JP2004350529A - 難分解化学物質の分解菌及び環境浄化方法 - Google Patents

難分解化学物質の分解菌及び環境浄化方法 Download PDF

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祐二 斎藤
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Abstract

【課題】有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体の分解能を有する新規な白色腐朽菌を提供する。
【解決手段】受託番号FERM P−18876及びFERM P−18876で特定され、有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を分解する白色腐朽菌。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイオキシン類等の有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体の分解能を有する白色腐朽菌、環境浄化方法及び環境浄化剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまで人類は、多くの有機汚染物質を環境中に放出し続けてきた。そのため、これらの化学物質による汚染がグローバルな環境問題へと発展してきている。例えば、ごみ焼却施設から発生する飛灰、河川や港湾、底泥、土壌のダイオキシン汚染は深刻な社会問題となっている。ダイオキシンの無害化・分解技術としては、光分解法、溶融法、超臨界水法、微生物分解法などが挙げられるが、中でも微生物分解法は、他の分解法と比較して多大なエネルギーを要せず、二次汚染物質の発生が少ないなどのメリットを持つことから、分解菌を用いた環境修復の研究が精力的に進められている。
【0003】
ダイオキシンを分解する細菌としては、1966年Wilkesらによって1及び2塩素化ダイオキシンを分解できるSphingomonas属細菌が報告された(非特許文献1参考)。ただし、この細菌では3塩素置換以上のダイオキシンは分解されないことも報告されている。また、Kleckaらは、Pseudomonas属細菌による無塩素化ダイオキシンの分解を報告している(非特許文献2参考)。最近、低塩素化ダイオキシンを効率的に分解するPseudomonas属細菌も見い出されているが、4塩素置換以上のダイオキシンの分解は困難であるとされている。
【0004】
一方、木材腐朽菌によるダイオキシン分解に関する研究も進んでいる。木材腐朽菌は、木材中のセルロースとヘミセルロースを主として分解する褐色腐朽菌と、リグニンも分解できる白色腐朽菌に大別される。中でも白色腐朽菌が生産するリグニン分解酵素は基質特異性が低いため、ダイオキシン類を始めとする様々な環境汚染物質の分解が期待されている。1985年、BumpusらはリンデンやDDT(有機塩素系殺虫剤)、ベンゾ(a)ピレン(多環式芳香族炭化水素の一種)、2,3,7,8−テトラクロロ−p−ジオキシン(ダイオキシンの一種)、3,3’,4,4’−テトラクロロビフェニル(コプラナーポリ塩化ビフェニール(Co−PCB)の一種)などの難分解性化学物質の白色腐朽菌Phanerochaete chrysosporiumによる分解の可能性について示唆した(非特許文献3参考)。この報告をきっかけに白色腐朽菌P.chrysosporium を用いる環境汚染物質の分解に関する研究が盛んになった。
【0005】
白色腐朽菌によるリグニン分解には、リグニンペルオキシダーゼ(LiP)、マンガンペルオキシダーゼ(MnP)、ラッカーゼ(Lac)などの菌体外酵素か関与するといわれている。さらに、近年、Bjerkandera属やPleurotus属などの白色腐朽菌の一部から、LiPとMnPの間の特性を持つ新規酵素、マンガン−非依存性ペルオキシダーゼ(MiP)が発見され(非特許文献4参考)、研究及び応用面の広がりをみせている。白色腐朽菌のリグニン分解システムおよびチトクロムP450モノオキシダーゼなどの菌体内酵素によって分解可能な難分解性物質としては、以下のものが報告されている。すなわち、DDT、ジコホール、メトキシクロル(非特許文献5参考)、アルドリン、ディルドリン、クロルデン(非特許文献6参考)、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸(非特許文献7参考)などの農薬、ペンタクロロフェノール(非特許文献8参考)、2,4,5−トリクロロフェノール(非特許文献9参考)などのポリ塩化フェノール類、3,4,3’,4’−テトラクロロビフェニル(非特許文献3参考)などのポリ塩化ビフェニール類(PBC)(非特許文献10参考)、2,7−ジクロロジベンゾ−P−ジオキシン(非特許文献11参考)などのダイオキシン類、2,4,6−トリニトロトルエン(非特許文献12参考)などのニトロ化合物、3,4−ジクロロアニリン(非特許文献13参考)などのクロロアニリン類、ベンゾ(a)ピレン(非特許文献14参考)フェナントレン(非特許文献15参考)などの多環式芳香族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(非特許文献16参考)、アゾ色素(非特許文献17参考)、トリフェニルメタン色素(非特許文献18参考)などの染料が報告されている。
