図11は従来のAC型プラズマディスプレイパネル(以下、単に「パネル」と称する)の概略構成を示した部分切欠斜視図である。また、図12は図11のB−B線における矢印方向から見た断面図である。
図11に示すように、従来のAC型プラズマディスプレイパネル80では、放電空間を挟んで表面基板82と背面基板83とが対向して配置されている。表面基板82上には、ストライプ状の走査電極86と維持電極87とを一対としてこれらが互いに略平行に複数配列され、これらは誘電体層84および保護膜85で覆われている。背面基板83上には、走査電極86および維持電極87と直交する方向に、ストライプ状のアドレス電極88が略平行に複数形成されている。また、アドレス電極88の間にストライプ状の隔壁89が配列されている。各隔壁89の間にはアドレス電極88を覆うように蛍光体90が形成されている。表面基板82と背面基板83と隔壁89とで囲まれた各空間は放電セル91を形成している。放電セル91内の空間には放電によって紫外線を放射するガスが封入されている。
図12に示すように、蛍光体90は、青色蛍光体90b、緑色蛍光体90g、及び赤色蛍光体90rの3色からなり、これら3色の蛍光体が各放電セル内に一色ずつ順次形成されている。この結果、青色蛍光体90bが付設された放電セルは青色の放電セル91bを、緑色蛍光体90gが付設された放電セルは緑色の放電セル91gを、赤色蛍光体90rが付設された放電セルを赤色の放電セル91rを、それぞれ構成する。
次に、従来のパネル80に画像データを表示させる方法について説明する。
パネル80の駆動では、1フィールド期間を2進法に基づいた発光期間の重みを持ったサブフィールドに分割し、発光させるサブフィールドの組み合わせによって階調表示を行う。たとえば、1フィールドを8つのサブフィールドに分割した場合、256階調の表示を行うことができる。サブフィールドは初期化期間、アドレス期間および維持期間からなる。
画像データを表示するためには、初期化期間、アドレス期間および維持期間でそれぞれ異なる信号波形を電極に印加する。
初期化期間には、たとえば、アドレス電極88に対して正極性のパルス電圧を、すべての走査電極86に印加し、保護膜85および蛍光体90上に壁電荷を蓄積する。
アドレス期間では、走査電極86に負極性のパルスを印加することにより走査電極86を順次走査している間に、アドレス電極88に正極性のパルス(書き込み電圧)を印加する。このとき、走査電極86とアドレス電極88との交差部にある放電セル91内で放電(書き込み放電)が起こり、荷電粒子が生成される。このような動作を書き込み動作という。
続く維持期間では一定の期間、走査電極86と維持電極87との間に放電を維持するのに十分な交流電圧を印加する。これにより、走査電極86とアドレス電極88との交差部に生成された放電プラズマは、走査電極86と維持電極87との間にこの交流電圧を印加している間、蛍光体90を励起発光させる。発光を望まない個所では、アドレス期間において走査電極86にパルスを印加しなければよい。
このような従来のパネルでは、標準白色光源の色度座標と同様の白色を得るために、3色それぞれの放電セル91の幅(即ち、放電セル91を構成する両側の隔壁89の間隔)はそれぞれ互いに異なっている(特開平9−115466号公報)。具体的には、青色蛍光体90bを持つ放電セル91bの幅が一番広く、緑色の放電セル91gおよび赤色の放電セル91rの幅は青色の放電セル91bの幅よりも狭くなるように構成されている。これは、以下の理由による。即ち、緑色蛍光体90g、赤色蛍光体90rに比べて青色蛍光体90bの発光効率は悪いので、青色、緑色および赤色の放電セルの幅をすべて同じにした場合には、各色の放電セルに最大入力信号が入力されたとき、3色を合成して得られる色度は白色の領域からはずれたり、色温度が低かったりするなど、所望の色度や色温度が得られない。そこで、上記のように3色それぞれの放電セル91の幅を変えることによって、各色の放電セルに最大入力信号が入力されたときに、所望の白色が得られるように調整している。
