JP2010200697A - 新規微生物、及び該微生物を使用して生分解性プラスチックの生分解性を試験する方法 - Google Patents

新規微生物、及び該微生物を使用して生分解性プラスチックの生分解性を試験する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 海洋環境、特に低温高圧の深海において実際に存在して、生分解性プラスチックを分解する能力を有する微生物、及び該微生物を使用して海洋環境における生分解性プラスチックの生分解性を試験する方法を提供すること。
【解決手段】 生分解性プラスチックの分解能を有する、モリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物。
【選択図】 なし

Description

本発明は、新規な微生物、及び該微生物を使用して海洋環境、特に深海における生分解性プラスチックの生分解性を試験する方法に関する。
プラスチックは、軽さ、丈夫さ、安定性、成型の容易性などから、広く使用されている。しかし、錆びることもなく腐ることもないという従来のプラスチックの特徴から、使用後に回収されることなく廃棄されたプラスチックがいつまでも自然環境中に残存するという問題が逆に生じてきた。そこで、環境に対する関心の高まりと共に、使用後のプラスチックを完全に回収しようとする努力がなされるようになってきた。しかし、農業用資材、漁業用資材、土木用資材(特に、河川用及び海洋用資材)などでは、その使用の態様から、自然環境中への流出が生じやすく、また、いったん自然環境中に流出してしまったプラスチック製品を再び完全に回収することは、非常に困難であり、現実的ではない。そこで、回収されることなく自然環境のなかに流出してしまった場合にも微生物等によって分解されるプラスチック、いわゆる生分解性プラスチックが注目され、広く使用されるようになってきた。
より優れた生分解性プラスチックを開発するためには、開発したプラスチックの生分解性を評価及び試験する方法が重要である。現在、このような生分解性の試験方法として、例えば、JIS K 6950 :2000 (ISO 14851 :1999 に相当する)、JIS K 6951:2000(ISO 14852:1999 に相当する)、JIS K 6953:2000(ISO 14855:1999 に相当する)、JIS K 6955:2006(ISO 17556:2003 に相当する)などが規定されている。
JIS K 6950及びK 6951は、プラスチックの水系培養液中の好気的究極生分解度を、酸素消費量又は発生二酸化炭素量の測定によって求める方法を規定しており、植種源として、コンポスト、活性汚泥、及び土壌を挙げ、特に下水処理場からの活性汚泥を適したものとして挙げており、望ましい培養温度として、20〜25℃±1℃を挙げている。JIS K 6953は、プラスチックの制御されたコンポスト条件下の好気的究極生分解度及び崩壊度を、発生二酸化炭素量の測定によって求める方法を規定しており、植種源として、可能ならば都市ごみの固形廃棄物の有機成分のコンポストを使用すること、培養は58±2℃の恒温下で行うことを記載している。JIS K 6955は、プラスチックの呼吸計を用いた酸素消費量又は発生した二酸化炭素量の測定によって土壌中での好気的究極生分解度を求める方法を規定しており、植種源として土壌を挙げ、望ましい培養温度として20〜25℃±1℃を挙げている。また、これらの規格はいずれも、大気圧下での培養を前提としている。
このように、プラスチックの生分解性の試験方法として現在知られている方法は、いずれも、陸上環境において、土壌に埋没し、あるいはごく浅い水中に没したプラスチックが、陸上環境中に存在する土壌や汚泥の微生物によって、どのように生分解するかを試験する方法であった。そのために、これらの試験法を指標として開発された生分解性プラスチックは、いずれも、このような陸上環境での土壌や汚泥の中の微生物によって分解されることが確認されたに過ぎないものであった。
陸上環境からの植種源の生きた微生物を使用することなく、生分解性プラスチックの生分解性を予測する試みとして、生分解性プラスチックの物性値を機器分析によって測定して酵素分解性を予測する方法が、特許文献1(特開2008−222758号公報)に開示されている。しかし、このような予測方法であっても、予測の根拠となるのは、従来の生分解性の試験法と同じく、陸上環境中に存在する土壌や汚泥の微生物に由来する酵素であるために、結果として、生分解性プラスチックの機器分析による物性値から予測可能であるのは、陸上環境中に存在する土壌や汚泥の微生物による生分解に限られている。