【0006】
以上のように、白色腐朽菌は多岐に渡る環境汚染物質を分解可能であることから、バイオレメディエーションヘの応用が期待されている。しかしながら、これらの白色腐朽菌の大部分が海外で単離・寄託されているため、植物防疫上の問題から、日本では研究目的以外に利用できない。
【0007】
【非特許文献1】
H.Wilkes et al.,Appl.Environ.Microbiol,,62:367−371(1996)
【非特許文献2】
G.M.Klecka et al.,Biochem,J.,180,639(1979)
【非特許文献3】
J.A.Bumpus et al.,Science.228:1434−1436(1985)
【非特許文献4】
A.Heinfling et al.,Appl.Environ.Microbiol,,64:2788−2793(1998)
【非特許文献5】
J.A.Bumpus et al.,Appl.Environ.Microbiol,,53:2001−2008(1987)
【非特許文献6】
D.W.Kennedy et al,,Appl.Environ.Microbiol,,56:2347−2353(1990)
【非特許文献7】
T.R,Ryan et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol,,31:302−307(1989)
【非特許文献8】
R.T.Lamar et al.,Soil.Biol.Biochem,,22:433−440(1990)
【非特許文献9】
D.K.Joshi et al.,Appl.Environ.Microbiol,,56:1779−1785(1993)
【非特許文献10】
A.Zeddel et al.,Toxicol.Environ.Chem.,40:255−266(1993)
【非特許文献11】
K.Valli et al.,J.Bacteriol.,174:2131−2137(1992)
【非特許文献12】
T.Fernando et al.,Appl.Environ.Microbiol,,56:1666−1671(1990)
【非特許文献13】
H.Sandermann et al.,Appl.Environ.Microbiol,,64:3305−3312(1998)
【非特許文献14】
R.T.Morgan et al.,Soi1.Biol.Biochem.,25:279−287(1993)
【非特許文献15】
T.S.Brodkorb et al.,Appl.Environ.Microbio1,,58:3117−3121(1992)
【非特許文献16】
J.S.Yadav et al.,Appl.Environ.Microbiol,,59:756−762(1993)
【非特許文献17】
M.B.Pasti−Grigsby et a1,,Appl.Environ.Microbio1,,58:3605−3613(1992)
【非特許文献18】
S.B.Pointing et al.,World.J.Microbiol.Biotechnol,,16:317−318(2000)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上述したような実状に鑑み、ダイオキシン等の有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体の分解能を有する新規な白色腐朽菌の提供と、これを用いた環境浄化方法及び環境浄化剤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するため、本発明者が鋭意検討した結果、日本国内の森林より新規な白色腐朽菌を単離することができ、本発明を完成するに至った。
(1)受託番号FERM P−18876で特定され有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を分解する白色腐朽菌。
(2)受託番号FERM P−18878で特定され有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を分解する白色腐朽菌。
