JP2007252312A - 上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤に対する肺ガンの感度測定方法および肺ガン治療剤のスクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する反応性の指標となるマーカーを見いだし、このマーカーを指標として、肺ガンのEFGR-TKIに対する感度を予測することが可能となる方法を提供する。上記マーカーを指標として使用した、肺ガン治療剤の新たなスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】EFGR-TKIに対する肺ガンの感度または感受性を測定する方法。測定対象である肺ガン細胞または組織における転移関連性遺伝子1(MTA1)の発現を検出し、かつ検出されたMTA1の発現の程度を指標として前記感度または感受性を判定する。肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定し、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対する抑制作用を有するかを判定する、肺ガン治療剤のスクリーニング方法。
【選択図】
【解決手段】EFGR-TKIに対する肺ガンの感度または感受性を測定する方法。測定対象である肺ガン細胞または組織における転移関連性遺伝子1(MTA1)の発現を検出し、かつ検出されたMTA1の発現の程度を指標として前記感度または感受性を判定する。肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定し、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対する抑制作用を有するかを判定する、肺ガン治療剤のスクリーニング方法。
【選択図】
Description
本発明は、上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する肺ガンの感度測定方法および肺ガン治療剤のスクリーニング方法に関する。
肺ガンは、世界のガン死亡の主要な原因の一つであり、非小細胞肺ガン(NSCLC)は、肺ガン例の75%以上を占める。NSCLCは、広範な組織病理学的所見や、遺伝的変化および遺伝的発現パターンの組み合わせを伴う、異質な腫瘍集団で構成されているが、臨床場面では、これらの腫瘍は、化学治療処方を含む類似の療法によって治療されている。
近年、ガンのシグナル経路における最重要分子(例えば、キナーゼ)を修飾する分子標的療法の治療成功例が、かなり増加している。肺ガンに対する分子療法の分野では、NSCLCに対する治療を最適なものとする点において、次の発見が大きな進歩がもたらしている。すなわち、上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子突然変異は、ゲフィチニブ(Gefitinib)またはエルロチニブ(Erlotinib)のようなEFGRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対するより高度の反応性と緊密に相関することが見出されたことである。いくつかの大規模なコホート研究においても、EGFR突然変異腫瘍ではEGFR-TKIに対して際立った反応のあることが確認されている。
遺伝子発現プロファイリングは、腫瘍の特徴あるグループを特定するのにもっとも強力な方法の一つであり、患者の今後の結果や、特定の療法の効果を予測することを可能とする、ガンに関する新規の分類法を創出するに際して役に立つことが判明している。EGFR突然変異は、婦人、非喫煙者、および東アジア民族集団の腺ガンでは高頻度に検出されるが、これらの腫瘍の分子生物学的特徴はいまだに未知のままである。EFGR突然変異状態以外の要因も、EFGR-TKIに対する反応性に影響を及ぼす可能性のあることが報告されているため、EFGR経路の活性化と相関する分子マーカーは、これらEFGR-TKI化合物の効果を予測するに当たって臨床的に有用であると考えられる。さらに、EGFRの活性化は、肺ガンの様々な悪性表現型(例えば、転移、血管形成、抗アポトーシス、および増殖)に関与しているが、EGFR突然変異が、肺ガンにおける多様な生物学的経路にどのようにして関与するのかは未だに不明である。
EFGRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)であるゲフィチニブ(Gefitinib)は、臨床試験での奏効率が約10〜20%とされた。投与後から劇的な効果を示す症例も見られ、特に、日本人、女性、非喫煙者、腺癌ほど、その傾向が強いとされている。その一方で、薬剤性間質性肺炎による死亡例が多く報告され、社会問題となっている(非特許文献1)。
癌と化学療法、750-758頁、第32巻第6号(2005)
癌と化学療法、750-758頁、第32巻第6号(2005)
そこで本発明は、EFGR-TKIに対する反応性の指標となるマーカーを見いだし、このマーカーを指標として、肺ガンのEFGR-TKIに対する感度を予測することが可能となる方法を提供することを目的とする。
さらに本発明の目的は、上記マーカーを指標として使用した、肺ガン治療剤の新たなスクリーニング方法を提供することにある。
本発明者らは、多数のNSCLCの遺伝子発現プロフィールを調査し、それらを、それらの腫瘍のEGFR遺伝子突然変異状態と比較し、これによって、EGFR突然変異型肺ガン、および野生型肺ガン両方の、特徴的な遺伝子発現特性を明らかにした。さらに本発明者らは、EGFR遺伝子変化(突然変異と増幅の両方)の新規分子マーカーとして、転移関連性遺伝子1(MTA1)を特定した。EGFR活性化はMTA1発現を促進し、また、EGFR活性を薬理学的に抑制するとEGFR突然変異肺ガン細胞系統においてMTA1発現が減少した。これは、MTA1は、肺ガンの突然変異EGFRシグナル伝達において下流に位置することを裏付けるものである。さらに、ゲフィチニブ(Gefitinib)で治療した肺腺ガンの免疫組織化学的分析によって、MTA1発現は、このEGFR-TKIに対する反応性と有意に相関することが確かめられた。このような知見に基づいて本発明は完成された。
本発明は以下のとおりである。
[1]上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する肺ガンの感度または感受性を測定する方法であって、