一方、農業用資材、土木用資材などが、その使用の態様から、自然環境中へ流出した場合には、陸上で流出した場合にも風雨や河川によって海へと運ばれ、その多くが結果として海洋へ流出すると考えられる。また、漁業用資材、河川や海洋で使用される土木用資材などは、そのまま海洋へと流出する。このように海洋へと流出したプラスチックは、重力によって沈降して、深海へと蓄積して、自然環境を汚染し、海洋の生態系を永続的に損なってゆく。このような廃棄物は、現実の深海調査でも数多く確認されている。
さらに、例えば、海洋へと流出した合成素材の漁具(特に漁網)は、今なお誰も意図しないままに多くの魚類を捕獲して絶命させ続けている。このような流出した漁具による海洋生物の被害は、ゴーストフィッシングと呼ばれ、人類に益するところが全くないばかりか、魚種によっては、商業的水揚げ量を超える被害が生じているとも推定されており、人類の食料資源に対する脅威となりつつある。
特開2008−222758号公報
上述のように、深海底を含む海洋環境に流出した場合にも、優れた生分解性を有する生分解性プラスチックを開発することが、緊急に必要とされている。
ところが、上述したように、現在知られている従来の生分解性プラスチックの生分解性の評価及び試験の方法は、いずれも、陸上環境からの植種源の微生物を使用して確立されているものである。一方、海洋環境、特に深海の海底の環境は、常温常圧の陸上環境と比べて、低温下にあり、さらに大気圧の数倍から数百倍もの高圧下にある。常温常圧の陸上環境に生育する通常の微生物がそのような環境下で生育して生分解性プラスチックを分解することはおよそ考えることができず、そのような環境で繁殖する微生物の相は陸上環境の微生物の相とは全く異なると考えられていたが、そのような海洋環境、特に深海の低温高圧下の環境で繁殖して生分解性プラスチックを分解する微生物についての知見はこれまで得られてはいなかった。
そのために、従来の生分解性プラスチックは、海洋環境、特に深海における生分解性についてなんら評価を受けておらず、従来の生分解性プラスチックの生分解性の評価及び試験の方法は、海洋環境、特に深海における生分解性について評価をすることができないものであった。
そこで、海洋環境において優れた生分解性を有する生分解性プラスチックの開発を可能とするために、陸上環境とは全く異なった海洋環境における生分解性プラスチックの生分解性を評価できる試験方法、及び該試験方法に使用することができる植種源となる微生物が必要となる。
従って、本発明の目的は、海洋環境、特に低温高圧の深海において実際に存在して、生分解性プラスチックを分解する能力を有する微生物、及び該微生物を使用して海洋環境における生分解性プラスチックの生分解性を試験する方法を提供することにある。
本発明者等は、超高圧環境に耐えることができる特殊な深海艇を使用して深海の堆積物を採取し、これらに含まれている微生物相を特殊な圧力容器を使用して低温高圧下で培養した。そして、培養した微生物から、生分解性プラスチックの分解能を有する複数の菌株を単離して同定し、さらにこれらの菌株が深海に広く存在することを確認した。これらの微生物が深海に広く分布することは、これらの微生物が海洋環境における生分解の天然の植種源となることを意味する。本発明者等は、これらの微生物(菌株)を使用して上記目的を達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
本発明者等によって同定された菌株は、いずれも新規であり、さらに新種の微生物が含まれていた。このように低温高圧下の特殊な環境で生育して、生分解性プラスチックを分解可能な微生物は、これまでに全く知られていないものであった。このような微生物が深海に広く分布していることもまた、本発明者等によって初めて明らかにされた知見である。
従って、本発明は、次の[1]〜[7]にある。
[1]
生分解性プラスチックの分解能を有する、モリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物。
[2]
モリテラ属に属する微生物が、次の(A)又は(B):
(A)配列番号5に記載の塩基配列からなるDNA
(B)配列番号5に記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
を含む16S rRNA遺伝子を有する、[1]に記載の微生物。
[3]
モリテラ属に属する微生物が、次の(C)又は(D):
(C)配列番号8に記載の塩基配列からなるDNA
(D)配列番号8に記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
を含む16S rRNA遺伝子を有する、[1]に記載の微生物。
[4]
シュワネラ属に属する微生物が、次の(E)又は(F):
(E)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(F)配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
を含む16S rRNA遺伝子を有する、[1]に記載の微生物。
[5]
