JP2007312745A - マイクロマニピュレーション方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】外液相中において、動物細胞等の細胞体に対して針器具を簡便且つ正確に穿刺できるマイクロマニピュレーション方法を提供する。
【解決手段】細胞体を含む外液相を準備する工程10と、前記細胞体及び前記外液相を凍結する工程11と、凍結された前記外液相中において、凍結された前記細胞体に針器具を穿刺する処理工程12と、前記処理工程の後、前記細胞体及び前記外液相を解凍する工程13と、を含むマイクロマニピュレーション方法とする。
【選択図】図1
【解決手段】細胞体を含む外液相を準備する工程10と、前記細胞体及び前記外液相を凍結する工程11と、凍結された前記外液相中において、凍結された前記細胞体に針器具を穿刺する処理工程12と、前記処理工程の後、前記細胞体及び前記外液相を解凍する工程13と、を含むマイクロマニピュレーション方法とする。
【選択図】図1
Description
本発明は、マイクロマニピュレーション方法に関し、特に外液相中の細胞体に針器具を穿刺するマイクロマニピュレーション方法に関する。
従来、例えば、動物細胞に注入物(遺伝子組み換えにおける遺伝子や顕微授精における精子等)を注入するマイクロマニピュレーションは、まず、水溶液中で当該動物細胞をホールディングピペットの先端に捕捉し、続いて、当該捕捉された動物細胞に対してインジェクションピペットを穿刺し、当該インジェクションピペットから当該動物細胞内に当該注入物を注入することにより行われていた(例えば、特許文献1)。
特開平06−090770号公報
しかしながら、上記従来のマイクロマニピュレーションにおいては、水溶液中でインジェクションピペットを押し当てられた動物細胞が、その細胞膜の弾性に基づいて大きく変形していた。このため、例えば、インジェクションピペットの穿刺に伴い、細胞核等の細胞内小器官が傷害を受けることがあった。
また、例えば、大きく変形した動物細胞内の所望の位置(例えば、細胞核の内部)にインジェクションピペットの先端を正確に配置することは容易でなかった。
さらに、インジェクションピペットの穿刺に先立って、動物細胞を微細なホールディングピペットの先端に捕捉するという操作には熟練した手技が要求されていた。
また、これら一連の特殊な操作に長時間を要することが、水溶液中における動物細胞の生存状態に悪影響を与えることもあった。
このように、上記従来のマイクロマニピュレーションにおいて、操作者は、動物細胞に対して、傷害を与えることなく、正確且つ速やかにインジェクションピペットを穿刺するために、極めて特殊な熟練した手技を習得しなければならなかった。そして、動物細胞に対する処理の成否が操作者の手技の熟練度合いに大きく依存することは、マイクロマニピュレーション技術の普及を阻害する要因の一つとなっていた。
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、外液相中において、動物細胞等の細胞体に対して針器具を簡便且つ正確に穿刺できるマイクロマニピュレーション方法を提供することをその目的の一つとする。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るマイクロマニピュレーション方法は、細胞体を含む外液相を準備する工程と、前記細胞体及び前記外液相を凍結する工程と、凍結された前記外液相中において、凍結された前記細胞体に針器具を穿刺する処理工程と、前記処理工程の後、前記細胞体及び前記外液相を解凍する工程と、を含む。本発明によれば、外液相中において細胞体に対して針器具を簡便且つ正確に穿刺できるマイクロマニピュレーション方法を提供することができる。
また、前記処理工程において、前記細胞体に針器具を穿刺した後、前記細胞体内に注入物を注入することとしてもよい。また、前記細胞体は動物細胞であることとしてもよい。
以下に、本発明の一実施形態に係るマイクロマニピュレーション方法(以下、「本方法」という)について説明する。
まず、細胞体として動物細胞を用い、当該動物細胞に対して針器具(例えば、一般的なマイクロマニピュレーションに用いられるインジェクションピペット)を穿刺する場合を例として、本方法の概要を説明する。この場合、例えば、外液相として、動物細胞の凍結保存に適した水溶液を準備し、当該水溶液中に動物細胞を分散する。
