JP2005102558A - 神経幹細胞の増殖誘導法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 神経損傷又は神経機能不全疾患の移植治療等に最も重要である神経幹細胞をインビトロ、インビボで効率良く増殖誘導する方法を提供するものである。
【解決手段】 神経幹細胞を含む哺乳類神経組織を分離し、EGFやFGF等の成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、次いで神経幹細胞と、細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセット等の樹状細胞や、脾細胞、CD8陽性T細胞等の血球系細胞とを共培養するか、培養後の神経幹細胞をGM−CSFの存在下に培養するか、又は、培養後の神経幹細胞を樹状細胞の培養上清や血球系細胞の培養上清中で神経幹細胞を培養する。
【解決手段】 神経幹細胞を含む哺乳類神経組織を分離し、EGFやFGF等の成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、次いで神経幹細胞と、細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセット等の樹状細胞や、脾細胞、CD8陽性T細胞等の血球系細胞とを共培養するか、培養後の神経幹細胞をGM−CSFの存在下に培養するか、又は、培養後の神経幹細胞を樹状細胞の培養上清や血球系細胞の培養上清中で神経幹細胞を培養する。
Description
本発明は、多分化能を有する未分化な神経系の細胞である神経幹細胞の増殖誘導方法や、かかる増殖誘導方法により得られる神経幹細胞の利用や、神経幹細胞を増殖誘導するのに用いられる神経幹細胞の増殖誘導セットや、かかる神経幹細胞の増殖誘導セットの利用に関する。
脊髄損傷の多くは外傷性で、その原因は交通事故、スポーツ事故、労働災害などであるが、非外傷性のものとしては、炎症、出血、腫瘍、脊椎変形などが原因となっている。病態は、脊髄実質に出血、浮腫を基盤とした脊髄の挫滅と圧迫病変であり、損傷部位に対応する神経障害が生じる。主な臨床症状として、障害レベル以下に、不全あるいは完全運動及び知覚麻痺が出現し、また、頚髄損傷では、特有な合併症として呼吸麻痺と過高熱(または過低熱)がみられる。上記神経障害の改善、特に運動障害の改善は、寝たきり老人増加の防止やQOL(Quality of Life)の向上に直結しており、近年の平均寿命の延長とともにその重要性が高まりつつある。
上記脊髄損傷の治療法として行なわれているのは、物理的な圧迫や傷害を除去するための外科的手術と、受傷急性期の脊髄浮腫に対してのステロイド療法である(非特許文献1〜2)。ステロイド剤の中ではメチルプレドニゾロンの大量投与が脊髄損傷に伴う神経症状の改善に有効であると報告されている(非特許文献3)。しかしながら、ステロイド剤の大量投与は全身的副作用も強く発現し、コントロールが難しいことに加え、感染症を伴う脊髄損傷では感染防御機能低下をきたすという問題点があり、さらには現在ステロイド大量投与療法の有効性についてさえ議論されている。以上の様に現在まで、脊髄損傷に対する有効な治療薬はなく、新しい治療薬の開発が切望されている。
上記以外の脊髄損傷の治療方法として報告されているものは、インビトロで炎症関連サイトカインにより前処理された神経膠星状細胞を中枢神経系(CNS)中の損傷部位に、治療上有効な量を移植する方法(特表2000−503983号公報)や、同種の単核貪食細胞(単球、マクロファージ等)を、損傷または疾患部位に、あるいはその近傍の中枢神経系(CNS)に投与することにより、哺乳動物CNSにおける神経軸索再生を促進する方法(特許文献1、非特許文献4〜7、など)である。また、明確な機序は不明であるが、spinal cord homogenateによるvaccinationや髄鞘蛋白質であるmyelin basic proteinに特異的なT細胞を投与することにより、脊髄損傷後の運動維持の回復を促進させたとの報告もなされている(非特許文献8〜9)。
近年欧米では、中脳黒質のドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落するパーキンソン病に対して、胎児の脳細胞移植による臨床試験が行われた(非特許文献10〜11)。本治療法により、60歳未満の患者の運動能力が改善されることが明らかとなったが、この移植治療を一人のパーキンソン病患者に対して行うためには、5〜10体もの中絶胎児が必要とされる。
一方、1992年Weissらのグループによりニューロスフェア(neurosphere)法という神経幹細胞の選択的培養法が開発されたことにより、神経幹細胞の研究は大きな展開を迎えた(非特許文献12)。神経幹細胞を含む細胞群を、分裂促進因子を含む無血清培養液で培養するもので、神経幹細胞のみが増殖して細胞塊(ニューロスフェア)をなして浮遊する。さらにこの生起したニューロスフェアを一つ一つの細胞に分離してまた上記の無血清培養液で培養すると同様にニューロスフェアが形成される。またこのニューロスフェアを上記の無血清培養液から分裂促進因子を除いて培養すると分化が誘導され、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの3種の細胞ができることが知られている。
他方、樹状細胞(Dendritic Cell:DC)は造血幹細胞由来の樹枝状形態をとる細胞集団で、生体内に広く分布している。未成熟樹状細胞は、それぞれの組織に侵入したウイルスや細菌をはじめとする異物を認識して取り込み、リンパ系器官T細胞領域への移動の過程で消化分解してペプチドを生成し、MHC分子に結合させて細胞表面に提示することにより抗原特異的なT細胞を活性化して免疫応答を誘導する抗原提示細胞としての役割を担っている(非特許文献13〜14)。
樹状細胞は、その分布が広範であるものの各組織における密度が高くなかったために多数の細胞の調製は困難であった。しかしながら、未熟な前駆細胞の培養に分化増殖因子を添加することによりインビトロで多数の細胞が容易に調製可能になったことを受け、免疫賦活化剤として樹状細胞を利用することが検討され始めている(非特許文献15)。とりわけ、微弱な腫瘍免疫応答に対して樹状細胞に抗原をパルスすることにより特異的に免疫応答を増強しようとするものである。動物実験では、腫瘍由来のタンパク質や抗原ペプチドを提示した樹状細胞により特異的CD8+細胞障害性T細胞が誘導されることが示されており、ヒトでも同様に腫瘍由来のタンパク質や抗原ペプチドを樹状細胞とともに生体に戻すことにより腫瘍の減少あるいは消失が報告されている。
神経幹細胞は、分裂・増殖することができる自己複製能と同時に、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトという中枢神経系を構成する3種類の細胞に分化する能力、すなわち多分化能を有する未分化な神経系の細胞である(Temple S., Nature, 414, 2001)。近年極めて再生能力が低い成人脳においても神経幹細胞が存在することが明らかになり、さらにヒト神経幹細胞の分離、調製が可能になったことから、現在の再生医療研究において大変注目されている存在となっている。
最近、試験管内で増やした神経幹細胞をドーパミン作動性ニューロンへと分化誘導する方法が開発された。この方法により誘導された細胞をドナー細胞として移植することが可能になれば、多くの中絶胎児を必要とする現行の方法よりはるかに優れたパーキンソン病の治療法となることが期待され、またこのように今後、幹細胞生物学を駆使し、大量に調製された細胞を移植する治療が、さまざまな神経疾患に対して行われていくと思われる。本発明の課題は、このような移植治療に最も重要である神経幹細胞をインビトロ等で効率良く増殖誘導する方法を提供することにある。
