発明の詳細な説明
細胞表面で作用する甲状腺ホルモン分子の新規クラスを本明細書で開示し、これを「サイロ−インテグリン分子」と呼ぶ。これらの分子は、細胞表面の受容体を選択的に活性化する。甲状腺ホルモンは、血管新生促進性であって、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK/ERK1/2)および線維芽細胞増殖因子(FGF2)依存性であるメカニズムによって作用する。
腫瘍細胞に対するこのホルモンの効果は、インテグリンaVb3上の新規細胞表面受容体によって媒介される。甲状腺ホルモンが、細胞の原形質膜に局在するこの受容体によって作用するという本発明者らの最近の発見は、ポリマーにコンジュゲートした甲状腺ホルモン類似体およびナノ粒子の甲状腺ホルモン類似体がその細胞表面受容体に結合できるが、細胞に侵入することはできないという発見につながった。
細胞内に出入りできず、それ故、その活動がインテグリン受容体に限定されるに違いない、ナノ粒子甲状腺ホルモン類似体およびそれらのポリマーコンジュゲートは、本発明の範囲内である。前記ナノ粒子ホルモン類似体は、ポリリシルグリコール酸(PLGA)誘導体、エステルまたはより安定なエーテル結合型製剤のいずれか、である。アガロース−T4は、本発明者らがインテグリン受容体に対して十分に活性であることを証明したナノ粒子モデルである。この再処方されたホルモン類似体は、このホルモンの細胞内作用を発現せず、それ故、循環血流に吸収されたとしても全身性甲状腺ホルモン類似体作用を有さないであろう。
従って、本発明の分子は、前記受容体を選択的に活性化することができる。この受容体が活性化されると、タンパク質媒介因子の一連の変化が発生し、その結果、核トランスアクチベータータンパク質(例えば、STATタンパク質、p53、および核ホルモン受容体のスーパーファミリーのメンバー)の活性を修飾することができるシグナルを生ずる。
甲状腺ホルモンの非ゲノム性作用は、核T3受容体(TR)によるホルモンの核内結合とは無関係な作用である。これらの作用は、主として細胞表面で開始される。公知甲状腺ホルモン類似体を合成ポリマーにコンジュゲートさせることにより、細胞表面受容体に対して排他的に作用するが、内因性ホルモンがその細胞に依然として侵入し、ミトコンドリアに対してまたは直接核TRに作用することができる、ホルモンの新規ファミリーを作る。コンジュゲートさせるホルモン類似体に依存して、血管新生または創傷治癒を支援することができ、または腫瘍細胞増殖および血管新生に対する作用に拮抗することができる。
本発明の範囲内の甲状腺ホルモンポリマーコンジュゲートおよびナノ粒子の製剤および使用は、下で詳細に説明する。
定義
便宜上、本明細書、実施例およびクレームにおいて用いる一定の用語をここに集める。特に定義されていなければ、ここで用いるすべての専門および科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の技術者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。
ここで用いる場合、用語「血管新生性薬剤」は、単独であろうと、別の物質との組み合わせであろうと、血管新生を促進または助長する任意の化合物または物質を包含する。例としては、T3、T4、T3またはT4−アガロース、T3、T4、3,5−ジメチル−4−(4’−ヒドロキシ−3’−イソプロピルベンジル)−フェノキシ酢酸(GC−1)またはDITPAのポリマー類似体が挙げられるが、これらに限定されない。対照的に、用語「抗血管新生剤」または「抗血管新生性薬剤」は、単独であろうと、別の物質との組み合わせであろうと、血管新生を阻害または防止する任意の化合物または物質を指す。例としては、TERAC、TRIAC、XT 199、およびmAb LM609が挙げられるが、これらに限定されない。
ここで用いる場合、用語「心筋虚血」は、心血管の容量減少に起因する心臓筋への血液供給不足と定義する。ここで用いる場合、用語「冠疾患」は、心筋機能と正常に機能するために十分な血流を供給する冠状血管の能力との不均等に起因する心臓機能の疾患/障害と定義する。本明細書に記載する組成物および方法で治療することができる具体例としての冠疾患/冠疾患に随伴する障害としては、心筋虚血、狭心症、冠動脈瘤、冠血栓、冠血管痙攣、冠動脈疾患、冠動脈性心疾患、冠閉塞および冠狭窄が挙げられる。
ここで用いる場合、「閉塞性末梢血管疾患」(末梢動脈閉塞性疾患としても知られている)は、腸骨動脈をはじめとする頚動脈または大腿動脈における血管疾患関与閉塞である。大腿動脈の閉塞は、疼痛および運動制限の原因となる。閉塞性末梢血管疾患に随伴する具体的な疾患は、結果的に足を切断することが多い、糖尿病患者を襲う糖尿病性足病変である。
ここで用いる場合、用語「血管の再生」、「血管新生」、「血管再建」および「側副血行増加」(またはその影響に対する語)は、同義とみなす。天然または合成物質に言及するときの用語「医薬的に許容される」は、その物質がそのはるかに大きな薬効にかんがみて許容される毒性効果を有することを意味し、一方、関連用語「生理的に許容される」は、その物質が比較的低い毒性を有することを意味する。用語「同時投与」は、2つ以上の薬物を、ほぼ同時にまたはそれらの効果がほぼ同時にもしくは実質的に重なって作動するように近い間隔で、次々に与えることを意味する。これの用語は、同時薬物投与ばかりでなく逐次的投与も包含する。
「医薬的に許容される塩」は、甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体の医薬的に許容される塩を指し、この塩は、当該技術分野において周知の様々な有機および無機対イオンから誘導され、単なる例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラ−アルキルアンモニウムなどを含み、ならびにその分子が塩基性官能基を含有する場合、有機または無機酸の塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩などを医薬的に許容される塩として使用することができる。この用語は、酸付加塩と塩基付加塩の両方を包含する。
「医薬的に許容される酸付加塩」は、それらの遊離塩基の生物学的有効性および特性を保持する塩であって、生物学的にまたは別様に望ましくないものでない、ならびに無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など、および有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸など、とで形成される塩を指す。本発明の化合物の特に好ましい塩は、一塩酸塩および二塩化物塩である。
「医薬的に許容される塩基付加塩」は、それらの遊離塩基の生物学的有効性および特性を保持する塩であって、生物学的にまたは別様に望ましくないものでない塩を指す。これらの塩は、無機塩基または有機塩基の遊離酸への付加から作製される。無機塩基から誘導される塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム塩などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい無機塩基は、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム塩である。有機塩基から誘導される塩としては、第一、第二および第三アミン、置換アミン(天然置換アミンを含む)、環状アミン、および塩基性イオン交換樹脂、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、トリメタミン、ジシクロヘキシルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルコサミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N−エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などの塩が挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリンおよびカフェインである。
「ウレイド」は、式−−N(H)−−C(O)−−NH2のラジカルを指す。
置換アルキル基を含有するラジカルについて、それらに対す任意の置換がそのアルキル基の任意の炭素に対して発生し得ることは、上の定義および例から理解される。本発明の化合物またはそれらの医薬的に許容される塩は、それらの構造内に不斉炭素原子を有する場合がある。従って、本発明の化合物およびそれらの医薬的に許容される塩は、単一エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、およびエナンチオマーとジアステレオマーの混合物であり得る。すべてのこうした単一エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体およびそれらの混合物は、本発明の範囲内であると解釈する。分かっている場合には、これらの化合物の一定の炭素原子の絶対配置を適切な絶対記述子RまたはSによって示す。
光学活性出発原料および/もしくは中間体の使用により、または従来の分割技術、例えば酵素的分割もしくはキラルHPLC、の使用により、別個のエナンチオマーを作製することができる。
ここで用いる場合、「増殖因子」または「神経形成因子」という語句は、CNSまたはPNSの細胞に対して成長、増殖、分化または栄養効果を有するタンパク質、ペプチドまたは他の分子を指す。そうした因子は、増殖または分化を誘導するために使用することができ、それらとしては、例えば、細胞の表面の受容体に結合してその細胞に対して栄養または成長誘導効果を発揮する任意の分子を含む、CNSまたはPNSの細胞を増殖させる任意の栄養因子を挙げることができる。好ましい因子としては、神経成長因子(「NGF」)、上皮増殖因子(「EGF」)、血小板由来増殖因子(「PDGF」)、インスリン様成長因子(「IGF」)、酸性線維芽細胞増殖因子(「aFGF」または「FGF−1」)、塩基性線維芽細胞増殖因子(「bFGF」または「FGF−2」)、ならびにトランスフォーミング増殖因子−アルファおよび−ベータ(「TGF−α」および「TGF−β」)が挙げられるが、これらに限定されない。
「被験体」は、生きている生物、例えば、ヒト、猿、雌牛(cow)、羊、馬、豚、畜ウシ(cattle)、山羊、犬、猫、マウス、ラット、それらからの培養細胞、およびそれらのトランスジェニック種を包含する。好ましい実施形態において、被験体はヒトである。治療すべき被験体への本発明の組成物の投与は、その被験体の状態を治療するために有効な投薬量でおよび期間にわたって、公知の手順を用いて行うことができる。治療効果を達成するために必要な治療化合物の有効量は、その被験体の年齢、性別および体重、ならびにその被験体における異物を処理するその治療化合物の能力などの因子に従って変わることがある。投薬レジメンは、最適な治療応答をもたらすように調整することができる。例えば、幾つかの分割用量を毎日投与してもよいし、または治療状況の緊急性により必要とされる場合には比例してその用量を減少させてもよい。
「投与」は、本発明の組成物がそれらの初期の機能を果す、例えば血管新生を促進する、ことができる投与経路を含む。治療すべき疾患または状態に依存して、非経口経路(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下注射)、経口経路(例えば、食事)、局所経路、鼻経路、直腸経路、または徐放性マイクロキャリアによる経路をはじめとする(しかし、必ずしもこれらに限定されない)様々な投与経路が可能である。経口、非経口および静脈内投与が好ましい投与方式である。投与すべき化合物の製剤は、選択される投与経路によって変わるであろう(例えば、溶液、エマルジョン、ゲル、アガロース、カプセル)。投与すべき化合物を含む適切な組成物は、生理的に許容されるビヒクルまたは担体ならびに任意のアジュバントおよび保存薬中で調製することができる。溶液またはエマルジョンに適する担体としては、例えば、水性またはアルコール性/水性の溶液、エマルジョンまたは懸濁液(食塩水および緩衝媒体を含む)、滅菌水、クリーム、軟膏、ローション、油、ペーストおよび固体担体が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガー液または固定油を挙げることができる。静脈内ビヒクルは、様々な添加剤、保存薬、または流体、栄養素もしくは電解質補充液を含むことがある(例えば、一般に、Remington’s Pharmaceutical Science,16th Edition,Mack,Ed.(1980)を参照のこと)。
「有効量」は、その所期の機能を果すことができる、例えば、本明細書に記載するような血管新生関連疾患において血管新生を促進または阻害することができる、血管新生促進性または抗血管新生性化合物の量を包含する。前記有効量は、生物活性、年齢、体重、性別、全身の健康状態、治療すべき状態の重症度ならびに適切な薬物動態特性をはじめとする多数の因子に依存するであろう。例えば、活性物質の投薬量は、約0.01mg/kg/日から約500mg/kg/日、有利には約0.1mg/kg/日から約100mg/kg/日であり得る。活性物質の治療有効量は、1回量または多数回用量で適切な経路によって投与することができる。さらに、活性物質の投薬量は、その治療または予防状況の緊急性により必要とされる場合には比例して増加または減少させてもよい。
「医薬的に許容される担体」は、本化合物の活性と適合性であり、被験体に生理的に許容される任意のおよびすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌薬、等張および吸収遅延剤などを包含する。医薬的に許容される担体の一例は、緩衝正常食塩液(0.15M NaCl)である。医薬活性物質のためのこうした媒質および薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来の媒質または薬剤が本治療化合物と不相溶性である場合を除き、医薬投与に適する組成物におけるそれらの使用が考えられる。補助的活性化合物も本組成物に組み込むことができる。
「追加の成分」としては、次のうちの1つ以上が挙げられるが、それらに限定されない:賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒および崩壊剤;結合剤;滑沢剤;甘味剤;矯味矯臭剤;着色剤;保存薬;生理的に分解可能な組成物、例えばゼラチン;水性ビヒクルおよび溶媒;油性ビヒクルおよび溶媒;懸濁化剤;分散または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;抗酸化物質;抗生物質;抗真菌薬;安定剤;ならびに医薬的に許容される高分子または疎水性材料。本発明の医薬組成物に含めることができる他の「追加の成分」は、当該技術分野において公知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
サイロ−インテグリン分子
細胞表面受容体をインテグリンαVβ3または他のRGD含有化合物の周りに密集させるポリペプチドの作用を修飾する際の甲状腺ホルモン、アガロースおよびポリマーコンジュゲーションの役割
細胞表面で作用する甲状腺ホルモン分子の新規クラスを本明細書で開示し、これを「サイロ−インテグリン分子」と呼ぶ。これらの分子は、インテグリンαVβ3で説明されている甲状腺ホルモン(L−チロキシン、T4;T3)の細胞表面受容体を選択的に活性化する。これらの受容体は、このインテグリンのArg−Gly−Asp(RGD)認識部位にまたは付近に存在する。αVβ3受容体は、核甲状腺ホルモン受容体(TR)のホモログではないが、この細胞表面受容体の活性化は、前記ホルモンの最近報告された血管新生促進作用および創傷治癒のヒト皮膚線維芽細胞単層モデルにおけるインビトロでの線維芽細胞移動をはじめとする多数の核媒介事象を生じさせる。
インテグリンαVβ3は、アミノ酸配列Arg−Gly−Asp(「RGD」)を含有する幾つかの細胞外マトリックスタンパク質リガンドを有するヘテロ二量体原形質膜タンパク質である。精製インテグリンを使用して、本発明者らは、インテグリンαVβ3がT4に結合すること、およびこの相互作用がαVβ3アンタゴニストによって乱されることを発見した。放射リガンド結合研究により、精製αVβ3は、高親和性(EC50、371pM)でT4に結合すること、およびT3より優先的にT4に結合するようであることが判明した。これは、T3と比較して、T4によるMAPK活性化および核移行ならびにホルモン誘導血管新生を証明する以前の報告と一致する。インテグリンαVβ3アンタゴニストは、インテグリンへのT4の結合を阻害し、および重要なこととして、MAPKシグナリングカスケードのT4による活性化を防止する。インテグリンαVβ3アンタゴニストによる甲状腺ホルモンのMAPK依存性血管新生促進作用の阻害とともに、そのインテグリンへのホルモン結合のこの機能的帰結−−MAPK活性化−−によって、本発明者らが、そのインテグリン上のヨードチロニン結合部位を受容体と説明することができる。3−ヨードチロナミン、甲状腺ホルモン誘導体、は、微量のアミン受容体(TAR I)に結合するが、興味深いことにこの類似体の作用はT4およびT3のものと正反対であるとScalanらによって、最近、証明されたことに留意しなければならない。
インテグリンの伝統的なリガンドは、タンパク質である。小分子、甲状腺ホルモンもインテグリンのリガンドでもあることは、新たな発見である。本発明は、レスベラトロール(多少のエストロゲン活性を有するポリフェノール)がインテグリンαVβ3に結合し、甲状腺ホルモンのこの結合の結果として生ずるものとは異なる機能的細胞結果(アポトーシス)となることも開示する。T4が結合するインテグリンの部位は、そのヘテロ二量体インテグリンのRGD結合溝であるか、その付近である。しかし、αVβ3は、そのタンパク質の別の場所でT4に結合することもあり得、ならびにTETRACによるまたはRGD含有ペプチドによるRGD認識部位の占有によって、T4結合部位が遮断されること、またはT4部位を利用できなくするインテグリン内の配座変化が生じることもあ得る。
従って、星状膠細胞のラミニン−インテグリン相互作用のT4による修飾は、インテグリンへのホルモンの結合の結果であり得る。それ故、細胞の外面で、甲状腺ホルモンは、ラミニンに加えて細胞外マトリックスタンパク質のインテグリンαVβ3による配位に影響を及ぼし得るという可能性が存在する。
メカニズムの点で非ゲノム的であるT4の作用は、近年、十分に実証されている。多数のこれらの活性がMAPKによって媒介される。本発明者らは、プロテインキナーゼCの活性化をはじめとする甲状腺ホルモンによるMAPKカスケードの活性化における初期段階が、GTPγSおよび百日咳毒素に対して感受性であること(これは、甲状腺ホルモンの原形質膜受容体がGタンパク感受性であることを示す)を証明した。インテグリンαVβ3によって媒介される一定の細胞機能がGタンパクにより修飾されることが他の者によって証明されていることに留意しなければならない。例えば、RGD結合ドメインの部位特異的突然変異は、G0を活性化するヌクレオチド受容体P2Y2の能力を完全に破壊するが、Gqの活性化は影響を受けない。Wangらは、インテグリン会合タンパク質(IAP/CD47)が、MAPK活性化のGi媒介阻害により平滑筋細胞移動を誘導することを立証した。
インテグリンαVβ3によるT4および他の類似体の結合を特定の細胞内シグナル伝達経路の活性化に結びつけることに加えて、本発明は、このインテグリンによるホルモンの配位が、MAPK依存性血管新生のT4による誘導にとって極めて重要であることも開示する。CAMモデルにおいて、T4治療の48〜72時間後に有意な血管成長が発生し、これは、T4の原形質膜効果が、複雑な転写変化を生じさせ得ることを示している。従って、このホルモンの非ゲノム性作用として開始されるもの−−細胞表面T4シグナルの伝達−−は、新生血管形成を生じさせる結果となるそのホルモンのゲノム性効果との接点を有する。甲状腺ホルモンの非ゲノム性作用とゲノム性作用の接点は、以前に記載されている(例えば、T4により細胞表面で開始され、そして結果的にコリプレッサータンパク質のTRによる放出およびコアクチベーターの動員を生じさせる、TRβ1のSer−142でのMAPK依存性リン酸化)。本発明は、T4が、RGDペプチドによって開始されるMAPK依存性メカニズムによるC−6神経膠細胞の増殖を刺激すること、および本発明者らがRGDペプチドによって阻害可能であると現在既知のプロセスによって、甲状腺ホルモンが、MCF−7細胞において核エストロゲン受容体(ERα)のMAPK媒介セリンリン酸化を生じさせることも開示する。幾つかの細胞系統におけるこれらの発見は、すべて、甲状腺ホルモンへの細胞の機能的応答への前記インテグリンの関与を支持している。
甲状腺ホルモンの膜受容体としてのαVβ3の同定は、このインテグリンとこのホルモンの相互作用の臨床的有意性、および下流の血管新生という帰結を示す。例えば、αVβ3は、多くの腫瘍において過剰発現され、この過剰発現は、腫瘍浸潤および増殖において1つの役割を果すようである。甲状腺ホルモンに比較的一定した循環レベルは、腫瘍関連血管新生を助長し得る。ここでおよび他の箇所でCAMモデルにおけるT4の血管新生促進作用を立証することに加えて、本発明は、ヒト皮膚微小血管内皮細胞が甲状腺ホルモンに曝露されたときに新たな血管を形成することも開示する。腫瘍細胞の周囲へのαVβ3アンタゴニストまたはTETRACの局所送達は、甲状腺ホルモン刺激血管新生を阻害し得る。TETRACは、甲状腺ホルモンの生物活性の多くを欠くが、一定の細胞内に出入りする。TETRACまたは特定のRGDアンタゴニストの非免疫原性物質(アガロースまたはポリマー)への固着は、それらの化合物が原形質膜を横断する可能性を排除するが、本明細書において示すように、T4誘導血管新生を防止する能力を維持する。従って、本研究において使用したアガロース−T4は、特定の細胞効果を有するが、その細胞内に出入りしない、甲状腺ホルモン類似体の新規ファミリーの基本型である。
従って、本明細書における実施例は、インテグリンαVβ3を、甲状腺ホルモン(L−チロキシン、T4)の細胞表面受容体と、および細胞内シグナリングカスケードのT4誘導活性化の開始部位と、認定する。αVβ3は、放射性標識T4に高い親和性で解離不能に結合し;放射リガンド結合は、テトラヨードサイロ酢酸(TETRAC)、αVβ3抗体によって、およびインテグリンRGD認識部位ペプチドによって置換される。CV−1細胞には、核甲状腺ホルモン受容体がないが、原形質膜αVβ3を有し;生理濃度のT4でのこれらの細胞の処理は、MAPK経路を活性化する(TETRAC、RGDペプチドおよびαVβ3抗体によって阻害される効果)。そのインテグリンへのT4結合の阻害は、T4のMAPK媒介血管新生促進作用も遮断する。MAPKのT4誘導リン酸化は、αVおよびβ3のsiRNAノックダウンによって阻害される。これらの発見は、T4が、RGD認識部位の近くでαVβ3に結合することを示し、ならびにαVβ3へのホルモンの結合が、生理的影響を有すること示す。
本発明の組成物は、甲状腺ホルモン、甲状腺ホルモン類似体およびそれらのポリマー形が、細胞膜レベルで作用し、ならびに核甲状腺ホルモン効果とは無関係である血管新生促進特性を有するという発見に、一部、基づく。従って、これらの甲状腺ホルモン類似体およびポリマー形(すなわち、血管新生性薬剤)を使用して、様々な疾患を治療することができる。同様に、本発明は、甲状腺ホルモン類似体アンタゴニストが、そうした類似体の血管新生促進効果を阻害し、それらも様々な疾患の治療に使用することができるという発見にも基づく。それ故、これらの組成物および使用方法を下で詳細に説明する。
組成物
甲状腺ホルモン、その類似体、ポリマーコンジュゲーションならびに前記ホルモンおよびそれらの類似体のナノ粒子を含む、血管新生性薬剤および抗血管新生性薬剤を、本明細書において開示する。本開示組成物を血管新生を促進するために使用して、血管新生が有益である疾患を治療することができる。加えて、これらの甲状腺ホルモン、類似体およびポリマーコンジュゲーションの阻害を用いて血管新生を阻害して、そうした望ましくない血管新生に関連した疾患を治療することができる。ここで用いる場合、用語「血管新生性薬剤」は、単独であろうと、または別の物質との組み合わせであろうと、血管新生を促進または助長する任意の化合物または物質を包含する。
本発明の血管新生促進性薬剤は、甲状腺ホルモンアゴニストであり、単独での、またはポリマーとの共有結合性もしくは非共有結合性コンジュゲーション状態での、甲状腺ホルモン、類似体および誘導体を含む。例としては、T3、T4、T3またはT4−アガロース、T3,T4、3,5−ジメチル−4−(4’−ヒドロキシ−3’−イソプロピルベンジル)−フェノキシ酢酸(GC−1)またはDIPTAのポリマー類似体が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の抗血管新生性薬剤は、単独での、またはポリマーとの共有結合性もしくは非共有結合性コンジュゲーション状態での、甲状腺ホルモンアンタゴニスト、類似体および誘導体を含む。こうした抗血管新生性甲状腺ホルモンアンタゴニストの例としては、TETRAC、TRIAC、XT 199、およびmAb LM609が挙げられるが、これらに限定されない。
代表的な甲状腺ホルモンアゴニスト、アンタゴニスト、類似体および誘導体の例を下に示し、図20、表A〜Dにも示す。表Aは、T2、T3、T4およびブロモ誘導体を示す。表Bは、アラニル側鎖修飾を示す。表Cは、ヒドロキシ基、ジフェニルエステル結合、およびD−配座を示す。表Dは、チロシン類似体を示す。代表化合物のうちの幾つかの式を下に図示する。
ポリマーコンジュゲーション
ポリマーコンジュゲーションを用いて、薬物の実行可能性を改善する。多くの新旧治療薬は十分に許容されるが、多くの化合物は、毒性を減少させるため、循環時間を増加させるため、または生体分布を変更するための先進創薬技術を必要としている。薬物の可能性を改善するための本発明者らの戦略は、水溶性ポリマーの利用である。様々な水溶性ポリマーが、生体内分布を変更すること、細胞取り込み方式を改善すること、生理学的障壁に対する透過性を変化させること、および身体によるクリアランス率を変更することが、証明されている。ターゲティングまたは持続放出効果を達成するために、薬物部を末端基として、骨格の一部として、またはそのポリマー鎖のペンダント基として含有する水溶性ポリマーを合成した。
本発明の代表組成物としては、ポリマーにコンジュゲートさせた甲状腺ホルモンまたはその類似体が挙げられる。ポリマーとのコンジュゲーションは、共有結合性連結による場合もあり、または非供給結合性連結による場合もある。好ましい実施形態では、前記ポリマーコンジュゲーションを、エステル結合または無水物結合によって行うことができる。ポリビニルアルコールを使用するエステル結合によるポリマーコンジュゲーションの例を図17に示す。この調製では、市販のポリビニルアルコール(または関連コポリマー)を、酸塩化物形を含む甲状腺ホルモン類似体の酸塩化物での処理によってエステル化することができる。その塩酸塩をトリエチルアミンの添加によって中和して、塩酸トリエチルアミンを生じさせる。これは、異なる類似体についての甲状腺ホルモンエステルポリマー形が沈殿し次第、洗浄除去することができる。そのポリマーのエステル結合がインビボで加水分解を受けて、活性血管新生促進甲状腺ホルモン類似体を放出することができる。
アクリル酸エチレンコポリマーを使用する無水物結合によるポリマーコンジュゲーションの例を図18に示す。これは、前のポリマー共有結合性コンジュゲーションに類似しているが、今回は、アクリル酸コポリマーの反応から誘導される無水物結合による。この無水物結合もインビボで加水分解を受けて、甲状腺ホルモン類似体を放出する。トリエチルアミンでの処理によってその塩酸塩の中和を遂行し、その後、沈殿したポリ無水物ポリマーの水での洗浄によって、塩酸トリエチルアミン副生成物を除去する。この反応は、甲状腺ホルモン類似体アクリル酸コポリマー+トリエチルアミンの形成をもたらすであろう。インビボでの加水分解により、その甲状腺ホルモン類似体とアクリル酸エチレンコポリマーが経時的に放出されるであろう(この時間は、制御することができる)。
もう1つの代表的ポリマーコンジュゲーションとしては、ポリエチレングリコール(PEG)にコンジュゲートさせた甲状腺ホルモンまたはその類似体が挙げられる。様々な薬物、タンパク質およびリポソームへのPEGの取り付けが残留時間を改善し、毒性を減少させることは証明されている。PEGは、その鎖の末端のヒドロキシル基によって、および他の化学的方法によって、活性薬剤とカップリングさせることができる。しかし、PEGそれ自体は、1分子につき2つの活性薬剤に限定される。異なるアプローチでは、PEGの生体適合特性を保持するが、1分子につき非常に多数の結合点という付加的利点を有し、様々な用途に適するように合成設計することができる、PEGとアミノ酸のコポリマーを、新規生体材料として活用した。
様々な合成、天然および生体ポリマー由来の側基と有効な生体分解性骨格ポリマーを甲状腺ホルモン類似体にコンジュゲートさせることができる。ポリアルキルグリコール、ポリエステル、ポリ無水物、多糖類、およびポリアミノ酸をコンジュゲーションに利用することができる。下記は、コンジュゲートさせた甲状腺ホルモン類似体の代表例である。
天然、合成およびポリペプチドポリマー鎖からのポリマーコンジュゲート構造
PEG系甲状腺化合物ポリマーコンジュゲート型送達システム
生体分解性および生体適合性ポリマーは、非加水分解性ポリマーコンジュゲートをはじめとする長期および短期送達ビヒクルのための有望な担体として指定されている。PEGおよびPEOは、溶解度(簡単な担体様式)、分解時間、およびコンジュゲーションの容易さのために選択する、広範な分子量を有する最も一般的なヒドロキシ末端ポリマーである。膨潤させることができ、その結果、細胞内輸送中にタンパク質が付着または固着される機会を減少させることができる直鎖担体として、一方の末端が保護されたメトキシ−PEGも利用されるであろう。エチレンと酢酸ビニルの一定のコポリマー、すなわち、非常に良好な生体適合性、低い結晶性および疎水性を本質的に有するEVAcは、封入媒介薬物送達担体の理想的な候補である。
コンジュゲーションの目的のために、高い半減期および系内保持特性が立証されているポリマーが採用される。最も一般的で推奨されるものの中で、乳酸およびグリコール酸からの生体分解性ポリマーを使用することにする。L−ラクチドおよびL−リシンのコポリマーは、アミド結合形成のためにそのアミン官能基を利用できるので、有用であり、これは、すべての甲状腺成分の中のカルボキシル部分によって互いに連結される担体と輸送可能な甲状腺化合物のより長持ちする供給結合部位として役立つ。
セルロース、キチン、デキストラン、フィコール、ペクチン、カラゲナン(すべてのサブタイプ)およびアルギネートからの天然多糖類、ならびにそれらの半合成誘導体の一部は、その高い生体適合性、生物系のよく知られている分解産物(グルコースおよびフルクトースからの単糖類)、親水性、溶解度、ポリマーマトリックスのより長期的な安定性のためのタンパク質固定化/相互作用のため、理想的な担体である。これは、ポリマーマトリックスを経時的な分解からさらに保護するためのシェルを提供し、そのコンジュゲートの有効半減期の追加をもたらす。
血清アルブミン、コラーゲン、ゼラチンからのタンパク質およびポリペプチド、ならびにポリ−L−リシン、ポリ−L−アラニン、ポリ−L−セリンは、担体分子の生体分解性、生体適合性および適度の放出時間という利点を有する天然アミノ酸系薬物担体である。ポリ−L−セリンは、その種々の鎖誘導体、例えば、ポリセリンエステル、ポリセリンイミン、および特異的共有結合性コンジュゲーションに利用可能な部位を有する従来のポリセリンポリマー骨格のため、さらに興味深い。
メタクリレート誘導ポリマーからの合成ヒドロゲルは、生体組織とのそれらの類似性のため、生物医学的用途に用いられることが多い。最も広く用いられている合成ヒドロゲルは、アクリル酸、アクリルアミドおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のポリマーである。ポリHEMAは、安価であり、生体適合性であり、コンジュゲーションのために第一アルコール側鎖伸長官能基を利用することができ、ならびに眼、眼内および他の眼科用途に適し、そのため、これらは申し分のない薬物送達材料である。pHEMAは、細胞付着に対する免疫があり、ゼロ細胞運動(zero cell motility)をもたらし、そのため、これらは内部送達システムの理想的な候補である。
合成甲状腺類似体DITPAコンジュゲーションライブラリ設計プログラムが、粗DITPAコンジュゲート産物の開発で達成された。PVAおよびPEG親水性ポリマーカプリングは、ジシクロヘキシルカルボジイミドによって媒介されることもあり、ならびに親水性および疎水性の他のカップリング試薬によって媒介されることもある。以下は、本発明の範囲内のポリマーコンジュゲートのリストである(表9)。
表9:化学的クラス反応性および安定性データに基づく可能な調製のための指定ポリマーコンジュゲートのライブラリ
