現在において、様々な分野で利用されているそれぞれの材料は、必ずしもその分野において最適な材料であるとは言い切れず、より優れた特性を有する新規材料を開発することが常に望まれている。従って、様々な企業や団体において、材料開発に関する研究及び検討が今でもなお鋭意に重ねられており、試行錯誤を繰り返しながら材料の改良及び開発が少しずつ段階的に進められている。
例えば、従来の材料開発においては、前記で説明したように、先ず専門の研究者が上記特許文献1のようなデータベース・システム等を利用して、そこから得られる情報や、自身の知識、経験、直感等に基づいて新規材料を予測する。その後、この予測した材料について様々な実験や検討を行うことにより、新規材料への可能性が検証されている。
しかしながら、上記のような研究者によって行われる新規材料に関する予測は、現象を支配している本質を直感的に把握して予見する演繹的推論であるものの、客観性や再現性に乏しいものである。特に、特許文献1のデータベース・システムを用いて得られる情報は、表示手段のテーブルに配列させる元素の順序をユーザーが任意に変更することで材料群の傾向や関連性を見出すため、ユーザー個人の資質によって情報の質が大きく左右されやすいという問題があった。
また、新規材料をより的確に見出すためには、様々な分野についての幅広い知識や経験が必要とされる。しかしながら、研究者が身に付けられる知識や経験には限度があり、各研究者に対して全てのものを期待することには無理がある。更に、研究者が材料開発を行う際の手助けとなるデータベースに関しても、全ての物質について物性に関するデータを完全に網羅したデータベースは現在のところ存在していない。従って、従来では、データベースに蓄積されてないデータに対して、各研究者が独自に研究や推論等を行って獲得していくことが多かった。
即ち、従来のような研究者の予測に基づいて行なわれる新規材料の開発は、個人の資質により左右されるところが大きく、新規材料の発見には偶然的な要素が必然的に含まれるという側面があるのは否めなかった。このため、従来のような個人の資質に依存する部分をできる限り排除することによって材料の開発を客観的に行い、新規材料を的確にまた効率的に見出すことが可能な材料開発システム及び材料開発方法の確立が強く望まれていた。
本発明は、かかる従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、コンピュータを用いて、膨大な数の物質の中から所望の特性を有する新規材料の構成物質を、所定のプロセスに従って客観的に且つ的確に探索することが可能な新規材料の構成物質情報探索システム及び情報探索方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明により提供される新規材料の構成物質情報探索システムは、基本的な構成として、コンピュータを用いて所望の特性を有する新規材料の構成物質を探索する探索システムであって、少なくとも1つのデータベースと、同データベースにアクセス可能なコンピュータとを有し、前記コンピュータは、物質に関する複数の物性パラメータを予め記憶した第1記憶部と、前記データベースにアクセスして、同データベースに蓄積されている全ての物質に対応する種々の実データを抽出する実データ抽出部と、前記実データ抽出部で抽出した実データを記憶する第2記憶部と、前記第2記憶部に記憶した実データを、前記第1記憶部に記憶されている前記複数の物性パラメータに対応させて整理し、前記データベースに蓄積されてないデータの存在を確認する未蓄積データ確認部と、前記未蓄積データ確認部で確認された前記未蓄積データに対して、前記第2記憶部に記憶した実データに基づいて演算を行うことにより仮想データを推定し、同推定した仮想データを前記第2記憶部に記憶させる仮想データ演算部と、前記第1記憶部に記憶されている複数の物性パラメータの中から1以上の特定の物性パラメータが特定されるパラメータ入力部と、前記パラメータ入力部で特定された物性パラメータを検索パラメータとして記憶する第3記憶部と、前記第3記憶部に記憶した前記検索パラメータの1つを1軸に設定し、且つ、同検索パラメータ以外の前記第1記憶部及び/又は前記第3記憶部に記憶されている前記複数の物性パラメータの一部をその他の軸に設定して、2次元平面又は3次元以上の空間を形成する座標軸設定部と、前記第2記憶部から、前記座標軸設定部で前記2次元平面又は3次元以上の空間の各軸に設定した前記検索パラメータと前記物性パラメータとにおける前記実データ及び前記仮想データを読み出すデータ読み出し部と、前記座標軸設定部により形成した2次元平面又は3次元以上の空間に、前記データ読み出し部で読み出した前記実データ及び前記仮想データをプロットして探索マップを作成するマップ作成部と、前記マップ作成部で作成した探索マップにおいて、前記プロットしたデータの分布状態に規則性を有するデータ群の中から、予め規定したルールに基づいて所定数の物質を抽出する物質抽出部と、及び、前記物質抽出部で抽出した物質を探索結果として表示する表示部とを備えてなることを最も主要な特徴とするものである。
本発明に係る新規材料の構成物質情報探索システムにおいて、前記仮想データ演算部は、前記第2記憶部に記憶した実データに基づいて多変量解析、論理式に基づく計算、第1原理計算の中の少なくとも1つを行うことにより、前記未蓄積データに対応する仮想データを推定することができる。
また、本発明の新規材料の構成物質情報探索システムにおいて、前記物質抽出部は、前記マップ作成部で作成した探索マップにおいて、前記プロットした各データ間の距離、各データ間の傾き、及び各データの位置座標の中の少なくとも1つに基づいて、前記データの分布状態に規則性を有するデータ群を特定することができる。
更に、本発明の探索システムにおいて、前記基本的な構成に加えて、前記コンピュータは、前記探索マップが複数作成されたときに、同作成した全ての探索マップについてデータの分布状態における規則性を判断し、規則性が最も表われている探索マップを選択するマップ選択部を更に備えていることが好ましく、前記座標軸設定部は、前記形成する2次元平面又は3次元以上の空間における前記その他の軸に設定する物性パラメータの少なくとも1つを変更して、物性パラメータの中から決定される座標軸の組み合せが異なる複数の2次元平面又は3次元以上の空間を形成し、前記データ読み出し部は、前記座標軸設定部で前記複数の2次元平面又は3次元以上の空間の軸として設定した前記検索パラメータと前記物性パラメータとにおける前記実データ及び前記仮想データを、前記第2記憶部から読み出し、前記マップ作成部は、前記座標軸設定部により形成した前記複数の2次元平面又は3次元以上の空間のそれぞれに、前記データ読み出し部で読み出した前記実データ及び前記仮想データをプロットして複数の前記探索マップを作成し、前記マップ選択部は、前記マップ作成部で作成した前記複数の探索マップから、規則性が最も表われている探索マップを選択し、前記物質抽出部は、前記マップ選択部で選択された探索マップにおいて、前記データの分布状態に規則性を有するデータ群の中から物質を抽出することができる。
更にまた、本発明において、前記基本的な構成に加えて、前記コンピュータは、前記第3記憶部に記憶した前記検索パラメータに基づいて、前記座標軸設定部で前記その他の軸に設定する物性パラメータを、前記第1記憶部に記憶されている前記複数の物性パラメータの中から決定するパラメータ決定部と、前記パラメータ決定部で決定した物性パラメータを記憶する第4記憶部とを更に備えていることが好ましく、前記第1記憶部は、前記複数の物性パラメータのそれぞれに対して定めた分類属性が予め記憶されており、前記パラメータ決定部は、前記検索パラメータが有する分類属性を前記第1記憶部で確認し、同確認された分類属性と同じ分類属性を有する物性パラメータを前記第1記憶部から全て読み出して前記その他の軸に設定する物性パラメータとして決定し、同決定した物性パラメータを前記第4記憶部に記憶し、前記座標軸設定部は、前記第4記憶部に記憶した物性パラメータを用いて、1以上の前記2次元平面又は3次元以上の空間を形成し、前記データ読み出し部は、前記座標軸設定部で前記1以上の2次元平面又は3次元以上の空間の軸として設定した前記検索パラメータと前記物性パラメータとにおける前記実データ及び前記仮想データを、前記第2記憶部から読み出し、前記マップ作成部は、前記座標軸設定部により形成した前記1以上の2次元平面又は3次元以上の空間に、前記データ読み出し部で読み出した前記実データ及び前記仮想データをプロットして1以上の前記探索マップを作成することができる。
また、本発明において、前記座標軸設定部は、前記パラメータ入力部で複数の物性パラメータが前記検索パラメータとして特定されたときに、同複数の検索パラメータをそれぞれ異なる軸に設定して、前記3次元以上の空間を形成することができる。
一方、前記座標軸設定部は、前記パラメータ入力部で複数の物性パラメータが前記検索パラメータとして特定されたときに、同複数の検索パラメータのそれぞれについて前記2次元平面又は3次元以上の空間を別々に形成し、前記前記マップ作成部は、前記複数の検索パラメータのそれぞれについて形成した前記2次元平面又は3次元以上の空間に、前記実データ及び前記仮想データをプロットして、前記複数の検索パラメータのそれぞれについて前記探索マップを別々に作成し、前記物質抽出部は、前記別々に作成された各探索マップからそれぞれ所定数の物質を抽出し、更に、前記複数の検索パラメータのそれぞれについて別々に抽出した所定数の物質を相互に比較して共通の物質を探して選出することもできる。
