JP2004537497A - 疼痛を阻害するための方法 - Google Patents
疼痛を阻害するための方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004537497A JP2004537497A JP2002540626A JP2002540626A JP2004537497A JP 2004537497 A JP2004537497 A JP 2004537497A JP 2002540626 A JP2002540626 A JP 2002540626A JP 2002540626 A JP2002540626 A JP 2002540626A JP 2004537497 A JP2004537497 A JP 2004537497A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- compound
- mammal
- activity
- pain
- nervous system
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
- 0 *C(CCC1*)CC1C1C(C2)C(*)=C2CCCC1 Chemical compound *C(CCC1*)CC1C1C(C2)C(*)=C2CCCC1 0.000 description 2
Images
Classifications
-
- G—PHYSICS
- G01—MEASURING; TESTING
- G01N—INVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
- G01N33/00—Investigating or analysing materials by specific methods not covered by groups G01N1/00 - G01N31/00
- G01N33/48—Biological material, e.g. blood, urine; Haemocytometers
- G01N33/50—Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing
- G01N33/68—Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing involving proteins, peptides or amino acids
- G01N33/6863—Cytokines, i.e. immune system proteins modifying a biological response such as cell growth proliferation or differentiation, e.g. TNF, CNF, GM-CSF, lymphotoxin, MIF or their receptors
- G01N33/6869—Interleukin
-
- A—HUMAN NECESSITIES
- A61—MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
- A61K—PREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
- A61K38/00—Medicinal preparations containing peptides
- A61K38/04—Peptides having up to 20 amino acids in a fully defined sequence; Derivatives thereof
- A61K38/07—Tetrapeptides
-
- A—HUMAN NECESSITIES
- A61—MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
- A61K—PREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
- A61K38/00—Medicinal preparations containing peptides
- A61K38/16—Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof
- A61K38/17—Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof from animals; from humans
- A61K38/19—Cytokines; Lymphokines; Interferons
- A61K38/20—Interleukins [IL]
-
- A—HUMAN NECESSITIES
- A61—MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
- A61K—PREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
- A61K38/00—Medicinal preparations containing peptides
- A61K38/16—Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof
- A61K38/55—Protease inhibitors
-
- A—HUMAN NECESSITIES
- A61—MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
- A61P—SPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
- A61P25/00—Drugs for disorders of the nervous system
- A61P25/04—Centrally acting analgesics, e.g. opioids
-
- A—HUMAN NECESSITIES
- A61—MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
- A61P—SPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
- A61P43/00—Drugs for specific purposes, not provided for in groups A61P1/00-A61P41/00
-
- A—HUMAN NECESSITIES
- A61—MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
- A61K—PREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
- A61K9/00—Medicinal preparations characterised by special physical form
- A61K9/0012—Galenical forms characterised by the site of application
- A61K9/0085—Brain, e.g. brain implants; Spinal cord
-
- G—PHYSICS
- G01—MEASURING; TESTING
- G01N—INVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
- G01N2333/00—Assays involving biological materials from specific organisms or of a specific nature
- G01N2333/435—Assays involving biological materials from specific organisms or of a specific nature from animals; from humans
- G01N2333/52—Assays involving cytokines
- G01N2333/54—Interleukins [IL]
- G01N2333/545—IL-1
-
- G—PHYSICS
- G01—MEASURING; TESTING
- G01N—INVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
- G01N2500/00—Screening for compounds of potential therapeutic value
-
- G—PHYSICS
- G01—MEASURING; TESTING
- G01N—INVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
- G01N2500/00—Screening for compounds of potential therapeutic value
- G01N2500/04—Screening involving studying the effect of compounds C directly on molecule A (e.g. C are potential ligands for a receptor A, or potential substrates for an enzyme A)
Landscapes
- Health & Medical Sciences (AREA)
- Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
- Engineering & Computer Science (AREA)
- Immunology (AREA)
- Chemical & Material Sciences (AREA)
- Medicinal Chemistry (AREA)
- General Health & Medical Sciences (AREA)
- Public Health (AREA)
- Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
- Veterinary Medicine (AREA)
- Pharmacology & Pharmacy (AREA)
- Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
- Animal Behavior & Ethology (AREA)
- Epidemiology (AREA)
- Molecular Biology (AREA)
- Gastroenterology & Hepatology (AREA)
- Biomedical Technology (AREA)
- Urology & Nephrology (AREA)
- Hematology (AREA)
- Cell Biology (AREA)
- Food Science & Technology (AREA)
- Biochemistry (AREA)
- Biotechnology (AREA)
- General Chemical & Material Sciences (AREA)
- Microbiology (AREA)
- Nuclear Medicine, Radiotherapy & Molecular Imaging (AREA)
- Organic Chemistry (AREA)
- Physics & Mathematics (AREA)
- Analytical Chemistry (AREA)
- Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
- General Physics & Mathematics (AREA)
- Pathology (AREA)
- Zoology (AREA)
- Neurology (AREA)
- Neurosurgery (AREA)
- Pain & Pain Management (AREA)
- Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)
- Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)
- Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
Abstract
本発明は、疼痛を治療および予防する方法を提供する。また、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を阻害するか否かを判定するためのスクリーニング方法を提供する。
Description
【0001】
連邦政府により助成された研究についての声明
本発明は、米国国立衛生研究所からの助成金、NS38253−01およびNS40698、を受けたものである。本発明において、米国政府は一定の権利を有する。
【0002】
発明の背景
一般的に、本発明は、哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を阻害することにより疼痛を治療または予防する方法に関する。
【0003】
炎症は、心的外傷、血液供給の欠如、出血、異物、化学薬品、刺激剤、アレルゲン、電気、熱、寒さ、微生物、外科的手術または電離放射線による損傷等の組織損傷に対して生じる。炎症は、傷害の部位における過敏症(一次性痛覚過敏症)、隣接する非外傷組織における過敏症(二次性痛覚過敏症)、および、広汎性疼痛を含む疼痛に関連している。一次性痛覚過敏症は、侵害受容器末端の閾値の低下により引き起され、末梢感作と呼ばれる。炎症部位においてシクロオキシゲナーゼ(Cox)により生産されるプロスタノイドは、PKAが媒介する侵害受容器末端内ナトリウムチャネルのリン酸化により、末梢感作の発生に寄与する。このリン酸化は、侵害受容器末端の興奮性を高め、疼痛閾値を低下させる。二次性痛覚過敏症は、脊髄内のニューロンの興奮性が高まることにより引き起され、中枢感作と呼ばれる。あまり解明されていない広汎性疼痛は、例えば、インフルエンザ様症状に特徴的な疼痛である筋肉痛および関節痛を含み得る。
【0004】
一次性および二次性の痛覚過敏症に寄与するプロスタノイドの生成における2つの律速段階は、ホスホリパーゼA2(PLA2)酵素により制御される膜リン脂質からのアラキドン酸(AA)の放出、および、Coxにより触媒されるAAのプロスタノイド前駆体プロスタグランジンH2(PGH2)への変換である。また、Coxの2つのイソ型が同定されている:Cox−1は多種の細胞に存在し、一般的には常時発現しており、Cox−2は炎症部位で誘導され、腎臓および中枢神経系の一部で常時発現している。一般的に、非ステロイド性抗炎症薬(non−steroidal anti−inflammatory drug; NSAID)の抗炎症効果および鎮痛効果はCox−2の阻害に由来し、その副作用は、Cox−1の阻害に由来する。
【0005】
副作用を軽減して、疼痛を治療または予防するためには、治療法の改善が必要とされている。具体的には、胃腸における合併症の発生が少ない、より効果的な治療法が必要とされている。
【0006】
発明の概要
本発明の目的は、疼痛を治療、緩和または予防するための改良された方法を提供することである。本発明者等は、末梢性炎症が中枢神経系のIL−1βを誘導することにより、疼痛感受性に寄与する中枢性のCox−2およびプロスタノイドのレベルが上昇することを見出した。また、本発明者等は、中枢性のIL−1β活性の阻害の方が末梢IL−1β活性の阻害よりも疼痛の緩和に対してより効果的であり、これが、中枢性のCox−2活性の阻害と同じ程度の効果を示すことを明らかにした。したがって、中枢性のIL−1β活性の阻害は、疼痛を治療、緩和または予防するための改良された方法である。更に、本発明の方法は、哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を低下させる化合物を選択することを許容し、したがって、疼痛の緩和、安定化または予防に有用な新規治療薬の同定を容易にする。また、本発明者等は、MAPキナーゼの阻害剤がCox−2とプロスタノイドの誘導を減少させることを示した。したがって、MAPキナーゼのリン酸化または活性を阻害する化合物を哺乳動物の末梢、および/または、中枢神経系に投与することにより、疼痛を治療、緩和または予防できる。
【0007】
したがって、一つの局面において、本発明は、疼痛を治療、緩和または予防する方法を提供し、該方法は、哺乳動物(例えば、ヒト)の中枢神経系を、疼痛を治療、緩和または予防するのに適当な量のIL−1β活性を低下させる化合物に、接触させる段階を含む。一つの好ましい態様において、化合物は、哺乳動物の中枢神経系に直接投与し、好ましくは、髄腔内、髄内、脳内、側脳室内、頭蓋内、脊髄内、硬膜外腔内、または、頭頂内へ投与する。また別の好ましい態様において、化合物は、哺乳動物の血液−脳関門を通過する。この態様において、血液−脳関門を通過する化合物は、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、鼻腔内、経口、局所的、または、疼痛を予防、緩和または治療するために適当な量の化合物を投与するのに十分なその他の任意の経路によって投与され得る。好ましくは、化合物は、薬学的に許容される担体と共に哺乳動物へ投与する。好ましい態様においては、p38のリン酸化もしくは活性を直接的もしくは間接的に阻害する化合物、および/または、ERKのリン酸化もしくは活性を直接的もしくは間接的に阻害する化合物が投与される。
【0008】
更に、p38またはERK等のMAPキナーゼのリン酸化または活性を直接的または間接的に阻害する化合物は、疼痛の治療、緩和または予防のために、哺乳動物の末梢、または、末梢および中枢神経系の両方に投与できる。この様な方法の一つは、疼痛の治療、緩和または予防のために適当な量の、第一のMAPキナーゼの活性またはリン酸化を低下させる第一の化合物に、哺乳動物(例えば、ヒト)の末梢を接触させる段階を含む。一つの態様において、該方法は、更に、第一のMAPキナーゼまたは第二のMAPキナーゼの酵素活性またはリン酸化レベルを低下させる第一の化合物または第二の化合物を、哺乳動物の中枢神経系に投与する段階を含む。典型的なMAPキナーゼは、p38およびERKである。好ましい態様においては、p38のリン酸化または活性を阻害する化合物、および、ERKのリン酸化または活性を阻害する化合物が投与される。一つの好ましい態様において、化合物を、哺乳動物の中枢神経系に直接投与し、好ましくは、髄腔内、髄内、脳内、側脳室内、頭蓋内、脊髄内、硬膜外腔内、または、頭頂内へ投与する。また別の好ましい態様において、化合物は、哺乳動物の血液−脳関門を通過する。この態様において、血液−脳関門を通過する化合物は、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、鼻腔内、経口、局所的、または、疼痛を予防、緩和または治療するために適当な量の化合物を投与するのに適したその他の任意の経路によって投与され得る。好ましくは、化合物は、薬学的に許容される担体と共に哺乳動物へ投与される。好ましくは、MAPキナーゼのリン酸化レベルまたは酵素活性は、化合物存在下において少なくとも2、3、5、10、20または50分の一に低下する。
【0009】
更に、本発明は、化合物が中枢神経系においてIL−1β活性を阻害するか否かを判定する際に使用できる方法に関する。これらの方法により同定された化合物は、疼痛を治療、緩和または予防する際に有用であり得る。
【0010】
このような一つの局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を阻害するか否かを判定するためのスクリーニング方法を提供し、該方法は、哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階、ならびに、化合物の存在下および非存在下において、哺乳動物における疼痛を測定する段階、または哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を測定する段階を含む。化合物が疼痛またはIL−1β活性の低下をもたらす場合、化合物は、IL−1β活性を阻害すると判定される。
【0011】
別の局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するためのスクリーニング方法を提供する。本方法は、化合物を哺乳動物の末梢に投与する段階、および、化合物の存在下および非存在下において、哺乳動物の中枢神経系および末梢の両方においてIL−1β活性を測定する段階を含む。化合物が哺乳動物の末梢よりも中枢神経系においてIL−1β活性のより大幅な低下をもたらす場合、化合物は、中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害すると判定される。
【0012】
関連する局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するための、更に別のスクリーニング方法を提供する。この方法は、(a)第一の哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階、(b)化合物の存在下および非存在下において、第一の哺乳動物の末梢においてIL−1β活性を測定する段階、(c)第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系に化合物を投与する段階、ならびに(d)化合物の存在下および非存在下において、その第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を測定する段階を含む。化合物が末梢よりも中枢神経系においてIL−1β活性のより大幅な低下をもたらす場合、化合物は、中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害すると判定される。
【0013】
更に別の関連する局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するためのスクリーニング方法を提供する。この方法は、(a)第一の哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階、(b)化合物の存在下および非存在下において、第一の哺乳動物において疼痛を測定する段階、(c)第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系に化合物を投与する段階、ならびに(d)化合物の存在下および非存在下において、第一の哺乳動物または第二の哺乳動物において疼痛を測定する段階。化合物が、末梢よりも中枢神経系に投与した際に疼痛を大幅に緩和する場合、化合物は、中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害すると判定される。
【0014】
本発明の様々なスクリーニング方法の好ましい態様において、これらの方法はまた、IL−1β活性または疼痛の測定を行う前に、哺乳動物、第一の哺乳動物、または、第二の哺乳動物の末梢において炎症を誘導する段階も含む。炎症は、化合物を末梢または中枢神経系に投与する前、その最中、または、その後に誘導されてもよい。その他の好ましい態様において、これらの方法は、IL−1β活性または疼痛を測定する前に、哺乳動物、第一の哺乳動物、または、第二の哺乳動物において神経障害からなる神経因性疼痛を引き起こすために神経の損傷、破壊、または、障害を誘導する段階を含む。神経障害は、化合物を末梢または中枢神経系に投与する前、その最中、または、その後に誘導してもよい。化合物は、好ましくは、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、経口、局所的または鼻腔内投与により哺乳動物の末梢に投与されるか、または、髄腔内、髄内、脳内、側脳室内、頭蓋内、脊髄内、硬膜外腔内または頭頂内投与により哺乳動物の中枢神経系に投与される。また、別の好ましい態様において、化合物は、少なくとも5個、10個、20個、50個または100個の化合物からなるライブラリの一員であり、その全てが同時に哺乳動物に投与される。また、別の好ましい態様において、化合物は、薬学的に許容される担体と共に投与される。哺乳動物は、好ましくは、マウスもしくはラット等の齧歯類であるか、サル、ウサギ、または、モルモットである。中枢性のIL−1β活性を阻害する好ましい化合物には、組換えIL−1raなどのIL−1受容体アンタゴニスト、およびカスパーゼ−1阻害剤が含まれる。好ましいカスパーゼ−1阻害剤としては、アルデヒド、ハロメチルケトン、ジアゾメチルケトン、フェニルアルキルケトンおよびアシルオキシメチルケトン等が含まれる(Livingston, J. of Cellular Biochemistry 64:19−26、1997、Calbiochem Technical Bulletin 「カスパーゼの阻害剤と基質(Caspase Inhibitors and Substrates)」San Diego、California)。好ましいアルデヒドカスパーゼ−1阻害剤としては、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−アルデヒド、アセチル−Val−Ala−Asp−アルデヒド、および、アセチル−Ala−Ala−Val−Ala−Leu−Leu−Pro−Ala−Val−Leu−Leu−Ala−Leu−Leu−Ala−Pro−Tyr−Val−Ala−Asp−アルデヒドが含まれる。好ましいハロメチルケトンとしては、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−クロロメチルケトン、Boc−Asp(O−メチル)−フルオロメチルケトン、Boc−Ala−Asp(O−ベンジル)−クロロメチルケトン、Boc−Asp(O−ベンジル)−クロロメチルケトン、ベンゾイルオキシカルボニル−Tyr−Val−Ala−Asp(O−メチル)−フルオロメチルケトン、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp−フルオロメチルケトン、および、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp(O−メチル)−フルオロメチルケトンが含まれる。これらのいずれのハロメチルケトンのハロゲンも、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、または、アスタチンで置換し得る。アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−ジアゾメチルケトンは好ましいジアゾメチルケトンであり、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp−フェニルアルキルケトンは好ましいフェニルアルキルケトンである。好ましいアシルオキシメチルケトンの例としては、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−[(2,6−ジメチルベンゾイル)オキシ]メチルケトン、ベンゾイルオキシカルボニル−Asp−CH2−[(2,6−ジクロロベンゾイル)オキシ]メタン、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−(ジクロロベンゾイル)オキシ−メチルケトン、および、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp(O−エチル)−(ジクロロベンゾイル)オキシ−メチルケトンが含まれる。標準的な方法によりアスパラギン酸残基がエステル化された化合物を含むこれらの化合物の誘導体も本発明の方法に使用してもよい。
【0015】
本発明における様々な方法の好ましい態様において、化合物は、p38またはERK等のMAPキナーゼまたはCREB等の転写因子のリン酸化または活性を直接的にまたは間接的に阻害する。別の好ましい態様において、化合物は、IL−1β、p38、および/または、ERK活性化の下流にあるタンパク質、例えば、膜受容体(例えば、NMDAまたはAMPA受容体)または、イオンチャネル等の翻訳後制御を直接的または間接的に調節する(例えば、リン酸化を阻害する)。好ましくは、このタンパク質リン酸化の阻害は、膜の興奮性を低下させるものであり、標準的な方法により測定される。また別の好ましい態様において、ERK活性またはリン酸化を阻害する化合物を投与することは、CREB等の転写因子のリン酸化レベルの低下または遺伝子転写レベルの低下へとつながる。遺伝子転写が低下する結果となる特定の態様において、化合物は、c−fos等の直前の遺伝子の転写、または、CRE部位を含むプロモーター(例えば、プロダイノルフィンまたはNK−1プロモーター)に機能的に接続した遺伝子の転写を低下させる。また、別の好ましい態様において、プロダイノルフィンおよび/またはNK−1のmRNAまたはタンパク質レベルは、化合物の投与により低下する。別の態様において、化合物は、VR1等のmRNAの転写、または、mRNAもしくはタンパク質の半減期を減少させる。
【0016】
本明細書において「IL−1β活性を低下させる化合物」とは、標準的な方法により測定された、IL−1βmRNAもしくはタンパク質のレベル、IL−1βの活性、IL−1βmRNAもしくはタンパク質の半減期、または、受容体もしくは他の分子へのIL−1βの結合を低下させる化合物を意味する(例えば、Ausubelら、「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、第9章、John Wiley & Sons、New York、2000参照)。また、別の好ましい態様において、IL−1β活性を低下させる化合物は、Cox−2mRNAもしくはタンパク質のレベル、プロスタノイドのレベル、シグナル伝達タンパク質(例えば、p38またはERK等のMAPキナーゼ)のリン酸化レベル、または、疼痛のレベルまたは継続期間を低下させるか安定させる。Cox−2mRNAの発現レベルは、ここに記載されているような標準的なRNase保護アッセイまたはインサイチューハイブリダイゼーションアッセイを使用して決定され、Cox−2タンパク質レベルは、Cox−2抗体を用いた標準的なウエスタン法または免疫組織化学分析により決定し得る(例えば、上記のAusubelら参照)。また、PGH2またはPGE2等の誘導されたIL−1βであるプロスタノイドのレベルは、ここに説明されているような標準的なELISAアッセイを用いて測定され得る。IL−1受容体活性化の下流にあるシグナル伝達タンパク質である、p38MAPキナーゼ、ERKMAPキナーゼ、junキナーゼ(JNK)、NFκ−B、または、Iκ−B等のリン酸化レベルも、前記の方法により測定し得る(O’NeillおよびGreene、J. Leukoc. Biol. 63:650−657、1998;Auron、Cytokine Growth Factor Rev. 9:221−237、1998)。様々な態様において、化合物は、p38またはERK等のMAPキナーゼのリン酸化または活性を直接的または間接的に阻害する。その他の態様において、化合物は、p38またはERK等のMAPキナーゼのリン酸化または活性を直接的または間接的に阻害しない。IL−1β活性のレベルは、下記のとおり、疼痛のレベル、持続期間、または、発生の遅延を測定することにより判定してもよい。IL−1β活性を低下させる能力について試験されうる化合物としては、合成有機分子、天然に存在する有機分子、核酸分子、IL−1βアンチセンス核酸、生合成タンパク質もしくはペプチド、天然に存在するペプチドもしくはタンパク質、IL−1β抗体、または、ドミナントネガティブなIL−1βタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、化合物は、IL−1β活性を少なくとも20%、40%、60%、80%、または、90%低下させる。別の好ましい態様において、IL−1β活性のレベルは、化合物存在下では、少なくとも2、3、5、10、20、または、50分の一である。好ましくは、中枢神経系におけるIL−1β活性の低下は、末梢におけるIL−1β活性の低下の2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、または、50倍である。