成体の脊髄損傷では、内在性神経幹細胞が脊髄内に存在しながらも、ニューロン新生は抑制されており、アストロサイトの増生のみが起きるものと考えられている。単に神経幹細胞を損傷部位に導入したとしても、ニューロンを作らずにグリアだけを作ってしまい、病態の改善にはつながらないことが予想される。したがって、神経幹細胞の移植に加えて、ニューロンを作るための微少環境の整備が不可欠と考えられる。一方、生体防御機構の一つとして、T細胞を中心とする抗原特異的な免疫反応が存在するが、血液脳関門の存在、MHC抗原の極めて低い発現、リンパ組織の欠除などの理由から、中枢神経系は免疫系から隔絶された特殊な環境にある。そこで本発明者らは、免疫系が病変組織を排除して修復するという考えに基づき、損傷神経組織への免疫系の導入を試みた。具体的には、免疫系を調節するために最も重要な細胞である樹状細胞、また樹状細胞の誘導・増殖に重要なサイトカインである顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を損傷神経組織に投与することにより、内在性の神経幹細胞が増殖誘導されることや、また、樹状細胞との共培養によるインビトロでの神経幹細胞の増殖誘導が生起することを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、神経幹細胞を、樹状細胞、血球系細胞若しくはこれら細胞の培養上清、又は顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の少なくともいずれか一種と接触させることを特徴とする神経幹細胞の増殖誘導方法(請求項1)や、神経幹細胞を、樹状細胞、血球系細胞、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の少なくともいずれか一種と培養培地中で接触させることを特徴とする請求項1記載の神経幹細胞の増殖誘導方法(請求項2)や、神経幹細胞を含む哺乳類神経組織を分離し、成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、次いで神経幹細胞と樹状細胞及び/又は血球系細胞とを共培養することを特徴とする請求項2記載の神経幹細胞の増殖誘導方法(請求項3)や、神経幹細胞を含む哺乳類神経組織を分離し、成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、次いで樹状細胞の培養上清及び/又は血球系細胞の培養上清中で神経幹細胞を培養することを特徴とする請求項2記載の神経幹細胞の増殖誘導方法(請求項4)や、成長因子を含む培養培地が、少なくともEGF及び/又はFGFを含む培養培地であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導方法(請求項5)や、樹状細胞が、細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセット、又は該未成熟樹状細胞に由来する成熟樹状細胞サブセットであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導方法(請求項6)や、血球系細胞が、脾細胞、T細胞、単球、好中球、好酸球又は好塩基球であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導方法(請求項7)に関する。
また本発明は、樹状細胞、血球系細胞若しくはこれら細胞の培養上清、又は顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の少なくともいずれか一種を備えていることを特徴とする神経幹細胞の増殖誘導セット(請求項8)や、さらに、成長因子を含む培養培地を備えていることを特徴とする請求項8記載の神経幹細胞の増殖誘導セット(請求項9)や、成長因子を含む培養培地が、少なくともEGF及び/又はFGFを含む培養培地であることを特徴とする請求項9記載の神経幹細胞の増殖誘導セット(請求項10)や、樹状細胞が、細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセット、又は該未成熟樹状細胞に由来する成熟樹状細胞サブセットであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セット(請求項11)や、血球系細胞が、脾細胞、T細胞、単球、好中球、好酸球又は好塩基球であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セット(請求項12)に関する。
さらに本発明は、請求項1〜7のいずれか記載の増殖誘導方法により得られる神経幹細胞を有効成分とすることを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療薬(請求項13)や、請求項8〜12のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セットを有効成分とすることを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療薬(請求項14)や、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を有効成分とすることを特徴とする脳梗塞の治療薬)(請求項15)や、請求項1〜7のいずれか記載の増殖誘導方法により得られる神経幹細胞を投与することを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療方法(請求項16)や、請求項8〜12のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セットを投与することを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療方法(請求項17)や、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を投与することを特徴とする脳梗塞の治療方法(請求項18)に関する。
本発明の神経幹細胞の増殖誘導方法としては、神経幹細胞を、樹状細胞、血球系細胞若しくはこれら細胞の培養上清、又は顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の少なくともいずれかと接触させる方法であれば、インビトロ、インビボ、エクスビボを問わず、特に制限されるものではないが、大量に調製された神経幹細胞を必要とする移植治療を考慮すると、神経幹細胞を樹状細胞、血球系細胞、GM−CSFから選ばれる少なくともいずれか一種と、DMEM/F12培地等の培養培地中で接触させ、神経幹細胞の増殖を誘導する方法が好ましい。具体的には、分裂・増殖することができる自己複製能と同時に、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトという中枢神経系を構成する3種類の細胞に分化する多分化能を有する神経幹細胞を含む哺乳類神経組織、例えば胎仔の被殻−線条体部位等を分離・採取し、成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、必要に応じて神経幹細胞の純度を高める処理を施した後、かかる神経幹細胞と樹状細胞及び/又は血球系細胞とを培養培地中で共培養することにより接触させる神経幹細胞を増殖誘導する方法を挙げることができる。また、上記樹状細胞及び/又は血球系細胞との共培養の有無にかかわらず、GM−CSFの存在下で神経幹細胞を培養することにより接触させ、神経幹細胞を増殖誘導する方法も挙げることができる。さらに、上記と同様に、神経幹細胞を含む哺乳類神経組織を分離し、成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、次いで樹状細胞の培養上清及び/又は血球系細胞の培養上清中で神経幹細胞を培養することにより接触させ、神経幹細胞を増殖誘導する方法も好適に例示することができる。