本方法において特徴的なことの一つは、針器具の穿刺に先立って、動物細胞及び当該動物細胞を含む水溶液を凍結しておく点である。すなわち、本方法においては、凍結された水溶液中において、凍結された動物細胞に対して、針器具を穿刺する。
したがって、本方法においては、動物細胞に針器具を押し当てることに伴う当該動物細胞の変形を効果的に抑制することができる。この結果、例えば、従来問題となっていた、動物細胞の大きな変形による当該動物細胞の傷害を効果的に防止することができる。
また、本方法においては、針器具の穿刺に伴う動物細胞の変形を抑制することにより、当該針器具の先端を当該動物細胞内の所望の位置に正確に配置させることができる。したがって、例えば、針器具を動物細胞内の細胞核に正確に穿刺し、当該細胞核内に注入物を確実に注入することができる。
また、本方法においては、動物細胞の周囲の水溶液を凍結することにより、針器具の穿刺に先立って、当該動物細胞の当該水溶液内における空間的な位置を固定することができる。したがって、例えば、動物細胞を水溶液中に浮遊させて準備した場合であっても、針器具を穿刺する前に、当該動物細胞をホールディングピペットの先端に捕捉するという煩雑な操作を省略することができる。
また、本方法においては、動物細胞を凍結することにより、当該動物細胞の細胞質内における酵素反応等を停止させることができる。すなわち、例えば、針器具の穿刺等の処理を行う間、酸素や栄養の消費を伴う動物細胞内の代謝活動を停止させることができる。したがって、操作者は、処理に要する時間の経過に伴う動物細胞の劣化を気にすることなく、十分な時間をかけて、当該動物細胞に対する処理を確実に行うことができる。
また、本方法においては、動物細胞に対する針器具の穿刺等の処理を、当該動物細胞及び水溶液の凍結状態を維持できる低温の環境下で行う。したがって、例えば、雑菌等によるコンタミネーションの影響を効果的に抑制することができる。
そして、本方法においては、凍結された水溶液中で凍結された動物細胞に対して針器具の穿刺及び注入物の注入等の処理を行った後、当該動物細胞及び水溶液を解凍する。すなわち、例えば、処理が施された動物細胞を解凍して適切な培養培地中で培養することにより、当該動物細胞内における注入物に関連する酵素反応等を開始させることができる。
このように、本方法は、従来のマイクロマニピュレーションの成否が操作者の手技の熟練度合いに依存していたことに起因する様々な問題点を解決することができる。
次に、本方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に、本方法に含まれる主な工程を示す。図1に示すように、本方法は、準備工程10と、凍結工程11と、処理工程12と、解凍後工程13と、を含んでいる。
準備工程10においては、マイクロマニピュレーションにおける処理の対象とする細胞体を少なくとも1つ含む外液相を準備する。細胞体は、外表面を覆う被膜として細胞膜や細胞壁等を有し、当該被膜内に収容された内液相として細胞質を有する。外液相は、細胞体を保持することができる溶液相である。
この準備工程10で準備する外液相は流動性を有する液状であって、当該外液相中において、細胞体の内液相もまた流動性を有する液状である。この被膜に囲まれた内液相中においては、例えば、外液相から独立した化学反応等の物質間相互作用を行わせることができる。
また、外液相中の細胞体の被膜は弾性を有している。このため、例えば、外液相中において細胞体の被膜の一部に外力が作用した場合には、当該細胞体は、内液相の流動性と当該被膜の弾性とに基づいて、柔軟に変形することができる。
このような細胞体としては、例えば、動物細胞を好ましく用いることができる。動物細胞としては、ヒト又はヒト以外の動物(例えば、愛玩、畜産、養殖、希少種の保存等の対象となる動物)の臓器や組織から採取した初代細胞や、樹立された株化細胞等を用いることができる。すなわち、この動物細胞としては、例えば、分化した体細胞、未分化な幹細胞、胚性幹細胞等、分化の程度に関わらず、様々なものを目的に応じて適宜選択し、用いることができる。
具体的に、例えば、本方法を動物細胞に対する遺伝子等の導入に利用する場合には、当該遺伝子を発現させる宿主細胞として利用可能な初代細胞や株化細胞等を好ましく用いることができる。