モリテラ属に属する微生物が、モリテラアビシアイCT12株(受託番号:FERM P−21744)、又はその変異体である、[1]又は[2]に記載の微生物。
[6]
モリテラ属に属する微生物が、モリテラsp.JT01株(受託番号:FERM P−21745)、又はその変異体である、[1]又は[3]に記載の微生物。
[7]
シュワネラ属に属する微生物が、シュワネラベンティカCT01株(受託番号:FERM P−21743)、又はその変異体である、[1]又は[4]に記載の微生物。
さらに、本発明は、次の[8]〜[13]にもある。
[8]
[1]〜[7]の何れかに記載の微生物を含んでなる、生分解性プラスチックの生分解促進剤。
[9]
低温高圧環境用生分解促進剤である、[8]に記載の生分解促進剤。
[10]
生分解性プラスチックが、繰り返し構造としてエステル結合を有する生分解性プラスチックである、[8]〜[9]の何れかに記載の生分解促進剤。
[11]
[1]〜[7]の何れかに記載の微生物を含んでなる、プラスチックの生分解性試験のための植種源。
[12]
低温高圧環境用植種源である、[10]に記載の植種源。
[13]
プラスチックが、繰り返し構造としてエステル結合を有する生分解性プラスチックである、[11]〜[12]の何れかに記載の植種源。
さらに、本発明は、次の[14]〜[17]にもある。
[14]
[1]〜[7]の何れかに記載の微生物を生分解性プラスチックに添加する工程、
を含む、生分解性プラスチックを分解する方法。
[15]
[1]〜[7]の何れかに記載の微生物をプラスチックに添加する工程、
を含む、プラスチックの生分解性を試験する方法。
[16]
[1]〜[7]の何れかに記載の微生物を、低温且つ高圧の条件下で培養する工程を含む、[14]〜[15]の何れかに記載の方法。
[17]
プラスチックが、繰り返し構造としてエステル結合を有する生分解性プラスチックである、[14]〜[16]の何れかに記載の方法。
さらに、本発明は、次の[18]〜[24]にもある。
[18]
低温が1〜12℃の範囲の温度である、[9]に記載の生分解促進剤、[11]に記載の植種源、または[14]に記載の方法。
[19]
高圧が0.1〜100MPaの範囲の圧力である、[9]〜[10]の何れかに記載の生分解促進剤、[12]〜[13]の何れかに記載の植種源、または[16]〜[17]の何れかに記載の方法。
[20]
生分解性プラスチックの分解のための、[1]〜[7]の何れかに記載の微生物の使用。
[21]
生分解性プラスチックの分解促進のための、[1]〜[7]の何れかに記載の微生物の使用。
[23]
プラスチックの生分解性の試験のための、[1]〜[7]の何れかに記載の微生物の使用。
[24]
プラスチックが、繰り返し構造としてエステル結合を有する生分解性プラスチックである、[20]〜[23]の何れかに記載の使用。
さらに、本発明は、次の[25]にもある。
[25]
配列番号1〜11の何れかに記載の塩基配列からなるDNA、又は、
配列番号1〜11の何れかに記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
を含む16S rRNA遺伝子を有する、生分解性プラスチックの分解能を有する、モリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物。
さらに、本発明は、[25]に記載の微生物を、[1]〜[7]の何れかに記載の微生物に代えて使用する、上記[8]〜[24]に係る発明にもある。
本発明は、海洋環境、特に深海の海底の低温高圧の環境において、生育して繁殖し、生分解性プラスチックを分解することができる新規な微生物を提供する。従って、本発明の微生物を植種源として使用すれば、海洋環境、特に低温高圧の環境における生分解性プラスチックの生分解性を試験することができる。すなわち、本発明は、このような環境において優れた生分解性を有する生分解性プラスチックの開発を、初めて可能としたものである。
このように、本発明によれば、海洋環境、特に低温高圧の環境における生分解性が確保された生分解性プラスチックが得られるので、海洋環境を重い環境負荷から解放し、ゴーストフィッシングなどを防いで水産資源を保護することができる。
また、本発明の微生物を使用すれば、低温高圧の環境下で、生分解性プラスチックを分解することができる。従って、本発明の微生物を、生分解性プラスチックにあらかじめ含有させ、あるいは流出の場所に散布することによって、このような環境での生分解性プラスチックの生分解を促進することができる。すなわち、本発明は、このような環境での生分解性プラスチックの生分解の促進を、初めて可能としたものである。
このように、本発明によれば、海洋環境、特に低温高圧の環境におけるプラスチックの生分解の促進が可能となるので、海洋環境を重い環境負荷から解放し、ゴーストフィッシングなどを防いで水産資源を保護することができる。