上記成長因子としては、上皮増殖因子(EGF)、酸性の繊維芽細胞成長因子(aFGF又はFGF−1)、塩基性の繊維芽細胞成長因子(bFGF又はFGF−2)、トランスフォーミング成長因子α(TGFα)、アンフィレグリン、ベタセルリン(BTC)、エピレギュリン(ER)、ヘパリン結合EGF様増殖因子(HB−EGF)、神経線維腫由来増殖因子(SDGF)等を例示することができ、中でもEGFやFGFを好適に例示することができる。また、上記成長因子を含む培養培地には、EGFやFGF等の成長因子の他に、トランスフェリン、インシュリン(Insulin)、レチノイン酸、アクチビン、インターロイキン等の、細胞の培養に通常使用される成分を添加しておくこともできる。特に、成長因子であるEGF及び/又はFGF処理した樹状細胞と神経幹細胞とを共培養することにより、神経幹細胞の増殖が顕著に誘導されるが、一方EGF及び/又はFGF未処理の樹状細胞では、神経幹細胞の増殖が誘導されない。このことはEGF及び/又はFGF処理により、樹状細胞が変化した可能性を示唆している。さらに、EGF及び/又はFGF処理した樹状細胞を投与(損傷部位に移植あるいは静脈内投与)することにより、損傷された神経機能を著明に改善させる。
上記樹状細胞としては、細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセット、又は該未成熟樹状細胞に由来する成熟樹状細胞サブセットを好適に例示することができ、かかる樹状細胞サブセットには、インビボでの神経再生効果やマイクログリアの増殖、食作用の増強を誘導する神経栄養因子NT−3を分泌する樹状細胞サブセットや、NT−3に加えて、脊髄運動知覚両神経に対し変性・細胞死保護の効果が示すCNTF(神経栄養因子)、マイクログリアやマクロファージ由来の細胞障害性物質の放出の抑制作用を有するTGF−β1、各種ニューロン(コリン・カテコールアミン・ドーパミン作動性)に対する保護効果を誘導するIL−6を発現する未成熟樹状細胞サブセットや、NT−3に加えて、CNTF、TGF−β1、IL−6、神経保護効果の認められているEGFを発現する成熟樹状細胞サブセットが含まれる。また、上記成熟樹状細胞サブセットとして、LPS、IL−1、TNF−α、CD40L等の未成熟樹状細胞を成熟させるための刺激剤の存在下で、未成熟樹状細胞サブセットをインビトロで培養することにより得られる成熟樹状細胞サブセットを用いることもできる。
細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセットは、例えば、末梢血等に対し密度遠心分離処理等の前処理を行った後、樹状細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体を用いてFACSでソートする方法や、樹状細胞表面抗原に対する磁気ビーズ結合モノクローナル抗体を用いる分離方法等により樹状細胞サブセットを分離し、それらの中からCD11c陽性の樹状細胞サブセットを選択することにより得ることができる。そして、神経幹細胞と接触させる樹状細胞は、該神経幹細胞と同種のものが好ましく、また、神経幹細胞と接触させる樹状細胞数は、細胞数比において神経幹細胞の103以上が、神経幹細胞の顕著な増殖誘導の点で好ましい。
上記血球系細胞としては、脾細胞、T細胞、単球、好中球、好酸球、好塩基球等を具体的に例示することができるが、T細胞、特にCD8陽性T細胞や脾細胞を好適に例示することができる。
次に、本発明の神経幹細胞の増殖誘導セットとしては、樹状細胞、血球系細胞若しくはこれら細胞の培養上清、又はGM−CSFの少なくともいずれか一種を備えている細胞増殖誘導セットであれば特に制限されるものではないが、上記EGF、FGF等の成長因子などの各種成分をさらに含む培養培地を備えているものが好ましい。また、上記樹状細胞としては、細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセット、あるいは該未成熟樹状細胞に由来する成熟樹状細胞サブセットが好ましく、血球系細胞としては、脾細胞、T細胞、単球、好中球、好酸球又は好塩基球が好ましい。
本発明の神経幹細胞の増殖誘導方法をインビトロ又はエクスビボで実施し、得られた神経幹細胞を用いたり、あるいは本発明の神経幹細胞の増殖誘導方法をインビボで実施することにより、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病等の変性性疾患や、中枢神経系に対する外傷性及び神経毒性損傷や、虚血神経系への血流又は酸素供給阻害に起因する脳梗塞等の疾病などの治療が可能になる。従って、本発明の増殖誘導方法により得られる神経幹細胞や神経幹細胞の増殖誘導セットは、上記神経損傷又は神経機能不全疾患治療薬として有用である。また、本発明の増殖誘導方法により得られる神経幹細胞や本発明の神経幹細胞の増殖誘導セットを投与すると、上記神経損傷又は神経機能不全疾患の治療が可能となる。例えば、GM−CSFは脊髄損傷の治療薬としてまた脳梗塞の治療薬として有用であり、GM−CSFの局所投与により、脊髄損傷や脳梗塞の治療が可能となる。
上記神経幹細胞の増殖誘導セットを神経損傷又は神経機能不全疾患治療薬として用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。またかかる治療剤は、経口的又は非経口的に投与することができる。すなわち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口に局所に投与することができる他、スプレー剤の型で鼻孔内投与することもできる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(樹状細胞の分離)
免疫磁気ビーズ法にて、生後6週齢のBALB/cあるいはC57BL/6雌成熟マウス脾臓より、CD11c陽性のサブセットを分離し、未成熟樹状細胞を得た。具体的には、まず脾臓を100U/mlコラーゲナーゼ(Worthington Biochemical Corporation社)にてホモジェネートした後、分離しにくい被膜部分をさらに400U/mlコラーゲナーゼにて37℃、5%CO2下に20分間インキュベートし、細胞を分離した。得られた細胞を35%BSA溶液中に浮遊させて、遠心管中でさらにRPMI1640+10%胎仔血清を重層させた後、4℃、3000rpm、30分間遠心し、35%BSA溶液とRPMI1640+10%胎仔血清溶液との境界層の細胞を回収した。次に得られた細胞に対して、CD11c抗原に対する磁気ビーズ結合モノクローナル抗体(2×108ビーズ、Miltenyi Biotec 社)を4℃にて、15分間反応させ、ビーズ結合細胞を磁気により分離することにより、未成熟樹状細胞サブセットが濃縮された画分を得た。
免疫磁気ビーズ法にて、生後6週齢のBALB/cあるいはC57BL/6雌成熟マウス脾臓より、CD11c陽性のサブセットを分離し、未成熟樹状細胞を得た。具体的には、まず脾臓を100U/mlコラーゲナーゼ(Worthington Biochemical Corporation社)にてホモジェネートした後、分離しにくい被膜部分をさらに400U/mlコラーゲナーゼにて37℃、5%CO2下に20分間インキュベートし、細胞を分離した。得られた細胞を35%BSA溶液中に浮遊させて、遠心管中でさらにRPMI1640+10%胎仔血清を重層させた後、4℃、3000rpm、30分間遠心し、35%BSA溶液とRPMI1640+10%胎仔血清溶液との境界層の細胞を回収した。次に得られた細胞に対して、CD11c抗原に対する磁気ビーズ結合モノクローナル抗体(2×108ビーズ、Miltenyi Biotec 社)を4℃にて、15分間反応させ、ビーズ結合細胞を磁気により分離することにより、未成熟樹状細胞サブセットが濃縮された画分を得た。
(樹状細胞移植による内在性神経幹細胞/前駆細胞の増殖誘導)
生後6週齢のBALB/c雌マウスを用い、エーテル麻酔下に第8胸椎椎弓切除を行い、尖刀にて脊髄を左半切した脊髄損傷モデルマウスを作製した。損傷後直ちにRPMI1640培地のみ、又は免疫磁気ビーズ法にてCD11c(+)のサブセットをソートすることによって得られた樹状細胞[1×105個/マウス]を脊髄損傷部位に移植した。
