JP2006104083A - 徐放性材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】 薬剤や美顔成分を徐放する材料を提供する。
【解決手段】 酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバからなる徐放性材料であって、前記中空ファイバの内部に作用物質を充填してあって、外部刺激によって前記作用物質が前記中空ファイバの外部へ放出することを特徴とする徐放性材料を提供する。光照射やpH変化といった外部刺激に応じて作用物質の放出を制御(コントロールドリリース)することができる。
【選択図】 図5

Description

作用物質を徐放することができる材料に関わる。細孔内に内包した作用物質の放出の制御(コントロールド・リリース)が可能な材料に関する。医薬品、化粧品、食品添加物、香料、農薬等の用途に適用可能な技術である。
徐放性材料とは、薬剤や化粧品の美顔成分、食品の栄養成分等作用物質を徐々に放出したり、制御して放出しうる材料のことを言う。例えば薬剤の場合、作用物質を徐々に放出することで薬効効果を長時間維持することができ、少ない薬の投与でも効果的に治療が可能となる。また、体内や血中で過度に薬効成分の濃度が上昇しないため、副作用を抑えることも可能となる。更に、病原部にピンポイントで薬効成分を働かせる技術(ドラッグデリバリーシステム)も提案されている。
徐放性材料として、高分子ミセルを利用した薬剤の徐放が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。分子の会合によってできたミセルの中心部となる親水部に薬剤を担持したものであるが、熱的、化学的安定性に欠け、ミセルを生成するために必要となる濃度の制約がある。
一方、安定な無機物質で構成される徐放性材料として、メソポーラスシリカを用いた薬剤の徐放が提案されている(例えば、特許文献1参照)。メソポーラスシリカは特定の細孔径を持つ複数の穴が存在しており、その穴に入りうる分子を運ぶことができる。しかしながら、メソポーラスシリカはSiO2を骨格とする物質のため、表面は強い固体酸性を示し、生体親和性に乏しい。また、メソポーラスシリカの粒径は少なくとも数百ミクロンの大きさとなるため、水や溶媒への分散が困難である。
一方、チタン系の酸化物は生体適合性が高く、薬剤や化粧品、食品等の徐放性材料として好適である。従来、チタン系の酸化物で特定の細孔径を持つ物質の合成は、出発原料が不安定のため困難とされてきたが、近年、水熱合成法による酸化チタンないしチタン酸の中空状ファイバの合成が報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献2参照)。
特開2002-173319号公報 特開平10-152323号公報 A. Harada, K. Kataoka, Science, 283, 65 (1999) L. M. Peng et al., Adv. Mater. 14, 1208 (2002)
分散が可能で作用物質のコントロールドリリースが可能な徐放性材料を提供する。
酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバからなる徐放性材料であって、前記中空ファイバの内部に作用物質を充填してあって、外部刺激によって前記作用物質が前記中空ファイバの外部へ放出することを特徴とする徐放性材料を提供する。
本発明に係る中空ファイバはナノ構造なので分散性が高い。また、外部刺激によって内包した作用物質の放出を制御(コントロールドリリース)することができる。
本発明に係る中空ファイバ状の徐放性材料は酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種である。これらの材料はいずれも、分散性が高く、無毒で生体適合性の高い材料として知られている。本発明に係る中空ファイバ状の徐放性材料が酸化チタンの場合、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、TiO2(B)が好適に使用できる。本発明に係る中空ファイバ状の徐放性材料がチタン酸塩の場合、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸や、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の多価チタン酸塩であっても構わない。
