JP2006334642A - 鋼板接合部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 窒化処理を施した部材を備えいてしかも耐食性の高い鋼板接合部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 成形工程では、軟鋼板をプレス加工することによってアウターパネル2を形成する。窒化工程では、アウターパネル2に窒化処理を施して窒化層14を形成する。溶射工程では、窒化工程を経たアウターパネル2に金属溶射を行い、窒化層14の表面を金属被覆層15で覆う。加圧工程では、アウターパネル2のフランジ部12をスポット溶接ガン25の電極20で加圧し、窒化層14の空孔へ金属被覆層15の金属を押し込んで空孔から空気等を排出する。最後の接合工程では、アウターパネル2をレインフォースメント3等とスポット溶接により接合し、側部車体1を形成する。金属被覆層15で覆われた窒化層14の空孔に空気等は残存していないため、スポット溶接の際にブローホールは生じない。
【選択図】 図4
【解決手段】 成形工程では、軟鋼板をプレス加工することによってアウターパネル2を形成する。窒化工程では、アウターパネル2に窒化処理を施して窒化層14を形成する。溶射工程では、窒化工程を経たアウターパネル2に金属溶射を行い、窒化層14の表面を金属被覆層15で覆う。加圧工程では、アウターパネル2のフランジ部12をスポット溶接ガン25の電極20で加圧し、窒化層14の空孔へ金属被覆層15の金属を押し込んで空孔から空気等を排出する。最後の接合工程では、アウターパネル2をレインフォースメント3等とスポット溶接により接合し、側部車体1を形成する。金属被覆層15で覆われた窒化層14の空孔に空気等は残存していないため、スポット溶接の際にブローホールは生じない。
【選択図】 図4
Description
本発明は、鋼板を塑性加工して得られた部材を相手部材に接合することで構成される鋼板接合部材の製造方法に関するものである。
従来より、鋼の表面処理として窒化処理が知られている。鋼製の部材に窒化処理を施すと、部材の表面から窒素が浸透し、硬い窒化物の層(窒化層)が形成されて部材の強度が向上する。また、対象物の表面に溶融させた金属を噴きつける金属溶射という技術も知られている。対象物に金属溶射を施すと、対象物の表面に金属被覆層が形成される。
特許文献1には、レシプロエンジン用のバルブリフタについて、窒化処理や金属溶射を施すことが開示されている。具体的に、特許文献1に記載されたバルブリフタでは、アルミニウム合金製の円筒部と、この円筒部の一端を塞ぐ鉄鋼製の円板部とが溶接等によって接合されている。そして、特許文献1には、鉄鋼製の円板部に窒化処理を施すことや、鉄鋼製の円板部にアルミ溶射を施して円筒部との接合性を高めることが開示されている。
ところで、近年、軟鋼板をプレス加工した後に窒化処理を施し、最終的に高強度の成形部材を得る方法が提案されている。つまり、この方法では、引張強度が低くて変形しやすい軟鋼板をプレス加工で成形し、成形した後の部材に窒化処理を施すことでその強度を向上させている。このため、この方法によれば、高張力鋼板(いわゆるハイテン材)をプレス加工したのでは実現しにくい複雑な形状や厚さで、しかも高張力鋼板を用いた場合と同等の強度を持った成形部材が得られる。
特開平11−173113号公報
上述したように、鉄鋼製の部材に窒化処理を施すと、その部材の表面に窒化層が形成される。この窒化層では、その最表面に微細な空孔が多数形成されてしまう。そして、窒化処理を施した部材を例えば車両の車体部材等に用いると、部材表面の微細な空孔へ水が侵入して部材の腐食を招くおそれがある。空孔へ水等が侵入することに起因する腐食は、部材の表面から奥へ入り込んだ部分で生じるため、部材の強度に大きな影響を与える。このため、車体部材等のような水に濡れる可能性の高い用途に窒化処理した部材をそのまま使うことはできず、窒化処理した部材の用途が限定されてしまうという問題があった。
この問題に対しては、窒化処理した部材の表面を被膜で覆い、部材表面の空孔への水等の侵入を防ぐという対策も考えられる。被膜を形成する手法としては、例えば金属溶射が考えられる。部材に金属溶射を施すと、部材の表面に金属被覆層が形成される。