生後6週齢のBALB/c雌マウスを用い、エーテル麻酔下に第8胸椎椎弓切除を行い、尖刀にて脊髄を左半切した脊髄損傷モデルマウスを作製した。損傷後直ちにRPMI1640培地のみ、又は免疫磁気ビーズ法にてCD11c(+)のサブセットをソートすることによって得られた樹状細胞[1×105個/マウス]を脊髄損傷部位に移植した。
樹状細胞移植による内在性神経幹細胞/前駆細胞の反応性を検討するため、それらを認識するMusahi−1抗体を用いて、免疫組織染色を行い、陽性細胞数の経時的な変化を調べた。まず、損傷後2、4、7日の樹状細胞移植マウスについて、2%パラフォルムアルデヒドで経心臓的灌流固定を行い、凍結切片を作製した(各群n=3)。次に、一次抗体として抗マウスMusahi−1抗体を利用した免疫組織染色を行った。Musahi−1は1994年にOkanoらにより同定された分子量約38kDaのRNA結合タンパクであり(Neuron, 1994)、マウスのMusahi−1に対するモノクローナル抗体を用いた解析では神経幹細胞/前駆細胞に強く発現することが報告されている(Dev. Biol. 1996、J. Neurosci. 1997、Dev. Neurosci. 2000)。計測領域に関しては、細胞を移植する際に用いたgelfoam(変性コラーゲン)の最も遠位部、及びそこから1mm離れた地点それぞれで、背側から腹側に至る部分として、損傷辺縁部、遠位部(頭側・尾側)の2つに分類した(図1参照)。
損傷辺縁部から頭側にかけての代表的切片の染色像を図2に示す。両群ともに、損傷後2日では差はみられないが、損傷後4日以降では、樹状細胞移植群において、辺縁部、遠位部ともにMusahi−1陽性細胞が多く認められた。また、コントロール群ではこのような変化は乏しかった。
次にMusahi−1陽性細胞を画像解析装置(Flovel社)を用いて定量的に解析した。図3にMusahi−1陽性細胞数の領域別の経時的変化を示す。損傷後4日以降で損傷辺縁部や遠位部ともに、コントロールと比較して樹状細胞移植により有意なMusahi−1陽性細胞数の増加を認めた。特に損傷辺縁部では、損傷後2日から4日の間に樹状細胞移植群でMusahi−1陽性細胞の著しい増加が認められた。
以上のことより、損傷部位への樹状細胞移植により、内在性神経幹細胞/前駆細胞の増殖が誘導されることが明らかとなった。
(樹状細胞移植による神経前駆細胞の解析)
樹状細胞移植により内在性の神経幹細胞/前駆細胞が有意に増殖していることが明らかとなったが、損傷後14日目になると7日目と比較して、神経幹細胞/前駆細胞が減少し、形態変化が観察された。そこで、神経幹細胞が神経細胞へ分化したのではないかと考え、樹状細胞移植による神経前駆細胞の反応性を検討した。C57BL/6成熟マウスの脊髄を損傷させ、樹状細胞を移植後7日、14日目に4%パラフォルムアルデヒドで経心臓的灌流固定を行い、矢状断凍結切片を作製した(n=3)。コントロールとして、RPMI1640移植群を用いた(n=3)。分裂増殖細胞を標識するため、thymidine アナログであるbromodeoxyuridine(BrdU、Sigma社)を損傷後、灌流固定前日まで毎日腹腔内投与した(50mg/kg)。一次抗体として抗ラットBrdU抗体(Abcam社)、有糸分裂後のニューロンを認識するHu抗体(Dr James岡野から供与)を利用した免疫染色を行った。染色結果は共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社)を用いて確認した。計測領域に関しては、細胞を移植する際に用いたgelfoam(変性コラーゲン)の最も遠位部から0.5mm離れた地点から1mm離れた地点までの切片上でのすべての灰白質部分として、頭側・尾側の両方で行った。樹状細胞移植群の損傷後14日目の代表的切片の染色像を図4Aに示し、さらに図4A中の拡大像を図4B、図4Cに示す。計測結果を図4Dに示す。その結果、損傷後14日目の樹状細胞移植群でのみニューロンが新生していること(矢印)が明らかとなった。さらに、アポトーシスに陥っている細胞でもBrdU陽性となることが知られているため、アポトーシス細胞を特異的に検出できるTUNEL法を用いた免疫染色を重ねた結果を図4Eに示す。その結果、Hu/BrdU二重陽性細胞はTUNEL染色が陰性であったこと、またアポトーシス細胞の核に特徴的な断片化像も否定的であったことから、損傷脊髄において樹状細胞を移植することにより、新しいニューロンが分化誘導されていることが明らかとなった。中枢神経系の中でも脊髄は神経新生が起こらないと考えられてきた組織であった。しかしながら、本発明によって、成熟哺乳動物の脊髄において、樹状細胞移植により神経が新生されることを証明することができた。
樹状細胞移植により内在性の神経幹細胞/前駆細胞が有意に増殖していることが明らかとなったが、損傷後14日目になると7日目と比較して、神経幹細胞/前駆細胞が減少し、形態変化が観察された。そこで、神経幹細胞が神経細胞へ分化したのではないかと考え、樹状細胞移植による神経前駆細胞の反応性を検討した。C57BL/6成熟マウスの脊髄を損傷させ、樹状細胞を移植後7日、14日目に4%パラフォルムアルデヒドで経心臓的灌流固定を行い、矢状断凍結切片を作製した(n=3)。コントロールとして、RPMI1640移植群を用いた(n=3)。分裂増殖細胞を標識するため、thymidine アナログであるbromodeoxyuridine(BrdU、Sigma社)を損傷後、灌流固定前日まで毎日腹腔内投与した(50mg/kg)。一次抗体として抗ラットBrdU抗体(Abcam社)、有糸分裂後のニューロンを認識するHu抗体(Dr James岡野から供与)を利用した免疫染色を行った。染色結果は共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社)を用いて確認した。計測領域に関しては、細胞を移植する際に用いたgelfoam(変性コラーゲン)の最も遠位部から0.5mm離れた地点から1mm離れた地点までの切片上でのすべての灰白質部分として、頭側・尾側の両方で行った。樹状細胞移植群の損傷後14日目の代表的切片の染色像を図4Aに示し、さらに図4A中の拡大像を図4B、図4Cに示す。計測結果を図4Dに示す。その結果、損傷後14日目の樹状細胞移植群でのみニューロンが新生していること(矢印)が明らかとなった。さらに、アポトーシスに陥っている細胞でもBrdU陽性となることが知られているため、アポトーシス細胞を特異的に検出できるTUNEL法を用いた免疫染色を重ねた結果を図4Eに示す。その結果、Hu/BrdU二重陽性細胞はTUNEL染色が陰性であったこと、またアポトーシス細胞の核に特徴的な断片化像も否定的であったことから、損傷脊髄において樹状細胞を移植することにより、新しいニューロンが分化誘導されていることが明らかとなった。中枢神経系の中でも脊髄は神経新生が起こらないと考えられてきた組織であった。しかしながら、本発明によって、成熟哺乳動物の脊髄において、樹状細胞移植により神経が新生されることを証明することができた。
(樹状細胞移植による損傷神経軸索の再生)
切断した神経軸索に対する樹状細胞移植の効果を調べるため、損傷後4ヶ月経過したBALB/cマウスを用いて、大脳皮質一次運動野に順行性トレーサーであるBDA(biotinylated dextran amine、分子量10000、Molecular Probes社)を注入し、皮質脊髄路の再生について検討した。トレーサーを注入後14日の樹状細胞移植マウスについて、4%パラフォルムアルデヒドで経心臓的灌流固定を行い、冠状断凍結切片を作製した(n=10)。コントロールとして、RPMI1640移植群を用いた(n=7)。両群とも、皮質脊髄路におけるBDA陽性の神経軸索は、細胞移植の際に用いたgelfoamよりも頭側の位置で途絶しており、損傷部より尾側の領域では認めることができなかった(図5A)。中心管(*印)の周辺においては、コントロール群はやはりBDA陽性の神経軸索(0.5mm以上連続性を有するもの)を損傷部より尾側の領域では認めることがなかったが(図5B)、樹状細胞移植群では、損傷部より尾側において、皮質脊髄路ではない灰白質の領域にBDA陽性の神経軸索を認めた(図5C、n=5)。その部分の拡大像を図5D(矢印)、さらに図5Eに示す。この結果は、過去に報告されている神経軸索の再生例(Exp.Neurol. 1990, Science 1996, J.Neurosci. 2000)と類似した形態(矢印、矢頭)を有していた。以上より、樹状細胞移植により損傷神経軸索を再生させることが明らかとなった。