本発明に係る中空ファイバの内径(r)は、3nm〜8nmの範囲である。この大きさより小さい作用物質を中空ファイバの内部に内包することができる。
前記中空ファイバの内径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて直接観察しても良いし、BET法によって細孔径分布を測定しても構わない。また、本発明の徐放性材料はナノ構造のため、溶媒への分散が容易である。
本発明の中空ファイバ状の徐放性材料の内部には作用物質が充填してある。作用物質は光やpH変化等の外部刺激によって外部に放出することが可能である。作用物質として、例えば、薬剤、美顔成分、栄養剤、香料、農薬、肥料などを充填することが可能である。作用物質が中空ファイバの内部に内包されている場合、中空ファイバの長軸方向の両端が開口部となるため、作用物質が徐々に放出する徐放性を有し、また、外部刺激によって放出速度の制御(コントロールドリリース)が可能となる。また、作用物質は中空ファイバの内部に内包されていると、中空ファイバによるマスキング効果により作用物質の熱的化学的な変質を防止することができる。
作用物質として例えば、抗がん剤を充填する場合、フルオロウラシル、ゲムシタビン、メソトレキセート、 シクロホスファミド、塩酸ダウノルビシン、アドリアマイシン、塩酸イダルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、アクチノマイシン、ビンクリスチン、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、ネダプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、塩酸イリノテカン等から少なくとも一つが利用できる。また、ペニシリン系、マクロライド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系等の抗菌剤や、ラミブジン、ネルフィナビル、インジナビ、サキナビル、インターフェロン、アマンタジン、アシクロビル等のウイルス治療薬、そして、ニュープロレリン、ブセレリン、ゴセレリン、トリプトレリン、ナファレリン等のホルモン疾患治療薬、イブプロフェン等の鎮痛薬等から選択される少なくとも一つを充填しても構わない。
作用物質として例えば、美顔成分を充填する場合、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK等のビタミン類、アントシアニン、コラーゲン、ヒアルロン酸、カルコン誘導体等から選択される少なくとも一種を好適に使用することができる。
作用物質として例えば、経口用の栄養剤を充填する場合、ドコサエキサエン酸、エイサコペンタエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、月見草油、ボラージ油、レシチン、オクタコサノール、ローズマリー、セージ、γ-オリザノール、β-カロチン、パームカロチン、シソ油、キチン、キトサン、ローヤルゼリー、プロポリス、ギムヘマ、ヘム鉄等から選択される少なくとも一種を好適に使用することができる。
作用物質として例えば、香料を充填する場合、オレンジ、ライム、レモン、グレープフルーツなどの柑橘類精油や花精類、ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油などの植物精油のほか、コーラナッツ、コーヒー、ワニラ、ココア、紅茶、緑茶、香辛料、各種動植物由来のフレーバー等から選択される少なくとも一種を好適に使用することができる。
作用物質として例えば、農薬を充填する場合、各種の殺虫剤、昆忌避剤、殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、植物成長調整剤などから選択される少なくとも一種を好適に使用することができる。また、作用物質として例えば、肥料を使用する場合、硫安、硝案、硝酸ソーダ、硝酸石灰、硫酸カリ、塩化カリ、硫酸カリ苦土、可溶性等から選択される少なくとも一種を好適に使用することができる。