【0017】
「疼痛」とは、ある形態の神経末端の刺激による苦痛の感覚を意味する。疼痛は、その位置、性質(例えば、局所性の痛み、拡散的な痛み、恒常的な痛み、間欠痛、灼熱痛、きりきりする痛み、噛まれるような痛み、鋭い痛み、鈍痛、または、拍動痛)、放散性(例えば、最もひどい状態の患部からの痛みの分布)、頻度、または、関連する症状(例えば、機械的刺激(mechanical)閾値または払いのけ潜時)により特徴付けられる。哺乳動物における疼痛のレベル、継続時間、または、遅延された発生は、標準的な方法のいずれのものをも使用して測定し得る。好ましい炎症性疼痛のモデルは、ラットまたはマウス等の齧歯類の片側の後ろ足にホルマリン、カラゲナン、または、フロイント完全アジュバント(complete Freund’s adjuvant; CFA)を注射することを含む(Honoreら、J. Neurosci. 19:7670−7678、1999)。慢性的な炎症性疼痛のモデルとして、CFAを使用してマウスまたはラットにおいて関節炎を誘導してもよい(Honoreら、上記参照;Vieiraら、Eur. J. Pharmacol. 407:109−116 2000)。これらの炎症性疼痛モデルにおける疼痛のレベルを測定する為には、痛感刺激(熱)または機械的刺激過敏症に応答した際の払いのけ潜時を、校正したフォン・フライフィラメントを使用して、既に説明されているとおりにアッセイする(Decosterdら、Pain 87:149−158、2000)。また、マウスまたはラットの足にカプサイシン等の刺激物を皮内または局所的に投与した後の足舐め反応の回数、または、モルモットの結膜に刺激物を局所的に投与した後の拭き動作の回数を測定してもよい(Vieiraら、上記参照)。化合物が疼痛を緩和、安定化、予防、または、発生を遅延する能力は、酢酸を腹腔内投与した後の齧歯類の身もだえ反応の回数に対する化合物の効果を測定することにより判定できる(Saturninoら、Biol. Pharm. Bull. 23:654−656、2000)。また、炎症を起こした足を機械的に刺激するテストチャンバー内の位置を、CFA処理されたラットが避ける期間も判定し得る(LaBudaおよびFuch、Exp. Neruol. 163:490−494,2000)。一つの好ましい態様において、疼痛を、傷害の部位(一次性痛覚過敏症)または隣接する非外傷組織(二次性痛覚過敏症)で測定する。別の好ましい態様においては、広汎性の痛みが測定される。他の好ましい態様において、痛覚過敏症または異疼痛は、抑制される。また、脊椎損傷後の疼痛等の中枢神経系から生じる疼痛も測定し得ると予想される。末梢神経因性疼痛を研究するために、例えば、残存神経損傷モデル(Spared Nerve Injury model)(DecosterdおよびWoolf、Pain 87:149−158、2000)または慢性絞扼神経損傷モデル(Chronic Constriction Injury model)(BennettおよびXie、Pain 33:87−107、1988)において化合物が末梢神経因性疼痛を抑制または予防する能力を測定することが可能である。
【0018】
「末梢」または「末梢神経系」とは、脳と脊髄以外の神経系領域を意味する。例えば、末梢神経系は、脳または脊髄へ信号を伝達する感覚神経および運動神経繊維を含む。
【0019】
「中枢神経系」とは、脳脊髄液を含む、脳または脊髄を意味する。
【0020】
本発明は、疼痛の治療または予防に関連する数々の利益を提供する。例えば、哺乳動物の中枢神経系へIL−1β活性阻害剤を投与することにより、末梢神経系へこれらの阻害剤を投与した場合よりも大幅に疼痛が弱まる。更に、活性型IL−1βの生成を阻害する化合物の髄腔内投与は、機械的刺激による疼痛および温熱性疼痛に対する感度を低下させることにおいて、選択的なCox−2阻害剤と同じ程度の効果を示す。したがって、中枢神経系においてIL−1β活性を阻害する化合物の投与は、疼痛を治療または予防する為の最新の方法よりも効果的であり得る。更に、治療効果のある量を調整する際に、中枢性のIL−1β阻害剤は、より少ない投与量、または、より頻度の低い投与回数を必要とし得る。このような少ない投与量の使用は、これらの化合物からの副作用の頻度および重篤さを最小限にし得る。
【0021】
本発明のその他の特徴および利点は、下記の詳細な説明および添付の特許請求の範囲により明らかであると考えられる。
【0022】
詳細な説明
本発明は、末梢性の炎症に反応した中枢神経系におけるCox−2発現とプロスタノイド産生との誘導に関する重要な要因が、中枢神経系におけるIL−1βの上方制御であるという発見に由来する。これに対し、末梢性の炎症部位を神経支配する神経線維からの知覚の流入によって生じた中枢性のCox−2レベルの増加は、はるかに小さかった。さらに、疼痛の感受性に関与する中枢神経系のプロスタノイドの産生は、上流の酵素であるホスホリパーゼ2のレベルよりむしろ中枢性のCox−2レベルに相関した。
【0023】
中枢神経系においてCox−2が誘導されること、そしてそれによって中枢性のプロスタノイド産生が増加することは、一次性痛覚過敏、二次性痛覚過敏、および散在性疼痛に関与する可能性がある。例えば、中枢性のCox−2は、侵害受容器線維からの伝達物質の放出を促進することによるのみならず、中枢神経系におけるプロスタノイド受容体を直接活性化することによって、慢性的な末梢性の炎症性過敏症の確立および維持に関与する可能性がある。炎症組織に隣接した感受性の増大は、おそらく中枢性のプロスタノイドによって、および炎症組織を神経支配する知覚線維の中枢末端から放出される神経調節物質によって媒介される。多くの炎症疾患に典型的な散在性の痛みおよび疼痛、ならびに感染疾患に関連する発熱、嗜眠、および食欲不振も同様に、Cox−2が広い範囲で誘導され、これに続いて末梢炎症後に中枢神経系においてプロスタノイドが産生されることによって引き起こされる可能性がある。
【0024】
ラット脊髄にIL−1β産生阻害剤を投与すると、末梢炎症によって誘導される中枢性のCox−2 mRNAレベル、中枢性のプロスタグランジン2レベル、および熱疼痛感受性の増加が減少した。このように、中枢神経系におけるIL−1β活性の阻害は、ヒトのような哺乳動物における疼痛を予防、減少、または安定化させる有用な手段である。
【0025】
本発明者らはまた、末梢炎症が一次知覚ニューロンにおいてMAPキナーゼp38を活性化させるが、二次後角ニューロンにおいては活性化させないことも発見した。特に、p38は、炎症後に後根神経節(DRG)ニューロンのC線維侵害受容器において主に活性化された。p38阻害剤を髄腔内に投与すると、炎症性の熱痛覚過敏を緩和したが、機械的刺激痛覚過敏は緩和しなかった。熱痛覚過敏を媒介するVR1受容体は、p38活性化の標的である。VR1タンパク質は炎症によって上方制御されるがVR1 mRNAは上方制御されず、p38は、VR1発現ニューロンにおいて主に活性化された。p38活性化は、VR1タンパク質レベルの炎症による増加に必要であった。神経成長因子(NGF、既知の疼痛媒介物質)は、これらの事象の誘因となる可能性がある。NGFは炎症によるp38活性化およびVR1上方制御に必要であり、VR1のNGF誘導性上方制御は、p38によって媒介される(図26A〜図26F)。
【0026】
もう一つのMAPキナーゼであるERKの活性化は、後角における侵害受容の可塑性において二つの役割を有する;急性の侵害刺激誘導中枢の感作に対する短い潜時の関与、ならびに炎症性疼痛の誘導および維持における関与。末梢性の炎症性疼痛の知覚過敏におけるpERKの関与は、少なくとも部分的に、疼痛メディエータであるプロダイノルフィンおよびNK−1ならびに他の標的遺伝子の発現の調節が原因であるかも知れない。したがって、ERK活性化は、多様な入力に対する特定のエフェクター反応の活性化を決定して、これが過敏性の変化に関与する、浅側後角における一群のニューロンの機能的可塑性および化学的表現型において肝要な役割を有する。
【0027】
IL−1βを一次知覚ニューロンに投与しても同様に、MAPキナーゼp38またはERKのリン酸化が増加した(図25)。これらのキナーゼの阻害剤は、IL−1βによって誘導されたCox−2 mRNAおよびPGE2の増加を減少させた。これらの結果は、MAPキナーゼリン酸化および/または活性の阻害剤が、疼痛を減少または予防できることの根拠となる。
【0028】
上記の実験を、以下のように実施した。
【0029】
実施例 1 : Cox2 の中枢での誘導
フロイント完全アジュバント(CFA)によって誘発された片側の後足炎症後の中枢神経系におけるCox−2誘導の程度を調べた。CFA(100 μl、Sigma)を、2%ハロタンによって麻酔したラットの左後足に注射した。Cox−2 mRNAレベルは、RPA IIIキット(Ambion)を用いて脊髄試料からの全RNA抽出物について行うRNase保護アッセイを用いて測定した。Cox−2放射標識リボプローブの鋳型を、ラットの後根神経節cDNAから、プライマー
および
を用いたPCRによって作製して、その後pCRII(Invitrogen)にクローニングした。それぞれの観察について少なくとも二つのアッセイを用いて、Cox−2 mRNAレベルが何倍変化したかをβアクチンロード対照に関して決定した。
【0030】
局所的末梢炎症によって、足の求心性末端がある腰髄の領域(L4/L5分節)で、Cox−2 mRNAレベルが迅速に時間依存的に増加した(図1A)。最大誘導は6時間で起こり(16倍)、少なくとも24時間持続した(9倍)。初期(2時間〜6時間)では、増加は炎症と同側で最大であった。予想外に、12時間および24時間では、レベルは腰髄において両側に対称的であり(図1Aおよび図1C)、Cox−2発現が全般的に増加していることを示唆した。
【0031】
このようなCox−2発現の全般的増加の可能性を確認するために、Cox−2レベルをラットの多数の領域において測定した。後足の炎症によって、皮膚(18倍)および脊髄の全てのレベルでCox−2発現が増加した(図1B)。Cox−2発現の増加は、橋、腹側中脳、視床下部、および視床においても認められた(図1Bおよび図1D)。大脳皮質におけるCox−2発現は構成的であり、炎症によって有意に影響を受けなかった(図1B)。
【0032】
末梢炎症後の後角におけるCox−2タンパク質の誘導を可視化するために、既に記述されているように(Amayら、Mol. Cell Neurosci. 15:331〜342、2000)、Cox−2抗体(Santa Cruz)および神経マーカーであるNeuN抗体(Chemicon)を用いて、脊髄横断切片(20 μm)について免疫組織化学を行った。Cox−2 mRNAの誘導を可視化するためにジゴキシゲニン標識リボプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーションを行った(Mannionら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:9385、1999)。Cox−2 mRNAおよびタンパク質の低い基底レベルが後角ニューロンに存在し、炎症後6時間および12時間で実質的に上方制御された(図2A〜図2Dおよび図3)。Cox−2のこの誘導がPGE2レベルの増加に相関するか否かを判定するために、脳脊髄液試料100 μl〜200 μlを麻酔したラットの大槽から27G針を用いて採取して、製造元のプロトコール(Amersham Pharmacia Biotech)に従ってPGE2酵素イムノアッセイを用いてPGE2レベルを分析した。実際に、Cox−2の誘導は脳脊髄液においてPGE2レベルの80倍以上の増加に関連し、これは炎症の12時間後に最大であった(図4)。
【0033】
Cox−2発現はまた、神経損傷によって中枢神経系においても誘導された。特に、Cox−2 mRNAは、「予備神経損傷モデル」(「SNI」、DecosterdおよびWoolf、Pain 87:149〜158、2000)および慢性結紮損傷(Chronic Constriction Injury)モデル(「CCI」、BennettおよびXie、Pain 33:87〜107、1988)のようなニューロパシー疼痛ラットモデルの脊髄において誘導された(図14)。Cox−2 mRNAはまた、坐骨神経の完全な離断(「軸索切断」)後にも誘導された。このように、炎症性疼痛におけるその役割の他に、中枢性のプロスタノイドはまた、神経損傷によって誘導された病的疼痛の一つの型であるニューロパシー疼痛にも関与している。
【0034】
実施例 2 :中枢性の Cox−2 レベルに及ぼす知覚流入の影響
末梢性の炎症に反応した中枢性のCox−2誘導には二つの作用機構が関与しうる:1)炎症を有する後足を神経支配する神経線維からの知覚流入、または2)循環中の前炎症性サイトカイン。一次知覚ニューロンの活性が中枢性のCox−2を増加させるか否かを判定するために、後根が付随した単離成体ラット脊髄切片調製物を分析した(図5A)。この脊髄切片を調製するために、成体ラットからウレタン麻酔下で腰髄を採取して、冷クレブス溶液に浸した。L4後根(15mm〜20mm)が付随した厚さ700 μmの横断切片を調製して、95%O2および5%CO2によって飽和したクレブス溶液によって36℃〜37℃で還流した(Babaら、J. Neurosci. 19:859、1999)。吸引電極を用いて、Aβ線維に関して20 μA(0.05 ms、50 Hz)、Aβ線維に関して100 μA(0.05 ms、50 Hz)、およびC線維に関して1000μA(0.5 ms、50 Hz)で、L4後根を30分間電気刺激した。切片をクレブス溶液によって電気刺激の前に2時間還流し、刺激後3時間還流した。
【0035】
Aβ線維、Aδ線維、またはC線維の強度で30分間後根を電気刺激すると、3時間後に同側の後角において、Cox−2 mRNAが、反対側の後角または非刺激切片と比較して2倍〜3倍増加した(図5B)。C線維の強度での坐骨神経のインビボでの30分間刺激を、既に記述されているとおりに(Mannionら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:9385、1999)行った場合も、3時間後に腰髄においてCox−2発現が誘導された。しかし、Cox−2発現のこの3倍〜4倍の増加は、末梢炎症後の10倍以上の増加よりも小さかった(図5C)。
【0036】
炎症を有する後足を神経支配する神経線維からの知覚流入が、末梢炎症後の中枢性のCox−2の大きい誘導を説明するために十分であるか否かを判定するために、生体分解性のブピバカイン−ポリエステルミクロスフェアの注射用懸濁液を用いて、神経ブロックを行い、その30分後にCFAをラット後足に注射した(n=6)(Curleyら、Anesthesia 84:1401、1996)。行動の評価およびこれまでに報告された電気生理研究に基づくと、この神経ブロックによって、坐骨神経の完全な知覚および運動神経遮断が48時間起こった。坐骨神経伝導のこの遮断によって、脳脊髄液中のPGE2レベル(図5E)および後足炎症後の同側の腰髄におけるCox−2 mRNA誘導(5±1.5倍、n=3、図5D)は減少したものの、消失しなかった。したがって、知覚流入は中枢性のCox−2を誘導するには十分であるが、末梢炎症後の中枢性のCox−2誘導にはさらなる要因が関与しているに相違ない。
【0037】
実施例 3 : IL−1 βの上方制御および中枢性の Cox−2 レベルに及ぼすその影響
IL−1βもまた中枢性のCox−2の誘導に関与するか否かを試験するために、既に記述されているように(Safieh−Garabedianら、Br. J. Pharmacol. 115:1265〜1275、1995)ELISAを用いて、IL−1βレベルをラットの末梢および中枢神経系において測定した。IL−1βの顕著な上方制御(>10,000倍)が、CFA投与後まもなく炎症を有する足に起こり、数日間持続した(図6A)。IL−1βはまた、脳脊髄液において炎症の2時間後および4時間後にそれぞれ、50倍および20倍の増加を示し(図6B)、これはCox−2 mRNAの最大上方制御の前に起こった。既に記述されている(Amayaら、上記)通りに行った抗I型IL−1受容体抗体(Research Diagnostics)による免疫組織化学に基づくと、I型IL−1β受容体は、脊髄、特に炎症後にCox−2が誘導される領域である後角の第I層〜第III層において(図6C)強く発現された。
【0038】
IL−1βが中枢性のCox−2を誘導するか否かを判定するために、ラットにこのサイトカインの静脈内または髄腔内投与を行い、腰髄においてCox−2 mRNAレベルを5時間後に評価した。IL−1β(1μg)を静脈内投与すると、脊髄におけるCox−2 mRNAを4倍上方制御したが(図6D)、5 ngまたは50 ngのIL−1β髄腔内注射によりはるかに大きい作用が得られた(それぞれ、20倍または30倍)(図6D)。IL−1βはまた、IL−1βの髄腔内投与後インビボで、そして初代神経培養においてインビトロの双方で、一次知覚ニューロンである後根神経節ニューロン(「DRG」)においてCox−2発現を誘導する。特に、Cox−2mRNAレベルおよびタンパク質レベルは、1 ng/mlまたは10 ng/mlのIL−1βの投与後、培養DRGニューロンにおいて有意に増加した。この分析に関して、Cox−2 mRNAレベルはRNase保護アッセイを用いてモニターして、タンパク質発現は、本明細書に記載するように免疫組織化学によって可視化した(図10)。IL−1β(1 ngおよび10 ng)の髄腔内投与も同様に、処理の4時間後にラット腰髄DRGニューロンにおいてCox−2 mRNAレベルを実質的に上方制御させた(図11)。その上、中枢性PGE2レベルは、IL−1β(5ng)の髄腔内投与後に、本来のレベル24±10 pg/mlから1204±360 pg/mlへと有意に上方制御された(50倍)(p<0.005、n=6)。この結果は、Cox−2の中枢性のIL−1β媒介誘導によって中枢性のプロスタノイド産生が起こることを示唆している。
【0039】
Cox−2の誘導における中枢性のIL−1βの役割をさらに支持するために、IL−1β活性を阻害する効果を決定した。中枢性のIL−1β活性は、組み換え型IL−1β受容体アンタゴニスト(IL−1ra)またはカスパーゼ−1(プロインターロイキン−1βを活性型のIL−1βに変換する、インターロイキン−1β変換酵素としても知られる)阻害剤のいずれかの髄腔内投与によって阻害された。6μgのIL−1raをCFA注射の30分前に髄腔内投与すると、Cox−2 mRNAレベルは炎症の6時間後に75%減少した(図7B)。カスパーゼ−1阻害剤であるYVAD(Calbiochemのアセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−CHO、1nmol、0.5 μg)を用いた30分間の髄腔内前処理により、末梢炎症の6時間後に脊髄のCox−2 mRNAの誘導が65%遮断された(図7D)。YVAD(1nmol)の髄腔内前処理によってもまた、炎症の12時間および24時間後における中枢性のPGE2レベルが50%減少した(図7E)。これらのデータは、脊髄におけるIL−1βが末梢性の炎症後のCox−2の中枢性の転写活性化に関して、おそらく他のサイトカインと共に作用して関与すること、そしてCox−2誘導が中枢性のPGE2の産生/放出における主な制限因子であることを示す。
【0040】
中枢性のCox−2誘導の挙動的結末を試験するために、カスパーゼ−1阻害剤であるYVAD、またはCox−2阻害剤であるNS398を投与した場合の、ラットにおける機械的刺激感受性および熱刺激感受性に及ぼす影響を決定した。機械的刺激過敏症は、既に記述されているように(Decosterdら、Pain 87:149〜158、2000)較正したフォンフレー(Von Frey)繊維(0.017〜95.5)を用いて、無傷および炎症を有するラットにおいて評価された。熱感受性は、輻射熱光線を適用して、足の払いのけ潜時(withdrawal latency)を記録することによって評価された(Decosterdら、上記)。NS398(30 μg)を髄腔内投与すると、機械的刺激痛覚過敏(4.2倍)および熱痛覚過敏が、末梢のCFA誘導炎症の48時間後にいずれも有意に減少したが、静脈内投与では減少しなかった(図8A、図8B、および図8D)。YVAD(1nmol)を髄腔内投与すると、機械的刺激感受性の正常化に対してさらにより大きい作用を示した(12倍)(図4D)。Cox−2とカスパーゼ−1阻害剤はいずれも、無傷のラットにおける機械的刺激疼痛感受性または熱疼痛感受性に有意な影響を及ぼさなかった。これらの結果は、中枢神経系においてIL−1β活性を阻害する化合物が、哺乳動物における疼痛の治療および予防において有用であることを示唆している。
【0041】
実施例 4 : Cox−2 の誘導における MAP キナーゼおよび NF κ −B の役割
IL−1βによる処理後にDRGニューロンにおいてCox−2 mRNAを増加させる細胞内シグナル伝達経路を試験するために、一次DRGニューロンにおけるNFκ−B転写因子およびMAPキナーゼファミリーメンバーの活性化を調べた。IL−1βをDRG細胞培養物に投与すると、p38およびERKがリン酸化された。リン酸化されたp38およびERKは、10 ng/ml IL−1βを培養培地に投与してから30分後に、標準的なウェスタンブロット分析および免疫組織化学によって可視化した(図12)。DRGニューロンにおける特異的I型IL−1受容体の発現は、MAPキナーゼファミリーのこれらのメンバーが、一次知覚ニューロンにおけるIL−1βの直接作用によって活性化されることを示唆している。
【0042】
Cox−2 mRNAレベルおよびタンパク質レベルのIL−1β媒介誘導に対するp38、ERK、およびNFκ−Bの関与を測定するために、これらの因子のそれぞれに関する特異的阻害剤を用いた。p38およびERK阻害剤はそれぞれ、初代DRGニューロン培養物においてIL−1βによるCox−2 mRNAの誘導を30%減少させた(図10)。対照的に、NFκ−B特異的阻害剤は、IL−1β処理によって誘導されたCox−2 mRNAレベルの増加に影響を及ぼさなかった。p38とERK MAPキナーゼ阻害剤の双方を組み合わせると、IL−1βによるCox−2 mRNAの誘導は劇的に減少し、このことは、p38とERKとがIL−1β処理に反応して相乗的に作用してCox−2 mRNAを上方制御することを示す(図10)。
【0043】
COX−2上方制御と共にMAPキナーゼ阻害剤によるその遮断の機能的関連性を評価するために、培養DRGニューロンによってインビトロで分泌されたPGE2レベルを、IL−1β処理後にELISAによって定量した。一次知覚ニューロンにおけるCox−2 mRNAレベルおよびタンパク質レベルの上方制御によって、PGE2合成が増加した。PGE2レベルのこの増加は、MAPキナーゼ阻害剤によって減少した(図13)。
【0044】
これらの結果は、ニューロンにおけるCox−2発現の誘導およびプロスタノイドの放出に関与するシグナル伝達機構に、MAPキナーゼファミリーメンバーが含まれることを示す。MAPキナーゼ阻害剤が、IL−1βによるCox−2の誘導およびその後のプロスタノイドの放出の双方を遮断できることから、これらの阻害剤は、末梢および中枢のプロスタノイド放出を減少させ、痛覚過敏を緩和するための有用な鎮痛薬候補物質となる。
【0045】
実施例 5 :痛覚過敏における p38 MAP キナーゼの役割の特徴付け
本発明者らは、末梢神経系の後根神経節(DRG)ニューロンに作用する炎症性熱疼痛過敏の発生におけるp38 MAPキナーゼの新規役割を発見した。フロイント完全アジュバント(CFA)をラットの後足に注射すると、持続的な炎症およびDRGニューロンにおけるC線維侵害受容器一次知覚ニューロンにおけるp38の持続的な活性化が起こった。ERK活性化とは対照的に、炎症後の後角にp38活性化の増加を認めなかった。炎症はまた、DRGニューロンにおいて、バニロイド受容体サブタイプ1(VR1)タンパク質の持続的な上方制御を引き起こしたが、mRNAの持続的な上方制御は引き起こさなかった。VR1は、侵害熱刺激の検出に関与する受容体であり、同様に炎症性の熱痛覚過敏も媒介する。p38阻害剤であるSB203580を髄腔内に注入すると、炎症によって誘導されたVR1タンパク質レベルの増加が遮断され、炎症によって誘導された熱痛覚過敏の持続が緩和された。対照的に、阻害剤は、機械的刺激異痛、炎症の重症度(すなわち、腫脹)、または基底疼痛感受性(すなわち、炎症が存在しない場合の疼痛)に有意な影響を及ぼさなかった。炎症によるp38の活性化には神経成長因子(NGF)を必要とし、NGFは炎症組織において産生され、末梢の感作を促進して、知覚ニューロンにおける遺伝子発現を増加させることによって炎症性疼痛を促進する。逆に、p38活性化は、NGF誘導VR1上方制御(図26A〜図26F)に必要であった。このように、末梢神経系におけるC線維侵害受容器におけるp38の活性化は、NGF依存的にVR1翻訳を増加させることによって、炎症性の熱痛覚過敏に関与する可能性がある。
【0046】
本実験を、下記においてより詳しく説明する。
【0047】
DRG における p38 の活性化
局所的末梢炎症によってDRGニューロンにおけるp38活性化が起こるか否かを評価するために、マサチューセッツ総合病院動物飼育施設ガイドライン(Massachusetts General Hospital Animal Care institutional guidelines)に従って飼育して、ペントバルビタール麻酔下(50 mg/kg〜60 mg/kg、腹腔内投与)の成体雄性スプレージ−ドーリー系ラット(240 g〜320 g)の左後足の足底表面に、CFAを100 μl注射した。このCFA注射によって、数分間で発症して1週間以上持続する局所炎症が誘導され、腫脹、紅斑、および炎症性疼痛を伴った(Steinら、Pharmacol. Biochem. Behav. 31:455〜51、1988;Safieh−Garabedianら、Br. J. Pharmacol. 115:1265、1995)。
【0048】
p38のリン酸化がこのCFA処理によって誘導されるか否かを判定するために、免疫組織化学を行った。固定液はリン酸化を直ちに停止させることから、還流固定組織の免疫染色を用いてp−p38レベルを定量した。新鮮な組織の場合、DRG採取の際の軸索の切断および組織の冷却のような機械的解剖技法は、強い知覚刺激であり、このように知覚ニューロンのリン酸化レベルの変化を引き起こすであろう。したがって、DRGニューロンにおけるp38リン酸化を試験するために、ウェスタン分析を用いなかった。
【0049】
この免疫組織化学分析に関して、ラットの上行大動脈内部を生理食塩水によって還流した後、1.5%ピクリン酸を含む4%パラホルムアルデヒドによって還流した。L4およびL5のDRGならびにL4−L5脊髄セグメントを解剖した。DRGおよび脊髄横断切片(20 μm)を切断して、既に記述されたABC法を用いて(Jiら、Nat. Neurosci. 2:1114〜1119、1999)、抗p38ポリクローナル抗体およびホスホp38ポリクローナル抗体(300倍希釈、New England BioLabs)ならびに抗VR1ポリクローナル抗体(5000倍希釈、Glaxso Welcome社およびDavid Julius博士から提供された)によって、免疫組織化学のために処理した。同時局在試験に関して、ホスホp38抗体(抗ウサギ抗体、300倍希釈)およびVR1抗体(抗モルモット抗体、3000倍希釈、Neuromics)またはP2X3抗体(抗モルモット抗体、3000倍希釈、Neuromics)、またはNeuN抗体(抗マウス抗体、3000倍希釈、Chemicon)に反応する抗体のあいだの二重染色を分析するために免疫蛍光を行った。この二重免疫蛍光は、これまでに記述されている通りに実施した(Jiら、上記)。簡単に説明すると、DRGおよび脊髄切片を二つの一次抗体の混合物と共に4℃で一晩インキュベートした後、FITC結合二次抗体およびCY3結合二次抗体(300倍希釈、Jackson immunolab)の混合物と共に室温で2時間インキュベートした。チラミドシグナル増幅(TSA、NEN社)キットを用いて、既に報告されているように(Amayaら、Mol. Cell. Neurosci. 15:331〜342、2000)二つのウサギポリクローナル抗体による二重染色を行った。免疫染色したDRG切片の像は、CCDカメラによって捕獲した。免疫染色の強度は、コンピューター補助ソフトウェア(IP lab)によって測定して、免疫反応性ニューロンのプロフィールを盲検的に計数した。この計数は、細胞総数を決定しなかった(CoggeshallおよびLekan、1996)。その代わりに、結果は、対照および処理動物のあいだに染色レベルの差を評価する方法を提供する。実験条件による変動を防止するために、対照および処理DRG切片を同じスライドガラス上に載せて同じ条件で処理した。陽性細胞を採取する閾値は、弱く染色した細胞を検出しないレベルに設定した。これまでに報告されているように(Jiら、1999、上記)、一連のDRG連続切片(20 μm)から5個目ごとの切片を採取して、切片4個をそれぞれのDRGに含めた。免疫反応性ニューロンのプロフィールの割合(%)=(陽性染色ニューロンプロフィールの数/総ニューロンプロフィールの数)×100。
【0050】
リン特異的p38抗体によるこの染色に基づいて、活性化p38(ホスホp38(p−p38))は、無傷のラットのDRGニューロンの約15%(小さなニューロン全て)に存在する。ホスホp38はニューロンおよびグリア細胞の核および細胞質において発現される。炎症は、ホスホp38(p−p38)レベルの実質的な増加を誘導した(図15Aおよび図15B)。この増加は、CFA注射後1日目で有意であり、2日後にピークに達し、数日間高レベルで維持された(図15C)。p−p38レベルの増加は、p−p38免疫反応性ニューロンの数の増加のみならず、その強度の増加を伴った(図15Cおよび図15D)。DRGニューロンの約30%が炎症後にp−p38を発現した。これらのニューロンはほとんどが大きさが小さく、それらが侵害受容器であることを示唆している(図15E)。炎症によって、DRGニューロンにおけるp38の非リン酸化型レベルは増加せず、このことは、p−p38の上昇が、キナーゼの発現の増加よりむしろこのMAPキナーゼのリン酸化の増加によって引き起こされたことを示す。対照および炎症条件のいずれにおいても、p−p38は、C線維において主に発現された。特に、p−p38はほとんどが、C線維侵害受容器において主に発現されるカプサイシン受容体VR1と共に局在した(図16C〜図16E)。p−p38は、A線維のマーカーであるニューロフィラメント−200(図16Aおよび図16B)と共に局在しなかった。C線維侵害受容器は2つの群に分けることができる:NGF反応性/TrkA発現ニューロンおよびGDNF反応性/c−ret発現ニューロン。p−p38は、炎症の2日後にDRGニューロンにおいてP2X3およびTrkAの双方と強く同時局在する。このように、p38は、炎症後に両タイプのC線維侵害受容器において活性化された。
【0051】
後角における p38 活性化