ところが、空孔の形成された窒化層の上に金属被覆層を形成すると、窒化層の空孔内に空気などが封じ込められた状態となる。このため、窒化と金属溶射を施した部材を他の部材と溶接する場合に、いわゆるブローホールが発生するおそれがあった。つまり、溶接の際に部材が温度上昇すると、窒化層の空孔内に閉じ込められた空気等が膨張し、膨張した空気等が金属被覆層を破って外部へ吹き出す際に金属被覆層に孔(ブローホール)ができてしまう。そして、金属被覆層にブローホールができると、このブローホールから侵入した水などが窒化層の空孔へ入り込むため、部材の腐食の原因になるという問題があった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、窒化処理を施した部材を備えてしかも耐食性の高い鋼板接合部材の製造方法を提供することにある。
第1の発明は、鋼板から成る成形部材を相手部材とスポット溶接して構成される鋼板接合部材の製造方法を対象としている。そして、鋼板を塑性加工して成形部材を形成する成形工程と、上記成形工程で得られた上記成形部材を窒化処理する窒化工程と、上記窒化工程を経た上記成形部材のうち少なくとも上記相手部材との合わせ面に金属を溶射して金属被覆層を形成する溶射工程と、上記窒化工程を経た上記成形部材のうちスポット溶接が予定される箇所を加圧して該成形部材の窒化層に形成された空孔へ上記金属被覆層の金属を押し込む加圧工程と、上記加圧工程で加圧した箇所において上記成形部材を相手部材とスポット溶接する接合工程とを備えるものである。
第1の発明では、窒化工程を経た成形部材に対して溶射工程が行われる。溶射工程を経た成形部材では、空孔の形成された窒化層が金属被覆層によって覆われた状態となっている。加圧工程は、溶射工程を経た成形部材に対して行われる。この加圧工程では、成形部材のうち接合工程でのスポット溶接が予定される箇所に対し、押圧力が加えられる。成形部材のうち加圧工程で加圧された部分では、金属被覆層が塑性変形し、金属被覆層を構成する金属が窒化層の空孔へ入り込む。つまり、成形部材のうち加圧工程で加圧された部分では、窒化層の空孔内に存在していた空気等が入り込んできた金属によって追い出され、窒化層の空孔が金属被覆層の金属によって埋められた状態となる。
この発明の接合工程では、成形部材のうち加圧工程で窒化層の空孔が埋められた箇所でスポット溶接が行われる。その際には成形部材が局所的に高温となるが、金属被覆層に覆われた窒化層の空孔からは既に空気等が追い出されているため、スポット溶接を行っても金属被覆層にブローホールが形成されることはない。
第2の発明は、第1の発明において、上記加圧工程では、スポット溶接ガンの電極で上記成形部材を上記相手部材と共に挟み込むことによって該成形部材を加圧し、該成形部材を加圧しながら上記電極間に上記接合工程でスポット溶接する際よりも低い電流を流すものである。
第2の発明において、加圧工程では、スポット溶接ガンを利用して成形部材が加圧される。その際、成形部材は相手部材と重ね合わされており、重なり合った成形部材と相手部材をスポット溶接ガンの電極が挟み込む。また、加圧工程では、成形部材と相手部材を挟み込む電極の間に電流が流される。その際に電極間へ流される電流は、成形部材を相手部材とスポット溶接する際に電極間へ流される電流よりも小さい値に設定される。
この発明の加圧工程において、成形部材と相手部材を挟み込むスポット溶接ガンの電極間に電流を流すと、発生したジュール熱によって金属被覆層の金属が融解して流動しやすくなる。このため、金属被覆層の金属が窒化層の空孔へ入り込みやすくなり、窒化層の空孔から空気等が確実に排出される。また、スポット溶接ガンの電極によって成形部材を相手部材へ押し付けた状態で金属被覆層の金属を融解させると、成形部材のうち加圧されている部分では、その外側へ融解した金属が押し出され、金属被覆層に覆われていた鋼板が相手部材と直に接する状態となる。このため、接合工程では、成形部材を構成する鋼板が相手部材と直に接する状態でスポット溶接が行われることとなり、成形部材と相手部材が強固に接合される。
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記加圧工程では、上記接合工程で用いる予定のスポット溶接ガンの電極により上記成形部材を上記相手部材と共に挟み込むことで該成形部材を加圧するものである。
第3の発明において、加圧工程では、接合工程で用いられるのと同じスポット溶接ガンを利用して成形部材の加圧が行われる。つまり、この発明では、接合工程を行うために必要なスポット溶接ガンを流用して加圧工程を行うようにしており、加圧工程を行う場合も製造設備を追加する必要はない。
第4の発明は、上記第1,第2又は第3の発明において、上記窒化工程では、上記成形部材の全体に対して窒化処理を施し、上記溶射工程では、上記成形部材における上記相手部材との合わせ面だけに金属被覆層を形成するものである。