また、例えば、本方法を動物細胞の核移植に利用する場合には、細胞核を提供するドナー細胞として利用可能な体細胞や、細胞核が移植されるレシピエント細胞として利用可能な未授精の卵細胞等を好ましく用いることができる。
また、例えば、本方法を顕微鏡下における人工授精(いわゆる顕微授精)に利用する場合には、未授精の卵細胞や精子を好ましく用いることができる。この場合、卵細胞としては、例えば、細胞膜と、当該細胞膜を覆う透明帯と、の両方を被膜として有するものを用いることができ、又は予め当該透明帯を除去され、細胞膜のみを被膜として有するものを用いることもできる。なお、透明帯を有する卵細胞は、内液相として、細胞膜内の細胞質に加えて、当該透明帯と当該細胞膜との間に形成される囲卵腔をも有することとなる。
また、細胞体としては、例えば、植物細胞や微生物(例えば、大腸菌等の細菌、カビや酵母等の真菌)等を好ましく用いることもできる。すなわち、本方法において、細胞体としては、目的に応じて、多細胞生物を構成する細胞や単細胞のうち任意のものを適宜選択して好ましく用いることができる。
また、外液相としては、例えば、細胞体の生存を維持することができ、当該細胞体に所望の機能を発現させることができる水溶液を好ましく用いることができる。すなわち、この外液相としては、例えば、細胞体の生存や機能発現に必要な塩類、糖類、アミノ酸等を含む培養培地等の水溶液を好ましく用いることができる。また、この場合、例えば、凍結及び解凍の過程が細胞体に与え得る悪影響を効果的に抑制できる凍結保護剤(ジメチルスルホキシド等)や血清等を含む水溶液を好ましく用いることもできる。
また、この準備工程10においては、例えば、外液相中における空間的な位置を固定されることなく、当該外液相中を自由に移動できる状態の細胞体を準備することができ、又は外液相中における空間的な位置を固定された状態の細胞体を準備することができる。すなわち、細胞体は、例えば、外液相中に分散され、浮遊していてもよいし、又は外液相中に浸漬された基材表面に予め固定されていてもよい。
具体的に、例えば、細胞体は、外液相として用いた培養培地中に浮遊していてもよいし、又は培養培地中において、細胞体の表面に存在する分子(糖鎖やタンパク質等)と結合可能な細胞接着性物質が予め塗布された培養基材(合成樹脂やガラス製の板状部材等)の表面に接着していてもよい。
準備工程10に続く凍結工程11においては、当該準備工程10で準備した細胞体及び外液相を凍結する。すなわち、この凍結工程11においては、例えば、細胞体を含む外液相の全体を冷却することにより、当該細胞体及び当該外液相の両方を凍結し、固化する。
具体的に、例えば、細胞体を含む外液相を、合成樹脂(例えば、ポリプロピレンやポリスチレン等)や熱伝導性の高い金属(例えば、アルミニウムや銅)等からなる所定の容器内に入れ、当該細胞体の内液相及び当該外液相の温度が、当該内液相及び外液相の凝固点以下に低下するよう、当該容器を冷却することにより、少なくとも当該内液相及び外液相を凝固させる。
この場合、例えば、図2Aに示すように、容器30内の外液相21中において、複数の細胞体20を当該容器30の底面31上に沈降させた状態で、当該容器30を冷却することにより、当該容器30内において、当該細胞体20及び外液相21を凍結することができる。この結果、例えば、図2Bに示すように、凍結された各細胞体22が、凍結された外液相23のうち、容器30の底面31に接していた下面25付近に配置された凍結ブロック24を作製することができる。
また、例えば、図3Aに示すように、レーザーや紫外線等を用いた光加工やモールド成形等の微細加工技術を用いて作製され、その表面に複数の有底の保持孔61が所定の間隔をおいて規則的に形成された、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の合成樹脂等からなる基材60を容器32内の外液相51中に浸漬するとともに、当該外液相51中において当該基材60の各保持孔61に細胞体50を1つずつ保持した状態で、当該容器32を冷却することにより、当該容器32内において、当該細胞体50及び外液相51を凍結することができる。この結果、例えば、図3Bに示すように、凍結された外液相53中において、各保持孔61内で凍結された各細胞体52が、所定の間隔をおいて規則的に配置された凍結ブロック54を作製することができる。