炎症によって、浅側後角のニューロンにおいてERK MAPキナーゼの持続的な活性化が起こる。対照的に、p38リン酸化は、後角の炎症(6時間から7日)によっても増加しなかった。先に記述したように実施した免疫組織化学分析に基づいて、p−p38は、ニューロンマーカーであるNeuNと同時局在しなかった(図17Bおよび図17C)。このように、p−p38は、対照および炎症動物の双方において後角の非神経細胞に限って発現された。
【0052】
p38 活性化と炎症性疼痛
CFA誘導炎症性疼痛は、痛覚過敏(すなわち、侵害刺激に対する感受性の増加)、および異痛(すなわち、通常は無害な刺激による疼痛の発生)を特徴とする。炎症性疼痛におけるDRG中のp38活性化の関与を試験するために、特異的p38阻害剤であるSB203580(1μg、Calbiochem)を10 μl、髄腔内PP10カテーテルを通して髄腔内空間(L4 DRGレベルに近い)に投与した。p38阻害剤は、全身投与すると抗炎症作用を有するが、局所的な髄腔内に薬物を投与すると、足の炎症に影響を及ぼさないはずである。持続的かつ安定な薬物注入を得るために、アルゼ(Alzet)浸透圧ポンプ(7日間ポンプ、0.5 μl/時間)に、p38阻害剤であるSB203580(1μg/μl)の生理食塩水溶液を満たして、ポンプの接続カテーテルをCFA注射の16時間前に髄腔内に埋め込んだ。生理食塩水を浸透圧ポンプの溶媒対照として用いた。足の厚さに基づくと、SB203580(0.5 μg/μl/時間)をこのアプローチによって注入しても、CFA誘導腫脹は減少しなかった(図16A)。
【0053】
p38阻害剤が基底疼痛感受性に影響を及ぼすか否かを試験するために、熱感受性および機械的刺激感受性を、既に記述されているように測定した(Jiら、2001、上記)。簡単に説明すると、動物を環境に慣らして、薬物投与または手術の前に基底疼痛感受性を調べた。後足の足底表面での機械的刺激払いのけ閾値をフォンフレー繊維の組を用いて測定した。閾値は鋭い払いのけ反応を誘発した最小の力として得た。熱に対する足払いのけ潜時は、ハーグリーブス輻射熱装置を用いて測定し、3回の試行の平均値とした。非炎症ラットにおける熱感受性または機械的刺激感受性はいずれも、SB203580によって影響を受けなかった(図16Bおよび図16C)。SB203580投与は、炎症性疼痛の初期相を変化させなかった(すなわち、6時間の時点で)(図16A)。この阻害剤は、炎症によって誘発された熱痛覚過敏の遅延相を減少させたが、機械的刺激異痛には影響を及ぼさなかった(図16Bおよび図16C)。p38阻害剤が確立された炎症性疼痛に影響を及ぼすか否かを試験するために、SB203580(1μg)をCFA注射の48時間後に髄腔内注射した。疼痛挙動を、阻害剤の注射の0.5時間後、3時間後および24時間後に測定した。SB203580は、0.5時間後の炎症性疼痛には影響を及ぼさなかったが、3時間後に熱痛覚過敏を減少させ始め、注射の24時間後には熱痛覚過敏を完全に逆転させた(図16Dおよび図16E)。調べた全ての時点で、機械的刺激異痛は、阻害剤によって変化しなかった(図16Dおよび図16E)。
【0054】
p38 活性化および VR1 発現
RNase保護アッセイを用いて、DRGニューロンにおけるVR1 mRNAの発現がCFA媒介炎症によって誘導されるか否かを判定した。このアッセイに関して、L4およびL5のDRGを速やかに採取した。VR1 cDNAを、ラットDRGの全RNAからのRT−PCRによって作製して、pCRII(Invitrogen)にクローニングした。プラスミドをEcoRVによって線状にし、Sp6 RNAポリメラーゼを用いてアンチセンスプローブを合成し、32P−UTP(NEN社、800 Ci/mmol)によって標識した。RNase保護アッセイを、既に記述されているように(Samadら、Nature 410:471〜475、2001)RPA III(Ambion)のプロトコールを用いて実施した。簡単に説明すると、RNA試料5μgを標識プローブに42℃で一晩ハイブリダイズさせた後、RNase消化緩衝液においてRNaseA/RNaseT1混合物を用いて37℃で30分間消化した。最後に、試料を変性アクリルアミドゲル上で分離して、X線フィルムに露光した。β−アクチンプローブを、ローティング対照としてそれぞれの試料に関して用いた。特異的バンドの密度を測定して、ロード対照からの内部対照バンドによって標準化した。データを平均値+SEMとして表した。群のあいだの差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータに関しては、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はP<0.05であった。この分析により、炎症によって、調べた全時間経過にわたって、DRGにおけるVR1 mRNAの発現が誘導されないことを示した(図17A)。
【0055】
DRGニューロンにおけるVR1タンパク質の発現が末梢性の炎症によって誘導されるか否かを判定するため、以下のウェスタンブロット分析を用いた。L4およびL5のDRGおよび後角(腰膨大)を、プロテイナーゼとホスファターゼ阻害剤のカクテル(Sigma)を含む緩衝液において溶解した。次に、SDS−PAGE勾配ゲル(4%〜15%、Bio−Rad)を用いてタンパク質試料を分離して、PVDFフィルターに転写した。ブロットを5%牛乳によって1時間ブロッキングし、ホスホp38抗体(1000倍希釈)またはVR1抗体(3000倍希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、ブロットをHRP結合二次抗体(3000倍希釈)と共に室温で1時間インキュベートして、ECL溶液(NEN社)中で1分間発色させて、X線フィルム(スーパーフィルム)(Amersham)に2分間〜30分間露光した。次に、ブロットを剥離緩衝液(100 μM 2−メルカプトエタノール、2%SDS、および62.5 mMトリス、pH 6.7)において50℃で30分間インキュベートして、ロード対照として抗p38抗体および抗ERK2抗体(3000倍希釈、New England BioLabs)によって再度プロービングした。特異的バンドの密度を測定して、ロード対照からの内部対照バンドによって標準化した。データは平均値+SEMとして表した。群の差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータには、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はP<0.05であった。このウェスタンブロット分析に基づいて、CFA誘導炎症は、VR1タンパク質レベルの持続的な増加を誘導した(図17B)。
【0056】
ウェスタンブロットの結果を確認するために、VR1免疫組織化学を行った。炎症によって、2日目にVR1免疫反応性が増加した(図17D)。p38活性化が炎症後のVR1上方制御に貢献するか否かを試験するために、p38阻害剤であるSB203580(1μg)を髄腔内投与した(1日2回を2日間、1回目の注射はCFA注射の30分前に行った)。このボーラス注射により、炎症性の熱痛覚過敏が減少され、2日目におけるVR1のCFA誘導上方制御が遮断された(図17Bおよび図17C)。浸透圧ポンプによるSB203580の持続的な注入も同様に、炎症後のVR1の誘導を減少させた(図17Dおよび図17E)。
【0057】
NGF 、 p38 活性化および VR1 発現
CFA誘導炎症後、NGFは炎症を有する足組織において産生され、DRGニューロンの細胞体に逆輸送される。NGFは、DRGニューロンにおける遺伝子発現にとって極めて重要であり、炎症性疼痛において主要な役割を有する(Lindsayら、Nature 337:362〜364、1989;およびWoolfら、Neuroscience 62:327〜331、1994)。NGFは、PC12細胞においてp38活性化を誘導することが示されている(MorookaおよびNishida、J. Biol. Chem. 273:24385〜24288、1998)。上記のデータは、p38がTrkA発現(NGF反応性)ニューロンにおいて活性化されること、そしてp38によって炎症後のVR1上方制御が起こることを示す。NGFがp38の炎症誘導活性化およびVR1の上方制御に必要であるか否かを判定するために、NGF抗血清(腹腔内注射、5μl/g体重、84 mg/ml)を注射して、内因性のNGFを中和した。この抗NGF処理(1日1回を2日間、1回目の注射はCFA注射の1時間前に行う)によって、炎症性の熱痛覚過敏は実質的に減少し、程度は弱いものの機械的刺激異痛が減少した。処理はまた、CFAの投与によるp38の活性化を減少させ、VR1上方制御を減少させた。NGF(10 μl中に2μg、1日2回を3日間、Boeringer)を髄腔内注射すると、DRGニューロンにおけるp−p38レベルおよびVR1レベルの双方が増加した。NGFはまた、培養において増殖した成体の初代DRGニューロンにおいてp38活性化を誘導した。NGFがp38を通してVR1を上方制御するように作用するか否かを試験するために、p38阻害剤であるSB203580(1μg)を、NGFと同時投与した(1日2回を3日間)。SB203580は、NGF誘導性のVR1増加を有意に抑制した。
【0058】
実施例 6 :痛覚過敏における ERK MAP キナーゼの役割の特徴付け
痛覚過敏におけるERK活性化の役割をさらに試験するために、末梢性の炎症によるERKの活性化を調べた。CFAを後足に注射すると、持続的な炎症と後角の表層(第I層〜第IIo層)のニューロンにおける持続的なERK活性化とが起こった。CFAはまた、後角ニューロンにおいて既知の疼痛メディエータである、プロダイノルフィンとニューロキニン−1(NK−1)の上方制御を誘導したが、これは、MEK(MAPキナーゼキナーゼ)阻害剤であるU0126の髄腔内投与によって抑制された。CFA誘導性pERKのほとんどが、浅側後角ニューロンにおいてプロダイノルフィンおよびNK−1と同時局在した。U0126の髄腔内注射は、基底疼痛感受性に影響を及ぼさなかったが、持続的な炎症性の熱および機械的刺激過敏の確立と維持とをいずれも減弱した。したがって、侵害受容体脊髄ニューロンのサブセットにおけるERK経路の活性化は、おそらくプロダイノルフィンおよびNK−1のような遺伝子の転写調節によって、持続的な痛覚過敏に関与する。これらの結果は、痛覚過敏におけるERKの役割および急性または慢性疼痛の治療におけるERK阻害剤の有用性のさらなる根拠となる。
【0059】
本実験を、下記においてより詳細に説明する。
【0060】
末梢炎症による ERK の活性化
ERKが末梢炎症によって活性化されるか否かを試験するために、CFAを注射してラットの後足に炎症を誘導し、ERKのリン酸化を測定した。特に、マサチューセッツ総合病院動物飼育施設ガイドラインに従って、成体雄性スプレージ−ドーリー系ラット(230 g〜300 g)を用いた。動物をペントバルビタール(50 mg/kg、腹腔内注射)によって麻酔した。CFA(100 μl)を後足の足底鏡面に注射した。CFA注射の1時間以内に、局所的な腫脹、紅斑、ならびに機械的刺激および熱刺激に対する過敏領域が起こり、これは実験期間のあいだ(48時間)持続した。
【0061】
CFA注射によるERKリン酸化の誘導に関する免疫組織化学分析に関して、ラットをペントバルビタール(120 mg/kg、腹腔内注射)によって深く麻酔して上行大動脈の中を生理食塩水によって還流した後、1.5%ピクリン酸を含む4%パラホルムアルデヒドによって還流した。L4−L5脊髄セグメントを切除して2時間〜4時間かけて後固定した。脊髄横断切片(浮動性、30 μm)を切断して、既に記述されているように(Jiら、Neuroscience 68:563〜576、1995およびJiら、1999、上記)ABC法を用いる免疫組織化学のために処理した。簡単に説明すると、切片を0.3%トライトン中で2%ヤギ血清によって室温で1時間ブロッキングして、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、切片をビオチン結合二次抗体(200倍希釈)と共に2時間インキュベートして、ABC複合体(50倍希釈、Vector Laboratories)と共に室温で1時間インキュベートした。最後に、反応産物を、2%ニッケル硫酸アンモニウムを含む0.05%DAB/0.002%過酸化水素を含む0.1 M酢酸緩衝液(pH 6.0)において2分間〜5分間可視化した。いくつかの切片を一次抗体と共に一晩インキュベートして、FITC結合二次抗体(300倍希釈、Jackson immunolab)と共に室温で1時間インキュベートすることによって、免疫蛍光処理した。この分析において、以下の抗体を用いた:抗pERK抗体(抗pMAPK抗体とも呼ばれる;抗ウサギ抗体、500倍希釈、New England BioLabs)および抗pERK抗体(モノクローナル抗体、300倍希釈、New England BioLabs)。この実験による結果を定量するために、L4−L5腰髄からの隣接しない切片8個を無作為に選択して、それぞれの切片における後角の表層および/または深部層における免疫反応性ニューロンプロフィールの数を、処理を知らない第三者が計数した(20倍の対物視野で)。切片8個からの値をそれぞれの動物に関して平均した。データは平均値+SEMとして表す。
【0062】
この免疫組織化学分析に基づいて、CFA注射によって誘導された炎症によって、腰膨大の同側での内側浅側後角(medial superficial dorsal horn)におけるニューロンのホスホERK(pERK)の誘導が得られた(図18Aおよび図18B)。反対側の脊髄には誘導を認めなかった(図18A)。生理食塩水(100 μl)を足底内注射した場合のみ、非常に弱いpERK誘導が示された。CFAによるpERK誘導は、ニューロンに限って認められた。全てのpERK細胞が、ニューロン細胞のマーカーであるNeuNを発現した。pERK標識ニューロンは、第I層〜第IIo層に主に局在し、pERKは既に報告されているように(Jiら、1999、上記)、核、細胞質、および樹状突起に存在した。pERKニューロンの数は、10分後でピークであったが、48時間のあいだに徐々に減少したものの上昇したままであった(図18C)。この時間パターンは、カプサイシンの足底内注射によって誘発された一過性の(<1時間)ERK活性化とは実質的に異なる(Jiら、1999、上記)。
【0063】
CFAによるERK活性化を、ウェスタンブロット分析によって確認した。この分析に関して、動物を屠殺して、L4−L5脊髄セグメントの後角を速やかに採取して、ホスファターゼ阻害剤(100倍)およびプロテイナーゼ阻害剤(25倍、Sigma)のカクテルを含む溶解緩衝液において、携帯型の乳棒によってホモジナイズした。タンパク質試料は、SDS−PAGEゲル(4%〜15%勾配ゲル、Bio−Rad)上で分離して、PVDFフィルター(Millipore)に転写した。フィルターを3%牛乳でブロックして、抗pERKポリクローナル抗体(1000倍希釈、New England BioLabs)と共に4℃で一晩インキュベートした。ブロットをHRP結合二次抗体(Amersham、3000倍希釈)と共に室温で1時間インキュベートして、ECL溶液(NEN)中で1分間可視化して、ハイパーフィルム(Amersham)に1分間〜30分間露光した。次に、ブロットを剥離緩衝液(67.5 mMトリス、pH 6.8、2%SDS、0.7%β−メルカプトエタノール)において50℃で30分間インキュベートして、ロード対照としての抗ERKポリクローナル抗体に再プロービングした。このウェスタンブロット分析を少なくとも2回繰り返し、全ての場合について同じ結果を得た。特異的バンドの密度を、コンピューター補助造影分析システム(IP lab software)によって測定して、ロード対照に対して標準化した。群のあいだの差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータに関しては、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はp<0.05であった。
【0064】
このウェスタン分析に基づいて、ERK1(44 kD)およびERK2(42 kD)の双方のリン酸化レベルが、反対側と比較して同側の後角では増加した(図18D)。ERKは、後角細胞の小さいサブセットにおいて活性化されるに過ぎないため、ウェスタン分析は、浅側後角におけるERK活性化の検出において、免疫組織化学より感度が低い。
【0065】
pERKがCFA注射後非常に迅速に(10分間)ピークレベルに達したため、本発明者らは、CFAによっても痛覚過敏または疼痛関連挙動が起こるか否かを判定した。これらの研究に関して、基準値の試験を行う前に、動物を2日間毎日試験環境に慣らした。熱の試験を除き、全ての動物を上昇した針金のグリッド上に置いた。機械的刺激異痛に関しては、後足の足底表面を一連のフォンフレー繊維によって刺激した。閾値は、素早い払いのけ反応を誘発する最も小さい力として得た。熱痛覚過敏に関して、後足の足底表面は、透明なパースペックス表面(Hargreavesら、Pain 32:77〜88、1988)を通して輻射熱の光線に曝露した。払いのけ潜時を記録して、最大15秒間をカットオフ値とした。払いのけ潜時は、3回の試行の平均値とした。
【0066】
この挙動試験において、CFA(100 μl)を覚醒状態のラットの後足の足底表面に注射すると、紅斑と急速な熱痛覚過敏を生じた。足の払いのけ潜時は、10分間および30分間においてそれぞれ、60%(10.8±0.4から4.3±0.7、P<0.01、t検定、n=3)および50%(9.7±1.2から4.9±1.3、P<0.05)減少した。生理食塩水注射ラットは、如何なる熱痛覚過敏も示さなかった。
【0067】
炎症によるプロダイノルフィンの誘導
炎症に反応したプロダイノルフィンの発現の変化を試験するために、RNase保護アッセイ、インサイチューハイブリダイゼーション、および免疫組織化学を用いた。RNase保護アッセイに関して、ダイノルフィンcDNAを、プライマー
および
を用いて、ラットDRGの全RNAから室温PCRによって作製し、pCRII(Invitrogen)にクローニングした。プラスミドをEcoRVによって線状にし、アンチセンスプローブをSp6 RNAポリメラーゼを用いて合成して、32P−UTP(NEN社、800 Ci/mmol)によって標識した。RNase保護アッセイを、既に報告されているように(Samadら、Nature 22:471〜475、2001)、RNase保護アッセイIII(Ambion)プロトコールを用いて行った。簡単に説明すると、RNA試料10 μgを標識プローブを42℃で一晩ハイブリダイズさせた後、RNase消化緩衝液中でRNaseA/RNaseT1混合物を用いて37℃で30分間消化した。最後に、試料を変性アクリルアミドゲル上で分離して、X線フィルムに露光した。β−アクチンプローブをそれぞれの試料に関してロード対照として用いた。RNase保護アッセイに関して、それぞれの実験を少なくとも2回繰り返して、全ての場合について同じ結果を得た。特異的バンドの密度を、コンピューター補助造影分析系によって測定して(IP lab software)、ロード対照に対して標準化した。群間の差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータに関しては、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はP<0.05であった。RNase保護アッセイに基づいて、末梢性の炎症によって、CFA注射の24時間後および48時間後に同側の脊髄後角において、プロダイノルフィンmRNAの実質的な上方制御が起こった(図19A)。
【0068】
インサイチューハイブリダイゼーション分析に関して、動物をCO2チャンバーにおいて急速に屠殺して、L4−L5脊髄セグメントを採取して、低温槽上で20 μmの厚さに切断した。1.7 kbプロダイノルフィン挿入物を有するベクター(pSP65)は、リンダ・コビエルスキ(Linda Kobierski)博士(Harvard Medical School)から供与された。アンチセンスRNAプローブ、および対応するセンス対照プローブを、プロダイノルフィンの直線状のDNA鋳型とdig標識混合物とを用いるインビトロ転写によって37℃で2時間標識した。ハイブリダイゼーションを、既に記述されているように処理した(Jiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:15635〜15640、1998)。組織切片を2時間空気乾燥させて、4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定し、無水酢酸中(0.25%)で10分間アセチル化した。切片を室温で2時間プレハイブリダイズした後、ハイブリダイゼーション緩衝液中で60℃で一晩インキュベートした。ハイブリダイゼーション後、切片を漸減濃度の(2×、1×、および0.2×)SSCにおいて全体で2時間洗浄した。次に、切片を2%ヤギ血清と共に1時間ブロッキングして、アルカリホスファターゼ結合抗DIG抗体(Boeringer Mannheim、5000倍希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。最後に、切片を75 g/ml NBT、50 g/ml BCIPおよび0.24 mg/mlレバミゾールにおいて2時間〜24時間可視化した。L4−L5腰髄からの隣接しない切片8個を無作為に選択して、それぞれの切片における後角の表層部および/または深層におけるmRNA陽性ニューロンプロフィールの数を、治療割付を知らない第三者が調べた(20倍の対物視野で)。切片8個からの値をそれぞれの動物に関して平均した。データは平均値+SEMとして表す。このインサイチューハイブリダイゼーション分析に基づいて、主な強く標識されたプロダイノルフィンmRNA標識ニューロンは、CFA注射の24時間後に同側の後角の表層部および深部の双方において認められたが、反対側では、ごく少数の弱く標識されたニューロンが検出されたに過ぎなかった(図19B)。
【0069】
免疫組織化学を、抗プロダイノルフィン抗体(抗モルモット抗体、3000倍希釈、ミネソタ大学、R. Elde博士からの供与)を用いて、上記のように実施した。プロダイノルフィンペプチド免疫反応性ニューロン数の増加はまた、表層部および深部後角においてCFA誘導炎症後48時間に認められた(図19C)。
【0070】
ERK 活性化およびプロダイノルフィン発現
後角におけるプロダイノルフィンmRNA発現のERK活性化による調節の可能性を調べた。特異的かつ強力なMEK阻害剤であるU0126(Favataら、J. Biol. Chem. 273:18623〜18632、1998)を、2回(1μg)、すなわちCFAの足底内注射の30分前および6時間後に、髄腔内注射した。投与に関して、PE10カテーテルを脊髄の腰膨大の髄腔内間隙に埋め込んで、MEK阻害剤であるU0126を10 μl(1μg、Calbiochem、10%DMSOに溶解)投与した。10%DMSOを溶媒対照として注射した。この阻害剤は、同側の後角におけるCFA誘導プロダイノルフィンmRNAを減少させた(図20A)。浅側後角におけるプロダイノルフィンmRNA陽性ニューロン数のCFA誘導性の増加もまた、深部層における標識ニューロン数に影響を及ぼすことなく、U0126(2×1μg)によって減少した(図20Bおよび図20C)。
【0071】
ERK 活性化および NK−1 発現
初期の研究と一致して、CFA誘導炎症後の浅側後角におけるNK−1免疫反応性の増加は、上記の免疫組織化学アッセイ(Abbadieら、Neuroscience 70:201〜209、1996、およびAbbadieら、J. Neurosci. 17:8049〜8060、1997)において抗NK1抗体(抗ウサギ抗体、3000倍希釈、Oncogene)を用いて認められた。しかし、これまでの研究(Abbadieら、1997、上記;およびHonoreら、J. Neurosci. 19:7670〜7678、1999)とは対照的に、本発明者らは炎症後に、より多くのNK−1発現細胞を認めた(図21A)。この相違は、ほぼ間違いなくNK−1陽性ニューロンに関する異なる検出閾値のためであり、本発明者らの定量は、標準的な免疫蛍光顕微鏡に基づいているが、対照動物における弱く染色された細胞、すなわち共焦点顕微鏡によって検出されるであろう細胞を含めなかった(Abbadieら、1997、上記;およびHonoreら、1999、上記)。第I層において検出されたNK−1免疫反応性ニューロンの増加(図21A)は、ホノール(Honore)ら(1999、上記)によって認められた染色強度がこの層において増加していることを反映した。ERK活性化がNK−1上方制御に関与するか否かを試験するために、炎症を誘導する前にMEK阻害剤であるU0126を浸透圧ポンプによって髄腔内に送達した(0.5 μg/μl/時間で、2日間)。特に、アルゼ(Alzet)浸透圧ポンプ(3日間ポンプ、1μl/時間)にMEK阻害剤であるU0126(0.5 μg/μl)の50%DMSO溶液を満たして、ポンプのカテーテルをCFA注射の少なくとも3時間前に髄腔内に埋め込んだ。DMSO(50%)を溶媒対照として用いた。MEK阻害剤は、浅側後角におけるNK−1免疫反応性ニューロンのCFA誘導性の増加を抑制した(図21Aおよび図21B)。抗NK1一次抗体(5000倍希釈、Oncogene)と共にロード対照として抗CREB抗体(3000倍希釈、New England BioLabs)を用いるウェスタンブロット分析によっても同様に、この結果が確認された(図21C)。
【0072】
pERK陽性ニューロンおよびプロダイノルフィン/NK−1発現ニューロンが後角細胞の同じサブセットに属するか否かを試験するために、pERK/プロダイノルフィンおよびpERK/NK−1に関する二重免疫蛍光を行った。この免疫蛍光分析は、一次抗体(抗pERKモノクローナル抗体/抗NK1ポリクローナル抗体、またはウサギ抗pERK抗体/モルモット抗プロダイノルフィン抗体)の混合物と共にインキュベートした後、Cy3またはFITCのいずれかを結合した対応する二次抗体の混合物と共にインキュベートすることによって行われた。浅側後角におけるほとんど全てのプロダイノルフィンおよびNK−1陽性ニューロンもまた、CFA注射の24時間後にpERKを発現した(図22A〜図22H)。
【0073】
ERK 活性化および持続的炎症性疼痛
プロダイノルフィンおよびNK−1上方制御に及ぼすERK活性化およびその下流の作用の機能的結末を試験するために、本発明者らは、ERK活性化の阻害が炎症性疼痛の過敏症を改変するか否かを調べた。他のMEK阻害剤であるPD98059と同様に(Jiら、1999、上記)、U0126(1μg)を非炎症動物の髄腔内に投与して投与の30分後に試験したところ、機械的刺激払いのけ閾値(溶媒対照の108%)および熱払いのけ潜時(溶媒対照の113%)に関して、測定した基底疼痛感受性に有意差を示さなかった。しかし、浸透圧ポンプ(0.5 μg/μl/時間)によるU0126の髄腔内投与をCFA注射の前に開始して48時間維持すると、24時間および48時間に測定した炎症誘導性の熱過敏症および機械的刺激過敏症は有意に減少した(図23Aおよび図23B)。
【0074】
急性の痛覚過敏(ホルマリン足底内注射の10分後〜60分後)は、おそらく翻訳後変化の妨害による、ERK活性化の阻害によって減少する(Jiら、1999、上記)。CFAによるERK活性化は、進行中の翻訳後変化を維持することまたはNK1およびプロダイノルフィンのような遺伝子の転写を誘導することのいずれかによって、炎症性疼痛の過敏症に関与する可能性がある。前者の場合、確立された炎症におけるERK活性化の阻害は、ERK基質の脱リン酸化により痛覚過敏を10分間以内に減少させると予想されるであろう。ERK活性化の関与が転写を介する場合、ERK活性化の阻害は、即時的作用を有しないが遅延型作用を有すると予想されるであろう。これらの2つの可能な機構を区別するために、U0126を、確立された炎症を有するラットに髄腔内注射して(1μg)(CFA注射の24時間後)、痛覚過敏をU0126の注射の30分後、6時間後、および24時間後に試験した。熱痛覚過敏も機械的刺激異痛のどちらも、30分後に試験した場合にはそのような後処理によって有意な影響を受けなかった(図24Aおよび図24B)。しかし後処理は、24時間後に熱痛覚過敏を減少させ、かつ6時間後に機械的刺激異痛を減少させ(図24Aおよび図24B)、これは持続的な炎症性疼痛の維持に対してERK活性化が遅れて関与することを示す。
【0075】
侵害受容後角ニューロンにおける ERK 活性化
末梢性の炎症は、短い潜時の後、同側の浅側後角の第I層〜第IIo層ニューロンにおいてERKの持続的な活性化を誘導した。MEK阻害剤を用いてこの活性を阻害すると、後角ニューロンのこの特定のサブセットにおけるプロダイノルフィンおよびNK−1発現の上昇が遮断され、炎症性の痛覚過敏が減少した。pERKは、プロダイノルフィンおよびNK−1を発現する後角ニューロンの同じサブセットにおいてCFAによって誘導された。第I層においてNK−1およびダイノルフィンを発現する多くのニューロンは、突起ニューロンである(Marshallら、Neuroscience 72:255〜263、1996;およびNahinら、Neurosci. Lett. 96:247〜252、1989)。第I層における突起ニューロンは、CFAによる炎症後その受容領域の拡大を示し(Dubnerら、Trends Neurosci. 15:96〜103、1992;およびRuda、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:622〜626、1992)、第I層におけるNK−1発現ニューロンの標的化喪失によって、炎症性疼痛が消失することが示されており(Nicholsら、Science 286:1558〜1561、1999)、これは、炎症に対するCNSの反応におけるこれらの表層部ニューロンの重要な役割を示す。特定のサブセットのC侵害受容線維、すなわちNGF反応性かつTrkAおよびニューロペプチドを発現する線維は、ERK活性化を示すニューロンが重なり合う領域内の第I層および第IIo層において末端を有する。もう一つのサブセットのC線維、すなわち増殖因子のGDNFファミリーに反応して、IB4レクチンの選択的結合を特徴とするC線維は、第IIi層に末端を有する(Averillら、Eur. J. Neurosci. 7:1484〜1494、1995;Moliverら、1997)。これらの線維が接触するニューロンは、その多くがPKCを含み(Malmbergら、Science 278:279〜283、1997)、カプサイシンまたはCFA注射後にERK活性化を示さない。したがって、痛覚過敏の調節におけるERKの役割は、特定のサブセットの侵害受容後角ニューロン、すなわち第I層〜第IIo層に存在するサブセットのみに限定され、この活性化は、TrkA発現C線維のみの活性化を反映する可能性がある。
【0076】
ERK 活性化に応答した転写調節
pERKは、CFA刺激後ニューロンの核において認められ(図18A)、活性化キナーゼの転写的役割を有する可能性を示す。カプサイシンの注射後に誘導される一過性の活性化(持続は2時間未満)とは異なり(Jiら、1999、上記)、CFAは持続的なERK活性化を生じた(図18C)。CFA注射後の持続的なERK活性化は、プロダイノルフィンmRNAの持続的な上方制御に関連するが(48時間以上持続、図19A)、カプサイシンによって誘導される一過性のpERKは、プロダイノルフィンmRNAのより短い持続の上方制御(<6時間)に関連する。ERK活性化によって、どちらもCRE含有遺伝子であるプロダイノルフィンとNK1の発現が、CREBリン酸化によって調節される可能性がある。CREBは、線条体ニューロンにおけるプロダイノルフィンのドーパミン誘発発現に必要であり(Coleら、1995、上記)、侵害刺激後にNK−1発現ニューロンにおいてリン酸化される(Andersonら、Neurosci. Lett. 283:29〜32、2000;およびSeybold、2000)。さらに、CRE部位は、アメフラシにおける侵害受容ニューロンの長期感作を媒介することが示されている(Lewinら、Nat. Neurosci. 2:18〜23、1999)。