(3)(1)又は(2)記載の白色腐朽菌を用いて、有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を含む環境を浄化することを特徴とする環境浄化方法。
(4)上記環境は、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニール、農薬、有機塩素化合物、多環式芳香族炭化水素、芳香族炭化水素、ポリ塩化フェノール、ニトロ化合物、クロロアニリン、染料及び環境ホルモンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする(3)記載の環境浄化方法。
(5)上記環境に対して、(1)又は(2)記載の白色腐朽菌を作用させることを特徴とする(3)記載の環境浄化方法。
(6)上記環境に対して、(1)又は(2)記載の白色腐朽菌の培養液、当該培養液精製物及び当該培養液由来物からなる群から選ばれる少なくとも1種を作用させることを特徴とする(3)記載の環境浄化方法。
(7)(1)又は(2)記載の白色腐朽菌及び/又は当該白色腐朽菌の培養液を主成分とする環境浄化剤。
(8)(1)又は(2)記載の白色腐朽菌と当該白色腐朽菌以外の微生物とからなる混合株、(1)又は(2)記載の白色腐朽菌と当該白色腐朽菌以外の微生物との細胞融合株、(1)又は(2)記載の白色腐朽菌の変異株、及び(1)又は(2)記載の白色腐朽菌の遺伝子組換え株からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする(7)記載の環境浄化剤。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る2種類の新規な白色腐朽菌は、日本国内(神戸市の森林土壌及び広島市の公園土壌)の森林土壌から、ダイオキシン類の分解活性を指標としてスクリーニングされたものである。新規微生物として単離することができた白色腐朽菌を、それぞれMS−191及びMS−1167と命名した。
【0011】
白色腐朽菌MS−191は、2002年6月7日付けで特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に受託番号FERM P−18876として寄託されている。白色腐朽菌MS−1167は、2002年6月7日付けで特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に受託番号FERM P−18878として寄託されている。
【0012】
これら受託番号FERM P−18876及びFERM P−18878で特定される白色腐朽菌は、それぞれ以下の菌学的性質を有する。
A.形態的性質
(1)コロニーの色調:MS−191及びMS−1167ともに白色
(2)細胞の構造:MS−191は、かすがい連結及び分節型分生子を形成。MS−1167はかすがい連結を形成したが分生子の形成には至らなかった。
(3)胞子:MS−191及びMS−1167ともになし。
B.培養的性質
(1)2%麦芽エキス寒天培養:MS−191及びMS−1167ともに、28℃で1.6cm/日の生育速度を示した。
(2)色素アズールB含有無機塩寒天培養:MS−191及びMS−1167ともに、28℃で色素由来の青色を透明に脱色した。MS−191の生育速度は0.85cm/日であり、MS−1167の生育速度は0.77cm/日であった。
(3)色素フェノールレッド含有無機塩寒天培養:MS−191及びMS−1167ともに、15、28及び37℃で色素由来の黄色を赤色に変化させた。MS−191の生育速度は0.40cm/日(15℃)、1.06cm/日(28℃)及び0.81cm/日(37℃)であり、MS−1167の生育速度は0.56cm/日(15℃)、2.00cm/日(28℃)及び0.46cm/日(37℃)であった。
C.化学分類学的性質
(1)近縁菌種とのITS(菌類リボソームDNAのスペーサー領域)の相同性:MS−191及びMS−1167ともに、Bjerkandera adustaと最も高い相同性を示した。MS−191とBjerkandera adustaにおけるITS相同性は99%であり、MS−1167とBjerkandera adustaにおけるITS相同性は98.8%であった。
D.菌体外分泌酵素
(1)リグニンペルオキシダーゼ(LiP):MS−191及びMS−1167ともに分泌。
(2)マンガンペルオキシダーゼ(MnP):MS−191及びMS−1167ともに分泌。
(3)マンガン非依存性ペルオキシダーゼ(MiP):MS−191及びMS−1167ともに分泌。
【0013】
