JP2008196532A - 車両の推進装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】車両加速時における騒音振動を抑制しつつ加速レスポンスを向上できる車両の推進装置を提供する。
【解決手段】駆動輪RL,RRの駆動力源であるエンジンEと、前記エンジンEと前記駆動輪との間に介装され前記エンジンの出力回転を変速して前記駆動輪に伝達する変速機TMと、を備えた車両の推進装置において、前記エンジンおよび前記変速機との間の駆動軸に2つのフライホイールFW1,FW2を設け、前記2つのフライホイールのうち1つを前記駆動軸に回転可能に設け、前記駆動軸に回転可能に設けられたフライホイールFW2と前記駆動軸とを断接するフライホイール用クラッチCL2と、前記エンジンの回転数が所定の閾値以下である低回転領域では前記フライホイール用クラッチを締結し、前記エンジンの回転数が前記所定の閾値よりも高い高回転領域では前記フライホイール用クラッチを解放するフライホイール用クラッチ制御手段と、を設けた。
【選択図】図1

Description

本発明は、フライホイールを備えた車両の推進装置に関する。
従来、車両の推進装置として、エンジンのクランクシャフトの出力端にフライホイールを設け、このフライホイールの出力側にクラッチを介して変速機を接続したものがある。エンジン回転変動、すなわち変速機の入力回転数の変動があると、変速機のギアトレインにおいて、例えばギアの歯面同士がぶつかって(ギアの歯打ちによって)騒音を発生する。フライホイールは、その慣性モーメントによりエンジンの上記回転変動を低減することによって騒音振動を減少させるものである。充分に騒音振動を抑制するためには所定の慣性モーメントの大きさを確保する必要がある。
一方、フライホイールの慣性モーメントは、車両加速時にエンジン駆動力に対する抵抗となる。よって、加速時のレスポンスを向上するためには上記慣性モーメントをできるだけ小さく設定する必要がある。すなわち、騒音振動の低減と加速レスポンスの向上とは、トレードオフの関係にある。よって、充分に騒音振動を抑制しつつ加速レスポンスを効果的に向上することが困難である、という問題があった。
ここで、上記フライホイールを2つ備えたものが知られている。例えば、特許文献1には、駆動力源としてエンジンの他にモータジェネレータを備え、エンジンの出力軸に第1フライホールを介してモータジェネレータを設け、このモータジェネレータの出力側に第2フライホイールを設け、この第2フライホイールの出力側にクラッチを介して変速機を接続した車両の推進装置が開示されている。
特開2001−074107号公報
特許文献1に記載の推進装置では、第1フライホイールの慣性モーメントを第2フライホイールよりも大きく設定することで、エンジンの捩り振動の減少を図っている。しかし、特許文献1に記載の構成にあっては、第1および第2フライホイールが同じ軸上に固定され、一体に回転するように設けられている。そして、騒音振動対策の観点からは、第1および第2フライホイール全体としての軽量化には限界があり、全体としての慣性モーメントを小さくできない。よって、加速レスポンスを向上できない、という問題があった。
本発明は、上記諸問題に着目してなされたもので、車両加速時における騒音振動を抑制しつつ加速レスポンスを向上できる車両の推進装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の車両の推進装置では、駆動輪の駆動力源であるエンジンと、前記エンジンと前記駆動輪との間に介装され前記エンジンの出力回転を変速して前記駆動輪に伝達する変速機と、を備えた車両の推進装置において、前記エンジンおよび前記変速機との間の駆動軸に2つのフライホイールを設け、前記2つのフライホイールのうち1つを前記駆動軸に回転可能に設け、前記駆動軸に回転可能に設けられたフライホイールと前記駆動軸とを断接するフライホイール用クラッチと、前記エンジンの回転数が所定の閾値以下である低回転領域では前記フライホイール用クラッチを締結し、前記エンジンの回転数が前記所定の閾値よりも高い高回転領域では前記フライホイール用クラッチを解放するフライホイール用クラッチ制御手段と、を設けた。
よって、本発明の車両の推進装置にあっては、走行状況に応じてトルク伝達系の慣性モーメントを増減することにより、車両加速時における騒音振動を抑制しつつ加速レスポンスを向上できる。
以下、本発明の車両の推進装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
