JP2004326329A - 預貸尻悪化リスク評価システムおよび方法、コンピュータプログラム、プログラム記録媒体 - Google Patents
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Abstract
【課題】金融機関における預金および貸出の変動の確率分布の推定精度を向上して、預貸尻の悪化リスクをより正確に評価できるようにする。
【解決手段】観測データ取得部32は、預金貸出データベース30に格納された預貸高の過去データに基づいて、預貸変動の観測データを生成する。分布推定部34は、預貸変動の観測データに基づき、預貸変動の確率分布が二次元正規分布の線形和(正規混合分布)で表されるものとして、各正規分布の平均ベクトルおよび分散共分散行列と、重み係数とをEM法により決定する。預貸尻シミュレーション部40は、分布推定結果ファイル44に格納された分布推定結果に基づいて、モンテカルロシミュレーションの手法により預貸尻悪化量を評価する。
【選択図】 図2
【解決手段】観測データ取得部32は、預金貸出データベース30に格納された預貸高の過去データに基づいて、預貸変動の観測データを生成する。分布推定部34は、預貸変動の観測データに基づき、預貸変動の確率分布が二次元正規分布の線形和(正規混合分布)で表されるものとして、各正規分布の平均ベクトルおよび分散共分散行列と、重み係数とをEM法により決定する。預貸尻シミュレーション部40は、分布推定結果ファイル44に格納された分布推定結果に基づいて、モンテカルロシミュレーションの手法により預貸尻悪化量を評価する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金融機関における預貸尻(金融機関全体の預金高から貸出高を差し引いた額)の悪化リスクを評価するための装置および方法に関する。また、本発明は、そのような方法をコンピュータに実行させるためのプログラムおよびそのプログラムを格納した記録媒体にも関する。
【0002】
【従来の技術】
銀行等の金融機関にとって、資金流動性リスクを適正に管理することは必須の課題である。資金流動性リスクの管理を行ううえでは、金融機関が自身の複雑なキャッシュフローを的確に予測し、それに応じた資金をどのように確保するのかを考えることが必要である。特に、金融機関では預金と貸出とが収支の大半を占めるため、預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻を予測することが不可欠である。
【0003】
預貸尻は預貸動向により日々変動するため、金融機関では、この預貸尻を手当てすべくコール市場等で資金調達を行っている。このような預貸尻の変動に伴う資金流動性リスクを考えた場合、リスクが増大する方向は、前日と比較して、当日の預貸尻額が減少(貸出が増加かつ/または預金が減少)することを指す。本明細書では、この状態を「預貸尻の悪化」と定義する。すなわち、預貸尻が減少すると、その減少分の資金を何らかの方法によって手当てをする必要があるが、預貸尻減少額の見積もりを過ると、資金繰りに重大な支障を起たすリスクが増大することになるのである。このため、預貸尻悪化額(すなわち当日預貸尻から前日預貸尻を引いた額)を予測して、預貸尻の悪化リスクを推定することが必要である。
【0004】
預貸尻の悪化リスクを正しく推定するには、預貸の変動を精緻に記述することが重要である。しかし、預貸変動要因は様々であり、完全に予測することは不可能に近いため、預貸変動を記述するには確率統計的手法に頼らざるを得ない。
【0005】
このような背景の下、本出願人は非特許文献1において、VaR(Value at Risk)の考え方を応用した預貸尻悪化リスクの管理手法を提案している。
【0006】
非特許文献1に開示される手法では、預金変動率および貸出変動率を夫々確率変数として捉え、預金変動率および貸出変動率の実際のデータに基づいて、各変動率の確率分布を推定する。ここで、預金変動率および貸出変動率は、夫々、預金額および貸出額がある期間でどのくらい変化したかの割合を示す。
【0007】
過去の実際のデータについて預金変動率および貸出変動率の確率分布を求めてみると、正規分布に比較して尖り具合が大きく、かつ、裾の広いものとなる。そこで、非特許文献1に開示される手法では、預金変動率および貸出変動率の分布をより正確に推定すべく、それらの分布がばらつきの大きい正規分布とばらつきの小さい正規分布の2つの分布の線形和となるものとして、実際のデータに最も良く当てはまるような確率分布を最尤法により計算する。また、預金変動率と貸出変動率との間には一定の相関が認められることから、それらの相関係数も推定計算する。
【0008】
このようにして、預金変動率および貸出変動率の確率分布と、両変動率間の相関係数とを推定したら、それらの推定結果に基づいて、モンテカルロシミュレーションに手法により預貸尻悪化量を推定する。具体的には、先ず、預金変動率および貸出変動率の夫々の確率分布に従って乱数の組を発生させる。次に、発生した乱数の組を、それらの相関係数が、預金変動と貸出変動との間の相関係数に一致するように変換して、預金変動率および貸出変動率のデータとする。そして、預金変動率から貸出変動率を引くことにより、預貸尻悪化を表すデータを生成する。このようなデータ生成を多数行って預貸尻悪化量を推計する。例えば1万個のデータを生成した場合、小さい方から100番目の預貸尻変動率を、信頼水準99%の預貸尻悪化リスクとするのである。
【0009】
【非特許文献1】
株式会社東京三菱銀行 資金証券部、”資金流動性リスク計量化の試み〜預貸尻VaRについて”、[online]、2001年6月30日、[2003年3月1日検索]、インターネット、<URL:http://www.btm.co.jp/mkdata_j/foc_019_1.pdf>
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
非特許文献1に開示される手法では、預金変動率および貸出変動率の夫々の確立分布を互いに独立の分布として推定し、各確率分布に従って乱数を発生した後、預金変動率と貸出変動率との間の相関係数が反映されるように乱数を変換している。しかしながら、相関係数は本来、正規分布に従う確率変数の間で意味を持つ概念である。したがって、正規分布に従わない預金変動率および貸出変動率について求めた相関係数を用いてリスク評価を行うことは必ずしも合理的とはいえない。この点で、非特許文献1に開示される手法は改善の余地を残すものであった。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、金融機関における預金および貸出の変動の確率分布の推定精度を向上して、預貸尻の悪化リスクをより正確に評価できるようにすることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載された発明は、金融機関における預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻の悪化リスクを評価するための装置であって、
預金高の変動および貸出高の変動の夫々を表す預金変動データおよび貸出変動データを取得する預貸データ取得手段と、
預金高の変動および貸出高の変動の確率分布が、預金高の変動と貸出高の変動とを確率変数とする複数の二次元正規分布の線形和である正規混合分布で表されるものとして、前記取得した預金変動データおよび貸出変動データに適合する前記正規混合分布を推定する分布推定手段と、
前記推定した正規混合分布に従って乱数の対を発生して、この乱数対に基づいて預金高および貸出高の変動を表すデータを生成し、該生成したデータに基づいて預貸尻の悪化リスクを判定する預貸尻シミュレーション手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、預金高の変動(預金変動)および貸出高の変動(貸出変動)の確率分布が、預金変動と貸出変動とを確率変数とする複数の二次元正規分布の線形和である正規混合分布で表されるものとして、預金変動データおよび貸出変動データに適合する正規混合分布を推定する。このため、正規混合分布を構成する各正規分布において預金変動と貸出変動との間の相関係数を反映させることができるので、預金変動および貸出変動の確率分布をより正確に推定できる。そして、このように正確に推定された確率分布に従って預金変動および貸出変動を表すデータを生成することで、預貸尻悪化リスクを、より正確に判定することが可能となる。
【0014】
また、請求項2に記載された発明は、請求項1記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記分布推定手段は、前記正規混合分布を構成する各正規分布の平均ベクトルおよび分散共分散行列と、各正規分布の重み係数とを推定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載された発明は、請求項2記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記分布推定手段は、EM(Expectation & Maximization)法により前記平均ベクトル、分散共分散行列、および重み係数を推定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預貸データ取得手段は、預金高および貸出高の過去の履歴を表すデータが蓄積されたデータベースを参照し、当該データベースに蓄積されたデータに基づいて、預貸尻悪化リスクの評価期間に対応した前記預金変動データおよび貸出変動データを算出することを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載された発明は、請求項1〜4のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預貸尻シミュレーション手段は、
前記正規混合分布を構成する各正規分布について、その分布に従った乱数対を生成する手段と、
所定範囲内での一様乱数を生成する手段と、