以上のような菌学的性質を有するMS−191及びMS−1167は、有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を分解する能力を有する。ここで、有機塩素化合物とは、環境中において難分解性であることが知られている天然の或いは合成された化学物質を意味する。有機塩素化合物としては、例えばダイオキシン類を挙げることができる。ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDsと言う場合もある)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFsと言う場合もある)及びコプラナーポリ塩化ビフェニール(Co−PCBsと言う場合もある)を意味する。また、ダイオキシン類とは、PCDDs及びPCDFsにおいて塩素置換数、すなわち塩素原子の結合数と塩素原子の結合位置によって分類される多数の化合物も含む意味である。また、有機塩素化合物のハロゲン置換体とは、有機塩素化合物において、塩素原子がフッ素、臭素又はヨウ素に置換した化合物を意味する。なお、有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体は全ての異性体を含む意味であり、以下において「有機塩素化合物等」と呼ぶ場合もある。
【0014】
さらに、MS−191及びMS−1167は、ポリ塩化ビフェニール、農薬、有機塩素化合物、多環式芳香族炭化水素、芳香族炭化水素、ポリ塩化フェノール、ニトロ化合物、クロロアニリン、染料及び環境ホルモンを分解することもできる。
【0015】
有機塩素化合物等を分解する能力は、例えば、既知量のダイオキシン類等の有機塩素化合物を含む溶液にて上記白色腐朽菌を培養し、当該溶液中に残存する有機塩素化合物を定量し、有機塩素化合物の減少量に基づいて評価できる。なお、溶液中の有機塩素化合物等の定量は、GC−MS等の公知の手法を用いて実施できる。また、有機塩素化合物等を分解する能力は、例えば、有機塩素化合物等の分解活性を有する酵素の酵素活性を測定することで評価することも可能である。有機塩素化合物等としてダイオキシン類を用いた場合、ダイオキシン類の分解活性を有する酵素としては、例えば、リグニンペルオキシダーゼ(LIPと言う場合もある)、マンガンペルオキシダーゼ(MnPと言う場合もある)、マンガン非依存性ペルオキシダーゼ(MiPと言う場合もある)、ラッカーゼ(lacと言う場合もある)及びチトクロムP450を挙げることができる。
【0016】
有機塩素化合物等が含まれる環境としては、特に限定されないが、例えば、農地、焼却灰、焼却灰を含む焼却場周辺、工場跡地及び原油流出事故現場の土壌を挙げることができる。また、環境としては、河川の底泥を挙げることができる。さらに、環境としては、河川、農業用水、工業用水、湖沼、地下水、工場排水等の水環境を挙げることができる。なお、環境に含まれる有機塩素化合物等は一種類であってもよいが複数種類であっても良い。
【0017】
MS−191及びMS−1167は、上述した各種環境に含まれる有機塩素化合物等を分解することができる。また、上記環境に含まれる有機塩素化合物等を分解して当該環境を浄化する際には、この白色腐朽菌自体を用いても良いし、この白色腐朽菌を含む培養液(以下、単に「培養液」と呼ぶ)を用いても良い。
【0018】
MS−191及びMS−1167を前培養する際の温度は10〜40℃の範囲、好ましくは20〜37℃である。また、培養時のpHは4〜7の範囲、好ましくは4.5〜5.5である。培養日数は、菌体の増殖と菌体外酵素が十分に産生されれば良く、通常4〜20日間の範囲、好ましくは6〜14日間である。培養に用いる培地には、過酸化水素を産生させるために必要なグルコース、マンガンペルオキシダーゼを発現させるために必要なMn(II)、各種の炭素源、窒素源、無機塩類、ビタミン類を適宜添加する。培地中には、上述した物質以外に、ナトリウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、カルシウム塩、リン酸塩などの他の無機塩類を添加しても良い。
【0019】
炭素源としては、グルコース、フルクトース、マルトース、サッカロース、グリセリン、スターチ、糖蜜、廃糖蜜、などの単糖類や多糖類が挙げられる。窒素源としては、肉エキス、ペプトン、グルテンミール、大豆粉、乾燥酵母、酵母エキス、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム塩、尿素、L−アスパラギン酸などが挙げられる。培地中には、上述した物質以外に、ナトリウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、カルシウム塩、リン酸塩などの他の無機塩類や、イノシトール、ビタミンB1塩酸塩、ビオチンなどのビタミン類を添加しても良い。