[実施例1の構成]
図1は、実施例1の推進装置が適用された車両のトルク伝達系を示す全体図である。この後輪駆動の車両のトルク伝達系は、エンジンEと、クランクシャフトCSと、エンジン出力軸OUTと、第1クラッチCL1と、変速機入力軸INと、変速機TMと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有している。なお、左前輪FLと右前輪FRの図示は省略する。
エンジンEは、例えば直列4気筒のガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、運転者のアクセルペダル操作に連動して、すなわちアクセル開度APOに応じて、スロットルバルブの開度が変化する。
エンジンEのクランクシャフトCSの出力端には出力軸OUTが接続されている。出力軸OUTには、第1フライホイールFW1が固定して設けられており、出力軸OUTと一体回転する。第1フライホイールFW1の出力側(変速機側)には、第1クラッチCL1が設けられている。
第1クラッチCL1は、エンジンEの出力軸OUTと変速機TMの入力軸INとの間に介装された乾式単板クラッチであり、運転者のクラッチペダル操作に応じて締結・解放される。
入力軸INには、第2フライホイールFW2が、入力軸INの周りに回転可能に設けられている。第2フライホイールFW2の内周側と入力軸INの外周との間には、ベアリングBRGが介装されている。
また、第2フライホイールFW2と入力軸INとの間には、第2フライホイールFW2と入力軸INとを断接する第2クラッチCL2が介装されている。第2クラッチCL2は乾式多板クラッチであり、図外の油圧ユニットにより作り出された制御油圧により締結・解放が制御される。コントロールユニットCUは、エンジン回転数センサ1からの入力情報に基づき、上記油圧ユニットに制御指令を出力する。
変速機TMは、前進5速後退1速等の変速段を運転者のシフトレバー操作に応じて切り換える手動変速機である。
そして、変速機TMの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
図2は、第1、第2フライホイールFW1,FW2の軸方向部分断面図である。第1フライホイールFW1の内周側は、ボルトB1によりエンジンEの出力軸OUTに締結されている。第1フライホイールFW1の外周側には、ボルトB2によりクラッチカバー2a、2bが締結されている。クラッチカバー2a、2b内には第1クラッチCL1が収装されている。クラッチカバー2bにはプレッシャプレート2cが取り付けられている。入力軸INには、クラッチハブ3aがスプライン結合され、クラッチハブ3aは入力軸INの軸方向に移動可能かつ入力軸INの周りに回転不能とされている。クラッチハブ3aにはダンパ3bを介してクラッチプレート3cが取り付けられており、クラッチプレート3cの外周側にはクラッチディスク3dが設けられている。
図外のクラッチペダルが踏み込まれない状態では、プレッシャプレート2cの弾性力によりクラッチディスク3dが第1フライホイールFW1に押し付けられるため、第1クラッチCL1は締結される。一方、クラッチペダルが踏み込まれた状態では、クラッチディスク3dを押圧していたプレッシャプレート2cが変速機TMの側に離れ、クラッチディスク3dと第1フライホイールFW1との係合が解除されるため、第1クラッチCL1が解放される。
第1クラッチCL1よりも変速機TM側の入力軸IN上には、第2クラッチCL2のクラッチハブ4aが結合されている。クラッチハブ4aには駆動側の多板クラッチディスク4bが支持されている。
クラッチハブ4aよりも変速機TM側の入力軸IN上には、第2フライホイールFW2の軸受けであるベアリングBRGが設けられ、ベアリングBRGの外周には第2フライホイールFW2が嵌合されている。第2フライホイールFW2は入力軸INの軸方向および径方向に移動不能、かつ入力軸INの周りに回転可能とされている。第2フライホイールFW2のエンジンE側には被駆動側のクラッチハブ4cが形成されており、クラッチハブ4cには被駆動側の多板クラッチディスク4dが支持されている。
図外の油圧ユニットの制御油圧により入力軸INの軸方向に移動可能な図外のピストンが設けられており、このピストンの押圧力により駆動側および被駆動側の多板クラッチディスク4b,4dが係合される。上記係合がなされると第2クラッチCL2が締結され、上記係合が解除されると第2クラッチCL2が解放される。第2フライホイールFW2は、第2クラッチCL2の解放状態では入力軸INと切り離され、入力軸INの回転の有無に関わらず略静止する。一方、第2クラッチCL2の締結状態では入力軸INと係合し、入力軸INと一体回転する。