しかし、以上の構造では、青色の放電セル91bの放電開始電圧が他の二色の放電セル91g,91rの放電開始電圧と異なるという課題があった。図13はアドレス期間における書き込み動作において、走査電極86に印加する電圧を一定としたときの、書き込み放電を安定に行なうために必要な書き込み電圧(完全点灯書き込み電圧)を各色の放電セルごとに示している。上記のように従来のパネルでは各色の放電セルごとに必要な書き込み電圧の値が相違する。これに起因して、図から明らかなように、完全点灯書き込み電圧は各色の放電セルによって大きく相違している。従って、全ての放電セルに同一の書き込み電圧を印加すると、書き込み放電が不安定となったり、誤放電や放電ちらつきが発生したりして、正しい表示ができないという問題が発生する。
安定した書き込み動作を行なうためには、アドレス電極88に印加する書き込み電圧を各色の放電セルの完全点灯書き込み電圧に応じて放電セルの色ごとに変える必要がある。ところが、これは電圧制御が煩雑となり、装置が高価となる。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態1に係るAC型プラズマディスプレイパネル(以下、単に「パネル」という)の部分切欠斜視図である。また、図2は図1のA−A線における矢印方向から見た断面図である。
図1に示すように、本実施形態のパネル10では、放電空間を挟んで表面基板2と背面基板3とが対向して配置されている。ガラス等の透明材料からなる表面基板2上には、ストライプ状の走査電極6と維持電極7とを一対としてこれらが互いに略平行に複数配列され、これらは誘電体層4および保護膜5で覆われている。表面基板2と背面基板3との間には、走査電極6および維持電極7と直交する方向にストライプ状(帯状)の隔壁13が設けられている。表面基板2と背面基板3と隔壁13とで囲まれた領域には、図2に示すように、順次青色の放電セル14b、緑色の放電セル14gおよび赤色の放電セル14rが形成される。
隣接する隔壁13の間には、隔壁13と平行に、各色の放電セル14b、14g、14rに対応してストライプ状のアドレス電極15b、15g、15rがそれぞれ設けられ、これらのアドレス電極15b、15g、15r上から両側の隔壁13の側面にかけて青色の蛍光体16b、緑色の蛍光体16gおよび赤色の蛍光体16rがそれぞれ形成されている。放電セル14b、14g、14r内にはヘリウム、ネオン、アルゴンの内少なくとも一種とキセノンとの混合ガスが封入されている。
なお、青色の放電セル14bに形成されたアドレス電極15bを青色のアドレス電極15b、緑色の放電セル14gに形成されたアドレス電極15gを緑色のアドレス電極15g、赤色の放電セル14rに形成されたアドレス電極15rを赤色のアドレス電極15rと呼ぶ。
図2に示すように、青色の放電セル14bを構成する隔壁13の間隔、すなわち青色の放電セル幅をWbとし、緑色の放電セル14gを構成する隔壁13の間隔、すなわち緑色の放電セル幅をWgとし、赤色の放電セル14rを構成する隔壁13の間隔、すなわち赤色の放電セル幅をWrとするとき、Wb>Wg>Wrとなるように設定している。また、青色のアドレス電極15bの幅をDb、緑色のアドレス電極15gの幅をDg、赤色のアドレス電極15rの幅をDrとするとき、Db>Dg>Drとなるように設定されている。また、各色のアドレス電極15b、15g、15rは、それぞれ各色の放電セル14b、14g、14rのほぼ中央に位置するように配列されている。
次に、本実施の形態によるパネルの放電発光表示の動作を、図1および図2を用いて説明する。
まず書き込み動作において、アドレス電極15b、15g、15rに正の書き込みパルス電圧(書き込み電圧)を印加し、走査電極6に負の走査パルス電圧を印加すると、放電セル14b、14g、14r内で書き込み放電が起こり、走査電極6上の保護膜5の表面に正の電荷が蓄積される。