また、細胞体は、解凍後も生存可能な条件で凍結する。具体的に、例えば、商業的に利用可能なプログラムフリーザー装置を用いて、当該プログラムフリーザー装置内に、細胞体を含む外液相を入れた所定の容器を設置し、一般に培養細胞や受精卵等の凍結保存に用いられる条件と同様、単位時間当たりに低下させる当該容器内の温度(温度低下速度)等の冷却条件を適切に制御しつつ、当該細胞体及び当該外液相を凍結することができる。また、例えば、細胞体を含む外液相の入った容器を液体窒素等に浸漬することにより、当該細胞体及び当該外液相を瞬間的に凍結することもできる。
凍結工程11に続く処理工程12においては、当該凍結工程11で凍結された外液相(以下、「凍結外液相」という)中で、凍結された細胞体(以下、「凍結細胞体」という)に対して、針器具の穿刺等の穿刺処理を施す。
すなわち、この処理工程12においては、まず、凍結細胞体を含む凍結外液相を、当該凍結細胞体及び当該凍結外液相の凍結状態を維持するために十分な低温の環境下に置く。具体的に、例えば、商業的に利用可能な顕微鏡と針器具と備えたマイクロマニピュレータ装置を用いる場合には、当該顕微鏡の可動ステージに、内部の閉鎖空間を冷却可能な試料室を設置し、予め冷却された当該試料室内に、凍結細胞体が埋め込まれた凍結外液相を含む凍結ブロック(例えば、図2Bに示す凍結ブロック24や図3Bに示す凍結ブロック54等)を載置する。なお、このような試料室としては、例えば、当該試料室を構成する壁(例えば、合成樹脂や熱伝導性の高い金属等からなる)の周囲に冷媒を流通させることにより当該試料室内を低温に維持可能なものを好ましく用いることができる。
そして、この処理工程12においては、針器具を穿刺する対象として、凍結外液相に含まれている凍結細胞体の1つを特定する。すなわち、例えば、凍結工程11において、凍結外液相中に複数の凍結細胞体が封入された凍結ブロックを作製した場合には、当該複数の凍結細胞体のうち、当該凍結ブロックの表面付近に存在する凍結細胞体を針器具を穿刺する対象として決定する。
具体的に、例えば、図2Bに示すように、複数の凍結細胞体22が、凍結ブロック24の表面25付近に配置されている場合には、顕微鏡の試料室内に当該凍結ブロック24を載置し、当該顕微鏡下で当該表面25付近を観察することにより、当該複数の凍結細胞体22のうち1つを処理の対象として選択することができる。
また、図3Bに示すように、複数の凍結細胞52が、凍結ブロック54内の深部に埋め込まれており、当該凍結ブロック54の表面55付近に存在しない場合には、例えば、商業的に利用可能な凍結組織切片作製用のミクロトーム装置を用いて、当該凍結ブロックの当該表面55を数マイクロメートルずつ徐々に削り取っていくことによって、図3Cに示すように、凍結外液相53内の凍結細胞体52を観察可能な新たな表面56を露出させる。この場合、切削により露出された凍結ブロック54の表面56付近を顕微鏡下で観察することにより、処理の対象とする凍結細胞体52を特定することができる。
なお、この凍結外液相内に埋め込まれた凍結細胞体の観察は、例えば、凍結外液相や凍結細胞体の透明度に応じて、透過型顕微鏡や落射型顕微鏡を用いることに行うことができる。また、例えば、細胞体を蛍光色素で標識した後凍結した場合には、凍結細胞体を蛍光顕微鏡下で観察することもできる。
そして、この処理工程12においては、処理の対象として特定した細胞体の近傍に針器具の先端を位置合わせする。すなわち、例えば、図2B及び図3Cに示すように、凍結ブロック24,54の表面25,56付近に存在する凍結細胞体22,52の1つと、針器具40,41の先端と、の相対的な位置関係を顕微鏡下で確認しながら、当該針器具40,41の先端を、当該凍結細胞体22,52上に配置する。
ここで、針器具としては、その先端の径が凍結細胞体の外径より小さく、当該凍結細胞体に穿刺可能なものであれば特に限られず、任意のものを用いることができる。すなわち、この針器具としては、例えば、凍結細胞体の被膜に開口を形成できる強度及び形状を備えた金属製やガラス製のマイクロドリルを好ましく用いることができる。
また、被膜に開口が形成された凍結細胞体の内液相に注入物を注入する場合には、内部に当該注入物を保持可能な中空の針器具を用いることができる。具体的に、例えば、一般にマイクロマニピュレーションにおいて用いられているガラス製のインジェクションピペット等を好ましく用いることができる。