各正規分布の重み係数と前記生成した一様乱数の値とに基づいて前記決定した正規分布のうち乱数対を採用すべき正規分布を決定し、当該決定した正規分布について発生した乱数対に基づいて、預金変動および貸出変動を表すデータを生成する手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載された発明は、請求項1〜5のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預金変動および貸出変動は、預金および貸出の変動幅、または、これら変動幅の現在の預金高および貸出高に対する比率であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項7に記載された発明は、請求項1〜6のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記正規混合分布を構成する正規分布の最適個数を決定するコンポーネント数決定手段を更に備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項8に記載された発明は、請求項7記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記コンポーネント数決定手段は、Bootstrap法を用いて情報統計量を推定し、当該情報統計量を最小とするような前記正規分布の個数を前記最適個数として決定することを特徴とする。
【0021】
また、請求項9に記載された発明は、金融機関における預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻の悪化リスクを評価するための方法に係るものであり、請求項10に記載された発明は、この方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに係るものであり、請求項11に記載された発明は、このプログラムを記録した記録媒体に係るものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態である預貸尻悪化リスク評価装置(以下、リスク評価装置と略称する)について説明する。本実施形態のリスク評価装置は、金融機関における預金高および貸出高の過去の推移を表すデータに基づいて、預金および貸出の変動の確率分布を推定し、その確率分布に基づいてモンテカルロシミュレーションの手法により預貸尻悪化リスクを評価する。なお、本発明において、預貸尻悪化リスクとは、一定の信頼水準(例えば99%)で預貸尻が減少する可能性のある額を意味する。
【0023】
また、本発明において、預金および貸出の変動は、変動率(現在の預金高・貸出高に対する変動幅の割合)を用いてもよいし、変動幅そのものを用いてもよい。変動率および変動幅の何れを用いても、処理の内容は全く同様である。以下の説明では、変動率および変動幅を区別しない場合には、単に、「変動」というものとする。また、預金および貸出の変動を総称する場合は、「預貸変動」というものとする。
【0024】
==システムの概要==
図1は、本発明の一実施形態であるリスク評価装置10の構成図である。同図に示すように、リスク評価装置10は、CPU12、ハードディスク等の記憶装置14、キーボード等の入力装置16、およびディスプレイ装置18等を備えるコンピュータシステムにより構成されており、CPU12が記憶装置14に格納されたプログラム20を実行することによりリスク評価装置10としての機能が実現される。
【0025】
図2は、リスク評価装置10の機能ブロック図である。先ず、同図を参照して、本実施形態のリスク評価装置10の概要を説明する。同図に示すように、リスク評価装置10は、預金貸出データベース30、観測データ取得部32、分布推定部34、コンポーネント数決定部36、EM法計算部38、預貸尻シミュレーション部40、および、結果出力部42などを備えている。
【0026】
預金貸出データベース30には、預金額および貸出額の過去の推移を表すデータが格納されている。
【0027】
観測データ取得部32は、預金貸出データベース30に格納されたデータに基づいて、預貸尻悪化リスクの評価期間に対応した預貸変動を表す観測データを計算する。例えば、2週間後の預貸尻悪化リスクを評価する場合は、2週間の間の預金および貸出の変動幅または変動率を、預貸変動の観測データとして計算する。
【0028】
分布推定部34は、観測データ取得部32により生成された預貸変動の観測データに基づいて、預貸変動の確率分布の推定計算を行う。具体的には、預貸変動の確率分布が、預金変動および貸出変動という2つの確率変数を持つ二次元正規分布の線形和(以下、正規混合分布という)で表されるものとして、各正規分布の平均ベクトルおよび分散共分散行列と、重み係数とを決定する。分布推定部34による推定結果は、分布推定ファイル44に格納される。
【0029】
コンポーネント数決定部36は、預金貸出データベース30に格納されたデータに基づき、情報量規準と呼ばれる規準を用いて、正規混合分布を構成する正規分布(以下、コンポーネントともいう)の最適な個数を決定する。なお、コンポーネント数決定部34および分布推定部36では、EM(Expectation & Maximization)法と呼ばれる統計処理手法に基づく推定計算が行われるが、このEM法に基づく推定計算処理は、EM法計算部38により実行される。
【0030】
預貸尻シミュレーション部40は、分布推定結果ファイル44に格納された分布推定結果に基づき、モンテカルロシミュレーションの手法により預貸変動のデータを多数生成して、それらのデータから預貸尻悪化リスクを評価する。預貸尻悪化リスクの評価結果は、リスク評価結果ファイル46に格納される。
【0031】
結果出力部42は、分布推定結果ファイル44およびリスク評価結果ファイル46に格納されたリスク評価結果をディスプレイ装置18に表示し、あるいは、プリンタに印刷出力させる。
【0032】
==処理の詳細==
<預貸変動の確率分布推定>
先ず、分布推定部34による預貸変動の確率分布の推定処理について説明する。
上記の通り、預貸変動が、複数の2次元正規分布の線形和で表されるとの前提の下で、預貸変動率pの確率分布は、次式で表される。
【0033】
【数1】
ここで、
xは、預貸変動の観測データ(預金変動および貸出変動の対からなるベクトル)であり、
wαはα番目のコンポーネントの重み係数であり、
pα(x;θα)はα番目のコンポーネントの確率密度関数であり、
θαはα番目のコンポーネントの平均および分散共分散行列を表すパラメータであり、
Θは、Θ={(wα,θα)|α=1,・・・,M}(ただし、Mは、コンポーネントの個数)である。
【0034】
このような正規混合分布における未知パラメータはΘ(すなわち、各コンポーネントの重み係数、平均、および分散共分散行列)であり、本実施形態では、預貸変動の観測データに基づいて、EM法により未知パラメータΘを推定する。このEM法は、最尤法の原理に基づいて確率モデルを推定する公知の手法であり、以下にその原理を簡単に説明する。
【0035】
EM法では、観測データXと非観測データZとからなるN個の完全データZを考え、XとYの結合確率密度関数がp(X,Y;Θ)で与えられるものとして、観測データXの対数尤度関数
【数2】
を極大化する未知パラメータΘの値を求める。ここで、完全データの対数尤度の期待値を極大とする未知パラメータΘの値が、観測データの尤度も極大とすることが数学的に証明されている。そこで、EM法では、完全データの対数尤度を極大化することにより、間接的に、観測データの尤度を極大化する。
【0036】
具体的なアルゴリズムを示すと、EM法では次の完全データ対数尤度関数
【数3】
の条件付期待値(以下、Q関数という)を以下のステップ1およびステップ2の計算により最大化する。
【0037】
(ステップ1)
未知パラメータΘの初期値Θ(0)を設定し、t←0として計算開始。
【0038】
(ステップ2)
次のE−ステップおよびM−ステップを収束するまで繰り返す
E−ステップ:Q関数を次式により計算。
【数4】
M−ステップ:Q関数を最大にするΘを求める。すなわち、
【数5】
以上がEM法の原理である。
【0039】
本実施形態では、預貸変動のN組の観測データに対して、上述したEM法を適用し、M個の2次元正規分布の線形和で表される正規混合分布を当てはめる。なお、M個の正規分布のパラメータは互いに独立であるものとする。
【0040】
先ず、α番目のコンポーネントの確率密度関数を次式で表す。
【数6】
ただし、xは2次元の観測データ(預金変動および貸出変動を要素とする2次元縦ベクトル)、μαは平均ベクトル(預金変動および貸出変動の夫々の平均値を要素とする2次元縦ベクトル)、Σαは分散共分散行列(本実施形態では2×2の正方行列)であり、また、(x−μα)Tはベクトル(x−μα)の転置ベクトルを表す。
【0041】
すると、正規混合分布の確率密度関数φmix(x)は、重み係数wαを用いて次式のように表される。
【数7】
ただし、
【数8】
である。
【0042】
ここで、EM法を適用するため、預貸変動の観測データxは不完全であり、本来は、各観測データxがどのコンポーネントから生じたかを示すデータHが存在していると考える。このように考えて、EM法を適用すると、以下のようになる。
【0043】
先ず、不完全データxi(xiは、i番目の観測データを表す)の尤度は、
【数9】
と表されるから、対数尤度は、
【数10】
で表すことができる。
【0044】
上記のように、この対数尤度Lを極大とする未知パラメータの値が、観測データxの尤度も極大にする。そこで、完全データに関する対数尤度の期待値を最大化することを考える。
【0045】
完全データ(xi,ki)が与えられた完全モデルを考える。ただし、kiは、観測データxiの発生元であるコンポーネントの番号を表す。この場合、データxiはki番目の正規分布から発生したものとなるから、データxiの尤度関数liは、
【数11】
で与えられる。
したがって、この完全モデルの対数尤度Lcは
【数12】
となる。
【0046】
(10)式において、kiは実際には観測することのできないパラメータである。そこで、このkiの値がαである確率をqi,αとおくと、Q関数は次式で表されることになる。
【数13】
このQ関数を極大にするΘの値を、上記したEM法のアルゴリズムに従って繰り返し計算により決定する。なお、正規混合分布を構成するコンポーネントの個数Mは、後述するコンポーネント数決定部36により決定された最適値を用いる。
【0047】
図3に、未知パラメータΘ(すなわち、重み係数wα、平均ベクトルμα、分散共分散行列Σα;α=1,・・・,M)の推定計算処理のフローチャートを示す。
【0048】
先ず、未知パラメータΘの初期値Θ(0)を任意の値に設定する(S100)と共に、t←0とする(S102)。
【0049】
次に、EM法のE−ステップとして、Θ(t)からqi,αを推定する(S104)。ここで、qi,αは、i番目の観測データxiがα番目の分布から生じる事後確率であるから、
【数14】