第4の発明では、窒化工程では、成形部材の全体に窒化処理が施され、成形部材全体の強度が向上する。一方、溶射工程では、成形部材における相手部材との合わせ面だけを対象に加工が施される。ここで、成形部材における合わせ面以外の表面では、例えば塗料などによって被膜を形成することもでき、必ずしも金属溶射によって金属被覆層を形成することを要しない。そこで、この発明では、溶射工程における加工対象を必要最小限に制限し、加工時間の短縮や製造コストの低減を図っている。
第5の発明は、上記第1,第2,第3又は第4の発明において、製造対象の鋼板接合部材を車両の車体部材とするものである。
第5の発明において、本発明により製造される鋼板接合部材は、雨水などに晒される可能性が高い車体部材となっている。つまり、本発明により製造される耐食性の高い鋼板接合部材を利用して、信頼性の高い車体部材が得られる。
本発明では、接合工程に先立って加圧工程を行っており、成形部材の窒化層に形成された空孔から空気等を排出した後に成形部材を相手部材とスポット溶接している。このため、接合工程でスポット溶接される際に成形部材が局所的に高温となっても、その高温となった箇所で金属被覆層にブローホールが形成されるのを抑制することができる。そして、金属被覆層のブローホールから水などが侵入するのを防ぐことができ、鋼板接合部材の耐食性を確保できる。従って、本発明によれば、成形工程の後に窒化工程を行うことで複雑な形状の鋼板接合部材を容易に得ることができると共に、窒化層の空孔に起因する耐食性の低下を効果的に抑えることができ、耐食性の高い鋼板接合部材を容易に製造することが可能となる。
特に、上記第2の発明の加圧工程では、成形部材を加圧するだけでなく、電極間に電流を流すことで成形部材を加熱している。このため、成形部材のうち加圧された部分では、金属被覆層を融解させて成形部材の鋼板を相手部材と直に接触させることも可能である。従って、この発明によれば、成形部材と相手部材をスポット溶接する際に、金属被覆層による悪影響を抑えて成形部材と相手部材の接合強度を向上させることも可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、車両の側面部分を構成する側部車体1を製造する方法である。
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、車両の側面部分を構成する側部車体1を製造する方法である。
−側部車体の構造−
本実施形態の製造方法により製造される鋼板接合部材としての側部車体1について説明する。
本実施形態の製造方法により製造される鋼板接合部材としての側部車体1について説明する。
図1に示すように、側部車体1は、アウターパネル2と、レインフォースメント3と、インナーパネル4とを備えている。なお、図1ではインナーパネル4の図示を省略している。アウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4は、それぞれ鋼板をプレス成形したものであり、これら3つがスポット溶接により接合されて車体の側面部分を構成している。
図2に示すように、アウターパネル2の下部には、車体の外側(図2における左側)へ膨出したサイドシル部11が形成されている。また、アウターパネル2では、サイドシル部11の下端から下方へ延びるフランジ部12が形成されている。
図3に示すように、アウターパネル2の内側(同図における右側)にはレインフォースメント3が、レインフォースメント3の内側(同図における右側)にはインナーパネル4がそれぞれ配置される。アウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4は、これら3つが重なり合った箇所でスポット溶接によって接合されている。アウターパネル2では、フランジ部12の内側面(同図における右側面)が合わせ面13となっており、この合わせ面13がレインフォースメント3に接している。
−側部車体の製造方法−
側部車体1の製造方法について、図4〜図6を適宜参照しながら説明する。この製造方法では、成形工程と、窒化工程と、溶射工程と、加圧工程と、接合工程とが順に行われる(図4を参照)。
側部車体1の製造方法について、図4〜図6を適宜参照しながら説明する。この製造方法では、成形工程と、窒化工程と、溶射工程と、加圧工程と、接合工程とが順に行われる(図4を参照)。
成形工程では、軟鋼板をプレス成形することによって成形部材としてのアウターパネル2が形成される。アウターパネル2の素材となる軟鋼板は、その引張強度が例えば280MPa程度となっている。
窒化工程では、アウターパネル2の全体に対して窒化処理が施され、アウターパネル2全体の表面に窒化層14が形成される。アウターパネル2の引張強度は、窒化層14が形成されることによって例えば600MPa程度まで向上する。なお、窒化処理としては、処理時間が比較的短い軟窒化(例えばガス軟窒化や塩浴窒化など)を行うのが望ましいが、軟窒化以外を行ってもよい。