この後、維持動作において、最初に維持電極7に負の維持パルス電圧を印加し、続けて走査電極6と維持電極7とに負の維持パルス電圧を交互に印加することによって、維持放電が持続される。最後に、維持電極7に負の消去パルス電圧を印加することにより、この維持放電が停止される。
本実施の形態のパネル10の具体例として、青色、緑色および赤色の放電セル幅をそれぞれWb1=0.37mm、Wg1=0.28mm、Wr1=0.19mmとし、隔壁13の幅を0.08mmとし、青色、緑色および赤色のアドレス電極幅をそれぞれ各色の放電セル幅に比例するようにDb1=0.222mm、Dg1=0.168mm、Dr1=0.114mmとしている。表示動作中、青色、緑色および赤色の放電セルにおける保護膜5の表面に形成される電荷量をそれぞれQb1、Qg1およびQr1とする。
図1からわかるように、青色、緑色および赤色の各放電セルの放電空間の容積比率は、近似的に各色の放電セル幅の比率とすることができるので、該容積比率はWb1:Wg1:Wr1=5:4:3となる。また、表示動作中、青色、緑色および赤色の放電セルにおける保護膜5の表面に形成される電荷量の比Qb1:Qg1:Qr1は、ほぼアドレス電極幅の比Db1:Dg1:Dr1と一致するので、Qb1:Qg1:Qr1=5:4:3となる。したがって、青色、緑色および赤色の放電セル14b、14gおよび14rにおける保護膜5の表面にはそれぞれ各色の放電セルの放電空間の容積比にほぼ一致した電荷量Qb1,Qg1,Qr1が得られる。その結果、誤放電の発生が少なく、表示特性のよいパネルを得ることができる。
例えば、比較例として青色、緑色および赤色の放電セル幅を本実施形態の具体例のパネルと同じように、それぞれWb2=0.37mm、Wg2=0.28mm、Wr2=0.19mmとし、各色の放電セルのアドレス電極幅をそれぞれDb2=Dg2=Dr2=0.18mmのようにすべて同じにする。このパネルでは、表示動作中において、青色、緑色および赤色の放電セルにおける保護膜5の表面に形成される電荷量の比Qb2:Qg2:Qr2は、アドレス電極幅の比Db2:Dg2:Dr2となる。すなわちQb2:Qg2:Qr2=1:1:1となるので、各色の放電セルにおける保護膜5の表面に蓄積される電荷はそれぞれ対応する放電セルの放電空間の容積の比に比例しないことになる。この場合、最も幅の広い放電セルである青色の放電セル14bにおいて放電が不安定となり、誤放電や放電ちらつきを引き起こす。
次に、前述した本実施形態の具体例と比較例のパネルについて、書き込み動作における書き込み放電を安定に行うことができる書き込み電圧(完全点灯書き込み電圧)を測定した結果を図3に示す。図3において、本実施形態の具体例および比較例のパネルで測定した結果をそれぞれ実線および破線で表している。以下の説明においては、青色、緑色および赤色の放電セルの完全点灯書き込み電圧をそれぞれVbd、VgdおよびVrdとする。
図3に示すように、比較例のパネルでは青色、緑色および赤色の放電セルの完全点灯書き込み電圧はVbd>Vgd>Vrdとなり、それぞれの電圧値の差が大きいことがわかる。このようなパネルの放電表示動作を安定に行うためには、各色の放電セルの完全点灯書き込み電圧のうち、最も高い青色の放電セルの完全点灯書き込み電圧Vbd以上となるように書き込み電圧を設定する必要がある。この場合、完全点灯書き込み電圧が最も低い赤色の放電セルには、Vrdよりも10V以上高い電圧が印加されることになるため、放電が不安定となり、ちらつきや誤った書き込み動作を引き起こすことになる。
一方、本実施形態の具体例のパネルでは図3に示すように、各色の放電セルの完全点灯書き込み電圧Vbd、Vgd、Vrdはほぼ同じ値となっているので、書き込み動作が各色の放電セルの間で均一となり、表示発光のちらつきや誤った書き込み動作の発生をなくすことができる。
したがって、表示動作中、青色、緑色および赤色の放電セルの放電空間の容積に合わせた電荷量が各色の放電セルにおける保護膜5の表面に蓄積するように、各色のアドレス電極15b,15g,15rの幅を適切に設定することにより、誤放電や放電ちらつきがなく安定した表示放電を行うことのできるパネルを得ることができる。