【0077】
ERK 活性化および炎症性痛覚過敏
U0126は、ホルボルエステルのような強い活性化剤の存在下においてもERK活性化を阻害することができるが、他のシグナル伝達経路には影響を及ぼさない強力かつ選択的なMEK阻害剤である(Favataら、1998、上記)。本研究において用いられる用量において、この阻害剤による毒性の明白な兆候は認められず、動物は通常の挙動を示し、移動は影響を受けなかった。基底疼痛感受性は阻害剤によって改変されなかったが、持続的な炎症性疼痛は減少した。持続的な疼痛に及ぼすこの影響は、ERKシグナル伝達経路によってまたはプロダイノルフィンおよびNK1のような標的遺伝子の転写の減少によって媒介される翻訳後変化が原因で起こる可能性がある。疼痛機構への関与が既に暗示されているプロダイノルフィンとNK1とがERK活性化によって調節されることは、炎症後のERK活性化が遺伝子転写を調節することによって痛覚過敏に関与するという仮説と一致する。ERK活性化を遮断する作用の時間的プロフィールは、この仮説をさらに支持する。対照的に、ホルマリンの足底内注射の数分以内に確立される急性の痛覚過敏は、ERK活性化を防止することによって(Jiら、1999、上記)減少させることができる。この作用は、転写の阻害によって媒介されるには速すぎて(<1時間)、したがって、おそらく活性化ERKの下流の翻訳後変化を表す可能性がある。そのような翻訳後変化の基質は、NMDAまたはAMPA受容体のようなイオンチャンネルまたは受容体であってもよい(Woolfら、2000、上記)。そのような翻訳後変化は、中枢感作、その開始刺激を何十分も持続させる用途に応じた可塑性の誘導および維持の基礎となる(Woolfら、Nature 306:686〜688、1983;およびWoolfら、J. Neurosci. 6:1433〜1442、1986)。炎症性の過敏症が、炎症組織からの現行の求心性入力によって維持されるのみの中枢感作の症状発現である場合、ERK媒介リン酸化の阻害によって中枢感作の開始を阻害すれば、重要なタンパク質が脱リン酸化されるために何十分ものあいだ過敏が減少するはずである。確立された炎症ではMEKを阻害しても即時型作用を示さないが、むしろ6時間後〜24時間後に機械的刺激過敏症および熱過敏症のみが減少するという事実は、ERK活性化の役割が転写の調節によるのもうなずけることを示す。
【0078】
ダイノルフィンおよび NK−1 は炎症性痛覚過敏に貢献する
プロダイノルフィンおよびNK−1の発現と、炎症性痛覚過敏の発生との間の時間的な相関が既に証明されている。他のオピオイドペプチドとは異なり、ダイノルフィンを髄腔内注射しても鎮痛を生じない。ダイノルフィンは、何らかの病的疼痛状態において前侵害受容性であることが他の研究者によって判明している。例えば、ダイノルフィンA抗血清は、神経損傷後の痛覚過敏を減少させ、ニューロパシー疼痛は、プロダイノルフィンノックアウトマウスでは持続しない。ダイノルフィンの前侵害受容作用は、興奮毒性を誘発するために十分なNMDA受容体の活性化を含む、その非オピオイド作用の結果であるように思われる。
【0079】
炎症は、後角ニューロンにおけるNK−1受容体の上方制御および一次求心性ニューロンにおいてそのリガンドの神経ペプチドである物質Pの上方制御を誘導する。NK−1アンタゴニストは、NK−1ノックアウトマウスを含むいくつかの異なる動物モデルにおいて炎症性疼痛(痛覚過敏と機械的刺激異痛の双方)を減少させることが既に示されている。炎症後の侵害刺激および無害な刺激に反応した後角ニューロンの樹状細胞において、NK−1受容体の量が増加して、インターナリゼーションされることは、この受容体が末梢刺激に反応した物質Pによって活性化されることを示す。
【0080】
実施例 7 :中枢神経系における PLA 2 の誘導なし
PGE2の合成に必要である遊離アラキドン酸の利用率を、ホスホリパーゼ2(PLA2)が調節するため、本発明者らはまた、低分子量の分泌型PLA2(sPLA2)または高分子量の細胞内サイトソルPLA2(cPLA2)は末梢炎症後の中枢神経系において誘導されるか否かを判定した。無傷および炎症を有するラット(12時間)の足、脊髄、および脳からの総タンパク質抽出物におけるPLA2活性は、sPLA2の活性(すなわち、2−アラキドニル−ホスファチジルコリンからのアラキドン酸の放出;図9A)またはcPLA2(すなわち、2−アラキドニル−ホスファチジルエタノールアミンからのアラキドン酸の放出;図9B)の活性のいずれかに都合がよいアッセイ系を用いて測定した(Binghamら、J. Biol. Chem. 274:31476〜31484、1999)。予想されるように、炎症を有する足においてsPLA2およびcPLA2の双方の活性が有意に増加した(図9Aおよび9B)。対照的に、脊髄または脳のいずれにおいても、後足の炎症によるこれらのPLA2活性の増加は検出されなかった。cPLA2の最初の129個のアミノ酸残基に対するポリクローナル抗体を用いるcPLA2のウェスタンブロットおよび免疫組織化学分析(Sapirsteinら、J. Biol. Chem. 271:21505〜21512、1996)は、脊髄内のタンパク質誘導を示さなかった(図9C)。したがって、中枢性のPLA2活性の基底レベルは、末梢炎症後に中枢神経系におけるプロスタノイドの産生の増加にとって十分である。このように、プロスタノイド産生速度がCox−2およびPLA2の双方によって調節される炎症の末梢部位とは対照的に、Cox−2のみが中枢性のPGE2誘導の中心的な役割を有するように思われる。
【0081】
実施例 8 :中枢性 IL−1 β活性の阻害剤に関するアッセイ
中枢性のIL−1β活性の阻害は、疼痛を測定する任意の標準的な方法(例えば、本明細書に記載の方法)またはIL−1β活性の変化を測定する任意の方法によって同定することができる(例えば、上記のように)。さらに、中枢性のIL−1β活性が阻害されうるような機構の一つとは、プロインターロイキン−1βをIL−1βの活性化型に変換するカスパーゼ−1の阻害を介する。多くのカスパーゼ−1阻害剤は、アルデヒド、クロロメチルケトン、フルオロメチルケトン、フルオロアシルオキシメチルケトン、ジアゾメチルケトン、またはフェニルアルキルケトンのような官能基に結合したTyr−Val−Ala−Asp、Val−Ala−Asp、Ala−Asp、またはAspペプチド認識配列を含む。アルデヒド基を有するカスパーゼ−1阻害剤は可逆的であるが、クロロメチルケトン、フルオロメチルケトン、またはフルオロアシルオキシメチルケトン基を有する阻害剤は非可逆的である(「カスパーゼ阻害剤と基質(Caspase Inhibitors and Substrates)」と題するカルビオケム技術会報、San Diego、California)。阻害剤
のような長い疎水性領域を有する阻害剤は、細胞透過性が増加している。カルボン酸のヒドロキシル基をメトキシ基、エトキシ基、ベンズオキシ基、またはイソプロポキシ基のようなアルコキシ基に置換するために、標準的な技術を用いてアスパラギン酸残基のカルボキシ側鎖をエステル化してもまた、カスパーゼ−1阻害剤の細胞透過性が増加する。好ましいアルコキシ基は、式−OR’を有し、ここでR’は、アルキルまたはアリール基である。一つの好ましい態様において、R’基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、オクチル、デシル、もしくはテトラデシル基;またはシクロペンチルもしくはシクロヘキシル基のようなシクロアルキル基のような炭素原子1個〜10個、1個〜20個、1個〜50個、または1個〜100個の直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素アルキル基である。好ましいアリール基には、少なくとも1つの環が本質的に芳香族である一つまたはそれ以上の融合環からなる一価の芳香族炭化水素ラジカルが含まれ、それらは選択的に以下の置換基の一つによって置換してもよい:ヒドロキシ、シアノ、アルキル、アルコキシ、チオアルキル、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、またはジアルキルアミノ。
【0082】
候補となるカスパーゼ−1阻害剤を試験するために、カスパーゼ−1活性は、既に記述されているように、蛍光体(例えば、AFC、AMC、EDANS、またはMCA)または発色団(例えば、pNA)のいずれかを含むカスパーゼ−1基質の切断速度を決定するために候補化合物の存在下および非存在下でアッセイしてもよい(Thornberryら、Nature 356:7680774、1992;Thornberryら、Biochemistry 33:3934〜3940、1994)。さらに、候補カスパーゼ−1阻害剤は、それらが疼痛の発現を減少、安定化、予防、または遅らせるか否かを判定するために、本明細書に記載する任意の炎症性疼痛モデルにおいて試験することができる。
【0083】
候補MAPキナーゼ阻害剤は、本明細書に記載するように、ホスホ特異的抗体を用いて一つまたはそれ以上のMAPキナーゼのリン酸化の阻害を測定することによって試験することができる。または、MAPキナーゼが基質をリン酸化できるか否かは、標準的なキナーゼアッセイを用いて候補化合物の存在下および非存在下において測定することができる。
【0084】
その他の態様
前述の記述から、本発明を様々な用途および条件に適合させるために、本明細書に記載された本発明に変更および改変を行ってもよいことは明らかであると考えられる。そのような態様もまた、添付の特許請求の範囲内である。
【0085】
本明細書において言及した全ての出版物は、本明細書において、それぞれ別々の出版物または特許出願が明確かつ個々に参照として組み入れられると示されるのと同程度に、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1Aおよび図1Bは、片側後足の炎症から0時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、および24時間後のCox−2 mRNAの誘導を示すゲルの写真である。Cox−2 mRNAの増加は、フロイント完全アジュバント(CFA)の足底内注射後に、同側および反対側のラット腰髄L4/L5、炎症を起こした皮膚、頚髄、および視床において検出された。図1Cは、図1Aのデータに基づく同側および反対側の腰髄におけるCox−2 mRNA誘導のグラフである。図1Dは、図1Bのデータに基づく後足、腰髄、頚髄、および視床におけるCox−2 mRNAの相対的発現のグラフである。
【図2】炎症を有するラット(図2B、図2C、および図2D)および無傷のラット(図2A)における12時間後の後角ニューロンにおけるCox−2発現の免疫組織化学分析を示す写真である(目盛り:50 μm)。図2Dは、図1Bにおける炎症を有するラットの深部後角領域の高倍率写真である。ニューロンマーカーNeuNによる二重標識に基づき、ほぼ全てのCox−2免疫標識細胞がニューロンである(図2C)。
【図3】炎症の12時間後の脊髄におけるCox−2 mRNA分布を示す写真である(目盛り:100 μm)。
【図4】CFA誘導炎症後の脳脊髄液におけるプロスタグランジンE2(PGE2)レベルの増加を示す棒グラフである(「*」は、p<0.01を指す)。
【図5】図5Aは、L4後根が付随した脊髄横断切片調製物の略図である。図5Bは、インビトロでAβ線維、Aδ線維、またはC線維の後根を電気刺激した2時間後のCox−2 mRNA誘導を示すゲルの一連の写真である。「N」は刺激を示し、「I」は同側刺激を示し、かつ「C」は反対側刺激を示す。図5Cは、C線維の強度で坐骨神経を30分間電気刺激してから3時間後のCox−2 mRNAのインビボ増加が、足底内CFA炎症後の増加より小さかったことを示すゲルの写真である。図5Dは、求心性活性を阻害するために十分なブピバカインを神経周囲に処理することによる坐骨神経ブロックを行っても、炎症6時間後のCox−2 mRNAレベルのCFA誘導性の増加を打ち消すことができなかったことを示すゲルの写真である。列挙された誘導倍数は、β−アクチンmRNAレベルに関して標準化した後に無傷のラットに関して測定したものである。図5Eは、CFA処理ラット(CFA、n=13)および坐骨神経ブロックを行ったCFA処理ラット(ブロック/CFA、n=6)の脳脊髄液における6時間後のPGE2レベルの増加を示す棒グラフである(「*」は、無傷のラットと比較した場合にp<0.01を示し、「#」は、CFA処理ラットと比較した場合にp<0.05を示す)。
【図6】図6Aは、ELISAによって測定した、反対側の後足におけるIL−1βレベルと比較して炎症を有する同側の後足皮膚におけるIL−1βレベルの増加を示すグラフである(Safieh−Garabedianら、Br. J. Pharmacol. 115:1265、1995)。図6Bは、足底内CFA後足炎症の2時間後および4時間後の脳脊髄液におけるIL−1βレベルを示す棒グラフである(「N.D.」は検出されないことを示す)。図6Cは後角におけるI型IL1受容体の免疫学的局在を示す写真である(目盛り:100 μm)。図6Dは、IL−1βが3時間後にインビトロで脊髄におけるCox−2 mRNA発現を増加させたが、TNFα(10 ng/ml)は増加させなかったことを示すゲルの一連の写真である。IL−1βの髄腔内(i.t.)注射はインビボで脊髄におけるCox−2 mRNAレベルを増加させたが、静脈内(i.v.)注射はより小規模に増加させた。
【図7】図7Aおよび7Bは、足底内CFA注射の前にIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)を静脈内または髄腔内にそれぞれ投与してから6時間後のCox−2 mRNAレベルを示すゲルの写真である。図7Cは、200 ng/ml IL−1raがインビトロ脊髄切片における活性誘発Cox−2 mRNA誘導に影響を及ぼさなかったことを示すゲルの写真である。図7Dは、CFA足底内注射の15分前に髄腔内投与されたIL−1受容体アンタゴニスト(「CFA/IL−1ra」)6μg、または、カスパーゼ−1阻害剤であるTyr−Val−Ala−Asp(「CFA/YVAD」)1ナノモルが、6時間後のCox−2 mRNA発現に及ぼす影響を示す棒グラフである(「*」はCFAと比較した場合にp<0.005を示す、n=3)。図7Eは、YVADが炎症の12時間後に脳脊髄液中のPGE2レベルを50%減少させ、炎症の24時間後には70%減少させたことを示す棒グラフである(「*」はCFAと比較してp<0.01を示す、1群n=7〜10)。
【図8】図8Aおよび8Bは、CFA炎症誘導の48時間後に選択的Cox−2阻害剤NS398(30 μg、RBI社から入手)の髄腔内投与は、処理ラットの機械的刺激応答(図8Aおよび8B)および熱応答(図8D)を炎症前に認められた反応レベル方向に減少させるが、静脈内投与は減少させなかったことを示すグラフである。対照的に、NS398は、無傷のラットにおける感受性を変化させなかった。図8Eおよび図8Cは、YVAD(1nmol)の髄腔内投与が、熱払いのけ潜時に有意に影響を及ぼさなかったが、溶媒対照と比較してCFA炎症を有する後足の機械的刺激閾値を増加させたことを示すグラフである(p<0.05)。
【図9】図9Aおよび9Bは、無傷動物および炎症後12時間の炎症動物からの新鮮なラット皮膚、脊髄、および全脳ホモジネートにおけるsPLA2活性レベルおよびcPLA2活性レベルをそれぞれ示す棒グラフである。表示の組織ホモジネート(30 μg)のPLA2活性は、[14C]2−アラキドニル−ホスファチジルコリンから30分間で放出された(図9A)、または[14C]2−アラキドニル−ホスファチジルエタノールアミンから120分間で放出された(図9B)[14C]アラキドン酸の1分間あたりの数(cpm)として表記する(スチューデントt検定に基づいて無傷のラットと比較した場合に「*」はp=0.006を示し、「**」はp<0.05を示す、ラット数n=4)。図9Cは、無傷のラットおよび炎症後12時間の炎症ラットにおけるcPLA2発現のウェスタンブロット分析を示すゲルの写真である。β−アクチンは、ロードの対照として用いた。
【図10】MAPキナーゼ阻害剤であるPD98059(ERK阻害剤)およびSB203580(p38阻害剤)の非存在下または存在下で、DRG細胞をインビトロにおいて4時間IL−1β処理した後のCOX−2 mRNA誘導を示すゲルの写真である。
【図11】生理食塩水(Sal)またはIL−1β(10 ng)の髄腔内投与から4時間後のL4 DRGにおけるCOX−2 mRNAレベルを示すゲルの写真である。
【図12】ERK(「pERK」)およびp38(「p−p38」)に対するリン特異的抗体を用いた、DRG初代培養におけるIL−1βによるERKおよびp38の誘導のウェスタンブロット分析の写真である。
【図13】MAPキナーゼ阻害剤であるSB203580およびPD98059の存在下または非存在下におけるIL−1β(10 ng/ml)による4時間の刺激後のDRG初代培養物の培養培地におけるPGE2レベルの棒グラフである。
【図14】予備神経損傷モデル(「SNI」)および慢性結紮損傷モデル(「CCI」)を含む、ニューロパシー疼痛ラットモデルの脊髄におけるCox−2 mRNA発現の誘導を示すゲルの写真である。Cox−2 mRNAはまた、坐骨神経の完全な離断(「軸索切断」)後にも誘導された。
【図15】炎症がDRGニューロンにおける持続的なp38活性化を誘導することを示す。図15Aおよび図15Bは、p38リン酸化が後足へのCFA注射の2日後にDRGニューロンにおいて増加することを示す免疫組織化学分析の写真である(目盛り、50 μm)。図15Cは、DRG中のp−p38陽性ニューロンの割合(%)として測定した、CFA投与後のp38リン酸化の時間経過を示す棒グラフである[(n=5)、無傷の対照と比較して、*P<0.05;**P<0.01]。図15Dは、一定レベルの染色を示したニューロンの数を示す棒グラフである。このグラフは、炎症の2日後にp−p38免疫染色ニューロンの強度が増加していることを示す。各条件について、動物3匹からニューロン300個を測定した。
【図16】p38阻害がCFA誘導炎症性熱痛覚過敏の遅延相を緩和することを示す棒グラフである。図16Aは、足の厚みに基づき、p38阻害剤であるSB203580の髄腔内注入が、CFAを注射した足における炎症の発生を変化させないことを示す。SB203580(1μg/μl)および対照溶媒(生理食塩水)を、CFA注射の前に髄腔内に埋め込んだカテーテルに接続した浸透圧ポンプによって注入した(0.5 μg/0.5 μl/時間)。図16Bおよび図16Cは、CFA投与の前に図16Aに関して記述したようにSB203580による処理の結果を示す棒グラフである。この前処理は、CFA注射の24時間後および48時間後における炎症性の熱痛覚過敏の遅延相を減少させた(図16B)。機械的刺激異痛は減少しなかった(図16C)。熱感受性および機械的刺激感受性を、後足の払いのけ潜時および後足の払いのけ閾値によってそれぞれ測定して、溶媒対照のCFA前の基準値測定値の割合(%)として表記した[**、溶媒対照と比較してP<0.01(n=8)]。図16Dおよび図16Eは、CFAによる処理後のSB203580投与の影響を示すグラフである。CFA処理から24時間後にSB203580(1μg)を髄腔内注射すると、炎症性熱痛覚過敏が遅れて阻害された。熱感受性および機械的刺激感受性を、阻害剤投与から0.5時間後、3時間後および24時間後に試験した[*、溶媒(生理食塩水)対照と比較してP<0.05(n=8)]。
【図17】p38活性化がDRGニューロンにおける炎症誘導VR1上方制御を媒介することを示す。図17Aは、RNase保護アッセイからのゲルの写真である。このアッセイでは、CFA誘導炎症後のVR1 mRNAレベルの増加を検出できなかった。「倍数(fold)」とは、アクチン対照に関して標準化した後の、対照に対する比較可能なレベルを表す。図17Bは、炎症後にVR1タンパク質の発現の増加を示すウェスタンブロットの写真である。2日目のこのような上方制御は、SB203580の髄腔内注射(1μg、1日2回を2日間)によって阻止された。「倍数」とは、ロード対照に関して標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。図17Cは、図17BからのVR1タンパク質のレベルを定量する棒グラフである(**、対照と比較してp<0.01;+、CFAと比較してP<0.05、n=5)。図17Dは、炎症から2日後のVR1レベルの増加を確認する、免疫組織化学分析の写真である。VR1タンパク質発現のこの誘導は、図16Aに関して記述したように浸透圧ポンプを用いて送達されたSB203580によって阻害された(目盛り、50 μm)。図17Eは、図17Dに基づくVR1陽性ニューロンの割合(%)を示す棒グラフである(**、対照と比較してP<0.01;++、CFAと比較してp<0.01、n=5)。
【図18】CFAがERKの持続的な活性化を誘導することを示す。図18Aは、後足へのCFA注射の10分後に同側脊髄(矢印で示す)の第I層〜第IIo層のニューロンにおいてERKリン酸化が誘導されることを示す低倍率画像の写真である(目盛り、200 μm)。図18Bは、CFA注射から10分後の同側脊髄の内側浅側後角におけるERK活性化を示す図18Aの高倍率画像である(目盛り、50 μm)。図18Cは、同側後角の表層(I〜IIo)におけるpERK陽性ニューロンの数によって測定したCFA投与後のpERK誘導の時間経過を示す棒グラフである。データを、平均値+SEM(n=3)として表す。図18Dは、CFA注射の30分後および6時間後に、反対側(C)と比較して同側の(I)後角ではERK1(44 kD)およびERK2(42 kD)双方のERLリン酸化が増加したことを示すウェスタンブロットの写真である。下のパネルは、ロード対照としての全ERK1およびERK2のレベルを示す。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対応する反対側に対する比較可能なレベルを表す。
【図19】CFAが後角におけるプロダイノルフィンの上方制御を誘導することを示す。図19Aは、CFA注射から24時間後および48時間後に同側の後角におけるプロダイノルフィンmRNAの増加を示すRNase保護アッセイからのゲルの写真である。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。図19Bは、CFA処理から24時間後の同側の表層部または深部の後角ニューロンにおけるプロダイノルフィンmRNAの発現の増加を示すインサイチューハイブリダイゼーションの写真である(目盛り、50 μm)。図19Cは、48時間後におけるCFA注射による同側の表層部および深部の後角において誘導されたプロダイノルフィン免疫反応ニューロンの数の増加を示す写真である(目盛り、50 μm)。
【図20】ERK活性化がプロダイノルフィン発現を調節することを示す。図20Aは、24時間後の後角におけるプロダイノルフィンmRNAのCFA誘導性の増加が、U0126(1μg、CFAの30分前および6時間後に髄腔内注射した)によって部分的に抑制されることを示すゲルの写真である。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。図20Bは、CFA注射から24時間後の同側後角の第I層〜第II層および第III層〜第VI層におけるプロダイノルフィンmRNA陽性ニューロンの定量を示す棒グラフである[*、対照と比較してP<0.001;+、CFAと比較してP<0.001(n=4)]。図20Cは、CFA注射から24時間後に、浅側後角におけるプロダイノルフィンmRNA標識ニューロンのCFA誘導性の増加がU0126によって阻害されることを示すインサイチューハイブリダイゼーションの写真である(目盛り、50μm)。
【図21】ERK活性化がNK−1発現を調節することを示す。図21Aは、48時間後の内側浅側後角におけるNK−1免疫反応性のCFA誘導性の増加が、浸透圧ポンプによって送達されたU0126によって抑制されることを示す写真である(目盛り、50μm)。図21Bは、CFA注射から48時間後の同側後角の第I層〜第IIo層におけるNK−1ニューロンの数の定量を示す棒グラフである[*、対照と比較してP<0.001;+、CFAと比較してP<0.001(n=5)]。図21Cは、24時間後の後角におけるCFA誘導性NK−1の増加がU0126(1μg、CFA注射の30分前および6時間後に髄腔内注射)によって阻害されることを示すウェスタンブロットの写真である。構成的に発現されるタンパク質であるCREBをロード対照として用いた。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。
【図22】ERKがプロダイノルフィン発現ニューロンおよびNK−1発現ニューロンのサブセットにおいて活性化されることを示す。pERKの多くは、CFA注射から24時間後の内側浅側後角において、プロダイノルフィン(図22A、図22C、および図22E)およびNK−1(図22B、図22D、および図22F)と共に局在する。矢印は二重標識ニューロンを示す(目盛り、20 μm)。
【図23】MEK阻害剤の持続的注入がCFA誘導炎症性疼痛を減少させることを示す棒グラフである。CFA注射の前にMEK阻害剤であるU0126を浸透圧ポンプ(0.5 μg/μl/時間)によって送達すると、CFA注射から24時間後および48時間後に熱痛覚過敏(図23B)および機械的刺激異痛(図23B)が減少する。これらをそれぞれ、足の払いのけ潜時および足の払いのけ閾値として測定し、溶媒対照(50%DMSO)のCFA前の基底測定値の割合(%)として表記する[*、溶媒対照と比較してP<0.01(n=8)]。
【図24】MEK阻害剤による後処理が炎症性疼痛に対して遅延型作用を有することを示す棒グラフである。U0126(1μg)または溶媒(10%DMSO)をCFA注射の24時間後に髄腔内投与した。熱痛覚過敏(図24A)および機械的刺激異痛(図24B)を、U0126投与の30分後、6時間後、および24時間後に試験した[*、対応する溶媒対照と比較してP<0.05(n=10)]。データは、溶媒対照のCFA前基底測定値の割合(%)として表記する。
【図25】痛覚過敏に関係する経路の略図である。
【図26】NGFが炎症後のp38活性化に必要であり、かつこれはDRGにおいてp38を介したVR1上方制御をもたらすことを示す。図26Aおよび図26Bは、NGF抗血清による処理(84 mg/g体重で1日1回の腹腔内注射を2日間)が、炎症性疼痛、特に熱痛覚過敏を緩和するのみならず、DRGにおけるp−p38レベルおよびVR1レベルのCFA誘導性の増加を抑制することを示す棒グラフである(CFAと比較して、*、P<0.05;**、P<0.01;n=3)。図26Cおよび図26Dは、NGF(2μg、1日2回を3日間)の髄腔内注射がp−p38およびVR1の発現を増加させることを示す写真および棒グラフである(対照(生理食塩水)と比較して、**、p<0.01;n=3、目盛り、50 μm)。図26Eは、NGF誘導性のVR1増加が、p38阻害剤203580(1μg)をNGFとの3日間同時投与によって遮断されることを示す棒グラフである[**、溶媒(生理食塩水)と比較してP<0.01;++、NGFと比較してP<0.01、n=3]。図27Fは、NGF髄腔内投与後のVR1免疫染色ニューロンの強度増加もまた、p38阻害によって減少することを示す、強度頻度(intensity frequency)の棒グラフである。それぞれの場合について、動物3匹からニューロン300個を測定した。
連邦政府により助成された研究についての声明
本発明は、米国国立衛生研究所からの助成金、NS38253−01およびNS40698、を受けたものである。本発明において、米国政府は一定の権利を有する。
【0002】
発明の背景
一般的に、本発明は、哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を阻害することにより疼痛を治療または予防する方法に関する。
【0003】
炎症は、心的外傷、血液供給の欠如、出血、異物、化学薬品、刺激剤、アレルゲン、電気、熱、寒さ、微生物、外科的手術または電離放射線による損傷等の組織損傷に対して生じる。炎症は、傷害の部位における過敏症(一次性痛覚過敏症)、隣接する非外傷組織における過敏症(二次性痛覚過敏症)、および、広汎性疼痛を含む疼痛に関連している。一次性痛覚過敏症は、侵害受容器末端の閾値の低下により引き起され、末梢感作と呼ばれる。炎症部位においてシクロオキシゲナーゼ(Cox)により生産されるプロスタノイドは、PKAが媒介する侵害受容器末端内ナトリウムチャネルのリン酸化により、末梢感作の発生に寄与する。このリン酸化は、侵害受容器末端の興奮性を高め、疼痛閾値を低下させる。二次性痛覚過敏症は、脊髄内のニューロンの興奮性が高まることにより引き起され、中枢感作と呼ばれる。あまり解明されていない広汎性疼痛は、例えば、インフルエンザ様症状に特徴的な疼痛である筋肉痛および関節痛を含み得る。
【0004】
一次性および二次性の痛覚過敏症に寄与するプロスタノイドの生成における2つの律速段階は、ホスホリパーゼA2(PLA2)酵素により制御される膜リン脂質からのアラキドン酸(AA)の放出、および、Coxにより触媒されるAAのプロスタノイド前駆体プロスタグランジンH2(PGH2)への変換である。また、Coxの2つのイソ型が同定されている:Cox−1は多種の細胞に存在し、一般的には常時発現しており、Cox−2は炎症部位で誘導され、腎臓および中枢神経系の一部で常時発現している。一般的に、非ステロイド性抗炎症薬(non−steroidal anti−inflammatory drug; NSAID)の抗炎症効果および鎮痛効果はCox−2の阻害に由来し、その副作用は、Cox−1の阻害に由来する。
【0005】
副作用を軽減して、疼痛を治療または予防するためには、治療法の改善が必要とされている。具体的には、胃腸における合併症の発生が少ない、より効果的な治療法が必要とされている。
【0006】
発明の概要
本発明の目的は、疼痛を治療、緩和または予防するための改良された方法を提供することである。本発明者等は、末梢性炎症が中枢神経系のIL−1βを誘導することにより、疼痛感受性に寄与する中枢性のCox−2およびプロスタノイドのレベルが上昇することを見出した。また、本発明者等は、中枢性のIL−1β活性の阻害の方が末梢IL−1β活性の阻害よりも疼痛の緩和に対してより効果的であり、これが、中枢性のCox−2活性の阻害と同じ程度の効果を示すことを明らかにした。したがって、中枢性のIL−1β活性の阻害は、疼痛を治療、緩和または予防するための改良された方法である。更に、本発明の方法は、哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を低下させる化合物を選択することを許容し、したがって、疼痛の緩和、安定化または予防に有用な新規治療薬の同定を容易にする。また、本発明者等は、MAPキナーゼの阻害剤がCox−2とプロスタノイドの誘導を減少させることを示した。したがって、MAPキナーゼのリン酸化または活性を阻害する化合物を哺乳動物の末梢、および/または、中枢神経系に投与することにより、疼痛を治療、緩和または予防できる。
【0007】