この場合、インジェクションピペットとしては、例えば、商業的に利用可能なマイクロピペット作製装置(いわゆるピペットプラー)を用いて、外径が1mm程度のガラス管を加熱するとともに急激に引き伸ばすことによって、先端径が数マイクロメートル程度となるよう作製したものを好ましく用いることができる。なお、このインジェクションピペットの先端の外径及び内径や形状等は、穿刺の対象とする凍結細胞体の種類やサイズ、当該インジェクションピペット内に保持する注入物の種類や量等に応じて適宜調整することができる。
また、この針器具としては、数マイクロメートル単位で微細駆動可能なものを好ましく用いることができる。すなわち、例えば、商業的に利用可能なマイクロマニピュレータ装置に備えられている、油圧や圧電素子(ピエゾ素子)等により駆動する針器具等を好ましく用いることができる。
そして、この処理工程12においては、針器具の先端を、凍結細胞体の被膜に押し当て、さらに当該凍結細胞体の内部に向けて押し進めて当該被膜を貫通させることにより、当該凍結細胞体に当該針器具を穿刺する。
このとき、凍結細胞体の内液相及び当該凍結細胞体を包んでいる凍結外液相はいずれも固化しているため、針器具の穿刺に伴う当該凍結細胞体の変形を効果的に抑制することができる。すなわち、本方法においては、凍結細胞をほとんど変形させることなく、当該凍結細胞体に針器具を穿刺することができる。
また、針器具を穿刺する過程において、凍結細胞体はその形状を維持しているため、当該針器具の先端を、当該凍結細胞体内の所望の位置に正確に配置することができる。なお、凍結細胞体と針器具との位置関係もまた、顕微鏡下での光学的観察により確認することができる。
さらに、この処理工程12においては、針器具が穿刺された凍結細胞体に注入物を注入することができる。すなわち、例えば、内部に注入物を保持した中空の針器具を凍結細胞体に穿刺し、当該凍結細胞体の内液相のうち、当該針器具の穿刺によって形成された空隙の一部に、当該穿刺された針器具の先端から当該注入物を注入することができる。
ここで、この注入物としては、目的に応じて任意のものを適宜選択して用いることができる。すなわち、例えば、核酸、タンパク質、糖、薬物、標識物質等といった天然に又は人工的に合成された化合物、細胞核等の細胞内小器官、精子等の細胞体等を含む溶液を好ましく用いることができる。
具体的に、例えば、本方法を細胞体に対する遺伝子等の導入に利用する場合には、注入物として、デオキシリボ核酸、リボ核酸、又はこれらの核酸が組み込まれたベクター(プラスミドベクター、コスミドベクター、酵母人工染色体 (yeast artificial chromosome : YAC)ベクター等)等を含む溶液を好ましく用いることができる。この場合、例えば、内部に注入物を保持した針器具を、細胞体の細胞壁や細胞膜のみならず、さらに細胞質内の細胞核の核膜をも貫通させて、当該針器具の先端を当該細胞核内に配置し、当該針器具の先端から当該細胞核内に当該注入物を注入することができる。
また、例えば、本方法を細胞体の核移植に利用する場合には、注入物として、ドナー細胞である体細胞から採取された細胞核を含む溶液を好ましく用いることができる。この場合、例えば、内部に細胞核を含む溶液を保持した針器具をレシピエント細胞である未授精の卵細胞に穿刺して、当該針器具の先端を当該卵細胞の細胞質内に配置し、当該針器具の先端から当該細胞質内に当該細胞核を注入することができる。
また、例えば、本方法を顕微鏡下における人工授精に利用する場合には、注入物として、精子を含む溶液を好ましく用いることができる。すなわち、この場合、例えば、図4A及び図5Aに示すように、細胞膜71及び透明帯72を被膜として有し、細胞核75を含み当該細胞膜71に包まれた細胞質74、及び第一極体76を含み当該細胞膜71と当該透明帯72とに囲まれた囲卵腔74を内液相として有する卵細胞70を細胞体として用いる。
そして、例えば、本方法を、精子80を当該卵細胞70の細胞質73内に注入する、いわゆる卵細胞質内注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)に利用する場合には、図4Aに示すように、内部に当該精子80を保持した針器具42を、当該卵細胞70の透明帯72のみならず、さらに当該透明帯72の内側の細胞膜71をも貫通させることにより、当該針器具42の先端を当該卵細胞70の細胞質73内に配置し、当該針器具42の先端から当該細胞質73内に当該精子80を注入することができる。