図1は生分解性プラスチック分解菌の深海底泥サンプルからのスクリーニング法を示す図である。 図2は分離株の16sRNA遺伝子塩基配列に基づいた系統樹を示す図である。 図3Aはフローサイトメトリーを用いたPCL分解評価試験の0日目の結果を示す図である。 図3Bはフローサイトメトリーを用いたPCL分解評価試験の7日目の結果を示す図である。 図3Cはフローサイトメトリーを用いたPCL分解評価試験の14日目の結果を示す図である。 図3Dはフローサイトメトリーを用いたPCL分解評価試験の28日目の結果を示す図である。
以下に本発明の実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は以下に例示される具体的な実施の形態に限定されるものではない。
本発明の微生物は、生分解性プラスチックの分解能を有する、モリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物にある。
好適な微生物として、
配列番号1〜11の何れかに記載の塩基配列からなるDNA、又は、
配列番号1〜11の何れかに記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
を含む16S rRNA遺伝子を有する、生分解性プラスチックの分解能を有する、モリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物を挙げることができる。
好適な実施の一態様において、塩基配列の同一性(又は相同性)は、好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.2%以上、さらに好ましくは99.4%以上、さらに好ましくは99.5%以上、さらに好ましくは99.6%以上、さらに好ましくは99.7%以上、さらに好ましくは99.8%以上、さらに好ましくは99.9%以上とすることができる。
好適な実施の一態様において、好適な微生物として、
配列番号1〜11の何れかに記載の塩基配列からなるDNA、又は、
配列番号1〜11の何れかに記載の塩基配列から1個又は数個の塩基が付加、置換及び/又は欠失した塩基配列からなるDNA、
を含む16S rRNA遺伝子を有する、生分解性プラスチックの分解能を有する、モリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物を挙げることができる。
好適な実施の一態様において、上記塩基の1個又は数個とは、例えば、1〜20個、好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜8個、さらに好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜6個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個とすることができる。
好適な実施の一態様において、生分解性プラスチックの分解能を有するモリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物として、本明細書に開示されているCT01株、CT12株、JT01株の3菌株、及びCT03株、CT05株、CT06株、CT07株、CT08株、CT13株、JT02株、JT04株の8菌株を挙げることができる。
好適な実施の一態様において、生分解性プラスチックの分解能を有するモリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物として、本明細書に開示されている次の3菌株を挙げることができる。
シェワネラベンティカ CT01株(Shewanella benthica CT01):
受託番号 FERM P−21743
モリテラアビシアイ CT12株(Moritella abyssi CT12):
受託番号 FERM P−21744
モリテラ属新種 JT01株(Moritella sp. JT01):
受託番号 FERM P−21745
好適な実施の一態様において、本発明の微生物は、生分解性プラスチックの分解能を有していれば、上述の菌株の突然変異体(変異株)であってもよい。
変異株は、従来からよく用いられている変異剤であるエチルメタンスルホン酸による変異処理、ニトロソグアニジン、メチルメタンスルホン酸などの他の化学物質処理、紫外線照射、或いは変異剤処理なしで得られる、いわゆる自然突然変異によって取得することも可能である。
このような変異株が、生分解性プラスチックの分解能を有することは、一例を示せば、各地より採取した深海堆積物をポリカプロラクトンのフィルムを含む培地の入った試験管に入れ、4℃、30MPaにて培養し、グラニュール状のポリカプロラクトンを含んだ寒天平板に塗布し、コロニー周辺にプラスチックの分解に伴うクリアーゾーンの形成が見られた菌を取得することにより行うことができる。