[実施例1の作用]
次に、実施例1の車両の推進装置の作用について説明する。
コントロールユニットCUは、エンジン回転数Neに基づいて第2クラッチCL2の締結・解放を制御する。第2クラッチCL2が締結されると、第2フライホイールFW2が入力軸INと一体回転するため、第2フライホイールFW2の慣性モーメントI2の分だけトルク伝達系全体の慣性モーメントIが増加する。一方、第2クラッチCL2が解放されると、第2フライホイールFW2が入力軸INの回転から切り離されるため、第2フライホイールFW2の慣性モーメントI2の分だけトルク伝達系全体の慣性モーメントIが減少する。
コントロールユニットCUは、エンジン回転数Neが所定の閾値(本実施例1では2800rpm)以下の低回転領域では、第2クラッチCL2を締結し、慣性モーメントIを増加させる。エンジン回転数Neが上記閾値よりも大きい高回転領域では、第2クラッチCL2を解放し、慣性モーメントIを減少させる。
具体的には、エンジン回転数Neが上記低回転領域から高回転領域へと移行した際には、後述する加速レスポンスの向上を優先するため、第2クラッチCL2を完全解放させる制御指令を最大出力する。これにより第2クラッチCL2の締結容量が所定の大きな勾配で減少し、速やかに第2クラッチCL2が解放される。一方、エンジン回転数Neが上記高回転領域から低回転領域へと移行した際には、乗心地を向上するため、第2クラッチCL2の締結油圧を緩やかに増大させる制御指令を出力する。これにより第2クラッチCL2の締結容量が所定の小さな勾配で増大し、緩やかに第2クラッチCL2が締結される。
(加速レスポンスの向上)
実施例1の推進装置は、エンジン回転数Neが高回転領域にある車両加速時には、エンジン駆動力に対する抵抗となるトルク伝達系の慣性モーメントIを減少させ、加速時のレスポンスを向上する。
(タイムチャート)
図3は、実施例1の第2クラッチCL2の締結・解放制御を実行した場合の、エンジン回転数Neおよび慣性モーメントIの時間変化を示すタイムチャートである。アクセル開度APOを二点鎖線で示す。また、第1フライホイールFW1の慣性モーメントI1を点線で、第2フライホイールFW2の慣性モーメントI2を細い実線で、第1および第2フライホイールFW1,FW2の合計の慣性モーメントIを太い実線で示す。
第1フライホイールFW1は出力軸OUTに固定されているため、各時刻を通じて慣性モーメントI1は一定である。
時刻t1以前において、アクセル開度APOは0%であり、エンジンEはアイドル回転している。すなわちエンジン回転数Neは低回転領域にある。よって、第2クラッチCL2の締結指令が出力されており、第2フライホイールFW2が接続されている。このため、第2フライホイールFW2の慣性モーメントI2は最大値I2maxであり、トルク伝達系全体の慣性モーメントIは最大値(I1+I2max)に保持されている。尚、説明の便宜上、トルク伝達系の慣性モーメントIは、第1、第2フライホイールFW1,FW2の慣性モーメントI1,I2の合計とする。
時刻t1においてアクセルペダルが踏み込まれる。t1以後、アクセル開度APOが0%から増大し、時刻t3において最大の100%となる。これに伴い、t1以後、エンジン回転数Neはアイドル回転数Ne-idleから上昇する。
時刻t2において、エンジン回転数Neが閾値の2800rpmとなり、低回転領域から高回転領域に移行する。この移行をトリガとして、第2クラッチCL2の解放指令が出力される。時刻t2からt4までの間、第2クラッチCL2の締結容量が所定の勾配で減少し、第2クラッチCL2が締結状態から解放状態に移行する。これに対応して、慣性モーメントI2は最大値I2maxから最小値ゼロに減少し、これに伴い全体の慣性モーメントIは最大値(I1+I2max)から最小値(I1)に減少する。
時刻t4以後、第2クラッチCL2が解放状態にある間、慣性モーメントIは最小値I1に保持される。
時刻t5において、アクセルペダルが戻される。t5以後、アクセル開度APOが100%から減少し、時刻t7において所定値APO1となる。これに伴い、t5以後、エンジン回転数Neは下降する。