なお、本実施の形態では、各色の放電セル幅がWb>Wg>Wrである場合について説明したが、各色の放電セル幅の大きさの関係がこれ以外の場合であっても、アドレス電極の幅を、そのアドレス電極が形成された放電セルの幅に比例して設定することにより、誤放電や放電ちらつきがなく安定した表示放電を行うことができるパネルを得ることができる。また、本実施の形態では、各色の放電セルにおいて、アドレス電極の幅を放電セル幅に比例するように設定したものについて説明したが、単に放電セル幅の大きさの順にアドレス電極の幅を設定したパネルにおいても、誤放電や放電ちらつきがなく安定した表示放電を行うことができるパネルを得ることができる。
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について図面を用いて説明する。
図4は本発明の実施の形態2に係るAC型プラズマディスプレイパネル(以下、単に「パネル」という)の厚み方向断面図である。
図4に示すように、本実施形態のパネル20では、表面基板2と背面基板3とが所定の間隔をあけて対向して設けられているとともに、その間隙には放電によって紫外線を放射するガス、例えばネオンおよびキセノンが封入されている。表面基板2上には帯状の走査電極6と維持電極7とからなる表示電極群が略平行に形成され、さらにそれらを覆って誘電体層4が形成されている。なお、図示していないが誘電体層4上には実施の形態1と同様に保護層が設けられていても良い。背面基板3上には走査電極6および維持電極7と直交する方向にアドレス電極15が形成されている。表面基板2と背面基板3との間には複数の帯状の隔壁13がアドレス電極15と平行に設けられている。
隣接する隔壁13の間には、アドレス電極15を覆って背面基板3上に青色蛍光体16b、緑色蛍光体16gおよび赤色蛍光体16rの蛍光体16が1色ずつ順次付設されている。そして、表面基板2と背面基板3と隔壁13とで囲まれた領域には放電セル14が形成されており、青色蛍光体16bが付設された放電セルを青色の放電セル14b、緑色蛍光体16gが付設された放電セルを緑色の放電セル14g、赤色蛍光体16rが付設された放電セルを赤色の放電セル14rとする。
次に、本実施の形態のパネル20に画像データを表示させるためのパネル20の駆動方法について図5を参照しながら説明する。
パネル20を駆動する方法として、1フィールド期間を2進法に基づいた発光期間の重みを持ったサブフィールドに分割し、発光させるサブフィールドの組み合わせによって階調表示を行う点については従来と同様であり、サブフィールドは初期化期間、アドレス期間および維持期間からなる。
図5は各電極に印加する電圧波形を示している。図5に示すように、初期化期間において、すべての走査電極6に、維持電極7およびアドレス電極15に対して緩やかに上昇し、その後、緩やかに下降する波形を有する電圧(傾斜電圧)を印加することにより、誘電体層6および蛍光体16上に壁電荷が蓄積される。
アドレス期間では、アドレス電極15に表示データに応じた正極性のパルスを印加し、走査電極6に順次、負極性のパルスを印加する。このとき、アドレス電極15と走査電極6との交差部にある放電セル14内で書き込み放電(アドレス放電)が起こり、荷電粒子が生成される。表示を行わない放電セル14に対応したアドレス電極15には正極性のパルスを印加しない。
続く維持期間においては、走査電極6と維持電極7との間に一定の期間、放電を維持するのに十分な大きさの交流電圧を印加することにより、書き込み放電(アドレス放電)が発生した放電セル14において放電プラズマが生成される。このように生成された放電プラズマが蛍光体16を励起発光させることによりパネルの表示が行われる。
