JP2005004105A - 信号生成装置及び信号生成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】任意のバンド特性を有するランダム位相の信号波形を少ない処理量で合成することが可能な信号生成装置及び信号生成方法を提供する。
【解決手段】摩擦信号生成装置10は、位相がランダムで帯域が低域のみに制限されたバンド特性波形が保存されたバンド特性波形記憶部11と、帯域幅wが供給されこの帯域幅wに基づきバンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出部12と、生成する摩擦信号波形の中心周波数fcの周波数のsin波形を生成し出力するsin波形生成部13と、バンド特性波形読出部12にて所望の帯域幅として読み出されたバンド特性波形とsin波形生成部13にて生成された周波数fcのsin波形とを乗算する乗算器14と、帯域幅及びゲインGによりゲイン調整するゲイン調整部15とからなり、バンド特性波形の読出し間隔を可変とすることで、生成する信号波形の帯域幅を変更する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば文字列又は音素記号列から音声を合成する音声合成装置等に使用される信号生成装置及び信号生成方法に関し、特に、摩擦音を生成するために好適な信号生成装置及び信号生成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば規則音声合成装置等では、周期性を持たない摩擦信号波形をなんらかの方法で合成する手段が必要である。この摩擦信号波形は無声の摩擦子音を合成するときだけでなく、ピッチ周期で位相を揃えた信号波形と摩擦信号波形とを組み合わせ、有声摩擦子音又は母音等の高域の部分に使用されることもある。
【0003】
従来、フォルマント合成によるパラメータ型の音声合成装置においては、ホワイトノイズ(白色雑音)で駆動した2次の全極型フィルタを並列に組み合わせて摩擦成分を合成する。このような摩擦信号の合成方法は、例えば下記非特許文献1の英語の規則音声合成システムに記載されている。
【0004】
また、線形予測モデルを用いた線形予測分析法(linear predictive cording:LPC)、LSP(線スペクトル対:line spectrum pair)、及びPARCOR(部分自己相関又は偏自己相関:partial auto−correlation coefficient)などの各種のパラメータから摩擦音を合成する方法もいくつか提案されている。例えば、LSPパラメータを使った方式が下記非特許文献2に記載されている。いずれの方法においても、ホワイトノイズ等を全極型フィルタに与えて摩擦音の合成を実現している。
【0005】
【非特許文献1】
クラット,D.H.,「カスケード/パラレルフォーマットシンセサイザのソフトウェア」(Klatt,D.H.“Software for a cascade/parallel formant synthesizer”),ジャーナル・オブ・ザ・アコウスティカル・ソサエティ・オブ・アメリカ(Journal of the Acoustical Society of America),1980年3月,第67巻,3号,p.971−995
【非特許文献2】
古井貞おき著,「ディジタル音声処理」,東海大学出版,p89−98
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら従来の方法では、基本的に全極型フィルタ(全極モデル)の自由度の中で周波数特性が定められてしまう。図11(a)及び(b)は、縦軸に振幅をとり、横軸に周波数をとって、2次の全極型フィルタの特性を示すグラフ図である。Y=aX+bYi−1+cYi−2(X:入力信号、Y:出力信号)に示されるような全極型フィルタの周波数特性の特徴としては、図11(a)に示すようなフォルマントの帯域幅wや、中心周波数fcをそれぞれ独立に制御することができないという点がある。即ち、帯域幅w又は中心周波数fcの個々の変更により、スペクトル特性の形状自体も大きく変化してしまう。例えば図11(b)に示すように、帯域を狭くすると、ピーク付近の形状が鋭角状に変化する。従って、フォルマントの帯域幅を狭くしようとすると、フォルマント周波数のごく一部分が特に強調された音になってしまう。このように全極型フィルタを用いた方法ではパラメータの調整が非常にクリティカルで所望の周波数特性を得ることが難しいという問題点がある。
【0007】
一方、所望の周波数特性の信号を周波数軸(周波数領域)上に展開し、その後、離散フーリエ変換で時間軸(時間領域)上の信号に変換する方式も考えられる。この方式では、所望の周波数特性の時間波形を得ることができるが、パラメータ型の音声合成においてはフーリエ変換を実時間で行う必要があるため処理量が莫大であると共に、フレーム単位で処理するためフレーム間を繋ぐ処理が必要になるという問題点がある。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、任意のバンド特性を有するランダム位相の信号波形を少ない処理量で合成することが可能な信号生成装置及び信号生成方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するために、本発明に係る信号生成装置は、帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段と、上記バンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出手段と、正弦波信号を出力する正弦波信号出力手段と、上記バンド特性波形読出手段から読み出された信号波形と上記正弦波出力手段から出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、帯域が低域のみに制限されたバンド特性波形を記憶し、これを読み出し正弦波信号と乗算することで、バンド特性波形のスペクトル特性を維持した信号波形を生成することができる。