前記作用物質を外部に放出させるための外部刺激として、前記中空ファイバの励起をともなう光照射が好適に使用できる。更に好ましくは、前記作用物質は中空ファイバの内壁に脱水縮合で結合している。本発明に係る中空ファイバには光触媒活性があるため、紫外線を照射することにより、表面で酸化、還元反応が生じる。これらの反応によって、中空ファイバと作用物質の間の結合を分解し、作用物質を外部に放出させることが可能となる。前記光照射をおこなうための光源として、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光、太陽光等が好適に使用できる。
前記中空ファイバの内壁に脱水縮合で結合している作用物質として、好ましくは水酸基を有する分子を使用する。作用物質の水酸基は中空ファイバの水酸基と反応し、脱水縮合する。この結合は比較的弱いので、前記中空ファイバの励起をともなう光照射によって分断され、作用物質の水酸基が再生される形で外部に放出され、作用物質そのものが分解されにくい。
本発明の更に好ましい態様において、前記中空ファイバの内壁に脱水重縮合で結合している作用物質として、ジオール基を有する分子を使用する。これらの分子は水に溶かした場合は無色透明であるが、ジオール基に含まれる2個の水酸基の双方が中空ファイバと脱水重縮合すると、界面準位により着色する。つまり、結合していると着色し、脱離すると無色化するため、着色の度合いを作用物質が放出したかどうかを確認するためのインジケーターとして利用できる。また、ファンデーション(化粧品)としての応用を考えた場合、前記ジオール基を有する作用物質を結合させることで人肌に近い色合いを出すことができる。
前記ジオール基を有する分子として、例えば、カテコール、メチルカテコール、ターシャリーブチルカテコール等のカテコール類、ジハイドロキシシクロブテンジエン、アスコルビン酸、ドーパミン、アリザリン、ビナフタレンジオール等が好適に使用できる。
本発明に係る外部刺激の別の態様として、pHの変化によって作用物質を外部に放出させることができる。中空ファイバの表面は多くの酸化物や水酸化物と同様、酸性ではカチオン性、アルカリ性ではアニオン性となる。つまり、pHを変化させることで表面の電荷を変化させることができる。例えば、中空ファイバとして巻物状の層状のチタン酸の場合、等電点でのpHが5.5となるので、この値よりも低いpH領域ではカチオン性、高い領域ではアニオン性となる。作用物質が電荷を帯びていると、クーロン力によって、中空ファイバの表面との間に引力、ないし、斥力が働く。中空ファイバと作用物質の間に斥力が働くような状況にすれば、内部に充填してある作用物質を外部に放出することが可能となる。例えば、作用物質がカチオン性であれば、中空ファイバの表面をカチオン性にすることで作用物質を放出することが可能となる。一方、作用物質がアニオン性であれば、中空ファイバの表面をアニオン性にすることで作用物質を放出させることができる。
前記電荷を帯びた作用物質は粒子状であっても構わない。この際、粒子状物質の大きさは、中空ファイバの内径よりも小さいものを用いる。
特に好ましい態様においては、本発明の中空ファイバ状の徐放性材料は巻物状の層状のチタン酸で構成されている。前記巻物状の層状のチタン酸は、均一な細孔径を有しており、比表面積も大きく、無毒で生体適合性も高い。また、前記巻物状の層状のチタン酸は低コストで大量合成することが出来る。結晶性を高めて熱的化学的安定性を向上させるため、熱処理をしても構わない。熱処理温度としては、50℃〜600℃が好適である。
本発明の徐放性材料は、使用環境や作用物質の種類に応じ、前記中空ファイバの内壁と外壁の少なくともいずれか一方の表面に修飾分子を固定化しても良い。内壁と外壁に修飾する物質は同じであっても異なっていても構わない。本発明の好ましい態様において、前記修飾分子にはリンカー部と主鎖部が存在し、前記リンカー部と中空ファイバの表面が結合する。前記修飾分子を中空ファイバの外壁に結合することによって、使用環境における分散性を高めたり、がん細胞などの悪性組織に対する能動的ターゲッティング等として機能する。一方、作用物質と親和性の高い修飾分子を内壁に結合することで、作用物質を高密度に充填することが可能となる。つまり、外壁への修飾は使用環境との調和や能動的ターゲッティングの機能を発現し、内壁への修飾は作用物質の高密度充填を可能とする。