更にまた、本発明において、前記物質抽出部は、前記探索マップにおいてデータの分布状態に規則性を有するデータ群の中からから前記所定数の物質を抽出する際に、前記規則性を有するデータ群の分布状態が、データ群の密集状態である場合は、同密集しているデータ群の重心又は近似直線を演算又は推算し、同演算又は推算した重心又は近似直線からの距離が短い方からのデータに対応する所定数の物質を同定して抽出することが可能である。一方、前記規則性を有するデータ群の分布状態が、データ群が一直線上に存在している状態である場合は、同一直線上に存在しているデータ群における平均座標位置、又は前記一直線上に存在しているデータ群の度数分布で最大度数を示す位置を演算又は推算し、同演算又は推算した平均座標位置又は最大度数位置からの距離が短い方からのデータに対応する所定数の物質を同定して抽出することが可能である。
次に、本発明により提供される新規材料の構成物質情報探索方法は、基本的な構成として、コンピュータを用いて所望の特性を有する新規材料の構成物質を探索する探索方法であって、前記コンピュータの第1記憶部に予め記憶されている、物質に関する複数の物性パラメータの中から1以上の特定の物性パラメータが特定されるステップと、前記特定された物性パラメータを検索パラメータとして前記コンピュータの第3記憶部に記憶するステップと、前記コンピュータが少なくとも1つのデータベースにアクセスして、同データベースに蓄積されている全ての物質に対応する種々の実データを抽出するステップと、前記抽出した実データを前記コンピュータの第2記憶部に記憶するステップと、前記第2記憶部に記憶した実データを、前記第1記憶部に記憶されている前記複数の物性パラメータに対応させて整理し、前記データベースに蓄積されてないデータの存在を確認するステップと、前記確認された未蓄積データに対して、前記第2記憶部に記憶した実データに基づいて演算を行うことにより仮想データを推定するステップと、前記演算した仮想データを前記第2記憶部に記憶するステップと、前記第3記憶部に記憶した前記検索パラメータの1つを1軸に設定し、且つ、同検索パラメータ以外の前記第1記憶部及び/又は前記第3記憶部に記憶されている前記複数の物性パラメータの一部をその他の軸に設定して2次元平面又は3次元以上の空間を形成するステップと、前記第2記憶部から、前記2次元平面又は3次元以上の空間の各軸に設定した前記検索パラメータと前記物性パラメータとにおける前記実データ及び前記仮想データを読み出すステップと、前記形成した2次元平面又は3次元以上の空間に、前記第2記憶部から読み出した前記実データと前記仮想データとをプロットして探索マップを作成するステップと、前記作成した探索マップにおいて、前記プロットしたデータの分布状態に規則性を有するデータ群の中から予め規定したルールに基づいて所定数の物質を抽出するステップと、及び、前記抽出した物質を探索結果として前記コンピュータの表示部に表示するステップとを含むことを最も主要な特徴とするものである。
また、本発明に係る新規材料の構成物質情報探索方法においては、前記仮想データを推定するステップにおいて、前記第2記憶部に記憶した実データに基づいて多変量解析を行うことにより、前記未蓄積データに対応する仮想データを推定することができる。
本発明に係る新規材料の構成物質情報探索システムは、上記構成を備えていることにより、以下のようにして所望の特性を有する新規材料の構成物質を探索することができる。即ち、本発明における探索システムは、データベースとコンピュータとを有しており、コンピュータの第1記憶部には、物質の物性に関する複数の物性パラメータが予め記憶されている。
また、前記コンピュータは、実データ抽出部によりデータベースにアクセスして、データベースに蓄積されている全ての物質に対応する種々の実データを抽出し、この抽出した実データを第2記憶部に記憶することができる。また、未蓄積データ確認部により、第2記憶部に記憶した実データを物性パラメータに対応させて整理して、データベースに蓄積されてない未蓄積データの存在を確認する。更に、仮想データ演算部により、この確認された未蓄積データに対応する仮想データを、第2記憶部に記憶した実データに基づいて演算することにより推定し、この推定した仮想データを第2記憶部に記憶させることができる。
更に、前記コンピュータは、パラメータ入力部において、第1記憶部に記憶されている複数の物性パラメータの中から1以上の特定の物性パラメータがオペレータにより特定され、この特定された物性パラメータを検索パラメータとして第3記憶部に記憶することができる。
更にまた、前記コンピュータは、座標軸設定部により、検索パラメータと同検索パラメータ以外の1つ又は複数の物性パラメータとを軸とする2次元平面又は3次元以上の空間を形成し、データ読み出し部により、前記軸に設定した検索パラメータと1つ又は複数の物性パラメータとにおける実データ及び仮想データを読み出す。
続いて、前記コンピュータは、マップ作成部により、座標軸設定部により形成した2次元平面又は3次元以上の空間に、データ読み出し部で読み出した実データ及び仮想データをプロットすることにより、探索マップを作成することができる。そして、物質抽出部により、探索マップから所定数の物質を抽出して、その抽出した物質を探索結果として表示部に表示することができる。
このように、本発明の新規材料の構成物質情報探索システムによれば、パラメータ入力部で特定された物性パラメータ(検索パラメータ)と、データベースから抽出した物質に関する実データとを用いて所定のプロセスで処理を行うことにより、前記検索パラメータに基づいて探索された物質を表示部に表示することができる。即ち、本発明の探索システムは、所望の特性を有する材料に関する物性パラメータを検索パラメータとしてパラメータ入力部で指定すれば、膨大な数の物質の中から、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性の高い物質を客観的に且つ的確に探索することができる。
本発明の探索システムでは、前記仮想データ演算部が第2記憶部に記憶した実データに基づいて、多変量解析、論理式に基づく計算、第1原理計算の中の少なくとも1つを行うことによって、データベースに蓄積されてなかった未蓄積データ(未知のデータ)について仮想データを推定することができる。
多変量解析とは、複数の変数に関するデータに基づいて、データ間の相関関係を解析して有効な情報を見出す解析手法である。論理式とは、経験的に知られている計算式や公式等の関係式、非線形モデルに関する式等の各種数式や演算式である。また、第1原理計算とは、経験的なパラメータを用いずに、例えば量子力学の基本原理等から出発して現象を非経験的に記述して導き出す計算手法である。このような多変量解析、論理式に基づく計算、第1原理計算の中の少なくとも1つを行うことにより、複数の物性パラメータ間に存在する相関関係を利用して、データベースから得られた実データに基づいて未蓄積データに対応する仮想データを高精度に推定することができる。
また、本発明の探索システムは、物質抽出部により、マップ作成部で作成した探索マップにおいて、プロットした各データ間の距離、各データ間の傾き、及び各データの位置座標の中の少なくとも1つに基づいて、データの分布状態に規則性を有するデータ群を特定することができる。これにより、マップ作成部で作成した探索マップから、規則性を有するデータ群を高精度に特定することができる。
更に、本発明の探索システムは、座標軸設定部で、検索パラメータが設定される軸以外のその他の軸(以下、単に「その他の軸」と略記する)に設定する物性パラメータの少なくとも1つを変更して、物性パラメータの中から決定される座標軸の組み合せが異なる複数の2次元平面又は3次元以上の空間を形成することができる。これにより、マップ作成部で、探索マップにおけるその他の軸に設定する物性パラメータの組み合わせが互いに異なる複数の探索マップを作成することができる。
このとき、コンピュータは、作成された複数の探索マップの中から規則性が最も表われている探索マップをマップ選択部で選択し、この選択した探索マップから物質抽出部で物質を抽出することができる。このように複数の探索マップを作成し、規則性が最も表われている探索マップから物質を抽出することにより、様々な視点から最も適切な探索マップを選んで物質を抽出できるため、非常に的確な物質の探索を行うことが可能となる。
更にまた、本発明の探索システムは、パラメータ決定部により、第3記憶部に記憶した検索パラメータに基づいて、探索マップのその他の軸に設定することができる適切な物性パラメータを決定して第4記憶部に記憶することができる。これにより、所望する特性について有効と考えられる物性パラメータを用いて物質の探索を行うことが可能となるため、より的確な物質の探索を効率的に行うことができる。
また、本発明の探索システムは、複数の物性パラメータを検索パラメータとして特定して物質の探索を行うことができる。例えば、本発明では、オペレータにより検索パラメータとして複数の物性パラメータが特定されたときに、これらの複数の検索パラメータをそれぞれ別々の軸に設定することにより3次元以上の探索マップを作成して、物質の探索を行うことができる。これにより、所望の特性を有することが可能な材料の構成物質を、より確実に探索することができる。
