 前記疾患が脱髄疾患である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記疾患が多発性硬化症である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記Th2サイトカインがIL−5である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. 前記Th2サイトカインがIL−4である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  6. 前記Th2サイトカインがIL−13である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  7. 前記検査対象由来の白血球を含む単離された試料を提供する工程;および該単離された試料での前記Th2サイトカインのレベルを決定する工程を含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記単離された試料での前記決定されたTh2サイトカインのレベルを前記Th2サイトカインの対照レベルと比較する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
  9. 前記Th2サイトカインの前記対照レベルが健常対象由来の対照試料で決定され、前記検査対象から単離された試料中の前記Th2サイトカインの減少したレベルが、該検査対象の前記自己免疫疾患を示す、請求項8に記載の方法。
  10. 前記検査対象から単離された試料中の前記Th2サイトカインの産生が、健常対象由来の対照試料中の該Th2サイトカインの産生を刺激する薬剤により該単離された試料を処理することへの応答で決定される、請求項7から9のいずれかに記載の方法。
  11. 前記薬剤がMycobacterium tuberculosisの精製タンパク質誘導体を含む、請求項10に記載の方法。
  12. 前記薬剤がT細胞活性化剤である、請求項10に記載の方法。
  13. 前記T細胞活性化剤がフィトヘマグルチニン、抗CD3抗体、抗CD28抗体、ホルボール12−ミリステート13−アセテート、サイトスティムまたはイオノマイシンである、請求項12に記載の方法。
  14. 前記薬剤が前記自己免疫疾患と関連する自己抗原である、請求項10に記載の方法。
  15. 前記薬剤がミエリン塩基性タンパク質またはその断片を含む、請求項14に記載の方法。
  16. 前記単離された試料が血液またはリンパ組織由来である、請求項7から15のいずれかに記載の方法。
  17. 前記単離された試料が精製血液白血球調製物を含む、請求項16に記載の方法。
  18. 前記Th2サイトカインの産生が該Th2サイトカインのmRNAのレベルを決定する工程により測定される、請求項1から17のいずれかに記載の方法。
  19. 前記Th2サイトカインの産生が該Th2サイトカインタンパク質の分泌のレベルを決定する工程により測定される、請求項1から18のいずれかに記載の方法。
  20. 前記Th2サイトカインタンパク質の分泌が細胞数測定ビーズアッセイにより決定される、請求項19に記載の方法。
  21. 前記検査対象がヒトである、請求項1から20のいずれかに記載の方法。
  22. 前記検査対象での前記自己免疫疾患の状態を決定する工程が、該疾患を検出すること、該疾患を診断すること、疾患進行を監視すること、疾患予後を評価すること、または該疾患への易罹患性を予測することを含む、請求項1から21のいずれかに記載の方法。
  23. 検査対象での自己免疫疾患の状態を決定するためのバイオマーカーとしてのTh2サイトカインの使用。
  24. 前記自己免疫疾患が多発性硬化症を含む、請求項23に記載の使用。
  25. 前記Th2サイトカインがIL−4、IL−5またはIL−13を含む、請求項23または24に記載の使用。
  26. 検査対象での自己免疫疾患の状態を決定するためのキットであって、該検査対象由来の白血球によるTh2サイトカインの産生を測定するのに適した1つまたは複数の試薬を含むキット。
  27. 前記Th2サイトカインの産生を促進する薬剤をさらに含む、請求項26に記載のキット。
  28. 前記薬剤がT細胞活性化剤を含む、請求項27に記載のキット。
  29. 前記薬剤が前記自己免疫疾患と関連する自己抗原である、請求項27に記載のキット。
  30. 前記自己免疫疾患が多発性硬化症であり、前記薬剤がミエリン塩基性タンパク質である、請求項29に記載のキット。
  31. 前記Th2サイトカインに結合する抗体を含む、請求項26から30のいずれかに記載のキット。
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