本発明の更に好ましい態様においては、前記修飾分子のリンカー部と中空ファイバの表面は、共有結合、水素結合、イオン結合、配位結合からなる郡より選択される少なくとも一つの結合で固定化されている。単純な物理吸着で固定化されるよりも熱的、化学的な安定性が高い。修飾分子の結合は中空ファイバの表面の一部であっても全て覆ってもかまわない。本発明に係る修飾分子のリンカー部として、例えば、カルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、アセチルアセトン等のジケトン類、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド類、シロキサン類からなる郡より選択される少なくとも一つの官能基を使用することができる。これらの官能基と中空ファイバとの間の結合力は高い。
以下に、使用目的に応じた好適な修飾分子の主鎖部の一例を表1示す。
Figure 2006104083
例えば、本発明の徐放性材料を水中で使用する場合、前記修飾分子の主鎖部として、ポリカチオンやポリアニオンといったポリマーが使用できる。前記ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリアリルアミン、ポリアリルアルキルアンモニウム、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール等から選択される少なくとも一つのポリマー、ないし、これらのポリマーの共重合体を使用することができる。
一方、有機溶媒中で分散させたり、水中に浮かべて使用する場合、中空ファイバの外壁が疎水性となる様な修飾分子の結合が好ましい。つまり、前記修飾分子の主鎖部が疎水性となるような構造が望ましい。疎水性の高い主鎖部としては、アルキル、フッ素樹脂、芳香族系分子を含む物質が選択できる。より好ましくは、前記修飾分子として長鎖状のシランカップリング剤やアルキルアミンを用いる。こららの修飾分子は中空ファイバの表面に容易に、かつ、強固に結合することができる。シランカップリング剤を用いた場合、シランに修飾された親水部の官能基と中空ファイバの間で脱水中縮合が起き、共有結合で強く結合される。また、シランカップリング剤は光触媒活性によって分解されにくく、安定である。
一方、前記修飾分子の主鎖部を分解対象物質の能動的ターゲッティングとして機能させることができる。例えば、生体内のガン等の悪性組織を分解するため、細胞との親和性の高い主鎖部を選択すると、細胞内への中空ファイバの取り込みが容易となる。細胞との親和性の高い主鎖部としては、例えば、ポリエチレングリコール、キチン、キトサン等が挙げられる。
本発明の徐放性材料を化粧品として使用する場合、水落ちや汗落ちを防ぐために、前記修飾分子の主鎖部として両親媒性の分子を用いても構わない。両親媒性の分子は水とも油とも親和性が高いため、肌へのノリも良く、汗落ちしにくい。前記両親媒性の分子として、好ましくは、親水基と疎水基の双方を含んでなる。前記両親媒性の分子の親水基としては、カルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、アセチルアセトン等のジケトン類、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド類等から選択される少なくとも一つの選択できる。一方、前記両親媒性の分子の疎水基として、アルキル、フッ素樹脂、芳香族系分子等から選択される少なくとも一つの疎水基が好適に使用できる。
修飾分子を中空ファイバに結合する方法として、例えば、修飾分子を含む溶媒に中空ファイバを浸漬することで中空ファイバの表面に修飾分子を固定化することができる。結合を促進するため、加熱処理や酸、アルカリなどの化学処理をしてもかまわない。この際、前記修飾分子の分子長によって、内壁部と外壁部への双方、ないし、外壁部のみに結合することが可能となる。内壁と外壁の双方に長鎖の修飾分子を固定化する場合、前記修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)を前記中空ファイバの内径よりも小さく設計する。一般的に、修飾分子は極性を有するため、多くの界面活性剤と同様、中空ファイバの中ではミセルを形成し得る。中空ファイバの内部において、修飾分子の親水部が中空ファイバ側へ固定化され、疎水部が中空ファイバの中心に向かって配向する構造をとり、いわゆる「ロッドライクミセル」を形成する。このロッドライクミセルの径は修飾分子の長さ(R)の2倍(2R)に相当するため、内壁にミセルを形成させるためには、2Rの値が中空ファイバの内径よりも小さいことが望ましい。このように内径を設定することで、修飾分子を中空ファイバの内部まで結合させることが可能となる。例えば、中空ファイバの内径が3.5nmである場合、前記修飾分子の2Rは3.5nmよりも小さく設計する。