また本発明では、例えば複数の検索パラメータが特定されたときに、これらの複数の検索パラメータのそれぞれについて別々に探索マップを作成する。更に、各検索パラメータで別々に作成した各探索マップから所定数の物質をそれぞれ抽出し、各検索パラメータで別々に抽出した所定数の物質を相互に比較して共通の物質を探して選出することもできる。これにより、より様々な角度から物質の探索を行うことができ、所望の特性を有することが可能な材料の構成物質を適切に絞り込むことができる。
更に、本発明の探索システムは、物質抽出部により探索マップから物質を抽出する際に、規則性を有するデータ群の分布状態に応じて物質を抽出する基準を変えて、探索マップから物質を非常に適切に抽出することができる。例えば、規則性を有するデータ群の分布状態が密集状態である場合は、この密集しているデータ群の重心又は近似直線を演算又は推定し、この演算又は推定した重心又は近似直線からの距離が短い方からのデータに対応する所定数の物質を同定して抽出することができる。
一方、例えば、規則性を有するデータ群の分布状態が一直線上に存在している状態である場合は、この一直線上に存在しているデータ群における平均座標位置、又は前記一直線上に存在しているデータ群の度数分布で最大度数を示す位置を演算又は推定し、この演算又は推定した平均座標位置又は最大度数位置からの距離が短い方からのデータに対応する所定数の物質を同定して抽出することができる。これにより、規則性を有するデータ群から物質の抽出を客観的に且つ的確に行うことができる。
次に、本発明に係る新規材料の構成物質情報探索方法は、先ず、コンピュータの第1記憶部に予め記憶されている複数の物性パラメータの中から特定の物性パラメータが特定されると、その特定された物性パラメータを検索パラメータとしてコンピュータの第3記憶部に記憶する。コンピュータは、検索パラメータを第3記憶部に記憶すると、データベースにアクセスして物質に対応する種々の実データを抽出して、第2記憶部に記憶する。
続いて、コンピュータは、第2記憶部に記憶した実データを、第1記憶部に記憶されている物性パラメータに対応させて整理し、データベースに蓄積されていなかった未蓄積データの存在を確認する。更に、この確認された未蓄積データに対して、前記実データに基づいて演算することにより仮想データを推定し、この推定した仮想データを第2記憶部に記憶する。
その後、第3記憶部に記憶した検索パラメータの1つを1軸に設定し、同検索パラメータ以外の物性パラメータをその他の軸に設定して2次元平面又は3次元以上の空間を形成する。また、この各軸に設定した検索パラメータと物性パラメータとにおける実データと仮想データを第2記憶部から読み出す。続いて、前記形成した2次元平面又は3次元以上の空間に実データと仮想データとをプロットすることにより探索マップを作成する。更に、作成した探索マップから所定数の物質を抽出し、抽出した物質を表示部に表示することができる。
即ち、本発明の探索方法によれば、複数の物性パラメータの中から選択された検索パラメータと、データベースから抽出した物質に対応する実データとを用いて所定のプロセスで処理を行うことにより、膨大な数の物質の中から、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性の高い物質を、客観的に且つ的確に探索することができる。
また、本発明の探索方法は、第2記憶部に記憶した実データに基づいて多変量解析を行うことによって、データベースに蓄積されていなかった未蓄積データに対応する仮想データを高精度に推定することができる。
以下、本発明における好適な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明では、主に無機分野において新規材料の構成物質を探索する場合を例に挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、有機や高分子といった様々な分野においても、所望の特性を有する新規材料の構成物質を探索することが可能である。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における新規材料の構成物質情報探索システムのハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。図1に示した新規材料の構成物質情報探索システム1(以下、単に「探索システム1」と略記する)は、物質に関する様々な実データがそれぞれ蓄積されたデータベース2a〜2dと、これらのデータベース2a〜2dにアクセス可能なコンピュータ3とを備えている。
本第1実施形態における探索システム1において、コンピュータ3がアクセス可能なデータベースは少なくとも1つ備えられていれば良いが、アクセス可能なデータベースの数が多くなる程、コンピュータ3は物質に関する質の高い様々な実データを抽出し、取得することができる。その結果、以下で説明するように物質の探索を行った際に、信頼性の高い探索結果を得ることが可能となる。
データベース2a〜2dには、例えば、現在までに行われてきた実験や研究に基づいて得られた物質に関する種々の実データ、即ち、物質における結晶構造、力学的特性、熱的特性、電気的特性、光学的特性、及び磁気的特性等の構造や物性に関する様々な実データが蓄積されている。また、これらのデータベース2a〜2dには、その他に、研究者、研究機関、研究年のような書誌的事項の情報なども蓄積することができる。
コンピュータ3は、上記のような物質に対応する種々の実データが蓄積されているデータベース2a〜2cにネットワーク4を通じてアクセスすることができる。また、例えば各種記録媒体に記憶されているデータベースや、コンピュータ3に外部接続されている外部記憶装置、及びコンピュータ3に組み込まれているソフトウェア等にデータベース2dが備えられている場合では、コンピュータ3は、ネットワーク4を介さずに、それらのデータベースに直接アクセスすることもできる。
なお、ネットワークを通じてアクセスできるデータベースの具体的な一例としては、「NIMS物質・材料データベース(URL=http://mits.nims.go.jp/)」等が知られている。また、データベースを備えたソフトウェアの具体的な一例としては、物質の性質に関するデータを格納した「Pauling File(CD−ROM)」等が知られている。
これらのデータベース2a〜2dにアクセスが可能なコンピュータ3は、例えば、CPU(中央処理装置)5、主記憶装置(メモリ)6、補助記憶装置7、入力装置8、出力装置9、ネットワークインターフェース10、及びシステムバス15を備えており、従来から一般的に用いられているコンピュータと同様の構成を有している。
前記CPU5は、コンピュータ3における各種の制御処理やデータの演算処理等を行うことができる。主記憶装置6は、RAMやROMにより構成されており、各種プログラムや各種データなどを記憶することができる。本第1実施形態においては、以下で説明するようなコンピュータ3が備える実データ抽出部、未蓄積データ確認部、仮想データ演算部、パラメータ入力部、座標軸設定部、データ読み出し部、マップ作成部、物質抽出部、マップ選択部、及びパラメータ決定部といった各種の情報処理手段が主記憶装置6に記憶されており、CPU5により実行されるように構成されている。
また、この主記憶装置6には、第1記憶部11、第2記憶部12、第3記憶部13、及び第4記憶部14の記憶領域が設けられている。この主記憶装置6に設けた第1記憶部11には、物質の物性に関する複数の物性パラメータが、例えば物性のカテゴリー毎に分類されて予め記憶されている。なお、この第1記憶部11に記憶する物性パラメータとしては、例えば、格子定数や密度等の結晶構造のパラメータ、強度や弾性率等の力学的特性のパラメータ、熱伝導率等の熱的特性のパラメータ、電気陰性度等の電気的特性のパラメータ、光吸収率等の光学的特性のパラメータ、透磁率等の磁気的特性のパラメータといった物質の構造や物性を表す様々なパラメータがある。
また、これら全ての物性パラメータには、それぞれに1以上の分類属性が定められている。例えば、結晶構造に関する物性パラメータについては分類属性「I」、力学的特性に関する物性パラメータについては分類属性「II」というように、それぞれの物性のカテゴリーに応じて分類属性を与えることができる。更に、異なるカテゴリー間で何らかの関係性が認められる物性パラメータ同士にも、同じ分類属性を設定することができる。
例を挙げて具体的に説明すると、例えば、パラメータaとパラメータbとが同じカテゴリー(例えば、力学的特性)に分類される場合は、それぞれに同じ種類の分類属性(例えば、分類属性「V」)を与える。一方、異なるカテゴリーに分類されるパラメータaとパラメータcとの間に一定の関係性が認められる場合は、それぞれに同じ分類属性(例えば、分類属性「VI」)を与えることができる。これにより、各物性パラメータは、1つ以上の分類属性が定められることになる(例えば、上記パラメータaには、分類属性V及びVIが定められる)。
このように各物性パラメータに対して1以上の分類属性を定めることにより、以下で詳しく説明するように、パラメータ入力部で物性パラメータが検索パラメータとして特定されたときに、この検索パラメータと同じ分類属性を有する物性パラメータを、検索パラメータ設定軸以外のその他の軸に設定する物性パラメータとして用いることができる。また、このように各物性パラメータに分類属性を定めることにより、物性パラメータに対して階層性を与えることができる。これにより、例えば下記の仮想データ演算部で、未蓄積データに対する仮想データを演算する際に、信頼性の高い仮想データを推定することができる。