本実施の形態において、青色蛍光体16bとしてBaMgAl10O17;Euを、緑色蛍光体16gとしてZn2SiO4;Mnを、赤色蛍光体16rとして(Y2Gd)BO3;Euをそれぞれ用いている。また、青色の放電セル14bの幅Wbを0.37mm、緑色の放電セル14gの幅Wgを0.28mm、赤色の放電セル14rの幅Wrを0.19mm、隔壁13の幅を0.08mmとし、それら三色の放電セルの幅の合計を1.08mmとしており、この場合、三色の蛍光体の発光を合成した白色発光の色度はほぼ10,000Kの黒体放射軌跡上に位置し、品位の高い白色表示を実現できた。
次に初期化期間からアドレス期間における、ある放電セルの壁電圧の変化について図5および図6を参照しながら説明する。図6(a)において実線は維持電極7に対する走査電極6の相対電位Ve(V)を示しており、破線は誘電体層4の上に蓄積される壁電圧Vw(V)を示している。放電空間に加わる電圧は、VeとVwとの差Ve−Vwとなる。図6(b)は放電空間に流れる電流Isを示している。
初期化期間の前半である時間t1〜t3では、図5に示すように走査電極6に0からVc(V)まで緩やかに上昇する傾斜電圧が印加されており、図6に示すように放電空間に加わる電圧Ve−Vwが放電開始電圧Vf(V)以上になる時間t2において放電が起こり、相対電位Veの増加にともなって壁電圧Vwも増加する。次に時間t3において維持電極7の電位をVs(V)に上げる。この結果、相対電位Veが低下し、放電空間に加わる電圧Ve−Vwが放電開始電圧Vf未満になるので、放電が停止する。その後、走査電極6の電位がVcから0にまで緩やかに下降するような傾斜電圧を走査電極6に印加する。このような傾斜電圧の印加に伴って相対電位Veが低下して、放電空間に加わる電圧Ve−Vwの絶対値が放電開始電圧Vf以上になる時間t4で再び放電が開始する。この時間t4から開始する放電によって壁電圧Vwも緩やかに下降し、走査電極6に印加する電圧が0になる時間t5で放電は停止する。この時、放電空間には残留電圧Vg=Vw−Veの加わった状態で安定する。
初期化期間で放電が起こった時に流れる電流Is(A)はdVe/dtに比例するため、走査電極6に印加する電圧の変化率、すなわちdVe/dtを十分に小さくすることにより、電流Isを非常に低い値に抑えることができる。また、壁電圧Vwは放電によって誘電体層4上に壁電荷が形成されることによって発生する。したがって、緩やかな傾斜電圧を印加した場合、壁電荷は放電空間に加わる電圧Ve−Vwが放電開始電圧Vfを越えた時点から形成され始め、走査電極6に印加する電圧の増加とほぼ比例しながら増加していく。その後、走査電極6に印加する電圧を緩やかに下降させると、壁電荷は放電空間に加わる電圧Ve−Vwの絶対値が放電開始電圧Vfを越えた時点から減少し始め、走査電極6に印加する電圧の低下とほぼ比例しながら減少していく。その結果、時間t5では残留電圧Vgと放電開始電圧Vfとは等しくなっている。時間t5以降、放電空間に残留している荷電粒子が壁電荷として蓄積されるため残留電圧Vgが若干変化する可能性があるが、電流Isが非常に低い値であることから、その変化はわずかであり、時間t5以降もVg≒Vfの関係が保たれる。
走査電極に傾斜電圧を印加したときの相対電位Veと残留電圧Vgとの関係を図7に詳細に示す。図7は、本実施の形態のように青色の放電セルの放電開始電圧Vfbが、赤色および緑色の放電セルの放電開始電圧VfrおよびVfgと異なる場合の、青色、赤色および緑色の放電セルの壁電圧Vwb、VwrおよびVwgの変化を点線で示している。なお、実線は走査電極6に傾斜電圧を印加したときの維持電極7に対する走査電極6の相対電位Veを示している。青色の放電セルは放電開始電圧Vfbが高いため、図7に示すように赤色および緑色の放電セルよりも後に放電が開始するが、放電が停止するタイミングは三色の放電セルにおいて同じ(図6の時間t3)であるため、青色の放電セルの残留電圧Vgbは最も高く、Vgb≒Vfbとなる。同様に赤色および緑色の放電セルの残留電圧VgrおよびVggについてもVgr≒Vfr、Vgg≒Vfgとなる。走査電極6に印加する電圧を緩やかに下降させていったときも同様であって、赤色および緑色の放電セルの放電開始後、青色の放電セルの放電が開始するが、放電が停止するタイミングは三色の放電セルにおいて同じ(図6の時間t5)であるため、青色の放電セルの残留電圧Vgbは最も高く、Vgb≒Vfbとなる。同様に赤色および緑色の放電セルの残留電圧VgrおよびVggはVgr≒Vfr、Vgg≒Vfgとなる。
