JP2007104742A - レーザーと電界を用いた微小ポンプ - Google Patents

レーザーと電界を用いた微小ポンプ Download PDF

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進司 桂
Akira Mizuno
彰 水野
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Abstract

【課題】高度な微細加工技術を用いることなく、また、試料を汚染させることなく、微細流路中の流体を操作可能な微小ポンプを提供すること。
【解決手段】微細流路1と微小電極2を組み合わせることにより電極が設置された流路を作製する。微小電極間に交番電圧を印加すると共に、電極近傍にレーザーを照射することにより微細流路中の流体に駆動力を発生させる。この方法は、簡単な微小電極を作成するだけなので、ポンプの構造を容易に作成することができ、電界を利用することから、脈流もなく自動制御にも適している。
【選択図】 図1

Description

本発明は、微細流路中で水溶液に流れが引き起こされることを利用した機械的可動部がない微小ポンプに関するものであり、マイクロ化学反応システム、細胞工学など微細流路における流れの制御を必要とする分野全般に適用できる。
(微細流路の特徴)
非特許文献1に挙げられるように、近年、半導体などに利用されている微細加工技術を利用して作製された微細流路が化学合成、マイクロ検出システムなどに応用されている。この技術において、微細流路中の流れを制御する技術は極めて重要になっている。
(シリンジポンプ法)
微細流路中に流れを起こすために、最も広く用いられているのは、コネクターを介してシリンジポンプを接続する方法である。しかし、微細流路に比べてシリンジポンプの大きさがはるかに大きく、その結果デッドボリュームが大きくなるために、微量の(希少な)試料に適用することは困難である。また、プランジャーの移動速度を低下させるとプランジャーとシリンジとの間の固着が起こりやすくなるために、脈流が発生しやすくなるために微弱の流れを制御することが困難である。さらに、シリンジと微細流路とを接続するチューブが加圧時に変形する結果、シリンジの操作と微細流路の入り口における圧力変化との間に時間遅れが生じることも流量の自動制御を行う上では大きな問題になると考えられる。また、構成装置全体が大きくなってしまうことも問題点として考えている。
(ダイアフラムポンプ法)
また、他の機械式ポンプとして、ダイアフラムポンプが考えられる。これは、微細流路中に微細加工技術を用いてダイアフラムおよび弁を作製し、ダイアフラムを振動させることにより、流れを起こす方法である。この方法では小型化が可能であるが、高度な微細加工技術が必要であり、また、流れが脈流になってしまう欠点がある。
(回転型)
回転型は対向された歯車が回転することにより駆動圧を発生させる方法である。しかし、この方式は動力の実装の問題、軸受部分のシールの問題などがあり、極めて高度な微細加工技術が要求される。
(電気浸透流)
一方、電気的な手法を利用したポンプも広く用いられている。その代表的な手法として、電気浸透流を利用したポンプが知られている。この手法は流れが速やかに電圧印加に応答するといった優れた特性を持っているが、直流電界を用いる手法であるために、電極における電気化学反応によって発生した泡により流れが乱される問題点がある。その際、イオン化した電極材料によって試料溶液が汚染されることも大きな問題点である。また、多くの電流が流れるために、ジュール熱が無視できなくなり、反応へ影響を及ぼす。さらに、この手法は表面電荷により液体界面中に形成された電気2重層により駆動力を発生させる手法なので、駆動力が流路の表面状態、あるいは溶液のpHや電解質濃度に大きく依存する。
(EHD)
同様に電気的な手法を利用したポンプとしては電気流体力学を利用したポンプが考案されている。これは、導電率が低い液体に高電界により電荷を注入し、その注入電荷が電界によって輸送される際に同時に液体も輸送される手法である。この方法は対象となる液体の導電率に制限がある。
(電気化学型)
電気的な手法を利用したポンプとして、電気分解に生じる泡を利用して操作対象液体を駆動する方法も提案されている。この方法は電極反応を積極的に利用する方法であるために、イオン化した電極材料によって試料が汚染される可能性が問題となる。
マイクロ化学チップの技術と応用、化学とマイクロ・ナノシステム研究会監修(丸善、平成16年9月発行)
微細流路中の液体を機械的な手法で駆動する場合には、駆動流が脈流となる問題点を抱えている。また、シリンジポンプで駆動する場合には装置の小型化が困難であり、ダイアフラムポンプの場合は、流路内に組み込むために高度な微細加工技術が要求される。
電気的な手法を用いた場合には電極反応による泡の発生、イオン化した電極材料の汚染を防ぐことは困難である。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高度な微細加工技術を用いることなく、小型かつ汚染を引き起こさない微小ポンプを提供することである。
本発明者らは鋭意検討の結果、交番電界とレーザー照射を組み合わせることにより、上記課題を達成することに成功し、基本的には本発明を完成するに至った。