更に、この第1記憶部11に記憶される物性パラメータ及び分類属性については、入力装置8を用いて後から追加設定できるように構成されている。即ち、技術の進歩に応じて、新たな物性パラメータが見出されたときや、各物性パラメータ間に新たな関係性が見出されたときには、入力装置8から追加設定することによって、新たな物性パラメータや新しい分類属性を第1記憶部11に記憶させることができる。
主記憶装置6の第2記憶部12は、コンピュータ3の実データ抽出部がデータベース2a〜dにアクセスして入手した全ての物質に対応する種々の実データを記憶することができる。また、第2記憶部12は、記憶した実データを、以下で説明する未蓄積データ確認部により、第1記憶部に記憶されている物性パラメータに対応させて整理できるように構成されている。これにより、第2記憶部12は、例えば図3(a)に示したように、実データ抽出部により抽出した実データa1〜a5,b3,b4,c1〜c5,d1〜d3,及びd5を、それぞれ物性パラメータa〜d毎に整理して記憶することができる。
更に、第2記憶部12は、以下で説明する仮想データ演算部により未蓄積データに対応する仮想データが推定されたときに、この仮想データを記憶することができるように構成されている。
主記憶装置6の第3記憶部13は、パラメータ入力部において第1記憶部11に記憶されている複数の物性パラメータの中から特定の物性パラメータが特定されたときに、その特定された物性パラメータを検索パラメータとして記憶できるように構成されている。この第3記憶部13に記憶した検索パラメータ(物性パラメータ)は、座標軸設定部で2次元平面又は3次元以上の空間を形成する際に読み出すことができる。
主記憶装置6の第4記憶部14は、下記で説明するパラメータ決定部により、2次元平面又は3次元以上の空間におけるその他の軸に設定することが決定された物性パラメータを記憶できるように構成されている。
更に、この主記憶装置6には、物性パラメータに関する様々な公式や関係式を記憶する第5記憶部(不図示)を備えることができる。例えば、この第5記憶部に、第1原理計算に関する関係式、様々な経験式、更に非線形モデル等に関する様々な計算式や理論を構築するための材料となる情報等を記憶させることができる。これにより、下記で説明するコンピュータ3の仮想データ演算部が演算を行う際に、この第5記憶部に記憶した様々な公式や関係式を利用することができる。このため、未蓄積データに対応する仮想データを高精度に推定することが可能となる。
前記コンピュータ3の入力装置8は、キーボードやマウスなどにより構成され、オペレータがこの入力装置8を操作することにより、コンピュータ3に対してプログラムやデータを入力することができる。前記コンピュータ3の出力装置9は、表示装置(ディスプレイ)や印刷装置(プリンタ)などにより構成されており、探索システム1によって最終的に探索された探索結果(探索された物質)をオペレータに対して表示することができる。
また、入力装置8及び出力装置9は、オペレータ(研究者)が検索パラメータとなる物性パラメータを入力する際に、複数の物性パラメータが出力装置9に表示され、オペレータが入力装置8を操作して、出力装置9に表示した物性パラメータの中から特定の物性パラメータを指定できるように構成されている。
更に、前記コンピュータ3の補助記憶装置7は、例えばハードディスクや光ディスク等で構成されており、各種プログラムや各種データなどを長期に渡り保存することができる。
次に、上記のような構成を有する本第1実施形態の探索システム1を用いて、所望の特性を有する物質を探索する方法について詳細に説明する。ここで、図2は、本第1実施形態における探索方法の一例を示すフローチャートである。なお、図2に示したフローチャートにおいて、ステップ1〜ステップ8は、それぞれS1〜S8として略記している。
先ず、コンピュータ3は、オペレータにより、複数の物性パラメータの中から特定の物性パラメータが検索パラメータとして特定される(ステップ1)。即ち、コンピュータ3は、パラメータ入力部により、複数の物性パラメータを第1記憶部11から全て読み出して出力装置9に表示する。オペレータは、出力装置9に表示された複数の物性パラメータの中から少なくとも1つの特定の物性パラメータを、キーボードやマウスといった入力装置9を操作して特定する。これにより、パラメータ入力部は、オペレータにより指定された物性パラメータが入力されて、この入力された物性パラメータを検索パラメータとして、第3記憶部13に記憶することができる。
このとき、オペレータにより指定される物性パラメータは、実際に向上させたい材料の特性に密接に関係する物性パラメータや、所望の特性を有する材料にとって重要であることが知られている、又は重要であると考えられる物性パラメータである。このような物性パラメータが検索パラメータとしてコンピュータ3に入力されることにより、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性の高い物質を探索することが可能となる。
また、このパラメータ入力部に入力される物性パラメータの数は任意であり、1つであっても複数であっても良く、探索対象となる材料に求められる特性に応じて適宜に変更することができる。なお、本第1実施形態においては、コンピュータ3に対して1つの物性パラメータが検索パラメータとして入力される場合について説明する。
ここで、所望する材料の特性に対して指定される検索パラメータについて、具体的な例を挙げて説明する。例えば、臨界温度の高い超伝導材料についての探索を行う場合であれば、電気的特性の物性パラメータの一つである「1原子あたりの価電子数」を検索パラメータとして入力することが考えられる。また、水素貯蔵量の多い水素吸蔵材料についての探索では、水素の溶解性に関係のあるパラメータ、即ち、「単位格子における原子の空間充填」に関する物性パラメータ、「電子状態」に関する物性パラメータ、及び「結晶構造の対称性」に関する物性パラメータの中の少なくとも1つの物性パラメータ、好ましくは3つの物性パラメータを入力することが考えられる。更にその他に、ばねに最適な材料の探索では「(強度)2/密度」の物性パラメータを入力することや、軽くて曲がりにくい材料の探索では「(ヤング率)1/2/密度」の物性パラメータを入力することが考えられる。
これらの具体例として挙げた物性パラメータは、それぞれの材料の特性(材料に対するニーズ)に関して重要であることが一般的に、又は経験的に知られているものである。またその他に、例えば実験等によって所望の特性について重要であることが確認された物性パラメータを検索パラメータとして入力することもできる。
また、コンピュータ3は、上記のような検索パラメータがパラメータ入力部で入力される際に、以下で説明するような物質抽出部で物質を抽出するときの物質の抽出個数をオペレータに求めて、オペレータが所望の数値を入力装置8から入力するように構成されている。
コンピュータ3は、上記のようにして特定の物性パラメータが入力されて検索パラメータとして第3記憶部に記憶した後、実データ抽出部により、データベース2a〜2dのそれぞれにアクセスして、データベース2a〜2dのそれぞれに蓄積されている全ての物質に対応する様々な実データを抽出する(ステップ2)。更に、コンピュータ3は、データベース2a〜2dから抽出した実データを主記憶装置6の第2記憶部12に記憶する(ステップ3)。このとき、コンピュータ3がアクセスするデータベースが多いほど、より多くの種類の実データを入手することができる。
次に、コンピュータ3は、未蓄積データ確認部により、第2記憶部に記憶した実データを、第1記憶部に記憶されている複数の物性パラメータに対応させて整理し、データベース2a〜2dに蓄積されていなかった未蓄積データの存在を確認する。また、仮想データ演算部により、未蓄積データ確認部で確認された未蓄積データに対して、第2記憶部に記憶した実データに基づいて段階的に演算を行なうことにより仮想データを推定する(ステップ4)。
ここで、コンピュータ3の未蓄積データ確認部と仮想データ演算部が行う作業について、図3を参照しながら概略的に説明する。例えば、コンピュータ3が前記実データ抽出部により、物質A〜Dについてa1〜a5,b3,b4,c1〜c5,d1〜d3,及びd5の実データを抽出して第2記憶部に記憶した場合について考える。
コンピュータ3の未蓄積データ確認部は、第2記憶部に記憶した上記実データを、図3(a)に示したように第1記憶部11に記憶されている物性パラメータa〜dに対応させて整理する。これにより、物性パラメータ毎に実データの有無を判別していくことにより、グレーに着色した欄の実データが存在しないことを確認することができる。このような存在しないことが確認されたデータは、現在までに行われた実験や研究において検証されてないデータであり、データベースに蓄積されてない未蓄積データ(未知のデータ)である。
この未蓄積データに対して、コンピュータ3の仮想データ演算部は、実データa1〜a5,b3,b4,c1〜c5,d1〜d3,及びd5に基づいて演算を行なうことにより仮想データを推定する。例えば図3(a)のように、b1,b2,b5に対応するデータが存在しなかった場合、仮想データ演算部は、先ず主記憶装置6に設けた前記第5記憶部(不図示)に予め記憶されている様々な公式や関係式(経験式)の中から、パラメータbに関して規定されている経験式を検索する。そして、第5記憶部にパラメータaとパラメータbに関する経験式が記憶されていたとき、検査部は、この経験式を用いることにより、パラメータaの実データa1,a2,a5に基づいて仮想データb1´,b2´,b5´を推定することができる。