で与えられる。
ただし、
【数15】
であり、このφi,βはi番目のデータのβ番目のコンポーネントにおける確率密度を意味している。なお、上述の通り、Θ(t)は、wα,μα,Σαを構成要素とするパラメータであり、(12)式の計算では、Θ(t)についてのwα,μα,Σαの値を用いる。
【0050】
次に、EM法のM−ステップとして、(12)式より求めたqi , αを(11)式に代入し、Q関数を極大化するΘを求めて、Θ(t+1)とする(S106)。具体的には、Q関数のパラメータμα、Σα、wαによる偏微分が0となるようなμα、Σα、wαの最尤推定量を計算することで、以下の式により、μα、Σα、wαが求められる。
【0051】
先ず、μαおよびΣαについては、
【数16】
【数17】
なお、(13),(14)式の導出は、本実施形態の最後に補遺として示す。
【0052】
また、wαについては、wα≧0,
【数18】
という制約条件がある。ここで、
【数19】
とおくと、このwαは任意のγαに対して上記制約条件を満足する。そこで、wαによる偏微分の代わりにγαによる偏微分を計算すると、
【数20】
となる。
よって、
【数21】
が得られ、この式により、wαが求められる。
【0053】
上記S106では、(13),(14),(15)式により求められたパラメータμα、Σα、wαをΘ(t+1)とする。そして、t←t+1とする(S108)。
【0054】
次に、計算が収束したか(具体的には、極大化したQの値の前回からの変化量が所定の微小値以下になったか、あるいは、Θ(t+1)とΘ(t)との差が所定の微小値以下になったか)否かが判定され(S110)、収束していなければ、E−ステップ(S104)へ戻って計算を繰り返す。一方、計算が収束していれば、Θ(t+1)をΘの最尤推定量とする(S112)。
【0055】
以上のようにしてパラメータΘ、すなわち、預貸金変動の正規混合分布を構成する各コンポーネントの重み係数wα、平均μα、および分散共分散行列Σαが推定され、これらの推定結果が分布推定ファイル44に格納される(S114)。
【0056】
<コンポーネント数の推定>
次に、コンポーネント数決定部36により、正規混合分布を構成するコンポーネントの最適個数を推定する処理について述べる。
【0057】
一般的に、最尤法による確率密度関数の推定は、上記のEM法でも見られるように、対数尤度が極大になるようなパラメータを求めることにより行われる。しかしながら、対数尤度の極大化に用いられるのは現実に観測された有限個のデータであるため、モデルの未知パラメータの個数が多い場合には、観測データへの過大なフィッティングが行われる可能性がある。そこで、本実施形態では、情報統計量と呼ばれる規準に基づいてコンポーネントの最適個数を推定する。
【0058】
情報統計量は、推定した確率密度分布の最大対数尤度(観測データだけで最大化した尤度)の、平均対数尤度(真の分布で計算した尤度)に対する「バイアス(偏り)」を補正した統計量として次式で導かれる。
【0059】
情報統計量=−2*(対数尤度)+2*(バイアス) ・・・(16)
統計情報量として幾通りかの方法が提案されているが、本実施形態では、(16)式のバイアス項を、バイアスに何ら分布を仮定しない(ノンパラメトリック)Bootstrap法を用いて推定する手法を採用した。具体的には、Ishiguro,Sakamoto,and Kitagawa(1997)による「EIC(Extended Information Criterion)」およびKonishi and Kitagawa(1996)による「CEIC(Corrected EIC)」を用いた。
【0060】
▲1▼EIC
(16)式のバイアス項を、Bootstrap法により推定したものである。
【0061】
まず、観測データをXN={x1,・・・,xN}とし、計B回のBootstrapリサンプリングのうち、α回目で取り出したN個のBootstrap標本をXN(α) *(α=1,・・・,B)とする。ここで、観測データXNのBootstrapリサンプリングとは、XN={x1,・・・,xN}の中から重複を許した無作為抽出を独立にN回繰り返すことによって標本を採取することをいう。
【0062】
XN(α) *に対しEM法を適用することにより推定したパラメータをΘ(α) *とし、その対数尤度を
【数22】
とすると、
【数23】
となる。ただし、
【数24】
および
【数25】
は、夫々、観測データに対し通常のEM法を行った結果得られたパラメータおよび対数尤度である。
【0063】
従って、情報統計量は、
【数26】
で表される。
【0064】
(2)CEIC
Bootstrap法により推定したEICのバイアスの変動減少を目的として提案された方法である。対数尤度のバイアスは次式により推定される。
【0065】
【数27】
ただし、
【数28】
は、混合分布のパラメータを
【数29】
とし、かつ、α回目のBootstrapリサンプリングで得られたN個のデータXN(α) *を(11)式に代入した対数尤度であり、
【数30】
はα回目のBootstrapリサンプリングでEM法により推定されたパラメータΘ( α) *と観測データXNを(11)式に代入した対数尤度である。
【0066】
したがって、情報統計量は、
【数31】
で表される。
【0067】
このような情報統計量EICまたはCEICを、コンポーネントの個数を変えながら計算し、情報統計量が最小となるような個数を、最適なコンポーネント数Mとする。
【0068】
<預貸尻悪化リスクのシミュレーション計算>
次に、分布推定部34により推定された預貸変動の正規混合分布に基づいて預貸尻シミュレーション部40が行う預貸尻悪化リスクのシミュレーション計算処理について説明する。
図4は、預貸尻シミュレーション部40によるシミュレーション計算処理のフローチャートである。先ず、分布推定部34による分布推定結果(すなわちパラメータΘ)を分布推定結果ファイル44から読み出す(S200)。
次に、標準正規乱数を生成する(S202,S204)。具体的には、[0,1]の区間で一様に分布する乱数(一様乱数)を発生し(S202)、以下に述べるように、この一様乱数を平均が「0」、標準偏差が「1」である標準正規乱数へ変換する(S204)。
【0069】
すなわち、一様乱数をy、標準正規乱数をzとすると、正規分布の累積密度関数
【数32】
を用いて
y=n(z)
という関係が成り立つから、
z=n−1(z) (n−1(z)はn(z)の逆関数を意味する)
により一様乱数から標準正規乱数への変換を行うのである。図5に、関数y=n(z)を用いた一様乱数から標準正規乱数への変換イメージをグラフ上に示す。この変換計算では、累積密度関数n(z)の逆関数n−1(z)を計算する必要がある。本実施形態では、逆関数n−1(z)の近似式
【数33】
(日本数学会編集,「岩波 数学事典」,第3版,株式会社岩波書店,1996年3月5日,1436頁より引用)
を用いて計算する。
【0070】
上述したように、本発明では、預金変動および貸出変動の2つの確率変数を持つ2次元正規混合分布を考えるが、二次元正規混合分布を構成する二次元正規分布の確率変数の間には相関がある。したがって、本シミュレーションにおいても、預金変動に対応する乱数と、貸出変動に対応する乱数との間に、相関を持たせることが必要である。一方、上記のように生成した標準正規乱数は互いに独立である。そこで、発生した標準正規乱数を以下のように変換することで、互いに相関のある乱数を生成する(S206)。
【0071】
コンポーネント数がM個であるとする。そして、z1,z2,z3,z4,・・・z2M−1,z2Mを互いに独立な標準正規乱数とし、i番目のコンポーネントの正規分布の相関係数をρi(i=1,・・・,M)とする。この相関係数ρiは、分布推定部34により推定した各コンポーネントの分散共分散行列より計算できる。すなわち、i番目のコンポーネントの正規分布の分散共分散行列を
【数34】
とすると、
相関係数ρiは、
【数35】
で計算できる。
【0072】
ここで、i番目のコンポーネントについての相関のある標準正規乱数の対を、(zi1,zi2)とする。なお、zi1が預金変動に対応し、zi2が貸出変動に対応する。このようにおくと、(zi1,zi2)は次式で計算することができる。
【数36】
【0073】
以上により、相関のある正規乱数の対を発生できるが、この乱数は、平均が「0」、標準偏差が「1」の標準正規乱数である。そこで、相関を持たせた正規乱数の対を更に変換して、各コンポーネントの正規分布の平均および標準偏差となるように調整する(S208)。具体的には、i番目のコンポーネントの正規分布の平均ベクトルを(μi1,μi2)として、次式により、平均および標準偏差の調整後の乱数の対(z’i1,z’i2)を計算する。
【0074】
【数37】
これにより、(z’i1,z’i2)は、平均ベクトルが(μi1,μi2)、分散共分散行列が
【数38】
である二次元正規乱数となる。
【0075】
以上のようにして、正規混合分布を構成するコンポーネントの夫々について、その2次元正規分布に従う乱数の対(z’i1,z’i2)を多数生成した後、モンテカルロシミュレーションにより預貸尻悪化量の計算を行う。
【0076】
例えば、コンポーネント数が3個であるとして、上記の分布推定処理および乱数生成処理により、次の結果が得られているとする。
1番目:正規乱数対(z’11,z’12)、重み(w1)=0.3
2番目:正規乱数対(z’21,z’22)、重み(w2)=0.2
3番目:正規乱数対(z’31,z’32)、重み(w3)=0.5
ここで、重みwiは、i番目のコンポーネントの正規分布からデータが発生する確率を示している。そこで、上記の正規乱数対(z’i1,z’i2)とは別に、例えば[0,1]の範囲の一様乱数uを生成する(S210)。そして、乱数uの値に応じて何れかのコンポーネントを選択し、そのコンポーネントに対応する正規乱数対を(預金変動,貸出変動)のデータとして採用する(S212)。すなわち、
0≦u<0.3 :1番目の正規乱数対(z’11,z’12)を採用
0.3≦u<0.5 :2番目の正規乱数対(z’21,z’22)を採用
0.5≦u≦1.0 :3番目の正規乱数対(z’31,z’32)を採用
【0077】
このような処理をN組(例えば10,000組)のデータが生成されるまで繰り返す(S214)。そして、生成したN組の(預金変動,貸出変動)の対の夫々について、以下のように、預貸尻変動額を計算する(S216)。
・預貸変動を変動率で計算した場合:
預貸尻変動額=預金変動率*現状預金残高−貸出変動率*現状貸出残高
・預貸変動を変動幅で計算した場合:
預貸尻変動額=預金変動幅−貸出変動率幅
【0078】
こうして計算したN個の預貸尻変動額に基づいて、一定の信頼度に相当する値を預貸尻悪化リスクとして判定する(S218)。例えば、データ数を10,000、信頼水準を99%とすれば10,000個のデータのうち小さい方から100番目の値を預貸尻悪化リスクとする。最後に、計算結果がファイルへ出力されて(S220)、処理は終了する。
【0079】
==検証結果==
預金および貸出の過去の履歴データを用いて、本実施形態のリスク評価装置10により、預貸尻悪化リスクの評価計算を行った。
先ず、預金貸出データベース30に格納されたデータに基づいて、観測データ取得部32により、預金および貸出の変動率のデータを計算した。図6に、観測データ取得部により計算された預貸変動率の散布図を示す。
【0080】
次に、このような預貸変動率のデータについて、コンポーネント数決定部36により最適なコンポーネントの個数を決定した。図7は、コンポーネント数決定部36により計算されたコンポーネント数と情報統計量(EICおよびCEIC)との関係を示す。同図の結果から、EICおよびCEICの何れの情報統計量についても、コンポーネント数が5のときに最小となり、最適なコンポーネント数は5個であると判定された。
【0081】
そこで、コンポーネント数M=5として、分布推定部34により預貸変動率の確率分布を推定した。図8は、分布推定部34により推定された確率分布を構成するコンポーネント毎の分布を示す。なお、図8に示す各グラフにおいて、縦軸の数値は、各コンポーネントの確率密度を反映した値となっている。したがって、これらコンポーネントの確率分布を足し合わせたものが預貸変動率の確率分布となる。
【0082】
こうして推定された確率分布に基づいて、預貸尻シミュレーション部40により、預貸変動率のシミュレーションを行い、(預金変動率,貸出変動率)の5000個のデータを生成した。その結果を図9に預貸変動率の散布図として示す。同図に示すように、図6に示す預貸変動の観測データとほぼ同じ傾向の結果が得られており、預貸変動率が正しくシミュレートされていることがわかる。
【0083】
図10は、図9に示す預貸変動率のデータから得られた預貸尻変動額の度数分布を示している。なお、預貸尻変動額は、現在の預金高および貸出高をともに1,000億円として、夫々に、預金変動率および貸出変動率を掛けることにより預金変動幅および貸出変動幅を求め、預金変動幅から貸出変動幅を引くことにより計算した。図10において、預貸尻変動額の小さい方から1%のデータは−26億円であり、信頼水準を99%とすると、預貸尻悪化リスクは約26億円と算出される。
【0084】
以上説明したように、本実施形態のリスク評価装置10によれば、預金変動および貸出変動の確率分布を複数の正規分布の線形和として推定することで、実際のデータによく適合した正確な確率分布を得ることができる。そして、そのような確率分布を用いてモンテカルロシミュレーションを行うことにより、実際の預金変動および預金変動の動向を反映したデータを生成して、預貸尻悪化額を正確に評価することができる。
【0085】
また、本実施形態では、預金変動および貸出変動の確率分布を推定するにあたり、預金変動および貸出変動を確率変数とする二次元正規混合分布を考えて、二次元正規混合分布を構成する各二次元正規分布における確率変数間の相関係数も未知パラメータとして計算する。すなわち、預金変動と貸出変動との間の相関を、二次元正規混合分布の構成要素である二次元正規分布の確率変数間の相関係数として確率分布の推定結果に反映させることができる。したがって、本実施形態によれば、預金変動と貸出変動との間の相関を正確に反映した確率分布を推定することができ、これにより、預貸尻悪化リスクの評価精度はより向上することになる。
【0086】
さらに、本実施形態では、コンポーネント数決定部36により情報統計量に基づいて最適なコンポーネント数を判定することで、預貸尻悪化リスクの評価精度を一層向上させることができると共に、不必要に多数のコンポーネントを用いることがなくなるので、その分、計算負荷の軽減を図ることもできる。
【0087】
[補遺]
<(13),(14)式の導出>
対数尤度の期待値は、
【数39】
で与えられる。ここで、
【数40】
である。
【0088】
先ず、μαの最尤推定量を計算する。Qをμαで偏微分すると、
【数41】
となる。
【0089】
両辺の左側から分散共分散行列Σαを掛けることにより、μαの最尤推定量
【数42】
が得られる((13)式)。
【0090】
次に、Σαの最尤推定量を計算する。Σαを正則行列Aαを用いて、Σα=AαAα Tと表す。Aαの(i,j)成分をaα ijとおくと、
【数43】
となる。
【0091】
Aαの第i行と第j列を削除した(n−1)×(n−1)の小行列の行列式をΔα ij、Aαの余因子行列を
【数44】
とおくと、
【数45】
となるから、
【数46】
が成り立つ。
【0092】
一方、
【数47】
【数48】
を得る。
【0093】
余因子行列に関しては、
【数49】
であるから、
【数50】
であり、(A)式を(B)式に代入すると、
【数51】
を得る。従って、
【数52】
ここで、Aα −1とAα −Tの(i,j)成分をaij −1,aij −Tと書き換える。
【0094】
【数53】
は、(i,j)成分のみが「1」で、他は「0」となる行列であるため、
【数54】
は第i行以外の成分は0となる。
【0095】
【数55】
よって、
【数56】
とおくと、
【数57】
は以下のようになる。
【0096】
【数58】
【数59】
と置き換えると、これらのベクトルの第p成分は、
【数60】
となる。
【0097】
行列X(k)を、
【数61】
と定義すると、
【数62】
を得る。
【0098】
(C)式を(D)式に代入すると、
【数63】
が求められる。
【0099】
最尤推定量を求める方程式は、
【数64】
であり、(E)式を解けばΣα (分散共分散行列)の最尤推定量を求めることができる。
【0100】
【数65】
が全ての行列成分(i,j)について成り立つから、行列全体に関し、
【数66】
が言える。これをさらに変形すると、
【数67】
となり、α番目の多次元正規分布の分散共分散行列の最尤推定量は、
【数68】
となる。
【0101】
μαを最尤推定量で置き換えれば、
【数69】
が分散共分散行列の最尤推定量となる((14)式)。
【0102】
【発明の効果】
本発明によれば、金融機関における預貸変動の確率分布の推定精度を向上して、預貸尻の悪化リスクをより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である預貸尻悪化リスク評価装置の構成図である。
【図2】本実施形態の預貸尻悪化リスク評価装置の機能ブロック図である。
【図3】分布推定部による分布推定処理のフローチャートである。
【図4】預貸尻シミュレーション部によるシミュレーション計算処理のフローチャートである。
【図5】一様乱数から標準正規乱数への変換イメージをグラフ上に示す図である。
【図6】観測データ取得部により生成された預貸変動率の散布図である。
【図7】コンポーネント数決定部により計算されたコンポーネント数と情報統計量(EICおよびCEIC)との関係を示す図である。
【図8】分布推定部により推定された確率分布を構成するコンポーネント毎の分布を示す図である。
【図9】預貸変動率のシミュレーション計算結果を散布図として示す図である。
【図10】図9に示す預貸変動率のデータから得られた預貸尻変動額の度数分布を示す図である。
【符号の説明】
10 預貸尻悪化リスク評価装置(リスク評価装置)
12 CPU
14 記憶装置
30 預金貸出データベース
32 観測データ取得部
34 分布推定部
36 コンポーネント数決定部
38 EM法計算部
40 預貸尻シミュレーション部
42 結果出力部
【発明の属する技術分野】
本発明は、金融機関における預貸尻(金融機関全体の預金高から貸出高を差し引いた額)の悪化リスクを評価するための装置および方法に関する。また、本発明は、そのような方法をコンピュータに実行させるためのプログラムおよびそのプログラムを格納した記録媒体にも関する。
【0002】
【従来の技術】
銀行等の金融機関にとって、資金流動性リスクを適正に管理することは必須の課題である。資金流動性リスクの管理を行ううえでは、金融機関が自身の複雑なキャッシュフローを的確に予測し、それに応じた資金をどのように確保するのかを考えることが必要である。特に、金融機関では預金と貸出とが収支の大半を占めるため、預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻を予測することが不可欠である。
【0003】
預貸尻は預貸動向により日々変動するため、金融機関では、この預貸尻を手当てすべくコール市場等で資金調達を行っている。このような預貸尻の変動に伴う資金流動性リスクを考えた場合、リスクが増大する方向は、前日と比較して、当日の預貸尻額が減少(貸出が増加かつ/または預金が減少)することを指す。本明細書では、この状態を「預貸尻の悪化」と定義する。すなわち、預貸尻が減少すると、その減少分の資金を何らかの方法によって手当てをする必要があるが、預貸尻減少額の見積もりを過ると、資金繰りに重大な支障を起たすリスクが増大することになるのである。このため、預貸尻悪化額(すなわち当日預貸尻から前日預貸尻を引いた額)を予測して、預貸尻の悪化リスクを推定することが必要である。
【0004】
預貸尻の悪化リスクを正しく推定するには、預貸の変動を精緻に記述することが重要である。しかし、預貸変動要因は様々であり、完全に予測することは不可能に近いため、預貸変動を記述するには確率統計的手法に頼らざるを得ない。
【0005】
このような背景の下、本出願人は非特許文献1において、VaR(Value at Risk)の考え方を応用した預貸尻悪化リスクの管理手法を提案している。
【0006】
非特許文献1に開示される手法では、預金変動率および貸出変動率を夫々確率変数として捉え、預金変動率および貸出変動率の実際のデータに基づいて、各変動率の確率分布を推定する。ここで、預金変動率および貸出変動率は、夫々、預金額および貸出額がある期間でどのくらい変化したかの割合を示す。
【0007】
過去の実際のデータについて預金変動率および貸出変動率の確率分布を求めてみると、正規分布に比較して尖り具合が大きく、かつ、裾の広いものとなる。そこで、非特許文献1に開示される手法では、預金変動率および貸出変動率の分布をより正確に推定すべく、それらの分布がばらつきの大きい正規分布とばらつきの小さい正規分布の2つの分布の線形和となるものとして、実際のデータに最も良く当てはまるような確率分布を最尤法により計算する。また、預金変動率と貸出変動率との間には一定の相関が認められることから、それらの相関係数も推定計算する。