【0011】
また、摩擦信号を生成するものとすることができ、周期性を持たない摩擦性の信号波形を生成するのに好適である。
【0012】
更に、上記バンド特性波形読出手段は、上記バンド特性波形記憶手段に記憶されたバンド特性波形の帯域と外部から指定される帯域とに基づく読出し間隔で上記バンド特性波形を読み出すことができ、これにより、生成する信号波形の帯域幅を所望の帯域幅の波形信号として読出し、自在にコントロールすることができる。
【0013】
更にまた、上記正弦波信号出力手段は、例えば外部から指定される等した所望の周波数の正弦波信号を生成するか、又は正弦波信号が記憶された正弦波信号記憶手段と、該正弦波信号記憶手段に記憶された該正弦波信号を所望の周波数の正弦波信号として読出す正弦波信号読出手段とを有するものとすることができ、これにより、生成する信号波形の中心周波数を自在にコントロールすることができ、更に正弦波信号記憶手段に正弦波を記憶しておくことでより処理を高速化する。
【0014】
また、上記バンド特性波形は、ホワイトノイズの周波数を低域のみに制限した信号波形からなるものとすることができ、位相がランダムな信号波形を生成することができる。
【0015】
更に、上記乗算手段により乗算された信号波形のゲインを調整するゲイン調整手段を有することができ、これにより、音量を調節することができる。
【0016】
更にまた、上記バンド特性波形記憶手段に記憶されたバンド特性波形は、始端と終端とが連続した値を有するものとすることができ、所望の読出し位置でバンド特性波形を繰り返し読み出すことができる。
【0017】
本発明に係る他の信号生成装置は、複数の信号生成部を備え、上記信号生成部は、帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段と、上記バンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出手段と、正弦波信号を出力する正弦波信号出力手段と、上記バンド特性波形読出手段から読み出された信号波形と上記正弦波出力手段から出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算手段とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明においては、例えば複数のバンド特性を表現した周期性を持たない摩擦成分の信号波形を合成して摩擦音等を生成することができる。
【0019】
本発明に係る信号生成方法は、帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段からバンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出工程と、正弦波信号を出力する正弦波信号出力工程と、上記バンド特性波形読出工程にて読み出された信号波形と上記正弦波出力工程にて出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算工程とを有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る他の信号生成方法は、複数の信号生成部により信号波形を生成する信号生成方法であって、上記各信号生成部における信号生成工程は、帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段から該バンド特性波形を所望の帯域の信号波形として読み出すバンド特性波形読出工程と、正弦波信号を出力する正弦波信号出力工程と、上記バンド特性波形読出工程にて読み出された信号波形と上記正弦波出力工程にて出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算工程とを有することを特徴とする。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。この実施の形態は、本発明を、ある周波数特性を持ったノイズ信号、特に、摩擦性の信号波形を少ない処理量で合成する摩擦音合成装置としての信号生成装置に適用したものである。なお、以下の実施の形態においては、摩擦信号を生成する摩擦信号生成装置を備えた規則音声合成装置について説明するが、本発明はこれに限らず、例えば音声コーデック等にも適用可能である。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における規則音声合成装置の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、規則音声合成装置1は、音素列及び韻律情報を含んだ音声記号列Dが与えられる素片選択部2及び韻律生成部3と、素片選択部2に選択され出力された素片パラメータと韻律生成部3からの音韻時間長とに応じてパラメータの時系列を生成するパラメータ時系列生成部4と、このパラメータの時系列と韻律生成部3からのピッチ周期とにより合成音声波形を生成する波形生成部5とから構成される。