測定対象である肺ガン細胞または組織における転移関連性遺伝子1(MTA1)の発現を検出し、かつ
検出されたMTA1の発現の程度を指標として前記感度または感受性を判定することを含む前記方法。
[2]MTA1が、配列表の配列番号1に示された塩基配列を有する[1]に記載の方法。
[3]測定対象である肺ガン細胞または組織が、ニードルバイオプシーである[1]または[2]に記載の方法。
[4]MTA1の発現の検出を免疫染色法若しくはRT-PCR法により行うか、または発現解析用チップを用いて行う[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]EGFR-TKIが、肺ガン治療剤である[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]肺ガン治療剤がゲフィチニブ(Gefitinib)またはエルロチニブ(Erlotinib)である[5]に記載の方法。
[7]前記肺ガン細胞または組織におけるMTA1の発現が増加している場合、測定対象である肺ガン細胞または組織のEGFR-TKIに対する感受性があると判定する[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定し、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対する抑制作用を有するかを判定することを含む、肺ガン治療剤のスクリーニング方法。
[9]肺ガン細胞が、HCC827、PC9、NCI-H1650、NCI-H1975またはH3255である[8]に記載の方法。
[10]EGFR-TKIの候補物質が、低分子阻害剤である[8]または[9]に記載の方法。
[1]上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する肺ガンの感度または感受性を測定する方法であって、
測定対象である肺ガン細胞または組織における転移関連性遺伝子1(MTA1)の発現を検出し、かつ
検出されたMTA1の発現の程度を指標として前記感度または感受性を判定することを含む前記方法。
[2]MTA1が、配列表の配列番号1に示された塩基配列を有する[1]に記載の方法。
[3]測定対象である肺ガン細胞または組織が、ニードルバイオプシーである[1]または[2]に記載の方法。
[4]MTA1の発現の検出を免疫染色法若しくはRT-PCR法により行うか、または発現解析用チップを用いて行う[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]EGFR-TKIが、肺ガン治療剤である[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]肺ガン治療剤がゲフィチニブ(Gefitinib)またはエルロチニブ(Erlotinib)である[5]に記載の方法。
[7]前記肺ガン細胞または組織におけるMTA1の発現が増加している場合、測定対象である肺ガン細胞または組織のEGFR-TKIに対する感受性があると判定する[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定し、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対する抑制作用を有するかを判定することを含む、肺ガン治療剤のスクリーニング方法。
[9]肺ガン細胞が、HCC827、PC9、NCI-H1650、NCI-H1975またはH3255である[8]に記載の方法。
[10]EGFR-TKIの候補物質が、低分子阻害剤である[8]または[9]に記載の方法。
本発明によれば、肺ガンのEFGR-TKIに対する感度を、比較的簡単な検査により予測できる。さらに、本発明によれば、肺ガン治療剤の新たなスクリーニング方法を提供できる。
[肺ガンの感度予測方法]
本発明は、上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する肺ガンの感度または感受性を測定する方法である。より具体的には、測定対象である肺ガン細胞または組織における転移関連性遺伝子1(MTA1)の発現を検出し、かつ検出されたMTA1の発現の程度を指標として前記感度または感受性を判定することを含む。この方法により、EGFR-TKIに対する肺ガンの感度または感受性を測定し、その結果に基づいて、EGFR-TKIを投与される患者が有する肺ガンのEGFR-TKIに対する感度または感受性を予測することができ、EGFR-TKIに対する感度または感受性が低い患者に対するEGFR-TKIの投与を控えることが可能になり、効果のないEGFR-TKIの投与による副作用の発生を未然に防ぐことが可能になる。
本発明は、上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する肺ガンの感度または感受性を測定する方法である。より具体的には、測定対象である肺ガン細胞または組織における転移関連性遺伝子1(MTA1)の発現を検出し、かつ検出されたMTA1の発現の程度を指標として前記感度または感受性を判定することを含む。この方法により、EGFR-TKIに対する肺ガンの感度または感受性を測定し、その結果に基づいて、EGFR-TKIを投与される患者が有する肺ガンのEGFR-TKIに対する感度または感受性を予測することができ、EGFR-TKIに対する感度または感受性が低い患者に対するEGFR-TKIの投与を控えることが可能になり、効果のないEGFR-TKIの投与による副作用の発生を未然に防ぐことが可能になる。
肺ガン治療剤としては、ゲフィチニブ(Gefitinib)またはエルロチニブ(Erlotinib)のようなEFGRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が知られている。本出願時、ゲフィチニブ(Gefitinib)は、イレッサ(登録商標)として臨床で使用されており、また、エルロチニブ(Erlotinib)もタルセバ(登録商標) として臨床で使用されている。ゲフィチニブ(Gefitinib)は、非小細胞肺がんの治療剤である。肺ガンを含むある種のがん細胞の表面にはEGFR(上皮成長因子受容体)があり、これが働くと、チロシンキナーゼが活性化され、がん細胞が増殖する。それに対して、ゲフィチニブ(Gefitinib)は、EGFRの働きを止めることで、がん細胞の増殖を抑えると考えられている。また、エルロチニブ(Erlotinib)もEGFRの働きを止めることで、がん細胞の増殖を抑えると考えられている。