時刻t6において、エンジン回転数Neが閾値の2800rpmとなり、高回転領域から低回転領域に移行する。この移行をトリガとして、第2クラッチCL2の締結指令が再度出力される。時刻t6からt8までの間、第2クラッチCL2が解放状態から締結状態に移行するのに対応して、慣性モーメントI2は最小値ゼロから最大値I2maxに増大する。これに伴い全体の慣性モーメントIは最小値(I1)から最大値(I1+I2max)に増大する。時刻t8以後、第2クラッチCL2が締結状態にある間、慣性モーメントIは再び最大値(I1+I2max)に保持される。
エンジン回転数Neが高回転領域にある時刻t2からt6までの間、第2クラッチCL2が解放され、慣性モーメントIが減少する。この減少分だけエンジン出力軸OUTに加わる負荷トルクが減少し、エンジン回転数Neの上昇速度が大きくなる。言い換えれば、加速レスポンスが向上する。
(加速時騒音の抑制)
一般に、加速時の騒音振動は、振動系としての推進装置(トルク伝達系)のマスとバネにより決定される。本願発明は、トルク伝達系のマス、すなわちフライホイールFWの慣性モーメントを変化させることにより騒音振動を制御するものである。
まず、エンジンEのピストン慣性と燃焼サイクルとに起因するエンジン回転変動、およびこのエンジン回転変動により発生する加速時騒音について説明する。手動変速機を搭載した車両において顕著であるように、エンジン回転変動、すなわち変速機TMの入力回転数の変動があると、変速機TMのギアトレインにおいて、例えばギアの歯面同士がぶつかって(ギアの歯打ちによって)騒音を発生する。従来、フライホイールFWは、その慣性モーメントIによりエンジンEの上記回転変動を低減することによって騒音振動を減少させるものである。
図4は、WOT(Wide Open Throttle)、すなわち登り坂等で車両およびエンジンEに負荷がかかり、かつスロットル(アクセル)が全開にされた状態における、エンジン回転数Neとエンジン回転変動レベルとの関係を示す。本実施例1において、低回転領域では第2フライホイールFW2を接続し、高回転領域では第2フライホイールFW2を切り離した場合の、エンジン回転変動を示す。
エンジンピストンの慣性およびエンジン燃焼の2つの要因は、それぞれ独立にクランクシャフトCSの振動を引き起こす。エンジン回転変動は、これら2つの要因によるそれぞれの振動が合成されたものである。これら2つの振動は、位相が互いに180度ずれている(逆位相にある)ため、合成により相殺される関係にある。
エンジン回転数Neが低い領域では、エンジン燃焼による振動のほうがピストン慣性による振動よりも振幅が大きいため、これら2つの振動が合成された振動の振幅、すなわちエンジン回転変動も大きい。エンジン回転数Neが高くなるにつれて、両振動の振幅が等しくなっていくため、エンジン回転変動は小さくなっていく。そして、例えば3300rpm付近で最小となる。これを超えてエンジン回転数Neが高くなると、今度は、ピストン慣性による振動のほうがエンジン燃焼による振動よりも大きくなるため、これらの合成であるエンジン回転変動も大きくなっていく。
本実施例1の推進装置は、低回転領域では第2クラッチCL2を締結し、第1および第2フライホイールFW1,FW2を駆動軸(出力軸OUT、入力軸IN)と一体回転させる。すなわち、トルク伝達系の慣性モーメントIを最大値(I1+I2max)に保持する。これにより、エンジン出力軸にフライホイールFWを備えた従来の車両の推進装置と同様、大きな慣性モーメントを駆動軸に作用させ、ギアの歯打ち等に起因する騒音振動を低減する。よって、車両加速時における騒音が低減される。
一方、高回転領域では、上記騒音振動は運転者の気になるほど問題とならない。例えば3500rpm付近よりも高回転の領域は、巡航走行時には使用せず、主に加速要求時にのみ使用するエンジン回転領域である。このため、トルク伝達系の慣性モーメントIを大きく保持して騒音を低減するよりも、慣性モーメントIを小さくして加速レスポンスを向上したほうがメリットが大きい。本実施例1では、ギアの歯打ち等に起因する騒音振動を抑制する必要がある回転数領域と、加速レスポンスを優先させる必要がある回転数領域との境界である閾値を、2800rpmに設定する。そして、エンジン回転数Neがこの閾値(2800rpm)よりも高い高回転領域では第2クラッチCL2を解放し、第1フライホイールFW1のみを駆動軸と一体回転させる。これにより、トルク伝達系全体の慣性モーメントIが低減し、加速レスポンスが向上する。
ここで、この高回転領域において発生する振動(エンジン回転変動)のレベルは、エンジンピストンの質量等、車両の仕様に応じて決定される。言い換えれば、実験等により、音振対策が必要となる振動レベルを超えないように、第1フライホイールFW1の慣性モーメントI1を設定できる。図4に示すように、本実施例1では、高回転領域で第2フライホイールFW2を切り離したときも、エンジン回転変動のレベルは充分に抑制されている。