【0008】
このようにして、預金変動率および貸出変動率の確率分布と、両変動率間の相関係数とを推定したら、それらの推定結果に基づいて、モンテカルロシミュレーションに手法により預貸尻悪化量を推定する。具体的には、先ず、預金変動率および貸出変動率の夫々の確率分布に従って乱数の組を発生させる。次に、発生した乱数の組を、それらの相関係数が、預金変動と貸出変動との間の相関係数に一致するように変換して、預金変動率および貸出変動率のデータとする。そして、預金変動率から貸出変動率を引くことにより、預貸尻悪化を表すデータを生成する。このようなデータ生成を多数行って預貸尻悪化量を推計する。例えば1万個のデータを生成した場合、小さい方から100番目の預貸尻変動率を、信頼水準99%の預貸尻悪化リスクとするのである。
【0009】
【非特許文献1】
株式会社東京三菱銀行 資金証券部、”資金流動性リスク計量化の試み〜預貸尻VaRについて”、[online]、2001年6月30日、[2003年3月1日検索]、インターネット、<URL:http://www.btm.co.jp/mkdata_j/foc_019_1.pdf>
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
非特許文献1に開示される手法では、預金変動率および貸出変動率の夫々の確立分布を互いに独立の分布として推定し、各確率分布に従って乱数を発生した後、預金変動率と貸出変動率との間の相関係数が反映されるように乱数を変換している。しかしながら、相関係数は本来、正規分布に従う確率変数の間で意味を持つ概念である。したがって、正規分布に従わない預金変動率および貸出変動率について求めた相関係数を用いてリスク評価を行うことは必ずしも合理的とはいえない。この点で、非特許文献1に開示される手法は改善の余地を残すものであった。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、金融機関における預金および貸出の変動の確率分布の推定精度を向上して、預貸尻の悪化リスクをより正確に評価できるようにすることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載された発明は、金融機関における預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻の悪化リスクを評価するための装置であって、
預金高の変動および貸出高の変動の夫々を表す預金変動データおよび貸出変動データを取得する預貸データ取得手段と、
預金高の変動および貸出高の変動の確率分布が、預金高の変動と貸出高の変動とを確率変数とする複数の二次元正規分布の線形和である正規混合分布で表されるものとして、前記取得した預金変動データおよび貸出変動データに適合する前記正規混合分布を推定する分布推定手段と、
前記推定した正規混合分布に従って乱数の対を発生して、この乱数対に基づいて預金高および貸出高の変動を表すデータを生成し、該生成したデータに基づいて預貸尻の悪化リスクを判定する預貸尻シミュレーション手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、預金高の変動(預金変動)および貸出高の変動(貸出変動)の確率分布が、預金変動と貸出変動とを確率変数とする複数の二次元正規分布の線形和である正規混合分布で表されるものとして、預金変動データおよび貸出変動データに適合する正規混合分布を推定する。このため、正規混合分布を構成する各正規分布において預金変動と貸出変動との間の相関係数を反映させることができるので、預金変動および貸出変動の確率分布をより正確に推定できる。そして、このように正確に推定された確率分布に従って預金変動および貸出変動を表すデータを生成することで、預貸尻悪化リスクを、より正確に判定することが可能となる。
【0014】
また、請求項2に記載された発明は、請求項1記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記分布推定手段は、前記正規混合分布を構成する各正規分布の平均ベクトルおよび分散共分散行列と、各正規分布の重み係数とを推定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載された発明は、請求項2記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記分布推定手段は、EM(Expectation & Maximization)法により前記平均ベクトル、分散共分散行列、および重み係数を推定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預貸データ取得手段は、預金高および貸出高の過去の履歴を表すデータが蓄積されたデータベースを参照し、当該データベースに蓄積されたデータに基づいて、預貸尻悪化リスクの評価期間に対応した前記預金変動データおよび貸出変動データを算出することを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載された発明は、請求項1〜4のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預貸尻シミュレーション手段は、
前記正規混合分布を構成する各正規分布について、その分布に従った乱数対を生成する手段と、
所定範囲内での一様乱数を生成する手段と、
各正規分布の重み係数と前記生成した一様乱数の値とに基づいて前記決定した正規分布のうち乱数対を採用すべき正規分布を決定し、当該決定した正規分布について発生した乱数対に基づいて、預金変動および貸出変動を表すデータを生成する手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載された発明は、請求項1〜5のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預金変動および貸出変動は、預金および貸出の変動幅、または、これら変動幅の現在の預金高および貸出高に対する比率であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項7に記載された発明は、請求項1〜6のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記正規混合分布を構成する正規分布の最適個数を決定するコンポーネント数決定手段を更に備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項8に記載された発明は、請求項7記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記コンポーネント数決定手段は、Bootstrap法を用いて情報統計量を推定し、当該情報統計量を最小とするような前記正規分布の個数を前記最適個数として決定することを特徴とする。
【0021】
また、請求項9に記載された発明は、金融機関における預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻の悪化リスクを評価するための方法に係るものであり、請求項10に記載された発明は、この方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに係るものであり、請求項11に記載された発明は、このプログラムを記録した記録媒体に係るものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態である預貸尻悪化リスク評価装置(以下、リスク評価装置と略称する)について説明する。本実施形態のリスク評価装置は、金融機関における預金高および貸出高の過去の推移を表すデータに基づいて、預金および貸出の変動の確率分布を推定し、その確率分布に基づいてモンテカルロシミュレーションの手法により預貸尻悪化リスクを評価する。なお、本発明において、預貸尻悪化リスクとは、一定の信頼水準(例えば99%)で預貸尻が減少する可能性のある額を意味する。
【0023】
また、本発明において、預金および貸出の変動は、変動率(現在の預金高・貸出高に対する変動幅の割合)を用いてもよいし、変動幅そのものを用いてもよい。変動率および変動幅の何れを用いても、処理の内容は全く同様である。以下の説明では、変動率および変動幅を区別しない場合には、単に、「変動」というものとする。また、預金および貸出の変動を総称する場合は、「預貸変動」というものとする。
【0024】
==システムの概要==
図1は、本発明の一実施形態であるリスク評価装置10の構成図である。同図に示すように、リスク評価装置10は、CPU12、ハードディスク等の記憶装置14、キーボード等の入力装置16、およびディスプレイ装置18等を備えるコンピュータシステムにより構成されており、CPU12が記憶装置14に格納されたプログラム20を実行することによりリスク評価装置10としての機能が実現される。
【0025】
図2は、リスク評価装置10の機能ブロック図である。先ず、同図を参照して、本実施形態のリスク評価装置10の概要を説明する。同図に示すように、リスク評価装置10は、預金貸出データベース30、観測データ取得部32、分布推定部34、コンポーネント数決定部36、EM法計算部38、預貸尻シミュレーション部40、および、結果出力部42などを備えている。
【0026】
預金貸出データベース30には、預金額および貸出額の過去の推移を表すデータが格納されている。
【0027】
観測データ取得部32は、預金貸出データベース30に格納されたデータに基づいて、預貸尻悪化リスクの評価期間に対応した預貸変動を表す観測データを計算する。例えば、2週間後の預貸尻悪化リスクを評価する場合は、2週間の間の預金および貸出の変動幅または変動率を、預貸変動の観測データとして計算する。
【0028】
分布推定部34は、観測データ取得部32により生成された預貸変動の観測データに基づいて、預貸変動の確率分布の推定計算を行う。具体的には、預貸変動の確率分布が、預金変動および貸出変動という2つの確率変数を持つ二次元正規分布の線形和(以下、正規混合分布という)で表されるものとして、各正規分布の平均ベクトルおよび分散共分散行列と、重み係数とを決定する。分布推定部34による推定結果は、分布推定ファイル44に格納される。
【0029】