本発明では、交番電圧を印加した電極近傍にレーザーを照射することにより焦点近傍を中心とした流れを引き起こす方法である。本ポンプの構成要素として、機械的な稼動部分は全く含まれていないため、高度な微細加工技術は要求されない。そして、その構造が単純であることから、微細流路内に組み込むことが可能であり、電界強度あるいはレーザー強度により流量を容易に調整できる。
また、ここで用いる電極は、蒸着により作製された電極であり、非常に容易かつ安価に作製することが可能である。
ここで用いる電極は蒸着により容易に作製することが可能であるので、ガラスをはじめとする多くの材料の上に作製することが可能である。そのために、電極を作製されたガラスとポリジメチルシロキサン(PDMS)などのプラスチックに作製された微細流路と組み合わせることが容易である。例えば、図1には、ガラス基板上に作製した微小電極とPDMSに作製した流路を組み合わせた微細流路ポンプシステムを示した。ここでは、微細流路とは幅および深さが300μm以下を示している。
本発明においては、絶縁体で覆われた電極を交番電界印加に用いることが可能である。本ポンプで用いるような交番電界は薄い絶縁体膜を介しても電界を形成することが可能であるために、電極からの汚染物質の混入が全くなくなる。したがって、本発明による方法を用いれば、微細流路内において汚染物質による試料への影響を完全に抑えることが可能になる
また、この手法による駆動力の発生場所は完全に局所化されているので、流路内の様々な位置に本ポンプを設置することにより、複雑な微細流路であっても各ノードの流量を自由に制御することが可能になると考えられる。
本発明では、レーザー照射と電界を微細流路中で駆動力を発生させる。ここで用いる電界は交番電界である。交番電界を発生させた電極近傍にレーザーを集光し、照射すると、レーザー焦点より流れが発生する。これは、焦点付近で温度が上昇した結果、そこでの誘電率が低下することに起因する可能性が考えられる。
本発明によれば、レーザー照射と電界を用いることにより、微小流体を操作可能な微小ポンプを提供する。この微小ポンプは、その構造が単純であることから、微細流路内に組み込むことが可能であり、電界強度あるいはレーザー強度により流量を容易に調整できる。さらに、複雑な微細流路中の様々な位置にこの微小ポンプを配置することにより各ノードの流量を自由に制御することが可能になる。
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本実施形態においては微小電極を作製した微細流路中で流体を駆動した。図1には流路および電極の構造、そしてレーザーの入射位置を示した。微細流路1はガラス基板上に作成した凸型の鋳型を用いたモールディング法によって作成し、微小電極2は真空蒸着とフォトリソグラフィーを用いてクロムで作成することができる。
駆動力を発生させる際には、微小電極間に交番電圧を印加すると同時に、電極近傍にレーザーを入射させる。同時に印加することにより流れが発生する。
ここで発生する流れの流速は印加交番電圧および入射レーザーパワーによって制御することができるので、流速の制御を自動化するにも適している。
次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
(レーザーと交番電界を用いた微小流れの発生)
図2に示すように、微細流路1をPDMS(ポリジメチルシロキサン)上に作成し、微小電極2をガラス基板上に作製する。微小電極2は真空蒸着とフォトリソグラフィーを用いてクロムで作り、微細流路1はガラス基板上に作成した凸型の鋳型を用いたモールディング法によって作成した。微小電極2の電極間距離は300mmで電極の幅を1mmとした。微細流路1の幅は300mmで深さを100mmとした。微小電極2が作製されたガラス基板と微細流路を形成しているPDMSとを図1のようにはり合わせて実施した。
作成した基板を図3に示すレーザーマニピュレーション装置にセットした。対物レンズ3には100倍、開口数1.30のものを用いた。赤外レーザー4にはNd:YAG(1064nm、cw)を用い、ダイクロイックミラー5を介して光路に導入し、対物レンズ3を通して集光した。その際、蛍光像を取得するために、水銀ランプ6により発生した励起光は励起フィルター7、ダイクロイックミラー8を介して光路に導入され対物レンズ3を通して励起光を試料に照射している。そこで発生した蛍光は対物レンズ3により集光された後、ダイクロイックミラー5および8を通過し、蛍光フィルター9、全反射ミラー10および赤外線除去フィルター11を介してCCDカメラ12の撮像面上で結像している。
発生した流れを可視化するために、蛍光ラッテクス粒子を水溶液中に懸濁した。図3に示した光学系によって、蛍光粒子像を記録した。そして、記録した蛍光粒子の軌跡から、そのときの流速を計算した。
Milli-Q水(超純水)と10mM NaCl水溶液に蛍光粒子を懸濁して、流れを発生させる対象の水溶液として用いた
交番電圧の大きさや周波数、レーザーの出力を調整して、微小な流れを発生させた。
照射したレーザーは対物レンズによって集光されるため、蛍光観察している領域付近で最も集光されている。