しかし、患者のEFGR遺伝子変化によって、EGFR-TKIが有効な場合と、かえって副作用が強い場合があり、EGFR-TKI肺ガン治療剤の有効性の予測判定方法が求められている。
本発明では、EGFR活性化とMTA1発現とに強い相関があること、さらには、EGFR活性を薬理学的に抑制するとEGFR突然変異肺ガン細胞系統においてMTA1発現が減少するとの新たな知見に基づいて、治療対象である肺ガン細胞または組織におけるMTA1の発現の有無および/または程度を指標として肺ガンの感度予測を行うことができる。
MTA1は、EGFR経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子であり、配列表の配列番号1に示された塩基配列を有する。この塩基配列を基に、公知の遺伝子検出方法を用いて、測定対象である肺ガン細胞または組織におけるMTA1の発現の有無および/または程度を検出する。
測定対象である肺ガン細胞または組織は、例えば、ニードルバイオプシーであることができる。肺ガン治療剤であるEGFR-TKIを投与される予定の患者さんからニードルバイオプシーが採取される。ニードルバイオプシーの採取の時期は、例えば、EGFR-TKI投与前とすることが適当である。肺ガン治療剤としては、例えば、ゲフィチニブ(Gefitinib)またはエルロチニブ(Erlotinib)を挙げることができるが、EGFR-TKIであれば、特に制限はない。
上記のように、基本的には肺ガン治療剤であるEGFR-TKIを投与する前に測定して、その結果を持ってEGFR-TKIを投与するかどうかを決定するときの参考にする。ただし、本発明の方法を用いて、治療後にMTA1の発現の測定することで薬剤耐性が起こっている可能性について推測することも可能である。例えば、MTA1の発現が高い症例に対してEGFR-TKIを投与した後で腫瘍組織を再度採取してMTA1の発現を調べた結果、発現量に変化がなかった場合、この腫瘍は今回投与したEGFR-TKIに対する耐性を獲得していた可能性があると考えられる。
MTA1の発現の検出は、例えば、免疫染色法若しくはRT-PCR法により行うか、または発現解析用チップを用いて行うことができる。上記で採取されたニードルバイオプシーを常法により前処理し、次いで、免疫染色法若しくはRT-PCR法によりMTA1の発現を検出するか、発現解析用チップを用いてMTA1の発現を検出することができる。
MTA1の発現を検出するための免疫染色法は、例えば、以下のように行われる。
患者さんの肺がん組織から得られたニードルバイオプシーは、10%フォルマリンで固定し、パラフィンに包埋後、5μm厚切片を作成する。標本を脱パラフィンし、0.3%H2O2を含むメタノールに浸し、オートクレーブ処理をした後、マウス抗MTA1モノクロナール抗体(クローンA-11, Santa Cruz, Santa Cruz、カリフォルニア州)と1:100希釈度でインキュベートする。この切片を、マウスIgG (Vector Laboratories, Burlingame、カリフォルニア州)に対する、ビオチニル化二次抗体(1:200希釈度)で、次いでVectastain ABC試薬 (Vector Laboratories)とインキュベートする。この切片を、0.01%H2O2を含む0.05%ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド液に浸し、例えば、30%を越える腫瘍細胞でMTA1の染色性を認める症例を陽性と判定することができる。
患者さんの肺がん組織から得られたニードルバイオプシーは、10%フォルマリンで固定し、パラフィンに包埋後、5μm厚切片を作成する。標本を脱パラフィンし、0.3%H2O2を含むメタノールに浸し、オートクレーブ処理をした後、マウス抗MTA1モノクロナール抗体(クローンA-11, Santa Cruz, Santa Cruz、カリフォルニア州)と1:100希釈度でインキュベートする。この切片を、マウスIgG (Vector Laboratories, Burlingame、カリフォルニア州)に対する、ビオチニル化二次抗体(1:200希釈度)で、次いでVectastain ABC試薬 (Vector Laboratories)とインキュベートする。この切片を、0.01%H2O2を含む0.05%ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド液に浸し、例えば、30%を越える腫瘍細胞でMTA1の染色性を認める症例を陽性と判定することができる。
MTA1の発現を検出するためのRT-PCR法は、例えば、以下のように行われる。
患者さんの肺がん組織から得られたニードルバイオプシーからRNAを抽出した後、ランダムプライマーと逆転写酵素(High Capacity cDNA Archive kit, Applied Biosystems, Foster City、カリフォルニア州)を用いて逆転写反応を行う。逆転写産物についてMTA1遺伝子に対する特異的なプライマーを用いてRT-PCRを行う。MTA1遺伝子の相対的発現度は、ベータアクチンの発現とその遺伝子の発現とを比較することによって求めることができる。
患者さんの肺がん組織から得られたニードルバイオプシーからRNAを抽出した後、ランダムプライマーと逆転写酵素(High Capacity cDNA Archive kit, Applied Biosystems, Foster City、カリフォルニア州)を用いて逆転写反応を行う。逆転写産物についてMTA1遺伝子に対する特異的なプライマーを用いてRT-PCRを行う。MTA1遺伝子の相対的発現度は、ベータアクチンの発現とその遺伝子の発現とを比較することによって求めることができる。