次に、倒れ共振により発生する騒音について説明する。一般に、クランクシャフトCSの出力端近傍に設けられたフライホイールFWの慣性モーメントIの大きさに応じて、エンジン作動時、クランクシャフトCSの各メインジャーナルMJ(図1参照)が互いに曲げられるように振動する(倒れ共振)。この振動変位が、メインジャーナルMJを収装するシリンダブロックに伝達され、シリンダブロックからの反力が伝達されることにより、騒音振動が発生する。この騒音振動は、特に、クランクシャフトCSの出力端近傍に設けられたフライホイールFWの慣性モーメントIが大きく設定されている場合に顕著となる。
図5は、各周波数におけるメインジャーナルMJ5の振動変位レベルを示すグラフである。ギアの歯打ち等による上記音振を防止するには所定の慣性モーメントIを確保する必要がある。このため、従来、クランクシャフトCSの出力端近傍に設けられたフライホイールFWの慣性モーメントを小さくしようとしても、限界があった。よって、従来のフライホイールでは、図5の細い実線に示すように、倒れ共振による振動変位を充分に抑制できず、車両加速時における騒音を低減できない。
本実施例1の推進装置では、フライホイールFWを第1および第2フライホイールFW1,FW2に分割し、かつ第2フライホイールFW2を駆動軸と断接可能とすることにより、クランクシャフトCSの出力端近傍に設けられた第1フライホイールFW1の慣性モーメントI1を小さく設定できる。音振対策が必要な低回転領域では第2クラッチCL2を接続することによって充分な大きさの慣性モーメントIを確保できるからである。
このように第1フライホイールFW1の慣性モーメントI1を小さく設定することによって、倒れ共振の発生が抑制され、その分だけ車両加速時においても騒音が低減される。例えば、第1フライホイールFWの質量(慣性モーメントI1)を従来のフライホイールFWの半分にすると、図5の太い実線に示すように、クランクシャフトCSの150〜350Hz付近にかけて、メインジャーナルMJ5の振動変位が従来よりも低減される。
本実施例1の車両の推進装置は、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)駆動輪RR,RLの駆動力源であるエンジンEと、エンジンEと駆動輪RR,RLとの間に介装されエンジンEの出力回転を変速して駆動輪RR,RLに伝達する変速機TMと、を備えた車両の推進装置において、エンジンEと変速機TMとの間の駆動軸(出力軸OUT、入力軸IN)に2つのフライホイール(第1、第2フライホイールFW1,FW2)を設け、これらの1つ(第2フライホイールFW2)を駆動軸に回転可能に設け、駆動軸に回転可能に設けられた上記フライホイール(第2フライホイールFW2)と駆動軸とを断接するフライホイール用クラッチ(第2クラッチCL2)と、エンジンEの回転数が所定の閾値(2800rpm)以下である低回転領域ではフライホイール用クラッチを締結し、エンジンEの回転数が所定の閾値(2800rpm)よりも高い高回転領域ではフライホイール用クラッチを解放するフライホイール用クラッチ制御手段(コントロールユニットCU)と、を設けた。
このようにフライホイールFWを2つに分割し、これらの1つである第2フライホイールFW2を駆動軸と断接可能に設けたことで、走行状況に応じてトルク伝達系の慣性モーメントIを増減できる。よって、車両加速時に、慣性モーメントIを大きくすることによりギアの歯打ち等による騒音振動を抑制できるとともに、エンジン駆動力に対する抵抗となる慣性モーメントIを小さくすることにより加速レスポンスを向上できる。また、低回転領域では第2クラッチCL2を締結し、高回転領域では第2クラッチCL2を解放する。これにより、音振対策が要求される低回転領域では慣性モーメントIを大きく保持し、ギアの歯打ち等による騒音振動を効果的に抑制できる。一方、加速要求がされる高回転領域では慣性モーメントIを小さくし、加速レスポンスを効果的に向上できる。
(2)上記駆動軸は、エンジンEの出力軸OUTと、変速機TMの入力軸INと、を有し、出力軸OUTと入力軸INとを断接する第1クラッチCL1を設け、上記2つのフライホイールのうち1つ以上(第2フライホイールFW2)を入力軸INに設けた。