次に、未蓄積データd4に対する仮想データd4´を推定する。このとき、例えば第5記憶部の中にパラメータdに関する経験式が何も記憶されてなかった場合、仮想データ演算部は多変量解析を行うことによって仮想データd4´の推定を行う。即ち、物質A〜Eについて実データ及び仮想データが揃っているパラメータa〜cの1つ以上を用いて、先ずパラメータdとの相関関係を求める。
例えば、パラメータa及びbを用いて、多変量解析の一つの手法である重回帰分析を行うことにより、パラメータdに関する重回帰式を演算する。これにより、パラメータa及びbについてのパラメータdとの相関関係を求めることができる。即ち、パラメータa及びbの変数をそれぞれXa及びXbと定義し、パラメータdのの変数をYdと定義したときに、「Ydの理論値=α0+Xa・α1+Xb・α2」及び「残渣=Yd−(Ydの理論値)」を演算する。そして、物質A〜Eについての「残渣」の2乗和Lを演算する。このとき、演算される2乗和Lは、α0、α1、α2の2次関数になるため、2乗和Lを最小にするα0、α1、α2の値を微分により演算して求める。その結果、重回帰式「Yd=α0+Xa・α1+Xb・α2」を決定することができる。
そして、この演算した重回帰式に基づいて、「α0+(a4の値)・α1+(b4の値)・α2」を演算することにより、仮想データd4´を推定することができる。なお、この場合、パラメータdとの相関関係を求める際に用いるパラメータとして、例えば第2記憶部に記憶した物性パラメータの分類属性を利用して、パラメータdと同じ分類属性を有する物性パラメータの中から相関比の高い物性パラメータを選択することが好ましい。
そして、上記のような演算により求めた仮想データb1´,b2´,b5´,及びd4´を第2記憶部12に記憶することにより、図3(b)に示すように、パラメータa〜dに関して全ての物質についてのデータ(実データ及び仮想データ)を揃えることができる。このように全てのデータを揃えることにより、今までは知られていなかった新規材料の構成物質を的確に探索することが可能となる。
なお、前記説明とは異なり、例えば第5記憶部の中にパラメータbに関する公式や関係式が何も記憶されておらず、一方パラメータdに関する関係式が記憶されていた場合であれば、先ずパラメータdについての関係式を利用して仮想データd4´を推定する。その後、実データ及び仮想データが揃っているパラメータa,c,dの1つ以上を用いて多変量解析や第1原理計算を行うことによって、仮想データb1´,b2´,b5´を推定することも可能である。
また、上記のように仮想データb1´,b2´,b5´,及びd4´を推定する際に、パラメータa〜dやその他のパラメータにおける実データに特異点を含む領域が存在することがある。この場合、例えば多変量解析に第1原理計算、経験式、非線形モデル等を組み合せて補完することにより、仮想データを推定することができる。実データに特異点を含む場合には、多変量解析又は経験式のみによって仮想データの推定を行うことは難しいことが多いが、前記第5記憶部に記憶した経験式、第1原理計算、非線形モデル等の理論構築材料を多変量解析と組み合せて適用することにより、仮想データを高精度に推定することが可能となる。
更に、この仮想データの推定を行う場合は、未確認データ確認部で確認された未蓄積データの全てについてそれぞれ仮想データを求めることが好ましいが、本実施形態では、これに限定されるものではない。例えば、実データの整備状況や理論構築材料の整備状況によっては、全ての未確認データについて仮想データを演算することが困難であることも考えられる。このため、未確認データに対応する仮想データを推定する際には、未確認データの80%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上について仮想データを推定できれば良い。
なお、より多くの未確認データに対して仮想データを推定するためには、例えば前記第5記憶部において第1原理計算に関する関係式、様々な経験式、更に非線形あてはめモデル等に関する様々な計算式や理論を構築するための材料をより多く揃えることが好ましい。また、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズム等を適用することによっても、より多くの未確認データに対して仮想データの推定をより高精度に行うことが可能となる。
このように各未蓄積データについて仮想データをそれぞれ推定した後、コンピュータ3は、座標軸設定部により、第3記憶部に記憶した検索パラメータを1軸に設定し、且つ、検索パラメータ以外の第1記憶部に記憶されている物性パラメータのうちの2つの物性パラメータをその他の2軸に設定して、3次元空間を形成する。次に、データ読み出し部により、3次元空間の軸に設定した検索パラメータ及び2つの物性パラメータにおける実データ及び仮想データを第2記憶部から読み出す。
その後、マップ作成部により、座標軸設定部で形成した3次元空間に、読み出した実データ及び仮想データをプロットして探索マップを作成する(ステップ5)。なお、本第1実施形態においては、上記のように3次元の探索マップを作成する場合について説明するが、例えば2次元の探索マップや4次元以上の高次元探索マップを作成することも可能である。
以下、探索マップの作成について、より具体的に説明すると、先ずコンピュータ3の座標軸設定部は、3次元空間を形成するために、3次元空間の1つの軸に、前記第3記憶部に記憶した検索パラメータ(例えば、パラメータa)を設定する。また、3次元空間におけるその他の2つの軸には、検索パラメータ(パラメータa)以外で第1記憶部11に記憶されている複数の物性パラメータの中から選択される2つの物性パラメータ(例えば、パラメータb及びc)をそれぞれ設定する。
このとき、検索パラメータ設定軸以外のその他の2軸に設定する物性パラメータは、コンピュータ3のパラメータ決定部により、以下のようにして決定することができる。即ち、パラメータ決定部は、検索パラメータが有する分類属性を第1記憶部11で確認し、この確認された検索パラメータと同じ分類属性を有する物性パラメータを第1記憶部11から全て読み出す。
例えば、検索パラメータ(パラメータa)の分類属性として「V」及び「VI」が第1記憶部11に記憶されていた場合、パラメータ決定部は、第1記憶部11から「V」又は「VI」の分類属性を有する全ての物性パラメータを読み出す。そして、この分類属性に基づいて読み出した物性パラメータを3次元空間における前記その他の2軸に設定するパラメータとして決定し、コンピュータ3の第4記憶部14に記憶する。
そして、座標軸設定部は、この第4記憶部14に記憶された物性パラメータの中から2つの物性パラメータ(パラメータb及びc)を読み出して、3次元空間におけるその他の2軸に設定する。これにより、検索パラメータ(パラメータa)と2つの物性パラメータ(パラメータb及びc)とをそれぞれ軸とする3次元空間を形成することができる。
なお、本第1実施形態においては、以下で説明するように、前記パラメータ決定部で分類属性に基づいて読み出して第4記憶部14に記憶した全ての物性パラメータについて、これらの中から決定される2つのパラメータの組み合わせの数の分だけ複数の探索マップを作成する。従って、座標軸設定部が、第4記憶部14に記憶した全ての物性パラメータの中から2つの物性パラメータを選択する順番等については、特に限定されない。また、本第1実施形態では、例えばパラメータ決定部によって3次元空間の軸となる物性パラメータの決定を行わずに、第1記憶部11に記憶されている検索パラメータ以外の全ての物性パラメータを、3次元空間におけるその他の2軸に設定するパラメータとして用いることも可能である。
座標軸設定部で3次元空間を形成した後、データ読み出し部により、3次元空間の軸に設定した検索パラメータ(パラメータa)及び2つの物性パラメータ(パラメータb及びc)における実データ及び仮想データを第2記憶部から読み出す。その後、マップ作成部により、パラメータa〜cをそれぞれ軸とする3次元空間に、第2記憶部から読み出したパラメータa〜cに対応する実データ及び仮想データをプロットする。これにより、例えば図4に示したような、それぞれの物質に対応するデータがプロットされた3次元の探索マップ(探索マップα)を作成することができる。
この作成された探索マップは、物性パラメータa〜cに関しての物質の性質の傾向を表すことができる。従って、プロットしたデータの分布状態に何らかの規則性が見出せれば、その規則性のあるデータに対応する物質の集合は、物性パラメータa〜cに関して特徴的な性質を有していると考えることができる。
また、コンピュータ3は、上記のように物性パラメータa〜cに関する探索マップを作成した後、検索パラメータの設定軸以外のその他の2軸に設定する物性パラメータの組み合わせを前記座標軸設定部で変更して、別の3次元空間を形成する。例えば、座標軸設定部は、第4記憶部14から2つの物性パラメータb及びdを読み出すことにより、検索パラメータaと、物性パラメータb及びdとをそれぞれ軸とする3次元空間を形成する。