したがって、一つの局面において、本発明は、疼痛を治療、緩和または予防する方法を提供し、該方法は、哺乳動物(例えば、ヒト)の中枢神経系を、疼痛を治療、緩和または予防するのに適当な量のIL−1β活性を低下させる化合物に、接触させる段階を含む。一つの好ましい態様において、化合物は、哺乳動物の中枢神経系に直接投与し、好ましくは、髄腔内、髄内、脳内、側脳室内、頭蓋内、脊髄内、硬膜外腔内、または、頭頂内へ投与する。また別の好ましい態様において、化合物は、哺乳動物の血液−脳関門を通過する。この態様において、血液−脳関門を通過する化合物は、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、鼻腔内、経口、局所的、または、疼痛を予防、緩和または治療するために適当な量の化合物を投与するのに十分なその他の任意の経路によって投与され得る。好ましくは、化合物は、薬学的に許容される担体と共に哺乳動物へ投与する。好ましい態様においては、p38のリン酸化もしくは活性を直接的もしくは間接的に阻害する化合物、および/または、ERKのリン酸化もしくは活性を直接的もしくは間接的に阻害する化合物が投与される。
【0008】
更に、p38またはERK等のMAPキナーゼのリン酸化または活性を直接的または間接的に阻害する化合物は、疼痛の治療、緩和または予防のために、哺乳動物の末梢、または、末梢および中枢神経系の両方に投与できる。この様な方法の一つは、疼痛の治療、緩和または予防のために適当な量の、第一のMAPキナーゼの活性またはリン酸化を低下させる第一の化合物に、哺乳動物(例えば、ヒト)の末梢を接触させる段階を含む。一つの態様において、該方法は、更に、第一のMAPキナーゼまたは第二のMAPキナーゼの酵素活性またはリン酸化レベルを低下させる第一の化合物または第二の化合物を、哺乳動物の中枢神経系に投与する段階を含む。典型的なMAPキナーゼは、p38およびERKである。好ましい態様においては、p38のリン酸化または活性を阻害する化合物、および、ERKのリン酸化または活性を阻害する化合物が投与される。一つの好ましい態様において、化合物を、哺乳動物の中枢神経系に直接投与し、好ましくは、髄腔内、髄内、脳内、側脳室内、頭蓋内、脊髄内、硬膜外腔内、または、頭頂内へ投与する。また別の好ましい態様において、化合物は、哺乳動物の血液−脳関門を通過する。この態様において、血液−脳関門を通過する化合物は、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、鼻腔内、経口、局所的、または、疼痛を予防、緩和または治療するために適当な量の化合物を投与するのに適したその他の任意の経路によって投与され得る。好ましくは、化合物は、薬学的に許容される担体と共に哺乳動物へ投与される。好ましくは、MAPキナーゼのリン酸化レベルまたは酵素活性は、化合物存在下において少なくとも2、3、5、10、20または50分の一に低下する。
【0009】
更に、本発明は、化合物が中枢神経系においてIL−1β活性を阻害するか否かを判定する際に使用できる方法に関する。これらの方法により同定された化合物は、疼痛を治療、緩和または予防する際に有用であり得る。
【0010】
このような一つの局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を阻害するか否かを判定するためのスクリーニング方法を提供し、該方法は、哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階、ならびに、化合物の存在下および非存在下において、哺乳動物における疼痛を測定する段階、または哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を測定する段階を含む。化合物が疼痛またはIL−1β活性の低下をもたらす場合、化合物は、IL−1β活性を阻害すると判定される。
【0011】
別の局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するためのスクリーニング方法を提供する。本方法は、化合物を哺乳動物の末梢に投与する段階、および、化合物の存在下および非存在下において、哺乳動物の中枢神経系および末梢の両方においてIL−1β活性を測定する段階を含む。化合物が哺乳動物の末梢よりも中枢神経系においてIL−1β活性のより大幅な低下をもたらす場合、化合物は、中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害すると判定される。
【0012】
関連する局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するための、更に別のスクリーニング方法を提供する。この方法は、(a)第一の哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階、(b)化合物の存在下および非存在下において、第一の哺乳動物の末梢においてIL−1β活性を測定する段階、(c)第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系に化合物を投与する段階、ならびに(d)化合物の存在下および非存在下において、その第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を測定する段階を含む。化合物が末梢よりも中枢神経系においてIL−1β活性のより大幅な低下をもたらす場合、化合物は、中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害すると判定される。
【0013】
更に別の関連する局面において、本発明は、化合物が哺乳動物の中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するためのスクリーニング方法を提供する。この方法は、(a)第一の哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階、(b)化合物の存在下および非存在下において、第一の哺乳動物において疼痛を測定する段階、(c)第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系に化合物を投与する段階、ならびに(d)化合物の存在下および非存在下において、第一の哺乳動物または第二の哺乳動物において疼痛を測定する段階。化合物が、末梢よりも中枢神経系に投与した際に疼痛を大幅に緩和する場合、化合物は、中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害すると判定される。
【0014】
本発明の様々なスクリーニング方法の好ましい態様において、これらの方法はまた、IL−1β活性または疼痛の測定を行う前に、哺乳動物、第一の哺乳動物、または、第二の哺乳動物の末梢において炎症を誘導する段階も含む。炎症は、化合物を末梢または中枢神経系に投与する前、その最中、または、その後に誘導されてもよい。その他の好ましい態様において、これらの方法は、IL−1β活性または疼痛を測定する前に、哺乳動物、第一の哺乳動物、または、第二の哺乳動物において神経障害からなる神経因性疼痛を引き起こすために神経の損傷、破壊、または、障害を誘導する段階を含む。神経障害は、化合物を末梢または中枢神経系に投与する前、その最中、または、その後に誘導してもよい。化合物は、好ましくは、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、経口、局所的または鼻腔内投与により哺乳動物の末梢に投与されるか、または、髄腔内、髄内、脳内、側脳室内、頭蓋内、脊髄内、硬膜外腔内または頭頂内投与により哺乳動物の中枢神経系に投与される。また、別の好ましい態様において、化合物は、少なくとも5個、10個、20個、50個または100個の化合物からなるライブラリの一員であり、その全てが同時に哺乳動物に投与される。また、別の好ましい態様において、化合物は、薬学的に許容される担体と共に投与される。哺乳動物は、好ましくは、マウスもしくはラット等の齧歯類であるか、サル、ウサギ、または、モルモットである。中枢性のIL−1β活性を阻害する好ましい化合物には、組換えIL−1raなどのIL−1受容体アンタゴニスト、およびカスパーゼ−1阻害剤が含まれる。好ましいカスパーゼ−1阻害剤としては、アルデヒド、ハロメチルケトン、ジアゾメチルケトン、フェニルアルキルケトンおよびアシルオキシメチルケトン等が含まれる(Livingston, J. of Cellular Biochemistry 64:19−26、1997、Calbiochem Technical Bulletin 「カスパーゼの阻害剤と基質(Caspase Inhibitors and Substrates)」San Diego、California)。好ましいアルデヒドカスパーゼ−1阻害剤としては、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−アルデヒド、アセチル−Val−Ala−Asp−アルデヒド、および、アセチル−Ala−Ala−Val−Ala−Leu−Leu−Pro−Ala−Val−Leu−Leu−Ala−Leu−Leu−Ala−Pro−Tyr−Val−Ala−Asp−アルデヒドが含まれる。好ましいハロメチルケトンとしては、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−クロロメチルケトン、Boc−Asp(O−メチル)−フルオロメチルケトン、Boc−Ala−Asp(O−ベンジル)−クロロメチルケトン、Boc−Asp(O−ベンジル)−クロロメチルケトン、ベンゾイルオキシカルボニル−Tyr−Val−Ala−Asp(O−メチル)−フルオロメチルケトン、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp−フルオロメチルケトン、および、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp(O−メチル)−フルオロメチルケトンが含まれる。これらのいずれのハロメチルケトンのハロゲンも、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、または、アスタチンで置換し得る。アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−ジアゾメチルケトンは好ましいジアゾメチルケトンであり、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp−フェニルアルキルケトンは好ましいフェニルアルキルケトンである。好ましいアシルオキシメチルケトンの例としては、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−[(2,6−ジメチルベンゾイル)オキシ]メチルケトン、ベンゾイルオキシカルボニル−Asp−CH2−[(2,6−ジクロロベンゾイル)オキシ]メタン、アセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−(ジクロロベンゾイル)オキシ−メチルケトン、および、ベンゾイルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp(O−エチル)−(ジクロロベンゾイル)オキシ−メチルケトンが含まれる。標準的な方法によりアスパラギン酸残基がエステル化された化合物を含むこれらの化合物の誘導体も本発明の方法に使用してもよい。
【0015】
本発明における様々な方法の好ましい態様において、化合物は、p38またはERK等のMAPキナーゼまたはCREB等の転写因子のリン酸化または活性を直接的にまたは間接的に阻害する。別の好ましい態様において、化合物は、IL−1β、p38、および/または、ERK活性化の下流にあるタンパク質、例えば、膜受容体(例えば、NMDAまたはAMPA受容体)または、イオンチャネル等の翻訳後制御を直接的または間接的に調節する(例えば、リン酸化を阻害する)。好ましくは、このタンパク質リン酸化の阻害は、膜の興奮性を低下させるものであり、標準的な方法により測定される。また別の好ましい態様において、ERK活性またはリン酸化を阻害する化合物を投与することは、CREB等の転写因子のリン酸化レベルの低下または遺伝子転写レベルの低下へとつながる。遺伝子転写が低下する結果となる特定の態様において、化合物は、c−fos等の直前の遺伝子の転写、または、CRE部位を含むプロモーター(例えば、プロダイノルフィンまたはNK−1プロモーター)に機能的に接続した遺伝子の転写を低下させる。また、別の好ましい態様において、プロダイノルフィンおよび/またはNK−1のmRNAまたはタンパク質レベルは、化合物の投与により低下する。別の態様において、化合物は、VR1等のmRNAの転写、または、mRNAもしくはタンパク質の半減期を減少させる。
【0016】
本明細書において「IL−1β活性を低下させる化合物」とは、標準的な方法により測定された、IL−1βmRNAもしくはタンパク質のレベル、IL−1βの活性、IL−1βmRNAもしくはタンパク質の半減期、または、受容体もしくは他の分子へのIL−1βの結合を低下させる化合物を意味する(例えば、Ausubelら、「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、第9章、John Wiley & Sons、New York、2000参照)。また、別の好ましい態様において、IL−1β活性を低下させる化合物は、Cox−2mRNAもしくはタンパク質のレベル、プロスタノイドのレベル、シグナル伝達タンパク質(例えば、p38またはERK等のMAPキナーゼ)のリン酸化レベル、または、疼痛のレベルまたは継続期間を低下させるか安定させる。Cox−2mRNAの発現レベルは、ここに記載されているような標準的なRNase保護アッセイまたはインサイチューハイブリダイゼーションアッセイを使用して決定され、Cox−2タンパク質レベルは、Cox−2抗体を用いた標準的なウエスタン法または免疫組織化学分析により決定し得る(例えば、上記のAusubelら参照)。また、PGH2またはPGE2等の誘導されたIL−1βであるプロスタノイドのレベルは、ここに説明されているような標準的なELISAアッセイを用いて測定され得る。IL−1受容体活性化の下流にあるシグナル伝達タンパク質である、p38MAPキナーゼ、ERKMAPキナーゼ、junキナーゼ(JNK)、NFκ−B、または、Iκ−B等のリン酸化レベルも、前記の方法により測定し得る(O’NeillおよびGreene、J. Leukoc. Biol. 63:650−657、1998;Auron、Cytokine Growth Factor Rev. 9:221−237、1998)。様々な態様において、化合物は、p38またはERK等のMAPキナーゼのリン酸化または活性を直接的または間接的に阻害する。その他の態様において、化合物は、p38またはERK等のMAPキナーゼのリン酸化または活性を直接的または間接的に阻害しない。IL−1β活性のレベルは、下記のとおり、疼痛のレベル、持続期間、または、発生の遅延を測定することにより判定してもよい。IL−1β活性を低下させる能力について試験されうる化合物としては、合成有機分子、天然に存在する有機分子、核酸分子、IL−1βアンチセンス核酸、生合成タンパク質もしくはペプチド、天然に存在するペプチドもしくはタンパク質、IL−1β抗体、または、ドミナントネガティブなIL−1βタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、化合物は、IL−1β活性を少なくとも20%、40%、60%、80%、または、90%低下させる。別の好ましい態様において、IL−1β活性のレベルは、化合物存在下では、少なくとも2、3、5、10、20、または、50分の一である。好ましくは、中枢神経系におけるIL−1β活性の低下は、末梢におけるIL−1β活性の低下の2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、または、50倍である。
【0017】
「疼痛」とは、ある形態の神経末端の刺激による苦痛の感覚を意味する。疼痛は、その位置、性質(例えば、局所性の痛み、拡散的な痛み、恒常的な痛み、間欠痛、灼熱痛、きりきりする痛み、噛まれるような痛み、鋭い痛み、鈍痛、または、拍動痛)、放散性(例えば、最もひどい状態の患部からの痛みの分布)、頻度、または、関連する症状(例えば、機械的刺激(mechanical)閾値または払いのけ潜時)により特徴付けられる。哺乳動物における疼痛のレベル、継続時間、または、遅延された発生は、標準的な方法のいずれのものをも使用して測定し得る。好ましい炎症性疼痛のモデルは、ラットまたはマウス等の齧歯類の片側の後ろ足にホルマリン、カラゲナン、または、フロイント完全アジュバント(complete Freund’s adjuvant; CFA)を注射することを含む(Honoreら、J. Neurosci. 19:7670−7678、1999)。慢性的な炎症性疼痛のモデルとして、CFAを使用してマウスまたはラットにおいて関節炎を誘導してもよい(Honoreら、上記参照;Vieiraら、Eur. J. Pharmacol. 407:109−116 2000)。これらの炎症性疼痛モデルにおける疼痛のレベルを測定する為には、痛感刺激(熱)または機械的刺激過敏症に応答した際の払いのけ潜時を、校正したフォン・フライフィラメントを使用して、既に説明されているとおりにアッセイする(Decosterdら、Pain 87:149−158、2000)。また、マウスまたはラットの足にカプサイシン等の刺激物を皮内または局所的に投与した後の足舐め反応の回数、または、モルモットの結膜に刺激物を局所的に投与した後の拭き動作の回数を測定してもよい(Vieiraら、上記参照)。化合物が疼痛を緩和、安定化、予防、または、発生を遅延する能力は、酢酸を腹腔内投与した後の齧歯類の身もだえ反応の回数に対する化合物の効果を測定することにより判定できる(Saturninoら、Biol. Pharm. Bull. 23:654−656、2000)。また、炎症を起こした足を機械的に刺激するテストチャンバー内の位置を、CFA処理されたラットが避ける期間も判定し得る(LaBudaおよびFuch、Exp. Neruol. 163:490−494,2000)。一つの好ましい態様において、疼痛を、傷害の部位(一次性痛覚過敏症)または隣接する非外傷組織(二次性痛覚過敏症)で測定する。別の好ましい態様においては、広汎性の痛みが測定される。他の好ましい態様において、痛覚過敏症または異疼痛は、抑制される。また、脊椎損傷後の疼痛等の中枢神経系から生じる疼痛も測定し得ると予想される。末梢神経因性疼痛を研究するために、例えば、残存神経損傷モデル(Spared Nerve Injury model)(DecosterdおよびWoolf、Pain 87:149−158、2000)または慢性絞扼神経損傷モデル(Chronic Constriction Injury model)(BennettおよびXie、Pain 33:87−107、1988)において化合物が末梢神経因性疼痛を抑制または予防する能力を測定することが可能である。
【0018】
「末梢」または「末梢神経系」とは、脳と脊髄以外の神経系領域を意味する。例えば、末梢神経系は、脳または脊髄へ信号を伝達する感覚神経および運動神経繊維を含む。
【0019】
「中枢神経系」とは、脳脊髄液を含む、脳または脊髄を意味する。
【0020】
本発明は、疼痛の治療または予防に関連する数々の利益を提供する。例えば、哺乳動物の中枢神経系へIL−1β活性阻害剤を投与することにより、末梢神経系へこれらの阻害剤を投与した場合よりも大幅に疼痛が弱まる。更に、活性型IL−1βの生成を阻害する化合物の髄腔内投与は、機械的刺激による疼痛および温熱性疼痛に対する感度を低下させることにおいて、選択的なCox−2阻害剤と同じ程度の効果を示す。したがって、中枢神経系においてIL−1β活性を阻害する化合物の投与は、疼痛を治療または予防する為の最新の方法よりも効果的であり得る。更に、治療効果のある量を調整する際に、中枢性のIL−1β阻害剤は、より少ない投与量、または、より頻度の低い投与回数を必要とし得る。このような少ない投与量の使用は、これらの化合物からの副作用の頻度および重篤さを最小限にし得る。
【0021】
本発明のその他の特徴および利点は、下記の詳細な説明および添付の特許請求の範囲により明らかであると考えられる。
【0022】
詳細な説明
本発明は、末梢性の炎症に反応した中枢神経系におけるCox−2発現とプロスタノイド産生との誘導に関する重要な要因が、中枢神経系におけるIL−1βの上方制御であるという発見に由来する。これに対し、末梢性の炎症部位を神経支配する神経線維からの知覚の流入によって生じた中枢性のCox−2レベルの増加は、はるかに小さかった。さらに、疼痛の感受性に関与する中枢神経系のプロスタノイドの産生は、上流の酵素であるホスホリパーゼ2のレベルよりむしろ中枢性のCox−2レベルに相関した。
【0023】
中枢神経系においてCox−2が誘導されること、そしてそれによって中枢性のプロスタノイド産生が増加することは、一次性痛覚過敏、二次性痛覚過敏、および散在性疼痛に関与する可能性がある。例えば、中枢性のCox−2は、侵害受容器線維からの伝達物質の放出を促進することによるのみならず、中枢神経系におけるプロスタノイド受容体を直接活性化することによって、慢性的な末梢性の炎症性過敏症の確立および維持に関与する可能性がある。炎症組織に隣接した感受性の増大は、おそらく中枢性のプロスタノイドによって、および炎症組織を神経支配する知覚線維の中枢末端から放出される神経調節物質によって媒介される。多くの炎症疾患に典型的な散在性の痛みおよび疼痛、ならびに感染疾患に関連する発熱、嗜眠、および食欲不振も同様に、Cox−2が広い範囲で誘導され、これに続いて末梢炎症後に中枢神経系においてプロスタノイドが産生されることによって引き起こされる可能性がある。
【0024】
ラット脊髄にIL−1β産生阻害剤を投与すると、末梢炎症によって誘導される中枢性のCox−2 mRNAレベル、中枢性のプロスタグランジン2レベル、および熱疼痛感受性の増加が減少した。このように、中枢神経系におけるIL−1β活性の阻害は、ヒトのような哺乳動物における疼痛を予防、減少、または安定化させる有用な手段である。
【0025】
本発明者らはまた、末梢炎症が一次知覚ニューロンにおいてMAPキナーゼp38を活性化させるが、二次後角ニューロンにおいては活性化させないことも発見した。特に、p38は、炎症後に後根神経節(DRG)ニューロンのC線維侵害受容器において主に活性化された。p38阻害剤を髄腔内に投与すると、炎症性の熱痛覚過敏を緩和したが、機械的刺激痛覚過敏は緩和しなかった。熱痛覚過敏を媒介するVR1受容体は、p38活性化の標的である。VR1タンパク質は炎症によって上方制御されるがVR1 mRNAは上方制御されず、p38は、VR1発現ニューロンにおいて主に活性化された。p38活性化は、VR1タンパク質レベルの炎症による増加に必要であった。神経成長因子(NGF、既知の疼痛媒介物質)は、これらの事象の誘因となる可能性がある。NGFは炎症によるp38活性化およびVR1上方制御に必要であり、VR1のNGF誘導性上方制御は、p38によって媒介される(図26A〜図26F)。
【0026】
もう一つのMAPキナーゼであるERKの活性化は、後角における侵害受容の可塑性において二つの役割を有する;急性の侵害刺激誘導中枢の感作に対する短い潜時の関与、ならびに炎症性疼痛の誘導および維持における関与。末梢性の炎症性疼痛の知覚過敏におけるpERKの関与は、少なくとも部分的に、疼痛メディエータであるプロダイノルフィンおよびNK−1ならびに他の標的遺伝子の発現の調節が原因であるかも知れない。したがって、ERK活性化は、多様な入力に対する特定のエフェクター反応の活性化を決定して、これが過敏性の変化に関与する、浅側後角における一群のニューロンの機能的可塑性および化学的表現型において肝要な役割を有する。
【0027】
IL−1βを一次知覚ニューロンに投与しても同様に、MAPキナーゼp38またはERKのリン酸化が増加した(図25)。これらのキナーゼの阻害剤は、IL−1βによって誘導されたCox−2 mRNAおよびPGE2の増加を減少させた。これらの結果は、MAPキナーゼリン酸化および/または活性の阻害剤が、疼痛を減少または予防できることの根拠となる。
【0028】
上記の実験を、以下のように実施した。
【0029】
実施例 1 : Cox2 の中枢での誘導
フロイント完全アジュバント(CFA)によって誘発された片側の後足炎症後の中枢神経系におけるCox−2誘導の程度を調べた。CFA(100 μl、Sigma)を、2%ハロタンによって麻酔したラットの左後足に注射した。Cox−2 mRNAレベルは、RPA IIIキット(Ambion)を用いて脊髄試料からの全RNA抽出物について行うRNase保護アッセイを用いて測定した。Cox−2放射標識リボプローブの鋳型を、ラットの後根神経節cDNAから、プライマー
および
を用いたPCRによって作製して、その後pCRII(Invitrogen)にクローニングした。それぞれの観察について少なくとも二つのアッセイを用いて、Cox−2 mRNAレベルが何倍変化したかをβアクチンロード対照に関して決定した。
【0030】
局所的末梢炎症によって、足の求心性末端がある腰髄の領域(L4/L5分節)で、Cox−2 mRNAレベルが迅速に時間依存的に増加した(図1A)。最大誘導は6時間で起こり(16倍)、少なくとも24時間持続した(9倍)。初期(2時間〜6時間)では、増加は炎症と同側で最大であった。予想外に、12時間および24時間では、レベルは腰髄において両側に対称的であり(図1Aおよび図1C)、Cox−2発現が全般的に増加していることを示唆した。
【0031】
このようなCox−2発現の全般的増加の可能性を確認するために、Cox−2レベルをラットの多数の領域において測定した。後足の炎症によって、皮膚(18倍)および脊髄の全てのレベルでCox−2発現が増加した(図1B)。Cox−2発現の増加は、橋、腹側中脳、視床下部、および視床においても認められた(図1Bおよび図1D)。大脳皮質におけるCox−2発現は構成的であり、炎症によって有意に影響を受けなかった(図1B)。
【0032】
末梢炎症後の後角におけるCox−2タンパク質の誘導を可視化するために、既に記述されているように(Amayら、Mol. Cell Neurosci. 15:331〜342、2000)、Cox−2抗体(Santa Cruz)および神経マーカーであるNeuN抗体(Chemicon)を用いて、脊髄横断切片(20 μm)について免疫組織化学を行った。Cox−2 mRNAの誘導を可視化するためにジゴキシゲニン標識リボプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーションを行った(Mannionら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:9385、1999)。Cox−2 mRNAおよびタンパク質の低い基底レベルが後角ニューロンに存在し、炎症後6時間および12時間で実質的に上方制御された(図2A〜図2Dおよび図3)。Cox−2のこの誘導がPGE2レベルの増加に相関するか否かを判定するために、脳脊髄液試料100 μl〜200 μlを麻酔したラットの大槽から27G針を用いて採取して、製造元のプロトコール(Amersham Pharmacia Biotech)に従ってPGE2酵素イムノアッセイを用いてPGE2レベルを分析した。実際に、Cox−2の誘導は脳脊髄液においてPGE2レベルの80倍以上の増加に関連し、これは炎症の12時間後に最大であった(図4)。
【0033】
Cox−2発現はまた、神経損傷によって中枢神経系においても誘導された。特に、Cox−2 mRNAは、「予備神経損傷モデル」(「SNI」、DecosterdおよびWoolf、Pain 87:149〜158、2000)および慢性結紮損傷(Chronic Constriction Injury)モデル(「CCI」、BennettおよびXie、Pain 33:87〜107、1988)のようなニューロパシー疼痛ラットモデルの脊髄において誘導された(図14)。Cox−2 mRNAはまた、坐骨神経の完全な離断(「軸索切断」)後にも誘導された。このように、炎症性疼痛におけるその役割の他に、中枢性のプロスタノイドはまた、神経損傷によって誘導された病的疼痛の一つの型であるニューロパシー疼痛にも関与している。
【0034】
実施例 2 :中枢性の Cox−2 レベルに及ぼす知覚流入の影響
末梢性の炎症に反応した中枢性のCox−2誘導には二つの作用機構が関与しうる:1)炎症を有する後足を神経支配する神経線維からの知覚流入、または2)循環中の前炎症性サイトカイン。一次知覚ニューロンの活性が中枢性のCox−2を増加させるか否かを判定するために、後根が付随した単離成体ラット脊髄切片調製物を分析した(図5A)。この脊髄切片を調製するために、成体ラットからウレタン麻酔下で腰髄を採取して、冷クレブス溶液に浸した。L4後根(15mm〜20mm)が付随した厚さ700 μmの横断切片を調製して、95%O2および5%CO2によって飽和したクレブス溶液によって36℃〜37℃で還流した(Babaら、J. Neurosci. 19:859、1999)。吸引電極を用いて、Aβ線維に関して20 μA(0.05 ms、50 Hz)、Aβ線維に関して100 μA(0.05 ms、50 Hz)、およびC線維に関して1000μA(0.5 ms、50 Hz)で、L4後根を30分間電気刺激した。切片をクレブス溶液によって電気刺激の前に2時間還流し、刺激後3時間還流した。
【0035】
Aβ線維、Aδ線維、またはC線維の強度で30分間後根を電気刺激すると、3時間後に同側の後角において、Cox−2 mRNAが、反対側の後角または非刺激切片と比較して2倍〜3倍増加した(図5B)。C線維の強度での坐骨神経のインビボでの30分間刺激を、既に記述されているとおりに(Mannionら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:9385、1999)行った場合も、3時間後に腰髄においてCox−2発現が誘導された。しかし、Cox−2発現のこの3倍〜4倍の増加は、末梢炎症後の10倍以上の増加よりも小さかった(図5C)。
【0036】
炎症を有する後足を神経支配する神経線維からの知覚流入が、末梢炎症後の中枢性のCox−2の大きい誘導を説明するために十分であるか否かを判定するために、生体分解性のブピバカイン−ポリエステルミクロスフェアの注射用懸濁液を用いて、神経ブロックを行い、その30分後にCFAをラット後足に注射した(n=6)(Curleyら、Anesthesia 84:1401、1996)。行動の評価およびこれまでに報告された電気生理研究に基づくと、この神経ブロックによって、坐骨神経の完全な知覚および運動神経遮断が48時間起こった。坐骨神経伝導のこの遮断によって、脳脊髄液中のPGE2レベル(図5E)および後足炎症後の同側の腰髄におけるCox−2 mRNA誘導(5±1.5倍、n=3、図5D)は減少したものの、消失しなかった。したがって、知覚流入は中枢性のCox−2を誘導するには十分であるが、末梢炎症後の中枢性のCox−2誘導にはさらなる要因が関与しているに相違ない。
【0037】
実施例 3 : IL−1 βの上方制御および中枢性の Cox−2 レベルに及ぼすその影響
IL−1βもまた中枢性のCox−2の誘導に関与するか否かを試験するために、既に記述されているように(Safieh−Garabedianら、Br. J. Pharmacol. 115:1265〜1275、1995)ELISAを用いて、IL−1βレベルをラットの末梢および中枢神経系において測定した。IL−1βの顕著な上方制御(>10,000倍)が、CFA投与後まもなく炎症を有する足に起こり、数日間持続した(図6A)。IL−1βはまた、脳脊髄液において炎症の2時間後および4時間後にそれぞれ、50倍および20倍の増加を示し(図6B)、これはCox−2 mRNAの最大上方制御の前に起こった。既に記述されている(Amayaら、上記)通りに行った抗I型IL−1受容体抗体(Research Diagnostics)による免疫組織化学に基づくと、I型IL−1β受容体は、脊髄、特に炎症後にCox−2が誘導される領域である後角の第I層〜第III層において(図6C)強く発現された。