モリテラ属、又はシュワネラ属菌であることを示す菌学的性質は、例えば、バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(BERGEY‘S MANUAL OF Systematic Bacteriology)(第1巻1984年、第2巻1986年、第3巻1989年、第4巻1989年)に記載されている。
本発明の微生物の生育に使用する培地としては、例えば、モリテラ属、シュワネラ属に属する微生物が生育できる培地を使用することができ、具体的には、MB培地が挙げられるがこれらに限定されるものではない。本発明の微生物の生育に使用する培地は、本発明の微生物が資化し得る炭素源、例えばグルコース等、及び本発明の微生物が資化し得る窒素源を含有し、窒素源としては有機窒素源、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等を含有することができる。さらに所望により、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオンと硫酸イオン、塩素イオン、リン酸イオン等の陰イオンとからなる。炭素源の濃度は0.01〜5%程度である。また、無機塩類の濃度は、例えば0.001〜1%程度である。
本発明の微生物は、海洋環境、特に低温高圧の深海において、プラスチックを分解する能力を有している。従って、本発明の微生物を使用すれば、海洋環境、特に低温高圧の深海におけるプラスチックの生分解を促進することができる。また、本発明の微生物を使用すれば、海洋環境、特に低温高圧の深海等の低温高圧の条件下で、プラスチックの生分解を行うことができ、あるいはプラスチックの生分解を促進することができる。
また、本発明の微生物によるプラスチックの生分解は、海洋環境、特に低温高圧の深海において現実に行われるプラスチックの生分解と同等であるから、本発明の微生物を使用すれば、海洋環境、特に低温高圧の深海におけるプラスチックの生分解性を試験して評価することができる。従って、本発明の微生物は、このようなプラスチックの生分解性の試験のための植種源として使用することができる。
好適な実施の一態様において、本発明の微生物によって生分解されるプラスチックとしては、いわゆる生分解性プラスチックを挙げることができ、このような生分解性プラスチックとしては、例えば、プラスチックの分子構造中にエステル結合を有するをあげることができ、例えば、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート、またはポリエチレンサクシネートなどが挙げられる。
好適な実施の一態様において、本発明の微生物を使用したプラスチックの生分解性の試験は、例えば、JIS K 6950 :2000 (ISO 14851 :1999 に相当する)、JIS K 6951:2000(ISO 14852:1999 に相当する)、JIS K 6953:2000(ISO 14855:1999 に相当する)、JIS K 6955:2006(ISO 17556:2003 に相当する)などに規定された試験において、本発明の微生物を植種源として添加することによって、行うことができる。
本発明の微生物を使用したプラスチックの生分解性の試験は、好適な実施の態様において、低温高圧下の条件下で行われる。具体的には、例えば、本発明の実施例において示す通りである。
本発明の微生物を使用したプラスチックの生分解性の試験は、好適な実施の態様において、フローサイトメトリーを使用して行われる。具体的には、例えば、本発明の実施例において示す通りである。
本発明の微生物は、培養した菌株を培地と共に添加して使用する他に、菌体を定法により凍結乾燥した粉末状、その粉末と各種ビタミンやミネラル、必要な栄養源、例えば酵母エキス、カザミノ酸、ペプトン等を配合した後に打錠した錠剤等固形状の形態の調製物として使用することもでき、菌株を活性汚泥およびコンポストの形態としても使用することもできる。
分解に供されるプラスチックは、例えば液体の培地中にグラニュールとして、あるいは粉体の形で加えても良いし、フィルム、ペレット等の塊として加えても良い。なお、培地に対するプラスチックの投入量は、0.01〜10重量%が望ましい。添加する微生物量は極少量であってもよいが、分解効率を考慮してプラスチックに対して0.1重量%以上(湿重量)が好ましい。また、分解に供するプラスチックは、1種類であっても複数種類であっても良い。
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[微生物のスクリーニング]
[グラニュールの作成]
ポリカプロラクトンのグラニュールの作成は以下の方法に従った。ポリカプロラクトン2gを100mlのアセトンに溶解し、アセトンを30%含んだ蒸留水中1000mlに加えてグラニュール状にした。その後、これをエバポレーターにてアセトンを揮発させた。
[培地の調製]