切断した神経軸索に対する樹状細胞移植の効果を調べるため、損傷後4ヶ月経過したBALB/cマウスを用いて、大脳皮質一次運動野に順行性トレーサーであるBDA(biotinylated dextran amine、分子量10000、Molecular Probes社)を注入し、皮質脊髄路の再生について検討した。トレーサーを注入後14日の樹状細胞移植マウスについて、4%パラフォルムアルデヒドで経心臓的灌流固定を行い、冠状断凍結切片を作製した(n=10)。コントロールとして、RPMI1640移植群を用いた(n=7)。両群とも、皮質脊髄路におけるBDA陽性の神経軸索は、細胞移植の際に用いたgelfoamよりも頭側の位置で途絶しており、損傷部より尾側の領域では認めることができなかった(図5A)。中心管(*印)の周辺においては、コントロール群はやはりBDA陽性の神経軸索(0.5mm以上連続性を有するもの)を損傷部より尾側の領域では認めることがなかったが(図5B)、樹状細胞移植群では、損傷部より尾側において、皮質脊髄路ではない灰白質の領域にBDA陽性の神経軸索を認めた(図5C、n=5)。その部分の拡大像を図5D(矢印)、さらに図5Eに示す。この結果は、過去に報告されている神経軸索の再生例(Exp.Neurol. 1990, Science 1996, J.Neurosci. 2000)と類似した形態(矢印、矢頭)を有していた。以上より、樹状細胞移植により損傷神経軸索を再生させることが明らかとなった。
(樹状細胞との共培養によるインビトロでの神経幹細胞の増殖誘導)
損傷部位への樹状細胞移植により、内在性神経幹細胞/前駆細胞の増殖を誘導することが明らかとなったが、培養下でも樹状細胞が神経幹細胞を増殖させることが可能であるかを解析した。神経幹細胞の増殖誘導は、神経幹細胞の分離培養を2段階で行った。まず第一段階はC57BL/6胎仔(妊娠14日目)の被殻−線条体部位を採取し、1×105細胞/mlの細胞密度で、DMEM/F12培地にEGF(peprotech社)20ng/ml、FGF−2(R&D社)20ng/ml、トランスフェリン(Sigma社)100μg/ml、インシュリン(Sigma社)25μg/ml、Progesterone(Sigma社)20nM、Sodium selenate(Sigma社)30nM、Putrescine(Sigma社)60μMを添加した培養液で5〜7日間培養することで、選択的に神経幹細胞を培養した。
損傷部位への樹状細胞移植により、内在性神経幹細胞/前駆細胞の増殖を誘導することが明らかとなったが、培養下でも樹状細胞が神経幹細胞を増殖させることが可能であるかを解析した。神経幹細胞の増殖誘導は、神経幹細胞の分離培養を2段階で行った。まず第一段階はC57BL/6胎仔(妊娠14日目)の被殻−線条体部位を採取し、1×105細胞/mlの細胞密度で、DMEM/F12培地にEGF(peprotech社)20ng/ml、FGF−2(R&D社)20ng/ml、トランスフェリン(Sigma社)100μg/ml、インシュリン(Sigma社)25μg/ml、Progesterone(Sigma社)20nM、Sodium selenate(Sigma社)30nM、Putrescine(Sigma社)60μMを添加した培養液で5〜7日間培養することで、選択的に神経幹細胞を培養した。
さらに得られた神経幹細胞の純度を高めるため、セルソーターを用いてPI染色陰性でかつ直径10μm以上の細胞を分離した後、100細胞/wellになるようにプレーティングして、樹状細胞との共培養を開始した。セルソーターはベクトンディッキンソン社FACS Vantege SEを、解析にはClone cyte plusを用いた。神経幹細胞との共培養に用いる樹状細胞は、C57BL/6雌成熟マウス脾臓よりCD11c陽性のサブセットを分離して1×103〜105細胞/mlの細胞密度になるように前記培養液中に調整し、96well低接着培養プレートに100μlずつ加えた。コントロールとして、細胞を加えない群(基本的なニューロスフェアを培養する条件)と、樹状細胞の分泌する最も重要な神経栄養因子であるNT−3(1〜10ng/ml)を添加する群を加え、神経幹細胞の培養を行った。
増殖した神経幹細胞は、直径50μm以上のニューロスフェア(neurosphere)と呼ばれる細胞凝集塊を形成するため、共培養開始後8日後に、それぞれの条件におけるニューロスフェアの数(図6)及びその体積(図7)を測定・検討したところ、一般的なニューロスフェアを培養する条件と比較して、樹状細胞(DC)と共培養することにより、特に1×105細胞/mlの条件で、顕著に神経幹細胞を増殖させることが明らかとなった。
次に、コントロールとして脾細胞、T細胞、マクロファージを用いて、樹状細胞による神経幹細胞の反応性について検討した。これらの各細胞105個(106個/ml)を、primary ニューロスフィアを形成した神経幹細胞100個と7日間共培養したところ、樹状細胞と共培養した場合、secondary ニューロスフィア(直径100μm以上)形成数は一般的ニューロスフィアの培養液のみと比較して著しく増加した(図8)。一方、T細胞、マクロファージと共培養した場合では直径100■m以上のsecondary ニューロスフィアの形成が認められなかっ
たことから、樹状細胞は他の免疫系細胞と比較して、インビトロで共培養することにより神経幹細胞を顕著に増殖させることが明らかとなった。
たことから、樹状細胞は他の免疫系細胞と比較して、インビトロで共培養することにより神経幹細胞を顕著に増殖させることが明らかとなった。
(樹状細胞の培養上清を用いたインビトロでの神経幹細胞の増殖誘導)
さらに樹状細胞の分泌する物質が神経幹細胞の増殖誘導に働くかどうかの検討を行った。本実験では、樹状細胞のみならず、血球系細胞である脾細胞、T細胞の培養上清を用いてニューロスフェアの数及び体積の解析を行った。実施例4と同様の方法で神経幹細胞の分離を行った。すなわち、C57BL/6胎仔(妊娠14日目)の被殻−線条体部位を採取し、1×105細胞/mlの細胞密度で、DMEM/F12培地にEGF(peprotech社)20ng/ml、FGF−2(R&D社)20ng/ml、トランスフェリン(Sigma社)100μg/ml、インシュリン(Sigma社)25μg/ml、Progesterone(Sigma社)20nM、Sodium selenate(Sigma社)30nM、Putrescine(Sigma社)60μMを添加した培養液で、5〜7日間培養することで、選択的に神経幹細胞を培養した。さらに得られた神経幹細胞の純度を高めるため、セルソーターを用いて、PI染色陰性でかつ直径10μm以上の細胞を分離した後、100細胞/mlになるようにプレーティングした。
さらに樹状細胞の分泌する物質が神経幹細胞の増殖誘導に働くかどうかの検討を行った。本実験では、樹状細胞のみならず、血球系細胞である脾細胞、T細胞の培養上清を用いてニューロスフェアの数及び体積の解析を行った。実施例4と同様の方法で神経幹細胞の分離を行った。すなわち、C57BL/6胎仔(妊娠14日目)の被殻−線条体部位を採取し、1×105細胞/mlの細胞密度で、DMEM/F12培地にEGF(peprotech社)20ng/ml、FGF−2(R&D社)20ng/ml、トランスフェリン(Sigma社)100μg/ml、インシュリン(Sigma社)25μg/ml、Progesterone(Sigma社)20nM、Sodium selenate(Sigma社)30nM、Putrescine(Sigma社)60μMを添加した培養液で、5〜7日間培養することで、選択的に神経幹細胞を培養した。さらに得られた神経幹細胞の純度を高めるため、セルソーターを用いて、PI染色陰性でかつ直径10μm以上の細胞を分離した後、100細胞/mlになるようにプレーティングした。