コンポーネント数決定部36は、預金貸出データベース30に格納されたデータに基づき、情報量規準と呼ばれる規準を用いて、正規混合分布を構成する正規分布(以下、コンポーネントともいう)の最適な個数を決定する。なお、コンポーネント数決定部34および分布推定部36では、EM(Expectation & Maximization)法と呼ばれる統計処理手法に基づく推定計算が行われるが、このEM法に基づく推定計算処理は、EM法計算部38により実行される。
【0030】
預貸尻シミュレーション部40は、分布推定結果ファイル44に格納された分布推定結果に基づき、モンテカルロシミュレーションの手法により預貸変動のデータを多数生成して、それらのデータから預貸尻悪化リスクを評価する。預貸尻悪化リスクの評価結果は、リスク評価結果ファイル46に格納される。
【0031】
結果出力部42は、分布推定結果ファイル44およびリスク評価結果ファイル46に格納されたリスク評価結果をディスプレイ装置18に表示し、あるいは、プリンタに印刷出力させる。
【0032】
==処理の詳細==
<預貸変動の確率分布推定>
先ず、分布推定部34による預貸変動の確率分布の推定処理について説明する。
上記の通り、預貸変動が、複数の2次元正規分布の線形和で表されるとの前提の下で、預貸変動率pの確率分布は、次式で表される。
【0033】
【数1】
ここで、
xは、預貸変動の観測データ(預金変動および貸出変動の対からなるベクトル)であり、
wαはα番目のコンポーネントの重み係数であり、
pα(x;θα)はα番目のコンポーネントの確率密度関数であり、
θαはα番目のコンポーネントの平均および分散共分散行列を表すパラメータであり、
Θは、Θ={(wα,θα)|α=1,・・・,M}(ただし、Mは、コンポーネントの個数)である。
【0034】
このような正規混合分布における未知パラメータはΘ(すなわち、各コンポーネントの重み係数、平均、および分散共分散行列)であり、本実施形態では、預貸変動の観測データに基づいて、EM法により未知パラメータΘを推定する。このEM法は、最尤法の原理に基づいて確率モデルを推定する公知の手法であり、以下にその原理を簡単に説明する。
【0035】
EM法では、観測データXと非観測データZとからなるN個の完全データZを考え、XとYの結合確率密度関数がp(X,Y;Θ)で与えられるものとして、観測データXの対数尤度関数
【数2】
を極大化する未知パラメータΘの値を求める。ここで、完全データの対数尤度の期待値を極大とする未知パラメータΘの値が、観測データの尤度も極大とすることが数学的に証明されている。そこで、EM法では、完全データの対数尤度を極大化することにより、間接的に、観測データの尤度を極大化する。
【0036】
具体的なアルゴリズムを示すと、EM法では次の完全データ対数尤度関数
【数3】
の条件付期待値(以下、Q関数という)を以下のステップ1およびステップ2の計算により最大化する。
【0037】
(ステップ1)
未知パラメータΘの初期値Θ(0)を設定し、t←0として計算開始。
【0038】
(ステップ2)
次のE−ステップおよびM−ステップを収束するまで繰り返す
E−ステップ:Q関数を次式により計算。
【数4】
M−ステップ:Q関数を最大にするΘを求める。すなわち、
【数5】
以上がEM法の原理である。
【0039】
本実施形態では、預貸変動のN組の観測データに対して、上述したEM法を適用し、M個の2次元正規分布の線形和で表される正規混合分布を当てはめる。なお、M個の正規分布のパラメータは互いに独立であるものとする。
【0040】
先ず、α番目のコンポーネントの確率密度関数を次式で表す。
【数6】
ただし、xは2次元の観測データ(預金変動および貸出変動を要素とする2次元縦ベクトル)、μαは平均ベクトル(預金変動および貸出変動の夫々の平均値を要素とする2次元縦ベクトル)、Σαは分散共分散行列(本実施形態では2×2の正方行列)であり、また、(x−μα)Tはベクトル(x−μα)の転置ベクトルを表す。
【0041】
すると、正規混合分布の確率密度関数φmix(x)は、重み係数wαを用いて次式のように表される。
【数7】
ただし、
【数8】
である。
【0042】
ここで、EM法を適用するため、預貸変動の観測データxは不完全であり、本来は、各観測データxがどのコンポーネントから生じたかを示すデータHが存在していると考える。このように考えて、EM法を適用すると、以下のようになる。
【0043】
先ず、不完全データxi(xiは、i番目の観測データを表す)の尤度は、
【数9】
と表されるから、対数尤度は、
【数10】
で表すことができる。
【0044】
上記のように、この対数尤度Lを極大とする未知パラメータの値が、観測データxの尤度も極大にする。そこで、完全データに関する対数尤度の期待値を最大化することを考える。
【0045】
完全データ(xi,ki)が与えられた完全モデルを考える。ただし、kiは、観測データxiの発生元であるコンポーネントの番号を表す。この場合、データxiはki番目の正規分布から発生したものとなるから、データxiの尤度関数liは、
【数11】
で与えられる。
したがって、この完全モデルの対数尤度Lcは
【数12】
となる。
【0046】
(10)式において、kiは実際には観測することのできないパラメータである。そこで、このkiの値がαである確率をqi,αとおくと、Q関数は次式で表されることになる。
【数13】
このQ関数を極大にするΘの値を、上記したEM法のアルゴリズムに従って繰り返し計算により決定する。なお、正規混合分布を構成するコンポーネントの個数Mは、後述するコンポーネント数決定部36により決定された最適値を用いる。
【0047】
図3に、未知パラメータΘ(すなわち、重み係数wα、平均ベクトルμα、分散共分散行列Σα;α=1,・・・,M)の推定計算処理のフローチャートを示す。
【0048】
先ず、未知パラメータΘの初期値Θ(0)を任意の値に設定する(S100)と共に、t←0とする(S102)。
【0049】
次に、EM法のE−ステップとして、Θ(t)からqi,αを推定する(S104)。ここで、qi,αは、i番目の観測データxiがα番目の分布から生じる事後確率であるから、
【数14】
で与えられる。
ただし、
【数15】
であり、このφi,βはi番目のデータのβ番目のコンポーネントにおける確率密度を意味している。なお、上述の通り、Θ(t)は、wα,μα,Σαを構成要素とするパラメータであり、(12)式の計算では、Θ(t)についてのwα,μα,Σαの値を用いる。
【0050】
次に、EM法のM−ステップとして、(12)式より求めたqi , αを(11)式に代入し、Q関数を極大化するΘを求めて、Θ(t+1)とする(S106)。具体的には、Q関数のパラメータμα、Σα、wαによる偏微分が0となるようなμα、Σα、wαの最尤推定量を計算することで、以下の式により、μα、Σα、wαが求められる。
【0051】
先ず、μαおよびΣαについては、
【数16】
【数17】
なお、(13),(14)式の導出は、本実施形態の最後に補遺として示す。
【0052】
また、wαについては、wα≧0,
【数18】
という制約条件がある。ここで、
【数19】
とおくと、このwαは任意のγαに対して上記制約条件を満足する。そこで、wαによる偏微分の代わりにγαによる偏微分を計算すると、
【数20】
となる。
よって、
【数21】
が得られ、この式により、wαが求められる。
【0053】
上記S106では、(13),(14),(15)式により求められたパラメータμα、Σα、wαをΘ(t+1)とする。そして、t←t+1とする(S108)。
【0054】
次に、計算が収束したか(具体的には、極大化したQの値の前回からの変化量が所定の微小値以下になったか、あるいは、Θ(t+1)とΘ(t)との差が所定の微小値以下になったか)否かが判定され(S110)、収束していなければ、E−ステップ(S104)へ戻って計算を繰り返す。一方、計算が収束していれば、Θ(t+1)をΘの最尤推定量とする(S112)。
【0055】
以上のようにしてパラメータΘ、すなわち、預貸金変動の正規混合分布を構成する各コンポーネントの重み係数wα、平均μα、および分散共分散行列Σαが推定され、これらの推定結果が分布推定ファイル44に格納される(S114)。
【0056】
<コンポーネント数の推定>
次に、コンポーネント数決定部36により、正規混合分布を構成するコンポーネントの最適個数を推定する処理について述べる。
【0057】
一般的に、最尤法による確率密度関数の推定は、上記のEM法でも見られるように、対数尤度が極大になるようなパラメータを求めることにより行われる。しかしながら、対数尤度の極大化に用いられるのは現実に観測された有限個のデータであるため、モデルの未知パラメータの個数が多い場合には、観測データへの過大なフィッティングが行われる可能性がある。そこで、本実施形態では、情報統計量と呼ばれる規準に基づいてコンポーネントの最適個数を推定する。
【0058】
情報統計量は、推定した確率密度分布の最大対数尤度(観測データだけで最大化した尤度)の、平均対数尤度(真の分布で計算した尤度)に対する「バイアス(偏り)」を補正した統計量として次式で導かれる。
【0059】
情報統計量=−2*(対数尤度)+2*(バイアス) ・・・(16)
統計情報量として幾通りかの方法が提案されているが、本実施形態では、(16)式のバイアス項を、バイアスに何ら分布を仮定しない(ノンパラメトリック)Bootstrap法を用いて推定する手法を採用した。具体的には、Ishiguro,Sakamoto,and Kitagawa(1997)による「EIC(Extended Information Criterion)」およびKonishi and Kitagawa(1996)による「CEIC(Corrected EIC)」を用いた。
【0060】
▲1▼EIC
(16)式のバイアス項を、Bootstrap法により推定したものである。
【0061】
まず、観測データをXN={x1,・・・,xN}とし、計B回のBootstrapリサンプリングのうち、α回目で取り出したN個のBootstrap標本をXN(α) *(α=1,・・・,B)とする。ここで、観測データXNのBootstrapリサンプリングとは、XN={x1,・・・,xN}の中から重複を許した無作為抽出を独立にN回繰り返すことによって標本を採取することをいう。
【0062】
XN(α) *に対しEM法を適用することにより推定したパラメータをΘ(α) *とし、その対数尤度を
【数22】
とすると、
【数23】
となる。ただし、
【数24】
および
【数25】