以上のことから、初期化期間が終了した時点で各色の放電セルの放電空間に加わっている電圧(これは残留電圧に一致する)は、その放電セルの放電開始電圧にほぼ一致していることがわかる。そこでアドレス期間に入るとき、図5に示すように時間t6において走査電極6の電位を一旦、バイアス電位VB(V)に引き上げることにより、誤放電の発生を防止している。その後、アドレス電極15に正極性のパルス(書き込み電圧)が印加されるタイミングに合わせて、走査電極6の電位を順次0(V)に戻すことにより、走査電極6に走査パルスを印加していく(書き込み動作)。このとき、誘電体層4に蓄積された壁電圧はそのまま保たれているので、走査電極6の電位を0(V)に戻すことによって、各放電セルにその放電セルの放電開始電圧にほぼ等しい電圧が加わることになる。よって、これに合わせて一定の値のパルスをアドレス電極15に印加することによって、各色の放電セルで同様に書き込み放電を開始することができる。
図8に本実施の形態のパネルを用いて、上記の書き込み動作時の書き込み放電を安定に行なうことができる書き込み電圧(完全点灯書き込み電圧)を測定した結果を示す。ここで、Vs=190(V)、Vc=450(V)、VB=100(V)、t5−t1=1(ms)、Vc/(t5−t3)=0.7(V/μs)とした。本実施の形態によれば、各色の放電セルの完全点灯書き込み電圧はほぼ同じ値となっているので、書き込み動作が各色の放電セルの間で均一となり、表示発光のちらつきや誤った書き込み動作の発生をなくすことができる。この結果、安定な書き込み動作(アドレス動作)ができることがわかる。
更に、図8からわかるように、本実施の形態のパネルにおいては各色の放電セルに書き込みを行なうために必要な最小電圧は40V未満であり、従来のパネルでは100V近くを要したのに比較して大幅に低減されており、書き込みパルス発生回路に低価格のICを用いることができる。
なお比較のため、従来のパネルのように、初期化期間において走査電極6にパルス電圧を印加して壁電荷を形成した場合の維持電極7に対する走査電極6の相対電位Veと壁電圧Vwの関係を図9(a)に示す。また、そのときの放電空間に流れる電流を図9(b)に示す。走査電極6に急峻に立ち上がるパルス電圧を印加すると、放電は瞬時に開始するとともに大きな電流が流れる。したがって、誘電体層4に蓄積される壁電圧Vwも急激に立ち上がり、放電空間に加わる電圧を減衰させ、放電電流はパルス的に流れて停止する。放電電流が停止した後も、空間には多数の荷電粒子が残留しているため、最終的には放電空間に加わる電圧Ve−Vwが0になるまで、壁電荷が形成される。
したがって、従来のパネルにおいて初期化期間に形成される壁電圧は、初期化パルスの大きさで決まる値となり、放電セルの放電開始電圧とは無関係となる。このため、図13に示したように、完全点灯書き込み電圧が各色の放電セルによって大きく相違することとなり、安定した書き込み動作を行なうためには、アドレス期間において要求される書き込み電圧(アドレス電圧)Vaを、各色の放電セルの放電開始電圧に合わせて変える必要がある。
本発明者らが種々のパネル設計値について実験した結果によると、初期化期間における傾斜電圧の勾配が10V/μs以下であれば、本実施の形態に示したような効果が確認された。このように初期化期間に緩やかに上昇または下降する電圧波形を印加することにより、本実施の形態の構成を持つパネルを安定に駆動することができる。