【0023】
素片選択部2は、例えば比較的大量の合成単位を含んだ音声データベースの中から、統計的に接続歪みが少なくなるような比較的少ない数の音声素片のセットを選択する等して得られた音素系列(例えばCVC、VCV、CV、VC等(C:子音、V:母音))と音響特徴パラメータとが対になったデータ(単位素片セット)が複数記憶されたメモリ6と接続され、音素列及び韻律情報を含んだ音声記号列Dに基づき、メモリ6に記憶された単位素片セットの中から適切な素片のパラメータを順次選択して出力する。
【0024】
この素片選択部2の入力としての音素列は、例えばテキスト音声合成の形態素解析及び発音記号列生成処理を経て得られた発声を行う音素系列を示したデータである。そして、素片選択部2は、入力される音素列に基づいて単位素片セットを参照して、上記音素列に含まれる音素列を選択して、選択した音素列に対応する音響特徴パラメータ(例えばケプストラム係数等)を単位素片セットから読み出す。
【0025】
韻律生成部3は、音声記号列Dから各音韻の時間長T及びピッチ周期Pfを生成し、夫々パラメータ時系列生成部4及び波形生成部5に出力する。
【0026】
パラメータ時系列生成部4では、韻律生成部3から音韻時間長Tを受取り、この音韻時間長Tに応じて素片選択部2から受取ったパラメータを伸縮しながらパラメータ時系列Dtを生成して出力する。
【0027】
波形生成部5では、パラメータ時系列生成部4から出力される刻々と変化するパラメータ時系列Dtと韻律生成部3からのピッチ周期Pとに基づいて合成音声を生成し、スピーカ7に出力する。この波形生成部5には、各種の音声波形を生成するため、摩擦信号生成部、破裂音生成部及び有声音生成部等、複数種の音声波形の生成部が備えられ、これらの各種の信号を合成して合成波形が生成される。
【0028】
以上の音声合成装置全体のブロック構成は一般的なものであり、ほかの既存の音声合成装置の構成をとることも可能である。また、波形生成部をのぞいたブロックの構成及び動作も一般的な音声合成装置のものを使用することができる。
【0029】
次に、合成波形を生成する際、使用される各種の音声のうち、本発明の信号生成装置を適用した摩擦信号生成部について詳細に説明する。図2は、例えば図1に示す規則音声装置の波形生成部5内に設けられる摩擦信号生成部等に好適な信号生成装置(以下、摩擦信号生成装置という。)を示すブロック図である。図2に示すように、本実施の形態における摩擦信号生成装置10は、バンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶部11と、帯域幅wが供給されこの帯域幅wに基づきバンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出し部12と、sin波形(正弦波)を生成し出力するsin波形生成部13と、バンド特性波形読出し部12にて読み出された信号波形とsin波形生成部13にて生成されたsin波形とを乗算する乗算器14と、帯域幅w及びゲインGによりゲイン調整するゲイン調整部15とから構成される。
【0030】
バンド特性波形記憶部11は、帯域が低域のみに限定され、位相がランダムなバンド特性を有する時間軸上の信号であるバンド特性波形を保存している。このバンド特性波形記憶部11のバンド特性波形としては、例えば4096個の値(サンプル値)を有するテーブルとして実現することができる。また、このテーブルのサンプル値の数は、生成する摩擦信号の周期性に影響するためが多い方が好ましい。このような位相がランダムで低帯域に制限されたバンド特性波形の作成方法は後述する。
【0031】
バンド特性波形読出し部12は、読出し位置及び読出し間隔が保存されており、これに応じてバンド特性波形記憶部11から上記サンプル値を逐次読出して出力する。このバンド特性波形の読出し間隔を変更することにより、バンド特性波形の帯域を所望の帯域にコントロールした信号波形として読み出すことができる。
【0032】
sin波形生成部13は、外部から指定される中心周波数fcに等しい周波数の正弦波を生成して出力する。乗算器14は、バンド特性波形読出部12の出力とsin波形生成部13の出力との乗算を行い出力する。これにより、生成する信号波形の中心周波数を所望の位置(sin波形の周波数)に移動させることができる。
【0033】
ゲイン調整部15は、外部から指定される信号強度(ゲイン)Gと帯域幅wとにより入力信号の音量を調整して出力する。
【0034】
次に、このように構成された摩擦信号生成装置の動作について説明する。図2に示すバンド特性波形記憶部11には上述したように、後述の方法に従って作成したバンド特性波形のデータが記憶されている。このバンド特性波形をQ(wt/w)とする。そして、バンド特性波形読出部12が、バンド特性波形の帯域幅wと外部から供給され指定される帯域幅wとに応じた読出し間隔Lで上記バンド特性波形を所望の帯域幅とした信号波形として読出し出力する。