窒化工程で形成された窒化層14には、3〜4μm以下程度の微細な空孔16が多数形成される。図5に示すように、窒化層14では、一部の空孔16が窒化層14の最表面に開口した状態となっている。
溶射工程では、窒化工程を経たアウターパネル2に対して金属溶射が行われる。この溶射工程では、アウターパネル2のフランジ部12だけが金属溶射の対象となっており、フランジ部12の内側面、即ち合わせ面13に溶融した金属が噴きつけられる。溶射工程を経たアウターパネル2では、窒化層14の上に溶融金属が付着し、付着した金属が凝固して金属被覆層15を形成する。金属被覆層15の膜厚は、例えば50μm程度となっている。なお、この溶射工程ではガス溶射を行っているが、ガス溶射以外の手法で金属溶射を行ってもよい。また、この溶射工程では亜鉛(Zn)を溶射しているが、溶射する金属は亜鉛に限定されるものではなく、例えば亜鉛とアルミニウムの合金を溶射してもよい。
加圧工程では、アウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とが重ね合わされる(図4を参照)。この加圧工程に先立ち、レインフォースメント3やインナーパネル4は、例えば亜鉛メッキ鋼板などをプレス成形することによって形成される。この状態において、アウターパネル2は、その合わせ面13に形成された金属被覆層15がレインフォースメント3と接触する。そして、加圧工程では、重なり合ったアウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とがスポット溶接ガン25の電極20によって挟み込まれる。
加圧工程において、スポット溶接ガン25は、その電極20で挟み込んだアウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とを加圧する。その際の加圧力は、4kN前後(例えば3.92kN)に設定される。電極20からの加圧力を受けたアウターパネル2のフランジ部12では、僅かに塑性変形が生じる。そして、図6(B)に示すように、フランジ部12の窒化層14では、その空孔16内へ金属被覆層の金属(本実施形態では亜鉛)が入り込み、空孔16内から空気等が押し出される。つまり、この加圧工程では電極20によってフランジ部12を局所的に加圧しているため、この加圧されている部分の空孔16内に存在する空気等は、加圧力を受けていない部分へ排出されてゆく。
接合工程において、重なり合ったアウターパネル2は、相手部材であるレインフォースメント3やインナーパネル4とスポット溶接によって接合される。具体的に、この接合工程では、加圧工程でアウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とを挟み込んでいる電極20の間に7.5kA前後の電流が流され、発生したジュール熱によって上記3つの部材がスポット溶接される。その際、アウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とは、加圧工程から引き続き電極20で加圧されたままの状態となっており、その状態で電極20間への通電が行われる。
このように、加圧工程と接合工程では、同一のスポット溶接ガン25を用いてアウターパネル2等の加圧や溶接が行われる。
−実施形態1の効果−
本実施形態の製造方法では、加圧工程を行って窒化層14の空孔16から空気等を排出し、その後に接合工程を行っている。つまり、接合工程でレインフォースメント3等とスポット溶接されようとしているアウターパネル2では、金属被覆層15で覆われた窒化層14の空孔16から空気等が既に排出された状態となっている。このため、アウターパネル2のフランジ部12がスポット溶接される際に高温となっても、窒化層14の空孔16内の空気等が金属被覆層15を破って噴出することはなく、金属被覆層15にブローホールが生じるのを回避できる。
本実施形態の製造方法では、加圧工程を行って窒化層14の空孔16から空気等を排出し、その後に接合工程を行っている。つまり、接合工程でレインフォースメント3等とスポット溶接されようとしているアウターパネル2では、金属被覆層15で覆われた窒化層14の空孔16から空気等が既に排出された状態となっている。このため、アウターパネル2のフランジ部12がスポット溶接される際に高温となっても、窒化層14の空孔16内の空気等が金属被覆層15を破って噴出することはなく、金属被覆層15にブローホールが生じるのを回避できる。