そして、データ読み出し部により、検索パラメータa及び物性パラメータb及びdにおける実データ及び仮想データを第2記憶部から読み出した後、マップ作成部により、パラメータa,b,dを軸とする3次元空間に読み出した実データ及び仮想データをプロットする。これにより、前記探索マップαとは異なる新たな3次元の探索マップ(探索マップβ)を作成することができる。
そして、コンピュータ3は、前記座標軸設定部で3次元空間のその他の2軸に設定する物性パラメータの組み合わせを第4記憶部14に記憶した物性パラメータの中で順番に変更していく。これにより、マップ作成部は、第4記憶部14に記憶した物性パラメータの中から、その他の2軸に設定する物性パラメータの組み合わせが可能な数の分だけ、複数の3次元探索マップを作成することができる。このように物性パラメータの組み合わせを変更して複数の探索マップを作成することにより、検索パラメータとそれ以外の2つの物性パラメータとに対する物質の関連性を探ることができる。
このようにしてマップ作成部によって複数の探索マップを作成した後、コンピュータ3は、マップ選択部により、作成した全ての探索マップについてデータの分布状態における規則性を判断し、また所望する特性や探索マップの精度を勘案して、規則性が最も表われている探索マップ又は目的に合った探索マップを選択する(ステップ6)。
具体的に説明すると、マップ選択部は、作成した探索マップ毎に例えばクラスター分析を行うことにより、探索マップにプロットした各データ間の距離を全て分析して、各探索マップにおけるデータの密集具合を調べることができる。また、探索マップにプロットした各データ間の傾き及びデータの位置座標を分析することにより、データの配列具合を調べることができる。
そして、マップ選択部は、このように調べたデータの密集具合や配列具合に基づいてデータの分布状態における規則性を判断する。更に、作成した全ての探索マップの中から規則性が最も表われている探索マップ、例えば、より多くのデータがより狭い範囲の中で密集している探索マップ、又はより多くのデータが1つの直線上に配列している探索マップ等を選択する。このように探索マップにおけるデータの分布状態に規則性を判断することにより、探索マップの軸に設定した検索パラメータと2つの物性パラメータとに関して特徴的な性質を有する物質の集団(又は、理論的な解釈が可能な関係を有する物質の集団)を見出すことができる。
なお、所望する特性によっては、例えば具体的な条件を入力して探索マップの選択をマップ選択部に行わせることにより、目的にあった探索マップを選ぶことも可能である。また、必要に応じて、例えばマップ選択部で幾つかの探索マップを選択させた後に、これら選択した幾つかの探索マップを出力表示に表示して、オペレータがその中から任意の探索マップを選択できるように構成することも可能である。
上記のようにマップ選択部によって規則性が最も表われている探索マップを選択した後、コンピュータ3は、物質抽出部により、前記選択した探索マップにおいて規則性を有するデータの集まり(データ群)を特定し、その特定したデータ群の中から予め規定したルールに基づいて所定数の物質を抽出する(ステップ7)。このとき抽出する物質の個数は、前記入力装置8からオペレータにより前以て設定されている。
例えば、マップ選択部によって選択された探索マップが、図4に示すように、パラメータa〜cを軸とする探索マップ上のある一部の領域20において多くのデータが密集しているような規則性を有する場合、物質抽出部は、その領域に密集しているデータの集合体(データ群)を特定する。次に、物質抽出部は、この特定したデータ群の座標位置等からデータ群の重心又は近似直線を演算又は推算する。そして、その演算又は推算した重心又は近似直線からの距離が短い方から順番にデータを所定数だけ取り出し、その取り出したデータに対応する物質を同定して抽出する。
一方、物質選択部によって選択された探索マップが、例えば1つの直線上に多くのデータが配列している規則性を有する場合、物質抽出部は、その一直線上に存在しているデータの集合体(データ群)を特定する。次に、物質抽出部は、この特定したデータ群の座標位置等からデータ群の平均座標位置、又はデータ群の度数分布で最大度数を示す位置を演算又は推定する。そして、その演算又は推定した平均座標位置又は最大度数位置からの距離が短い方から順番にデータを所定数だけ取り出し、その取り出したデータに対応する物質を同定して抽出する。
このようにして規則性を有するデータ群から所定のルールに基づいて物質を抽出することにより、検索パラメータ及び2つの物性パラメータについて大きく関与する物質、即ち、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性が高い物質を探し出すことができる。
なお、コンピュータ3は、探索マップにおいて規則性を有するデータ群を特定する際に、マップ作成部で作成した探索マップを出力装置9に表示して、規則性を有するデータ群をオペレータに指定させることも可能である。これにより、オペレータは、入力装置8を操作することによって、出力装置9に表示された探索マップから規則性を有するデータ群を任意に指定することができる。そして、コンピュータ3の物質抽出部は、オペレータにより指定されたデータ群から、前記所定のルールに基づいて物質を抽出することが可能となる。
そして、コンピュータ3は、上記のようにして物質抽出部で抽出した所定数の物質を出力装置9に表示することにより、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性の高い物質をオペレータに対して探索結果として提供することができる(ステップ8)。
以上のように、本第1実施形態における新規材料の構成物質情報探索システムによれば、オペレータによって複数の物性パラメータの中から指定された特定の物性パラメータ(検索パラメータ)に基づいて、膨大な数の物質の中から、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性の高い物質を所定のプロセスに従って探索することができる。これにより、研究者の資質等に関わらず、客観的に且つ的確に新規材料の構成物質の候補を探索することができる。
また、本第1実施形態では、物質を探索する際に、前記のようにデータベースに蓄積されていない未蓄積データを演算により仮想データとして推定する。このため、従来では不可能であった様々な特性に対しての物質探索が可能となり、信頼性の高い探索結果を得ることができる。
更に、本第1実施形態においては、例えば前記ステップ4でコンピュータ3の仮想データ演算部で仮想データを推定して第2記憶部に記憶した後、コンピュータ3は、オペレータにより特定された検索パラメータに関係のある物質を判別し、第2記憶部12に記憶した全ての物質の中から、検索パラメータに関係のある複数の物質(物質群)を抽出することができる。そして、コンピュータ3は、前記ステップ5において、この検索パラメータに基づいて抽出した複数の物質に対応する実データ及び仮想データを第2記憶部12から読み出して、前記3次元空間にプロットすることにより探索マップを作成することができる。これにより、検索パラメータに関係のある物質群から物質の探索を行うことができるため、非常に適切に新規材料の構成物質の候補を探索することができる。
なお、このように本第1実施形態において探索された物質は、所望の特性を有する新規材料の構成物質としての可能性が高いことを示したに過ぎない。従って、これらの物質については、今後様々な実験や研究を行って、最適な製造条件や実用化の可能性等を検討することになる。更に、これらの実験や研究を通じて、探索された物質が単独で新規材料として使用できる可能性を検討したり、また、他の物質の添加や、他の物質との混合による組成物の形成を通じて新規材料の実用化への可能性を検討することができる。
また、本第1実施形態では、前記ステップ5において探索マップを作成する際に、3次元空間におけるその他の軸に設定する物性パラメータの組み合わせを変えて、複数の探索マップを作成する場合について説明している。しかし、本発明においては、例えば探索マップにおいて物性パラメータを設定する軸の本数を増減させることにより、2次元の探索マップ、又は3次元よりも高次元の探索マップを作成して、物質の探索を行うこともできる。
特に、前記ステップ5において、例えば座標軸設定部により、検索パラメータ及び前記第4記憶部14に記憶した物性パラメータの全てを各軸にそれぞれ設定して高次元空間を形成することもできる。そして、マップ作成部により、この高次元空間に実データ及び仮想データをプロットすることにより、高次元の探索マップを1枚作成することができる。
このようにマップ作成部によって1枚の高次元探索マップを作成した場合、マップ選択部による探索マップの選択処理(ステップ6)を行わずに、前記ステップ7において、高次元の探索マップから規則性を有するデータ群を直接特定して物質の抽出を行うことができる。
更に、本第1実施形態においては、前記ステップ1において、オペレータから入力装置8を通して1つの検索パラメータがコンピュータ3に入力された場合について説明している。しかし、本発明では、物質を探索する際に、オペレータが2つ以上の複数の検索パラメータをコンピュータ3に入力することもできる。例えば、オペレータから入力装置を通して2つの検索パラメータが入力された場合には、以下のようにして探索マップを作成して物質の探索が行われる。