【0035】
即ち、バンド特性波形読出部11は、バンド特性波形を作成したときの帯域幅[Hz]をw、外部から指定される帯域幅[Hz]をwとすると、帯域幅を変化させない場合、つまりバンド特性波形の帯域幅wと外部から指定された帯域幅wとが等しいときは読出し間隔L=w/w=1であり、上記サンプル値を1ずつ順次読み出せばよい。一方、帯域幅を可変とする場合、つまり外部から指定される帯域幅wがバンド特性波形の帯域幅wと異なる場合は、w/wは通常小数となる。このため、読出し間隔及び読出し位置も小数で保存しておき、小数を切り捨てた位置の値をバンド特性波形記憶部11から読み出せばよい。
【0036】
例えばバンド特性波形記憶部11に記憶されているバンド特性波形の帯域幅wを100Hz、外部から指定される帯域幅wを150Hzとすると、w/w=1.5となり、従ってバンド特性波形記憶部11から読出すために保存される読出し位置は、1.5、3、4.5、6・・・となり、実際に読み出す際の読み出し位置は、1、3、4、6・・・番目のサンプル値とすればよい。なお、1つ目の値とその次の値(2つ目の値)とから、補間により1.5番目の値を生成して出力するようにしてもよい。
【0037】
また、バンド特性波形記憶部11のバンド特性波形は、長さが有限であり、終端と始端との値が連続になるように作られている。従って、バンド特性波形の読出し位置がバンド特性波形の長さを超えた場合には始端に戻って読み出す。即ち、読出し位置をテーブルのサイズで剰余をとった位置で読み出せばよい。
【0038】
sin波形生成部13は、生成する信号波形、即ち本実施の形態においては生成したい摩擦波形の中心周波数fcに等しい周波数のsin波形を逐次出力する。出力するsin波形の周波数を可変とする場合、外部から指定される中心周波数fcのsin波形を出力する。こうしてバンド特性波形読出部12から所定の読出し間隔で読み出され、所望の帯域幅とされたバンド特性波形と、sin波形生成部13から所望の周波数fcで出力された正弦波とが乗算器14によって乗算され、バンド特性波形は、帯域幅がw、中心周波数がfcの信号波形となる。こうして帯域幅をw、中心周波数をfcとした信号波形がゲイン調整部15に与えられる。
【0039】
ゲイン調整部15では、入力信号をG×√(w/w)倍して出力する。ここでGは外部から与えられる信号の強度であり、√(w/w)は帯域幅を可変とするときのゲインの補正値である。
【0040】
こうしてゲイン調整されたゲイン調整部15の出力Y(t)は、所望のバンドパスの周波数特性、即ち下記式(1)に示すように、中心周波数がfc、帯域幅がwの摩擦性の信号波形となる。
【0041】
【数1】
Figure 2005004105
【0042】
ここで、バンド特性波形から、帯域幅w及び中心周波数fcを可変に調整した摩擦信号としての1つのフォルマント(信号波形)を生成する原理について更に詳細に説明する。図3(a)は、バンド特性波形の帯域幅及び中心周波数を可変とする方法を示す模式図であり、図3(b)及び(c)は、生成された無声音の信号波形を示す図であって、夫々時間軸上及び周波数軸上の信号して示す図である。図3(a)の左図に示すS1は、帯域を低域に制限されたフォルマント形状のバンド特性波形を示すものであり、角速度αwを可変として読み出すことで帯域を可変とした信号波形とすることができる。即ち角速度(読出し速度)αwを大きくすることで帯域幅が広い信号波形とすることができる。また図3(a)の右図に示すS2は、生成するフォルマントの中心周波数となる周波数のsin波形を生成するもので、角速度βfcを変更することにより、sin波形の周波数fcを変更することができる。即ち、角速度βfcを速くすることにより周波数を高くすることができる。
【0043】
これらのS1を所望の角速度αwで読出した出力及びS2を所望の角速度βfcで読出した出力を各時間毎に乗算することで、バンド特性波形が帯域幅がwで、中心周波数がfcの信号波形に変調された目的のフォルマントを得ることができる。この摩擦信号波形は、図3(a)のS1に示すフォルマントを、縦軸に振幅をとって横軸に時間をとると図3(b)のような信号となり、縦軸に振幅をとって横軸に周波数をとると、図3(c)に示すような中心周波数がfc、帯域幅がwのフォルマントS3に変調される。なお、図3(a)の左に示す所定の帯域幅を有するフォルマントが上述のバンド特性波形であり、バンド特性波形記憶部12に記憶されるものである。
【0044】
次に、バンド特性波形記憶部12に記憶されるバンド特性波形の生成方法について説明する。図4は、本実施の形態におけるバンド特性波形を生成する方法を示すフローチャートである。また、図5(a)乃至(d)は、夫々ステップSP1乃至SP4にて生成される信号を示すグラフ図である。図4に示すように、先ず、時間領域にホワイトノイズの波形を生成する(ステップSP1)。これにはガウス分布の乱数発生アルゴリズム等が使用できる。このとき、図5(a)に示すように、ホワイトノイズの波形の長さ(0〜te)はバンド特性波形記憶部11のテーブル長に合わせる。なお、次のステップにて高速フーリエ変換(FFT:fast Fourier transform)を行うのであれば2にしておくことが好ましい。
【0045】