このように、本実施形態の製造方法により製造された側部車体1では、雨水などに晒されることの多いアウターパネル2の下部にブローホールが形成されるのを防止でき、ブローホールから侵入した水による腐食を防ぐことができる。従って、この製造方法によれば、成形工程の後に窒化工程を行うことで複雑な形状のアウターパネル2を容易に得ることができると共に、窒化層14の空孔16に起因する耐食性の低下を効果的に抑えることができ、耐食性の高い側部車体1を容易に製造することが可能となる。
また、本実施形態の加圧工程では、接合工程で使用する予定のスポット溶接ガン25を流用してアウターパネル2の加圧を行っている。このため、加圧工程を行うための設備を追加する必要が無く、製造設備を複雑化させることなくブローホールの発生を回避できる。また、加圧工程と接合工程を1つのスポット溶接ガン25による一連の動作で行うことができ、側部車体1の製造に要する時間を殆ど延ばすことなくブローホールの発生を回避できる。
また、本実施形態の製造方法では、その溶射工程において、卑金属である亜鉛をアウターパネル2に溶射している。亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が高く、金属被覆層15が破れて鋼板が露出しても、金属被覆層15の亜鉛がイオン化して溶出することによって鋼板の腐食が回避される。このように、鉄よりもイオン化傾向の高い金属で金属被覆層15を形成すると、金属被覆層15による犠牲防食作用が得られる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態の製造方法は、上記実施形態1の製造方法において、加圧工程で電極20間への通電を行うようにしたものである。
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態の製造方法は、上記実施形態1の製造方法において、加圧工程で電極20間への通電を行うようにしたものである。
図7に示すように、本実施形態の製造方法では、成形工程と、窒化工程と、溶射工程と、加圧工程と、接合工程とが順に行われる。このうち、成形工程と窒化工程と溶射工程については、上記実施形態1と同様であるため、その説明を省略する。ここでは、本実施形態における加圧工程と接合工程について説明する。
加圧工程において、スポット溶接ガン25は、その電極20で挟み込んだアウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とを加圧する。その際の加圧力は、4kN前後(例えば3.92kN)に設定される。電極20からの加圧力を受けたアウターパネル2のフランジ部12では、僅かに塑性変形が生じる。そして、図8(B)に示すように、フランジ部12の窒化層14では、その空孔16内へ金属被覆層の金属が入り込み、空孔16内から空気等が押し出される。ここまでは上記実施形態1の場合と同様である。
本実施形態の加圧工程では、更にスポット溶接ガン25の電極20間で通電が行われる。その際、電極20間に流される電流は、溶接工程で流される電流(例えば7.5kA)よりも低い値(例えば5.0kA)に設定される。電極20間へ通電すると、発生したジュール熱によって金属被覆層の金属が融解して流動しやすくなる。このため、金属被覆層15の金属が窒化層14の空孔16へ入り込みやすくなり、窒化層14の空孔16から空気等が確実に排出される。また、この加圧工程では、アウターパネル2がレインフォースメント3へ押し付けられた状態となっており、この状態で金属被覆層15の金属が融解すると、加圧されている部分の外側へ融解した金属が排出される。このため、図8(C)に示すように、金属被覆層15に覆われていたアウターパネル2の鋼板がレインフォースメント3と直に接する状態となる。
続く接合工程では、加圧工程でアウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とを挟み込んでいる電極20の間に7.5kA前後の電流が流され、発生したジュール熱によって上記3つの部材がスポット溶接される。その際、アウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とは、加圧工程から引き続いて電極20で加圧されたままの状態となっており、その状態で電極20間への通電が行われる。
上述したように、この接合工程を開始する時点では、アウターパネル2の鋼板がレインフォースメント3と直に接する状態となっている(図8(C)を参照)。このため、スポット溶接を行う際の金属被覆層15の影響が最小限に抑えられ、アウターパネル2とレインフォースメント3の接合強度が充分に確保される。