もう1つの代表的ポリマーコンジュゲーションとしては、ポリマーと非共有結合的にコンジュゲートしている状態の甲状腺ホルモンまたはその類似体が挙げられる。これは、図19に詳細に示す。好ましい非共有結合性コンジュゲーションは、ポリ乳酸ポリマーへの甲状腺ホルモンまたはその類似体の捕捉である。ポリ乳酸ポリエステルポリマー(PLA)は、インビボで乳酸モノマーへと加水分解され、これは、ヒトにおける薬物送達システムのためのビヒクルとして活用されている。甲状腺ホルモン類似体を化学結合によってポリマーに連結させる前の2つの共有結合法とは異なり、これは、甲状腺ホルモン類似体をPLAポリマービーズに封入する非共有結合的方法である。この反応は、水中で甲状腺ホルモン類似体含有PLAビーズの形成をもたらすであろう。濾過および洗浄の結果、甲状腺ホルモン類似体含有PLAビースが形成され、これは、インビボで加水分解されると、制御されたレベルの甲状腺ホルモンと乳酸を生じさせる。
A.TRアゴニストまたはアンタゴニストとナノ粒子のポリマーコンジュゲート合成
TRアゴニストまたはアンタゴニスト分子中には2つの官能基(カルボン酸およびヒドロキシル基)が存在する。TRアゴニストまたはアンタゴニスト/ポリマーコンジュゲートを合成するための反応部位は、これら2つのうちのいずれかであり得る。本発明の範囲内の可能性のあるアゴニストおよびアンタゴニストを下の表に示す。2つの可能な合成経路を下に記載する:
1)内部フェニル環に対してα、βまたはγ位に位置するカルボン酸基を用いる。この酸基を活性化させ、その後、ヒドロキシルおよびアミノ基と反応させて、エステルおよびアミドを形成することができる。候補ポリマーとしては、PVA、PEG−NH2、ポリ(リシン)および関連ポリマーが挙げられる。合成経路のスキームをスケッチ1Aに示す。
2)外部フェニル基上に位置するヒドロキシル基をスケッチ2Aに示す。
スケッチ1A:カルボン酸基によるTRアゴニストまたはアンタゴニスト/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
スケッチ2A:ヒドロキシル基によるTRアゴニストまたはアンタゴニスト/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
本発明の範囲内の代表的甲状腺アゴニスト(血管新生促進性)としては、T3、T4、DITPA、GC−1ならびにこれらの類似体および誘導体が挙げられる。実例となる実施形態を下に示す。
本発明の範囲内の代表的甲状腺アンタゴニスト(抗血管新生性)を下に示す。
B.T4およびそのナノ粒子のポリマーコンジュゲート合成
T4分子内には3つの官能基(1つのカルボン酸基、1つのアミン基および1つのヒドロキシル基)が存在する。
T4/ポリマーコンジュゲートを合成するための反応部位は、これら3つのうちのいずれか1つであり得る。
1)カルボン酸基を用いる。酸基を活性化し、ヒドロキシルおよびアミン基と反応させて、エステルおよびアミドを形成することができる。T4内のアミン基は反応性が高いため、コンジュゲーション反応前のそのアミン基を保護し、その後、脱保護を行わなければならない。そうしなければ、自己重合によりT4オリゴマーが形成されるであろう。候補ポリマーとしては、PVA、PEG−NH2、ポリ(リシン)および関連ポリマーが挙げられる。合成経路のスキームをスケッチ1Bに示す。
2)アミン基を用いる。このアミン基は、活性化カルボン酸を有するまたはハロゲン基を有するポリマーと反応することができる。ポリマーが、大量の過剰な活性化酸基を有する場合、反応は直接遂行し得る。ポリ(メタクリル酸)およびポリ(アクリル酸)は、このようにして用いることができる。スキームをスケッチ2Bに示す。
3)ヒドロキシル基を用いる。反応性がより高いアミン基の存在のため、カルボン酸を有するポリマーとT4の直接反応は難しい。このアミン基は、反応前に保護し、コンジュゲーション反応後に脱保護しなければならない。一般的な保護基は、酢酸(Ac)基またはBOC基であり得る。スキームをスケッチ3Bに示す。
スケッチ1B:カルボン酸基によるT4/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
スケッチ2B:アミン基によるT4/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
スケッチ3B:ヒドロキシル基によるT4/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
本明細書に記載するT4ポリマーコンジュゲート、ナノポリマーおよびナノ粒子は、動脈瘤、外科手術(歯科、血管または一般外科手術含む)、心臓発作(例えば、急性心筋梗塞)をはじめとする(しかし、これらに限定されない)様々な適応において、装置、例えば除細動器および他の手段、局所適用、例えば軟膏、クリーム、スプレーまたはシート(例えば、皮膚に当てるためのもの)を用いて送達するために使用することができ、または心筋梗塞、卒中もしくは末梢動脈疾患患者における持続局所送達のためにステントもしくは他の医療器具上に固定し、組織部位に移植して、数週間から数ヶ月にわたる長期期間にわたって側副動脈形成を達成することができる。
C.GC−1およびそのナノ粒子のポリマーコンジュゲートの合成
GC−1分子内には2つの官能基(1つのカルボン酸基および1つのヒドロキシル基)が存在する。GC−1/ポリマーコンジュゲートを合成するための反応部位は、これら2つのうちのいずれか1つであり得る。
1)カルボン酸基を用いる。酸基を活性化し、ヒドロキシルおよびアミン基と反応させて、エステルおよびアミドを形成することができる。候補ポリマーとしては、PVA、PEG−NH2、ポリ(リシン)、ポリ(アルギニン)および関連ポリマーが挙げられる。合成経路のスキームをスケッチ1Cに示す。
2)ヒドロキシル基を用いる。スキームをスケッチ2Cに示す。
スケッチ1C:カルボン酸基によるGC−1/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
スケッチ2C:ヒドロキシル基によるGC−1/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
D.TETRACおよびそのナノ粒子のポリマーコンジュゲート合成
TETRAC分子内には2つの官能基(1つのカルボン酸基および1つのヒドロキシル基)が存在する。TETRAC/ポリマーコンジュゲートの合成のための反応部位は、これら3つのうちのいずれか1つであり得る。
1)カルボン酸基を用いる。酸基を活性化し、ヒドロキシルおよびアミン基と反応させて、エステルおよびアミドを形成することができる。候補ポリマーとしては、PVA、PEG−NH2、ポリ(リシン)および関連ポリマーが挙げられる。合成経路のスキームをスケッチ1Dに示す。
2)ヒドロキシル基を用いるスキームをスケッチ2Dに示す。
スケッチ1D:カルボン酸基によるTETRAC/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
スケッチ2D:ヒドロキシル基によるTETRAC/ポリマーコンジュゲート合成経路のスキーム
尚、さらに、本発明の組成物は、甲状腺ホルモン結合タンパク質トランスサイレチン(「TTR」)およびレチノイン酸結合タンパク質(「RBP」)に結合するレチノール(例えば、レチノイン酸(すなわち、ビタミンA))にコンジュゲートさせた甲状腺ホルモン類似体を含む。アミロイド斑の検出および抑制において使用するために、甲状腺ホルモン類似体を単独でまたはレチノイン酸との組み合わせでハロゲン化スチルベストロールにコンジュゲートさせることもできる。これらの類似体は、T4−TTRの有利な特性、すなわち、脳およびアミロイドに迅速に取り込まれ、そこに長期停留する特性と、フッ素−18、ヨウ素−123、ヨウ素−124、ヨウ素−131、臭素−75、臭−76および臭素−82をはじめとするPETイメージングのための一定の有用なハロゲン同位元素を含むハロゲン置換基とを併せ持つ。下記は、レチノールおよびハロゲン化スチルベストロールにコンジュゲートさせた甲状腺ホルモン類似体の代表例である。
E.レチノイン酸類似体
レチノイン酸とコンジュゲートさせた甲状腺ホルモン類似体
ナノ粒子
さらに、ナノスケールのサイズを有する有用な材料および構造を作るためにナノテクノロジーを用いることができる。生物活性物質に伴う1つの欠点は、脆弱性である。ナノスケール材料をそうした生物活性物質と併用して、その物質の耐久性を劇的に向上させることができ、その物質の局所的高濃度を作ることができ、および損失を最小限にすることにより費用を減少させることができる。従って、追加のポリマーコンジュゲーションとしては、甲状腺ホルモンおよびその類似体のナノ粒子製剤が挙げられる。そうした実施形態では、ナノポリマーおよびナノ粒子を甲状腺ホルモンおよびその類似体の局所送達のためのマトリックスとして使用することができる。これは、細胞および組織ターゲットへの時間制御送達を助長する。
本発明は、疎水性抗酸化物質、抗炎症薬および抗血管新生化合物を含有する、甲状腺ホルモン類似体のナノ粒子製剤を提供する。本発明は、捕捉された薬物の放出を制御することができるような徐放性で長期残留性の眼科用製剤およびその調製プロセスも提供する。
細胞内に出入りできず、それ故、その活動がインテグリン受容体に限定されるに違いない、ナノ粒子甲状腺ホルモン類似体(T4、T3、GC−1、DITPAおよびTETRAC)は、本発明の範囲内である。前記ナノ粒子ホルモン類似体は、ポリリシルグリコール酸(PLGA)誘導体、エステルまたはより安定なエーテル結合型製剤いずれか、であり得る。アガロース−T4は、インテグリン受容体に対して十分に活性であることを本発明者らが証明した、ナノ粒子のモデルである。この再処方されたホルモン類似体は、そのホルモンの細胞内作用を発現しないであろうし、従って、循環血流に吸収されたとしても全身性甲状腺ホルモン類似体作用を有さないであろう。
ここで用いる場合、用語「ナノ粒子」は、直径約1nmと約1000nm未満の間の粒子を指す。適する実施形態において、本発明のナノ粒子の直径は、直径500nm未満、およびさらに適切には、直径約250nm未満であろう。一定のそうした実施形態において、本発明のナノ粒子は、約10nmと約200nmの間、約30nmと約100nmの間、または約40nmと約80nmの間であろう。任意の数値を指すときにここで用いる場合の「約」は、述べられている値の±10%の値を意味する(例えば、「約100nm」は、90nmから110nm(両端の値を含む)の直径範囲を包含する)。
本発明に従って、多数の甲状腺ホルモン類似体またはポリマーコンジュゲートにコンジュゲートさせたナノ粒子を含む、ナノ粒子コンジュゲートを提供する。ナノ粒子の主成分であり得る甲状腺ホルモン類似体としては、T3、T4、DITPA、GC−1およびTETRACが挙げられるが、これらに限定されない。ナノ粒子形成において重要な要素は、甲状腺ホルモン分子とナノ粒子の間の連結架橋である。甲状腺ホルモン類似体は、甲状腺ホルモン類似体分子のアルコール部分によってエーテル(−O−)結合またはスルフヒドリル結合(−S−)によりナノ粒子にコンジュゲートされる。甲状腺ホルモン類似体分子のCOOH部分によるコンジュゲーションよりアルコール部分によるコンジュゲーションのほうが大きな活性を有する。甲状腺ホルモン類似体、例えばT3およびT4、のNH2基を保護基(R基)でブロックすることもできる。本発明の範囲内の適するR基としては、BOC、アセチル、メチル、エチルまたはイソプロピルが挙げられる。未修飾のT4の場合、R=H。加えて、甲状腺ホルモンが、NH2に保護基を有するT4またはT3であるとき、T4またはT3のNH2の適する保護基としては、N−メチル、N−エチル、N−トリフェニル、N−プロピル、N−イソプロピル、N−t−ブチルおよび他の官能基を挙げることができる。
ナノ粒子は、約1から<1000nmの範囲の直径を有し得る。本発明のナノ粒子は、ナノ粒子1個あたり約100個以下の甲状腺ホルモン類似体分子を有することができる。甲状腺ホルモン分子のナノ粒子あたりの比は、甲状腺ホルモン分子1個/ナノ粒子1個の比(1:1とも示す)から甲状腺ホルモン分子100個/ナノ粒子1個に対する比(100:1とも示す)までの範囲である。さらに好ましくは、この範囲は、15:1〜30:1の甲状腺ホルモン類似体分子/ナノ粒子、およびさらに好ましくは、20:1〜25:1の甲状腺ホルモン分子/ナノ粒子である。
本発明の範囲内の適するナノ粒子としては、T4、T3、DITPA、GC−1またはTETRACとコンジュゲートしたPEG−PLGAナノ粒子が挙げられる。加えて、テモゾロミドをPLGAナノ粒子に封入することができる。ナノ粒子の主要な利点の1つは、多数の封入材料をすべて一緒に共封入する能力である。そのため、これらのPLGAナノ粒子は、T4、T3、DITPA、GC−1またはTETRACとテモゾロミドとをすべて一緒に共封入する非凡な素質も有する。さらに、ナノ粒子の表面の遊離−COOH基の存在のため、これらのナノ粒子は、異なるターゲティング部分にコンジュゲートさせることができ、所望の部位に送達することができる。予備的研究において、本発明者らは、腫瘍特異的部位指向型送達用のナノ粒子に取り付けた特異的抗体を使用して、幾つかの細胞系統にターゲティングにすることができた。本発明の範囲内のナノ粒子の追加の実施形態としては、リン酸カルシウムを含有するナノ粒子にコンジュゲートさせたT4、T3、DTIPA、GC−1またはTETRACコラーゲン;安定なエーテル結合によりモノまたはジPEGOHとコンジュゲートしたT4、T3、DTIPA、GC−1またはTETRACが挙げられる。
さらに、本ナノ粒子は、ナノ粒子の内部に甲状腺ホルモンアゴニスト、部分アゴニストまたはアンタゴニストを封入するか、化学的連結によってナノ粒子のセル表面に固定化する。本発明の範囲内のナノ粒子の代表的実施形態を下に図示する。
A.TRアゴニストおよびアンタゴニストのナノ粒子
エステル結合によりナノ粒子にコンジュゲートさせたTRアゴニストまたはアンタゴニスト
安定なエーテル結合によってモノまたはジPEGOHとコンジュゲートしたTRアゴニストまたはアンタゴニスト
もう1つの適するナノ粒子の実施形態は、PEG−PLGAナノ粒子にコンジュゲートしたTRアゴニストの作製である。空のナノ粒子を先ず作製する。そのナノ粒子を作製するためにアミノ−PEG−PLGAポリマーを選択する。エピクロロヒドリンを使用することにより、TH類似体を活性化する。このエポキシ活性化THアゴニストは、末端にアミノ基を有するPEG−PLGAナノ粒子と容易に反応するであろう。
B.T4ナノ粒子
本発明のナノ粒子の範囲内のもう1つの適する実施形態としては、下に示すような、安定なエーテル結合によってモノまたはジPEG−OHに固定化されたT4が挙げられる。
C.GC−1ナノ粒子
本発明の範囲内のナノ粒子の代表的な実施形態としては、下に示すような、エステル結合によってコンジュゲートさせたPEG−PLGAナノ粒子へのGC−1の封入も挙げられる。
本発明の範囲内のナノ粒子のもう1つの適する実施形態としては、下に示すような、安定なエーテル結合によってモノまたはジPEGOHとコンジュゲートさせたGC−1が挙げられる。
本発明の範囲内のナノ粒子のもう1つの適する実施形態としては、PEG−PLGAナノ粒子にコンジュゲートさせたGC−1が挙げられる。この場合、空のナノ粒子を先ず作製する。これらのナノ粒子を作製するためにアミノ−PEG−PLGAポリマーを選択する。エピクロロヒドリンを使用することによりGC−1を活性化する。下に示すように、この活性化GC−1は、末端にアミノ基を有するPEG−PLGAナノ粒子と容易に反応するであろう。
ナノ粒子に封入または固定化された追加のGC−1類似体を下に示す。
GC−1の新たな類似体
D.TETRACナノ粒子
本発明の範囲内の代表的なTETRACナノ粒子を下に示す。
PVAでコーティングされたTETRACドープPLGAナノ粒子を合成し、特性付けした。ナノ粒子の幾つかのセットをTETRACの最適な負荷について調査した。空のナノ粒子およびTETRACをドープしたナノ粒子のサイズおよびゼータ電位も調査した。Tween−80でコーティングした、TETRACをドープしたナノ粒子と空のナノ粒子の間にサイズおよびゼータ電位に関する有意差は見出されなかった。TETRACをドープしたナノ粒子の場合、ナノ粒子の平均サイズがわずかに増加する(空のもの〜178nm、TETRACをドープしたもの〜193nm)。HPLCによってナノ粒子内部のTETRACの量を決定した。TETRACの濃度は、540ug/(ナノ粒子1mL)であることが判明した。
PLGA/PVA−TETRACナノ粒子
安定剤としてポリビニルアルコール(PVA)を使用してシングルエマルジョン法によりTween80でコーティングされたPLGAナノ粒子を作製した。動的光散乱を用いることにより、ナノ粒子のサイズを決定した。HPLCを用いることにより、それらのナノ粒子に封入されたTETRACの量を決定した。
下記は、エステル結合によりナノ粒子にコンジュゲートさせたTETRACの追加の表示である。
下記は、安定なエーテル結合によるモノまたはジPEGOHとのTETRACコンジュゲートの適する実施形態である。
E.T3ナノ粒子
もう1つの適する実施形態は、PEG−PLGAナノ粒子にコンジュゲートさせたT3の作製である。このコンジュゲーションは、GC−1のコンジュゲーションに類似している。この場合のみ、酢酸(Ac)基またはBOC基のいずれかを使用することにより、T3中に存在する高反応性アミンを先ずブロックする。その後、それをエピクロロヒドリンで活性化する。最後に、T3へのコンジュゲーション後、下に示すように、それを脱保護する。
酢酸(Ac)またはBOCでのアミン基の保護
F.DITPA
追加の安定なナノ粒子実施形態としては、下に示すようなDITPAが挙げられる。
DITPA−3,5−ヨウ素は、メチルまたはハロゲン基によって置換されている場合がある。
甲状腺ホルモン類似体の使用
本発明の甲状腺ホルモン類似体は、T3、T4、GC−1、DITPA、TETRAC、TRIACならびにそれらのコンジュゲートおよびナノ粒子である。T3、T4、GC−1およびDITPAならびにそれらのコンジュゲートおよびナノ粒子としてのものは、血管新生促進性であり、本明細書では甲状腺ホルモンアゴニストとも呼ぶ。TETRACおよびTRIACならびにそれらのコンジュゲートおよびナノ粒子としてのものは、抗血管新生性および抗増殖性であり、本明細書では甲状腺ホルモンアンタゴニストとも呼ぶ。
本発明の甲状腺ホルモン類似体は、皮膚の疾患を治療するために使用することができる。これらの疾患としては、創傷治癒、非癌性皮膚状態および癌性皮膚状態が挙げられる。創傷治癒は、外科手術切開および外傷性損傷を包含する。未修飾のものとナノ粒子としてのもの両方のT3、T4、GC−1およびDITPAを創傷治癒に用いることができる。これらの甲状腺ホルモン類似体は、血管新生により、ならびに創傷領域への線維芽細胞および白血球移動を増進することにより作用する。加えて、修飾されたおよびナノ粒子としてのT4は、早期創傷治癒に適切な血小板凝集活性を有する。T3、T4、GC−1およびDITPAナノ粒子の作用は、細胞表面に限定される。それらは細胞に侵入しないので、局所適用部位からもれたとしても全身性副作用の発生は回避される。これらの細胞内全身性副作用の例としては、軽度甲状腺機能亢進状態および特に下垂体甲状腺刺激細胞での甲状腺刺激ホルモン(TSH)放出の抑制が挙げられる。本発明の組成物、特にTETRAC、TRIACおよび他の抗血管新生性および抗増殖性甲状腺ホルモン類似体(未修飾のものとナノ粒子またはポリマーコンジュゲートとしてのもの両方)によって治療することができる非癌性皮膚疾患としては、酒さ、血管腫、毛細血管拡張症、シバット多形皮膚萎縮症、および乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物によって治療することができる癌性皮膚疾患の例は、基底細胞癌、皮膚の扁平上皮癌および黒色腫である。こうした目的で使用される組成物は、未修飾のものとナノ粒子またはポリマーコンジュゲートとしてのもの両方の、TETRAC、TRIACならびに他の抗血管新生性および抗増殖性甲状腺ホルモン類似体である。皮膚疾患には、本発明の組成物を、溶液、スプレー、ガーゼパットまたは合成シートに組み込んだものなどの局所皮膚適用品として投与することができる。
TETRAC、ナノ粒子に封入または固定化されたTETRACおよび類似体をはじめとする本発明の組成物によって治療することができる非癌性皮膚疾患としては、酒さ、血管腫、毛細血管拡張症、多形皮膚萎縮症、乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。皮膚疾患には、本発明の組成物を局所皮膚用品(例えば、溶液、スプレー、またはパッドもしくは他の合成シートに組み込んだもの)として投与することができる。
未修飾のものとナノ粒子またはポリマーコンジュゲートとしてのもの両方の、TETRAC、TRIACならびに他の抗増殖性および抗血管新生性甲状腺ホルモン類似体をはじめとする、本発明の甲状腺ホルモンは、皮膚に加えて、器官の癌を治療するために使用することともできる。これらの癌としては、神経膠腫および神経膠細胞芽腫、非甲状腺性頭頚部腫瘍、甲状腺癌、肺癌、乳癌および卵巣癌が挙げられるが、これらに限定されない。全身または局所投与される、TETRACおよびTRIACナノ粒子またはポリマーコンジュゲートは、細胞の内部に出入りせず、もっぱら甲状腺ホルモンの細胞表面インテグリン受容体で作用する。本製剤のこの特質は、甲状腺機能亢進および下垂体甲状腺刺激細胞による甲状腺刺激ホルモン(TSH)放出の抑制をはじめとする、未修飾のTETRACおよびTRIACの望ましくない甲状腺様副作用を排除する。TETRACは、約200〜2000ug/日または約700ug/m2以下の用量で投与することができる。
TETRAC、TRIAC、類似体、他の甲状腺アンタゴニスト、ならびにそれらのポリマーコンジュゲートおよびナノ粒子をはじめとする本発明の甲状腺ホルモン類似体は、神経膠腫、頭頚部癌、皮膚癌、肺癌、乳癌および甲状腺癌を含む(しかし、これらに限定されない)癌を治療するために使用することもできる。この実施形態において、TETRACは、ナノ粒子とともにまたは無しで投与することができる。TETRACナノ粒子は、細胞に侵入することができないので、甲状腺機能亢進の危険を低下させる。甲状腺癌の場合、TETRACとTETRACナノ粒子の両方が同時投与されるか、ナノ粒子に封入されたおよび/または安定な化学結合によりナノ粒子表面に固定化されたTETRACが投与される。TETRACまたはTETRACナノ粒子は、約0.001から10mg/kgの用量で投与することができる。
TETRAC、TRIAC、類似体、甲状腺アンタゴニストならびにそれらのポリマーコンジュゲートおよびナノ粒子をはじめとする本発明の甲状腺ホルモン類似体は、糖尿病性網膜症および黄斑変性をはじめとする眼疾患を治療するために使用することもできる。未修飾の、ポリマーコンジュゲートとしての、またはナノ粒子としてのTETRACおよび類似体を全身的にまたは点眼剤として投与することができる。
T3、T4、GC−1、DITAPならびにそれらのポリマーコンジュゲートおよびナノ粒子をはじめとする本発明の甲状腺ホルモン類似体は、冠動脈または頚動脈疾患、虚血性肢疾患、虚血性腸疾患を含むアテローム硬化症を治療するために使用することもできる。好ましい実施形態は、ポリL−アルギニンもしくはポリL−リシンを伴うT3、GC−1、DITPAポリマー形、またはそれらのナノ粒子である。加えて、本発明の組成物は、生体分解性および非生体分解性ステントまたは他のマトリックスと併用することができる。
本発明の甲状腺ホルモン類似体は、細胞移動を伴う疾患、例えば、グリアニューロンを伴う疾患、および強化されたNGFを伴う疾患を治療するために投与することもできる。加えて、本発明の甲状腺ホルモン類似体は、造血細胞および幹細胞関連疾患のために使用することができる。細胞がより早く再生するように、骨髄移植時にそれらを投与してもよい。本組成物は、125ヨウ素標識TETRACナノ粒子を使用することによるアルツハイマー病のイメージングをはじめとする画像診断法のために使用することもできる。アルツハイマー斑は、TETRACに結合するトランスサイレチンを有するので、これを早期検出に利用することができる。本発明の組成物は、除細動器と併用で、西ナイルおよびHIVなどのウイルス因子の治療のために使用することができる。
血管新生の促進と抑制の両方における本組成物についての使用の詳細を下で詳細に説明する。
血管新生の促進
甲状腺ホルモン類似体、それらのポリマー形またはナノ粒子の血管新生促進効果は、MAPKシグナル伝達経路の薬理学的阻害剤による前記ホルモン効果の減少のしやすさによって試験したところ、非ゲノム的な開始に依存する。こうした結果は、甲状腺ホルモンによるMAPKの活性化のもう1つの帰結が新たな血管の成長であることを示している。後者は、非ゲノム的に開始されるが、勿論、その結果の複雑なゲノム転写プログラムを必要とする。甲状腺ホルモンの周囲濃度は、比較的安定している。本発明者らが試験した時点で、CAMモデルは、甲状腺欠損状態であり、それ故、無損傷の生体を再生しない系と見なすことができる。
血管新生にニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイを利用できることにより、血管新生を定量するためのおよび新たな血管の成長の甲状腺ホルモンによる誘導に関与する可能性のあるメカニズムを研究するためのモデルが得られた。本出願は、FGF2のCAMモデルにおけるものと近似しており、最適下用量のFGF2の作用を強化することができる、T4の血管新生促進効果を開示する。このホルモンの血管新生促進効果が、原形質膜で開始され、MAPKシグナル伝達経路のT4による活性化に依存することを、さらに開示する。上で提供したような、閉塞性末梢血管疾患および冠疾患、特に冠血管閉塞、ならびに末梢血管系および/または冠血管の閉塞に関連した疾患の治療方法を開示する。その必要がある患者において血管新生を促進する、および/または側副血管を動員するための組成物および方法も開示する。これらの組成物は、有効量の甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体を含む。これらの方法は、有効量の甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体を、低い日用量で、1週間以上にわたって、他の標準的な血管新生促進増殖因子、血管拡張薬、血液凝固阻止薬、血栓溶解薬または他の血管関連治療薬とともに同時投与することを含む。
血管新生を促進すると考えられている様々な増殖因子および化合物の血管新生活性を評価するためにCAMアッセイを用いた。例えば、生理濃度のT4は、このインビトロモデルにおいて血管新生促進性であり、モルベースでFGF2の活性を有することが明らかになった。PTUの存在は、T4の効果を減少させず、これは、T3を生成するためのT4の脱ヨード化がこのモデルでは前提条件でないことを示していた。様々な甲状腺ホルモン類似体の血管新生促進効果の概要を下の表に列挙する。
このモデルにおける新たな血管の出現は数日を必要とし、これは、この甲状腺ホルモンの効果が、甲状腺ホルモン(TR)の核受容体とこのホルモンとの相互作用に完全に依存することを示していた。TRとその天然リガンド、T
3との核内複合体形成を必要とするヨードチロニンの作用は、定義上、ゲノム性であり、結果として遺伝子発現を生じさせる。一方、このモデル系の−T
3、TRの天然リガンド、ではなく−T
4への優先的応答は、血管新生が、T
4により原形質膜において非ゲノム的に開始され、結果として、遺伝子転写を必要とする作用を生じさせる可能性を高める。T
4の非ゲノム性作用は、広範に説明されており、通常、原形質膜で開始され、シグナル伝達経路によって媒介され得る。それらは、ヨードチロニンおよびTRの核内リガンドを必要とせず、遺伝子転写に干渉または遺伝子転写を修飾し得る。ステロイドの非ゲノム性作用も十分に説明されており、ステロイドまたは他の化合物のゲノム作用に干渉することが知られている。T
4およびTETRACを用いて、またはアガロース−T
4を用いて行われた実験は、T
4の血管新生促進効果が、原形質膜で開始される可能性が現実に非常に高いことを示した。TETRACは、T
4の膜で開始される効果を遮断するが、それ自体は、シグナル伝達を活性化しない。従って、それは、甲状腺ホルモンの非ゲノム性作用のプローブである。アガロース−T
4は、細胞内部に出入りしないと考えられるが、このホルモンの可能性のある細胞表面開始作用のモデルを試験するために使用されている。ニワトリ漿尿膜(「CAM」)モデルにおける甲状腺ホルモンの血管新生促進作用の調査は、既存の血管からの新たな血管の産生が、10
−7M〜10
−9MのL−チロキシン(T
4)または3,5,3’−トリヨード−L−チロニン(T
3)のいずれかにより2から3倍促進されたことを明示している。さらに興味深いことに、T
4−アガロース、細胞膜を横断しない甲状腺ホルモン類似体、は、T
3またはT
4で得られるものと同等の強力な血管新生促進効果を生じさせた。
一部で、本発明は、その必要がある被験体において血管新生を促進するための組成物および方法を提供する。血管新生を促進することによって治療できる状態としては、例えば、閉塞性末梢血管疾患および冠疾患、特に冠血管の閉塞、ならびに末梢血管系および/または冠血管の閉塞に関連した疾患、勃起機能不全、卒中、ならびに創傷が挙げられる。その必要がある患者において血管新生を促進するおよび/または副側血管を動員するための組成物および方法も開示する。これらの組成物は、有効量のポリマー形の甲状腺ホルモン類似体および誘導体ならびに有効量のアデノシンおよび/または一酸化窒素供与体を含む。これらの組成物は、1つ以上の賦形剤を場合によっては伴う生理的および医薬的に許容される担体中の血管新生に有効な量の甲状腺ホルモン様物質およびアデノシン誘導体を含む、滅菌注射用医薬製剤の形態であり得る。
心筋梗塞
急性心筋梗塞後の心不全の主な理由は、新たな血管の形成、すなわち血管新生、の不適当な応答である。甲状腺ホルモンおよびその類似体は、心不全の際に有益であり、冠血管新生を刺激する。一部で、本発明の方法は、梗塞時の甲状腺ホルモン類似体の単回治療薬の送達を含み、これは、心筋への直接注射によるか、または断続的に大動脈を結紮して一時的な等容性収縮を生じさせることによる血管新生および/または心室リモデリングを達成するための冠動脈注射のシミュレーションによる。
従って、1つの態様において、本発明は、血管新生の促進に有効な量のポリマー形の甲状腺ホルモンまたはその類似体をその必要がある被験体に投与することによる、血管新生の促進により閉塞性血管疾患、冠疾患、心筋梗塞、虚血、卒中、および/または末梢動脈疾患を治療するための方法を特徴とする。
ポリマー形の甲状腺ホルモン類似体の例も本明細書の中で提供しており、それらとしては、ポリビニルアルコール、アクリル酸エチレンコポリマー、ポリ乳酸、ポリL−アルギニン、ポリ−リシンにコンジュゲートさせたトリヨードチロニン(T3)、レボチロキシン(T4)、(GC−1)または3,5−ジヨードサイロプロピオン酸(DITPA)を挙げることができる。
前記方法は、有効量の甲状腺ホルモン様物質と有効量のアデノシンおよび/またはNO供与体を低い日用量で1週間以上、同時投与することも含む。一方または両方の成分をカテーテルにより局所送達することができる。甲状腺ホルモン類似体および誘導体は、適切なサイズのナノ粒子にそれらの化合物を組み込むことにより、虚血組織周囲の毛細血管床にインビボで送達することができる。甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体は、適する抗体との共有結合性連結により、虚血組織にターゲティングすることができる。
前記方法は、心筋梗塞後に心機能を回復させるための治療として用いることができる。前記方法は、心筋虚血、または心臓以外の領域への不適当な血流(例えば、閉塞性末梢血管疾患(末梢動脈閉塞性疾患としても知られている)もしくは勃起機能不全を含む)に苦しんでいる冠動脈疾患患者において血流を改善するためにも用いることができる。
創傷治癒
インテグリン受容体で開始される、インビボでの創傷治癒に関係がある甲状腺ホルモンの作用は、血小板凝集、血管新生および線維芽細胞移入である。甲状腺ホルモンは、白血球の移入も増進させることができる。
創傷血管新生は、治癒の増殖期の重要部分である。大部分の表在性創傷以外のいずれの皮膚創傷の治癒も、血管新生なしには起こり得ない。いずれの損傷血管も修復を必要とするばかりでなく、治癒に必要な局所細胞活性増加には血流からの栄養の供給増加が必要である。さらに、血管の内層を形成する内皮細胞は、それら自体が形成体および治癒の調節因子として重要である。
従って、血管新生は、創傷治癒を支援するために新たな微小血管を生じさせる。これらの新たな血管は、臨床的には、損傷後4日までに創傷空間内で見えるようになる。血管内皮細胞、線維芽細胞、および平滑筋細胞はすべて、創傷肉芽形成を支援するように協調して増殖する。同時に、再び上皮形成が発生して、上皮カバーを再建する。創縁からのまたは毛包深部からの上皮細胞は、創傷を横断して移動し、肉芽組織および暫定的マトリックス上に定着する。表皮細胞増殖因子(KGF)などの増殖因子がこのプロセスを媒介する。上皮形成の幾つかのモデル(スライディングセル対ローリングセル)が存在する。
甲状腺ホルモンは、代謝率を調節するので、甲状腺機能低下のために代謝速度が落ちると、創傷治癒速度も落ちる。従って、創傷治癒における局所塗布甲状腺ホルモン類似体またはポリマー形の役割は、創傷治癒能力が損なわれた糖尿病患者および非糖尿病患者において創傷治癒を促進する新規戦略に相当する。局所投与は、絆創膏への付着物の形態である場合もある。加えて、ナノポリマーおよびナノ粒子は、甲状腺ホルモンおよびその類似体の局所送達用のマトリックスとして使用することができる。これは、細胞および組織ターゲットへの時間制御送達を助長するであろう。
従って、本発明のもう1つの実施形態は、血管新生の促進に有効な量のポリマーまたはナノ粒子形の甲状腺ホルモンまたはその類似体をその必要がある被験体に投与することによる、血管新生の促進により創傷を治療する方法を特徴とする。詳細については、実施例9Aおよび9Bを参照のこと。