発現解析用チップを用いたMTA1の発現を検出は、例えば、以下のように行われる。患者さんの肺がん組織から得られたニードルバイオプシーを液体窒素にて凍結したのち細かく破砕し、TRIzol(Invitrogen、カールスバード、カリフォルニア州)にてホモジェナイズし、全RNAを抽出し、Superscript Choice System (Invitrogen)、およびBioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit (Enzo Diagnostics, Farmingdale、ニューヨーク州)を用い、ビオチン標識cRNAを合成する。得られた産物を用いてマイクロアレイHG-U95Av2 (Affymetrix, Santa Clara、カリフォルニア州)に対してハイブリダイゼーションを行い、Microarray Suite 4.0ソフトウェアパッケージ(Affymetrix)により、遺伝子の発現レベルを測定することができる。
前述のように、EGFR活性を薬理学的に抑制するとEGFR突然変異肺ガン細胞系統においてMTA1発現が減少することから、肺ガン細胞または組織におけるMTA1の発現が抑制されている場合、測定対象である肺ガン細胞または組織のEGFR-TKIに対する感度または感受性が高いと判定する。より具体的には、免疫染色の結果、例えば、30%を越える腫瘍細胞でMTA1の核への染色性を認める症例を陽性と判定することができる。
但し、MTA1の発現を指標とする本発明の方法と、他の方法を組み合わせることで、判定の精度を高めることができる。他の方法としては、例えば、EGFR遺伝子の突然変異あるいは増幅の有無を検索する、あるいは、これまで報告されているEGFR-TKIに対する感度または感受性と相関する分子マーカー(Eカドヘリン、ビメンチン)の免疫染色も同時に行い、判定するといったものを挙げることができる。
[肺ガン治療剤のスクリーニング方法]
本発明は、肺ガン治療剤のスクリーニング方法を包含する。本発明の肺ガン治療剤のスクリーニング方法は、肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定し、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対する抑制作用を有するかを判定する。
本発明は、肺ガン治療剤のスクリーニング方法を包含する。本発明の肺ガン治療剤のスクリーニング方法は、肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定し、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対する抑制作用を有するかを判定する。
前述のように、EGFR活性を薬理学的に抑制するとEGFR突然変異肺ガン細胞系統においてMTA1発現が減少することから、肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定することで、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対して抑制作用を有するか否かを判定することができる。
候補物質の共存下で培養する肺ガン細胞は、例えば、EGFR遺伝子異常が知られている、HCC827、PC9、NCI-H1650、NCI-H1975またはH3255であることができる。
HCC827は肺腺がん細胞株であり、ATCC(American Type Culture Collection)より入手可能である。PC9は肺腺がん細胞株であり、JCRB (Japan Cancer Research Resource Bank)より入手可能である。NCI-H1650は肺腺がん細胞株であり、ATCC(American Type Culture Collection)より入手可能である。NCI-H1975は、肺腺がん細胞株であり、ATCC(American Type Culture Collection)より入手可能である。
HCC827は肺腺がん細胞株であり、ATCC(American Type Culture Collection)より入手可能である。PC9は肺腺がん細胞株であり、JCRB (Japan Cancer Research Resource Bank)より入手可能である。NCI-H1650は肺腺がん細胞株であり、ATCC(American Type Culture Collection)より入手可能である。NCI-H1975は、肺腺がん細胞株であり、ATCC(American Type Culture Collection)より入手可能である。
EGFR-TKIの候補物質は、特に制限されないが、例えば、低分子阻害剤である。低分子阻害剤として、例えば、EKB-569、ZD6474、Cl-1033、GW-572016といったものも含まれる。
肺ガン細胞の候補物質の共存下での培養は、例えば、以下のように実施することができる。細胞は、10% 牛胎児血清を加えたDMEM培養培地を用いて、37℃、5% CO2の条件で培養しておき、候補分子を加える24時間前にあらかじめ血清成分無添加で維持する。候補分子の共存下並びに非共存下で10ng/mlの上皮成長因子(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)を加え、4時間刺激した後、MTA1分子の発現を検索する。
培養後、肺ガン細胞中のMTA1の発現を測定する。MTA1の発現測定は、前述の感度予測方法と同様に、免疫染色法若しくはRT-PCR法により行うか、または発現解析用チップを用いて行うことができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
材料および方法
手術標本
115人の日本人NSCLC患者から得られた手術標本を調査した。これらの患者は、1997年6月から2002年5月の間に、東京の国立がんセンター病院にて診断され、手術を受けた人々である。これらの腫瘍は、86例の腺ガン、26例の扁平上皮ガン、および3例の大細胞ガンを含んでいる。手術の直後に、新鮮な腫瘍組織、および対応する正常な肺組織の断片を採取した。一つの断片は100%エタノールで固定し、パラフィンに包埋した。残余は、RNA抽出を行うまで液体窒素にて急速凍結した。Gefitinib治療における再発肺ガンの症例は、既に報告済みである(Takano T et al., J Clin Oncol. 2005 ;23:6829-37.)。この実験プロトコールは、国立がんセンターの施設内審査委員会による承認を得ている。
手術標本