一方、前記修飾分子を中空ファイバの外壁のみに結合させる場合、前記修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)を前記中空ファイバの内径よりも大きく設計する。例えば、中空ファイバの内径が3.5nmである場合、前記修飾分子の2Rは3.5nmよりも大きく設計する。ミセル形成時の分子の大きさに相当する修飾分子の長さの2倍(2R)が中空ファイバの内径よりも大きいと、内壁にミセルを形成しにくくなり、外壁のみに修飾分子が結合する。
本発明に係る中空ファイバの内壁のみに修飾分子を結合させる方法として、前記修飾分子を内壁と外壁の双方に結合した後に、酸、アルカリ処理等の化学的処理や、アルゴンスパッタリング等のプラズマエッチングによって、外壁に結合した修飾分子のみを除去することができる。
また、前記修飾分子を中空ファイバに結合する別の方法として、例えば、CVD、PVD、真空蒸着、レーザーアブレーション、イオンプレーティング、スパッタ等から選択される少なくとも一つの乾式コーティング法を用いても構わない。
本発明に係る中空ファイバと修飾分子が化学結合しているかを検証するためには、FT-IRやNMR等の機器分析が好適に使用できる。例えば、前記修飾分子がアルキルアミンの場合、フリーのアミンイオンと中空ファイバに吸着させたアミンイオンのNH伸縮振動をFT-IRで測定すれば、化学結合したか否かが判定できる。フリーのアミンイオンにて3300cm-1付近に観察されるNH伸縮振動が、中空ファイバに化学結合すると低波数側にシフトする。また、化学結合の指標として中空ファイバのOH基の伸縮振動を観察しても構わない。中空ファイバのOH基に修飾分子が化学結合した場合、中空ファイバにもともと存在する化学吸着したOH基からの信号が消失する。
本発明の徐放性材料を可視光化させたり、表面の固体酸性度をあげて修飾分子との結合を高めるため、前記中空ファイバの酸素位置に酸素以外のアニオンが置換、または格子間に酸素以外のアニオンが割り込み、または粒界部に酸素以外のアニオンが配してあっても構わない。また、本発明の徐放性材料の光照射時の電荷分離を促進させるため、前記中空ファイバにPt, Pd, Ag, Cu, Au, Ni等の金属を担持させてもよい。前記金属を担持することによって光励起した電子正孔対が効率的に分離し、親水化活性、酸化分解活性が増大する。また、特にAgやCuを担持した場合、抗菌性も発揮する。
本発明の徐放性材料は、水や有機溶媒、油脂等に分散させても良いし、基材に担持して使用しても構わない。本発明の徐放性材料は驚くべきことに、光の照射やpHの変化といった刺激によって、内部に充填された作用物質を制御して放出することができる。本発明の材料はドラッグデリバリー、化粧品、食品添加物などの分野に広く応用することができる。
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
1.サンプルの作製
1−1.中空ファイバの作製
酸化チタン粉末(商品名F6、昭和電工(株))0.64gを10M水酸化ナトリウム水溶液80mlに投入し、ガラス棒にて1分間攪拌することにより、白色懸濁液を得た。この白色懸濁液を100mlフッ素樹脂製容器に入れ、さらにステンレス製容器にこのフッ素樹脂製の容器を入れた。乾燥器の中にこのステンレス容器を入れて、110℃で20時間保持した。反応終了後、室温までステンレス容器を自然放冷させ、白色沈殿物を含む溶液を回収した。洗浄工程として、この白色沈殿物を含む溶液から、上澄み液をまずスポイトにて除去した。残った白色沈殿物に0.1M塩酸水溶液100mlを少量ずつ添加した。塩酸水溶液を全量添加後、室温(20℃)で3時間静置した。