培地として、人工海水で2倍希釈したMarine Broth 2216培地(Difco, CatNo. 279110)、及び、固体培地として上記の培地に寒天(15g/l, 和光、CatNo. 010-15815)を加えたものを用いた。
[スクリーニングの実施]
千島海溝・日本海溝より採取した海底堆積物約1gを2ml容プラスチックチューブに入れ、ここに1cm角のポリカプロラクトンフィルムを加え、4℃、30MPaにて静置培養した。1週間後、人工海水で2倍希釈したMarine Broth培地1Lと1cm角のポリカプロラクトンフィルム10枚を加え、4℃、30MPaでさらに1週間培養した。その後、人工海水で2倍希釈したMarine Broth培地にポリカプロラクトングラニュールを加えた寒天平板に塗布した。コロニー周辺にプラスチックの分解に伴うクリアーゾーンの形成が見られた菌を取得した。生分解性プラスチック分解菌のスクリーニング手順を図1に示した。図1は生分解性プラスチック分解菌の深海底泥サンプルからのスクリーニング法を示す図である。
これによって、千島海溝・日本海溝より採取した海底堆積物を用いて生分解性プラスチック分解微生物の検索を行った結果、優良株として3株(CT01株、CT12株およびJT01株)を選出した。
[微生物の同定]
スクリーニングによって選出した微生物を、次のように同定した。生理学的試験は一般的な方法に従って行った。同定にはBergey’s Manual of Systematic Bacteriology, Baltimore:WILLIAMS & WILKINS Co.,(1984)を参考にした。また、米国BIOLOG社製の微生物同定システムも使用した。16S rRNA遺伝子の増幅はダイレクトPCR法を用い、プライマーにはバクテリア16S rRNA遺伝子のほぼ全長を増幅することのできる27F及び1492Rのプライマーセットを使用した。配列解析は、Perkin-Elmer/Applied Biosystems Co., のモデル3100 DNA Sequencerを用いて行なった。これらの解析結果ならびに染色体DNA相同試験より、分離株CT01株はシェワネラベンティカ、CT12株はモリテラアビシアイと同定され、JT01株は、モリテラ属の新種であることが判明した。
[形態学的・生理学的諸性質試験]
分離された生分解性プラスチック分解菌3株に関する形態学的・生理学的諸性質試験の結果は表1に示した。分離されたこれらの菌株は好気性の桿菌で、その他の生理学的性質は次の表1のとおりであった。
[菌体脂肪酸組成]
HPLC法を用いて分離された菌株の細胞膜脂肪酸組成を同定したところ、モリテラアビシアイCT12株とモリテラsp. JT01株はドコサヘキサエン酸(DHA)、シェワネラベンティカCT01株はエイコサペンタエン酸(EPA)の高度不飽和脂肪酸を生産する菌株として特徴付けられた。次の表2に脂肪酸組成のデータを示す。
[16S rRNA遺伝子の塩基配列の比較]
各分離株から染色体DNAを調整し、これをテンプレートとしてダイレクトPCRによって各菌株の16S rRNA遺伝子のほぼ全長を増幅し、その塩基配列を決定した。得られた配列情報をもとに相同性検索を行い、近隣結合法(CLUSTAL W)を用いて系統樹を作成した。図2に得られた系統樹を示す。図2は、分離株の16sRNA遺伝子塩基配列に基づいた系統樹を示す図である。ただし、図2には、CT01株、CT12株、JT01株の他に、本発明者等によって分離された後述する新規な菌株も含まれている。
以上の結果から、分離株CT01株はシェワネラベンティカ、CT12株はモリテラアビシアイと同定され、JT01株は、モリテラ属の新種であることが判明した。上記3菌株(CT01株、CT12株、JT01株)の16S rRNA遺伝子の塩基配列を、配列表に示す。
上記3つの分離株は、平成20年(2008年)12月9日に、独立行政法人 産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に寄託した。受託番号はそれぞれ以下である。
シェワネラベンティカ CT01株(Shewanella benthica CT01):
受託番号 FERM P−21743
モリテラアビシアイ CT12株(Moritella abyssi CT12):
受託番号 FERM P−21744
モリテラ属新種 JT01株(Moritella sp. JT01):
受託番号 FERM P−21745
[プラスチック分解試験]
各種生分解性プラスチック材料を用いて、分離された菌株による分解試験を以下のように実施した。その結果、分離菌株はポリカプロラクトン(PCL)を良く分解することがわかった。
[供試菌株]
深海底泥より生分解性プラスチック分解菌として分離された、モリテラアビシアイCT12株、モリテラsp. JT01株、およびシェワネラベンティカCT01株を用いた。
[培地および試薬]