C57BL/6雌成熟マウス脾臓より、脾細胞を調製し、CD11c陽性のサブセットを樹状細胞として、CD8陽性のサブセットをCD8T細胞として分離し、前記培養液中で、24時間培養後、その培養上清を回収した。コントロールとして、細胞を加えない群(基本的なニューロスフェアを培養する条件)を加え、神経幹細胞の培養を行った。増殖した神経幹細胞は、直径50μm以上のニューロスフェア(neurosphere)と呼ばれる細胞凝集塊を形成するため、共培養開始8日後に、それぞれの条件におけるニューロスフェアの数(図9)及びその体積(図10)を測定・検討したところ、一般的なニューロスフェアを培養する条件と比較して、樹状細胞(DC)のみならず、脾細胞(SPC)、CD8陽性T細胞(CD8−T)の培養上清により、顕著に神経幹細胞を増殖させることが明らかとなった。
次に、樹状細胞の分泌する培養上清中の物質が神経幹細胞を増殖させることを再確認するため、105個の樹状細胞の培養上清(106個/ml、48、72、96時間)を用いて、primary ニューロスフィアを形成した神経幹細胞100個を7日間培養したところ、105個の樹状細胞との共培養の場合の約1/10であったものの、secondary ニューロスフィア(直径50μm以上)の形成を認めた(図11)。培養液のみの場合ではsecondary ニューロスフィア(直径50μm以上)の形成が全く認められなかったことから、神経幹細胞を増殖させる樹状細胞の分泌因子の存在が示唆された。
(GM−CSF投与による内在性神経幹細胞/前駆細胞の増殖誘導)
樹状細胞の誘導・増殖に重要なサイトカインであるGM−CSFを投与することによる中枢神経系内の神経幹細胞/前駆細胞に対する反応性を解析するため、それらを認識するMusashi−1抗体を用いて、免疫組織染色を行い、陽性細胞数の経時的な変化を調べた。生後6週齢のBALB/c雌マウスを用いて、脊髄損傷モデルマウスを作製し、損傷直後に、生理食塩水のみ又はGM−CSF(250pg/マウス;Genzyme社)を5μl脊髄損傷部位に投与した(各群n=3)。損傷後2、4、7日目に2%パラフォルムアルデヒドで経心臓的管灌流固定を行い、凍結切片を作製した。次に、一次抗体として抗Musashi−1抗体を利用した免疫組織染色を行った。計測領域に関しては、細胞を移植する際に用いたgelfoamの最も遠位部から背側および腹側0.5mm離れた領域を画像解析装置(Flovel社)を用いて定量的に解析した(図12)。図13にMusashi−1陽性細胞数の経時的変化を示す。GM−CSF投与群では損傷後2日目からコントロールと比較して多数のMusashi−1陽性細胞を認め、7日目において有意な細胞数の増加を認めた。以上のことから、損傷部位へのGM−CSF投与により、神経組織内における内在性神経幹細胞/前駆細胞が増殖誘導されることが明らかとなった。
樹状細胞の誘導・増殖に重要なサイトカインであるGM−CSFを投与することによる中枢神経系内の神経幹細胞/前駆細胞に対する反応性を解析するため、それらを認識するMusashi−1抗体を用いて、免疫組織染色を行い、陽性細胞数の経時的な変化を調べた。生後6週齢のBALB/c雌マウスを用いて、脊髄損傷モデルマウスを作製し、損傷直後に、生理食塩水のみ又はGM−CSF(250pg/マウス;Genzyme社)を5μl脊髄損傷部位に投与した(各群n=3)。損傷後2、4、7日目に2%パラフォルムアルデヒドで経心臓的管灌流固定を行い、凍結切片を作製した。次に、一次抗体として抗Musashi−1抗体を利用した免疫組織染色を行った。計測領域に関しては、細胞を移植する際に用いたgelfoamの最も遠位部から背側および腹側0.5mm離れた領域を画像解析装置(Flovel社)を用いて定量的に解析した(図12)。図13にMusashi−1陽性細胞数の経時的変化を示す。GM−CSF投与群では損傷後2日目からコントロールと比較して多数のMusashi−1陽性細胞を認め、7日目において有意な細胞数の増加を認めた。以上のことから、損傷部位へのGM−CSF投与により、神経組織内における内在性神経幹細胞/前駆細胞が増殖誘導されることが明らかとなった。
損傷部位局所にGM−CSFを投与することにより、内在性神経幹細胞/前駆細胞が増加することを明らかにしたが、本実験では神経幹細胞/前駆細胞のマーカーであるMusashi−1抗体に加えてグリア細胞マーカー(GFAP抗体)を用いた解析、さらに増殖細胞であることを証明するために、BrdU標識による解析を行った。生後6週齡のマウスを用いて脊髄損傷モデルを作製し、損傷直後に生理食塩水のみまたはGM−CSF(250pg/マウス;Genzyme社)を5μl損傷部位に投与した。分裂増殖細胞を標識するため、チミジンのアナログであるBrdU(Sigma社)を損傷後、損傷後7日目に灌流固定する前日まで毎日腹腔内投与した(50mg/kgm)。凍結切片を作製し、一次抗体として抗Musashi−1抗体、抗ラットBrdU抗体(Abcam社)、抗マウスGFAP抗体(Sigma社)を利用した免疫組織学的解析を行った。損傷後、増殖している内在性神経幹細胞/前駆細胞をMusahishi−1(+)BrdU(+)GFAP(−)として計測した。損傷後7日目の代表的切片の染色像を図14aに示し、さらに図14b中ではそれぞれの抗体による解析像を示す。定量的計測結果を図14cに示したが、損傷後7日では、GM−CSF投与により内在性神経幹細胞/前駆細胞が有意に増殖していたことが確認された。
(損傷部位へのGM−CSF投与による脊髄内樹状細胞の誘導)
生後6週齡のマウスを用いて脊髄損傷モデルを作製し、損傷直後に生理食塩水のみまたはGM−CSF(250pg/マウス;Genzyme社)を5μl損傷部位に投与した。損傷後7日目において、マウスを灌流固定して、凍結切片を作製し、免疫組織学的解析を行った。抗CD11c抗体(Pharmingen社)を用いて脊髄内の樹状細胞を解析したところ、正常マウス脊髄には明らかなCD11c陽性の樹状細胞は検出されなかったが(図15c)、損傷脊髄にはCD11c陽性の樹状細胞が認められ(図15b)、損傷部位へのGM−CSF投与により、さらに樹状細胞の数が増加していた(図15a)。外傷部位より頭尾側それぞれ0.75−1.25mmの範囲で定量的な解析を行ったところ、GM−CSF投与により有意にCD11c陽性の樹状細胞数が増加していた(GM−CSF,n=6;コントロール,n=6;正常脊髄マウス,n=2)(図15d)。損傷神経に移植された樹状細胞は神経幹細胞を増殖誘導し、神経細胞の新生、神経軸索の再生など様々な神経保護、再生効果をもたらす。これまで、正常中枢神経系には樹状細胞は存在しないと考えられてきたが、損傷により樹状細胞が中枢神経系にも誘導されること、またGM−CSF投与によりさらに多くの樹状細胞が誘導されることが明らかとなった。
生後6週齡のマウスを用いて脊髄損傷モデルを作製し、損傷直後に生理食塩水のみまたはGM−CSF(250pg/マウス;Genzyme社)を5μl損傷部位に投与した。損傷後7日目において、マウスを灌流固定して、凍結切片を作製し、免疫組織学的解析を行った。抗CD11c抗体(Pharmingen社)を用いて脊髄内の樹状細胞を解析したところ、正常マウス脊髄には明らかなCD11c陽性の樹状細胞は検出されなかったが(図15c)、損傷脊髄にはCD11c陽性の樹状細胞が認められ(図15b)、損傷部位へのGM−CSF投与により、さらに樹状細胞の数が増加していた(図15a)。外傷部位より頭尾側それぞれ0.75−1.25mmの範囲で定量的な解析を行ったところ、GM−CSF投与により有意にCD11c陽性の樹状細胞数が増加していた(GM−CSF,n=6;コントロール,n=6;正常脊髄マウス,n=2)(図15d)。損傷神経に移植された樹状細胞は神経幹細胞を増殖誘導し、神経細胞の新生、神経軸索の再生など様々な神経保護、再生効果をもたらす。これまで、正常中枢神経系には樹状細胞は存在しないと考えられてきたが、損傷により樹状細胞が中枢神経系にも誘導されること、またGM−CSF投与によりさらに多くの樹状細胞が誘導されることが明らかとなった。