また、初期化期間における傾斜電圧の勾配の下限については0にならない限り安定なアドレス動作を得ることができるが、256階調表示をする場合1フィールドの時間は約16msであることから、傾斜電圧の勾配の実用範囲としては、0.5V/μs以上に限られる。
以上のように本実施の形態においては、白色表示の品質を向上するとともに、アドレス期間における書き込み電圧(アドレス電圧)を全ての色の放電セルに対して一定にしても安定した書き込み動作ができ、その結果安定した表示を実現するAC型プラズマディスプレイパネルを得ることができる。
次に、上記とは別の実施の形態を図10を用いて説明する。
本実施の形態に係るAC型プラズマディスプレイパネル(以下、単に「パネル」という)は、図4に示す上記の実施の形態のパネルと同じ構成をとる。本実施形態が上記の実施形態と異なるのは、初期化期間において走査電極6の電位を一定の値にまで急峻に引き上げた後、傾斜電圧を印加している点である。
図6からわかるように、時間t2で放電空間に加わる電圧Ve−Vwが放電開始電圧Vfに達し、放電が開始するとともに壁電圧が形成され始めている。即ち、放電が開始するまでの期間(時間t2に至るまでの時間)は冗長な時間となっている。そこで本実施の形態においては、図10に示すように、維持電極7に対する走査電極6の相対電位Veが放電開始電圧をわずかに下回る値にまで急峻に立ち上がるように、走査電極6に急峻な波形を有する電圧を印加し、その後緩やかな勾配を持った傾斜電圧を印加している。
この結果、初期化期間の時間は短縮され、維持期間に割り当てられる時間を増加することによって、発光の輝度を高めることが可能となる。
以上のように本実施の形態においては、白色表示の品質を向上するとともに、アドレス期間における書き込み電圧(アドレス電圧)を全ての色の放電セルに対して一定にしても安定した書き込み動作ができ、その結果安定した表示を実現でき、更に発光の輝度を高めたAC型プラズマディスプレイパネルを得ることができる。
以上の実施の形態では、青色の放電セルの幅を他の色の放電セルの幅よりも広げた場合について説明したが、得ようとする白色表示の色度によっては、上記実施の形態とは異なる比率で放電セルの幅を変化させてもよい。また、用いる蛍光体の特性によっても、放電セルの幅は上記実施の形態と異なるものにした方がよい場合がある。
また、以上の実施の形態では、初期化期間において、すべての走査電極に、維持電極およびアドレス電極に対して緩やかに上昇し、その後、緩やかに下降する傾斜部を有する電圧波形を印加した場合について説明したが、すべての維持電極に、走査電極およびアドレス電極に対して緩やかに上昇し、その後、緩やかに下降する傾斜部を有する電圧波形を印加した場合、または、すべてのアドレス電極に、走査電極および維持電極に対して緩やかに上昇し、その後、緩やかに下降する傾斜部を有する電圧波形を印加した場合でも、同様の効果を得ることができる。
さらに、初期化期間の電圧波形として、緩やかに上昇した後、下降する波形について説明したが、上記実施の形態とは異なる波形でも、初期化期間の最後での各放電セルの残留電圧Vgがそれぞれの放電セルの放電開始電圧Vfにほぼ一致するように傾斜電圧波形を設定することにより、同様の効果を得ることができる。
また、以上の実施の形態では、表面基板と背面基板との間に、帯状の隔壁が略平行に複数本配列されたパネルを例示したが、本発明のパネルはこのような構成に限定されない。例えば、略平行な帯状の複数の隔壁を縦方向及び横方向に交差するように(即ち、略格子状に)配置したパネルであっても良い。この場合、アドレス電極は縦方向又は横方向のいずれかの隔壁と略平行に形成され、維持電極及び走査電極は該アドレス電極と直交する方向に形成される。なお、この場合において放電セルの幅は、アドレス電極の幅方向と同方向の幅である。
以上に説明した実施の形態は、いずれもあくまでも本発明の技術的内容を明らかにする意図のものであって、本発明はこのような具体例にのみ限定して解釈されるものではなく、その発明の精神と請求の範囲に記載する範囲内でいろいろと変更して実施することができ、本発明を広義に解釈すべきである。