次に、離散フーリエ変換(DFT:discrete Fourier transform)及び対数化により、生成されたホワイトノイズを周波数領域の対数パワースペクトルに変換する(ステップSP2)。このとき、周波数領域の対数パワースペクトルは、図5(b)の左図に示すように、パワー成分はほぼフラットになっている。一方、図5(b)の右図に示すように、位相はランダムになっている。
【0046】
そして、このパワー成分に対して所望のバンドパスの特性を掛け合わせる(ステップSP3)。但し、図5(c)の左図に示すように、バンド特性波形の中心周波数が0Hzとなるような周波数特性が得られるように高域成分を除去する必要がある。なお、この時の帯域幅がバンド特性波形の帯域幅wである。バンド特性を付与しても、図5(c)の右図に示すように、位相はランダムのままである。
【0047】
その後、指数化及び離散フーリエ逆変換(IDFT:inverse discrete Fourier transform)を行い、再び時間領域の波形に戻す(ステップSP4)。ここで生成されるバンド特性波形は、上記式(1)におけるQ(wt/w)である。そして、このようにして生成した図5(d)に示すバンド特性波形をバンド特性波形記憶部11に記憶させる。この図5(d)に示すバンド特性波形は、ホワイトノイズをローパスフィルタに通したものと同様な特徴を持っている。
【0048】
そして、このようにして予め作成されたバンド特性波形は、バンド特性記憶部11に記憶され、上述したように、外部等から与えられる帯域幅wの値に応じて異なる読出し間隔で読み出されることにより、異なるバンド特性の波形となる。例えば、図6(a)に示すように、w/w=1である場合は、読み出された波形はバンド特性波形と同じ形状となり、例えば図6(b)に示すように、w/w=2である場合は、バンド特性波形に比して帯域幅が2倍の波形となる。また、例えば図6(c)に示すように、w/w=1/2である場合は、バンド特性波形に比して帯域幅が1/2の波形となる。
【0049】
また、図2に示すsin波形生成部13は、図7に示すように、sin波形記憶部21及びsin波形読出部22に置き換えてもよい。この場合、中心周波数fcは、sin波形読出部22に供給される。sin波形記憶部21にてsin波形をテーブルとして記憶しておき、sin波形読出部22によって中心周波数fcに応じた間隔でsin波形記憶部22からsin波形の値を読み出す。
【0050】
また、図8に示すように、図2に示す摩擦信号生成装置を複数用意し、各摩擦信号生成装置に異なるパラメータ(fc:中心周波数、w:帯域幅、G:ゲイン)で所望の摩擦信号波形を形成し、これら複数を重ね合わせて摩擦信号を生成する装置を構成することもできる。なお、ここでは、4つの摩擦信号生成装置10〜10のみを示し、各摩擦信号生成装置10〜10に対して夫々帯域幅w1〜w4、中心周波数fc1〜fc4、ゲインG1〜G4を指定して4つの信号波形を生成する例を示す。このように複数の摩擦信号生成装置を有する場合、図2及び図6に示すバンド特性波形記憶部11、並びに図5に示すsin波形記憶部21はそれぞれ1つ用意すればよく、各摩擦信号生成装置10〜10と共通に接続されたものとすることができる。
【0051】
各摩擦信号生成装置10〜10により所望のバンド特性を有するフォルマントとして生成された各摩擦信号波形は、加算器30により加算される。このような複数の摩擦信号生成装置により異なる形状の波形を合成することで目的とする摩擦音を示すスペクトル包絡(spectral envelope)となるような摩擦信号を合成することができる。
【0052】
例えば、図9は、摩擦信号生成装置10〜10により夫々中心周波数fc1〜fc4とし、夫々帯域幅w1〜w4とし、夫々ゲインG1〜G4とした場合の合成結果を模式的に示す図である。このようにバンド特性波形の形状を維持しつつ、所望の帯域幅、中心周波数及びゲインを有する波形を生成することができるため、実際の摩擦音声のスペクトル包絡に近い信号を合成することができる。
【0053】
図10は、本実施の形態における摩擦信号生成装置により生成された各信号波形を合成した結果を示すグラフ図である。図10において、横軸は周波数、縦軸はゲインを示す。摩擦信号生成装置により実際に生成した摩擦信号波形S10(図10には、S10〜S10のみ図示)を、破線で示す実際の摩擦音声信号のスペクトルS11から求めた一点鎖線で示すスペクトル包絡S12となるよう合成したものである。この場合、図2に示す摩擦信号生成装置により順次帯域幅w、中心周波数fc及びゲインGを異ならせて摩擦信号波形S10を生成してもよく、また図8に示す複数の摩擦信号生成装置により、各摩擦信号波形S10を同時に生成するようにしてもよい。
【0054】
このように構成された本実施の形態においては、位相がランダムであって、周数成分が低域のみに制限された所定のサンプル数のバンド特性波形(時間波形)を保存し、このバンド特性波形と最終的に生成したい信号波形の中心周波数の周波数の正弦波とを乗算することで、所望のバンドパス特性を持った周期性を持たない摩擦性の信号波形を少ない計算量で得ることができる。
【0055】
また、ハンド特性波形記憶部11から読み出すバンド特性波形の読出し間隔を可変とすることで、生成する信号波形の帯域幅を自在にコントロールすることができる。
【0056】