本実施形態では、上記実施形態1の場合と同様に、加圧工程と接合工程を1つのスポット溶接ガン25を用いた一連の動作として行っている。この点について、図9を参照しながら説明する。
上述したように、加圧工程では、重なり合ったアウターパネル2とレインフォースメント3とインナーパネル4とを、スポット溶接ガン25の電極20で挟み込んで加圧する。そして、アウターパネル2等を加圧した状態のまま、電極20間での通電が開始される。電極20を流れる電流は、経過時間に比例して次第に増加してゆき、通電の開始時点から10サイクル(cyc.)経過後に5kAとなる。なお、1サイクルは1/60秒に相当する。その後、電極20間を流れる電流は、10サイクルの間に亘って5kAに保持される。そして、電極20間での通電を開始した時点から20サイクルが経過した時点で、加圧工程が終了する。
加圧工程が終了すると、それと同時に接合工程が開始される。つまり、接合工程は、加圧工程で電極20間への通電を開始した時点から20サイクルが経過した時点で開始される。
接合工程が開始されると、電極20を流れる電流が経過時間に比例して増大してゆき、接合工程の開始時点から2サイクル経過後に7.5kAに達する。その後、電極20間を流れる電流は、13サイクルの間に亘って7.5kAに保持される。接合工程の開始時点から15サイクルが経過すると、電極20を流れる電流が経過時間に比例して減少してゆく。電極20を流れる電流は、減少し始めてから15サイクル経過後に0(ゼロ)Aになる。つまり、その時点で電極20間での通電が終了し、それと同時に接合工程も終了する。
−実施形態2の効果−
本実施形態の製造方法によれば、上記実施形態1で得られる効果に加え、次のような効果が得られる。つまり、本実施形態の加圧工程では、アウターパネル2のフランジ部12を加圧するだけでなく、スポット溶接ガン25の電極20間に5.0kA前後の電流を流してフランジ部12を加熱している。このため、フランジ部12のうち電極20で加圧されている部分では、金属被覆層15の金属を融解させてアウターパネル2の鋼板をレインフォースメント3と直に接触させることができる。従って、本実施形態によれば、アウターパネル2とレインフォースメント3をスポット溶接する際に、金属被覆層15による悪影響を抑えてアウターパネル2とレインフォースメント3の接合強度を向上させることができる。
本実施形態の製造方法によれば、上記実施形態1で得られる効果に加え、次のような効果が得られる。つまり、本実施形態の加圧工程では、アウターパネル2のフランジ部12を加圧するだけでなく、スポット溶接ガン25の電極20間に5.0kA前後の電流を流してフランジ部12を加熱している。このため、フランジ部12のうち電極20で加圧されている部分では、金属被覆層15の金属を融解させてアウターパネル2の鋼板をレインフォースメント3と直に接触させることができる。従って、本実施形態によれば、アウターパネル2とレインフォースメント3をスポット溶接する際に、金属被覆層15による悪影響を抑えてアウターパネル2とレインフォースメント3の接合強度を向上させることができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態1及び2の製造方法において、成形工程から加圧工程までの各工程の対象は、アウターパネル2に限定される訳ではない。つまり、この製造方法では、レインフォースメント3やインナーパネル4を対象として、成形工程から加圧工程までの各工程を行ってもよい。つまり、成形工程では軟鋼板を塑性加工することによって成形部材としてのレインフォースメント3やインナーパネル4を形成し、成形工程で得られたレインフォースメント3やインナーパネル4を対象として窒化工程と溶射工程と加圧工程を順に行い、これらの工程を経たレインフォースメント3やインナーパネル4を接合工程でアウターパネル2と接合して側部車体1を形成してもよい。
上記実施形態1及び2の製造方法において、成形工程から加圧工程までの各工程の対象は、アウターパネル2に限定される訳ではない。つまり、この製造方法では、レインフォースメント3やインナーパネル4を対象として、成形工程から加圧工程までの各工程を行ってもよい。つまり、成形工程では軟鋼板を塑性加工することによって成形部材としてのレインフォースメント3やインナーパネル4を形成し、成形工程で得られたレインフォースメント3やインナーパネル4を対象として窒化工程と溶射工程と加圧工程を順に行い、これらの工程を経たレインフォースメント3やインナーパネル4を接合工程でアウターパネル2と接合して側部車体1を形成してもよい。
また、上記実施形態1及び2の製造方法において、成形工程で行われる塑性加工は板材を金型で挟み込むプレス加工に限定されるものではなく、例えば板材に液圧を作用させて塑性変形させる加工を行ってもよい。