ナノ粒子の場合、PLGA製剤としてのT4は、ガーゼパッドまたは吸収もしくは合成フィルムによって外科手術性または外傷性創傷に局所適用されたとき、上で説明したメカニズムによって創傷治癒を増進するであろう。小さな皮膚創傷または擦過傷のために、誘導体化T4をOTCガーゼパッドまたはフィルムでの臨床使用に利用できるようにすることができる。
PLGA製剤としてのT4は、ガーゼパッドまたは吸収もしくは合成フィルムによって皮膚潰瘍に局所適用されたとき、上で説明したメカニズムによって創傷治癒を増進するであろう。ナノ粒子T3は、血小板凝集を生じさせないので、これらの用途にはあまり望ましくない。
追加の創傷治癒用途としては、生検後放射線誘導炎症に対する使用、内部出血を抑制するためのGI管潰瘍形成に対する使用、抗凝結療法での歯科患者に対する抜歯後の使用をはじめとする、粘膜関連疾患に対する使用が挙げられる。これらの用途については、ナノ粒子またはポリマーコンジュゲートを用いることができる。
眼科用
本発明は、感熱性、粘膜接着性、および小さな粒径(10<1000nm)を有する甲状腺ホルモン類似体の持続放出性で長期残留性の眼科用製剤にも関する。前記製剤は、疎水性または親水性甲状腺ホルモンアンタゴニストを有するランダムブロックコポリマーのミセル溶液を含む。本発明は、点眼剤または眼軟膏での異なる粒径および異なる表面電荷(陽性、陰性または中性)を有する前記製剤の作製プロセスも提供する。
大部分の眼病は、点眼剤または眼軟膏として投与される溶液の局所適用で治療される。眼科薬の局所送達で遭遇する主な問題の1つは、流涙および高い涙液ターンオーバーに起因する急速で大量の角膜前喪失である。点眼剤の滴下後、一般に、適用薬物の2〜3%未満は、角膜に浸透し、眼内組織に到達するが、滴下された用量の大部分は、多くの場合、結膜および鼻涙管によって全身吸収される。もう1つの制限は、目への吸収を制限する比較的不透過性の角膜バリアである。
従来の点眼剤に随伴する固有の問題のため、ヒドロゲル、マイクロおよびナノ粒子、リポソームならびにコラーゲンシールドなどの眼科投与用の新規薬物送達システムに向けて有意な努力がなされている。眼部薬物送達は、眼内のターゲット組織への薬物の送達の制御および最終的には最適化へのアプローチである。製剤努力の大部分は、角膜および結膜嚢内での薬物残留時間の延長によって眼薬の吸収を最大にすること、ならびにその送達系からの薬物放出を遅速させること、および視界をかすませる作用があるゲルを使用することなく角膜前薬物喪失を最小にすることを目指すものである。
眼科用製剤での大量のゲルの使用によるかすみ目および乏しい生物学的利用能の問題を克服するために、コロイド状担体はより良好な効果を有することが提案された。眼部送達用の薬物担体としてのナノ粒子は、リポソームより有効であることが判明し、リポソームのすべての肯定点に加えて、これらのナノ粒子は、非常に安定な実体であり、薬物の持続放出を調整することができる。
眼科薬のためのコポリマー材料の使用は、研究されており、コポリマーミセルの疎水性コアに疎水性薬物を組み込む試みは、特に注目に値する。これらの製剤の医薬的効能は、使用されるコポリマー材料および化合物の具体的な性質および特性に依存する。さらに、角膜表面での薬物のこの長い残留時間および持続放出は、他の生体適合性製剤では達成されていない。
ニューロン用
神経誘導に対する伝統的な知識とは対照的に、本発明は、血管新生を開始させ、維持するメカニズムが、神経新生の有効な促進因子および持続因子であるという予想外の発見に、一部、基づく。これらの方法および組成物は、例えば、外傷、損傷およびニューロン疾患における運動ニューロン損傷および神経障害の治療に有用である。本発明は、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでの様々な血管新生促進戦略の使用を開示する。血管新生促進因子としては、本明細書において説明するようなポリマー甲状腺ホルモン類似体が挙げられる。単独での、または当該技術分野において公知の他の血管新生促進増殖因子との、および神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体およびそのポリマーコンジュゲートを、最適な神経新生のために併用することができる。
死滅の危険があるニューロンの生存を増進すること、損傷したニューロンおよび神経経路の細胞修復を誘導すること、ならびにニューロンをそれらの分化表現型を維持するように刺激することを含む、哺乳動物において神経経路を維持するための治療的処置方法、組成物および器具を開示する。加えて、ポリマー甲状腺ホルモン類似体およびそれらの組み合わせを含有する組成物は、抗酸化物質および/または抗炎症薬の存在下で、ニューロン再生および保護を明示する。
本発明は、ニューロンの生存を増進し、神経経路を維持するための、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでの甲状腺ホルモン、類似体およびポリマーコンジュゲーションも提供する。本明細書に記載するように、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、ニューロンの生存を増進することができ、ニューロンのCAM発現を刺激することができ、分化ニューロンの表現型発現を維持することができ、神経起源の形質転換細胞の再分化を誘導することができ、および神経プロセスにおいて破断部、特に軸索内のギャップ、を覆う軸索成長を刺激することができる。モルフォゲンも、免疫関連神経組織損傷に随伴する組織破壊から保護する。最後に、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、哺乳動物において神経組織の生存度をモニターするための方法の一部として使用することができる。
本発明は、インビトロで機能性シナプス形成を推定するために1つの系を使用して、培養ラット皮質ニューロン間でのシナプス形成に対するポリマー甲状腺ホルモンの効果も提供する。10−9Mのポリマー甲状腺ホルモン、3,5,3’−トリヨードチロニンまたはチロキシンへの曝露は、形成されるシナプスの数と相関する、細胞内カルシウム濃度の自然同期的周期的変動の周波数の増加を生じさせた。免疫細胞化学的および免疫ブロット分析によるシナプス小胞関連タンパク質シナプシンIの検出により、チロキシンへの曝露がシナプス形成を助長することも確認された。アミオダロン(5’−脱ヨード酵素の阻害剤)またはアミトロース(除草薬)の存在は、チロキシンの存在下でのシナプス形成を阻害した。従って、本発明は、ポリマー甲状腺系を破壊することにより発達中のCNSにおけるシナプス形成に干渉し得る種々雑多な化学種をスクリーニングするための有用なインビトロシステムも提供する。
一般的な手法として、本発明の方法は、神経組織傷害または神経障害の危険があるまたはそれらに苦しめられている任意の哺乳動物被験体の治療に適用することができる。本発明は、任意の霊長類、好ましくは高等霊長類、例えばヒトの治療に適する。しかし、加えて、本発明は、ヒトの友として養われている飼いならされた哺乳動物(例えば、犬、猫、馬)、有意な商品価値を有するもの(例えば、山羊、豚、羊、畜牛、競技用動物または役畜)、有意な科学的価値を有するもの(例えば、絶滅の危機に瀕している種の捕獲もしくは自由試料、または同系交配させたもしくは操作された動物系)、または別様に価値を有するものの治療に利用することができる。
本明細書に記載する単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、細胞生存、特に、死滅する危険のあるニューロン細胞の生存を増進する。例えば、完全分化ニューロンは、当該技術分野において公知の化学合成培地または低血清培地を使用して標準的な哺乳動物細胞培養条件下で培養すると、非有糸分裂性であり、インビトロで死滅する。例えば、Charness,J.Biol.Chem.26:3164−3169(1986)およびFreeseら,Brain Res.521:254−264(1990)参照。しかし、非有糸分裂性ニューロン細胞の初代培養物を、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体で処理すると、これらの細胞の生存は、有意に増進される。例えば、標準的な手順を用いて、例えば、標準的な組織培養プロトコルを用いる黒質組織のパスツールピペットでの磨砕による溶解によって、成体ラットの脳の黒質から単離された線状体基底核の初代培養物を準備し、例えば、50% DMEM(ダルベッコの変性イーグル培地)、50% F−12培地、ペニシリン/ストレプトマイシンを補足した熱不活性化ウマ血清および4g/Lのグルコースを含有する、低血清培地中で増殖させた。標準培養条件下、無血清培地中で培養したとき、これらの細胞は、3週間までに有意な細胞死を被るであろう。細胞死は、細胞が接着したままでいることができないことによって、およびそれらの超微再構造特性の変化(例えば、クロマチン凝集およびオルガネラ崩壊)によって形態的に明示される。具体的に言うと、細胞は接着したままであり、生存可能な分化ニューロンの形態を維持し続ける。単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでの甲状腺類似体が不在の場合、大多数の培養細胞は解離し、細胞壊死を被る。
黒質の基底核の機能不全は、インビボではハンチントン舞踏病およびパーキンソン症候群に随伴する。本明細書において定義する単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体のニューロン生存を増進する能力は、これらの単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体が、例えば神経障害または化学的もしくは機械的外傷のためにインビボで死滅する危険があるニューロン細胞の生存を増進する療法の一部として有用であろう。本発明は、これらの単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体が、ハンチントン舞踏病およびパーキンソン病をはじめとする、線状体基底核に影響を及ぼす神経障害を治療するための有用な治療薬に相当することをさらに提供する。臨床用途のために、本単独でまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでポリマー甲状腺ホルモン類似体を投与することができ、または、代替として、単独でまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでポリマー甲状腺ホルモン類似体−刺激剤を投与することができる。
本明細書に記載する甲状腺ホルモン化合物は、化学的外傷から神経組織を保護するためにも使用することもできる。本明細書に記載する単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体がニューロン細胞の生存を増進するならびに再分化細胞において細胞凝集および細胞−−細胞接着を誘導する能力は、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体が、化学的外傷に起因する損傷から神経経路を保護することにより神経経路を維持する治療薬として有用であろうことを示す。特に、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、ニューロンの増殖および移動を阻害することならびに細胞−−細胞接着に干渉することが知られている毒素の作用からニューロン(発達中のニューロンを含む)を保護することができる。そうした毒素の例としては、エタノール;タバコの煙の中に存在する1つ以上の毒素;および様々なアヘン剤が挙げられる。発達中のニューロンに対するエタノールの毒性作用は、胎児アルコール症候群に現れる神経障害を誘導する。単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、グルタメートなどの興奮性アミノ酸に随伴する細胞傷害効果からニューロンを保護することもできる。
例えば、エタノールは、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体で処理したNG108−15細胞において誘導された細胞−−細胞接着効果を、これらの細胞に25〜50mMの濃度で供給したとき阻害する。5〜10mM(単一アルコール飲料の摂取後の成人における血中アルコール濃度)のエタノールによって最大阻害の半分を達成することができる。単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体によって誘導されるN−CAMレベルは、エタノールによる影響を受けないので、エタノールは、誘導ではなく細胞間のCAMの同種親和性結合に干渉する可能性が高い。さらに、この阻害効果は、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体の濃度に逆比例する。従って、エタノールなどの毒素への曝露による損傷の危険があるニューロン、特に、発達中のニューロンへの、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体あるいは単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体−刺激剤の投与は、その毒素の阻害効果に打ち勝つことにより、神経組織損傷からこれらの細胞を保護することができると予想される。本明細書に記載する単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、これらの毒素への曝露によって誘導された神経障害の結果として生ずる損傷神経経路を治療する療法においても有用である。
本明細書に記載する単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体のインビボ活性は、本明細書に記載するような動物モデルにおいても容易に利用することができる。適する動物、好ましくは、例えば遺伝的にまたは環境的に誘導された、神経組織損傷を示す動物、に、リン酸緩衝食塩水(pH7)などの適する治療用製剤中の有効量の単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体を脳内注射する。その単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、罹患ニューロン領域内に注射する。その後の時点で罹患組織を切除し、その組織を形態学的に、および/または適切なバイオマーカーの評価によって(例えば、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体あるいはN−CAMの局在定位によって;あるいは例えば、神経膠線維酸性タンパク質をマーカーとして使用して、CNS神経栄養活性またはCNS組織損傷についての生化学的マーカーに対する用量依存的効果を測定することによって)評価する。投薬量およびインキュベーション時間は、試験する動物によって変わるであろう。種々の種についての適する投薬量範囲は、確立された動物モデルとの比較によって決定することができる。ラット脳穿刺モデルについての例示的プロトコルを下に提示する。
簡単に言うと、標準的な市場の供給業者から得た雄Long Evansラットに麻酔し、頭部に外科手術の準備を施す。標準的な外科手術手順を用いて頭蓋冠を露出させ、その頭蓋冠をちょうど刺し通す0.035Kワイヤを使用してそれぞれの葉の中央に穴をあける。次に、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体(例えば、OP−1、25mg)あるいはPBSのいずれかを含有する25mLの溶液を、Hamilton注射器によってそれらの穴のそれぞれに供給する。溶液は、表面の下約3mmの深さに、下にある皮質、脳梁および海馬へと送達する。その後、皮膚を縫合し、動物を回復させる。
外科手術の3日後、断頭術によりラットを屠殺し、それらの脳を切出しのために処理する。神経膠線維酸性タンパク質(神経膠瘢痕化についてのマーカータンパク質)に免疫蛍光染色を施して瘢痕形成度を定性的に判定することにより、瘢痕組織形成を評価する。神経膠線維酸性タンパク質抗体は、例えばミズーリ州、セントルイスのSigma Chemical Co.から、市販されている。切片を抗OP−1抗体でもプローブして、OP−1の存在を判定する。単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体で治療した動物の組織切片では、神経膠線維酸性タンパク質レベルの減少が予想され、これは、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体が神経膠瘢痕形成を阻害し、神経再生を刺激する能力の証拠となる。
脳イメージング、診断、および神経変性疾患の療法
本発明は、例えばアルツハイマー病などの神経変性疾患の早期診断、予防および治療に有用な新規医薬品および放射性医薬品に関する。本発明は、生体系において特異的結合を有し、陽電子放射断層撮影(PET)、単一光子放射「SPECT」イメージング法、および磁気共鳴(MRI)イメージング法に使用することができる、新規化合物も含む。T4および他の甲状腺ホルモン類似体が体内の局在リガンドに結合できることが、PET、SPECT、MRIおよび同様のイメージング法による前記リガンドのインサイチューイメージングのためのそうした化合物の利用を可能にする。原則として、結合が発生するのであればリガンドの性質について知る必要はなく、そうした結合は、対象となる細胞、臓器、組織または受容体のクラスに特異的なものである。
PETイメージングは、陽電子放射性同位体で標識したトレーサー化合物を利用して遂行される(Goodman,M.M.Clinical Positron Emission Tomography,Mosby Yearbook,1992,K.F.Hubnerら,Chapter 14)。大部分の生体材料に適する同位元素は、ほんの少数である。炭素同位体、11Cは、PETに使用されているが、20.5分というその短い半減期により、その有用性は、短時間で合成および精製できる化合物に、および前駆体11C出発原料を生成するサイクロトロンに近い設備に限られる。N13は、10分の半減期を有し、O15は、さらに短い2分という半減期を有する。両方の放射は、11Cのものより高エネルギーである。それにもかかわらず、PET研究はこれらの同位体を用いて行われている(Hubner,K.F.,in Clinical Positron Emisson Tomography,Mosby Year Book,1992,K.F.Hubnerら,Chapter 2)。さらに有用な同位体、18Fは、110分の半減期を有する。これは、放射性標識トレーサーへの組み込みに、精製に、ならびにヒトおよび動物被験体への投与に十分な時間を与える。加えて、サイクロトロンからより遠隔(半径約200マイルまで)の施設が、18F標識化合物を使用できる。18Fの欠点は、天然生体材料と機能的同等性を有するフッ素化類似体の相対的不足、およびサイクロトロンで生成された出発原料を効率的に利用する合成方法を設計することの難しさである。そうした出発原料は、フッ化物イオンまたはフッ素ガスのいずれかであり得る。後者の場合、実際には二分子ガスの一方のフッ素原子のみが放射性核種であり、そのため、そのガスは、F−F18と表される。従って、出発原料としてF−F18を使用する反応は、出発原料としてK.F18を利用する反応の放射線核種発生量の二分の一しか有さない生成物をもたらす。一方、F18は、無担体求核置換反応を用いて高い比活性、理論的には1.7Ci/nmolで放射性医薬化合物に組み込むためにフッ化物イオンとしてキューリー量で作製することができる。F18のエネルギー放出は、0.635MeVであり、その結果、組織における比較的短い2.4mmの平均陽電子範囲が生じ、これが高分解能PETイメージングを可能にする。
SPECTイメージングは、高エネルギー光子を放射する同位体トレーサー(ガンマ放射体)を用いる。有用な同位体の範囲は、PETより大きいが、SPECTのほうが低い三次元分解能を提供する。それにもかかわらず、SPECTは、類似体の結合、局在およびクリアランス率についての臨床的に有意な情報を得るために幅広く用いられている。SPECTイメージングに有用な同位体は、13.3時間の半減期を有するI123α−ガンマ放射体である。I123で標識された化合物は、製造現場から約1000マイルまで出荷することができ、または現場で合成するためにこの同位体それ自体を輸送することができる。この同位体の放射の85パーセントは、現在用いられているSPECT機器によって容易に測定される159KeVの光子である。本発明の化合物は、テクネチウムで標識することができる。テクネチウム−99mは、SPECTイメージングに有用な放射性核種であることが知られている。本発明のT4類似体を炭素数4〜6の炭素鎖(これは、飽和している場合もあり、または二重もしくは三重結合を有する場合もある)によってTc−99m金属クラスターに連結させる。
PETにおけるF18標識化合物の使用は、少数の類似体化合物に限られている。最も著名なものとして、F18−フルオロデオキシグルコースは、グルコース代謝の研究および脳の活動に随伴するグルコース取り込みの局在性の研究の際に幅広く使用されている。F18−L−フルオロドパおよび他のドーパミン受容体類似体も、ドーパミン受容体分布をマッピングする際に使用されている。
他のハロゲン同位体がPETもしくはSPECTイメージング、または従来のトレーサー標識付けに役立つ場合もある。これらとしては、使用可能な半減期および放射特性を有する75Br、76Br、77Brおよび82Brが挙げられる。一般に、記載する同位体を任意のハロゲン部分で置換するための化学的手段が存在する。従って、安定な同位体ハロゲン同族体を含めて、記載する化合物の任意のハロゲン化同族体の生化学的または物理的活性を今や当業者は利用することができる。アスタチンを他のハロゲン同位体の代わりに用いることもできる。例えば、210Atは、8.3時間の半減期を有するアルファ粒子を放射する。他の同位体も相当有用な半減期を有するアルファ粒子を放射する。従って、At置換化合物は、脳治療に有用であり、この場合の結合は十分に脳特異的である。
非常に多くの研究により、悪性脳細胞への炭水化物およびアミノ酸の取り込み増加が立証されている。この蓄積は、そうした細胞の増殖およびタンパク質合成加速に関連している。グルコース類似体F18−2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(2FDG)は、高悪性脳と正常な脳組織または良性増殖とを識別するために使用されている(DiChiro,G.ら(1982)Neurology(NY)32:1323−1329)。しかし、フッ素−18標識2−FDGは、正常組織への高い取り込みが脳の存在を隠す場合があるため、低等級(grade)の脳の検出に選択される薬剤ではない。加えて、フッ素−18標識2−FDGは、感染組織および膀胱、それぞれへの2−FDG放射活性の高い取り込み量のため、肺脳と感染組織を識別するためのまたは卵巣癌を検出するための理想的な放射性医薬品ではない。炭素11で標識された天然アミノ酸メチオニンも、悪性組織と正常組織を識別するために使用されている。しかし、これも正常組織への比較的高い取り込み量を有する。さらに、炭素11の半減期は、たった20分である。従って、C11メチオニンは、長期間保管することができない。
脳脊髄液(「CSF」)トランスサイレチン(「TTR」)、ラットおよびヒトにおける主CSFチロキシン(T4)キャリヤータンパク質は、脈絡叢(「CP」)において合成される。ラットにおける124I−T4の注射後、放射活性T4は、先ずCPに、次にCSFに、そしてその後、脳に蓄積する(Chanoine JP,Braverman LE.The role of transthyretin in the transport of thyroid hormone to cerebrospinal fluid and brain.Acta Med Austriaca.1992;19 Suppl 1:25−8)。
本発明の化合物は、アミロイドタンパク質を有する身体の領域、特に脳領域についての実質的に改善されたPETイメージングをもたらす。生物活性化合物に組み込むことができる利用可能な陽電子放射性同位体のすべてが短い半減期を有する。従って、そうした標識化合物の実際の有用性は、その標識化合物をいかに早く合成できるか、ならびに最終生成物の合成収率および放射化学的純度に依存する。PETイメージングを行う病院または研究所への同位体供給源、サイクロトロン施設、からの運送時間さえ限定される。有用な距離の粗計算は、半減期の分数当たり約2マイルである。それ故、20.5分の半減期を有するC11は、供給源から半径約40マイルに限定され、これに対してF18で標識した化合物は、半径約200マイル以内で使用することができる。18F標識化合物のさらなる必要条件は、結合させる受容体またはターゲット分子に対して結合特異性を有すること、他のターゲットへの非特異的結合が有意に低くてターゲット結合と非ターゲット結合を識別できること、およびその標識が試験条件下で安定であって、その試験環境内の他の物質との交換を避けられることである。さらに特に、本発明の化合物は、所望のターゲットへの十分な結合を示すはずであり、その上、一切、同等の程度には、他の組織または細胞と結合できないはずである。
PETイメージングのためのストリンジェントな必要条件に対する一部の解決は、SPECTイメージングでのガンマ線放射性同位体の利用である。I123は、SPECTに一般に用いられている同位体マーカーであり、合成現場から1000マイルを超える有効範囲のための13時間の半減期を有する。本発明の化合物は、PETイメージングの代案としてSPECT分析で使用するためにI123で迅速かつ効率的に標識することができる。さらに、同じ化合物をいずれの同位体ででも標識できるため、同じトレーサーを使用してPETおよびSPECTにより得られた結果を比較することが初めてできる。
脳結合の特異性も本発明のI置換化合物に有用性をたらす。こうした化合物は、SPECTイメージングのために寿命の短かいI123で標識することができ、または療法の経過のモニタリングなどの長期研究のためにより長い寿命のI125で標識することができる。例示したものの代わりに他のヨウ素および臭素同位体を用いることもできる。
一般に、本発明の放射性イメージング剤は、放射性4−ハロベンジル誘導体とピペラジン誘導体を反応させることによって作製する。PETイメージングにはF−18標識4−フルオロベンジル誘導体が好ましい。4−フルオロ−18F−ベンジルハライドの一般的な作製方法は、Iwataら,Applied Radiation and Isotopes(2000),Vol.52,pp.87−92に記載されている。
単一光子放射コンピュータ断増撮影(「SPECT」)には、99mTc標識化合物が好ましい。これらの化合物の一般合成経路は、本発明の範囲内の非放射性TH類似体で開始し、それらを99mTc結合性キレーター、例えばN2S2−キレーターと反応させる。前記キレーターの合成は、標準的な手順、例えば、A.Mahmoodら,A N2S2−Tetradentate Chelate for Solid−Phase Synthesis:Technetium,Rhenium in Chemistry and Nuclear Medicine(1999),Vol.5,p.71、またはZ.P.Zhuangら,Bioconjugate Chemistry(1999),Vol.10,p.159に記載されている手順に従う。
前記キレーターのうちの1つを、本発明のTH類似体の非放射性化合物の−−N(R4)R5基中の窒素に直接結合させるか、1から10個の炭素原子を有するアルキルラジカルを含むリンカー部分によって結合させる。この場合、前記アルキルラジカルは、1から10個の−−C(O)−−基、1から10個の−−C(O)N(R)−−基、1から10個の−−N(R)C(O)−−基、1から10個の−−N(R)−−基、1から10個の−−N(R)2基、1から10個のヒドロキシ基、1から10個の−−C(O)OR−−基、1から10個の酸素原子、1から10個の硫黄原子、1から10個の窒素原子、1から10個のハロゲン原子、1から10個のアリール基、および1から10個の飽和または不飽和複素環を場合によっては含有し、ここでのRは、水素またはアルキルである。好ましいリンカー部分は、−−C(O)−−CH2−−N(H)−−である。
従って、本発明の化合物は、PETおよびSPECTを使用する改善された脳イメージング法をもたらす。これらの方法は、適切な同位体で標識された画像生成量の本発明の化合物を被験体(実験および/または診断を目的として、ヒトであってもよいし、または動物であってもよい)に投与し、その後、F18もしくは他の陽電子放射体を用いる場合にはPETによって、またはI123もしくは他のガンマ放射体を用いる場合にはSPECTによってその化合物の分布を測定することを必要とする。画像生成量は、スキャナーの検出感度およびノイズレベル、同位体の寿命、被験体の体の大きさおよび投与経路(前述の可変要素はすべて、過度の実験に訴えることなく当業者に公知の計算および測定法によって分かり、説明されるものの具体例である)を考慮に入れて、PETまたはSPECTスキャナーにおいて画像を生じさせることが少なくともできる量である。
本発明の化合物をその構造内の任意の原子または原子の組み合わせの同位体で標識できることは、理解されるであろう。ここではF18、I123およびI125をPET、SPECTおよびトレーサー分析に特に有用なものであると強調したが、他のものの使用も考えられ、それらとしては、安定な同位元素同族体の生理または薬理特性から以下のものが挙げられ、それらは当業者には明らかであろう。
本発明は、Tc付加体によるテクネチウム(Tc)標識付けにも備えている。Tcの同位体、特にTc99mは、脳イメージングに用いられている。本発明は、脳イメージングに有用である、本発明の化合物のTc錯化付加体を提供する。この付加体は、炭素数4〜6の炭素鎖(これは、飽和している場合もあり、または二重もしくは三重結合を有する場合もある)によって環状アミノ酸に連結されたTc配位錯体である。二重結合が存在する場合、E(トランス)またはZ(シス)異性体のいずれかを合成することができ、いずれの異性体を利用してもよい。同位体の有効寿命を最大にするための最終段階としての99mTc同位体の組み込みについて、合成を説明する。
ここで報告する手順では、次の方法を用いた。18F−フッ化物は、95%濃縮18O水を用い、11MeVの陽子を有する18O(p,n)18F画分を使用して、Seimensサイクロトロンから製造した。すべての溶媒および化学種は、分析グレードであり、さらに精製せずに使用した。化合物の融点は、Buchi SP装置を使用して毛管で決定した。薄層クロマトグラフィー分析(TLC)は、アルミニウムにコーティングしたシリカゲルG PF−254の250mm厚の層(Analtech,Inc.から入手)を使用して行った。カラムクロマトグラフィーは、60〜200メッシュのシリカゲル(Aldrich Co.)を使用して行った。赤外スペクトル(IR)は、NaClプレートを用いてBeckman 18A分光光度計で記録した。プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)は、Nicolet高分解能装置を用いて300MHzで得た。
もう1つの態様において、本発明は、ヒトにおけるアルツハイマー病の診断用の放射性医薬品を製造するための本発明の化合物の使用方法に関する。もう1つの態様において、本発明は、本発明の化合物の調製方法に関する。
本明細書に記載する本発明の化合物は、TTRに結合し、血液脳関門を通過する能力を有する、甲状腺ホルモン類似体またはTTR結合性リガンドである。従って、本化合物は、アルツハイマー病のイメージングのためのインビボ診断薬として適する。放射活性の検出は、ガンマカメラの使用によるか、陽電子放射断層撮影(PET)により、当該技術分野において周知の手順に従って行う。
好ましくは、本発明の化合物の遊離塩基または医薬的に許容される塩の形態、例えば、一塩化物もしくは二塩化物塩を生薬製剤において診断薬として使用する。本発明の化合物を含有する生薬製剤は、当該技術分野において公知のアジュバント、例えば、緩衝剤、塩化ナトリウム、乳酸、界面活性剤などを場合によっては含有する。使用前に滅菌条件下でその生薬製剤を濾過することにより滅菌することができる。
放射線量は、1回の適用につき1から100mCi、好ましくは5から30mCi、および最も好ましくは5から20Ciの範囲内にすべきである。本発明の範囲内のTH組成物は、陽電子放射断層撮影(PET)において診断薬として使用することができる。
本発明の化合物は、任意の適する経路によって、好ましくは、そうした経路に適合する医薬組成物の形態で、および脳内でのTTRとの結合に、およびそれによりガンマカメラまたはPETによる検出に有効な用量で投与することができる。一般に、その投与は、非経口的であり、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、皮内または筋肉内投与である。静脈内投与が好ましい。従って、例えば、本発明は、許容される担体、例えば血清または生理食塩水、に溶解または懸濁させた造影剤の溶液を含む、非経口投与用組成物を提供する。