【0020】
また、培地中に添加するマンガン(II)は、例えばMnSO、MnCLなどの化合物の形で添加する。培地中の2価マンガンイオン濃度は0.01〜100mM、好ましくは0.1〜1mMの範囲である。培地中に2価マンガンイオンを存在させることによって、白色腐朽菌が産生するマンガンペルオキシダーゼ(MnP)が2価マンガンイオンを3価マンガンイオンに酸化し、この3価マンガンイオンが有機塩素化合物の分解に作用すると考えられる。
【0021】
また、有機塩素化合物等を分解して環境を浄化する際には、その手法は限定されないが、当該環境に対してMS−191或いはMS−1167及び/又は培養液を添加する方法、MS−191或いはMS−1167及び/又は培養液を保持するリアクターに浄化対象の土壌、水質等を接触させる方法等を挙げることができる。
【0022】
ところで、上記環境に含まれる有機塩素化合物等を分解して環境を浄化する際には、濾過や遠心分離などの手段により上記培養液から菌体を除去してなる無菌培養液を用いてもよい。また、この無菌培養液を塩析やカラムクロマトグラフィーなどの手段により、純粋な酵素液として使用することもできる。また、培養液から除去して得られた菌体を用いて環境を浄化してもよい。無菌培養液を用いる場合であっても、当該白色腐朽菌が産生する酵素が当該無菌培養液に含まれているために有機塩素化合物を分解することができる。
【0023】
例えば、浄化対象の環境が水環境である場合、以下の方法によって浄化することができる。以下の説明において、MS−191及びMS−1167をまとめて「白色腐朽菌」と称する。
【0024】
1)上記白色腐朽菌又は上記白色腐朽菌の培養液を添加する方法
この方法においては、浄化対象の水環境に対して上述した培地を添加する。このとき、浄化対象の水環境のpHは3〜6の範囲が好ましく、3.5〜4.5の範囲がより好ましい。例えば、浄化対象の水環境に対してアルカリ又は酸を添加し、洗浄対象の水環境のpHを上記範囲に調節することができる。水環境のpHを上記範囲に調節することによって、白色腐朽菌の増殖及びダイオキシン分解酵素等の有機塩素化合物分化酵素の作用が好適になる。
【0025】
その後、前培養で調整した白色腐朽菌又はこれらの培養液を用いて、浄化対象の水環境に植菌し、白色腐朽菌を水環境中で培養する。培養する際の温度は10〜40℃の範囲、好ましくは20〜37℃である。培養日数は特に限定はなく、浄化対象の水環境に含まれる有機塩素化合物等を充分に分解できる日数である。なお、白色腐朽菌による有機塩素化合物等の分解には、過酸化水素が必須であり、白色腐朽菌が産生する過酸化水素が不足する場合には、適宜添加することが好ましい。
【0026】
2)上記白色腐朽菌が産生する酵素液を添加する方法
この方法においては、浄化対象の水環境における酵素の作用が好適になるように、アルカリ又は酸を添加し、水環境のpHを調製する。水環境のpHは3〜6の範囲、好ましくは3.5〜4.5である。あるいは、水環境に対してpH緩衝剤(バッファー)を添加することで、水環境のpHを調製することもできる。pH緩衝剤としては、3〜6の範囲、好ましくは3.5〜4.5で緩衝作用を示すものを使用することが好ましい。また、浄化対象の水環境に2価マンガンイオンを存在させることによって、有機塩素化合物等の分解を促進することができる。したがって、浄化対象の水環境に対してMnSO、MnCL等を、浄化対象の水環境に含まれる2価マンガンイオン濃度が0.01〜100mM、好ましくは0.1〜1mMの範囲になるように添加する。その後、酵素液を添加し、10〜40℃の範囲、好ましくは20〜37℃で処理する。処理日数は特に限定はなく、有機塩素化合物等が充分に分解できる日数である。
一方、浄化対象の環境が土壌(焼却灰を含む)である場合、以下の方法によって浄化することができる。
【0027】
1)上記白色腐朽菌又は上記白色腐朽菌の培養液を添加する方法
この方法では、先ず、浄化対象の土壌を水に分散し懸濁液としたものを調製する。そして、上述した浄化対象が水環境の場合の処理に準じて、調製した懸濁液を処理する。また、上記白色腐朽菌又は白色腐朽菌の培養液を浄化対象の土壌に直接添加し、混合して処理することもできる。
【0028】
2)上記白色腐朽菌が産生する酵素液を添加する方法
この方法においても、先ず、浄化対象の土壌を水に分散し懸濁液としたものを調製する。そして、上述した浄化対象が水環境の場合の処理に準じて、調製した懸濁液を処理する。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1〕白色腐朽菌 MS−191 株、 MS−1167 株のスクリーニング