また、上記実施形態1の加圧工程では、スポット溶接ガン25とは別の手段によってアウターパネル2の加圧を行ってもよい。つまり、上記実施形態1の加圧工程では、アウターパネル2のフランジ部12を単に加圧しているだけであり、上記実施形態2の加圧工程のようにフランジ部12をジュール熱で加熱している訳ではない。従って、この実施形態1の加圧工程では、例えば小型の油圧プレス等を用いてフランジ部12を加圧してもよい。
1 側部車体
2 アウターパネル
3 レインフォースメント
4 インナーパネル
13 合わせ面
14 窒化層
15 金属被覆層
16 空孔
20 電極
2 アウターパネル
3 レインフォースメント
4 インナーパネル
13 合わせ面
14 窒化層
15 金属被覆層
16 空孔
20 電極
Claims (5)
- 鋼板から成る成形部材を相手部材とスポット溶接して構成される鋼板接合部材の製造方法であって、
鋼板を塑性加工して成形部材を形成する成形工程と、
上記成形工程で得られた上記成形部材を窒化処理する窒化工程と、
上記窒化工程を経た上記成形部材のうち少なくとも上記相手部材との合わせ面に金属を溶射して金属被覆層を形成する溶射工程と、
上記窒化工程を経た上記成形部材のうちスポット溶接が予定される箇所を加圧して該成形部材の窒化層に形成された空孔へ上記金属被覆層の金属を押し込む加圧工程と、
上記加圧工程で加圧した箇所において上記成形部材を相手部材とスポット溶接する接合工程と
を備えていることを特徴とする鋼板接合部材の製造方法。 - 請求項1において、
上記加圧工程では、スポット溶接ガンの電極で上記成形部材を上記相手部材と共に挟み込むことによって該成形部材を加圧し、該成形部材を加圧しながら上記電極間に上記接合工程でスポット溶接する際よりも低い電流を流す
ことを特徴とする鋼板接合部材の製造方法。 - 請求項1又は2において、
上記加圧工程では、上記接合工程で用いる予定のスポット溶接ガンの電極により上記成形部材を上記相手部材と共に挟み込むことで該成形部材を加圧する
ことを特徴とする鋼板接合部材の製造方法。 - 請求項1,2又は3において、
上記窒化工程では、上記成形部材の全体に対して窒化処理を施し、
上記溶射工程では、上記成形部材における上記相手部材との合わせ面だけに金属被覆層を形成する
ことを特徴とする鋼板接合部材の製造方法。 - 請求項1,2,3又は4において、
製造対象の鋼板接合部材が車両の車体部材である
ことを特徴とする鋼板接合部材の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2005162952A JP2006334642A (ja) | 2005-06-02 | 2005-06-02 | 鋼板接合部材の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2005162952A JP2006334642A (ja) | 2005-06-02 | 2005-06-02 | 鋼板接合部材の製造方法 |
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JP2006334642A true JP2006334642A (ja) | 2006-12-14 |
Family
ID=37555623
Family Applications (1)
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JP2005162952A Pending JP2006334642A (ja) | 2005-06-02 | 2005-06-02 | 鋼板接合部材の製造方法 |
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JP (1) | JP2006334642A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2013188752A (ja) * | 2012-03-12 | 2013-09-26 | Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp | 重ね抵抗スポット溶接方法 |
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2005
- 2005-06-02 JP JP2005162952A patent/JP2006334642A/ja active Pending
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