静置後、上澄み液を除去した。この洗浄工程を合計3回行い、上澄み液がpH7以下であることを確認した。これらの中和操作の後、残った白色沈殿物を蒸留水で2回洗浄することにより、白色粉末を得た。この白色粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、15万倍の倍率において、この方法で得られる白色粉末が中空ファイバの集合体であり、各ファイバの中心部は直径3.5nmの中空構造になっていることを確認した。また、XRD(マック・サイエンス製、MXP-18)で結晶構造を解析したところ、チタン酸構造であることがわかった。更に、比表面積/細孔分布測定装置(アサップ2000,マイクロメリティックス社製)を用いて解析したところ、細孔径分布については中空ファイバの内径3.5nmに相当する急峻なピークが観察され、比表面積は78m2/gであった。ここで得られた粉末を#1試料とする。
1−2.中空ファイバが担持された薄膜の作製
1−1記載の方法で作製した#1試料の粉末を2M硝酸水溶液64ml中に添加し、室温で15時間マグネティックスターラーによって攪拌した。攪拌後、得られた半透明溶液を遠心分離機(佐久間製作所(株) M200−IVD)により5000rpmで30分遠心分離することで、プロトンを付加した白色ゲルを得た。さらに、この白色ゲルを0.1Mの水酸化テトラブチルアンモニウムの水溶液に加え、室温で24時間マグネティックスターラーによって攪拌し、半透明な溶液を得た。更にこの溶液に100mmolの塩酸を加えpHが9.5になるように調整し、中空ファイバが分散した水溶液を作製した。基材として石英ガラス(東芝ガラス、T-4040)を用い、熱濃硫酸中で表面に付着した有機物を除去した後、純水で洗浄した。この基材をポリエチレンイミン(和光純薬工業、平均分子量:10000)の0.25wt%の水溶液に10分間浸漬した後、純水で洗浄した。更に、前記中空ファイバを含む溶液中に10分間浸漬し、純水で洗浄した。また、更に、この基材を、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:Aldrich社製、平均分子量:100000- 200000)の2wt%水溶液に10分間浸漬し、純水で洗浄した。以後、中空ファイバを含む溶液とPDDA水溶液への浸漬と洗浄を繰り返し、中空ファイバの層が5層となるような薄膜を作製した。いずれも、最表面は中空ファイバが露出している。得られた薄膜に対し、紫外線照射によって層間のカチオン性ポリマーを除去した。紫外線照射は200Wの水銀-キセノンランプ(林時計工業製、LA-210UV)を用い、24時間照射した。得られた薄膜の断面を走査型電子顕微鏡(日立、S-4100)で観察したところ、膜厚は50nmであった。
2.中空ファイバのゼータ電位の測定
各種pHにおける中空ファイバのゼータ電位を電気泳動光散乱光度計(型名:ELS-6000、大塚電子製)によって測定した。1−2で作製した、中空ファイバが分散した水溶液1mgを200gの10mmol/Lの塩化ナトリウム水溶液に滴下し、pHの調節は10mmol/Lの塩酸および水酸化ナトリウムを使用した。
結果を図1に示す。ゼータ電位が0になるpHが等電点である。この結果、本発明の中空ファイバの等電点におけるpHは5.5となった。
3.pHによる作用物質(メチレンブルー)の放出
1−2で得られた薄膜(1.5cm×2.5cm)を1mMのメチレンブルー水溶液に室温で15時間浸漬した後、暗所で乾燥させた。この後、メチレンブルーが吸着した薄膜を5mLの各pHに調節した水中に暗所にて浸漬し、水中のメチレンブルーの濃度変化(660nmでの吸光度の変化)を分光光度計(島津製作所、UV-3150)を用いて測定した。pHは塩酸を用いて調整し、6.0(HCl添加無し)および、1.0(HCl添加)とした。
結果を図2に示す。この結果、低いpH(pH:1.0)の方がメチレンブルーの放出速度が早かった。pHが1.0では中空ファイバの表面はカチオン性となる。メチレンブルーは水中で溶解するとカチオン性となり、カチオン同士の反発により放出が促進されることがあきらかになった。
4.pHによる作用物質(イブプロフェン)の放出