【0038】
IL−1βが中枢性のCox−2を誘導するか否かを判定するために、ラットにこのサイトカインの静脈内または髄腔内投与を行い、腰髄においてCox−2 mRNAレベルを5時間後に評価した。IL−1β(1μg)を静脈内投与すると、脊髄におけるCox−2 mRNAを4倍上方制御したが(図6D)、5 ngまたは50 ngのIL−1β髄腔内注射によりはるかに大きい作用が得られた(それぞれ、20倍または30倍)(図6D)。IL−1βはまた、IL−1βの髄腔内投与後インビボで、そして初代神経培養においてインビトロの双方で、一次知覚ニューロンである後根神経節ニューロン(「DRG」)においてCox−2発現を誘導する。特に、Cox−2mRNAレベルおよびタンパク質レベルは、1 ng/mlまたは10 ng/mlのIL−1βの投与後、培養DRGニューロンにおいて有意に増加した。この分析に関して、Cox−2 mRNAレベルはRNase保護アッセイを用いてモニターして、タンパク質発現は、本明細書に記載するように免疫組織化学によって可視化した(図10)。IL−1β(1 ngおよび10 ng)の髄腔内投与も同様に、処理の4時間後にラット腰髄DRGニューロンにおいてCox−2 mRNAレベルを実質的に上方制御させた(図11)。その上、中枢性PGE2レベルは、IL−1β(5ng)の髄腔内投与後に、本来のレベル24±10 pg/mlから1204±360 pg/mlへと有意に上方制御された(50倍)(p<0.005、n=6)。この結果は、Cox−2の中枢性のIL−1β媒介誘導によって中枢性のプロスタノイド産生が起こることを示唆している。
【0039】
Cox−2の誘導における中枢性のIL−1βの役割をさらに支持するために、IL−1β活性を阻害する効果を決定した。中枢性のIL−1β活性は、組み換え型IL−1β受容体アンタゴニスト(IL−1ra)またはカスパーゼ−1(プロインターロイキン−1βを活性型のIL−1βに変換する、インターロイキン−1β変換酵素としても知られる)阻害剤のいずれかの髄腔内投与によって阻害された。6μgのIL−1raをCFA注射の30分前に髄腔内投与すると、Cox−2 mRNAレベルは炎症の6時間後に75%減少した(図7B)。カスパーゼ−1阻害剤であるYVAD(Calbiochemのアセチル−Tyr−Val−Ala−Asp−CHO、1nmol、0.5 μg)を用いた30分間の髄腔内前処理により、末梢炎症の6時間後に脊髄のCox−2 mRNAの誘導が65%遮断された(図7D)。YVAD(1nmol)の髄腔内前処理によってもまた、炎症の12時間および24時間後における中枢性のPGE2レベルが50%減少した(図7E)。これらのデータは、脊髄におけるIL−1βが末梢性の炎症後のCox−2の中枢性の転写活性化に関して、おそらく他のサイトカインと共に作用して関与すること、そしてCox−2誘導が中枢性のPGE2の産生/放出における主な制限因子であることを示す。
【0040】
中枢性のCox−2誘導の挙動的結末を試験するために、カスパーゼ−1阻害剤であるYVAD、またはCox−2阻害剤であるNS398を投与した場合の、ラットにおける機械的刺激感受性および熱刺激感受性に及ぼす影響を決定した。機械的刺激過敏症は、既に記述されているように(Decosterdら、Pain 87:149〜158、2000)較正したフォンフレー(Von Frey)繊維(0.017〜95.5)を用いて、無傷および炎症を有するラットにおいて評価された。熱感受性は、輻射熱光線を適用して、足の払いのけ潜時(withdrawal latency)を記録することによって評価された(Decosterdら、上記)。NS398(30 μg)を髄腔内投与すると、機械的刺激痛覚過敏(4.2倍)および熱痛覚過敏が、末梢のCFA誘導炎症の48時間後にいずれも有意に減少したが、静脈内投与では減少しなかった(図8A、図8B、および図8D)。YVAD(1nmol)を髄腔内投与すると、機械的刺激感受性の正常化に対してさらにより大きい作用を示した(12倍)(図4D)。Cox−2とカスパーゼ−1阻害剤はいずれも、無傷のラットにおける機械的刺激疼痛感受性または熱疼痛感受性に有意な影響を及ぼさなかった。これらの結果は、中枢神経系においてIL−1β活性を阻害する化合物が、哺乳動物における疼痛の治療および予防において有用であることを示唆している。
【0041】
実施例 4 : Cox−2 の誘導における MAP キナーゼおよび NF κ −B の役割
IL−1βによる処理後にDRGニューロンにおいてCox−2 mRNAを増加させる細胞内シグナル伝達経路を試験するために、一次DRGニューロンにおけるNFκ−B転写因子およびMAPキナーゼファミリーメンバーの活性化を調べた。IL−1βをDRG細胞培養物に投与すると、p38およびERKがリン酸化された。リン酸化されたp38およびERKは、10 ng/ml IL−1βを培養培地に投与してから30分後に、標準的なウェスタンブロット分析および免疫組織化学によって可視化した(図12)。DRGニューロンにおける特異的I型IL−1受容体の発現は、MAPキナーゼファミリーのこれらのメンバーが、一次知覚ニューロンにおけるIL−1βの直接作用によって活性化されることを示唆している。
【0042】
Cox−2 mRNAレベルおよびタンパク質レベルのIL−1β媒介誘導に対するp38、ERK、およびNFκ−Bの関与を測定するために、これらの因子のそれぞれに関する特異的阻害剤を用いた。p38およびERK阻害剤はそれぞれ、初代DRGニューロン培養物においてIL−1βによるCox−2 mRNAの誘導を30%減少させた(図10)。対照的に、NFκ−B特異的阻害剤は、IL−1β処理によって誘導されたCox−2 mRNAレベルの増加に影響を及ぼさなかった。p38とERK MAPキナーゼ阻害剤の双方を組み合わせると、IL−1βによるCox−2 mRNAの誘導は劇的に減少し、このことは、p38とERKとがIL−1β処理に反応して相乗的に作用してCox−2 mRNAを上方制御することを示す(図10)。
【0043】
COX−2上方制御と共にMAPキナーゼ阻害剤によるその遮断の機能的関連性を評価するために、培養DRGニューロンによってインビトロで分泌されたPGE2レベルを、IL−1β処理後にELISAによって定量した。一次知覚ニューロンにおけるCox−2 mRNAレベルおよびタンパク質レベルの上方制御によって、PGE2合成が増加した。PGE2レベルのこの増加は、MAPキナーゼ阻害剤によって減少した(図13)。
【0044】
これらの結果は、ニューロンにおけるCox−2発現の誘導およびプロスタノイドの放出に関与するシグナル伝達機構に、MAPキナーゼファミリーメンバーが含まれることを示す。MAPキナーゼ阻害剤が、IL−1βによるCox−2の誘導およびその後のプロスタノイドの放出の双方を遮断できることから、これらの阻害剤は、末梢および中枢のプロスタノイド放出を減少させ、痛覚過敏を緩和するための有用な鎮痛薬候補物質となる。
【0045】
実施例 5 :痛覚過敏における p38 MAP キナーゼの役割の特徴付け
本発明者らは、末梢神経系の後根神経節(DRG)ニューロンに作用する炎症性熱疼痛過敏の発生におけるp38 MAPキナーゼの新規役割を発見した。フロイント完全アジュバント(CFA)をラットの後足に注射すると、持続的な炎症およびDRGニューロンにおけるC線維侵害受容器一次知覚ニューロンにおけるp38の持続的な活性化が起こった。ERK活性化とは対照的に、炎症後の後角にp38活性化の増加を認めなかった。炎症はまた、DRGニューロンにおいて、バニロイド受容体サブタイプ1(VR1)タンパク質の持続的な上方制御を引き起こしたが、mRNAの持続的な上方制御は引き起こさなかった。VR1は、侵害熱刺激の検出に関与する受容体であり、同様に炎症性の熱痛覚過敏も媒介する。p38阻害剤であるSB203580を髄腔内に注入すると、炎症によって誘導されたVR1タンパク質レベルの増加が遮断され、炎症によって誘導された熱痛覚過敏の持続が緩和された。対照的に、阻害剤は、機械的刺激異痛、炎症の重症度(すなわち、腫脹)、または基底疼痛感受性(すなわち、炎症が存在しない場合の疼痛)に有意な影響を及ぼさなかった。炎症によるp38の活性化には神経成長因子(NGF)を必要とし、NGFは炎症組織において産生され、末梢の感作を促進して、知覚ニューロンにおける遺伝子発現を増加させることによって炎症性疼痛を促進する。逆に、p38活性化は、NGF誘導VR1上方制御(図26A〜図26F)に必要であった。このように、末梢神経系におけるC線維侵害受容器におけるp38の活性化は、NGF依存的にVR1翻訳を増加させることによって、炎症性の熱痛覚過敏に関与する可能性がある。
【0046】
本実験を、下記においてより詳しく説明する。
【0047】
DRG における p38 の活性化
局所的末梢炎症によってDRGニューロンにおけるp38活性化が起こるか否かを評価するために、マサチューセッツ総合病院動物飼育施設ガイドライン(Massachusetts General Hospital Animal Care institutional guidelines)に従って飼育して、ペントバルビタール麻酔下(50 mg/kg〜60 mg/kg、腹腔内投与)の成体雄性スプレージ−ドーリー系ラット(240 g〜320 g)の左後足の足底表面に、CFAを100 μl注射した。このCFA注射によって、数分間で発症して1週間以上持続する局所炎症が誘導され、腫脹、紅斑、および炎症性疼痛を伴った(Steinら、Pharmacol. Biochem. Behav. 31:455〜51、1988;Safieh−Garabedianら、Br. J. Pharmacol. 115:1265、1995)。
【0048】
p38のリン酸化がこのCFA処理によって誘導されるか否かを判定するために、免疫組織化学を行った。固定液はリン酸化を直ちに停止させることから、還流固定組織の免疫染色を用いてp−p38レベルを定量した。新鮮な組織の場合、DRG採取の際の軸索の切断および組織の冷却のような機械的解剖技法は、強い知覚刺激であり、このように知覚ニューロンのリン酸化レベルの変化を引き起こすであろう。したがって、DRGニューロンにおけるp38リン酸化を試験するために、ウェスタン分析を用いなかった。
【0049】
この免疫組織化学分析に関して、ラットの上行大動脈内部を生理食塩水によって還流した後、1.5%ピクリン酸を含む4%パラホルムアルデヒドによって還流した。L4およびL5のDRGならびにL4−L5脊髄セグメントを解剖した。DRGおよび脊髄横断切片(20 μm)を切断して、既に記述されたABC法を用いて(Jiら、Nat. Neurosci. 2:1114〜1119、1999)、抗p38ポリクローナル抗体およびホスホp38ポリクローナル抗体(300倍希釈、New England BioLabs)ならびに抗VR1ポリクローナル抗体(5000倍希釈、Glaxso Welcome社およびDavid Julius博士から提供された)によって、免疫組織化学のために処理した。同時局在試験に関して、ホスホp38抗体(抗ウサギ抗体、300倍希釈)およびVR1抗体(抗モルモット抗体、3000倍希釈、Neuromics)またはP2X3抗体(抗モルモット抗体、3000倍希釈、Neuromics)、またはNeuN抗体(抗マウス抗体、3000倍希釈、Chemicon)に反応する抗体のあいだの二重染色を分析するために免疫蛍光を行った。この二重免疫蛍光は、これまでに記述されている通りに実施した(Jiら、上記)。簡単に説明すると、DRGおよび脊髄切片を二つの一次抗体の混合物と共に4℃で一晩インキュベートした後、FITC結合二次抗体およびCY3結合二次抗体(300倍希釈、Jackson immunolab)の混合物と共に室温で2時間インキュベートした。チラミドシグナル増幅(TSA、NEN社)キットを用いて、既に報告されているように(Amayaら、Mol. Cell. Neurosci. 15:331〜342、2000)二つのウサギポリクローナル抗体による二重染色を行った。免疫染色したDRG切片の像は、CCDカメラによって捕獲した。免疫染色の強度は、コンピューター補助ソフトウェア(IP lab)によって測定して、免疫反応性ニューロンのプロフィールを盲検的に計数した。この計数は、細胞総数を決定しなかった(CoggeshallおよびLekan、1996)。その代わりに、結果は、対照および処理動物のあいだに染色レベルの差を評価する方法を提供する。実験条件による変動を防止するために、対照および処理DRG切片を同じスライドガラス上に載せて同じ条件で処理した。陽性細胞を採取する閾値は、弱く染色した細胞を検出しないレベルに設定した。これまでに報告されているように(Jiら、1999、上記)、一連のDRG連続切片(20 μm)から5個目ごとの切片を採取して、切片4個をそれぞれのDRGに含めた。免疫反応性ニューロンのプロフィールの割合(%)=(陽性染色ニューロンプロフィールの数/総ニューロンプロフィールの数)×100。
【0050】
リン特異的p38抗体によるこの染色に基づいて、活性化p38(ホスホp38(p−p38))は、無傷のラットのDRGニューロンの約15%(小さなニューロン全て)に存在する。ホスホp38はニューロンおよびグリア細胞の核および細胞質において発現される。炎症は、ホスホp38(p−p38)レベルの実質的な増加を誘導した(図15Aおよび図15B)。この増加は、CFA注射後1日目で有意であり、2日後にピークに達し、数日間高レベルで維持された(図15C)。p−p38レベルの増加は、p−p38免疫反応性ニューロンの数の増加のみならず、その強度の増加を伴った(図15Cおよび図15D)。DRGニューロンの約30%が炎症後にp−p38を発現した。これらのニューロンはほとんどが大きさが小さく、それらが侵害受容器であることを示唆している(図15E)。炎症によって、DRGニューロンにおけるp38の非リン酸化型レベルは増加せず、このことは、p−p38の上昇が、キナーゼの発現の増加よりむしろこのMAPキナーゼのリン酸化の増加によって引き起こされたことを示す。対照および炎症条件のいずれにおいても、p−p38は、C線維において主に発現された。特に、p−p38はほとんどが、C線維侵害受容器において主に発現されるカプサイシン受容体VR1と共に局在した(図16C〜図16E)。p−p38は、A線維のマーカーであるニューロフィラメント−200(図16Aおよび図16B)と共に局在しなかった。C線維侵害受容器は2つの群に分けることができる:NGF反応性/TrkA発現ニューロンおよびGDNF反応性/c−ret発現ニューロン。p−p38は、炎症の2日後にDRGニューロンにおいてP2X3およびTrkAの双方と強く同時局在する。このように、p38は、炎症後に両タイプのC線維侵害受容器において活性化された。
【0051】
後角における p38 活性化
炎症によって、浅側後角のニューロンにおいてERK MAPキナーゼの持続的な活性化が起こる。対照的に、p38リン酸化は、後角の炎症(6時間から7日)によっても増加しなかった。先に記述したように実施した免疫組織化学分析に基づいて、p−p38は、ニューロンマーカーであるNeuNと同時局在しなかった(図17Bおよび図17C)。このように、p−p38は、対照および炎症動物の双方において後角の非神経細胞に限って発現された。
【0052】
p38 活性化と炎症性疼痛
CFA誘導炎症性疼痛は、痛覚過敏(すなわち、侵害刺激に対する感受性の増加)、および異痛(すなわち、通常は無害な刺激による疼痛の発生)を特徴とする。炎症性疼痛におけるDRG中のp38活性化の関与を試験するために、特異的p38阻害剤であるSB203580(1μg、Calbiochem)を10 μl、髄腔内PP10カテーテルを通して髄腔内空間(L4 DRGレベルに近い)に投与した。p38阻害剤は、全身投与すると抗炎症作用を有するが、局所的な髄腔内に薬物を投与すると、足の炎症に影響を及ぼさないはずである。持続的かつ安定な薬物注入を得るために、アルゼ(Alzet)浸透圧ポンプ(7日間ポンプ、0.5 μl/時間)に、p38阻害剤であるSB203580(1μg/μl)の生理食塩水溶液を満たして、ポンプの接続カテーテルをCFA注射の16時間前に髄腔内に埋め込んだ。生理食塩水を浸透圧ポンプの溶媒対照として用いた。足の厚さに基づくと、SB203580(0.5 μg/μl/時間)をこのアプローチによって注入しても、CFA誘導腫脹は減少しなかった(図16A)。
【0053】
p38阻害剤が基底疼痛感受性に影響を及ぼすか否かを試験するために、熱感受性および機械的刺激感受性を、既に記述されているように測定した(Jiら、2001、上記)。簡単に説明すると、動物を環境に慣らして、薬物投与または手術の前に基底疼痛感受性を調べた。後足の足底表面での機械的刺激払いのけ閾値をフォンフレー繊維の組を用いて測定した。閾値は鋭い払いのけ反応を誘発した最小の力として得た。熱に対する足払いのけ潜時は、ハーグリーブス輻射熱装置を用いて測定し、3回の試行の平均値とした。非炎症ラットにおける熱感受性または機械的刺激感受性はいずれも、SB203580によって影響を受けなかった(図16Bおよび図16C)。SB203580投与は、炎症性疼痛の初期相を変化させなかった(すなわち、6時間の時点で)(図16A)。この阻害剤は、炎症によって誘発された熱痛覚過敏の遅延相を減少させたが、機械的刺激異痛には影響を及ぼさなかった(図16Bおよび図16C)。p38阻害剤が確立された炎症性疼痛に影響を及ぼすか否かを試験するために、SB203580(1μg)をCFA注射の48時間後に髄腔内注射した。疼痛挙動を、阻害剤の注射の0.5時間後、3時間後および24時間後に測定した。SB203580は、0.5時間後の炎症性疼痛には影響を及ぼさなかったが、3時間後に熱痛覚過敏を減少させ始め、注射の24時間後には熱痛覚過敏を完全に逆転させた(図16Dおよび図16E)。調べた全ての時点で、機械的刺激異痛は、阻害剤によって変化しなかった(図16Dおよび図16E)。
【0054】
p38 活性化および VR1 発現
RNase保護アッセイを用いて、DRGニューロンにおけるVR1 mRNAの発現がCFA媒介炎症によって誘導されるか否かを判定した。このアッセイに関して、L4およびL5のDRGを速やかに採取した。VR1 cDNAを、ラットDRGの全RNAからのRT−PCRによって作製して、pCRII(Invitrogen)にクローニングした。プラスミドをEcoRVによって線状にし、Sp6 RNAポリメラーゼを用いてアンチセンスプローブを合成し、32P−UTP(NEN社、800 Ci/mmol)によって標識した。RNase保護アッセイを、既に記述されているように(Samadら、Nature 410:471〜475、2001)RPA III(Ambion)のプロトコールを用いて実施した。簡単に説明すると、RNA試料5μgを標識プローブに42℃で一晩ハイブリダイズさせた後、RNase消化緩衝液においてRNaseA/RNaseT1混合物を用いて37℃で30分間消化した。最後に、試料を変性アクリルアミドゲル上で分離して、X線フィルムに露光した。β−アクチンプローブを、ローティング対照としてそれぞれの試料に関して用いた。特異的バンドの密度を測定して、ロード対照からの内部対照バンドによって標準化した。データを平均値+SEMとして表した。群のあいだの差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータに関しては、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はP<0.05であった。この分析により、炎症によって、調べた全時間経過にわたって、DRGにおけるVR1 mRNAの発現が誘導されないことを示した(図17A)。
【0055】
DRGニューロンにおけるVR1タンパク質の発現が末梢性の炎症によって誘導されるか否かを判定するため、以下のウェスタンブロット分析を用いた。L4およびL5のDRGおよび後角(腰膨大)を、プロテイナーゼとホスファターゼ阻害剤のカクテル(Sigma)を含む緩衝液において溶解した。次に、SDS−PAGE勾配ゲル(4%〜15%、Bio−Rad)を用いてタンパク質試料を分離して、PVDFフィルターに転写した。ブロットを5%牛乳によって1時間ブロッキングし、ホスホp38抗体(1000倍希釈)またはVR1抗体(3000倍希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、ブロットをHRP結合二次抗体(3000倍希釈)と共に室温で1時間インキュベートして、ECL溶液(NEN社)中で1分間発色させて、X線フィルム(スーパーフィルム)(Amersham)に2分間〜30分間露光した。次に、ブロットを剥離緩衝液(100 μM 2−メルカプトエタノール、2%SDS、および62.5 mMトリス、pH 6.7)において50℃で30分間インキュベートして、ロード対照として抗p38抗体および抗ERK2抗体(3000倍希釈、New England BioLabs)によって再度プロービングした。特異的バンドの密度を測定して、ロード対照からの内部対照バンドによって標準化した。データは平均値+SEMとして表した。群の差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータには、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はP<0.05であった。このウェスタンブロット分析に基づいて、CFA誘導炎症は、VR1タンパク質レベルの持続的な増加を誘導した(図17B)。
【0056】
ウェスタンブロットの結果を確認するために、VR1免疫組織化学を行った。炎症によって、2日目にVR1免疫反応性が増加した(図17D)。p38活性化が炎症後のVR1上方制御に貢献するか否かを試験するために、p38阻害剤であるSB203580(1μg)を髄腔内投与した(1日2回を2日間、1回目の注射はCFA注射の30分前に行った)。このボーラス注射により、炎症性の熱痛覚過敏が減少され、2日目におけるVR1のCFA誘導上方制御が遮断された(図17Bおよび図17C)。浸透圧ポンプによるSB203580の持続的な注入も同様に、炎症後のVR1の誘導を減少させた(図17Dおよび図17E)。
【0057】
NGF 、 p38 活性化および VR1 発現
CFA誘導炎症後、NGFは炎症を有する足組織において産生され、DRGニューロンの細胞体に逆輸送される。NGFは、DRGニューロンにおける遺伝子発現にとって極めて重要であり、炎症性疼痛において主要な役割を有する(Lindsayら、Nature 337:362〜364、1989;およびWoolfら、Neuroscience 62:327〜331、1994)。NGFは、PC12細胞においてp38活性化を誘導することが示されている(MorookaおよびNishida、J. Biol. Chem. 273:24385〜24288、1998)。上記のデータは、p38がTrkA発現(NGF反応性)ニューロンにおいて活性化されること、そしてp38によって炎症後のVR1上方制御が起こることを示す。NGFがp38の炎症誘導活性化およびVR1の上方制御に必要であるか否かを判定するために、NGF抗血清(腹腔内注射、5μl/g体重、84 mg/ml)を注射して、内因性のNGFを中和した。この抗NGF処理(1日1回を2日間、1回目の注射はCFA注射の1時間前に行う)によって、炎症性の熱痛覚過敏は実質的に減少し、程度は弱いものの機械的刺激異痛が減少した。処理はまた、CFAの投与によるp38の活性化を減少させ、VR1上方制御を減少させた。NGF(10 μl中に2μg、1日2回を3日間、Boeringer)を髄腔内注射すると、DRGニューロンにおけるp−p38レベルおよびVR1レベルの双方が増加した。NGFはまた、培養において増殖した成体の初代DRGニューロンにおいてp38活性化を誘導した。NGFがp38を通してVR1を上方制御するように作用するか否かを試験するために、p38阻害剤であるSB203580(1μg)を、NGFと同時投与した(1日2回を3日間)。SB203580は、NGF誘導性のVR1増加を有意に抑制した。
【0058】
実施例 6 :痛覚過敏における ERK MAP キナーゼの役割の特徴付け
痛覚過敏におけるERK活性化の役割をさらに試験するために、末梢性の炎症によるERKの活性化を調べた。CFAを後足に注射すると、持続的な炎症と後角の表層(第I層〜第IIo層)のニューロンにおける持続的なERK活性化とが起こった。CFAはまた、後角ニューロンにおいて既知の疼痛メディエータである、プロダイノルフィンとニューロキニン−1(NK−1)の上方制御を誘導したが、これは、MEK(MAPキナーゼキナーゼ)阻害剤であるU0126の髄腔内投与によって抑制された。CFA誘導性pERKのほとんどが、浅側後角ニューロンにおいてプロダイノルフィンおよびNK−1と同時局在した。U0126の髄腔内注射は、基底疼痛感受性に影響を及ぼさなかったが、持続的な炎症性の熱および機械的刺激過敏の確立と維持とをいずれも減弱した。したがって、侵害受容体脊髄ニューロンのサブセットにおけるERK経路の活性化は、おそらくプロダイノルフィンおよびNK−1のような遺伝子の転写調節によって、持続的な痛覚過敏に関与する。これらの結果は、痛覚過敏におけるERKの役割および急性または慢性疼痛の治療におけるERK阻害剤の有用性のさらなる根拠となる。
【0059】
本実験を、下記においてより詳細に説明する。
【0060】
末梢炎症による ERK の活性化
ERKが末梢炎症によって活性化されるか否かを試験するために、CFAを注射してラットの後足に炎症を誘導し、ERKのリン酸化を測定した。特に、マサチューセッツ総合病院動物飼育施設ガイドラインに従って、成体雄性スプレージ−ドーリー系ラット(230 g〜300 g)を用いた。動物をペントバルビタール(50 mg/kg、腹腔内注射)によって麻酔した。CFA(100 μl)を後足の足底鏡面に注射した。CFA注射の1時間以内に、局所的な腫脹、紅斑、ならびに機械的刺激および熱刺激に対する過敏領域が起こり、これは実験期間のあいだ(48時間)持続した。
【0061】
CFA注射によるERKリン酸化の誘導に関する免疫組織化学分析に関して、ラットをペントバルビタール(120 mg/kg、腹腔内注射)によって深く麻酔して上行大動脈の中を生理食塩水によって還流した後、1.5%ピクリン酸を含む4%パラホルムアルデヒドによって還流した。L4−L5脊髄セグメントを切除して2時間〜4時間かけて後固定した。脊髄横断切片(浮動性、30 μm)を切断して、既に記述されているように(Jiら、Neuroscience 68:563〜576、1995およびJiら、1999、上記)ABC法を用いる免疫組織化学のために処理した。簡単に説明すると、切片を0.3%トライトン中で2%ヤギ血清によって室温で1時間ブロッキングして、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、切片をビオチン結合二次抗体(200倍希釈)と共に2時間インキュベートして、ABC複合体(50倍希釈、Vector Laboratories)と共に室温で1時間インキュベートした。最後に、反応産物を、2%ニッケル硫酸アンモニウムを含む0.05%DAB/0.002%過酸化水素を含む0.1 M酢酸緩衝液(pH 6.0)において2分間〜5分間可視化した。いくつかの切片を一次抗体と共に一晩インキュベートして、FITC結合二次抗体(300倍希釈、Jackson immunolab)と共に室温で1時間インキュベートすることによって、免疫蛍光処理した。この分析において、以下の抗体を用いた:抗pERK抗体(抗pMAPK抗体とも呼ばれる;抗ウサギ抗体、500倍希釈、New England BioLabs)および抗pERK抗体(モノクローナル抗体、300倍希釈、New England BioLabs)。この実験による結果を定量するために、L4−L5腰髄からの隣接しない切片8個を無作為に選択して、それぞれの切片における後角の表層および/または深部層における免疫反応性ニューロンプロフィールの数を、処理を知らない第三者が計数した(20倍の対物視野で)。切片8個からの値をそれぞれの動物に関して平均した。データは平均値+SEMとして表す。
【0062】
この免疫組織化学分析に基づいて、CFA注射によって誘導された炎症によって、腰膨大の同側での内側浅側後角(medial superficial dorsal horn)におけるニューロンのホスホERK(pERK)の誘導が得られた(図18Aおよび図18B)。反対側の脊髄には誘導を認めなかった(図18A)。生理食塩水(100 μl)を足底内注射した場合のみ、非常に弱いpERK誘導が示された。CFAによるpERK誘導は、ニューロンに限って認められた。全てのpERK細胞が、ニューロン細胞のマーカーであるNeuNを発現した。pERK標識ニューロンは、第I層〜第IIo層に主に局在し、pERKは既に報告されているように(Jiら、1999、上記)、核、細胞質、および樹状突起に存在した。pERKニューロンの数は、10分後でピークであったが、48時間のあいだに徐々に減少したものの上昇したままであった(図18C)。この時間パターンは、カプサイシンの足底内注射によって誘発された一過性の(<1時間)ERK活性化とは実質的に異なる(Jiら、1999、上記)。
【0063】
CFAによるERK活性化を、ウェスタンブロット分析によって確認した。この分析に関して、動物を屠殺して、L4−L5脊髄セグメントの後角を速やかに採取して、ホスファターゼ阻害剤(100倍)およびプロテイナーゼ阻害剤(25倍、Sigma)のカクテルを含む溶解緩衝液において、携帯型の乳棒によってホモジナイズした。タンパク質試料は、SDS−PAGEゲル(4%〜15%勾配ゲル、Bio−Rad)上で分離して、PVDFフィルター(Millipore)に転写した。フィルターを3%牛乳でブロックして、抗pERKポリクローナル抗体(1000倍希釈、New England BioLabs)と共に4℃で一晩インキュベートした。ブロットをHRP結合二次抗体(Amersham、3000倍希釈)と共に室温で1時間インキュベートして、ECL溶液(NEN)中で1分間可視化して、ハイパーフィルム(Amersham)に1分間〜30分間露光した。次に、ブロットを剥離緩衝液(67.5 mMトリス、pH 6.8、2%SDS、0.7%β−メルカプトエタノール)において50℃で30分間インキュベートして、ロード対照としての抗ERKポリクローナル抗体に再プロービングした。このウェスタンブロット分析を少なくとも2回繰り返し、全ての場合について同じ結果を得た。特異的バンドの密度を、コンピューター補助造影分析システム(IP lab software)によって測定して、ロード対照に対して標準化した。群のあいだの差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータに関しては、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はp<0.05であった。
【0064】
このウェスタン分析に基づいて、ERK1(44 kD)およびERK2(42 kD)の双方のリン酸化レベルが、反対側と比較して同側の後角では増加した(図18D)。ERKは、後角細胞の小さいサブセットにおいて活性化されるに過ぎないため、ウェスタン分析は、浅側後角におけるERK活性化の検出において、免疫組織化学より感度が低い。
【0065】
pERKがCFA注射後非常に迅速に(10分間)ピークレベルに達したため、本発明者らは、CFAによっても痛覚過敏または疼痛関連挙動が起こるか否かを判定した。これらの研究に関して、基準値の試験を行う前に、動物を2日間毎日試験環境に慣らした。熱の試験を除き、全ての動物を上昇した針金のグリッド上に置いた。機械的刺激異痛に関しては、後足の足底表面を一連のフォンフレー繊維によって刺激した。閾値は、素早い払いのけ反応を誘発する最も小さい力として得た。熱痛覚過敏に関して、後足の足底表面は、透明なパースペックス表面(Hargreavesら、Pain 32:77〜88、1988)を通して輻射熱の光線に曝露した。払いのけ潜時を記録して、最大15秒間をカットオフ値とした。払いのけ潜時は、3回の試行の平均値とした。