上記(1)のようにフライホイールFWを2つに分割したことにより、個々のフライホイールFW1,FW2の慣性モーメントを小さく設定できる。さらに第2フライホイールFW2を出力軸OUTではなく入力軸INに設けたため、出力軸OUTには(慣性モーメントが小さな)第1フライホイールFW1のみが設けられることとなり、クランクシャフトCSの出力端近傍の慣性モーメントI1を充分に小さく設定できる。よって、車両加速時に、上記(1)のように加速レスポンスを向上しつつ、倒れ共振による騒音振動を低減できる。
実施例2の車両の推進装置の構成は、実施例1と同様である。ただし、第2フライホイールFW2および第2クラッチCL2が、変速機TMの入力軸INではなくエンジンEの出力軸OUTに設けられている点で、実施例1と相違する。
図6は、実施例2の推進装置が適用された車両のトルク伝達系を示す全体図である。エンジンEの出力軸OUTには、エンジンEの側から変速機TMの側に向かって順に、第2フライホイールFW2、第2クラッチCL2、および第1フライホイールFW1が設けられている。第1フライホイールFW1の出力側(変速機側)には、第1クラッチCL1が設けられている。第2フライホイールFW2は、出力軸OUTの周りに回転可能に設けられており、第2クラッチCL2により出力軸OUTと断続可能である。第1フライホイールFW1は、出力軸OUTに固定して設けられており、出力軸OUTと一体回転する。その他の構成は実施例1と同様である。
尚、出力軸OUTにおける配列は上記に限られず、第1フライホイールFW1が第2フライホイールFW2よりもエンジン側に位置する構成であってもよいし、第2クラッチCL2が第2フライホイールFW2よりもエンジン側に位置する構成であってもよい。
本実施例2の車両の推進装置は、上記(1)と同様の作用効果を得ることができる。
実施例3の車両の推進装置の構成は、実施例1と同様である。ただし、本実施例3の推進装置は、第2フライホイールFW2をモータジェネレータの回転子(ロータ)として形成し、第2クラッチCL2の断接を切替える際、電磁的に第2フライホイールFW2の回転数を制御する。この点で、実施例1および2と相違する。
図7は、実施例3の第1、第2フライホイールFW1,FW2の軸方向部分断面図である。第2フライホイールFW2の材質は磁性体である。第2フライホイールFW2の外周面には、ロータコイル5aが取り付けられている。第2フライホイールFW2を収装する第2フライホイールハウジング5dの内周面には、ステータコイル支持部5cが取り付けられている。ステータコイル支持部5cにはステータコイル5bが支持されている。ステータコイル5bとロータコイル5aとは第2フライホイールFW2の軸方向において同位置に設置されている。
実施例3の推進装置の他の構成は、実施例1と同様である。
ステータコイル5bへの通電によりロータとしての第2フライホイールFW2に電磁的に回転トルクが付与される。このとき第2フライホイールFW2は、モータの回転子として機能する。一方、第2フライホイールFW2の回転によりステータコイル5bには電磁的に電流が発生する。このとき第2フライホイールFW2は、車両の図外のバッテリに電力を供給する発電機の回転子として機能する。
本実施例3のコントロールユニットCUは、第2クラッチCL2の締結・解放を制御するだけでなく、ステータコイル5bに流れる電流を第2クラッチCL2の締結・解放指令に基づいて制御することにより、第2フライホイールFW2の回転数を制御する。
例えば、エンジン回転数Neが高回転領域から低回転領域へ移行した際には、実施例1とは異なり、解放状態にあった第2クラッチCL2の締結油圧を急速に増大させる制御指令を出力する。これにより第2クラッチCL2の締結容量が所定の大きな勾配で増大し、急速に第2クラッチCL2が締結される。その一方で、高回転領域から低回転領域へ移行する直前に、バッテリからステータコイル5bへ電力を供給し、略静止状態にあった第2フライホイールFW2を入力軸INと同方向に回転駆動する。すなわち、第2クラッチCL2の締結容量による第2フライホイールFW2の回転数の上昇とは独立に、電磁力により第2フライホイールFW2の回転数を予め上昇させ、入力軸INの回転数と第2フライホイールFW2の回転数との差を減少させる。
図8は、実施例3の第2クラッチCL2の締結・解放制御および第2フライホイールFW2の回転制御を実行した場合の、慣性モーメントIの時間変化を示すタイムチャートである。以下、実施例1と相違する点についてのみ説明する。