即ち、前記ステップ5において、3次元探索マップを作成する際に、先ずパラメータ決定部は、オペレータから入力された2つの検索パラメータのそれぞれが有する分類属性を確認して、2つの検索パラメータと同じ分類属性を有する全ての物性パラメータを第1記憶部11から読み出して第4記憶部に記憶する。
次に、座標軸設定部は、オペレータから入力された2つの検索パラメータを3次元空間の2つの軸にそれぞれ設定し、その他の残る1つの軸に前記第4記憶部に記憶した物性パラメータの中の1つを設定する。そして、マップ作成部により、2つの検索パラメータと1つの物性パラメータで形成した3次元空間に実データ及び仮想データをプロットすることにより、3次元の探索マップを作成することができる。
そして、座標軸設定部で第4記憶部14から読み出す物性パラメータを変更していくことにより、マップ作成部で複数の3次元探索マップを作成することができる。その後、前記と同様にステップ6〜8を行うことによって、物質抽出部で抽出した物質を出力装置9に探索結果として表示することができる。
更にまた、前記ステップ1においてオペレータから3つ以上の検索パラメータが入力された場合には、例えば前記ステップ5において、座標軸設定部で4次元以上の空間を形成して、マップ作成部で4次元以上の探索マップを作成する。即ち、選択された3つ以上の検索パラメータのそれぞれが1つずつ軸に設定され、且つ、その他の少なくとも1つの軸に検索パラメータ以外の物性パラメータを設定することによって、探索マップを作成することができる。このように探索マップを作成することによっても、前記と同様に物質の探索を行うことができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態において、探索システムのハードウェア構成は、前記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。また、本第2実施形態においては、新規材料の構成物質の探索を行う際に、オペレータから入力装置8を介して2つの検索パラメータが選択され、その選択された各検索パラメータ毎に別々の探索マップを作成する場合について説明する。
この場合、各検索パラメータ毎にそれぞれ所定数の物質が物質抽出部で抽出される。その後、各検索パラメータ毎に抽出された物質を物質抽出部で相互に比較して、共通して存在する物質を探して選出することにより物質の探索を行うことができる。以下、本第2実施形態における新規材料の構成物質を探索する方法ついて詳細に説明する。ここで、図5は、本第2実施形態における探索方法の一例を示すフローチャートである。
本第2実施形態において、先ず、コンピュータ3は、パラメータ入力部により、オペレータから入力装置8を通して2つの検索パラメータ(例えば、パラメータe及びf)が特定されて入力される(ステップ11)。またこのときに、物質抽出部で物質を抽出するときの物質の抽出個数も入力される。
次に、コンピュータ3は、前記第1実施形態で説明したステップ2〜4(図2を参照)と同様の処理となるステップ12〜14を行うことにより、実データ抽出部で抽出した実データと、仮想データ演算部で推定した仮想データとを物性パラメータに対応させて第2記憶部12に記憶する。
その後、コンピュータ3は、座標軸設定部により、オペレータにより特定された2つの検索パラメータe及びfのそれぞれについて複数の3次元空間を形成する。次にデータ読み出し部で第2記憶部12から実データ及び仮想データを読み出した後、マップ作成部により、検索パラメータe及びfのそれぞれについて、複数の3次元探索マップを別々に作成する(ステップ15)。
より具体的に説明すると、先ず座標軸設定部は、オペレータにより特定された2つの検索パラメータe及びfのうちの一方の検索パラメータeについて3次元空間を作成するために、前記第1実施形態と同様に、この検索パラメータeを3次元空間の1つの軸に設定する。また、3次元空間における検索パラメータの設定軸以外のその他の2軸には、パラメータ決定部により決定されて第4記憶部14に記憶した物性パラメータ及び/又は第3記憶部13に記憶した物性パラメータ(即ち、検索パラメータf)の中から選択される2つの物性パラメータがそれぞれ設定される。
このとき、前記パラメータ決定部は、前記第1実施形態と同様にして、所定の物性パラメータを第4記憶部14に記憶することができる。即ち、パラメータ決定部は、先ず検索パラメータe及びfの分類属性を確認する。次に、検索パラメータe及びfと同じ分類属性を有する物性パラメータを第1記憶部11から全て読み出し、3次元空間におけるその他の2軸に設定する物性パラメータとして決定する。そして、この決定した全ての物性パラメータを第4記憶部14に記憶することができる。
前記座標軸設定部により、検索パラメータeと2つの物性パラメータとをそれぞれ軸とする3次元空間を形成した後、コンピュータ3は、データ読み出し部により、3次元空間の軸に設定した検索パラメータ及び2つの物性パラメータにおける実データ及び仮想データを第2記憶部から読み出す。その後、マップ作成部により、座標軸設定部で形成した3次元空間に実データ及び仮想データをプロットすることにより、3次元探索マップを作成することができる。
そして、コンピュータ3は、座標軸設定部で前記その他の2軸に設定する物性パラメータの組み合わせを順番に変更して複数の3次元空間を形成していき、また、マップ作成部で複数の3次元空間にそれぞれ実データ及び仮想データをプロットする。これにより、一方の検索パラメータeについて、検索パラメータeの設定軸以外のその他の2軸に設定する物性パラメータの組み合わせがそれぞれ異なる複数の3次元探索マップを作成することができる。
次に、コンピュータ3は、オペレータにより特定された2つの検索パラメータe及びfのうちの他方の検索パラメータfについても、前記一方の検索パラメータeのときと同様の処理を行うことにより、検索パラメータfの設定軸以外のその他の2軸に設定する物性パラメータの組み合わせがそれぞれ異なる複数の3次元探索マップを作成する。
このようにして2つの検索パラメータe及びfについて、複数の3次元探索マップをそれぞれ別々に作成した後、コンピュータ3はマップ選択部により、作成した全ての探索マップについてデータの分布状態における規則性を判断する。そして、2つの検索パラメータe,fのそれぞれについて、複数の3次元探索マップの中から規則性が最も表われている探索マップを1つずつ選択する(ステップ16)。
このとき、データの分布状態における規則性については、前記第1実施形態と同様に、データの密集具合や配列具合に基づいて判断を行う。これにより、複数の探索マップの中から規則性が最も表われている探索マップを、各検索パラメータのそれぞれについて選択することができる。
2つの検索パラメータe,fについて規則性が最も表われている探索マップをそれぞれ1つずつ選択した後、コンピュータ3は、物質抽出部により、各探索マップについて、前記第1実施形態と同様の方法で所定数の物質を同定して抽出する(ステップ17)。即ち、検索パラメータeについて、探索マップから所定数の物質が抽出され、また検索パラメータfについても、探索マップから所定数の物質が抽出される。
その後、物質抽出部は、2つの検索パラメータe,fでそれぞれ抽出された所定数の物質を相互に比較して、両方に共通して存在する物質を選出する(ステップ18)。そして、コンピュータ3は、この物質抽出部で選出した共通の物質を出力装置9に表示する。これにより、2つの検索パラメータに大きく関与する物質、即ち、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性の高い物質を、オペレータに対して探索結果として提供することができる(ステップ19)。このとき、出力装置9に表示される物質の個数は、前記入力装置にオペレータが入力した所定数以下となる。
以上のように、本第2実施形態においても、オペレータによって選択された2つの検索パラメータに基づいて、膨大な数の物質の中から、所望の特性を有する新規材料の構成物質となる可能性の高い物質を所定のプロセスに従って探索することができる。これにより、研究者の資質等に関わらず、客観的に且つ的確に新規材料の構成物質の候補を探索することができる。
また、本第2実施形態では、上記のように2つの検索パラメータのそれぞれで別途に物質を抽出し、抽出した物質を相互に比較するため、様々な角度から物質の探索を行うことができ、所望の特性が得られる可能性の高い物質を適切に絞り込むことができる。
なお、本第2実施形態では、オペレータにより選択される検索パラメータを3つ以上にしても、前記ステップ15において各検索パラメータについて複数の探索マップをそれぞれ別々に作成して、その後前記ステップ16〜19を行うことができる。この場合、前記ステップ18において、3つ以上の検索パラメータのそれぞれで抽出された物質を相互に比較して、全ての検索パラメータについて共通して存在する物質を選出する。これにより、3つ以上の各検索パラメータが大きく関与する物質を客観的に且つ的確に探索することができる。
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。
本実施例では、図1に示した新規材料の構成物質情報探索システム1を用いて、新規の水素吸蔵材料の構成物質を探索する場合について説明する。
先ず、新規の水素吸蔵材料を開発するために、オペレータが入力装置8を操作して、コンピュータ3の出力装置8に表示されている複数の物性パラメータの中から特定の物性パラメータを特定する。これにより、コンピュータ3は、オペレータにより特定された物性パラメータを主記憶装置6の第3記憶部13に検索パラメータとして記憶することができる。