国内森林(神戸市の森林土壌及び広島市の公園土壌など)から採取した数千株のうち、パルプ脱色能力の高い白色腐朽菌群52株について、ダイオキシン類など難分解性物質の分解酵素を持つ株のスクリーニングを行った。表1に示すBasal III培地(表1)に色素アズールB(LiP検出用試薬)及びフェノールレッド(MnP検出用試薬)を添加した寒天培地をそれぞれ作製し、白色腐朽菌を植菌して28℃で静置培養を行った。LiPとMnPの両酵素を分泌する株は27株あり、その中で、特に分泌量が多い2株を選抜し、MS−191及びMS−1167と命名した。
【0031】
【表1】
Figure 2004350529
【0032】
【表2】
Figure 2004350529
【0033】
〔実施例2〕白色腐朽菌 MS−191 株及び MS−1167 株の系統分類
実施例2では、実施例1で得られたMS−191株及びMS−1167株について以下のように系統分類を行った。
【0034】
実施例1でダイオキシン類など難分解性物質の分解酵素(LiP及びMnP)を生産する能力の高い株としてスクリーニングされたMS−191株及びMS−1167株を、PDA培地(1L当り、Bacto potato dextrose broth 9.6g及び20g寒天含有)上で増殖させ、ISOPLANT system(ニッポンジーン社)によってゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCR反応によりITS領域(rDNAのスペンサー領域)の増幅を行った。プライマーは、ITS4(5’−TCCTCCGCTTATTGATATGC−3’:配列番号1)及びITS5(5’−GGAAGTAAAAGTCGTAACAAGG−3’:配列番号2)を使用し、PCR system 9600(Perkin−Elmerds社)を用いて行った。反応条件は、プレヒートを98℃で10分間行い、80℃でDNAポリメラーゼ及びdNTPsを添加して、94℃で2分間のイニシャルサイクルの後、30サイクル(94℃30秒→60℃2秒→74℃30秒)を行った。得られたDNA断片をアガロースゲル電気後、QIAEXIIゲル抽出キット(Qiagen社)を用いて精製した。精製DNA断片を鋳型として、ABI Big Dye Terminator cyc1e sequencing ready reaction kit(Perkin−Elmer社)を用いてPCRを行い、ABI 377 DNA sequencer(Perkin−E1mer社)により塩基配列を決定した。得られた塩基配列は、Basic BLAST searchにより相同性の高い遺伝子を検索した後、GENETYX−MAC 8.Oにより処理した。
【0035】
MS−191及びMS−1167のITS領域の塩基配列決定の結果、それぞれ572塩基及び571塩基の塩基配列を得た。また、相同性検索の結果、Bjerkandera adustaと最も高い相同性(それぞれ99%及び99.8%)を示したが、全く一致する配列は見られなかった。さらに、系統樹によるクラスター解析においても、Bjerkandera adustaとクラスターを形成したことから、現在公開されているデータに依存した解析からは、MS−191及びMS−1167はBjerkandera adustaと比較的近縁ではあるものの別種であると結論づけた。
【0036】
〔実施例3〕白色腐朽菌 MS−191 及び MS−1167 によるダイオキシン汚染水の浄化実験
白色腐朽菌MS−191及びMS−1167によるダイオキシン類含有水の分解性を把握するために、以下の方法で実験を行った。
【0037】
40mLのBasal III培地(表1)を含む300mL三角フラスコに、PDA培地上で6日間培養したMS−191及びMS−1167の菌糸(5mm×5mm)をそれぞれ無菌的に植菌し28℃で静置培養した。培養7日目に、200ngのダイオキシン類(1,3,6,8−テトラジベンゾパラジオキシン[1,3,6,8−TCDD])を添加し、静置培養を継続した。1,3,6,8−TCDD添加10日後に、培養中から1,3,6,8−TCDDを抽出して残存量を分析した。白色腐朽菌へのダイオキシン類の吸着を考慮したコントロールとして、白色腐朽菌MS−191を上記の方法で7日間培養した後オートクレーブ滅菌し(白色腐朽菌を死滅させ、酵素を失活させる)、1,3,6,8−TCDDを添加して10日間静置培養した後、上記の方法で1,3,6,8−TCDDの残存量を分析した。
【0038】
本例で行ったダイオキシン類の抽出は、培養液に濃硫酸を加えて菌体を溶解させた後、n−ヘキサンで抽出した。その後、各種カラムクロマトグラフィーでクリーンアップし、精製した試料に含まれるダイオキシン類をGC−MSを用いて分析した。サンプルの分解結果は、コントロール値で補正した。
分解実験の結果、MS−191株は8%、MS−1167株は18%の1,3,6,8−TCDD分解を示した。