また、例えば、本方法を、精子80を卵細胞70の囲卵腔74に注入する、いわゆる囲卵腔内精子注入法(subzonal sperm injection : SUZI)に利用する場合には、図5Aに示すように、内部に当該精子80を保持した針器具42を、当該卵細胞70の透明帯72を貫通させ、且つ当該卵細胞70の細胞膜71を貫通させない位置で停止させることにより、当該針器具42の先端を当該囲卵腔74内に配置し、当該針器具42の先端から当該囲卵腔内74に当該精子80を注入することができる。
なお、これら注入物としては、凍結されていない流動性のある溶融状態の溶液を用いることができ、又は、予め凍結された当該溶液の小片を用いることもできる。すなわち、例えば、核酸等の化合物、細胞核等の細胞内小器官、精子等の細胞体を含む溶液であって、その解凍後に、当該化合物、細胞内小器官、細胞体が所望の機能を維持できる適切な条件で凍結されたものを用いることができる。この所望の機能とは、例えば、核酸については注入された細胞体内で発現することであり、細胞核については注入された細胞体と融合することであり、精子については注入された卵細胞と受精することである。そして、凍結されていない注入物を凍結細胞体に注入する場合には、例えば、そのまま当該凍結細胞体内で当該注入物を凍結することができ、又は注入直後に当該凍結細胞体を解凍して後述の解凍後工程13に速やかに移行することもできる。
また、本方法においては、凍結細胞体の内液相と凍結外液相とがいずれも固化しているため、例えば、当該凍結外液相内で、当該凍結細胞体の被膜に開口が形成された場合であっても、当該開口から当該内液相の一部が当該外液相内に漏出することにより、当該内液相と当該外液相とが互いに混合することはない。
したがって、処理工程12においては、例えば、第一の針器具を凍結細胞体に穿刺することにより、当該凍結細胞体の被膜に開口を形成し、当該第一の針器具を当該凍結細胞体から抜き去った後、第二の針器具を用いて、当該開口から当該凍結細胞体内に注入物を注入することができる。
すなわち、この場合、例えば、開口形成用の第一の針器具として金属製のマイクロドリル等を用い、注入用の第二の針器具として、ガラス製のインジェクションピペットを用いることができる。そして、まず、マイクロドリルを用いて凍結細胞体の被膜の一部に開口を形成した後、内部に注入物を保持したインジェクションピペットを当該開口から当該凍結細胞体の内液相に挿入し、当該内液相のうち、当該マイクロドリルによって形成された空隙の一部に、当該インジェクションピペットの先端から当該注入物を注入することができる。また、例えば、インジェクションピペットの先端から、凍結細胞体の被膜に形成された開口に注入物を滴下することによって、当該開口から当該凍結細胞体の内液相に当該注入物を入れることもできる。
また、例えば、凍結細胞体の被膜に形成した1つの開口から、当該凍結細胞体の内液相に注入物を繰り返し注入することもできる。この場合、例えば、凍結細胞体内に第一の注入物を注入した後、さらに当該第一の注入物とは異なる第二の注入物を注入する等、複数回の注入操作で互いに異なる注入物を用いることもできる。
また、例えば、凍結ブロックの表面付近に複数の凍結細胞体が配置されている場合には、まず、第一の針器具を用いて、当該複数の凍結細胞体の各々の被膜に順次、開口を形成し、その後、第二の針器具を用いて、当該開口から当該複数の凍結細胞体の各々の内液相に順次、注入物を注入することもできる。
この場合、例えば、図3Cのように、凍結ブロック54内において、複数の凍結細胞体52が一定の間隔で規則的に配置されている場合には、用いるマイクロマニピュレータ装置に備えられた、針器具の動作を制御するプログラムを起動し、顕微鏡ステージ上における基材60の各保持孔61の位置を特定する座標値データに基づいて、当該針器具41を当該各保持孔61上に順次配置していくことによって、当該各保持孔61内に保持された各凍結細胞体52に対して、順次、当該針器具41の穿刺及び注入物の注入を行うことができる。