1−2で得られた薄膜(1.5cm×2.5cm)を0.1wt%のイブプロフェン水溶液に室温で15時間浸漬した後、暗所で乾燥させた。この後、イブプロフェンが吸着した薄膜を5mLの各pHに調節した水中に暗所にて浸漬し、水中のイブプロフェンの濃度変化(220nmでの吸光度の変化)を分光光度計(島津製作所、UV-3150)を用いて測定した。pHは水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いて調整し、14.0(NaOH添加)、6.0(HCl添加無し)および、1.0(HCl添加)とした。
結果を図3に示す。この結果、イブプロフェンに関しては高いpHの方が放出速度が速かった。アルカリ性になると中空ファイバがアニオン性となる。イブプロフェンは水に溶解するとアニオン性となり、アニオン同士の反発により放出が促進されることがあきらかになった。
5.光照射による作用物質(ビナフタレンジオール、アスコルビン酸)の放出
1−2で得られた薄膜(1.5cm×2.5cm)を0.1Mのビナフタレンジオールおよびアスコルビン酸水溶液に、60℃で24時間浸漬した。この後、これらの薄膜を暗所にて5mLの純水中に浸漬し、水中のビナフタレンジオールおよびアスコルビン酸の濃度変化を分光光度計(島津製作所、UV-3150)を用いて測定した。この際、ビナフタレンジオールの濃度として波長276nmでの吸光度を観察し、アスコルビン酸の濃度として波長264nmでの吸光度を測定した。暗所にて所定時間が経過した後に、20Wのブラックライト(東芝)を用い、紫外線の照射をおこなった。紫外線照度は紫外線照度計(トプコン、UVR-2)を用い、500μW/cm2となるように照射した。
紫外線照射前後のアスコルビン酸の濃度変化を図4に、ビナフタレンジオールの濃度変化を図5に示す。この結果、紫外線の照射によってアスコルビン酸、ビナフタレンジオールの濃度が増加していることがあきらかになった。以上の結果から、ジオール基を有する分子を光照射によって放出できることが明らかになった。
6.修飾分子(アルキルアミン)の固定化
各種分子長のアルキルアミンイオン水溶液に前記粉末状の#1試料を添加した。アルキルアミンは、エチルアミン(炭素鎖C=2)、ヘキシルアミン(C=6)、オクチルアミン(C=8)、デシルアミン(C=10)、ドデシルアミン(C=12)の5種類とした。前記各種アルキルアミンの濃度はいずれも0.2mM、50mLの水溶液中に#1試料0.1gを添加し、室温、暗所にてスターラーで攪拌した。表面へ固定化量を測定するため、水溶液中に残存している各種アルキルアミンイオンの濃度をキャピラリー電気泳動システム(HP 3DCE、HEWLETT PACKARD)を用いて測定した。暗所にて結合させる時間は2時間とした。
アミンイオンの分子長の2倍値(2R)と固定化量の関係を図6に示す。アルキルアミンの分子の長さはdensity functional theory (DFT)を用いて計算した(Accelyl社、Dmol3)。この結果、2Rが3nmよりも小さい領域ではアルキルアミンの長さに応じて固定化量が増加した。アルキルアミンの分子長が長くなると分子の双極子が大きくなり、吸着力が増大する。一方、アルキルアミンの長さが3.0nmよりも長くなると、固定化量が減少することがわかった。2Rの値が中空ファイバの内径と同等になると、アルキルアミンの中空ファイバの内部への拡散が抑制される。2Rの値が中空ファイバの内径よりも大きいと、アルキルアミンは外壁のみに固定化することが示唆された。
7.修飾分子(シランカップリング剤)の固定化
粉末状の#1試料を、トルエンに溶解したオクタデシルトリエトキシシラン(アヅマックス、SIO6642.0)溶液中に投入した。オクタデシルトリエトキシシランの濃度は1w%、反応温度、反応時間は、60℃×一晩とした。この試料を水中に投入した場合の写真を図7に示す。未処理の中空ファイバ(#1)についても示した。この結果、シランカップリング剤を修飾した中空ファイバは水に浮かぶことがあきらかになった。修飾分子であるシランカップリング剤の分子長(R)の2倍(2R)は中空ファイバの内径(r)よりもは長いため、シランカップリング剤は中空ファイバの外壁に固定化される。外壁が疎水的になるため、粒子が水面に浮くようになる。
8.修飾分子と中空ファイバの間の化学結合の検証