水性担体としては、水、アルコール性/水性溶液、食塩液、非経口ビヒクル、例えば塩化ナトリウム、リンガーデキストロースなどが挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、および注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。他の医薬的に許容される担体、非毒性賦形剤(塩、保存薬、緩衝剤などを含む)は、例えば、REMMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,15.sup.th Ed.Easton:Mack Publishing Co.,pp.1405−1412および1461−1487(1975)、ならびにTHE NATIONAL FORMULARY XIV.,14.sup.th Ed.Washington:American Pharmaceutical Association(1975)に記載されている。
本発明の医薬組成物は、水性媒質に−−生薬製剤では通例の添加剤と場合によっては併せた−−本発明の化合物を懸濁または溶解し、その後、場合によってはその懸濁液または溶液を滅菌することによる、それ自体が公知の方法で製造される。適する添加剤は、例えば、生理的に許容される緩衝剤(例えば、トロメタミンなど)、錯化剤の添加物(例えば、ジエチレントリアミン五酢酸)または−−必要な場合には−−電解質、例えば塩化ナトリウムまたは−−必要な場合には−−抗酸化物質、例えばアスコルビン酸などである
水または生理食塩液中の本発明の化合物の懸濁液または溶液が、腸への投与または他の目的に望ましい場合、生薬製剤での慣例として、それらを1つまたは幾つかの助剤(例えば、メチルセルロース、ラクトース、マンニトール)、および/または界面活性剤(例えば、レシチン、「Tween」、「Myrj」)、および/または味を向上されるために矯味矯臭剤と混合する。
本組成物は、従来の周知滅菌技術によって滅菌することができ、または滅菌濾過することができる。得られた水溶液をそのまま使用するために包装してもよいし、または凍結乾燥してもよく、凍結乾燥した製品は、投与前に滅菌溶液と併せる。本組成物は、生理条件に近づけるために必要な場合には医薬的に許容される補助物質、例えば、pH調整および緩衝剤、等張性調整剤、湿潤剤など、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノステアリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミンなどを含有することがある。
放射性ハロゲンを有する本発明の化合物の場合、これらの化合物は、「ホットな(hot)」化合物、すなわち、化合物中の放射性ハロゲンを伴うものとして出荷することができ、例えば、生理的に許容される食塩液中のものを投与することができる。金属錯体の場合、これらの化合物は、「cold」化合物、すなわち、放射性イオンを伴わないものとして出荷することができ、その後、Tc発生器溶出物またはRe発生器溶出物と混合することができる。
血管新生の阻害
もう1つの部分で、本発明は、その必要がある被験体において血管新生を阻害するための組成物および方法を提供する。血管新生を阻害することによって治療可能な状態としては、例えば、原発性または転移性腫瘍および糖尿病性網膜症が挙げられる。本組成物は、有効量のテトラヨードサイロ酢酸(TETRAC)、トリヨードサイロ酢酸(TRIAC)、モノクローナル抗体LM609、またはこれらの組み合わせを含むことができる。こうした抗血管新生剤は、細胞表面において血管新生促進剤を阻害するように作用することができる。これらの組成物は、1つ以上の賦形剤を場合によっては伴う生理的におよび医薬的に許容される担体中の抗血管新生有効量の抗血管新生性物質を含む、滅菌注射用医薬製剤の形態であり得る。
さらなる態様において、本発明は、血管新生を阻害するために有効な量の抗血管新生剤をその必要がある被験体に投与することによる、血管新生を阻害することにより治療可能な状態を治療するための方法を提供する。本発明の組成物は、頭頚部癌、神経膠腫、皮膚癌、肺癌、乳癌および甲状腺癌をはじめとする癌に随伴する血管新生を阻害するために使用することができる。TETRACなどの甲状腺ホルモン類似体をポリマーコンジュゲートとして、またはナノ粒子として、投与することができる。
原形質膜において開始されるTETRACの細胞作用の性質:
甲状腺ホルモン、TETRAC、の原形質膜受容体に対する作用は、新生血管形成の標準的アッセイ(ニワトリ漿尿膜、ヒト皮膚微小血管内皮細胞)において、T4およびT3の血管新生促進効果を阻害する。TETRACは、インビトロでおよび一定のインビトロモデルにおいてヒトおよび動物癌細胞の増殖に対するアゴニスト甲状腺ホルモン類似体(T4、T3)の作用を遮断する。増殖がTETRACによって阻害されるヒト癌細胞モデルには、乳癌および肺癌などがある。動物腫瘍細胞には、神経膠腫/神経膠芽細胞腫などのヒト脳癌についてのモデルである神経膠腫細胞などがある。
アゴニスト甲状腺ホルモン類似体不在下で原形質膜において開始されるTETRACの作用:
インテグリン上のRGD部位への前記ホルモン受容体の近接が、T4およびT3などのホルモンアゴニスト不在下で、ポリペプチド内皮増殖因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(しかし、これらに限定されない)の血管新生促進活性を遮断するTETRACの能力の根底にある。
神経膠腫および甲状腺癌細胞においてアポトーシスを誘導するためのTETRAC
下の図は、TETRACが、C6神経膠腫細胞においておよび甲状腺癌細胞(BHP2−7)においてアポトーシスを誘導できることを明示している。従って、TETRACに曝露されたときの癌細胞の増殖低下の少なくとも一部は、プログラム細胞死(アポトーシス)である。任意の癌細胞の研究において増殖が遅くなった場合、その論点は、細胞周期停止モードで細胞が生存するか、またはそれらが死滅するかである。細胞死は、細胞周期停止より望ましい。
ウイルス因子のためのTETRAC
TETRACは、西ナイルウイルスに対して使用することができる。細胞侵入がRGD結合部位経由でアルファvベータ3インテグリンに依存する、西ナイルウイルスなどの一定のウイルス因子を、TETRACで治療することができる。
ヒト肺癌のためのTETRAC
甲状腺ホルモン/TETRACの効果は、小細胞と非小細胞両方のヒト肺癌細胞におけるエストロゲン受容体(ER)を必要とする。L−チロキシン(T4)および3,5,3’−トリヨード−L−チロニン(T3)は、小細胞および非小細胞ヒト肺癌系統の増殖を生じさせ、これは、エストロゲン受容体−アルファ(ERアルファ)の腫瘍細胞における存在を必要とするメカニズムによって行われる。テトラヨードサイロ酢酸(TETRAC)は、T4およびT3の細胞作用へのインテグリンアルファVベータ3上の甲状腺ホルモンの細胞表面受容体の関与についてのプローブである。遊離している、またはナノ粒子としての、TETRACは、肺癌細胞に対するT4およびT3の増殖作用を遮断する。これは、インテグリンアルファVベータ3上の甲状腺ホルモンの細胞表面受容体がT4およびT3の効果を媒介することを示している。本発明者らは、抗アルファVおよび抗ベータ3ならびにRGDペプチドで肺癌細胞に対するT4およびT3の増殖作用も遮断した。これらの観察は、肺癌細胞の増殖のT4およびT3による促進における甲状腺ホルモンのインテグリン受容体の役割をさらに支持する。
遊離している、またはナノ粒子としての、TETRACは、ヒト肺癌の管理のための魅力的な新規戦略である。その抗増殖作用に加えて、遊離している、またはナノ粒子としての、TETRACは、抗血管新生性であり、肺癌増殖を支援する新たな血管の成長を阻害する。従って、TETRACは、肺腫瘍増殖の阻害に関連した少なくとも2つの別個の作用を有する。
TETRACのナノ粒子製剤には、ポリリシルグリコール酸(PLGA)にまたはTETRACによる細胞への侵入を妨げるために十分なサイズのコラーゲンもしくは他の分子にエステルもしくはエーテル結合によって連結されているTETRACなどがある。これらの製剤は、インテグリンアルファVベータ3上の甲状腺ホルモンの細胞表面受容体にTETRACの作用を限定する。
癌に関連した新たな血管の成長:
血管新生を阻害することによって治療可能な状態の例としては、神経膠腫および乳癌をはじめとする(しかし、これらに限定されない)原発性または転移性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。こうした方法では、甲状腺ホルモン誘導血管新生効果を阻害する化合物を使用して血管新生を阻害する。そうした方法の詳細は、実施例12において例証する。TETRACなどの甲状腺ホルモンアンタゴニスト、類似体、ポリマーコンジュゲート、およびそれらのナノ粒子は、アンジオポエチン−2を阻害するための抗血管新生性薬剤としても使用することができる。アンジオポエチン−2は、腫瘍の周囲の血管を不安定にし、それらの血管をVEGFによる出芽の誘導をより受けやすくするので、この阻害は、癌に関連した新たな血管の成長の予防に役立ち得る。
糖尿病性網膜症:
血管新生を阻害することによって治療可能な状態の例としては、糖尿病性網膜症および関連状態が挙げられるが、これらに限定されない。こうした方法では、甲状腺ホルモン誘導血管新生効果を阻害する化合物を使用して血管新生を阻害する。そうした方法の詳細は、実施例8AおよびBにおいて例証する。
(糖尿病ではなく)低酸素症によって誘導される増殖性網膜症が、アルファV(αV)インテグリン発現に依存することは公知である(E Chavakisら,Diabetologia 45:262−267,2002)。特定のインテグリンアルファVベータ−3(αVβ3)に対する甲状腺ホルモンの作用が、糖尿病性網膜症の発現の際に生じ得ることを本明細書において提案する。インテグリンαVβ3は、本明細書では、甲状腺ホルモンの細胞表面受容体と定義する。甲状腺ホルモン、その類似体、およびポリマーコンジュゲーションは、この受容体を介して血管新生を誘導するように作用する。
皮膚科学−皮膚毛細血管拡大および血管腫のサイズを減少させるためのナノ粒子テトラヨードサイロ酢酸(TETRAC):
TETRACなどの甲状腺ホルモンアンタゴニスト、類似体、ポリマーコンジュゲート、およびそれらのナノ粒子は、非癌性皮膚疾患を治療するためにも使用することができる。誘導体化TETRACのこの治療および/または美容作用は、その抗血管新生活性に基づく。皮膚毛細血管拡張症またはクモ状血管腫に軟膏またはクリームとして局所塗布された誘導体化TETRACは、内因性(循環性)甲状腺ホルモンの、およびペプチド血管成長因子の内皮細胞に対する血管新生促進作用を妨害するであろう。PLGA誘導体としての局所塗布ホルモン類似体の全身作用は、極わずかであろう。軽度の毛細血管拡張症または血管腫の場合、誘導体化TETRACをOTC製品での臨床使用に利用できるようにすることができる。
TETRACは、甲状腺ホルモンの血小板凝集作用を妨害するので、TETRACの塗布部位での外傷は、局所的に出血し得る。これは、既存の未治療毛細血管拡張症および血管腫に伴う危険である。しかし、こうした血管病変範囲に対するTETRACの塗布を首尾よく減少させることにより、局所斑状出血の危険は低下するであろう。
ナノ粒子にコンジュゲートさせた甲状腺アンタゴニストについてのさらなる皮膚科的局所用途としては、シバット多形皮膚萎縮症(顔面新生血管形成および拡張血管をもたらす太陽光線への長期曝露)、アクネまたは顔面酒さ、乾癬(単独でまたはビタミンD類似体との組み合わせで)、および皮膚癌が挙げられる。
入手可能な抗血管新生性薬剤は、ここでターゲットにする皮膚病変に使用するには高価すぎる。これらの薬剤は、局所吸収されないので、皮膚用途に適さないこともある。
治療および製剤の方法:
甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体は、その必要がある患者における血管新生を促進するための方法において使用することができる。この方法は、有効量の甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体を低い日用量で1週間以上、同時投与することを含む。前記方法は、心筋梗塞後に心臓機能を回復させる治療として用いることができる。前記方法は、心筋虚血または心臓以外の領域への不適当な血流(例えば、血流減少が問題となる末梢血管疾患、例えば末梢動脈閉塞性疾患)に苦しんでいる、冠動脈疾患患者において血流を改善のために用いることもできる。
本化合物は、その化合物を、経口投与、直腸内投与、局所投与または非経口投与(皮下投与、筋肉内投与および静脈内投与を含む)をはじめとする投与に付すために適する任意の医療上許容される手段によって、投与することができる。例えば、アデノシンは、非常に短い半減期を有する。このため、好ましくは、静脈内投与される。しかし、はるかに長い半減期を有し、他の手段によって投与することができるアデノシンA2アゴニストが開発された。甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体は、例えば、静脈内投与、経口投与、局所投与、経鼻投与することができる。
一部の実施形態において、甲状腺ホルモン類似体、ポリマー形および誘導体は、異なる手段によって投与される。
血管新生の刺激に有効であるために必要な甲状腺ホルモン、その類似体、ポリマー形および誘導体の量は、勿論、治療を受ける個体によって変わるであろうし、最終的には医師の判断次第である。考慮すべき要因としては、治療を受ける患者の状態、使用される特定のアデノシンA2受容体アゴニストの効力、その製剤の性質、およびその患者の体重が挙げられる。甲状腺ホルモン類似体またはそのポリマー形および誘導体の閉塞治療用量は、所望の効果をもたらす任意の用量である。
上に記載した化合物は、好ましくは、甲状腺ホルモン類似体またはそのポリマー形および誘導体を投与方式に許容される担体とともに含む製剤で投与される。当業者に一般に知られているような、所期の用途に適する活性成分を含有する任意の製剤または薬物送達系を使用することができる。経口投与、直腸内投与、局所投与または非経口投与(皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与および静脈内投与を含む)に適する、医薬的に許容される担体は、当業者に公知である。前記担体は、その製剤の他の成分と相溶性であり、その受容者に有害でないという意味で、医薬的に許容されるものでなければならない。
非経口投与に適する製剤としては、便利には、受容者の血液と好ましくは等張である活性化合物の滅菌水性調製品が挙げられる。従って、こうした製剤は、便利には、蒸留水、蒸留水中5%のデキストロース、または食塩水を含有し得る。有用な製剤としては、式(I)の化合物を含有する濃縮溶液または固体も挙げられ、これらを適切な溶媒で希釈すると、上の非経口投与に適する溶液が得られる。
それぞれが所定量の活性化合物を含有する個別単位、例えばカプセル、カシェ剤、錠剤もしくはロゼンジ、での;粉末もしくは顆粒としての;または水性液もしくは非水性液中の懸濁液もしくは溶液、例えば、シロップ、エリキシル、エマルジョンもしくはドラフトでの、腸への投与のために、化合物を不活性担体に添合する場合がある。適する担体は、デンプンまたは糖であり得、ならびに滑沢剤、矯味矯臭剤、結合剤および同じ性質の他の材料を含む場合がある。
錠剤は、1つ以上の補助成分を場合によっては用いて、圧縮または成形により製造することができる。圧縮錠剤は、補助成分、例えば結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、界面活性剤または分散剤と場合によっては混合された、易流動形態、例えば、粉末または顆粒の活性化合物を適する機械で圧縮することによって作製することができる。成形錠剤は、粉末活性化合物と任意の適する担体の混合物を適する機械で成形することによって製造することができる。
シロップまたは懸濁液は、糖、例えばスクロース、の濃縮水溶液に活性化合物を添加することによって製造することができ、該水溶液に任意の補助成分が添加される場合がある。そうした補助成分としては、矯味矯臭剤、糖の結晶化を遅らせるための薬剤、または任意の他の成分の溶解度を増大させるための薬剤、例えば多価アルコール、例えばグリセロールもしくはソルビトール、を挙げることができる。
直腸内投与用の製剤は、坐薬基剤用の従来の担体、例えば、カカオ脂またはWitepsol S55(ドイツのDynamite Nobel Chemicalの商標)を有する坐薬として提供することができる。
あるいは、本化合物は、リポソームまたはマイクロスフェア(またはマイクロ粒子)の中に入れて投与することができる。患者に投与するためのリポソームおよびマイクロスフェアの作製方法は、当業者に周知である。米国特許第4,789,734号(その内容は、本明細書に参考として援用される)には、リポソームに生体材料を封入するための方法が記載されている。本質的には、前記材料を水溶液に溶解し、適するリン脂質および脂質を、必要な場合には界面活性剤とともに添加し、必要に応じてその材料を透析または超音波処理する。公知方法の総説は、G.Gregoriadis,Chapter 14,“Liposomes,”Drug Carries in Biology and Medicine,pp.287−341(Academic Press,1979)によって提供されている。
ポリマーおよびタンパク質から作られるマイクロスフェアは当業者に周知であり、これらは、胃腸管を通って直接血流に進むように作ることができる。あるいは、本化合物を組み込み、そのマイクロスフェアまたはマイクロスフェアの複合材を内植して、数日から数ヶ月にわたる期間にわたって徐放させることができる。例えば、米国特許第4,906,474号、同第4,925,673号および同第3,625,214号、ならびにJein,TIPS 19:155−157(1998)参照(これらの内容は、本明細書に参考として援用される)。
1つの実施形態において、本甲状腺ホルモン類似体またはそのポリマー形、およびアデノシン誘導体を、静脈内投与後に毛細血管床に収容される適切なサイズを有するリポソームまたはマイクロ粒子の中に配合することができる。リポソームまたはマイクロ粒子が虚血組織を包囲する毛細血管床に収容されると、それらの薬剤をそれらが最も有効である部位に局所的に投与することができる。虚血組織へのターゲティングに適するリポソームは、例えば、「Liposomal targeting of ischemic tissue」と題するBaldeschweilerの米国特許第5,593,688号(この内容は、本明細書に参考として援用される)に開示されているように、一般に約200ナノメートル未満であり、典型的に単層小胞でもある。
好ましいマイクロ粒子は、生体分解性ポリマー、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチドおよびそれらのコポリマーから作製されたものである。当業者は、所望の薬物放出速度および所望の投薬量をはじめとする様々な因子に依存して適する担体系を容易に決定することができる。
1つの実施形態において、前記製剤は、カテーテルにより血管内部に直接投与される。この投与は、例えば、カテーテルの穴を通して行うことができる。活性化合物が比較的長い半減期(およそ1日から1週間以上)を有する実施形態における製剤は、Hubbellらの米国特許第5,410,016号に開示されているものなどの生体分解性ポリマーヒドロゲルに含めることができる。これらのポリマーヒドロゲルを組織腔内部に送達し、そのポリマーの分解につれて経時的に活性化合物を放出させることができる。所望される場合には、ポリマーヒドロゲルは、それらの中に分散された活性化合物を含むマイクロ粒子またはリポソームを有することができ、これは、活性化合物の制御放出のための別のメカニズムとなる。
前記製剤は、単位剤形で便利に提供することができ、薬学技術分野では周知の任意の方法によって作製することができる。すべての方法が、1つ以上の補助成分を構成する担体と活性化合物を会合させる段階を含む。一般に、前記製剤は、液体担体または微粉固体担体と活性化合物を均一かつ均質に会合させ、その後、必要な場合には、その生成物を所望の単位剤形に成形することによって作製される。
前記製剤は、追加の成分、例えば、様々な生物活性物質、例えば増殖因子(TGF−ベータ、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子アルファおよびベータ(TGFアルファおよびベータ)、神経成長因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)および血管内皮増殖因子/血管透過性因子(VEGF/VPF)を含む)、抗ウイルス薬、抗菌薬、抗炎症薬、免疫抑制剤、鎮痛薬、血管形成剤または細胞接着分子、を場合によっては含むことがある。
上述の成分に加えて、前記製剤は、医薬製剤の技術分野で利用されている1つ以上の任意の補助成分、例えば、希釈剤、緩衝剤、矯味矯臭剤、結合剤、界面活性剤、増粘剤、滑沢剤、懸濁化剤、保存薬(抗酸化物質を含む)などをさらに含むことがある。
製剤および治療方法
本発明の単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体インデューサー、あるいは単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体受容体のアゴニストは、利用する特定の単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストに適合した任意の経路によって投与することができる。従って、適宜、投与は、経口投与であってもよいし、または非経口投与(静脈内および腹腔内投与経路を含む)であってもよい。加えて、投与は、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストの定期的な注射による場合もあり、あるいは体外にあるレザバー(例えば、i.v.バッグ)または体内にあるレザバー(例えば、生体侵食性インプラント、または内植された、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体生産性細胞)から、静脈内または腹腔内投与によって、より継続的に行われる場合もある。
本発明の治療薬(すなわち、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサー、あるいは単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体受容体のアゴニスト)は、任意の適する手段により、直接(例えば、局所的に、例えば、組織位置への注射、内植または局所投与により)または全身的に(例えば、非経口的にまたは経口的に)個体に供給することができる。前記薬剤が、非経口的に、例えば、静脈内、皮下、分子内、眼科的、腹腔内、筋肉内、口腔内、直腸内、膣、眼窩内、脳内、頭蓋内、髄腔内、心室内、クモ膜下、槽内、嚢内、鼻腔内投与により、またはエーロゾル投与により、供給される場合、その薬剤は、好ましくは、水性または生理適合性の懸濁液または溶液の部分を含む。従って、この単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体の担体またはビヒクルは、患者への所望の薬剤の送達に加えて、患者の電解質および/または容積バランスに別様に悪影響を及ぼさないように、生理的に許容されるものである。従って、前記薬剤のための液体媒質は、正常生理食塩液(例えば、9.85% NaCl水溶液、0.15M、pH7〜7.4)を含むことができる。
ポリマー甲状腺ホルモン類似体プロドメインを有する二量体の会合は、対応する成熟形より多く生理溶液に溶解することが一般にできる、ポリマー甲状腺ホルモン類似体のプロ形を生じさせる。
非経口投与に有用な溶液は、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Gennaro,A.,ed.),Mack Pub.,1990に記載されている、製薬記述分野では周知の任意の方法によって、調製することができる。本発明の治療薬の製剤は、例えば、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、植物由来の油、水素化ナフタレンなどを含む場合がある。直接投与するための製剤は、特に、所望の位置での薬剤の維持を助長するために高粘度のグリセロールおよび他の組成物を含む場合がある。例えば、ヒアルロン酸、コラーゲン、リン酸三カルシウム、ポリブチラート、ラクチドおよびグリコリドポリマーならびにラクチド/グリコリドコポリマーをはじめとする、生体適合性、好ましくは生体吸収性のポリマーは、インビボでの薬剤の放出を制御するために有用な賦形剤であり得る。これらの薬剤のための他の潜在的に有用な非経口送達システムとしては、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、内植できる注入システム、およびリポソームが挙げられる。吸入投与のための製剤は、賦形剤として例えばラクトースを含有し、または例えばポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、グリココレートおよびデオキシコレートを含有する水溶液である場合もあり、または点鼻剤の形態で投与するための油性溶液である場合もあり、または鼻腔内に適用するためのゲルとしての場合もある。非経口投与のための製剤は、口腔内投与のためにグリココレート、直腸内投与のためにメトキシサリチレート、または膣投与のためにクエン酸も含む場合がある。単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストと、無刺激賦形剤、例えば、室温で固体であり、体温で液体であるカカオ脂または他の組成物とを混合物によって、直腸内投与のための坐薬を作製することもできる。
皮膚表面への局所投与のための製剤は、皮膚科的に許容される担体、例えばローション、クリーム、軟膏または石鹸を用いて、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストを分散させることによって作製することができる。塗布を局在化し、除去を抑制するために、皮膚上に薄膜または層を形成することができる担体が、特に好ましい。体内組織表面への局所投与の場合、液体組織接着剤、または組織表面への吸着を増進することが知られている他の物質に薬剤を分散させてもよい。例えば、ヒドロキシプロピルセルロースまたはフィブリノゲン/トロンビン溶液を効果的に用いることができる。あるいは、組織コーティング溶液、例えばペクチン含有製剤を使用してもよい。
あるいは、本明細書に記載する薬剤は、経口投与することができる。治療薬としてのタンパク質の経口投与は、一般には実施されない。殆どのタンパク質は、血流に吸収され得る前に、哺乳動物の消化器系における消化酵素および酸によって容易に分解されるからである。しかし、本明細書に記載する単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、酸安定性であり、プロテアーゼ耐性である(例えば、米国特許第4,968,590号参照)。加えて、OP−1が、乳腺抽出物、初乳および産後57日目の母乳において同定された。さらに、乳腺抽出物から精製されたOP−1は、形態形成活性であり、血流においても検出される。乳摂取による母性投与は、TGF−βスーパーファミリータンパク質の天然送達経路であり得る。Letterioら,Science 264:1936−1938(1994)には、TGF−βがマウスの乳中に存在すること、および放射標識TGF−βが乳幼児の胃腸膜によって吸収されることが報告されている。摂取された標識TGF−βは、肺、心臓および肝臓をはじめとするその幼児の体組織において無損傷の形で迅速に出現する。最終的には、可溶性形態の単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、例えば、抗酸化物質または抗炎症薬を伴うまたは伴わない、成熟した単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体。これらの発見、ならびに下の実施例において開示するものは、経口および非経口投与が、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体を含む、TGF−βスーパーファミリータンパク質を個体に投与するための実行可能な手段であることを示している。加えて、本明細書に記載する一定の単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体の成熟形は、一般には貧溶解性であるが、乳(および乳腺抽出物および初乳)において見出される単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体は、おそらく、成熟、形態形成活性形と、発現される完全長ポリペプチド配列のプロドメインの一部もしくはすべてとその会合により、および/または1つ以上の乳成分との会合により、易溶解性である。従って、本明細書において提供する化合物は、インビトロまたはインビボでのそれらの溶解度を高めることができる分子と会合させることができる。
単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体をCNS障害用の治療薬として使用する場合、血液脳関門(血液中に存在する物質の、選択された範疇だが、すべてを有効に分離除去してそれらの脳への進入を防止する脳毛細血管壁構造)の克服という追加の問題に対処しなければならない。血液脳関門は、前記ポリマー甲状腺ホルモン類似体の脳への直接注入により、または嗅覚ニューロンによる取り込みおよび逆行性輸送に適する製剤の鼻腔内投与もしくは吸入により、容易に迂回することができる。あるいは、前記ポリマー甲状腺ホルモン類似体を、血液脳関門を横断するその輸送を増進するように修飾することができる。例えば、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体のトランケート形、または単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体−刺激剤が、最もうまくいくだろう。あるいは、本明細書において提供する単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストは、当業者に公知の標準的な手段を用いて、誘導体化することができ、または親油性部分に、もしくは脳血液関門を横断して能動輸送される物質にコンジュゲートさせることができる。例えば、Pardridge,Endocrine Review 7:314−330(1986)および米国特許第4,801,575号参照。
本明細書において提供する化合物は、前記単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストを所望の組織にターゲティングすることができる分子と会合させることもできる。例えば、所望の組織の細胞上の表面分子と特異的に相互作用する抗体、抗体フラグメントまたは他の結合性タンパク質を使用することができる。例えば、米国特許第5,091,513号に開示されている単鎖結合部位技術を用いて、有用なターゲティング分子を設計することができる。ターゲティング分子は、前記単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストと共有結合的にまたは非共有結合的に会合させることができる。
通常の当業者には理解されるであろうが、製剤された組成物は、治療有効量の前記単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストを含有する。すなわち、それらは、損傷した中枢または末梢神経系機能の検出可能な回復をその完全な回復に至るまで(その完全な回復を含む)刺激するために十分な時間、罹患神経系組織に適切な濃度を供給する量の薬剤を含有する。当業者には理解されるであろうが、これらの濃度は、選択される薬剤の生物学的効力、その特定の薬剤の化学的特性(例えば、疎水性)、1つ以上の賦形剤との混合物をはじめとするその製剤、投与経路、および活性成分が組織部位に直接投与されるのか、または全身投与されるのかを含む構想される治療法をはじめとする、多数の因子に依存して変わるであろう。投与される好ましい投薬量も、罹患または損傷組織の状態、およびその特定の哺乳動物の総合的健康状態などの可変要素に依存する可能性が高い。一般的な事柄として、抗酸化物質および/または抗炎症薬の存在下、0.00001〜1000mgの単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体の単回、1日1回、2週間に1回または週1回の投薬量で十分であり、0.0001〜100mgが好ましく、0.001から10mgはさらにいっそう好ましい。あるいは、0.01〜1000μg/kg(体重)、さらに好ましくは0.01〜10mg/kg(体重)の単回、1日1回、2週間に1回または週1回の投薬量を用いると有利であり得る。ナノ粒子は、ナノ粒子1個につき、そのナノ粒子に封入されたまたはそのナノ粒子の表面に化学結合によって固定化された甲状腺ホルモン分子を1個と100個の間、含有する。前記ナノ粒子は、甲状腺ホルモン類似体と化学療法薬または他の公知血管新生促進もしくは抗血管新生剤とともに同時投与することができる。さらに、前記ナノ粒子は、内部に化学療法薬、血管新生促進剤または抗血管新生剤を含有し、甲状腺ホルモンは、そのナノ粒子の表面に化学結合によって固定化されている。前記ナノ粒子の表面は、安定な化学結合によってその表面に結合されたαVβ3リガンドなどの部位指向性部分を含有する。本有効用量は、所望どおりに、またはその特定の状況下で適すると考えられるとおりに、1回量で、または多数(2以上)の分割用量で、投与することができる。ボーラス注射または拡散性輸液製剤を使用することもできる。反復または常習的注入の助長が望まれる場合には、半透性ステント(例えば、静脈内、腹腔内、槽内または嚢内)の内植が賢明であり得る。