【0039】
〔実施例4〕白色腐朽菌 MS−191 及び MS−1167 におけるダイオキシン分解酵素群の生産
白色腐朽菌MS−191株及びMS−1167株によるダイオキシン類など難分解性物質分解酵素の生産を把握するために、以下の実験を行った。
【0040】
20mLのBasalIII培地(表1)を含む100mL三角フラスコに、PDA培地上で6日間培養したMS−191株及びMS−1167の菌糸(3mm×3mm)をそれぞれ無菌的に植菌し、28℃で静置培養した。各サンプルから培養液の一部をサンプリングし、遠心分離(10,000rpm、10min)後、10kDa分画膜で濃縮し、10mM酢酸バッファー(pH6.0)で洗浄した。精製サンプルの評価は分光光度計を用いて行った。LiP活性は、基質としてアズールBを用い、651nmの吸光度を測定することによって決定した。MnP活性は、基質としてフェノールレッドを用い、431nmの吸光度を測定することによって決定した。
結果としては、図1に示すように、MS−191株、MS−1167株ともに比較的長期問に渡って、LiP及びMnPの分泌を確認することができた。
【0041】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明に係る新規な白色腐朽菌によれば、ダイオキシン等の有機塩素化合物を含む環境を効果的に浄化することができる。
【0042】
【配列表】
Figure 2004350529
Figure 2004350529
【0043】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1及び2は合成DNAである。
【図面の簡単な説明】
【図1】MS−191株、MS−1167株における分解酵素(LiP及びMnP)の分泌を経時的に測定した結果を示す特性図である。

Claims (8)

  1. 受託番号FERM P−18876で特定され有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を分解する白色腐朽菌。
  2. 受託番号FERM P−18878で特定され有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を分解する白色腐朽菌。
  3. 請求項1又は2記載の白色腐朽菌を用いて、有機塩素化合物及び/又は有機塩素化合物のハロゲン置換体を含む環境を浄化することを特徴とする環境浄化方法。
  4. 上記環境は、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニール、農薬、有機塩素化合物、多環式芳香族炭化水素、芳香族炭化水素、ポリ塩化フェノール、ニトロ化合物、クロロアニリン、染料及び環境ホルモンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3記載の環境浄化方法。
  5. 上記環境に対して、請求項1又は2記載の白色腐朽菌を作用させることを特徴とする請求項3記載の環境浄化方法。
  6. 上記環境に対して、請求項1又は2記載の白色腐朽菌の培養液、当該培養液精製物及び当該培養液由来物からなる群から選ばれる少なくとも1種を作用させることを特徴とする請求項3記載の環境浄化方法。
  7. 請求項1又は2記載の白色腐朽菌及び/又は当該白色腐朽菌の培養液を主成分とする環境浄化剤。
  8. 請求項1又は2記載の白色腐朽菌と当該白色腐朽菌以外の微生物とからなる混合株、請求項1又は2記載の白色腐朽菌と当該白色腐朽菌以外の微生物との細胞融合株、請求項1又は2記載の白色腐朽菌の変異株、及び請求項1又は2記載の白色腐朽菌の遺伝子組換え株からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項7記載の環境浄化剤。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN110655298A (zh) * 2019-09-24 2020-01-07 清华大学深圳国际研究生院 一种利用真菌处理污泥水解液并回收真菌菌体的方法
CN111825218A (zh) * 2020-03-18 2020-10-27 广东省生态环境技术研究所 一种利用血红密孔菌降解磷酸三苯酯的方法及其应用

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CN111825218B (zh) * 2020-03-18 2022-03-22 广东省生态环境技术研究所 一种利用血红密孔菌降解磷酸三苯酯的方法及其应用

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