115人の日本人NSCLC患者から得られた手術標本を調査した。これらの患者は、1997年6月から2002年5月の間に、東京の国立がんセンター病院にて診断され、手術を受けた人々である。これらの腫瘍は、86例の腺ガン、26例の扁平上皮ガン、および3例の大細胞ガンを含んでいる。手術の直後に、新鮮な腫瘍組織、および対応する正常な肺組織の断片を採取した。一つの断片は100%エタノールで固定し、パラフィンに包埋した。残余は、RNA抽出を行うまで液体窒素にて急速凍結した。Gefitinib治療における再発肺ガンの症例は、既に報告済みである(Takano T et al., J Clin Oncol. 2005 ;23:6829-37.)。この実験プロトコールは、国立がんセンターの施設内審査委員会による承認を得ている。
レーザーキャプチャーマイクロダイセクション、DNA抽出、および突然変異分析
メタノール固定パラフィン包埋腫瘍の5μm厚切片について、LM200システム(Arcuturus, Mount View、カリフォルニア州)を用いてレーザーキャプチャーマイクロダイセクションを行った。対応する正常な肺上皮細胞を掻き落とし、コントロールとして用いた。これらのサンプルをプロテイナーゼKとインキュベートし、DNAを標準法によって抽出した。本発明者らは、High Fidelity Taq Polimerase (Roche, マンハイム、ドイツ)、および適当なプライマー(PCR条件およびプライマー配列は、必要に応じ入手可能)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、微細手術によって切除された腫瘍および対応する正常なDNAサンプルのEGFR遺伝子のエキソン18、19、20、および21を増幅した。PCR産物は全て精製し、配列分析を行った。欠失を示したPCR産物は、TA-vector (Invitrogen)にサブクローンして配列決定した。EFGR遺伝子のコピー数は、以前に記載した通りに、アレイによるゲノム比較ハイブリダイゼーションによって決定した(Shibata T et al., Clin Cancer Res. 2005;11:6177-85.)。
メタノール固定パラフィン包埋腫瘍の5μm厚切片について、LM200システム(Arcuturus, Mount View、カリフォルニア州)を用いてレーザーキャプチャーマイクロダイセクションを行った。対応する正常な肺上皮細胞を掻き落とし、コントロールとして用いた。これらのサンプルをプロテイナーゼKとインキュベートし、DNAを標準法によって抽出した。本発明者らは、High Fidelity Taq Polimerase (Roche, マンハイム、ドイツ)、および適当なプライマー(PCR条件およびプライマー配列は、必要に応じ入手可能)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、微細手術によって切除された腫瘍および対応する正常なDNAサンプルのEGFR遺伝子のエキソン18、19、20、および21を増幅した。PCR産物は全て精製し、配列分析を行った。欠失を示したPCR産物は、TA-vector (Invitrogen)にサブクローンして配列決定した。EFGR遺伝子のコピー数は、以前に記載した通りに、アレイによるゲノム比較ハイブリダイゼーションによって決定した(Shibata T et al., Clin Cancer Res. 2005;11:6177-85.)。
免疫組織化学的分析
肺ガンの手術標本は、10%フォルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。腫瘍の5μm厚切片は、脱パラフィン化し、0.3%H2O2を含むメタノールに浸した。熱誘導によるエピトープ回収後、切片を、マウス抗EGFRモノクロナール抗体(クローン31G7, Zymed、南サンフランシスコ、カリフォルニア州)、マウス抗AKTモノクロナール抗体(クローン2H10, Cell Signaling Technologies, ビバリー、マサチューセッツ州)、マウス抗MTA1モノクロナール抗体(クローンA-11, Santa Cruz, Santa Cruz、カリフォルニア州)、および、マウス抗TTF1モノクロナール抗体(クローン8G7G3, DakoCytomation, Carpinteria、カリフォルニア州)と、1:100希釈度でインキュベートした。この切片を、マウスIgG (Vector Laboratories, Burlingame、カリフォルニア州)に対する、ビオチニル化二次抗体と、1:200希釈度で、次いでVectastain ABC試薬 (Vector Laboratories)とインキュベートした。この切片を、0.01%H2O2を含む0.05%ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド液に浸し、ヘマトキシリンでカウンター染色した。最大の代表的切片において30%を越える染色腫瘍細胞を含む腫瘍を陽性と判断した。
肺ガンの手術標本は、10%フォルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。腫瘍の5μm厚切片は、脱パラフィン化し、0.3%H2O2を含むメタノールに浸した。熱誘導によるエピトープ回収後、切片を、マウス抗EGFRモノクロナール抗体(クローン31G7, Zymed、南サンフランシスコ、カリフォルニア州)、マウス抗AKTモノクロナール抗体(クローン2H10, Cell Signaling Technologies, ビバリー、マサチューセッツ州)、マウス抗MTA1モノクロナール抗体(クローンA-11, Santa Cruz, Santa Cruz、カリフォルニア州)、および、マウス抗TTF1モノクロナール抗体(クローン8G7G3, DakoCytomation, Carpinteria、カリフォルニア州)と、1:100希釈度でインキュベートした。この切片を、マウスIgG (Vector Laboratories, Burlingame、カリフォルニア州)に対する、ビオチニル化二次抗体と、1:200希釈度で、次いでVectastain ABC試薬 (Vector Laboratories)とインキュベートした。この切片を、0.01%H2O2を含む0.05%ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド液に浸し、ヘマトキシリンでカウンター染色した。最大の代表的切片において30%を越える染色腫瘍細胞を含む腫瘍を陽性と判断した。
細胞培養とタンパク分析