本発明の単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体、インデューサーまたはアゴニストは、勿論、単独で投与してもよいし、または本明細書に記載する状態の治療に有益なことが知られている他の分子との組み合わせで投与してもよい。例えば、様々な周知増殖因子、ホルモン、酵素、治療組成物、抗生物質または他の生物活性剤も、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体とともに投与することができる。従って、様々な公知増殖因子、例えば、NGF、EGF、PDGF、IGF、FGF、TGF−αおよびTGF−β、ならびに酵素、酵素阻害剤、抗酸化物質、抗炎症薬、フリーラジカル掃除剤(scavenging agent)、抗生物質および/または化学誘引物質/走化性因子を、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体の製剤に含めることができる。
以下の実施例は、本発明の一定の実施形態をさらに例証するためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
実施例1〜7
以下の材料および方法を実施例1〜7のために用いた。すべての試薬は、化学グレードであり、Sigma Chemical Co.(ミズーリ州、セントルイス)から、またはVWR Scientific(ニュージャージー州、ブリッジポート)を通して購入した。酢酸コルチゾン、ウシ血清アルブミン(BSA)およびゼラチン溶液(ウシの皮膚からの2%タイプB)は、Sigma Chemical Co.から購入した。ニワトリ受精卵は、Charles River Laboratories、SPAFAS Avian Products & Services(コネチカット州、ノース・フランクリン)から購入した。T4、3,5,3’−トリヨード−L−チロニン(T3)、テトラヨードサイロ酢酸(TETRAC)、T4−アガロース、6−N−プロピル−2−チオウラシル(PTU)、RGD含有ペプチド、およびRGE含有ペプチドは、Sigmaから入手し、PD 98059は、Calbiochemから入手し、ならびにCGP41251は、Novartis Pharma(スイス、バーゼル)からの寄贈品であった。ポリクローナル抗FGF2およびモノクローナル抗−β−アクチンは、Santa Cruz Biotechnologyから入手し、ヒト組換えFGF2およびVEGFは、Invitrogenから入手した。リン酸化ERK1/2に対するポリクローナル抗体は、New England Biolabsからのものであり、ヤギ抗ウサギIgGは、DAKOからのものであった。αVβ3に対するモノクローナル抗体(SC73 12)およびα−チューブリンに対するモノクローナル抗体(E9)は、Santa Cruz Biotechnology(カリフォルニア州、サンタクルーズ)から購入した。正常マウスIgGおよびHRPコンジュゲート化ヤギ抗ウサギ抗体Igは、Dako Cytomation(カリフォルニア州、カーピンテリア)から購入した。αVβ3に対するモノクローナル抗体(LM609)およびαVβ5に対するモノクローナル抗体(P1F6)、ならびに精製αVβ3は、Chemicon(カリフォルニア州、テメキュラ)から購入した。L−[125I]−T4(比放射能、1250μCi/μg)は、Perkin Elmer Life Sciences(マサチューセッツ州、ボストン)から入手した。
血管新生の漿尿膜(CAM)モデル:インビトロ
以前に記載された方法によって新生血管形成を調査した。9〜12匹の日齢10日のニワトリ胚をSPAFAS(コネチカット州、プレストン)から購入し、37℃、55%相対湿度でインキュベートした。皮下注射針を使用して、気嚢を隠す殻に小さな穴をあけ、その卵の広い側面の、ろうそくの灯に透かして調べることによって特定した胚子被膜の無血管部分の直ぐ上に、第二の穴をあけた。第一の穴に陰圧をかけることにより、第二の穴の真下に仮の気嚢を作り、それによってCAMを殻から分離させた。その脱落させたCAMの上の殻から小型クラフト用といし車(Dremel;Emerson Electric Co.の一部門)を使用して約1.0cm2の窓を切り取って、下にあるCAMに直接接触できるようにした。FGF2(1μg/mL)を標準血管新生促進性薬剤として使用して、日齢10日の胚のCAMに対して新たな血管分枝を誘導した。無菌条件下で、No.1濾紙の滅菌ディスク(Whatman International)を3mg/mLの酢酸コルチゾンおよび1mmol/mLのPTUで前処理し、空気乾燥させた。その後、甲状腺ホルモン、ホルモン類似体、FGF2または対照溶媒、および阻害剤をそれらのディスクに塗布し、ディスクを乾燥させた。その後、それらのディスクをPBSに懸濁させ、成長中のCAMの上に配置した。3日のインキュベーションの初日に、T4またはFGF2で処理したフィルターを配置し、30分後、指示どおり選択サンプルにFGF2に対する抗体を添加した。24時間の時点で、フィルターディスクにより局所的にCAMにMAPKカスケード阻害剤PD 98059も添加した。
CAM切片の顕微鏡分析:
37℃、55%相対湿度での3日間のインキュベーションの後、それぞれのフィルターディスクの直ぐ上のCAM組織を対照および処理したCAMサンプルから切除した。組織をPBSで3回洗浄し、35mmのペトリ皿(Nalge Nunc)に入れ、SV6立体顕微鏡(Zeiss)のもとで50倍で検査した。フィルターに曝露されたCAMセクションのデジタル画像を、3CCD(電荷結合素子)ビデオカメラシステム(株式会社東芝(Toshiba))を使用して収集し、Image−Proソフトウェア(Media Cybernetics)で解析した。それぞれのフィルターディスクに相当する円形領域内に入っている血管分枝点の数を数えた。それぞれのCAM組織標本において1つの画像を計数し、8〜10個のCAM組織標本からの調査結果をそれぞれの処理条件(甲状腺ホルモンまたは類似体、FGF2、FGF2抗体、PD98059)について解析した。加えて、それぞれの実験を3回行った。得られた血管新生指数は、サンプルのそれぞれのセットにおける新たな分枝点の平均値±SEMである。
FGF2アッセイ:
10%ウシ胎仔血清を補足したM199培地中でECV304内皮細胞を培養した。ECV304細胞(細胞数106)を、一晩、完全培地中、0.2%ゲルコート24ウエルプレートを用いて完全培地中で平板培養し、その後、無血清培地で細胞を洗浄し、指示どおりのT4またはT3で処理した。72時間後、上清を回収し、市販のELISAシステム(R&D Systems)を使用して希釈せずにFGFについてのアッセイを行った。
MAPK活性化:
0.25%ホルモン欠乏血清13を有するM199倍地中で2日間、ECV304内皮細胞を培養した。その後、細胞をT4(10−7mol/L)で15分から6時間処理した。追加実験では、細胞をT4もしくはFGF2で、またはPD 98059もしくはCGP41251の存在下、T4で処理した。以前に報告した本発明者らの方法によってすべてのサンプルから核画分を準備し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によってタンパク質を分離し、リン酸化ERK1/2に対する抗体での免疫ブロットのために膜に移した。核リン酸化ERK1/2の出現は、T4によるこれらのMAPKアイソフォームの活性化を意味する。
逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応:
10cmプレート内の集密ECV304細胞をT4(10−7mol/L)で6から48時間処理し、イソシアン酸グアニジウム(Biotecx Laboratories)を使用して全RNAを抽出した。Access RT−PCRシステム(Promega)を使用して、RNA(1μg)を逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)に付した。48℃で45分間、全RNAをcDNAに逆転写し、その後、94℃で2分間、変性させた。94℃で30秒間の変性、60℃で60秒間のアニーリング、および68℃で120秒間の伸長を伴う、第二鎖合成およびPCR増幅を40サイクル行い、すべてのサイクルの完了後に7分間、68℃で最終伸長を行った。FGF2のためのPCRプライマーは、次のとおりであった:FGF2センス鎖5’−TGGTATGTGGCACTGAAACG−3’(配列番号:1)、アンチセンス鎖5’−CTCAATGACCTGGCGAAGAC−3’(配列番号:2)。そのPCR産物の長さは、734bpであった。GAPDHのためのプライマーは、センス鎖5’−AAGGTCATCCCTGAGCTGAACG−3’(配列番号:3)およびアンチセンス鎖5’−GGGTGTCGCTGTTGAAGTCAGA−3’(配列番号:4)を含み、そのPCR産物の長さは、218bpであった。RT−PCRの産物を1.5%アガロースゲルでの電気泳動によって分離し、臭化エチジウムで視覚化した。LabImageソフトウェア(Kapelan)を使用して、前記ゲルのターゲット結合を定量し、[FGF2/GAPDH]×10の値をそれぞれの時点について計算した。
統計解析:
実験群とそれぞれの対照群とを比較するために一元配置分散分析(ANOVA)による統計解析を行い、p<0.05に基づいて有意差を計算した。
マウスにおけるマトリゲルFGF2または癌細胞系統インプラントにおけるインビボ血管新生:インビボマウス血管新生モデル:
マウスマトリゲルモデルは、以前に記載された方法(Grantら,1991;Okadaら,1995)に従って、および本発明者らの研究所において実現された(Powelら,2000)とおりに行う。簡単に言うと、増殖因子を含まないマトリゲル(マサチューセッツ州、ベッドフォードのBecton Dickinson)を一晩、4℃で解凍し、氷の上に置く。マトリゲルのアリコートを冷却したポリプロピレン管に入れ、FGF2、甲状腺ホルモン類似体または癌細胞(細胞数1×106)をそのマトリゲルに添加する。食塩水、FGF2、甲状腺ホルモン類似体または癌細胞とマトリゲルをマウスの腹部正中に皮下注射する。14日目にそのマウスを屠殺し、凝固したゲルを切除し、新たな血管の存在について分析する。化合物A〜Dを異なる用量で皮下注射する。0.5mLの細胞溶解溶液(ミズーリ州、セントルイスのSigma)が入っているマイクロ遠心チューブに対照および実験ゲルインプラントを入れ、乳棒で破壊する。その後、それらのチューブを一晩、4℃でインキュベートさせ、翌日、1,500×gで15分間、遠心分離する。細胞溶解産物の200μLアリコートをそれぞれのサンプルにつき1.3mLのDrabkin試薬溶液(ミズーリ州、セントルイスのSigma)に添加する。その溶液を、分光光度計を用いて540nmで分析する。光の吸収は、サンプルに含まれているヘモグロビンの量に比例する。
腫瘍増殖および転移−腫瘍インプラントのニワトリ漿尿膜(CAM)モデル:
このプロトコルは、以前に記載された(Kimら,2001)とおりである。簡単に言うと、1×107の腫瘍細胞をそれぞれのCAM(日齢7日の胚)の表面に置き、1週間インキュベートする。結果として生じた腫瘍を切除し、50mgフラグメントに切断する。これらのフラグメントを1群につき追加の10のCAMの上に置き、翌日、PBSに溶解した25μLの化合物(A〜D)で局所的に処理する。7日後、卵から腫瘍を切除し、それぞれのCAMについての腫瘍重量を決定する。図8は、CAMにおけるインビボ腫瘍増殖モデルに関与する段階を示す、概略的スケッチである。
癌細胞系統の腫瘍増殖速度、腫瘍血管新生、および腫瘍転移に対するTETRAC、TRIACおよび甲状腺ホルモンアンタゴニストの効果を判定することができる。
腫瘍増殖および転移−マウスにおける腫瘍異種移植モデル:
このモデルは、Kerrら,2000;Van Waesら、2000;Aliら,2001;およびAliら,2001により本発明者らの出版物に記載されたとおりであり、それらのそれぞれは、その全体が本明細書に参考として援用される。異なる用量での、および異なる腫瘍タイプに対するTETRAC、TRIACおよび他の甲状腺ホルモンアンタゴニストの抗癌効果を判定し、比較することができる。
腫瘍増殖および転移−転移の実験モデル:
このモデルは、本発明者らの最近の出版物(Mousa,2002;Amirkhosraviら,2003aおよび2003b(これらのそれぞれは、その全体が本明細書に参考として援用される))に記載されているとおりである。簡単に言うと、10%ウシ胎仔血清、ペニシリンおよびストレプトマイシン(ミズーリ州、セントルイスのSigma)を補足したRPMI 1640(カリフォルニア州、カールズバッドのInvitrogen)中で、B16マウス悪性黒色腫細胞(メリーランド州、ロックヴィルのATCC)および他の癌系統を培養する。細胞を集密度70%まで培養し、トリプシン−EDTA(Sigma)で回収し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄する。実験的転移については細胞を細胞数2.0×105/mLの濃度でPBSに再び懸濁させる。動物:この研究では、体重18〜21グラムのC57/BL6マウス(インディアナ州、インディアナポリスのHarlan)を用いる。すべての手順は、IACUCおよび施設のガイドラインに従う。異なる用量での、および異なる腫瘍タイプに対するTETRAC、TRIACおよび他の甲状腺ホルモンアンタゴニストの抗癌効力を判定し、比較することができる。
血管新生に対する甲状腺ホルモン類似体の効果:
T4は、CAMモデルにおいて血管新生指数の有意な増加(基底値より上の倍増)を誘導した。0.001〜1.0μMのT3または0.1〜1.0μMのT4は、1μgのFGF2による血管新生指数の2〜3倍増と比較して、血管新生指数の2〜2.5倍増を生じさせる最大効果を達成した(表1ならびに図1aおよび1b)。血管新生の促進に関するT4の効果(血管新生指数の2〜2.5倍増)は、T4からT3への転化を阻害するPTUの存在下または不在下で達成された。T3それ自体(91〜100nMで)が、CAMモデルにおいて強力な血管新生促進効果を誘導した。T4アガロースは、T4によって達成されるものに類似した血管新生促進効果を生じさせた。T4またはT4−アガロースのいずれの血管新生促進効果も、TETRACまたはTRIACによって100%遮断された。
最大下(submaximal)濃度のT4によるFGF2の血管新生促進活性の増進:
最大下濃度のT4とFGF2の併用は、FGF2またはT4いずれかの最大血管新生促進効果と同じレベルまでの血管新生指数の相加的増加を生じさせた(図2)。
CAMモデルにおけるT4およびFGf2の血管新生促進作用に対するMAPKカスケード阻害剤の効果:
T4またはFGF2のいずれの血管新生促進効果も0.8〜8μgのPD 98059によって完全に阻止された(図3)。
CAMモデルにおけるT4およびFGf2の血管新生促進作用に対する特異的インテグリンαVβ3アンタゴニストの効果:
T4またはFGF2のいずれの血管新生促進効果も10μgの特異的モノクローナル抗体LM609によって完全に遮断された(図4aおよび4b)。
CAMアッセイを用いて、様々な増殖因子ならびに血管新生の他のプロモーターまたは阻害剤の血管新生活性を評価した。本研究において、生理濃度でのT4は、血管新生促進性であり、FGF2のものと同等の活性を有することが判明した。PTUの存在は、T4の効果を低下させなかった。これは、T3を生成するためのT4の脱ヨード化が、このモデルでの前提条件でなかったことを示している。このモデルでは新たな血管の成長の出現に数日必要であるので、本発明者らは、甲状腺ホルモンの効果は、甲状腺ホルモンの核受容体(TR)の相互作用に完全に依存すると想定した。TRとその天然リガンド、T3との核内複合体形成を必要とするヨードサイロニンの作用は、定義上、ゲノム性であり、遺伝子発現を生じさせる結果となる。一方、このモデル系のT3(RTの天然リガンド)ではなくT4への優先的応答は、血管新生がT4によって原形質膜で非ゲノム的に開始され、遺伝子転写に必要な作用を生じさせる結果となる可能性を高める。T4の非ゲノム性作用は、幅広く記載されており、通常、原形質膜で開始され、シグナル伝達経路によって媒介され得る。それらは、ヨードサイロニンとTRの核内リガンド結合を必要としないが、遺伝子転写に干渉または遺伝子転写を調節し得る。ステロイドの非ゲノム性作用も十分に記載されており、ステロイドまたは他の化合物のゲノム性作用に干渉することが知られている。T4およびTETRACでまたはアガロース−T4で行った実験は、T4の血管新生促進効果が、原形質膜で開始される可能性が現実に非常に高いことを示した。本発明者らは、TETRACが、T4の膜で開始される効果を遮断するが、それ自体はシグナル伝達経路を活性化しないことを、他の箇所で示した。従って、これは、甲状腺ホルモンの非ゲノム性作用についてのプローブである。アガロース−T4は、細胞内部に出入しないと考えられ、本発明者らおよび他の研究者は、これを、可能性のある細胞表面で開始される前記ホルモンの作用のモデルを試験するために使用した。
これらの結果は、甲状腺ホルモンによるMAPKの活性化のもう1つの帰結が新たな血管の成長であることを示唆している。後者は、非ゲノム的に開始されるが、勿論、必従の複雑なゲノム転写プログラムを必要とする。
甲状腺ホルモンの周囲濃度は、比較的安定している。本発明者らが試験した時点で、CAMモデルは、甲状腺欠損状態であり、それ故、無損傷の生体を再生しない系と見なすことができる。本発明者らは、循環レベルのT4が、様々な他の調節因子とともに、VEGFおよびFGF2などの内因性血管新生因子への血管の感受性を調整する役割を果すことを提案する。
三次元血管新生アッセイ
フィブリンでコーティングされたマイクロキャリヤービーズを用いて培養したヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMEC)のインビトロ三次元出芽血管新生:
集密HDMEC(5〜10継代)をゼラチンコートCytodex−3ビーズとビーズ1個につき細胞40個の比率で混合した。細胞およびビーズ(24ウエルプレートの1ウエルにつき150〜200個のビーズ)を5mL EBM+15%正常ヒト血清で懸濁させ、最初の4時間は1時間ごとに穏やかに混合し、その後、CO2インキュベーターの中で一晩、放置して培養した。次の日、10mLの新たなEBM+5%HSを添加し、その混合物をもう3時間培養した。実験前、EC−ビーズの培養を点検し、その後、、500uLのPBSを24ウエルプレートの壁に添加し、100uLのEC−ビーズ培養溶液をそのPBSに添加した。ビーズの数を数え、EC/ビーズの濃度を計算した。
血管新生因子または試験因子を有するまたは有さないEBM培地中のフィブリノゲン溶液(1mg/mL)を調製した。陽性対照には、50ng/mL VEGF+25ng/mL FGF2を使用した。EC−ビーズをEBM培地で2回洗浄し、それらのEC−ビーズをフィブリノゲン溶液に添加した。実験は、それぞれの条件について三重反復で行った。EC−ビーズをフィブリノゲン溶液中で穏やかに混合し、2.5uLのヒトトロンビン(0.05U/uL)を1mLのフィブリノゲン溶液に添加し、300uLを直ちに24ウエルプレートのそれぞれのウエルに移した。そのフィブリノゲン溶液は、5〜10分の間に重合する。20分後、本発明者らは、EBM+20%正常ヒト血清+10ug/mL アプロチニンを添加した。そのプレートをCO2インキュベーターの中でインキュベートした。HDMECが、フィブリンゲルに侵入し、管を形成するには、約24〜48時間かかる。
ウシフィブリンゲルにおいてウシ肺動脈内皮細胞血管新生挙動を調査するために以前に設計されたマイクロキャリヤーインビトロ血管新生アッセイ[Nehls and Drenckhahn,1995a,b]を、三次元ECM環境でのヒト微小血管内皮細胞血管新生の研究用に改造した(図1および2)。簡単に言うと、以前に記載された[Fengら,1999]とおり単離したヒトフィブリノゲンを1mg/mLの濃度(pH7.4)でM199培地に溶解し、0.22マイクロメートルフィルタによる濾過によって滅菌した。5X M199培地および蒸留水中で滅菌Vitrogen 100を混合することによって、等張性1.5mg/mLコラーゲン溶液を調製した。そのpHを1N NaOHによって7.4に調整した。一定の実験では、増殖因子およびECMタンパク質(例えば、VEGF、bFGF、PDGF−BB、血清、ゼラチンおよびフィブロネクチン)を前記フィブリノゲンまたはコラーゲン溶液に添加した。その後、約500個のEC−ビーズを1mg/mLフィブリノゲンまたは1.5mg/mL コラーゲン溶液に添加した。その後、EC−ビーズ−コラーゲンまたはEC−ビーズ−フィブリノゲン懸濁液(EC−ビーズ500個/mL)を、24ウエルプレートで、300uL/ウエルで、平板培養した。EC−ビーズ−コラーゲン培養物を37℃でインキュベートしてゲルを形成した。0.5U/mLの最終濃度までトロンビンを添加すると、室温で5分未満にEC−ビーズ培養物のゲル化が発生した。ゲル化後、1mLの新たなアッセイ培地(HDMECのための20%正常ヒト血清を補足したEBM、または10%ウシ胎仔血清を補足したEBM)をそれぞれのウエルに添加した。血管新生反応を目視でモニターし、ビデオ画像取り込みによって記録した。具体的に言うと、毛細血管出芽形成を観察し、Nikon NP−2サーモスタットおよびSheldon #2004二酸化炭素フローミキサーを有するインキュベーターハウジングを装備したNikon Diaphot−TMD倒立顕微鏡(株式会社ニコン(Nikon Inc.);ニューヨーク州、メルヴィル)で記録した。Macintosh G3コンピュータに連結されたDage−MTI CCD72SビデオカメラおよびSony 12”PVM−122ビデオモニターから成るビデオシステムに前記顕微鏡をインターフェースで直接接続した。Adobe Photoshopを用いて様々な倍率で画像を取り込んだ。毛細血管出芽を有するEC−ビーズの数およびパーセントを決定することにより、出芽血管新生に対する血管新生因子の効果を視覚的に定量した。三重反復ウエルのそれぞれについて100個のビーズ(5から6のランダムな弱拡大視野)をそれぞれの実験条件について計数した。すべての実験は、少なくとも3回反復した。
細胞培養:
甲状腺ホルモンの核受容体がないアフリカミドリザル線維芽細胞系統、CV−1(バージニア州、マナッサスのATCC)を細胞数5000/cm2で平板培養し、10%(v/v)熱不活化FBS、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンおよび2mM L−グルタミンを補足したDMEM中で維持した。すべての培養試薬は、Invtrogen Corporation(カリフォルニア州、カールズバッド)から購入した。培養物は、5%CO2を有する37℃加湿チャンバの中で維持した。培地を3日ごとに交換し、それらの細胞系統を集密度80%で継代させた。実験処理のために、細胞を10cm細胞培養皿(ニューヨーク州、コーニングのCorning Incorporation)で平板培養し、24時間、10%FBS含有培地中で放置して増殖させた。その後、それらの細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で2回すすぎ、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびHEPESを補足した無血清DMEMを供給した。無血清培地中での48時間のインキュベーションの後、それらの細胞をビヒクル対照(0.4%ポリエチレングリコール[v/v]を有する0.004NのKOHの最終濃度)またはT4(10−7Mの最終濃度)で30分間処理し、その後、培地を回収し、酵素イムノアッセイによって遊離T4レベルを決定した。10−7Mの全T4とともにインキュベートした培養物は、10−9から10−10Mの遊離T4を有する。処理後、細胞を回収し、以前に記載されたとおり核タンパク質を準備した。
siRNAでの一過性トランスフェクション:
CV−1細胞を10cm皿で平板培養し(細胞数150,000/皿)、10%FBSを補足したDMEM中で24時間インキュベートした。それらの細胞をOPTI−MEM(テキサス州、オースチンのAmbion)中ですすぎ、siPORT(Ambion)を製造業者の説示に従って使用して、αV、β3またはαVとβ3両方に対するsiRNA(100nMの最終濃度)をトランスフェクトした。CV−1細胞の追加のセットにスクランブルsiRNAをトランスフェクトして、陰性対照として役立てた。トランスフェクションの4時間後、7mLの10%FBS含有培地をそれらの皿に添加し、培養物を一晩、インキュベートさせた。その後、それらの細胞をPBSですすぎ、無血清DMEM中に48時間置いた後、T4で処理した。
RNA単離およびRT−PCR:
トランスフェクションの72時間後、Qiagen(カリフォルニア州、バレンシア)からのRNeasyキットを製造業者の説示どおりに使用して、細胞培養物から全RNAを抽出した。Access RT−PCRシステム(ウィスコンシン州、マジソンのPromega)を製造業者の説示に従って使用して、200ナノグラムの全RNAを逆転写した。プライマーは、出版物に記載されている種特異的配列に基づくものであった:αV(アクセッション番号NM−002210)F−5’−TGGGATTGTGGAAGGAGおよびR−5’−AAATCCCTGTCCATCAGCAT(319bp産物)、β3(NM000212)F−5’−GTGTGAGTGCTCAGAGGAGおよびR−5’−CTGACTCAATCTCGTCACGG(515bp産物)、ならびにGAPDH(AF261085)F−5’−GTCAGTGGTGGACCTGACCTおよびR−5’− TGAGCTTGACMGTGGTCG(212bp産物)。RT−PCRは、Flexigene thermal cycler eom TECHNE(ニュージャージー州、バーリントン)で行った。95℃で2分間のインキュベーション後、以下の段階を25サイクル行った:94℃で1分間の変性、57℃で1分間のアニーリングおよび68℃で1分間の伸長を25サイクル。それらのPCR産物を、臭化エチジウムで染色した1.8%(w/v)アガロースゲルで視覚化した。
ウエスタンブロット法:
核タンパク質のアリコート(10μg/レーン)をLaemmliサンプル緩衝液と混合し、SDS−PAGE(10%分解用ゲル)によって分離し、ニトロセルロース膜に移した。1% Tween−20(TBST)を含有するTris緩衝食塩水中の5%脱脂乳で30分間ブロックした後、それらの膜を、5%の乳を含有するTBST中のリン酸化p44/42 MAPキナーゼに対するモノクローナル抗体(マサチューセッツ州、バーバリーのCell Signaling Technology)の1:1000希釈物とともに一晩、4℃でインキュベートした。TBST中での10分の洗浄を3回行った後、それらの膜を、5%の乳を含有するTBST中のDakoCytomation(カリフォルニア州、カーピンテリア)からのHRPコンジュゲート化ヤギ抗ウサギIg(1:1000希釈物)とともに、1時間、室温でインキュベートした。それらの膜をTBST中で5分間、3回洗浄し、化学発光(ECL、Amersham)によって免疫反応性タンパク質を検出した。VersaDoc 5000 Imaging system(カリフォルニア州、ハーキュリーズのBio−Rad)を使用して、バンド強度を決定した。
放射リガンド結合アッセイ:
2μgの精製αVβ3を指示濃度の試験化合物と混合し、30分間、室温で、インキュベートさせた。その後、[125I]−T4(2μCi)を添加し、その混合物をさらに30分、20℃でインキュベートさせた。それらのサンプルをサンプル緩衝液(50%グリセロール、0.1M Tris−HCl、pH6.8、およびブロモフェノールブルー)と混合し、24時間、45mAで、冷たくして5%塩基性非変性ゲルで泳動させた。その装置を分解し、ゲルを濾紙に載せ、プラスチックラップでラップし、フィルムに曝露した。VersaDoc 5000 Imaging systemを使用して、バンド強度を決定した。
ニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイ(αVβ3研究):
日齢10日のニワトリの胚をSPAFAS(コネチカット州、プレストン)から購入し、37℃、55%相対湿度でインキュベートした。皮下注射針を使用して、卵の尖っていないほうの端に小さな穴をあけ、その卵の広い側面の胚子被膜の無血管部分の直ぐ上に第二の穴をあけた。第一の穴に軽度の切開を施して気嚢をはずし、CAMを殻から落下させた。Dremelモデル・クラフトドリル(ウィスコンシン州、ラシーンのDremel)を使用して、その仮の気嚢の上の殻から約1.0cm2の窓を切り取って、CAMに接触できるようにした。無菌条件下で、No.1濾紙の滅菌ディスク(ニュージャージー州、クリフトンのWhatman)を3mg/mLの酢酸コルチゾンおよび1mMのプロピルチオウラシルで前処理し、空気乾燥させた。甲状腺ホルモン、対照溶媒、およびmAb LM609をそれらのディスクに塗布し、その後、乾燥させた。その後、それらのディスクをPBSに懸濁させ、成長中のCAMの上に配置した。3日のインキュベーションの後、フィルターディスクの真下のCAMを切除し、PBSですすいだ。それぞれの膜を35mmペトリ皿に入れ、SV6立体顕微鏡のもとで50倍で検査した。デジタル画像を取り込み、Image−Proソフトウェア(Mediacybemetics)で解析した。そのフィルターディスクに相当する円形領域内に入っている血管分枝点の数を数えた。8〜10個のCAM組織標本のそれぞれから1つの画像を、それぞれの条件について計数し、加えて、それぞれの実験を3回行った。
(実施例1)
血管新生に対する甲状腺ホルモンの効果:
図1Aにおいて見られ、図1Bに要約されているように、L−T4とL−T3の両方が、CAMアッセイにおいて血管新生を増進した。0.1μmol/Lの培地中の生理的全濃度でのT4は、血管枝の形成を2.5倍増加させた(p<0.001)。T3(1nmol/L)も血管新生を2倍刺激した。細胞の5’−モノ脱ヨード酵素(5’−monodeiodinase)によるT4のT3への転化のため、T4が唯一有効であるという可能性は、脱ヨード酵素阻害剤PTUがT4によって生じる血管新生に対して効果を有さないという発見によって除外された。CAMモデルでは使用したすべてのフィルターディスクにPTUを塗布した。それ故、T4およびT3は、増殖因子のアッセイについて以前に標準化されたCAMモデルにおいて、新たな血管枝の形成を促進する。
(実施例2)
T4−アガロースおよびTETRACの効果:
本発明者らは、T4−アガロースが、T4と同様に原形質膜において開始される細胞シグナル伝達経路を刺激すること、ならびにT4の原形質膜への結合を阻害することが以前に知られている脱アミノ化ヨードチロニン類似体、TETRAC、によって、T4およびT4−アガロースの作用が遮断されることを以前に証明した。CAMモデルにおいて、TETRAC(0.1μmol/L)の添加は、T4の作用を阻害した(図2A)が、単独でのTETRACは、血管新生に対して効果を有さなかった(図2C)。0.1μmol/Lのホルモン濃度で添加したT4−アガロースの作用は、CAMモデルにおいて、T4のものと同等であった(図2B)が、このT4−アガロースの効果もTETRACの作用によって阻害された(図2B;2Cに概要)。
(実施例3)
最大下濃度のT4によるFGF2の血管新生促進活性の増進:
血管新生は、ポリペプチド増殖因子の関与を通常は必要とする複雑なプロセスである。CAMアッセイには、血管成長の顕在化に少なくとも48時間必要である。それ故、このモデルにおける甲状腺ホルモンの顕性原形質膜効果は、このホルモンへの複雑な転写応答を生じさせる可能性が高い。従って、本発明者らは、FGF2がこのホルモン応答に関与するかどうか、およびこのホルモンが、生理レベル以下のこの増殖因子の効果を強化するかどうかを判定した。T4(0.05μmol/L)およびFGF2(0.5μmol/L)は、個々に、血管新生を小規模に刺激した(図3)。この最大下濃度のFGFの血管新生効果は、生理濃度以下のT4によって、1.0μgのFGF2単独により生ずるレベルへと増進された。従って、最大下ホルモンおよび増殖因子濃度の効果は、相加的であるようである。血管新生に対する甲状腺ホルモン刺激におけるFGF2の役割をより正確に定義するために、FGF2に対するポリクローナル抗体を、FGF2またはT4のいずれかで処理したフィルターに添加し、72時間後に血管新生を測定した。図4は、FGF2によるまたは外因性FGFの不在下でT4による刺激を受けた血管新生をFGF2抗体が阻害したことを明示しており、これは、CAMアッセイにおけるT4の効果が、増加したFGF2発現によって媒介されたことを示唆している。対照IgG抗体は、CAMアッセイにおいて刺激および阻害効果を有さなかった。
(実施例4)
甲状腺ホルモンによる内皮細胞からのFGF2放出の刺激:
T4(0.1μmol/L)またはT3(0.01μmol/L)のいずれかで3日間処理したECV304内皮細胞の培地中のFGF2のレベルを測定した。下の表において見られるように、T3は、前記倍地中のFGF2濃度を3.6倍刺激し、これに対して、T4は、1.4倍の増加を生じさせた。この発見は、少なくとも一部は、内皮細胞にとって利用可能な増殖因子の濃度を上昇させることによって、甲状腺ホルモンがFGF2の血管新生効果を増進させることができることを示している。
ECV304内皮細胞からのFGF2の放出に対するT4およびT3の効果