エンジン回転数Neの高回転領域から低回転領域に移行する時刻t6(図3参照)において、第2クラッチCL2の締結指令が出力される。時刻t6からt8' までの間、第2クラッチCL2が解放状態から締結状態に移行するのに対応して、慣性モーメントI2は最小値ゼロから最大値I2maxに増大する。これに伴い慣性モーメントIは最小値(I1)から最大値(I1+I2max)に増大する。
時刻t6の直前に、第2フライホイールFW2の回転駆動指令がステータコイル5bに出力され、電磁的に付与されるトルクにより第2フライホイールFW2の回転数が上昇し始める。この回転数の上昇により、第2フライホイールFW2の回転と入力軸INの回転とが徐々に同期する。
図8の一点鎖線で囲んだ部分で示すように、第2クラッチCL2の締結を開始する時刻t6において、慣性モーメントIの時間当たり変化量は小さく、慣性モーメントIは滑らかに上昇を開始する。同様に、第2クラッチCL2の締結を完了する時刻t8' において、慣性モーメントIの時間当たり変化量は小さく、慣性モーメントIは滑らかに上昇を完了する。このように第2フライホイールFW2を入力軸INと同期回転させ、慣性モーメントIの時間当たり変化を緩やかにすることによって、第2クラッチの締結時、すなわち第2フライホイールFW2の接続時のショックが緩和される。
また、第2フライホイールFW2の接続が完了する時刻t8' は、第2フライホイールFW2を同期回転させなかった場合に接続が完了する時刻t8に比べて早い。言い換えれば、第2フライホイールFW2の接続に要する時間が短縮される。第2フライホイールFW2を同期回転させなかった場合には、第2フライホイールFW2の接続時のショックを低減するため、実施例1のように第2クラッチCL2を緩やかに締結することが必要となり、その分だけ第2フライホイールFW2の接続に要する時間が長くなる。これに対し、本実施例3では、第2クラッチCL2の締結と並行して第2フライホイールFW2を同期回転させ、この同期回転により接続時のショックを緩和する。このため、第2クラッチCL2の締結に要する時間については、接続ショックを考慮することなく、これを短縮できる。
尚、第2クラッチCL2の解放時(図8の時刻t2〜t4直後)には、第2フライホイールFW2は回転エネルギーを有しているため、第2フライホイールFW2を発電機の回転子として機能させる。すなわち第2フライホイールFW2の回転によりステータコイル5bに電流を発生させ、バッテリに電力を供給する。また、第2クラッチCL2の締結を完了する時刻t8' 以後は、バッテリからステータコイル5bへの電力供給を止め、代わりに第2フライホイールFW2を発電機の回転子として機能させてバッテリを充電する。
一方、第2クラッチCL2の解放時(図8の時刻t2直前〜t4)においても第2フライホイールFW2を回転駆動させて、第2フライホイール切断時の慣性モーメントIの時間当たり変化量を抑制することとしてもよい。この場合、加速レスポンスの改善率は低下するものの乗心地を向上できる。
本実施例3の車両の推進装置は、下記の作用効果を得ることができる。
(3)駆動軸(出力軸OUT、入力軸IN)に回転可能に設けられたフライホイール(第2フライホイールFW2)をモータジェネレータの回転子として形成し、フライホイール用クラッチ(第2クラッチCL2)の断接を切替える際、駆動軸に回転可能に設けられたフライホイール(第2フライホイールFW2)の回転数を電磁的に制御するフライホイール制御手段(コントロールユニットCU)を設けた。
すなわち、第2クラッチCL2を締結(または解放)する際、第2フライホイールFW2と駆動軸(入力軸IN)とを同期回転させてこれらの間の回転数差を極小とし、慣性モーメントIの時間当たり変化を緩やかにする。これによって第2フライホイールFW2と駆動軸(入力軸IN)との接続時(または切り離し時)のショックが緩和され、乗心地が向上する。また、第2クラッチCL2の締結(または解放)時のショックを考慮することなく、第2クラッチCL2の締結(または解放)に要する時間、すなわち第2フライホイールFW2の接続(または解放)に要する時間を短縮できる。
以上、本発明の車両の発進制御装置を実施例1〜3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1〜3では、エンジンEの出力軸OUTに1つ以上のフライホイールを設けることとしたが、出力軸OUTにはフライホイールを1つも設けず、変速機TMの入力軸INに2つのフライホイールを設けることとしてもよい。この場合、車両加速時に、加速レスポンスを向上しつつ、倒れ共振による騒音振動をより効果的に低減できる。