ABC1(ヒューマンサイエンス振興財団)、A549、NCI-H1650、およびNCI-H1975細胞(米国組織細胞保存施設、Manassa、バージニア州)を、推奨される指示通りに維持した。これらの細胞系統は、血清成分無添加で維持し、10ng/mlの上皮成長因子(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)で4時間刺激し、複数のプロテイナーゼ阻害剤(Roche)のカクテルを含む溶解バッファー(150mM NaCl, 10 mM Tris (pH 8.0), 1% Triton-X, 0.5%ドデシル硫酸ナトリウム、および1 mMのオルトバナジン酸ナトリウム)にて溶解した。EGFR活性化を抑制するため、EGFRの特異的阻害剤AG1478 (Sigma, 100 μM)を、上皮成長因子による刺激の30分前に加えた。溶解産物を電気泳動し、EFGR、リン酸化EGFR(クローン74、BD Biophysics, Franklin Lakes、ニュージャージー州)、MTA1、セリン473-リン酸化-AKT(クローン4E2, Cell Signaling Technologies)、および、β-アクチン(クローンAC-15, Sigma)に対する、マウスモノクロナール抗体によってイムノブロッティングを行った。
ABC1(ヒューマンサイエンス振興財団)、A549、NCI-H1650、およびNCI-H1975細胞(米国組織細胞保存施設、Manassa、バージニア州)を、推奨される指示通りに維持した。これらの細胞系統は、血清成分無添加で維持し、10ng/mlの上皮成長因子(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)で4時間刺激し、複数のプロテイナーゼ阻害剤(Roche)のカクテルを含む溶解バッファー(150mM NaCl, 10 mM Tris (pH 8.0), 1% Triton-X, 0.5%ドデシル硫酸ナトリウム、および1 mMのオルトバナジン酸ナトリウム)にて溶解した。EGFR活性化を抑制するため、EGFRの特異的阻害剤AG1478 (Sigma, 100 μM)を、上皮成長因子による刺激の30分前に加えた。溶解産物を電気泳動し、EFGR、リン酸化EGFR(クローン74、BD Biophysics, Franklin Lakes、ニュージャージー州)、MTA1、セリン473-リン酸化-AKT(クローン4E2, Cell Signaling Technologies)、および、β-アクチン(クローンAC-15, Sigma)に対する、マウスモノクロナール抗体によってイムノブロッティングを行った。
統計解析
統計的解析にはスチューデントのt-検定およびカイ二乗検定を用いた。NSCLCの非介在性クラスター分析では、本発明者らは、二つの基準に基づいて916個の遺伝子を選んだ。先ず、平均値差(遺伝子発現レベルと相関する)が、115例の腫瘍の5%以上で1000を超えていた。第二に、サンプルの少なくとも25%において、平均値差が、中央値から少なくとも2倍変動していた(Sorlie T et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98:10869-74.)。介在性クラスター分析では、本発明者ら は、その発現が、EGFR突然変異腺ガンと野生型腺ガンの間で有意に異なっており(スチューデントのt-検定によりp<0.05)、その平均値差が、61例の腫瘍の25%以上で1000以上異なる、353個の遺伝子を選んだ。データ分析は、Gene Spring (Silicon Genetics, Redwood City、カリフォルニア州)およびClusterソフトウェア(スタンフォード大学)で行い、Tree and Viewソフトウェア(スタンフォード大学)で視像化した。対数順位分析を用いて、サブグループ間の差の有意性を評価した。
統計的解析にはスチューデントのt-検定およびカイ二乗検定を用いた。NSCLCの非介在性クラスター分析では、本発明者らは、二つの基準に基づいて916個の遺伝子を選んだ。先ず、平均値差(遺伝子発現レベルと相関する)が、115例の腫瘍の5%以上で1000を超えていた。第二に、サンプルの少なくとも25%において、平均値差が、中央値から少なくとも2倍変動していた(Sorlie T et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98:10869-74.)。介在性クラスター分析では、本発明者ら は、その発現が、EGFR突然変異腺ガンと野生型腺ガンの間で有意に異なっており(スチューデントのt-検定によりp<0.05)、その平均値差が、61例の腫瘍の25%以上で1000以上異なる、353個の遺伝子を選んだ。データ分析は、Gene Spring (Silicon Genetics, Redwood City、カリフォルニア州)およびClusterソフトウェア(スタンフォード大学)で行い、Tree and Viewソフトウェア(スタンフォード大学)で視像化した。対数順位分析を用いて、サブグループ間の差の有意性を評価した。
1. EGFR突然変異および増幅に関する可能なマーカーの免疫組織化学的評価
本発明者らは次に、肺腺ガンにおいて候補マーカーとEGFR突然変異状態のタンパク発現を比較した(図1)。本発明者らは、EGFRシグナル伝達経路(EGFRおよびAKT1)、またはHER2シグナル伝達経路(MTA1)のどちらかに関与すると考えられる分子、あるいは、以前にEGFR突然変位と相関すると報告された(TTF1)(Yatabe Y et al., Am J Surg Pathol. 2005;29:633-9.)分子の、4種類の分子を選んだ。EGFRタンパクの膜における強力な発現が、腫瘍の46%(25/54)に検出され(図1A)、一方、AKT1タンパクの細胞質内および核内蓄積は33%(17/52、図1B)に観察された。MTA1の核内蓄積(腫瘍の38%、20/53、図1C)、および、TTF1の核内蓄積(腫瘍の74%、40/54、図1D)がそれぞれ検出された。