(GM−CSF投与による神経前駆細胞の解析)
損傷脊髄において樹状細胞を移植することにより、新しいニューロンが分化誘導されることが明らかとなったことから、GM−CSF投与による神経前駆細胞の解析を行った。マウスに脊髄損傷を作製し、GM−CSF投与後14日目に灌流固定を行い、矢状断凍結切片を作製した(n=3)。コントロールとして、生理食塩水投与群を用いた(n=3)。分裂増殖細胞を標識するため、チミジンのアナログであるBrdU(Sigma社)を損傷後、灌流固定前日まで毎日腹腔内投与した(50mg/kgマウス)。一次抗体として抗ラットBrdU抗体(Abcam社)、有糸分裂後のニューロンを認識するHu抗体(Dr James岡野から供与)を利用した免疫染色を行った。染色結果は共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社)を用いて確認した。計測領域に関しては、細胞を移植する際に用いたgelfoam(変性コラーゲン)の最も遠位部から0.25mm離れた地点から0.75mm離れた地点までの切片上でのすべての灰白質部分として、頭側・尾側の両方で行った。GM−CSF投与群の損傷後14日目の代表的切片の染色像を図16aに示し、定量的計測結果を図16bに示した。その結果、損傷後14日目のGM−CSF群でのみニューロンが新生していることが明らかとなった。中枢神経系の中でも脊髄は神経新生が起こらないと考えられてきた組織である。しかしながら、本発明によって、GM−CSF投与により成熟哺乳動物の脊髄において神経が新生されることを証明することができた。
損傷脊髄において樹状細胞を移植することにより、新しいニューロンが分化誘導されることが明らかとなったことから、GM−CSF投与による神経前駆細胞の解析を行った。マウスに脊髄損傷を作製し、GM−CSF投与後14日目に灌流固定を行い、矢状断凍結切片を作製した(n=3)。コントロールとして、生理食塩水投与群を用いた(n=3)。分裂増殖細胞を標識するため、チミジンのアナログであるBrdU(Sigma社)を損傷後、灌流固定前日まで毎日腹腔内投与した(50mg/kgマウス)。一次抗体として抗ラットBrdU抗体(Abcam社)、有糸分裂後のニューロンを認識するHu抗体(Dr James岡野から供与)を利用した免疫染色を行った。染色結果は共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社)を用いて確認した。計測領域に関しては、細胞を移植する際に用いたgelfoam(変性コラーゲン)の最も遠位部から0.25mm離れた地点から0.75mm離れた地点までの切片上でのすべての灰白質部分として、頭側・尾側の両方で行った。GM−CSF投与群の損傷後14日目の代表的切片の染色像を図16aに示し、定量的計測結果を図16bに示した。その結果、損傷後14日目のGM−CSF群でのみニューロンが新生していることが明らかとなった。中枢神経系の中でも脊髄は神経新生が起こらないと考えられてきた組織である。しかしながら、本発明によって、GM−CSF投与により成熟哺乳動物の脊髄において神経が新生されることを証明することができた。
(GM−CSF投与後の脳梗塞に対する治療効果)
次に、GM−CSF投与における脊髄損傷以外の神経疾患に対する治療効果を調べた。ラット脳梗塞モデルを作製し、GM−CSFを血管内から投与後の脳梗塞巣、神経学的所見、脳梗塞境界領域(penumbra)におけるアポトーシス、および活性化マイクログリアの解析を行った。脳梗塞モデルの作成は、小泉・Zea Longaらの方法による一過性中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを用いた。具体的には以下の通りである。Wister Rat オスを用いて、麻酔は笑気・酸素混合ガス(笑気70%・酸素30%)と4%ハロタンで導入し。その後はハロタンを2%へ下げて維持し、自発呼吸下で手術を施行した。頚部正中切開を行い、右総頚動脈、外頚動脈、内頚動脈、pterygopalatine A.を露出し、内頚動脈、総頚動脈をmini clipにてクランプ、pterygopalatine A.を結紮した後、外頚動脈を遠位端で切離翻転した。外頚動脈より4−0ナイロン糸にラバー(SURFLEX F; GC corporation, 東京)をコーティングした塞栓子を約17mm挿入し、中大脳動脈起始部で血流を遮断した。1時間の虚血負荷後、塞栓子を抜去し、外頚動脈よりポリエチレンチューブ(PE10;INTRAMEDIC社 外径0.61mm、内径0.28mm)を挿入し内頚動脈まで進め、GM−CSF5ng/生理食塩水0.3mlあるいは生理食塩水0.3mlを注入した。チューブ抜去後内頚動脈、総頚動脈を開放し再灌流させ、閉創し手術を終了した。脳梗塞体積の評価は、再灌流48時間後にラットを屠殺し、生理食塩水にて灌流後、脳切片(厚さ2mmで5スライス)を作成し、2%−2,3,5-Triphenyl-Tetrazolium-Chloride(TTC, SIGMA社)生理食塩水にて染色を行った(Stroke 1986 Nov-Dec;17(6):1304-8、Bederson JB, Pitts LH, Germano SM, Nishimura MC, Davis RL)。正常部分は赤く染色されるが、梗塞巣は染まらないため、白い部分として観察される。各切片のTTC染色像をスキャナーで取り込み、梗塞面積を算出し、梗塞面積×2mmで梗塞体積とし、さらに5スライスの梗塞体積の総和を総脳梗塞体積として解析を行った。神経学的所見は、Menziesのスケールを用いて解析を行った(Neurosurgery 1992 Jul;31(1):100-6; discussion 106-7;Menzies SA, Hoff JT, Betz AL)。Menziesの神経所見スコアは以下の表1のとおりである。
次に、GM−CSF投与における脊髄損傷以外の神経疾患に対する治療効果を調べた。ラット脳梗塞モデルを作製し、GM−CSFを血管内から投与後の脳梗塞巣、神経学的所見、脳梗塞境界領域(penumbra)におけるアポトーシス、および活性化マイクログリアの解析を行った。脳梗塞モデルの作成は、小泉・Zea Longaらの方法による一過性中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを用いた。具体的には以下の通りである。Wister Rat オスを用いて、麻酔は笑気・酸素混合ガス(笑気70%・酸素30%)と4%ハロタンで導入し。その後はハロタンを2%へ下げて維持し、自発呼吸下で手術を施行した。頚部正中切開を行い、右総頚動脈、外頚動脈、内頚動脈、pterygopalatine A.を露出し、内頚動脈、総頚動脈をmini clipにてクランプ、pterygopalatine A.を結紮した後、外頚動脈を遠位端で切離翻転した。外頚動脈より4−0ナイロン糸にラバー(SURFLEX F; GC corporation, 東京)をコーティングした塞栓子を約17mm挿入し、中大脳動脈起始部で血流を遮断した。1時間の虚血負荷後、塞栓子を抜去し、外頚動脈よりポリエチレンチューブ(PE10;INTRAMEDIC社 外径0.61mm、内径0.28mm)を挿入し内頚動脈まで進め、GM−CSF5ng/生理食塩水0.3mlあるいは生理食塩水0.3mlを注入した。チューブ抜去後内頚動脈、総頚動脈を開放し再灌流させ、閉創し手術を終了した。脳梗塞体積の評価は、再灌流48時間後にラットを屠殺し、生理食塩水にて灌流後、脳切片(厚さ2mmで5スライス)を作成し、2%−2,3,5-Triphenyl-Tetrazolium-Chloride(TTC, SIGMA社)生理食塩水にて染色を行った(Stroke 1986 Nov-Dec;17(6):1304-8、Bederson JB, Pitts LH, Germano SM, Nishimura MC, Davis RL)。正常部分は赤く染色されるが、梗塞巣は染まらないため、白い部分として観察される。各切片のTTC染色像をスキャナーで取り込み、梗塞面積を算出し、梗塞面積×2mmで梗塞体積とし、さらに5スライスの梗塞体積の総和を総脳梗塞体積として解析を行った。神経学的所見は、Menziesのスケールを用いて解析を行った(Neurosurgery 1992 Jul;31(1):100-6; discussion 106-7;Menzies SA, Hoff JT, Betz AL)。Menziesの神経所見スコアは以下の表1のとおりである。