実施例1では、エンジンEの出力軸OUTに固定された第1フライホイールFW1を設け、変速機TMの入力軸INに相対回転可能な第2フライホイールFW2を設けることとしたが、出力軸OUTに相対回転可能な第2フライホイールFW2(および第2クラッチCL2)を設け、入力軸INに固定された第1フライホイールFW1を設けることとしてもよい。
実施例1〜3では、2つのフライホイールを駆動軸の軸方向にオフセットさせて設けることとしたが、2つのフライホイールを駆動軸の径方向にオフセットさせて設けることとしてもよい。具体的には、駆動軸に固定された第1のフライホイールの外周面にベアリングを設け、このベアリングの外周側に円環状の第2のフライホイールを嵌め込むように設置して、第2のフライホイールが第1のフライホイール(および駆動軸)に対して相対回転できるようにする。そして、第2のフライホイールと第1のフライホイール(または駆動軸)とを断接可能なフライホイール用クラッチを設けることとしてもよい。
実施例1〜3では、フライホイール用クラッチ(第2クラッチCL2)として乾式多板クラッチを用いてその締結容量をオープン制御することとしたが、第2クラッチCL2として湿式多板クラッチを用いることとし、その締結容量をフィードバック制御することとしてもよい。この場合、装置が大型化・複雑化するものの、第2クラッチCL2の締結容量を正確に制御することができる。このため、第2フライホイール断接時のショックを効果的に防止することができる。
実施例1〜3では、エンジン回転数Neの高回転領域と低回転領域とを分ける閾値を2800rpmとしたが、これに限らず、他の適当な値に設定することとしてもよい。
実施例1の推進装置が適用された車両のトルク伝達系を示す全体図である。 実施例1の第1、第2フライホイールの軸方向部分断面図である。 実施例1におけるエンジン回転数および慣性モーメントのタイムチャートである。 エンジン回転数とエンジン回転変動レベルとの関係を示す図である。 各周波数におけるメインジャーナルの振動変位レベルを示すグラフである。 実施例2の推進装置が適用された車両のトルク伝達系を示す全体図である。 実施例3の第1、第2フライホイールの軸方向部分断面図である。 実施例3における慣性モーメントのタイムチャートである。
符号の説明
E エンジン
CS クランクシャフト
OUT エンジン出力軸
FW1 第1フライホイール
FW2 第2フライホイール
CL1 第1クラッチ
CL2 第2クラッチ
IN 変速機入力軸
TM 変速機
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
CU コントロールユニット
1 エンジン回転数センサ

Claims (3)

  1. 駆動輪の駆動力源であるエンジンと、
    前記エンジンと前記駆動輪との間に介装され前記エンジンの出力回転を変速して前記駆動輪に伝達する変速機と、
    を備えた車両の推進装置において、
    前記エンジンと前記変速機との間の駆動軸に2つのフライホイールを設け、
    前記2つのフライホイールのうち1つを前記駆動軸に回転可能に設け、
    前記駆動軸に回転可能に設けられたフライホイールと前記駆動軸とを断接するフライホイール用クラッチと、
    前記エンジンの回転数が所定の閾値以下である低回転領域では前記フライホイール用クラッチを締結し、前記エンジンの回転数が前記所定の閾値よりも高い高回転領域では前記フライホイール用クラッチを解放するフライホイール用クラッチ制御手段と、
    を設けたことを特徴とする車両の推進装置。
  2. 請求項1に記載の車両の推進装置において、
    前記駆動軸は、前記エンジンの出力軸と、前記変速機の入力軸と、を有し、
    前記出力軸と前記入力軸とを断接するクラッチを設け、
    前記2つのフライホイールのうち1つ以上を前記入力軸に設けたことを特徴とする車両の推進装置。
  3. 請求項1または2に記載の車両の推進装置において、
    前記駆動軸に回転可能に設けられたフライホイールをモータジェネレータの回転子として形成し、
    前記フライホイール用クラッチの断接を切替える際、前記駆動軸に回転可能に設けられたフライホイールの回転数を電磁的に制御するフライホイール制御手段を設けたことを特徴とする車両の推進装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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