本発明者らは次に、肺腺ガンにおいて候補マーカーとEGFR突然変異状態のタンパク発現を比較した(図1)。本発明者らは、EGFRシグナル伝達経路(EGFRおよびAKT1)、またはHER2シグナル伝達経路(MTA1)のどちらかに関与すると考えられる分子、あるいは、以前にEGFR突然変位と相関すると報告された(TTF1)(Yatabe Y et al., Am J Surg Pathol. 2005;29:633-9.)分子の、4種類の分子を選んだ。EGFRタンパクの膜における強力な発現が、腫瘍の46%(25/54)に検出され(図1A)、一方、AKT1タンパクの細胞質内および核内蓄積は33%(17/52、図1B)に観察された。MTA1の核内蓄積(腫瘍の38%、20/53、図1C)、および、TTF1の核内蓄積(腫瘍の74%、40/54、図1D)がそれぞれ検出された。
表1に詳細に掲げられているように、EGFR発現(P=0.65)も、TTFI発現(P=0.65)も、EGFR突然変異状態と相関しなかった。AKT1発現は、EGFR突然変異との相関の傾向を示しはするものの、それは有意では無かった(P=0.058)。一方、MTA1の核内蓄積は、EGFR突然変異状態と有意に相関した(P=0.003)。
最近、EGFR遺伝子増幅が、EGFR-TKIであるゲフィチニブ(Gefitinib)に対する臨床的反応性と相関することが報告されている(Shigematsu H et al., J Natl Cancer Inst. 2005;97:339-46.)。従って、本発明者ら は、MTA1発現がEGFR遺伝子増幅に相関するかどうかを調べた。MTA1発現は、EGFR遺伝子増幅と相関する。ゲノムハイブリダイゼーション比較分析(21)に供した55例の腫瘍の内、6例(10%)の腫瘍において、EGFR遺伝子増幅(4コピーを超える)が検出された。MTA1発現は、EGFR遺伝子増幅と有意に相関したが(P=0.0006)、一方、核内のAKT1発現はそうでは無かった(P=0.33)(表2)。
2. ゲフィチニブ(Gefitinib)治療の効力とMTA1発現の比較
MTA1発現は、EGFR遺伝子突然変異の存在および増幅と相関するため、これは、EGFR-TKI治療に対する腫瘍の感度を予測する予測因子となる可能性がある。この可能性を調べるために、本発明者ら は、国立がんセンター病院でゲフィチニブ(Gefitinib)による肺腺ガン治療を受けて再発させた58人の患者を分析した(Takano T et al., J Clin Oncol. 2005 ;23:6829-37.)。このコホートでは腫瘍の60%(35/58)にEGFR突然変異が検出された。MTA1発現は66%(38/58)に観察され、EGFR突然変異と有意に相関した(P=0.004)。これは、本発明者ら の免疫組織化学的分析を裏付けるものである。次に、本発明者ら は、MTA1発現と、これらの患者の、ゲフィチニブ(Gefitinib)治療後における、無増悪期間(TTP)および全生存(OS)を比較した。このEGFR-TKI治療後において、MTA1発現は、比較的長いTTPと有意に相関し(MTA1陽性腫瘍における平均TTPは9.3ヶ月であるのに対して、MTA1陰性腫瘍における平均TTPは5.3ヶ月であった、P=0.01)、OSとも有意に相関した(MTA1陽性腫瘍における平均OSは14.4ヶ月であるのに対して、MTA1陰性腫瘍における平均OSは10.7ヶ月であった、P=0.001)。Kaplan-Meier分析によって、MTA1陽性腫瘍を持つ患者と、MTA1陰性腫瘍を持つ患者のTTP(図2)およびOS(データ示さず)の間には有意な差がある(P<0.05)ことが明らかになった。
MTA1発現は、EGFR遺伝子突然変異の存在および増幅と相関するため、これは、EGFR-TKI治療に対する腫瘍の感度を予測する予測因子となる可能性がある。この可能性を調べるために、本発明者ら は、国立がんセンター病院でゲフィチニブ(Gefitinib)による肺腺ガン治療を受けて再発させた58人の患者を分析した(Takano T et al., J Clin Oncol. 2005 ;23:6829-37.)。このコホートでは腫瘍の60%(35/58)にEGFR突然変異が検出された。MTA1発現は66%(38/58)に観察され、EGFR突然変異と有意に相関した(P=0.004)。これは、本発明者ら の免疫組織化学的分析を裏付けるものである。次に、本発明者ら は、MTA1発現と、これらの患者の、ゲフィチニブ(Gefitinib)治療後における、無増悪期間(TTP)および全生存(OS)を比較した。このEGFR-TKI治療後において、MTA1発現は、比較的長いTTPと有意に相関し(MTA1陽性腫瘍における平均TTPは9.3ヶ月であるのに対して、MTA1陰性腫瘍における平均TTPは5.3ヶ月であった、P=0.01)、OSとも有意に相関した(MTA1陽性腫瘍における平均OSは14.4ヶ月であるのに対して、MTA1陰性腫瘍における平均OSは10.7ヶ月であった、P=0.001)。Kaplan-Meier分析によって、MTA1陽性腫瘍を持つ患者と、MTA1陰性腫瘍を持つ患者のTTP(図2)およびOS(データ示さず)の間には有意な差がある(P<0.05)ことが明らかになった。
3. 肺ガン細胞におけるEGFRシグナル伝達における下流標的としてのMTA1
MTA1は、ヒト乳ガンにおいて、HER2の過剰発現、またはそのリガンド、ヘレグリンによる刺激によって誘発されることが報告されている(Kumar R et al., Nature. 2002 , 418:654-7; Mazumdar A et al., Nat Cell Biol. 2001;3:30-7.)。しかしながら、本発明者ら の免疫組織化学的結果から示唆されるように、MTA1はまた、EGFR活性化によっても調整されているのかどうかについては不明のままである。この点を明らかにするために、本発明者ら は、EGFR突然変異(NCI-HI650 (エキソン19のdelE746-A750)、NCI-H1975(エキソン21のL858R))を含む2種類の肺ガン細胞系統、および、EGFR突然変異を含まない、2種類の肺ガン細胞系統(A549およびABC1)を分析した(Sordella R et al., Science. 2004;305:1163-7.および、本発明者らの未発表の結果)。EGF刺激は、全ての細胞系統においてリン酸化EGFR、およびリン酸化AKT1レベルを増加させた(図3A)。それとは対照的に、MTA1発現は、EGF刺激前のEGFR突然変異型(NCI-HI650およびNCI-HI975)およびEGFR過剰発現(ABC1)細胞(レーン1、3、および7)において高レベルであった。EGF処理によるMTA1の発現は、EGFR野生型に比べると、特にEGFR突然変異型ガン細胞(NCI-H1650)において増加していた(図3A、レーン3および4)。EGFR特異的阻害剤(AG1498)による処理は、EGFR突然変異型肺ガンの両細胞系統(NCI-H1650およびNCI-H1975、図3B)において、EGF誘発MTA1発現を抑制した。