更に、正弦波信号生成部13又はsin波形記憶部21及びsin波形読出部22からのsin波形の周波数は可変とすることができ、従って、生成する信号波形の中心周波数を自在にコントロールすることができる。また、sin波形記憶部21により予めsin波形をテーブル化しておくことで、処理の高速化を図ることができる。
【0057】
更にまた、このような摩擦信号生成装置10を複数組み合わせることで、音声波形のような複数のバンドパス特性を表現した周期性を持たない摩擦成分の波形を合成することができる。
【0058】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。上述の実施の形態においては、信号生成装置にて摩擦音を生成するものとして説明したが、周波数、帯域及び振幅を任意に制御した位相が全くランダムな信号を生成することができるため、これを変調波形として電子楽器から発生する音楽を変調すればビブラート効果、トレモロ効果、グロール効果などを持たせて自然な楽音にする変調効果装置として使用することもできる。
【0059】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明に係る信号生成装置は、帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段と、上記バンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出手段と、所望の周波数の正弦波信号を出力する正弦波信号出力手段と、上記バンド特性波形読出手段から読み出された信号波形と上記正弦波出力手段から出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算手段とを有するか、又はこのような信号生成装置を複数組み合わせたものであるので、所望のバンド特性の摩擦性の信号波形等を極めて少ない処理量で容易に作成でき、これを複数組み合わせて合成すれば複数のバンドパス特性を表現した摩擦信号等を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における規則音声合成装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における摩擦信号生成装置としての音声合成装置を示すブロック図である。
【図3】(a)は、バンド特性波形の帯域幅及び中心周波数を可変とする方法を示す模式図であり、(b)は、生成された無声音の信号波形を示すグラフ図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるバンド特性波形を生成する方法を示すフローチャートである。
【図5】上記バンド特性波形をホワイトノイズから生成する際の信号を示すグラフ図である。
【図6】図2に示す摩擦信号生成装置のバンド特性波形読出部の出力信号を示すものであって、(a)乃至(c)は、外部から指定される帯域幅が、バンド特性波形の帯域幅の夫々1倍、2倍、及び1/2倍である場合を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態における摩擦信号生成装置としての音声合成装置の他の例を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態における摩擦信号生成装置としての音声合成装置を示す更に他の例を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態における摩擦信号生成装置において、中心周波数、帯域幅及びゲインを異ならせて生成した信号波形の合成結果を模式的に示す図である
【図10】本発明の実施の形態における摩擦信号生成装置により生成された各信号波形を合成した結果を示すグラフ図である。
【図11】(a)及び(b)は、縦軸に振幅(Amplitude)をとり、横軸に周波数(Frequency)をとって、従来の2次の全極型フィルタの特性を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 規則音声合成装置、2 素片選択部、3 韻律生成部、4 パラメータ時系生成部、5 波形生成部、6 メモリ、10,10 摩擦信号生成装置、11バンド特性波形記憶部、12 バンド特性波形読出部、13 sin波形生成部、14 乗算器、15 ゲイン調整部、21 sin波形記憶部、22 sin波形読出部

Claims (20)

  1. 帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段と、
    上記バンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出手段と、
    正弦波信号を出力する正弦波信号出力手段と、
    上記バンド特性波形読出手段から読み出された信号波形と上記正弦波出力手段から出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算手段とを有することを特徴とする信号生成装置。