実験には前述のスクリーニング用培地を使用し、培養を行った。実験に用いた試薬類はすべて和光純薬製特級かそれに準ずるものを使用した。
[分解試験]
各種プラスチックの分解活性は粒経1〜10μm程度になるようにグラニュール状にし、それらの各種プラスチックを含んだ寒天平板上で鑑定した。グラニュール状にした各種プラスチックの寒天培地中の最終濃度は、0.5g/lとなるように調整した。各種平板に植菌して、8℃にて4週間培養して、コロニー周辺のクリアーゾーンの形成量を持って分解量とした。その結果、分離された3株ともポリカプロラクトン(PCL)を良く分解することが示された。各種プラスチック素材の分解試験の結果を次の表3に示す。表3は、分離された3菌株における各種プラスチック分解活性試験の結果を示す表である。CT12,JT01及びCT01の3菌株は、PCL(ポリカプロラクトン)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PHB/V(ポリヒドロキシブチレート/バリレート)に対して、優れた分解活性を有するものであった。
[フローサイトメトリーを使ったプラスチック分解評価]
各種プラスチック分解試験の結果、分離された菌株はPCLを良く分解することが示されたので、PCLを基質として、高圧、低温条件下でのプラスチック分解評価試験を行ない、フローサイトメトリーを利用した新規の分解評価法を確立した。
[供試菌株]
ポリカプロラクトン(PCL)を良く分解する菌として得られた、モリテラsp. JT01株を用いた。
[培地および試薬]
実験には前述のスクリーニング用培地を使用し、培養を行った。実験に用いた試薬類はすべて和光純薬製特級かそれに準ずるものを使用した。
[分解試験]
分解活性は人工海水で2倍希釈したMarine Broth培地に粒経1〜10μmに調整したポリカプロラクトングラニュールを終濃度1mg/mlになるように加えた液体培地を使用した。本液体培地に0.2%(v/v)シードで植菌(約2.0x106 cells/ml程度)して、8℃、30MPaの条件にて最大4週間培養した。培養実験は、各2mlチューブに培養液を分注し、パラフィルムでシーリングしたものを加圧容器(シンテック社製、小型加圧容器)に入れ、水圧で30MPaとし8℃に冷却した水槽内にて実施した。サンプリングは1週間おきに培養液を採取して、同培養液をDAPI染色(最終濃度0.01mg/ml)処理して微生物部分を蛍光染色し、1/2 MB培地にて10倍希釈後フローサイトメトリー(日本ベクトンディッキンソン社製、型式 FACS Aria)に供した。フローサイトメトリーの検出条件として、レーザー光は、Point Source Violet Solid Stateを利用し、波長407 nmのフィルターを通し、紫色蛍光を検出した。フローサイトメトリーにて検出されるポリカプロラクトングラニュールの粒子数の減少を持って分解量とした。なお、微生物染色としてDAPI以外にも必要に応じてPI、サイバーグリーンなどの核酸染色試薬を用いて、バクテリアとPCL粒子とを染め分けて測定することもできる。
上述の方法を用いて、ポリカプロラクトンに対する分解活性を試験した結果を図3(図3A、図3B、図3C、図3D)に示す。本菌株は培養2〜4週間でポリカプロラクトングラニュールの粒子数が減少し、約1ヶ月間で大部分が分解された。
図3(図3A、図3B、図3C、図3D)は、フローサイトメトリーを用いたPCL分解評価試験である。0日目(図3A)、7日目(図3B)、14日目(図3C)、28日目(図3D)にサンプリングして、PCL分解の経緯を測定した。0日目(図3A)、7日目(図3B)、14日目(図3C)、28日目(図3D)の各図において、上段の図の中のP1領域はバクテリア、P2領域はPCL粒子を示す。各図において、下段の図の左の山はPCL、右の山はバクテリアの量を示す。経時的にバクテリアの増殖とともにPCLが分解されていることが示された。なお図中、縦軸は粒子の内部構造の複雑さ(SSC: 粒子の大きさに相当する)、横軸はDAPI染色による蛍光強度(violet-A)を示し、上図は単位時間あたりの各粒子スポットを示し、下図はそれを分布図でプロットしたものである。
[別な分離株の取得と同定]
上記3菌株(CT01株、CT12株、JT01株)を取得した上記手順と同様にして、さらに別な分離株を取得して、同定した。新たに取得された8つの菌株は、CT03株、CT05株、CT06株、CT07株、CT08株、CT13株、JT02株、JT04株と命名した。
新たな8菌株(CT03株、CT05株、CT06株、CT07株、CT08株、CT13株、JT02株、JT04株)についても、上記3菌株(CT01株、CT12株、JT01株)と同様に、ダイレクトPCRによって各菌株の16S rRNA遺伝子のほぼ全長を増幅し、その塩基配列を決定した。得られた配列情報をもとに相同性検索を行い、近隣結合法(CLUSTAL W)を用いて系統樹を作成した。図2には、このようにして得られた系統樹が示されている。新たな8菌株(CT03株、CT05株、CT06株、CT07株、CT08株、CT13株、JT02株、JT04株)の16S rRNA遺伝子の塩基配列を、配列表に示す。