【0066】
この挙動試験において、CFA(100 μl)を覚醒状態のラットの後足の足底表面に注射すると、紅斑と急速な熱痛覚過敏を生じた。足の払いのけ潜時は、10分間および30分間においてそれぞれ、60%(10.8±0.4から4.3±0.7、P<0.01、t検定、n=3)および50%(9.7±1.2から4.9±1.3、P<0.05)減少した。生理食塩水注射ラットは、如何なる熱痛覚過敏も示さなかった。
【0067】
炎症によるプロダイノルフィンの誘導
炎症に反応したプロダイノルフィンの発現の変化を試験するために、RNase保護アッセイ、インサイチューハイブリダイゼーション、および免疫組織化学を用いた。RNase保護アッセイに関して、ダイノルフィンcDNAを、プライマー
および
を用いて、ラットDRGの全RNAから室温PCRによって作製し、pCRII(Invitrogen)にクローニングした。プラスミドをEcoRVによって線状にし、アンチセンスプローブをSp6 RNAポリメラーゼを用いて合成して、32P−UTP(NEN社、800 Ci/mmol)によって標識した。RNase保護アッセイを、既に報告されているように(Samadら、Nature 22:471〜475、2001)、RNase保護アッセイIII(Ambion)プロトコールを用いて行った。簡単に説明すると、RNA試料10 μgを標識プローブを42℃で一晩ハイブリダイズさせた後、RNase消化緩衝液中でRNaseA/RNaseT1混合物を用いて37℃で30分間消化した。最後に、試料を変性アクリルアミドゲル上で分離して、X線フィルムに露光した。β−アクチンプローブをそれぞれの試料に関してロード対照として用いた。RNase保護アッセイに関して、それぞれの実験を少なくとも2回繰り返して、全ての場合について同じ結果を得た。特異的バンドの密度を、コンピューター補助造影分析系によって測定して(IP lab software)、ロード対照に対して標準化した。群間の差は、スチューデントt検定またはANOVAを用いた後、フィッシャーのPLSDを用いて比較した。ノンパラメトリックデータに関しては、マン−ホイットニーU検定を適用した。統計学的有意性の基準はP<0.05であった。RNase保護アッセイに基づいて、末梢性の炎症によって、CFA注射の24時間後および48時間後に同側の脊髄後角において、プロダイノルフィンmRNAの実質的な上方制御が起こった(図19A)。
【0068】
インサイチューハイブリダイゼーション分析に関して、動物をCO2チャンバーにおいて急速に屠殺して、L4−L5脊髄セグメントを採取して、低温槽上で20 μmの厚さに切断した。1.7 kbプロダイノルフィン挿入物を有するベクター(pSP65)は、リンダ・コビエルスキ(Linda Kobierski)博士(Harvard Medical School)から供与された。アンチセンスRNAプローブ、および対応するセンス対照プローブを、プロダイノルフィンの直線状のDNA鋳型とdig標識混合物とを用いるインビトロ転写によって37℃で2時間標識した。ハイブリダイゼーションを、既に記述されているように処理した(Jiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:15635〜15640、1998)。組織切片を2時間空気乾燥させて、4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定し、無水酢酸中(0.25%)で10分間アセチル化した。切片を室温で2時間プレハイブリダイズした後、ハイブリダイゼーション緩衝液中で60℃で一晩インキュベートした。ハイブリダイゼーション後、切片を漸減濃度の(2×、1×、および0.2×)SSCにおいて全体で2時間洗浄した。次に、切片を2%ヤギ血清と共に1時間ブロッキングして、アルカリホスファターゼ結合抗DIG抗体(Boeringer Mannheim、5000倍希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。最後に、切片を75 g/ml NBT、50 g/ml BCIPおよび0.24 mg/mlレバミゾールにおいて2時間〜24時間可視化した。L4−L5腰髄からの隣接しない切片8個を無作為に選択して、それぞれの切片における後角の表層部および/または深層におけるmRNA陽性ニューロンプロフィールの数を、治療割付を知らない第三者が調べた(20倍の対物視野で)。切片8個からの値をそれぞれの動物に関して平均した。データは平均値+SEMとして表す。このインサイチューハイブリダイゼーション分析に基づいて、主な強く標識されたプロダイノルフィンmRNA標識ニューロンは、CFA注射の24時間後に同側の後角の表層部および深部の双方において認められたが、反対側では、ごく少数の弱く標識されたニューロンが検出されたに過ぎなかった(図19B)。
【0069】
免疫組織化学を、抗プロダイノルフィン抗体(抗モルモット抗体、3000倍希釈、ミネソタ大学、R. Elde博士からの供与)を用いて、上記のように実施した。プロダイノルフィンペプチド免疫反応性ニューロン数の増加はまた、表層部および深部後角においてCFA誘導炎症後48時間に認められた(図19C)。
【0070】
ERK 活性化およびプロダイノルフィン発現
後角におけるプロダイノルフィンmRNA発現のERK活性化による調節の可能性を調べた。特異的かつ強力なMEK阻害剤であるU0126(Favataら、J. Biol. Chem. 273:18623〜18632、1998)を、2回(1μg)、すなわちCFAの足底内注射の30分前および6時間後に、髄腔内注射した。投与に関して、PE10カテーテルを脊髄の腰膨大の髄腔内間隙に埋め込んで、MEK阻害剤であるU0126を10 μl(1μg、Calbiochem、10%DMSOに溶解)投与した。10%DMSOを溶媒対照として注射した。この阻害剤は、同側の後角におけるCFA誘導プロダイノルフィンmRNAを減少させた(図20A)。浅側後角におけるプロダイノルフィンmRNA陽性ニューロン数のCFA誘導性の増加もまた、深部層における標識ニューロン数に影響を及ぼすことなく、U0126(2×1μg)によって減少した(図20Bおよび図20C)。
【0071】
ERK 活性化および NK−1 発現
初期の研究と一致して、CFA誘導炎症後の浅側後角におけるNK−1免疫反応性の増加は、上記の免疫組織化学アッセイ(Abbadieら、Neuroscience 70:201〜209、1996、およびAbbadieら、J. Neurosci. 17:8049〜8060、1997)において抗NK1抗体(抗ウサギ抗体、3000倍希釈、Oncogene)を用いて認められた。しかし、これまでの研究(Abbadieら、1997、上記;およびHonoreら、J. Neurosci. 19:7670〜7678、1999)とは対照的に、本発明者らは炎症後に、より多くのNK−1発現細胞を認めた(図21A)。この相違は、ほぼ間違いなくNK−1陽性ニューロンに関する異なる検出閾値のためであり、本発明者らの定量は、標準的な免疫蛍光顕微鏡に基づいているが、対照動物における弱く染色された細胞、すなわち共焦点顕微鏡によって検出されるであろう細胞を含めなかった(Abbadieら、1997、上記;およびHonoreら、1999、上記)。第I層において検出されたNK−1免疫反応性ニューロンの増加(図21A)は、ホノール(Honore)ら(1999、上記)によって認められた染色強度がこの層において増加していることを反映した。ERK活性化がNK−1上方制御に関与するか否かを試験するために、炎症を誘導する前にMEK阻害剤であるU0126を浸透圧ポンプによって髄腔内に送達した(0.5 μg/μl/時間で、2日間)。特に、アルゼ(Alzet)浸透圧ポンプ(3日間ポンプ、1μl/時間)にMEK阻害剤であるU0126(0.5 μg/μl)の50%DMSO溶液を満たして、ポンプのカテーテルをCFA注射の少なくとも3時間前に髄腔内に埋め込んだ。DMSO(50%)を溶媒対照として用いた。MEK阻害剤は、浅側後角におけるNK−1免疫反応性ニューロンのCFA誘導性の増加を抑制した(図21Aおよび図21B)。抗NK1一次抗体(5000倍希釈、Oncogene)と共にロード対照として抗CREB抗体(3000倍希釈、New England BioLabs)を用いるウェスタンブロット分析によっても同様に、この結果が確認された(図21C)。
【0072】
pERK陽性ニューロンおよびプロダイノルフィン/NK−1発現ニューロンが後角細胞の同じサブセットに属するか否かを試験するために、pERK/プロダイノルフィンおよびpERK/NK−1に関する二重免疫蛍光を行った。この免疫蛍光分析は、一次抗体(抗pERKモノクローナル抗体/抗NK1ポリクローナル抗体、またはウサギ抗pERK抗体/モルモット抗プロダイノルフィン抗体)の混合物と共にインキュベートした後、Cy3またはFITCのいずれかを結合した対応する二次抗体の混合物と共にインキュベートすることによって行われた。浅側後角におけるほとんど全てのプロダイノルフィンおよびNK−1陽性ニューロンもまた、CFA注射の24時間後にpERKを発現した(図22A〜図22H)。
【0073】
ERK 活性化および持続的炎症性疼痛
プロダイノルフィンおよびNK−1上方制御に及ぼすERK活性化およびその下流の作用の機能的結末を試験するために、本発明者らは、ERK活性化の阻害が炎症性疼痛の過敏症を改変するか否かを調べた。他のMEK阻害剤であるPD98059と同様に(Jiら、1999、上記)、U0126(1μg)を非炎症動物の髄腔内に投与して投与の30分後に試験したところ、機械的刺激払いのけ閾値(溶媒対照の108%)および熱払いのけ潜時(溶媒対照の113%)に関して、測定した基底疼痛感受性に有意差を示さなかった。しかし、浸透圧ポンプ(0.5 μg/μl/時間)によるU0126の髄腔内投与をCFA注射の前に開始して48時間維持すると、24時間および48時間に測定した炎症誘導性の熱過敏症および機械的刺激過敏症は有意に減少した(図23Aおよび図23B)。
【0074】
急性の痛覚過敏(ホルマリン足底内注射の10分後〜60分後)は、おそらく翻訳後変化の妨害による、ERK活性化の阻害によって減少する(Jiら、1999、上記)。CFAによるERK活性化は、進行中の翻訳後変化を維持することまたはNK1およびプロダイノルフィンのような遺伝子の転写を誘導することのいずれかによって、炎症性疼痛の過敏症に関与する可能性がある。前者の場合、確立された炎症におけるERK活性化の阻害は、ERK基質の脱リン酸化により痛覚過敏を10分間以内に減少させると予想されるであろう。ERK活性化の関与が転写を介する場合、ERK活性化の阻害は、即時的作用を有しないが遅延型作用を有すると予想されるであろう。これらの2つの可能な機構を区別するために、U0126を、確立された炎症を有するラットに髄腔内注射して(1μg)(CFA注射の24時間後)、痛覚過敏をU0126の注射の30分後、6時間後、および24時間後に試験した。熱痛覚過敏も機械的刺激異痛のどちらも、30分後に試験した場合にはそのような後処理によって有意な影響を受けなかった(図24Aおよび図24B)。しかし後処理は、24時間後に熱痛覚過敏を減少させ、かつ6時間後に機械的刺激異痛を減少させ(図24Aおよび図24B)、これは持続的な炎症性疼痛の維持に対してERK活性化が遅れて関与することを示す。
【0075】
侵害受容後角ニューロンにおける ERK 活性化
末梢性の炎症は、短い潜時の後、同側の浅側後角の第I層〜第IIo層ニューロンにおいてERKの持続的な活性化を誘導した。MEK阻害剤を用いてこの活性を阻害すると、後角ニューロンのこの特定のサブセットにおけるプロダイノルフィンおよびNK−1発現の上昇が遮断され、炎症性の痛覚過敏が減少した。pERKは、プロダイノルフィンおよびNK−1を発現する後角ニューロンの同じサブセットにおいてCFAによって誘導された。第I層においてNK−1およびダイノルフィンを発現する多くのニューロンは、突起ニューロンである(Marshallら、Neuroscience 72:255〜263、1996;およびNahinら、Neurosci. Lett. 96:247〜252、1989)。第I層における突起ニューロンは、CFAによる炎症後その受容領域の拡大を示し(Dubnerら、Trends Neurosci. 15:96〜103、1992;およびRuda、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:622〜626、1992)、第I層におけるNK−1発現ニューロンの標的化喪失によって、炎症性疼痛が消失することが示されており(Nicholsら、Science 286:1558〜1561、1999)、これは、炎症に対するCNSの反応におけるこれらの表層部ニューロンの重要な役割を示す。特定のサブセットのC侵害受容線維、すなわちNGF反応性かつTrkAおよびニューロペプチドを発現する線維は、ERK活性化を示すニューロンが重なり合う領域内の第I層および第IIo層において末端を有する。もう一つのサブセットのC線維、すなわち増殖因子のGDNFファミリーに反応して、IB4レクチンの選択的結合を特徴とするC線維は、第IIi層に末端を有する(Averillら、Eur. J. Neurosci. 7:1484〜1494、1995;Moliverら、1997)。これらの線維が接触するニューロンは、その多くがPKCを含み(Malmbergら、Science 278:279〜283、1997)、カプサイシンまたはCFA注射後にERK活性化を示さない。したがって、痛覚過敏の調節におけるERKの役割は、特定のサブセットの侵害受容後角ニューロン、すなわち第I層〜第IIo層に存在するサブセットのみに限定され、この活性化は、TrkA発現C線維のみの活性化を反映する可能性がある。
【0076】
ERK 活性化に応答した転写調節
pERKは、CFA刺激後ニューロンの核において認められ(図18A)、活性化キナーゼの転写的役割を有する可能性を示す。カプサイシンの注射後に誘導される一過性の活性化(持続は2時間未満)とは異なり(Jiら、1999、上記)、CFAは持続的なERK活性化を生じた(図18C)。CFA注射後の持続的なERK活性化は、プロダイノルフィンmRNAの持続的な上方制御に関連するが(48時間以上持続、図19A)、カプサイシンによって誘導される一過性のpERKは、プロダイノルフィンmRNAのより短い持続の上方制御(<6時間)に関連する。ERK活性化によって、どちらもCRE含有遺伝子であるプロダイノルフィンとNK1の発現が、CREBリン酸化によって調節される可能性がある。CREBは、線条体ニューロンにおけるプロダイノルフィンのドーパミン誘発発現に必要であり(Coleら、1995、上記)、侵害刺激後にNK−1発現ニューロンにおいてリン酸化される(Andersonら、Neurosci. Lett. 283:29〜32、2000;およびSeybold、2000)。さらに、CRE部位は、アメフラシにおける侵害受容ニューロンの長期感作を媒介することが示されている(Lewinら、Nat. Neurosci. 2:18〜23、1999)。
【0077】
ERK 活性化および炎症性痛覚過敏
U0126は、ホルボルエステルのような強い活性化剤の存在下においてもERK活性化を阻害することができるが、他のシグナル伝達経路には影響を及ぼさない強力かつ選択的なMEK阻害剤である(Favataら、1998、上記)。本研究において用いられる用量において、この阻害剤による毒性の明白な兆候は認められず、動物は通常の挙動を示し、移動は影響を受けなかった。基底疼痛感受性は阻害剤によって改変されなかったが、持続的な炎症性疼痛は減少した。持続的な疼痛に及ぼすこの影響は、ERKシグナル伝達経路によってまたはプロダイノルフィンおよびNK1のような標的遺伝子の転写の減少によって媒介される翻訳後変化が原因で起こる可能性がある。疼痛機構への関与が既に暗示されているプロダイノルフィンとNK1とがERK活性化によって調節されることは、炎症後のERK活性化が遺伝子転写を調節することによって痛覚過敏に関与するという仮説と一致する。ERK活性化を遮断する作用の時間的プロフィールは、この仮説をさらに支持する。対照的に、ホルマリンの足底内注射の数分以内に確立される急性の痛覚過敏は、ERK活性化を防止することによって(Jiら、1999、上記)減少させることができる。この作用は、転写の阻害によって媒介されるには速すぎて(<1時間)、したがって、おそらく活性化ERKの下流の翻訳後変化を表す可能性がある。そのような翻訳後変化の基質は、NMDAまたはAMPA受容体のようなイオンチャンネルまたは受容体であってもよい(Woolfら、2000、上記)。そのような翻訳後変化は、中枢感作、その開始刺激を何十分も持続させる用途に応じた可塑性の誘導および維持の基礎となる(Woolfら、Nature 306:686〜688、1983;およびWoolfら、J. Neurosci. 6:1433〜1442、1986)。炎症性の過敏症が、炎症組織からの現行の求心性入力によって維持されるのみの中枢感作の症状発現である場合、ERK媒介リン酸化の阻害によって中枢感作の開始を阻害すれば、重要なタンパク質が脱リン酸化されるために何十分ものあいだ過敏が減少するはずである。確立された炎症ではMEKを阻害しても即時型作用を示さないが、むしろ6時間後〜24時間後に機械的刺激過敏症および熱過敏症のみが減少するという事実は、ERK活性化の役割が転写の調節によるのもうなずけることを示す。
【0078】
ダイノルフィンおよび NK−1 は炎症性痛覚過敏に貢献する
プロダイノルフィンおよびNK−1の発現と、炎症性痛覚過敏の発生との間の時間的な相関が既に証明されている。他のオピオイドペプチドとは異なり、ダイノルフィンを髄腔内注射しても鎮痛を生じない。ダイノルフィンは、何らかの病的疼痛状態において前侵害受容性であることが他の研究者によって判明している。例えば、ダイノルフィンA抗血清は、神経損傷後の痛覚過敏を減少させ、ニューロパシー疼痛は、プロダイノルフィンノックアウトマウスでは持続しない。ダイノルフィンの前侵害受容作用は、興奮毒性を誘発するために十分なNMDA受容体の活性化を含む、その非オピオイド作用の結果であるように思われる。
【0079】
炎症は、後角ニューロンにおけるNK−1受容体の上方制御および一次求心性ニューロンにおいてそのリガンドの神経ペプチドである物質Pの上方制御を誘導する。NK−1アンタゴニストは、NK−1ノックアウトマウスを含むいくつかの異なる動物モデルにおいて炎症性疼痛(痛覚過敏と機械的刺激異痛の双方)を減少させることが既に示されている。炎症後の侵害刺激および無害な刺激に反応した後角ニューロンの樹状細胞において、NK−1受容体の量が増加して、インターナリゼーションされることは、この受容体が末梢刺激に反応した物質Pによって活性化されることを示す。
【0080】
実施例 7 :中枢神経系における PLA 2 の誘導なし
PGE2の合成に必要である遊離アラキドン酸の利用率を、ホスホリパーゼ2(PLA2)が調節するため、本発明者らはまた、低分子量の分泌型PLA2(sPLA2)または高分子量の細胞内サイトソルPLA2(cPLA2)は末梢炎症後の中枢神経系において誘導されるか否かを判定した。無傷および炎症を有するラット(12時間)の足、脊髄、および脳からの総タンパク質抽出物におけるPLA2活性は、sPLA2の活性(すなわち、2−アラキドニル−ホスファチジルコリンからのアラキドン酸の放出;図9A)またはcPLA2(すなわち、2−アラキドニル−ホスファチジルエタノールアミンからのアラキドン酸の放出;図9B)の活性のいずれかに都合がよいアッセイ系を用いて測定した(Binghamら、J. Biol. Chem. 274:31476〜31484、1999)。予想されるように、炎症を有する足においてsPLA2およびcPLA2の双方の活性が有意に増加した(図9Aおよび9B)。対照的に、脊髄または脳のいずれにおいても、後足の炎症によるこれらのPLA2活性の増加は検出されなかった。cPLA2の最初の129個のアミノ酸残基に対するポリクローナル抗体を用いるcPLA2のウェスタンブロットおよび免疫組織化学分析(Sapirsteinら、J. Biol. Chem. 271:21505〜21512、1996)は、脊髄内のタンパク質誘導を示さなかった(図9C)。したがって、中枢性のPLA2活性の基底レベルは、末梢炎症後に中枢神経系におけるプロスタノイドの産生の増加にとって十分である。このように、プロスタノイド産生速度がCox−2およびPLA2の双方によって調節される炎症の末梢部位とは対照的に、Cox−2のみが中枢性のPGE2誘導の中心的な役割を有するように思われる。
【0081】
実施例 8 :中枢性 IL−1 β活性の阻害剤に関するアッセイ
中枢性のIL−1β活性の阻害は、疼痛を測定する任意の標準的な方法(例えば、本明細書に記載の方法)またはIL−1β活性の変化を測定する任意の方法によって同定することができる(例えば、上記のように)。さらに、中枢性のIL−1β活性が阻害されうるような機構の一つとは、プロインターロイキン−1βをIL−1βの活性化型に変換するカスパーゼ−1の阻害を介する。多くのカスパーゼ−1阻害剤は、アルデヒド、クロロメチルケトン、フルオロメチルケトン、フルオロアシルオキシメチルケトン、ジアゾメチルケトン、またはフェニルアルキルケトンのような官能基に結合したTyr−Val−Ala−Asp、Val−Ala−Asp、Ala−Asp、またはAspペプチド認識配列を含む。アルデヒド基を有するカスパーゼ−1阻害剤は可逆的であるが、クロロメチルケトン、フルオロメチルケトン、またはフルオロアシルオキシメチルケトン基を有する阻害剤は非可逆的である(「カスパーゼ阻害剤と基質(Caspase Inhibitors and Substrates)」と題するカルビオケム技術会報、San Diego、California)。阻害剤
のような長い疎水性領域を有する阻害剤は、細胞透過性が増加している。カルボン酸のヒドロキシル基をメトキシ基、エトキシ基、ベンズオキシ基、またはイソプロポキシ基のようなアルコキシ基に置換するために、標準的な技術を用いてアスパラギン酸残基のカルボキシ側鎖をエステル化してもまた、カスパーゼ−1阻害剤の細胞透過性が増加する。好ましいアルコキシ基は、式−OR’を有し、ここでR’は、アルキルまたはアリール基である。一つの好ましい態様において、R’基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、オクチル、デシル、もしくはテトラデシル基;またはシクロペンチルもしくはシクロヘキシル基のようなシクロアルキル基のような炭素原子1個〜10個、1個〜20個、1個〜50個、または1個〜100個の直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素アルキル基である。好ましいアリール基には、少なくとも1つの環が本質的に芳香族である一つまたはそれ以上の融合環からなる一価の芳香族炭化水素ラジカルが含まれ、それらは選択的に以下の置換基の一つによって置換してもよい:ヒドロキシ、シアノ、アルキル、アルコキシ、チオアルキル、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、またはジアルキルアミノ。
【0082】
候補となるカスパーゼ−1阻害剤を試験するために、カスパーゼ−1活性は、既に記述されているように、蛍光体(例えば、AFC、AMC、EDANS、またはMCA)または発色団(例えば、pNA)のいずれかを含むカスパーゼ−1基質の切断速度を決定するために候補化合物の存在下および非存在下でアッセイしてもよい(Thornberryら、Nature 356:7680774、1992;Thornberryら、Biochemistry 33:3934〜3940、1994)。さらに、候補カスパーゼ−1阻害剤は、それらが疼痛の発現を減少、安定化、予防、または遅らせるか否かを判定するために、本明細書に記載する任意の炎症性疼痛モデルにおいて試験することができる。
【0083】
候補MAPキナーゼ阻害剤は、本明細書に記載するように、ホスホ特異的抗体を用いて一つまたはそれ以上のMAPキナーゼのリン酸化の阻害を測定することによって試験することができる。または、MAPキナーゼが基質をリン酸化できるか否かは、標準的なキナーゼアッセイを用いて候補化合物の存在下および非存在下において測定することができる。
【0084】
その他の態様
前述の記述から、本発明を様々な用途および条件に適合させるために、本明細書に記載された本発明に変更および改変を行ってもよいことは明らかであると考えられる。そのような態様もまた、添付の特許請求の範囲内である。
【0085】
本明細書において言及した全ての出版物は、本明細書において、それぞれ別々の出版物または特許出願が明確かつ個々に参照として組み入れられると示されるのと同程度に、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1Aおよび図1Bは、片側後足の炎症から0時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、および24時間後のCox−2 mRNAの誘導を示すゲルの写真である。Cox−2 mRNAの増加は、フロイント完全アジュバント(CFA)の足底内注射後に、同側および反対側のラット腰髄L4/L5、炎症を起こした皮膚、頚髄、および視床において検出された。図1Cは、図1Aのデータに基づく同側および反対側の腰髄におけるCox−2 mRNA誘導のグラフである。図1Dは、図1Bのデータに基づく後足、腰髄、頚髄、および視床におけるCox−2 mRNAの相対的発現のグラフである。
【図2】炎症を有するラット(図2B、図2C、および図2D)および無傷のラット(図2A)における12時間後の後角ニューロンにおけるCox−2発現の免疫組織化学分析を示す写真である(目盛り:50 μm)。図2Dは、図1Bにおける炎症を有するラットの深部後角領域の高倍率写真である。ニューロンマーカーNeuNによる二重標識に基づき、ほぼ全てのCox−2免疫標識細胞がニューロンである(図2C)。
【図3】炎症の12時間後の脊髄におけるCox−2 mRNA分布を示す写真である(目盛り:100 μm)。
【図4】CFA誘導炎症後の脳脊髄液におけるプロスタグランジンE2(PGE2)レベルの増加を示す棒グラフである(「*」は、p<0.01を指す)。
【図5】図5Aは、L4後根が付随した脊髄横断切片調製物の略図である。図5Bは、インビトロでAβ線維、Aδ線維、またはC線維の後根を電気刺激した2時間後のCox−2 mRNA誘導を示すゲルの一連の写真である。「N」は刺激を示し、「I」は同側刺激を示し、かつ「C」は反対側刺激を示す。図5Cは、C線維の強度で坐骨神経を30分間電気刺激してから3時間後のCox−2 mRNAのインビボ増加が、足底内CFA炎症後の増加より小さかったことを示すゲルの写真である。図5Dは、求心性活性を阻害するために十分なブピバカインを神経周囲に処理することによる坐骨神経ブロックを行っても、炎症6時間後のCox−2 mRNAレベルのCFA誘導性の増加を打ち消すことができなかったことを示すゲルの写真である。列挙された誘導倍数は、β−アクチンmRNAレベルに関して標準化した後に無傷のラットに関して測定したものである。図5Eは、CFA処理ラット(CFA、n=13)および坐骨神経ブロックを行ったCFA処理ラット(ブロック/CFA、n=6)の脳脊髄液における6時間後のPGE2レベルの増加を示す棒グラフである(「*」は、無傷のラットと比較した場合にp<0.01を示し、「#」は、CFA処理ラットと比較した場合にp<0.05を示す)。
【図6】図6Aは、ELISAによって測定した、反対側の後足におけるIL−1βレベルと比較して炎症を有する同側の後足皮膚におけるIL−1βレベルの増加を示すグラフである(Safieh−Garabedianら、Br. J. Pharmacol. 115:1265、1995)。図6Bは、足底内CFA後足炎症の2時間後および4時間後の脳脊髄液におけるIL−1βレベルを示す棒グラフである(「N.D.」は検出されないことを示す)。図6Cは後角におけるI型IL1受容体の免疫学的局在を示す写真である(目盛り:100 μm)。図6Dは、IL−1βが3時間後にインビトロで脊髄におけるCox−2 mRNA発現を増加させたが、TNFα(10 ng/ml)は増加させなかったことを示すゲルの一連の写真である。IL−1βの髄腔内(i.t.)注射はインビボで脊髄におけるCox−2 mRNAレベルを増加させたが、静脈内(i.v.)注射はより小規模に増加させた。
【図7】図7Aおよび7Bは、足底内CFA注射の前にIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)を静脈内または髄腔内にそれぞれ投与してから6時間後のCox−2 mRNAレベルを示すゲルの写真である。図7Cは、200 ng/ml IL−1raがインビトロ脊髄切片における活性誘発Cox−2 mRNA誘導に影響を及ぼさなかったことを示すゲルの写真である。図7Dは、CFA足底内注射の15分前に髄腔内投与されたIL−1受容体アンタゴニスト(「CFA/IL−1ra」)6μg、または、カスパーゼ−1阻害剤であるTyr−Val−Ala−Asp(「CFA/YVAD」)1ナノモルが、6時間後のCox−2 mRNA発現に及ぼす影響を示す棒グラフである(「*」はCFAと比較した場合にp<0.005を示す、n=3)。図7Eは、YVADが炎症の12時間後に脳脊髄液中のPGE2レベルを50%減少させ、炎症の24時間後には70%減少させたことを示す棒グラフである(「*」はCFAと比較してp<0.01を示す、1群n=7〜10)。
【図8】図8Aおよび8Bは、CFA炎症誘導の48時間後に選択的Cox−2阻害剤NS398(30 μg、RBI社から入手)の髄腔内投与は、処理ラットの機械的刺激応答(図8Aおよび8B)および熱応答(図8D)を炎症前に認められた反応レベル方向に減少させるが、静脈内投与は減少させなかったことを示すグラフである。対照的に、NS398は、無傷のラットにおける感受性を変化させなかった。図8Eおよび図8Cは、YVAD(1nmol)の髄腔内投与が、熱払いのけ潜時に有意に影響を及ぼさなかったが、溶媒対照と比較してCFA炎症を有する後足の機械的刺激閾値を増加させたことを示すグラフである(p<0.05)。
【図9】図9Aおよび9Bは、無傷動物および炎症後12時間の炎症動物からの新鮮なラット皮膚、脊髄、および全脳ホモジネートにおけるsPLA2活性レベルおよびcPLA2活性レベルをそれぞれ示す棒グラフである。表示の組織ホモジネート(30 μg)のPLA2活性は、[14C]2−アラキドニル−ホスファチジルコリンから30分間で放出された(図9A)、または[14C]2−アラキドニル−ホスファチジルエタノールアミンから120分間で放出された(図9B)[14C]アラキドン酸の1分間あたりの数(cpm)として表記する(スチューデントt検定に基づいて無傷のラットと比較した場合に「*」はp=0.006を示し、「**」はp<0.05を示す、ラット数n=4)。図9Cは、無傷のラットおよび炎症後12時間の炎症ラットにおけるcPLA2発現のウェスタンブロット分析を示すゲルの写真である。β−アクチンは、ロードの対照として用いた。
【図10】MAPキナーゼ阻害剤であるPD98059(ERK阻害剤)およびSB203580(p38阻害剤)の非存在下または存在下で、DRG細胞をインビトロにおいて4時間IL−1β処理した後のCOX−2 mRNA誘導を示すゲルの写真である。
【図11】生理食塩水(Sal)またはIL−1β(10 ng)の髄腔内投与から4時間後のL4 DRGにおけるCOX−2 mRNAレベルを示すゲルの写真である。
【図12】ERK(「pERK」)およびp38(「p−p38」)に対するリン特異的抗体を用いた、DRG初代培養におけるIL−1βによるERKおよびp38の誘導のウェスタンブロット分析の写真である。