ここでは、レーザー出力、交番電圧値、交番電圧の周波数を変化させたときの流速の変化を測定した。流速はレーザーの焦点位置(高さ方向)によって大きく変化するため、各条件での測定時は焦点を固定して行った。
ここでいうレーザー出力とは、対物レンズを通過した後のパワーの大きさを言う。
図4−1、図4−2、図4−3に発生した流れの様子を示す。電極近傍(数mm以内)にレーザースポット(レーザー集光部)を置き、電極間に交番電界を印加すると、図4−1、図4−2、図4−3のような流れが発生した。この流れは図4−1、図4−2、図4−3に示すようにレーザー出力の大きさに依存して速度が変化した。
ここで発生する流れは、レーザー出力の大きさ、交番電圧の大きさ、交番電圧の周波数に依存してその流速が変化する。
図5は交番電圧値を変化させたときの流速の変化を示している。このとき、レーザー出力を80mW、交番電圧の周波数を1MHzとした。また、水溶液にはMilli-Q水を用いた。図5にあるように、流速は交番電圧値が増加すると共に直線的に増加した。
図6はレーザー出力を変化させたときの流速の変化を示している。水溶液には、Milli-Q水と10mM
NaCl水溶液を用いた。Milli-Q水の時は、交番電圧を70V0-P、1MHzとし、NaCl水溶液の時は、交番電圧ピーク値を30V0-P、1MHzとした。図6に示すように、Milli-Q水とNaCl水溶液の場合の両方において、レーザー出力値を増加すると、流速はそれに伴って直線的に増加した。
また、Milli-Q水とNaCl水溶液とでは、同じ条件で行った場合、大きく流速が異なる。NaCl水溶液の方が、流速が大きくなった。そのため、ここではMilli-Q水の時は交番電圧を70V0-Pにし、NaCl水溶液の場合は30V0-Pとした
図7は交番電圧の周波数を変化させたときの流速の変化を示している。水溶液には、Milli-Q水と10mM
NaCl水溶液を用いた。Milli-Q水の時は、交番電圧を70V0-P、1MHzとし、NaCl水溶液の時は、交番電圧を30V0-P、1MHzとした。図7にあるように、周波数を変化させたときは、図5や図6とは異なり、Milli-Q水とNaCl水溶液とでは、異なる応答を示した。Milli-Q水の場合は、7kHz〜80kHzの間では流速が周波数と共に増加し、80kHz〜300kHzでは一定、300kHz〜1MHzでは減少した。NaCl水溶液の場合は、10kHz〜300kHzの間は、流速が周波数と共に増加し、300kHz〜1MHzでは、ほぼ一定の値となった。
(流路全体の流れ)
電極近傍で発生した流れが微細流路全体の流れとして機能しているかどうかを調べた。
実験装置・構成は実施例1と同じである。ただし、流れを可視化するために油滴(菜種油)を分散させたMilli-Q水を水溶液として用い、発生した流れは倒立型顕微鏡の上部に設置したデジタルマイクロスコープによって撮影した。
電極近傍でレーザーと交番電界によって流れを発生させると、その流れが微細流路内の全体の流れとなっていることが確認された。
電極近傍の流速を670mm/secに調整し、電極部から3mm下流で流速を測定したところ、25mm/secとなっていた。この流速は、流量に換算すると0.75mL/secとなる。
(電極を絶縁物で覆った場合)
クロムで作成した電極を絶縁物(ゴム)で覆った場合について述べる。これによって、水溶液と電極(金属)が接触することがなくなる。
実験装置・構成は実施例1と同じである。ただし、ここではクロムで作成した微小電極の表面をネガ型のフォトレジスト(環化ゴム系、OMR-45、東京応化)でカバーしてある。
この場合も、実施例1と同様にレーザーと交番電界によって微小な流れが発生することを確認した。
絶縁物で電極を覆った場合に接地電極と接地との間で電流を測定した。水溶液にMilli-Q水を用いた場合、レジストで覆った場合は、交番電圧74V0-P、1MHzのときに1.12mAを得た。同じ条件で、レジストがない場合、すなわち電極(金属)が直接水溶液に触れている場合は、2.8mAであった。
微小電極と微細流路 ガラス基板とPDMS基板をはり合わせた様子 光学系 レーザーと電界による流れの様子(レーザー:35mW、交番電圧:70V0-P、1MHz) レーザーと電界による流れの様子(レーザー:80mW、交番電圧:70V0-P、1MHz) レーザーと電界による流れの様子(レーザー:135mW、交番電圧:70V0-P、1MHz) 交番電圧を変化させたときの流速の変化 レーザー出力を変化させたときの流速の変化 周波数を変化させたときの流速の変化
符号の説明
1 微細流路
2 微小電極
3 対物レンズ
4 赤外レーザー
5 ダイクロイックミラー
6 水銀ランプ
7 励起フィルター
8 ダイクロイックミラー
9 蛍光フィルター
10 全反射ミラー
11 赤外線除去フィルター
12 CCDカメラ

Claims (3)

  1. 交番電圧を印加した液体にレーザーを照射することで液体を駆動することを特徴とするポンプ。
  2. 電極を絶縁体膜で覆うことにより金属電極への液体の接触を防ぐことを特徴とする請求項1に記載のポンプ。
  3. 微細流路の上流側と下流側に電極を対向して組み込み、流路上流側電極近傍の液体にレーザーを照射することを特徴とする請求項1、2に記載のポンプ。
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