は、夫々、観測データに対し通常のEM法を行った結果得られたパラメータおよび対数尤度である。
【0063】
従って、情報統計量は、
【数26】
で表される。
【0064】
(2)CEIC
Bootstrap法により推定したEICのバイアスの変動減少を目的として提案された方法である。対数尤度のバイアスは次式により推定される。
【0065】
【数27】
ただし、
【数28】
は、混合分布のパラメータを
【数29】
とし、かつ、α回目のBootstrapリサンプリングで得られたN個のデータXN(α) *を(11)式に代入した対数尤度であり、
【数30】
はα回目のBootstrapリサンプリングでEM法により推定されたパラメータΘ( α) *と観測データXNを(11)式に代入した対数尤度である。
【0066】
したがって、情報統計量は、
【数31】
で表される。
【0067】
このような情報統計量EICまたはCEICを、コンポーネントの個数を変えながら計算し、情報統計量が最小となるような個数を、最適なコンポーネント数Mとする。
【0068】
<預貸尻悪化リスクのシミュレーション計算>
次に、分布推定部34により推定された預貸変動の正規混合分布に基づいて預貸尻シミュレーション部40が行う預貸尻悪化リスクのシミュレーション計算処理について説明する。
図4は、預貸尻シミュレーション部40によるシミュレーション計算処理のフローチャートである。先ず、分布推定部34による分布推定結果(すなわちパラメータΘ)を分布推定結果ファイル44から読み出す(S200)。
次に、標準正規乱数を生成する(S202,S204)。具体的には、[0,1]の区間で一様に分布する乱数(一様乱数)を発生し(S202)、以下に述べるように、この一様乱数を平均が「0」、標準偏差が「1」である標準正規乱数へ変換する(S204)。
【0069】
すなわち、一様乱数をy、標準正規乱数をzとすると、正規分布の累積密度関数
【数32】
を用いて
y=n(z)
という関係が成り立つから、
z=n−1(z) (n−1(z)はn(z)の逆関数を意味する)
により一様乱数から標準正規乱数への変換を行うのである。図5に、関数y=n(z)を用いた一様乱数から標準正規乱数への変換イメージをグラフ上に示す。この変換計算では、累積密度関数n(z)の逆関数n−1(z)を計算する必要がある。本実施形態では、逆関数n−1(z)の近似式
【数33】
(日本数学会編集,「岩波 数学事典」,第3版,株式会社岩波書店,1996年3月5日,1436頁より引用)
を用いて計算する。
【0070】
上述したように、本発明では、預金変動および貸出変動の2つの確率変数を持つ2次元正規混合分布を考えるが、二次元正規混合分布を構成する二次元正規分布の確率変数の間には相関がある。したがって、本シミュレーションにおいても、預金変動に対応する乱数と、貸出変動に対応する乱数との間に、相関を持たせることが必要である。一方、上記のように生成した標準正規乱数は互いに独立である。そこで、発生した標準正規乱数を以下のように変換することで、互いに相関のある乱数を生成する(S206)。
【0071】
コンポーネント数がM個であるとする。そして、z1,z2,z3,z4,・・・z2M−1,z2Mを互いに独立な標準正規乱数とし、i番目のコンポーネントの正規分布の相関係数をρi(i=1,・・・,M)とする。この相関係数ρiは、分布推定部34により推定した各コンポーネントの分散共分散行列より計算できる。すなわち、i番目のコンポーネントの正規分布の分散共分散行列を
【数34】
とすると、
相関係数ρiは、
【数35】
で計算できる。
【0072】
ここで、i番目のコンポーネントについての相関のある標準正規乱数の対を、(zi1,zi2)とする。なお、zi1が預金変動に対応し、zi2が貸出変動に対応する。このようにおくと、(zi1,zi2)は次式で計算することができる。
【数36】
【0073】
以上により、相関のある正規乱数の対を発生できるが、この乱数は、平均が「0」、標準偏差が「1」の標準正規乱数である。そこで、相関を持たせた正規乱数の対を更に変換して、各コンポーネントの正規分布の平均および標準偏差となるように調整する(S208)。具体的には、i番目のコンポーネントの正規分布の平均ベクトルを(μi1,μi2)として、次式により、平均および標準偏差の調整後の乱数の対(z’i1,z’i2)を計算する。
【0074】
【数37】
これにより、(z’i1,z’i2)は、平均ベクトルが(μi1,μi2)、分散共分散行列が
【数38】
である二次元正規乱数となる。
【0075】
以上のようにして、正規混合分布を構成するコンポーネントの夫々について、その2次元正規分布に従う乱数の対(z’i1,z’i2)を多数生成した後、モンテカルロシミュレーションにより預貸尻悪化量の計算を行う。
【0076】
例えば、コンポーネント数が3個であるとして、上記の分布推定処理および乱数生成処理により、次の結果が得られているとする。
1番目:正規乱数対(z’11,z’12)、重み(w1)=0.3
2番目:正規乱数対(z’21,z’22)、重み(w2)=0.2
3番目:正規乱数対(z’31,z’32)、重み(w3)=0.5
ここで、重みwiは、i番目のコンポーネントの正規分布からデータが発生する確率を示している。そこで、上記の正規乱数対(z’i1,z’i2)とは別に、例えば[0,1]の範囲の一様乱数uを生成する(S210)。そして、乱数uの値に応じて何れかのコンポーネントを選択し、そのコンポーネントに対応する正規乱数対を(預金変動,貸出変動)のデータとして採用する(S212)。すなわち、
0≦u<0.3 :1番目の正規乱数対(z’11,z’12)を採用
0.3≦u<0.5 :2番目の正規乱数対(z’21,z’22)を採用
0.5≦u≦1.0 :3番目の正規乱数対(z’31,z’32)を採用
【0077】
このような処理をN組(例えば10,000組)のデータが生成されるまで繰り返す(S214)。そして、生成したN組の(預金変動,貸出変動)の対の夫々について、以下のように、預貸尻変動額を計算する(S216)。
・預貸変動を変動率で計算した場合:
預貸尻変動額=預金変動率*現状預金残高−貸出変動率*現状貸出残高
・預貸変動を変動幅で計算した場合:
預貸尻変動額=預金変動幅−貸出変動率幅
【0078】
こうして計算したN個の預貸尻変動額に基づいて、一定の信頼度に相当する値を預貸尻悪化リスクとして判定する(S218)。例えば、データ数を10,000、信頼水準を99%とすれば10,000個のデータのうち小さい方から100番目の値を預貸尻悪化リスクとする。最後に、計算結果がファイルへ出力されて(S220)、処理は終了する。
【0079】
==検証結果==
預金および貸出の過去の履歴データを用いて、本実施形態のリスク評価装置10により、預貸尻悪化リスクの評価計算を行った。
先ず、預金貸出データベース30に格納されたデータに基づいて、観測データ取得部32により、預金および貸出の変動率のデータを計算した。図6に、観測データ取得部により計算された預貸変動率の散布図を示す。
【0080】
次に、このような預貸変動率のデータについて、コンポーネント数決定部36により最適なコンポーネントの個数を決定した。図7は、コンポーネント数決定部36により計算されたコンポーネント数と情報統計量(EICおよびCEIC)との関係を示す。同図の結果から、EICおよびCEICの何れの情報統計量についても、コンポーネント数が5のときに最小となり、最適なコンポーネント数は5個であると判定された。
【0081】
そこで、コンポーネント数M=5として、分布推定部34により預貸変動率の確率分布を推定した。図8は、分布推定部34により推定された確率分布を構成するコンポーネント毎の分布を示す。なお、図8に示す各グラフにおいて、縦軸の数値は、各コンポーネントの確率密度を反映した値となっている。したがって、これらコンポーネントの確率分布を足し合わせたものが預貸変動率の確率分布となる。
【0082】
こうして推定された確率分布に基づいて、預貸尻シミュレーション部40により、預貸変動率のシミュレーションを行い、(預金変動率,貸出変動率)の5000個のデータを生成した。その結果を図9に預貸変動率の散布図として示す。同図に示すように、図6に示す預貸変動の観測データとほぼ同じ傾向の結果が得られており、預貸変動率が正しくシミュレートされていることがわかる。
【0083】
図10は、図9に示す預貸変動率のデータから得られた預貸尻変動額の度数分布を示している。なお、預貸尻変動額は、現在の預金高および貸出高をともに1,000億円として、夫々に、預金変動率および貸出変動率を掛けることにより預金変動幅および貸出変動幅を求め、預金変動幅から貸出変動幅を引くことにより計算した。図10において、預貸尻変動額の小さい方から1%のデータは−26億円であり、信頼水準を99%とすると、預貸尻悪化リスクは約26億円と算出される。
【0084】
以上説明したように、本実施形態のリスク評価装置10によれば、預金変動および貸出変動の確率分布を複数の正規分布の線形和として推定することで、実際のデータによく適合した正確な確率分布を得ることができる。そして、そのような確率分布を用いてモンテカルロシミュレーションを行うことにより、実際の預金変動および預金変動の動向を反映したデータを生成して、預貸尻悪化額を正確に評価することができる。
【0085】
また、本実施形態では、預金変動および貸出変動の確率分布を推定するにあたり、預金変動および貸出変動を確率変数とする二次元正規混合分布を考えて、二次元正規混合分布を構成する各二次元正規分布における確率変数間の相関係数も未知パラメータとして計算する。すなわち、預金変動と貸出変動との間の相関を、二次元正規混合分布の構成要素である二次元正規分布の確率変数間の相関係数として確率分布の推定結果に反映させることができる。したがって、本実施形態によれば、預金変動と貸出変動との間の相関を正確に反映した確率分布を推定することができ、これにより、預貸尻悪化リスクの評価精度はより向上することになる。
【0086】
さらに、本実施形態では、コンポーネント数決定部36により情報統計量に基づいて最適なコンポーネント数を判定することで、預貸尻悪化リスクの評価精度を一層向上させることができると共に、不必要に多数のコンポーネントを用いることがなくなるので、その分、計算負荷の軽減を図ることもできる。
【0087】
[補遺]
<(13),(14)式の導出>
対数尤度の期待値は、
【数39】
で与えられる。ここで、
【数40】
である。
【0088】
先ず、μαの最尤推定量を計算する。Qをμαで偏微分すると、
【数41】
となる。
【0089】