【図13】MAPキナーゼ阻害剤であるSB203580およびPD98059の存在下または非存在下におけるIL−1β(10 ng/ml)による4時間の刺激後のDRG初代培養物の培養培地におけるPGE2レベルの棒グラフである。
【図14】予備神経損傷モデル(「SNI」)および慢性結紮損傷モデル(「CCI」)を含む、ニューロパシー疼痛ラットモデルの脊髄におけるCox−2 mRNA発現の誘導を示すゲルの写真である。Cox−2 mRNAはまた、坐骨神経の完全な離断(「軸索切断」)後にも誘導された。
【図15】炎症がDRGニューロンにおける持続的なp38活性化を誘導することを示す。図15Aおよび図15Bは、p38リン酸化が後足へのCFA注射の2日後にDRGニューロンにおいて増加することを示す免疫組織化学分析の写真である(目盛り、50 μm)。図15Cは、DRG中のp−p38陽性ニューロンの割合(%)として測定した、CFA投与後のp38リン酸化の時間経過を示す棒グラフである[(n=5)、無傷の対照と比較して、*P<0.05;**P<0.01]。図15Dは、一定レベルの染色を示したニューロンの数を示す棒グラフである。このグラフは、炎症の2日後にp−p38免疫染色ニューロンの強度が増加していることを示す。各条件について、動物3匹からニューロン300個を測定した。
【図16】p38阻害がCFA誘導炎症性熱痛覚過敏の遅延相を緩和することを示す棒グラフである。図16Aは、足の厚みに基づき、p38阻害剤であるSB203580の髄腔内注入が、CFAを注射した足における炎症の発生を変化させないことを示す。SB203580(1μg/μl)および対照溶媒(生理食塩水)を、CFA注射の前に髄腔内に埋め込んだカテーテルに接続した浸透圧ポンプによって注入した(0.5 μg/0.5 μl/時間)。図16Bおよび図16Cは、CFA投与の前に図16Aに関して記述したようにSB203580による処理の結果を示す棒グラフである。この前処理は、CFA注射の24時間後および48時間後における炎症性の熱痛覚過敏の遅延相を減少させた(図16B)。機械的刺激異痛は減少しなかった(図16C)。熱感受性および機械的刺激感受性を、後足の払いのけ潜時および後足の払いのけ閾値によってそれぞれ測定して、溶媒対照のCFA前の基準値測定値の割合(%)として表記した[**、溶媒対照と比較してP<0.01(n=8)]。図16Dおよび図16Eは、CFAによる処理後のSB203580投与の影響を示すグラフである。CFA処理から24時間後にSB203580(1μg)を髄腔内注射すると、炎症性熱痛覚過敏が遅れて阻害された。熱感受性および機械的刺激感受性を、阻害剤投与から0.5時間後、3時間後および24時間後に試験した[*、溶媒(生理食塩水)対照と比較してP<0.05(n=8)]。
【図17】p38活性化がDRGニューロンにおける炎症誘導VR1上方制御を媒介することを示す。図17Aは、RNase保護アッセイからのゲルの写真である。このアッセイでは、CFA誘導炎症後のVR1 mRNAレベルの増加を検出できなかった。「倍数(fold)」とは、アクチン対照に関して標準化した後の、対照に対する比較可能なレベルを表す。図17Bは、炎症後にVR1タンパク質の発現の増加を示すウェスタンブロットの写真である。2日目のこのような上方制御は、SB203580の髄腔内注射(1μg、1日2回を2日間)によって阻止された。「倍数」とは、ロード対照に関して標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。図17Cは、図17BからのVR1タンパク質のレベルを定量する棒グラフである(**、対照と比較してp<0.01;+、CFAと比較してP<0.05、n=5)。図17Dは、炎症から2日後のVR1レベルの増加を確認する、免疫組織化学分析の写真である。VR1タンパク質発現のこの誘導は、図16Aに関して記述したように浸透圧ポンプを用いて送達されたSB203580によって阻害された(目盛り、50 μm)。図17Eは、図17Dに基づくVR1陽性ニューロンの割合(%)を示す棒グラフである(**、対照と比較してP<0.01;++、CFAと比較してp<0.01、n=5)。
【図18】CFAがERKの持続的な活性化を誘導することを示す。図18Aは、後足へのCFA注射の10分後に同側脊髄(矢印で示す)の第I層〜第IIo層のニューロンにおいてERKリン酸化が誘導されることを示す低倍率画像の写真である(目盛り、200 μm)。図18Bは、CFA注射から10分後の同側脊髄の内側浅側後角におけるERK活性化を示す図18Aの高倍率画像である(目盛り、50 μm)。図18Cは、同側後角の表層(I〜IIo)におけるpERK陽性ニューロンの数によって測定したCFA投与後のpERK誘導の時間経過を示す棒グラフである。データを、平均値+SEM(n=3)として表す。図18Dは、CFA注射の30分後および6時間後に、反対側(C)と比較して同側の(I)後角ではERK1(44 kD)およびERK2(42 kD)双方のERLリン酸化が増加したことを示すウェスタンブロットの写真である。下のパネルは、ロード対照としての全ERK1およびERK2のレベルを示す。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対応する反対側に対する比較可能なレベルを表す。
【図19】CFAが後角におけるプロダイノルフィンの上方制御を誘導することを示す。図19Aは、CFA注射から24時間後および48時間後に同側の後角におけるプロダイノルフィンmRNAの増加を示すRNase保護アッセイからのゲルの写真である。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。図19Bは、CFA処理から24時間後の同側の表層部または深部の後角ニューロンにおけるプロダイノルフィンmRNAの発現の増加を示すインサイチューハイブリダイゼーションの写真である(目盛り、50 μm)。図19Cは、48時間後におけるCFA注射による同側の表層部および深部の後角において誘導されたプロダイノルフィン免疫反応ニューロンの数の増加を示す写真である(目盛り、50 μm)。
【図20】ERK活性化がプロダイノルフィン発現を調節することを示す。図20Aは、24時間後の後角におけるプロダイノルフィンmRNAのCFA誘導性の増加が、U0126(1μg、CFAの30分前および6時間後に髄腔内注射した)によって部分的に抑制されることを示すゲルの写真である。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。図20Bは、CFA注射から24時間後の同側後角の第I層〜第II層および第III層〜第VI層におけるプロダイノルフィンmRNA陽性ニューロンの定量を示す棒グラフである[*、対照と比較してP<0.001;+、CFAと比較してP<0.001(n=4)]。図20Cは、CFA注射から24時間後に、浅側後角におけるプロダイノルフィンmRNA標識ニューロンのCFA誘導性の増加がU0126によって阻害されることを示すインサイチューハイブリダイゼーションの写真である(目盛り、50μm)。
【図21】ERK活性化がNK−1発現を調節することを示す。図21Aは、48時間後の内側浅側後角におけるNK−1免疫反応性のCFA誘導性の増加が、浸透圧ポンプによって送達されたU0126によって抑制されることを示す写真である(目盛り、50μm)。図21Bは、CFA注射から48時間後の同側後角の第I層〜第IIo層におけるNK−1ニューロンの数の定量を示す棒グラフである[*、対照と比較してP<0.001;+、CFAと比較してP<0.001(n=5)]。図21Cは、24時間後の後角におけるCFA誘導性NK−1の増加がU0126(1μg、CFA注射の30分前および6時間後に髄腔内注射)によって阻害されることを示すウェスタンブロットの写真である。構成的に発現されるタンパク質であるCREBをロード対照として用いた。「倍数」とは、ロード用に標準化した後の対照に対する比較可能なレベルを表す。
【図22】ERKがプロダイノルフィン発現ニューロンおよびNK−1発現ニューロンのサブセットにおいて活性化されることを示す。pERKの多くは、CFA注射から24時間後の内側浅側後角において、プロダイノルフィン(図22A、図22C、および図22E)およびNK−1(図22B、図22D、および図22F)と共に局在する。矢印は二重標識ニューロンを示す(目盛り、20 μm)。
【図23】MEK阻害剤の持続的注入がCFA誘導炎症性疼痛を減少させることを示す棒グラフである。CFA注射の前にMEK阻害剤であるU0126を浸透圧ポンプ(0.5 μg/μl/時間)によって送達すると、CFA注射から24時間後および48時間後に熱痛覚過敏(図23B)および機械的刺激異痛(図23B)が減少する。これらをそれぞれ、足の払いのけ潜時および足の払いのけ閾値として測定し、溶媒対照(50%DMSO)のCFA前の基底測定値の割合(%)として表記する[*、溶媒対照と比較してP<0.01(n=8)]。
【図24】MEK阻害剤による後処理が炎症性疼痛に対して遅延型作用を有することを示す棒グラフである。U0126(1μg)または溶媒(10%DMSO)をCFA注射の24時間後に髄腔内投与した。熱痛覚過敏(図24A)および機械的刺激異痛(図24B)を、U0126投与の30分後、6時間後、および24時間後に試験した[*、対応する溶媒対照と比較してP<0.05(n=10)]。データは、溶媒対照のCFA前基底測定値の割合(%)として表記する。
【図25】痛覚過敏に関係する経路の略図である。
【図26】NGFが炎症後のp38活性化に必要であり、かつこれはDRGにおいてp38を介したVR1上方制御をもたらすことを示す。図26Aおよび図26Bは、NGF抗血清による処理(84 mg/g体重で1日1回の腹腔内注射を2日間)が、炎症性疼痛、特に熱痛覚過敏を緩和するのみならず、DRGにおけるp−p38レベルおよびVR1レベルのCFA誘導性の増加を抑制することを示す棒グラフである(CFAと比較して、*、P<0.05;**、P<0.01;n=3)。図26Cおよび図26Dは、NGF(2μg、1日2回を3日間)の髄腔内注射がp−p38およびVR1の発現を増加させることを示す写真および棒グラフである(対照(生理食塩水)と比較して、**、p<0.01;n=3、目盛り、50 μm)。図26Eは、NGF誘導性のVR1増加が、p38阻害剤203580(1μg)をNGFとの3日間同時投与によって遮断されることを示す棒グラフである[**、溶媒(生理食塩水)と比較してP<0.01;++、NGFと比較してP<0.01、n=3]。図27Fは、NGF髄腔内投与後のVR1免疫染色ニューロンの強度増加もまた、p38阻害によって減少することを示す、強度頻度(intensity frequency)の棒グラフである。それぞれの場合について、動物3匹からニューロン300個を測定した。
Claims (29)
- 疼痛を治療、減少、または予防する方法であって、以下の段階を含む方法:
IL−1β活性を減少させる化合物を、疼痛を治療、減少、または予防するために十分な量で哺乳動物の中枢神経系に接触させる段階であって、化合物が、IL−1βmRNAレベルもしくはタンパク質レベル、IL−1β活性、IL−1βmRNAもしくはタンパク質の半減期、または受容体もしくは別の分子へのIL−1βの結合を減少させる段階。 - p38の酵素活性またはリン酸化レベルを減少させる化合物を、疼痛を治療、減少、または予防するために十分な量で、哺乳動物の中枢神経系に接触させる段階を含む、疼痛を治療、減少、または予防する方法。
- 接触段階が、哺乳動物の中枢神経系に化合物を投与する段階を含む、請求項1または2記載の方法。
- 化合物が、髄腔内、髄質内、脳内、脳室内、頭蓋内、硬膜外、脊髄内、または頭頂内に投与される、請求項3記載の方法。
- 化合物が哺乳動物の血液脳関門を通過する、請求項1記載の方法。
- 接触段階が、哺乳動物に、化合物を静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、経口、局所、または鼻腔内投与する段階を含む、請求項5記載の方法。
- 哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
- 化合物がIL−1受容体アンタゴニストまたはカスパーゼ−1阻害剤である、請求項1記載の方法。
- リン酸化またはERK活性を阻害する化合物を哺乳動物の末梢または中枢神経系に投与する段階をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
- MAPキナーゼの酵素活性またはリン酸化レベルを減少させる化合物を、疼痛を治療、減少、または予防するために十分な量で哺乳動物の末梢に接触させる段階を含む、疼痛を治療、減少、または予防する方法。
- MAPキナーゼの酵素活性またはリン酸化レベルを減少させる化合物を、哺乳動物の中枢神経系に投与する段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
- 化合物が、髄腔内、髄質内、脳内、脳室内、頭蓋内、硬膜外、脊髄内、または頭頂内に投与される、請求項11記載の方法。
- 化合物が哺乳動物の血液脳関門を通過する、請求項11記載の方法。
- 接触段階が、哺乳動物に、化合物を静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、経口、局所、または鼻腔内投与する段階を含む、請求項10または13記載の方法。
- MAPキナーゼがp38またはERKである、請求項10または11記載の方法。
- p38のリン酸化または活性を阻害する化合物および、ERKのリン酸化または活性を阻害する化合物を投与する、請求項10または11記載の方法。
- 哺乳動物がヒトである、請求項10記載の方法。
- 以下の段階を含む、化合物が、哺乳動物の中枢神経系におけるIL−1β活性を阻害するか否かを判定するスクリーニング方法:
(a)哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階;ならびに
(b)化合物が疼痛またはIL−1β活性の減少を引き起こす場合はそれによって化合物がIL−1β活性を阻害することが決定される、化合物の存在下および非存在下で哺乳動物における疼痛を測定する段階または哺乳動物の中枢神経系におけるIL−1β活性を測定する段階。 - 以下の段階を含む、化合物が哺乳動物の中枢神経系におけるIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するスクリーニング方法:
(a)哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階;ならびに
(b)化合物が末梢よりも中枢神経系においてIL−1β活性のより大きな減少を引き起こす場合はそれによって化合物が中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害することが決定される、化合物の存在下および非存在下で哺乳動物の中枢神経系と末梢の双方におけるIL−1β活性を測定する段階。 - 以下の段階を含む、化合物が哺乳動物の中枢神経系におけるIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するスクリーニング方法:
(a)第一の哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階;
(b)化合物の存在下および非存在下で第一の哺乳動物の末梢におけるIL−1β活性を測定する段階;
(c)第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系に化合物を投与する段階;ならびに
(d)化合物が末梢よりも中枢神経系においてIL−1β活性のより大きな減少を引き起こす場合はそれによって化合物が中枢神経系におけるIL−1β活性を選択的に阻害することが決定される、化合物の存在下および非存在下で段階(c)の第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系におけるIL−1β活性を測定する段階。 - 以下の段階を含む、化合物が哺乳動物の中枢神経系におけるIL−1β活性を選択的に阻害するか否かを判定するスクリーニング方法:
(a)第一の哺乳動物の末梢に化合物を投与する段階;
(b)化合物の存在下および非存在下で第一の哺乳動物における疼痛を測定する段階;
(c)第一の哺乳動物または第二の哺乳動物の中枢神経系に化合物を投与する段階;ならびに
(d)化合物が末梢よりも中枢神経系に投与された場合に疼痛のより大きな減少を引き起こす場合はそれによって化合物が中枢神経系においてIL−1β活性を選択的に阻害することが決定される、化合物の存在下および非存在下で段階(c)の第一の哺乳動物または第二の哺乳動物における疼痛を測定する段階。 - IL−1β活性または疼痛を測定する前に、哺乳動物、第一の哺乳動物、または第二の哺乳動物の末梢において炎症を誘導する段階をさらに含む、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
- IL−1β活性または疼痛を測定する前に、哺乳動物、第一の哺乳動物、または第二の哺乳動物の末梢においてニューロパシーを誘導する段階をさらに含む、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
- 化合物が、静脈内、非経口、皮下、筋肉内、眼内、脳室内、腹腔内、経口、局所、または鼻腔内に投与される、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
- 化合物が、その全てが哺乳動物に同時に投与される、少なくとも5個の化合物を含むライブラリのメンバーである、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
- 化合物が、p38またはERKのリン酸化または活性を阻害する、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
- 化合物が、CREBのリン酸化または活性を阻害する、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
- 哺乳動物が、齧歯類、サル、モルモット、またはウサギである、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
- 齧歯類がマウスまたはラットである、請求項28記載の方法。
Applications Claiming Priority (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
US70837500A | 2000-11-08 | 2000-11-08 | |
PCT/US2001/047419 WO2002038035A2 (en) | 2000-11-08 | 2001-11-08 | Methods for inhibiting pain |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004537497A true JP2004537497A (ja) | 2004-12-16 |
Family
ID=24845553
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002540626A Withdrawn JP2004537497A (ja) | 2000-11-08 | 2001-11-08 | 疼痛を阻害するための方法 |
Country Status (5)
Country | Link |
---|---|
US (1) | US20080026003A1 (ja) |
EP (1) | EP1361897A4 (ja) |
JP (1) | JP2004537497A (ja) |
AU (1) | AU2002228911A1 (ja) |
WO (1) | WO2002038035A2 (ja) |
Families Citing this family (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US7018999B2 (en) | 2001-05-16 | 2006-03-28 | Cephalon, Inc. | Methods for the treatment and prevention of pain |
US20060253100A1 (en) | 2004-10-22 | 2006-11-09 | Medtronic, Inc. | Systems and Methods to Treat Pain Locally |
USRE48948E1 (en) | 2008-04-18 | 2022-03-01 | Warsaw Orthopedic, Inc. | Clonidine compounds in a biodegradable polymer |
US20100239632A1 (en) | 2009-03-23 | 2010-09-23 | Warsaw Orthopedic, Inc. | Drug depots for treatment of pain and inflammation in sinus and nasal cavities or cardiac tissue |
Family Cites Families (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
EP0570462A4 (en) * | 1991-02-05 | 1994-11-23 | Univ Maryland | MODIFIED INTERLEUKIN-1BETA. |
ES2139658T3 (es) * | 1992-06-01 | 2000-02-16 | Chiron Corp | Utilizacion del inhibidor de coagulacion asociado a lipoproteinas (laci) para la preparacion de un medicamento para el tratamiento de inflamacion aguda o cronica. |
US6048850A (en) * | 1992-09-22 | 2000-04-11 | Young; Donald A. | Method of inhibiting prostaglandin synthesis in a human host |
US6492332B1 (en) * | 1995-12-12 | 2002-12-10 | Omeros Corporation | Irrigation solution and methods for inhibition of tumor cell adhesion, pain and inflammation |
US6096753A (en) * | 1996-12-05 | 2000-08-01 | Amgen Inc. | Substituted pyrimidinone and pyridone compounds and methods of use |
-
2001
- 2001-11-08 JP JP2002540626A patent/JP2004537497A/ja not_active Withdrawn
- 2001-11-08 AU AU2002228911A patent/AU2002228911A1/en not_active Abandoned
- 2001-11-08 EP EP01990036A patent/EP1361897A4/en not_active Withdrawn
- 2001-11-08 WO PCT/US2001/047419 patent/WO2002038035A2/en not_active Application Discontinuation
-
2007
- 2007-01-04 US US11/649,475 patent/US20080026003A1/en not_active Abandoned
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
US20080026003A1 (en) | 2008-01-31 |
EP1361897A4 (en) | 2004-10-13 |
WO2002038035A3 (en) | 2002-08-15 |
EP1361897A2 (en) | 2003-11-19 |
AU2002228911A1 (en) | 2002-05-21 |
WO2002038035A2 (en) | 2002-05-16 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Ding et al. | Activating cGAS–STING axis contributes to neuroinflammation in CVST mouse model and induces inflammasome activation and microglia pyroptosis | |
Pethő et al. | Sensory and signaling mechanisms of bradykinin, eicosanoids, platelet-activating factor, and nitric oxide in peripheral nociceptors | |
Wang et al. | Selective increase of cyclooxygenase-2 expression in a model of renal ablation | |
Ma et al. | TGF-β1-activated kinase-1 regulates inflammation and fibrosis in the obstructed kidney | |
Licinio et al. | Pathways and mechanisms for cytokine signaling of the central nervous system. | |
Braundmeier et al. | The non-human primate model of endometriosis: research and implications for fecundity | |
Skinner et al. | Contribution of BK Ca2+-activated K+ channels to auditory neurotransmission in the Guinea pig cochlea | |
Li et al. | Formyl peptide receptor 1 signaling potentiates inflammatory brain injury | |
Hou et al. | NLRP3 inflammasome priming and activation in cholestatic liver injury via the sphingosine 1-phosphate/S1P receptor 2/Gα (12/13)/MAPK signaling pathway | |
JP6502863B2 (ja) | 結腸直腸癌を処置する方法 | |
Ding et al. | The therapeutic potential of a C‐X‐C chemokine receptor type 4 (CXCR‐4) antagonist on hypertrophic scarring in vivo | |
Ahmad et al. | Phosphodiesterase 3B (PDE3B) regulates NLRP3 inflammasome in adipose tissue | |
Kawakita et al. | Inhibition of AMPA (α-Amino-3-Hydroxy-5-Methyl-4-Isoxazole Propionate) receptor reduces acute blood–brain barrier disruption after subarachnoid hemorrhage in mice | |
Cui et al. | Lipopolysaccharide-evoked HSPA12B expression by activation of MAPK cascade in microglial cells of the spinal cord | |
US11541065B2 (en) | Compositions and methods for treating brain injury | |
US20080026003A1 (en) | Methods for inhibiting pain | |
Wang et al. | Myeloid differentiation factor 88 is up-regulated in epileptic brain and contributes to experimental seizures in rats | |
Kawakita et al. | Anti-apoptotic effects of AMPA receptor antagonist perampanel in early brain injury after subarachnoid hemorrhage in mice | |
WO2021216698A1 (en) | Compositions and methods for the treatment of pain | |
Peppi et al. | Cochlear kainate receptors | |
Torsoni et al. | Angiotensin II (AngII) induces the expression of suppressor of cytokine signaling (SOCS)-3 in rat hypothalamus-a mechanism for desensitization of AngII signaling | |
Bastia et al. | NCX 667, a novel nitric oxide donor, lowers intraocular pressure in rabbits, dogs, and non-human primates and enhances TGFβ2-induced outflow in HTM/HSC constructs | |
Koponen et al. | Spreading depression induces expression of calcium-independent protein kinase C subspecies in ischaemia-sensitive cortical layers: regulation by N-methyl-D-aspartate receptors and glucocorticoids | |
US20040105859A1 (en) | Methods for inhibiting pain | |
Selke et al. | Firing pattern and calbindin-D28k content of human epileptic granule cells |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A300 | Application deemed to be withdrawn because no request for examination was validly filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20050201 |