本実施例においては、水素吸蔵量が大きい水素吸蔵材料の構成物質の探索を行う。この水素吸蔵材料に関して、水素吸蔵量に大きな影響を与える因子としては、物質の電子状態、空間充填、対称性の3つのパラメータが考えられる。そこで、本実施例では、前記3つの因子のうちの物質の電子状態及び空間充填の2つについての物性パラメータを、検索パラメータとして指定した。
具体的には、物質の電子状態を示す物性パラメータとして「価電子数密度(単位格子における価電子数を格子体積で除算した値)」を、物質の空間充填を示す物性パラメータとして「1原子あたりの隙間の体積(単位格子の隙間の体積を構成元素数で除算した値)」を、それぞれ検索パラメータとしてコンピュータ3に入力した。またこのとき、物質抽出部で物質を抽出するときの物質の抽出個数として「35」を入力した。
コンピュータ3は、上記の「価電子数密度」及び「1原子あたりの隙間の体積」の2つの物性パラメータを検索パラメータとして第3記憶部13に記憶した後、実データ抽出部により、ネットワーク4を通じてデータベース2a〜2cにアクセスし、物質に対応する様々なデータを抽出して主記憶装置6の第2記憶部12に記憶した。また同時に、コンピュータ3に組み込まれているソフトウェアのデータベース2dからも、物質に関する様々なデータを入手して第2記憶部12に記憶した。
次に、コンピュータ3は、未蓄積データ確認部により、第2記憶部12に記憶した実データを整理して、データベース2a〜2dに蓄積されていなかった未蓄積データの存在を確認した。更に、コンピュータ3は、未蓄積データに対応する仮想データを仮想データ演算部で多変量解析による演算、及び多変量解析と第1計算原理、非線形モデルを組み合せた演算を行うことにより推定して第2記憶部12に記憶した。これにより、コンピュータ3の第2記憶部12の中に、第1記憶部11に記憶されていた全ての物性パラメータについて、実データ及び95%以上の未蓄積データに対応する仮想データを揃えることができた。
その後、コンピュータ3は、「価電子数密度」及び「1原子あたりの隙間の体積」の各検索パラメータについて、それぞれ複数の2次元の探索マップを別々に作成した。
即ち、先ずパラメータ決定部により、「価電子数密度」及び「1原子あたりの隙間の体積」の検索パラメータと同じ分類属性を有する物性パラメータを第1記憶部11から読み出し、この読み出した物性パラメータを第4記憶部14に記憶した。
次に、「価電子数密度」の検索パラメータについて探索マップを作成するために、コンピュータ3の座標軸設定部により、「価電子数密度」を1つの軸(x軸)に設定し、且つ、第4記憶部14に記憶した物性パラメータの中の1つをその他の軸(y軸)に設定して2次元平面を形成した。続いて、データ読み出し部により、「価電子数密度」及びy軸に設定した物性パラメータにおける実データ及び仮想データを第2記憶部から読み出した。更に、マップ作成部により、座標軸設定部で形成した2次元平面に、データ読み出し部で読み出した実データ及び仮想データをプロットすることにより、2次元の探索マップを作成した。
そして、座標軸設定部により、y軸に設定する物性パラメータを第4記憶部14に記憶した物性パラメータの中から変更して複数の2次元平面を形成した。また、マップ作成部により、複数の2次元平面のそれぞれにデータ読み出し部で読み出した実データ及び仮想データをプロットした。これにより、「価電子数密度」について、y軸に設定する物性パラメータがそれぞれ異なる複数の2次元の探索マップを作成した。
続いて、コンピュータ3は、マップ選択部により、「価電子数密度」について作成した全ての2次元探索マップに対してデータの分布状態における規則性を判断し、規則性が最も表われている探索マップを選択した。その結果、マップ選択部によって図6に示すような探索マップ、即ち、x軸に「価電子数密度」が設定され、y軸に「平均電気陰性度」が設定された探索マップが選択された。
この選択された探索マップは、図6から明らかなように、探索マップの略中央部分と左側部分とに、それぞれデータが密集した状態のデータ群が形成されていることが確認できる。なお、この図6においては、プロットしたデータに対応する物質の結晶構造を判別し易くするために、結晶構造毎にそれぞれ異なるマークでデータのプロットを行った。また、水素吸蔵材料として現在一般的に知られている物質については、大きな「●」の記号でプロットした。
図6の探索マップが選択された後、コンピュータ3は、物質抽出部により、探索マップの略中央部分で密集しているデータ群を特定し、この特定したデータ群の近似直線を演算した。更に、特定したデータ群の中から、演算した近似直線からの距離が短い方からのデータを35個判別し、その判別したデータにそれぞれ対応する物質を抽出した。この「価電子数密度」の検索パラメータに関して抽出した35個の物質は、主記憶装置6に記憶した。
なお、本実施例におけるコンピュータ3の物質抽出部は、探索マップの略中央部分で密集しているデータ群を特定したが、例えば物質抽出部においてデータ群を特定するときの基準を変更することにより、探索マップの左側部分密集しているデータ群を特定して、このデータ群から物質を抽出することも可能である。また、例えば探索マップの略中央部分及び左側部分の両方のデータ群を特定し、例えばポートフォリオ等の機能を利用することにより、オペレータの要求に応じて、それぞれのデータ群から所定の割合で物質を抽出することも可能である。
次に、コンピュータ3は、「1原子あたりの隙間の体積」の検索パラメータについて探索マップを作成するために、座標軸設定部により、x軸に「1原子あたりの隙間の体積」を設定し、且つ、y軸に第4記憶部14に記憶した物性パラメータの中の1つを設定して2次元平面を形成した。続いて、データ読み出し部により、「1原子あたりの隙間の体積」及びy軸に設定した物性パラメータにおける実データ及び仮想データを第2記憶部から読み出した。更に、マップ作成部により、座標軸設定部で形成した2次元平面に、データ読み出し部で読み出した実データ及び仮想データをプロットすることにより、2次元の探索マップを作成した。
そして、座標軸設定部により、y軸に設定する物性パラメータを変更して複数の2次元平面を形成し、また、マップ作成部により、複数の2次元平面のそれぞれにデータ読み出し部で読み出した実データ及び仮想データをプロットした。これにより、「価電子数密度」について、y軸に設定する物性パラメータがそれぞれ異なる複数の2次元の探索マップを作成した。
続いて、コンピュータ3は、マップ選択部により、「1原子あたりの隙間の体積」について作成した全ての2次元探索マップに対してデータの分布状態における規則性を判断し、規則性が最も表われている探索マップを選択した。その結果、マップ選択部により、図6に示すようなx軸に「1原子あたりの隙間の体積」が設定され、y軸に「隙間の体積」が設定された探索マップが選択された。なお、この図7の探索マップにおいても、結晶構造毎にそれぞれ異なるマークでデータのプロットを行い、また水素吸蔵材料として既知の物質については大きな「●」の記号でプロットを行った。
この図7に示した探索マップが選択された後、コンピュータ3は、物質抽出部により、データの個数が一番多く存在している一直線上のデータ群を特定した。次に、この特定したデータ群が形成する一直線上で度数分布を見たときに最大度数を示す位置(最大度数位置)を演算した。そして、特定したデータ群の中から、演算した最大度数位置からの距離が短い方からのデータを35個判別し、その判別したデータにそれぞれ対応する物質を抽出した。この「1原子あたりの隙間の体積」の検索パラメータに関して抽出した35個の物質は、主記憶装置6に記憶した。
上記のように「価電子数密度」及び「1原子あたりの隙間の体積」の各検索パラメータについて35個の物質をそれぞれ抽出した後、コンピュータ3は、物質抽出部により、各検索パラメータで抽出されたそれぞれの物質を相互に比較して、共通して存在する物質を選出した。そして、コンピュータ3は、この物質抽出部で選出した物質を出力装置9に探索結果として表示した。
この出力装置9に表示した物質、即ち、「価電子数密度」及び「1原子あたりの隙間の体積」の検索パラメータに基づいて探索された物質を確認したところ、探索された物質の中には水素吸蔵量が比較的多い水素吸蔵材料として従来から知られている「ZrV2」、「ZrCr2」といった物質が含まれていた。更にその他に、従来では水素吸蔵材料の構成物質としては全く認識されていなかった「HfV2」、「NpFe2」、「NpNi2」、「PuFe2」、及び「PuNi2」といった未知の物質も探索された。
以上の結果から、本発明の新規材料の構成物質情報探索システムは、探索された物質の中に従来から水素吸蔵材料の構成物質として知られているものが含まれていたことから、探索結果の確かさを証明することができた。更に、本発明の探索システムは、これらの既知物質の他に、従来では水素吸蔵材料の構成物質としては知られてなかった数種類の物質も探索することができた。これらの物質は、新規な水素吸蔵材料の構成物質としての十分な可能性を有している。
なお、本発明の探索システムで新たに探索された未知の物質は、水素吸蔵量の多い水素吸蔵材料の構成物質としての可能性が高いことを示しているに過ぎない。従って、これらの物質については、今後様々な実験や研究を行って、最適な製造条件や実用化の可能性等を検討することになる。