図17に脳梗塞(MCAO)48時間後の代表的なTTC染色像を示したが、GM−CSFを脳梗塞直後に血管内投与したところ、明らかな脳梗塞巣の減少が観察された。定量的な解析結果を図18、19に示したが、GM−CSF投与により、総脳梗塞体積のみならず、大脳皮質(cortex)における脳梗塞体積が明らかに減少していた。図20に脳梗塞直後と48時間後におけるGM−CSF投与およびコントロール群の神経学的所見を示した。脳梗塞直後では両群間に明らかな差が認められなかったが、48時間後では、GM−CSF投与により、脳梗塞後の神経所見が明らかに改善されることが明らかとなった。
脳梗塞巣が減少したことが、どのような機序によるのかを明らかにするため、脳梗塞境界領域(penumbra) (図17にMCAO後の脳梗塞境界領域を示した)における細胞死(アポトーシス)の解析を行った。脳梗塞(MCAO)48時間後に脳切片を作製し、TUNEL染色(Apotag kit; Intergen社)によりアポトーシスを解析した。代表的なTUNEL染色像を図21に示したが、GM−CSF投与により、脳梗塞境界領域における細胞死の抑制が観察された。脳梗塞境界領域における細胞死の定量的な解析を行ったところ、GM−CSF投与により、明らかに細胞死が減少することが明らかとなった(GM−CSF群, n=7; 20.3 ±6.0, 生理食塩水群, n=9; 73.2±19.1/0.06 mm2: p<0.05; unpaired t-test)。
また、インビトロでGM−CSFはミクログリアを活性化することや、活性化マイクログリアは様々な神経栄養因子を分泌することが知られていることから、GM−CSFの血管内投与による脳梗塞境界領域における活性化マイクログリアの解析を行った。脳梗塞(MCAO)48時間後に脳切片を作製し、OX42抗体(Serotec社)を用いてマイクログリアの解析を行った。代表的なOX42染色像を図22に示したが、GM−CSF投与により、活性化マイクログリアの数が増加していることが明らかとなった。脳梗塞境界領域における細胞数の定量的な解析を行ったところ、GM−CSF投与により、活性化マイクログリア細胞数が増加する傾向が観察された(GM−CSF群, n=8; 59.5±16.5, 生理食塩水群, n=9; 28.8±5.1/0.24 mm2: p=0.08; unpaired t test)。
以上の結果より、GM−CSFを投与することより、脳内マイクログリアが活性化され、分泌された神経栄養因子などの作用により細胞死が抑制されたのではないかと考えれらた。
産業上の利用可能性
本発明によると、神経損傷又は神経機能不全疾患の移植治療等に最も重要である神経幹細胞をインビトロ、インビボで効率良く増殖誘導することができる。
本発明によると、神経損傷又は神経機能不全疾患の移植治療等に最も重要である神経幹細胞をインビトロ、インビボで効率良く増殖誘導することができる。
Claims (18)
- 神経幹細胞を、樹状細胞、血球系細胞若しくはこれら細胞の培養上清、又は顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の少なくともいずれか一種と接触させることを特徴とする神経幹細胞の増殖誘導方法。
- 神経幹細胞を、樹状細胞、血球系細胞、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の少なくともいずれか一種と培養培地中で接触させることを特徴とする請求項1記載の神経幹細胞の増殖誘導方法。
- 神経幹細胞を含む哺乳類神経組織を分離し、成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、次いで神経幹細胞と樹状細胞及び/又は血球系細胞とを共培養することを特徴とする請求項2記載の神経幹細胞の増殖誘導方法。
- 神経幹細胞を含む哺乳類神経組織を分離し、成長因子を含む培養培地中で神経幹細胞を選択的に培養し、次いで樹状細胞の培養上清及び/又は血球系細胞の培養上清中で神経幹細胞を培養することを特徴とする請求項2記載の神経幹細胞の増殖誘導方法。
- 成長因子を含む培養培地が、少なくともEGF及び/又はFGFを含む培養培地であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導方法。
- 樹状細胞が、細胞表面にCD11cの表面マーカー有する未成熟樹状細胞サブセット、又は該未成熟樹状細胞に由来する成熟樹状細胞サブセットであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導方法。
- 血球系細胞が、脾細胞、T細胞、単球、好中球、好酸球又は好塩基球であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導方法。
- 樹状細胞、血球系細胞若しくはこれら細胞の培養上清、又は顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の少なくともいずれか一種を備えていることを特徴とする神経幹細胞の増殖誘導セット。
- さらに、成長因子を含む培養培地を備えていることを特徴とする請求項8記載の神経幹細胞の増殖誘導セット。
- 成長因子を含む培養培地が、少なくともEGF及び/又はFGFを含む培養培地であることを特徴とする請求項9記載の神経幹細胞の増殖誘導セット。
- 樹状細胞が、細胞表面にCD11cの表面マーカーを有する未成熟樹状細胞サブセット、又は該未成熟樹状細胞に由来する成熟樹状細胞サブセットであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セット。
- 血球系細胞が、脾細胞、T細胞、単球、好中球、好酸球又は好塩基球であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セット。
- 請求項1〜7のいずれか記載の増殖誘導方法により得られる神経幹細胞を有効成分とすることを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療薬。
- 請求項8〜12のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セットを有効成分とすることを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療薬。
- 顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を有効成分とすることを特徴とする脳梗塞の治療薬。
- 請求項1〜7のいずれか記載の増殖誘導方法により得られる神経幹細胞を投与することを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療方法。
- 請求項8〜12のいずれか記載の神経幹細胞の増殖誘導セットを投与することを特徴とする神経損傷又は神経機能不全疾患の治療方法。
- 顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を投与することを特徴とする脳梗塞の治療方法。
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