処理工程12に続く解凍後工程13においては、当該処理工程12において穿刺処理を施された凍結細胞体及び凍結外液相を解凍する。すなわち、この解凍後工程13においては、例えば、穿刺処理後の凍結細胞体を含む凍結外液相の全体を温めることにより、当該凍結細胞体の凍結された内液相及び当該凍結外液相を解凍し、液化させる。
具体的に、例えば、凍結細胞体及び凍結外液相を含む凍結ブロックの入った容器が載置された試料室において、当該凍結細胞体の内液相及び当該凍結外液相の温度が、当該凍結細胞体の内液相及び当該凍結外液相の凝固点以上に上昇するよう、当該試料室の壁を加熱することにより、当該容器内において、当該凍結細胞体の内液相及び当該凍結外液相を融解させることができる。なお、この場合、例えば、凍結細胞体に針器具を穿刺した状態で解凍し、解凍後に当該針器具を抜き去ることができ、又は凍結細胞体から針器具を抜き去った後に解凍することもできる。また、例えば、一般に凍結された細胞体を再培養するために用いられる条件等、解凍後に細胞体が生存可能な条件で凍結細胞体を解凍する。
そして、この解凍後工程13においては、細胞体及び外液相を解凍することによって、例えば、凍結によって一時的に停止させていた当該細胞体の内液相における化学反応等の物質間相互作用を再開させることができる。
すなわち、例えば、処理工程12において、宿主細胞体の細胞核内にデオキシリボ核酸等を注入した場合には、解凍後工程13において、当該宿主細胞を解凍し、適切な培養培地中で培養することによって、当該宿主細胞内において当該注入されたデオキシリボ核酸の発現に関連する種々の酵素反応等を開始させ、当該宿主細胞に当該デオキシリボ核酸に基づくタンパク質の合成等を行わせることができる。
また、例えば、処理工程12において、未授精の卵細胞の細胞質内に体細胞の細胞核を注入した場合には、解凍後工程13において、当該卵細胞を解凍し、当該卵細胞に対して電気パルス等の電気刺激を与えるとともに、適切な培養培地中で培養することによって、当該細胞核を含む当該卵細胞に擬似的な受精状態を生じさせ、発生を開始させることができる。
また、例えば、処理工程12において、図4Aに示すように、卵細胞70の細胞質73内に精子80を注入した場合には、解凍後工程13において、図4Bに示すように、当該精子80が注入された卵細胞70を解凍し、適切な培養培地中で培養することによって、当該卵細胞70と当該精子80との授精を完了させ、発生を開始させることができる。
また、例えば、処理工程12において、図5Aに示すように、卵細胞70の囲卵腔74内に精子80を注入した場合には、解凍後工程13において、図5Bに示すように、当該精子80が注入された卵細胞70を解凍し、適切な培養培地中で培養することによって、当該精子80を当該卵細胞70の細胞膜71に接触させて授精を完了させ、発生を開始させることができる。
また、例えば、処理工程12において、細胞体の内液相中に、酵素や標識物質等の注入物を注入した場合には、解凍後工程13において、当該細胞体を解凍し、適切な温度の分散媒中で保持することにより、当該内液相中において、当該注入物に関連した化学反応や拡散等の物質間相互作用を開始させることができる。
10 準備工程、11 凍結工程、12 処理工程、13 解凍後工程、20,50 細胞体、21,51 外液相、22,52 凍結細胞体、23,53 凍結外液相、24,54 凍結ブロック、25,55,56 凍結ブロック表面、30,32 容器、31 容器底面、40,41,42 針器具、60 基材、61 保持孔、70 卵細胞、71 細胞膜、72 透明帯、73 細胞質、74 囲卵腔、75 細胞核、76 第一極体、80 精子。
Claims (3)
- 細胞体を含む外液相を準備する工程と、
前記細胞体及び前記外液相を凍結する工程と、
凍結された前記外液相中において、凍結された前記細胞体に針器具を穿刺する処理工程と、
前記処理工程の後、前記細胞体及び前記外液相を解凍する工程と、
を含むマイクロマニピュレーション方法。 - 前記処理工程において、前記細胞体に針器具を穿刺した後、前記細胞体内に注入物を注入する、
請求項1に記載のマイクロマニピュレーション方法。 - 前記細胞体は動物細胞である、
請求項1又は2に記載のマイクロマニピュレーション方法。
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