*P<0.001、ANOVAによりT3処理サンプルと対照サンプルを比較;
†P<0.05、ANOVAによりT4処理サンプルと対照サンプルを比較。
(実施例5)
甲状腺ホルモンおよびFGF2による血管新生の刺激におけるERK1/2シグナル伝達経路の役割:
T4が細胞に対して非ゲノム性効果を発揮する経路は、MAPKシグナル伝達カスケードであり、特に、ERK1/2活性化に関するものである。本発明者らは、T4が上皮増殖因子によってERK1/2活性化を増進させることを知っている。FGF2発現の甲状腺ホルモンによる刺激におけるMAPK経路の役割を、PD 98059(2から20μmol/L)、チロシン−トレオニンキナーゼMAPKキナーゼ−1(MEK1)およびMEK2)によるERK1/2活性化の阻害剤、の使用によって調査した。表中のデータは、PD 98059が、T4またはT3のいずれかで処理されたECV304内皮細胞からのFGF2放出の増加を有効に遮断することを明示している。ERK1/2阻害の並行試験をCAMアッセイで行った。代表的結果を図5に示す。それぞれ生理濃度でのT3とT4の併用は、血管分枝を2.4倍増加させ、この効果は、3μmol/LのPD 98059によって完全に遮断された(図5A)。枝の形成に対するFGF2刺激(2.2倍)もERK1/2活性化のこの阻害剤によって有効に遮断された(図5B)。従って、甲状腺ホルモンの血管新生促進効果は、原形質膜で開始し、ならびに内皮細胞からのFGF2放出を促進するためのERK1/2経路の活性化を必要とする。ERK1/2活性化は、さらに、FGF2シグナルを伝達するためにおよび新たな血管の形成を生じさせるために必要である。
(実施例6)
MAPK活性化に対する甲状腺ホルモンおよびFGF2の作用:
ERK1/2 MAPKのリン酸化および核移行の刺激を、T4(10−7mol/L)で15分から6時間処理したECV304細胞において研究した。細胞核におけるリン酸化ERK1/2の出現は、T4処理から15分以内に発生し、30分で最大レベルに達し、6時間でまだ顕性であった(図6A)。このホルモンの効果は、PD 98059によって阻害された(図6B)。この化合物はMAPKキナーゼによるERK1/2のリン酸化を遮断するため、予測される結果であった。伝統的なプロテインキナーゼC(PKC)−α、PKC−β、およびPKC−γ阻害剤CGP41251も、本発明者らが他の細胞系統においてT4で観察したのと同様に、これらの細胞におけるMAPK活性化に対するこのホルモンの効果を遮断した。甲状腺ホルモンは、幾つかのサイトカインおよび増殖因子、例えばインターフェロン−γ13および表皮増殖因子、の作用を増進する。ECV304細胞において、T4は、15分の共インキュベーションにおいてFGF2によって生じたMAPK活性化を増進した(図6C)。ECV304細胞においてなされた観察をCAMモデルに当てはめて、本発明者らは、このホルモンが血管新生を誘導する複雑なメカニズムが、FGF2の内皮細胞放出、および血管新生に対する放出されたFGF2のオートクリン効果の増進を含むことを提案する。
(実施例7)
甲状腺ホルモンで処理したECV304細胞におけるRT−PCR:
T4の血管新生促進作用のメカニズムに関する研究において取り組んだ最後の問題は、そのホルモンがFGF2遺伝子発現を誘導できるかどうかであった。内皮細胞をT4(10−7mol/L)で6から48時間処理し、FGF2およびGAPDH RNAのRT−PCRに基づく推定(cDNA測定から推断;図7)を行った。GAPDH含量について補正したFGF2 cDNAの存在度の増加は、ホルモン処理から6時間までに顕性となり、48時間までさらに増進された。
(実施例8A)
(糖尿病または非糖尿病)マウスにおける網膜新生血管形成モデル:
網膜新生血管形成に対する試験品の薬理活性を評価するために、乳仔マウスを高酸素環境に7日間曝露し、回復させ、それによって網膜に対して新たな血管の形成を刺激する。試験品を評価して、網膜新生血管形成が抑制されたかどうかを判定する。網膜をヘマトキシリン−エオシン染色法で、および新生血管形成を明示する少なくとも1つの染色剤(通常はセレクチン染色剤)で検査する。他の染色剤(例えば、PCNA、PAS、GFAP、血管新生のマーカーなど)を使用してもよい。このモデルの概要は、下記である:
動物モデル
・乳仔マウス(P7)およびそれらの母畜を7日間、超酸素化環境(70〜80%)に置く。
・P12において、マウスをその酸素化環境から取り出し、正常環境に置く。
・マウスを5から7日間、回復させる。
・その後、マウスを屠殺し、目を回収する。
・目を、適宜、冷凍または固定する。
・目を適切な組織化学染色剤で染色する。
・目を適切な免疫組織化学染色剤で染色する。
・血液、血清または他の組織を回収することができる。
・目を、特に微小血管改変に関して、任意のおよびすべての観察所見について検査する。新生血管成長を半定量的に採点する。画像解析も利用可能である。
(実施例8B)
甲状腺ホルモンおよび糖尿病性網膜症:
J de la Cruzら,J Pharmacol Exp Ther 280:454−459,1997に開示されているプロトコルを、ストレプトゾトシン(STZ)によって誘導された実験的糖尿病および糖尿病性網膜症を有するラットへのTETRACの投与のために用いる。エンドポイントは、増殖性網膜症(血管新生)の出現のTETRACによる阻害である。
(実施例9A)
甲状腺ホルモンおよび類似体の新規医薬ポリマー製剤を使用する創傷治癒および止血用治療薬:
本発明は、固定化甲状腺ホルモン類似体、好ましくはT4類似体、塩化カルシウムおよびコラーゲンを含む、新規創傷治癒および止血用治療薬も含む。この新規製剤は、静脈性出血と動脈性出血の両方を有意に制御し、出血時間を減少させ、フィブリン/血小板血栓を生じさせ、低レベルのコラーゲンの存在下で血小板誘導創傷治癒因子を持続的に放出し、安全である。こうした創傷治癒および止血用包帯剤の開発は、Combat Casualty Careにおける短期および長期使用のために非常に価値があるはずである。コラーゲンおよび塩化カルシウムを含有するヒドロゲルまたは包帯剤での固定化L−チロキシン(T4)および球状六糖類の医薬製剤が最適であり得る。ヒドロゲルまたは包帯剤でのこの新規創傷治癒および止血用(WH製剤)治療薬は、殺菌剤の追加も含むことがある。
ポリマーにコンジュゲートさせたまたはアガロースに固定化されたL−チロキシンは、接着細胞表面受容体(インテグリンαVβ3)の活性化による血管新生の強力な刺激を明示した(前記活性化が、細胞内シグナリング事象の活性化をもたらし、そしてまたそれが、様々な増殖因子生産のアップレギュレーションをもたらす)。加えて、固定化T4は、上皮細胞、線維芽細胞およびケラチン生成細胞の移動を誘導する。T3および他の類似体ではなく、固定化T4は、コラーゲンによって誘導される血小板凝集および分泌を増進させ、これは、被験体自身の血小板血栓の形成を促進するであろう。さらに、固定化T4は、白血球移動も促進し、これは、感染と戦うために非常に重要であり得る。従って、固体化T4は、身体が損傷血管を再生するためにより多くの化合物を利用できるように助けることができ、およびまた、創傷部位においてフリーラジカルを作る白血球の量を増加させた。フリーラジカルは、創傷からの潜在的病原菌の一掃に役立つ。
それ故、T3、DIPTAおよびGC−1ではなく、T4またはT4−アガロース(10〜100nM)は、血小板凝集および分泌(脱顆粒化)の増進に有効である。従って、10mMの塩化カルシウムとの組み合わせでの、およびコラーゲンを伴うまたはコラーゲンを伴わない、T4(またはその類似体およびポリマーコンジュゲーション、例えば、T4−アガロース)が、創傷治癒に好ましい。図23A〜E参照。
トロンボエラストグラフィー:
トロンボエラストグラフィー(TEG)は、1948年のHartertによるその開発以来、様々な病院環境で使用されてきた。TEGの原理は、血餅の物理的粘弾特性の測定に基づく。コンピュータートロンボエラストグラフィー(TEG;Model 3000、イリノイ州、スコーキのHaemoscope)を使用し、表面間に1mmの隙間を有する、振動プラスチック円筒形キュベット(「カップ」)と同軸吊下型固定ピストン(「ピン」)において、37℃で血餅形成をモニターした。前記カップは、4.5秒ごとにいずれかの方向に振動し、サイクル中に1秒間の静止期間があり、結果として0.1Hzの振動数および秒当たり0.1の最大剪断速度を生じる。前記ピンは、トルク変換器として動作する捩り針金によって吊り下げられている。血餅形成に伴って、フィブリン線維がカップをピンに物理的に連結させ、そして血餅の粘弾性による影響を受ける(そのピンに伝達される)と、そのカップの回転が、IBM互換性パーソナルコンピューターおよびカスタマイズされたソフトウェア(イリノイ州、スコーキのHaemoscope Corp.)を使用してオンライン表示される。(そのカップの振動に関連した)そのピンが受けるトルクを、時間の関数としてプロットする。
血餅の最初の開始のための潜時(R)、約20mmの振幅の固定した血餅の堅固さが開始するまでの時間(k)、角度によって測定される血餅発達の動態(α)、および血餅の最大振幅(MA)などの様々なパラメータを測定することによって、TEGは凝固を評価する。パラメータAによって、MAの任意の点でのトレーシングの幅が測定される。振幅A(単位:mm)は、血餅の強度および弾性の関数である。TEGトレーシングでの振幅は、血餅の剛性の尺度である。血餅によって達成されるピーク強度または剪断弾性率(G)は、血餅の剛性の関数であり、TEGトレーシングの最大振幅(MA)から計算することができる。
以下のパラメータをTEGトレーシングから測定した:
・R、反応時間(ゲル化時間)は、(約2mmの振幅の測定可能な剛性を伴う)3次元フィブリンゲル網目構造の樹立前の潜時を表す。
・最大振幅(MA(単位:mm))は、血餅によって顕在化されるピーク剛性である。
・剪断弾性率または血餅強度(G、ダイン/cm2)は、
G=(5000A)/(100−A)
によって定義される。
血餅は、血管損傷部位での剪断応力に耐えなければならないので、血餅の堅固さは、インビボでの血栓形成および止血についての重要なパラメータである。血餅形成および退縮に関与する様々な因子(凝固活性化、トロンビン生成、フィブリン形成、血小板活性化、血小板−フィブリン相互作用、およびフィブリン重合)に対する種々の薬理的介入の効力を、TEGによって評価することができる。ヒト全血においてコンピュータTEGによって測定された種々の血餅パラメータに対するエンドトキシン(0.63ug)、Xa(0.25nM)、トロンビン(0.3mU)およびTF(25ng)の効果を表3に示す。
血液サンプリング:
Human Investigation Committee of William Beaumont Hospitalによって承認されたプロトコルのもとで、同意を得たボランティアから採血した。ツー・シリンジ法を用いて、21ゲージ翼状針によってサンプルを採取し、最初の3mLの血液を廃棄した。全血(WB)を、3.8%クエン酸三ナトリウムが入っているシリコーン処理済Vacutainerチューブ(ニュージャージー州、ラザフォードのBecton Dickinson)に、1:9(v/v)のクエン酸塩:全血比が維持されるように、回収した。採血から3時間以内にTEGを行った。カルシウムを添加して1〜2.5mMに戻し、その後、異なる刺激物質を添加した。使用した濃度での塩化カルシウム、それ自体は、血餅形成および血餅強度に対して最小の効果しか示さなかった。
血餅形成は、トロンビンによって誘導されるフィブリノゲンからのフィブリノペプチドAの切断によって開始される。結果として生ずるフィブリンモノマーは、自然に重合してフィブリル・ストランドを形成し、これが、直線的に伸長し、分枝し、側方会合して、フィブリン線維の三次元網目構造を形成する。網目構造のユニークな特性は、変形剪断応力に耐えることができる硬質弾性固体として動作することである。この耐変形性は、弾性率−血餅強度の指数−によって測定することができる。血餅形成開始までの時間のみに基づく(プロトロンビン時間および部分的トロンボプラスチン時間のような)従来の凝固試験とは異なり、TEGは、定量的情報の獲得を可能にし、それによって、血餅により達成される最大強度の測定が可能となる。GPIIb/IIIa受容体により、血小板は、フィブリン(フィブリノゲン)に結合し、血餅の粘弾特性を調節する。本発明者らの結果は、TF−TEGでの血餅強度が明確に血小板濃度の関数であることを明示し、血小板は、剪断下で血餅強度を〜8倍増大させた。異なる血小板GPIIb/IIIaアンタゴニスト(クラスI対クラスII)は、剪断下、TF−TEGを用いて、血小板−フィブリン媒介血餅強度を抑制する際にまったく異なる効力で動作した。
統計解析:
データは、平均±SEMとして表す。適用できるときには、スチューデントt検定またはANOVAを用いるペアまたはグループ分析によって、データを分析した。差は、P<0.05で有意と見なした。
TEGを用いるクエン酸塩添加ヒト全血における血餅動態に対する塩化カルシウム対組織因子の効果
データは、平均値±SEMを表す、n=4、
*P<0.01。
インピーダンス技術を用いる全血における血小板凝集および脱顆粒化:
Chrono−Log CorporationからのModel 560 Whole−Blood Aggregometerおよび関連Aggro−Link Softwareを、この研究では用いた。2つの電極を希釈血の中に配置し、電気インパルスを一方から他方に送る。血小板が電極の周りに凝集すると、Chrono−Logは、抵抗のオームでの電気信号のインピーダンスを測定する。
血液サンプリング:
17歳と21歳の間の年齢の健常なドナーからの全血を、3.8%緩衝クエン酸ナトリウム(ニュージャージー州、ラザフォードのBecton Dickinson)が入っている4.5ミリリットルVacutainerバイアルに毎日採取した。その血液は、血小板の寿命を延長するために揺動装置で保持した。実験は、瀉血から5時間以内に行った。
手順:対照については、500マイクロリットルの全血、500マイクロリットルの0.9%食塩水、および磁気攪拌棒を混合してキュベットに入れ、5分間、37摂氏度に加熱した。閾値下凝集を5マイクロリットルの1〜2μg/mL コラーゲンで誘導し、それを血小板凝集計で6〜7分間測定した。コラーゲンによって誘導された凝集および分泌に対するT4、T4−アガロース対T3および他の甲状腺ホルモン類似体の効果を検定した。Ingerman−Wojenski C,Smith JB,Silver MJ.Evaluation of electrical aggregometry:comparison with optical aggregometry,secetion of ATP,and accumulation of radiolabeledplatelets.J Lab Clin Me.1983 Jan;101(1)44−52。
細胞移動アッセイ:
Mousaらの方法によって採血した血液からヒト顆粒球を単離し、以前に記載されたとおり細胞移動アッセイを行った(Cell Science,19(3):179−187,1997における方法、およびCell Science 19(3):189−195,1997における方法)。簡単に言うと、8μmの孔径を有するニューロプローブ96ウエル使い捨て走化性チャンバを使用する。このチャンバは、ケモカイン、サイトカインまたは細胞外マトリックスタンパク質の勾配に向かう細胞移動を定量することができる。5μLの試験薬、例えばフラボノイドまたは甲状腺ホルモン誘導体、が入っているプロピレンプレートに細胞懸濁液(45μLの2×106)を添加し、10分間、22℃でインキュベートする。0.001〜0.1μMでのT3/T4(33μL)を伴うまたは伴わないIL8(0.1〜100ng)を、使い捨て走化性チャンバの下方ウエルに添加し、その後、予め組み立てられたフィルターを使用してそのチャンバを組み立てる。25μLの細胞/試験薬懸濁液を上方フィルターウエルに添加し、その後、加湿細胞培養インキュベーターにおいて一晩(37℃、5%CO2で22時間)インキュベートする。その一晩のインキュベーションの後、移動しなかった細胞および過剰な培地を、12チャネルピペットおよびセルスクレーパーを使用して穏やかに除去する。その後、フィルターをリン酸緩衝食塩水(PBS)中で2回洗浄し、PBS緩衝液中の1%ホルムアルデヒドで固定する。移動した細胞の膜にTriton X−100(0.2%)を浸透させ、その後、PBSで2〜3回洗浄する。移動した細胞のアクチンフィラメントをローダミンファロイジン(12.8IU/mL)で30分間(22℃)染色する。ローダミンファロイジンは、毎週、新しくし、4℃で光から保護して保存する場合は3日まで再利用する。Cytoflour IIマイクロフィルター蛍光計(530 励起/590 放射)を用いる蛍光検出によって、走化性を定量的に判定する。すべての細胞処理およびその後の洗浄は、独自に設計された処理/洗浄ステーション(Cell Science,19(3):179−187,1997における方法)を使用して行う。この技術は、細胞移動の正確な定量を可能にし、アッセイ間およびアッセイ内のばらつきが最小の、再現性のある結果をもたらす。
細胞移動アッセイ:
これらのアッセイは、8μmの孔径を有するNeuroprobe 96ウエル使い捨て走化性チャンバを使用して行った。このチャンバは、ビトロネクチンまたはオステオポンチンのいずれかの勾配に向かう細胞移動を定量することができる。EDTA/トリプシン(0.01%/0.025%)を使用し、標準化された方法に従って、培養細胞を取り出した。取り出した後、細胞を2回洗浄し、EBM(内皮細胞基礎培地、Clonetics Inc.)に再び懸濁させた(2×106/mL)。0.0125〜100μg/mLでのビトロネクチンまたはオステオポンチン(33μL)を使い捨て走化性チャンバの下方ウエルに添加し、その後、予め組み立てられたフィルターを使用して組み立てた。異なる濃度の5μLの試験薬が入っているポリプロピレンプレートに細胞懸濁液(45μL)を添加し、10分間、22℃でインキュベートした。25μLの細胞/試験薬懸濁液を上方フィルターウエルに添加し、その後、加湿細胞培養インキュベーターにおいて一晩(37℃で22時間)インキュベートした。その一晩のインキュベーションの後、移動しなかった細胞および過剰な培地を、12チャネルピペットおよびセルスクレーパーを使用して穏やかに除去した。その後、フィルターをPBS(Ca+2およびMg+2を含まない)中で2回洗浄し、1%ホルムアルデヒドで固定した。移動した細胞の膜にTriton X−100(0.2%)を浸透させ、PBSで2〜3回洗浄した。移動した細胞のアクチンフィラメントをローダミンファロイジン(12.8IU/mL)で30分間(22℃)染色した。ローダミンファロイジンは、毎週、新しくし、4℃で光から保護して保存する場合は3日まで再利用した。Cytoflour II(530 励起/590 放射)を用いる蛍光検出によって、走化性を定量的に判定した。すべての細胞処理およびその後の洗浄は、独自に設計された処理/洗浄ステーションを使用して行った。このステーションは、それぞれが30mL量の容積を有する、6つの個別試薬ユニットから成るものであった。個別ユニットに次の試薬のうちの1つを充填した:PBS、ホルムアルデヒド、Triton X−100、またはローダミン−ファロイジン。この技術を用いて、フィルターを適切な溶液に穏やかに浸漬し、こうして移動細胞の損失を最少にした。この技術は、細胞移動の最大定量を可能にし、アッセイ間およびアッセイ内のばらつきが最小の、再現性のある結果をもたらした。
細胞外マトリックスタンパク質ビトロネクチンへの移動
LC=下方チャンバ、UC=上方チャンバ
他の強力で特異的avb3アゴニスト、例えばLC609およびSM256でも同様のデータが得られた。
(実施例9b)
インビトロヒト上皮および線維芽細胞創傷治癒:
このインビトロ2次元創傷治癒法は、Mohamed S,Nadijcka D,Hanson,V.Wound healing properties of cimetidine in vitro.Drug Intell Clin Pharm 20:973−975;1986(これは、その全体が本明細書に参考として援用される)に記載されているとおりである。加えて、本発明者らの研究室において既に確立されている3次元創傷治癒法を、この研究において利用する(下記参照)。データは、甲状腺ホルモンによる創傷治癒の強力な刺激を示している。
ヒト皮膚線維芽細胞のインビトロ3D創傷治癒アッセイ:
段階1:収縮コラーゲンゲルの調製:
1)24ウエルプレートを350uLの2%BSAで室温で2時間、コーティングする。
2)集密度80%のNHDF(正常ヒト皮膚線維芽細胞、5〜9継代)をトリプシン処理し、増殖培地で中和し、遠心分離し、PBSで1回洗浄する。
3)コラーゲン−細胞混合物を調製し、穏やかに、常に氷上で混合する:
保存溶液 最終濃度
5×DMEC 1×DMEM
3mg/mL ビトロゲン 2mg/mL
ddH2O 最適
NHDF 細胞数2×10〜5/mL
FBS 1% 。
4)24ウエルプレートから2%BSAを吸引し、コラーゲン−細胞混合物350uL/ウエルを添加し、37℃のCO2インキュベーターにおいてそのプレートをインキュベートする。
5)1時間後、DMEM+5%FBS培地 0.5mL/ウエルを添加し、10uL チップを使用し、それぞれのウエルの縁からコラーゲンゲルを剥離させ、その後、2日間、インキュベートする。線維芽細胞がコラーゲンゲルを収縮させるだろう。
段階2:3Dフィブリン創傷血餅の作製および負傷者へのコラーゲン培養物の埋め込み
1)試験試薬を伴うまたは伴わないフィブリノゲン溶液(1mg/mL)を調製する。エッペンドルフチューブのそれぞれのウエルに350uLのフィブリノゲン溶液。
保存溶液 最終濃度
5×DMEC 1×DMEM
フィブリノゲン 1mg/mL
ddH2O 最適
試験試薬 最適濃度
FBS 1%または5%
2)はさみでそれぞれの収縮コラーゲンゲルを中央から切り取る。そのゲルをPBSで洗浄し、24ウエルプレートのそれぞれのウエルの中心にそのゲルを移す。
3)1.5uLのヒトトロンビン(0.25U/uL)をそれぞれのチューブに添加し、十分に混合し、その後、その溶液をコラーゲンゲルの周囲に添加する。その溶液は、10分間で重合するであろう。20分後、試験薬を伴うまたは伴わないDMEM+1%(または5%)FBS、450uL/ウエルを添加し、そのプレートを37℃のCO2インキュベーターにおいて5日以下の間インキュベートする。各日、写真を撮る。
糖尿病ラットにおけるインビトロ創傷治癒:
糖尿病ラットにおける緊急切開創傷モデルを使用して、甲状腺ホルモン類似体およびそのコンジュゲート形の効果を検定する。創傷閉鎖速度、破断強度分析および組織学を第3〜21日に定期的に行う。
方法:
この研究では、動物(マウスおよびラット)に2つの小さな刺創をつける−一方の創傷にWHを塗布し、他方は対照として食塩溶液で覆った。でなければ、創傷を放置して、自然治癒させる。
それらの動物を負傷させた5日後に安楽死させる。治療した創傷および未治療の創傷の端から、小面積の皮膚−1から1.5ミリメートル−を切除する。
創傷閉鎖および創傷閉鎖までの時間を判定する。加えて、創傷の肉芽組織におけるテネイシン(結合組織の構築に役立つタンパク質)のレベルを判定する。肉芽組織(すなわち、創傷が治癒するにつれて新たな毛細血管および結合組織を通常は形成する、粗い、ピンクがかった組織)の質も判定する。
材料および方法:
慢性肉芽創は、当該技術分野において周知の方法によって作ることができる。体重300から350グラムの雄Sprague Dawleyラットを、使用前、1週間、本発明者らの施設に馴化させる。腹腔内ネンブタール麻酔(35mg/kg)のもと、ラットの背の毛を剃り、脱毛する。動物たちを個々にケージに入れ、餌および水を自由に与える。すべての実験は、Department of Veterans Affairs Medical Center(ニューヨーク州、オールバニー)のAnimal Care and Use Committeeのガイドラインに従って行った。
ヒト慢性肉芽創との比較でのこの創傷の組織学的特性付けは、以前に行われている。次に、64匹のラットを8つの治療群(n=8/群)に分ける。第5、9、12、15および18日に動物をビヒクル(ビヒクル対照)の局所塗布で治療する。このビヒクル対照は、L−チロキシンのコンジュゲーションで使用される、アガロース(第1群)またはポリマー形(第2群)であり得る。10μgの球状六糖類および10mMの塩化カルシウムの存在下の1、10、100μg/cm2のT4−アガロース(第3〜5群)またはT4−ポリマー(第6〜8群)を第5、9、12、15および18日に局所塗布して、創傷を治療した。すべての創傷を露出した状態にしておく。48時間ごとに創傷の輪郭をアセテートシートにトレースし、コンピューターデジタル面積測定を用いて面積計算を行うことができる。
その後、第19日に創傷の頭側、中央および尾側の末端から肉芽組織の3つの全層横断ストリップを採取し、10パーセント緩衝ホルマリンで固定する。それぞれの検体から横断切片(5μm)を取り、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色する。肉芽組織の厚さは、接眼マイクロメーターで弱視野で推定することができる。肉芽組織の表在炎症層の直ぐ下は、強拡大視野によって検査する。肉芽組織のそれぞれのストリップから、5つの隣接する強拡大視野の写真を撮り、コードする。その後、これらのコマの拡大ポイントを盲検式で組織分析に用いる。線維芽細胞、「円形」細胞(マクロファージ、リンパ球および好中球)、および毛細血管を計数する。加えて、それぞれの切片の細胞充実度を1(減少した細胞数)から5(高細胞性)のスケールで充実度について採点する。
統計解析:
連続面積測定値を時間に対してプロットした。それぞれの動物のデータについて、Gompertz方程式を当てはめる(典型的に、r2=0.85)。この曲線を使用して、創傷半減期を推定することができる。生命表分析およびWilcoxon順位検定を用いて、群間比較を行う。これらの統計解析は、パーソナルコンピューターでSAS(SAS/STAT Guide for Personal Computers,Version 6 Edition,Cary North Carolina,1987,p1028)およびBMDP(BMDP Statistical Software Manual,Los Angeles,BMDP Statistical Software,Inc.1988)パッケージを使用して行う。
異なる治療群の細胞数をプールし、一元配置分散分析を用いて分析する。群間差の事後分析は、Tukey検定(すべてペアでの多重比較検定)を用いて行うことができ、p<0.05を有意と見なす。Sigma Stat統計用ソフトウェア(カリフォルニア州、コルテマデラのJandel Scientific)をデータ解析に用いる。
(実施例10)
心筋梗塞の齧歯動物モデル:
心筋梗塞の冠動脈結紮モデルを用いて、ラットにおける心臓機能を調査する。ラットを最初にキシラジンおよびケタミンで麻酔し、適切な麻酔が達成された後、気管に挿管し、陽圧換気を開始する。その動物を仰臥位にし、その四肢をゆるくテープで留め、胸骨正中切開を行う。心臓をそっと肱置し、左前下行冠動脈の周囲に6−O糸を堅く結ぶ。心臓を迅速に胸部に戻し、開胸切開部を3−O巾着縫合で閉じ、その後、結節縫合または外科手術用クリップで皮膚を閉じる。動物を温度調節加温パッドに載せ、回復する間、綿密に観察する。必要な場合には、酸素補充および心肺蘇生術を施す。回復後、ラットを動物管理施設に戻す。ラットにおけるこうした冠動脈結紮は、大きな前壁心筋梗塞を生じさせる。この手順の48時間死亡率は、50%もの高さであり得、この手順によって生じる梗塞のサイズは可変的である。これらの考慮事項に基づいて、実験に先立ち、下で論じる甲状腺ホルモン送達の2つのモデルを比較できるように大きな梗塞を有する16〜20匹のラットを得るには、約400匹のラットが必要である。
無損傷動物における甲状腺ホルモンの全身送達が、冠動脈結紮前または後に薬効(心エコー検査および血行動態測定によって評価される血行動態異常の程度、ならびに梗塞サイズの減少を含む)をもたらすことを証明するために、これらの実験を計画する。転帰測定は、梗塞後3週間の時点で行う。一部のラットは、梗塞を有さない場合があり、または小さな梗塞しか生じないが、これらのラットは、正常な心エコー図および正常な血行動態(左心室拡張周期圧<8mmHg)によって特定することができる。
甲状腺ホルモン送達:
2つの送達アプローチがある。第一の場合、甲状腺ホルモンを梗塞周囲心筋に直接注射する。正常心筋と虚血心筋との区分は、緊急開胸縫合中に容易に特定できるので、このアプローチは、血管新生効果を検出するために十分なホルモン送達をもたらす。
第一のモデルは、冠動脈バイパス術を受ける患者に有用であり、1回の局所注射が血管新生を誘導するという原理の証明となるが、第二のモデルを用いる、より広いアプローチも、用いることができる。第二のモデルでは、心筋梗塞誘導前に麻酔されたラットの左心室に頚動脈経由で逆行性カテーテルを配置する。あるいは、大動脈の大動脈弁の直ぐ上の直接穿刺を行う。次に、冠血管の起始部の上の大動脈を数秒間、突然閉鎖させ、それにより等容性収縮を生じさせることにより、甲状腺ホルモンの冠血管内注射をシミュレートする。その後、大動脈狭窄直後に甲状腺ホルモンを左心室または大動脈に注射する。結果として生ずる等容性収縮は、下方の冠血管に血液を進ませて、全心筋に甲状腺ホルモンを潅流させる。この手順は、効果が得られるまで必要に応じて何度も行うことができる。注射数は、使用される用量および新たな血管の形成に依存する。
心エコー検査法:
麻酔していないラットにおいて2DおよびMモードの心エコー図を得るための方法を開発した。左心室の寸法、気嚢、壁厚および壁運動の再現可能な信頼できる測定を行うことができる。甲状腺ホルモン投与に関して偏りを無くすために盲検式で測定を行う。
血行動態:
左心室障害度を判定するために、血行動態測定を用いる。ラットをイソフルランで麻酔する。右前首に沿った切開により、右頚動脈および右頚静脈を単離し、圧力変換カテーテル(Millar、SPR−612、1.2Fr)を挿入する。その後、以下の測定を行う:心拍数、収縮期および拡張期BP、平均動脈圧、左心室収縮期および拡張終期圧、ならびに+および−dP/dt。左心室拡張終期圧は特に有用であり、その漸増的上昇は、心筋障害度と相関する。
梗塞サイズ:
TTC法を用いて梗塞サイズの測定のためにラットを屠殺する。
体型測定:
梗塞領域、梗塞周囲領域、および梗塞に対向するスペアの心筋(通常は後壁)における微小血管密度[微小血管数/mm2]を測定する。Image Analysisソフトウェアを用いて、それぞれのラットから、横切開筋細胞に関する7〜10の顕微鏡強拡大視野[×400]をデジタル記録する。盲検調査員が微小血管を計数する。微小循環は、三次細動脈を除く、直径150μメートル以下の血管群と定義され、これは、細動脈と細静脈の間で組織を調達する。左心室の肥大の差を補正するため 、体重について補正した左心室重量で微小血管密度を割る。擬似手術を行ったラットの心筋を対照として役立てる。
(実施例11)
T4またはFGF2の血管新生促進効果に対するαVβ3アンタゴニストの効果:
αVβ3阻害剤LM609は、CAMモデルにおいて、FGF2またはT4によって誘導された血管新生促進効果の両方を、10マイクログラムで、完全に阻害した(図16)。
(実施例12)
癌に関連した新たな血管の成長の阻害:
ヒト乳癌細胞(MCF−7)のインプラントを施したSCIDマウスへのテトラヨードサイロ酢酸(TETRAC)の投与のために、J.Bennett,Proc Natl Acad Sci USA 99:2211−2215,2002に開示されているプロトコルを用いる。TETRACを飲用水で供給して、そのマウスモデルにおけるホルモン類似体の循環レベルを10−6Mに上昇させる。エンドポイントは、内植された腫瘍の周囲の血管新生に対するTETRACの阻害作用である。
(実施例13)
インビトロ三次元微小血管内皮出芽モデルにおける閾値下レベルのVEGFおよびFGF2に対する甲状腺ホルモンおよびその類似体の血管新生促進効果:
T3、T4、T4−アガロースまたは線維芽増殖因子2(FGF2)のいずれかと血管内皮増殖因子(VEGF)は、インビトロ三次元微小血管内皮出芽モデルにおいて同等の血管新生促進作用を生じた。甲状腺ホルモンの血管新生促進効果は、PD 98059(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK;ERK1/2)シグナル伝達カスケードの阻害剤)によって遮断された。加えて、特定のαVβ3インテグリンアンタゴニスト(XT199)は、甲状腺ホルモン類似体またはT4−アガロースに対する血管新生促進効果を阻害した。データは、甲状腺ホルモン類似体TETRACが甲状腺類似体の血管新生促進応答を阻害することも明示した。従って、試験した甲状腺ホルモン類似体は、血管新生促進性であり、その作用は、原形質膜で開始され、αVβ3インテグリン受容体を必要とし、MAPK依存性である。
本発明は、インビトロ三次元微小血管内皮細胞出芽モデルにおける閾値下レベルのVEGFおよびFGF2に対するT3、T4またはT4−アガロースの血管新生促進効果を記載する。本発明は、このホルモン効果が、内皮細胞原形質膜で開始され、αVβ3インテグリンおよびERK1/2シグナル伝達経路の活性化によって媒介される証拠も提供する。