MTA1は、ヒト乳ガンにおいて、HER2の過剰発現、またはそのリガンド、ヘレグリンによる刺激によって誘発されることが報告されている(Kumar R et al., Nature. 2002 , 418:654-7; Mazumdar A et al., Nat Cell Biol. 2001;3:30-7.)。しかしながら、本発明者ら の免疫組織化学的結果から示唆されるように、MTA1はまた、EGFR活性化によっても調整されているのかどうかについては不明のままである。この点を明らかにするために、本発明者ら は、EGFR突然変異(NCI-HI650 (エキソン19のdelE746-A750)、NCI-H1975(エキソン21のL858R))を含む2種類の肺ガン細胞系統、および、EGFR突然変異を含まない、2種類の肺ガン細胞系統(A549およびABC1)を分析した(Sordella R et al., Science. 2004;305:1163-7.および、本発明者らの未発表の結果)。EGF刺激は、全ての細胞系統においてリン酸化EGFR、およびリン酸化AKT1レベルを増加させた(図3A)。それとは対照的に、MTA1発現は、EGF刺激前のEGFR突然変異型(NCI-HI650およびNCI-HI975)およびEGFR過剰発現(ABC1)細胞(レーン1、3、および7)において高レベルであった。EGF処理によるMTA1の発現は、EGFR野生型に比べると、特にEGFR突然変異型ガン細胞(NCI-H1650)において増加していた(図3A、レーン3および4)。EGFR特異的阻害剤(AG1498)による処理は、EGFR突然変異型肺ガンの両細胞系統(NCI-H1650およびNCI-H1975、図3B)において、EGF誘発MTA1発現を抑制した。
これまでEGFR阻害剤の有効性を予測しうる分子マーカーとしては、EGFR遺伝子異常あるいはEGFR遺伝子増幅といったものが知られているが、いずれも実際に検査を行うには特殊な分子生物学的手法が必要であり、通常の臨床検査室で品質管理をしながら検索を行うことは困難である。また臨床の現場では、患者からの臨床検体として針生検標本しか得られないことがしばしば起こり、そういった微小検体から腫瘍細胞を選別して検索を行うことができるのは非常に限定された施設になると考えられる。本発明は、一般の臨床検査室で通常業務として行っている、例えば、免疫染色法を用いて1つの分子マーカーの発現を調べることでEGFR阻害剤の有効性を予測することができる方法である。本発明の方法は、これまでの検査方法に比して簡便であり、汎用性も高く、また微小検体でも解析可能であるといった点が有用である。
Claims (10)
- 上皮成長因子受容体−チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する肺ガンの感度または感受性を測定する方法であって、
測定対象である肺ガン細胞または組織における転移関連性遺伝子1(MTA1)の発現を検出し、かつ
検出されたMTA1の発現の程度を指標として前記感度または感受性を判定することを含む前記方法。 - MTA1が、配列表の配列番号1に示された塩基配列を有する請求項1に記載の方法。
- 測定対象である肺ガン細胞または組織が、ニードルバイオプシーである請求項1または2に記載の方法。
- MTA1の発現の検出を免疫染色法若しくはRT-PCR法により行うか、または発現解析用チップを用いて行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- EGFR-TKIが、肺ガン治療剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 肺ガン治療剤がゲフィチニブ(Gefitinib)またはエルロチニブ(Erlotinib)である請求項5に記載の方法。
- 前記肺ガン細胞または組織におけるMTA1の発現が増加している場合、測定対象である肺ガン細胞または組織のEGFR-TKIに対する感受性があると判定する請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 肺ガン細胞をEGFR-TKIの候補物質の共存下で培養し、その後、肺ガン細胞中のMTA1の発現の程度を測定し、前記候補物質が前記肺ガン細胞に対する抑制作用を有するかを判定することを含む、肺ガン治療剤のスクリーニング方法。
- 肺ガン細胞が、HCC827, PC9, NCI-H1650, NCI-H1975, またはH3255である請求項8に記載の方法。
- EGFR-TKIの候補物質が、低分子阻害剤である請求項8または9に記載の方法。
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---|---|---|---|---|
JP2012519282A (ja) * | 2009-02-27 | 2012-08-23 | オーエスアイ・ファーマシューティカルズ,エルエルシー | 間葉様腫瘍細胞またはその生成を阻害する薬剤を同定するための方法 |
CN113564255A (zh) * | 2021-08-13 | 2021-10-29 | 河北医科大学第四医院 | 一种lncRNA NEAT1_1的应用 |
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WO2004071572A2 (en) * | 2003-02-06 | 2004-08-26 | Genomic Health, Inc. | Gene expression markers for response to egfr inhibitor drugs |
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-
2006
- 2006-03-24 JP JP2006082892A patent/JP2007252312A/ja active Pending
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