#1試料(未処理の中空ファイバ)と5.のアルキルアミンの修飾の際に作製したデシルアミンを修飾した中空ファイバのFT-IRを装置(Nicholet、710)を用い測定した。比較のため、中空ファイバに吸着していない分子状のフリーのデシルアミンについても測定した。物理吸着水を除去するための前処理として、真空中で150℃の熱処理をおこなった。結果を図8に示す。この結果、フリーのデシルアミンで観察されたNH伸縮振動(3219 cm-1, 1649 cm-1)が中空ファイバに吸着すると低波数側(3219 cm-1, 1607 cm-1)にシフトし、ピークがブロード化した。このシフトは修飾分子末端のアミノ基と中空ファイバの間で水素結合がおこった結果、誘起される。更に、未処理の中空ファイバ(#1試料)に存在した化学吸着水のピーク(3660 cm-1)が修飾分子を結合させることによって消失した。これらの結果から、修飾分子の末端にあるアミノ基が中空ファイバの水酸基に水素結合で結合していることを示唆している。
本発明によれば、作用物質のコントロールドリリースが可能となる。本発明の徐放性材料は、ドラッグデリバリーシステム、化粧品、食品添加物へと応用が可能となる。
本発明の徐放性材料のゼータ電位を示す図 本発明に係る徐放性材料のメチレンブルー放出特性を示す図 本発明に係る徐放性材料のイブプロフェン放出特性を示す図 本発明に係る徐放性材料のアスコルビン酸放出特性を示す図 本発明に係る徐放性材料のビナフタレンジオール放出特性を示す図 本発明に係る修飾分子(アルキルアミン)の固定化量を示す図 本発明に係る修飾分子(シランカップリング剤)を固定化した徐放性材料の写真 本発明に係る修飾分子(アルキルアミン)を固定化した徐放性材料のFT-IRを示す図

Claims (11)

  1. 酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバからなる徐放性材料であって、前記中空ファイバの内部に作用物質を充填してあって、外部刺激によって前記作用物質が前記中空ファイバの外部へ放出することを特徴とする徐放性材料。
  2. 前記中空ファイバの内径(r)が3nm〜8nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の徐放性材料。
  3. 前記作用物質の大きさが前記中空ファイバの内径(r)よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし2に記載の徐放性材料。
  4. 前記外部刺激が中空ファイバの励起をともなう光照射であることを特徴とする請求項1〜3に記載の徐放性材料。
  5. 前記作用物質が、中空ファイバの内壁に脱水縮合で結合していることを特徴とする請求項1〜4に記載の徐放性材料。
  6. 前記作用物質が、水酸基を有することを特徴とする請求項1〜5に記載の徐放性材料。
  7. 前記作用物質が、ジオール基を有することを特徴とする請求項1〜6に記載の徐放性材料。
  8. 請求項1〜3に記載の徐放性材料であって、前記外部刺激がpHの変化であることを特徴とする請求項1〜3に記載の徐放性材料。
  9. 請求項8に記載の徐放性材料であって、前記作用物質が電荷をもつ分子または粒子であることを特徴とする請求項8に記載の徐放性材料。
  10. 前記中空ファイバが、巻物状の層状のチタン酸であることを特徴とする請求項1〜9に記載の徐放性材料。
  11. 前記中空ファイバの内壁と外壁の少なくともいずれか一方の表面に修飾分子が固定化してあって、前記修飾分子にはリンカー部と主鎖部が存在し、前記リンカー部と中空ファイバの表面が結合していることを特徴とする請求項1〜10に記載の徐放性材料。

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2009184973A (ja) * 2008-02-06 2009-08-20 Nec Corp カーボンナノホーンをキャリアとする抗菌剤徐放化製剤
JP2010536898A (ja) * 2007-08-29 2010-12-02 エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー 細長い中空体を含有する経皮治療システム

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