三次元出芽アッセイにおける低濃度のVEGFおよびFGF2の血管新生活性のT3、T4またはT4−アガロースの増進を実証した。10−7〜10−8MでのT3、T4、または10−7Mの全ホルモン濃度でのT4−アガロースは、このインビトロモデルにおいて、血管新生促進活性の点で、最大濃度のVEGFおよびFGF2の効果と同等であった。ラット心臓における新たな血管の成長が、高用量のT4による心筋肥大の誘導に付随して発生したと報告されているが、甲状腺ホルモンは、血管新生因子と見なされていない。本実施例は、生理濃度でのホルモンが心臓以外の環境ででも血管新生促進性であることを確立する。
T4−アガロースは、T4の効果を再現した。甲状腺ホルモンのこの誘導体は、細胞内部に出入りしないと考えられ、本発明者らの研究所では、可能性のある細胞表面で開始されるヨードチロニン作用についてのホルモン作用モデルを調査するためにそれを用いた。さらに、T4およびTETRACで行った実験も、このモデルにおけるT4の作用が原形質膜で開始されたことを支持した。TETRACは、膜で開始されるT4の効果を遮断する。
甲状腺ホルモンは、MAPK(ERK1/2)シグナル伝達経路を非ゲノム的に活性化するので、このホルモンの血管新生に対する作用は、MAPKによって媒介され得る。CMAモデルに添加したとき、MAPKカスケードの阻害剤、PD 98059は、T4の血管新生促進作用を阻害した。この結果は、FGF2生成に対するT4の効果の上流の甲状腺ホルモンシグナル伝達に対する作用と矛盾しないが、FGF2もMAPK依存性メカニズムによって作用することも知られている。T4およびFGF2は、内皮細胞におけるERK1/2のリン酸化および核移行を独自に生じさせ、最大下用量で用いると、協力してさらにERK1/2の活性化を増進させる。血管新生のホルモン刺激のMAPK依存性成分のみが、排他的に、血管成長に対するFGF2の作用に関係する可能性を調査するために、PD 98059の存在下でのT4に応じての細胞のFGF2放出を測定した。後者の薬剤は、そのホルモンによって誘導される増殖因子濃度増加を遮断し、ならびにMAPK活性化が、内皮細胞からのFGF2放出に対するT4の作用および結果として生ずるFGF2の血管新生に対する効果に関与すること示した。
血管新生に対する甲状腺ホルモンの効果:
0.001〜0.01μMでのT4、T3、またはT4−アガロースは、血管新生に対する有意な(P<0.01)刺激を生じさせた。下の表を参照のこと。これにより、FGF2(50ng/mL)+VEGF(25ng/mL)の血管新生促進効力と同等であることが証明される。
三次元ヒト微小血管内皮出芽アッセイにおける増殖因子、甲状腺ホルモンおよび類似体のインビトロ血管新生促進効果
データ(平均±SD)は、3回の実験から得た。閾値下レベルのFGF2(1.25ng/mL)+VEGF(2.5ng/mL)で細胞を前処理した。
データは、平均±SDを表す、n=3、
*ANOVAによりP<0.01、処理したものと対照とを比較。
甲状腺血管新生促進作用に対するTETRACの効果:
T3は、原形質膜で開始される細胞シグナル伝達経路を刺激する。これらの血管新生促進作用は、T4の原形質膜への結合を阻害することが知られている脱アミノ化ヨードチロニン類似体、TETRAC、によって遮断される。TETRAC(0.1μM)の添加は、T3、T4、またはT4−アガロースの血管新生促進作用を阻害した(表5〜7)。これは、微小血管内皮細胞移動の数および血管長の抑制によって証明される(表5〜7)。
甲状腺ホルモンによる血管新生の刺激におけるERK1/2シグナル伝達経路の役割:
ERK1/2阻害の並行試験を三次元微小血管出芽アッセイにおいて行った。0.01〜0.1μMでの甲状腺ホルモンおよび類似体は、管長および移動細胞数を有意に減少させ、この効果は、PD 98059によって有意に(P<0.01)遮断された(表5〜7)。これは、微小血管内皮細胞移動数および血管長の抑制によって示される(表5〜7)。
甲状腺ホルモンによる血管新生の刺激におけるインテグリンαVβ3の役割:
閾値下レベルのVEGFおよびFGF2の存在下で0.01〜0.1μMのT3、T4、またはT4−アガロースによって媒介される血管新生促進は、αVβ3インテグリンアンタゴニストXT199によって有意に(P<0.01)遮断された(表5〜7)。これは、微小血管内皮細胞移動数および血管長の抑制によって示される。下の表を参照のこと。
このように、甲状腺ホルモンおよびその類似体の血管新生促進効果は、原形質膜αVβ3インテグリンで始まり、ERK1/2の活性化を必要とする。
三次元ヒト微小血管内皮出芽アッセイにおける甲状腺ホルモンT3の血管新生促進メカニズム
ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMVC)を使用した。FGF2(1.25ng/mL)+VEGF(2.5ng/mL)で細胞を前処理した。第3日に、4および10倍で画像を撮った。データは、平均±SDを表す、n=3、
*P<0.01。
三次元ヒト微小血管内皮出芽アッセイにおける甲状腺ホルモンT4の血管新生促進メカニズ
ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMVC)を使用した。FGF2(1.25ng/mL)+VEGF(2.5ng/mL)で細胞を前処理した。第3日に、4および10倍で画像を撮った。データは、平均±SDを表す、n=3、
*P<0.01。
三次元ヒト微小血管内皮出芽アッセイにおける甲状腺ホルモンT4−アガロースの血管新生促進メカニズム
ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMVC)を使用した。FGF2(1.25ng/mL)+VEGF(2.5ng/mL)で細胞を前処理した。第3日に、4および10倍で画像を撮った。データは、平均±SDを表す、n=3、
*P<0.01。
(実施例14)
血管脳関門を横断するポリマー甲状腺類似体輸送を評価するためのインビトロでの方法
選択された単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体が血液脳関門を横断する可能性が高いその能力を評価するためのインビトロでの方法を下で説明する。モデルおよびプロトコルの詳細な説明は、Audusら,Ann.N.Y.Acad.Sci 507:9−18(1987)(この開示は、本明細書に参考として援用される)によって提供されている。
簡単に言うと、新鮮なウシの脳の大脳灰白質から微小血管内皮細胞を単離する。脳は、地元の屠殺場から入手し、抗生物質を含有する氷冷最少必須培地(「MEM」)に入れて研究所に輸送される。滅菌条件下、標準的な切開手順を用いて、大きな表面の血管および髄膜を除去する。皮質灰白質を吸引により除去し、その後、約1mmの立方体に刻む。その後、その刻んだ灰白質を振盪水浴において0.5%ディスパーゼ(インディアナ州、インディアナポリスのBMB)とともに3時間、37℃でインキュベートする。3時間の消化の後、その混合物を遠心分離(1000×g、10分間)によって濃縮し、その後、13%デキストランに再び懸濁させ、10分間、5800×gで遠心分離する。上清の脂肪、細胞溶解産物およびミエリンを捨て、その粗微小血管ペレットを1mg/mLのコラーゲン/ディスパーゼに再び懸濁させ、振盪水浴において5時間、37℃でインキュベートする。5時間の消化の後、事前に評価された50%Percoll勾配にその微小血管懸濁液を適用し、10分間、1000×gで遠心分離する。精製内皮細胞を含有するバンド(その勾配の最高位から二番目のバンド)を除去し、培養培地(例えば、50%MEM/50%F−12栄養混合物)で2回洗浄する。後で使用するために、20%DMSOおよび10%ウマ血清を含有する培地中で細胞を冷凍する(−80℃)。
単離後、ラットコラーゲンおよびフィブロネクチンをコーティングされている培養皿または孔径5〜12mmのポリカーボネートフィルターで、約5×105の細胞/cm2を平板培養する。細胞接種から10〜12日後、細胞単層を顕微鏡により集密度について検査する。
これらの細胞の形態学的、組織化学的および生化学的特性についての特性付けは、これらの細胞が、脳血液関門の顕著な特徴の多くを有することを示した。これらの特徴としては、密な細胞間結合、膜開窓がないこと、低レベルの飲作用活性、ならびにガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ、アルカリホスファターゼおよび第VIII因子抗原活性の存在が挙げられる。
前記培養細胞は、分極結合または輸送についてのモデルが必要とされる様々な実験において使用することができる。マルチウエルプレートで細胞を平板培養することにより、大分子と小分子の両方の受容体および非受容体結合を行うことができる。経内皮細胞フラックス測定を行うために、細胞を多孔質ポリカーボネート膜フィルター(例えば、カリフォルニア州、プレザントンのNucleoporeからのもの)上で増殖させる。大孔径フィルター(5〜12mm)を使用して、フィルターが分子フラックスに対する速度制限バリアになる可能性を回避する。これらの大孔径フィルターの使用は、フィルターの下での細胞増殖を許さず、細胞単層の目視検査を可能にする。
細胞が集密に達したら、それらを並列拡散セル装置(例えば、ニュージャージー州、ソマービルのCrown Glassからのもの)内に配置する。フラックス測定のために、拡散セルのドナーチャンバに試験物質をパルスし、その後、パルス後、様々な時点で、分析のためにレシーバーチャンバからアリコートを取り出す。放射性標識または蛍光標識物質により、分子フラックスの信頼できる定量が可能となる。スクロースまたはインスリンなどの輸送不能な試験物質の添加によって単層の完全性を同時に測定し、少なくとも4回の実験判定を評価して、統計的有意性を確保する。
(実施例15)
外傷性損傷モデル
液体衝撃脳損傷モデルを用いて、単独でのまたは神経成長因子もしくは他の神経新生因子との組み合わせでのポリマー甲状腺ホルモン類似体が有意な外傷性脳損傷後に中枢神経機能を回復させる能力を評価した。
I.液体衝撃脳損傷手順
この研究で用いた動物は、体重250〜300グラムの雄Sprague−Dawleyラット(Charles River)であった。液体衝撃脳損傷のための基本的な外科的準備は、以前に記載されている。Dietrichら,Acta Neuropathol.87:250−258(1994)(これは、本明細書に参考として援用される)。簡単に言うと、3%ハロタンと30%酸素とバランスの亜酸化窒素とでラットを麻酔した。気管挿管を行い、ラットを定位フレームに配置した。その後、4.8mmの開頭を行って、右頭頂皮質をプレグマの3.8mm後方および正中線の2.5mm外側に重ねた。傷害チューブを露出した硬膜の上に配置し、接着剤で接着する。その後、歯科用アクリル樹脂をその傷害チューブの周囲に注入し、その後、その傷害チューブにジェルフォームスポンジで栓をした。頭皮を縫合して閉じ、その動物を元のケースに戻し、一晩、回復させた。
翌日、本質的にはDixonら,J.Neurosurg.67:110−119(1987)およびCliftonら,J.Cereb.Blood Flow Metab.11:114−121(1991)によって記載されたとおりに、液体衝撃脳損傷を生じさせた。液体衝撃装置は、ラットの頭蓋に合わせた変換器ハウジングおよび傷害スクリューが取り付けられている食塩水充填プレキシグラスシリンダーから成るものであった。その金属スクリューを、挿管される麻酔されたラット(70%亜酸化窒素、1.5%ハロタンおよび30%酸素)のプラスチック傷害チューブにしっかりと接続し、そのピストンに衝突する振り子の降下によって損傷を誘導した。ラットは、1.6から1.9atmの範囲の軽度から中等度の頭部損傷を受けた。右側頭筋に挿入したサーミスタプローブで脳温度を直接モニターし、37〜37.5℃で維持した。そのモニター期間の前および全体を通して直腸温度も測定し、37℃で維持した。
行動試験:
3つの標準的機能/行動試験を用いて、脳損傷後の感覚運動および反射機能を評価した。これらの試験は、Bedersonら,(1986)Stroke 17:472−476;DeRyckら,(1992)Brain Res.573:44−60;Markgrafら,(1992)Brain Res.575:238−246;およびAlexisら,(1995)Stroke 26:2338−2346をはじめとする文献において十分に説明されている。
A.前肢配置試験(Forelimb Placing Test)
3つの異なる刺激(視覚、触覚および固有受容)に対する前肢配置測定して、感覚運動統合を評価した。DeRyckら,Brain Res.573:44−60(1992)。視覚的配置サブ試験については、研究者がその動物を立位で保持し、テーブル上面に近づけた。テーブルに肢を正常に置けば「0」とスコアを付け、遅れて置けば(<2秒)「1」とスコアを付け、置かないか、非常に遅れて置けば(>2秒)、「2」とスコアを付ける。最初に、動物を前方に持って行き、その後、再び、動物を横からテーブルに持って行って、独立したスコアを得る(肢当たりの最大スコア=4;それぞれの場合、数が大きいほど、大きな欠損を示す)。触覚的配置サブ試験については、テーブル上面を見ることができず、ひげでテーブル上面に触ることができないように、動物を保持する。最初に動物を前方に持って行き、その後、横からテーブルに持って行って、前肢の背をテーブル上面に軽く触らせる。配置を、各回、上のとおりスコアを付ける(肢当たりの最大スコア=4)。固有受容配置サブ試験については、動物を前方にしか持って行かず、より大きな圧力を前肢の背にかける。配置は、上のとおりスコアを付ける(肢当たりの最大スコア=2)。最後に、テーブル上面によるひげ刺激に応じて前肢を置き直す動物の能力を試験した(肢当たりの最大スコア=2)。その後、サブスコアを足して、肢当たりの合計前肢配置スコアを得た(範囲=0〜12)。
B.梁バランス試験
梁バランスは、運動皮質傷害に敏感に反応する。このタスクを利用して、ラットに狭い梁上で着実にバランスをとるように命じることにより総前庭運動機能を評価した。Feeneyら,Science,217:855−857(1982);Goldsteinら,Behav.Neurosci.104:318−325(1990)。この試験には、基礎データを得るために、外科手術24時間前に3回の60秒訓練試行が必要であった。その装置は、テーブル表面の上1フィートに吊下げられた長さ10インチ、幅3/4インチの梁から成るものであった。ラットは、梁の上に置かれ、すべての肢を用いてその梁の上で安定した姿勢を60秒間維持しなければならなかった。1のスコアは正常であり、6のスコアは動物が梁の上で自分自身を支えることができないことを示す、1から6の範囲にわたるClifonら,J.Cereb Blood Flow Metab.11:I114−121(1991)の測定尺度で、動物の動作を評価した。
C.梁歩行試験
これは、後肢の機能を特に調査する感覚運動統合についての試験である。試験装置および評価手順は、Feeneyら,Science,217:855−857(1982)からアレンジした。長さ4フィート、幅1インチの梁を、薄暗い照明の部屋の床上3フィートに吊下げた。その梁の向う端に、狭い入場路のある暗色のゴールの箱があった。梁に沿って等距離に4個の3インチ金属ねじを、その梁の中心からそむけて置いた。白色雑音発生器および明るい光源が、梁を渡ってゴール箱の入るように動物を誘導した。ゴール箱に到達するまでのラットの潜時(秒で)および梁を渡るときの後肢の動作(1から7の評価測定尺度に基づく)を記録した。7のスコアは、正常に梁を歩き、足を2回ひっかけたことを示し、1のスコアは、ラットが80秒未満で梁を渡ることができなかったことを示す。それぞれのラットは、このタスクを習得し、3回の連続試行で正常な動作(7のスコア)を達成するために、外科手術前に3日間、訓練を受けた。外科手術の24時間前に3回のベースライン試行データを収集し、その後、3回の試験試行を毎日記録した。各日の潜時およびスコアの平均値をコンピュータ処理した。
(実施例16)
T4は、αVβ3インテグリンのリガンドである
T4がαVβ3インテグリンのリガンドであるかどうかを判定するために、2μgの市販精製タンパク質を[125I]T4とともにインキュベートし、その混合物を非変性ポリアクリルアミドゲルで泳動させた。αVβ3は、放射性標識T4に結合する。この反応は、[125I]T4インキュベーション前にαVβ3に添加した非標識T4によって、濃度依存的様式で、競合的に破壊された(図24)。非標識T4の添加は、放射性標識リガンドへのインテグリンの結合を、合計10−7M(3×10−10M 遊離T4)の全T4濃度で13%、合計10−6M(1.6×10−9M 遊離)で58%減少させ、結合の阻害は、10−5Mの非標識T4で最大であった。非線形回帰を用いて、αVβ3と遊離T4の相互作用は、333pMのKdおよび371pMのEC50を有すると判定した。非標識T3は、αVβ3への[125I]T4の結合を置換する点ではあまり有効でなく、10−4Mの全T3でシグナルを28%減少させた。
(実施例17)
αVβ3へのT4の結合は、TETRAC、RGDペプチドおよびインテグリン抗体によって遮断させる
本発明者らは、細胞表面で活性化されるT4刺激シグナリング経路が、原形質膜へのT4の結合を防止することが知られているヨードチロニン類似体TETRACによって阻害され得ることを以前に証明した。本発明者らの放射リガンド結合アッセイにおいて、10−8MのTETRACは、精製αVβ3への[125I]T4の結合に対して効果を有さなかったが、T4とαVβ3の会合は、10−7MのTETRACの存在下で38%、および10−5MのTETRACの存在下で90%減少された(図25)。この相互作用の特異性を判定するために、αVβ3上の細胞外マトリックス結合部位に結合するRGDペプチドと、アスパラギン酸残基ではなくグルタミン酸残基を有し、それ故、αVβ3に結合しないRGEペプチドとを、そのインテグリンとの結合からT4をはずす試みに加えた。RGEペプチドではなく、RGDペプチドの適用は、[125I]T4とαVβ3の相互作用を用量依存的に減少させる(図25)。
T4とαVβ3の相互作用をさらに特性付けするために、αVβ3またはαVβ5に対する抗体を、[125I]T4の添加前に、精製αVβ3に添加した。1μg/mLのαVβ3モノクローナル抗体LM609の添加は、そのインテグリンとT4との複合体形成を、未処理対照サンプルと比較して、52%減少させた。LM609の量を2μg、4μg、および8μg/mLに増やすと、バンド強度は、それぞれ、64%、63%および81%減少した(図26)。別のαVβ3モノクローナル抗体、SC7312、をそのインテグリンとともにインキュベートしたとき、同様の結果が得られた。SC7312は、αVβ3に結合するT4の能力を、1μg/mLの抗体の存在で20%、2μgで46%、4μgで47%、および8μg/mLの抗体が存在したとき59%減少させた。αVおよびβ3に対するモノクローナル抗体とのインキュベーションは、独立して、αVβ3への[125I]T4の結合に影響を及ぼさなかった。これは、その会合が、αVβ3のヘテロ二量体複合体から生じる結合ポケットを必要とし、いずれかのモノマー上の特定の領域を必ずしも必要としないことを示唆している。バンド強度の減少が、抗体によるαVβ3の特異的認識に起因したことを評価するために、[125I]T4の添加前に、精製αVβ3をαVβ5に対するモノクローナル抗体(P1F6)またはマウスIgGとともにインキュベートした。これらはいずれも、そのインテグリンと放射リガンドとの複合体形成に影響を及ぼさなかった(図26)。
(実施例18)
T4刺激MAPK活性化は、ホルモン結合の阻害剤およびインテグリンαVβ3の阻害剤によって遮断される
生理レベルのT4(10−7M 全ホルモン濃度、10−10M 遊離ホルモン)で30分、処理したCV−1細胞において、リン酸化MAPK(pERK1/2)の核移行を研究した。本発明者らが以前に報告した結果と一致して、T4は、CV−1細胞においてリン酸化MAPKの核蓄積を30分以内に誘導した(図27)。CV−1細胞と指示濃度のαVβ3アンタゴニストとの16時間のプレインキュベーションは、MAPK活性化およびトランスロケーションを誘導するT4の能力を減少させた。10−8および10−7MでのRGDペプチドの適用は、MAPK活性化に対して最少の効果しか有さなかった。しかし、10−6MのRGDペプチドは、MAPKリン酸化を、対照培養物と比較して62%減少させ、培養培地中に10−5MのRGD(85%減少)および10−4MのRGD(87%減少)が存在したとき、活性化が最大に減少された。培養培地への非特異的RGEペプチドの添加は、CV−1細胞において、T4処理後、MAPKリン酸化および核移行に対して効果を有さなかった。
原形質膜へのT4の結合を防止するTETRACは、T4誘導MAPK活性化の有効な阻害剤である。10−6Mの濃度でT4とともに存在すると、TETRACは、T4単独で処理した培養物と比較して、MAPKリン酸化およびトランスロケーションを86%減少させた(図27)。この阻害は、T4の適用前に16時間、その培養培地に10−4MのTETRACを添加したとき、97%に増加した。T4での刺激の16時間前のその培養培地へのαVβ3モノクローナル抗体LM609の添加も、T4誘導MAPK活性化を減少させた。培養培地のmL当たり0.01および0.001μgでのLM609は、T4処理後のMAPK活性化に影響を及ぼさなかった。その培養培地中の抗体の濃度を0.1、1および10μg/mLに増加させると、それらの細胞の核画分において見出されるリン酸化MAPKのレベルが、T4単独で処理した細胞と比較して、それぞれ、29%、80%および88%減少した。
CV−1細胞に、αV、β3、またはαVとβ3の両方に対するsiRNAを一過的にトランスフェクトし、16時間、回復させた後、無血清培地に入れた。30分間のT4での処理後、細胞を回収し、核タンパク質またはRNAのいずれかを抽出した。図28Aは、ターゲットインテグリンサブユニットに対するそれぞれのsiRNAの特異性を明示している。αV siRNAまたはαVとβ3両方のsiRNAのいずれかでトランスフェクトされたCV−1は、減少したαVサブユニットRT−PCR産物を示したが、細胞をβ3に特異的なsiRNAでトランスフェクトしたとき、または外因性siRNAが不在の状態でトランスフェクション試薬に曝露したとき、αV mRNA発現に差はなかった。同様に、β3 siRNAでトランスフェクトした細胞は、減少したレベルのβ3 mRNAを有したが、比較的不変のレベルのαV siRNAを有した。30分間のT4の添加は、siRNAを細胞にトランスフェクトさせたにもかかわらず、αVおよびβ3のいずれについてもmRNAレベルを改変しなかった。
活性化MAPKレベルを、個々にまたは組み合わせでαVおよびβ3に対するsiRNAをトランスフェクトしたCV−1細胞において、ウエスタンブロットにより測定した(図28B)。スクランブル陰性対照siRNAで処理したCV−I細胞は、平行細胞系統と比較して、有意に上昇したレベルのT4誘導活性化MAPKを有した。単独のトランスフェクション試薬に曝露した細胞は、トランスフェクトされていないCV−1細胞と同様のMAPKリン酸化レベルおよびパターンを提示する。単独または組み合わせでのαV siRNAまたはβ3 siRNAをCV−1細胞にトランスフェクトしたとき、ビヒクル処理培養物におけるリン酸化MAPKレベルは上昇したが、活性化MAPKレベルのさらなる上昇を誘導するT4の能力は阻害された。
(実施例19)
ホルモン誘導血管新生は、αVβ3に対する抗体によって遮断される
血管新生は、CAMアッセイにおいて、生理濃度のT4の適用により刺激される(図29A、および図29Bに概要)。CAMフィルターディスク上に置いた10−7MのT4は、PBSで処理した膜と比較して、血管枝の形成を2.3倍誘導した(P<0.001)。T3へのT4の転化を防止するプロピルチオウラシルは、T4によって生じる血管新生に対して効果を有さない。αVβ3に対するモノクローナル抗体、LM609(10μg/フィルターディスク)の添加は、T4への血管新生促進応答を阻害した。
(実施例20)
TETRACナノ粒子製剤の作製および使用−PLGA
TETRACが封入されているポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)ナノ粒子を、シングルエマルジョン法によって作製した。1mLのアセトン中で30mgのPLGAと1.6mgのTETRACを混合することにより、PLGAとTETRACの均質溶液を得た。PLGAナノ粒子は、安定剤の存在を用いて(ポリビニルアルコールを安定剤として使用した)または用いずに作製した。PLGAとTETRACの両方を含有するこの溶液の100uLを10mLの脱イオン水に添加し、2時間それを攪拌した。安定剤を用いるナノ粒子の合成については、100uLの上述の溶液を、1%PVA溶液に、攪拌しながら1滴ずつ添加した。それらのナノ粒子を、透析によって、すなわち約12時間、適切な透析膜を使用することによって精製した。安定剤の添加は、水溶液中のナノ粒子に単分散性および安定性をもたらす。
b−FGF誘導血管新生のCAMモデルにおける研究は、下に示すように、遊離TETRACおよびTETRAC−PLGAナノ粒子についての強力な抗血管新生効果を明示した。
CAMモデルにおけるTETRACおよびTETRAC−PLGAナノ粒子の抗血管新生
(実施例21)
TETRACとテモゾロミドが共封入されているPLGAナノ粒子の作製
もう1つの適するナノ粒子としては、TETRACとテモゾロミドが共封入されているPLGAナノ粒子が挙げられる。これらのナノ粒子の主な利点の1つは、多数の封入材料をすべて一緒にその中に共封入する能力である。
TETRACとテモゾロミドが共封入されているPLGAナノ粒子の作製についてのスキーム
(実施例22)
リン酸カルシウムを含有するT4コラーゲンコンジュゲート化ナノ粒子
コラーゲン−ヒドロキシアパタイトナノ粒子は、油中水型エマルジョン法を用いることによって作製することができる。その後、カルボジイミドの化学作用を用いることにより、それらのナノ粒子をチロキシン(T4)にコンジュゲートさせることができる。
コラーゲンナノ粒子内からの放出動態は、最初の2時間の間の40%の放出と20時間にわたる持続的徐放を明示した。T4は、下に示すように99%を超える安定性でそのナノ粒子の外側に固定化された。創傷治癒用の製剤は、局所製剤の場合、コラーゲンナノ粒子上に、およびコラーゲンナノ粒子の内側のまたは外側に配置することもできるリン酸カルシウムナノ粒子上に固定化されたT4を含有する。
C18カラムで溶離したT4−コラーゲンナノ粒子サンプルのクロマトグラムおよびスペクトル、DWL:225nm。
A:水で50μMに希釈したT4標準物質;B:水で希釈し、その後、300KD膜によって濾過した、T4−コラーゲンナノ粒子。
C18カラムで溶離したT4−コラーゲンナノ粒子サンプルのクロマトグラムおよびスペクトル、DWL:225nm。
A:0.5MのNaOHで50μMに希釈したT4標準物質;B:0.5MのNaOHとともに2時間インキュベートし、その後、300KD膜によって濾過した、T4−コラーゲンナノ粒子。
(実施例23)
GC−1封入PEG−PLGAナノ粒子の作製
GC−1が封入されているPEG−PLGAナノ粒子をシングルエマルジョン法によって作製する。DMSO中のPEG−PLGAの溶液を調製する(例えば、80mg/mL)。もう1つのGC−1の溶液を、別途、DMSO中で調製する(例えば、15g/mL)。さて、等量の両溶液を混合する(PEG−PLGAおよびGC−1)。さて、この溶液の100uLを、1%PVA(ポリビニルアルコール)溶液に、定常的に攪拌しながら添加する。4時間後、GC−1が封入されているナノ粒子を含有する全溶液を透析に付して、不純物を除去する。
GC−1封入PEG−PLGAナノ粒子の作製についての概略図
(実施例24)
GC−1またはT3封入PEG−PLGAナノ粒子の作製
GC−1またはT3が封入されているPEG−PLGAナノ粒子は、シングルエマルジョン法によって作製する。DMSO中のPEG−PLGAの溶液を調製する(例えば、80mg/mL)。もう1つのGC−1またはT3の溶液を、別途、DMSO中で調製する(例えば、15g/mL)。その後、等量の両溶液を混合する(PEG−PLGAおよびGC−1またはT3)。この溶液の100uLを、1%PVA(ポリビニルアルコール)溶液に、定常的に攪拌しながら添加する。4時間後、GC−1またはT3が封入されているナノ粒子を含有する全溶液を透析に付して、不純物を除去する。
T3封入PEG−PLGAナノ粒子の作製についての概略図
細胞へのTETRACの進入を防ぎ、その活動を原形質膜インテグリン受容体に制限する。
捕捉のために使用する疎水性薬物は、溶液形態であるか、粉末形態であり、その薬物を溶解するために使用する溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロメタン、酢酸エチル、エタノールから選択する。
ブロックコポリマーミセルは、粘膜接着性および感熱性ポリマー成分で構成され、点滴されると、ムチン膜に浸透し、その膜の孔に接着し、体温で、より疎水性になって、より早く薬物を放出する。
本発明のミセルのランダムブロックコポリマーは、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBA)の存在下でビニルピロリドン(VP)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAM)およびアクリル酸(AA)などのモノマーを混合し、過硫酸アンモニウムを触媒として使用するラジカル重合によりその混合物を重合することによって、調製することができる。そのポリマー鎖の疎水性部分は、ミセル内に埋まったままであり(これは、薬物の溶解に役立つ)、カルボン酸などの親水性部分は、ミセル表面の外側に伸びている。水溶液にミセルを分散させた透明な溶液は、はるかに有効に患者の目に滴下することができ、ミセル内に封入された薬物の持続放出が、その薬物の治療効果を向上させる。
上述の1つ以上の薬物をブロックコポリマーミセルに組み込むために、下で説明する様々な方法を単独で用いてもよいし、または併用してもよい。
(i)攪拌:ブロックコポリマーの水溶液に薬物を添加し、2から24時間攪拌して、薬物を含有するミセルを得る。
(ii)加熱:薬物とブロックコポリマーの水溶液とを混合し、30℃から80℃で5分間から2、3時間攪拌し、その後、攪拌しながら室温に冷却して、薬物を含有するミセルを得る。
(iii)超音波処理:薬物とブロックコポリマーの水溶液との混合物を10分から30分間、超音波処理に付し、その後、室温で攪拌して、薬物を含有するミセルを得る。
(iv)溶媒蒸発:薬物をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、ミセルの水溶液に添加する。その後、ゆっくりと攪拌しながら溶媒を蒸発させ、その後、濾過して遊離薬物を除去する。
(v)透析:ポリマーミセル溶液を薬物の有機溶液に添加し、その混合物を緩衝溶液、そしてその後、水に対して透析する。
ブロックコポリマーのミセル溶液は、水性媒質に両親媒性モノマーを溶解してミセルを得、架橋剤、活性化剤および開始剤の水溶液を前記ミセルに添加し、不活性ガスの存在下、30℃〜40℃で、ミセルの重合が完了するまで前記混合物を重合することによって調製する。
精製段階は、透析によって行う。透析を2〜12時間行って、水性相中の未反応モノマーおよび遊離疎水性化合物(単数または複数)を、もしあれば、除去する。疎水性薬物は、重合時に本発明のポリマーミセルに組み込むことができ、この場合、薬物を水溶液中のモノマーのミセルに溶解し、その薬物の存在下で重合を行う。ミセルの疎水性コアに保持される薬物は、制御された様式で、長期間にわたって角膜表面に放出されるので、本発明のこの組成物は、従来の製剤技術ではできない、または非粘膜接着性ミセルを使用してではできない薬物の製剤に適する。
(実施例25)
眼用のナノ粒子製剤の設計
最初の実験では、異なるポリマーに基づく3つの異なる種類のナノ粒子製剤を作製する。表面電荷、サイズおよび粘膜接着性などの異なる変量を有するこれらのナノ粒子の効力を調査する。TETRACは、これらのナノ粒子製剤のすべてに封入する。概して、異なる比率のN−イソプロピルアクリルアミド、塩酸N−3−アミノプロピルメタクリルアミド、およびアクリル酸を伴う、PLGA、キトサンおよび特注コポリマーのナノ粒子を合成する。目標は、TETRACにより眼球動態を向上させるための種々のナノ製剤の設計である。本発明者らは、2つの異なる選択肢を規定する(ナノ粒子が角膜上に留まり、TETRACを送達する選択肢と、もう1つの選択肢は、角膜を越えてのナノ取り込みを増加させることである)。ナノ材料のサイズおよび表面電荷ならびに性質を調整して、TETRACの最適な点眼剤製剤を獲得する。
異なる種類のTETRAC封入ナノ粒子の合成およびそれらの表面修飾を示す概略図
NIPAAM:N−イソプロピルアクリルアミド(感熱性ポリマー)
APMAH:塩酸N−3−アミノプロピルメタクリルアミド(表面電荷の操作)
AA:アクリル酸(粘膜接着特性を誘導するため)。
ナノ粒子の分析:
PRIによって開発された原法に基づき、TETRACナノ粒子に特異的な改良HPLC分析法を開発する。ナノ粒子の内部のTETRACの間接的定量のための分析法の開発も計画に載せる。1つのセットから、ナノ粒子の全量の半分を50%アセトン中で崩壊させ、HPLCにより遊離TETRACと封入TETRACの総量について直接分析する。一方、前記ナノ粒子の残りの半分を100KD遠心フィルター膜装置によって濾過し、濾液をHPLCにより遊離TETRACの総量について分析する。従って、2つの分析におけるTETRACの量の差が、ナノ粒子の内部のTETRACの量を表す。
サンプル作製プロトコルをナノ粒子のそれぞれの種類について検定し、それに応じて調整しなければならない。
インビトロ放出動態:
放出動態を研究するために、既知量のTETRAC封入ナノ粒子製剤を所望の媒質に懸濁させ、そこでの放出動態を研究する。その溶液をマイクロ遠心チューブに500uLアリコートとして分配する。所定の時間間隔で、上で示したようにその溶液を遠心フィルター膜装置(カットオフ100KD)によって濾過して、遊離TETRACと負荷ナノ粒子とを分離する。遊離TETRACの濃度をHPLCによって判定する。
式中、[TETRAC]
f,tは、時間tでの濾液中のTETRACの濃度であり、および[TETRAC]
0は、封入されているTETRACの総量である。
インビボ実験
ナノ粒子を伴わない薬物の対照と比較してニュージーランド白ウサギの目におけるナノ粒子製剤の効力を試験するために、予備的インビボ実験を行う。適用の手順、眼房水の回収法などは、動物プロトコルにおいて詳細に説明する。それぞれの目の残りの部分は、取っておき、可能性のある将来の分析のために−80℃で冷凍保存する。
2匹のウサギからの4つの目をそれぞれの製剤のために、それぞれの試験時点(n=4)で使用する。眼房水サンプルは、薬物の局所投与後30および90分の時点で回収し、この場合、2匹の動物は、それぞれの時点で屠殺する。これには、この試験コースの間に少なくとも40匹のウサギを屠殺する必要がある。
回収した眼房水からのサンプルを、必要な場合には、分析のときまで−80℃で冷凍しておく。
すべてのサンプルをHPLCによって分析する。ナノ粒子中のTETRACについての新規特異的分析方法を、遊離TETRACと封入TETRACの両方の分析に用いる。それら2つの形態のTETRACを研究するために、前に説明したような100KDフィルターによる眼房水の濾過を用いる。
インビボ放出動態からの結果に依存して、3つの製剤をII相のために選択する。それぞれの製剤について1つのパイロットバッチを作製する。これらの選択された製剤の特性および安定性をさらに研究する。
(実施例26)
TETRACおよび類似体を含有するナノ粒子の作製:
PKおよび毒性研究のための懸濁製剤を以下の手順で製造する:
1.50mgのTETRACを量り取り、10mLの0.5%CMC(カルボキシメチルセルロース)に添加する。
2.TETRACが懸濁するまで十分に混合する。
3.使用前に混合する。
静脈内投与のために製造し、使用したもう1つの製剤は、下で略述する手順を用いて製造した:
1.200mgのTETRACを1.0mLのDMSOに溶解する。
2.1.0mLのTween 80を添加し、5分間攪拌する。すべてのTween 80が溶解したことを確認する。
3.10mLのPBSを(攪拌しながら)1滴ずつ添加する。
4.1.0Mの二塩基性リン酸ナトリウムを使用して(攪拌しながらゆっくりと添加する)、そのpHを7.4に調整する。
5.20mLまでの十分な量、PBSを用いる
6.PBS中で5mg/mLに希釈する(1:1希釈)。
(実施例27)
動的光散乱実験による粒径の測定:
透析により、すなわち約12時間、適切な透析膜を使用することにより、ナノ粒子を精製した。安定剤の添加により、水溶液中のナノ粒子に単分散性および安定性をもたらす。ゼータサイズ分析装置を使用して、サイズ分布およびゼータ電位を判定した。
1.TETRACにコンジュゲートしているPLGAナノ粒子の大きなバッチを合成し、それをRoswell parkに送る。ナノ粒子のZ平均は、約209nmである。
(実施例28)
テトラヨードサイロ酢酸(TETRAC)による血管新生の阻害:
脱アミノ化甲状腺ホルモン類似体、テトラヨードサイロ酢酸(TETRAC)は、新規、低価格抗血管新生性薬剤であり、その活性は、甲状腺ホルモン受容体とインテグリンαVβ3上のRGD認識部位との相互作用を意味することを提案する。
この研究は、VEGFおよびFGF2によって誘導される血管新生に対するTETRACの効果を調査するために計画した。VEGFおよびFGF2による血管新生の誘導は、内皮細胞上のインテグリンαVβ3へのこれらの増殖因子の結合を必要とする。そうした結合は、インテグリン上のリガンドタンパク質特異的ドメインと、αVβ3および幾つかの他のインテグリンのタンパク質リガンドを遺伝子的に識別するArg−Gly−Asp(RGD)認識部位とを必要とする。RGDペプチドは、T4およびT3の血管新生促進作用を遮断もし、これは、RGD認識部位とインテグリンαVβ3上の甲状腺ホルモン−TETRAC受容体部位とが互いに近くにあることを示唆している。理論による拘束を受けないが、RGD認識部位とαVβ3上のホルモン−TETRAC結合部位とが近接しているため、TETRACは、甲状腺ホルモンが不在の状態で抗血管新生性である。すなわち、甲状腺ホルモン受容体部位の閉塞は、RGD部位でインテグリンと相互作用するVEGFおよびFGF2の能力を改変し得る。
材料および方法
試薬
T4(HPLCにより純度≧98%)、T3、TETRAC、酢酸コルチゾン、およびプロピルチオウラシル(PTU)は、Sigma−Aldrich Corp.(ミズーリ州、セントルイス)から購入した。FGF2およびVEGFは、Invitrogen Life Technologies,Inc.(カルフォルニア州、カールズバッド)から購入した。マトリゲルは、BD Bioscience(カリフォルニア州、サンホゼ)から購入した。
細胞培養
ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC−d;カリフォルニア州、サンディエゴのClonetics)を、タイプIコラーゲン(1mg/mL)でコーティングした培養フラスコで増殖させ、ウシ脳抽出物(12μg/mL)、組換ヒト上皮増殖因子(10ng/mL)、10%(容量/容量)熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)、ヒドロコルチゾン(1μg/mL)、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンおよび2mM L−グルタミンを補足した内皮増殖培地−2(EGM−2MV;Clonetics)中で維持した。すべての培養添加剤は、Invitrogenから購入した。培養物は、5%CO2を有する37℃加湿チャンバ内で維持した。培地は3日ごとに交換し、細胞系統は、集密度80%で継代させた。
ニワトリ漿尿膜アッセイ(ニワトリCAMアッセイ)
日齢10日のニワトリの胚をSPAFAS(コネチカット州、プレストン)から購入し、37℃、55%相対湿度でインキュベートした。ニワトリCAMアッセイは、前に記載したとおりに行った。簡単に言うと、皮下注射針を使用して、卵の尖っていないほうの端に小さな穴をあけ、その卵の広い側面の胚子被膜の無血管部分の直ぐ上に第二の穴をあけた。第一の穴に軽度の切開を施して気嚢をはずし、CAMを殻から落下させた。Dremelモデル・クラフトドリル(ウィスコンシン州、ラシーンのDremel)を使用して、その仮の気嚢の上の殻から約1.0cm2の窓を切り取って、CAMに接触できるようにした。無菌条件下で、No.1濾紙の滅菌ディスク(ニュージャージー州、クリフトンのWhatman)を3mg/mLの酢酸コルチゾンおよび1mMのプロピルチオウラシルで前処理し、空気乾燥させた。甲状腺ホルモン、対照溶媒、および実験治療薬をそれらのディスクに塗布し、その後、乾燥させた。その後、それらのディスクをPBSに懸濁させ、成長中のCAMの上に配置した。3日のインキュベーションの後、フィルターディスクの真下のCAMを切除し、PBSですすいだ。それぞれの膜を35mmペトリ皿に入れ、SV6立体顕微鏡のもとで50倍で検査した。デジタル画像を取り込み、Image−Proソフトウェア(メリーランド州、シルバースプリングのMedia Cybernetics)で解析した。そのフィルターディスクに相当する円形領域内に入っている血管分枝点の数を数えた。
インビトロ出芽アッセイ
集密HMVEC−d細胞(5〜10継代)を、ゼラチンコートCtodex−3ビーズ(Sigma)と、ビーズ1個につき40個の細胞の比率で混合した。細胞およびビーズ(24ウエルプレートの1ウエルにつき150〜200個のビーズ)を5mLの基本培地(EBM)+15%(容量/容量)正常ヒト血清(HS)に懸濁させ、4時間、室温で穏やかに混合し、その後、一晩、37℃のCO2インキュベーターでインキュベートした。培養物を10mLの新たなEBM+15%HSで3時間処理した。100μLのHMVEC/ビーズの培養物を500μLのリン酸緩衝食塩水(PBS)と混合し、24ウエルプレートの1つのウエルに入れた。ビーズ数/ウエルを数え、ビーズ濃度/ECを計算した。
前に説明したとおり単離したヒトフィブリノゲンをEBMに1mg/mLの濃度(pH7.4)で溶解し、滅菌濾過し、試験すべき血管新生因子を補足した。VEGF(30ng/mL)+FGF2(25ng/mL)を陽性対照として使用した。そのHMVEC/ビーズの培養物をEBM培地で2回洗浄し、フィブリノゲン溶液に添加した。それらの培養物を穏やかに混合し、2.5μLのヒトトロンビン(0.05U/μL)を添加し、300μLの培地を24ウエルのそれぞれのウエルに移し、20分間、インキュベートさせた。EBM+20%正常HSおよび10μg/mL アプロチニンを添加し、そのプレートをCO2インキュベーターで48時間インキュベートした。それぞれの条件について三重反復で実験を行った。
毛細血管出芽形成を観察し、Nikon NP−2サーモスタットおよびSheldon #2004 二酸化炭素フローミキサーを有するインキュベーターハウジングを装備したNikon Diaphot−TMD倒立顕微鏡(株式会社ニコン;米国、ニューヨーク州、メルヴィル)で記録した。Macintosh G3コンピュータに連結されたDage−MTI CCD−725SビデオカメラおよびSons 12”PVM−12Zビデオモニターから成るビデオシステムに前記顕微鏡をインターフェースで直接接続した。Adobe Photoshopを用いて様々な倍率で画像を取り込んだ。毛細血管出芽を有するBC−ビーズの数およびパーセントを決定することにより、出芽血管新生に対する血管新生促進因子の効果を視覚的に定量した。三重反復ウエルのそれぞれに関して100個のビーズ(5から6のランダムな弱拡大視野)を、それぞれの実験条件について計数した。すべての実験は、少なくとも3回反復した。
実時間逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応
Ambion Aqueous kit(テキサス州、オースチン)を使用して全RNAを単離した。単離したRNAの質および量をBio−Rad Experion自動電気泳動システム(カリフォルニア州、ハーキュリーズ)によって判定した。Advantage RT−for−PCR Kit(Clontech;カリフォルニア州、マウンテンビュー)を使用して、1μgの全RNAを逆転写した。2μL cDNA、10μL Sybergreen master mix(Qiagen;カリフォルニア州、バレンシア)および0.5μLの20μM 遺伝子特異的プライマーを混合することにより、Cepheid Smart Cycler(カリフォルニア州、サニーヴェール)を使用してPCRを行った。サンプルを20分間、25℃でインキュベートし、95℃で30秒および60℃で90秒の35のPCRサイクル(二段階PCR)で増幅した。半対数増幅プロット(サイクル数に対する蛍光の対数増加)から閾値サイクル値(Ct)を決定した。増幅の最後に溶融曲線を加えることにより、および2%アガロースゲルでPCR産物を泳動し、ビーズを配列決定することにより、それらのPCR産物の特異性およびサイズを検査した。すべての値をシクロフィリンAに正規化した。PCRプライマーは、次のとおりであった:Angio−1,5’−GCAACTGGAGCTGATGGACACA−3’(センス)および5’−CATCTGCACAGTCTCTAAATGGT−3’(アンチセンス)、アンプリコン116bp;Angio−2、5’−TGGGATTTGGTAACCCTTCA−3’(センス)および5’−GTAAGCCTCATTCCCTTCCC−3’(アンチセンス)、アンプリコン122bp;インテグリンαv、5’−TTGTTGCTACTGGCTGTTTTG−3’(センス)および5’−TCCCTTTCTTGTTCTTCTTGAG−3’(アンチセンス)、アンプリコン89bp;インテグリンβ3、5’−GTGACCTGAAGGAGAATCTGC−3’(センス)および5’−TTCTTCGAATCATCTGGCC−3’(アンチセンス)、アンプリコン184bp;ならびにシクロフィリンA、5’−CCCACCGTGTTCTTCGACAT−3’(センス)および5’−CCAGTGCTCAGAGCACGAAA−3’(アンチセンス)、アンプリコン116bp。
マイクロアレイ分析:
GeneChip Expresson Analysis Technical Manual(カリフォルニア州、サンタクララのAffymetrix)に従って、HMVEC−d細胞からの10マイクログラムの全RNAを増幅し、ビオチン標識した。フラグメント化cRNAに、ヒト遺伝子チップU133 PLUS 2(Affymetrix)をハイブリダイズし、チップを洗浄し、ストレプタビジンR−フィコエリトリン(オレゴン州、ユージーンのMolecular Probes)で染色した。そのチップをスキャンし、データをMicroarray Suite and Data Mining Tool(Affymetrix)で解析した。
ホルモン刺激血管新生のTETRAC阻害:
CAMアッセイにおいて生理濃度のFGF2、VEGFおよびT3の適用により血管新生を刺激する。下に示すように、CAMフィルターディスク上に配置したFGF2(1μg/mL)は、PBS処理膜と比較して、血管枝形成を2.4倍(P<0.001)誘導した。TETRAC(75ng/フィルターディスク)の添加は、FGF2への血管新生促進応答を阻害したが、単独でのTETRACは、血管新生に対して効果を有さなかった。
FGF2刺激血管新生の最大阻害を見つけるために、TETRAC用量応答曲線を実行した。下に示すように、75ng/フィルターディスクおよび100ng/フィルターディスクは、血管新生をそれぞれ57%および59%阻害した。TETRAC濃度を1μg/フィルターディスクに上昇させると、FGF2刺激血管新生は74%阻害された。最大阻害は、TETRAC濃度をさらに3μg/フィルターディスクに上昇させたときに観察され、これは5μg/フィルターディクスで維持された。
下に示すように、TETRACは、VEGFおよびT3の血管新生促進効果をそれぞれ52%および66%阻害する。
管形成のTETRAC阻害:
HMVEC−d細胞をマトリゲル上で24時間培養し、漸増量のTETRACの存在下または不在下、VEGF(50ng/mL)で刺激した。TETRACは、下に示すとおり、接合部の数の減少および管の数の減少ならびに総細管長の減少によって明示されるように、VEGFによって誘導される管形成を阻害した。
管接合部の数は、32.0±9.6(0μMのTETRAC)から、1μM、2.5μMおよび10μMのTETRACで、それぞれ、18.0±1.5、4.7±1.8および3.0±2.5に減少した。同様に、管の数は、212.3±21.3(0μMのTETRAC)から180.0±4.0(1μMのTETRAC)、150.0±8.1(2.5μMのTETRAC)および81.3±24.8(10μMのTETRAC)に減少した。総管長も用量依存的に減少し、70%という管長最大減少が10μMで観察され、25μMおよび50μMのTETRACで維持された(データは示さない)。
インテグリンαVおよびβ3ならびにアンジオポエチン−2のmRNA発現は、TETRACによって減少される:
HMVEC−d細胞をマトリゲル上で増殖させ、TETRACを伴うまたは伴わないVEGF(50ng/mL)で、2時間、刺激した。メッセンジャーRNAを単離し、下に示すように、実時間RT−PCRをインテグリンαVおよびβ3について行った。
TETRACは、インテグリンαVとインテグリンβ3両方のmRNA発現を用量依存式で阻害した。αV mRNAレベルは、VEGF処理細胞において0.1149±0.0124の相対蛍光単位(RFU)から、1μMのTETRACでの処理後、0.0618±0.00927 RFUに減少し、3μMのTETRACでの処理後、さらに減少した。その発現が、インテグリンαVよりはるかに低いインテグリンβ3の発現は、インテグリンαVと同様にTETRACで処理した後、減少した。VEGF処理細胞は、0.0229±0.0026 RFUのβ3を発現した。発現は、1μMおよび3μMのTETRACで、それぞれ、0.0160±0.0013および0.0159±0.0016 RFUに減少した。アンジオポエチン−1およびアンジオポエチン−2の実時間RT−PCRを行い、下に示すように、TETRACは用量依存的にアンジオポエチン−2のmRNA発現を阻害し、アンジオポエチン−1のmRNAレベルに影響を及ぼさないことが判明した。
加えて、TETRACおよびVEGFとの一晩のHMVEC−d細胞のインキュベーションは、アンジオポエチン−1およびアンジオポエチン−2の発現をさらに改変しなかった(データは示さない)。
マイクロアレイ分析
VEGF刺激血管新生のTETRAC阻害の可能性のあるメカニズムをさらに特定するために、AffymetrixからのHuman U133 Plus 2.0アレイを使用してマイクロアレイ分析を行った。HDMEC細胞を50ng/mLのVEGFとともに24時間、TETRAC(3uM)を伴いまたは伴わずにインキュベートした。Affymetrix GeneChip分析の結果は、3つの異なるアンジオポエチン様転写産物がHMVEC−d細胞において差別的に発現されることを示した。下に示すように、アンジオポエチン様1(ANGPTL−1、プローブセットID#231773)発現は、VEGF処理後に5.9倍増加された。この刺激による発現増加は、細胞をTETRACおよびVEGFで共処理した場合、ベースラインレベルより下に減少された。アンジオポエチン様2(ANGPTL−2、プローブセットID#239039)発現は、VEGF処理後、未処理対照と比較して1.6倍増加された。TETRACの添加は、このANGPTL−2の発現をほぼベースラインレベルに減少させた。興味深いことに、アンジオポエチン様3(ANGPTL−3、プローブセットID#231684)発現は、VEGFでのHMVEC−d細胞の処理による影響を受けなかった。しかし、TETRACは、ANGPTL−3の発現を、未処理対照とVEGF処理サンプルの両方と比較して1.9分の1に減少させた。これらのデータは、TETRACが血管新生の刺激に必要なターゲット遺伝子の発現を阻害し得ることを、さらに示唆している。
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、血管新生に明瞭に関係している。合成MMP阻害剤と内因性MMP阻害剤の両方が、インビトロモデルおよびインビボモデル両方において血管新生を妨げる。本発明者らは、マイクロアレイを用いて、TETRACを伴うおよび伴わないVEGF処理後のMMP発現の変化を調査した。VEGFで処理したHMVEC−d細胞は、MMP−15の発現の5.1倍の増加およびMMP−19の発現の2.9倍の増加を有する。下に示すように、細胞をTETRAC(3μM)とともに共処理すると、MMP−15およびMMP−19の発現は、それぞれ、3.2分の1および8.7分の1に減少する。興味深いことに、MMP−24発現は、VEGF処理によってわずかにしか減少しないが、TETRACの追加によってさらに低下される。MMPファミリーの幾つかのメンバーの強力な阻害剤であるメタロプロテイナーゼ組織阻害剤3(TIMP−3)の発現は、VEGFおよびTETRACでの処理後、VEGFで処理したHMVEC−d細胞と比較して、5.4倍増加された。これは、VEGF刺激血管新生に対するTETRAC阻害のメカニズムが、TIMP発現の増加によって調節され、そしてまたそれが、血管新生中に発生する細胞骨格再構成におけるMMPの役割を妨げることを示差している。
最近、主として癌の場での補助的使用のために、抗血管新生性化合物に大きな臨床的関心が寄せられている。上で論証したように、甲状腺ホルモンの原形質膜受容体に向けられた小分子、TETRAC、は、強力な抗血管新生活性を有する。TETRACは、細胞表面で開始される甲状腺ホルモン作用のアンタゴニストであるが、甲状腺ホルモン不在下でのTETRACがニワトリおよびヒト内皮細胞アッセイにおいてVEGFおよびFGF2の血管新生活性を阻害することが、今般、明らかになった。従って、TETRACは、内皮細胞において血管新生性VEGFおよびFGF2シグナルを伝達するインテグリンをターゲティングする望ましい資質を有するが、一定の腫瘍細胞(ヒトエストロゲン受容体(ER)陽性乳癌MCF−7細胞、および神経膠芽細胞腫のマウス神経膠腫細胞モデルを含む)の増殖に対する生理濃度の甲状腺ホルモンの栄養作用を阻害もする。
いずれの理論による拘束を受けないが、甲状腺ホルモンは細胞または分子レベルで腫瘍に対する幾つかの効果を有すると推測される。これらの効果としては、腫瘍細胞に対する直接的な増殖効果、転移を支持し得る癌細胞の移動に対する直接的な効果、および血管新生促進作用による腫瘍増殖の間接的な支持が挙げられる。癌の場において、抗甲状腺ホルモン薬として作用する、非修飾TETRACおよびTRIAC、またはナノ粒子もしくはポリマーコンジュゲートとして修飾されたものを治療に応用することができる。
マウス神経膠腫細胞の頭蓋内インプラントのマウスモデルへのTETRACの投与で、最近、生存に対する有意な恩恵が得られた(R.A.Fenstermaker、M.Ciesielski,F.Davis、およびP.J.Davis、未発表の観察)。加えて、最近の前向き臨床研究は、甲状腺ホルモンが多形性神経膠芽細胞腫(GBM)の増殖因子であること、およびGBM患者の軽度甲状腺機能低下には生存に対する実質的な恩恵があることを示している。M.D.Anderson Cancer Centerでの甲状腺機能低下患者における乳癌経験の後向き分析により、甲状腺機能低下が、乳癌の危険を低下させ、これが甲状腺低下症の女性において発生したとき、さほど浸潤性でない病変を随伴することが証明された。いずれの理論による拘束を受けるつもりはないが、腫瘍細胞に対する直接的な増殖効果と血管新生による腫瘍増殖の間接的な支持という甲状腺ホルモンの2つの効果が見られると思われる。これら2つのタイプの癌の場において、TETRACを治療に応用することができる。
(実施例29)
新規T4/ポリマーコンジュゲートおよびT4/ナノ粒子コンジュゲート:
甲状腺は、2つの基本的に異なるタイプのホルモンの源である。ヨードチロニンホルモンとしては、チロキシン(T4)および3,5,3’−トリヨードチロニン(T3)が挙げられる。これらは、正常な成長および発育に必須であり、エネルギー代謝において重要な役割を果す。これらの甲状腺ホルモンは、チロシンから最終的に得られる芳香族アミノ酸である。これらは、L−DOPAおよび5−ヒドロキシトリプトファン(それぞれ、神経伝達物質ドーパミンおよびセロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン)の生合成前駆体)に、化学的におよび生合成的に類似している。T4およびT3の化学構造ならびにそれらの生合成類似体を下に示す。
T
3もしくはT
4のいずれかとポリマーのコンジュゲーション、またはナノ粒子でのT
3もしくはT
4の固定化は、そのコンジュゲートに核膜を横断させない直径を有する粒子を生じさせるであろう。従って、望ましくないゲノム効果を一切伴わずに、T
3またはT
4の細胞表面活性のみを得ることができる。
T3とT4の両方が、ポリマーコンジュゲートを形成するように反応することができる、3つの官能基(1つのカルボン酸基、1つのアミン基および1つのヒドロキシル基)を有する。T3またはT4/ポリマーコンジュゲートを合成するための反応部位は、以下のいずれであってもよい(説明のためにT4を用いる):
1)カルボン酸基:この酸基は、エステルまたはアミドを形成するように反応することができる。T4におけるアミノ基の高い反応性のため、これは、コンジュゲーション反応前に保護し、その後、脱保護しなければならない。そうしなければ、自己重合によりT4オリゴマーが形成される。候補ポリマーとしては、PVA、PEG−NH2、ポリ(リシン)および関連ポリマーが挙げられる。
2)アミン基:アミン基は、カルボン酸官能基またはハロゲン基を有するポリマーと反応することができる。そのポリマーが、大量の活性酸基を有する場合、反応は直接遂行し得る。ポリ(メチルアクリル酸)およびポリ(アクリル酸)は、このようにして用いることができる。
3)ヒドロキシル基:より高い反応性アミノ基の存在のため、カルボン酸を含有するポリマーとT4の直接反応は難しい。このアミノ基は、反応前に保護し、コンジュゲーション反応後に脱保護しなければならない。一般的な保護基は、無水酢酸(Ac2O)、N−メチル、N−エチル、N−トリフェニルまたはジ−t−ブチルジカーボネート(BOC2O)基であり得る。
以下の実施形態のそれぞれに、T4の代わりにT3を用いることができる。
L−T4のアミノ基の保護
L−T4のアミノ基の保護は、無水酢酸(Ac2O)、ジ−t−ブチルジカーボネート(BOC2O)および無水酪酸(Bu2O)を保護因子として使用して、または任意の適する長い脂肪族基を使用して、行うことができる。長い脂肪族基、塩化パルミトイル、を使用する合成スキームの一例を、以下の合成スキームに示す。
ジ−t−ブチルジカーボネート(BOC
2O)および無水酪酸(Bu
2O)を使用するL−T
4のアミノ基の保護(T
4−BOC)のスキームを下に示す。
L−T
4は、市販のL−T
4のフェノールおよび両性イオン形の反応性と比較されるアミノ基の反応性を考慮して、選択的に保護した。これは、極性溶媒(DMAまたはDMF)中、等モル量の製品、無機塩基(Na
2CO
3)または有機塩基(TEA)を使用して行った。下に示す以下の反応条件下で、化合物PRIAB1、PRIAB4およびPRIAB5を合成した。
試験のために分析的に純粋なサンプルを得るための一般手順を下に示す(一例としてPRIAB1を用いる):
2−[(t−ブトキシカルボニル)アミノ]−3−[4−(4−ヒドロキシ−3,5−ジヨードフェノキシ)−3,5−ジイソフェニル]プロパン酸(PRIAB1)。
白色固体;収率50%;再結晶溶媒:AcOEt;Rf=0.79(DCM/MeOH 5/5);融点=212℃;IR(ν cm−1):3407.41(NH);1701.65(CO);1660.49(CO;
上で説明したのと同様の方法で、PRIAB2、PRIAB6およびPRIAB12(下に示す)も合成し、脱保護し、純度について試験した。
これらの新規N−置換基(N−メチル、N−エチルまたはN−トリフェニル)は、CAMモデルにおいて、下の表に示すように、b−FGFまたはL−T4のものと同等の血管新生促進効力を示した。
血管新生のCAMモデルにおけるL−T4類似体PRIAB2、PRIAB6、PRIAB12の効果
T
4−BOCの活性化
T
4−BOCは、エピクロロヒドリンまたは他の適する活性化剤(例えば、エピブロモヒドリン)を使用して活性化することができる。例えば、活性化T
4−BOC中間体の合成スキームを下に示す。
新規T
4/ポリマーコンジュゲートの合成:
PVA、PEG、ポリリシン、ポリアルギニンをはじめとする(しかし、これらに限定されない)種々のポリマーに、活性化T
4−BOCをコンジュゲートさせることができる。分解中に肝臓においてT
4およびT
3がそれぞれグルクロン酸およびスルホン酸とコンジュゲートするので、フェノールのヒドロキシル基によるポリマーへのT
4のコンジュゲーションが望ましいであろう。例えば、ポリリシンへの活性化T
4−BOCのコンジュゲーションの合成スキームを下に示す。
ポリアルギニンへのT4−Bocのコンジュゲーションの合成スキームを下に示す。
無水酢酸(Ac
2O)またはジ−t−ブチルジカーボネート(BOC
2O)を使用するT
4の保護、脱保護、およびその後のPBAまたはPEGへのコンジュゲーションを示すスキームを下に示す。
T
4が封入されたナノ粒子の作製
コンジュゲーション、例えばPEGへのコンジュゲーション、の後、そのT
4/PEGコンジュゲートは、通常の当業者に公知の任意の方法によるナノ粒子での固定化に用いることができる。例えば、限定ではないが、N−保護T
4が封入されているPEG−PLGAナノ粒子は、次の(および下に図示する)ようなシングルエマルジョン法によって作製する。PEG−PLGAおよびN−保護T
4を別々にDMSO中で作製し(例えば、80mg/mLのPEG−PLGAおよび15mg/mLのN−保護T
4)、その後、等量で混合する。この溶液の100μLを、定常的に攪拌しながら、1%PVA(ポリビニルアルコール)溶液に添加する。4時間後、T
4が封入されているナノ粒子を含有する全溶液を透析に付して、不純物を除去する。
T
4コンジュゲート化PEG−PLGAナノ粒子の作製
T
4/PEGコンジュゲートは、通常の当業者に公知の適するコンジュゲーション法を用いるナノ粒子へのコンジュゲーションによってナノ粒子で固定化するために用いることができる。実例となる例として、下のスキームに示すように、先ず、T
4中に存在する高反応性アミノ基を、無水酢酸(Ac
2O)またはジ−t−ブチルジカーボネート(BOC
2O)のいずれかを使用することによりブロックし、その後、エピクロロヒドリンで活性化し、ナノ粒子にコンジュゲートさせる。
薬理試験
上で説明したようなPRIAB1、PRIAB4およびPRIAB5を、コンジュゲーション前に、ニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイを用いて試験した。PRIAB1についての結果をここに提示する。
試験の結果は驚くべきものであった。試験結果は、保護されたT
4類似体による明確な血管新生促進作用を示し、最も嵩高い保護基が最もわずかな活性を示した。アミド結合の形成のため、それらの分子の第二級窒素が有する自由な片方の電子が、カルボニル基のほうに移動させられ、これがそのアミンを非求核性にする(カルボニル基によるアミンの不活性化を下に示す)。それにもかかわらず、それは、尚、塩基性である。
アミンを塩基性および求核性にする、(嵩高さが異なる)保護アミノ基を有するように設計した新規類似体を下に示す:
T
4類似体およびそれらのナノ粒子対応品に対するこのおよび将来の調査の結果は、新規血管形成の刺激に対するT
4の非ゲノム性作用の知識を増す上での主要な段階を意味する。肯定的な場合、アルキル化T
4類似体の結果は、非常に多数の新規生物学的アッセイの着手につながり得る。これらの結果は、新規二重TR−αVβ
3アゴニストまたはアンタゴニストの設計に寄与し得る。
(実施例30)
冠、頚動脈または末梢組織における側副枝再生:
実験的四肢虚血モデル:
本研究は、ウサギ(月齢8〜12ヶ月)の3つの主要な群を用いて行った:a)対照群としての役割を果す虚血、未治療群、およびb)L−T4類似体を受ける虚血群、およびc)DITPA類似体を受ける虚血群。動物が水および餌を自由に入手できるようにし、それらを22℃の周囲温度および12時間の昼/夜サイクルで別々のケージに収容した。外科手術の直後、ウサギに単回i.m.量のテトラサイクリンを注射した。甲状腺類似体を負荷s.c.用量(1mg/動物)として与え、その後、その薬物を毎日経口投与した(1mg/動物)。
甲状腺類似体の使用がインビボで血管新生を刺激するおよび側副血管発生を増加させる可能性を調査するために、本発明者らは、後肢虚血のウサギモデルを用いた。簡単に言うと、麻酔(ケタミン10mg/kgおよびキシラジン2.5g/kgの混合物、i.m.)した状態のウサギを、鼠径靭帯から下に膝蓋骨にまさに近接する点まで縦に切開した。この切開により、大腿動脈をその全長に沿って切除する。大腿動脈のすべての枝(下腹壁動脈、大腿深動脈、外側回旋動脈および浅腹壁動脈を含む)を切除する。膝窩動脈および伏在動脈の広範な切開の後、外腸骨動脈の結紮および前に挙げたすべての動脈の結紮を行った。この後、外腸骨動脈の枝などのその近位起点から、遠位に、潜在動脈と膝窩動脈になるために二叉に分かれる点まで、大腿動脈を完全に切除した。従って、遠位の四肢への血液供給は、同側内腸骨動脈に源を発する側副動脈に依存する。内腿から筋肉サンプルを取った。
血管造影:
手術および治療の1ヶ月後に、虚血四肢における側副血管の発生を大動脈血管造影によって評価した。血管造影は、研究期間の最後に行い、注入は、大動脈に導入したカテーテルによって行った。造影剤(5mLのIsovue−370)の動脈内注入。異なる群からの虚血四肢の画像を記録した。
血管写像後、動物を屠殺し、血液サンプルを採取し、後肢筋肉から組織切片を作製し、後の免疫染色のためにパラフィンに包埋した。
免疫組織化学的研究:
CD31の発現:
パラフィン包埋切片を脱パラフィンし、再水和し、10分間、マイクロウェーブおよびクエン酸緩衝液、pH6.1を使用する抗原回復に付した。その後、Tris緩衝食塩水で1:1000希釈したCD31モノクローナルマウス抗ヒト(DAKO)とともにそれらの切片をインキュベートした。この抗体は、内皮細胞を強力に標識するものであり、毛細血管の判定における良いマーカーである。DABを用い、その後、対比染色を用いて、抗原−抗体複合体を視覚化した。
毛細血管密度の評定:
CD31の陽性染色によって特定された毛細血管を、治療レジメンを知らない一人の観察者が、40倍の対物レンズのもとで計数した(筋肉線維当たりの毛細血管の平均数)。組織切片から合計10個の異なる視野をランダムに選択し、毛細血管の数を数え、毛細血管/筋肉線維の比率を計算することによって毛細血管密度を決定した。
他の実施形態
本発明を、その詳細な説明に関連して説明したが、上述の説明は例証を目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は、添付のクレームの範囲によって規定される。他の態様、利点、および変形は、後続のクレームの範囲内である。