  2. 摩擦信号を生成するものであることを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  3. 上記バンド特性波形読出手段は、上記バンド特性波形を所望の帯域の信号波形として読み出すことを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  4. 上記バンド特性波形読出手段は、上記バンド特性波形記憶手段に記憶されたバンド特性波形の帯域と外部から指定される帯域とに基づく読出し間隔で上記バンド特性波形を読み出すことを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  5. 上記正弦波信号出力手段は、外部から指定される周波数の正弦波信号を生成することを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  6. 上記正弦波信号出力手段は、正弦波信号が記憶された正弦波信号記憶手段と、該正弦波信号記憶手段に記憶された該正弦波信号を外部から指定される周波数の正弦波信号として読出す正弦波信号読出手段とを有することを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  7. 上記バンド特性波形は、ホワイトノイズの周波数を低域のみに制限した信号波形からなることを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  8. 上記乗算手段により乗算された信号波形のゲインを調整するゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  9. 上記バンド特性波形記憶手段に記憶されたバンド特性波形は、始端と終端とが連続した値を有するものであることを特徴とする請求項1記載の信号生成装置。
  10. 複数の信号生成部を備え、
    上記信号生成部は、
    帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段と、
    上記バンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出手段と、
    正弦波信号を出力する正弦波信号出力手段と、
    上記バンド特性波形読出手段から読み出された信号波形と上記正弦波出力手段から出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算手段とを有する
    ことを特徴とする信号生成装置。
  11. 帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段からバンド特性波形を読み出すバンド特性波形読出工程と、
    正弦波信号を出力する正弦波信号出力工程と、
    上記バンド特性波形読出工程にて読み出された信号波形と上記正弦波出力工程にて出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算工程とを有することを特徴とする信号生成方法。
  12. 摩擦信号を生成することを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  13. 上記バンド特性波形読出工程では、上記バンド特性波形を所望の帯域の信号波形として読み出すことを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  14. 上記バンド特性波形読出工程では、上記バンド特性波形記憶手段に記憶されたバンド特性波形の帯域と外部から指定される帯域とに基づく読出し間隔で上記バンド特性波形を読み出すことを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  15. 上記正弦波信号出力工程では、外部から指定される周波数の正弦波信号を生成することを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  16. 上記正弦波信号出力工程は、正弦波信号記憶手段に記憶された所定の周波数の正弦波信号を外部から指定される周波数の正弦波信号として読出す正弦波信号読出工程を有することを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  17. 上記バンド特性波形は、ホワイトノイズの周波数を低域のみに制限した信号波形からなることを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  18. 上記乗算工程により乗算された信号波形のゲインを調整するゲイン調整工程を有することを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  19. 上記バンド特性波形記憶手段に記憶されたバンド特性波形は、始端と終端とが連続した値を有するものであることを特徴とする請求項11記載の信号生成方法。
  20. 複数の信号生成部により信号波形を生成する信号生成方法であって、
    上記各信号生成部における信号生成工程は、
    帯域を所定の周波数以下に制限したバンド特性波形が記憶されたバンド特性波形記憶手段から該バンド特性波形を所望の帯域の信号波形として読み出すバンド特性波形読出工程と、
    正弦波信号を出力する正弦波信号出力工程と、
    上記バンド特性波形読出工程にて読み出された信号波形と上記正弦波出力工程にて出力された正弦波信号とを乗算して出力する乗算工程とを有することを特徴とする信号生成方法。
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