両辺の左側から分散共分散行列Σαを掛けることにより、μαの最尤推定量
【数42】
が得られる((13)式)。
【0090】
次に、Σαの最尤推定量を計算する。Σαを正則行列Aαを用いて、Σα=AαAα Tと表す。Aαの(i,j)成分をaα ijとおくと、
【数43】
となる。
【0091】
Aαの第i行と第j列を削除した(n−1)×(n−1)の小行列の行列式をΔα ij、Aαの余因子行列を
【数44】
とおくと、
【数45】
となるから、
【数46】
が成り立つ。
【0092】
一方、
【数47】
【数48】
を得る。
【0093】
余因子行列に関しては、
【数49】
であるから、
【数50】
であり、(A)式を(B)式に代入すると、
【数51】
を得る。従って、
【数52】
ここで、Aα −1とAα −Tの(i,j)成分をaij −1,aij −Tと書き換える。
【0094】
【数53】
は、(i,j)成分のみが「1」で、他は「0」となる行列であるため、
【数54】
は第i行以外の成分は0となる。
【0095】
【数55】
よって、
【数56】
とおくと、
【数57】
は以下のようになる。
【0096】
【数58】
【数59】
と置き換えると、これらのベクトルの第p成分は、
【数60】
となる。
【0097】
行列X(k)を、
【数61】
と定義すると、
【数62】
を得る。
【0098】
(C)式を(D)式に代入すると、
【数63】
が求められる。
【0099】
最尤推定量を求める方程式は、
【数64】
であり、(E)式を解けばΣα (分散共分散行列)の最尤推定量を求めることができる。
【0100】
【数65】
が全ての行列成分(i,j)について成り立つから、行列全体に関し、
【数66】
が言える。これをさらに変形すると、
【数67】
となり、α番目の多次元正規分布の分散共分散行列の最尤推定量は、
【数68】
となる。
【0101】
μαを最尤推定量で置き換えれば、
【数69】
が分散共分散行列の最尤推定量となる((14)式)。
【0102】
【発明の効果】
本発明によれば、金融機関における預貸変動の確率分布の推定精度を向上して、預貸尻の悪化リスクをより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である預貸尻悪化リスク評価装置の構成図である。
【図2】本実施形態の預貸尻悪化リスク評価装置の機能ブロック図である。
【図3】分布推定部による分布推定処理のフローチャートである。
【図4】預貸尻シミュレーション部によるシミュレーション計算処理のフローチャートである。
【図5】一様乱数から標準正規乱数への変換イメージをグラフ上に示す図である。
【図6】観測データ取得部により生成された預貸変動率の散布図である。
【図7】コンポーネント数決定部により計算されたコンポーネント数と情報統計量(EICおよびCEIC)との関係を示す図である。
【図8】分布推定部により推定された確率分布を構成するコンポーネント毎の分布を示す図である。
【図9】預貸変動率のシミュレーション計算結果を散布図として示す図である。
【図10】図9に示す預貸変動率のデータから得られた預貸尻変動額の度数分布を示す図である。
【符号の説明】
10 預貸尻悪化リスク評価装置(リスク評価装置)
12 CPU
14 記憶装置
30 預金貸出データベース
32 観測データ取得部
34 分布推定部
36 コンポーネント数決定部
38 EM法計算部
40 預貸尻シミュレーション部
42 結果出力部
Claims (11)
- 金融機関における預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻の悪化リスクを評価するための装置であって、
預金高の変動および貸出高の変動の夫々を表す預金変動データおよび貸出変動データを取得する預貸データ取得手段と、
預金高の変動および貸出高の変動の確率分布が、預金高の変動と貸出高の変動とを確率変数とする複数の二次元正規分布の線形和である正規混合分布で表されるものとして、前記取得した預金変動データおよび貸出変動データに適合する前記正規混合分布を推定する分布推定手段と、
前記推定した正規混合分布に従って預金高および貸出高の変動を表すデータを生成し、該生成したデータに基づいて預貸尻の悪化リスクを判定する預貸尻シミュレーション手段と、を備えることを特徴とする預貸尻悪化リスク評価装置。 - 請求項1記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記分布推定手段は、前記正規混合分布を構成する各正規分布の平均ベクトルおよび分散共分散行列と重み係数とを推定することを特徴とする装置。
- 請求項2記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記分布推定手段は、EM(Expectation & Maximization)法により前記平均ベクトル、分散共分散行列、および重み係数を推定することを特徴とする装置。
- 請求項1〜3のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預貸データ取得手段は、預金高および貸出高の過去の履歴を表すデータが蓄積されたデータベースを参照し、当該データベースに蓄積されたデータに基づいて、預貸尻悪化リスクの評価期間に対応した前記預金変動データおよび貸出変動データを算出することを特徴とする装置。
- 請求項1〜4のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預貸尻シミュレーション手段は、
前記正規混合分布を構成する各正規分布について、その分布に従った乱数対を生成する手段と、
所定範囲内での一様乱数を生成する手段と、
各正規分布の重み係数と前記生成した一様乱数の値とに基づいて前記決定した正規分布のうち乱数対を採用すべき正規分布を決定し、当該決定した正規分布について発生した乱数対に基づいて、預金変動および貸出変動を表すデータを生成する手段と、を備えることを特徴とする装置。 - 請求項1〜5のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記預金変動および貸出変動は、預金および貸出の変動幅、または、これら変動幅の現在の預金高および貸出高に対する比率であることを特徴とする装置。
- 請求項1〜6のうち何れか1項記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記正規混合分布を構成する正規分布の最適個数を決定するコンポーネント数決定手段を更に備えることを特徴とする装置。
- 請求項7記載の預貸尻悪化リスク評価装置において、前記コンポーネント数決定手段は、Bootstrap法を用いて情報統計量を推定し、当該情報統計量を最小とするような前記正規分布の個数を前記最適個数として決定することを特徴とする装置。
- 金融機関における預金高から貸出高を差し引いた額である預貸尻の悪化リスクを評価するための方法であって、コンピュータが、
預金高の変動および貸出高の変動の夫々を表す預金変動データおよび貸出変動データを取得するステップと、
預金高の変動および貸出高の変動の確率分布が、預金高の変動と貸出高の変動とを確率変数とする複数の二次元正規分布の線形和である正規混合分布で表されるものとして、前記取得した預金変動データおよび貸出変動データに適合する前記正規混合分布を推定するステップと、
前記推定した正規混合分布に従って乱数の対を発生して、この乱数対に基づいて預金高および貸出高の変動を表すデータを生成し、該生成したデータに基づいて預貸尻の悪化リスクを判定するステップと、を実行することを特徴とする方法。 - 請求項9記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
- 請求項10記載のプログラムを記録した記録媒体。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003118592A JP2004326329A (ja) | 2003-04-23 | 2003-04-23 | 預貸尻悪化リスク評価システムおよび方法、コンピュータプログラム、プログラム記録媒体 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003118592A JP2004326329A (ja) | 2003-04-23 | 2003-04-23 | 預貸尻悪化リスク評価システムおよび方法、コンピュータプログラム、プログラム記録媒体 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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Family
ID=33498091
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003118592A Pending JP2004326329A (ja) | 2003-04-23 | 2003-04-23 | 預貸尻悪化リスク評価システムおよび方法、コンピュータプログラム、プログラム記録媒体 |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2004326329A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US7958048B2 (en) | 2006-06-30 | 2011-06-07 | Corelogic Information Solutions, Inc. | Method and apparatus for predicting outcomes of a home equity line of credit |
CN104732110A (zh) * | 2015-04-13 | 2015-06-24 | 浙江农林大学 | 基于混合weibull分布的森林生物量多尺度估测方法 |
-
2003
- 2003-04-23 JP JP2003118592A patent/JP2004326329A/ja active Pending
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CN104732110A (zh) * | 2015-04-13 | 2015-06-24 | 浙江农林大学 | 基于混合weibull分布的森林生物量多尺度估测方法 |
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