上記3菌株(CT01株、CT12株、JT01株)と、新たな8菌株(CT03株、CT05株、CT06株、CT07株、CT08株、CT13株、JT02株、JT04株)について、各分離株の相同性(%)を比較し、その結果を次の表4に示す。表4は、分離した11菌株の相同性比較の結果を示す表である。
表4において、JT01、CT05、JT02、JT04の4株は、Moritella sp. nov.であり、CT13、CT06、CT08、CT12の4株は、Moritella abyssiであり、CT01、CT07、CT03の3株は、Shewanella benthicaであると同定されたものである。
新たな8菌株(CT03株、CT05株、CT06株、CT07株、CT08株、CT13株、JT02株、JT04株)についても、上記3菌株(CT01株、CT12株、JT01株)と同様に、生分解性プラスチックの生分解の活性の評価を、プレート試験によって行った。評価試験は、4℃大気圧下で1週間後にハローの大きさを判定することによって行った。上記3菌株(CT01株、CT12株、JT01株)と、新たな8菌株(CT03株、CT05株、CT06株、CT07株、CT08株、CT13株、JT02株、JT04株)について、生分解性プレスチック分解活性評価の結果を、次の表5に示す。表5は、分離した11菌株の生分解性プレスチック分解活性評価の結果を示す表である。
表5に示されるように、分離した11菌株はいずれもPCL(ポリカプロラクトン)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PHB/V(ポリヒドロキシブチレート/バリレート)に対して、優れた分解活性を有するものであった。さらに、新たな8菌株もまた、PCLを基質として、高圧、低温条件下でのフローサイトメトリーを利用したプラスチック分解評価試験を行った結果、優れた分解活性を有することが確認された。
本発明は、海洋環境、特に深海の海底の低温高圧の環境において、生育して繁殖し、生分解性プラスチックを分解することができる新規な微生物を提供する。さらに、本発明の微生物を植種源として使用すれば、海洋環境、特に低温高圧の環境における生分解性プラスチックの生分解性を試験することができる。本発明によれば、海洋環境や水産資源を保護することができ、本発明は産業上有用な発明である。

Claims (9)

  1. 生分解性プラスチックの分解能を有する、モリテラ属又はシュワネラ属に属する微生物。
  2. モリテラ属に属する微生物が、次の(A)又は(B):
    (A)配列番号5に記載の塩基配列からなるDNA
    (B)配列番号5に記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
    を含む16S rRNA遺伝子を有する、請求項1に記載の微生物。
  3. モリテラ属に属する微生物が、次の(C)又は(D):
    (C)配列番号8に記載の塩基配列からなるDNA
    (D)配列番号8に記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
    を含む16S rRNA遺伝子を有する、請求項1に記載の微生物。
  4. シュワネラ属に属する微生物が、次の(E)又は(F):
    (E)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
    (F)配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA、
    を含む16S rRNA遺伝子を有する、請求項1に記載の微生物。
  5. モリテラ属に属する微生物が、モリテラアビシアイCT12株(受託番号:FERM P−21744)、又はその変異体である、請求項1又は請求項2に記載の微生物。
  6. モリテラ属に属する微生物が、モリテラsp.JT01株(受託番号:FERM P−21745)、又はその変異体である、請求項1又は請求項3に記載の微生物。
  7. シュワネラ属に属する微生物が、シュワネラベンティカCT01株(受託番号:FERM P−21743)、又はその変異体である、請求項1又は請求項4に記載の微生物。
  8. 請求項1〜7の何れかに記載の微生物を含んでなる、プラスチックの生分解性試験のための植種源。
  9. 請求項1〜7の何れかに記載の微生物をプラスチックに添加する工程、
    を含む、生分解性プラスチックの生分解性を試験する方法。
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